(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20241216BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241216BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20241216BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241216BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20241216BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20241216BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20241216BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241216BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B9/00 Z
C25B9/63
H01M8/1213
H01M8/1226
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2024506001
(86)(22)【出願日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2023005529
(87)【国際公開番号】W WO2023171299
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022035316
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022150108
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】千葉 春香
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-158297(JP,A)
【文献】特開2011-204505(JP,A)
【文献】特開2016-154096(JP,A)
【文献】特開2016-072216(JP,A)
【文献】特開2020-095984(JP,A)
【文献】特開2006-324190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/02
C25B 1/23
C25B 9/00
C25B 1/042
C25B 9/63
H01M 8/1226
H01M 8/1213
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され、前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、
前記第1電極層の表面を覆い、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離以上離れた内側部と、
前記面方向において前記第1電極層の先端から
前記所定距離以上離れた外側部と、
前記面方向において前記内側部と前記外側部の間に挟まれる中間部と、
を有し、
前記外側部は、前記金属支持体の前記主面のうち前記中間部から前記主面の先端まで全部を覆っており、
前記金属支持体は、Crを含有する合金材料によって構成され、
前記中間部の平均厚みは、前記内側部の平均厚みより大きく、かつ、前記外側部の平均厚みより大き
く、
前記中間部の平均厚みは、前記面方向において前記中間部を4等分する3か所における厚みの平均値であり、
前記内側部の平均厚みは、前記面方向において前記内側部のうち第1基準線から前記所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、
前記第1基準線は、前記第1電極層の前記先端を通り前記金属支持体の前記主面に垂直な直線である第2基準線と平行であり、かつ、前記第2基準線から前記所定距離だけ内側に設定される直線であり、
前記外側部の平均厚みは、前記面方向において前記外側部を4等分する3か所における厚みの平均値である、
電気化学セル。
【請求項2】
前記所定距離は、前記金属支持体の厚みの2分の1である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記第1電極層は、前記面方向に垂直な厚み方向に沿って形成される側面を有し、
前記側面には凹凸が形成されている、
請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セル(電解セル、燃料電池など)において、金属支持体によってセル本体部を支持する構造が知られている。例えば、特許文献1に記載された電気化学セルは、第1電極層、電解質層、及び第2電極層がこの順で金属支持体の主面上に積層されたセル本体部を備える。電解質層は、第1電極層を覆っており、その端部はセル本体部の主面に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電気化学セルでは、金属支持体の外周部が電解質層から露出しているため、電気化学セルの外周部の剛性は、金属支持体だけの剛性に委ねられている。
【0005】
本発明の課題は、剛性を向上可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る電気化学セルは、主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、主面上に形成され複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部とを備える。電解質層は、主面に垂直な断面において、第1電極層の表面を覆い、主面に平行な面方向において第1電極層の先端から所定距離以上離れた内側部と、金属支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域の略全部を覆い、面方向において第1電極層の先端から所定距離以上離れた外側部と、面方向において内側部と外側部の間に挟まれる中間部とを有する。中間部の平均厚みは、内側部の平均厚みより大きい。
【0007】
本発明の第2の側面に係る電気化学セルは、第1の側面に係り、中間部の平均厚みは、外側部の平均厚みより大きい。
【0008】
本発明の第3の側面に係る電気化学セルは、第1又は第2の側面に係り、所定距離は、金属支持体の厚みの2分の1である。
【0009】
本発明の第4の側面に係る電気化学セルは、第1乃至第3いずれかの側面に係り、中間部の平均厚みは、面方向において中間部を4等分する3か所における厚みの平均値であり、内側部の平均厚みは、内側部のうち面方向において中間部から所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値である。
【0010】
本発明の第5の側面に係る電気化学セルは、第2乃至第4いずれかの側面に係り、中間部の平均厚みは、面方向において中間部を4等分する3か所における厚みの平均値であり、外側部の平均厚みは、面方向において外側部を4等分する3か所における厚みの平均値である。
【0011】
本発明の第6の側面に係る電気化学セルは、第1乃至第5いずれかの側面に係り、第1電極層は、面方向に垂直な厚み方向に沿って形成される側面を有し、側面には凹凸が形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、剛性を向上可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
【
図4】
図4は、変形例1に係る電解セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。
【0015】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、平面視においてY軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0016】
図2に示すように、電解セル1は、セル本体部10、金属支持体20、及び流路部材30を備える。
【0017】
[セル本体部10]
セル本体部10は、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向において、この順で金属支持体20側から積層されている。水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0018】
[水素極層6]
水素極層6は、金属支持体20及び電解質層7の間に配置される。水素極層6は、金属支持体20によって支持される。詳細には、水素極層6は、金属支持体20の第1主面20S上に配置される。水素極層6は、金属支持体20の第1主面20Sに形成された複数の供給孔21を覆う。水素極層6の一部は、各供給孔21内に入り込んでいてよい。水素極層6は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。
【0019】
水素極6には、各供給孔21を介して原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくともH2Oを含む。
【0020】
原料ガスがH2Oのみを含む場合、水素極6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2を生成する。
・水素極6:H2O+2e-→H2+O2-・・・(1)
【0021】
原料ガスがH2Oに加えてCO2を含む場合、水素極6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2、CO及びO2-を生成する。
・水素極6:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(2)
・H2Oの電気化学反応:H2O+2e-→H2+O2-・・・(3)
・CO2の電気化学反応:CO2+2e-→CO+O2-・・・(4)
【0022】
水素極層6は、電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。水素極層6は、酸化物イオン伝導性を有していてよい。水素極層6は、例えば、8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料、或いは、これらのうち1つ以上とNiOとの複合物によって構成することができる。
【0023】
水素極層6の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば12×10―6/℃以上20×10-6/℃以下とすることができる。
【0024】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、例えば5%以上70%以下とすることができる。水素極層6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0025】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0026】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に配置され、水素極層6及び反応防止層8それぞれに接続される。
【0027】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域を覆う。
図1に示すように、電解質層7は、平面視において、水素極層6の表面の全体を覆っている。
図1に示すように、電解質層7は、平面視において、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の全体を覆っていることが好ましいが、第1主面20Sの一部が電解質層7から露出していてもよい。電解質層7の詳細な構成については後述する。
【0028】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0029】
電解質層7の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上12×10―6/℃以下とすることができる。
【0030】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0031】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0032】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0033】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0034】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0035】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0036】
[酸素極層9]
酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。
【0037】
酸素極層9は、下記(2)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0038】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0039】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0040】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0041】
[金属支持体20]
金属支持体20は、セル本体部10を支持する。金属支持体20は、板状に形成される。金属支持体20は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。金属支持体20は電解セル1の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0042】
図2に示すように、金属支持体20は、複数の供給孔21、第1主面20S及び第2主面20Tを有する。第1主面20Sは、本発明に係る「主面」の一例である。
【0043】
各供給孔21は、第1主面20Sに形成される。各供給孔21は、第1主面20Sから第2主面20Tまで金属支持体20を貫通する。各供給孔21は、第1主面20S及び第2主面20Tそれぞれに開口する。各供給孔21の第1主面20Sの開口は、水素極層6によって覆われる。すなわち、各供給孔21は、第1主面20Sのうち水素極層6に接合される領域に形成される。各供給孔21は、金属支持体20及び流路部材30の間の流路30aに繋がる。
【0044】
各供給孔21は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。また、金属支持体20が多孔質金属によって構成される場合、各供給孔21は多孔質金属の開気孔であってよい。各供給孔21は、第1主面20Sに対して垂直であってもよいし、第1主面20Sに対して垂直でなくてもよいし、直線状でなくてもよい。
【0045】
第1主面20Sには、セル本体部10が接合される。第2主面20Tには、流路部材30が接合される。第1主面20Sは、第2主面20Tの反対側に設けられる。
【0046】
金属支持体20は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体20は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体20におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0047】
金属支持体20は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体20におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体20におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体20は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO2(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0048】
金属支持体20の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上20×10―6/℃以下とすることができる。
【0049】
金属支持体20は、金属支持体20の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体20の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各供給孔21の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0050】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。流路部材30は、金属支持体20との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体20の各供給孔21を介して、セル本体部10の水素極層6に供給される。
【0051】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体20と同様の材料によって形成されていてよい。この場合、流路部材30は、金属支持体20と実質的に一体であってよい。
【0052】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0053】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってよい。
【0054】
[電解質層7の構成]
図3は、
図2の部分拡大図である。
図3は、金属支持体20の第1主面20Sに垂直な断面である。
図3では、電解セル1の外周部の断面が図示されている。
【0055】
図3に示すように、電解質層7は、内側部71、外側部72及び中間部73を有する。金属支持体20の第1主面20Sに平行な面方向(
図3に示すX軸方向)において、内側部71は中間部73によって取り囲まれ、中間部73は外側部72によって取り囲まれている。
【0056】
内側部71は、水素極層6の表面を覆い、かつ、面方向において水素極層6の先端P6から所定距離D1以上離れている。内側部71は、電解質層7のうち、第1基準線L1上及び第1基準線L1より内側の部分である。本明細書において、内側とは、面方向において第1主面20Sの先端P20から水素極層6の先端P6に向かう側を意味する。
【0057】
第1基準線L1は、第2基準線L2と平行であり、かつ、第2基準線L2から所定距離D1だけ内側に設定される直線である。第2基準線L2は、水素極層6の先端P6を通り、かつ、第1主面20Sに垂直な直線である。所定距離D1は、第2基準線L2上における金属支持体20の厚みTaの2分の1である。金属支持体20の厚みTaを基準として所定距離D1を規定するのは、水素極層6の先端P6に近接する部分を中間部73として特定するためである。
【0058】
なお、第2基準線L2を規定する場合、断面画像(例えば、SEM画像)上において、第1主面20Sを最小二乗法により直線化して得られる直線を第1主面20Sとして用いる。また、
図3では、水素極層6の先端P6が第1主面20S上に位置しているが、水素極層6の先端P6は第1主面20Sから離れていてもよい。
【0059】
外側部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆い、かつ、面方向において水素極層6の先端P6から所定距離D1以上離れている。第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆うとは、外側部72が第1主面20Sの先端P20まで覆っていることを意味する。外側部72は、電解質層7のうち、第3基準線L3上及び第3基準線L3より外側の部分である。本明細書において、外側とは、面方向において水素極層6の先端P6から第1主面20Sの先端P20に向かう側を意味する。第3基準線L3は、第2基準線L2と平行であり、かつ、第2基準線L2から所定距離D1だけ外側に設定される直線である。
【0060】
中間部73は、面方向において内側部71と外側部72の間に挟まれている。中間部73は、電解質層7のうち、第1基準線L1と第3基準線L3の間の部分である。中間部73は、内側部71の外側かつ外側部72の内側に配置される。中間部73は、内側部71と外側部72の両方に連なる。中間部73と内側部71の境界は、第1基準線L1によって規定される。中間部73と外側部72の境界は、第3基準線L3によって規定される。面方向における中間部73の中央は、第2基準線L2によって規定される。
【0061】
ここで、中間部73の平均厚みは、内側部71の平均厚みより大きい。
【0062】
中間部73の平均厚みは、面方向において中間部73を4等分する3か所における厚みT1,T2,T3の平均値である。中間部73の厚みT1,T2,T3は、第1基準線L1及び第3基準線L3の間を面方向に4等分する3か所において測定される厚みである。本明細書において、厚みとは、Z軸方向(厚み方向)における厚みを意味する。
【0063】
内側部71の平均厚みは、内側部71のうち面方向において第1基準線L1から所定距離D1までの部分を4等分する3か所における厚みT4、T5,T6の平均値である。内側部71の厚みT4、T5,T6は、第1基準線L1及び第4基準線L4の間を面方向に4等分する3か所において測定される厚みである。第4基準線L4は、第1基準線L1を基準として、第2基準線L2と線対称な線である。第4基準線L4は、第1基準線L1と平行であり、かつ、第2基準線L2から所定距離D1の2倍だけ内側に設定される直線である。上述の通り、所定距離D1は、第1基準線L1上における金属支持体20の厚みTaの2分の1である。
【0064】
中間部73の平均厚みは特に限られないが、例えば10μm以上100μm以下とすることができる。内側部71の平均厚みは特に限られないが、例えば3μm以上50μm以下とすることができる。また、中間部73の平均厚みは、外側部72の平均厚みより大きい。中間部73の平均厚みは、上述した通りに測定される。
【0065】
外側部72の平均厚みは、外側部72を4等分する3か所における厚みT7、T8,T9の平均値である。外側部72の厚みT7、T8,T9は、第3基準線L3から電解質層7の先端P7までを面方向に4等分する3か所において測定される厚みである。本実施形態では、面方向において、電解質層7の先端P7は、第1主面20Sの先端P20より外側に位置しているが、第1主面20Sの先端P20上、又は、第1主面20Sの先端P20より内側に位置していてもよい。
【0066】
外側部72の平均厚みは特に限られないが、例えば3μm以上50μm以下とすることができる。外側部72の平均厚みは、内側部71の平均厚みより大きくても小さくてもよく、また、内側部71の平均厚みと同じであってもよい。
【0067】
図3に示すように、外側部72は、突出部72aを有していてもよい。突出部72aは、外側部72のうち金属支持体20の第1主面20Sの外側にはみ出た部分である。すなわち、突出部72aは、外側部72のうち第1主面20Sの先端P20より外側に位置する部分である。
【0068】
図示しないが、外側部72の突出部72aは、金属支持体20の側面20Uの少なくとも一部を覆っていることが好ましい。これによって、側面20Uを突出部72aで被覆できるため、金属支持体20からの放熱をさらに抑制することができる。
【0069】
(特徴)
【0070】
(1)電解質層7は、
図3に示すように、内側部71、外側部72及び中間部73を有する。内側部71は、水素極層6の表面を覆い、かつ、面方向において水素極層6の先端P6から所定距離D1以上離れている。外側部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆い、かつ、面方向において水素極層6の先端P6から所定距離D1以上離れている。中間部73は、面方向において内側部71と外側部72の間に挟まれている。中間部73の平均厚みは、内側部71の平均厚みより大きい。
【0071】
このように、外側部72が第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていることによって、金属支持体20の剛性だけでなく緻密質な電解質層7の剛性をも電解セル1の外周部に付与することができる。従って、電解セル1全体の剛性を向上させることができる。
【0072】
また、中間部73の平均厚みが内側部71の平均厚みより大きいため、水素極層6の先端P6付近を起点とするクラックが電解質層7に発生することを抑制できる。具体的には、次の通りである。
【0073】
電解セル1の起動時、金属材料によって構成される金属支持体20は、セラミックスによって構成されるセル本体部10よりも昇温しやすい。このとき、金属支持体20と接触する水素極層6の温度は上昇しやすいが、電解質層7のうち水素極層6上に配置される部分の温度は上昇しにくい。そのため、電解質層7のうち水素極層6上に配置される部分と水素極層6との間に熱応力が生じる。また、電解質層7のうち金属支持体20と接触する部分の温度は上昇しやすいが、電解質層7のうち水素極層6上に配置される部分の温度は上昇しにくい。そのため、水素極層6の先端P6付近に熱応力が集中しやすいが、上述の通り、中間部73の平均厚みを内側部71の平均厚みより大きくすることによって中間部73の強度が増大されている。従って、水素極層6の先端P6付近を起点とするクラックが中間部73に発生することを抑制できる。中間部73にクラックが生じれば電解質層7の機能の一部が失われてしまうため、中間部73のクラックを抑制することは重要である。
【0074】
(2)中間部73の平均厚みは、外側部72の平均厚みより大きい。従って、中間部73の厚みをより厚くしやすいため、中間部73の強度を十分増大できる。そのため、水素極層6の先端P6付近を起点とするクラックが中間部73に発生することをより抑制できる。
【0075】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0076】
[変形例1]
上記実施形態において、水素極層6の厚みは、
図3に示したように、先端P6に近づくほど徐々に薄くなることとしたが、これに限られない。例えば、
図4に示すように、水素極層6の厚みは全体的に略一定であってもよい。この場合であっても、水素極層6の先端P6を基準として第1乃至第4基準線L1~L4を設定することによって、内側部71、外側部72及び中間部73を規定するとともに、これらの平均厚みを求めることができる。
【0077】
図4に示すように、水素極層6がZ軸方向に沿って形成される側面6Sを有する場合、側面6Sには凹凸が形成されていることが好ましい。これによって、水素極層6と電解質層7の界面強度を高めることができるため、昇降温時の熱応力による破損を低減することができる。
【0078】
[変形例2]
上記実施形態では、
図3に示した一断面において、中間部73の平均厚みが内側部71の平均厚みより大きいことを説明した。
図3に示した構成は、電解セル1の外周部の全ての断面において観察されることが好ましいが、電解セル1の外周部の少なくとも一断面において観察できればよい。
図3に示した構成が一断面でも観察されるのであれば、少なくとも当該箇所では中間部73にクラックが発生することを抑制できるからである。
【0079】
[変形例3]
上記実施形態において、水素極層6はカソードとして機能し、酸素極層9はアノードとして機能することとしたが、水素極層6がアノードとして機能し、酸素極層9がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層6と酸素極層9の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層6の外表面に原料ガスを流す。
【0080】
[変形例4]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1 セル
6 水素極層
7 電解質層
71 内側部
72 外側部
73 中間部
8 反応防止層
9 酸素極層
10 セル本体部
20 金属支持体
20S 第1主面
21 供給孔
30 流路部材
30a 流路
L1~L4 第1乃至第4基準線
P20 第1主面の先端
P6 水素極層の先端
D1 所定距離