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特許7604728走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 9/16 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B66C9/16 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021121163
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017144
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓
(72)【発明者】
【氏名】江浪 優
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-044187(JP,U)
【文献】特開2000-169075(JP,A)
【文献】特開昭55-080682(JP,A)
【文献】実開昭54-183871(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0083688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行レールの上面をクレーンが走行するトップラン型の天井クレーンであって、該天井クレーンの2組のサドルのうち、一方のサドルとクレーンガーダとの取り合い部は固定構造とし、他方のサドルとクレーンガーダの取り合い部には、クレーンガーダの下面にボルトで接合される上ブラケットと、サドルの上面にボルトで接合される下ブラケットと、上ブラケットと下ブラケットの間に組み込まれた球面軸受とを備えた可動部分を設け、当該可動部分を設けたサドルの下部にはサイドローラを設けることで、クレーンの構造を保持しながら走行レールの敷設誤差に追従する構造としたことを特徴とする走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン。
【請求項2】
前記可動部分球面軸受のピンに沿ってスパン方向にスライド可能なメタルブッシュを備えることによりスパン方向の誤差の吸収量を大きくするようにしたことを特徴とする請求項1に記載の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン。
【請求項3】
前記クレーンの走行車輪の軸受に走行車輪をスパン方向にスライド可能なメタルブッシュを備えることにより、スパン方向の誤差の吸収量を大きくするようにしたことを特徴とする請求項1に記載の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの走行レールの敷設誤差を吸収する機構を備えた天井クレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーンの走行レールは、経年的な建屋の歪みや、地盤沈下や、レール敷設締結材のずれ等により、レールの敷設精度が徐々に悪化していく。このため、定期的にレールの敷設精度測定やレールの敷設精度修正を行い、レールの敷設精度を維持管理しているが、建屋の歪みや地盤沈下が過大な場合にはレールの敷設許容値内に収めることが困難な場合がある。
天井クレーン両側の2本の走行レールがスパン寸法やレールのうねり(水平曲がり)やレールの勾配等といった走行レールの敷設精度誤差が許容値を超えた状態の走行レール上をクレーンが走行すると、クレーンの走行車輪の踏面やフランジ面や走行レールが異常摩耗をしたり、走行軸受の破損やクレーンガーダやサドルに亀裂が入る等の不具合が生じる原因となる。
【0003】
これに対処するため、従来、レールの敷設精度が基準を超えた走行レール上でもクレーンが正常に走行できるように、走行レールの敷設誤差を吸収する機構を備えたクレーンが提案されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7―228474号公報
【文献】特開2008―179428号公報
【文献】特開2010―202357号公報
【文献】実用新案登録第3152371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1~4に開示されている走行レールの敷設誤差を吸収する機構は、いずれも、走行レールにぶら下る懸垂型の天井クレーンを対象とするもので、構造上、頑強な構造の天井クレーンとすることが困難であった。
一方、走行レールの上にクレーンを重力に逆らって上に積み上げる構造の頑強な構造を取るトップラン型天井クレーンで、重力に沿ってぶら下る懸垂型の天井クレーンと同様の走行レールの敷設誤差を吸収する機構を用いると、クレーンガーダとサドルの取り合い部で曲がってしまい、サドルがひし形に倒れて、クレーン構造が保持できないという問題があった。
この問題点に鑑み、本発明は、トップラン型天井クレーンにおいて、天井クレーンの走行レールの敷設精度が許容値を超えたレール上を走行させることが可能な、走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーン提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーンは、走行レールの上面をクレーンが走行するトップラン型の天井クレーンであって、該天井クレーンの2組のサドルのうち、一方のサドルとクレーンガーダとの取り合い部は固定構造とし、他方のサドルとクレーンガーダの取り合い部には球面軸受を用いた可動部分を設け、当該可動部分を設けたサドルの下部にはサイドローラを設けることで、クレー
ンの構造を保持しながら走行レールの敷設誤差に追従する構造としたことを特徴とする。
これにより、走行レール上に配置されたサドルとその上に積み上げられたクレーンガーダとの取り合いの一方は頑強に固定し、他方は、球面軸受を用いた可動構造とすることで、左右の走行レールのスパン誤差、走行レールのうねり、走行レールの勾配等の敷設精度が大きく外れている走行レールに対し、球面軸受による可動部分が可動することで、レールの敷設誤差を吸収することができる。
【0007】
すなわち、片側のサドルとクレーンガーダの可動部分の構造に球面軸受を採用することにより、可動側のサドルがクレーンガーダに対し三次元的に自由に可動する構造となる。
そして、この可動するサドルの下部には水平方向にサイドローラを設け、該サイドローラにより走行レールの敷設誤差状態に合わせてサドルを追従させ沿わせるとともに、サドルが鉛直状態から倒れようとする動きに対してサイドローラで水平方向に拘束しサドルの倒れを拘束する。
クレーンガーダに頑強に固定された片側のサドルと、吸収機構により自由に可動するサドルと、該可動するサドルの下部に設けたサイドローラが水平方向に拘束力を発揮することにより、重力に逆らって積み上げられた構造のトップラン型天井クレーンが形を崩すことなく形状を維持することができる。
このとき、サドルがクレーンガーダに固定された側の走行レール誤差についても、走行レール上のサドルから該サドルに頑強に固定されたクレーンガーダを伝って反対側のサドルとの取り合い部に設けられた可動部分に伝えられ、該可動部分で走行レールの敷設誤差が吸収される。
【0008】
この場合において、前記可動部分に、球面軸受を用いることに加え、メタルブッシュを併用することによりスパン方向の誤差の吸収量を大きくするようにすることができる。
また、前記可動部分に、球面軸受を用いることに加え、走行車輪の軸受にメタルブッシュを使用し、走行車輪にスパン方向のスライド機構を設けることで、スパン方向の誤差の吸収量を大きくするようにすることができる。
スパン誤差等の寸法誤差を球面軸受のみの構造で吸収する場合は、可動側サドルの倒れ角度が付くことにより吸収するが、スパン方向等の寸法誤差が大きい場合には、球面軸受部にメタルブッシュを併用することで、スパン方向へのサドルの水平可動範囲を広げ、レール誤差の吸収範囲を広げることができるとともに、可動側サドルの倒れ角度を抑えることができるので、サドル下部のサイドローラに掛かる水平力を抑えることができる。
また、メタルブッシュを挿入する場所は、球面軸受部以外に、走行車輪の軸受部にメタルブッシュを入れることにより走行車輪をスパン方向に水平移動する構造とすることでも、レールのスパン水平方向の誤差を吸収することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーンによれば、トップラン型の天井クレーンにおいて、敷設精度基準を超えた走行レールの敷設誤差がある場合であっても、走行レール側からの許容外の負荷をクレーンガーダやサドルや走行車輪や走行レールで負担することがなくなるので、クレーンの亀裂や、走行車輪のフランジの異常摩耗や、走行レールの摩耗を軽減でき、天井クレーンを安定的に稼働することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】走行レール敷設誤差の吸収機構を設けた天井クレーンの説明図である。
図2】走行レールと走行車輪のクリアランスの説明図である。
図3】球面軸受を使用した走行レール敷設誤差の吸収機構の詳細構造説明図である。
図4】球面軸受とメタルブッシュを併用した走行レール敷設誤差の吸収機構の詳細構造説明図である。
図5】走行車輪軸受にメタルブッシュを用いることでスパン水平方向の吸収機構を設けた構造説明図である。
図6】スパン誤差の吸収について本発明の作用を説明する図である。
図7】走行レールの左右高低誤差の吸収について本発明の作用を説明する図である。
図8】走行レールの左右勾配差の吸収について本発明の作用を説明する図である。
図9】走行レールのうねり(水平曲がり)吸収について本発明の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーンについて、図面を用いて実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構10を備えたトップラン型の天井クレーンの外観を示すものである。
トップラン型天井クレーンは、建屋両側の柱に据え付けられたランウェイガーダ16の上に走行レール15が敷設され、その上に天井クレーンのサドルが乗り、その上にサドルと直角に頑強に固定されたクレーンガーダ12が積み上げられる構造になっている。
そして、クレーンガーダ12には、巻上装置及び横行装置を備えたホイスト或いはクラブ11が取り付けられ、クレーンガーダ12をホイスト或いはクラブ11が横行移動する基本構成となっている。
【0013】
上記のクレーンガーダ12とサドルは、従来の構造では、高力ボルト等で強固に固定されており、走行レール15の敷設誤差は、従来は図2に示す走行レール15と走行車輪14のクリアランス寸法19により吸収していた。そして、従来はクリアランス寸法19で吸収できる範囲に収まるように、走行レールの敷設精度基準が定められており、該基準を守ることで円滑な天井クレーンの走行動作ができていた。
しかしながら、地盤沈下等によって建屋が大きく歪んだところでは、その敷設精度基準に収めることができず、従来の天井クレーンの構造では、走行車輪フランジ18と走行レール15の側面の異常摩耗が早期に発生したり、クレーンガーダ12やサドル部分に亀裂が生じる等の不具合が生じていた。
【0014】
本発明では、走行レールの敷設精度基準を超える敷設誤差の走行レール15の上に設置するクレーンに対して、走行レールの敷設誤差の吸収機構10を天井クレーン側に設けることで、大きな敷設誤差が生じた走行レールにおいても、天井クレーンが円滑に走行動作するようにしている。
この場合、重力に沿ってぶら下る懸垂型の天井クレーンの構造においては、走行レールの敷設誤差の吸収機構をサドルとクレーンガーダとの間に容易に取り付けることができるが、走行レールから重力に逆らって上に積み上げる構造のトップラン型天井クレーンにおいて懸垂型天井クレーンと同構造を用いるとクレーンがひし形に崩れてしまう。
そのため、本発明のトップラン型天井クレーンでは、図1に示すとおり、一方のサドル(固定側)13bとクレーンガーダ12は、高力ボルト等で頑強に直角に締結固定し、他方のサドル(可動側)13aとクレーンガーダ12の間には、走行レールの敷設誤差の吸収機構10による可動部分を設け、サドル(可動側)13aが可動する構造としている。
そして、サドル(可動側)13aの下部には水平方向にサイドローラ17で走行レール15の側面を押さえることで、走行レールの敷設精度のずれに柔軟にサドル(可動側)13aを追従動作させると同時に、走行レールの敷設誤差の吸収機構10によるサドル(可動側)13aの鉛直方向Yからの倒れを拘束することで、クレーンガーダ12とサドル(固定側)13bとサドル(可動側)13a及びサイドローラ17の組み合わせで、剛構造のトップラン型天井クレーンを構成し、クレーンの形状が崩れることを防ぐようにしてい
る。
【0015】
走行レールの敷設誤差の吸収機構10は、図3に示すように、球面軸受31が組み込んであり、球面軸受31の外輪側のハウジング33が上ブラケット32に組み込まれ、上ブラケット32がクレーンガーダ12に高力ボルト等で接合されている。球面軸受31の内輪側はピン35が嵌め込まれ、ピン35は下ブラケット34に固定され、下ブラケット34はサドル(可動側)13aに高力ボルト等で接合されている。
これにより、サドル(可動側)13aが、クレーンガーダ12に対し、倒れθ1方向、回転θ2方向及び振れθ3方向に動く構造としている。
なお、消耗部品である球面軸受31の交換容易性を確保するため、上ブラケット32とクレーンガーダ12及び下ブラケット34とサドル(可動側)13aはボルト接合により脱着が可能な構造としている。
【0016】
図3の構造でスパン水平方向X等の誤差を吸収するためには、サドル(可動側)13aが倒れθ1方向に倒れるが、この倒れθ1が大きくなりすぎるとサイドローラ17の水平力が強くなりすぎるため、スパン水平方向X等の誤差が過大な場合には、サドル(可動側)13aの倒れ量を一定範囲内に規制するストッパが効いた後は、図4に示すように、球面軸受31部分にメタルブッシュ37を追加し、球面軸受31とカラー36の間隙寸法に該当するスライド寸法38だけメタルブッシュ37部分で水平スライドする構造とする。
これによりサドル(可動側)13aの倒れ量を抑えつつスパン水平方向X等の誤差の吸収幅を確保することで、サイドローラ17の水平力を低く抑えることができる。
【0017】
また、メタルブッシュによるスパン水平方向への水平スライド機構は、図4に示す球面軸受31部分に併用する方法のほかに、図5に示す走行車輪14の軸受部分に走行車輪用メタルブッシュ39を採用する方法でも同じ効果を得ることができる。
走行車輪用メタルブッシュ39を採用する方法は、サドルフレームと走行車輪14の間に走行車輪スライド寸法40の隙間を設けることで走行車輪14を水平方向にスライドできる。
このように走行車輪をスパン走行方向に水平スライドさせることでも、サドル(可動側)13aの倒れ量を抑えつつスパン水平方向X等の誤差の吸収幅を確保することで、サイドローラ17の水平力を低く抑えることができる。
【0018】
この走行レール敷設誤差の吸収機構の作用について次に説明する。
先ず、図6の(1)に示す状態からスパンSに誤差±Cが生じ図6の(2)に示す状態になった場合において、走行レールの敷設誤差の吸収機構10の球面軸受31の調心によりサドル(可動側)13aに倒れθ1が生じ、走行レールのスパン誤差の吸収が可能となる。サドル(可動側)13aに倒れθ1が生じた際に発生する水平力は、サイドローラ17で負担する。許容可能なスパン誤差Cは、サイドローラ17の強度及び球面軸受31の許容調心角度で決定するが、それに加えて、サドル(可動側)13aの倒れ角度が大きくなりすぎるとクレーンの構造が保持できなくなるので、倒せる確度は僅かでストッパで倒れ角度が大きくなりすぎないように拘束する。
この場合に許容可能なスパン誤差Cの許容範囲をサドル(可動側)13aの倒れによるものから更に広げる場合は、図4に示す球面軸受31とメタルブッシュ37を併用する構造か、図5に示す走行車輪に走行車輪用メタルブッシュ39を併用する構造とする。
このように、走行レールの敷設誤差の吸収機構10を設けることで、走行レールの敷設精度基準を超えるスパン誤差Cによる走行車輪フランジ18の摩耗や走行車輪軸受の破損、走行レール15の側面摩耗、サドルの亀裂等が解消される。
【0019】
次に、図7の(1)の状態から図7の(2)の状態に走行レールの水平差hが生じているレールに付いても、走行レールの敷設誤差の吸収機構10の球面軸受31の調心により
サドル(可動側)13aに倒れθ1が生じ、走行レール15の水平差hの吸収が可能となる。この場合もサドル(可動側)13aに倒れθ1が生じた際に発生する水平力は、サイドローラ17で負担する。許容可能な走行レールの水平差hは、サイドローラ17の強度及び球面軸受31の許容調心角度で決定するが、それに加えて、この許容可能な走行レールの水平差hの許容範囲を広げる場合は、図4に示す球面軸受31とメタルブッシュ37を併用する構造か、図5に示す走行車輪に走行車輪用メタルブッシュ39を併用する構造を採用する。
【0020】
図8の(1)の状態から図8の(2)の状態に勾配が生じた場合で、左右の走行レール15に勾配差が生じた場合については、走行レールの敷設誤差の吸収機構10の球面軸受31が回転θ2方向に回転し、左右の走行レールに勾配差が生じてもクレーンガーダ12が捻じれないように捻じれの力を逃がしてくれる。
走行レールの敷設誤差の吸収機構10を装備しない従来構造では、左右の勾配差によるクレーンガーダ12の捻じれと、吊り荷の荷重による曲げとを合わせた力がクレーンガーダ12に加わり、クレーンガーダ12の疲労劣化に大きく影響して、クレーンガーダ12に亀裂が生じる原因となっていた。走行レールの敷設誤差の吸収機構10はクレーンガーダ12の捻じれを解消し、亀裂事故の軽減に効果を発揮する。
【0021】
図9に示すように、走行レール15にうねり(水平曲がり)Uが生じて、左右のレールの平衡状態が、局所的にハの字或いは逆ハの字に平衡状態が崩れている場合には、走行レールの敷設誤差の吸収機構10の球面軸受31による可動とサイドローラ17の押さえにより、サドル(可動側)13aが走行レール15のうねり(水平曲がり)に沿って振れθ3方向に振れることで走行レールに沿ってサドル(可動側)13aが追従可動してくれる。
サドル(固定側)13b側の走行レールで生じたうねり(水平曲がり)Uに対しては、サドル(固定側)13bが走行レール15のうねり(水平曲がり)Uに沿って振れが生じ、サドル(固定側)13bに直角に強固に固定されたクレーンガーダ12がサドル(固定側)13bの振れによって振られ、クレーンガーダ12とサドル(可動側)13aとの間の走行レールの敷設誤差の吸収機構10の球面軸受31で振れθ3に角度が付くことで、サドル(固定側)13bが走行レール15のうねり(水平曲がり)Uによりふらついても追従可動してくれる。
【0022】
以上のように、トップラン型天井クレーンに、走行レールの敷設誤差の吸収機構10を備える本発明では、片側のクレーンガーダ12とサドル(可動側)13aとの間の片側のみに走行レールの敷設誤差の吸収機構10を設け、サドル(固定側)には設けていないが、天井クレーンに影響を与える走行レール15の敷設誤差は、左右の走行レール15の相対的な敷設誤差が天井クレーンに影響を与えているので、左右のサドル双方に走行レールの敷設誤差の吸収機構10を設けなくても、2本のサドルのいずれか1か所に設けることでレールの誤差吸収機能を満足する。
【0023】
以上が本発明の基本作用となるが、実際にはスパンの誤差、左右高低差、左右勾配差は3次元的に複合して生じており、本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構10は、3次元的に走行レールの誤差の吸収が可能である。すなわち3軸方向に力を逃がすことが可能であるため、あらゆる方向のからの走行レール誤差に対し、クレーンの走行車輪の踏面やフランジ面が異常摩耗をしたり、走行軸受の破損やクレーンガーダ12のサドル等に亀裂が入る等の不具合を回避することができる。
【0024】
以上、本発明の走行レール敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーンについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の走行レールの敷設誤差の吸収機構を備えた天井クレーンによれば、走行レールの敷設精度基準値を超えた老朽建屋の走行レール上にトップラン型の天井クレーンを設置しても、クレーンの走行車輪の踏面やフランジ面の異常摩耗、走行軸受の破損、クレーンガーダやサドルの亀裂を防止し、クレーンの長寿命化、信頼性の向上を図ることが可能となる。また、走行レールや建屋の補修の頻度においても低減が可能となることから、産業上有効に活用される。
【符号の説明】
【0026】
10 走行レールの敷設誤差の吸収機構
11 ホイスト、クラブ
12 クレーンガーダ
13a サドル(可動側)
13b サドル(固定側)
14 走行車輪
15 走行レール
16 ランウェイガーダ
17 サイドローラ
18 走行車輪フランジ
19 クリアランス寸法
31 球面軸受
32 上ブラケット
33 ハウジング
34 下ブラケット
35 ピン
36 カラー
37 メタルブッシュ
38 スライド寸法
39 走行車輪用メタルブッシュ
40 走行車輪スライド寸法
X スパン水平方向
Y 鉛直方向
Z 走行水平方向
S スパン
C スパン誤差
h 左右レールの水平差
α 勾配差
U うねり(水平曲がり)
θ1 倒れ
θ2 回転
θ3 振れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9