(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】炭化水素からアルコールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/149 20060101AFI20241217BHJP
C07C 31/125 20060101ALI20241217BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C31/125
C07B61/00 300
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020101654
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-05-30
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523448406
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ククミエルチク
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク フリダーク
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クノッサラ
(72)【発明者】
【氏名】マルク シェーペルテンス
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク グルト
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/107902(WO,A1)
【文献】特開2016-193421(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106748644(CN,A)
【文献】特開昭57-122024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0012323(US,A1)
【文献】国際公開第2015/110843(WO,A1)
【文献】特表2016-525925(JP,A)
【文献】特表2014-526372(JP,A)
【文献】特表2009-513320(JP,A)
【文献】特開2017-114843(JP,A)
【文献】特開昭58-201748(JP,A)
【文献】特開平01-199935(JP,A)
【文献】特開昭55-130938(JP,A)
【文献】特表2017-502937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/00
C07C 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のアルコールを製造する方法であって、以下の工程:
a) 少なくとも1つの多重結合を備えるC2~C16炭化水素を、一酸化炭素、及び1~50個の炭素原子を備えるモノアルコール若しくはポリアルコール(2又はそれ以上のOH基)、又は2若しくはそれ以上のモノアルコール及び/若しくはポリアルコールの混合物であって、前記C2~C16炭化水素(アルコール:C2~C16炭化水素)に対して2~20のモル比で用いられる、アルコールAと、元素周期表第8~10族の少なくとも1つの金属又はその化合物、リン含有配位子及び酸を含む、均一触媒系の存在下で、反応させて(カルボニル化)、
第1反応ゾーン中で液体生成混合物を得ることにより、エステルを製造する工程;
b) 前記均一触媒系を前記液体生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、保持液中の前記均一触媒系、並びにさらなる未変換炭化水素及び/又は未変換の前記アルコールAを富化し、前記工程a)で形成された透過液中のエステルを富化し、ここで、膜材料として、用いられる膜材料は、前記
均一触媒系の酸の存在下で少なくとも300時間安定であり、少なくとも1つの分離活性層を備えるOSN系(Organic Solvent Nanofiltration;有機溶媒ナノ濾過)膜材料であり、かつ、ここで、前記保持液は、工程a)の前記
第1反応ゾーンに戻され、前記透過液は、工程c)に送出される;
c) 熱分離である、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程において、前記工程a)で形成されたエステルを前記透過液から分離する工程;
d) 前記工程c)で分離されたエステルを、水素化ゾーンで、不均一触媒系の存在下、水素で水素化し、少なくとも目的とするアルコール、分離された前記アルコールA及び未変換エステルを含むアルコール混合物を得る工程;
e) 前記工程d)で形成された前記目的とするアルコールを、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離の熱分離から選択される少なくとも1つの分離工程で分離する工程;
を含む、方法であって、ここで、
前記工程a)で用いられる前記アルコールAが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール及びそれらの混合物からなる群から選択され、
前記工程a)で用いられる少なくとも1つの
オレフィン性二重結合を備えるC2~C16炭化水素が、2~16個の炭素原子を備えるn-アルケン又はイソアルケンであり、
前記工程a)における前記均一触媒系の元素周期律表の第8~10族の金属又はその化合物は、パラジウム又はその化合物であり、かつ、
前記工程a)の前記触媒系の酸は、ブレンステッド酸又はルイス酸であり、ここで、前記ブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸であり、かつ、ここで、前記ルイス酸は、アルミニウムトリフラート(Aluminiumtriflat)、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフッ化ホウ素、三塩化ホウ素又はこれらの混合物である、
方法。
【請求項2】
分離活性層が、PAEKポリマーからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離活性層が、PEEKからなり、スルホン化度が、20%未満、又は10%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記均一触媒系のリン含有配位子が二座構造を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)の反応が5~60バールの圧力で行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程a)の前記触媒系の前記酸は、pKa≦5若しくはpKa≦3の前記ブレンステッド酸、又は、LAU値が25を超える前記ルイス酸である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
合成ガスが前記
第1反応ゾーンの上流で分離され、分離された一酸化炭素が前記工程a)の前記
第1反応ゾーンに送出され、かつ、分離された水素が工程d)の水素化ゾーンに送出される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程c)の分離工程後、さらに、以下の工程:
c1) 前記工程a)で形成されたエステルを、第2アルコールBでエステル交換する工程であって、ここで、前記第2アルコールBは前記工程a)で用いられたアルコールとは異なり、第2反応ゾーンにおいて、少なくとも前記第2アルコールBとのエステル、分離された第1アルコールA及び未変換の前記第2アルコールBを含む、第2液体生成混合物を得る工程であって、ここで、前記第2アルコールBは等モル又は過剰に用いられる;
c2) 前記工程c1)で形成されたエステルを分離し、残存する第2液体生成混合物を熱分離及び/又は膜分離により分離し、前記分離された前記第1アルコールAを
前記第1反応ゾーンで再利用し、前記未変換の前記第2アルコールBを前記第2反応ゾーンで再利用する工程;
を含み、ここで、前記工程c1)で形成されたエステルは、前記工程d)における水素化で用いられる、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2アルコールBは、前記第1アルコールAよりも沸点が高い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記分離された前記第1アルコールAの部分は、既に前記第2反応ゾーンから取り出されており、
前記第1反応ゾーンに再循環される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合を備えるC2~C16炭化水素のアルコキシカルボニル化により得られるエステルを水素化して、アルコールを製造する方法であって、用いる均一触媒系を膜分離により液体生成混合物から分離する方法に関する。本発明の1の実施形態では、このようにして形成されたエステルは、エステル交換反応により他のエステルに変換された後、水素化される。
【背景技術】
【0002】
大規模工業化学におけるアルコールの生産は、主としてヒドロホルミル化によってアルデヒドを生成した後、アルデヒドのアルコールへの水素化により達成される。ヒドロホルミル化とその後の水素化によるアルコールの生産は、長期間にわたり、工業的に確立され、実証されてきたプロセスであるが、未だに改善の余地がある。この合成ルートの問題の一つは、通常はヒドロホルミル化の圧力と温度が高いことであり、すなわち、用いられるプラントで要求される技術的要求が比較的高い。つまり、プラントには圧力と温度への耐性が求められる。
【0003】
ヒドロホルミル化とその後の水素化によるアルコール生成におけるもう一つの基本的な問題は、中間体として形成されるアルデヒドの反応性が高いことである。アルデヒドは非常に反応性が高く、所望の水素化が起こる前に反応が進行して望ましくない副生成物を生成する。このような望ましくない副産物は、ほとんどが高沸点物質であり、反応混合物から労力をかけて分離し、廃棄しなければならない。さらに、高沸点物の形成とは、アルデヒドが損失されてもはや所望のアルコールに変換できないことを意味する。これにより、プロセス全体の選択性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2009/012323号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、カルボニル化工程における作業数が少ないアルコール類製造用の代替合成ルートの提供である。さらに重要な課題は、製造プロセスを大規模工業規模で実施できることである。その中心となるのは、古典的合成法に代わる、古典的ヒドロホルミル化産物をより良い品質で提供する他の合成技術である。さらに、確立されるべき新しい合成経路によれば、望ましくない副産物のレベルが低下するはずである。
【0006】
特許文献1は、類似の合成方法を記載する。しかし、特許文献1は、生成物混合物からのエステルの分離に、エステルの調製直後に蒸留を行うことが問題である。特許文献1では、明らかに、触媒含有生成物混合物を蒸留する。しかしながら、当該熱処理の結果、触媒は不活化され、あるいは分離さえる場合さえあり、すなわち、もはや利用できなくなる。特に、一般に用いられる遷移金属が、反応器から除去されて、交換しなければならず、高コストを伴う。それゆえ、もう一つの基本的な課題は、複雑性と費用を軽減して公知のプロセスを改善することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
当該課題は、第1段階で、少なくとも1つの多重結合を備える炭化水素と一酸化炭素及びアルコールとがアルコキシカルボニル化反応によりエステルを形成し、第2段階で、当該エステルが水素との水素化反応により、所望の目的とするアルコールを形成する二段階の方法により達成される。当該方法の第2段階では、最初に用いられたアルコールの部分が再び放出される。
【0008】
本発明によれば、目的とするアルコールを製造する方法は、以下の工程:
a)少なくとも1つの多重結合を有するC2~C16炭化水素を、一酸化炭素及び1~50個の炭素原子を備えるモノアルコール若しくはポリアルコール(2又はそれ以上のOH基)又は2若しくはそれ以上のモノアルコール及び/若しくはポリアルコールの混合物であって、前記C2~C16炭化水素(アルコール:C2~C16炭化水素)に対して2~20のモル比で用いられる、アルコールAと、元素周期表第8~10族の少なくとも1つの金属又はその化合物、リン含有配位子及び酸を含む、均一触媒系の存在下で、反応させて(カルボニル化)、反応ゾーン中で液体生成混合物を得ることにより、エステルを製造する工程;
b)前記均質触媒系を前記液体生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、保持液中の前記均質触媒系、並びにさらなる未変換炭化水素及び/又は未変換アルコールAを富化し、工程a)で形成された透過液中のエステルを富化し、ここで、膜材料として、用いられる膜材料は、酸安定性である、すなわち、前記触媒系の酸の存在下で少なくとも300時間安定であり、少なくとも1つの分離活性層を備えるOSN系(Organic Solvent Nanofiltration;有機溶媒ナノ濾過)膜材料であり、かつ、ここで、前記保持液は、工程a)の前記反応ゾーンに戻され、前記透過液は、工程c)に送出される;
c)熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程において、工程a)で形成されたエステルを前記浸透液から分離する工程;
d)工程c)で分離されたエステルを、水素化ゾーンの不均一触媒系の存在下、水素で水素化し、少なくとも目的とするアルコール、分離されたアルコールA及び未変換エステルを含むアルコール混合物を得る工程;
e)工程d)で形成された目的とするアルコールを、熱分離、例えば蒸留、抽出、結晶化、及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程で分離する工程、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
工程a)の反応で用いられる炭化水素は、少なくとも1つの多重結合を備える。好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合を備える炭化水素であり、特に好ましくは、1つのオレフィン性二重結合を備える炭化水素である。原則として、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合を備える化合物の炭素原子数は制限されない。しかしながら、技術的には、単に少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合を備えるC2~C20炭化水素のカルボニル化が関連する。本発明の好ましい一実施形態では、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合を備えるC3~C16炭化水素、より好ましくはC4~C12炭化水素を用いてよい。特に、2~20個の炭素原子、好ましくは3~16個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子を備えるn-アルケン、イソアルケン、シクロアルケン及び芳香族アルケンがあげられる。
【0010】
上記炭化水素は、少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び、1又はそれ以上のさらなる官能基を含んでよい。適当な官能基の例は、カルボキシル基、チオカルボキシル基、スルホ基、スルフィニル基、カルボン酸無水物基、イミド基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、カルバモイル基、スルファモイル基、シアノ基、カルボニル基、カルボノチオイル基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基若しくはシリル基及び/又はハロゲン置換基である。
【0011】
本発明の方法の工程a)で用いられる特に好ましい炭化水素は、1つのオレフィン性二重結合のみ、特に2~20個の炭素原子、好ましくは3~16個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子を備えるn-アルケン及びイソアルケンを備える。用いられる炭化水素は、好ましくは非置換である。
【0012】
オレフィン性二重結合を備える、用いられる上記炭化水素は、工程a)で一酸化炭素(CO)及びアルコールと反応して対応するエステルを形成する。一酸化炭素は、直接、供給混合物として、又は合成ガス、水ガス、発生ガス及び他の一酸化炭素含有ガスから選択される一酸化炭素含有ガスを添加することにより供給されうる。一酸化炭素含有ガスは、当業者に公知の方法でその成分に分離し、一酸化炭素を反応ゾーンに供給して一酸化炭素を提供することもできる。一酸化炭素は、完全に分離することはほとんど不可能であるため、一定の割合の水素又は他の気体を含んでよい。
【0013】
工程a)で用いるアルコールは、1~50個の炭素原子、好ましくは1~15個の炭素原子、より好ましくは1~10個の炭素原子を備えるモノアルコール若しくはポリアルコール(2又はそれ以上のOH基)、又は2又はそれ以上のモノアルコール及び/若しくはポリアルコールの混合物である。好ましい一実施形態では、ポリアルコールは、上記の数の炭素原子を備えるジオール、トリオール又はテトラオール、好ましくはジオール又はトリオールである。工程a)の反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール、又はそれらの混合物である。
【0014】
工程a)で用られるアルコールがモノアルコールの場合、用いられる炭化水素(モノアルコール:炭化水素)に対するモル比は2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~6である。すなわち、添加されるモノアルコールのモル数は、用いられる炭化水素に対して過剰である。つまり、当該アルコールは、カルボニル化用反応物及び溶媒のどちらの機能も有する。工程a)で用いられるアルコールがポリアルコールの場合、用いられる炭化水素(炭化水素:ポリアルコール)に対するモル比は2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~8である。添加される当該ポリアルコールのモル数は、用いられる炭化水素に対して過少である。
【0015】
工程a)の本発明の反応は、均一触媒系の存在下で行われる。当該均質触媒系は、好ましくは、元素周期表(PSE)の第8~10族の少なくとも1つの金属、又はその化合物、リン含有配位子、及び酸を助触媒として含む。
【0016】
PTE第8~10族の金属は、好ましくはパラジウムである。パラジウムは、好ましくは、リン含有配位子によって配位されたパラジウム化合物として、前駆体化合物の形態で用いられる。当該前駆体化合物として用いられうるパラジウム化合物の例としては、塩化パラジウム[PdCl2]、アセチルアセトナトパラジウム(II)[Pd(acac)2]、パラジウム(II)-酢酸パラジウム[Pd(OAc)2]、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)[Pd(cod)2Cl2]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)[Pd(dba)2]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd2(dba)3]、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)[Pd(CH3CN)2Cl2]、二塩化(シンナミル)パラジウム[Pd(cinnamyl)Cl2]があげられる。好ましくは、[Pd(acac)2]又は[Pd(OAc)2]の化合物が用いられる。工程a)のパラジウム金属の濃度は、用いる炭化水素のモル数に基づき、好ましくは0.01~0.6モル%、好ましくは0.03~0.3モル%、より好ましくは0.04~0.2モル%である。
【0017】
本発明の触媒系の適当なリン含有配位子は、好ましくは二座構造を備える。本発明の触媒系に好ましいリン含有配位子は、例えば、欧州特許出願公開第3121184号明細書に開示されているようなベンゼン系ジホスフィン化合物である。当該配位子は、予備反応でパラジウムと組み合わされることができ、パラジウム-配位子複合体が反応ゾーンに供給されるか、又はその場で反応に添加され、そこでパラジウムと組み合わされる。工程a)に記載の反応による、配位子対金属のモル比は、1:1~10:1、好ましくは2:1~6:1、より好ましくは3:1~5:1でありうる。
【0018】
均一触媒系は、酸、特にブレンステッド(Bronsted)酸又はルイス(Lewis)酸をさらに含む。ルイス酸は、特に、LAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29であるルイス酸でありうる。LAU値は、ルイス酸(JR Gaffen et al.,Chem,Vol.5,No.6,p.1567-1583)の強度を測定する新規方法である。ルイス酸としては、好ましくは、アルミニウムトリフラート、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、又はそれらの混合物が用いられる。上記ルイス酸のうち、好ましくは、アルミニウムトリフラートが用いられる。当該ルイス酸は、ルイス酸対配位子の好ましくは1:1~20:1、好ましくは2:1~15:1、より好ましくは5:1~10:1のモル比で添加される。
【0019】
用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、酸強度pKa≦5、より好ましくは酸強度pKa≦3である。上記酸強度pKaは、標準条件下(25℃、1.01325バール)で測定されたpKaを意味する。ポリプロトン酸による、本発明の文脈における酸強度pKaは、第1プロトリシス工程(Protolyseschritt)のpKaに関する。ブレンステッド酸は、ブレンステッド酸対配位子の好ましくは1:1~15:1、好ましくは2:1~10:1、より好ましくは3:1~5:1のモル比で添加される。
【0020】
ブレンステッド酸としては、特に、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸があげられうる。適当なスルホン酸は、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(PTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸及びドデシルスルホン酸である。特に好ましい酸は、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸があげられる。酸は好ましくは硫酸である。
【0021】
工程a)で用いられる、オレフィン性二重結合を備える炭化水素の反応、すなわちカルボニル化は、好ましくは25~140℃の温度、より好ましくは80~130℃の温度、特に好ましくは90~120℃の温度で行われる。工程a)における圧力は、5~60バール、好ましくは10~40バール、より好ましくは15~30バールでありえる。
【0022】
工程a)の上記反応は、適当な反応ゾーンで行われる。反応用反応ゾーンは、少なくとも1つの反応器を含むが、2又はそれ以上の反応器を含んでよい。少なくとも1つの反応器は、特に、撹拌タンク反応器、ループ反応器、ジェットループ反応器、バブルカラム反応器、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。複数の反応器が用いられる場合、反応器は同一であっても、異なってもよい。
【0023】
工程a)の上記反応により、反応によって形成された少なくともエステル、均質触媒系、未変換のアルコールA、及びおそらくは低沸点沸点物等のさらなる成分、例えばエーテル等の低沸点副産物及び/又は高沸点沸点物及び/又は未変換の炭化水素を含む、液体生成混合物が得られる。その後、液体生成混合物を、工程b)で次の膜分離に供給する。工程a)の反応では、少なくとも窒素、水素及び低沸点副生成物等の非反応性不純物からなるオフガス(例えば、上記エーテル)も反応ゾーンから除去しうる。不純物及び低沸点副生成物が蓄積し、経時的に反応ガス(CO)の分圧が低下すると、反応が遅くなる。
【0024】
次の工程b)では、液体生成混合物を膜分離に供給し、均一触媒系を液体生成混合物から分離する。本発明の膜材料により、保持液中で均一触媒系及び未変換炭化水素及び/又は未変換アルコールが濃縮されるが、工程a)で形成されたエステルは浸透液中で濃縮される。その後、形成されたエステルを含む透過物は、次の工程c)に送出される。その後、濃縮された均質触媒系を含む保持液を工程a)の反応ゾーンに再循環させる。当該保持液を再利用すると、不活性アルカン、低沸点副生成物(例えば、エーテル)、触媒系の潜在的な分解生成物、又は用いられる炭化水素流により導入される他の不純物、例えば、痕跡量の水又は窒素を含むパージ流をさらに除去して、反応ゾーン内への蓄積を回避しうる。当該保持液を再利用すると、当該保持液中で膜分離時に得られた触媒系を確実に反応に戻しうる。これにより、蒸着又は不活性化(例えば、蒸留の場合に生じる)による触媒損失を最小限にでき、プロセス費用がより低減される。触媒の損失は、通常、完全に除去しえないが、上記損失減少効果は、新規触媒の供給により、触媒を置換すべき触媒がより少なくてすむことである。
【0025】
膜分離は、特定物質は透過するが、他物質は透過しない膜材料の半透過性に基づく。本発明の方法の工程b)で用いられる膜材料は、OSN膜材料(OSN=有機溶媒ナノろ過)である。当該膜材料は、好ましくは、少なくとも比較的薄い活性分離活性層(活性分離層)と、場合によっては、分離活性層がその上に配置されるより厚い支持体とからなる。本発明の膜材料は、好ましくは、少なくとも分離活性層及び支持体からなる。分離活性層と支持体との間には、1又はそれ以上の中間層が存在しうる。好ましい実施形態では、膜材料は、分離活性層及び支持体のみからなる。少なくとも分離活性層と支持体からなる膜材料は、液体生成混合物中に共触媒として存在する酸によって膜材料が損傷されないように、酸安定性であるべきである。本発明に関する用語「酸安定性」は、膜材料が、触媒系中の酸の存在下で少なくとも300時間、特にpKa≦5、より好ましくはpKa≦3のブレンステッド酸、又はLAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29のルイス酸で安定であり、破壊されず、その結果、分離作用が実質的に起こらないことをいう。
【0026】
支持体は、特に、分離活性層を通過した透過物に対して透過性である多孔質構造である。当該支持体は、安定した機能を有し、分離活性層の支持体として機能する。当該支持体は、原則として、いかなる適当な多孔質材料からなってよい。しかし、当該物質が酸及び塩基に対して安定であるという前提条件がある。当該支持体はまた、分離活性層と同じ材料からなってよい。
【0027】
本発明の分離活性層は、好ましくは、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)ポリマーからなる。PAEKには、反復単位内のアリール基がエーテル官能性及びケトン官能性を介して交互に連結されるという特定の特徴がある。本発明の好ましい分離活性層は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)からなる。分離活性層としては、好ましくは、スルホン化度が20%未満であるPEEKポリマー、特に好ましくは、スルホン化度が10%未満であるPEEKポリマーが用いられる。対応するPEEKポリマー及びその調製は、国際公開第2015/110843号又はJ. Da Silva Burgal et al.; Journal of Membrane Science,vol.479(2015)pp.105~116に記載される。驚くべきことに、当該材料は、特に、均質触媒系の助触媒としての酸に対して特に安定であることが見いだされた。さらに、本発明のPEEK材料の特定の特徴は、分離活性層として用いられると、生成されたエステルが優先して通過でき、一方、反応物として用いられるアルコールでさえ少なくとも部分的に保持され、それにより、保持物中に蓄積することである。これにより、残留液体生成混合物のその後の処理は、公知の膜材料と比較して除去されるべきアルコールの数が少ないため、より経済的で、かつ長時間行いうる。
【0028】
工程b)の膜分離は、好ましくは25~100℃、より好ましくは30~80℃、特に好ましくは40~70℃の温度で行う。生成物混合物を冷却して、液体生成混合物を膜分離に好ましい優勢温度にすることができる。冷却は、冷却剤を用いる能動的冷却及び、熱交換器を介して達成でき、それにより、本発明のプロセスの他の流れが加熱される。場合によっては、工程a)の反応ゾーンと工程b)の膜分離との間にはさらに、脱ガス工程があり、一酸化炭素等の揮発性化合物、及び/又はオフガスを介して除去されない残留不活性不純物、例えば窒素、水素、アルカン、及び低沸点副生成物(例えば、上記エーテル)が、液体生成混合物から事前に除去される。当該生成混合物は、まず一酸化炭素等の溶解成分の分圧以下に減圧され、脱ガスされ、次いで、再度圧力を上昇させて、膜分離に提供されうる。
【0029】
膜貫通圧(TMP)は、工程b)で10~60バール、好ましくは15~55バール、より好ましくは20~50バール(相対的)であってよい。ここで、透過側圧力は、大気圧以上で15バールまで、好ましくは3~7バールまでであってよく、それにより、TMPに基づいて保持体側圧力が得られる。好ましい実施形態では、圧力比及び特に透過側圧力に注意すべきであるが、それは、圧力は、用いられる炭化水素、用いられるアルコール、及び存在する温度に応じて設定され、膜通過後の蒸発を避けるため、全体の操作が不安定になりうるからである。同様のことは、基本的には、一酸化炭素等の溶存成分にも適用され、場合によっては、上記脱気工程により除去されうる。
【0030】
膜分離プロセスの経済性は、用いられる膜材料の耐用年数に実質的に決定されうるが、それゆえ、膜の耐用年数/安定性はまた、適当な膜材料を選択する基準となりうる。耐用年数は最低半年を想定する。これは、必要な膜表面積がプロセスの全容量に伴い増加し、製品が透過液中で濃縮される本プロセス等のプロセスに特に関連しうる。
【0031】
膜分離からの透過物(工程b))は、次の工程c)で、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される分離プロセスに付され、工程a)で形成されたエステルが残存透過物から分離される。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0032】
工程c)で用いられる分離工程、特に蒸留工程では、透過物から生成したエステルだけでなく、工程a)の反応で得られうる高沸点物、例えば高沸点副生成物からも分離される可能性がある。当該高沸点物を除去するため、本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により透過物中に含まれる高沸点物からエステルを分離することにより、形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留を用いて、形成されたエステルは精製される。プロセス条件は当業者に公知である。
【0033】
好ましい態様では、少なくとも未変換のアルコール及び/又は未変換の炭化水素を含む浸透液は、工程a)で形成されたエステルから工程c)で大部分が遊離され、好ましい実施形態では、再循環成分分離に供される。当該分離では、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により、未変換アルコール及び/又は未変換炭化水素を、残留透過物、特にその中に含まれる低沸点物から分離する。未変換のアルコール及び/又は未変換の炭化水素は、好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留により、残存する透過物から分離される。プロセス条件は当業者に公知である。ここで得られた未変換のアルコール及び/又は未変換の炭化水素は、その後反応ゾーンに再循環されうる。
【0034】
本発明の方法により形成されたエステルは、2つのさらなる方法工程c1)及びc2)でエステル交換されうる。当該エステル交換反応では、工程a)で用いた第1アルコールAに相当するエステルの部分を、第2アルコールBに置換する。当該エステル交換反応は、上記工程c)後、精製工程後に行うことができ、以下の工程:
c1)工程a)で形成されたエステルを第2アルコールBでエステル交換する工程であり、ここで、当該第2アルコールBは工程a)で用いられたアルコールAとは異なり、第2反応ゾーンにおいて、少なくとも第2アルコールBとのエステルを含む第2液体生成混合物をえて、分離された第1アルコールA及び未変換の第2アルコールBを含む;
c2)第2アルコールBで形成されたエステルを、残存する第2液体生成混合物から分離し、特に、熱分離及び/又は膜分離により第1アルコールAから分離し、分離された第1アルコールAを、工程a)から反応ゾーンへ再循環させ、また、未変換のアルコールBを第2反応ゾーンへ再循環させる工程、を含む。
【0035】
工程c1)は、実際にエステル交換反応が行われる、すなわち、工程a)で実際に結合した第1アルコールAを分離して、第2アルコールBを結合させる工程であり、工程a)で形成されたエステルを、第1アルコールAとは異なる第2アルコールBと反応ゾーン中で反応させる。特に好ましい実施形態では、エステル交換反応に用いられる第2アルコールBは、工程a)で用いられた第1アルコールAよりも、沸点が高い。好ましくは、第2アルコールBをエステル交換反応において過剰に添加して、エステル交換反応を促進する。
【0036】
工程c1)でエステル交換反応に用いられる第2アルコールは、好ましくは、炭素原子が1~50個であるモノアルコール若しくはポリアルコール(2又はそれ以上のOH基)、より好ましくは、炭素原子が1~15個であるモノアルコール、特に好ましくは、炭素原子が1~10個である、2又はそれ以上のモノアルコール及び/若しくはポリアルコールの混合物であるが、ただし、工程a)で用いられる第1アルコールAと第2アルコールBは同一でない。好ましい実施形態では、ポリアルコールは、ジオール、トリオール又はテトラオール、好ましくは、炭素原子が上記数であるジオール又はトリオールである。工程a)の反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール又はそれらの混合物、好ましくはエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノールである。
【0037】
工程c1)におけるエステル交換反応は、好ましくは、酸又は塩基触媒下で行われる。酸としては、ブレンステッド酸又はルイス酸が用いられうる。
【0038】
工程c1)におけるエステル交換反応に適するブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(pTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチレンベンゼンスルホン酸又はドデシルスルホン酸である。用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、硫酸又はスルホン酸、より好ましくは、硫酸である。金属又はその化合物としては、例えば、スズ粉末、酸化スズ(II)、シュウ酸スズ(II)、チタン酸エステル、例えば、テトライソプロピルオルトチタン酸塩又はテトラブチルオルトチタン酸塩、及びジルコニウムエステル、例えば、テトラブチルジルコン酸塩、ナトリウムメトキシド並びにカリウムメトキシドを用いてよい。
【0039】
工程c1)におけるエステル交換反応に適するルイス酸は、チタン(IV)イソプロポキシド、Bu2SnO、BuSn(O)OH又はアルミニウムトリフラートである。好ましくは、ルイス酸としてチタン(IV)イソプロポキシド及びアルミニウムトリフラートを用いる。
【0040】
工程c1)におけるエステル交換反応に適した塩基は、アルカリ金属、アルカリアルコキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアセテート又は酸化物、又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属アルコラート、例えばNaEtOH又はMgEtOH、アルカリ金属炭酸塩、例えばK2CO3又はCs2CO3である。しかしながら、塩基性イオン交換体又はNaOHもまた用いられうる。好ましくは、NaEtOH又はMgEtOH等のNa又はMgアルコラートが用いられる。
【0041】
酸触媒によるエステル交換反応は、好ましくは60~220℃、より好ましくは100~210℃、特に好ましくは130~200℃で行われる。好ましくは、当該反応の温度は、分離される第1アルコールAの沸点より高く、それにより、分離される第1アルコールAを反応混合物から直接分離し、平衡の生成物側へのシフトが促進される。第2アルコールBは、好ましくは、工程a)で形成されたエステルに、好ましくは、有意に過剰に、例えば、30:1で添加される。
【0042】
塩基触媒によるエステル交換反応の温度は、好ましくは、20~100℃の温度である。
【0043】
上記エステル交換反応により、少なくとも第2アルコールBとのエステル、分離した第1アルコールA及び未変換の第2アルコールBを含む第2液体生成混合物が生成する。
【0044】
工程c1)で形成された第2エステルを、次の工程c2)で残存する第2液体生成混合物から分離する。当該分離は、熱分離、好ましくは蒸留、及び/又は膜分離、特に上記膜材料を用いて行う。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0045】
工程c2)で用いる分離工程、特に蒸留工程では、生成したエステル及び、工程c1)で生成しうる高沸点副生成物等、生成する可能性のある高沸点物が残存する第2液状生成物混合物から分離しうる。本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離によって存在する高沸点物からエステルを分離して当該高沸点物を除去する、工程c)で形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。形成されたエステルは、好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留を用いて精製される。プロセス条件は当業者に公知である。
【0046】
工程a)で製造され、工程c)で浸透液から分離された後、場合によっては、精製されたエステルは、工程d)で水素化される。当該プロセスで用いられる水素によりエステル基を開裂し、目的とするアルコール、工程a)のエステル形成で結合したアルコールA、又はエステル交換反応で結合したアルコールBを回収しうる。つまり、水素化により、少なくとも目的とするアルコール、アルコールA又はB及び未変換のエステルを含むアルコール混合物が形成される。
【0047】
エステル交換反応することなく、工程d)の水素化で回収されたアルコールAを、次の工程で得られたアルコール混合物から分離し、第1反応ゾーンに再循環させうる。工程d)の水素化におけるアルコールBの回収と共にエステル交換反応を行う場合のその後のプロセス工程では、形成されたアルコール混合物から分離され、第2反応ゾーンに再循環されうる。
【0048】
通常の水素化条件は当業者に公知であり、例えば、欧州特許出願公開第1042260号明細書に開示される。工程d)の本発明による水素化は、好ましくは、10~300バールの圧力、より好ましくは、100~280バールの圧力、特に好ましくは、150~270バールの圧力で行われる。水素化温度は、好ましくは、100℃~300℃、好ましくは、150℃~280℃、特に好ましくは、180℃~220℃である。水素化で、オフガスをさらに引き抜くことにより、低沸点成分、例えば、窒素又は低沸点副生成物等の不純物を除去しうる。
【0049】
工程d)の水素化は、不均一触媒系の存在下で行われる。通常の触媒系は、例えば、欧州特許出願公開第1338557号明細書から公知である。不均一触媒系は、好ましくは、銅、ロジウム、ルテニウム、レニウム、又はこれらの金属の化合物からなる群からの金属を含む。さらに好ましくは、銅-クロム酸化物系触媒系である。特に好ましい触媒系は、活性成分として銅及び/又は亜鉛を含み、それらは支持体材料に適用される。支持体材料としては、多孔質シリカ及び/又はアルミナが適する。
【0050】
水素化に必要な水素は、原料として直接供給しうる。水素含有ガスを当業者に公知の方法で、予め水素成分に分離し、水素を水素化ゾーンに搬送することにより、水素を供給しうる。完全分離はほとんど不可能であるため、水素は、依然として一定の割合の一酸化炭素や他の気体を含む。
【0051】
次の工程e)では、工程d)の水素化からのアルコール混合物は、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される少なくとも1つの分離プロセス工程に送られ、工程d)で形成された目的のアルコールを残存するアルコール混合物から分離される。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。多段蒸留も可能である。
【0052】
少なくとも1つの分離プロセス工程では、用いられるアルコールA及びBは、さらに除去され、各々第1又は第2の反応ゾーンに再循環されうる。再循環中、、パージストリームを引き出して、例えば、不活性アルカン、アルデヒド、アセタール、エーテル、ケトン又は炭素等の水素化副生成物をプロセスから排出しうる。
【0053】
膜技術における膜の透過性又は分離性能の特性評価のための、物質混合物の特定成分に関する膜の保持力Rは、次式(1)により定義される:
R=1-W(I)P/W(I)R (1)
ここで、W(I)Pは透過液中の関連成分の質量分率であり、W(I)Rは膜保持液中の関連成分の質量分率である。したがって、保持力は0~1の値でよく、したがって、好ましくは%で記載される。0%の保持力は、当該成分が膜を介して阻害なく透過することを意味し、その結果、保持液中の成分の質量分率は、透過液中と同じである。逆に、100%の保持力は、関連する成分が膜により完全に保持されることを意味するが、これは工業的にはほとんど不可能である。
【0054】
保持力に加えて、膜のいわゆる透過性は、次式(2)により、当該特性の判定に決定的である:
P=m’/(A*TMP) (2)
ここで、m’は透過液の質量流速、Aは膜の表面積、TMPは膜貫通圧を表す。透過率は通常、単位kg/(h*m2*bar)で表され、膜面と設定TMPに標準化された指標である。
【0055】
膜の安定性の特徴付けに関して、透過性PRelにおける相対的な変化は、以下の式(3)により定義される:
PRel=Pt=x/Pt=0 (3)
ここでPt=xは時刻t=xにおける透磁率を表し、Pt=0は時刻t=0における初期透磁率を表す(t=x>t=yという条件であれば、基準時刻は異なってよい)。
【実施例1】
【0056】
触媒再循環としての膜分離によるジイソブテン(DiB)の3,5,5-トリメチルヘキサン酸メチル(TMHエステル)への変換
DiBは、2つのC8異性体である2,4,4-トリメチルペント-1-エン及び2,4,4-トリメチルペント-2-エンを約80:20の比率で含む混合物である。実験は、以下の設定で連続運転のパイロットプラントで行った。
【0057】
当該プラントは、基本的に、(10barまでの圧力定格)から200mlのBuechi社製ガラス製高圧蒸気滅菌器(=反応器)で構成される。当該滅菌器は、反応溶液を充填したガラス容器から供給され、Knauer HPLCポンプによりアルゴンで覆われる。他のKnauer HPLCポンプは、ガラス高圧蒸気滅菌器から、最高60バールまでの加圧可能な別個の高圧回路にポンプを供給する。当該パイロットプラントの高圧回路は、本質的に、循環ポンプによって作動する液体回路と平膜試験セル、及び必要なセンサ(例えば、圧力測定、温度測定)から構成される。当該高圧回路を遠心ポンプで循環させ、ダイヤフラムの必要なオーバーフローを確保する。膜を通過した液流は、透過物として膜モジュールから除去され、覆アルゴンガラス製レシーバに回収される。透過液量は連続的に秤量測定される。余剰供給量(保持量)をガラス製高圧蒸気滅菌器に戻す。当該再循環は、機械的プレ圧調整器によって行われるが、当該調整期器はナノ濾過段階のプレ圧力の調整にも用いられる。回路は、サーモスタットによって加熱され、分離用の所定の温度が確保される。
【0058】
実験は、以下の条件下で行った:活性膜表面積84.5cm2、膜圧45バール、分離温度25℃。
【0059】
試料は、供給流から高圧回路(供給)への供給流、高圧回路(保持)からの供給流、および透過液から採取しうる。収率分析には、試料0.08g及びエチルベンゼン0.03g(内標準)を秤量し、アセトニトリル0.25gで希釈した。さらなる分析は、GC-FIDを用いて行った。配位子と金属の保持は、透過物と保持物の試料の事前消化後にICP‐OESによって確認した。酸の保持に関する分析は、19F NMRを用いて行った。
3つの方法のいずれについても、試料の調製及び分析は当業者に公知である。
【0060】
用いた膜材料はPEEKであった。本発明のPEEK-アセトン膜は、J.da Silva Burgal et al.;Journal of Membrane Science,Vol.479(2015),S.105-116(国際公開第2015/110843号も参照)に記載の方法で製造される。
【0061】
ガラス製高圧蒸気滅菌器の内容物を攪拌して、ほぼ理想的な混合を行った。ガラス製高圧蒸気滅菌器内の圧力を、機械的プレ圧力調整器により10バールに調整した。ガラス製高圧蒸気滅菌器に外部温度測定装置を取り付けたオイルバスを用いて、ガラス製高圧蒸気滅菌器を所望の温度に保つ。
【0062】
まず、ガラス製高圧蒸気滅菌器と高圧回路に、56質量%MeOH、40質量%DiB、0.5質量%1,2-ビス((tert-ブチル(ピリジン-2-イル)ホスファニル)メチル)ベンゼン(配位子)、3.4質量%トリフラートアルミニウム(酸)、0.1質量%[Pd(acac)2](金属)からなる塩基性反応混合を充填し、10バールのアルゴンで不活性化し、作動させた。
【0063】
次いで、ガラス製高圧蒸気滅菌器を内部温度100℃に加熱し、初期アルゴン流量をCO(反応開始)に変えた。15時間、塩基反応混合物を循環させてポンプで送出し、システムを起動させた。15時間後、飼料中のDiBは99%までTMHエステルに変換された。15時間後、循環モードを終了し、透過物を他のガラス容器に回収し、新鮮な反応溶液(60質量%のMeOH及び40質量%のDiB)を計量した。105時間の試験期間中、新しい触媒、配位子、酸は、添加しかった。各試験期間について、上記の方法で、TMHエステルの透過性、収率、及び触媒系の成分の保持力を測定した。
表1 DiBのTMHエステルへの連続的な変換
【0064】
【表1】
* 各ケースで検討中の実験期間終了時の収量
** 保留確認なし(システム起動)
表1から、膜分離により、金属、配位子及び酸の97%以上が再利用されることが明らかになった。つまり、新しい触媒系をさらに添加しなくても、長期間にわたり所望のエステル収率が達成され続けることが可能である。従って、触媒複合体の活性は、当該方法によって有意に影響されない。
【実施例2】
【0065】
実施例1で得られたTMHエステルのTMHアルコールへの水素化
実施例1で回収した浸透液を分別蒸留により分離した。まず、メタノール及び未変換のジイソブテン(DiB)を除去した後、3,5,5‐トリメチルヘキサン酸メチル(TMHエステル)を得た。次いで、TMHエステルを300mlの高圧蒸気滅菌器中で、担体上に15質量%Cu/1.8質量%Cr含有触媒(Stuttgarter Masse)と200℃及び270バールのH2で20時間反応させた。冷却し、減圧後、試料1mlを採取し、イソオクタン150μlを内標準物質として加え、GC分析により収率及びn/イソ選択性を測定した。TMHアルコールの収率は98%(n/イソ:99:1)であった。
【実施例3】
【0066】
ジイソブテン(DiB)から3,5,5-トリメチルヘキサン酸メチル(TMHエステル)への変換を、触媒-再循環として実施例1の記載のように反応を行った(塩基反応混合物0.15lは、MeOH56質量%、DiB40質量%、1,2-ビス((tert-ブチル(ピリジン-2-イル)ホスファニル)メチル)ベンゼン(配位子)0.5質量%、アルミニウムトリフラート(酸)3.4質量%、及び[Pd(acac)2](金属)0.1質量%)。
【0067】
反応開始後、試料を4時間毎に採取した。収率分析には、試料0.08g及びエチルベンゼン0.03g(内標準)を秤量し、アセトニトリル0.25gで希釈した。分析は、実施例1に記載の方法で行った。4時間後、反応を終了し、反応混合物を冷却し、反応器を減圧した。
【0068】
真空(0.02バール)にして、反応溶液を0.02lまで減圧し、触媒系はガラス製高圧蒸気滅菌器に残したまま、主にメタノール、未変換のDiB及びTMHエステルを縮合させて回収した。反応器中に残存した反応混合物の試料をGC-FIDで分析したところ、痕跡量のメタノールと未変換のDiB(<2質量%)が検出された。
【0069】
その後、ガラス製高圧蒸気滅菌器を0.15lまで充填し、60質量%のMeOH及び40質量%のDiBからなる塩基反応混合物を用いて2回目の反応を行い、さらなる反応を行った。
【0070】
反応開始後、試料を4時間毎に採取した。収率を分析するため、試料0.08g及びエチルベンゼン0.03g(内標準)を秤量し、アセトニトリル0.25gで希釈した。分析は、実施例1に記載の方法で行った。4時間後、反応を終了し、反応混合物を冷却し、反応器を減圧した。
表2 蒸留後のDiBのTMHエステルへの変換の比較
【0071】
【表2】
表2から、触媒から反応物及び生成物を除去する蒸留により、2回目の操作で触媒の反応性が明らかに低下することが示された。
【実施例4】
【0072】
本実施例で用いた調製物は、ジ-n-ブテン(DnB)を用いた以外は実施例1と同様であった。
【0073】
実施例1で回収した浸透液を分別蒸留により分離した。まず、メタノールと未変換のジ‐n‐ブテン(DnB)を除去後、得られたエステルであるイソノナン酸メチルを得た。次いで、得られたエステルを300mlのPaar高圧蒸気滅菌器中で、Stuttgarter Masse(内部温度に基づく閉ループ制御)に担持された15質量%Cu/1.8質量%Cr触媒を用いて、500rpmで20時間、270バールのH2で反応させた。冷却し、減圧後、試料1mlを採取し、イソオクタン150μlを内標準物質として添加し、GC分析(収率:94%イソノニルアルコール、(n/イソ:69:31))により収率及びn/イソ選択性を測定した。