(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】低侵襲の組織吸引のための手術器具
(51)【国際特許分類】
A61F 9/011 20060101AFI20241217BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20241217BHJP
A61F 9/007 20060101ALI20241217BHJP
A61F 9/008 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61F9/011
A61B18/20
A61F9/007 130C
A61F9/008 120E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133188
(22)【出願日】2023-08-18
(62)【分割の表示】P 2020517355の分割
【原出願日】2018-09-21
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520096943
【氏名又は名称】ライト マター インターアクション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー,ダレン
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0052113(US,A1)
【文献】国際公開第2016/041086(WO,A1)
【文献】米国特許第05741244(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0171326(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0013572(US,A1)
【文献】特開2003-130796(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0364870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007-9/011
A61B 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水組織を破壊するための装置であって、
ハウジングと、
10psから1nsの範囲のパルス持続時間を有するパルスレーザ放射を提供するように構成されたパルスレーザ放射源と、
前記ハウジング内に少なくとも部分的に収容される光導波路であり、前記光導波路は、可撓性の光ファイバを含み、前記光導波路は、前記パルスレーザ放射源から前記パルスレーザ放射を受けるために、その近位端において前記パルスレーザ放射源に結合可能であり、前記光導波路は、水の吸収ピークと適合する約2700nmから約3300nmの範囲の波長のパルスレーザ放射を送るように構成され、前記パルス持続時間及び前記パルスレーザ放射の波長は、前記含水組織上にインパルス熱蓄積をもたらすように選択されている、光導波路と、
前記装置の少なくとも1つの流体チャネル内に置かれる流量センサ又は圧力センサのうち少なくとも1つであり、前記流量センサ又は圧力センサのうち少なくとも1つは、制御システムに結合されて、それぞれ前記流量センサによって感知された流量又は前記圧力センサによって感知された真空圧のうち少なくとも1つを前記制御システムに提供する、流量センサ又は圧力センサのうち少なくとも1つと、
前記ハウジングの遠位端に対する前記光導波路の位置を制御可能に
振動させるために前記光導波路に結合された駆動機構であり、真空圧の変化の関数として又は圧力と流量との相対変化の関数として前記光ファイバの位置を
振動させるように前記制御システムによって制御される駆動機構と、
を含む装置。
【請求項2】
前記光ファイバと標的組織との接触を感知するように構成されたセンサをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光ファイバの位置を感知する光音響センサをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記光ファイバの位置を感知するエンコーダをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御システムは、前記真空圧の変化又は前記圧力と流量との相対変化が閉塞を示していることを決定するように構成され、既定の時間の後に前記閉塞が依然として示されていると決定することに応答して、前記駆動機構は、前記ハウジング内で前記光ファイバを縦方向に振動させるように前記制御システムによってさらに制御される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記レーザ放射のパルスレートは、選択された周波数によって調節され、その結果、真空速度とのバランスが取れたレーザパワーを可能にする、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、サファイア、ダイヤモンド、ZBLAN、又はYAGから選択された材料で作られている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記光ファイバの遠位端は、湾曲しているか、先細りしているか、又は角度が付けられている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記光ファイバは、赤外透過の光学材料から作られている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記駆動機構は、リニアモータ、回転モータによって駆動されるリニア移動機構、又はボイスコイルアクチュエータである、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
そこを通って前記光ファイバが延びる再利用可能なレーザ送達部分、及び、そこから光ファイバ先端部が延びる取り外し可能な先端部ハンドルを前記ハウジングは含み、前記取り外し可能な先端部ハンドルは、前記再利用可能なレーザ送達部分に着脱可能に固定することができる、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記光ファイバは、ファイバコネクタを有する遠位端を有し、前記光ファイバ先端部は、前記ファイバコネクタに結合する近位端を有する、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示は、2017年9月27日に出願された“Surgical instrument for minimally invasive aspiration of tissue”と題された米国仮特許出願第62/564,019号からの優先権を主張し、その全体が参照により本明細書において援用される。
【0002】
本開示は、一般に、白内障手術において使用するための装置及び方法に関する。特に、本開示は、白内障の水晶体組織を破壊及び吸引するための外科的レーザアブレーションの装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
白内障手術は、ヒトの眼における水晶体組織の混濁によって引き起こされる失明を治療するために開発された。白内障のほとんどの場合が老化過程に関連しているけれども、時折、子供はその状態で生まれてくることもあり、又は、白内障は、眼の外傷や炎症、及びいくつか他の眼の疾患の後に発生することもある。白内障の水晶体組織に対する治療は、最も頻繁に行われる手術のうちの1つである。
【0004】
現代の小切開白内障手術では、眼科外科医は、ハンドヘルドの金属又はダイヤモンドの刃を使用して、強膜が角膜と接触する領域を切開する。白内障手術の次のステップは、嚢の前方部分を除去して、白内障への接近を可能にすることである。嚢が開かれると、器具を挿入して、除去に先立ち白内障を分解及び破壊することができる。水晶体を分解するための道具には、組織を分裂させるための「チョッパー」又は鉗子等の機械的な道具が含まれ、さらに最近では、超音波トランスデューサを有する道具が、吸引に先立ち組織を乳化するために使用されている。例えば、特許文献1において等、様々な使い捨ての超音波吸引針が提案されている。
【0005】
加熱効果又は音響光学的に生成された超音波エネルギーを介して組織を分解するためにレーザ放射を使用する装置が、(例えば、特許文献2等において)提案されている。眼組織において十分に吸収されない非常に短いパルスレーザからの放射の焦点が白内障の水晶体の体積の内側に合わされ、吸引に先立つ組織の光切断が達成されるさらなる技術が採用されている。この後者の技術は、投射システムの必要性に悩まされ、そのような短いパルスに対する効果的な光導波路ビーム送達の欠如のために、ハンドヘルドの器具では実施されていない。
【0006】
マイクロ秒パルス及び長パルスのMid-IRレーザが、水晶体組織のアブレーションに使用されていた。レーザアブレーション(インパルス熱蓄積(impulsive heat deposition))の機構は、(その全体が参照により本明細書において援用される)特許文献3において記載されており、この文献では、組織の内側の振動モードの励起による急速加熱によって、曝露された組織の蒸発が引き起こされている。この新しい機構に必要とされるこのレーザ源は、特定の光ファイバビーム送達システムに適合する。
【0007】
上記のレーザ機構を使用して、接触時組織破壊のための光ファイバビーム送達システムを含むハンドヘルドの器具を介して水晶体組織を破壊及び除去することができる外科的な装置及び方法が提案されており、その全体が参照により本明細書において援用される特許文献4を参照されたい。この開示の一実施形態では、光ファイバの遠位端が、より大きな直径の吸引針の内側で組織まで送達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US8454551 B2
【文献】US Patent 6083192 A
【文献】US Patent 8,029,501
【文献】WO2016041086 A1
【発明の概要】
【0009】
一部の例において、本開示は、水晶体組織における白内障の破壊のための装置を記載する。当該装置は、ハウジング;パルスレーザ放射源;及び光導波路;を含む。光導波路は、少なくとも部分的にハウジング内に収容され、可撓性の光ファイバを含む。光導波路は、白内障の破壊を引き起こすためにパルスレーザ放射を送るように構成され、パルスレーザ放射源からパルスレーザ放射を受けるために、その近位端においてパルスレーザ放射源に結合可能である。当該装置は、ハウジングの遠位端に対する光導波路の位置を制御可能に変えるために光導波路に結合された駆動機構も含む。
【0010】
次に、例として、本願の例となる実施形態を示す付随の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】白内障の水晶体組織のレーザ破壊の一例となる実施形態の部分的な斜視図である。
【
図2】レーザパルス源を送達するハンドヘルドのレーザ器具の一例となる実施形態の部分的な斜視図である。
【
図3】
図2のハンドヘルドのレーザ器具の遠位先端部の一例の断面図であり、吸引針及び光ファイバが同一線上にあり、吸引チャネルの入口は非閉塞である。
【
図4】
図2のハンドヘルドのレーザ器具の遠位先端部の一例の断面図であり、組織の断片が負圧によって吸引チャネルに向かって引き寄せられ、吸引されるには大きすぎて吸引チャネルの入口を完全に閉塞させている。
【
図5】破壊及び吸引された場合の
図4の同じ組織断片の一例の断面図であり、閉塞が部分的又は完全に排除されている。
【
図6】発生する持続的な閉塞の、
図2のハンドヘルドのレーザ器具の遠位先端部の一例の断面図であり、レーザファイバがその範囲内の組織全てを破壊するが、閉塞を排除することはできていない。
【
図7】吸引された流体は、除菌可能な又は使い捨てのツールアセンブリ内に含有されてもよく、光ファイバビーム送達の一部の再利用可能な部分を汚染せずに、非弾性光ファイバが吸引チャネル内で動かされることを可能にするように、ファイバの遠位端を吸引針の内側にセットすることができる一例となるハンドヘルドのレーザ器具の断面図である。
【
図8】
図2のレーザ器具の一例となる実施形態を示した図であり、器具は、3つの分離可能な部分:すなわち、光ファイバを含み、ファイバコネクタを有する再利用可能なレーザ送達アセンブリと、遠位の器具の先端部を含み、洗浄のための出力チャネル、吸引針、及び拡張の光ファイバ先端部を有し、使い捨てのチューブを使い捨ての吸引及び洗浄手段に接続するためのポイントも含む取り外し可能な先端部ハンドルアセンブリとして示されている。
【
図9】交換可能なハンドルアセンブリの一例を示した分解組立図であり、再利用可能なレーザ送達アセンブリの、対応するコネクタと接続するファイバコネクタに、小さな光ファイバが取り付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
類似の構成要素を示すために、類似の参照番号が異なる図において使用されているかもしれない。
【0013】
一部の例において、本開示は、白内障の水晶体組織を破壊及び除去するためのハンドヘルドのレーザ水晶体乳化装置を提供する。
【0014】
一部の例において、本開示は、光ファイバ先端部16に接触することで組織を破壊するためにレーザエネルギーを利用することによって、従来の器具と比較して、手術器具54の改善された吸引速度を提供するのに寄与し得る装置を提供する。光ファイバ先端部16は、ヒトの眼の前嚢において手動で位置決めするのに適した吸引チャネルの小径内で同一線上に位置する。光ファイバ16は、組織吸引の速度を速めるために、また、意図せずに吸引された組織を破壊するリスクを最小限にするために、吸引チャネル内で前進又は後退させることができる。
【0015】
一部の例において、本開示は、最小限の流体工学(流動及び真空)及び最小限の周囲組織への破壊でより迅速且つより正確な吸引を達成するために、ユーザ入力及びセンサ出力(例えば、吸引及び洗浄チャネル内の圧力及び流量の測定等)に基づいて、パルスレート、エンベロープ(envelope)、及びレーザ先端部の位置決め等のレーザパラメータを調整するアルゴリズムと、流体工学(吸引及び洗浄の手段)の制御及びレーザ破壊を統合する。
【0016】
一部の例において、本開示は、洗浄/吸引先端部内に統合された可動光ファイバ16と、制御システムアルゴリズムとの追加によって、吸引速度のユーザ制御がさらに強化される手術器具54を提供し、制御システムアルゴリズムは、様々なユーザ入力及び感知された流体状態に応答して、周囲の組織構造体への侵襲的ダメージを最小限に抑え、前嚢の圧力の変化を制限するとともに、組織除去処置中の吸引及び洗浄の流れを最小限に抑えるために、ファイバの位置決め及びレーザパルスレートを自動的に最適化する。
【0017】
本開示は、レーザプローブを含む装置を記載し、レーザプローブは、接触時に、体内で、周囲への熱拡散よりも速い時間規模で組織の分子の内側の選択された振動モードの光学励起によって、迅速な組織の分解を効率的に駆動することができる。レーザプローブは、その全体が参照により本明細書において援用される特許文献4において以前に開示されたものと類似のレーザ機構を使用する。
【0018】
本開示は、眼の他の組織内へのエネルギー伝搬の問題を回避しながら、硬い白内障組織を効率的に破壊するための一例となるアプローチに関する。
【0019】
図1を参照すると、一例となるレーザアブレーションアプローチが開示されている。
図1は、白内障の水晶体組織1のレーザ破壊の例を示している。このレーザ破壊は、特許文献4において開示されているもの等、選択された持続時間、波長及びパルスエネルギーのレーザパルスが、光導波路12に結合され、光導波路12の遠位端16から出るときに生じる。光波長ガイド12は、白内障の水晶体組織1の内側に向けられ、切開ポイント7を通って、及び、嚢9内の開口部を通って眼の前眼房内に挿入されている。光は、導波路の出口16に接触している水晶体細胞3又は細胞間領域8によって強く吸収されるか、又は、組織の内側のレーザ光の光吸収深さ40に近い距離内で組織5の体積を照射し、角膜2又は水晶体嚢9等、眼の遠い部分に対して最小限の妨害で、水晶体細胞及び/又は水晶体4の細胞構造の破壊、並びに、白内障の組織6の破壊された断片の効果的な分解及び吸引を結果としてもたらす。中空の管又は針13は、真空圧の手段に接続された場合に、破壊された組織を除去するための手段を提供する。吸引チャネル52の内側先端部は、光ファイバ16の遠位端を有し、そこからレーザパルスが現れる。レーザパルスは、接触時に組織を破壊するため、結果として得られる材料を眼から吸引することができる。
【0020】
このレーザエネルギーの同一線上の送達は、吸引圧力によってレーザエネルギーに組織が能動的に引き寄せられるため、小さな光ファイバ及び正確なレーザ破壊プロセスの場合に有利である。本開示の接触時組織破壊は、水晶体組織に限定されるものではなく、全ての組織タイプに適用することができる。
【0021】
注目すべきことに、一例となる実施形態では、外科的処置の間に光ファイバ先端部16の位置を動かす又は別に移すための手段、及び、この位置をユーザ入力と洗浄及び吸引チャネル内の流体状態とに基づき制御するための手段が提供され、
図2を参照されたい。
【0022】
図2は、本開示の一例となる実施形態を開示しており、ハンドヘルドの器具54が、レーザパルス源10に結合されている。レーザパルス源10は、制御回路21からの信号22によって制御され、制御回路21は、吸引のための手段18及び洗浄のための手段17も制御する。レーザパルス源10は、流体チャネル内の流量センサ38及び圧力センサ48等の1つ又は複数のセンサからの入力をさらに受ける。洗浄、吸引圧、吸引流量及びレーザパワー、パルスレート及びファイバ位置決めの作用は、多機能フットペダル等のユーザ入力装置11の使用及び制御回路21内に格納されたプリセットパラメータを介してさらに制御することができる。他の制御手段を提供することもできる。プリセットパラメータは、最大流量及び圧力リミット、レーザパワー制限及び他の動作モードを含んでもよい。洗浄及び吸引チャネル52を可撓性チューブ100に結合させ(
図8を参照)、さらにツールアセンブリ19に結合させることができ、これらは、取り外し可能、再利用可能、又は使い捨て可能であってもよい。可撓性チューブ100は、眼内水晶体1の内側でのツールアセンブリ19の遠位先端部20の挿入及び制御を可能にして、先端部での制御された白内障組織のマイクロ破壊を達成し、
図1を参照されたい。一例では、光ファイバ12を動かす手段24(例えば、リニアモータ等の駆動機構、又は、回転モータ、ボイスコイルアクチュエータ等によって駆動されるリニア移動機構等)が提供されて、吸引チャネル52の遠位端までの遠位の光ファイバ先端部16の相対距離を制御する。ファイバ先端部の位置を追跡するセンサ又はエンコーダ53(例えば、光音響センサ等)が提供されてもよい。別のセンサも、光ファイバ12と組織との間に物理的な接触があるときを検出するために提供することができる。
【0023】
一部の例において、光ファイバ12は、サファイア、ダイヤモンド、ZBLAN、又はYAG等、任意の適した材料で作られてもよい。光ファイバ先端部16は、まっすぐであってもよく、又は、特許文献4において記載されているように、例えば、湾曲しているか、先細りしているか、又は角度が付けられている等、任意の他の適した構成を有してもよい。
【0024】
ユーザは、多くの異なる方法で光ファイバ先端部16の位置を制御することができる。一例となる実施形態では、前方又は後方にファイバの位置を動かすように構成されたさらなるユーザ入力装置が提供される。さらなる例では、ファイバは、流量/吸引圧を増加させるために従来の手順で一般的に使用される比例ペダル(proportional pedal)を使用して前進される。ペダルの作動によって、より高いレベルの吸引が引き起こされ、同時に、吸引先端部へのレーザ破壊機構の接近が減らされる。
【0025】
一部の例において、ファイバ先端部16の位置は、例えば先端部における閉塞の程度を感知することによって、より高いレベルの吸引へのユーザの要求に対する吸引チャネル52の圧力及び流量の反応に基づき自動的に調整される。そのような実施形態では、光ファイバ先端部16の位置は、外科医によって直接決定されてもよく、又は、吸引チャネル52内の流体状態を感知し、閉塞及び非閉塞の流れを含むいくつかの状態を同定する制御アルゴリズムと組み合わせて決定されてもよい。一部の例では、光ファイバ上端部16の位置を制御するために、自動調整が直接のユーザ入力と組み合わせて使用されてもよい。
【0026】
従来の白内障手術システムでは、ユーザが(例えば、フットペダルを介して)吸引を制御する。従来のシステムは、圧力が高すぎる場合に流れを制限するために、いくつかのシンプルな自動制御を含み得る。本開示においては、システムのより包括的な制御が提供され、ここでは、検出された圧力及び流れを考慮に入れながら、また、光ファイバの位置決めを制御しながら、レーザパラメータも制御される。例えば、圧力が高すぎるために流れが制限されてもよく、さらに、システムは、レーザをオンにするように制御し、圧力を下げる方法として、先端部に向かって遠位に動かすように光ファイバを制御する。そのような包括的な制御のさらなる詳細が以下において記載される。
【0027】
図3を参照すると、非閉塞の条件下では、円形断面パイプの内側の層流及びニュートン流体を考慮することによって、ポアズイユの法則:
【0028】
【数1】
に従って層流を考慮することによって、吸引チャネル52の内側の流れと圧力との関係を近似させることができ、式中、
【0029】
【数2】
は体積流量(量/時間)であり、Δpはパイプの両端にわたる圧力の変化であり、Rはパイプの半径であり、ηは流体の粘度であり、Lはパイプの長さである。ポアズイユの方程式によって開示されているように、粘度を上げるためには、より大きな圧力差が、一定の流量を維持するために必要とされる。破局的な圧力変化が眼にダメージを与えるのを防ぐために、ほとんどの眼科的吸引装置は、設定可能な圧力リミットΔp
maxを有し、約350~600mm/hgに設定されることが多い。この圧力を超えると、ポンプは、さらに作動しないように妨げられ、従って、流量は、増加しないよう妨げられる。同様に、流量制限Q
maxも、組織を吸引する目的で約20~50cc/分に設定されることが多い。
【0030】
0から100%に及び得る所望の吸引流量に対するユーザ制御信号が与えられると、ユーザは、流れが最大圧力まで制御信号に従うことを予想することができる。
【0031】
【数3】
制限された圧力では、高粘度組織が吸引チャネル52をブロックするのを防ぐ方法を考慮することが重要である。例えば、下流での詰まりを最小限にするために、吸引チャネル52の先端部51は、入口の直径が吸引チャネル52の直径よりも小さくなるように先細りにすることができる。次に、吸引チャネル52の入口内に送達されるレーザエネルギーを使用して、吸引チャネル52内の望まれない詰まりを防ぐことができる。非閉塞の状況においてチャネルの外側で直接ファイバを前進させることも有利であってもよく、ここで、吸引チャネル52の圧力又は流れがほとんど何も設定されていない間に、より小さい直径のファイバを彫刻用又は高精度の破壊用道具として使用することができる。しかし、高流量吸引モードの間は、レーザは、非閉塞の状況において組織を破壊する必要はなく、ポアズイユの法則が保たれる。圧力及び流量のパラメータ及びそれらの変化率を監視することによって、閉塞が発生したかどうかを決定することが可能であり、以下を参照されたい。
【0032】
図3をさらに参照すると、一例となる装置の挿入が開示されている。
図3は、例となる器具54の遠位先端部を例示しており、ここでは、吸引針13及び光ファイバ12は同一線上にあり、吸引チャネル52の入口は非閉塞である。吸引チャネル52内の圧力は低く、流量は圧力によって制限されていない。この例では、ファイバ先端部16の位置は重大ではなく、吸引針内で数mm後退させることができる。一部の例において、ファイバ先端部16は、遠位側では約5mmまで及び約5mmの範囲を含み後退させることができ、近位側では約10mmまで及び約10mmの範囲を含み後退させることができる。他の距離も、ヒトの眼の寸法に応じて、及び、特定の用途に応じて可能であり得る。後退された位置で使用されるレーザエネルギーは、吸引チャネル52内に負圧によって引き込まれた組織断片をさらに破壊するのに寄与する。このモードでは、器具54は、従来の吸引/洗浄器具の先端部とよく似て作用する。水晶体嚢の吸引は、光ファイバと接触する可能性が低く、偶発的な吸引時にそのままにすることができる。
【0033】
外科的処置内で、吸引針で組織の一片を、エネルギー破壊のために前眼房内に適切に置かれるまでしっかりつかまえておくことが望ましい場合がある。一片が吸引圧力と係合されると、その一片は、吸引チャネル52の入口を満たし、圧力を増加させることのないさらなる除去を阻止することができる。
【0034】
図4は、ファイバが後退されたときに発生するそのような一例となる閉塞を例示している。組織の断片81は、負圧によって吸引チャネル52に向かって引っ張られ、吸引されるには大き過ぎて、吸引チャネル52の入口を完全に閉塞している。この例となる状況では、吸引チャネル52の内側の圧力は、流量の関数として上昇し、さらに、吸引チャネル52の入口に向かってレーザファイバを前進させて、より高い圧力での吸引を試みるよりも、閉塞を引き起こす組織を破壊することが有利である。
【0035】
さらに、この例となる実施形態では、吸引針は、ファイバが突出していない場合により良好に閉塞を保つことができ、さもなければ、ファイバ自体が、閉塞している組織断片の内側に埋め込まれるようになるか、又はいかなる閉塞も発生するのを防ぐ。組織断片は、組織断片の周囲の流体と吸引チャネル52の内側との圧力差により引き起こされる力によって、吸引針の先端部まで保持される。この場合、圧力と流量との関係は、Qが0に近づくため、ポアズイユの法則から大きく逸脱し、これは、R及びLが固定されていると仮定すると、体積は閉塞を通って流れることができないからである。
【0036】
【数4】
Q=0に対する解決策は、Δp=0の場合(ポンプがオフであり、一片を保持することができない場合)、又は、粘度が事実上無限になる場合(η→∞の場合)にのみ生じる。封鎖にもかかわらずポンプが吸引を試み続けるに従い、圧力は、制御信号に比例するようになり、その限界まで急速に上昇する。
【0037】
【数5】
圧力リミットに達するのに必要とされる時間は、吸引流体システムの「立ち上がり時間」τと呼ばれることが多くある。
【0038】
時間の経過に伴い圧力及び流れを監視することによって、アルゴリズムは、圧力が上昇しながらも流量が低下している場合に、閉塞を予測することができる。言い換えると、非閉塞で、圧力リミット及び流量リミットを下回る場合、制御信号及び吸引率は良定義である。
【0039】
制御信号による
【0040】
【0041】
【数7】
と良定義であり、圧力は式1(equation 1)によって記載することができる。
【0042】
しかし、閉塞されると、流れに対するさらなる要求、すなわち、Aを増加させることによって、さらなる流れは生じず:Q=0及び
【0043】
【数8】
は無視できるようになる。その後、制御信号に対する圧力の変化率が、ここで、
【0044】
【数9】
と良定義になる。このようにして、どのようにして流量及び圧力が制御信号の変化に対して反応するかを見ることによって、閉塞のレベルをサンプリングすることができる。
【0045】
閉塞が発生している間、制御信号は変化しないと仮定すると:
【0046】
【数10】
である。閉塞の前に、先端部は非閉塞であり、流量は、制御信号によって、及び、式1
【0047】
【0048】
【0049】
しかし、閉塞が発生すると、初期流量Q0がゼロまで低下し始め、
【0050】
【数13】
が負になり、Δpが「立ち上がり時間」にわたってΔp
maxまで増えるに従い、粘度は事実上無限になる。言い換えると、この時間の間、
【0051】
【数14】
の符号は変わり、負になる。一方、圧力は以下の速度
【0052】
【数15】
で上昇し始める。立ち上がり時間の後で、圧力はその最大値になり、流量も圧力も変化することはできない。この場合、
【0053】
【0054】
【数17】
であるため、パイプは完全に閉塞されているはずである。言い換えると、
【0055】
【数18】
は、十分に閉塞した場合には不良定義になるが、非閉塞の場合には正から、「立ち上がり」時間の間には負に変動する。
【0056】
この例となる実施形態では、従来のフェイコマシンオペレータは、閉塞を中断させるために、より高い真空圧又は超音波を使用し始めるであろう。
【0057】
図5は一手段を開示しており、この手段を介してレーザファイバは閉塞から非閉塞への移行に寄与している。言い換えると、
図5は、破壊され吸引されたときの組織断片を開示しており、閉塞は部分的又は完全に排除され、レーザファイバは、別の閉塞が発生するまで後退し始めることができる。閉塞が排除され始め、圧力がもはや流量に伴って劇的に上昇しなくなると、レーザパワーを減少させることができるか、又は、レーザ先端部を後退させて、残りの組織断片が先端部から押し出されるのを防ぐことができる。閉塞が大きいほど、ファイバは、吸引チャネル52のブロックされた入口に近接すべきである。
【0058】
一部の例において、シンプルな制御アルゴリズムを定義して、以下のように圧力のみに基づきファイバ先端部の位置を決定することができる:
【0059】
【数19】
Dは、ファイバ先端部から吸引チャネル52の入口までの距離である。
【0060】
一部の例において、ファイバの位置は、流量によって設定することができる:
【0061】
【数20】
一部の例において、ファイバの位置は、圧力及び流れの相対的変化によって決定することができる:
【0062】
【数21】
一部の例において、ファイバの位置は、ユーザ制御信号に単純にリンクさせることができ、より多くの吸引に対するユーザの要求がレーザ補助を必要とし、従って、Dに対してより低い値を必要とすると仮定すると、ユーザ制御信号は、通常、吸引のみを制御する。
【0063】
【数22】
上記の例となるアルゴリズムは、限定的であることを意味するものではない。他の例となる制御アルゴリズムも可能であり得る。
【0064】
図6は、閉塞が持続的であり、特定の時間t≫τ内に排除することができない状況を開示している。この場合、高精度のレーザ破壊の有効範囲を増加させ、(組織を揺らすことと同様に)その作用に機械的強化を加えるように、ファイバの位置は、チャネル内で縦方向に振動させるようにすることができる。この例では、フットペダルが立ち上がり時間よりもはるかに長い設定された時間よりも長く十分に押し下げられ、圧力が依然として最大である場合、光ファイバの動きが振動モードに変更されると制御アルゴリズムは仮定することができる。これは、圧力が下げられていない間に吸引するための延長された入力が、閉塞が排除されておらず、より多くの機械的補助が必要であるということを示している可能性があるためである。
【0065】
さらなる例となる実施形態では、レーザパルスレートも、エンベロープも、ファイバの位置も使用して、前嚢内の総流量変化及び総圧力変化を最小限に抑えて、可能な限り最小侵襲の組織除去を達成し、最も重要なことには、レーザエネルギー、機械力、又は流体工学による、意図しない嚢の破壊又は角膜内皮細胞へのダメージを防ぐ。レーザパルスの平均出力は、パルスレート及びパルス当たりのエネルギーの関数である。レーザ組織破壊に対する特定のレーザ強度閾値が与えられると、レーザパワーの減衰ではなく、一定のパルスエネルギーを維持し、パルスレートの低減を介してレーザパワーを減衰させることが有用である。本開示において、器具54の作用の強化は、レーザパルスレートが均等に分割されない場合に発生するが、代わりに、レーザ作用がより低い周波数エンベロープによって調節される期間がある。5Hz付近のエンベロープ周波数は、硬化した眼組織において適していることが分かっている。パルスレートは、エンベロープ周波数におけるレーザパルスの0~100%近くのパルス幅変調から増加又は減少させることができる。
【0066】
レーザパルスはファイバ先端部にて組織/液体の体積を過熱するということが仮定される。先端部は硬く、領域(約200μm)は吸収の深さ(約1μm)よりもはるかに大きいため、照射される物質は、固体のファイバ内に逆に膨張することはできず、組織をファイバから遠ざける正味の力が存在する。この膨張力は、吸引ポンプの真空圧に逆らう圧力の増加を引き起こす。閉塞中、しばらくの間、レーザを小休止することによって、吸引ポンプは、より高い圧力を構築することができ、レーザパルスによって引き起こされる圧力変化は、吸引チャネル内の圧力の符号を逆にする(及び組織が離れるようにする)のに十分に増大する可能性が低い。
【0067】
図7を参照すると、一部の例において、吸引される流体72は、除菌可能な又は使い捨てのツールアセンブリ19内に含有されてもよく、さらに、非弾性の光ファイバが吸引チャネル内で動かされることを可能にしながら、光ファイバビーム送達12の一部の再利用可能部分を汚染しないように、ファイバ16の遠位端を吸引針13の内側にセットすることができる。一部の例において、これは、圧縮ゴムシール73によって成し遂げることができ、圧縮ゴムシール73内で、ファイバは動くシャフトアセンブリ74に固定される。ツールアセンブリ19は、遠位先端部及びチューブコネクタに接続する洗浄チャネル70及び吸引チャネル71を有しており、チューブコネクタを用いて、流体工学制御の手段を柔軟に取り付けている。
【0068】
図8を参照すると、一部の例において、器具54は、3つの分離可能な部分:すなわち、(光ファイバ12を含み、ファイバコネクタ78を有する)再利用可能なレーザ送達アセンブリ75;(遠位の器具の先端部20を含み、洗浄のための出力チャネル51、吸引針13、及び、その矢状端において再利用可能な送達システムのファイバコネクタ78に結合する拡張の光ファイバ先端部16を有する)取り外し可能な先端部ハンドルアセンブリ76;及び、使い捨ての吸引及び洗浄手段100;を含む。使い捨てのチューブ100を先端部ハンドルアセンブリ76に接続するための接続ポイントが提供されてもよく、又は、2つの使い捨ての部品が予め組み立てられてもよい。
【0069】
図9を参照すると、交換可能なハンドルアセンブリ76の分解組立図が開示されている。小さな光ファイバ88が、再利用可能なレーザ送達アセンブリの対応するコネクタ78と接続するファイバコネクタ79に取り付けられている。シャフトアセンブリ82は、ワッシャ73で光ファイバが密封されるのを可能にし、ワッシャ73は、ねじ込みナット87によってシャフトアセンブリ82の周囲に押し込まれる。アセンブリの再利用可能な部分に接続されていない場合にファイバ先端部を後退させるように作用するスプリング101と共に、シャフトアセンブリによってねじ込みナット87は捕捉されたままである。吸引針13及び遠位の洗浄スリーブ51が配置されたマニホールド92は、マニホールド拡張部93及びシーリングワッシャ96を介してハンドルアセンブリ19の洗浄チャネル70及び吸引チャネル71に結合され、チャネルを分離された状態で維持する。ファイバシャフトアセンブリは、シャフトシーリングナット87によってマニホールド拡張部93に取り付けられる。
【0070】
本明細書において使用される場合、「含む」及び「含んでいる」という用語は、包括的且つオープンエンドであり、排他的ではないとして解釈されることになる。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、「含む」及び「含んでいる」という用語並びにその異形は、特定の特徴、ステップ、又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ、又は構成要素の存在を除外するとして解釈されることはない。
【0071】
上述の本開示の好ましい実施形態の説明は、本開示の原理を例示するために示されたものであり、例示された特定の実施形態に本開示を限定するために示されたものではない。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態及びその同等物のうち全てによって定められるということが意図される。
【0072】
項目1:
水晶体組織内の白内障を破壊するための装置であって、
ハウジングと、
パルスレーザ放射源と、
ハウジング内に少なくとも部分的に収容される光導波路であり、光導波路は、可撓性の光ファイバを含み、光導波路は、白内障の破壊を引き起こすためにパルスレーザ放射を送るように構成され、パルスレーザ放射源からパルスレーザ放射を受けるために、その近位端においてパルスレーザ放射源に結合可能である光導波路と、
ハウジングの遠位端に対する光導波路の位置を制御可能に変えるために光導波路に結合された駆動機構と、
を含む装置。
項目2:
駆動機構は、装置の吸引及び洗浄チャネルの真空圧及び流量の関数として光ファイバを置くように制御システムによって制御される、項目1に記載の装置。
項目3:
駆動機構は、組織の吸引レベルに比例して光ファイバを置くように制御システムによって制御される、項目1又は項目2に記載の装置。
項目4:
光ファイバと組織との接触を感知するように構成されたセンサをさらに含む、項目1乃至3のいずれか一つに記載の装置。
項目5:
光ファイバの位置を感知する光音響センサをさらに含む、項目1乃至4のいずれか一つに記載の装置。
項目6:
光ファイバの位置を感知するエンコーダをさらに含む、項目1乃至4のいずれか一つに記載の装置。
項目7:
駆動機構は、ハウジング内で光ファイバを縦方向に振動させるように制御システムによって制御される、項目1乃至6のいずれか一つに記載の装置。
項目8:
レーザ放射のパルスレートは、選択されたより低い周波数によって調節され、その結果、より低い真空速度とのバランスが取れたより高いレーザパワーを可能にする、項目1乃至7のいずれか一つに記載の装置。
項目9:
光ファイバは、サファイア、ダイヤモンド、ZBLAN、又はYAGから選択された材料で作られている、項目1乃至8のいずれか一つに記載の装置。
項目10:
可撓性の光ファイバの遠位端は、湾曲しているか、先細りしているか、又は角度が付けられている、項目1乃至9のいずれか一つに記載の装置。
項目11:
可撓性の光ファイバは、赤外透過の光学材料から作られている、項目1乃至10のいずれか一つに記載の装置。