(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】X線管の焦点寸法測定方法
(51)【国際特許分類】
G21K 1/00 20060101AFI20241217BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G21K1/00 X
G01T7/00 A
(21)【出願番号】P 2023223938
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2023-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516260800
【氏名又は名称】株式会社エム・ディ・インスツルメンツ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 透仁
(72)【発明者】
【氏名】西 祥穂
(72)【発明者】
【氏名】土肥 元達
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-017342(JP,A)
【文献】特表2004-535559(JP,A)
【文献】JIS Z 4704 医用X線管装置ガイド(案) ,JIS Z 4704 医用X線管装置ガイド(案),(社)日本画像医療システム工業会,2005年,pp.15-17,https://www.jira-net.or.jp/vm/lecture/pdf/01_data_d1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00
G21K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の発生源であるX線管と、
X線管を駆動する電源部と、
長手方向に対して垂直な方向の幅が長手方向に対して連続して均一であるスリットを有するスリットカメラと、
スリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に1ラインずつ検知し、X線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を演算する2次元デジタルX線センサと、
を有するX線管の焦点寸法測定装置において、
スリットの長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を平均化して平均化信号を演算するステップと、
線広がり関数を有する平均化信号の最大値に対して所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップと、
を有することを特徴とするX線管の焦点寸法測定方法。
【請求項3】
請求項1において、2次元デジタルX線センサの複数のピクセルはスリットの長手方向に対して垂直な方向に配列され、かつ、スリットの長手方向に配列されていることを特徴とするX線管の焦点寸法測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管の焦点寸法測定方法に関するものであり、さらに詳細にはデジタル検出器を使用し、IEC60336第5版に適合したX線管の焦点寸法測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用X線管装置の焦点特性はIEC60336にて規定されている。2005年に発行された非特許文献1であるIEC60336第4版までは、フィルムを主として焦点の特性を解析するよう規定されて来たが、多くの操作上の問題が存在しておりフィルムに替わる合理的測定法が待たれている。近年、高品質のデジタル検出器が容易に入手できるため、非特許文献2である2020年に発行されたIEC60336第5版では焦点特性の測定、分析にフィルムに替わってデジタル検出器が適用されるようになった。
【0003】
ただし、デジタル検出器を適用するにあたって懸念されるのは離散化誤差である。IEC60336第5版では離散化誤差を最小にするべく、いくつかの要求事項が規定されている。
・要求事項▲1▼:線広がり関数(Line Spread Function:LSF)の最大X線強度の15%の値を有する2点間の幅のピクセル数が60以上であること。もしくは、ピクセル数が30以上60未満であり線形補間が適用されていること。
・要求事項▲2▼:バックグラウンドレベルから線広がり関数の最大X線強度までのレベル数が200以上であること。
・要求事項▲3▼:信号対ノイズ比が200以上であること。
・要求事項▲4▼:焦点寸法を測定する際、評価方向はスリットに対して±1°以内で垂直に読み取ること。
上記要求事項▲1▼~▲4▼を満足し、IEC60336第4版に規定のある単スリットカメラを用いて焦点寸法を測定する方法が求められている。
【0004】
公知例として、十字スリット像の形状やピンホール像の形状をカメラで読み取り、X線管の焦点寸法測定を行う方法は特許文献1に開示されている。しかし、単スリット像から線広がり関数を生成し、線広がり関数からX線管の焦点寸法測定を行う方法についての記述は無いので特許文献1の方法ではIEC60336第5版の要求を満たすことが出来ない。さらに、要求事項▲2▼を満たすにはノイズを低減させる方法があるが特許文献1では画像に発生したノイズを低減させるためには複数枚の画像を取得し積分処理する必要がある為、扱うデータ数が多く複雑になる。
【先行技術文献】
【0005】
【文献】特開平9-17342号公報
【文献】IEC60336:2005 Medical electrical equipment-X-ray tube assemblies for medical diagnosis-Characteristics of focal spots
【文献】IEC60336:2020{Ed5.0}b Medical electrical equipment-X-ray tube assemblies for medical diagnosis-Focal spot dimensions and related characteristics
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする第一の課題は、X線管の焦点寸法測定方法におけるIEC60336第5版の要求事項▲2▼に関して、扱うデータ数が少なく簡単に画像に発生したノイズを低減して、バックグラウンドレベルから線広がり関数の最大X線強度までのレベル数を大きくすることにある。本発明が解決しようとする第二の課題は、X線管の焦点寸法測定方法におけるIEC60336第5版の要求事項▲4▼に関して、単スリット像の垂直性を判定し、かつ、単スリット像が垂直でない場合に是正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件第一の発明のX線管の焦点寸法測定方法は
X線の発生源であるX線管と、
X線管を駆動する電源部と、
長手方向に対して垂直な方向の幅が長手方向に対して連続して均一であるスリットを有するスリットカメラと、
スリットカメラのスリットを所定期間通過したスリットのX線を長手方向に対して垂直な方向に1ラインずつ検知し、X線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を演算する2次元デジタルX線センサと、
を有するX線管の焦点寸法測定装置において、
スリットの長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を平均化して平均化信号を演算するステップと、
線広がり関数を有する平均化信号の最大値に対して所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップと、
を有することを特徴とする。
【0008】
本件第二の発明は本件第一の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、所定比は15%であることを特徴とする。
【0009】
本件第三の発明は本件第一の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、2次元デジタルX線センサのピクセルはスリットの長手方向に対して垂直な方向に配列され、かつ、スリットの長手方向に配列されていることを特徴とする。
【0010】
本件第四の発明のX線管の焦点寸法測定方法は
X線の発生源であるX線管と、
X線管を駆動する電源部と、
長手方向に対して垂直な方向の幅が長手方向に対して連続して均一であるスリットを有するスリットカメラと、
行方向及び行方向に垂直な列方向に平面上に配置され、X線の強度を検知する複数個のピクセルを有する2次元デジタルX線センサと、
2次元デジタルX線センサをその平面上で回転させる2次元デジタルX線センサ角度調整治具と、
表示装置と、
を有するX線管の焦点寸法測定装置において、
2次元デジタルX線センサによりスリットの長手方向に第一の所定の間隔で異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を取得するステップと、
線広がり関数を有する複数ラインの最大値に対して第一の所定比の値を有する2点の内、所定の1点を結んだ直線と上記行方向又は列方向との角度を演算するステップと、
上記角度が所定角度の範囲外になったときに表示装置に表示するステップと、
上記角度が所定範囲外になったときに角度調整治具を用いて2次元デジタルX線センサを上記角度が所定範囲内になるように回転させるステップと、
2次元デジタルX線センサによりスリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に少なくとも1ライン検知し、検知したX線強度の信号から線広がり関数を演算するステップと、
線広がり関数の最大値に対して第二の所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップと、
を有することを特徴とする。
【0011】
本件第五の発明は本件第四の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、上記角度が所定角度の範囲外になったときに表示装置に表示するステップは、上記角度と上記角度が所定外になったことを表示装置に表示するステップであることを特徴とする。
【0012】
本件第六の発明は本件第四の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、2次元デジタルX線センサによりスリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に少なくとも1ライン検知し、検知したX線強度の信号から線広がり関数を演算するステップは、2次元デジタルX線センサによりスリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に異なる複数ライン検知し、スリットの長手方向に第二の所定の間隔で異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を平均化して平均化信号を演算するステップであり、
線広がり関数の最大値に対して第二の所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップは、線広がり関数を有する平均化信号の最大値に対して第二の所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップであることを特徴とする。
【0013】
本件第七の発明は本件第四の発明または本件第六の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、第二の所定比は15%であり、第一の所定比は第二の所定比より大きいことを特徴とする。
【0014】
本件第八の発明は本件第七の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、第一の所定比は線広がり関数のバックグラウンドレベルのノイズの影響を受けない所定比であることを特徴とする。
【0015】
本件第九の発明は本件第六の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、第二の所定の間隔は第一の所定の間隔より小さいことを特徴とする。
【0016】
本件第十の発明は本件第六の発明のX線管の焦点寸法測定方法
において、第一の所定の間隔は第二の所定の間隔より大きいことを特徴とする。
【0017】
本件第十一の発明のX線管の焦点寸法測定方法は
X線の発生源であるX線管と、
X線管を駆動する電源部と、
長手方向に対して垂直な方向の幅が長手方向に対して連続して均一であるスリットを有するスリットカメラと、
行方向及び行方向に垂直な列方向に平面上に配置され、X線の強度を検知する複数個のピクセルを有する2次元デジタルX線センサと、
2次元デジタルX線センサをその平面上で回転させる2次元デジタルX線センサ角度調整治具と、
表示装置と、
少なくとも一つのスリットをスリットカメラの平面に垂直な回転軸を中心に90°回転するように移動させる機構を備えるスリット回転治具と、
を有するX線管の焦点幅及び焦点長さを測定する焦点寸法測定装置において、
2次元デジタルX線センサによりスリットの長手方向に第一の所定の間隔で異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を取得する第1のステップと、
線広がり関数を有する複数ラインの最大値に対して第一の所定比の値を有する2点の内、所定の1点を結んだ直線と上記行方向又は列方向との角度を演算する第2のステップと、
上記角度が所定角度の範囲外になったときに表示装置に表示する第3のステップと、
上記角度が所定範囲外になったときに角度調整治具を用いて2次元デジタルX線センサを上記角度が所定範囲内になるように回転させる第4のステップと、
2次元デジタルX線センサによりスリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に少なくとも1ライン検知し、検知したX線強度の信号から線広がり関数を演算する第5のステップと、
線広がり関数の最大値に対して第二の所定比の値を有する2点の幅に基づいてX線管の焦点幅及び焦点長さの内の一方を測定する第6のステップと、
スリット回転治具により、少なくとも一つのスリットをスリットカメラの平面に垂直な回転軸を中心に90°回転するように移動させる第7のステップと、
2次元デジタルX線センサによりスリットの長手方向に第一の所定の間隔で異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を取得する第8のステップと、
線広がり関数を有する複数ラインの最大値に対して第一の所定比の値を有する2点の内、所定の1点を結んだ直線と上記行方向又は列方向との角度を演算する第9のステップと、
上記角度が所定角度の範囲外になったときに表示装置に表示する第10のステップと、
上記角度が所定範囲外になったときに角度調整治具を用いて2次元デジタルX線センサを上記角度が所定範囲内になるように回転させる第11のステップと、
2次元デジタルX線センサによりスリットカメラのスリットを所定期間通過したX線をスリットの長手方向に対して垂直な方向に少なくとも1ライン検知し、検知したX線強度の信号から線広がり関数を演算する第12のステップと、
線広がり関数の最大値に対して第二の所定比の値を有する2点の幅に基づいてX線管の焦点幅及び焦点長さの内の他方を演算する第13のステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本件第一の発明は以下の効果▲1▼を提供するものである。
・効果▲1▼:IEC60336第5版の要求事項▲2▼に適し、スリットの長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を平均化することで、ノイズを低減できる。
【0019】
本件第二の発明は効果▲1▼に加え以下の効果▲2▼を提供するものである。
・効果▲2▼:線広がり関数を有する平均化信号の最大値に対して15%の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算することにより、IEC60336第5版の7.2項の規定を満たした焦点寸法測定ができる。
【0020】
本件第三の発明は効果▲1▼に加え以下の効果▲3▼を提供するものである。
・効果▲3▼:2次元デジタルX線センサの複数のピクセルはスリットの長手方向に対して垂直な方向に配列され、かつ、スリットの長手方向に配列されていることにより、少ないライン数のデータにより、簡単な演算で焦点寸法の読み取りを行うことができる。
【0021】
本件第四の発明は以下の効果▲4▼を提供するものである。
・効果▲4▼:評価方向はスリットの長手方向に対して所定角度θs(IEC60336第5版では±1°)以内で垂直に読み取ることができるので、X線管の焦点寸法測定方法におけるIEC60336第5版の要求事項▲4▼を満足できる。
θsの定義については後述する。
【0022】
本件第五の発明は効果▲4▼に加え以下の効果▲5▼を提供するものである。
・効果▲5▼:角度θsと角度θsが所定外になったことを表示装置に表示することにより、評価方向がスリットの長手方向に対して垂直から所定角度θs(IEC60336第5版では±1°)の範囲外になっていること及びその角度θsを把握することができる。
【0023】
本件第六の発明は効果▲4▼に加え効果▲1▼を提供するものである。
【0024】
本件第七の発明は効果▲1▼、▲4▼に加え以下の効果▲6▼を提供するものである。
・効果▲6▼:第一の所定比が第二の所定比より大きいことにより、評価方向とスリットの長手方向に垂直な方向との角度θsを求めるときにバックグラウンドレベルのノイズの影響を受けにくくすることができる。
【0025】
本件第八の発明は効果▲1▼、▲4▼、▲6▼に加え以下の効果▲7▼を提供するものである。
・効果▲7▼:第一の所定比は線広がり関数のバックグラウンドレベルのノイズの影響を受けない所定比であることにより、精度良くスリットカメラのスリットの角度θsを算出することができる。
【0026】
本件第九の発明は効果▲1▼、▲4▼に加え以下の効果▲8▼を提供するものである。
・効果▲8▼:第二の所定の間隔は第一の所定の間隔より小さいことにより、スリットが多少傾いても焦点寸法の誤差を小さくすることができる。
【0027】
本件第十の発明は効果▲1▼、▲4▼に加え以下の効果▲9▼を提供するものである。
・効果▲9▼:第一の所定の間隔は第二の所定の間隔より大きいことにより、スリットカメラのスリットの角度θsをより正確に算出することが出来る。
【0028】
本件第十一の発明は効果▲4▼に加え以下の効果▲10▼を提供するものである。
・効果▲10▼:スリット回転治具により、少なくとも一つのスリットをスリットカメラの平面に垂直な回転軸を中心に90°回転するように移動させることで、焦点幅及び焦点長さの測定を容易に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】この発明の一実施例に係るX線管の焦点寸法測定装置の全体図。
【
図3】焦点幅の焦点寸法測定模式図(a)と焦点長さの焦点寸法測定模式(b)
【
図4】IEC60336第4版またはIEC60336第5版にて規定されている単スリットカメラの断面図。
【
図5】IEC60336第4版またはIEC60336第5版にて規定されている単スリットカメラの平面図。
【
図6】特許文献1で用いられている十字スリットを用いて撮影された焦点像形状の簡略図。
【
図7】IEC60336第4版またはIEC60336第5版にて規定されている焦点寸法測定に関係する軸と方向を表した斜視図。
【
図8】焦点寸法測定時に焦点幅と焦点長さを切り替えるために単スリットカメラを90°回転させるための機構を表した平面図。
【
図9】IEC60336第5版のFigure 6-Alignment of the receptor of the DIGITAL FOCAL SPOT DETECTOR with respect to the slit diaphragmにて示されている1次元センサ(左側)と2次元センサ(右側)をを用いた場合の簡略図。
【
図10】2次元デジタルX線センサのピクセル位置を表した模式図。
【
図11】2次元デジタルX線センサで取得したスリットのX線画像に任意の1ラインを示した簡略図(a)と任意の1ラインに沿って得た線広がり関数を示したグラフ(b)
【
図12】IEC60336第5版にて示されている線広がり関数(LSF)を表したグラフ。
【
図13】焦点長さ方向の測定における2次元デジタルX線センサで取得した角度θが±1°以内でない場合の単スリット像とそれに対応する2次元デジタルX線センサのピクセルの位置関係を示し、X線画像を表した簡略図(a)と、簡略図(a)の各読み取りラインに対応した線広がり関数を表した模式図(b)
【
図14】焦点長さ方向の測定における2次元デジタルX線センサで取得した角度θが±1°以内である場合の単スリット像とそれに対応する2次元デジタルX線センサのピクセルの位置関係を示し、X線画像を表した簡略図(a)と、簡略図(a)の各読み取りラインに対応した線広がり関数を表した模式図(b)
【
図15】焦点寸法測定を行う際の10ライン分の読み取りラインを表したX線画像の簡略図(a)と、簡略図(a)の1ライン目と10ライン目の線広がり関数を表したグラフ(b)と、(a)の10ラインの線広がり関数を平均し、得た線広がり関数を表したグラフ(c)
【
図16】2次元デジタルX線センサの角度を調節できる機構を設けた2次元デジタルX線センサ角度調整治具を表した平面図。
【
図17】
図1に示すX線管の焦点寸法測定装置の動作フローチャート。
【
図18】焦点幅方向の測定における2次元デジタルX線センサで取得した角度θが±1°以内でない場合の単スリット像とそれに対応する2次元デジタルX線センサのピクセルの位置関係を示し、2次元デジタルX線センサ全体を表した簡略図(a)と簡略図(a)の各読み取りラインに対応した線広がり関数を表した模式図(b)
【
図19】
図17のフローチャートの内、角度判定部分の詳細なフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、この発明の一実施例を詳細に説明する。本実施例は
図1、
図2に示すように構成され、
図1はX線管3の装置本体(焦点寸法測定装置)1を示す図、
図2は固定陽極のX線管3を示した図である。
図1の実施例における装置本体(焦点寸法測定装置)1では電源部2とX線管3が接続されている。油槽4はX線管3を絶縁油(図示せず)と共に収容しており、X線管3と外部を電気的に絶縁している。X線管3とスリットカメラの一形態である単スリットカメラ6と2次元デジタルX線センサ8は支柱10に設置されており、基準軸R上に配置されている。電源部2は動作条件制御回路2-1、高圧電源2-2、フィラメント電源2-3で構成されている。尚、単スリットカメラ6はスリット回転治具の一形態である単スリットカメラ回転治具5に固定されており、2次元デジタルX線センサ8は2次元デジタルX線センサ角度調整治具7に固定されている。2次元デジタルX線センサ8はコンピュータ部9に接続されている。コンピュータ部9には表示装置9-1が搭載されている。
尚、X線管3の装置本体1は、X線管3と高圧電源2-2、フィラメント電源2-3、油槽4をケース(図示せず)に収納して、いわゆるX線ヘッドとしたり、X線管3と油槽4をケース(図示せず)に収納し、高圧電源2-2やフィラメント電源2-3は別置きとして、それらとX線管3をケーブル(図示せず)で接続しても良い。
【0031】
図2は
図1の実施例におけるX線管3を示したものであり、X線管3はX線出力窓3-1と陽極3-2と陰極3-3を有する。陰極3-3の中にはフィラメント3-4があり、フィラメント電源2-3から電力が供給されることによりフィラメント3-4で熱電子が発生し、高圧電源2-2により加速され、陽極3-2にぶつかる事で実焦点13を形成する。X線管の長軸Lと実焦点13の中心を結ぶ点が原点0となり、実焦点13は原点0上に形成する。X線管3の長軸Lに対し原点0から垂直であるZ方向に延びる線が基準軸Rになる。
そして、長軸Lに沿った面を基準面3-5と呼ぶ。
【0032】
図3は
図1の実施例における焦点寸法測定模式図であり、(a)は焦点幅、(b)は焦点長さ測定時の模式図を示したものである。単スリットカメラ6のX線入射面6-2からX線センサ受像面までの距離nと単スリットカメラ6のX線入射面6-2と基準面3-5までの距離mは3.5:1の比になるよう配置されている。焦点幅方向は実焦点13の焦点幅13-1と実効焦点14の焦点幅14-1の寸法が同じであるが、焦点長さ方向は実焦点13の焦点長さ13-2と実効焦点14の焦点長さ14-2の寸法が異なる。焦点寸法測定では実効焦点14の焦点幅14-1と焦点長さ14-2の寸法を測定するようIEC60336第5版で規定されている。
【0033】
図4は
図1の実施例における単スリットカメラ6の断面図であり、
図5は
図1の実施例における単スリットカメラ6の平面図である。単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して垂直な方向の幅Wsはスリット6-1の長手方向に連続で均一である。単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して垂直な方向の幅Wsは具体的にはIEC60336第5版5.2項に規定され、
図4に示す通り、0.01±0.002mmであり、20%程度の公差を有するものをここでは均一と定義する。特許文献1では
図6のような十字スリット像15を得ている為、
図4、
図5で示すIEC60336の第5版で要求するスリットカメラの要件を満足していない。さらに、十字スリット像15の場合、十字スリット像15のスリット15-1の長手方向に対して垂直な方向の幅Wcは中央付近で不連続となり均一な幅を持っていない為、X線センサ8の中央付近でデータを取得することが出来なくなる。
【0034】
X線管の焦点寸法は幅と長さを測定する必要があり、これはX線管3或いは単スリットカメラ6のどちらかを90°回転させることで実行できる。本実施例では
図1に示すX線管の装置本体(焦点寸法測定装置)1の構成を簡便にするため、
図3に示す焦点寸法である実効焦点14の焦点幅14-1と焦点長さ14-2を測定する際に、X線管3の位置は固定とする。よって、
図7に示す焦点幅読み取り方向Dfと焦点長さ読み取り方向Dlの向きが90°変わる際には、単スリットカメラ6の向きを変える必要がある為、
図8に示す単スリットカメラ回転治具5を用いて単スリットカメラ6の長手方向の向きを90°回転させる。
図8に示す単スリットカメラ回転治具5は上プレート5-1と下プレート5-2で構成されている。上プレート5-1には同一半径上の90°ごとに設けられた凹部5-1-1があり、下プレート5-2には同一半径上の180°ごとに設けられた凸部5-2-1があり、下プレート5-2の凸部に上プレート5-1の凹部をはめることにより、単スリットカメラ6を正確に90°回転させる。これにより、焦点寸法測定を焦点幅読み取り方向Dfと焦点長さ読み取り方向Dlで切り替えることが出来る為、単スリットカメラ6のスリット6-1の長さの向きは焦点幅、焦点長さともに両者の測定に対して垂直に配置できる。
図9のIEC60336第5版にて示されている1次元センサと2次元センサを表した簡略図に示す通り、評価方向(direction of evaluation)18に対し、単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向の向きは垂直になるように配置する必要がある。
上記により単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向の向きは
図9の評価方向 (direction of evaluation)18に垂直になるように配置出来る。まとめると、単スリットカメラ回転治具5により、少なくとも一つのスリット6-1を単スリットカメラ6-1の平面に垂直な回転軸を中心に90°回転するように移動させることで、焦点幅14-1及び焦点長さ14-2の測定を容易に切り替えることができる。
【0035】
図10は
図1の実施例における2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1の位置を表した模式図である。2次元デジタルX線センサ8はX線の強度をセンサで読み取り数値化し、各ピクセル8-1のX線強度を濃淡化した画像を取得する。
2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1はx’(行)方向に1300個、y’(列)方向に1706個で2次元に配置されており、x’(行)方向とy’(列)方向は直交している。2次元デジタルX線センサ8においてx’(行)方向と平行またはy’(列)方向と平行に連続したピクセル8-1の並びであり、2次元デジタルX線センサ8の各ピクセル8-1のX線強度を検出したものを1ラインという。ピクセル8-1内の各数字1,2,3,・・・,2217800はピクセル8-1の数をx’(行)方向にナンバリングしたものである。また、その下の()内の二つの数字はx’(行)方向とy’(列)方向の座標としている。ピクセル8-1は大きさが小さいほど離散化に対して有利であり、本実施例では20um×20umとしている。
図11(a)は2次元デジタルX線センサ8で取得した単スリットカメラ6のX線画像11であり、2次元デジタルX線センサ8特有の画像処理はなされている。X線画像11の中で単スリット像11-1は単スリットカメラ6のスリット6-1を通過したX線により黒化している。任意の1ライン11-2に沿ってX線強度を図示すると
図11(b)のごとく線広がり関数(LSF)17が得られる。X線強度の強い部分がスリット部17-1、X線強度の弱い部分が不照射部17-2である。IEC60336第5版の7.2項では
図12に示す通り、焦点寸法を測定する際には、第二の所定比である線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%の値17-5の2点の位置の幅を読み取るように規定している。第二の所定比である線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%の値17-5の2点の位置の幅は実際の焦点寸法より拡大された幅になる。拡大率Eは
図3に示すn/mによって求められ、本実施例では拡大率E=3.5である。以上から2次元デジタルX線センサ8の複数のピクセル8-1はスリット6-1の長手方向に対して垂直な方向に配列され、かつ、スリット6-1の長手方向に配列されていることにより、1ラインのデータで焦点寸法の読み取りを行うことができる。ただし、焦点寸法の読み取りに用いる線広がり関数(LSF)17にはノイズが含まれており、IEC60336第5版に適合した測定を行う為にはノイズを低減する必要がある。ノイズ低減方法については[0038]で詳しく述べる。
【0036】
図13(a)は焦点長さ方向の測定における2次元デジタルX線センサで取得した角度θが±1°以内でない場合の単スリット像とそれに対応する2次元デジタルX線センサのピクセルの位置関係を示す。
尚、2次元デジタルX線センサ8の各ピクセル8-1はX線画像11の各ピクセル画像11-3に対応している。ここで、データを読み取っているピクセル8-1の一行の並びを読み取りライン12とする。単スリット像11-1の傾きを捉えるためには単スリット像11-1全体のデータを取得した方が傾きを捉えやすい。本実施例では第一の所定の間隔となるy’(列)座標方向に100行分のピクセル8-1の間隔を空けて10行の読み取りライン12のデータを取得し、2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1のデータを演算して、10行分の読み取りライン12のデータに対応する10本の線広がり関数(LSF)17のグラフを取得している。この読み取りライン12の向きは評価方向(direction of evaluation)18と一致する。
図13(b)は
図13(a)の各読み取りライン12に対応した線広がり関数(LSF)17を合計10本表している。10本の線広がり関数(LSF)17について第一の所定比である最大X線強度の60%の値17-6のピクセル8-1位置をx’-y’座標上で取得している。第一の所定比である最大X線強度の60%の値17-6としているのは[0038]に記載するバックグラウンドレベル17-4のノイズの影響を受けないようにする為である。第一の所定比が第二の所定比より大きいことにより、評価方向18とスリット6-1の長手方向に垂直な方向との角度θsを求めるときにバックグラウンドレベル17-4のノイズの影響を受けにくくすることができる。
第一の所定比である最大X線強度の60%の値17-6のピクセル8-1値が得られない場合は、60%に最も近い2つのピクセルの座標から線形補間して第一の所定比である最大X線強度の60%の値17-6のx’-y’座標を算出する。このようにして得られた10本の座標群から最小二乗法により単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16が得られる。単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16と2次元デジタルX線センサ8で取得したスリット6-1のX線画像11の平面上にあり、y’(列)方向に平行なy’軸から角度θが得られる。
第一の所定比は線広がり関数(LSF)17のバックグラウンドレベル17-4のノイズの影響を受けない所定比であることにより、精度良く単スリットカメラ6のスリット6-1の角度θsを算出することができる。
θsについては[0039]で後述する。
x’-y’座標の範囲が狭すぎると角度θを得ることが出来ない為、2次元デジタルX線センサ8のサイズは角度θを得ることが出来る程度の大きさは必要である。
図14はy’(行)方向との角度θが±1°以内になった際のX線画像11である。
図14の場合、角度θはx’(行)方向との角度は90±1°とも言える。
【0037】
IEC60336第5版6.3.1項に離散化によって生じる誤差を約1%に制限するべく推奨されている要求事項が要求事項▲1▼~▲3▼である。要求事項▲1▼が、第二の所定比である線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%の値17-5の2点の位置の幅にあるピクセル8-1数が60以上あるか、30以上60未満であり線形補間を適用する事である。本実施例では2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1のサイズや拡大率Eの設定によってクリアしている。
拡大率E=3.5を採用し、1ピクセル8-1の一辺が20umの2次元デジタルX線センサ8を用いることで0.4mm焦点X線管の場合は第二の所定比である線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%の値17-5を有する2点間の幅にあるピクセル8-1数が60以上となる。よって、要求事項▲1▼の要求を満たす。第二の所定比である線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%の値17-5を有する2点間の幅にあるピクセル8-1数が60以上あるため、0.4mm焦点X線管の焦点寸法測定では線形補間が不要である。ただし、より小さい焦点のX線管の焦点寸法測定にも対応できるように本実施例では線形補間を適用している。要求事項▲2▼は、線広がり関数(LSF)17のバックグラウンドレベル17-4と最大X線強度17-3までのレベル数が200以上になる事である。本実施例でどのように実現しているかは[0038]で後述する。
要求事項▲3▼は信号対ノイズ比が200以上になる事である。
これは2次元デジタルX線センサ8の性能で決まる。
本実施例で使用している2次元デジタルX線センサ8は浜松ホトニクス社製のS15683-13であり、信号対ノイズ比が700である為、要求事項▲3▼の要求を満たす。
【0038】
上述の要求事項▲2▼に該当する線広がり関数(LSF)17のバックグラウンドレベル17-4と最大X線強度17-3までのレベル数が200以上である事について、本実施例ではスリット6-1の長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数(LSF)17を有する信号を平均化して、ノイズを低減することにより、実現している。
図5に示す通り、単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して垂直な方向の幅Wsはスリットの長手方向に連続で均一である為、
図15(a)に示す単スリット像11-1の長手方向の幅Wiもスリットの長手方向に連続で均一である。
図15(a)に示す単スリット像11-1の長手方向の幅Wiは同じ幅になる為、単スリット像11-1の長手方向に対して垂直な方向に1ラインずつ検知して得たX線の強度に応じた線広がり関数(LSF)17は、理論的には単スリット像11-1の異なる複数の読み取りライン12において同じ形状となる。
本実施例では
図10において第二の所定の間隔となるy’(列)座標方向に1行分のピクセル8-1の間隔を空けて10行の読み取りライン12のデータを取得し、2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1のデータを演算して、
図15に示す10行分の読み取りライン12のデータに対応する10本の線広がり関数(LSF)17のグラフを取得している。
図15(b)は読み取りライン12の内、1ライン目の線広がり関数(LSF)17と10ライン目の線広がり関数(LSF)17を示している。それぞれの線広がり関数(LSF)17にはスパイク状のノイズが発生しており、このスパイク状のノイズは1ライン目と10ライン目で出方が異なる為、ランダムノイズである事が分かる。このランダムノイズは各ピクセル8-1の感度のばらつきや各ピクセル8-1の熱雑音とピクセル8-1ごとに信号を読み出す回路に起因する電気的ノイズであり、バックグラウンドレベル17-4を増加させる。例えば
図15(b)に示す1ライン目の線広がり関数(LSF)17の場合、最大X線強度17-3が221[LSB]となり、バックグラウンドレベル17-4は55[LSB]になる為、バックグラウンドレベル17-4と最大X線強度17-3までのレベル数200以上を確保できなくなる。
10ライン目の線広がり関数(LSF)17の場合、最大X線強度17-3が247[LSB]となり、バックグラウンドレベル17-4は38[LSB]になる為、バックグラウンドレベル17-4と最大X線強度17-3までのレベル数200以上を確保できるが、最大X線強度17-3は明らかにノイズの影響により見かけ上の最大X線強度17-3が大きくなっており、また、不照射部17-2ではノイズの影響により最大X線強度の15%の値17-5を上回る箇所がある為、焦点寸法の読み取りに誤りが起きてしまう。これらの影響を無くし、安定かつ正確な読み取りを行う為にノイズを低減する必要がある。ノイズを低減する為に、単スリット像11-1の長手方向に対して垂直な方向に1ラインずつ検知して得た各ピクセル8-1の感度のばらつきを含むX線の強度に応じた線広がり関数(LSF)17を複数ライン分、本実施例では10ライン分を取得し、長手方向に並ぶ異なる複数個分のピクセル8-1、本実施例では10個分のピクセル8-1の出力を平均化し、平均化により各ピクセル8-1の感度のばらつきを低減する。単スリット像11-1の長手方向に対して垂直な方向に1ラインずつ検知して得た電気的ノイズを含むX線の強度に応じた線広がり関数を10ライン分取得し、長手方向に並ぶ異なる10個分のピクセル8-1の出力を平均化し、平均化により同時に電気的ノイズも低減する。10ライン分のデータを平均化する事によってランダムノイズは1ライン分のデータと比べて1/√(10)程度に低減させることが出来る。
図15(c)は10ライン分のデータを平均化した線広がり関数(LSF)17を示しており、最大X線強度17-3が222[LSB]となり、バックグラウンドレベル17-4は13[LSB]になる為、10ライン分のデータを平均化する事により要求事項▲2▼の要求を満たす。
要求事項▲2▼の要求を満たす為、平均化によるノイズ低減を行うことで、線広がり関数(LSF)17を有する平均化信号の最大値に対して15%の値を有する2点間の幅に基づいて焦点寸法を演算することにより、IEC60336第5版の7.2項の規定を満たした焦点寸法測定ができる。
上記の10ライン分のデータを平均化してノイズ低減を行う手法は、従来の画像全体のデータを用いてノイズ低減を行う手法に比べ、画像中の線広がり関数を有する信号のデータのみを扱ってノイズ低減を行う為、扱うデータ数を少なくすることができ、ソフトウェアの容量の軽減及び動作スピードの高速化を実現出来る。よって、扱うデータ数が少なく簡単に画像に発生したノイズを低減して、バックグラウンドレベルから線広がり関数の最大X線強度までのレベル数を大きくし、要求事項▲2▼を満足する為、第一の課題を解決する。
図15(a)の読み取りライン12は本実施例では第二の所定の間隔となるy’(列)座標方向に1行分の間隔を空けて10ラインのデータを読み、2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1のデータから、線広がり関数(LSF)17のグラフを10本取得する。
第二の所定の間隔となるy’(列)座標方向に1行分は第一の所定の間隔となる100行分より小さくしている為、単スリット像11-1が多少傾いていたとしても、各線広がり関数(LSF)17のx’(行)座標方向のズレは小さくなり、平均化した際の誤差は小さくなり、焦点寸法の誤差を小さくすることができる。
換言すると第一の所定の間隔である100行分は第二の所定の間隔である1行分より大きい為、単スリットカメラ6のスリット6-1の角度θsをより正確に算出することが出来る。
単スリット像11-1の傾きを捉えやすくなる。尚、本実施例では一般的に2次元デジタルX線センサ8は中央付近で信頼性が高い為、焦点寸法測定を行う場合は2次元デジタルX線センサ8の中央付近でデータを取得している。尚、第二の所定の間隔は間隔が無く連続して読み取りしても良い、換言すれば第二の所定の間隔は0行分であっても良い。
【0039】
IEC60336第5版の5.5.4項では、「The direction of evaluation for the FOCAL SPOT width or length shall be oriented normal to the direction of the diaphragm slit to within ±1°.」との記述があり、焦点寸法を測定する際、評価方向18は単スリットカメラ6のスリット6-1に対して±1°以内で垂直に読み取るよう規定されており、これは要求事項▲4▼にあたる。ただし、
図9に示す通り、読み取りを行う際のセンサが一次元センサの場合は単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して一次元センサを垂直方向に±1°(θs)以内に配置しないといけないが、読み取りを行う際のセンサが二次元センサの場合は単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して二次元センサを垂直方向に±1°以内に配置せずとも、評価方向(direction of evaluation)18が単スリットカメラ6のスリット6-1に対して±1°(θs)以内に垂直になれば良いと記載されている。
【0040】
読み取りライン12の方向と評価方向18とが同じになるように2次元デジタルX線センサ8を配置することによって、
図14に示す読み取りライン12の方向と単スリット像11-1との角度δ2(=90°±1°(θ))が
図9に示す規格における評価方向18とスリット6-1との角度δ1(=90°±1°(θs))と同じになり、角度δ2中のθと角度δ1中のθsが同じとなる。
従って、本実施例ではθが±1°(θs)以内にあるかどうかを算出して±1°以内になるように制御する事によって要求事項▲4▼を満足する。
【0041】
二次元センサ(本実施例では2次元デジタルX線センサ8)を用いて読み取りライン12を単スリットカメラ6のスリット6-1に対して±1°以内で垂直にする方法として、単スリットカメラ6のスリット6-1を通過したX線を2次元デジタルX線センサ8で取得し、得られたX線画像11上に映し出された単スリット像11-1の角度θをソフトウェア内の演算により算出し、単スリット像11-1に対し垂直に配置されている2次元デジタルX線センサ8のピクセル8-1の位置を割り出し、このピクセル8-1のデータを取得する事で単スリット像11-1に対して±1°以内で垂直に読み取りを行う方法がある。また、ソフトウェア内の演算によりX線画像11上で角度θを算出し、単スリット像11-1の傾きを補正し、2次元デジタルX線センサ8のy’(列)方向に平行にした後にX’(行)方向に並ぶピクセル8-1のデータを取得する事で単スリット像11-1に対して±1°以内で垂直に読み取りを行う方法もある。上述の通り、ソフトウェア内の演算により2次元デジタルX線センサ8で取得した単スリット像11-1が傾いた状態で単スリット像11-1に対して±1°以内で垂直に読み取りを行う事は可能だが、複雑な計算を要する。本実施例では2次元デジタルX線センサ8を用いて簡単に単スリット像11-1に対して垂直に読み取りを行う方法として、単スリット像11-1の長手方向に対して2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1を垂直方向に±1°以内に配置する事で、ソフトウェア内の演算をせずに単スリット像11-1に対して±1°以内で垂直に読み取りを行う方法を用いている。
これにより、2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1からなるラインが最低1ラインあれば焦点寸法の読み取りを行うことが出来、[0038]に示す平均化によるノイズ低減を行うことを考慮すると2~10ラインあれば焦点寸法の読み取りを行うことが出来る。
しかし、単スリットカメラ6のスリット6-1の長手方向に対して二次元センサを垂直方向に±1°以内に配置せずにソフトウェア内の演算により焦点寸法を測定する場合は、
図9の右側からも分かる通り、2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1からなるラインは10ライン以上必要となる。
よって、本実施例の方法を用いることによって少ないライン数のデータにより、簡単な演算で焦点寸法の読み取りを行うことができる。
単スリット像11-1の長手方向に対して2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1を垂直方向に±1°以内に配置出来ていることは[0036]に記載した方法で角度θを求め、角度θsと角度θsが所定外になったことを表示装置9-1に表示することにより、評価方向18がスリット6-1の長手方向に対して垂直から所定角度θs(IEC60336第5版では±1°)の範囲外になっていること及びその角度θsを把握することができる。
以上により、本実施例においては角度δ2中のθと規格における評価方向とスリットの角度δ1中のθsは同じとなり、評価方向18はスリット6-1の長手方向に対して所定角度θs(IEC60336第5版では±1°)以内で垂直に読み取ることができるので、X線管の焦点寸法測定方法におけるIEC60336第5版の要求事項▲4▼を満足できる。
【0042】
図16は2次元デジタルX線センサの角度を調節できる2次元デジタルX線センサ角度調整治具7を示した図である。2次元デジタルX線センサ角度調整治具7に2次元デジタルX線センサ8を固定し、2次元デジタルX線センサ角度調整ネジ7-1を時計回り若しくは反時計回りに回すことで、回転軸R’を基準に2次元デジタルX線センサ8を回転させることが出来る。
2次元デジタルX線センサ8を回転させることによって、単スリット像11-1の長手方向に対して2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1の位置を調整することが出来る為、第二の課題を解決する。回転軸R’は基準軸Rに合っていなくても問題は無いが、基準軸Rに出来るだけ近い方が単スリット像11-1の長手方向に対して2次元デジタルX線センサ8のx’(行)方向に並ぶピクセル8-1の位置を調整しやすい。
【0043】
図17は本実施例の動作フローチャートである。
S1はコンピュータ部9を操作し、2次元デジタルX線センサ8で焦点長さ14-2を測定する為に画像取得を開始する。
S2は動作条件制御部2-1を操作してX線曝射をスタートさせる。
S3は設定した時間(本実施例では5秒)が経過したら曝射を終了させる。
S4はダーク画像の取り込みをスタートする。ダーク画像はX線曝射をしていない画像である。
S5は設定した時間(本実施例では5秒)が経過したらダーク画像の取り込みを終了させる。
S6はダーク減算補正を開始する。2次元デジタルX線センサ8を使用する場合、大気中のX線によってセンサが反応してしまう為、X線曝射した画像からダーク画像を差し引く2次元デジタルX線センサ8特有の画像処理を行う必要がある。
S7はダーク減算補正が終了した事を確認する。
S8はダーク減算補正を行った画像から
図13(a)に示す読み取りライン12の各ピクセル8-1データを出力する。
S9は
図13(a)に示す単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16と2次元デジタルX線センサ8で取得した単スリットカメラ6のX線画像11の平面上にあり、y’(列)方向に平行なy’軸との角度θを算出し、合否を判定する。
S9-1は角度が±1°以内に入っている場合は表示装置9-1にOKを表示する。
S9-2は角度が±1°以内に入っていない場合は表示装置9-1にNGを表示する。
表示装置9-1にNGが表示された場合はX線センサ8の角度を機械的に調整した後に、S1に戻る。
S10は角度θを表示装置9-1に表示する。
S11は角度判定がOKの場合、
図14(a)に示す2次元デジタルX線センサ8の中央付近の読み取りライン12の各ピクセル8-1データを出力する。
S12は焦点寸法の読み取りを行う線広がり関数(LSF)17のノイズを低減させるため、
図15(a)に示す各読み取りライン12における線広がり関数(LSF)17のデータを平均化する。
S13は各読み取りライン12のピクセル8-1間のデータを補間する線形補間を行う。
S14は平均化したデータから得られた、平均化された線広がり関数(LSF)17の第二の所定比である最大X線強度の15%値17-5の幅を拡大率E=3.5で除算し実効焦点14の焦点長さ14-2を規定する。
S15は単スリットカメラ6を90°回転させる。
S16はコンピュータ部9を操作し、2次元デジタルX線センサ8で焦点幅14-1を測定する為に画像取得を開始する。
S17は動作条件制御部2-1を操作してX線曝射をスタートさせる。
S18は設定した時間(本実施例では5秒)が経過したら曝射を終了させる。
S19はダーク画像の取り込みをスタートする。
S20は設定した時間(本実施例では5秒)が経過したらダーク画像の取り込みを終了させる。
S21はダーク減算補正を開始する。
S22はダーク減算補正が終了した事を確認する。
S23はダーク減算補正を行った画像から
図18(a)に示す読み取りライン12の各ピクセル8-1データを出力する。
S24は
図18(a)に示す単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16と2次元デジタルX線センサ8で取得した単スリットカメラ6のX線画像11の平面上にあり、x’(列)方向に平行なX’軸との角度θを算出し、合否を判定する。
S24-1は角度が±1°以内に入っている場合は表示装置9-1にOKを表示する。
S24-2は角度が±1°以内に入っていない場合は表示装置9-1にNGを表示する。
表示装置9-1にNGが表示された場合は2次元デジタルX線センサ8の角度を機械的に調整した後に、S16に戻る。
ここで、単スリットカメラ6を90°回転出来ていることも確認できる。
S25は角度θを表示装置9-1に表示する。
S26は角度判定がOKの場合、
図15(a)に示す2次元デジタルX線センサ8の中央付近の読み取りライン12の各ピクセル8-1データを出力する。
S27は焦点寸法の読み取りを行う線広がり関数(LSF)17のノイズを低減させるため、
図15(a)に示す読み取りライン12のデータを平均化する。
S28は各読み取りライン12のピクセル8-1間のデータを補間する線形補間を行う。
S29は平均化したデータから得られた、平均化された線広がり関数(LSF)17の最大X線強度の15%値17-5の幅を拡大率E=3.5で除算し実効焦点14の焦点幅14-1を規定する。
【0044】
図19は
図17のフローチャートの内、角度判定部分の詳細なフローである。
角度判定部分の詳細なフローは焦点長さ方向ではS8,焦点幅方向ではS23からスタートする。焦点長さ方向と焦点幅方向で同様のフローになる為、
図19ではまとめて示している。
S8-1、S23-1は
図13(a)に示す読み取りライン12の各ピクセルデータから10ラインの線広がり関数(LSF)17を生成する。
S8-2、S23-2は10ラインの線広がり関数(LSF)17から各最大X線強度17-3を特定する。
S8-3、S23-3は各最大X線強度17-3から10ラインの第一の所定比である各最大X線強度の60%値17-6を特定する。
S8-4、S23-4は第一の所定比である各最大X線強度の60%値17-6から各線広がり関数(LSF)17における各最大X線強度の60%の値17-6のx’-y’座標を特定する。
S8-5、S23-5は10ラインの第一の所定比である各最大X線強度の60%値17-6の左側のピクセル8-1位置を結び単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16をx’-y’座標平面上に引く。
S8-6はX線画像11のy’軸を基準とし、単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16の角度θを求める。
S23-6はX線画像11のx’軸を基準とし、単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16の角度θを求める。
S8-7、S23-7は10ラインの第一の所定比である各最大X線強度の60%値17-6の右側のピクセル8-1位置を結び単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16を引く。
S8-8はX線画像のy’軸を基準とし、単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16の角度θを求める。
S23-8はX線画像のx’軸を基準とし、単スリット像11-1の長手方向に平行な近似直線16の角度θを求める。
S9、S24は求めた角度θを元に角度判定をスタートする。
X線画像の左側の近似直線と右側の近似直線の角度θがどちらも±1°以内となったとき、2次元デジタルX線センサ8のy’軸若しくはx’軸は、±1°以内で単スリット像11-1の長手方向に対して平行に配置出来たと判定する。
【0045】
本実施例では単スリットカメラ回転治具5を用いて一つのスリット6-1を90°回転させて焦点幅と焦点長さを検出しているが、二つのスリット6-1を互いに交差させないように90°垂直に独立して配置した単スリットカメラ6を用いて、二つのスリット6-1を単スリットカメラ回転治具5の平面に垂直な回転軸を中心に90°回転するように、
図8に示すX方向及び/またはY方向に直線移動させて焦点幅と焦点長さを検出しても良い。
この場合、二つのスリット6-1の間隔は2.5mm以上確保する必要があり、
図5に示すIEC60336第4版またはIEC60336第5版にて規定されている単スリットカメラ6の平面図から読み取れる。
【0046】
本発明をまとめると、2次元デジタルX線センサ8を用いてIEC60336第5版の要求を満足し、ノイズ低減に用いるデータ数を少なく簡単な焦点寸法測定方法を提供することが課題であり、課題を解決する手段としては、X線管を駆動する電源部とX線の発生源であるX線管とスリット幅が連続して均一である単スリットカメラ6と2次元デジタルX線センサ8で構成されるX線管の焦点寸法測定装置1を用いて、スリット6-1の長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数17を有する信号を平均化して平均化信号を演算するステップと、線広がり関数17を有する平均化信号の最大X線強度17-3に対して所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップにてX線管3の焦点寸法測定を行う手段である。
【符号の説明】
【0047】
1 装置本体(焦点寸法測定装置)
2 電源部
2-1 動作条件制御回路
2-2 高圧電源
2-3 フィラメント電源
3 X線管
3-1 X線出力窓
3-2 陽極
3-3 陰極
3-4 フィラメント
3-5 基準面
4 油槽
5 単スリットカメラ回転治具
5-1 上プレート
5-1-1 凹部
5-2 下プレート
5-2-1 凸部
6 単スリットカメラ
6-1 スリット
6-2 X線入射面
7 2次元デジタルX線センサ角度調整治具
7-1 2次元デジタルX線センサ角度調整ネジ
8 2次元デジタルX線センサ
8-1 ピクセル
8-2 X線センサ受像面
9 コンピュータ部
9-1 表示装置
10 支柱
11 X線画像
11-1 単スリット像
11-2 任意の1ライン
11-3 ピクセル画像
12 読み取りライン
13 実焦点
13-1 焦点幅
13-2 焦点長さ
14 実効焦点
14-1 焦点幅
14-2 焦点長さ
15 十字スリット像
15-1 スリット
16 近似直線
17 線広がり関数(LSF)
17-1 スリット部
17-2 不照射部
17-3 最大X線強度
17-4 バックグラウンドレベル
17-5 最大X線強度の15%の値
17-6 最大X線強度の60%の値
18 評価方向(direction of evaluation)
Df 焦点幅読み取り方向
Dl 焦点長さ読み取り方向
E n/mで与えられる拡大率
L X線管の長軸
O 原点:X線管内の実効焦点の中心
O’原点’:単スリットの中心
O’’原点’’:2次元デジタルX線センサの中心
R 基準軸
R’回転軸
S 対称軸
Wc 十字スリット像のスリットの長手方向に対して垂直な方向の幅
Ws 単スリットカメラのスリットの長手方向に対して垂直な方向の幅
Wi 単スリット像の長手方向の幅
k 単スリットカメラに最も遠い実効焦点端部までの距離
m 単スリットカメラのX線入射面と基準面との距離
n 単スリットカメラのX線入射面からX線センサ受像面までの距離
p 単スリットカメラに最も近い実効焦点端部までの距離
x’ 2次元デジタルX線センサのピクセル配置に対し行方向の座標
y’ 2次元デジタルX線センサのピクセル配置に対し列方向の座標
θ 単スリット像に対する2次元デジタルX線センサのピクセル配置に対
しy’(列)方向の角度
θs 単スリットカメラのスリットに対し垂直方向からの角度
δ1 単スリットカメラのスリットに対する評価方向の角度
δ2 単スリット像に対する読み取りライン方向の角度
【要約】
【課題】本発明は、2次元デジタルX線センサを用いてIEC60336第5版の要求を満足し、ノイズ低減に用いるデータ数を少なく簡単な焦点寸法測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】X線管を駆動する電源部とX線の発生源であるX線管とスリット幅が連続して均一であるスリットカメラと2次元デジタルX線センサで構成されるX線管の焦点寸法測定装置を用いて、スリットの長手方向に異なる複数ラインのX線の強度に応じた線広がり関数を有する信号を平均化して平均化信号を演算するステップと、線広がり関数を有する平均化信号の最大値に対して所定比の値を有する2点の幅に基づいて焦点寸法を演算するステップにてX線管の焦点寸法測定を行う。
【選択図】
図17