(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】食品包装シート用コート剤および食品包装シート
(51)【国際特許分類】
D21H 19/42 20060101AFI20241217BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241217BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241217BHJP
D21H 19/58 20060101ALI20241217BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
D21H19/42
B65D65/40 D
C09D7/63
D21H19/58
C09D133/00
(21)【出願番号】P 2020119335
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆明
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】間宮 倫孝
(72)【発明者】
【氏名】菊田 直也
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
(72)【発明者】
【氏名】直江 紘平
(72)【発明者】
【氏名】小清水 渉
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216533(JP,A)
【文献】特開平09-048942(JP,A)
【文献】特開2001-164178(JP,A)
【文献】特開2001-303475(JP,A)
【文献】米国特許第05246750(US,A)
【文献】特開2000-226539(JP,A)
【文献】特開2016-203982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
B65D 65/40
C09D 7/63
D21H 19/42
D21H 19/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、前記基材シート上に食品包装シート用コート剤から形成されてなるコート層とを有する食品包装シートであって、前記食品包装シート用コート剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂微粒子(A)を含み、前記樹脂微粒子(A)は、 -40~30℃と、40~140℃のそれぞれの範囲にガラス転移温度を有し、かつ酸価が20~40mgKOH/gであり、前記エチレン性不飽和単量体(a)全質量を基準として、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)を85~97質量%含有
し、前記エチレン性不飽和単量体(a)の重合体は、片末端に一般式(1)で表される構造を有する重合体を含む、食品包装シート。
【化1】
Rは炭素数8~16の直鎖又は分岐アルキル基である。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、メタクリル酸を含有する、請求項
1記載の食品包装シート。
【請求項3】
前記樹脂微粒子(A)の平均粒子径は、30~300nmである、請求項1
または2記載の食品包装シート。
【請求項4】
ラウリル硫酸塩およびジオクチルスルホコハク酸塩の少なくともいずれか一方を含み、前記エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、両者を合計で0.1~2.0質量部含む、請求項1~
3いずれか1項記載の食品包装シート。
【請求項5】
前記樹脂微粒子(A)の質量平均分子量は、10万以上である、請求項1~
4いずれか1項記載の食品包装シート。
【請求項6】
基材シートが紙である、請求項1~
5いずれか1項記載の食品包装シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装シート用コート剤および食品包装シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装シートには、薄紙、板紙、または不織布等の基材シートにポリエチレン等の樹脂フィルムをラミネートしたラミネートシートが用いられてきた。ラミネートされた樹脂フィルムは、食品由来の油分による基材シートの油汚れや基材強度の低下防止等の機能を有する。一方で、近年、世界的な環境負荷低減の流れから、紙のリサイクル化が加速している。しかしながら、上記のラミネートシートは、紙のリサイクル化の難易度が高く、ラミネートした樹脂フィルム層を取り除く工程で高価な設備投資が必要となるため、リサイクル化促進の障害となっていた。このような背景から、よりリサイクルが容易なコート剤タイプの食品包装シートが活発に検討されている。この樹脂コート剤においても、環境負荷の少ない材料が求められており、例えば、スチレンを含まないスチレンフリー材料等が要望されている。
しかしながら、食品包装用コート剤に含まれる樹脂微粒子をスチレンフリー化した際、粒子の分散安定性が悪化し、それに伴い、コート剤の安定性も悪化してしまう。そして、このような、コート剤の安定性悪化により生成する沈殿物や凝集物は、コート剤の塗工性や造膜性に悪影響を及ぼす。
【0003】
このようなスチレンフリータイプの食品包装用シートとしては、例えば特許文献1において、紙基材への耐油性や耐水性付与を目的とし、2-エチルヘキシルアクリレートを主成分とし、高酸価で低分子量の成分を多く含むアクリル樹脂微粒子を用いたコート剤とそれを塗工してなる食品包装シートが開示されている。
【0004】
しかしながら、このようなコート剤では、スナック菓子等、常温の食品に含まれる油脂に対しては一定以上の耐油性を示し、耐水性も水単独であれば一定の効果を発現するものの、ケチャップやソース等の調味料のように、油分や塩分、酸やアミノ酸等の複数の成分を含有し、且つ水分量の多い食品を包装する場合は、コート剤の安定性が悪いことや、樹脂組成が影響して、調味料成分が基材シートに浸透し、外面にまで染み出して外観不良が生じてしまうという問題を有している(以下、調味料耐性と省略)。さらに、包装した食品の電子レンジでの加熱を想定した場合、高温で一定時間以上の耐油性と耐水性が必要になるが、従来の食品包装シートでは、電子レンジで加熱した際に発生する食品からの蒸気に対して耐性が無いため、それをきっかけに水分や油分が容易に基材シートへ浸透して外側へ染み出し、食品とシートがブロッキングしてしまうという問題を抱えている(以下、電子レンジ耐性と省略)。
【0005】
また、コート剤の安定性が悪いことによる塗工不良や造膜性不良に起因して、ヒートシール性が低下したり、食品包装シートをロール状に巻き取って保管した後、巻き返す際に樹脂コート層がブロッキングを起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コート剤の安定性が良好であって、ブロッキング性およびヒートシール性に優れ、加えてケチャップやソース等の調味料耐性、および電子レンジ耐性といった耐食品性にも優れる食品包装シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂微粒子(A)を含み、前記樹脂微粒子(A)は、-40~30℃と、40~140℃のそれぞれの範囲にガラス転移温度を有し、かつ酸価が20~40mgKOH/gであり、前記エチレン性不飽和単量体(a)全質量を基準として、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)を85~97質量%含有する食品包装シート用コート剤に関する。
【0009】
本発明は、前記エチレン性不飽和単量体(a)の重合体は、片末端に一般式(1)で表される構造を有する重合体を含む、前記食品包装シート用コート剤に関する。
【化1】
Rは炭素数8~16の直鎖又は分岐アルキル基である。
【0010】
本発明は、前記エチレン性不飽和単量体(a)は、メタクリル酸を含有する、前記食品包装シート用コート剤に関する。
【0011】
本発明は、前記樹脂微粒子(A)の平均粒子径は、30~300nmである、前記食品包装シート用コート剤に関する。
【0012】
本発明は、ラウリル硫酸塩およびジオクチルスルホコハク酸塩の少なくともいずれか一方を含み、前記エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、両者を合計で0.1~2質量部含む、前記食品包装シート用コート剤に関する。
【0013】
本発明は、前記樹脂微粒子(A)の質量平均分子量は、10万以上である、前記食品包装シート用コート剤に関する。
【0014】
本発明は、基材シートと、前記基材シート上に、上記食品包装シート用コート剤から形成されてなるコート層とを有する食品包装シートに関する。
【0015】
本発明は、基材シートが紙である、上記食品包装シートに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の食品包装シート用コート剤により、安定性が良好であり、ケチャップやソース等の調味料や、電子レンジ加熱での耐食品性だけでなく、耐ブロッキング性およびヒートシール性も良好な食品包装シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】DSCによる樹脂微粒子(A)のガラス転移温度について説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は、厚みによって区別されないものとする。換言すると、本明細書の「シート」は、厚みの薄いフィルム状のものも含まれ、本明細書の「フィルム」は、厚みのあるシート状のものも含まれるものとする。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0019】
また、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリル酸またはメタクリル酸」を表すものとする。また、「(メタ)アクリル酸エステルモノマー」とは、「アクリル酸エステルモノマー」と「メタクリル酸エステルモノマー」の総称を指す。モノマーとは、エチレン性不飽和二重結合含有単量体を意味する。
【0020】
尚、本明細書では、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)、前記エチレン性不飽和単量体(a-1)および(a-2)と共重合可能なその他エチレン性不飽和単量体(a-3)を、それぞれエチレン性不飽和単量体(a-1)、エチレン性不飽和単量体(a-2)、エチレン性不飽和単量体(a-3)と略記することがある。
【0021】
本明細書において、「Mw」はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の質量平均分子量である。「Mn」はGPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0022】
≪食品包装シート用コート剤≫
本発明の食品包装シート用コート剤は、紙や不織布等の基材シート上に塗工して、乾燥することでコート層を形成させるものであり、食品を包装するためのシート(以下、食品包装シートと省略)の形成に好適に使用することができる。また、本発明の食品包装シートは、スナック菓子等に対する耐油性および耐水性に優れるだけでなく、調味料耐性、および電子レンジ耐性にも優れるため、コート層と食品とが直接接触する用途にも、好適に使用することができる。
【0023】
本発明の食品包装シート用コート剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂微粒子(A)を含み、前記樹脂微粒子(A)は、-40~30℃と、40~140℃のそれぞれの範囲にガラス転移温度Tgを有し、かつ酸価が20~40mgKOH/gであり、エチレン性不飽和単量体(a)全質量を基準として、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)を85~97質量%含有する食品包装シート用コート剤であることを特徴とする。このような樹脂微粒子(A)を含む食品包装シート用コート剤は安定性に優れ、このコート剤を用いて調製した食品包装シートは、従来樹脂の水性コート剤では困難であった、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)や耐ブロッキング性、およびヒートシール性において優れた性能を発現する。
【0024】
<樹脂微粒子(A)>
まず本発明で使用する樹脂微粒子(A)について説明する。
樹脂微粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、エチレン性不飽和単量体(a)は、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体
(a-1)、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)、前記エチレン性不飽和単量体(a-1)および(a-2)と共重合可能なその他エチレン性不飽和単量体(a-3)に分類される。
樹脂微粒子(A)は、後述する連鎖移動剤(X)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を重合することにより、片末端に一般式(1)で表される構造を有する重合体を含むことができる。このような樹脂微粒子(A)は、分散安定性に大変優れ、コート剤の濡れ性や塗工性も大幅に向上する。したがって、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性が更に向上するために好ましい。
【0025】
【化2】
Rは炭素数8~16の直鎖又は分岐アルキル基である。
【0026】
樹脂微粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の全質量100質量%を基準として、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)を85~97質量%含有し、より好ましくは90~96質量%の範囲である。
上記の範囲で含有することにより、合成時における樹脂微粒子の分散安定性が大幅に向上し、塗工性や造膜性に優れたコート剤を得ることができる。このコート剤が形成するコート層は、強靭である上、水分や油分、塩分や酸等、複数成分が混在する食品成分に晒されても、コート層が侵されにくい。また、電子レンジの加熱条件下においても、食品成分の浸透を抑制し、シートと食品間でブロッキングを起こす恐れも無い。したがって、食品包装シートが優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、耐ブロッキング性、ヒートシール性を発現する。
【0027】
[エチレン性不飽和単量体(a-1)]
エチレン性不飽和単量体(a-1)は、炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体であり、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
[エチレン性不飽和単量体(a-2)]
エチレン性不飽和単量体(a-2)は、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体であり、樹脂微粒子(A)の分散安定性の向上やコート剤の塗工時におけるレオロジー制御、造膜促進等を目的に、樹脂微粒子表面にカルボキシ基が導入されている。カルボキシ基の導入は、エチレン性不飽和単量体(a)において、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)を共重合することで導入することができる。樹脂微粒子(A)の酸価は、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)の導入量に依存する。
【0029】
本発明に使用する樹脂微粒子(A)の酸価は20~40mgKOH/gの範囲であり、より好ましくは25~40mgKOH/gの範囲である。酸価が20mgKOH/g以上であると、合成時における樹脂微粒子の分散安定性が良化する。この樹脂微粒子を含むコート剤は、安定性に優れ、塗工性や造膜性が良好であるため、強靭で耐性に優れるコート層を形成する。したがって、食品包装シートが優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)を発現する。また樹脂のカルボキシ基間の相互作用も強くなるため、ヒートシール性も向上する。一方で酸価が40mgKOH/g以下であると、水分や油分、塩分や酸等が混在する食品成分に対して塗膜耐性が向上する上、電子レンジ加熱時に食品から出る蒸気のコート層への浸透も抑制でき、シートと食品間のブロッキングも起こらない。したがって、食品包装シートが優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)を発現する。またコート層間におけるカルボキシ基間の相互作用も小さくなるため、食品包装シートの耐ブロッキング性が良化する。
【0030】
前記カルボキシ基を有するエチレン性飽和単量体(a-2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸およびけい皮酸等が挙げられるが、より安定性に優れる樹脂微粒子(A)が得られ、コート剤の塗工性やコート層の食品由来の成分に対する塗膜耐性が良好である点から、カルボキシ基を有するエチレン性飽和単量体(a-2)は、メタクリル酸を含有することが好ましい。メタクリル酸を含有することにより、樹脂微粒子の分散安定性がより向上し、コート剤の安定性も更に良化する。また、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)もより向上する。
【0031】
エチレン性不飽和単量体(a)の全質量を基準として、上記のカルボキシ基を有するエチレン性飽和単量体(a-2)は2~5質量%含有することが好ましく、より好ましくは4~4.9質量%の範囲である。上記の範囲で含有することにより、樹脂微粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の塗工性や造膜性が向上する。したがって、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)やヒートシール性により優れた食品包装シートが得られる。
【0032】
[エチレン性不飽和単量体(a-3)]
エチレン性不飽和単量体(a-3)は、前記の炭素数が1~4の直鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(a-1)、およびカルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)と共重合可能なその他エチレン性不飽和単量体である。
樹脂微粒子(A)の質量平均分子量や平均粒子径等を制御するために、エチレン性不飽和単量体(a-1)、およびエチレン性不飽和単量体(a-2)にさらに必要に応じてエチレン性不飽和単量体(a-3)を共重合することができる。
【0033】
エチレン性不飽和単量体(a)の全質量を基準として、エチレン性不飽和単量体(a-3)は0~13質量%含有することが好ましく、より好適には0.5~10質量%の範囲である。上記の範囲で含有することにより、樹脂微粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の塗工性や造膜性が向上する。したがって、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)やヒートシール性により優れた食品包装シートが得られる。
【0034】
前記のその他エチレン性不飽和単量体(a-3)としては、例えば、ビニルナフタレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族系エチレン性不飽和体;ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数5以上の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸等のスルホ基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有エチレン性不飽和単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等が挙げられ、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート等のケトン基含有エチレン性不飽和単量体;アリル(メタ)アクリレート、1-メチルアリル(メタ)アクリレート、2-メチルアリル(メタ)アクリレート、1-ブテニル(メタ)アクリレート、2-ブテニル(メタ)アクリレート、3-ブテニル(メタ)アクリレート、1,3-メチル-3-ブテニル(メタ)アクリレート、2-クロルアリル(メタ)アクリレート、3-クロルアリル(メタ)アクリレート、o-アリルフェニル(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体;が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
また、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等のスチレン類も、効果を妨げない範囲で使用してもよいが、環境対応の点で、含まないことが好ましい。
【0036】
上記に例示したエチレン性不飽和単量体(a-3)の中でも、樹脂微粒子(A)の安定性向上や高分子量化によるコート剤物性向上の観点から、エチレン性不飽和単量体(a-3)は、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、またはN-メチロールアクリルアミドであることがより好ましい。
【0037】
[樹脂微粒子(A)の製造方法]
樹脂微粒子(A)の重合方法は特に制限されないが、水性媒体中で、高分子量且つ低粘度、高固形分の樹脂微粒子分散体を容易に得られる点から乳化重合を用いることが好ましい。異なるTgを有する樹脂微粒子を調製する方法としては、乳化重合時において、滴下槽を多段に分け、其々生成する重合体のTgが異なるようにエチレン性不飽和単量体の組成を変えて滴下する多段重合や、予め塊状重合や溶液重合でアクリル樹脂を合成し、それを水相に溶解もしくは分散させた後、先のアクリル樹脂とは別のTgを有する重合体が生成するようにエチレン性単量体を滴下して重合する方法等が挙げられるが、工程が煩雑でなく、生成する樹脂微粒子の分散安定性が良好な点を考慮し、樹脂微粒子(A)は多段重合により合成することがより好ましい。
【0038】
樹脂微粒子(A)において、-40~30℃の範囲にTgを有する重合体の総量と40~140℃の範囲にTgを有する重合体の総量の質量比は、70/30~50/50の範囲であることが好ましく、更に好ましくは60/40~55/45の範囲である。重合体の質量比が上記の範囲であることにより、コート剤が優れた造膜性を有する一方、形成したコート層の過剰な融着や熱運動は抑制され、各種塗膜耐性が良化する。したがって、食品包装シートが、より優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、耐ブロッキング性、ヒートシール性を発現する。尚、前記の重合体の総量は、その重合体を構成するエチレン性不飽和単量体の総量のことを指す。
【0039】
樹脂微粒子(A)はその粒子内において、-40~30℃の範囲にTgを有する重合体と40~140℃の範囲にTgを有する重合体が互いに相溶せず、粒子がコアシェル構造や海島構造、ラズベリー型等の異形粒子構造をとることができるが、より良好な塗膜物性発現の観点から、コアシェル構造をとることが好ましく、更にコア部が-40~30℃の範囲にTgを有する重合体、シェル部が40~140℃の範囲にTgを有する重合体で構成されたコアシェル構造であることがより好ましい。コアシェル構造であることにより、樹脂微粒子の造膜性が大幅に良化し、低温乾燥条件下においてもコート剤が密で強靭な塗膜を形成する。したがって、そのコート剤からなる食品包装シートはより優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)を発現する。
【0040】
(ラジカル重合開始剤)
エチレン性不飽和単量体(a)の重合反応に用いられるラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
ラジカル重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.1~4質量部を用いることが好ましく、0.2~2質量部用いる事が更に好ましい。
【0041】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物;を挙げることができる。
【0042】
乳化重合においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドのような従来既知のものを好適に使用することができる。
【0043】
(還元剤)
また、乳化重合では、重合開始剤とともに還元剤を併用してもよい。還元剤を併用することにより、乳化重合速度の促進や、低温での乳化重合が容易になる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート等の金属塩等の還元性有機化合物;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物;塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素が挙げられる。
これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.05~5質量部を用いることが好ましい。
【0044】
重合温度は、重合開始剤の重合開始温度以上であればよく、例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常80℃程度である。重合時間は特に制限されないが、通常2~24時間である。なお、エチレン性不飽和単量体(a)は、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や放射線照射によって重合してもよい。
【0045】
(緩衝剤又は連鎖移動剤)
エチレン性不飽和単量体(a)の重合においては、必要に応じて、さらに緩衝剤又は連鎖移動剤を用いてもよい。緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムが挙げられる。連鎖移動剤は、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-ヘプチルメルカプタン、t-ヘキシルメルカプタン、t-ヘプチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ノニルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、t-デシルメルカプタン、n-ウンデシルメルカプタン、t-ウンデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-トリデシルメルカプタン、t-トリデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、t-ヘプタデシルメルカプタン、t-ヘキサデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン、t-へプタデシルメルカプタン、t-オクタデシルメルカプタン、メルカプタンメルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸ステアリル等が挙げられる。
緩衝剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、0~1質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.05~0.5質量部の範囲である。
また、連鎖移動剤は、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.4~3質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.6~2質量部の範囲である。
【0046】
上記の連鎖移動剤の中でも、下記一般式(2)で表される連鎖移動剤である、連鎖移動剤(X)を用いることが好ましい。
【0047】
【化3】
Rは炭素数8~16の直鎖又は分岐アルキル基である。
【0048】
連鎖移動剤(X)を重合時に用いることにより、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体の片末端に一般式(1)で表される構造を導入することができる。片末端に一般式(1)で表される構造を有する重合体は、低極性部位である末端アルキル基Rと、そこに結合している高極性なアクリル樹脂とで適度な極性のコントラストが生じるため界面活性能を発現し、樹脂微粒子(A)の分散安定性を更に向上させる。したがって、コート剤の安定性も良化し、塗工不良や造膜不良に繋がる沈降物や凝集物の生成も大幅に低減される。また、基材に対する樹脂の濡れ性を向上させる効果も有する。これより、コート剤成分がしっかりと基材に浸透して結着するため、基材と樹脂の界面における結着がより強固になる。したがって、コート層が食品成分と触れても、基材側に食品成分が侵入する恐れがより少なくなり、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性が更に向上する。上記の一般式(1)で表される構造を有する重合体は、樹脂のより効果的な造膜性や濡れ性向上の観点から、40~140℃の範囲にTgを有する重合体に含まれることがより好ましい。
【0049】
連鎖移動剤(X)としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ノニルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、t-デシルメルカプタン、n-ウンデシルメルカプタン、t-ウンデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-トリデシルメルカプタン、t-トリデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、t-ヘプタデシルメルカプタン、t-ヘキサデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン等が挙げられる。
【0050】
連鎖移動剤(X)は、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.4~3質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.6~2質量部の範囲である。上記の範囲で使用することにより、先述の重合体の片末端にアルキル基を導入する効果が十分に得られると同時に、他物性に悪影響を及ぼす恐れがない。したがって、より優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性を発現する食品包装シートを得ることができる。尚、一般式(2)の連鎖移動剤の重合体への導入率は100%である。
【0051】
(塩基性化合物)
エチレン性不飽和単量体(a)の重合の際、樹脂微粒子(A)の分散安定性を高めるために、中和剤として塩基性化合物を使用してもよい。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムといったアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤等が挙げられる。塩基化合物は、一段目の滴下完了後に添加しても構わないし、反応完了後に添加しても構わない。
塩基性化合物は、樹脂微粒子(A)中のカルボキシ基1molを基準として、0.75~1.2molの範囲で使用する事が好ましい。
【0052】
(界面活性剤)
また、樹脂微粒子(A)を得る際、コート剤や食品包装シートの諸物性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、樹脂微粒子の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられるが、安全性や良好な塗膜物性発現の観点からアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤であることが好ましい。耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)への悪影響が出にくい点から、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、界面活性剤は0.1~2.0質量部の範囲で含むことが好ましく、0.4~1.0質量部含むことがより好ましい。界面活性剤は、単独または2種類以上を使用できる。
【0053】
使用できるアニオン性界面活性剤として、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられるが、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)への悪影響が出にくい点から、上記の中でも界面活性剤はアルキル硫酸エステル塩、またはアルキルスルホコハク酸エステル塩であることが好ましく、更にアルキル硫酸エステル塩はラウリル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸エステル塩はジオクチルスルホコハク酸塩であることがより好ましい。
【0054】
ノニオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0055】
前記界面活性剤は、分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和二重結合を1個以上有する重合性界面活性剤を使用することができる。
【0056】
重合性界面活性剤は、重合性アニオン性界面活性剤、重合性ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0057】
前記重合性アニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がスルホコハク酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル、(メタ)アクリレート硫酸エステル、およびリン酸エステル等が挙げられる。
前記重合性ノニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル等が挙げられる。
【0058】
前記で例示した中でも、界面活性剤はラウリル硫酸塩又はジオクチルスルホコハク酸塩の少なくともいずれか一方を含み、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、両者を合計で0.1~2.0質量部含むことが好ましく、更に0.4~1.0質量部含むことがより好ましい。ラウリル硫酸塩又はジオクチルスルホコハク酸塩を上記の範囲で含有することにより、食品包装シートの諸物性に悪影響が出ない上に、樹脂微粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の造膜性も向上する。また、基材に対するコート剤の濡れも良化するため、塗工ムラが低減され、コート剤が基材にしっかりと浸透して結着する。したがって、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性が更に向上するために好ましい。
【0059】
[ガラス転移温度(Tg)]
樹脂微粒子(A)は、-40~30℃の低温側の範囲と、40~140℃の高温側の範囲に其々ガラス転移温度Tgを有する。このように、本発明の樹脂微粒子(A)は、DSCにより得られるガラス転移温度Tgを特定の温度範囲内に少なくとも2つ有していることが特徴であり、これらの温度範囲外に、さらにガラス転移温度Tgを有していてもよい。
低温側のTgは-20~10℃の範囲に有することがより好ましく、高温側のTgは70~140℃の範囲に有することがより好ましい。
Tgが-40~30℃の範囲にあると、コート剤の造膜性が向上し、隙間やクラックの無い密な塗膜を形成するため、コート層に食品成分が染み込む恐れが無くなる。また電子レンジで加熱した際に、加熱されたコート層の樹脂成分が食品から出る蒸気や油分で膨潤したり、溶出してしまう恐れもない。また、ヒートシール時においては、コート層間でしっかりと融着し、樹脂間が強固な絡み合いを形成する。したがって、食品包装シートが優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性を発現する。
Tgが40~140℃の範囲にあると、コート層が過剰に融着し、コート層間でブロッキングを起こる恐れが無い。またコート層中に共存する低温側の重合体(Tgが-40~30℃)の運動性も抑制するため、電子レンジで加熱した際、加熱されたコート層の樹脂成分が食品から出る蒸気や油分で膨潤するのを抑制する。一方で、コート剤の塗工時における造膜性は悪化しない。したがって、食品包装シートが優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、耐ブロッキング性を発現する。
樹脂微粒子(A)が-40~30℃の低温側の範囲と、40~140℃の高温側の範囲にそれぞれTgを有することにより、その相乗効果も働き、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、耐ブロッキング性、ヒートシール性に大変優れる食品包装シートを得ることができる。樹脂微粒子(A)のガラス転移温度は、樹脂微粒子(A)を構成するエチレン性不飽和単量体(a)の組み合わせにより、適宜、調整することができる。
【0060】
樹脂微粒子(A)のガラス転移温度は、樹脂微粒子(A)の分散体を乾燥して得た固体について、DSC測定をおこなうことによって求めることができる。昇温条件でDSCを測定すると、樹脂のガラス転移は吸熱現象として観察される。低温側のベースラインと変曲点の接線の交点の温度を樹脂のガラス転移温度とする。樹脂微粒子(A)では、例えば
図1に示すように、-40~30℃の低温側と、40~140℃の高温側で其々Tgを確認することができる。
【0061】
[質量平均分子量]
樹脂微粒子(A)の質量平均分子量は、10万以上であることが好ましい。より好ましくは、20万以上である。質量平均分子量が10万以上であることにより、コート層が強靭な塗膜を形成するため、水分や油分、塩分や酸等が混在した食品成分に晒されても、樹脂の膨潤や溶出が抑制され、コート層がより侵されにくくなる。また電子レンジの加熱条件下においても、食品から出る蒸気や油分によって、コート層が侵されにくくなる。したがって、食品包装シートの耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)がより向上する。またコート層間の過剰な融着も抑制されるため、食品包装シートの耐ブロッキング性も良化する。高分子量の樹脂で強靭なコート層を形成するため、ヒートシール時には樹脂同士がしっかりと融着して絡み合い、ヒートシール性も大幅に向上する。樹脂微粒子(A)の質量平均分子量は、重合する際の開始剤量や連鎖移動剤量により、適宜、調整することができる。
好ましくは、300万以下である。
なお、質量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0062】
[平均粒子径]
樹脂微粒子(A)の平均粒子径は30~300nmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、35~200nmである。上記の範囲の粒子径であることにより、粒子径が小さすぎてコート剤が基材中に浸透しすぎ、ヒートシール性を十分に発現しない、逆に粒子径が大きすぎて基材へのコート剤の浸透が不足して基材とコート層の間でしっかり結着できない、コート剤が造膜不良を起こす等で、ヒートシール性や耐食品性が十分に発現しない等の問題を防ぐことができる。したがって、塗工性と造膜性に優れたコート剤となり、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性により優れる食品包装シートを得ることができる。
【0063】
<任意成分>
本発明の食品包装シート用コート剤は、任意成分として、体質顔料、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、溶剤、ワックス等の添加剤を含むことが出来る。なお任意成分は、塗工後に食品包装シートに残存した場合、健康に悪影響を与えないことが好ましい。
【0064】
前記体質顔料は、食品ないしは食品添加物として認可されているものを用いるものが好ましい。具体的には、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、珪藻土(ホワイトカーボン)、セルロース粉末等が挙げられる。
【0065】
前記溶剤は、経口安全性の観点からエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0066】
前記ワックスは、例えばカルナバワックス、みつろう、パラフィンワックス、変性パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、変性ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、変性ポリプロピレンワックス、エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、変性エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、脂肪酸アマイド、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0067】
≪食品包装シート≫
本発明の食品包装シートは、前記食品包装シート用コート剤から形成されるコート層を基材シート上に有する。
【0068】
前記基材シートは、紙、不織布、および織布用の多孔質な表面状態を有するシートであるが、紙であることが好ましい。基材が紙基材であることにより、コート剤が基材に対して、十分に濡れ、基材中に浸透するため、基材とコート層がより強固に結着する。したがって、食品包装シートがより優れた耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性を発現することができる。
コート層を形成後さらに複数回にわたり食品包装シート用コート剤を塗布することでより、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、ヒートシール性を向上することができる。またコート層は基材シートに含浸していてもよく、含浸していない態様も用いることができる。
【0069】
前記塗布は、公知の塗工方法を使用できるが、フレキソ方式およびグラビア方式が好ましい。フレキソ方式とはコート剤をアニロックスロール上と呼ばれる凹版から一旦樹脂版またはゴム版に転移させ、その樹脂版またはゴム版上のコート剤を原反に手にさせる方式である。樹脂版またはゴム版をパターニングすることも可能である。グラビア方式は凹版から直接原反にコート剤を転移させる方式と、凹版から一旦平版に転移させた後原反に転移させる所謂グラビアオフセット方式を含む。凹版をパターニングすることも可能である。グラビア方式の場合は塗工後にスムージングロールによるプレス処理することが好ましい。
【0070】
本発明の食品包装シートは、例えばポップコーン、チョコレート、キャラメル等の菓子類、野菜や果物等の青果物だけでなく、ハンバーグ、ホットドッグ、ハンバーガー、ライスバーガー等のバーガー類、フライドチキン、フライドポテト、唐揚げ、天ぷら、揚げパン等の揚げ物類、グリルチキン、焼き鳥、さんま等の食肉や魚介類を焼いた食品、肉まん、あんまん、餃子、シューマイ、春巻き等の食品の包装に用いることができ、油分や塩分、酸やアミノ酸等の複数成分を含有し、且つ水分量の多いケチャップやソース、タレが付着した食品に対しても使用できる。また、冷凍食品や弁当箱の紙トレーのような様々な食品を包装するシートにも使用でき、包装した状態から電子レンジで加熱するような用途にも対応できる。本発明の食品包装シートは、コート層が前記のような様々な食品に直に接触するよう用途に使用されることが好適である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表し、表中の数値は、固形分質量であり、空欄は使用していないことを表す。
また、樹脂微粒子のガラス転移温度、酸価、平均粒子径、および質量平均分子量の測定方法は以下の通りである。
【0072】
<ガラス転移温度>
樹脂微粒子のガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)を使用して測定した。具体的には乾燥させた樹脂約3mgを精秤して入れたアルミニウムパンと、リファレンスである空のアルミニウムパンとをDSC測定ホルダーにセットし、10℃/分の昇温条件にて測定して得られたDSC曲線における吸熱現象の低温側のベースラインと変曲点での接線の交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0073】
<酸価>
樹脂の酸価は、乾燥させた樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数。乾燥させた水溶性樹脂について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定をおこない算出した。
【0074】
<平均粒子径>
平均粒子径は、樹脂微粒子分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA(株)マイクロトラックベル社製)により測定を行った。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0075】
<質量平均分子量>
樹脂の質量平均分子量は、乾燥させた樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.2%溶液を調製し、更にメンブレンフィルター(ADVANTEC社製13HP045AN 孔径0.45μm)で濾過処理をして、以下の装置ならびに測定条件により測定した。尚、THFに完全に溶解しない、または、溶解はするがフィルターを通らない樹脂については、十分に高分子量化しているとみなし、分子量を200万以上とした。
装置:HLC-8320-GPCシステム(東ソー社製)
カラム:TSKgel-Super Multipore HZ-M0021488 4.6 mmI.D.×15cm×3本(分子量測定範囲2千~約200万)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
流速:0.6mL/分
試料溶液使用量:10μL
カラム温度:40℃
【0076】
<食品包装シート用コート剤の調製>
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器(反応槽)に、水83.6部、エマール0(花王社製ラウリル硫酸ナトリウム 有効成分100%)0.35部を仕込んだ。別途、エチルアクリレート30.0部、メチルメタクリレート53.0部、n-ブチルアクリレート7.0部、メタクリル酸10.0部、t-ドデシルメルカプタン3.9部、エマール0 0.80部、水52.9部をあらかじめ混合、撹拌して一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液(一段目の滴下槽)を調製した。反応容器の内温を80℃に昇温して窒素置換を十分行った後、開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液5.5部を添加して乳化重合を開始した。内温を80℃に保ちながら一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液と過硫酸カリウムの5%水溶液5.5部を2時間かけて滴下した。
一段目のエチレン性不飽和単量体乳化液の滴下完了後、30分置いて、エチルアクリレート30.0部、メチルメタクリレート50.0部、n-ブチルメタクリレート10.0部、n-ブチルアクリレート20.0部、アクリル酸2.0部、2-エチルヘキシルアクリレート15.0部、シクロヘキシルアクリレート2.0部、グリシジルメタクリレート1.0部、ジエチレングリコールジメタクリレート1.0部、t-ドデシルメルカプタン0.1部、エマール0 1.20部、水160.8部をあらかじめ混合、撹拌して調製した二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液(二段目の滴下槽)と過硫酸アンモニウムの10%水溶液11.1部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に3時間、80℃で反応させた。反応完了後、撹拌しながら25%のアンモニア水を9.8部添加して中和し、樹脂微粒子の水分散体を得た。
得られた樹脂微粒子のTgは8.4℃と56.4℃、酸価は33.8mgKOH/g、平均粒子径は200nmであった。また樹脂がTHFに不溶であったため、質量平均分子量を200万以上とした。樹脂微粒子水分散体に更に水を添加し、不揮発分を40%に調整して目的の食品包装シート用コート剤を得た。
【0077】
[実施例2~12、比較例1~6]
表1、2に示す配合組成で、実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子の水分散体を調製した。尚、実施例6、比較例3については、二段目の滴下槽の水の仕込み量を160.8部から250.8部に、実施例7、8、11、12、比較例4~6については130.8部に変更した。反応完了後、25%アンモニア水を樹脂中のカルボキシ基に対して、当モルになるように添加して中和した。得られた樹脂微粒子について、実施例1と同様に、Tg、酸価、平均粒子径、質量平均分子量を測定した。樹脂微粒子水分散体に更に水を添加して不揮発分を40%に調整し、目的の食品包装シート用コート剤を得た。
【0078】
[実施例13]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器(反応槽)に、水237.8部、ぺレックスOT-P(花王社製ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 有効成分70%)0.86部を仕込んだ。別途、メチルメタクリレート69.5部、n-ブチルアクリレート18.0部、メタクリル酸12.5部、t-ドデシルメルカプタン3.0部、ぺレックスOT-P 2.01部、水65.8部をあらかじめ混合、撹拌して一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液(一段目の滴下槽)を調製した。反応容器の内温を80℃に昇温して窒素置換を十分行った後、開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液12.1部を添加して乳化重合を開始した。内温を80℃に保ちながら一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液と過硫酸カリウムの5%水溶液5.5部を2時間かけて滴下した。
滴下完了後、2時間反応させ、80℃に温度を保ったまま、25%アンモニア水を9.9部添加して中和した。続いて、メチルアクリレート50.0部、n-ブチルアクリレート102.0部をあらかじめ混合して調製した二段目のエチレン性不飽和単量体溶液(二段目の滴下槽)と過硫酸アンモニウムの10%水溶液24.2部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、80℃を維持して更に3時間反応させ、樹脂微粒子の水分散体を得た。
得られた樹脂微粒子のTgは-18.8℃と70.6℃、酸価は31.2mgKOH/g、平均粒子径は35nmであった。また樹脂がTHFに不溶であったため、質量平均分子量を200万以上とした。樹脂微粒子水分散体に更に水を添加して不揮発分を40%に調整し、目的の食品包装シート用コート剤を得た。
【0079】
[実施例13~20、比較例7、8]
表3に示す配合組成で、実施例13と同様の方法により、樹脂微粒子の水分散体を調製した。25%アンモニア水は、樹脂中のカルボキシ基に対して、当モルになるように添加して中和した。得られた樹脂微粒子について、実施例13と同様に、Tg、酸価、平均粒子径、質量平均分子量を測定した。樹脂微粒子水分散体に更に水を添加して不揮発分を40%に調整し、目的の食品包装シート用コート剤を得た。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表中の略号は以下の通りである。
<界面活性剤>
エマール0:ラウリル硫酸ナトリウム(花王社製、有効成分100質量%)
ぺレックスO-TP:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、有効成分70質量%)
ノイゲンTDS-120:ポリオキシエチレントリドデシルエーテル(第一工業製薬社製、有効成分100質量%)
【0084】
[実施例21]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器(反応槽)に、n-プロパノール143.0部を仕込んだ。別途、メチルメタクリレート71.0部、n-ブチルアクリレート15.0部、メタクリル酸14.0部、をあらかじめ混合して滴下するエチレン性不飽和単量体の混合溶液を調製した。反応容器の内温を90℃に昇温して窒素置換を十分行った後、開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)6.0部を添加してラジカル重合を開始した。内温を90℃に保ちながら、前記のエチレン性不飽和単量体の混合溶液を2時間かけて滴下した。その後、90℃に維持したまま、更に4時間反応させた。反応完了後、25%アンモニア水を11.5部、水を660部添加して撹拌した。そこから減圧条件下で脱溶剤処理を行い、不揮発成分を22.0%に調整したアクリル樹脂の水溶液を得た。
続いて反応容器の内温を再度80℃に昇温して窒素置換を十分行った後、メチルアクリレート70.0部、n-ブチルアクリレート82.0部、開始剤としての過硫酸アンモニウムの10%水溶液15.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、80℃を維持して更に3時間反応させ、樹脂微粒子の水分散体を得た。得られた樹脂微粒子のエチレン性不飽和単量体(a-1)の含有率は94.4質量%であった。なお、エチレン性不飽和単量体(a)100質量部当たりの界面活性剤の含有量は0部、エチレン性不飽和単量体(a)100質量部当たりの連鎖移動剤の含有量は0部である。
また、実施例13と同様に、Tg、酸価、平均粒子径、質量平均分子量を測定したところ、樹脂微粒子のTgは-10.4℃と78.8℃、酸価は35.4mgKOH/g、平均粒子径は102nm、質量平均分子量は90万であった。樹脂微粒子水分散体に更に水を添加して不揮発分を40%に調整し、目的の食品包装シート用コート剤を得た。
【0085】
《評価項目および評価方法》
食品包装シート用コート剤および食品包装シートの評価項目および評価方法は、以下の通りである。
<食品包装シート用コート剤の安定性>
前記で得られた食品包装シート用コート剤をスクリュー瓶に入れ、50℃で1ヶ月間静置し、経時での沈降物発生の有無と平均粒子径の変化率を確認した。尚、経時前後のコート剤の平均粒子径は先述した樹脂微粒子の平均粒子径の測定と同様の方法でおこなった。
[評価基準]
S:沈降物が発生しておらず、平均粒子径も変化していない
(極めて良好)
A:沈降物は発生していないが、平均粒子径がやや変化している
(変化率が±20%未満)(良好)
B:沈降物は発生していないが、平均粒子径が変化している
(変化率が±20%以上±50%未満)(使用可)
C:沈降物が発生している、または平均粒子径が大幅に変化している
(変化率が±50%以上)(使用不可)
【0086】
<食品包装シートの作製>
(食品包装シート1)
得られた食品包装シート用コート剤を市販の衛生紙(秤量21g、片面光沢処理済)の光沢面にバーコーター#4を使用して塗工した。塗工後、熱風オーブン80℃で30秒乾燥することで食品包装シート1を得た。
(食品包装シート2)
得られた食品包装シート用コート剤を市販の厚紙(秤量300g)の片面にバーコーター#8を使用して塗工した。塗工後、熱風オーブン100℃で60秒乾燥することで冷凍食品接触用の食品包装シート2を得た。
【0087】
<耐ブロッキング性試験>
得られた食品包装シート1のコート剤塗工面と非塗工面を重ねて、以下の装置ならびに測定条件により耐ブロッキング性を測定した。
機器 : CO-201 永久歪試験機(テスター産業社製、上下板加熱)
条件 : 2kg/cm2-40℃-24hr
[評価基準]
S:剥離の際に抵抗感がなく、衛生紙も欠損しない(極めて良好)
A:剥離の際にやや抵抗感はあるが、衛生紙は欠損しない(良好)
B:剥離の際に抵抗感はあるが、衛生紙は欠損しない(使用可)
C:剥離の際に抵抗感があり、衛生紙も欠損している(使用不可)
【0088】
<ヒートシール性>
得られた食品包装シート1を15mm幅にカットし、それを試験片として、以下の装置ならびに測定条件によりヒートシール強度を測定した。
(ヒートシール)
機器:HEATSHEEL&IMPULSE TESTER(日理科学工業社製、上下板加熱)
ヒートシール条件:130℃-2kgf/cm2-1秒
(剥離)
機器:引張試験機(テスター産業社製)
剥離条件:180°剥離、300mm/分
[評価基準]
S:2N以上(極めて良好)
A:1.5N以上、2N未満(良好)
B:1N以上、1.5N未満(使用可)
C:1N未満(使用不可)
【0089】
<耐食品性>
(調味料耐性試験)
23℃の環境下で、得られた食品包装シート1のコート剤塗工面上に、ケチャップ/食酢/サラダ油=1/1/1の混合液を1滴垂らし、表面の液滴が衛生紙を通過し裏面まで到達するまでの時間を測定した。
[評価基準]
S:90分以上(極めて良好)
A:60分以上、90分未満(良好)
B:30分以上、60分未満(使用可)
C:30分未満(極めて不良)
【0090】
(電子レンジ耐性試験)
得られた食品包装シート2のコート剤塗工面に、株式会社ニチレイフーズ製「特から 若鶏の唐揚げ」を1つ置き、電子レンジで500W、180秒間加熱後、20分間放置して常温に戻し、唐揚げを取り除きながら、よびシート表面の油分や水分の浸透状態と唐揚げのシートに対する張り付き(食品とシート間のブロッキング)の有無を確認した。
[評価基準]
S:油分や水分がシートに浸透しておらず、唐揚げもシートに張り付いていない。(極めて良好)
A:やや油分や水分の浸透が見られるが、裏面まで浸透しておらず、唐揚げもシートに張り付いていない。(良好)
B:油分や水分の浸透が見られるが、裏面まで浸透しておらず、唐揚げもシートに張り付いていない。(使用可)
C:裏面まで油分や水分が浸透している、または唐揚げがシートに張り付いている。(使用不可)
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
表4~6からわかるように、実施例1~21で得られた食品包装シート用コート剤は安定性が良好で、それを用いて作製した食品包装シートは、耐食品性(調味料耐性、電子レンジ耐性)、耐ブロッキング性、ヒートシール性に大変優れており、実用レベルを十分に満たす性能を発現した。一方で、比較例1、5、6の食品包装用コート剤は安定性に著しく劣る上、それを用いて作製した食品包装シートの諸物性も著しく劣っていた。また、比較例2~4、7、8の食品包装用コート剤においても食品包装シートのいずれかの物性が極端に劣っており、実用レベルの水準を満たすとは言い難い結果であった。