(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】細胞培養用インクジェットインキ、細胞培養用部材及びその製造方法、細胞培養パターンの形成方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241217BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241217BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2020129881
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019229148
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019231777
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 越美
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-525990(JP,A)
【文献】特開2019-050777(JP,A)
【文献】特開2017-131144(JP,A)
【文献】特開2019-180394(JP,A)
【文献】特開2009-131240(JP,A)
【文献】特開2014-177551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0307728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞接着性材料(A)、
表面張力調整剤(B)および溶媒(C)を含有する細胞培養用インクジェットインキ(I)であって、下記 (1)~(
5)の条件を満たし、前記溶媒(C)が、水および水溶性溶媒を含む、細胞培養用インクジェットインキ(I)。
(1)細胞培養用インクジェットインキ100質量%中、細胞接着性材料(A)の含有量が0.01質量%以上、
0.18質量%以下である。
(2)25℃における粘度が50mPa・s以下である。
(3)表面張力が20mN/m以上、50mN/m以下である。
(4)細胞培養用インクジェットインキ100質量%中、表面張力調整剤(B)の含有量が0.001質量%以上、10質量%以下である。
(5)細胞培養用インクジェットインキ100質量%中、溶媒(C)の含有量が90質量%以上である。
ただし、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)が、1%(重量/体積)~20%(重量/体積)の濃度で低温適応海洋種の天然資源に由来するアミノ酸鎖ゼラチンポリマーを順に含み、光重合開始剤等の重合開始剤を更に含む溶液を含む組成物であって、前記アミノ酸鎖がメタクリロイル基又はアクリロイル基からなる群から選択される化学物質で化学的に官能化されてフリーラジカルの存在下で重合又は架橋に対して反応性となる場合、
及び、
前記細胞培養用インクジェットインキ(I)が、更にハイドロゲル前駆体(前記細胞接着性材料(A)を除く)を含み、かつ、前記細胞接着性材料(A)が粒子である場合を除く。
【請求項2】
細胞接着性材料(A)が、細胞外マトリックスおよび合成基質からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)。
【請求項3】
基材上に、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層を有する細胞培養用部材。
【請求項4】
基材上に、細胞非接着層、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層の順で積層されてなる細胞培養用部材。
【請求項5】
基材上に、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着層、細胞非接着パターン層の順で積層されてなる細胞培養用部材。
【請求項6】
基材上に、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層と、細胞非接着パターン層とを有する細胞培養用部材。
【請求項7】
細胞非接着層または細胞非接着パターン層が、細胞非接着性組成物(D)により形成されてなる請求項
4~
6いずれか1項に記載の細胞培養用部材。
【請求項8】
細胞非接着性組成物(D)が、25℃における粘度が50mPa・s以下であり、表面張力が20mN/m以上、50mN/m以下である請求項
7に記載の細胞培養用部材。
【請求項9】
細胞非接着性組成物(D)100重量%中に、細胞非接着性樹脂(D1)を0.1質量%以上、50質量%以下含む請求項
7または
8に記載の細胞培養用部材。
【請求項10】
培養面の平均表面粗さRaが、1.0μm以下である請求項
3~
9いずれか1項に記載の細胞培養用部材。
【請求項11】
基材がシリコーン基
材であり、ISO18369-4(FATT法)による酸素透過係数(Dk)が、200Barrer(1Barrer=1×10
-11O
2(STP)cm/cm
2mmHg)以上である請求項
3~
10いずれか1項に記載の細胞培養用部材。
【請求項12】
生体内の細胞配向を再現するための請求項
3~
11いずれか1項に記載の細胞培養用部材。
【請求項13】
基材上に、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し、培養層を形成する、細胞培養用部材の製造方法。
【請求項14】
基材上に、請求項1
または2に記載の細胞培養用インクジェットインキ(I)および細胞非接着性組成物(D)をインクジェット印刷し、培養層を形成する、細胞培養用部材の製造方法。
【請求項15】
請求項
3~
12いずれか1項に記載の細胞培養用部材により細胞を配向する、細胞パターンの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞接着性材料を含む細胞培養用インクジェットインキ、細胞培養用部材及びその製造方法、細胞培養パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞工学の発展や再生医療に注目が集まっており、生体外にて細胞を適切な形で培養し、創薬研究や治療への応用、生体反応モデルとして使用する試みが活発に行われている。このような目的において、創薬研究や再生医療研究のツールの1つである細胞培養用基材の開発においては、一般的にはコラーゲン、ポリスチレンおよびポリメチルメタクリレートが良好であることが知られており、中でもポリスチレンが細胞毒性の低さと経済性、加工性に優位性があり、現行の組織培養においてはポリスチレンを親水化処理したものが使用されている。しかし、このような培養部材では細胞の接着、非接着を制御させることができないため、生体組織の神経節や血管のような個体差のある模様を再現するために細胞を配列、あるいは細胞を配向することは困難とされている。
【0003】
一方、培養細胞を基材上の微小な部分にのみ接着させ、配列させる技術が報告されている。このような技術により、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になる。培養細胞を配列させる方法としては、細胞に対して接着の容易さが異なるような表面がパターンをなしているような基材を用い、この表面で細胞を培養し、細胞が接着するように加工した表面だけに細胞を接着させることによって細胞を配列させる方法がとられている。
【0004】
生体内の細胞の配列、配向を再現する方法としては、例えば、
(1)回路状に神経細胞を増殖させるなどの目的で、静電荷パターンを形成させた電荷保持媒体を細胞培養に応用したもの(特許文献1)。
(2)細胞接着阻害性あるいは細胞接着性の光感受性親水性高分子をフォトリソグラフィ法によりパターニングした表面上への培養細胞の配列を試みたもの(特許文献2)。
(3)細胞の接着率や形態に影響を与えるコラーゲンなどの物質がパターニングされた細胞培養用基材と、この基材をフォトリソグラフィ法によって作製したものが開示されている(特許文献3)。
このような基材の上で細胞を培養することによって、コラーゲンなどがパターニングされた表面により多くの細胞を接着させ、細胞のパターニングを実現している。
しかしながら、(1)は、電荷保持媒体は作成直後から電荷が弱まり、正電荷パターンが消え、安定性に課題がある。
【0005】
また、(2)、(3)は、感光性材料を用いたフォトリソグラフィ法等によるパターニングを行っている場合、高精細なパターンを得ることはできるが、細胞接着性材料が感光性を有する必要があり、例えば生体高分子等にこのような感光性を付与するために化学的修飾することが困難な場合が多く、細胞接着性材料の選択性の幅を極めて狭くするといった問題があった。また、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィ法では、現像液等を用いる必要性があり、これらが細胞培養に際して悪影響を及ぼす場合があった。
こうした問題点を背景に、優れた生体適合性高分子材料の実現を目指して、数多くの表面設計方法が研究されてきた。例えば、(4)は、ポリエチレンオキサイド構造を有する細胞非接着性ポリマーを用いてインクジェット印刷によるパターンを形成する技術を報告している(特許文献4)。インクジェット技術を用いることで、(1)より安定性を有する細胞パターンを再現することが可能となる。また、(2)、(3)のような感光性を付与するための化学的修飾の必要がなく、インクジェット印刷の際に複数の材料を基材に接触せず、パターンを形成できることから、凹凸面や湿潤表面、薄膜への修飾が可能となる。しかし、(4)では、生体内の細胞配向を再現するには十分ではなく、簡便的に細胞パターンを作製する技術が求められていた。
【0006】
また、シリコーン材料は、生体適合性、酸素透過性に優れるため、医療用材料を含めた
広範な用途に使用されている。例えば、特許文献5では、シリコーン基板の表面にすり鉢状の溝を設計し、細胞外マトリクスゲルの重層を行わなくても、肝細胞を配列し、効率よく毛細胆管を構築する技術が開示されている。しかしながら、特許文献5は、肝細胞の配列により、毛細胆管組織を形成することはできているが、異方性ウェットエッチングを利用してシリコンウェハー上に微細凸凹を作製し、更に、その上にコラーゲンをコート処理しているため、成型加工が容易ではなく加工コストがかかるという問題があった。また、培地交換や組織の回収操作等も煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-245181号公報
【文献】特開平3-7576号公報
【文献】特開平5-176753号公報
【文献】特開2017-104027
【文献】特開2014-187971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れた細胞接着性を有する細胞培養用インクジェットインキ、生体内の細胞配向を再現することができる細胞培養部材及びその製造方法、細胞パターンの形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、細胞接着材料(A)を含有するインクジェットインキを用いることで、細胞の配向を制御するのみならず、材料選択の幅を広げ、細胞毒性への悪影響を及ぼさないパターンを形成できること見出した。
これにより、生体内の細胞配向を再現する方法を提供し、医療用材料や創薬スクリニング等の広範な用途への展開が期待される。例えば、マイクロチップと呼ばれる細胞培養部材ではパターニング部材上に保持した細胞の化学反応を観察あるいは測定することで、分析時間の短縮などのメリットをもたらすと期待される。
【0010】
すなわち、本発明は、
細胞接着性材料(A)を含有する細胞培養用インクジェットインキ(I)であって、下記(1)~(3)の条件を満たす細胞培養用インクジェットインキ(I)に関する。
(1)細胞培養用インクジェットインキ100重量%中、細胞接着性材料(A)の含有量が0.01質量%以上、10質量%以下である。
(2)25℃における粘度が50mPa・s以下である。
(3)表面張力が20mN/m以上、50mN/m以下である。
【0011】
また、本発明は、細胞接着性材料(A)が、細胞外マトリックスおよび合成基質からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記細胞培養用インクジェットインキ(I)に関する。
【0012】
また、本発明は、更に、表面張力調整剤(B)及び溶媒(C)を含む前記細胞培養用インクジェットインキ(I)に関する。
【0013】
また、本発明は、基材上に、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層を有する細胞培養用部材に関する。
【0014】
また、本発明は、基材上に、細胞非接着層、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層の順で積層されてなる細胞培養用部材に関する。
【0015】
また、本発明は、基材上に、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着層、細胞非接着パターン層の順で積層されてなる細胞培養用部材に関する。
【0016】
また、本発明は、基材上に、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層と、細胞非接着パターン層とを有する細胞培養用部材に関する。
【0017】
また、本発明は、細胞非接着層または細胞非接着パターン層が、細胞非接着性組成物(D)により形成されてなる前記細胞培養用部材に関する。
【0018】
また、本発明は、細胞非接着性組成物(D)が、25℃における粘度が50mPa・s以下であり、表面張力が20mN/m以上、50mN/m以下である前記細胞培養用部材に関する。
【0019】
また、本発明は、細胞非接着性組成物(D)100重量%中に、細胞非接着性樹脂(D1)を0.1質量%以上、50質量%以下含む前記細胞培養用部材に関する。
【0020】
また、本発明は、培養面の平均表面粗さRaが、1.0μm以下である前記細胞培養用部材に関する。
【0021】
また、本発明は、基材がシリコーン基材上であり、ISO18369-4(FATT法)による酸素透過係数(Dk)が、200Barrer(1Barrer=1×10-11O2(STP)cm/cm2mmHg)以上である前記細胞培養用部材に関する。
【0022】
また、本発明は、生体内の細胞配向を再現するための前記細胞培養用部材に関する。
【0023】
また、本発明は、基材上に、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し、培養層を形成する、細胞培養用部材の製造方法に関する。
【0024】
また、本発明は、基材上に、前記細胞培養用インクジェットインキ(I)および細胞非接着性組成物(D)をインクジェット印刷し、培養層を形成する、細胞培養用部材の製造方法に関する。
【0025】
また、本発明は、前記細胞培養用部材により細胞を配向する、細胞パターンの形成方法に関する。
【0026】
また、本発明は、前記方法により形成された細胞パターンに関する。
【0027】
また、本発明は、前記細胞パターンを用いて、分化誘導により生体組織を形成する方法に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、優れた細胞接着性を有する細胞培養用インクジェットインキ、生体内の細胞配向を再現することができる細胞培養部材及びその製造方法、細胞パターンの形成方法を提供することができる。
また、酸素透過性に優れ、細胞の配列を制御し、細胞毒性への悪影響を及ぼさない細胞培養用部材及びその製造方法、細胞パターンの形成方法を提供することができる。また、細胞の接着性に優れ、細胞の配列を制御し、分化誘導により生体組織を形成する細胞培養部材及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の細胞培養用部材の一実施形態(第一の形態)を示す上面図および断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の細胞培養用部材の一実施形態(第二の形態)を示す上面図および断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の細胞培養用部材の一実施形態(第三の形態)を示す上面図および断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の細胞培養用部材の一実施形態(第四の形態)を示す上面図および断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の細胞培養用部材における播種直後または培養後7日目の細胞の配向性を示す透過式光学顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、本発明のシリコーン細胞培養用部材における播種直後または培養後7日目の細胞の配向性を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の細胞培養用部材における筋芽細胞の播種後3日目または培養後10日目のコンフルエント化を示す透過式光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、本発明の細胞培養用部材における筋芽細胞の培養後10日目の筋管形成を示す蛍光透過式光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<細胞培養用インクジェットインキ(I)>
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)は、インクジェットノズルからの吐出性が良好であり、基材に、細胞培養用インクジェットインキ(I)を印刷し、細胞接着性を有するパターニング培養層を形成することができる。
また、この細胞接着パターン層を有する細胞培養用部材に細胞を播種することで、細胞が細胞接着パターンに接着され、培養するにより、生体内の細胞の配向性を再現した細胞パターンを形成することができる。
【0031】
また、本発明の細胞培養用部材により形成された細胞パターンを用いて、分化誘導により生体組織を形成することができる。
【0032】
[細胞]
本発明に用いられる細胞としては、一般に、増殖のために適切な表面に自身を接着させる必要がある細胞であれば特に限定されないが、配向性を示す細胞として、筋芽細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、神経細胞などが挙げられる。例えば、神経細胞をパターン状に培養した神経組織を形成したり、筋芽細胞を分化誘導により培養して連続した筋管組織を形成することができる。また、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリなど)由来の細胞を用いてもよい。
また、肝細胞を用いることができ、ヒト由来または動物から肝細胞を単離する方法は、公知の方法に従って行うことができる。肝細胞の由来は胎児、新生児、成体のいずれであってもよい。また、胚性幹(ES) 細胞および誘導多能性(iPS)幹細胞、または臍帯血、骨髄、脂肪、血液由来組織性幹細胞から分化誘導される肝細胞を用いることもできる。これらの細胞から肝細胞を誘導する方法は公知の方法に従って行うことができる。
【0033】
[細胞接着性材料(A)]
本発明の細胞接着性材料(A)とは、細胞接着性を有するものであれば、いかなるものも使用できるが、細胞外マトリクスおよび/または合成基質を使用することが好ましい。
【0034】
[細胞外マトリクス]
細胞外マトリクスとしては、具体的には、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ビトロネクチン、カドヘリンからなる少なくとも1種のものが挙げられる。
【0035】
好ましくは、コラーゲン、ラミニン、ヒアルロン酸及びフィブロネクチンである。
コラーゲンは、結合組織と基底膜の主要なタンパク質成分で、伸張強度と組織分布の異なる多数の型が存在している。多くの体内組織中の構造の硬さや柔軟さ、構造変化は、細胞の制限や区分化と同様に、コラーゲン組成の変化によるものである。コラーゲンの市販品としては、Collagentype i~v(ニッピ社製の酸抽出コラーゲン)、ペプシン可溶化コラーゲン(ニッピ社製)、AteloCellシリーズ(高研社製のウシ皮由来の高純度コラーゲン酸性溶液)、Cellmatrixシリーズ(新田ゼラチン社製の豚腱由来のペプシン可溶化コラーゲン)、セルキャンパスシリーズ(多木化学社製の鱗由来コラーゲン)等が利用可能である。
【0036】
ラミニンとは、ほとんどの組織の基底膜に存在している糖タンパク質である。α1、β1、γ1の3本鎖から構成される。コラーゲンやヘパラン硫酸と結合して、基底膜の構成および機能を担っている。培養系においては主に上皮細胞、内皮細胞、肝細胞等を接着し、また、神経細胞の軸索伸展を促進し、分化、走化性などにも関わっている。癌の転移能と関係が深く、高転移性の癌細胞は細胞表面にラミニンレセプターが多くなることが知られている。ラミニンの市販品としては、マウスEHS肉腫由来のラミニン溶液(富士フイルム和光純薬社)、Recombinant Human Laminin(オリエンタル酵母社)、通常ヒトES細胞で発現分泌されるラミニンLaminin521(BioLamina社製)、i Matrix-511(タカラバイオ社製:ラミニンのα鎖、β鎖、γ鎖のC末端領域から構成されるもの)等が利用可能である。
ヒアルロン酸とは、真皮などの皮下組織に多く含まれ、細胞間で水分を保持したり、緩衝剤として機能している。また、硝子体などの眼球組織にも多く含まれ、緩衝剤として機能したり、組織の形状を保つ役割をしている。また、関節液や軟骨のような関節組織にも多く含まれ、潤滑剤や緩衝剤として機能している。このため、ヒアルロン酸は、医薬品や化粧品の成分として多用されている。
ヒアルロン酸の市販品としては、ヒアロオリゴ(キユーピー社:低分子ヒアルロン酸)バイオヒアロ12、アセチル化ヒアルロン酸(資生堂社)、ヒアルロン酸(東京化成工業社)が挙げられる。
フィブロネクチンとは、血漿フィブロネクチン、細胞性フィブロネクチン、胎児性フィブロネクチン、単鎖フィブロネクチンの4種類がある。フィブロネクチンは、細胞外マトリクスを形成する糖タンパク質で、ポリペプチドが二量体を形成している。
フィブロネクチンの市販品としては、ヒト血漿由来のフィブロネクチン溶液(富士フイルム和光純薬社製)、ウシ血漿由来のフィブロネクチン溶液(シグマアルドリッチ社)等が利用可能である。
【0037】
これらの細胞外マトリクスは単独で使用してもよく、複数を混合して使用することもできる。複数を混合して使用する市販品としては、マトリゲル(コーニング社製:ラミニン、ivコラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び成長因子の混合物)等が利用可能である。
【0038】
[合成基質]
合成基質としては、オリゴペプチド担持ポリマー、ポリリジン、ヘパリン模倣ヒアルロン酸が挙げられる。オリゴペプチド担持ポリマーは、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を有するオリゴペプチドをポリマーに共有結合させた基質である。市販品としてSynthemaxシリーズ(コーニング社製)等が利用可能である。ポリリジンは、必須アミノ酸のリジン分子をペプチド結合させた基質である。市販品としてε-ポリ-L-リジン コーティング溶液(コスモ・バイオ社製)等が利用可能である。ヘパリン模倣ヒアルロン酸はヒアルロン酸の水酸基をスルホン酸へ置換処理した基質である。市販品としては硫酸化ヒアルロン酸(東京化成工業社製)等が利用可能である。
【0039】
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)100質量%中の細胞接着性材料(A)の含有量は、0.01質量以上%、10質量以下%であり、0.01質量%以上%、8質量以下%含が好ましい。細胞接着性材料(A)の含有量を0.01質量%以上とすることで、構造による細胞接着促進の効果を発揮することができる。細胞接着性材料(A)を10質量%以下とすることで、インクジェットヘッドからの吐出が良好となり、高精細なパターンを形成することができる。
【0040】
また、本発明の細胞接着制御インクジェットインキ(I)は、細胞接着性材料(A)の以外の成分を含んでもよい。
【0041】
[表面張力調整剤(B)]
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)は、表面張力調整剤(B)を含有することが好ましい。表面張力調整剤(B)を含有することでインクジェットヘッドからの吐出性や基材に対する濡れ性を制御できる。
表面張力調整剤(B)としては、界面活性剤や消泡剤、湿潤剤、湿潤調整剤が挙げられ、細胞毒性の観点から厚生労働省が発行する「医薬品添加物規格2018」に記載のものが好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、セタノール、コレステロール、アルキルアリルポリエーテルアルコール、N-ココイル-N-メチルアミノエチルスルホン酸ナトリウム、ラウリルピロリンドン等が挙げられる。消泡剤としては、エタノール、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル等が挙げられる。湿潤剤としては、アジピン酸イソブチル、アラントイン、塩化マグネシウム、ジブナートナトリウム、尿素、グリセリン、ジオクチルソジウムスルホサクシネート等が挙げられる。湿潤調整剤としては、オリブ油、水酸化ナトリウム、乳酸、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0043】
この中でも、ショ糖脂肪酸エステルを含有することが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルとしてはリョートーシュガーエステルシリーズ(三菱ケミカルフーズ社製)、DKエステルシリーズ(第一工業製薬社製)などが挙げられる。
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)100質量%中の表面張力調整剤(B)の含有量は、0.001質量以上%、10質量以下%であることが好ましく、0.01質量以上%、1.0質量以下%であることがより好ましい。
表面張力調整剤(B)の含有量を0.001質量%以上とすることで、インクジェットヘッドからの吐出性や基材に対する濡れ性の制御効果を発揮することができる。表面張力調整剤(B)を10質量%以下とすることで、高い生体適合性を確保することができる。
【0044】
[溶媒(C)]
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)は、溶剤(C)を含有することが好ましい。溶剤(C)を含有することでインクジェットヘッドの粘度や基材に対する濡れ性を好適に制御できる。
溶媒(C)としては、基材を溶解させない点から、水溶性溶媒を使用するのが好ましく、グリコールエーテル類、ジオール類がよく、中でも(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル、炭素数3~6のアルカンジオールが効果的である。これらは、インクジェット印刷の際の乾燥が速く、正確な印字を実現することができる。また、沸点が高いため、保湿剤としての機能も備えている。グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。ジオール類の具体例としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。この中でも効果が高いのは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールである。これらの溶剤は単独で使用してもよく、水や酢酸水溶液、乳酸水溶液、などの水溶液を複数混合して使用することもできる。
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)100質量%中の溶剤(C)の含有量は、90質量%以上であることがより好ましい。
溶剤(C)の含有量を90質量%以上とすることで、インクジェットヘッドからの吐出性や基材に対する濡れ性の制御効果を発揮することができる。
【0045】
[(I)の粘度、表面張力]
本発明の細胞培養用インクジェットインキは、インクジェットヘッドからの吐出性、着弾後のドット形成の信頼性とのバランスの観点から、25℃における粘度は50mPa・s以下である。また、2mPa・s以上20mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上15mPa・s以下がより好ましい。
同様の観点から、25℃における表面張力が20mN/m以上、50mN/mである。また、25mN/m以上40mN/m以下であることが好ましい。粘度、表面張力は、樹脂(A)の配合量によって適宜調整すればよく、さらに、表面張力調整剤や溶剤等を用いて適宜調整すればよい。
なお、表面張力は、協和界面科学社製 自動表面張力計CBVP-Zを用いて、25℃の環境下で白金プレートをインキで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。粘度は、東機産業社製TVE25L型粘度計を用いて、25℃環境下で、50rpm時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0046】
[(I)の製造方法]
本発明の細胞培養用インクジェットインキ(I)は公知の方法によって製造することができる。具体的に例示すると、所望の細胞培養用インクジェットインキ(I)特性を発揮するように、細胞接着性材料(A)に対し、表面張力調整剤(B)、溶媒(C)を添加したのち、フィルター等により粗大粒子を除去することで得ることができる。
【0047】
<細胞培養用部材>
本発明における細胞培養用部材は、培養面に細胞接着パターンを有することで、細胞接着性を制御でき、更に生体内の細胞配向を再現することができる。
本発明における細胞培養用部材は、パターンの作製方法の違いから、以下の4つの形態に分けることができる。
本発明の細胞培養用部材を製造する方法としては特に限定されないが、パターンの印刷精度の観点から、細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し、培養層を形成する方法、細胞培養用インクジェットインキ(I)および細胞非接着性組成物(D)をインクジェット印刷し、培養層を形成する方法が好ましい。
【0048】
[第一の形態]
まず、第一の形態における細胞培養用部材は、基材上に、細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層を有するものである。
第一の形態における細胞培養用部材の製造方法としては、例えば、細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェットキャリッジに充填し、細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェットヘッドから吐出し、基材上に細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し、培養層を形成する方法が挙げられる。
【0049】
[第二の形態]
また、本発明の第二の形態における細胞培養用部材は、基材上に、細胞非接着層、細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層の順で積層されてなるものである。
細胞非接着層とは、細胞非接着性組成物(D)をコーティングしたものであることが好ましい。細胞非接着性組成物(D)は、細胞非接着性を有するものであれば特に制限されないが、インキの形態であることが好ましい。また、細胞非接着性樹脂(D1)を含むことが好ましい。細胞非接着性樹脂(D1)としては、細胞非接着性を有する樹脂であれば特に制限されないが、ポリエチレンオキサイド構造を有する樹脂、ベタイン構造を有する樹脂を使用することが好ましい。具体的に、ポリエチレンオキサイド構造を有する樹脂としては、水/1-オクタノール分配係数(cLogPow)の平均値が0以上、2以下であるモノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分とポリエチレンオキサイド部分とを有するブロック重合体や、市販品としてはPluronicシリーズ(BASF社製)等が挙げられる。ベタイン構造を有するポリマーとしては、Lipidureシリーズ(日油社製)、RAMレジンシリーズ(大阪有機化学社製)等が挙げられる。
ポリエチレンオキサイド構造の含有量は、細胞非接着性樹脂(D1)中に0.1質量%~20質量%であることが好ましく、1.0質量%~10質量%がより好ましい。この範囲であると、筋芽細胞を培養する際、細胞培養用部材の表面から細胞が剥離しにくくなりコンフルエント化することが容易である。 細胞非接着性組成物(D)は、細胞非接着性樹脂(D1)を含むこと以外に、溶媒を含むことが好ましい。また、細胞非接着性樹脂(D1)の含有量は、細胞非接着性組成物(D)100質量%中、0.1~50質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。この範囲であると、細胞培養用部材の表面の平均表面粗さRaを好適な範囲に調整することが容易である。
また、細胞非接着性組成物(D)には架橋剤を含むことができる。これにより、筋芽細胞を培養する際、細胞培養用部材の表面から細胞が剥離しにくくなりコンフルエント化することが容易である。 架橋剤を含む場合は、細胞非接着性樹脂(D1)はカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基等の架橋点となる官能基を有することが好ましい。
【0050】
細胞非接着性組成物(D)を基材にコーティングする方法としては特に限定されない。細胞非接着性組成物(D)を基材にコーティングする方法は、塗工および平均表面粗さRaの調整の容易さの観点からスピンコート方法が好適であるが、刷毛、浸漬、ローラ、スプレー、注入、塗工機など種々の塗布方法により基材に溶液を塗布することもできる。塗布後、溶媒を除去した後の塗膜の膜厚は限定されない。溶媒はコーティングにより表面層を形成可能なものであり、かつ基材を浸食しないものであれば特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKという)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の溶媒等が挙げられる。また、溶媒(C)で記載したものも使用することができる、
【0051】
第二の形態における細胞培養用部材の製造方法は、例えば、基材上に細胞非接着性組成物(D)をコーティングし細胞非接着層を形成した後、細胞非接着層上に、細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し、培養層を形成する方法が挙げられる。
【0052】
[第三の形態]
更に、本発明の第三の形態における細胞培養用部材は、基材上に、細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着層、細胞非接着パターン層の順で積層されてなるものである。
細胞非接着パターン層とは、細胞接着層上に、細胞非接着性組成物(D)をインクジェット印刷により形成されたものであることが好ましい。細胞非接着性組成物(D)は、粘度が50mPa・s以下(25℃)であり、表面張力が20~50mN/mであること好ましい。細胞非接着性組成物(D)100重量%中の細胞非接着性樹脂(D1)の含有量は、0.1~50質量%であることが好ましい。また、細胞非接着性組成物(D)は、細胞培養用インクジェットインキ(I)と同様に、表面張力調整剤(B)、溶媒(C)を含有することが好ましい。表面張力調整剤(B)、溶媒(C)を含有することでインクジェットヘッドからの吐出性や基材に対する濡れ性を制御できる。
【0053】
第三の形態における細胞培養用部材の製造方法としては、基材上に細胞培養用インクジェットインキ(I)をインクジェット印刷し細胞接着層を形成した後、細胞接着層上に、細胞非接着性組成物(D)をインクジェット印刷し、培養層を形成する方法が挙げられる。
【0054】
[第四の形態]
また、本発明の第四の形態における細胞培養用部材は、基材上に、細胞培養用インクジェットインキ(I)により形成された細胞接着パターン層と、細胞非接着パターン層とを有するものである。
【0055】
細胞非接着パターン層は、第三の形態で示したものと同じであり、細胞非接着性組成物(D)の組成、粘度、表面張力、細胞非接着性樹脂(D1)の含有量等の特性も同様である。これにより、細胞非接着性組成物(D)のインクジェットヘッドからの吐出性や基材に対する濡れ性を制御できる。
第四の形態における細胞培養用部材の製造方法は、例えば、細胞培養用インクジェットインキ(I)と細胞非接着性組成物(D)をそれぞれ異なるインクジェットキャリッジに充填し、細胞培養用インクジェットインキ(I)、細胞非接着性組成物(D)をそれぞれ、インクジェットヘッドから吐出し、基材上にインクジェット印刷し、培養層を形成する方法が挙げられる。
【0056】
細胞培養用インクジェットインキ(I)、細胞非接着性組成物(D)を同時にインクジェット印刷し、パターン形成することで、細胞培養用部材の表面の平均表面粗さRaを好適な範囲に調整することが容易になり、より精度よく細胞の接着領域と非接着領域を分けることができ、生体内の細胞配向を再現することができるようになるため、本発明においては、細胞培養用部材の好ましい形態である。
【0057】
[インクジェット印刷]
本発明におけるインクジェット印刷としては、基材に対し細胞培養用インクジェットインキ(I)、及び/または細胞非接着性組成物(D)を1回だけ吐出して印刷するシングルパス方式、記録媒体の最大記録幅の間を、記録媒体の搬送方向と直行する方向に短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら記録を行うシリアル型方式、の何れを採用してもよい。
【0058】
[インクジェット印刷装置]
またインクジェット印刷装置としては、細胞培養用インクジェットインキ(I)、または細胞非接着性組成物(D)を吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドから吐出されたものを乾燥させる乾燥工程を備える必要がある。インクジェットヘッドからインキが吐出されると、吐出された細胞培養用インクジェットインキ(I)、または細胞非接着性組成物(D)は基材上に着弾しパターンが形成され、パターンは基材が搬送されるに従い、乾燥装置内に搬送され、乾燥処理が行われる。
【0059】
[インクジェット法]
インクジェット法には特に制限は無く、公知の方法、例えば静電誘引力を利用してインキを吐出させる電荷制御方法、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインキに照射して放射圧を利用しインキを吐出させる音響インクジェット方式、及びインキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等の何れであってもよい。またインクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニアス方式でも構わない。さらに吐出法式としては、電気‐機械変換方式(例:シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアモード型、シェアードウォール型等)、電気‐熱変換方式(例:サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例:電解制御型、スリットジェット型等)、及び放電方式(例:スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げる事ができるが、何れの吐出方式を用いても構わない。なお、インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する事ができる。
インクジェット法によって形成されるパターンの形状については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する事ができる。具体的にはストライプ、ドット、トライアングルなどを具体例として挙げることができるが、何れのパターンでも構わない。本報告では、細胞培養時の配向性を評価するため、具体的にはストライプが好ましい。接着部と非接着部を有するストライプの線幅は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する事ができるが、接着部が30μm以上120μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましい。非接着部は10μm以上70μm以下であることが好ましく、30μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0060】
[基材]
本発明の基材は、細胞培養用に使用可能であれば特に制限されない。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ビニル-アセテート共重合体、スチレン-メチルメタアクリレート共重合体、アクリルニトリル-スチレン共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコーン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリイミドの樹脂材料からなる群から選択された1種以上の樹脂のほか、無塵紙、ガラス基材、多孔質セラミック基材、セルロース基材等が挙げられる。基材の形態は、立体的な成型体の他、シート状、プレート状、ディッシュ形状であってもよい。シート状のものとしては、フイルム、紙等が挙げられる。プレート状のものとしては、6穴、12穴、24穴、96穴等の平底プレートが挙げられる。ディッシュ形状のものとしては、直径35mm、60mm、90mm、100mm等のディッシュが挙げられる。
【0061】
基板は、シリコーン基材、多孔質セラミック基材、セルロース基材等が酸素透過性の観点からは好ましい。シリコーン基材、多孔質セラミック基材、セルロース基材等は、細胞培養用に使用可能であれば特に制限されない。好ましくはシリコーン基材であり、具体的には、シリコーン系樹脂を含む基材であり、シリコーン系樹脂としては、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンのようなポリオルガノシロキサンを主鎖とするものが挙げられる。好ましくは、ポリジメチルシロキサンである。また、このようなシリコーン基材としては、具体的には、例えば、シリコーン含有医療用デバイス、シリコーン含有培養容器、マイクロ流路を有するシリコーン基材、好ましくはシリコーン含有マイクロ流路デバイスが挙げられる。
【0062】
[酸素透過係数]
本発明の細胞培養部材は、ISO18369-4(FATT法)による酸素透過係数(Dk)が、200Barrer(1Barrer=1×10-11O2(STP)cm/cm2mmHg)以上であり、300Barrer以上であることが好ましい。
【0063】
[平均表面粗さRa]
本発明の細胞培養用部材における培養面の平均表面粗さRaは、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。本発明の培養面の平均表面粗さを1.0μmにすることにより、細胞の接着、伸展性が良好となり、配向性を示す。なお、培養面とは培養層を含む細胞培養領域の表面を意味する。
【実施例】
【0064】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
【0065】
<細胞接着制御インクジェットインキの調製>
[製造例1]
・細胞接着性材料(A-1)の調製
セルキャンパスAQ-03A(多木化学社製のコラーゲン溶液、有効成分:0.3%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞接着性材料(A-1)を得た。
[製造例2]
・細胞接着性材料(A-2)の調製
マウスEHS肉腫由来ラミニン溶液(富士フイルム和光純薬社製、有効成分:0.05%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞接着性材料(A-2)を得た。
[製造例3]
・細胞接着性材料(A-3)の調製
ヒト血漿由来フィブロネクチン溶液(富士フイルム和光純薬社製、有効成分:0.05%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞接着性材料(A-3)を得た。
[製造例4]
・細胞接着性材料(A-4)の調製
Matrigel(コーニング社製のマトリゲル溶液、有効成分:0.10%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞接着性材料(A-4)を得た。
[製造例5]
・細胞接着性材料(A-5)の調製
Synthemax(コーニング社製のシンセマックス溶液、有効成分:0.10%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞接着性材料(A-5)を得た。
【0066】
[製造例6]
・表面張力調整剤(B1) の調製
ショ糖ミリスチン酸エステル水溶液「リョートーシュガーエステルM1695」(三菱ケミカルフーズ社製、有効成分:99%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、表面張力調整剤(B1)を得た。
[製造例7]
・表面張力調整剤(B2) の調製
ショ糖ラウリル酸エステル水溶液「リョートーシュガーエステルL1695」(三菱ケミカルフーズ社製、有効成分:99%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、表面張力調整剤(B2)を得た。
[製造例8]
・表面張力調整剤(B3) の調製
ショ糖ステアリン酸エステル水溶液「リョートーシュガーエステルS1670」(三菱ケミカルフーズ社製、有効成分:99%)の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、表面張力調整剤(B3)を得た。
【0067】
[製造例9]
・溶媒(C1)の調製:
5mmol/Lの酢酸水溶液、1,2-プロパンジオールを重量比2:1で混合し、溶
媒(C1)を得た。
[製造例10]
・溶媒(C2)の調製:
5mmol/Lの酢酸水溶液及び1,2-ヘキサンジオールを重量比2:1で混合し、溶媒(C2)を得た。
[製造例11]
・溶媒(C3)の調製:
5mmol/Lの酢酸水溶液及びジエチレングリコールジエチルエーテルを重量比2:1で混合し、溶媒(C3)を得た。
【0068】
[実施例1]
・細胞培養用インクジェットインキ(I-1)の調製
細胞接着性材料(A-1)を0.18質量部、表面張力調整剤(B1)を0.01質量部、溶媒(C1)を99.81質量部、シェイカーで撹拌を行い、十分に均一になるまで攪拌した。その後、目開き1.0μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しインクジェットインキ(I-1)を作成した。
【0069】
[実施例2~5]、[比較例1~3]
・細胞培養用インクジェットインキ(I-2~8)の調製
表1の配合比になるように変更することで粘度および表面張力を調整した以外は、実施例1と同様の方法で細胞培養用インクジェットインキ(I-2~8)を調製した。
【0070】
[製造例12]
・細胞非接着性樹脂(D1-1)の調製
特開2017-104027の実施例2に記載の方法で得たポリエチレンオキサイド構造を有する樹脂溶液の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-1)を得た。
[製造例13]
・細胞非接着性樹脂(D1-2)の調製
BASF社製のPluronicF-127水溶液(有効成分10%)の溶媒を真空ポンプで溶媒を完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-2)を得た。
[製造例14]
・細胞非接着性樹脂(D1-3)の調製
大阪有機化学社製のRAMレジンー1000溶液(有効成分30%)の溶媒を真空ポンプで溶媒を完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-3)を得た。
[製造例15]
・細胞非接着性樹脂(D1-4)の調製
日油社製のLipidure―PMB(有効成分5%)の溶媒を真空ポンプで溶液を完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-4)を得た。
【0071】
[製造例16]
特開2016-112396の製造例8に記載の方法に従い、重合開始剤としてVPE0201(和光純薬工業社製:マクロアゾ開始剤)を5.6重量部に変更してポリエチレンオキサイド構造を10質量%含む樹脂溶液を得た。樹脂(D1-5)のモノマー組成はメトキシエチルアクリレート:メタクリル酸=49.4:0.6であった。樹脂溶液の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-5)を得た。
【0072】
[製造例17]
製造例16の方法に従い、VPE0201の配合量を変更してポリエチレンオキサイド構造を20質量%含む樹脂溶液を得た。次いで樹脂溶液の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-6)を得た。
【0073】
[製造例18]
製造例16の方法に従い、VPE0201の配合量を変更してポリエチレンオキサイド構造を0.1質量%含む樹脂溶液を得た。次いで樹脂溶液の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-7)を得た。
【0074】
[製造例19]
製造例16の方法に従い、VPE0201の配合量を変更してポリエチレンオキサイド構造を1.0質量%含む樹脂溶液を得た。次いで樹脂溶液の溶媒を真空ポンプで完全に揮発させ、細胞非接着性樹脂(D1-8)を得た。
【0075】
・細胞非接着性組成物(D)の調製
[製造例20]
・細胞非接着性組成物(D-1)の調製
細胞非接着性樹脂(D1-1)を16.00質量部、表面張力調整剤(B1)を0.01質量部、溶媒(C1)を83.99質量部、シェイカーで撹拌を行い、十分に均一になるまで攪拌した。その後、目開き1.0μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去し細胞非接着性組成物(D―1)を作成した。
【0076】
[製造例21~24]
・細胞非接着性組成物(D-2~5)の調製
細胞非接着性樹脂(D1-1)に変えて表1に記載の細胞非接着性樹脂を使用し、表2の配合比に変更することで粘度および表面張力を調整した以外は、製造例20と同様の方法で細胞非接着性組成物(D-2~5)を調製した。
[製造例25~28]
・細胞非接着性組成物(D-6~9)の調製
細胞非接着性樹脂(D1-1)に変えて製造例16~19で得た細胞非接着性樹脂および架橋剤としてV02(日清紡社製、水性カルボジイミド基含有化合物)を固形分として100:13.5の質量比で混合し、表2の配合比に変更することで粘度および表面張力を調整した以外は、製造例20と同様の方法で細胞非接着性組成物(D-6~9)を調製した。
【0077】
<評価―1>
[(I)、(D)の表面張力]
表面張力は、協和界面科学社製の自動表面張力計CBVP-Zを用いて、25℃の環境下で白金プレートを細胞培養用インクジェットインキ(I-1~8)、細胞非接着性組成物(D-1~9)で濡らした時の表面張力を確認することにより測定した。結果を表1、2に示す。
【0078】
[(I)、(D)の粘度]
粘度は、細胞培養用インクジェットインキ(I-1~8)、細胞非接着性組成物(D-1~9)それぞれ、1mLを、東機産業社製TVE25L型粘度計に入れ、25℃環境下で、50rpm時の粘度を読み取ることにより測定した。結果を表1、2に示す。
【0079】
[(I)、(D)の吐出性評価]
パターニングジェット(Tritec社製インクジェット評価機)のキャリッジAに調製した細胞培養用インクジェットインキ(I)、細胞非接着性組成物(D)を充填し、パターニングジェットの吐出観察機能を用いて充填直後の飛翔観察を行い、ノズルから吐出後、正常に飛翔できるか検証した。下記指標で評価した結果を表1、2に示す。
◎:球形を保って直進し、規則的に吐出している。吐出性が良好である。
〇:落下時に尾を引いて、吐出した。吐出性がやや良好である。
△:吐出直後に2滴以上に分割し、吐出した。使用が可能となる。
×:不規則に吐出した。吐出性が不良である。
【0080】
[(I)、(D)の細胞毒性評価]
厚生労働省が発行するガイドライン「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(薬食機発0301第20号)の細胞毒性に沿って、下記の1~7の順で、細胞培養用インクジェットインキまたは細胞非接着性組成物を用いて、表1、2に記載のサンプル(Y1~17)を作製し細胞毒性を評価した。コロニー形成率の値でグレード分けした評価結果を表1、2に示す。
【0081】
1.サンプル(Y1~17)、陰性/陽性対照の準備:
・(Y1~17):面積が30cm2の未処理ポリイミドフイルム(東レ・デュポン株式会社製 カプトン200EN)に、細胞培養用インクジェットインキ(I-1~8)、細胞非接着性組成物(D-1~9)を2mL添加し、3000rpmで30秒間スピンコートした。室温で24時間乾燥し、コーティング剤で内面を被覆したサンプル(Y1~17)を調製した。
・陰性/陽性対照:陰性対照材料としては、高密度ポリエチレンシート(一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所提供)を使用した。陽性対照材料Aとしては、0.1%ZDEC含有ポリウレタンフィルム、陽性対照材料Bとしては、0.25%ZDBC含有ポリウレタンフィルムをそれぞれ使用した。
・ブランクは、マルチプルウェルプレート24ウェル平底3526(Falcon製)を使用した。
【0082】
2.抽出液の調製:
サンプル(Y1~17)、陰性、陽性対照材料A、Bを片面の面積が15cm2となるよう調整し、15mL遠沈管にそれぞれ入れた。MO5培地(10%ウシ胎児血清(FBS;BioWest社製)を外割5質量%で加えたE-MEM培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)5mLを加え、37℃、5%CO2インキュベーターに24時間保管した。
【0083】
3.細胞の播種:
凍結保存したV-79細胞(チャイニーズハムスター肺由来線維芽細胞)を37℃で解凍後、MEM10培地(FBSを外割10質量%で加えたE-MEM培地)に移し、100細胞/mLになるように、50mL遠沈管中で希釈した。マルチプルウェルプレート24ウェル平底3526(Falcon社製)に0.5mLずつ播種し、37℃、5%CO2インキュベーターに24時間保管した。
【0084】
4.細胞の培養:
遠沈管を抽出液につき、5本ずつ用意し、抽出液が50%、25%、12.5%、6.25%、3.13%になるように、MO5培地で希釈した濃度違いの抽出液を用意した。続いて、マルチプルウェルプレート内のMEM10培地をアスピレーターで吸い取り、濃度違いの抽出液を0.5mL加えた。ブランクではMEM10培地をアスピレーターで吸い取り、0.5mLずつMO5培地を加えて、37℃、5%CO2インキュベーターに7日間保管した。
【0085】
5.固定化:
7日間培養したマルチプルウェルプレート内のMO5培地をアスピレーターで吸い取った。マイルドホルム10nM(富士フイルム和光純薬社製)を各ウェルに0.5mLずつ加え、1分後アスピレーターで吸い取った。
【0086】
6.染色:
ギムザ染色液(富士フイルム和光純薬社製)とリン酸緩衝生理食塩水(PBS) の質量比を1:9で混合して染色試薬を調製した。各ウェルに染色試薬を0.5mLずつ加え、30分程静置し、アスピレーターで吸い取った。PBS0.5mLで洗浄し、風乾した。
【0087】
7.コロニー数計測:
形成したコロニーをカウントした。ブランクのコロニー数をコントロール群とし、その3回の平均値を100%とした。サンプル(Y1~17)、陰性/陽性対照の抽出液によって得られたコロニー数を濃度ごとに平均し、コントロール群のコロニー数に対する割合IC50を求めた。
・試験成立条件:下記のA~Cにより、本実験は成立していたと判断した。
A:コントロール群でのコロニー形成率が良好であった。
B:陰性対照材料でのコロニー形成率はコントロール群と同等であった。
C:陽性対照材料A及びBのIC50が、それぞれ、7%未満及び80%未満であった。
IC50とは、コロニー形成率が50%となる抽出液濃度である。
・コロニー形成率の値でグレード分けの基準:
○:IC50>30% 細胞毒性が陰性となる。
×:30%≧IC50 細胞毒性が陽性となる。
・評価結果を表1、2に示す。
【0088】
【0089】
<結果>
表1に示す[実施例1~5]の細胞培養用インクジェットインキ(I-1~5)は、粘度と表面張力の関係から吐出性が良好となった。また、細胞毒性が陰性であることから細胞へ悪影響を及ぼさないことを示した。更に、表2に示す細胞非接着性組成物(D-1~9)も、粘度と表面張力の関係から吐出性が良好となり、細胞毒性が陰性であることから細胞へ悪影響を及ぼさないことを示した。
一方、[比較例1、2]の細胞培養用インクジェットインキ(I-6、7)では、表面張力が高すぎる、または低すぎるため、インクジェットインキがノズルからインキが不規則に吐出してしまい、インキとして使用が不可であった。また、[比較例3]の細胞培養用インクジェットインキ(I-8)では、粘度が高すぎるため、インクジェットインキが吐出直後に2滴以上に分割し、吐出してしまった。
【0090】
<細胞培養用部材の調製(ポリスチレン基材)>
[実施例6]
・細胞培養用部材(S-1)の調製
マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに実施例1のインクジェットインキ(I-1)を充填し、直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の内面に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養部材(S-1)を得た。
【0091】
[実施例7]、[比較例5]
・細胞培養部材(S-2)、(S-19)の調製
表3に示す材料を使用した以外は、(S-1)と同様の方法で細胞培養用部材(S-2)、(S-19)を調製した。
【0092】
[実施例8]
・細胞培養部材(S-3)の調製
直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の内面に、細胞非接着性組成物(D-1)を1mL添加し、3000rpmで30秒間スピンコートした。室温で24時間乾燥した後、マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに(I-3)を充填し、細胞非接着層上に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養部材(S-3)を得た。
【0093】
[実施例9~12]
・細胞培養用部材(S-4~7)の調製
表3に示す材料を使用した以外は、(S-3)と同様の方法で細胞培養用部材(S-4~7)を調製した。
【0094】
[実施例13]
・細胞培養用部材(S-8)の調製
マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに、細胞培養用インクジェットインキ(I-1)を充填し、線幅0μmの設計間隔にて、直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の内面に印刷した後、室温で24時間乾燥した。その後、マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに細胞非接着性組成物を充填し、線幅50μmの設計間隔にて、細胞接着層の上に印刷し、細胞培養用部材(S-8)を得た。
【0095】
[実施例14~17]
・細胞培養用部材(S-9~12)の調製
表3に示す材料を使用した以外はで、(S-8)と同様の方法で細胞培養用部材(S-9~12)を調製した。
【0096】
[実施例18]
・細胞培養用部材(S-13)の調製
マイクロジェット社製BioSpotインクジェット評価機のキャリッジAに、細胞培養用インクジェットインキ(I-2)、キャリッジBに細胞非接着性組成物(D-1)をそれぞれに充填し、同時に線幅50μmの設計間隔にて、直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の内面に印刷し、細胞培養用部材(S-13)を得た。
【0097】
[実施例19~22]
・細胞培養用部材(S-14~17)の調製
表3に示す材料を使用した以外はで、(S-13)と同様の方法で細胞培養用部材(S-14~17)を調製した。
【0098】
[比較例4]
・細胞培養用部材(S-18)
直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)を準備した。
【0099】
[比較例6]
・細胞培養用部材(S-20)の調製
細胞培養用インクジェットインキ(I-8)を直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の上に3000rpmで30秒間スピンコートし、室温で24時間乾燥した後、細胞培養用部材(S-20)を作成した。
【0100】
<評価-2>
[平均表面粗さRa]
細胞培養用部材の培養面の平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)を、JIS B 0601により測定した。平均表面粗さRaは、平均線からの絶対偏差の平均値を表す。評価結果を表3に示す。
[判断基準]
〇:平均表面粗さ≦0.5μm 平滑な表面
△:0.5μm<平均表面粗さ≦1.0μm 平滑性は劣るが、使用可能
×:1.0μm<平均表面粗さ 凹凸により、細胞の動きが制限され使用不可
【0101】
[細胞培養用部材のパターン:幅(L)と幅(S)の間隔]
・細胞培養用部材(S-1、2、19)のパターン:
(I)によって形成した細胞接着パターンの幅;L(μm)と、基材の幅;S(μm)を透過式光学顕微鏡10倍で写真撮影し、LとSの幅を計測することによって評価した。
・細胞培養用部材(S-3~17)のパターン:
(I)によって形成した細胞接着パターンの幅;L(μm)と、(D)によって形成した細胞非接着パターンの幅;S(μm)を透過式光学顕微鏡10倍で写真撮影し、LとSの幅を計測することによって評価した。
なお、幅L(μm)、幅S(μm)は設計幅の50μmに近い程、印刷精度が高いことを示す。評価結果を表3に示す。
【0102】
[細胞パターンの形成(細胞配向の形態)]
10%FBS-DMEM培地にマウス線維芽細胞用細胞株(NIH/3T3細胞)を加え、NIH/3T3の濃度が80,000cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。得られた細胞懸濁液2mLを、上記細胞培養用部材(S1~20)に播種した。その後、5%CO2/37℃のインキュベーターで7日目まで培養した。
細胞が配向するか確認するために、播種してから直後、7日後の細胞培養状態を透過式光学顕微鏡4倍で写真撮影し、播種直後の細胞形態と、比較することによって、以下の基準で判定し、結果を表3に示した。
【0103】
図5は、本発明の実施例において作製した細胞培養用部材で播種直後、7日目の細胞培養後で観察された細胞配向形態を表した透過式光学顕微鏡写真である。
図5において、各数字のパネルは以下の特徴を有するものである。
1:細胞を播種した直後、細胞がランダムで細胞培養用部材の上に分散していることが観察される。
2:7日目の細胞培養後、接着性を有する線上に細胞が沿うように接着、伸展し、配向していることが観察される。細胞配向が優れている。
3:7日目の細胞培養後、接着性を有する線上に細胞が接着、伸展するが、不規則に配向していることが観察される。細胞配向が不良である。
4:7日目の細胞培養後、細胞が不均一に接着、伸展し、配向しないことが観察される。細胞配向が不良である。
【0104】
【0105】
表3に示す実施例の細胞培養用部材(S-1~17)は、平均粗さRaが1.0μm以下となり、7日目の細胞培養後、視野に細線上に細胞が沿うように接着、伸展し、配向していることが観察されたことに対して、[比較例4]では細胞が接着せず不均一な塊となり、配向が確認できなかった。また、[比較例5]では細胞培養用インクジェットインキ(I-8)の粘度が高いため、設計パターンの印刷精度が低く、その結果一部ではパターンから外れ、不規則に並び、配向性がない箇所が存在した。[比較例6]では視野に細胞が不均一に接着し、配向しないことが観察された。
【0106】
<培養用部材の調製(シリコーン基材)>
[実施例23]
・細胞培養用部材(S-21)の調製
マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに実施例1のインクジェットインキ(I-1)を充填し、未処理のシリコーン製6ウェルプレート(ベセル社製のVECELL(登録商標))の一つのウェルの内面に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養用部材(S-21)を得た。
【0107】
[実施例24]
・細胞培養用部材(S-22)の調製
表4に示す材料を使用した以外は、(S-21)と同様の方法で細胞培養用部材(S-22)を調製した。
【0108】
[実施例25]
・細胞培養用部材(S-23)の調製
未処理のシリコーン製6ウェルプレート(ベセル社製のVECELL(登録商標))の一つのウェルの内面に、細胞非接着性組成物(D-1)を1mL添加し、3000rpmで30秒間スピンコートした。室温で24時間乾燥した後、マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに(I-3)を充填し、細胞非接着層上に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養用部材(S-23)を得た。
【0109】
[実施例26、27]
・細胞培養用部材(S-24、25)の調製
表4に示材料を使用した以外は,(S-23)と同様の方法で細胞培養用部材(S-24、25)を調製した。
【0110】
[実施例28]
・細胞培養用部材(S-26)の調製
マイクロジェット社製BioSpotインクジェット評価機のキャリッジに、細胞培養用インクジェットインキ(I-1)を充填し、未処理のシリコーン製6ウェルプレート(ベセル社製のVECELL(登録商標))の一つのウェルの内面に,線幅0μmの設計間隔にて印刷した後、室温で24時間乾燥した。その後、マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに細胞非接着性を有する組成物(D-1)を充填し、細胞接着層の上に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養用部材(S-26)を得た。
【0111】
[実施例29、30]
・細胞培養用部材(S-27、28)の調製
表4に示す材料を使用した以外は、(S-26)と同様の方法で細胞培養用部材(S-27、28)を調製した。
【0112】
[実施例31]
・細胞培養用部材(S-29)の調製
マイクロジェット社製BioSpotインクジェット評価機のキャリッジAに、細胞培養用インクジェットインキ(I-4)、キャリッジBに細胞非接着性組成物(D-2)をそれぞれに充填し、未処理のシリコーン製6ウェルプレート(ベセル社製のVECELL(登録商標))の一つのウェルの内面に,同時に線幅50μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養用部材(S-29)を得た。
【0113】
[実施例32、33]
・細胞培養用部材(S-30、31)の調製
表4に示す材料を使用した以外は、(S-29)と同様の方法で細胞培養用部材(S-30~31)を調製した。
【0114】
[比較例7]
・細胞培養用部材(S-32)
直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)を使用した。
【0115】
[比較例8]
・細胞培養用部材(S-33)の調製
未処理のシリコーン製6ウェルプレート(ベセル社製のVECELL(登録商標))の一つのウェルの内面を使用した。
【0116】
[比較例9]
・細胞培養用部材(S-34)の調製
細胞培養用インクジェットインキ(I-1)を直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の上に3000rpmで30秒間スピンコートし、室温で24時間乾燥して細胞培養部材(S-34)を作成した。
【0117】
<評価―3>
[平均表面粗さRa]
評価―2に記載の方法で評価した。
[細胞培養用部材のパターン:幅(L)と幅(S)の間隔]
評価―2に記載の方法で評価した。
【0118】
[酸素透過係数(Dk)]
酸素透過率測定装置(201T、Rehder社)の平面電極セルを使用して、ISO18369-4(FATT法)に定められている方法により細胞培養用部材(S-21~34)の酸素透過係数(Dk)を測定した(1Barrer=1×10-11O2(STP)cm/cm2mmHg)。評価結果を表4に示す。
[判断基準]
◎:Dk≧300Barrer(極めて良好)
○:300>Dk≧200(良好)
△:200>Dk≧20(やや不良)
×:20>Dk(不良)
【0119】
[細胞活性]
細胞培養用部材(S-21~34)をエチレンオキサイドガス滅菌した後、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にウシ胎児血清(FBS)を10%添加したもの(以下、「10%FBS-DMEM培地」とも呼ぶ。)を培地とし、ヒト肝臓細胞株(Huh7細胞)を1ウェルあたり1.5×105個播種し、5%CO2/37℃のインキュベーターで5日目まで培養した。
細胞活性は、1日後、5日後にATPアッセイを行うことによって評価した。具体的には、培養後の細胞培養用部材に1mlのATP試薬(『細胞』のATP測定試薬: 東洋ビーネット社製) を添加、5回ピペッティングし、5分間室温で静置した後、100ml
の試薬・細胞溶解液を別プレートに分取し1分間撹拌した。これをMithrasLB940(Berthold社製)を用いて発光量を測定し、評価結果を表4に示す。
細胞毒性=(培養5日後の発光量) / (培養1日後の発光量)×100
〇 : 100% ≦ 細胞活性
△ :20% ≦ 細胞活性< 100%
× : 細胞活性< 20%
【0120】
[細胞パターンの形成(細胞配向の形態)]
10%FBS-DMEM培地にラットの肝臓から調製した肝細胞(三協ラボサービス提供のSlc/Wister。下記:肝細胞と呼ぶ。)を加え、肝細胞の濃度が8×10
4個の細胞/mlとなる細胞懸濁液を作製した。得られた細胞懸濁液2mLを、上記細胞培養用部材(S21~34)に播種した。その後、5%CO
2/37℃のインキュベーターで1日目まで培養した。
細胞が配列するか確認するために、播種してから直後、1日後の細胞培養状態を透過式光学顕微鏡4倍で写真撮影し、播種直後の細胞形態と、比較することによって、以下の基準で判定した。評価結果を表4に示す。
また、
図6は、本発明の実施例において作製した細胞培養用部材で播種直後、1日目の細胞培養後で観察された細胞配列の形態を表した模式図である。
図6において、各数字の模式図は以下の特徴を有するものである。
1:細胞を播種した直後、視野に細胞がランダムで細胞培養用部材の上に分散していることが観察される。
2:細胞培養1日後、接着性を有する線上に細胞が沿うように接着し、配列していることが観察される。細胞の配列が優れている。
3:細胞培養1日後、接着性を有する線上に細胞が接着するが、不規則に配列していることが観察される。細胞の配列が良好である。
4:細胞培養1日後、細胞が不均一に接着し、配列しないことが観察される。細胞の配列が不良である。
【0121】
【0122】
表4に示す実施例で使用している細胞培養部材(S-21~31)は、平均粗さRaが1.0μm以下となり、印刷後の幅L(μm)と幅S(μm)は約50μmであり、印刷精度が高いことを示した。また、酸素透過性は良好であったため、ATPアッセイによる細胞活性は良好であった。更に、培養の1日後、視野に細線上に細胞が沿うように接着し、配列していることが観察された。
一方、比較例7で使用している細胞培養部材(S-32)は、酸素透過が低く、部材の底面から細胞層への十分な酸素を供給でなかったため、ATPアッセイによる細胞活性や細胞配列の形態に悪影響を与えた。また、比較例8で使用している細胞培養部材(S-33)は、シリコーン基材上に、細胞培養用インクジェットインキにより形成されてなるパターン層を有しないため、1日目の細胞培養後、細胞が不均一に接着し、配列しないことが観察され、細胞活性が低かった。更に、比較例9で使用している細胞培養部材(S-34)も、シリコーン基材上に細胞培養用インクジェットインキにより形成されてなるパターン層を有しないため、細胞が不均一に接着し、配列しないことが観察された。
【0123】
<筋芽細胞培養用部材の調製>
[実施例34、35]
・筋芽細胞培養用部材(S-1、S-2)の調製
実施例6、7と同様に、細胞培養用部材(S-1、S-2)を得た。
【0124】
[実施例36]
・筋芽細胞培用養部材(S-21)の調製
直径35mm未処理ディッシュ(コーニング製のポリスチレン)の内面に、細胞非接着性組成物(D-6)を1mL添加し、3000rpmで30秒間スピンコートした。室温で24時間乾燥した後、マイクロジェット社製LaboJet-500インクジェット評価機のキャリッジに(I-1)を充填し、細胞非接着層上に線幅50μm、線間隔30μmの設計間隔にて印刷し、細胞培養用部材(S-21)を得た。
【0125】
[実施例37~41]
・細胞培養用部材(S-22~27)の調製
表5に示すL/Sを形成した以外は、(S-21)と同様の方法で細胞培養用部材(S-22~27)を調製した。
【0126】
[実施例42~46]
・筋芽細胞培養用部材(S-13~17)の調製
実施例18~22と同様に、細胞培養部材(S-13~17)を得た。
【0127】
[比較例10~12]
・筋芽細胞培養用部材(S-18~20)の調製
比較例4~6と同様に、細胞培養部材(S-18~20)を得た。
【0128】
<評価―4>
[筋芽細胞の分化誘導]
マウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)をミオシン重鎖と核の蛍光染色により観察することにより筋管細胞への分化に及ぼす作用を確認した。なお、ミオシン重鎖は筋管形成過程において発現する筋収縮関連タンパク質であり、ミオシン重鎖の発現と細胞融合による多核化が筋管細胞への分化の特徴である。ミオシン重鎖の蛍光免疫染色および核染色による観察をおこなうことで、筋管細胞への分化の有無や特定方向への配向をより明確に評価でき、筋管組織の形成を観察できる。
【0129】
10%FBS-DMEM培地にマウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)を加え、C2C12の濃度が50,000cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。得られた細胞懸濁液2mLを、上記細胞培養用部材となるように播種した。
コンフルエント化した後に分化誘導培地(2%HorseSerum(Gibco)、1% 抗生物質‐抗真菌剤混合溶液(anti-anti、Gibco)添加High-glucoseDMEM(D5790、sigma)) に置換した。
筋芽細胞が配列するか確認するために、播種してから3日後、10日後の細胞培養状態を透過式光学顕微鏡4倍で写真撮影し、播種直後の細胞形態と、比較することによって、以下の基準で判定した。
図7は、本発明の実施例において作製した筋芽細胞培養用部材で播種直後、1日目の細胞培養後で観察された細胞配列の形態を表した模式図である。
図7において、各数字のパネルは以下の特徴を有するものである。
1:筋芽細胞培養時、接着性を有する線上に細胞が沿うように接着し、配列していることが確認され、基材上に細胞がコンフルエント化していることが観察される。(良)
2:筋芽細胞培養時、接着性を有する線上に細胞が沿うように接着し、配列していることが確認され、基材上に細胞がコンフルエント化していないことが観察される。(可)
3:筋芽細胞培養時、接着性を有する線上に細胞が接着するが、不規則に配列していることが確認され、基材上に細胞がコンフルエント化していることが観察される。(不良)
4:筋芽細胞培養時、接着性を有する線上に細胞が接着するが、接着性が弱く基材から細胞が剥離することが観察される。(不良)
【0130】
[細胞蛍光染色]
培養10日目に、コンフルエント化したC2C12細胞を定法に従って蛍光染色した。核はヘキスト33342(H3570、サーモフィッシャーサイエンティフィック、米国)で、ミオシン重鎖はアンチMYH(SC-20641、コスモ・バイオ、東京)とGoatAnti-RabbitIgGH&Lアレクサフルオロ488(ab150077、アブカム、)で染色した。染色した細胞を透過式光学顕微鏡で観察した。
図8は、本発明の実施例において作製した筋芽細胞培養用部材で播種直後、1日目の細胞培養後で観察された細胞配列の形態を表した模式図である。
図8において、各数字のパネルは以下の特徴を有するものである。
〇:ミオシン重鎖が横軸方向に配向し、筋管組織を模倣していることが観察される。
×:ミオシン重鎖がランダムな方向に確認され、筋管組織を模倣できていない。
‐:細胞が剥離し組織を構築せず不良。
【0131】
【0132】
表5に示す実施例34、35で使用している筋芽細胞培養基材では細胞接着部位が基材から剥離することなく、培養10日後に、配向性を有したまま、コンフルエント化し心筋模倣組織を形成した。実施例36~41では非接着樹脂中の硬化剤により、基材からの剥離を防ぎ、心筋模倣組織を形成した。実施例36~38では非接着部のポリエチレンオキサイドの配合比により効率的に筋芽細胞が筋管へ分化し、心筋模倣組織を形成することができた。
比較例10では細胞が接着せず不均一な塊となり、時間と共に基材から剥離した。比較例11では細胞培養用インクジェットインキ(I-8)の粘度が高いため、接着塗液面から細胞が流出し配向性を示したが、一部ではパターンから外れ、不規則に並び、配向性がない箇所が存在し、基材から剥離した。比較例12では視野に細胞が不均一に接着し、配向しないことが観察された。
図8に示す分化培地で培養した細胞の免疫染色図である。青色は核、緑色はミオシン重鎖を示す。培養3日目から培養10日目まで分化培地を使用することにより、細胞は横軸方向に配向し、細胞の融合と、長大な筋管の形成を観察することができた。
【0133】
<産業上の利用可能性>
細胞の配向制御技術により、臓器チップの作成が可能となり、創薬スクリニング方法としての展開が期待される。また、生分解性材料への塗工も可能なことから、細胞シートや人工臓器への応用も可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 細胞培養用部材
2 細胞培養用インクジェットインキ(I)によって形成した細胞接着パターンの幅;L(μm)
3 基材のパターンの幅;S(μm)
4 基材
5 培養層
6 細胞非接着性組成物(D)によって形成した細胞非接着パターンの幅;S(μm)