(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】射出成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20241217BHJP
B29C 44/02 20060101ALI20241217BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C44/02
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2020133849
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】軸丸 貴支
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-334850(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111286117(CN,A)
【文献】特開2001-277280(JP,A)
【文献】特開2004-017285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00
B29C 44/02
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂材料と、超臨界状態の窒素とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、
(B)前記溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、
(C)
前記溶融樹脂組成物が前記キャビティ内に
導入されることに伴う圧力の低下によって前記溶融樹脂組成物を発泡させる工程と、
(D)前記発泡に由来する複数の空隙を有する成形体を前記金型から回収する工程と、
を含み、
前記成形体にお
ける前記窒素に由来する前記複数の空隙を含む領域の厚さが0.7mm以下であ
り、
(B)工程における射出速度が150~200mm/秒であり、
前記領域の最も肉薄の部分の厚さAに対する最も肉厚の部分の厚さBの比率B/Aが1.2~2.3である、射出成形体の製造方法。
【請求項2】
前記空隙の平均直径が1~50μmである、請求項
1に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項3】
前記溶融樹脂組成物の顔料の含有量が、溶融樹脂組成物の質量基準で2質量%以下である、請求項1
又は2に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂材料がポリエチレン樹脂である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は略円筒状の側面部を有する容器である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項6】
超臨界流体として窒素を使用した超臨界流体成形による射出成形体であって、
前記窒素に由来する複数の空隙を含む領域を備え、
前記領域の厚さが0.7mm以下であ
り、
前記領域の最も肉薄の部分の厚さAに対する最も肉厚の部分の厚さBの比率B/Aが1.2~2.3である、射出成形体。
【請求項7】
前記領域の厚さが0.3~0.7mmである、請求項
6に記載の射出成形体。
【請求項8】
顔料の含有量が2質量%以下である、請求項
6又は7に記載の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は射出成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック成形品が身の回りのあらゆる日用品や工業製品に用いられている。プラスチック成形品の品質向上及びコストダウンによる汎用化が進み、プラスチック成形品の需要が高まっている。一方、海洋プラスチックごみ問題にみられるようにマイクロプラスチックによって環境汚染に影響を与えることが注目されるようになり、脱プラスチック運動やプラスチック製品の使用を控える風潮が高まっている。
【0003】
食品や日用品の用途における使い捨てのプラスチック容器については、ユーザーから少しでも石油由来のプラスチック使用量を少なくできないかという要望が強くなってきている。このような要望に対し、原料の一部に植物由来の樹脂を使用する、再生プラスチック材を活用する、寸法や形状の工夫によってプラスチック使用量を削減するなどの取り組みがなされている。
【0004】
プラスチック成形品を軽量化する手段として発泡成形が知られている。発泡成形は化学発泡成形と物理発泡成形に大別できる。化学発泡成形は発泡剤を使用するものであり、物理発泡成形は超臨界状態の流体を使用するもの(以下、「超臨界流体成形」という。)である。化学発泡成形は発泡剤の環境への悪誘響の懸念、金型の汚染等の課題がある。超臨界流体成形にはこのような懸念がない。超臨界流体成形は、従来、自動車部品成形や事務用機器類などの比較的大型の工業製品に適用されてきた。近年、超臨界流体の生成技術及び樹脂組成物への混練技術の向上に伴い、ハイサイクルな射出成形に超臨界流体成形を適用することが検討されている。特許文献1~3は超臨界流体成形によって製造される食品用容器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6085729号公報
【文献】特許6430684号公報
【文献】特開2020-040690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、超臨界流体成形の適用範囲を広げるべく、種々の金型を利用して超臨界流体成形を実施した。その結果、成形体の内部に形成される空隙によって成形体が白色になることを見出した。これは空隙による光の乱反射効果に起因すると推察される。仮に、発泡させるべき領域にサイズが均一の空隙を均一に分散させることができれば、顔料を使用しなくても全体が白色でムラのない成形体を得ることができる。
【0007】
本開示は、発泡によって軽量化が図られており且つ顔料を使用しなくても又は顔料の使用量が十分に少なくても不透明である射出成形体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は射出成形体の製造方法に関する。この製造方法は、(A)樹脂材料と、超臨界流体とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、(C)溶融樹脂組成物が充填された状態のキャビティの圧力を下げる工程と、(D)超臨界流体に由来する複数の空隙を有する成形体を金型から回収する工程とを含み、上記成形体において空隙を形成させるべき領域の厚さが0.7mm以下である。
【0009】
本発明者らの検討によると、空隙の大きさは射出成形体の厚さに依存する。すなわち、射出成形体の厚い領域には大きい空隙が形成され、薄い領域には小さい空隙が形成される。空隙を形成させるべき領域の厚さが0.7mm以下であることで、この領域に例えば平均直径1~50μmの空隙を安定的に形成することができる。このサイズの空隙は小さいほど光の乱反射効果が高いため、この領域をムラなく鮮やかに白化させることができる。(A)工程で調製する溶融樹脂組成物の顔料の含有量は、例えば、溶融樹脂組成物の質量基準で2質量%以下でよい。
【0010】
上記製造方法においては、使用する樹脂材料に応じて超臨界流体の種類を選択するとともに、(B)工程における射出速度を設定することが好ましい。例えば、上記脂材料がポリエチレン樹脂である場合、超臨界流体は窒素であることが好ましく、(B)工程における射出速度は150~200mm/秒であることが好ましい。
【0011】
本開示の一側面は射出成形体に関する。この射出成形体は、超臨界流体に由来する複数の空隙を含む領域を備え、当該領域の厚さが0.7mm以下である。この射出成形体は、上述の射出成形体の製造方法によって製造することができる。この射出成形体は、発泡によって軽量化が図られており且つ顔料を使用しなくても又は顔料の使用量が十分に少なくても不透明である。射出成形体は、例えば、略円筒状の側面部を有する容器である。この容器において、例えば、少なくとも側面部が超臨界流体に由来する複数の空隙を含む領域に相当する。
【0012】
射出成形体における空隙を形成させるべき領域は厚さが十分に均一であることが好ましい。具体的には、当該領域の最も肉薄の部分の厚さAに対する最も肉厚の部分の厚さBの比率B/Aは1~1.5であることが好ましい。かかる構成により、当該領域をより一層ムラなく鮮やかに白化させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、発泡によって軽量化が図られており且つ顔料を使用しなくても又は顔料の使用量が十分に少なくても不透明である射出成形体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1はキャビティ内において十分に均一に発泡が生じている状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は比較例で作製した容器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<射出成形体の製造方法>
本実施形態に係る射出成形体の製造方法は以下の工程を含む。
(A)樹脂材料と、超臨界流体とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程。
(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程。
(C)キャビティ内において、圧力の低下によって溶融樹脂組成物を発泡させる工程。
(D)溶融樹脂組成物の発泡に由来する複数の空隙を有する成形体を金型から回収する工程。
この方法によって製造される成形体において、空隙を形成させるべき領域の厚さは0.7mm以下であり、0.3~0.7mm又は0.5~0.65mmであってもよい。なお、(A)工程から(D)工程の一連の工程は、例えば、MuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)を使用して実施できる(特許文献1,2参照)。
【0017】
[(A)工程]
まず、樹脂材料と、超臨界流体とを含む溶融樹脂組成物を調製する。樹脂材料として、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂が挙げられる。超臨界流体としては、二酸化炭素、窒素、アルゴン及びヘリウムが挙げられる。本発明者らの検討によると、超臨界流体が二酸化炭素である場合、樹脂材料100質量部に対して、好ましくは1~4質量部、より好ましくは2~3質量部の超臨界状態の二酸化炭素を添加して溶融樹脂組成物を調製する。溶融樹脂組成物の二酸化炭素含有量が1質量部以上であることで、成形体の全体に十分に均一の発泡層を形成しやすいとともに発泡による軽量化を実現し得る傾向にある。一方、溶融樹脂組成物の二酸化炭素含有量を4質量部以下であることで、過剰な発泡を抑制し得る傾向にある。
【0018】
超臨界流体が窒素である場合、樹脂材料100質量部に対して、好ましくは0.1~1.2質量部、より好ましくは0.3~0.7質量部の超臨界状態の窒素を添加して溶融樹脂組成物を調製する。溶融樹脂組成物の窒素含有量が0.5質量部以上であることで、成形体の全体に十分に均一の発泡層を形成しやすいとともに発泡による軽量化を実現し得る傾向にある。一方、溶融樹脂組成物の窒素含有量を1.0質量部以下であることで、過剰な発泡を抑制し得る傾向にある。
【0019】
使用する樹脂材料がポリプロピレン樹脂である場合、溶融樹脂組成物の温度(スクリューシリンダ温度)は、210~230℃程度であることが好ましい。使用する樹脂材料がポリエチレン樹脂である場合、この温度は220~240℃程度であることが好ましい。この温度が下限値以上であることで、キャビティ内において樹脂が流動しやすく、他方、下限値以下であることで、例えば、樹脂の焦げ付きを抑制できる傾向にある。
【0020】
溶融樹脂組成物は、樹脂材料及び超臨界流体以外の成分を含んでもよい。すなわち、溶融樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤などを更に含んでもよい。本実施形態によれば、発泡に由来する空隙によって、成形体を白色にすることができるため、溶融樹脂組成物は、白色顔料の含有量が溶融樹脂組成物の質量基準で2質量%以下であってもよく、白色顔料を含まないものであってもよい。
【0021】
[(B)工程及び(C)工程]
(A)工程で調製した溶融樹脂組成物を金型のゲートを通じてキャビティ内に射出する。溶融樹脂組成物がキャビティ内に導入されると、圧力の低下によって気泡セルが成長して独立した気泡が樹脂組成物内に発生する。射出速度は、100~300mm/秒であることが好ましく、150~200mm/秒であることがより好ましい。射出速度が100mm/秒以上であることで、流動末端まで樹脂を到達させやすく、ショートショットの発生を抑制できる傾向にある。他方、射出速度が300mm/秒以下であることで、成形体にバリ不良が発生することを抑制できる傾向にある。本発明者らの検討によると、樹脂材料がポリエチレン樹脂であり、超臨界流体が窒素である場合、(B)工程における射出速度は、多段的に設定することが好ましい。すなわち、(B)工程における射出速度の初速を250~300mm/秒とし、二段目速度として150~200mm/秒に減速することがより好ましい。
【0022】
図1は、薄い成形体(厚さ0.4~0.7mm程度)を作製するためのキャビティC内の樹脂材料1に多数の空隙2が均一に生じている様子を模式的に示す断面図である。なお、キャビティCは上型D1と下型D2によって形成されている。
【0023】
本実施形態においては、キャビティ内において発泡を十分に促進させる観点から、キャビティ内に溶融樹脂組成物を充填した後、キャビティ内に圧力をかける工程(保圧)を実施しなくてよい。本実施形態においては、十分に薄い成形体を得る観点から、キャビティ内の圧力を低下させるための「コアバック」と称される工程を実施しないことが好ましい。コアバックは、キャビディに充填された溶融樹脂が固化し終わる前に、金型の可動部を移動させてキャビディの容積を拡大させる工程である(特許文献1参照)。本実施形態においては、上述のとおり、溶融樹脂組成物がキャビティ内に導入されることに伴う圧力低下により、キャビティにおいて発泡を生じさせることができる。
【0024】
[(D)工程]
成形体の温度が30~60℃程度に下がった時点で、成形体を金型から回収する。発泡に由来する空隙が成形体に形成されていることで、軽量化が図られ、プラスチック材料の使用量が削減されている。空隙が形成されていることで、空隙が形成されていない成形体(通常の射出成形体)と比較して、3質量%以上の軽量化が図られていることが好ましい。また、成形体の表面に微小なヒケや発泡痕(スワールマーク)などの外観上の欠陥が認められないことが好ましい。
【0025】
<成形体>
上記方法で製造される成形体は、超臨界流体に由来する複数の空隙を含む領域を備え、当該領域の厚さが0.7mm以下であり、0.3~0.7mm又は0.5~0.65mmであってもよい。成形体における厚さ0.7mm以下の領域に、平均直径1~50μmの空隙を安定的に形成される。このサイズの空隙は光の乱反射効果が高いため、この領域をムラなく鮮やかに白化させることができる。空隙の大きさは、溶融樹脂組成物の射出量、射出速度、樹脂温度又はキャビティ内の圧力を調節することによって制御することができる。なお、空隙の平均直径は顕微鏡の画像から求めることができる。なお、成形体が白色系である場合、顕微鏡によって空隙を観察することが難しい傾向にあるため、着色した成形体を顕微鏡観察の対象とすることが望ましい。
【0026】
成形体において、空隙を形成させるべき領域は厚さが十分に均一であることが好ましい。具体的には、当該領域の最も肉薄の部分の厚さAに対する最も肉厚の部分の厚さBの比率B/Aは1~1.5であることが好ましく、1.2~1.6又は1.5~2.3であってもよい。かかる構成により、当該領域をより一層ムラなく鮮やかに白化させることができる。本実施形態に係る成形体の一例は、略円形の開口部を有する容器である。かかる容器は、例えば、底部と、底部から遠ざかる方向に延びる略円筒状の側面部とを有する。この容器において、底面部及び側面部の少なくとも一方に発泡に由来する空隙を形成すればよい。
【実施例】
【0027】
以下、本開示について実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(比較例)
以下の樹脂材料を使用し、通常の射出成形によって
図2に示す形状の容器を作製した。樹脂材料に白色顔料を配合しなかったため、比較例に係る容器は半透明であった。
[樹脂材料]
・ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、HJ590、HDPE、メルトフローレート:40g/10分)
[容器の構成]
・最も肉薄の部分の厚さ:0.53mm
・最も肉厚の部分の厚さ:0.65mm
・重量:10.2g
【0029】
(実施例1)
上記樹脂材料100質量部に対して0.5質量部の超臨界状態の窒素を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用して比較例と同じ形状の容器を作製した。射出速度は200mm/秒とした。実施例1に係る容器の重量は9.8gであり、比較例を基準として4.1%の軽量化率が達成された。なお、本実施例及び以下の実施例ではMuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)を使用した。比較例と同様、樹脂材料に白色顔料を配合しなかったものの、発泡に起因にする微細な空隙によって容器全体を白色とすることができた。成形体の表面にわずかにスワールマークが認められたものの、外観は良好であった。
【0030】
(実施例2)
上記樹脂材料100質量部に対して0.3質量部の超臨界状態の窒素を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用して比較例と同じ形状の容器を作製した。射出速度は110mm/秒とした。実施例2に係るヒンジキャップの重量は10.1gであり、比較例を基準として1.0%の軽量化率が達成された。比較例と同様、樹脂材料に白色顔料を配合しなかったものの、発泡に起因にする微細な空隙によって容器全体を白色とすることができた。ただし、実施例1と比較すると、白色にムラがあった。
【符号の説明】
【0031】
1…樹脂材料、2…空隙、10…成形体、C…キャビティ、D1…上型、D2…下型