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特許7604808大麦組成物、当該大麦組成物を含む大麦ブレンド米
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】大麦組成物、当該大麦組成物を含む大麦ブレンド米
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241217BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/10 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020139348
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035205
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 豊
(72)【発明者】
【氏名】永倉 英彦
(72)【発明者】
【氏名】望月 哲也
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】ちょっと生協さ~ん [オンライン], 2015.09.04 [検索日 2024.02.05], インターネット:<URL:https://seikyousan.blogspot.com/2015/09/16.html>
【文献】化学と生物,2017年,Vol.55, No.7,pp.496-500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~90重量%の米粒麦と10~60重量%の丸麦からなり、βグルカン含量が7~12重量%である大麦組成物。
【請求項2】
請求項1記載の大麦組成物と米とを含む大麦ブレンド米であって、該大麦組成物を全体重量に対して40~60重量%の範囲で含む、前記大麦ブレンド米。
【請求項3】
大麦由来のβグルカン量が4重量%以上である請求2記載の大麦ブレンド米。
【請求項4】
上記大麦組成物と上記米とが重量比で4:6~6:4であることを特徴とする請求項2記載の大麦ブレンド米。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦を含む組成物と、当該大麦組成物を含む大麦ブレンド米等に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦に含まれるβグルカンは、水溶性の食物繊維であり、血中コレステロール値の正常化や食後血糖値の上昇抑制等の効果を有することが知られている。また、大麦に含まれるβグルカンは、腸内細菌の働きが活発になり、おなかの調子を整えるといった効果を有することが知られている。さらに、大麦に含まれるβグルカンには「満腹感の維持作用」を有することが知られている。
【0003】
なお、2006年にはFDA(米国食品医薬局)が「大麦のβ-グルカンにコレステロール低減作用があり、心疾患予防効果がある」として「1食あたり0.75g以上(1日3g以上)を含む食品に冠状動脈疾患のリスクを下げる」表示を認可した。日本においても、相当量の大麦βグルカンについて、健康食品の普及啓発活動を行う日本健康・栄養食品協会が「コレステロールの正常化」「食後血糖値の上昇抑制」「満腹感の維持作用」について効果があると評価している。
【0004】
特許文献1には、半搗精米を50~70重量%、大麦を15~25重量%、ひえを1~5重量%、あわを1~5重量%、きびを1~5重量%、そばを5~10重量%の組成比で含む雑穀ブレンド米が開示されている。特許文献1に開示された雑穀ブレンド米は、大麦を含むことから、大麦βグルカンによる上述した効果が期待できる。しかしながら、特許文献1に開示された雑穀ブレンド米では、大量に喫食しなければ1日に3gのβグルカンを摂取することができない。一方、雑穀ブレンド米における大麦の組成非を高めることで一食あたりのβグルカン摂取量を高めることができるが、食味が著しく低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-38078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、十分な量のβグルカンを含み、且つ食味に優れた大麦ブレンド米とすることができる大麦組成物、当該大麦組成物を含む大麦ブレンド米を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、所望量の大麦βグルカンを含有するように米粒麦と丸麦とを併用した大麦組成物を使用することで食味に優れた大麦ブレンド米となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下を包含する。
(1)米粒麦と丸麦とを含み、βグルカン含量が7重量%以上である大麦組成物。
(2)米粒麦が40~90重量%であり、丸麦が10~60重量%であることを特徴とする(1)記載の大麦組成物。
(3)βグルカン含量を12重量%以下とすることを特徴とする(1)記載の大麦組成物。
(4)上記(1)~(3)いずれかに記載の大麦組成物と米とを含む大麦ブレンド米。
(5)大麦由来のβグルカン量が4重量%以上である(4)記載の大麦ブレンド米。
(6)上記大麦組成物を全体重量に対して40~60重量%の範囲で含むことを特徴とする(4)記載の大麦ブレンド米。
(7)上記大麦組成物と上記米とが重量比で4:6~6:4であることを特徴とする(4)記載の大麦ブレンド米。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る大麦組成物は、米に配合されることで一食程度の摂取量に所望量のβグルカンを含有し、且つ食味に優れたものとなる。本発明に係る大麦ブレンド米は、一食程度の摂取量に所望量のβグルカンを含有し、且つ優れた食味を示す。よって、本発明に係る大麦組成物及び当該大麦組成物を配合した大麦ブレンド米は、大麦βグルカンによるコレステロールの正常化、食後血糖値の上昇抑制及び満腹感の維持作用といった機能性を示すこととなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る大麦組成物及び当該大麦組成物を有する大麦ブレンド米を詳細に説明する。
【0011】
大麦は、イネ科オオムギ属に含まれる植物を意味し、学名:Hordeum vulgareに分類される植物を含む意味である。本発明において大麦としては、特に限定されず、二条オオムギ(二条大麦、H. vulgare f. distichon)、四条オオムギ(四条大麦、H. vulgare subsp. Vulgare)、六条オオムギ(六条大麦、H. vulgare f. hexastichon)、ハダカムギ(裸オオムギ、裸麦、Hordeum vulgare var. nudum Hook. f.)及び野生オオムギ(H. vulgare subsp. Spontaneum)を使用することができる。
【0012】
また、大麦としては、既存の品種を限定することなく使用できる。例えば、大麦の既存品種としては、ダイキンボシ、ハルアカネ、ゆきはな六条、しらゆり二条、もちしずか、フクミファイバー、さちかぜ、きはだもち、くすもち二条、長崎御島、はねうまもち、ワキシーファイバー、ゆきみ六条、はるか二条、ハルヒメボシ、カシマゴール、はるしらね、ビューファイバー、キラリモチ、白妙二条、ユメサキボシ、小春二条、煌二条、キリニジョウ、トヨノカゼ、さやかぜ、シンジュボシ、ニシノホシ、裸麦中間母本農2号及びダイシモチを挙げることができる。
【0013】
さらに、大麦としては、既存の育種系統を限定することなく使用できる。例えば、大麦の育種系統としては、関東皮93号、関東皮92号、四国裸糯119号、四国裸118号 2008年、四国裸117号、西海裸68号、西海皮67号、東北皮41号、東北皮40号、関東裸糯90号、関東皮89号、北陸皮46号、四国裸116号、四国裸115号、四国裸114号、西海皮66号、関東皮87号、北陸皮45号、北陸皮44号、西海皮65号、関東皮85号、北陸皮43号、四国裸糯113号、四国裸112号、西海裸64号、東北皮39号、関東皮84号、北陸皮42号、四国裸111号、四国裸110号等を挙げることができる。
【0014】
なかでも、本発明においては、βグルカン含量が高い品種や育種系統を使用することが好ましい。βグルカン含量の高い品種・育種系統としては、例えば、くすもち二条、はねうまもち、ワキシーファイバー、ビューファイバー、キラリモチ、ダイシモチ、Azhul、Jao、Jau、Oowa、Shonkin、Tsema、Wanubet、CDC-Alamo、CDC-Fibar、STWB-1、四系9519、関系n574(旧系統名:谷系QM-1)を挙げることができる。なお、βグルカン量は、特に限定されないが、玄麦を粉砕機を用いて粒径0.5 mm以下程度に粉砕し、市販キット(Mixed Linkage β-glucan Assay Kit, Megazyme Inc.)を用いて測定することができる。
【0015】
本発明に係る大麦組成物は、上述した大麦の米粒麦と丸麦とを含有する。米粒麦とは、大麦粒を黒条線に沿って割り、必要に応じて精白した米粒形状の大麦である。丸麦とは、大麦の外皮を取り除き、必要に応じて精白した大麦である。大麦組成物においては、大麦の米粒麦と丸麦とに含まれるβグルカンの合計が7重量%以上となっている。なお、大麦組成物におけるβグルカン量は、7重量%以上であるが、7~12重量%の範囲で設定することができる。
【0016】
大麦組成物におけるβグルカン量は、使用する大麦の品種や育種系統に含まれるβグルカン量により適宜調節することができる。例えば、参考文献:塔野岡卓司ら、育種学研究、20、144-150頁によれば、STWB-1のβグルカン含量は8.4重量%であり、CDC-Alamoのβグルカン含量は7.5重量%であり、CDC-Fibarのβグルカン含量は10.7重量%であり、Azhulのβグルカン含量は9.2重量%であり、Tsemaのβグルカン含量は6.7重量%であり、ビューファイバーのβグルカン含量は11.9重量%であり、関東裸糯94号のβグルカン含量は12.8重量%であり、関系n574のβグルカン含量は17.5重量%であり、四系9519のβグルカン含量は10.6重量%であり、キラリモチのβグルカン含量は7.5重量%であり、もっちりぼしのβグルカン含量は8.3重量%であり、ニシノホシのβグルカン含量は4.1重量%であり、ユメサキボシのβグルカン含量は4.1重量%である(何れの数値も精麦した後に測定した値)。
【0017】
本発明に係る大麦組成物は、使用する大麦品種や育種系統についてβグルカン含量が公知であるか、上述した手法により測定することができるため、βグルカンの合計を7重量%以上、好ましくは7~12重量%の範囲とすることができる。
【0018】
また、本発明に係る大麦組成物は、上述した大麦の米粒麦と丸麦とを含有するため、米と配合することで食味に優れた大麦ブレンド米とするこができる。特に、本発明に係る大麦組成物は、米粒麦と丸麦を併せて100重量%としたときに、米粒麦を40~90重量%とし、丸麦を10~60重量%とすることでより優れた食味とすることができる。
【0019】
さらに、本発明に係る大麦組成物は、米と配合することで大麦ブレンド米とすることができる。ここで、大麦ブレンド米とは、少なくとも米と、上述した大麦組成物とを含む組成物を意味する。すなわち大麦ブレンド米は、米組成物、大麦組成物、米-大麦組成物と言い換えることができる。ここで、米とは、うるち米(無洗米含む)、もち米、精白米、半つき米及び玄米のいずれでも良い。
【0020】
本発明に係る大麦ブレンド米によれば、通常の一食に相当する量で所望量の大麦βグルカンを摂取することができる。通常の一食に相当する量とは、炊飯物の量として150~200gとすることができ、特に160~200gとすることが好ましく、180~200gとすることがより好ましい。大麦ブレンド米をこの範囲で摂取することで、所望量の大麦βグルカン、例えば3.0gの大麦βグルカンを摂取することができる。
【0021】
本発明に係る大麦ブレンド米は、大麦組成物と米とを、重量比で4:6~6:4の範囲で配合したものであることが好ましい。大麦組成物と米とをこの範囲で配合することで、通常の一食に相当する量で所望量の大麦βグルカンを摂取することができ、且つ、優れた食味を達成することができる。
【0022】
また、本発明に係る大麦ブレンド米は、大麦組成物を全体重量に対して40~60重量%の範囲で配合したものであることが好ましい。大麦組成物をこの範囲で配合することで、通常の一食に相当する量で所望量の大麦βグルカンを摂取することができ、且つ、優れた食味を達成することができる。このとき、本発明に係る大麦ブレンド米は、大麦組成物以外に米を主として含有するが、米以外にも、あわ、ひえ、黒米、赤米、黒豆(大豆)、小豆、もちきび、もちあわ、たかきび、ひえ、アマランサス、キヌア、はと麦、とうもろこし、黒ごま及び白ごま等の穀物を含むことができる。
【0023】
本発明に係る大麦ブレンド米は、通常の一食に相当する量で大麦βグルカンを約3.0g以上摂取することができる。一日あたり約3.0g以上の大麦βグルカンを摂取できる場合、「冠状動脈疾患のリスクを下げる」、「コレステロールの正常化」、「食後血糖値の上昇抑制」、「満腹感の維持作用」などの機能性について効果が期待できる。
【実施例
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕
本実施例では、米粒麦(βグルカン含量:9.6重量%)、丸麦(βグルカン含量6.6重量%を所定の配合比とした大麦組成物と、白米(きらら397の無洗米)とを所定の比率で配合し、大麦ブレンド米を調製した。そして、これら大麦ブレンド米の炊飯物を評価者12人以上に摂取させ、食味を評価した。なお、米粒麦50重量%、白米50重量%で配合した炊飯物の食味を「3」とし、5段階で評価した。
結果を表1に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示したように、米粒麦を40~90重量%の範囲とし、丸麦を10~60重量%の範囲とした大麦組成物は、大麦組成物を40~60重量%、米を60~40重量%で配合したときに優れた食味を呈することが明らかとなった。これに対して、米粒麦のみを米と配合した場合には、米粒麦を60重量%、米を40重量%とした時に食味が大きく低下することが明らかとなった。また、大麦組成物中の丸麦の割合を60重量%よりも高くした場合(例えば70重量%)には、食味が大きく低下することが明らかとなった。
なお、各大麦組成物に含まれるβグルカン量は表2の通りである。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示したように、本実施例で作製した米粒麦を40~90重量%の範囲とし、丸麦を10~60重量%の範囲とした大麦組成物は、7.0重量%以上のβグルカンを含有している。よって、これら大麦組成物を40~60重量%、米を60~40重量%で配合した大麦ブレンド米は、一食に相当する炊飯物150~200gに3.0g以上のβグルカンを含むこととなる。よって、本実施例で作製した米粒麦を40~90重量%の範囲とし、丸麦を10~60重量%の範囲とした大麦組成物は、「冠状動脈疾患のリスクを下げる」、「コレステロールの正常化」、「食後血糖値の上昇抑制」、「満腹感の維持作用」といった機能性を有する大麦ブレンド米とすることができる。