(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】予測値算出装置、予測値算出装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/0202 20230101AFI20241217BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20241217BHJP
【FI】
G06Q30/0202
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020167462
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石河 孝明
(72)【発明者】
【氏名】大江 隆二
【審査官】野村 和史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-224566(JP,A)
【文献】特開2016-073155(JP,A)
【文献】特開2017-199102(JP,A)
【文献】特開2015-139283(JP,A)
【文献】特開2013-66318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データの予測値を求める予測値算出装置であって、
前記要因データと前記対象データとの関係を表す関係式を記憶する関係式記憶部と、
前記対象データの予測値を算出する予測対象期間を指定する情報の入力を受け付ける予測対象期間受付部と、
前記予測対象期間に対応する過去の複数の
各期間における前記要因データと、前記関係式と、を用いて、前記各期間の対象データを算出する対象データ算出部と、
前記各期間の対象データの中から前記予測値として選出する対象データを特定する予測値特定情報の入力を受け付ける予測値特定情報受付部と、
前記予測値特定情報により特定された対象データを、前記予測対象期間の対象データの予測値として出力する予測値出力部と、
を備える、予測値算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の予測値算出装置であって、
前記予測値特定情報は、前記各期間の対象データのパーセンタイル値を示す情報であり、
前記予測値出力部は、前記各期間の対象データのパーセンタイル値と、前記予測値特定情報で指定されたパーセンタイル値と、を比較し、前記予測値特定情報で指定されたパーセンタイル値に最も近いパーセンタイル値を持つ対象データを前記予測値として出力する、予測値算出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の予測値算出装置であって、
前記予測値特定情報は、前記各期間の対象データの平均値に最も近い対象データを前記予測値とする旨の情報であり、
前記予測値出力部は、前記対象データの平均値と、前記各期間の対象データと、を比較し、前記平均値に最も近い対象データを前記予測値として出力する、予測値算出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の予測値算出装置であって、
前記予測値特定情報は、前記各期間の対象データの最頻値を前記予測値とする旨の情報であり、
前記予測値出力部は、前記各期間の対象データを、前記対象データの値に応じて複数のグループに分類し、最も多くの対象データが分類されたグループ内の対象データの平均値と、前記グループ内の各対象データと、を比較し、前記平均値に最も近い対象データを前記予測値として出力する、予測値算出装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記予測値出力部は、前記予測値を出力する際に、前記各期間の対象データを出力する、予測値算出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の予測値算出装置であって、
前記予測値出力部は、前記各期間の対象データを、期間を表す情報と共に、時系列順に並べて出力する、予測値算出装置。
【請求項7】
請求項5に記載の予測値算出装置であって、
前記予測値出力部は、前記各期間の対象データを、期間を表す情報と共に、対象データの大きさの順に並べて出力する、予測値算出装置。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記予測値出力部は、前記予測値を出力する際に、前記各期間の対象データを前記対象データの値に応じて分類してなるグループごとに、各グループに分類される対象データの範囲を示す値と、各グループに分類された対象データの頻度と、を表示したヒストグラムを出力する、予測値算出装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記所定種類の要因データは気象データである、予測値算出装置。
【請求項10】
請求項9に記載の予測値算出装置であって、
前記所定種類の気象データのうちの少なくとも一部の種類の気象データは、
長期気候変動の影響を抑制するべく、当該気象データの観測値に、当該気象データの種類と当該気象データの観測時点とに応じて定められた補正係数を用いた演算を行うことにより補正されたデータである、予測値算出装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記対象データは電力需要量である、予測値算出装置。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記対象データは利益額である、予測値算出装置。
【請求項13】
請求項1~8のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記所定種類の要因データは気象データであり、
前記対象データは電力需要量であり、
前記所定種類の気象データには、気温データ、湿度データ、日射量データ、及び降水量データが含まれると共に、
前記関係式には、
前記気温データと、前記湿度データと、総電力需要量と、の関係を表す第1関係式と、
前記日射量データと、太陽光発電設備によって発電される太陽光発電量と、の関係を表す第2関係式と、
前記降水量データと、水力発電所によって発電される水力発電量と、の関係を表す第3関係式と、
が含まれ、
前記対象データ算出部は、
前記気温データ、前記湿度データ、及び前記第1関係式を用いて算出した前記総電力需要量から、前記日射量データ及び前記第2関係式を用いて算出した前記太陽光発電量と、前記降水量データ及び前記第3関係式を用いて算出した前記水力発電量と、を減算することにより、前記電力需要量を算出する、予測値算出装置。
【請求項14】
請求項1~8のいずれかに記載の予測値算出装置であって、
前記所定種類の要因データは
気象データであり、
前記対象データは利益額であり、
前記所定種類の気象データには、気温データ、湿度データ、日射量データ、及び降水量データが含まれると共に、
前記関係式には、
前記気温データと、前記湿度データと、総電力需要量と、の関係を表す第1関係式と、
前記日射量データと、太陽光発電設備によって発電される太陽光発電量と、の関係を表す第2関係式と、
前記降水量データと、水力発電所によって発電される水力発電量と、の関係を表す第3関係式と、
前記気象データと、市場価格と、の関係を表す第4関係式と、
が含まれ、
前記対象データ算出部は、
前記気温データ、前記湿度データ、及び前記第1関係式を用いて算出した前記総電力需要量から、前記日射量データ及び前記第2関係式を用いて算出した前記太陽光発電量と、前記降水量データ及び前記第3関係式を用いて算出した前記水力発電量と、を減算することにより、電力需要量を算出すると共に、前記気象データと前記第4関係式とを用いて前記市場価格を算出し、
算出した前記電力需要量と前記市場価格とを発電計画作成装置に入力して前記利益額を算出する予測値算出装置。
【請求項15】
請求項13に記載の予測値算出装置であって、
前記気温データは、長期気候変動の影響を抑制するべく、前記気温データの観測値に、当該観測値の観測時点に応じて定められた補正係数を用いた演算を行うことにより補正されたデータである、予測値算出装置。
【請求項16】
所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データの予測値を求める予測値算出装置の制御方法であって、
前記予測値算出装置が、
前記要因データと前記対象データとの関係を表す関係式を記憶し、
前記対象データの予測値を算出する予測対象期間を指定する情報の入力を受け付け、
前記予測対象期間に対応する過去の複数の
各期間における前記要因データと、前記関係式と、を用いて、前記各期間の対象データを算出し、
前記各期間の対象データの中から前記予測値として選出する対象データを特定する予測値特定情報の入力を受け付け、
前記予測値特定情報により特定された対象データを、前記予測対象期間の対象データの予測値として出力する、予測値算出装置の制御方法。
【請求項17】
コンピュータに、
所定種類の要因データと前記要因データの影響を受けて変動する対象データとの関係を表す関係式を記憶する機能と、
前記対象データの予測値を算出する予測対象期間を指定する情報の入力を受け付ける機能と、
前記予測対象期間に対応する過去の複数の
各期間における前記要因データと、前記関係式と、を用いて、前記各期間の対象データを算出する機能と、
前記各期間の対象データの中から前記予測値として選出する対象データを特定する予測値特定情報の入力を受け付ける機能と、
前記予測値特定情報により特定された対象データを、前記予測対象期間の対象データの予測値として出力する機能と、
を実現するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測値算出装置、予測値算出装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社は、日々の電力需要量に応じて、火力発電所や原子力発電所等の発電量を制御している。そして電力会社は、火力発電所や原子力発電所のような発電量を制御可能な発電所における発電量の配分を計画する需給バランス計画を立てるために、1か月から1年程度の期間を想定した電力需要量の予測を行っている。
【0003】
このような電力需要量の予測を行うためのシステムや手法に関しては、様々な技術が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、電力需要量は気温や日射量などの様々な気象条件の影響を受けて変化するため、電力需要量の予測を精度よく行うためには、正確な気象予測が重要である。
【0006】
しかしながら、電力需要量に影響のある気象データは、気温や日射量の他にも降水量、風速、湿度など多岐にわたる上、これらの気象データは、毎年の気候変動の影響を受けて複雑に変化する。
【0007】
そのため、このような毎年の気象データのばらつきを考慮した電力需要量の予測を可能とする技術が求められている。
【0008】
また気象データの影響を受けて変動するデータは、電力需要量の他にも、衣類品の売り上げや交通事故の件数、スポーツイベントの観戦者数、特定の病気の患者の数など様々なものがあり、これらの対象データについても、気象データのばらつきの影響を考慮した予測値を算出できることが好ましい。
【0009】
また特定の対象データに影響を与えるデータは、気象データ以外にも、電力市場価格や、農林業等の特定分野の就業者数や失業率などがあり、気象データと同様に、これらの要因データについても、ばらつきの影響を考慮した予測値を算出できることが好ましい。
【0010】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データについて、要因データのばらつきを考慮した予測値を求めることができる予測値算出装置、予測値算出装置の制御方法及びプログラムを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための一つの手段は、所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データの予測値を求める予測値算出装置であって、前記要因データと前記対象データとの関係を表す関係式を記憶する関係式記憶部と、前記対象データの予測値を算出する予測対象期間を指定する情報の入力を受け付ける予測対象期間受付部と、前記予測対象期間に対応する過去の複数の各期間における前記要因データと、前記関係式と、を用いて、前記各期間の対象データを算出する対象データ算出部と、前記各期間の対象データの中から前記予測値として選出する対象データを特定する予測値特定情報の入力を受け付ける予測値特定情報受付部と、前記予測値特定情報により特定された対象データを、前記予測対象期間の対象データの予測値として出力する予測値出力部と、を備える。
【0012】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データについて、要因データのばらつきを考慮した予測値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】予測値算出装置のハードウェア構成図である。
【
図3】気象データ提供装置のハードウェア構成図である。
【
図6】長期気候変動の影響を補正する様子を示す図である。
【
図9】水力発電量の算出方法を説明するための図である。
【
図10】予測値算出装置の機能構成を示す図である。
【
図11】予測対象期間の入力画面の一例を示す図である。
【
図12】電力需要量のヒストグラムを示す図である。
【
図13】電力需要量の計算結果の表示例を示す図である。
【
図14】予測シナリオの選択画面の一例を示す図である。
【
図15】予測値算出装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0016】
==全体構成==
図1に、本発明の一実施形態に係る予測値算出システム1000の全体構成を示す。予測値算出システム1000は、予測値算出装置100及び気象データ提供装置200を含んで構成される。予測値算出装置100及び気象データ提供装置200は、インターネットやLAN(Local Area Network)、電話網等のネットワーク500を通じて相互に通信可能に接続されている。
【0017】
予測値算出装置100は、所定種類の要因データの影響を受けて変動する対象データの予測を行うコンピュータである。本実施形態では一例として、予測値算出装置100は、気象データの影響を受けて変動する電力需要量の予測を行う。そして本実施形態では、予測値算出装置100は、原子力発電所や火力発電所のような出力を制御可能な発電所において、発電量をどのように配分するかの需給バランス計画を立案するために電力需要量の予測を行う。
【0018】
このため、本実施形態に係る予測値算出装置100が予測する電力需要量は、電力の需要家が消費する電力の合計である総電力需要量(以下、グロス需要とも記す)ではなく、上記のような出力を制御可能な発電所が負担すべき電力需要量(以下、ネット需要とも記す。)である。
【0019】
図8を参照しながらもう少し具体的に説明する。
図8は、総電力需要量(
図8ではグロス需要と記載されている)の内訳を発電形態に分けて模式的に表したものである。つまり、グロス需要がどのような種類の発電設備によって賄われているかを示す図である。
図8には、グロス需要が、主に、太陽光発電設備、水力発電所、火力発電所、原子力発電所からの電力によって賄われていることが示されている。
【0020】
そして、原子力発電所や火力発電所のような出力を制御可能な発電所によって賄われる電力需要がネット需要であり、このネット需要に水力発電所及び太陽光発電設備によって賄われる電力需要を加えることにより、グロス需要になる。
【0021】
なお、太陽光発電設備によって賄われる電力需要は、PV自家消費分、PV余剰分、PV全量買取分に分けることができる。PV自家消費分及びPV余剰分の電力需要は、電力会社との間で余剰電力買取の契約をしている需要家の太陽光発電設備による発電量に相当する。またPV全量買取分の電力需要は、電力会社との間で全量電力買取の契約をしている需要家の太陽光発電設備による発電量に相当する。
【0022】
PV自家消費分の電力需要は、余剰買取の契約をしている需要家が自己消費する電力を表す。このため、PV自家消費分の電力需要は送電端には表れない。そこで、グロス需要からPV自家消費分の電力需要を除いた電力需要を送電端需要ともいう。
【0023】
またPV余剰分の電力需要は、余剰買取の契約をしている需要家の太陽光発電設備による発電量から、自己消費分の電力を差し引いた残りの電力に相当する。
【0024】
PV全量買取分の電力需要は、全量買取の契約をしている需要家の太陽光発電設備によって発電された電力に相当する。
【0025】
もちろん、予測値算出装置100が予測する電力需要量は、ネット需要だけでなく、送電端需要であってもよいしグロス需要でもよい。
【0026】
気象データ提供装置200は、予測値算出装置100が電力需要量を予測する際に用いる気象データを予測値算出装置100に提供する。
【0027】
本実施形態では、気象データ提供装置200は、過去50年分の気温、湿度、日射量、降水量の各気象データを提供する。
【0028】
==ハードウェア構成==
次に、予測値算出装置100及び気象データ提供装置200のハードウェア構成について、
図2~
図9を参照しながら説明する。
【0029】
<予測値算出装置>
まず予測値算出装置100のハードウェア構成について説明する。
【0030】
予測値算出装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、メモリ120、通信装置130、記憶装置140、入力装置150、出力装置160、及び記録媒体読取装置170を備えて構成される。
【0031】
記憶装置140は、
図4に示すように、予測値算出装置100によって実行される予測値算出装置制御プログラム710や、第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600C、気象データテーブル610、気温補正テーブル620等の各種のプログラムやデータを格納する。
【0032】
記憶装置140に記憶されている予測値算出装置制御プログラム710や各種のデータがメモリ120に読み出されてCPU110によって実行あるいは処理されることにより、予測値算出装置100の各種機能が実現される。
【0033】
ここで、記憶装置140は例えばハードディスクやSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置である。
【0034】
気象データテーブル610は、気象データ提供装置200から提供される各種気象データを記憶するテーブルである。気象データテーブル610を
図5に示す。気象データテーブル610には、過去複数年分(本実施形態では50年分)の1時間ごとの気温、湿度、日射量、降水量、気圧、風速などの様々な気象データの観測値が記憶されている。もちろん気象データテーブル610には、予測値算出装置100が電力需要量の予測を行う対象地域ごとの気象データが記憶されている。
【0035】
気温補正テーブル620は、地球温暖化等に伴う長期気候変動の影響を抑制するための補正係数を記憶するテーブルである。気温補正テーブル620を
図7に示す。また気温補正テーブル620に記憶されている補正係数によって気温が補正される様子を
図6に示す。
【0036】
本実施形態では、1月1日から12月31日までの日ごとに、1970年からの毎年と現在(最新の年)との平均気温の差を補正係数としている。つまり、気温の観測時点に応じて定まる補正係数を観測値に加えることにより、観測時点が現在(最新の年)だった場合の気温に補正することができる。もちろん補正係数は、1970年からの毎年と現在(最新の年)との平均気温の比率としてもよい。この場合は、気温の観測時点に応じた補正係数を観測値に乗じることにより、観測時点が現在(最新年)だった場合の気温に補正することができる。
【0037】
なお、地球温暖化等に伴う長期気候変動の影響を補正する気象データは気温だけに限らず、降水量や風速など他の気象データでもよい。この場合は、気象データの種類と気象データの観測時点とに応じてそれぞれ補正係数が定められる。
【0038】
予測値算出装置100が電力需要量の予測を行う対象地域によって補正係数が異なる場合には、地域ごとに補正係数を定めておくとよい。また気象データテーブル610には、長期気候変動の影響が補正された後の気象データが記憶されていてもよい。
【0039】
次に、第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600Cについて説明する。
【0040】
第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600Cは、所定種類の気象データと電力需要量との関係を表す関係式である。なお、以下の説明において、第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600Cを総称する場合は、関係式600と記す。
【0041】
まず第1関係式600Aについて説明する。
【0042】
第1関係式600Aは、気温データと、湿度データと、グロス需要(総電力需要量)と、の関係を表す。本実施形態では、第1関係式600Aは、1日の平均気温データと、その日の平均湿度データと、その日のグロス需要と、の関係を表す。その日の平均気温データ及び平均湿度データは、気象データテーブル610に記憶されている1時間ごとの気温データ及び湿度データをその日1日分集めて平均値を求めればよい。またこのとき、気温データについては、気温補正テーブル620に記憶されている補正係数を用いて長期気候変動の補正を行うとよい。
【0043】
第1関係式600Aの例を式(1)に示す。
【0044】
lnD(i)=lnD0+α1×HMD(i)+
α2×CDD(i)+α3×CDD(i)2+
α4×HDD(i)+α5×HDD(i)2+
α6×Week…(1)
lnD(i)は、i日目のグロス需要Dの自然対数を表す。またlnD0は回帰分析により定まる定数D0の自然対数である。HMDは日平均湿度、CDDは冷房度日、HDDは暖房度日、Weekは曜日や休祝日を表すデータである。またα1~α6は、回帰分析から定まる係数である。
【0045】
また冷房度日は、「MAX(日平均気温-A℃,0)」で算出される値であり、日平均気温がA℃以上の日における日平均気温とA℃との差である。同様に、暖房度日は、「MAX(B℃-日平均気温,0)」で算出される値であり、日平均気温がB℃以下の日における日平均気温とB℃との差である。
【0046】
予測値算出装置100は、
図5に示す気象データテーブル610に記憶されている過去の気象データの実績値(気温、湿度)と電力需要量の実績値(不図示)とを用いて回帰分析を行い、式(1)における定数D0や係数α1~α6を定めることにより、第1関係式600Aを求める。
【0047】
なお予測値算出装置100は、第1関係式600Aを回帰分析により求める際には、なるべく電力需要量の予測対象期間に近い過去(すなわち現在により近い過去)の気象データの実績値と電力需要量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。例えば直近の過去所定期間(例えば直近の過去1年間)の気象データの実績値と電力需要量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。
【0048】
このような態様により、気温及び湿度と総電力需要量との関係(すなわち、上記の定数D0や係数α1~α6)に影響する、冷暖房設備などの様々な電力機器の普及率や性能などの状況(例えば10年前と現在とでは状況が異なる)を、予測対象期間に想定される状況に近づけることができるので、より正確な総電力需要量の予測値を算出することが可能となる。
【0049】
次に第2関係式600Bについて説明する。
【0050】
第2関係式600Bは、日射量データと、太陽光発電設備によって発電される太陽光発電量と、の関係を表す。本実施形態では、第2関係式600Bは、1日の平均日射量と、その日の太陽光発電量と、の関係を表す。第2関係式600Bの例を式(2)に示す。
【0051】
PV発電量(i)=(PV連系設備量(全量)+
(1-自家消費率)×PV連系設備量(余剰))×日射量(i)×発電係数…(2)
ここで、PV発電量(i)は、i日目の太陽光発電量を表す。PV発電量(i)には、PV自家消費分、PV余剰分、PV全量買取分の発電量が含まれている。またPV連系設備量(全量)は、全量買取契約で稼働している太陽光発電設備のパネル容量等の発電能力を示す値である。またPV連系設備量(余剰)は、余剰電力買取契約で稼働している太陽光発電設備のパネル容量等の発電能力を示す値である。自家消費率は、余剰電力買取契約で稼働している太陽光発電設備の発電量のうちの自家消費される電力の割合を示す。また日射量(i)は、i日目の例えば水平面全天日射量である。発電係数はPV発電量を算出するための係数である。
【0052】
予測値算出装置100は、第1関係式600Aの場合と同様に、
図5に示す気象データテーブル610に記憶されている過去の気象データの実績値(日射量)と太陽光発電量の実績値(不図示)とを用いて回帰分析を行い、式(2)における発電係数を定めることにより、第2関係式600Bを求める。
【0053】
なおこのとき、自家消費率は時代によって変化するため、なるべく電力需要量の予測対象期間に近い過去(すなわち現在により近い過去)の値を用いる。
【0054】
また予測値算出装置100は、第2関係式600Bを求める際には、なるべく電力需要量の予測対象期間に近い過去(すなわち現在により近い過去)の気象データ(日射量)の実績値と太陽光発電量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。例えば直近の過去所定期間(例えば過去1年間)の気象データの実績値と電力需要量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。このような態様により、日射量と太陽光発電量との関係に影響する、太陽光発電設備の普及率や性能、自家消費率などの状況を、予測対象期間に想定される状況に近づけることができるので、より正確な太陽光発電量の予測値を算出することが可能となる。
【0055】
次に第3関係式600Cについて説明する。
【0056】
第3関係式600Cは、降水量データと、水力発電所によって発電される水力発電量と、の関係を表す。日々の水力発電量は、その日に周囲の河川から発電用ダムに流入する水量の影響を受けて変化するが、ダムに流入する水量は、その日の降水量の他、過去の降水量、周囲の地形、地質によって複雑に変化するため、第3関係式600Cは、第1関係式600Aや第2関係式600Bに比べて複雑である。第3関係式600Cの例を式(3)~式(16)に示す。また第3関係式600Cを説明するための図を
図9に示す。
【0057】
水力発電量(i)=α×Q(i) …(3)
ここで、水力発電量(i)は、i日目の水力発電量を表す。Q(i)は、i日目にダムに流入する水量を表す。αは水量Q(i) と水力発電量(i)との関係を表す係数を示す。
【0058】
Q(i)は、下記の式(4)のように表される。
【0059】
Q(i)=Q1(i)+Q2(i)+Q3(i)+Q4(i)+Q5(i) …(4)
ここで、Q1(i) 及びQ2(i)は、ダムの周囲の山林に降った雨が山林の表面を流れてi日目にダムに流入する水量を表す。Q3(i)は、山林の土壌に一旦吸収されたのち、比較的短時間で表面に現れて、i日目にダムに流入する水量を表す。Q4(i)は、山林の土壌に一旦吸収されたのち、Q3よりも比較的長い時間をかけて表面に現れて、i日目にダムに流入する水量を表す。Q5(i)は、山林の土壌に一旦吸収されたのち、Q4よりもさらに長い時間をかけて表面に現れて、i日目にダムに流入する水量を表す。
【0060】
図9に示すように、Q1(i)~Q5(i)は、鉛直方向に直列に並べた複数(
図9に示す例では4つ)のタンクから流出する水量として計算することができる。
【0061】
まずQ1(i) 及びQ2(i)から説明する。Q1(i) 及びQ2(i)は、
図9、式(5)及び式(6)に示すように、最上段のタンクから流出する水量として計算することができる。
【0062】
Q1(i)=a1×I[S1(i)-Z1] …(5)
Q2(i)=a2×I[S1(i)-Z2] …(6)
ここで、a1、a2は、タンクの側面に形成された流出孔の流出孔係数である。またZ1、Z2は、タンクの底から流出孔までの高さである。またS1(i)は、i日目のタンクの水深である。そしてI[x]は、x>0のときI[x]=x、x≦0のときI[x]=0となる関数である。
【0063】
そして
図9及び式(7)において、山林から土壌に吸収される水量がg1(i)で表されている。
【0064】
g1(i)=b1×S1(i) …(7)
ここで、b1は、最上段のタンクの底に形成された流出孔の浸透孔係数である。
【0065】
なお、式(5)~式(7)に記載されているタンクの水深S1(i)は、下記の式(8)のように表される。
【0066】
S1(i)=S1(i-1)-{Q1(i-1)+Q2(i-1)+g1(i-1)}
+P(i)-E(i) …(8)
すなわち、i日目のタンクの水深S1(i)は、前日のタンクの水深S1(i-1)に対して、前日のうちに流出した水量{Q1(i-1)+Q2(i-1)+g1(i-1)}を減じると共に、新たに増加した水量P(i)-E(i)を加えることで算出できる。
【0067】
ここで、P(i)は、i日目の降水量を表し、E(i)は、大気中に蒸発した水量を表す。
【0068】
次にQ3(i)について説明する。Q3(i) は、
図9、及び式(9)に示すように、上から2段目のタンクから流出する水量として計算することができる。
【0069】
Q3(i)=a3×I[S2(i)-Z3] …(9)
ここで、a3は、2段目のタンクの側面に形成された流出孔の流出孔係数である。またZ3は、2段目のタンクの底から流出孔までの高さである。またS2(i)は、i日目のこのタンクの水深である。
【0070】
そして
図9及び式(10)に示すように、山林から一旦土壌に吸収された水g1(i)が流出せずにそのまま土壌中を流れる水量がg2(i)で表されている。
【0071】
g2(i)=b2×S2(i) …(10)
ここで、b2は、2段目のタンクの底に形成された流出孔の浸透孔係数である。
【0072】
また式(9)~式(10)に記載されているタンクの水深S2(i)は、下記の式(11)のように表される。
【0073】
S2(i)=S2(i-1)-{Q3(i-1)+g2(i-1)}+g1(i) …(11)
すなわち、2段目タンクのi日目の水深S2(i)は、前日のタンクの水深S2(i-1)に対して、前日のうちに流出した水量{Q3(i-1)+g2(i-1)}を減じると共に、新たに増加した水量g2(i)を加えることで算出できる。
【0074】
次にQ4(i)について説明する。Q4(i) は、
図9、及び式(12)に示すように、上から3段目のタンクから流出する水量として計算することができる。
【0075】
Q4(i)=a4×I[S3(i)-Z4] …(12)
ここで、a4は、3段目のタンクの側面に形成された流出孔の流出孔係数である。またZ4は、3段目のタンクの底から流出孔までの高さである。またS3(i)は、i日目のこのタンクの水深である。
【0076】
そして
図9及び式(13)に示すように、山林中を流れる水g2(i)が流出せずにそのまま土壌中を流れる水量がg3(i)で表されている。
【0077】
g3(i)=b3×S3(i) …(13)
ここで、b3は、3段目のタンクの底に形成された流出孔の浸透孔係数である。
【0078】
また式(12)~式(13)に記載されているタンクの水深S3(i)は、下記の式(14)のように表される。
【0079】
S3(i)=S3(i-1)-{Q4(i-1)+g3(i-1)}+g2(i) …(14)
すなわち、3段目タンクのi日目の水深S3(i)は、前日のタンクの水深S3(i-1)に対して、前日のうちに流出した水量{Q4(i-1)+g3(i-1)}を減じると共に、新たに増加した水量g2(i)を加えることで算出できる。
【0080】
次にQ5(i)について説明する。Q5(i) は、
図9、及び式(15)に示すように、上から4段目のタンクから流出する水量として計算することができる。
【0081】
Q5(i)=a5×S4(i) …(15)
ここで、a5は、4段目のタンクの側面に形成された流出孔の流出孔係数である。またS4(i)は、i日目のこのタンクの水深である。
【0082】
また式(15)に記載されているタンクの水深S4(i)は、下記の式(16)のように表される。
【0083】
S4(i)=S4(i-1)-Q5(i-1)+g3(i) …(16)
すなわち、4段目タンクのi日目の水深S4(i)は、前日のタンクの水深S4(i-1)に対して、前日のうちに流出した水量Q5(i-1)を減じると共に、新たに増加した水量g3(i)を加えることで算出できる。
【0084】
予測値算出装置100は、第1関係式600Aや第2関係式600Bの場合と同様に、
図5に示す気象データテーブル610に記憶されている過去の気象データの実績値(降水量)と水力発電量の実績値(不図示)とを用いて回帰分析を行い、式(3)~式(16)における各種の係数を定めることにより、第3関係式600Cを求める。
【0085】
なお予測値算出装置100は、第3関係式600Cを求める際には、なるべく電力需要量の予測対象期間に近い過去(すなわち現在により近い過去)の気象データ(降水量)の実績値と水力発電量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。例えば直近の過去の所定期間(例えば過去1年間)の気象データの実績値と電力需要量の実績値とを用いて回帰分析を行うとよい。このような態様により、降水量と水力発電量との関係に影響する、山林や河川の状態や水力発電所の性能などの状況を、予測対象期間に想定される状況に近づけることができるので、より正確な水力発電量の予測値を算出することが可能となる。
【0086】
図2に戻って、予測値算出装置制御プログラム710は、予測値算出装置100が有する機能を実現するためのプログラムを総称しており、例えば、予測値算出装置100上で動作するアプリケーションプログラムやOS(Operating System)、種々のライブラリ等を含む。
【0087】
記録媒体読取装置170は、SDカード等の記録媒体800に記録された予測値算出装置制御プログラム710や各種のデータを読み取り、記憶装置140に格納する。
【0088】
通信装置130は、ネットワーク500を介して、気象データ提供装置200や不図示の他のコンピュータと予測値算出装置制御プログラム710や各種のデータの授受を行う。
【0089】
例えば他のコンピュータに上述した予測値算出装置制御プログラム710や関係式600を格納しておき、予測値算出装置100がこのコンピュータから予測値算出装置制御プログラム710や関係式600をダウンロードするようにすることができる。
【0090】
入力装置150は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける各種ボタンやスイッチ、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサ、マイクなどの入力インタフェース、加速度センサ、温度センサ、GPS受信機やコンパスなどの位置検出センサ、カメラなどである。
【0091】
出力装置160は、例えばディスプレイなどの表示装置、スピーカ、バイブレータ、照明などの出力ユーザインタフェースである。
【0092】
<気象データ提供装置>
次に気象データ提供装置200について説明する。
【0093】
気象データ提供装置200は、
図3に示すように、CPU210、メモリ220、通信装置230、記憶装置240、入力装置250、出力装置260、及び記録媒体読取装置270を備えて構成される。なお上述したように、これらの気象データ提供装置200のハードウェア構成は、予測値算出装置100のハードウェア構成と基本的に共通である。そのため、これらのハードウェア構成についての重複した説明は省略する。
【0094】
記憶装置240は、気象データ提供装置200によって実行される気象データ提供装置制御プログラム720や各種のプログラムやデータを格納する。
【0095】
記憶装置240に記憶されている気象データ提供装置制御プログラム720や各種のデータがメモリ220に読み出されてCPU210によって実行あるいは処理されることにより、気象データ提供装置200の各種機能が実現される。
【0096】
==機能構成==
図10に、本実施形態に係る予測値算出装置100の機能ブロック図を示す。予測値算出装置100は、関係式記憶部101、予測対象期間受付部102、対象データ算出部103、予測値特定情報受付部104、予測値出力部105の各機能を備える。これらの機能は、
図2に示したハードウェアによって本実施形態に係る予測値算出装置制御プログラム710や各種のデータが実行あるいは処理されることにより実現される。
【0097】
<関係式記憶部>
関係式記憶部101は、所定種類の気象データと電力需要量との関係を表す関係式を記憶する。本実施形態では、関係式記憶部101は、記憶装置140として具現化されている。また所定種類の気象データと電力需要量との関係を表す関係式は、第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600Cとして具現化されている。
【0098】
<予測対象期間受付部>
予測対象期間受付部102は、電力需要量の予測対象期間を指定する情報の入力を受け付ける。オペレータは、例えば「2021年1月~12月」や、「2021年2月~3月」のように、具体的な予測対象期間を直接指定して入力することもできるし、
図11に示すようなシナリオ想定期間(予測対象期間)の選択画面の中から選択することもできる。この場合、例えばシナリオ想定期間コード「101」を選択した場合には、次の4月からその翌年の3月までの1年間を指定したことになる。
【0099】
シナリオ想定期間を選択する場合は、本実施形態では、選択肢は「年間」「2か月間」「月間」の3種類であるが、「3か月間」「6か月間」等、それ以外の期間であってもよい。
【0100】
<対象データ算出部>
対象データ算出部103は、予測対象期間に対応する過去複数年の同期間における所定種類の気象データと、関係式600と、を用いて、各期間の電力需要量を算出する。
【0101】
例えば予測対象期間が「4月」だった場合、対象データ算出部103は、1970年から現時点で最新の2020年までの51年分の毎年4月の気象データ(気温、湿度、日射量、降水量)と、第1関係式600A、第2関係式600B、第3関係式600Cとを用いて、毎年4月の毎日の総電力需要量、太陽光発電量、水力発電量を1か月分積算し、毎年4月の1か月の合計の総電力需要量、太陽光発電量、水力発電量を算出する。そして対象データ算出部103は、各年ごとに、総電力需要量から太陽光発電量と水力発電量を減算することで、51年分の毎年4月の電力需要量(ネット需要)を算出する。
【0102】
このようにして算出された複数の電力需要量(ネット需要)は、各年の気象データのばらつきに応じたばらつきを有している。
【0103】
<予測値特定情報受付部>
予測値特定情報受付部104は、上記各期間の(毎年の4月の)電力需要量の中から、予測値として選出する電力需要量を特定する予測値特定情報の入力を受け付ける。
【0104】
予測値特定情報は、例えば上記各期間の電力需要量の中のパーセンタイル値(例えば30パーセンタイル値)を示す情報とすることができる。
【0105】
この場合、例えば
図13に示すように、1970年4月から2020年4月までの51年分の毎年4月(各期間)の電力需要量を大きさの順(例えば小さい順)に並べ(
図13には6番目までが記載されている)、小さい方から数えた場合の全体の中の位置が、予測値特定情報により指定されたパーセンタイル値(例えば30パーセンタイル値)になるような電力需要量(あるいはパーセンタイル値が最も近い電力需要量)が予測値として特定される。
【0106】
あるいは予測値特定情報は、上記各期間の電力需要量の平均値に最も近い電力需要量を予測値とする旨の情報としてもよい。
【0107】
この場合、1970年4月から2020年4月までの51年分の毎年4月の電力需要量の平均値と、毎年4月のそれぞれの電力需要量と、が比較されて、平均値に最も近い電力需要量が予測値として特定される。なお
図13には、平均値に最も近い電力需要量には、「平均値」の欄にその旨を示す情報(例えば黒丸印)が表示されることが示されている。
【0108】
あるいは予測値特定情報は、上記各期間の電力需要量の最頻値を予測値とする旨の情報としてもよい。
【0109】
この場合、1970年4月から2020年4月までの51年分の毎年4月の電力需要量を、電力需要量の値に応じて複数のグループに分類し、最も多くの電力需要量が分類されたグループ内の電力需要量の平均値と、このグループ内の各電力需要量と、が比較され、この平均値に最も近い電力需要量が予測値として特定される。
【0110】
電力需要量が複数のグループに分類される様子を
図12に示す。そして
図12には、最も多くの電力需要量が分類されたグループに「最頻値」と記載されている。
【0111】
そしてこの最頻値と記載されたグループに分類された電力需要量の中から、このグループ内の電力需要量の平均値に最も近い電力需要量が予測値(最頻値)として特定される。
【0112】
また
図13にも、「最頻値」の欄が設けられ、最頻値として特定される電力需要量にその旨を示す情報(例えば黒丸印)が表示されることが示されている。
【0113】
またオペレータは、上記51年分の毎年4月の電力需要量の中から、特定の年(例えば2008年)の電力需要量を予測値として直接指定することもできる。
【0114】
また予測値特定情報受付部104は、予測値とする電力需要量の選出方法を選べるように、
図14に示すようなメニューを表示して、オペレータに選択させるようにすることもできる。
【0115】
<予測値出力部>
予測値出力部105は、上記予測値特定情報により特定される電力需要量を、予測対象期間の電力需要量の予測値として出力する。
【0116】
このような態様により、毎年の気象データのばらつきを考慮した電力需要量の予測が可能となる。つまり、まず、実際にばらつきのある過去の複数年分の気象データを用いて各年の電力需要量が算出されているので、それらの電力需要量の値は、毎年の気象データのばらつきが反映されたものとなっている。そして、電力需要量を算出するために用いる関係式600は共通しているので、算出される電力需要量は、気象データのばらつきが考慮された電力需要量となっている。
【0117】
なお、関係式600を、なるべく予測対象期間に近い過去の気象データと電力需要量とを用いて作成することにより、この関係式600を用いて算出される電力需要量を、予測対象期間に見込まれる電力需要量に近づけることができる。この場合、対象データ算出部103によって算出される電力需要量は、予測対象期間における気象データのばらつきが考慮された電力需要量であるとみなすことができる。
【0118】
そしてこのようにして過去の複数年の気象データから算出された複数の電力需要量の中から、気象データのばらつきの傾向が予測対象期間と近いと想定される年の電力需要量を選択することで、予測対象期間における気象データのばらつき予想に沿った電力需要量の予測値を取得することが可能となる。
【0119】
例えば予測対象期間の気温が例年よりも高いと想定される場合には、過去の同様の傾向の年の気象データから算出した電力需要量を予測値として得ることができる。あるいは予測対象期間の気象データのばらつき具合を想定することが困難である場合には、過去の様々な年の気象データから算出した複数の電力需要量を予測値として得ておくことで、予測対象期間の電力需要量がどの程度ばらつく可能性があるのかを知ることもできる。
【0120】
また予測値出力部105は、予測値特定情報がパーセンタイル値を示す情報である場合は、各期間の電力需要量のパーセンタイル値と、予測値特定情報で指定されたパーセンタイル値と、を比較し、予測値特定情報で指定されたパーセンタイル値に最も近いパーセンタイル値を持つ電力需要量を予測値として出力する。
【0121】
このような態様により、予測対象期間における電力需要量のばらつき具合が全体の中の所定位置(パーセンタイル値)であると想定した場合の電力需要量の予測値を得ることができる。パーセンタイル値50%とした場合は予測値は中央値となる。
【0122】
また予測値出力部105は、予測値特定情報が上記各期間の電力需要量の平均値に最も近い電力需要量を予測値とする旨の情報である場合は、各期間の電力需要量の平均値と、各期間の電力需要量と、を比較し、平均値に最も近い電力需要量を予測値として出力する。
【0123】
このような態様により、予測対象期間における電力需要量のばらつき具合が平均的であると想定した場合の電力需要量の予測値を得ることができる。
【0124】
また予測値出力部105は、予測値特定情報が上記各期間の電力需要量の最頻値を予測値とする旨の情報である場合には、各期間の電力需要量を、電力需要量の値に応じて複数のグループに分類し、最も多くの電力需要量が分類されたグループ内の電力需要量の平均値と、そのグループ内の各電力需要量と、を比較し、この平均値に最も近い電力需要量を予測値として出力する。
【0125】
このような態様により、予測対象期間における電力需要量が、ばらつきの分布内の最頻値であると想定した場合の電力需要量の予測値を得ることができる。
【0126】
さらに予測値出力部105は、上記予測値を出力する際に、各期間の電力需要量を合わせて出力するようにしてもよい。
【0127】
このような態様により、電力需要量の全体のばらつき具合を見ながら、予測値を判断することが可能となる。
【0128】
またこのとき、予測値出力部105は、上記各期間の電力需要量を、期間を表す情報(例えば、「2010年3月~4月」)と共に、時系列順に並べて出力するようにしてもよい。
【0129】
このような態様により、時系列順に過去の電力需要量を見ながら、予測値を判断することが可能となる。
【0130】
さらに予測値出力部105は、上記各期間の電力需要量を、期間を表す情報と共に、電力需要量の大きさの順に並べて出力するようにしてもよい。
【0131】
このような態様により、大きさの順に過去の電力需要量を見ながら、予測値を判断することが可能となる。
【0132】
また予測値出力部105は、予測値を出力する際に、上記各期間の電力需要量を電力需要量の値に応じて分類してなるグループごとに、各グループに分類される電力需要量の範囲を示す値と、各グループに分類された電力需要量の頻度と、を表示したヒストグラムを出力するようにしてもよい。予測値出力部105がヒストグラムを出力する様子を
図12に示す。
【0133】
このような態様により、過去の電力需要量の全体の分布状況を見ながら、予測値を判断することが可能となる。
【0134】
なお、上記のようにして得た電力需要量の予測値は、予測対象期間における火力発電所や原子力発電所の発電計画の検討に利用可能である。この場合例えば、予測対象期間に見込まれる燃料費や発電所の補修計画などの情報を用いて、予測対象期間における発電コストを最小にするような発電計画をシミュレーションにより求める。
【0135】
==処理の流れ==
次に、
図15を参照しながら、本実施形態に係る予測値算出装置100の制御方法について説明する。
図15はその手順を示すフローチャートであり、これらのステップは、予測値算出装置100の記憶装置140に記憶されている予測値算出装置制御プログラム710をCPU110が実行することにより実現される。
【0136】
まず予測値算出装置100は、予め、過去の気象データと電力需要量とを用いて関係式600を作成し、記憶装置140に記憶しておく。そして予測値算出装置100は、予測対象期間の入力を受け付ける(S1000)。このとき予測値算出装置100は、例えば
図11に示したようなシナリオ想定期間(予測対象期間)の選択画面を表示し、オペレータに予測対象期間の入力を促す。このとき、例えばシナリオ想定期間コード「101」が選択された場合には、次の4月からその翌年の3月までの1年間が予測対象期間として指定されたことになる。
【0137】
次に予測値算出装置100は、予測対象期間に対応する過去複数年の同期間における所定種類の気象データと、関係式600と、を用いて、各期間の電力需要量を算出する(S1010)。上述したように、予測値算出装置100は、各期間毎に、グロス需要(総電力需要量)と、太陽光発電量と、水力発電量と、を算出し、各期間毎に、グロス需要から太陽光発電量と水力発電量を減算することにより、各期間毎にネット需要(電力需要量)を算出する。
【0138】
そして予測値算出装置100は、各期間毎に算出されたネット需要のうち予測値として選出する電力需要量を特定する予測値特定情報、すなわち、予測シナリオの入力を受け付ける(S1020)。
【0139】
そして予測値算出装置100は、予測シナリオに該当する電力需要量を、予測対象期間の電力需要量の予測値として出力する(S1030)。
【0140】
このあと、オペレータが他の予測シナリオを入力した場合には、再びS1020及びS1030の処理を繰り返す(S1040)。このような態様により、予測対象期間における電力需要量の予測値を、気象データの様々なばらつき具合を想定しながら検討することが可能となる。
【0141】
なお、S1040において、オペレータが処理の終了を選択した場合には、予測値算出装置100は処理を終了する。
【0142】
以上、本実施形態に係る予測値算出装置100、予測値算出装置100の制御方法及びプログラムについて説明したが、本実施形態のような態様により、毎年の気象データのばらつきを考慮した電力需要量の予測が可能となる。つまり、まず、実際にばらつきのある過去の複数年分の気象データを用いて各年の電力需要量が算出されているので、それらの電力需要量の値は、毎年の気象データのばらつきが反映されたものとなっている。そして、電力需要量を算出するために用いる関係式600は共通しているので、算出される電力需要量は、気象データのばらつきが考慮された電力需要量となっている。
【0143】
なお、関係式600を、なるべく予測対象期間に近い過去の気象データと電力需要量とを用いて作成することにより、この関係式600を用いて算出される電力需要量を、予測対象期間に見込まれる電力需要量に近づけることができる。この場合、対象データ算出部103によって算出される電力需要量は、予測対象期間における気象データのばらつきが考慮された電力需要量であるとみなすことができる。
【0144】
そしてこのようにして過去の複数年の気象データから算出された複数の電力需要量の中から、気象データのばらつきの傾向が予測対象期間と近いと想定される年の電力需要量を選択することで、予測対象期間における気象データのばらつき予想に沿った電力需要量の予測値を取得することが可能となる。
【0145】
例えば予測対象期間の気温が例年よりも高いと想定される場合には、過去の同様の傾向の年の気象データから算出した電力需要量を予測値として得ることができる。あるいは予測対象期間の気象データのばらつき具合を想定することが困難である場合には、過去の様々な年の気象データから算出した複数の電力需要量を予測値として得ておくことで、予測対象期間の電力需要量がどの程度ばらつく可能性があるのかを知ることもできる。
【0146】
なお上述した実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0147】
例えば、上記の実施形態では、グロス需要から太陽光発電量と水力発電量を減算することによりネット需要を算出しているが、これは一例であり、例えば、グロス需要から太陽光発電量と水力発電量と風力発電量を減算することによりネット需要を算出してもよい。この場合、風力発電量に影響のある風速などの気象データと、風力発電量と、の関係を表す関係式を生成しておき、この関係式に、風速などの所定の気象データを入力することで、風力発電量を算出する。
【0148】
また上記の実施形態では、予測値算出装置100は、気象データ提供装置200から気象データをあらかじめ取得して気象データテーブル610に記憶しているが、予測値を計算する都度、計算に必要な気象データを気象データ提供装置200から取得するようにしてもよい。
【0149】
また予測値算出装置100は、電力需要量の他にも、衣類品の売り上げや交通事故の件数、スポーツイベントの観戦者数、特定の病気の患者の数など、気象データの影響を受けて変動する様々な対象データの予測値を算出することができる。
【0150】
さらに予測値算出装置100は、気象データ以外にも、対象データに影響を与える様々な要因データを用いて、これらの要因データの影響を受けて変動する対象データの予測値を求めることができる。
【0151】
このような要因データと対象データの組み合わせとして、例えば、電力市場価格の影響を受けて変動する所定期間(例えば1週間)の利益額や、農林業等の特定分野の就業者数の影響を受けて変動する特定商品の売上額、落雷回数と停電回数など様々なものがある。
【0152】
なお、電力市場価格のばらつきを考慮した利益額の予測値を算出する場合は、予測値算出装置100は、上述した第1関係式600Aから第3関係式600Cに加え、気象データ(気温データ等)と市場価格との関係を表す第4関係式600Dを用いる。この場合、対象データ算出部103は、予測対象期間に対応する過去の複数の同期間における気象データと、第4関係式600Dと、を用いて、上記各期間の市場価格を算出する。そして対象データ算出部103は、第1関係式600Aから第3関係式600Cを用いて別途算出した各期間の電力需要量(ネット需要)と、第4関係式600Dを用いて算出した各期間の市場価格を、不図示の発電計画作成装置300に入力することで、各期間の利益額を算出する。発電計画作成装置300は、予測値算出装置100と通信可能に接続されたコンピュータであり、各期間のネット需要と各期間の市場価格から、各期間の利益額を算出するためのプログラムを実行することで、各期間の利益額を算出する。このような態様により、気象データの変動の影響を受けて変化する電力市場価格のばらつきを考慮した利益額の予測値を算出することが可能となる。
【0153】
また上記実施形態において、対象データ算出部103は、予測対象期間に対応する過去複数年の同期間における所定種類の気象データと、関係式600と、を用いて、各期間の電力需要量を算出する場合を例に説明したが、予測対象期間に対応する過去の期間は、毎年の同期間に限られない。例えば毎月の同期間(例えば毎月1日から10日の期間)や、毎日の同期間(例えば毎日9時から12時までの期間)、毎週の同期間(例えば毎週水曜日の10時から12時の期間)などでもよい。
【0154】
つまり、予測対象期間に対応する過去の同期間は、対象データ算出部103が過去の要因データと関係式600とを用いて対象データを算出する際に、どの周期で過去の要因データを用いるかが指定されることによって定めることができる。
【0155】
例えば要因データが毎日の1時間ごとの気温データであり、対象データが毎日の1時間ごとの電力需要量であるとした場合に、予測対象期間として翌日の10時から14時までの期間が指定された場合を考える。
【0156】
このとき、例えば、過去1か月分の毎日の同時間帯の気温データと関係式600とを用いて電力需要量を算出する旨の情報が予測値算出装置100に入力された場合には、対象データ算出部103は、予測対象期間に対応する過去1か月分の毎日の同時間帯(10時から14時)における気温データと、関係式600と、を用いて、各期間の電力需要量を算出する。あるいは、過去10年分の毎年の同じ日の同じ時間帯の気温データと関係式600とを用いて電力需要量を算出する旨の情報が入力された場合には、対象データ算出部103は、予測対象期間に対応する過去10年分の同じ日の同時間帯(10時から14時)における気温データと、関係式600と、を用いて、各期間の電力需要量を算出する。
【0157】
なお、予測値算出装置100は、このような、過去の要因データをどの周期で用いて対象データを算出するかの指定を受け付ける機能を備える態様としてもよいし、予め所定の周期(例えば1年)で過去の要因データを用いる旨が定められている態様としてもよい。
【0158】
また、以下の述べる方法により計算して得られた要因データを用いても良い。計算方法としては、過去データに基づいて要因データを作成するエンピリカルシミュレーションや回帰分析等で推計したモデルを用いたシミュレーションにより、過去実績よりも多くの要因データのセットを作成することができる。
【符号の説明】
【0159】
100 予測値算出装置
101 関係式記憶部
102 予測対象期間受付部
103 対象データ算出部
104 予測値特定情報受付部
105 予測値出力部
110 CPU
120 メモリ
130 通信装置
140 記憶装置
150 入力装置
160 出力装置
170 記録媒体読取装置
200 気象データ提供装置
300 発電計画作成装置
500 ネットワーク
600 関係式
600A 第1関係式
600B 第2関係式
600C 第3関係式
600D 第4関係式
610 気象データテーブル
620 気温補正テーブル
710 予測値算出装置制御プログラム
720 気象データ提供装置制御プログラム
800 記録媒体
1000 予測値算出システム