(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】炭素材料およびそれを用いてなる導電性組成物、導電膜
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20241217BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C01B32/21
H01B1/24 A
(21)【出願番号】P 2020201217
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮房 有花
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-098725(JP,A)
【文献】特開2019-216082(JP,A)
【文献】特開2010-135647(JP,A)
【文献】特開2019-189495(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194142(WO,A1)
【文献】特表2014-522076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00ー32/991
H01B 1/00-1/24
H01M 4/00-4/62
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N
3)が10mol%以上であることを特徴とする炭素材料
(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。
【請求項2】
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N
1+N
2)としたときの、{N×(N
1+N
2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol%以下であることを特徴とする請求項1記載の炭素材料。
【請求項3】
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であることを特徴とする請求項1または2記載の炭素材料。
【請求項4】
窒素を吸着種としたBET比表面積(BET
N2)が、0.01~100m
2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。
【請求項5】
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることを特徴とする請求項1~4いずれか記載の炭素材料。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。
【請求項7】
請求項6記載の導電性組成物を用いて得られる導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料およびそれを用いてなる導電性組成物、導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの発達は目覚ましいものがあり、各種電子機器で使用される導電性材料についても製品の小型・軽量化、低コスト化、様々な使用環境下での高寿命化が求められるようになってきている。例えば、電子機器の基盤配線や電子機器を接続する配線を製造する場合、導電性が良好な導電性組成物が必要となるが、銀や銅等の金属フィラーを用いる導電性組成物が一般的であり、コストや耐久性などの点で大きな課題が今なお解決出来ていない。一方、金属を用いない導電性のカーボン材料を用いた導電性組成物も様々な検討がなされているが、導電性が不十分なため、帯電防止用途等の半導電性用途での使用に限られてきた。
【0003】
また、導電性のカーボン材料としては、グラファイトやカーボンナノチューブ等の高導電性カーボンも検討されてきた。これら高導電性カーボンの体積抵抗率は、10-2Ω・cm未満と優れた導電性を有しており、従来に比べ導電性の課題を改善できることが報告されている(特許文献1、2)。しかし、体積抵抗率10-4Ω・cm未満の非常に高い導電性を示す金属フィラーと比較すると大幅に体積抵抗率が高く、導電性の改善が大きな課題であった。
【0004】
ここで、炭素材料の導電性(σ)は下記式で表される。
σ=μ×n×e (式1) μ:移動度、n:キャリア密度、e:電気素量(定数)
上記(式1)より、導電性を向上させるためには移動度及び/またはキャリア密度の向上が必要となる。
【0005】
したがって、炭素材料にホウ素元素や窒素元素等のヘテロ元素をドープすることで、電子またはホールの導入によるキャリア密度の向上が期待できる。これまでにホウ素ドープによる炭素材料の高導電化(特許文献3)が報告されているが、製造時に2000℃以上の高温を必要とするため、エネルギー消費量やコストの面で課題があった。一方、窒素ドープについては、触媒活性に関する報告(特許文献4)はあるものの、導電性に着目した研究は不足しており、炭素材料中の窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性はいまだ明らかとなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-7740号公報
【文献】特開2008-293821号公報
【文献】国際公開第WO2014/185496号パンフレット
【文献】特開2014-207220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑み、導電性に優れる炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であることを特徴とする炭素材料に関する。
【0009】
また、本発明は、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol%以下であることを特徴とする前記炭素材料に関する。
【0010】
また、本発明は、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であることを特徴とする前記炭素材料に関する。
【0011】
また、本発明は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする前記炭素材料に関する。
【0012】
また、本発明は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることを特徴とする前記炭素材料に関する。
【0013】
また、本発明は、前記炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、前記導電性組成物を用いて得られる導電膜に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性に優れる窒素ドープ炭素材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている窒素含有炭素材料」を単に、「窒素ドープ炭素材料」ということがある。
【0017】
<窒素ドープ炭素材料>
本発明の窒素ドープ炭素材料について説明する。窒素ドープ炭素材料とは、炭素原子が六角網状に共有結合した網平面を形成した炭素六角網面を基本骨格とし、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、窒素元素が含まれる材料であって、少なくとも炭素元素の一部を置換するようにドープされている窒素元素を含有する炭素材料である。尚、「炭素元素と置換するようにドープされている窒素元素」とは、炭素六角網面中にある炭素元素と置き換えられた窒素元素、炭素材料の表面の炭素六角網面のエッジにある炭素元素と置き換えられた窒素元素、炭素材料の表面の炭素六角網面中に空孔として存在している欠陥や欠損部等の炭素元素と結合した窒素元素、炭素材料の表面付近の炭素六角網面の面間を橋渡しするように炭素元素と結合した窒素元素のことを示し、これらの窒素元素は、後述するX線光電子分光法(XPS)により測定が可能である。
【0018】
本発明の窒素ドープ炭素材料は、炭素材料中の炭素元素の含有量に対する窒素元素の含有量の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、好ましくは0.1~5mol%、より好ましくは0.1~2mol%、さらに好ましくは0.1~1mol%、特に好ましくは0.15~0.5mol%である。N/Cが0.01mol%以上であると、キャリア密度が向上するため、導電性が改善する。N/Cが20mol%以下であると、炭素材料の結晶性が高いため、キャリア移動度が良好である。窒素ドープ炭素材料中の炭素元素および窒素元素の含有量は、CHN元素分析などにより求めることができる。また、窒素ドープ炭素材料中の窒素の含有量は、表面および内部に含有される全窒素量を示すものであり、窒素化合物や炭素元素と置換するようにドープされている窒素を含む。
【0019】
本発明の窒素ドープ炭素材料は、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上である。N3型窒素原子とは、後述する、3つの炭素原子と結合している4級の窒素原子のことであり、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)は、X線光電子分光法(XPS)によって測定することができ、窒素のN1sスペクトル面積に対するN3型窒素原子のピーク面積の割合から求めることができる。
【0020】
XPS測定で得られる窒素のN1sスペクトルとは、窒素元素のN1s電子の結合エネルギー範囲(390~410eV付近)に現れ、下記構造式に示す4つの成分からなることが知られている。各成分の結合エネルギーの値(ピークトップ)は、ピリジン類似の構造をしているN1型窒素原子が398.5±0.5eV、ピロール類似の構造をしているN2型窒素原子が400±0.5eV、3つの炭素原子と結合している4級のN3型窒素原子が401±0.5eV、酸化された状態で酸素のような異種元素が結合しているN4型窒素原子が404.0±0.5eVに現れる。これらのピークが重なっている場合には、各成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することで、フィッティングを行ってピークを分離することにより割合を求めることができる。このように、N1sのピーク分離により炭素材料表面の全窒素量に対する各成分の割合を求めることができる。
【0021】
【0022】
本発明の窒素ドープ炭素材料において、材料表面の全窒素量に対するN3型窒素原子量の割合(表面N3)は、好ましくは20mol%以上、より好ましくは30~90mol%、さらに好ましくは50~80mol%である。N3型窒素原子は非共有電子対を炭素との結合に使用するため、炭素材料への電子供与により炭素材料のキャリア密度を向上することができる。一方、N1型窒素原子およびN2型窒素原子は非共有電子対を有しているため、炭素材料への電子供与効果は著しく小さい。また、N4型窒素原子は酸素等の異種元素と結合しているため、炭素材料への電子供与効果は小さい。したがって、N3型窒素原子量の割合(表面N3)が10mol%であると、その他の窒素原子による結晶性の低下や電子伝導の阻害を抑制できる。
【0023】
また、XPSによって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合(表面末端窒素量)が1mol%以下であることで、炭素材料の結晶性や炭素六角網面におけるπ結合の連続性を維持し、キャリア移動度を高く保つことができる。なお、炭素材料表面における各元素の割合は、全元素のスペクトル面積に対する各元素のスペクトル面積の割合から算出できる。
【0024】
また、XPSによって測定した、炭素材料表面の炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.1~5.0mol%であることが好ましく、0.2~1.3mol%であることがより好ましい。炭素材料表面の炭素元素に対する窒素元素の割合が0.1mol%以上であるとキャリアドープ効果により導電性が改善し、5.0mol%以下であると、表面の炭素六角網面構造が維持されるため、粒子間の導電性が向上する。
【0025】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、金属元素を含んでもよいが、易廃棄性や軽量性、環境保護の観点からは、金属元素を含まないことが好ましい。XPSによって測定した、炭素材料表面の炭素元素に対する金属元素の割合(表面金属量)は、好ましくは1.0mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.1mol%以下である。
【0026】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることが好ましく、より好ましくは0.1~20m2/g、さらに好ましくは1~10m2/gである。BETN2が100m2/g以下であると、重量および体積当たりの粒子数が少ないため、粒子間の接触抵抗が低減され、良好な導電性が得られる。BETN2が0.01m2/g以上であると、窒素ドープ反応が容易に進行する。
【0027】
本発明における比表面積とは試料単位質量当たりの表面積のことであり、ガス吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0028】
また、CuKα線をX線源として得られる炭素材料のX線回折(XRD)線図においては、24.0~27.0°付近に現れる炭素の(002)面回折ピークにより、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料であることを確認できる。炭素の(002)回折ピーク位置は、炭素六角網面の面間距離によって変化し、ピーク位置が高角側であるほど炭素六角網面の距離が近いことから、構造の黒鉛的規則性が高いことが示される。また、上記ピークがシャープである(半値幅が小さい)ほど、結晶子サイズが大きく、結晶構造が発達していることを示すものである。
【0029】
上記ピークの半値幅(半値全幅)が8°以下である場合には、炭素材料の結晶性が高く、電子伝導性が高く、好ましい。また、上記ピークの半値幅が4°以下であることはより好ましく、1°以下であることは、さらに好ましい。なお、近傍のピークと重なっている場合には、フィッティングによりピークを分離し、半値幅を算出する。
【0030】
また、得られたピークより算出された平均面間距離d002は、好ましくは0.338nm以下、さらに好ましくは0.336nm以下である。一般的な炭素材料の平均面間距離d002は、小さい方が導電性に優れる傾向がある。
【0031】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料の構造(形状)は、上述の条件を満たす炭素材料であれば、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック)、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ、活性炭、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン等に分類されるものであり、好ましくは黒鉛化カーボンブラック、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、さらに好ましくは、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、カーボンナノチューブである。
【0032】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。
【0033】
<窒素ドープ炭素材料の製造方法>
本発明における窒素ドープ炭素材料の製造方法としては、特に限定されず、
炭素系原料、窒素元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、
窒素元素を含む炭素系原料を炭化させる方法、
フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物などの窒素元素を含む化合物を炭化させる方法、
炭素系原料に気相法で窒素元素をドープする方法、など、従来公知のものを使用することができる。
【0034】
好ましい製造方法としては、窒素元素を含む炭素系原料を熱処理する方法や、少なくとも炭素系原料と窒素元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法が挙げられる。また、前記熱処理により得られた窒素ドープ炭素材料を、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄により得られた窒素ドープ炭素材料を、熱処理する工程を含む方法が挙げられる。
【0035】
次に、窒素ドープ炭素材料の製造に用いられる炭素源について説明する。炭素源は、特に限定されるものではないが、無機炭素源、有機炭素源が挙げられ、好ましくは無機炭素源である。
【0036】
具体的な無機炭素源としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック)、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ、活性炭、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン等に分類されるものであり、好ましくは黒鉛化カーボンブラック、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、さらに好ましくは、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、カーボンナノチューブである。上記炭素源の中でも、種類やメーカーによって、炭素六角網面の大きさや積層構造は様々で、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0037】
市販の黒鉛として使用できるものは、特に限定されるものではないが、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、CGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50、PAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150等、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50等、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、RA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1等、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。
また、市販のカーボンブラックとして使用できるものは、特に限定されるものではないが、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等、三菱化学社製のファーネスブラック#2350、#2600、#3050B、#3030B、#3230B、及び#3400B等、デンカ社製のアセチレンブラックHS-100、FX-35等が挙げられる。
また、市販のカーボンナノチューブとして使用できるものは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等があり、特に限定されるものではないが、昭和電工社製VGCF-H、VGCF-X等、名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ、NTP社製NTP3003、NTP3021、NTP3121、NTP8012、NTP8022、NTP9012、NTP9112等、OCSiAl社製TUBALL等が挙げられる。
また、市販のグラフェン系炭素として使用できるものは、特に限定されるものではないが、XGSciences社製グラフェンナノプレートレットxGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等が挙げられる。
【0038】
これらの炭素源の中でも、導電性やコストの観点から黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、およびカーボンナノチューブを使用することが好ましく、黒鉛を使用することがさらに好ましい。
【0039】
また、具体的な有機炭素源としては、熱処理後に炭化して炭素粒子となる有機炭素原料であれば、特に限定されるものではないが、具体的には、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、コークス、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。中でも黒鉛の原料としても使われるピッチやコークスの使用が好ましい。
【0040】
次に、窒素ドープ炭素材料の製造に用いられる窒素源について説明する。窒素源としては、窒素元素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、色素、ポリマー等の有機化合物、アンモニア等の無機化合物等が挙げられる。また、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いてもよい。窒素を含有した芳香族化合物は、炭素材料中に効率的に窒素元素を導入しやすいため好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な化合物が安価に入手可能であるため、原料としては特に好ましい。中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、ニッケルフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物、無金属フタロシアニン系化合物は、コストの観点からより好ましい。
【0041】
窒素ドープ炭素材料を製造するための炭素源と窒素源の原料組成比は、上述の窒素含有量となるように製造出来れば、特に限定されるものではないが、炭素源100質量部に対して窒素源の割合が好ましくは0.1~100質量部であり、さらに好ましくは1~50質量部である。
【0042】
前記炭素源と窒素源の混合方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくは乾式混合および湿式混合である。また、混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0043】
乾式混合装置としては、例えば、2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
また、乾式混合装置を使用する際、母体となる原料粉体に、他の原料を粉体のまま直接添加してもよいが、より均一な混合物を作製するために、前もって他の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、母体となる原料粉体の凝集粒子を解しながら添加する方法を用いてもよいし、さらに処理の効率を上げるために、加温してもよい。
【0044】
湿式混合装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類、エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類、レッドデビル社製ペイントコンディショナー、ボールミル、シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等のサンドミル類、アトライター、若しくはコボールミル等のメディア型分散機、 ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等の湿式ジェットミル類、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機類、または、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい場合がある。
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
また、原料が均一に溶解、または分散しない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、必要に応じて分散剤を添加して、分散、混合してもよい。
【0046】
前記炭素源と窒素源の混合物を加熱処理する条件は、原料となる炭素源や窒素源の種類や量によって異なり、特に限定されるものではないが、加熱温度は500~1700℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、800~1300℃がさらに好ましい。また、加熱時間は特に限定されるものではないが、10分~72時間であり、好ましくは30分~10時間である。
【0047】
加熱処理工程における雰囲気は、原料の酸化等の副反応を防ぐために、窒素、アルゴンなどの不活性ガスや、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気、真空での雰囲気が好ましい。また、窒素元素を大量に含むアンモニアガス雰囲気において気相法により窒素をドープしてもよい。
【0048】
また、加熱処理工程は、一定の雰囲気、温度および時間について1段階で行う処理工程だけでなく、雰囲気、温度、温度を多段階で行う処理工程でもよい。
【0049】
窒素ドープ炭素材料の製造方法としては、さらに、前記熱処理により得られた窒素ドープ炭素材料を酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸は、金属成分を溶出させることができるものであれば、特に限定されないが、炭素材料との反応性が低く、金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸等が好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、窒素ドープ炭素材料を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置し、上澄みを除去する。そして、上澄みの着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。酸で洗浄することにより金属成分が除去されるため好ましい。
【0050】
窒素ドープ炭素材料の製造方法としては、さらに、前記酸洗浄により得られた窒素ドープ炭素材料を再度熱処理する工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理は、先に行った熱処理の条件と大きく変わるものではない。加熱温度は500~1700℃が好ましく、600~1500℃がより好ましい。また、雰囲気は、表面の窒素元素が分解し減少しにくい観点から、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下等が好ましい。
【0051】
<導電性組成物>
本発明の導電性組成物は、窒素ドープ炭素材料と、バインダーとを含有する。また、必要に応じて溶剤を含有してもよい。
【0052】
(バインダー)
本発明の導電性組成物において、バインダーは、窒素ドープ炭素材料などの粒子を結着させるために使用される。バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル樹脂、多糖類、ポリアミノ酸樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でもよい。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。価格や環境保護の観点から、バインダーはフッ化物を含まないことが好ましい。
【0053】
バインダー樹脂は、バインダー樹脂が基材に適用された後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂を用いることもできる。バインダー樹脂は、水系または非水系溶剤に溶解する溶解性樹脂や分散型樹脂微粒子を用いることもできる。分散型樹脂微粒子は、樹脂微粒子が水系または非水系の分散媒中で溶解せずに、微粒子の状態で存在するもので、その分散体は、一般的にエマルションとも呼ばれる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0054】
分散型樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の観点から、10~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることが好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5%以下であることが好ましい。平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。樹脂微粒子の固形分に応じて、分散媒と同じ分散液で200~1000倍に希釈しておく。該希釈分散液約5mlを測定装置(日機装社製ナノトラック)のセルに注入し、サンプルに応じた分散媒および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークによって測定することができる。
【0055】
分散型樹脂微粒子としては、架橋型樹脂微粒子を含むことが好ましい。架橋型樹脂微粒子とは、内部架橋構造(三次元架橋構造)を有する樹脂微粒子を示し、粒子内部で架橋していることが重要である。また、架橋型樹脂微粒子が特定の官能基を含有することにより、他の電極構成材料や基材との密着性に寄与することができる。さらには架橋構造や官能基の量を調整することで、優れた耐久性を得ることができる。
【0056】
使用する分散型樹脂微粒子は特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0057】
(溶剤)
導電性組成物中の窒素ドープ炭素材料とバインダーとを均一に混合する場合、溶剤を適宜用いることが出来る。そのような溶剤としては、有機溶剤や水を挙げることが出来る。
有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの内から導電性組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。また、溶剤は2種以上用いてもよい。
【0058】
更に、導電性組成物には、窒素ドープ炭素材料以外の導電材、増粘剤、分散剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0059】
(導電性組成物の組成比)
本発明の導電性組成物において、窒素ドープ炭素材料及びバインダー、溶剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
窒素ドープ炭素材料の含有量は、導電性や基材への密着性等から、導電性組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは50~99.9質量%、より好ましくは70~99質量%である。窒素ドープ炭素材料の含有量が50質量%以上であると、導電膜中の電子パスが発達し、十分な導電性が得られる。
バインダーの含有量は、導電性組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは1~20質量%である。バインダーの含有量が0.1質量%以上であると、導電膜中の粒子間の結着や粒子と基材との密着が強固となり、十分な塗膜強度が得られる。バインダーの含有量が40質量%以下であると、導電膜中の窒素ドープ炭素材料や窒素ドープ炭素材料以外の導電材による電子パスが発達するため、十分な導電性が得られる。
【0060】
また、導電性組成物の適正粘度は、組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0061】
<分散機・混合機>
本発明の組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0062】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0063】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
<導電膜>
本発明の導電膜は、導電性組成物を膜状に形成してなるものであり、例えば、シート状の基材上に形成してもよい。また、導電性組成物を圧延してシート状に形成してもよい。
【0065】
(シート状基材)
導電膜成形に使用するシート状基材の形状は特に限定されないが、絶縁性の樹脂フィルムが好ましく、各種用途にあったものを適宜選択することができる。
【0066】
例えば、材質としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、ポリ塩ビニル、ポリアミド、ナイロン、OPP(延伸ポリプロピレン)、CPP(未延伸ポリプロピレン)などが挙げられるが特に限定されることはない。
【0067】
また、形状としては、一般的には平板上のフィルムが用いられるが、表面を粗面化したものや、プライマー処理したもの、穴あき状のもの、及びメッシュ状の基材も使用できる。
【0068】
シート状基材上に導電性組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。
【0069】
具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0070】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよく、導電膜を軟化させてプレスしやすくするため、加熱しながら行ってもよい。導電膜の厚みは、一般的には0.1μm以上、1mm以下であり、好ましくは1μm以上、200μm以下である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、部は、特に断らない限り、質量部を表す。
【0072】
<窒素ドープ炭素材料>
[実施例1]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源であるコバルトフタロシアニン(東京化成工業社製)20部とを自転公転ミキサーで乾式混合して混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(1)を得た。
【0073】
[実施例2]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源である鉄フタロシアニン(山陽色素社製)20部と、溶媒であるエタノール300部をビーズミルで湿式混合し、大気下70℃のオーブンで乾燥させて混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(2)を得た。
【0074】
[実施例3~23、比較例1~10]
表1~4に示す原料、条件を用いて、原料を乾式混合した場合は実施例1と同様にして、原料を湿式混合した場合は実施例2と同様にして、窒素ドープ炭素材料(3)~(33)を作製した。
【0075】
【0076】
実施例および比較例で得られた窒素ドープ炭素材料について、以下の測定を行った。その結果を表5~8に示す。
【0077】
<炭素材料中の窒素元素の含有量>
CHN元素分析装置(パーキンエルマー社製 2400型)を用いて、炭素材料中の炭素元素および窒素元素の含有量を測定し、炭素元素の含有量に対する窒素元素の含有量の割合(N/C)を算出した。
【0078】
<炭素材料表面の元素及び化学状態の分析>
X線光電子分光装置(XPS)(ThermoFisher scientific社製 K-Alpha)を用いて、全窒素量に対するN3型窒素原子量の割合(表面N3)、炭素量に対する窒素量の割合(表面N/C)、表面末端窒素量、および表面金属量を評価した。
【0079】
<炭素六角網面の基本骨格>
X線回折装置(リガク社製 Smartlab)を用いて、CuKα線をX線源として測定し、2θ=24.0~27.0°付近に現れる黒鉛骨格由来の(002)面のピーク半値幅を求めた。
【0080】
<比表面積>
ガス吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製 BELSORP-mini)を用いて、窒素吸着量測定を行い、BET法により比表面積を算出した。
【0081】
実施例および比較例で得られた炭素材料について、以下の評価を行った。その結果を表5~8に示す。
【0082】
<粉体抵抗>
粉体抵抗測定システム(日東精工アナリテック社製 MCP-PD51型)を用いて、炭素材料の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、測定セルの中に炭素材料を加えた後、20kNの荷重を加えた際の値を算出した。
【0083】
【0084】
比較例1~3、5、7~10と比べて、実施例では、炭素材料中の炭素元素の含有量に対する窒素元素の含有量の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、窒素のドープ量が適切であるため、体積抵抗率が改善し、原料の体積抵抗率に対する窒素ドープ炭素材料の体積抵抗率の比が0.9未満となった。また、比較例4、6と比べて、実施例では、炭素材料表面の全窒素量に対するN3型窒素原子量の割合(表面N3)が10mol%以上であるため、効率的にキャリアがドープされており、体積抵抗率が改善し、原料の体積抵抗率に対する窒素ドープ炭素材料の体積抵抗率の比が0.9未満となった。
また、実施例5、8、14、19に比較して、他の実施例では、N/Cが0.1~1mol%であり、キャリア密度が向上し結晶性も高いため、体積抵抗率がより改善された。
また、実施例20に比較して、実施例18では表面N3が20mol%以上であるため、体積抵抗率がより改善された。また、実施例15、16に比較して、実施例2、13では表面N3が50mol%以上であるため、体積抵抗率がより改善された。
また、実施例6、8、9、14、21に比較して、他の実施例では、表面N/Cが0.2~1.3mol%であるため、表面のキャリア密度が最適であり、体積抵抗率がより改善された。
また、実施例14、17に比較して、実施例15、16では、表面末端窒素量が1mol%以下であるため、導電阻害が抑制されており、体積抵抗率がより改善された。
また、実施例12、18~23に比較して、実施例1~11、実施例13~17は、(002)面のピーク半値幅及び比表面積が好ましい範囲内にあるため、体積抵抗率が2mΩ・cm以下であり、導電性フィラーとして特に好適に利用できる。
【0085】
<導電性組成物および導電膜>
[実施例24]
窒素ドープ炭素材料(1)12部、窒素ドープ炭素材料(23)3部、バインダーとしてポリエステル樹脂(東洋紡社製 バイロン200)5部、溶媒としてトルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(1/1/1(質量比))を80部、をミキサーに入れて混合し、さらにサンドミルに入れて分散を行い、導電性組成物(1)を得た。得られた導電性組成物(1)を、シート状基材となる厚さ100μmのPETフィルム上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥し、導電膜の厚みが30μmとなるよう調整して、導電膜(1)を作製した。導電膜(1)の体積抵抗率を、抵抗率測定装置(日東精工アナリテック社製 ロレスタGP)を用いて4端子法で測定(JIS-K7194)した。導電膜(1)の体積抵抗率は、2.8mΩ・cmであった。
【0086】
[実施例25]
窒素ドープ炭素材料(4)18部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分2質量%)50部、溶媒として水30部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとして分散型樹脂微粒子であるアクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製 W-168、固形分50質量%)2部を加えミキサーで混合し、導電性組成物(2)を得た。導電性組成物(1)の代わりに導電性組成物(2)を用いた以外は実施例24と同様にして、導電膜(2)を作製した。導電膜(2)の体積抵抗率は、4.1mΩ・cmであった。
【0087】
[比較例11]
窒素ドープ炭素材料(1)の代わりに窒素ドープ炭素材料(21)を用い、窒素ドープ炭素材料(23)の代わりに窒素ドープ炭素材料(27)を用いた以外は実施例24と同様にして、導電性組成物(3)および導電膜(3)を作製した。導電膜(3)の体積抵抗率は、9.4mΩ・cmであった。
【0088】
[比較例12]
窒素ドープ炭素材料(4)の代わりに球状化黒鉛CGB―50(日本黒鉛工業社製)を用いた以外は実施例25と同様にして、導電性組成物(4)および導電膜(4)を作製した。導電膜(4)の体積抵抗率は、6.4mΩ・cmであった。
【0089】
比較例11、12と比べて、実施例24、25では、本発明の窒素ドープ炭素材料を用いているため、体積抵抗率が良好な塗膜が得られた。