(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】作業車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241217BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G05D1/43
A01B69/00 303M
A01B69/00 B
(21)【出願番号】P 2020218044
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡良
(72)【発明者】
【氏名】楫野 豊
(72)【発明者】
【氏名】山下 智志
(72)【発明者】
【氏名】池田 一生
(72)【発明者】
【氏名】有村 浪漫
(72)【発明者】
【氏名】畑邊 昌也
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313735(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111624988(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場内を走行可能な走行車体と、
前記走行車体の自己位置を取得する測位装置と、
前記走行車体の方位角を取得する方位角取得手段と、
前記圃場内の作業開始点を含む作業経路を生成し、生成した前記作業経路に沿って自律走行しながら作業を行うよう前記走行車体を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記走行車体の前記圃場内における移動時の旋回半径を予め設定し、
前記方位角取得手段で取得した前記方位角のベクトルおよび前記測位装置で取得した前記自己位置で接する前記旋回半径の円
であり、前記走行車体が左折で移動を開始する左折移動開始円または前記走行車体が右折で移動を開始する右折移動開始円と、前記作業経路のベクトルおよび前記作業開始点で接する前記旋回半径の円
であり、前記走行車体が前記作業経路に左折で進入する左折進入円または前記走行車体が前記作業経路に右折で進入する右折進入円を設定し、
前記走行車体が移動を開始する円と前記作業経路に進入する円との距離が所定距離以上の場合、左折-直進-左折の経路と、左折-直進-右折の経路と、右折-直進-左折の経路と、右折-直進-右折の経路との4つの経路の中から最短となる経路を自律走行による移動経路として設定し、
前記走行車体の逸脱を禁止する逸脱禁止領域を設定し、
前記最短となる経路が前記逸脱禁止領域から逸脱する部分経路を含む場合、前記4つの経路から前記部分経路を含む経路を除外した残りの経路のうち前記自己位置から前記作業開始点までの間で最短となる経路を前記移動経路として設定することを前記逸脱禁止領域から逸脱する部分経路を含まない経路が最短となる経路となるまで繰り返すこと
を特徴とする作業車両の制御システム。
【請求項2】
前記走行車体の移動開始を遠隔操作で指示する携帯端末装置
を備え、
前記制御部は、
前記携帯端末装置から前記走行車体の移動開始が指示された時点での前記自己位置および前記方位角に基づいて前記移動経路を設定し
た場合、設定した前記移動経路に沿って前記走行車体を移動させ
、
前記4つの経路のすべてが前記逸脱禁止領域から逸脱する部分経路を含む場合、前記移動経路を設定せず、前記携帯端末装置に前記移動経路を設定できないことを表示すること
を特徴とする請求項
1に記載の作業車両の制御システム。
【請求項3】
前記制御部は
、
前記走行車体が移動を開始する円と前記作業経路に進入する円との距離が所定距離未満の場合、前記走行車体が移動を開始する円と前記作業経路に進入する円とに接する前記旋回半径の接続円をさらに設定し、左折-右折-左折の経路と、右折-左折-右折の経路との2つの経路を前記4つの経路に加えて前記移動経路を選定すること
を特徴とする請求項1
または2に記載の作業車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自律走行が可能な農業用トラクタなどの作業車両において、作業車両を自律走行させる作業経路を設定する場合、作業車両が自律走行を開始可能な自律走行候補経路を特定する特定部によって、候補特定用領域を設定し、候補特定用領域に含まれる作業経路を自律走行候補経路として特定可能とする技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来技術では、作業車両が自律走行を開始する位置(作業を開始する位置であり、以下、作業開始点という)が予め決定している場合に作業開始点への適切な移動経路を生成することができないため、作業開始点まで移動する際の効率化を図ることはできなかった。すなわち、上記したような従来技術には、作業効率を向上させる点についてさらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業開始点への移動の効率化を図ることができ、作業効率を向上させることができる作業車両の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態に係る作業車両の制御システムは、圃場内を走行可能な走行車体と、前記走行車体の自己位置を取得する測位装置と、前記走行車体の方位角を取得する方位角取得手段と、前記圃場内の作業開始点を含む作業経路を生成し、生成した前記作業経路に沿って自律走行しながら作業を行うよう前記走行車体を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記走行車体の前記圃場内における移動時の旋回半径を予め設定し、前記方位角取得手段で取得した前記方位角のベクトルおよび前記測位装置で取得した前記自己位置で接する前記旋回半径の円と、前記作業経路のベクトルおよび前記作業開始点で接する前記旋回半径の円と、2つの前記旋回半径の円に対する接線とに基づいて複数の経路を生成し、生成した前記複数の経路のうち前記自己位置から前記作業開始点までの間で最短となる経路を自律走行による移動経路として設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
実施形態に係る作業車両によれば、作業開始点への移動の効率化を図ることができ、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る作業車両を示す概略左側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る作業車両の制御システムを示すブロック図である。
【
図3】
図3は、圃場内における自律走行の説明図(その1)である。
【
図4】
図4は、圃場内における自律走行の説明図(その2)である。
【
図5】
図5は、移動経路設定の処理を示すフローチャート(その1)である。
【
図6】
図6は、移動経路設定の処理を示すフローチャート(その2)である。
【
図7】
図7は、移動経路の経路パターンの説明図である。
【
図8】
図8は、(a)左折-右折-左折の経路パターンの説明図であり、(b)右折-左折-右折の経路パターンの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の制御システムの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
<作業車両(トラクタ)の概要>
まず、
図1を参照して実施形態に係る作業車両1の概要について説明する。
図1は、実施形態に係る作業車両1を示す概略左側面図である。なお、以下では、作業車両1としてトラクタを例に説明する。また、作業車両であるトラクタ1は、自走しながら圃場で農作業を行う農業用トラクタである。
【0011】
また、作業車両であるトラクタ1は、操縦者(作業者ともいう)が搭乗して圃場内を走行しながら所定の作業を実行する他、後述する制御部200(
図2参照)を中心とする制御系による各部の制御により、圃場内を自律走行しながら所定の作業を実行する。
【0012】
なお、以下の説明において、前後方向とは、トラクタ1の直進時における進行方向であり、進行方向の前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。トラクタ1の進行方向とは、トラクタ1の直進時において後述する操縦席8からステアリングホイール9へと向かう方向である。
【0013】
また、左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。以下では、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、操縦者が操縦席8に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。上下方向とは、鉛直方向である。前後方向、左右方向および上下方向は、互いに3次元で直交する。また、以下の説明において、トラクタ1または走行車体2を指して「機体」という場合がある。
【0014】
図1に示すように、トラクタ1は、走行車体2と、作業機6とを備える。走行車体2は、圃場内を走行可能であり、前輪3と、後輪4とを備える。前輪3は、左右一対で設けられた操舵用の車輪(操舵輪)である。後輪4は、左右一対で設けられた駆動用の車輪(駆動輪)である。なお、走行車体2は、車輪(前輪3および後輪4の少なくともいずれか)に代えてクローラ装置を備えてもよい。この場合、走行クローラが駆動輪である。
【0015】
駆動輪である後輪4には、ボンネット5内に収容された駆動源であるエンジンEで発生した回転動力が、動力伝達装置(ミッションケース)12内に設けられた変速装置(トランスミッション)121(
図2参照)で適宜減速されて伝達される。後輪4は、エンジンEから伝達された回転動力によって駆動される。変速装置121は、エンジンEから伝達される回転動力を複数(たとえば、1速~8速)の変速段のうちいずれかの変速段に切り替える。
【0016】
走行車体2は、エンジンEで発生し、かつ、変速装置121で減速された動力を、4WDクラッチを介して前輪3にも伝達可能に構成される。この場合、4WDクラッチが動力を伝達すると、エンジンEから伝達される動力によって前輪3および後輪4の四輪が駆動される。また、4WDクラッチが動力の伝達を遮断すると、エンジンEから伝達される動力によって後輪4のみの二輪が駆動される。このように、走行車体2は、二輪駆動(2WD)と四輪駆動(4WD)とを切り替え可能に構成される。
【0017】
走行車体2の後部には、圃場内で作業を行う作業機6が連結され、作業機6を駆動する動力を伝達するPTO(Power take-off)軸71を有するPTO装置7が設けられる。走行車体2の中央部には、操縦者がトラクタ1を操縦する場合に座る操縦席8が設けられる。
【0018】
操縦席8の前方には、前輪3の操舵用のハンドルであるステアリングホイール9が設けられる。なお、ステアリングホイール9や、ステアリングホイールを駆動する駆動部などは、ステアリング装置122(
図2参照)を構成する。ステアリングホイール9は、ハンドルポスト10の上端部に設けられる。ハンドルポスト10の下方であり、操縦席8に操縦者が座った場合における操縦者の足元付近には、各種操作ペダル11(アクセルペダルやブレーキペダル、クラッチペダル)が設けられる。
【0019】
また、走行車体2の後部には、作業機6を昇降させる昇降装置13が設けられる。昇降装置13は、作業機6を上昇させることで、作業機6を非作業位置に移動させる。また、昇降装置13は、作業機6を下降させることで、作業機6を対地作業位置に移動させる。昇降装置13は、油圧式の昇降シリンダ131と、リフトアーム132と、リフトロッド133と、ロアリンク134と、トップリンク135を備える。
【0020】
リフトアーム132は、昇降シリンダ131に作動油が供給されると、軸AXまわりに作業機6を上昇させるように回動し、昇降シリンダ131から作動油が排出されると、軸AXまわりに作業機6を下降させるように回動する。なお、リフトアーム132の基部(軸AX付近)には、リフトアーム132の回動角度を検出するリフトアームセンサが設けられる。作業機6の高さは、リフトアームセンサの検出値に基づいて算出される。
【0021】
また、リフトアーム132は、リフトロッド133を介してロアリンク134に連結される。このように、昇降装置13は、ロアリンク134とトップリンク135とで、走行車体2に対して作業機6を昇降可能に連結する。
【0022】
なお、
図1に示す例においては、作業機6がロータリ耕耘機の場合を例示している。ロータリ耕耘機は、PTO装置7のPTO軸71から伝達された動力によって耕耘爪61が回転することで、圃場面(土壌)を耕起する。
【0023】
また、トラクタ1は、制御部200(
図2参照)を備える。制御部200は、エンジンEを制御するとともに、走行車体2の走行速度を制御する。また、制御部200は、作業機6を制御する。
【0024】
また、トラクタ1は、測位装置150を備える。測位装置150は、走行車体2の上部に設けられ、走行車体2の位置を所定の周期で測定し、走行車体2の自己位置P0(
図3参照)の情報(たとえば、緯度および経度)を取得する。測位装置150は、たとえば、GNSS(Global Navigation Satellite System)であり、上空を周回している航法衛星Sからの電波を受信して測位および計時することができる。
【0025】
また、トラクタ1は、作業者による携帯端末装置160の操作で特定の圃場における各種作業の設定を行うことができる。携帯端末装置160は、、たとえば、タブレット端末であり、インターネットなどの通信ネットワークに接続可能であり、通信ネットワークを介して作業管理装置と互いに接続可能である。この場合、作業管理装置は、いわゆるクラウドコンピューティングが可能なシステムである。携帯端末装置160と作業管理装置とは、たとえば、無線LAN(Local Area Network)で接続される。
【0026】
携帯端末装置160は、たとえば、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される記憶部と、タッチパネルにより構成される表示部および操作部とを備える。なお、操作部として、各種キーやボタンなどが別に設けられてもよい。また、携帯端末装置160は、後述する制御部200と同様、電子制御によって各部を制御可能なように、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部を備えてもよい。
【0027】
作業管理装置は、CPUなどを有する処理装置やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、さらには、入出力装置が設けられたコンピュータなどである。
【0028】
また、トラクタ1は、方位角取得手段170(
図2参照)を備える。方位角取得手段170は、走行車体の方位角を取得する。方位角取得手段170は、たとえば、方位角センサである。以下、方位角取得手段170を方位角センサという。
【0029】
方位角センサ170は、たとえば、走行車体2の進行方向の絶対方位角(たとえば、「北」を0°(360°)として、「東」を90°、「南」を180°、「西」を270°)を検出する。方位角センサ170は、一定時間ごとに絶対方位角を検出し、検出した絶対方位角を制御部200などに送信する。なお、方位角取得手段170としては、方位角センサの他、たとえば、地磁気センサなどがある。
【0030】
<作業車両(トラクタ)の制御システム>
次に、
図2を参照して実施形態に係る作業車両の制御システム100、すなわち、制御部200を中心とする作業車両(トラクタ)1の制御系について説明する。
図2は、実施形態に係る作業車両の制御システム100を示すブロック図である。
図2に示すように、制御部200は、エンジンECU(Electronic Control Unit)201と、走行系ECU202と、作業機昇降系ECU203とを備える。
【0031】
エンジンECU201は、エンジンEの回転数を制御する。走行系ECU202は、駆動輪(後輪4)の回転を制御することで、走行車体2(
図1参照)の走行速度を制御する。作業機昇降系ECU203は、昇降装置13を制御して作業機6の昇降駆動する。
【0032】
制御部200は、電子制御によって各部を制御することが可能であり、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部をはじめ、各種プログラムや圃場ごとに予め設定された走行車体2の後述する予定走行経路(以下、作業経路という)R1などの必要なデータ類が記憶される、たとえば、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される記憶部などを備える。
【0033】
図2に示すように、制御部200には、測位装置(GNSS)150、方位角センサ170、エンジン回転センサ110、車速センサ111、変速センサ112、切れ角センサ113などが接続される。また、制御部200には、エンジンE、変速装置121、ステアリング装置122、昇降装置13などが接続される。
【0034】
エンジン回転センサ110は、エンジンEの回転数を検出する。車速センサ111は、走行車体2(
図1参照)の走行速度(車速)を検出する。変速センサ112は、変速装置121において複数の変速段のうちいずれの変速段であるかを検出する。切れ角センサ113は、操舵輪である前輪3(
図1参照)の切れ角を検出する。
【0035】
制御部200には、測位装置150から圃場などにおける走行車体2の位置(自己位置)情報、エンジン回転センサ110からエンジンEの回転数、車速センサ111から走行車体2の車速、変速センサ112から現在の変速段、切れ角センサ113から前輪3の切れ角がそれぞれ入力される。なお、制御部200は、走行車体2を自律走行させる場合、上記したように、切れ角センサ113の検出値を用いて、前輪3の切れ角をフィードバックしながらステアリングホイール9(
図1参照)に連結されたステアリングシリンダを制御することで、ステアリングホイール9を操舵する。
【0036】
また、制御部200においては、エンジンECU101がエンジンEに接続され、走行系ECU102が変速装置121やステアリング装置122に接続され、作業機昇降系ECU103が昇降装置13に接続される。なお、作業機昇降系ECU103は、昇降装置13を介して作業機を昇降させる。
【0037】
また、制御部200においては、走行車体2を自律走行させる場合には、作業機6による作業内容に応じた作業経路R1(
図3参照)が予め圃場ごとに定められ、データ化されて記憶部に記憶される。制御部200は、測位装置150の測定結果に基づいて、記憶部に記憶された作業経路R1に沿って走行しながら作業を行うように、エンジンE、変速装置121、ステアリング装置122、昇降装置13などを制御する。作業経路R1は、圃場の形状、大きさ、圃場内に形成された畝の幅、長さおよび本数、さらには、作物の種類などに応じて設定される。また、制御部200は、トラクタ1(走行車体2)の圃場内における移動時の旋回半径を予め設定する。
【0038】
また、上記したように、制御部200は、たとえば、作業者が携行可能な携帯端末装置(タブレット端末)160と無線接続される。制御部200は、作業者の操作による携帯端末装置160からの指示信号に基づいて、トラクタ1の各部を制御する。なお、制御部200は、トラクタ1の機体情報データベースを有し、型式などの情報の受け渡しを携帯端末装置160などから行えるように構成されてもよい。
【0039】
<圃場内における自律走行>
次に、
図3~
図8を参照して作業車両(トラクタ)1の圃場F1内における自律走行について説明する。
図3および
図4は、圃場F1内における自律走行の説明図であり、圃場の上方からの模式図である。なお、
図3には、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が所定距離(たとえば、10m)以上の場合を示し、
図4には、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が所定距離未満の場合を示している。
【0040】
図5および
図6は、移動経路R2設定の処理を示すフローチャートである。このうち、
図6には、逸脱禁止領域A2から逸脱しない移動経路R2設定の処理を示している。
図7は、移動経路R2の経路パターンの説明図(表)である。
図8は、(a)左折-右折-左折の経路パターンの説明図であり、(b)右折-左折-右折の経路パターンの説明図である。
【0041】
たとえば、自律走行しながら作業を行うトラクタ1による耕耘作業の場合、制御部200(
図2参照)は、たとえば、トラクタ1の全長、全幅、トレッド、作業機6(
図1参照)の能力、圃場F1の形状や面積などが含まれる情報などに基づいて、適切な旋回位置や、耕深などが規定された作業経路R1を生成する。
【0042】
なお、作業者Hは、畦F2などから携帯端末装置160を操作して遠隔でトラクタ1に指示を送ることも可能である。
【0043】
図3および
図4に示すように、トラクタ1は、作業経路R1に沿って、圃場F1の出入り口から圃場F1内に進入し、圃場F1内に設定された作業領域A1において適切に旋回走行しながら耕耘作業を自動で行う。なお、トラクタ1は、プログラムによっては、耕耘作業の後、圃場F1の出入り口から圃場F1外に出て、所定の場所で停止するといった制御も可能である。
【0044】
トラクタ1(走行車体2)は、たとえば、畦F2の内側、すなわち、圃場F1の端から内側の所定の領域を枕地領域として、枕地領域において周回しながら対地作業を行う。トラクタ1は、枕地領域よりも内側の作業領域A1において、予め設定された作業開始点P1から作業終了点P2まで、作業経路R1に沿って、直進と旋回とを繰り返しながら対地(耕耘)作業を行う。
【0045】
<作業開始点への移動経路設定>
また、本実施形態では、
図3および
図4に示すように、トラクタ1が作業を開始する場合に作業開始点P1まで適切な経路で移動できるように、トラクタ1(走行車体2)の移動経路R2を設定する。
【0046】
この場合、制御部200は、
図3および
図4に示すように、方位角取得手段170で取得した方位角のベクトルV1と測位装置150で取得した自己位置P0とで接する旋回半径の円C1を設定し、作業経路R1のベクトルV2と作業開始点P1とで接する旋回半径の円C2を設定する。また、制御部200は、2つの旋回半径の円C1,C2に対する接線L1を設定する。制御部200は、2つの旋回半径の円C1,C2と、接線L1とに基づいて、複数の経路を生成する。
【0047】
ここで、方位角のベクトルV1と自己位置P0とで接する旋回半径の円C1は、走行車体2が左折で移動を開始する左折移動開始円C1Lと、走行車体2が右折で移動を開始する右折移動開始円C1Rとの2つがある。また、作業経路R1のベクトルV2と作業開始点P1とで接する旋回半径の円C2は、走行車体2が作業経路R1に左折で進入する左折進入円C2Lと、走行車体2が作業経路R1に右折で進入する右折進入円C2Rとの2つがある。
【0048】
そして、制御部200は、走行車体2側の左右いずれかの旋回半径の円C1(C1L,C1R)を選定し、作業開始点P1側の左右いずれかの旋回半径の円C2(C2L,C2R)を選定し、これらの複数(4つ)の経路の中から、自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を移動経路R2として設定する。なお、制御部200は、設定した移動経路R2を携帯端末装置160の表示画面に表示する。
【0049】
制御部200は、移動経路R2を設定する場合、
図5に示すように、2つの旋回半径の円C1,C2と、接線L1とに基づいて、複数の経路を生成する(ステップS101)。
【0050】
次いで、制御部200は、複数の経路から、自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を選定する(ステップS102)。次いで、制御部200は、選定した最短となる経路を移動経路R2として設定し(ステップS103)、処理を終了する。
【0051】
このような構成によれば、トラクタ1の自律走行において、走行車体2の自己位置P0と作業開始点P1とを円滑に接続して移動可能な経路を生成し、生成した経路のうち最短となる経路(移動経路)R2で移動できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができ、円滑に作業を開始することができる。これにより、作業効率を向上させることができる。
【0052】
また、
図3および
図4に示すように、制御部200は、作業領域A1の外側において、走行車体2の逸脱を禁止する逸脱禁止領域A2を設定する。このため、走行車体2は、逸脱禁止領域A2の内側において走行(移動)可能である。制御部200は、複数の経路において自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路が逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含む場合、部分経路を含む経路を除外する。すなわち、経路内に逸脱禁止領域A2からの逸脱成分(部分経路)を含む場合はその経路を除外する。
【0053】
そして、制御部200は、逸脱成分を含む経路を除外した残りの経路から、自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を移動経路R2として設定する。この場合、逸脱成分を含む経路が最も最短となる経路であったとしても、このような経路を移動経路R2として設定しない。なお、次に最短となる経路が逸脱成分を含む場合も、移動経路R2として設定しない。逸脱成分を含まない経路が最短となる経路となるまで繰り返す。また、制御部200は、全ての経路が逸脱成分を含む場合は、移動経路R2を設定せず、たとえば、携帯端末装置160の表示画面に移動経路R2の設定ができないことを表示する。
【0054】
制御部200は、逸脱禁止領域A2から逸脱しない移動経路R2を設定する場合、
図6に示すように、2つの旋回半径の円C1,C2と、接線L1とに基づいて、複数の経路を生成する(ステップS201)。
【0055】
次いで、制御部200は、複数の経路から、自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を選定する(ステップS202)。次いで、制御部200は、最短となる経路が逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含むか否かを判定する(ステップS203)。
【0056】
制御部200は、最短となる経路が逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含むと判定した場合(ステップS203:Yes)、逸脱する部分経路を含む経路以外から最短となる経路を再度選定し、再度選定した最短となる経路を移動経路R2として設定し(ステップS204)、処理を終了する。
【0057】
また、制御部200は、最短となる経路が逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含まないと判定した場合(ステップS203:No)、制御部200は、選定した最短となる経路を移動経路R2として設定し(ステップS103)、処理を終了する。なお、制御部200は、ステップS203およびステップS204の処理において、再度選定した最短となる経路についても逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含むか否かの判定を行うとともに、逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含まないと判定するまで繰り返してもよい。
【0058】
このような構成によれば、圃場F1からの逸脱や畦F2との接触を防止しつつ最短となる経路(移動経路)R2で移動できるため、安全を確保しながら作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0059】
また、ここで、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が所定距離未満の場合について、
図7および
図8を参照してさらに説明する。
【0060】
図7に示すように、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が所定距離以上の場合、制御部200は、左折-直進-左折の経路、左折-直進-右折の経路、右折-直進-左折の経路、右折-直進-右折の経路の4つの経路パターンの中から移動経路R2を設定する。
【0061】
また、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が所定距離未満の場合、制御部200は、左折-直進-左折の経路、左折-直進-右折の経路、右折-直進-左折の経路、右折-直進-右折の経路の4つの経路パターンに、左折-右折-左折の経路と、右折-左折-右折の経路との2つの経路パターンを加えた中から移動経路R2を設定する。
【0062】
制御部200は、
図8(a)に示すように、左折-右折-左折の経路を設定する場合は、2つの旋回半径の円C1,C2に接する旋回半径の接続円C3をさらに設定する。また、また、制御部200は、
図8(b)に示すように、右折-左折-右折の経路を設定する場合も、2つの旋回半径の円C1,C2に接する旋回半径の接続円C3をさらに設定する。
【0063】
このような構成によれば、走行車体2が移動を開始する際の旋回半径の円C1と作業経路R1に進入する際の旋回半径の円C2との距離が短い場合でも、最短経路となる移動経路R2を設定できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0064】
また、作業者は、携帯端末装置160を用いて、走行車体2の移動開始を遠隔操作で指示することができる。この場合、制御部200は、携帯端末装置160から走行車体2の移動開始が指示された時点、すなわち、制御部200が携帯端末装置160から移動開始の指示信号を受信した時点での自己位置P0と方位角とに基づいて、移動経路R2を設定する。そして、制御部200は、設定した移動経路R2に沿って走行車体2を移動させる。
【0065】
このような構成によれば、携帯端末装置160から移動開始の指示があった地点、すなわち、制御部200が携帯端末装置160から移動開始の指示信号を受信した地点から作業開始点P1までの間で無理のない経路を設定できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0066】
上述してきた実施形態により、以下の作業車両の制御システム100が実現される。
【0067】
(1)圃場F1内を走行可能な走行車体2と、走行車体2の自己位置P0を取得する測位装置150と、走行車体2の方位角を取得する方位角取得手段170と、圃場F内の作業開始点P1を含む作業経路R1を生成し、生成した作業経路R1に沿って自律走行しながら作業を行うよう走行車体2を制御する制御部200とを備え、制御部200は、走行車体2の圃場F1内における移動時の旋回半径を予め設定し、方位角取得手段170で取得した方位角のベクトルV1および測位装置150で取得した自己位置P0で接する旋回半径の円C1と、作業経路R1のベクトルV2および作業開始点P1で接する旋回半径の円C2と、2つの旋回半径の円C1,C2に対する接線L1とに基づいて複数の経路を生成し、生成した複数の経路のうち自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を自律走行による移動経路R2として設定する作業車両の制御システム100。
【0068】
このような作業車両の制御システム100によれば、自律走行において、走行車体2の自己位置P0と作業開始点P1とを円滑に接続して移動可能な経路を生成し、生成した経路のうち最短となる経路(移動経路)R2で移動できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができ、円滑に作業を開始することができる。これにより、作業効率を向上させることができる。
【0069】
(2)上記(1)において、制御部200は、走行車体2の逸脱を禁止する逸脱禁止領域A2を設定し、複数の経路のうち自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路が逸脱禁止領域A2から逸脱する部分経路を含む場合、部分経路を含む経路を除外した残りの経路のうち自己位置P0から作業開始点P1までの間で最短となる経路を移動経路R2として設定する作業車両の制御システム100。
【0070】
このような作業車両の制御システム100によれば、上記(1)の効果に加えて、圃場F1からの逸脱や畦F2との接触を防止しつつ最短となる経路(移動経路)R2で移動できるため、安全を確保しながら作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0071】
(3)上記(1)または(2)において、走行車体2の移動開始を遠隔操作で指示する携帯端末装置160を備え、制御部200は、携帯端末装置160から走行車体2の移動開始が指示された時点での自己位置P0および方位角に基づいて移動経路R2を設定し、設定した移動経路R2に沿って走行車体2を移動させる作業車両の制御システム100。
【0072】
このような作業車両の制御システム100によれば、上記(1)または(2)の効果に加えて、携帯端末装置160から移動開始の指示があった地点(制御部200が携帯端末装置160から移動開始の指示信号を受信した地点)から作業開始点P1までの間で無理のない経路を設定できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0073】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つにおいて、方位角のベクトルV1および自己位置P0で接する旋回半径の円C1は、走行車体2が左折で移動を開始する左折移動開始円C1Lと、走行車体2が右折で移動を開始する右折移動開始円C1Rとであり、作業経路R1のベクトルV2および作業開始点P1で接する旋回半径の円C2は、走行車体2が作業経路R1に左折で進入する左折進入円C2Lと、走行車体2が作業経路R1に右折で進入する右折進入円C2Rとであり、制御部200は、走行車体2が移動を開始する円C1と作業経路R1に進入する円C2との距離が所定距離以上の場合、左折-直進-左折の経路と、左折-直進-右折の経路と、右折-直進-左折の経路と、右折-直進-右折の経路との4つの経路の中から移動経路R2を設定し、走行車体2が移動を開始する円C1と作業経路R1に進入する円C2との距離が所定距離未満の場合、走行車体2が移動を開始する円C1と作業経路R1に進入する円C2とに接する旋回半径の接続円C3をさらに設定し、左折-右折-左折の経路と、右折-左折-右折の経路との2つの経路を4つの経路に加えて移動経路R2を選定する作業車両の制御システム100。
【0074】
このような作業車両の制御システム100によれば、上記(1)~(3)のいずれか一つの効果に加えて、走行車体2が移動を開始する円C1と作業経路R1に進入する円C2との距離が短い場合でも、最短経路となる移動経路R2を設定できるため、作業開始点P1への移動の効率化を図ることができる。
【0075】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 作業車両(トラクタ)
2 走行車体
3 前輪
4 後輪
5 ボンネット
6 作業機
7 PTO装置
8 操縦席
9 ステアリングホイール
10 ハンドルポスト
11 操作ペダル
12 動力伝達装置(ミッションケース)
13 昇降装置
61 耕耘爪
71 PTO軸
131 昇降シリンダ
132 リフトアーム
133 リフトロッド
134 ロアリンク
135 トップリンク
100 作業車両の制御システム
110 エンジン回転センサ
111 車速センサ
112 変速センサ
113 切れ角センサ
121 変速装置
122 ステアリング装置
150 測位装置(GNSS)
160 携帯端末装置(タブレット端末)
170 方位角取得手段(方位角センサ)
200 制御部
201 エンジンECU
202 走行系ECU
203 作業機昇降系ECU
AX 軸
A1 作業領域
A2 逸脱禁止領域
C1 旋回半径の円
C2 旋回半径の円
C3 接続円
E エンジン
F1 圃場
F2 畦
H 作業者
L3 接線
P0 自己位置
P1 作業開始点
P2 作業終了点
R1 作業経路
R2 移動経路
S 航法衛星
V1 ベクトル
V2 ベクトル