(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B62D25/20 F
(21)【出願番号】P 2020218376
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】望月 晋栄
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281957(JP,A)
【文献】特開2015-151004(JP,A)
【文献】特開2011-121483(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207687(WO,A1)
【文献】特開2002-154459(JP,A)
【文献】特開2009-107424(JP,A)
【文献】特開平04-002581(JP,A)
【文献】実開昭61-133476(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床面を形成するフロアパネルと、
前記フロアパネルの上側で車幅方向に延びる第1クロスメンバと、
前記フロアパネルの下側に配置されたバッテリパックとを備え
る車両下部構造において、
前記フロアパネルは、
車両上方に凸のビードであって、前記第1クロスメンバと交差して車両前後方向に延び該第1クロスメンバに接合されるビードと、
前記第1クロスメンバと前記ビードで区画された領域内に形成され車両下方に膨出した膨出部とを有し、
前記ビードは、
前記膨出部に隣接して車両前後方向に延びる隣接部と、
前記隣接部に連続していて該隣接部よりも車幅方向の幅が広く前記第1クロスメンバに重なっている幅広部とを含
み、
当該車両下部構造はさらに、前記第1クロスメンバの車両前側に前記膨出部を隔てて車幅方向に延びている第2クロスメンバを備え、
前記ビードの前端部は、前記第2クロスメンバにも重なっていることを特徴とする車両下部構造。
【請求項2】
前記フロアパネルの膨出部は、前記ビードの隣接部から前記第1クロスメンバまたは前記第2クロスメンバの一方または両方に沿って曲がる曲線部を有し、
前記ビードはさらに、前記膨出部の曲線部に沿って前記隣接部と前記幅広部とをつなぐ形状変化部を含むことを特徴とする請求項
1に記載の車両下部構造。
【請求項3】
前記フロアパネルはさらに、前記ビードの形状変化部と前記膨出部の曲線部との間に位置する平面部を有し、
前記平面部の車両上下方向の高さは、前記ビードと前記膨出部との中間であることを特徴とする請求項
2に記載の車両下部構造。
【請求項4】
当該車両下部構造はさらに、
前記フロアパネルの縁に沿って車両前後方向に延びるサイドシルと、
前記第1クロスメンバの車両後側に離間して車幅方向に延び前記サイドシル同士を接続するリヤクロスメンバとを備え、
前記ビードは、前記リヤクロスメンバまで延びていることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の車両下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、車両の床面を形成するフロアパネルを有する車両下部構造を備える(例えば特許文献1)。特許文献1には、車体前後方向および車幅方向に配設された複数のフレーム部材と、フレーム部材に連結されたフロアパネルとを有する車体のフロアパネル構造が記載されている。
【0003】
特許文献1のフロアパネルには、パネル領域が形成されている。パネル領域は、フレーム部材及び又は振動領域を規制する振動規制部により囲まれている。またパネル領域内には、車両上下方向に突出された高剛性部が形成され、高剛性部の周りには低剛性部が形成されている。さらに高剛性部の一部は、フレーム部材及び又は振動規制部に接するように形成されている。
【0004】
特許文献1では、フロアパネルのパネル領域内に、高剛性部が形成されるとともに、高剛性部の周りに低剛性部が形成されているので、高剛性部と低剛性部との剛性差により、低剛性部に振動エネルギが集中する。さらに、高剛性部の一部が、フレーム部材及び又は振動規制部に接するように形成されているので、高剛性部の剛性を大きく高めることができる、としている。
【0005】
また特許文献1では、パネル領域内の低剛性部に大きく集中した振動エネルギが、フロアパネルを構成する材質の減衰能により熱エネルギに変換され、その結果、パネル領域全体の振動エネルギが低減し、パネル領域からの音響放射を低減することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1のフロアパネル構造では、パネル領域内の低剛性部が高剛性部と振動規制部の周囲に依然として配置されている。このため、このフロアパネル構造では、パネル領域内の低剛性部が変形の起点となって、振動領域のローカルモード(局所変形)を発生させてしまい、フロア振動を十分に低減することが困難である。
【0008】
また特許文献1のフロアパネル構造では、補強部材など他の部材を追加して配置することで、フロアパネルの剛性を高めて、フロア振動を低減させる手法も考えられる。しかし、この手法では、フロアパネル構造の重量の増加を招いてしまう。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、重量増加を抑えつつ、フロアパネルの剛性を高めてフロア振動を低減できる車両下部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、車両の床面を形成するフロアパネルと、フロアパネルの上側で車幅方向に延びる第1クロスメンバとを備え、フロアパネルは、車両上方に凸のビードであって、第1クロスメンバと交差して車両前後方向に延び第1クロスメンバに接合されるビードと、第1クロスメンバとビードで区画された領域内に形成され車両下方に膨出した膨出部とを有し、ビードは、膨出部に隣接して車両前後方向に延びる隣接部と、隣接部に連続していて隣接部よりも車幅方向の幅が広く第1クロスメンバに重なっている幅広部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重量増加を抑えつつ、フロアパネルの剛性を高めてフロア振動を低減できる車両下部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る車両下部構造の概要を示す図である。
【
図2】
図1の車両下部構造の一部を拡大して示す上面図である。
【
図3】
図2の車両下部構造の一部を拡大して示す上面図である。
【
図4】
図2の車両下部構造の各断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態の代表的な構成は、車両の床面を形成するフロアパネルと、フロアパネルの上側で車幅方向に延びる第1クロスメンバとを備え、フロアパネルは、車両上方に凸のビードであって、第1クロスメンバと交差して車両前後方向に延び第1クロスメンバに接合されるビードと、第1クロスメンバとビードで区画された領域内に形成され車両下方に膨出した膨出部とを有し、ビードは、膨出部に隣接して車両前後方向に延びる隣接部と、隣接部に連続していて隣接部よりも車幅方向の幅が広く第1クロスメンバに重なっている幅広部とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記構成では、フロアパネルにビードと膨出部を形成して高低差を設け、さらにビードには膨出部に隣接する隣接部と、第1クロスメンバに重なる幅広部とを形成している。このため、フロアパネルの膨出部に上下に振動する振動モードが発生し、上下方向の荷重が発生する。上記構成では、この上下荷重を、膨出部から隣接するビードの隣接部に伝達し、さらに隣接部に連続する幅広部から第1クロスメンバに伝達して分散させることができる。つまり、第1クロスメンバと幅広部が重なることにより、フロアパネルの面剛性を向上させることができる。
【0015】
また、フロアパネルの膨出部からビードに上下荷重が入力されると、この上下荷重をビードの隣接部から幅広部を介して第1クロスメンバに伝達して分散させることができる。さらにフロアパネルは、上方に凸のビードと車両下方に膨出した膨出部によりあえて高低差を設けることにより上下剛性を向上させ、上方に凸のビードに隣接部と幅広部を連続して形成することで、例えば補強部材などの他の部材を追加することなく、荷重を分散させることが可能な形状となっている。したがって上記構成によれば、重量増加を抑えつつ、フロアパネルの剛性を高めてフロア振動を小さくして、車両のNV(Noise and Vibration)特性を向上させることができる。
【0016】
上記の車両下部構造はさらに、第1クロスメンバの車両前側に膨出部を隔てて車幅方向に延びている第2クロスメンバを備え、ビードは、第2クロスメンバにも重なっているとよい。
【0017】
これにより、フロアパネルは、ビードの幅広部が第1クロスメンバと重なり、さらにビードの所定部位(例えば前端部)が第1クロスメンバの車両前側に離間した第2クロスメンバとも重なっている。このため、ビードでは、第1クロスメンバと重なった幅広部と、第2クロスメンバと重なった所定部位との剛性差が小さくなり、剛性差による変形を防止し、さらにフロア振動を抑制することができる。
【0018】
上記のフロアパネルの膨出部は、ビードの隣接部から第1クロスメンバまたは第2クロスメンバの一方または両方に沿って曲がる曲線部を有し、ビードはさらに、膨出部の曲線部に沿って隣接部と幅広部とをつなぐ形状変化部を含むとよい。
【0019】
このように、ビードは、隣接部と幅広部とをつなぐ形状変化部を含んでいる。そしてビードの形状変化部は、フロアパネルの膨出部の曲線部に沿った形状であるため、例えば幅広部から隣接部に向かって、曲線部に近づきつつ車幅方向の幅が狭くなるように形状が変化する。このため、フロアパネルでは、ビードの形状変化部とフロアパネルの膨出部の曲線部とが接近することで、形状変化部と膨出部の曲線部の間に存在する領域の車幅方向の幅が狭くなり、この領域が変形することを抑制できる。
【0020】
またビードの形状変化部は、膨出部の曲線部に沿っているため、形状が緩やかに変化する。このため、形状が急に変化することで生じる脆弱部分の発生を防止できる。さらに、ビードの幅広部は、膨出部の曲線部に形状変化部が接近することにより、膨出部の剛性も利用することができる。このため、ビードは、第1クロスメンバに入力された荷重を第1クロスメンバに重なっている幅広部によって確実に分散することができる。
【0021】
なお仮に膨出部に曲線部が存在せず、膨出部が例えば四角形に近い形状であれば、その角部に応力が集中し、角部が変形の起点となってしまう場合があり得る。これに対して上記構成では、膨出部に曲線部を形成することで、応力が集中することを回避して膨出部が変形することを抑制している。
【0022】
上記のフロアパネルはさらに、ビードの形状変化部と膨出部の曲線部との間に位置する平面部を有し、平面部の車両上下方向の高さは、ビードと膨出部との中間であるとよい。
【0023】
これにより、フロアパネルの平面部を、車両上下方向の高さの基準となる基本面とすることができる。この場合、フロアパネルでは、基本面である平面部よりもビードが車両上方に凸であり、平面部よりも車両下方に膨出部が膨出している。このため、ビードの形状変化部は、膨出部の曲線部よりも車両上方に隆起している。またフロアパネルでは、車両上方に隆起したビードの形状変化部が膨出部の曲線部付近に位置しているため、膨出部に入力された荷重を、膨出部の曲線部から形状変化部に伝達しやすくなり、さらに形状変化部から幅広部を介して、幅広部に重なった第1クロスメンバに伝達しやすくできる。
【0024】
上記の車両下部構造はさらに、フロアパネルの縁に沿って車両前後方向に延びるサイドシルと、第1クロスメンバの車両後側に離間して車幅方向に延びサイドシル同士を接続するリヤクロスメンバとを備え、ビードは、リヤクロスメンバまで延びているとよい。
【0025】
このため、フロアパネルの膨出部からビードに荷重が入力されると、この荷重をビードの隣接部から幅広部を介して第1クロスメンバに伝達して分散させるだけでなく、さらにリヤクロスメンバにも伝達して分散させることができる。これにより、フロアパネルの剛性をより高めてフロア振動を小さくすることができる。
【実施例】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
図1は、本発明の実施例に係る車両下部構造100の概要を示す図である。
図1(a)は、車両下部構造100を斜め上方から見た状態を示している。
図1(b)は、
図1(a)の車両下部構造100のA-A断面図である。以下各図において、車両前後方向をそれぞれ矢印Front、Back、車幅方向の左右をそれぞれ矢印Left、Right、車両上下方向をそれぞれ矢印Up、Downで例示する。
【0028】
車両下部構造100は、
図1(a)に示すように車両の床面を形成するフロアパネル102と、一対のサイドシル104、106と、フロアトンネル108とを備える。一対のサイドシル104、106は、フロアパネル102の縁に沿って車両前後方向に延びている。フロアトンネル108は、フロアパネル102の車幅方向の中央で車両前後方向にわたって延び上方に隆起している。
【0029】
車両下部構造100はさらに、第1クロスメンバ110、112と、第2クロスメンバ114、116と、リヤクロスメンバ118とを備える。第1クロスメンバ110、112は、フロアパネル102の上側に配置されサイドシル104、106とフロアトンネル108との間でそれぞれ車幅方向に延びている。
【0030】
第2クロスメンバ114、116は、第1クロスメンバ110、112の車両前側に離間してフロアパネル102の上側に配置され、サイドシル104、106とフロアトンネル108との間でそれぞれ車幅方向に延びている。なお第1クロスメンバ110、112および第2クロスメンバ114、116には、シート取付用ブラケット120が複数設置されている。
【0031】
リヤクロスメンバ118は、第1クロスメンバ110、112の車両後側に離間して車幅方向に延びていてサイドシル104、106同士を接続している。なお車両下部構造100は、
図1(a)に示すように左右対称な構造となっているため、以下では、特に必要な場合を除き、車幅方向左側の構造のみ説明する。
【0032】
ここで車両下部構造100は、
図1(b)に示すようにフロアパネル102の下側に配置されたバッテリパック122を備える。このため、車両下部構造100では、例えば車両前後方向に延びるサイドメンバなどの補強部材をフロアパネル102に配置することができず、フロアパネル102の剛性を高めることが困難となる。また、仮に適宜の補強部材をフロアパネル102に配置することができたとしても、車両下部構造100の重量増加を招いてしまう。なおバッテリパック122は、
図1(b)に示すバッテリクロスメンバ122aに接合されている。バッテリクロスメンバ122aは、車幅方向に延びていてバッテリパック122の下側でサイドシル104、106同士を接続している。
【0033】
そこで車両下部構造100では、重量増加を抑えつつ、フロアパネル102の剛性を高めてフロア振動を低減して、車両のNV特性を向上させることができる構成を採用した。すなわち車両下部構造100はさらに、フロアパネル102に形成されたビード124、126および
図2に示す複数の膨出部128、130、132、134を備える。なおビード126は、ビード124と同一形状および機能などを有するため、以下ではビード124およびその周辺の構成について説明する。
【0034】
図2は、
図1の車両下部構造100の一部を拡大して示す上面図である。図中では、フロアパネル102の上側で車幅方向に延びる第1クロスメンバ110および第2クロスメンバ114の位置を鎖線で示している。
【0035】
フロアパネル102のビード124は、車両上方に凸であって、第1クロスメンバ110と交差して車両前後方向に延びて第1クロスメンバ110に接合されている。またビード124は、所定部位(例えば前端部136)が第2クロスメンバ114に重なってこれに接合され、さらに後端部138がリヤクロスメンバ118まで延びている。なお第2クロスメンバ114は、第1クロスメンバ110の車両前側に離間していてフロアパネル102の膨出部128、130を隔てて車幅方向に延びている。リヤクロスメンバ118は、膨出部132、134を隔てて第1クロスメンバ110の車両後側に離間している。
【0036】
フロアパネル102の膨出部128、130、132、134は、車両下方に膨出した部位であって、第1クロスメンバ110、第2クロスメンバ114およびリヤクロスメンバ118とビード124で区画された領域140、142、144、146内にそれぞれ形成されている。
【0037】
またビード124は、隣接部148、150と幅広部152とを含む。隣接部148、150は、
図2に示すように膨出部128、130、132、134にそれぞれ隣接して車両前後方向に延びている。幅広部152は、隣接部148、150に連続していて隣接部148、150よりも車幅方向の幅が広く、さらに第1クロスメンバ110に重なっている。
【0038】
このようにフロアパネル102では、車両上方に凸のビード124と車両下方に膨出した膨出部128、130、132、134を形成して高低差を設け、さらにビード124には膨出部128、130、132、134に隣接する隣接部148、150と、第1クロスメンバ110に重なる幅広部152とを形成している。
【0039】
このため車両下部構造100では、フロアパネル102の膨出部128、130、132、134に上下に振動する振動モードが発生しても、この振動から発生する上下荷重を、膨出部128、130、132、134に隣接するビード124の隣接部148、150に伝達し、さらに隣接部148、150に連続する幅広部152から第1クロスメンバ110に伝達して分散させることができる。これにより、第1クロスメンバ110と幅広部152が重なることにより、フロアパネル102の面剛性を向上させることができる。
【0040】
また車両下部構造100では、フロアパネル102の膨出部128、130、132、134からビード124に上下荷重が入力されると、この上下荷重をビード124の隣接部148、150から幅広部152を介して第1クロスメンバ110に伝達して分散させることができる。
【0041】
このようにフロアパネル102では、上方に凸のビード124と車両下方に膨出した膨出部128、130、132、134によりあえて高低差を設けることにより上下剛性を向上させ、さらに、上方に凸のビード124に隣接部148、150と幅広部152を連続して形成することで、例えば補強部材などの他の部材を追加することなく、振動や荷重を分散させることが可能な形状となっている。したがって車両下部構造100によれば、重量増加を抑えつつ、フロアパネル102の剛性を高めてフロア振動を低減して、車両のNV特性を向上させることができる。
【0042】
またフロアパネル102は、ビード124の幅広部152が第1クロスメンバ110と重なり、さらにビード124の前端部136が第2クロスメンバ114と重なっている。このため、ビード124では、第1クロスメンバ110と重なった幅広部152と、第2クロスメンバ114と重なった前端部136との剛性差が小さくなり、剛性差による変形を防止し、さらにフロア振動を抑制することができる。
【0043】
さらにフロアパネル102は、ビード124の後端部138がリヤクロスメンバ118まで延びている。このため車両下部構造100では、フロアパネル102の膨出部128、130、132、134からビード124に荷重が入力されると、この荷重をビード124の隣接部148、150から幅広部152を介して第1クロスメンバ110に伝達して分散させるだけでなく、さらに後端部138からリヤクロスメンバ118にも伝達して分散させることができる。これにより、フロアパネル102の剛性をより高めてフロア振動を小さくすることができる。
【0044】
図3は、
図2の車両下部構造100の一部を拡大して示す図である。フロアパネル102の膨出部128は、曲線部154を有する。曲線部154は、図示のようにビード124の隣接部148から第1クロスメンバ110に沿って曲がる形状となっている。
【0045】
またビード124はさらに、形状変化部156を含む。形状変化部156は、膨出部128の曲線部154に沿って隣接部148と幅広部152とをつなぐ部位である。ビード124の形状変化部156は、図示のように膨出部128の曲線部154に沿った形状であるため、例えば幅広部152から隣接部148に向かって、曲線部154に近づきつつ車幅方向の幅が狭くなるように形状が変化する。
【0046】
このため、フロアパネル102では、ビード124の形状変化部156と膨出部128の曲線部154とが接近することで、形状変化部156と膨出部128の曲線部154の間に存在する領域158の車幅方向の幅が狭くなり、この領域158が変形することを抑制できる。
【0047】
さらにビード124の形状変化部156は、膨出部128の曲線部154に沿っているため、形状が緩やかに変化する。このため、フロアパネル102では、形状が急に変化することで生じるいわゆる脆弱部分が発生することを防止できる。
【0048】
またビード124の幅広部152は、幅広部152に連続する形状変化部156が膨出部128の曲線部154に接近することにより、膨出部128の剛性も利用することができる。さらにビード124の幅広部152は、
図3に示す接合箇所160で第1クロスメンバ110に接合されこれに重ねられている。
【0049】
このため、ビード124の幅広部152は、第1クロスメンバ110に入力された荷重も確実に分散することができる。なお第1クロスメンバ110は、例えば接合箇所162でフロアパネル102のうちビード124が形成されていない部位に接合されている。
【0050】
ここで仮にフロアパネル102の膨出部128に曲線部154が存在せず、膨出部128が例えば四角形に近い形状であれば、その角部に応力が集中して角部が変形の起点となってしまう場合があり得る。これに対して車両下部構造100では、フロアパネル102の膨出部128に曲線部154を形成することで、応力が集中することを回避して膨出部128が変形することを抑制している。
【0051】
なおフロアパネル102について、ビード124と膨出部128との構成を説明したが、これに限られず、膨出部128には隣接部148から第2クロスメンバ114(
図2参照)に沿って曲がる曲線部を形成してもよい。そして、この曲線部に対するビード124の前端部136の配置や形状を、曲線部154に対するビード124の隣接部148、幅広部152および形状変化部156と同様の配置や形状としてもよい。さらに、このようなビード124および膨出部128の構成を、ビード124および他の膨出部130、132、134の構成として適用してもよく、これにより同様の機能などを有することができる。
【0052】
図4は、
図2の車両下部構造100の各断面を示す図である。なお
図4に示す点Dは、ビード124の隣接部148の車幅方向の位置を示している(
図3参照)。また
図4に示す点線Eは、フロアパネル102の基本面となる車両上下方向の高さを示している。
【0053】
フロアパネル102は、
図4(a)のB-B断面において、基本面の高さを示す点線Eよりも車両下方に膨出した膨出部128、130と、膨出部128、130に隣接し基本面よりも車両上方に凸のビード124の隣接部148とがなめらかに接続している。このため、フロアパネル102では、膨出部128、130とビード124の隣接部148とで高低差を設けて剛性を高めることができ、さらに膨出部128、130と隣接部148の間が変形の起点になることもないため、フロア振動を十分に抑制できる。
【0054】
フロアパネル102はさらに、
図3に示す平面部164を有する。平面部164は、ビード124の形状変化部156と膨出部128の曲線部154との間に位置している。また
図3に示す点線Fは、平面部164のビード124側の端を示している。さらに平面部164のうち、
図3のC-C線に沿った位置において点線Fと交差する箇所を、ビード124側の端165としている。ここで形状変化部156は、
図3のC-C線に沿った位置において、平面部164のビード124側の端165を基準として、隣接部148よりも車幅方向の幅が寸法Laだけ大きい(
図4(b)参照)。また平面部164は、
図3のC-C線に沿った位置において、ビード124側の端165を基準として、車幅方向の幅が寸法Lbとなっている(
図4(b)参照)。
【0055】
さらにフロアパネル102の平面部164は、
図4(b)のC-C断面において、車両上下方向の高さがビード124の形状変化部156と膨出部128、130との中間であって、点線Eと同じ車両上下方向の高さにある。つまりフロアパネル102では、平面部164を、車両上下方向の高さの基準となる基本面として機能させることができる。
【0056】
そしてフロアパネル102では、
図4(b)に示すように基本面である平面部164よりもビード124が車両上方に凸であり、平面部164よりも車両下方に膨出部128、130が膨出している。このため、ビード124の形状変化部156は、膨出部128の曲線部154よりも車両上方に隆起している。
【0057】
さらに、車両上方に隆起したビード124の形状変化部156は、
図3および
図4(b)に示すように、膨出部128の曲線部154付近に位置している。このため車両下部構造100では、膨出部128に入力された荷重を、膨出部128の曲線部154からビード124の形状変化部156に伝達しやすくなり、さらに形状変化部156から幅広部152を介して、幅広部152に重なった第1クロスメンバ110に伝達しやすくできる。
【0058】
以上説明したように車両下部構造100によれば、フロアパネル102にビード124および複数の膨出部128、130、132、134を形成することで、重量増加を抑えつつ、フロアパネル102の剛性を高めてフロア振動を低減することができる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、車両下部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…車両下部構造、102…フロアパネル、104、106…サイドシル、108…フロアトンネル、110、112…第1クロスメンバ、114、116…第2クロスメンバ、118…リヤクロスメンバ、120…シート取付用ブラケット、122…バッテリパック、122a…バッテリクロスメンバ、124、126…ビード、128、130、132、134…膨出部、136…ビードの前端部、138…ビードの後端部、140、142、144、146、158…領域、148、150…隣接部、152…幅広部、154…曲線部、156…形状変化部、160、162…接合箇所、164…平面部