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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリアミド複合繊維および加工糸
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/12 20060101AFI20241217BHJP
   D02G 1/02 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
D02G1/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020541616
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028737
(87)【国際公開番号】W WO2021020354
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019141540
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 儒
(72)【発明者】
【氏名】山口 純郎
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-159030(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129735(WO,A1)
【文献】特開昭60-028514(JP,A)
【文献】特開平10-266020(JP,A)
【文献】特開2000-290837(JP,A)
【文献】特開2009-057679(JP,A)
【文献】特開2018-003190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00 -8/18、
D02G1/00 -3/48、D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミド(A)および結晶性ポリアミド(B)からなる偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であって、前記ポリアミド複合繊維を温度30℃および相対湿度90RH%の環境で72時間静置した後の吸水率が5.0%以下であり、剛直非晶量が40~60%であり、かつ熱収縮応力が0.15cN/dtex以上であるポリアミド複合繊維。
【請求項2】
前記ポリアミド複合繊維の伸縮伸長率が30%以上である、請求項1記載のポリアミド複合繊維。
【請求項3】
前記結晶性ポリアミド(A)が、ナイロン6またはその共重合体である、請求項1または2に記載のポリアミド複合繊維。
【請求項4】
前記結晶性ポリアミド(B)が、ナイロン610またはその共重合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド複合繊維。
【請求項5】
前記結晶性ポリアミド(A)が芯成分であり、前記結晶性ポリアミド(B)が鞘成分である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド複合繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド複合繊維からなる加工糸。
【請求項7】
伸縮伸長率が100%以上である、請求項6に記載の加工糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドからなる偏心芯鞘型複合繊維およびそれからなる加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からポリアミド繊維は、ポリエステル繊維と比べて柔らかくタッチも良好であり、衣料用途に広く用いられている。衣料用ポリアミド繊維の代表であるナイロン6やナイロン66等で一種類のポリマーからなる単一繊維糸条は、繊維自体に伸縮性が殆どないため、仮撚加工等を行って伸縮性が付与され、伸縮性のある織編物用に使用されている。しかしながら、このような単一繊維糸条に仮撚加工等の加工を施したものでは、十分に満足できる伸縮性を有する織編物を得ることは困難であった。
【0003】
そこで、弾性を有する繊維を用いることによって伸縮性のある織編物を得る方法や、または、性質の異なる2種類のポリマーを併用し、染色工程等の熱処理により捲縮を発現させる潜在捲縮性能を有する複合繊維とすることによって、伸縮性のある織編物を得る方法が提案されている(特許文献1参照。)。さらに、潜在捲縮性能を有するポリアミド複合繊維として、粘度差を有する2種類のポリアミドをサイドバイサイド型や偏心芯鞘型に配した複合繊維も提案されている(特許文献2参照。)。
【0004】
また、非晶ポリアミドを含有する高熱収縮性ポリアミド複合繊維またはそれからなる加工糸とすることによって、経糸方向に高い張力をかけた状態で湿熱または乾熱処理しても、織編物の拘束力に勝る応力で収縮し、経糸方向に対して捲縮性を発現することができる複合繊維と加工糸が提案されている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/110523号
【文献】日本国特開2002-363827号公報
【文献】国際公開第2017/221713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の複合繊維を性質の異なる2種類のポリアミドから得ると、ポリアミド独特の膨潤性のために、精錬工程や染色工程等の加工工程を通過することによりそのストレッチ性が失われ、製品においては十分なストレッチが得られないことがあった。また、特許文献2に記載のポリアミド複合繊維も同様である。
【0007】
さらには、このような特許文献2に記載のポリアミドから構成される複合繊維は、原糸や加工糸の状態では、捲縮性に優れるものであっても、織編物の精練や染色加工の湿熱工程において、ポリアミド繊維特有のシワ発生が起こりやすく、また熱セット工程の乾熱工程において湿熱工程でついたシワが取れにくいために、織編物品位を維持するために、湿熱工程においては織編物に張力を与えながらの加工が必要である。このように、特許文献2に記載のポリアミド複合繊維では、湿熱工程において織編物に張力をかけることにより、原糸や加工糸が持つ捲縮を十分に発現させることができず、結果的にストレッチ性に乏しい織編物となるという課題がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の高熱収縮性ポリアミド複合繊維では、非晶ポリアミドポリマーが経時で吸湿結晶化を進めるため、収縮特性も経時で低下し、ストレッチ性の低い織編物となる場合がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記の課題を解決せんとするものであって、優れたストレッチ性を持つ織編物が得られるポリアミド複合繊維およびそれからなる加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリアミド複合繊維は、組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミド(A)および結晶性ポリアミド(B)からなる偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であって、前記ポリアミド複合繊維を温度30℃および相対湿度90RH%の環境で72時間静置した後の吸水率が5.0%以下であり、かつ熱収縮応力が0.15cN/dtex以上であるポリアミド複合繊維である。
本発明のポリアミド複合繊維の好ましい態様によれば、前記のポリアミド複合繊維の剛直非晶量は40~60%であり、伸縮伸長率は30%以上である。
本発明のポリアミド複合繊維の好ましい態様によれば、前記の結晶性ポリアミド(A)は、ナイロン6またはその共重合体である。
本発明のポリアミド複合繊維の好ましい態様によれば、前記の結晶性ポリアミド(B)は、ナイロン610またはその共重合体である。
本発明のポリアミド複合繊維の好ましい態様によれば、前記結晶性ポリアミド(A)が芯成分であり、前記結晶性ポリアミド(B)が鞘成分である。
本発明においては、前記のポリアミド複合繊維からなる加工糸が得られる。
本発明の前記の加工糸の好ましい態様によれば、その伸縮伸長率は100%以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたストレッチ性を持つ織編物が得られるポリアミド複合繊維および加工糸を得ることができる。さらには、本発明によれば、経糸方向に高い張力をかけた状態で湿熱または乾熱しても、織編物の拘束力に勝る応力で収縮し、経糸方向に対して捲縮性を十分に発現することができ、優れたストレッチ性を持つ織編物が得られるポリアミド複合繊維および加工糸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維の断面を例示するモデル断面図である。
図2図2(A)~図2(C)は、本発明の他の偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維の断面を例示するモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリアミド複合繊維およびそれを用いた加工糸について説明する。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0014】
本発明のポリアミド複合繊維は、ポリマー組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミド(A)および結晶性ポリアミド(B)からなる偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であって、ポリアミド複合繊維を温度30℃および相対湿度90RH%の環境で72時間静置した後の吸水率が5.0%以下であり、かつ熱収縮応力が0.15cN/dtex以上であることを特徴とするポリアミド複合繊維である。
【0015】
本発明のポリアミド複合繊維は、偏心芯鞘型の複合繊維であり、ポリマー組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミド(A)および結晶性ポリアミド(B)により構成される。偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維とは、2種類以上のポリアミドが偏芯した芯鞘構造を形成している複合繊維をいう。
【0016】
本発明のポリアミド複合繊維において、2種類の結晶性ポリアミドが接合してなる複合断面を有していることが必要であり、ポリマー組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミドが実質的に分離せず接合された状態で存在する。本発明において、結晶性ポリアミド(A)を芯成分とし、結晶性ポリアミド(B)を鞘成分とし、結晶性ポリアミド(A)が結晶性ポリアミド(B)で覆われている偏心芯鞘型であることが好ましい。
【0017】
ここで、本発明で言う偏心とは、ポリアミド複合繊維の断面において、芯成分の重心点位置が複合繊維断面の中心と異なっていることを指している。
【0018】
図1は、本発明の偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維(以下、「ポリアミド偏心芯鞘型複合繊維」ともいう。)の断面を例示するモデル断面図である。図1において、ポリアミド偏心芯鞘型複合繊維10Aは、芯成分(結晶性ポリアミド(A))1と鞘成分(結晶性ポリアミド(B))2で構成されており、芯成分である結晶性ポリアミド(A)の重心点位置が複合繊維断面の中心と異なっている。
【0019】
また、図2(A)~図2(C)は、本発明の他のポリアミド偏心芯鞘型複合繊維の断面を例示するモデル断面図である。図2(A)、図2(B)および図2(C)は、それぞれ、偏心芯鞘型の芯成分(結晶性ポリアミド(A))1と鞘成分(結晶性ポリアミド(B))2の形状配置状態の異なるポリアミド偏心芯鞘型複合繊維10B~10Cの態様を示しており、図1と同様に、芯成分である結晶性ポリアミド(A)の重心点位置が複合繊維断面の中心と異なっている。
【0020】
また、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率は、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=6:4~4:6(質量比)であることが好ましい態様である。質量比を好適にはこのように6:4~4:6とすることにより、本発明のポリアミド複合繊維の吸水率を5.0%以下に制御することができ、そして得られた織編物には優れたストレッチ性が与えられる。
【0021】
本発明のポリアミド複合繊維は、ポリマー組成が互いに異なる2種類の結晶性ポリアミドで構成されている。結晶性ポリアミドは、すなわち結晶を形成し融点を有するポリアミドであり、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結されたポリマーである。結晶性ポリアミドとしては、具体的に、ポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリテトラメチレンアジパミド、1,4-シクロヘキサンビスと線状脂肪族ジカルボン酸との縮合重合型ポリアミドなど、および、これらの共重合体もしくはこれらの混合物等が挙げられる。ただし、均一な系を再現しやすく、安定した機能発現の点から、ホモのポリアミドを用いることが好ましい。
【0022】
結晶性ポリアミド(A)は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12等およびそれらを主成分とする共重合体等が挙げられ、結晶性ポリアミド(B)とは異なる種類のポリアミドである。結晶性ポリアミド(A)は、本発明の効果を阻害されない限り、その繰り返し構造にラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンおよびジカルボン酸以外の成分を含有させることができる。ただし、製糸性や強度の面から、繰り返し構造にポリオール等を含むエラストマーは除かれる。
【0023】
また、製糸性、強度および防剥離性の観点から、結晶性ポリアミド(A)は、繰り返し構造の90%以上を単一のラクタム、アミノカルボン酸もしくは一組み合わせのジアミンおよびジカルボン酸とする重合体が好ましく、さらに好ましくは繰り返し構造の95%以上である。かかる成分は熱安定性の観点からナイロン6またはその共重合体であることが特に好ましい態様である。
【0024】
また、結晶性ポリアミド(B)は、例えば、セバシン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位とジアミン単位の組み合わせにより得られる。これらの中で、重合性が安定し捲縮加工糸の黄化が少なく、染色性が良好なナイロン610およびその共重合体が最も好ましく用いられる。ここで、セバシン酸は、例えば、ひまし油の種子から精製することにより製造することができ、植物由来原料と位置付けられる。
【0025】
セバシン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、フタル酸、イソフタル酸、およびテレフタル酸などが挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲でこれらを配合することができる。
【0026】
また、これらのジカルボン酸についても、植物由来のジカルボン酸であることが好ましい。上記のセバシン酸単位以外のジカルボン酸単位の共重合量としては、全ジカルボン酸単位中0~40モル%であることが好ましく、0~20モル%であることがより好ましく、0~10モル%であることがさらに好ましい態様である。
【0027】
ジアミン単位を構成するジアミンとしては、炭素数2以上のジアミン、好ましくは炭素数4~12のジアミンが挙げられ、具体的には、プトレシン、1,5-ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタンジアミン、フェニレンジアミン、およびエタンブトールなどが挙げられる。また、これらのジアミンについても、植物由来のジアミンであることが好ましい。
【0028】
また、必要に応じて、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)には、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、発泡剤、帯電防止剤、成形性改良剤、および強化剤等を添加配合して用いることができる。
【0029】
本発明のポリアミド複合繊維は、温度30℃および相対湿度90RH%(温度30℃×相対湿度90RH%)の環境で、72時間静置した後の吸水率が5.0%以下であることが必要である。ここでいう吸水率とは、JIS L 1013に準じて測定される値である。温度30℃×相対湿度90RH%で72時間処理したときの吸水率を5.0%以下とすることにより、精錬工程されや染色加工工程などの湿熱条件下におけるポリアミド繊維の膨潤が小さく、これらの工程時の織編物の伸びが小さくなる。これにより、織編物に余分な張力をかけることなく精錬工程や染色加工工程などの工程を行うことが可能となる。その結果、優れたストレッチ性を持つ織編物が得られる。
【0030】
これに対し吸水率が高くなるほど、ポリアミド繊維は含水で膨潤する傾向があり、吸水率が5.0%を超えると、精練やリラックス処理工程、および染色の工程でシワやシボが発生しやすく、通常は引き伸ばして加工するためストレッチ性が落ちる。
【0031】
吸水率は、好ましくは4%以下である。また、吸水率の下限値は特定できないが、実施上は1.0%程度である。
【0032】
吸水率は、結晶性ポリアミド(A)および結晶性ポリアミド(B)のポリマー選択と芯鞘複合比率により制御することができる。
【0033】
本発明のポリアミド複合繊維は、熱収縮応力が0.15cN/dtex以上であることが必要である。ここでいう熱収縮応力とは、熱収縮応力測定機(例えば、カネボウエンジニアリング社製、型式「KE-2型」)を用い、測定する繊維糸条を結び周長16cmのループとし、糸条の繊度(デシテックス)の1/30gの初荷重を掛け、40℃から210℃の温度まで昇温速度100℃/分で測定して、得られた熱応力曲線のピーク値を最大熱応力(cN/dtex)として測定されるものである。
【0034】
熱収縮応力が0.15cN/dtex以上であることにより、経糸方向に高い張力をかけた状態で湿熱処理や乾熱処理しても、織物拘束力に勝る応力で収縮するため、経糸方向に対して捲縮性を十分に発現することができ、良好なストレッチ性を有する織編物を得ることができる。熱収縮応力が0.15cN/dtex未満の場合、高い張力をかける湿熱工程において、十分な捲縮が発現しないため、ストレッチ性に劣る織編物となる。
【0035】
熱収縮応力は、好ましくは0.20cN/dtex以上であり、より好ましくは0.25cN/dtex以上である。また、熱収縮応力が高すぎると、織物の交錯点での目が詰まりやすくなり、ストレッチ性が阻害されるため、熱収縮応力の上限は0.50cN/dtexであることが好ましい。熱収縮応力は、高粘度ポリマーを使用すること、更に低紡糸温度および低紡速高延伸倍率の熱延伸条件で繊維の剛直非晶量を制御すること等により制御することができる。
【0036】
本発明のポリアミド複合繊維は、剛直非晶量が40~60%であることが好ましい態様である。剛直非晶(Rigid amorphous)とは、実施例の項で説明する方法によって、その量が求められる非晶のことであり、結晶と可動非晶(Mobile amorphous;従来の完全非晶)の中間状態で、ガラス転移温度(Tg)以上でも分子運動が凍結しており、Tgよりも高い温度で流動状態となる非晶のことである(例えば、十時 稔,「DSC(3)-高分子のガラス転移挙動編-」,繊維学会誌(繊維と工業),Vol.65,No.10(2009)参照)。
【0037】
剛直非晶量は、「100%-結晶化度-可動非晶量」で表される。本発明において、ポリアミド複合繊維には、結晶部と剛直非晶部と可動非晶部が含まれる。熱収縮応力は、繊維構造を形成した際の剛直非晶鎖の拘束力と、熱処理を施した際に発現する可動性をもつ非晶鎖の収縮性に依存する。剛直非晶量を上記の範囲とすることにより、熱収縮応力を発現させることができる。
【0038】
剛直非晶量は、紡糸で制御することができる。剛直非晶量は、熱収縮応力と同様に、高粘度ポリマー使用と製造方法の設計により制御することができる。
【0039】
剛直非晶量が40%以上であることにより、剛直非晶鎖の拘束力が発現し、可動性をもつ非晶鎖の収縮性を損なうことなく、所望の熱収縮応力を得ることができる。また、剛直非晶量が60%以下であることにより、剛直非晶鎖の拘束力が発現し、可動性をもつ非晶鎖の収縮力を保持することができ、所望の熱収縮応力を得ることができる。剛直非晶量は、好ましくは45~55%である。
【0040】
本発明のポリアミド複合繊維は、伸縮伸長率が30%以上であることが好ましい態様である。伸縮伸長率とは、原糸の捲縮性の指標であり、値が高いほど捲縮発現能力が高いことを示している。
【0041】
本発明のポリアミド複合繊維は、繊維を形成した際、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の配向差によって収縮差が発現し捲縮が発現する。しかしながら、一般的にポリアミド繊維は、織編物の精錬や染色加工工程でシワが発生しやすく、織編物品位を維持するために、経糸方向に高い張力をかけた状態で加工を行うため、この収縮差が外力(高張力)の影響で低下する可能性がある。この収縮差を維持するため、原糸が一定の熱収縮応力を持つことにより、原糸の捲縮性を保持することができ、伸縮伸長率が30%以上であると、より優れたストレッチ性を持つ織編物が得られる。伸縮伸長率は、より好ましくは100~200%である。伸縮伸長率は、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の両成分の収縮差より発現するため、その収縮差がおおきければ大きいほど伸縮伸長率が高くなる。
【0042】
本発明のポリアミド複合繊維は、糸条としての総繊度が20~120dtexであることが好ましい態様である。特に、スポーツウエア、ダウンジャケット、アウター、およびインナー用途として用いる場合は、総繊度は30~90dtexであることがより好ましい。また、ポリアミド複合繊維の単繊維繊度は特定できないが、通常、1.0~5.0dtexの範囲で用いられる。
【0043】
次に、本発明のポリアミド複合繊維の溶融紡糸による製造方法について説明する。
本発明で用いられる結晶性ポリアミドにおいて、結晶性ポリアミド(A)の相対粘度は3.1~3.8とすることが好ましい。また、結晶性ポリアミド(B)の相対粘度は、2.6~2.8とすることが好ましい。結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の相対粘度比(A/B)は、1.2~1.4とすることがさらに好ましい態様である。
【0044】
かかる範囲の相対粘度の結晶性ポリアミドを選択することにより、加熱処理後に、収縮差が発現し、3次元スパイラル構造が形成されて捲縮が発現する。また、製糸工程中、溶融熱を受けて、ポリアミドが非晶から結晶に転移する。このとき、相対粘度の高い結晶性ポリアミド(A)は分子拘束力が高いため、相対粘度の低い結晶性ポリアミド(B)よりも非晶から結晶に転移する速度が遅い。従って、口金吐出後、ポリアミドが非晶から結晶に転移中に冷却すると中間状態の剛直非晶が生成しやすく、複合繊維の剛直非晶量が増加し、熱収縮応力と伸縮伸長率が向上する。
【0045】
また、本発明のポリアミド複合繊維は、2種の結晶性ポリアミドが接合してなる複合断面を有し、芯成分である結晶性ポリアミド(A)が鞘成分である結晶性ポリアミド(B)で覆われている偏心芯鞘型構造である。結晶性ポリアミド(A)が鞘成分である結晶性ポリアミド(B)で覆われていない従来のサイドバイサイド型構造の場合、上述した相対粘度差のある結晶性ポリアミドを、それぞれ溶融し紡糸パック内で複合断面を形成し、口金吐出時、ポリマー流動抵抗が異なり、流動速度差により、糸曲がりが発生しやすく、操業性が悪化する。したがって、溶融粘度差がある結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の製造において、本発明の偏心芯鞘型構造を採用することにより、通常設備で安定製造することができる。
【0046】
次に、本発明のポリアミド複合繊維の溶融紡糸および複合紡糸による製造方法について説明する。
【0047】
まず、本発明のポリアミド複合繊維の溶融紡糸の高速直接紡糸による製造方法について、次に例示説明する。
結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)を別々に溶融し、ギヤポンプを用いて計量して輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金を用いて、図1に例示する断面となるように紡糸口金から吐出する。吐出されたポリアミド複合繊維糸条を、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより30℃まで冷却する。続いて、冷却された糸条に対して、給油装置で給油するとともに収束し、引き取りローラーによって1500~4000m/分で引き取り、引き取りローラーと延伸ローラーを通過させ、その際引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って1.5~3.0倍で延伸する。さらに、糸条を延伸ローラーにより熱セットし、3000m/分以上の巻き取り速度でパッケージに巻き取る。
【0048】
また別に、本発明のポリアミド複合繊維の溶融紡糸の高速直接紡糸による製造方法について、次に例示説明する。
結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)を別々に溶融し、ギヤポンプを用いて計量して輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金を用いて、図1に例示する断面となるように紡糸口金から吐出する。吐出されたポリアミド複合繊維糸条を、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより30℃まで冷却する。続いて、冷却された糸条に対して、給油装置で給油するとともに収束し、引き取りローラーによって3000~4500m/分で引き取り、引き取りローラーと延伸ローラーを通過させ、その際引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って1.0~1.2倍で微延伸する。さらに、糸条を3000m/分以上の巻き取り速度でパッケージに巻き取る。
【0049】
特に、相対粘度の高い結晶性ポリアミド(A)の融点を基準に、紡糸温度を適切に設計する。紡糸温度が高くなると結晶部が増大し剛直非晶量が低下し、紡糸温度が低くなると可動非晶量が増大し剛直非晶量がやや低下する傾向がある。そのため、紡糸温度は結晶性ポリアミド(A)の融点より35~70℃高い温度であることが好ましく、45~60℃高い温度であることがより好ましい態様である。紡糸温度を適切に設定することにより、本発明のポリアミド複合繊維の剛直非晶量を制御することでき、所望の熱収縮応力と伸縮伸長率が得られる。
【0050】
また、ドラフト延伸(引取速度)を適切に設計することにより、本発明のポリアミド複合繊維の剛直非晶量が増加し、熱収縮応力と伸縮伸長率が向上する。引取速度は、1500~4000m/分であることが好ましい。
【0051】
延伸糸を得る場合、引き取りローラーを加熱ローラーとして熱延伸を施すことにより、本発明のポリアミド複合繊維の剛直非晶量が増加し、熱収縮応力が向上する。延伸倍率は、1.5~3.0倍であることが好ましく、より好ましくは2.0~3.0倍である。また、熱延伸温度は、30~90℃であることが好ましく、より好ましくは40~60℃である。
【0052】
また、延伸ローラーを加熱ローラーとして熱セットを施すことにより、本発明のポリアミド複合繊維の熱収縮応力を適切に設計することができる。熱セット温度は、130~180℃であることが好ましい。
【0053】
また、巻き取りまでの工程で公知の交絡装置を用い、交絡を施すことも可能である。必要であれば、複数回交絡を付与することで交絡数を上げることも可能である。さらには、巻き取り直前に、追加で油剤を付与することも可能である。
【0054】
本発明のポリアミド複合繊維からなる加工糸は、本発明の偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維を糸条の少なくとも一部に用いる。糸加工の製造方法は限定されるものではないが、例示すると、混繊法や仮撚加工法が挙げられる。混繊法としては、エア混繊、合撚および複合仮撚等が適用可能であるが、エア混繊が混繊の制御をし易くまた製造コストも低いため好ましく用いられる。仮撚加工法としては、繊度や撚り数に応じてピンタイプ、フリクションタイプおよびベルトタイプ等を用いて、仮撚を施すことが好ましい。
【0055】
本発明のポリアミド複合繊維からなる加工糸は、伸縮伸長率が100%以上であることが好ましい態様である。伸縮伸長率を100%以上とすることにより、十分な捲縮の発現と仮撚り糸の捲縮が相まって、優れたストレッチ性を持つ織編物が得られる。伸縮伸長率は高くなるほど捲縮性は増すが、加工シワが発生しやすくなり、シワ抑制のため経糸方向により高い張力をかけた状態で製造することになり、織編物のストレッチ性を阻害しやすくなるため、伸長伸縮率は120~200%であることがより好ましい態様である。
【0056】
本発明のポリアミド複合繊維からなる加工糸は、上記のとおり伸縮伸長率が100%以上であることが好ましい態様である。伸縮伸長織編物は、本発明のポリアミド複合繊維または加工糸を少なくとも一部に用いて構成される。本発明によれば、湿熱工程で経糸方向に対して高い張力をかけた場合であっても十分に捲縮を発現することができ、優れたストレッチ性を有する織編物を提供できる。
【0057】
本発明のポリアミド複合繊維または加工糸からなる伸縮伸長織編物は、公知の方法に従い製織および製編することが可能である。また、織編物の組織は限定されるものではない。
【0058】
織物の場合、その組織は、使用される用途によって平組織、綾組織、朱子組織やそれらの変化組織、および混合組織のいずれであっても構わない。織物の地合いがしっかりしたふくらみ感のある織物とするには、拘束点の多い平組織や、平組織と石目、さらにはナナコ組織を組み合わせたリップストップ組織が好ましい。
【0059】
編物の場合、その組織は、使用される用途によって丸編地の天竺組織、インターロック組織、経編地のハーフ組織、サテン組織、ジャカード組織やそれらの変化組織、および混合組織のいずれであっても構わないが、編地が薄くて安定性が有り、かつ、伸長率にも優れる点からシングルトリコット編地のハーフ組織地などが好ましい。
【0060】
また、本発明のポリアミド複合繊維または加工糸からなる織編物の用途は限定されるものでないが、衣料用途が好ましく、より好ましくは、ダウンジャケット、ウインドブレイカー、ゴルフウエアー、レインウエアなどに代表されるスポーツ、カジュアルウェアや婦人紳士衣料用途である。特に、スポーツウエアおよびダウンジャケットに好適に用いることができる。
【実施例
【0061】
次に、実施例によって、本発明のポリアミド複合繊維および加工糸について、具体的に説明する。
【0062】
A.融点:
TA Instruments社製Q1000を用いて熱分析を行い、Universal Analysis2000によってデータ処理を実施した。熱分析は、窒素流下(50mL/分)で、温度範囲-50~300℃、昇温速度10℃/分、チップ試料質量約5g(熱量データは測定後質量で規格化)で測定を実施した。融解ピークから融点を測定した。
【0063】
B.相対粘度:
ポリアミドのチップ試料0.25gを、濃度98質量%の硫酸25mlに対して1g/100mlになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃の温度での流下時間(T1)を測定した。引き続き、濃度98質量%の硫酸のみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を硫酸相対粘度とした。
【0064】
C.総繊度:
JIS L1013に準じた。繊維試料を、1/30(g)の張力で枠周1.125mの検尺機を用いて200回巻かせを作製した。105℃の温度で60分間乾燥しデシケーターに移し、温度20℃、相対湿度55%RH環境下で30分放冷し、かせの質量を測定して得られた値から10000m当たりの質量を算出し、公定水分率を4.5%として繊維糸条の総繊度を算出した。測定は5回行い、平均値を総繊度とした。
【0065】
D.熱収縮応力:
カネボウエンジニアリング社製KE-2型熱収縮応力測定機を用い、繊維試料を結び周長16cmのループとし、糸条の総繊度の1/30gの初荷重を掛け、40℃から210℃の温度まで昇温速度100℃/分で温度変化させたときの荷重を測定して、得られた熱応力曲線のピーク値を熱収縮応力とした。
【0066】
E.伸縮伸長率:
繊維試料をかせ取りし、90℃の温度の沸騰水に20分間浸した後、風乾し、2mg/dの荷重を30秒掛けて長さAを求め、次いで100mg/dの荷重を30秒掛けて長さBを求めた。次の式より伸縮伸長率を算出した。
伸縮伸長率(%)=〔(B-A)/B〕×100
【0067】
F.剛直非晶量:
剛直非晶量は、TA Instruments社製Q1000を測定機器として用いて測定した。示査走査熱量測定(以下、DSCと略す。)から得られた融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)の差(ΔHm-ΔHc)、温度変調DSC測定から得られた比熱差(ΔCp)、さらに、ポリアミドが100%結晶(完全結晶)の理論値とポリアミドが100%非晶(完全非晶)の理論値を用いた。ここで、ΔHm0は、ポリアミド(完全結晶)の溶融熱量である。また、ΔCp0は、ポリアミド(完全非晶)のガラス転移温度(Tg)前後での比熱差である。
次式(1)と(2)に基づいて、結晶化度(Xc)と可動非晶量(Xma)を求めた。さらに、次式(3)により剛直非晶量(Xra)を算出した。なお、剛直非晶量は、これらを2回測定した平均値から算出した。
(1)Xc(%)=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0×100
(2)Xma(%)=ΔCp/ΔCp0×100
(3)Xra(%)=100-(Xc+Xma)
【0068】
DSCおよび温度変調DSCの測定条件を、下記に示す。
(DSC測定)
測定装置:TA Instruments社製 Q1000
データ処理:TA Instruments社製 Universal Analysis 2000
雰囲気:窒素流(50mL/min)
試料量:約10mg
試料容器:アルミニウム製標準容器
温度と熱量校正:高純度インジウム(Tm=156.61℃、ΔHm=28.71J/g)
温度範囲:約-50~300℃
昇温速度:10℃/分 1回目の昇温過程(ファーストrun)
(温度変調DSC測定)
測定装置:TA Instruments社製 Q1000
データ処理:TA Instruments社製 Universal Analysis 2000
雰囲気:窒素流(50mL/分)
試料量:約5mg
試料容器:アルミニウム製標準容器
温度と熱量校正:高純度インジウム(Tm=156.61℃、ΔHm=28.71J/g)
温度範囲:約-50~210℃
昇温速度:2℃/分
【0069】
G.強度および伸度:
繊維試料をオリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)、UCT-100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、2010年)に示される定速伸長条件で測定した。伸度は、引張強さ-伸び曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、強度は、最大強力を繊度で除した値を強度とした。測定は10回行い、平均値を強度および伸度とした。
【0070】
H.温度30℃、相対湿度90%RH環境下での吸水率:
JIS-L-1013(2010年度版)に準じて、絶乾状態と温度30℃、相対湿度90%RHで72時間静置した後の質量を測定し、その水分率を測定した。
【0071】
I.織物評価:
(a)緯糸の製造
ポリカプロラクタム(N6)(相対粘度2.70、融点222℃)を使用し、口金吐出孔を12個有する紡糸口金を用いて、275℃の温度で溶融吐出させた。溶融吐出させた後、得られた糸条を冷却し、給油、交絡した後に2570m/分の引き取りローラーで引き取り、続いて1.7倍に延伸した後に155℃の温度で熱固定し、巻取速度4000m/分で70dtex12フィラメントのナイロン6糸条を得た。
【0072】
(b)織物の製造
実施例4~11および比較例1~3で得られた偏心芯鞘型ポリアミド複合糸を経糸(経糸密度90本/2.54cm)として用い、上記(a)で得られたナイロン6糸条を緯糸(緯糸密度90本/2.54cm)に用い、平織物(経糸/複合繊維)を製織した(目付け40g/cm)。また、実施例1~3で得られた偏心芯鞘型ポリアミド複合仮撚り加工糸を経糸(経糸密度90本/2.54cm)として用い、上記(a)で得られたナイロン6糸条を緯糸(緯糸密度90本/2.54cm)に用い、平織物(経糸/加工糸)を製織した(目付け40g/cm)。
得られた織物を80℃の温度で20分間精練を行い、続いてKayanol Yellow N5G 1%owf、酢酸を用いてpH4に調整し、100℃の温度で30分間染色を行い、その後、80℃の温度で20分間Fix処理を行い、最後に風合いの改良のため170℃の温度で30秒間熱処理を行った。
【0073】
(c)織物の経糸方向の伸長率(ストレッチ性)
引張試験機を用いて、実施例1~10および比較例1~4で得られた幅50mm×300mmの織物試料を、つかみ間隔200mmで織物の経糸方向に対して引張速度200mm/分、14.7Nまで伸長したときの伸長率を測定し、次の3段階「A」、「B」および「C」で評価した。15%以上を、ストレッチ性ありと判定した。
A(良):20%以上
B(可):15%以上20%未満
C(不可):15%未満
【0074】
[実施例1]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.3、融点222℃のナイロン6(N6)を、結晶性ポリアミド(B)として相対粘度2.7、融点225℃のナイロン610(N610)を用いた。結晶性ポリアミド(A)を芯成分とし、結晶性ポリアミド(B)を鞘成分として、それぞれを溶融し、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金(12孔、丸孔)を用いて、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率(質量比)を、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=5:5で溶融吐出した(紡糸温度270℃)。口金から吐出された糸条は、糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、給油装置により含水油剤を給油後、流体交絡ノズル装置で交絡を付与した後、引き取りローラー(室温25℃)にて3700m/分で引き取り、延伸ローラー(室温25℃)間で1.1倍に延伸を行った後で、巻取速度4000m/分でパッケージに巻き取りをおこなった。62dtex12フィラメント、伸縮伸長率49%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.16cN/dtex、剛直非晶量41%のポリアミド複合繊維糸条を得た。
得られたポリアミド複合繊維糸条を用いて、190℃のヒーター温度で1.25延伸倍率を掛けた状態で、撚り数(D/Y)1.95の条件においてディスク仮撚りを行い、伸縮伸長率が130%の仮撚り加工糸を得た。得られた仮撚り加工糸を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物はストレッチ性に優れていた。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.6、融点222℃のナイロン6(N6)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率53%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.21cN/dtex、および剛直非晶量46%のポリアミド複合繊維糸条を得た。
得られたポリアミド複合繊維糸条を実施例1と同じ方法で、ディスク仮撚りを行い、伸縮伸長率150%の仮撚り加工糸を得た。得られた仮撚り加工糸を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物はストレッチ性に優れていた。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.6、融点200℃のナイロン6とナイロン66の共重合品(N6/N66)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率67%、吸水率3.6%、熱収縮応力0.25cN/dtex、剛直非晶量53%のポリアミド複合繊維糸条を得た。
得られたポリアミド複合繊維糸条を実施例1と同じ方法で、ディスク仮撚りを行い、伸縮伸長率200%の仮撚り加工糸を得た。得られた仮撚り加工糸を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、実施例1と実施例2よりも優れたストレッチ性が得られた。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
[実施例4]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.6、融点200℃のナイロン6とナイロン66の共重合品(N6/N66)を、結晶性ポリアミド(B)として相対粘度2.7、融点225℃のナイロン610(N610)を用いた。結晶性ポリアミド(A)を芯成分とし、結晶性ポリアミド(B)を鞘成分として、それぞれを溶融し、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金(12孔、丸孔)を用いて、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率(質量比)を、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=5:5で溶融吐出した(紡糸温度270℃)。口金から吐出された糸条は、糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、給油装置により非含水油剤を給油後、流体交絡ノズル装置で交絡を付与した後、微加熱引き取りローラー(温度50℃)において1700m/分で引き取り、加熱延伸ローラー(熱セット温度:150℃)間で2.4倍に延伸を行った後で、巻取速度4000m/分でパッケージに巻き取りをおこなった。62dtex12フィラメント、伸縮伸長率117%、吸水率3.6%、熱収縮応力0.29cN/dtex、剛直非晶量55%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、実施例5よりも優れたストレッチ性が得られた。結果を表2に示す。
【0079】
[実施例5]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.3、融点222℃のナイロン6(N6)を、結晶性ポリアミド(B)として相対粘度2.7、融点225℃のナイロン610(N610)を用いた。結晶性ポリアミド(A)を芯成分とし、結晶性ポリアミド(B)を鞘成分として、それぞれを溶融し、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金(12孔、丸孔)を用いて、結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率を、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=5:5で溶融吐出した(紡糸温度270℃)。口金から吐出された糸条は、糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、給油装置により非含水油剤を給油後、流体交絡ノズル装置で交絡を付与した後、微加熱引き取りローラー(温度50℃)で1700m/分で引き取り、加熱延伸ローラー(熱セット温度:150℃)間で2.4倍に延伸を行った後で、巻取速度4000m/分でパッケージに巻き取りをおこなった。62dtex12フィラメント、伸縮伸長率83%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.20cN/dtex、および剛直非晶量46%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られた複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0080】
[実施例6]
結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率を、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=4:6としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率81%、吸水率3.3%、熱収縮応力0.18cN/dtex、剛直非晶量45%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0081】
[実施例7]
結晶性ポリアミド(A)と結晶性ポリアミド(B)の複合比率を、結晶性ポリアミド(A):結晶性ポリアミド(B)=6:4としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率87%、吸水率4.3%、熱収縮応力0.23cN/dtex、剛直非晶量47%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0082】
[実施例8]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.6、融点222℃のナイロン6(N6)を、結晶性ポリアミド(B)として相対粘度2.7、融点225℃のナイロン610とナイロン510の共重合品(N610/N510)を用いたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率103%、吸水率4.1%、熱収縮応力0.20cN/dtex、剛直非晶量46%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、実施例5よりも優れたストレッチ性が得られた。結果を表2に示す。
【0083】
[実施例9]
微加熱引き取りローラー(50℃)にて2050m/分で引き取り、加熱延伸ローラー(熱セット温度:150℃)間で2.0倍に延伸を行ったこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率82%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.18cN/dtex、剛直非晶量43%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0084】
[実施例10]
紡糸温度を280℃としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率82%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.18cN/dtex、剛直非晶量43%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0085】
[実施例11]
紡糸温度を260℃としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率95%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.22cN/dtex、剛直非晶量49%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に優れていた。結果を表2に示す。
【0086】
[比較例1]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度2.7、融点222℃のナイロン6(N6)を用いたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメントのポリアミド複合糸条を得た。相対粘度差のほとんどない比較例1の複合糸条は、加熱処理後の収縮差が小さくて伸縮伸長率13%と低い捲縮であり、熱収縮応力0.13cN/dtex、剛直非晶量39%と低い値であった。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用い、得られた織物は、ストレッチ性に劣っていた。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例2]
ポリアミド(A)とポリアミド(B)の複合比率をポリアミド(A):ポリアミド(B)=7:3としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメントのポリアミド複合糸条を得た。吸水率の高いポリアミド(A)の比率を高くした比較例2のポリアミド複合糸条は、吸水率5.8%と高い値であった。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用い、実施例5と同様に織物を形成したが、シワが残ったため、シワが残らない程度に経方向に張力を高めに加工を行った結果、ストレッチ性に劣った織物が得られた。結果を表2に示す。
【0088】
[比較例3]
結晶性ポリアミド(A)として相対粘度3.3、融点222℃のナイロン6(N6)を、結晶性ポリアミド(B)として相対粘度2.7、融点225℃のナイロン6(N6)を用いたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメントのポリアミド複合繊維糸条を得た。吸水率の高いポリアミド同士を用いて作製した比較例3のポリアミド複合繊維糸条は、吸水率6.2%と高い値であった。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用い、実施例5と同様に織物を形成したが、シワが残ったため、シワが残らない程度に経方向に張力を高めに加工を行った結果、ストレッチ性に劣った織物が得られた。結果を表2に示す。
【0089】
[比較例4]
紡糸温度を300℃としたこと以外は、実施例5と同じ方法で、62dtex12フィラメント、伸縮伸長率53%、吸水率3.8%、熱収縮応力0.13cN/dtex、剛直非晶量36%のポリアミド複合繊維糸条を得た。得られたポリアミド複合繊維糸条を経糸として用いて織物を形成した。得られた織物は、ストレッチ性に劣っていた。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2019年7月31日付で出願された日本特許出願(特願2019-141540)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0092】
1:芯成分(結晶性ポリアミド(A))
2:鞘成分(結晶性ポリアミド(B))
10A~10D:ポリアミド偏心芯鞘型複合繊維
図1
図2