(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】複合プリプレグ、ならびにそれを用いたプリフォーム、繊維強化複合材料接合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20241217BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20241217BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
B29B11/16
B29K105:06
(21)【出願番号】P 2020564964
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042311
(87)【国際公開番号】W WO2021152957
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020014581
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 直吉
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-119851(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244994(WO,A1)
【文献】特開2012-054464(JP,A)
【文献】特開2003-082117(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167579(WO,A1)
【文献】特開2019-167429(JP,A)
【文献】特開2010-031088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂(a)と強化繊維とを含む領域(A)、および、熱硬化性樹脂(b)と強化繊維とを含む領域(B)
からなり、
前記領域(A)が前記熱硬化性樹脂(a)と前記強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(A’)によって構成され、前記領域(B)が、前記熱硬化性樹脂(b)と前記強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(B’)によって構成されてなり、条件(i)および(ii)を満たす、または、条件(ii)および(iii)を満たす複合プリプレグ。
(i)前記熱硬化性樹脂(b)は、前記熱硬化性樹脂(a)よりゲル化時間が長い樹脂であり、40℃以上180℃以下の少なくとも一部の温度領域において、前記熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間Taと、前記熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間Tbとが、Ta/Tb≦0.8。
(ii)前記複合プリプレグの表面における前記領域(A)の割合が20~80%。
(iii)前記熱硬化性樹脂(b)は、前記熱硬化性樹脂(a)より発熱開始温度が高い樹脂であり、40℃を開始温度とし5℃/minで測定した示差走査熱量分析チャートにおいて、前記熱硬化性樹脂(a)の発熱開始温度Eaと、前記熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度Ebとが、Eb-Ea≧30。
【請求項2】
前記複合プリプレグの表面において、前記領域(A)と前記領域(B)とが面内方向にストライプ状またはパッチワーク状に分布してなる、請求項1に記載の複合プリプレグ。
【請求項3】
前記ストランド状プリプレグ(A’)と前記ストランド状プリプレグ(B’)とが、織り構造を有するシート状に配列されてなる、請求項
1または2に記載の複合プリプレグ。
【請求項4】
前記ストランド状プリプレグ(A’)と前記ストランド状プリプレグ(B’)とが、並行に配列されてなる、請求項
1または2に記載の複合プリプレグ。
【請求項5】
1つのストランド状プリプレグ(A’)およびストランド状プリプレグ(B’)に含まれる強化繊維数が、それぞれ10本以上800,000本以下である、請求項
1~4のいずれかに記載の複合プリプレグ。
【請求項6】
前記条件(i)および(ii)を満たす場合であって、180℃における前記熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間Taと前記熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間Tbとが、Ta/Tb≦0.8を満たす、請求項1~
5のいずれかに記載の複合プリプレグ。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の前記複合プリプレグの少なくとも一方の面に、前記複合プリプレグとは別の、熱硬化性樹脂(a)を含むプリプレグを配置してなるプリフォーム。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれかに記載の前記複合プリプレグの一方の面に、前記複合プリプレグとは別の、熱硬化性樹脂(a)を含むプリプレグを配置し、他方の面に、前記複合プリプレグとは別の、熱硬化性樹脂(b)を含むプリプレグを配置してなるプリフォーム。
【請求項9】
請求項
7または
8に記載の前記プリフォームを加熱成形してなる繊維強化複合材料接合体。
【請求項10】
前記複合プリプレグとは別の第1のプリプレグと第2のプリプレグを用意し、請求項1~
6のいずれかに記載の複合プリプレグを介在させることにより、前記第1のプリプレグと第2のプリプレグとを接合する、繊維強化複合材料接合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1のプリプレグと前記複合プリプレグとを接合するための加熱と、前記第2のプリプレグと前記複合プリプレグとを接合するための加熱を、段階的に行う、請求項
10に記載の繊維強化複合材料接合体の製造方法。
【請求項12】
前記第1のプリプレグが熱硬化性樹脂(a)を含むプリプレグである、請求項
10または
11に記載の繊維強化複合材料接合体の製造方法。
【請求項13】
前記第2のプリプレグが熱硬化性樹脂(b)を含むプリプレグである、請求項
10~
12のいずれかに記載の繊維強化複合材料接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性の繊維強化複合材料を容易に接合可能とし、かつ、接合強度に優れた接合体を形成するためのプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用い、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性や耐腐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に活用されている。
【0003】
一般に、繊維強化複合材料は、複雑な形状を有する部品や成形体を単一の成形工程で製造するには不向きであり、複雑な形状を形成するためには、繊維強化複合材料からなる部材を作製し、次いで、別の部材と接合する必要がある。航空機や自動車用の構造部材や準構造部材として用いる場合、現状、接着剤を用いる接合手法や、リベットなどの機械的締結による接合手法が用いられている。しかし、接着剤を用いた場合は、繊維強化複合材料の成形体と別の部材との境界面で剥離などによる接合不良が発生する可能性がある。また、機械的締結の場合は、繊維強化複合材料および別の部材に穴開けを行うため、穴部の強度が低下する可能性があるといった課題がある。
【0004】
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いた繊維強化複合材料は、他の熱可塑性樹脂を用いた部材と加熱溶着により接合することができるため、比較的工程を簡略化しやすいと言える。例えば、特許文献1には、熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層が凹凸形状の境界面を形成して接合されている繊維強化樹脂製の積層体が開示されており、かかる方法によれば優れた接合強度の接合体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている、熱可塑性樹脂を用いた接合技術は、高温時に接合面が再溶融して剥離してしまい、耐熱性が課題となる場合があった。このため熱硬化性樹脂を用いた、簡便でかつ接合強度に優れる、別の部材との接合技術が求められていた。特に、熱硬化性樹脂は、十分に加熱硬化させた場合、再溶融しないため耐熱性に優れるものの、硬化後は別の部材との強固な接合が困難になる。このため、例えば2つ以上の部材と接合する必要がある場合には、硬化反応が十分に進行してしまい、接合する必要のある部材すべてに対しては十分な接合強度が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、熱硬化性の繊維強化複合材料において、別の部材、特に2つ以上の部材との簡便かつ接合強度に優れた接合を可能とするプリプレグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、主に、熱硬化性樹脂(a)と強化繊維とを含む領域(A)、および、熱硬化性樹脂(b)と強化繊維とを含む領域(B)を含み、条件(i)および(ii)を満たす、または、条件(ii)および(iii)を満たす複合プリプレグを特徴とするものである。
(i)前記熱硬化性樹脂(b)は、前記熱硬化性樹脂(a)よりゲル化時間が長い樹脂であり、40℃以上180℃以下の少なくとも一部の温度領域において、前記熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間Taと、前記熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間Tbとが、Ta/Tb≦0.8。
(ii)前記複合プリプレグの表面における前記領域(A)の割合が20~80%。
(iii)前記熱硬化性樹脂(b)は、前記熱硬化性樹脂(a)より発熱開始温度が高い樹脂であり、40℃を開始温度とし5℃/minで測定した示差走査熱量分析チャートにおいて、前記熱硬化性樹脂(a)の発熱開始温度Eaと、前記熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度Ebとが、Eb-Ea≧30。
【0009】
なお、本発明には、上記の条件(i)~(iii)全てを満たす複合プリプレグも含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合プリプレグによれば、熱硬化性の繊維強化複合材料と別の部材との簡便かつ強度に優れた接合が可能であり、さらに、2以上の部材とも容易に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】両表面において領域(A)と領域(B)とが面内方向にストライプ状に分布してなる複合プリプレグの一実施形態を示す模式図。
【
図2】両表面において領域(A)と領域(B)とが面内方向にパッチワーク状に分布してなる複合プリプレグの一実施形態を示す模式図。
【
図3】本発明の複合プリプレグに、熱硬化性樹脂(a)を含む別のプリプレグを積層してなるプリフォームの一実施形態を示す模式図。
【
図4】
図2の構成の複合プリプレグを介して、熱硬化性樹脂(a)を含む別のプリプレグと熱硬化性樹脂(b)を含むさらに別のプリプレグとを接合させた、繊維強化複合材料接合体の一実施形態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について説明する。
【0013】
<複合プリプレグ>
本発明の複合プリプレグは、熱硬化性樹脂(a)と強化繊維とを含む領域(A)、および、熱硬化性樹脂(b)と強化繊維とを含む領域(B)からなる。かかる構成とすることで、硬化挙動の異なる領域(A)と領域(B)のそれぞれを表面に形成できるため、単一の熱硬化性樹脂を含んだプリプレグと比較して、他の部材との接合可能回数を増やすことが可能となり、接合工程における設計自由度の面で優れる。以下、本発明の複合プリプレグを、適宜図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、図面に記載された実施形態に関する説明は、上位概念として本発明の複合プリプレグに関する説明としても機能し得るものである。
【0014】
図1は、表面において、領域(A)6と領域(B)7とが面内方向にストライプ状に分布してなる、本発明にかかる複合プリプレグの一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、領域(A)と領域(B)とが面内方向に交互に配列されることにより、複合プリプレグの表面に表れている領域(A)8と領域(B)9とが交互にストライプ状に存在する形態となる。
図2には、表面における領域(A)8と領域(B)9とが面内方向にパッチワーク状に分布してなる複合プリプレグの一実施形態の模式図を示す。この実施形態においては、領域(A)と領域(B)とが交差し、補強し合いながら複合プリプレグを形成しており、かかる形態とすることで得られる複合プリプレグの表面における領域(A)8と領域(B)9とが面内方向にパッチワーク状に存在する形態となる。これらの例に挙げるように、本発明の複合プリプレグは、その表面において領域(A)と領域(B)の双方が存在している。
【0015】
本発明において、複合プリプレグの第一の態様は、条件(i)および(ii)を満たす。この態様での熱硬化性樹脂(b)は、熱硬化性樹脂(a)よりもゲル化時間、すなわち硬化に要する時間が長い熱硬化性樹脂である。複合プリプレグにおいて、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とでゲル化時間に有意な差があるものを用いることにより、単一のプリプレグにおいて複数の硬化挙動を併用させることが可能となり、熱硬化性の繊維強化複合材料を簡便かつ接合強度に優れる状態で接合可能となる。具体的には、下記の条件(i)を満たす。
(i)熱硬化性樹脂(b)は、熱硬化性樹脂(a)よりゲル化時間が長い樹脂であり、40℃以上180℃以下の少なくとも一部の温度領域において、熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間Taと、熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間Tbが、Ta/Tb≦0.8。
【0016】
条件(i)を満たすことで、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とが共存した状態において、熱硬化性樹脂(a)を硬化物としつつ、熱硬化性樹脂(b)が未硬化の状態の複合プリプレグを得ることができる。上記Ta/Tbは、0.7以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。かかる範囲とすることで、熱硬化性樹脂(a)の硬化に要した時間に対して、熱硬化性樹脂(b)を未硬化の状態とできる時間を長くすることができ、作業性に優れる。また、上記Ta/Tbは0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上が最も好ましい。かかる範囲とすることで、熱硬化性樹脂(a)の硬化後、さらに熱硬化性樹脂(b)を硬化させるために要する時間を短縮でき、その結果、接合時間を短縮できる。
【0017】
本明細書における熱硬化性樹脂のゲル化時間は、キュラストメーターでの回転トルクの経時変化から測定される値であるものとする。すなわち、40℃を加熱開始時点とし、40℃以上180℃以下の所定の温度まで1.7℃/minで昇温速度を制御し、次いで当該所定の温度を保持しながら、硬化反応の進行により回転トルクが1dNmを超えるまでに要した時間を計測し、加熱開始時点からトルクが1dNmを超えるまでに要した時間をゲル化時間として求めることができる。例えば、180℃でゲル化時間を測定する場合、40℃を加熱開始時点とし、180℃まで1.7℃/minで昇温速度を制御し、次いで180℃で温度を保持させながら、硬化反応の進行により回転トルクが1dNmを超えるまでに要した時間を計測し、加熱開始時点からトルクが1dNmを超えるまでに要した時間をゲル化時間として求めることができる。本発明においては、40℃以上180℃以下の少なくとも一部の温度領域において、このように熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とのゲル化時間に差が存在していれば、当該温度領域を硬化温度として採用することで、上記の逐次的な硬化を行うことができる。
【0018】
作業性の観点から、Ta/Tbは、100℃以上180℃以下の少なくとも一部の温度領域において上記範囲であることが好ましく、180℃において上記範囲であることがより好ましい。
【0019】
また、Ta/Tbは、100℃以上180℃以下の全ての温度領域において上記範囲であることが好ましく、40℃以上180℃以下の全ての温度領域において上記範囲であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)としてこのような組み合わせになるものを用いることで、後述する繊維強化複合材料接合体を製造する場合の製造条件の自由度を高めることができる。
【0020】
また、本発明のプリプレグは、次の条件(ii)を満たす。
(ii)複合プリプレグ表面における領域(A)の面積割合が20~80%。
【0021】
複合プリプレグ表面における領域(A)の面積割合は、プリプレグのある表面に占める領域(A)の面積の総和を、当該表面における領域(A)の面積と領域(B)の面積との総和で除し、100倍した面積割合[%]である。かかる面積割合は、30~70%が好ましく、40~60%がより好ましく、45~55%がさらに好ましい。かかる範囲とすることで、複合プリプレグを接着層として用いた際に、領域(A)の硬化を介した接着工程後も、熱硬化性樹脂(a)よりも硬化の遅い熱硬化性樹脂(b)を含む領域(B)を未硬化状態でプリプレグ表面に十分な面積で残すことが可能となり、この領域(B)を介することで、さらに他の被着体を接合することが可能となる。
【0022】
なお、複合プリプレグの表面は、面外方向(面内方向と直交する方向、すなわちプリプレグ表面に垂直な方向)におもてとうらの関係で2面存在するが、本発明において、複合プリプレグ表面における領域(A)の割合は、おもて面とうら面のそれぞれの表面で条件(ii)を満たすものである。なお、複合プリプレグの端部において面外方向に延在する露出平面は本明細書においては側面と呼ぶ。
【0023】
本発明において、複合プリプレグの第二の態様は、前述の条件(ii)および後述の(iii)を満たす。この態様での熱硬化性樹脂(b)は、熱硬化性樹脂(a)よりも発熱開始温度、すなわち硬化反応の開始に要する温度が高い熱硬化性樹脂である。複合プリプレグにおいて、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とで硬化温度に有意な差があるものを用いることにより、単一のプリプレグにおいて複数の硬化挙動を併用させることが可能となり、熱硬化性の繊維強化複合材料を簡便かつ接合強度に優れる状態で接合可能となる。
【0024】
具体的に、条件(iii)は以下のとおりである。
(iii)熱硬化性樹脂(b)は、熱硬化性樹脂(a)より発熱開始温度が高い樹脂であり、40℃を開始温度とし5℃/minで測定した示差走査熱量分析チャートにおいて、熱硬化性樹脂(a)の発熱開始温度Eaと、熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度Ebとの関係が、Eb-Ea≧30。
【0025】
条件(iii)を満たすことで、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とが共存した状態において、熱硬化性樹脂(a)を硬化物としつつ、熱硬化性樹脂(b)が未硬化の状態の複合プリプレグを得ることができる。上記Eb-Eaは、上限として、200以下が好ましく、150以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、また、下限としては、30以上が好ましく、45以上がより好ましく、50以上がさらに好ましい。かかる範囲とすることで、昇温に伴い、熱硬化性樹脂(a)が硬化反応を開始した後も、熱硬化性樹脂(b)を未硬化の状態とできる時間を長くすることができ、作業性に優れる。
【0026】
本明細書における熱硬化性樹脂の発熱開始温度は、示差走査熱量分析計での発熱量の経時変化から測定される値であるものとする。すなわち、40℃を加熱開始温度とし、40℃以上300℃以下の所定の温度まで5℃/minで昇温速度を制御し、当該測定中に熱硬化性樹脂の硬化反応に伴い発生した熱量を計測・プロットした示差走査熱量分析チャートにおいて、発熱ピークの立ち上がり点(ベースラインから0.2W/g発熱した点)を発熱開始温度とする。
【0027】
作業性の観点から、Eaは、40℃以上200℃以下が好ましく、100℃以上150℃未満がより好ましい。Ebは、100℃以上300℃以下が好ましく、150℃以上200℃以下がより好ましい。EaとEbのそれぞれをかかる範囲に制御した上で組み合わせることで、後述する繊維強化複合材料接合体を製造する場合の硬化反応が制御し易く、作業性に優れる。
【0028】
上記の条件(i)および(ii)、または、条件(ii)および(iii)を満たす本発明の複合プリプレグは、その表面において領域(A)と領域(B)とが、面内方向にストライプ状またはパッチワーク状に分布してなることが好ましい。ストライプ状とは、例えば
図1に示すように、複合プリプレグ表面において、複合プリプレグの全長に渡り連続する領域(A)と、同じく複合プリプレグの全長に渡り連続する領域(B)とが交互に表れる状態を指す。
図1に示す実施形態においては、複合プリプレグの両表面において、長方形状の領域(A)と、同じく長方形状の領域(B)とが長辺を共有しつつ交互に表れている。表面に表れる領域(A)と領域(B)はいずれも長方形状に限られるわけではなく、正方形状や台形状であってもよい。また、パッチワーク状とは、
図2に示すように、プリプレグ表面において、それぞれが多角形状、好ましくは四角形状である領域(A)と領域(B)とが、2辺以上を共有して存在している状態を指す。領域(A)と領域(B)とが、面内方向にストライプ状またはパッチワーク状に分布することにより、複合プリプレグの面内方向で接合強度を均一化しやすくなるため好ましい。接合強度の均質性の観点からは、複合プリプレグ表面において両領域がパッチワーク状に分布していることがより好ましい。
【0029】
なお、前記領域(A)と前記領域(B)とを、複合プリプレグ表面においてパッチワーク状に分布させる場合は、
図2に示すように、一方向に連続する領域(A)と、それに交差する方向に連続する領域(B)とを互いに交差すればよい。この場合、領域(A)と領域(B)は面外方向において重なることとなる。かかる構成により得られる複合プリプレグは、表面に露出している領域(A)や領域(B)のそれぞれが複合プリプレグの内部では連続しており、強化繊維による補強効果によっても接合強度を高めることができるため好ましい。
【0030】
また、本発明の複合プリプレグは、前記領域(A)と領域(B)が、面外方向において重なっていなくてもよい。
図1の実施形態のように領域(A)と領域(B)とが面外方向において重ならない配置とすることで、
図2の実施形態のように領域(A)と領域(B)とが交錯する場合に比べ面外方向の厚みを薄くすることができる。
【0031】
本発明において、前記領域(A)は熱硬化性樹脂(a)と強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(A’)によって構成され、前記領域(B)は、熱硬化性樹脂(b)と強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(B’)によって構成されてなることが好ましい。ここで、ストランド状プリプレグとは、複数の強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維束に対し、未硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたものである。かかる構成とすることで、複合プリプレグの製造において、複雑な配置とする際にも取扱い性が向上し、複合プリプレグの生産性が良好になる。
【0032】
さらに本発明において、複合プリプレグはストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とが、織り構造を有するシート状に配列されることが好ましい。ここでの織り構造とはストランド状のプリプレグが面外方向に重なり合いながら交錯し合った状態を示し、平織、綾織、繻子織などの織り構造が例示できる。中でも、
図2の例に示すようにストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを直交させた平織とすることが好ましい。かかる構造とすることで、複合プリプレグ内部で領域(A)と領域(B)との間にアンカリングを形成させつつ、領域(A)と領域(B)とを複合プリプレグの表面に露出させることが可能となり、得られる複合プリプレグ自身の強度と、接着層として被着体との接合強度の双方に優れるため好ましい。
【0033】
本発明において、複合プリプレグはストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とが、並行に配列されることも好ましい。並行に配列とは、ストランド状プリプレグ同士をそれぞれの側面が接するように面内方向に並べることを意味し、典型的には
図1の実施形態に示すようにストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とをそれぞれの側面を接触させながら交互に面内方向に並べた状態を例示できる。かかる構造とすることで、複合プリプレグの厚みを薄く抑えながら、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とを露出させた複合プリプレグが得られる。なお、本態様において、ストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とは必ずしも交互に配列される必要はなく、いずれかのストランド状プリプレグが連続して配列された箇所が存在してもよい。
【0034】
ストランド状プリプレグ(A’)およびストランド状プリプレグ(B’)は、それぞれ1つあたりに含まれる強化繊維数が、10本以上800,000本以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで、複合プリプレグの表面における領域(A)の割合や、その分布状態を制御できるため好ましい。該強化繊維数は、100本以上500,000本以下がより好ましく、1,000本以上100,000本以下がさらに好ましく、2,500本以上25,000本以下が最も好ましい。かかる範囲とすることで、ストランド状のプリプレグから複合プリプレグを製造する際の生産性と、得られる複合プリプレグの接合強度に優れるため好ましい。
【0035】
なお、ストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)は、それぞれが含む強化繊維数が互いに同数でも異なっていても良く、所望する複合プリプレグの形態や生産性に応じて適宜選択することができる。
【0036】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、またはこれらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。耐衝撃性向上のために、熱硬化性樹脂には、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。
【0037】
中でも、エポキシ樹脂は、力学特性、耐熱性および強化繊維との接着性に優れ、ゲル化時間や発熱開始温度の設計を行い易い観点から好ましい。エポキシ樹脂の主剤としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン(以降、「テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン」と表すこともある)、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。中でも、1分子中にグリシジル基を3個以上含むエポキシ樹脂は、高いガラス転移温度を有する硬化物が得られるため好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、芳香族アミン化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンなどが挙げられる。中でも、硬化剤として芳香族アミン硬化剤を用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られることから好ましい。芳香族アミン化合物としては、例えば、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルホスフィン酸、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ジエチルトルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は単独で用いてもよいし、適宜2種類以上混合して用いてもよい。
【0039】
本発明において、上述した複合プリプレグの第一の態様では、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とが、ゲル化時間、すなわち熱硬化性樹脂の硬化に要する時間に有意な差がある、互いに異なる樹脂であり、熱硬化性樹脂(b)は熱硬化性樹脂(a)よりゲル化時間の長い熱硬化性樹脂である。かかる構成を簡便に達成するためには、熱硬化性樹脂の主剤と硬化剤の内、硬化剤を適切に選択することが好ましい。ゲル化時間を早める観点からは、熱硬化性樹脂(a)の硬化剤の一部または全部として4,4’-ジアミノジフェニルケトンや4,4’-ジアミノジフェニルホスフィン酸を用いることが好ましい。
【0040】
本発明において、上述した複合プリプレグの第二の態様では、熱硬化性樹脂(a)と熱硬化性樹脂(b)とが、発熱開始温度、すなわち熱硬化性樹脂の硬化反応に要する温度に有意な差がある、互いに異なる樹脂であり、熱硬化性樹脂(b)は熱硬化性樹脂(a)より発熱開始温度が高い熱硬化性樹脂である。かかる構成を簡便に達成するためには、熱硬化性樹脂の主剤と硬化剤の内、硬化剤を適切に選択することが好ましい。発熱開始温度を下げて、硬化を早める観点からは、熱硬化性樹脂(a)の硬化剤の一部または全部として、4,4’-ジアミノベンズアニリドやジエチルトルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンを用いることが好ましく、取扱い性の観点からジエチルトルエンジアミンを用いることがより好ましい。また、発熱開始温度を上げて、硬化を遅らせる観点からは、熱硬化性樹脂(b)の硬化剤の一部または全部として、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンや、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを用いることが好ましく、発熱開始温度の高さの観点から4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを用いることがより好ましい。
【0041】
本発明において、エポキシ樹脂の組成物には、さらに熱可塑性樹脂を含有させることが好ましい。熱可塑性樹脂は得られるプリプレグのタック性の制御、プリプレグを加熱硬化する時のエポキシ樹脂の流動性の制御および得られる繊維強化複合材料の耐熱性や弾性率を損なうことなく靭性を付与するために含有される。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルスルホンなどを挙げることができ、これらのポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、適宜併用して用いてもよい。中でも、ポリエーテルスルホンは得られる繊維強化複合材料の耐熱性や力学物性の低下を抑えつつエポキシ樹脂の変性が可能となるため好ましい。
【0042】
<強化繊維>
本発明において、強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の強化繊維であることが、接合強度や経済性の観点から好ましい。強化繊維としては、上記以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などを用いても良い。これらは、単独で用いてもよいし、適宜2種以上併用して用いてもよい。
【0043】
これらの強化繊維は、表面処理が施されているものであっても良い。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。
【0044】
強化繊維としては、比重が小さく、高強度、高弾性率であることから、炭素繊維が好ましく使用される。炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-12K、“トレカ(登録商標)”T700S-12K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0045】
市販の強化繊維束を用いる場合、1本の強化繊維束を複数本に分割したり、複数本を組み合わせて単繊維の数を調節することができ、かかる工程を経てストランド状のプリプレグにすることができる。また、強化繊維の単繊維は一方向に配向して強化繊維束を形成することが好ましく、かかる強化繊維束を構成する単繊維は部分的に切断されたものが内包されていても良い。
【0046】
また、強化繊維は、JIS R7608(2007)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠して測定したストランド引張強度が3.5GPa以上であると、優れた接合強度を有する接合体が得られるため好ましい。当該ストランド引張強度は、4.5GPa以上であるとより好ましい。
【0047】
<複合プリプレグの製造方法>
本発明の複合プリプレグは、一例として、領域(A)として熱硬化性樹脂(a)と強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(A’)を、領域(B)として熱硬化性樹脂(b)と強化繊維とを含むストランド状プリプレグ(B’)をそれぞれ用意し、ストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを組み合わせて配置することで製造することができる。以下、単に「ストランド状プリプレグ」と記載する場合、ストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)の総称であるものとする。
【0048】
ストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを組み合わせて配置する方法としては、複数のストランド状プリプレグを一方向に引き揃え、ストランド状プリプレグ同士をそれぞれの側面が接するように面内方向に並べてシート化する方法や、複数のストランド状プリプレグを経糸と緯糸に用い、立体的に織り構造を形成させながら織り構造を有するシートにする方法が例示できる。織り構造としては、平織、綾織、繻子織などが例示できる。織り構造の場合、経糸と緯糸の内一方をストランド状プリプレグ(A’)とし、他方をストランド状プリプレグ(B’)とすることが好ましい。かかる構成とすることで、領域(A)と領域(B)とが交差し、補強し合いながら表面においては領域(A)と領域(B)とが面内方向にパッチワーク状に存在する複合プリプレグを得ることが可能となるため好ましい。また、組み合わせるストランド状プリプレグがそれぞれ含有する強化繊維数により、ストランド状プリプレグの幅を容易に制御可能となり、プリプレグの表面に占める領域(A)と領域(B)との比率が容易に制御可能となる。
【0049】
ストランド状プリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、熱硬化性樹脂をアセトン、メチルエチルケトンおよびメタノールなどから選ばれる有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束に含浸させるウェット法、あるいは、熱硬化性樹脂を、有機溶媒を用いずに加熱により低粘度化し、強化繊維束に含浸させるホットメルト法などの方法により、製造することができる。ウェット法では、強化繊維束を熱硬化性樹脂を含む液体に浸漬した後に引き上げ、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させることでプリプレグを得ることができる。またホットメルト法では、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂を、直接、強化繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦熱硬化性樹脂を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シート(以降、「樹脂フィルム」と表すこともある)をまず作製し、次いで強化繊維束の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維束側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させる方法などを用いることができる。ストランド状のプリプレグの製造方法としては、残留する有機溶媒が実質的に皆無となるため、有機溶媒を用いずに熱硬化性樹脂を強化繊維束に含浸させるホットメルト法が好ましい。
【0050】
ストランド状のプリプレグにおける熱硬化性樹脂の目付は、10g/m2以上であると好ましい。熱硬化性樹脂の目付は、50g/m2以上であるとより優れた接合強度を発現するための十分な厚みを得やすいため好ましく、さらに好ましくは100g/m2以上である。目付の上限値は特に限定されないが、接合強度と複合プリプレグの製造し易さの観点から、好ましくは500g/m2以下である。ここで、目付とは、単位面積とする1m2あたりに含まれるその材料の質量[g]を指す。
【0051】
また、ストランド状のプリプレグにおける強化繊維の目付は、1~2,000g/m2であることが好ましく、30~1,000g/m2であることがさらに好ましく、50~200g/m2であることがより好ましい。かかる範囲とすることで、複合プリプレグの接合強度と生産性に優れるために好ましい。
【0052】
ストランド状のプリプレグにおける強化繊維の質量含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。かかる範囲とすることで、熱硬化性樹脂の露出面積と強化繊維による補強効果とを両立でき、複合プリプレグの接合強度を向上させることが可能となるため好ましい。
【0053】
<プリフォーム、繊維強化複合材料接合体の製造方法>
本発明の他の側面は、互いにゲル化時間や発熱開始温度の異なる熱硬化性樹脂を含む第1のプリプレグと第2のプリプレグを、本発明の複合プリプレグを介在させることにより接合する繊維強化複合材料接合体の製造方法である。ここで、第1および第2のプリプレグは、互いにゲル化時間や発熱開始温度の異なる熱硬化性樹脂を含む限り特に限定されない。また、第1および第2のプリプレグは、いずれも上述の本発明の複合プリプレグとは別に用意されるものであるが、本発明の複合プリプレグの範疇に含まれるような構成のものであっても構わない。プリプレグ同士の接合強度の観点から、第1および第2のプリプレグの組み合わせは、介在させる複合プリプレグに用いられている熱硬化性樹脂(a)を含むプリプレグと、該複合プリプレグに用いられている熱硬化性樹脂(b)を含むプリプレグであることが好ましい。
【0054】
以下、熱硬化性樹脂(a)を含むプリプレグを第1のプリプレグ、熱硬化性樹脂(b)を含むプリプレグを第2のプリプレグとし、これらを本発明の複合プリプレグを用いて接合し、繊維強化複合材料接合体を得る場合について説明する。
【0055】
本発明の繊維強化複合材料接合体の製造方法においては、第1のプリプレグと複合プリプレグとを接合するための加熱と、第2のプリプレグと複合プリプレグとを接合するための加熱を、段階的または同時に行うことができる。
【0056】
かかる加熱を段階的に行う場合、まず、
図3に示すように、本発明の複合プリプレグ10の一方の面に第1のプリプレグ200を配置してプリフォーム100を作製し、加熱硬化させる。かかるプリフォームの加熱硬化における加熱時間を、熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間以上、熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間未満とする、あるいは、プリフォームの加熱硬化における加熱温度を、熱硬化性樹脂(a)の発熱開始温度以上、熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度未満とすることで、複合プリプレグに由来する熱硬化性樹脂(b)が未硬化状態で表面に存在する繊維強化複合材料(接合中間体)を得ることができる。そして、かかる繊維強化複合材料(接合中間体)の、第1のプリプレグを積層した面と反対の面に、さらに第2のプリプレグを積層し、加熱硬化させることで、繊維強化複合材料接合体を得ることができる(図示しない)。第2のプリプレグを積層した後の加熱硬化は、熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間以上、あるいは、熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度以上とする加熱成形とすることが好ましい。
【0057】
また、第1のプリプレグ200と複合プリプレグ10とを接合するための加熱と、第2のプリプレグと複合プリプレグ10とを接合するための加熱とを同時に行う場合は、例えば次のように行うことができる。すなわち、本発明の複合プリプレグの一方の面に熱硬化性樹脂(a)を含む第1のプリプレグを配置し、他方の面に熱硬化性樹脂(b)を含む第2のプリプレグを配置してなるプリフォームを作製し、加熱硬化させる。この加熱硬化を、熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間以上あるいは熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度以上で行うことで、一段階の加熱により、
図4に示すような、複合プリプレグの硬化物500を介して第1のプリプレグの硬化物600と第2のプリプレグの硬化物300とが接合されてなる繊維強化複合材料接合体400を得ることができる。
【0058】
上記のような製造方法により、本発明の複合プリプレグの硬化物を介して、熱硬化性樹脂(a)の硬化物と強化繊維とを含む繊維強化複合材料と、熱硬化性樹脂(b)の硬化物と強化繊維とを含む繊維強化複合材料とが接合された繊維強化複合材料接合体を得ることができる。このような繊維強化複合材料接合体は、接合強度に優れ、熱硬化性樹脂種の違いによる硬化収縮率差によるソリが抑えられている。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種特性の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0060】
<表中で用いた略称>
[強化繊維]
・CF-1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行って得た総単糸数1,000本の連続した炭素繊維。特性は下記の通り。
単繊維径:7μm
密度:1.8g/cm3
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
【0061】
[ストランド状プリプレグ]
・PPG-1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))を40質量部、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製))を60質量部、ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製))を10質量部投入し、加熱混練を行い、ポリエーテルスルホンを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製))を10質量部、4,4’-ジアミノジフェニルケトンを50質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-1)を得た。
【0062】
・PPG-2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))を40質量部、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製))を60質量部、ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製))を10質量部投入し、加熱混練を行い、ポリエーテルスルホンを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製))を47質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-2)を得た。
【0063】
・PPG-3
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))を40質量部、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製))を60質量部、ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製))を10質量部投入し、加熱混練を行い、ポリエーテルスルホンを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、4,4’-ジアミノジフェニルケトンを40質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-3)を得た。
【0064】
・PPG-4
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))を40質量部、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製))を60質量部、ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製))を10質量部投入し、加熱混練を行い、ポリエーテルスルホンを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、4,4’-ジアミノジフェニルホスフィン酸を40質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-4)を得た。
【0065】
・PPG-5
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))を100質量部、ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製))を10質量部投入し、加熱混練を行い、ポリエーテルスルホンを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製))を35質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-5)を得た。
【0066】
・PPG-6
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))100質量部を40℃で加熱混練し、これにジエチルトルエンジアミン(”Aradur”(登録商標)5200(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製))を26質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-6)を得た。
【0067】
・PPG-7
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))100質量部を40℃で加熱混練し、これに4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS、和歌山精化工業(株)製)を35質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-7)を得た。
【0068】
・PPG-8
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))100質量部を40℃で加熱混練し、これに3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DAS、三井化学ファイン(株)製)を35質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-8)を得た。
【0069】
・PPG-9
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))100質量部を40℃で加熱混練し、これに4,4’-ジアミノベンズアニリドを33質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-9)を得た。
【0070】
・PPG-10
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825(三菱ケミカル(株)製))100質量部を40℃で加熱混練し、これに4,4’-ジアミノジフェニルメタンを29質量部加えて撹拌し、得られた混練物をナイフコーターを用いて離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルム(目付50g/m2)を作製した。この熱硬化性樹脂フィルムを、炭素繊維CF-1を一方向に引き揃えた強化繊維ストランド(目付193g/m2)の両側に重ね合せ、ヒートロールを用いた加熱加圧により、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸させたストランド状プリプレグ(PPG-10)を得た。
【0071】
<評価方法>
(1)ゲル化時間の測定方法
ストランド状プリプレグに用いる前の熱硬化性樹脂フィルムから熱硬化性樹脂を取り出し、キュラストメーターによる回転トルクの経時変化からエポキシ樹脂組成物の硬化反応性を評価した。ここでは、Rubber Process Analyzer RPA2000(ALPHA TECHNOLOGIES社製)を用い、40℃から180℃まで1.7℃/minの速度で昇温し、180℃で2時間加熱した。ゲル化時間は、40℃の加熱開始時点からトルクが1dNmを超えるまでに要した時間とした。なお、複合プリプレグ自体から用いられている熱硬化性樹脂のゲル化時間を測定するにあたっては、複合プリプレグをストランド状プリプレグの状態に分離し、それぞれのストランド状プリプレグを40℃、5MPaで10分間加熱加圧することで強化繊維間からフローさせ抽出した熱硬化性樹脂を、上記キュラストメーターによる評価に用いる。
【0072】
(2)発熱開始温度の測定方法
ストランド状プリプレグに用いる前の熱硬化性樹脂フィルムから熱硬化性樹脂を取り出し、示差走査熱量分析計を用いて、発熱開始温度を評価した。ここでは、DSC Q2000(TAインスツルメント社製)を用い、40℃を開始温度とし5℃/minで測定した示差走査熱量分析チャートにおいて、発熱ピークの立ち上がり点(ベースラインから0.2W/g発熱した点)を発熱開始温度とした。なお、複合プリプレグ自体から用いられている熱硬化性樹脂の発熱開始温度を測定するにあたっては、複合プリプレグをストランド状プリプレグの状態に分離し、それぞれのストランド状プリプレグを40℃、5MPaで10分間加熱加圧することで強化繊維間からフローさせ抽出した熱硬化性樹脂を、上記示差走査熱量分析計による評価に用いる。
【0073】
(3)複合プリプレグの表面における領域(A)の割合の測定方法
複合プリプレグの表面において、面内方向に配置された全ての領域(A)と領域(B)の面積[mm2]を測定し、領域(A)の面積の総和を領域(A)と領域(B)の面積の総和で除した後100倍することで複合プリプレグの表面における領域(A)の割合[%]を求めた。
【0074】
(4)ゲル化時間差を利用した接合の評価方法
各実施例・比較例で作製した複合プリプレグを幅250mm、長さ12.5mmに切り出した。また、複合プリプレグに用いたストランド状プリプレグ(A’)を500本引き揃え一辺が300mm幅の正方形状となるように配列したものを4枚用意し、これを、ストランド状プリプレグ(A’)の配向が[0°/90°/90°/0°]の層構成となるように積層し、次いで、幅250mm、長さ92.5mmにカットして積層体を得た。ここでは前記長さ方向を0°とした。さらに、複合プリプレグと、プリプレグ(A’)からなる積層体とを、幅方向の両端と長さ方向の一端で揃うように配置し、プリフォームとした。かかるプリフォームを180℃にて、0.5MPaの圧力をかけて、熱硬化性樹脂(a)のゲル化時間の間加熱することで繊維強化複合材料とした。
【0075】
さらに複合プリプレグに用いたストランド状プリプレグ(B’)を500本引き揃え一辺が300mm幅の正方形状となるように配列したものを4枚用意し、これを、ストランド状プリプレグ(B’)の配向が[0°/90°/90°/0°]の層構成となるように積層し、次いで、幅250mm、長さ92.5mmにカットして積層体を得た。そして、かかるプリプレグ(B’)からなる積層体を、前記繊維強化複合材料とで、幅方向の両端と長さ方向の一端のうちプリプレグ(A’)からなる積層体を揃えた側とは反対側で揃うように、積層した。次いで、180℃にて、0.5MPaの圧力をかけて、熱硬化性樹脂(b)のゲル化時間の間加熱することで接合構造とした繊維強化複合材料とし、さらに幅方向の間隔が25mmとなるように切り出すことで試験片を作製した。
【0076】
得られた試験片を用い、ISO4587:1995(JIS K6850(1999))に基づいて接合強度を評価した。試験時の最大荷重を接合面積で除した値を接合強度[MPa]として、以下の3段階で評価し、goodおよびfairを合格とした。
good:接合強度が10MPa以上である。
fair:接合強度が3MPa以上、10MPa未満である。
bad:接合強度が3MPa未満である。
【0077】
(5)発熱開始温度差を利用した接合の評価方法
各実施例・比較例で作製した複合プリプレグを幅250mm、長さ12.5mmに切り出した。また、複合プリプレグに用いたストランド状プリプレグ(A’)を500本引き揃え一辺が300mm幅の正方形状となるように配列したものを4枚用意し、これを、ストランド状プリプレグ(A’)の配向が[0°/90°/90°/0°]の層構成となるように積層し、次いで、幅250mm、長さ92.5mmにカットして積層体を得た。ここでは前記長さ方向を0°とした。さらに、複合プリプレグと、プリプレグ(A’)からなる積層体とを、幅方向の両端と長さ方向の一端で揃うように配置し、プリフォームとした。かかるプリフォームを熱硬化性樹脂(a)の発熱開始温度にて、0.5MPaの圧力をかけて、10分間加熱することで繊維強化複合材料とした。
【0078】
さらに複合プリプレグに用いたストランド状プリプレグ(B’)を500本引き揃え一辺が300mm幅の正方形状となるように配列したものを4枚用意し、これを、ストランド状プリプレグ(B’)の配向が[0°/90°/90°/0°]の層構成となるように積層し、次いで、幅250mm、長さ92.5mmにカットして積層体を得た。そして、かかるプリプレグ(B’)からなる積層体を、前記繊維強化複合材料とで、幅方向の両端と長さ方向の一端のうちプリプレグ(A’)からなる積層体を揃えた側とは反対側で揃うように、積層した。次いで、熱硬化性樹脂(b)の発熱開始温度にて、0.5MPaの圧力をかけて、120分間の間加熱することで接合構造とした繊維強化複合材料とし、さらに幅方向の間隔が25mmとなるように切り出すことで試験片を作製した。
【0079】
得られた試験片を用い、ISO4587:1995(JIS K6850(1999))に基づいて接合強度を評価した。試験時の最大荷重を接合面積で除した値を接合強度[MPa]として、以下の3段階で評価し、goodおよびfairを合格とした。
good:接合強度が10MPa以上である。
fair:接合強度が3MPa以上、10MPa未満である。
bad:接合強度が3MPa未満である。
【0080】
[実施例1]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-1を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-2を用いた。
図2に示すように、一方向に引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(A’)とそれに直交する方向に繊維配向するように引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(B’)とを交互に織り込んで、複合プリプレグの表面における領域(A)と領域(B)の分布がパッチワーク状になるように平織織物とし、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-1を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-2を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0082】
[実施例3]
ストランド状プリプレグ(A’)の使用比率を2倍にし、ストランド状プリプレグ(A’)2本とストランド状プリプレグ(B’)1本とを交互に配置させた以外は、実施例2と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
[実施例4]
ストランド状プリプレグ(A’)をPPG-1からPPG-3に代えた以外は、実施例1と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
[実施例5]
ストランド状プリプレグ(A’)をPPG-1からPPG-4に代え、ストランド状プリプレグ(B’)をPPG-2からPPG-5に代えた以外は、実施例1と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
[比較例1]
ストランド状プリプレグ(B’)をPPG-2からPPG-1に代えた以外は、実施例1と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
ストランド状プリプレグ(A’)をPPG-1からPPG-2に代えた以外は、実施例1と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0087】
[比較例3]
ストランド状プリプレグ(B’)をPPG-2からPPG-1に代えた以外は、実施例2と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
[比較例4]
ストランド状プリプレグ(A’)をPPG-1からPPG-5に代えた以外は、実施例1と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(4)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
[実施例6]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-7を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0091】
[実施例7]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-8を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0092】
[実施例8]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-9を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-8を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0093】
[実施例9]
ストランド状プリプレグ(A’)の使用比率を2倍にし、ストランド状プリプレグ(A’)2本とストランド状プリプレグ(B’)1本とを交互に配置させた以外は、実施例8と同様に複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0094】
[比較例5]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-9を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0095】
[比較例6]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-10を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-6を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0096】
[比較例7]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-7を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-7を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0097】
[比較例8]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-6を用いた。
図1に示すように、それぞれ250本ずつのストランド状プリプレグ(A’)とストランド状プリプレグ(B’)とを交互に繰り返すように一方向に引き揃えて配置することで、複合プリプレグの表面において領域(A)と領域(B)がストライプ状に分布する、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0098】
[実施例10]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-7を用いた。
図2に示すように、一方向に引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(A’)とそれに直交する方向に繊維配向するように引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(B’)とを交互に織り込んで、複合プリプレグの表面における領域(A)と領域(B)の分布がパッチワーク状になるように平織織物とし、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0099】
[実施例11]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-8を用いた。
図2に示すように、一方向に引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(A’)とそれに直交する方向に繊維配向するように引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(B’)とを交互に織り込んで、複合プリプレグの表面における領域(A)と領域(B)の分布がパッチワーク状になるように平織織物とし、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0100】
[実施例12]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-9を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-8を用いた。
図2に示すように、一方向に引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(A’)とそれに直交する方向に繊維配向するように引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(B’)とを交互に織り込んで、複合プリプレグの表面における領域(A)と領域(B)の分布がパッチワーク状になるように平織織物とし、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0101】
[比較例9]
ストランド状プリプレグ(A’)としてPPG-6を用い、ストランド状プリプレグ(B’)としてPPG-6を用いた。
図2に示すように、一方向に引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(A’)とそれに直交する方向に繊維配向するように引き揃えた500本のストランド状プリプレグ(B’)とを交互に織り込んで、複合プリプレグの表面における領域(A)と領域(B)の分布がパッチワーク状になるように平織織物とし、1辺が300mmで正方形状の複合プリプレグを得た。得られた複合プリプレグについて、前記(5)項の方法にて評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0102】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の複合プリプレグは、航空機や自動車用の構造部材や準構造部材、ノートパソコンの筐体などの製造に際して接合を要する複雑な形状の製品に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0104】
1:領域(A)と領域(B)とが面内方向にストライプ状に分布してなる複合プリプレグ
2:熱硬化性樹脂(a)
3:ストランド状プリプレグ(A’)に含まれる強化繊維
4:熱硬化性樹脂(b)
5:ストランド状プリプレグ(B’)に含まれる強化繊維
6:領域(A)
7:領域(B)
8:プリプレグ表面における領域(A)
9:プリプレグ表面における領域(B)
10:プリプレグ表面における領域(A)と領域(B)とが面内方向にパッチワーク状に分布してなる複合プリプレグ
11:熱硬化性樹脂(a)の硬化物
12:熱硬化性樹脂(a)の硬化物中に含まれる強化繊維
13:熱硬化性樹脂(b)の硬化物
14:熱硬化性樹脂(b)の硬化物中に含まれる強化繊維
100:複合プリプレグ10の一方の面に第1のプリプレグ200を配置してなるプリフォーム
200:熱硬化性樹脂(a)を含む第1のプリプレグ
300:熱硬化性樹脂(b)を含む第2のプリプレグの硬化物
400:複合プリプレグを介して第1のプリプレグと第2のプリプレグとが接合・硬化された繊維強化複合材料接合体
500:プリプレグ表面における領域(A)と領域(B)とが面内方向にパッチワーク状に分布してなる複合プリプレグの硬化物
600:熱硬化性樹脂(a)を含む第1のプリプレグの硬化物