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  • -ハイブリッド車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20241217BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241217BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20241217BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20241217BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241217BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241217BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241217BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20241217BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/48 ZHV
B60K6/52
B60K6/54
B60W10/10 900
B60W10/02 900
B60L50/16
F16H61/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021003133
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022108220
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 幸将
(72)【発明者】
【氏名】西宇 正弘
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088577(WO,A1)
【文献】特開2017-227272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 50/16
F16H 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動力源としてのエンジン及び回転電機と、前記走行用駆動力源と一対の駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた機械式オイルポンプと、前記動力伝達経路のうちの前記機械式オイルポンプと前記一対の駆動輪との間に設けられ且つ前記機械式オイルポンプから圧送された油圧を元圧として作動する油圧式クラッチと、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、
車両走行中における前記制御装置の再起動中は、前記機械式オイルポンプの駆動が維持されるように前記油圧式クラッチの係合状態を維持し、且つ、前記油圧式クラッチと前記一対の駆動輪との間に設けられた自動変速機の変速比を前記機械式オイルポンプが駆動される回転速度が車速に対して低くなりすぎることを抑制するように予め設定された所定の変速比になるように制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとそのエンジンに連結された回転電機とを備えるハイブリッド車両の、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突検出時にはバッテリから回転電機への電力供給を遮断することで安全性を確保し、その衝突のダメージが小さいと判断した場合には回転電機への電力供給を復帰させる技術が開示されている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両の制御装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-306749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行用駆動力源としてエンジンと回転電機とを備えるハイブリッド車両の場合、車両の衝突時には車両の制御装置の再起動を実行してエンジンへの燃料供給の停止及び回転電機への電力供給の遮断を行うことが想定される。しかし、ハイブリッド車両の動力伝達経路に機械式オイルポンプ及びその機械式オイルポンプから圧送された油圧を元圧として作動する油圧式クラッチを備える場合、制御装置の再起動中に機械式オイルポンプの駆動が停止してしまい、制御装置の再起動が完了して復帰しても機械式オイルポンプが圧送する油圧を速やかに上昇させることができず、制御装置の再起動後における駆動走行の開始が遅れる可能性がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、制御装置の再起動後における駆動走行の開始の遅れを抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、走行用駆動力源としてのエンジン及び回転電機と、前記走行用駆動力源と一対の駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた機械式オイルポンプと、前記動力伝達経路のうちの前記機械式オイルポンプと前記一対の駆動輪との間に設けられ且つ前記機械式オイルポンプから圧送された油圧を元圧として作動する油圧式クラッチと、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、車両走行中における前記制御装置の再起動中は、前記機械式オイルポンプの駆動が維持されるように前記油圧式クラッチの係合状態を維持し、且つ、前記油圧式クラッチと前記一対の駆動輪との間に設けられた自動変速機の変速比を前記機械式オイルポンプが駆動される回転速度が車速に対して低くなりすぎることを抑制するように予め設定された所定の変速比になるように制御することにある。
【発明の効果】
【0007】
第1発明のハイブリッド車両の制御システムによれば、車両走行中における前記制御装置の再起動中は、前記機械式オイルポンプの駆動が維持されるように前記油圧式クラッチの係合状態が維持される。油圧式クラッチの係合状態が維持されることで、一対の駆動輪から入力される被駆動力により機械式オイルポンプの駆動が維持される。これにより、油圧式クラッチが解放されて機械式オイルポンプの駆動が維持されない場合に比較して、機械式オイルポンプが圧送する油圧が低下することが抑制され、制御装置の再起動後における駆動走行の開始の遅れを抑制できる。
また、車両走行中における前記制御装置の再起動中は、前記油圧式クラッチと前記一対の駆動輪との間に設けられた自動変速機の変速比が前記機械式オイルポンプが駆動される回転速度が車速に対して低くなりすぎることを抑制するように予め設定された所定の変速比になるように制御される。自動変速機の変速比が所定の変速比になるように制御されることで、機械式オイルポンプが駆動される回転速度が車速に対して低くなりすぎることが抑制され、機械式オイルポンプが圧送する油圧が低下することが抑制されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る電子制御装置を備えるハイブリッド車両の概略構成図であるとともに、ハイブリッド車両における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
図2図1に示す電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0011】
図1は、本発明の実施例に係る電子制御装置80を備えるハイブリッド車両10の概略構成図であるとともに、ハイブリッド車両10における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
【0012】
ハイブリッド車両10(以下、単に「車両10」と記す。)は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)を基本とする四輪駆動方式のハイブリッド車両(HV-4WD)であって、一対の前輪32を駆動する前輪駆動系と、一対の後輪52を駆動する後輪駆動系と、を備える。車両10の前輪駆動系は、エンジン12、連結軸22、クラッチK0、第1回転電機MG1、発進クラッチWSC、AT入力軸26、自動変速機18、AT出力軸28、前輪用ディファレンシャルギヤ40、及び一対の前輪用車軸30などを備える。クラッチK0、第1回転電機MG1、発進クラッチWSC、及び自動変速機18は、ケース20内に収容されている。車両10の後輪駆動系は、第2回転電機MG2、後輪用ディファレンシャルギヤ54、及び一対の後輪用車軸50などを備える。また、車両10は、電動オイルポンプEOP、油圧制御回路44、第1インバータ60、第2インバータ62、メインバッテリ70、システムメインリレー72、電力線対74、補機バッテリ76、DC/DCコンバータ78、及び電子制御装置80を備える。なお、エンジン12及び第1回転電機MG1は車両10の走行用駆動力源であって、その走行用駆動力源から一対の前輪32に走行用駆動力が伝達される経路が動力伝達経路PTである。
【0013】
エンジン12は、周知の内燃機関である。エンジン12は、電子制御装置80によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置68が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクが制御される。なお、本明細書では、特に区別しない場合には、トルク及び駆動力は同義である。
【0014】
第1回転電機MG1は、所謂モータジェネレータであって、例えば三相同期モータジェネレータである。なお、第1回転電機MG1は、本発明における「回転電機」に相当する。
【0015】
エンジン12に連結された連結軸22と、第1回転電機MG1のロータに連結された第1ロータ軸24と、の間にはクラッチK0が設けられている。クラッチK0は、エンジン12と第1ロータ軸24との間での動力伝達を断接可能なクラッチであり、例えば湿式多板型の油圧式摩擦係合装置である。
【0016】
第1回転電機MG1は、メインバッテリ70に蓄えられた電力により回転駆動され、車両10の走行用駆動力を出力する。また、第1回転電機MG1は、エンジン12からクラッチK0を介して入力される駆動力により発電したり、一対の前輪32から入力される被駆動力を回生により電力に変換して発電したりする。それら発電された電力は、第1インバータ60、電力線対74、及びシステムメインリレー72を介してメインバッテリ70に充電される。
【0017】
第1インバータ60は、第1回転電機MG1と電力線対74との間、且つ、電動オイルポンプEOPと電力線対74との間、に設けられ、電子制御装置80によって制御されることにより直流を交流に変換したり交流を直流に変換したりする電源回路である。例えば、第1インバータ60は、メインバッテリ70から電力線対74に供給されている直流を三相交流に変換して第1回転電機MG1に出力して駆動したり、第1回転電機MG1で発電された三相交流を直流に変換して電力線対74に出力したりする。また、第1インバータ60は、メインバッテリ70から電力線対74に供給されている直流を三相交流に変換して電動オイルポンプEOPを駆動する。例えば、電動オイルポンプEOPは、EOP駆動用モータ例えば三相同期モータの回転により駆動可能な周知のオイルポンプである。
【0018】
自動変速機18は、周知の自動変速機であり、電子制御装置80により制御される油圧制御回路44によって異なる変速比γのうちから所望の変速比が形成されるように制御される。
【0019】
発進クラッチWSCは、動力伝達経路PTのうちの自動変速機18の入力軸であるAT入力軸26と第1ロータ軸24との間に設けられ、動力伝達経路PTにおける動力伝達を断接可能な油圧式クラッチであり、例えば湿式多板型の油圧式摩擦係合装置である。なお、発進クラッチWSCは、本発明における「油圧式クラッチ」に相当する。自動変速機18の出力軸であるAT出力軸28は、前輪用ディファレンシャルギヤ40及び一対の前輪用車軸30を介して一対の前輪32に連結されている。なお、一対の前輪32は、本発明における「一対の駆動輪」に相当する。
【0020】
第2回転電機MG2は、第1回転電機MG1と同様に所謂モータジェネレータであって、例えば三相同期モータジェネレータである。第2回転電機MG2のロータに連結された第2ロータ軸48は、後輪用ディファレンシャルギヤ54及び一対の後輪用車軸50を介して一対の後輪52に連結されている。
【0021】
第2回転電機MG2は、メインバッテリ70に蓄えられた電力及び第1回転電機MG1により発電された電力の少なくとも一方により回転駆動され、車両10の走行用駆動力を出力する。また、第2回転電機MG2は、一対の後輪52から入力される被駆動力を回生により電力に変換して発電する。その発電された電力は、第2インバータ62、電力線対74、及びシステムメインリレー72を介してメインバッテリ70に充電される。
【0022】
第2インバータ62は、第2回転電機MG2と電力線対74との間に設けられ、電子制御装置80によって制御されることにより直流を交流に変換したり交流を直流に変換したりする電源回路である。
【0023】
メインバッテリ70は、充放電可能な二次電池であって、主に第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2を駆動するための電力を放電(供給)したり、回生により第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2で発電された電力を充電したりするのに用いられる。補機バッテリ76は、充放電可能な二次電池であって、主に補機(エンジン制御装置68や各種センサ、スイッチなど)へ電力を供給するために用いられる。用途の相違から、補機バッテリ76は、メインバッテリ70に比較して最大限蓄電可能な電池の容量である充電容量[mAh]が小さい。また、メインバッテリ70は、補機バッテリ76に比較してバッテリ電圧が高くされている。例えば、補機バッテリ76のバッテリ電圧が12[V]であるのに対して、メインバッテリ70のバッテリ電圧はそれよりも高電圧である。
【0024】
メインバッテリ70は、システムメインリレー72を介して電力線対74に接続されている。システムメインリレー72は、電子制御装置80によって接続状態と開放状態とが切り替えられる例えばメカニカルリレーであって、メインバッテリ70と電力線対74との間において正極線及び負極線の各々に設けられている。
【0025】
DC/DCコンバータ78は、電力線対74と補機バッテリ76との間に設けられ、直流を昇圧したり降圧したりする電源回路である。例えば、DC/DCコンバータ78は、電力線対74の直流電圧を降圧してその直流電圧よりも低電圧の直流を補機バッテリ76に充電したり、補機バッテリ76から供給されている直流を昇圧して補機バッテリ76よりも高電圧の直流を電力線対74に出力したりする。
【0026】
車両10においては、エンジン12のみを作動させて走行用駆動力を出力させるエンジン走行モード、エンジン12及び第1回転電機MG1から走行用駆動力を出力させるHV走行モード、及びエンジン12を運転停止させた状態で第1回転電機MG1を力行制御することにより走行用駆動力を出力させるEV走行モードが選択可能である。エンジン走行モード及びHV走行モードは、一般に高要求駆動力すなわち高負荷の領域で選択される。EV走行モードは、一般に低要求駆動力すなわち低負荷の領域で選択される。なお、HV走行モード及びEV走行モードにおいて、それぞれ第2回転電機MG2が走行用駆動力源として補助的に用いられても良い。
【0027】
第1ロータ軸24には、機械式オイルポンプMOPが配設されている。機械式オイルポンプMOPは、動力伝達経路PTのうちの第1ロータ軸24における第1回転電機MG1と発進クラッチWSCとの間に設けられている。機械式オイルポンプMOPは、第1回転電機MG1による回転駆動が可能であるとともに、クラッチK0が係合されることによってエンジン12による回転駆動も可能である。電動オイルポンプEOP及び機械式オイルポンプMOPの少なくとも一方が駆動されることで、油圧制御回路44にオイルが圧送される。このオイルは、例えばATF(Automatic Transmission Fluid)等である。
【0028】
油圧制御回路44は、機械式オイルポンプMOPや電動オイルポンプEOPから圧送されたオイルの油圧を元圧として、ケース20内の各部に必要なオイル(作動油)を供給する。例えば、油圧制御回路44内には、不図示の電磁弁SC1,SC2及び不図示の複数の電磁弁SLが設けられている。
【0029】
電磁弁SC1の駆動電流が制御されることによりクラッチK0の断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給される作動油圧が調整されてクラッチK0の断接状態が制御される。例えば、電磁弁SC1の駆動電流がオフ(駆動電流が流れない状態)とされることでクラッチK0が解放状態とされ、電磁弁SC1の駆動電流がオン(駆動電流が流れる状態)とされることでクラッチK0が係合状態とされる。電磁弁SC2の駆動電流が制御されることにより発進クラッチWSCの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給される作動油圧が調整されて発進クラッチWSCの断接状態が制御される。例えば、電磁弁SC2の駆動電流がオフとされることで発進クラッチWSCが解放状態とされ、電磁弁SC2の駆動電流がオンとされることで発進クラッチWSCが係合状態とされる。また、電磁弁SLの各駆動電流のオン/オフの組み合わせが制御されることにより自動変速機18に設けられた不図示のブレーキやクラッチの断接状態を制御する各油圧アクチュエータに供給される作動油圧が調整されて、自動変速機18は、ニュートラル状態にされたり所望の変速比が形成されたりする。
【0030】
電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。なお、電子制御装置80は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0031】
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば、アクセル開度センサ90、エンジン回転速度センサ92、出力軸回転速度センサ94など)による検出値に基づく各種信号等(例えば、ドライバーによる加速操作の大きさを表す加速操作量としてのアクセル開度θacc[%]、エンジン回転速度Ne[rpm]、車速V[km/h]に対応するAT出力軸28の回転速度である出力軸回転速度Nout[rpm]など)が、それぞれ入力される。
【0032】
電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えば、エンジン制御装置68、第1インバータ60、第2インバータ62、油圧制御回路44、DC/DCコンバータ78、システムメインリレー72など)に各種指令信号(例えば、エンジン12を制御するためのエンジン制御信号Se、第1インバータ60を介して第1回転電機MG1及び電動オイルポンプEOPをそれぞれ回転制御するためのMG1制御信号Smg1及びEOP制御信号Seop、第2インバータ62を介して第2回転電機MG2を回転制御するためのMG2制御信号Smg2、自動変速機18の変速制御,クラッチK0の断接制御,発進クラッチWSCの断接制御を実行するための油圧制御信号Sp、DC/DCコンバータ78の電圧変換を制御するためのコンバータ制御信号Scon、システムメインリレー72の開閉を制御するためのリレー制御信号Ssmrなど)が、それぞれ出力される。
【0033】
電子制御装置80は、例えばアクセル開度θaccと車速Vとに基づいて、AT出力軸28及び第2ロータ軸48に出力すべきそれぞれのトルク目標値である要求トルクを計算する。この要求トルクに対応するトルクがAT出力軸28及び第2ロータ軸48に出力されるように、エンジン12、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、自動変速機18、クラッチK0、及び発進クラッチWSCがそれぞれ制御される。
【0034】
ところで、例えば車両10の衝突時には、車両10の電子制御装置80の再起動が実行されてエンジン12への燃料供給の停止及び第1回転電機MG1への電力供給の遮断が行われる場合がある。
【0035】
図1に戻り、電子制御装置80は、再起動判定部80a、状態設定部80b、復帰判定部80c、及びエンジン始動制御部80dを機能的に備える。
【0036】
再起動判定部80aは、車両走行中において電子制御装置80が再起動中であるか否かを判定する。「再起動」とは、電子制御装置80を起動しなおすこと、すなわち電子制御装置80内のCPUを再び初期状態に戻すことである。具体的には、CPUの論理回路の値を初期値に設定しなおすことである。「再起動中」とは、電子制御装置80において再起動の動作が進行中と同義である。
【0037】
再起動判定部80aにより電子制御装置80が再起動中であることが判定された場合には、状態設定部80bは、エンジン12への燃料供給を停止し、システムメインリレー72を開放し、発進クラッチWSCの係合状態を維持し、且つ自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御する。所定の変速比γ0は、所定の値であって、電子制御装置80が再起動中の惰性走行において機械式オイルポンプMOPが駆動される回転速度(すなわち第1ロータ軸24の回転速度)が車速Vに対して低くなりすぎることを抑制して機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することを抑制するために、予め実験的に或いは設計的に定められた値である。好適には、所定の変速比γ0は、中高速走行用の変速比とされる。なお、エンジン12への燃料供給の停止、システムメインリレー72の開放、発進クラッチWSCの係合状態の維持、及び自動変速機18の変速比γの所定の変速比γ0への設定は、電子制御装置80の再起動中における予め定められた車両状態である。
【0038】
例えば、電子制御装置80が再起動中ではない正常状態で動作している場合においてエンジン制御信号Se、リレー制御信号Ssmr、油圧制御信号Spを出力する不図示の論理回路があるとすると、状態設定部80bは、(a)前記論理回路に優先して、エンジン12への燃料供給を停止するエンジン制御信号Se及びシステムメインリレー72を開放するリレー制御信号Ssmrを強制的に出力し、(b)前記論理回路に優先して、発進クラッチWSCの係合状態を維持し且つ自動変速機18の変速比γを所定の変速比γ0にするための油圧制御信号Spを強制的に出力する。
【0039】
例えば、状態設定部80bが出力する油圧制御信号Spにより、電磁弁SC1の駆動電流がオフとされることでクラッチK0が解放状態とされ、電磁弁SC2の駆動電流がオンとされることで発進クラッチWSCが係合状態とされる。また、この油圧制御信号Spで設定される電磁弁SLの各駆動電流のオン/オフの組み合わせにより自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御される。
【0040】
状態設定部80bの制御により、エンジン12及び第1回転電機MG1は走行用駆動力を出力せず、車両10は惰性走行の状態とされる。車両10が惰性走行中において、発進クラッチWSCの係合状態が維持され且つ自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御されるため、一対の前輪32から入力される被駆動力により機械式オイルポンプMOPの駆動が維持される。機械式オイルポンプMOPの駆動の維持により、機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することが抑制される。
【0041】
再起動判定部80aにより電子制御装置80が再起動中であることが判定された場合には、復帰判定部80cは、電子制御装置80の再起動が完了して復帰状態となったか否かを判定する。復帰状態とは、再起動により電子制御装置80内のCPUが再び初期状態に戻され、正常に動作する状態(正常状態)となった状態である。
【0042】
復帰判定部80cにより電子制御装置80が復帰状態となったことが判定された場合には、エンジン始動制御部80dは、エンジン12の始動制御を実行する。具体的には、エンジン始動制御部80dは、以下のようにエンジン12の始動制御を実行する。
【0043】
エンジン始動制御部80dは、車速Vが所定のエンジン始動可能車速値V_jdg[km/h]以上であるか否かを判定する。所定のエンジン始動可能車速値V_jdgは、第1回転電機MG1を回転駆動しなくてもクラッチK0を係合状態とすることで一対の前輪32から入力される被駆動力によるクランキングでエンジン12を始動できる、予め実験的に或いは設計的に定められた値である。
【0044】
車速Vが所定のエンジン始動可能車速値V_jdg以上である場合には、エンジン始動制御部80dは、クラッチK0を係合させてエンジン12を始動する。これにより、車両10はエンジン走行モードにより走行が継続される。なお、電子制御装置80の再起動中において機械式オイルポンプMOPの駆動が維持されて機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することが抑制されているため、クラッチK0が速やかに係合されてエンジン12が始動される。そのため、走行用駆動力源であるエンジン12から出力される走行用駆動力による駆動走行の開始の遅れが抑制される。
【0045】
車速Vが所定のエンジン始動可能車速値V_jdg未満である場合には、例えばエンジン始動制御部80dは、エンジン12を始動しない。したがって、走行用駆動力源から出力される走行用駆動力による駆動走行が停止されたReadyOFF状態とされ、車両10が停止するまで惰性走行が継続される。
【0046】
図2は、図1に示す電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。図2のフローチャートは、車両走行中に繰り返し実行される。
【0047】
まず、再起動判定部80aの機能に対応するステップS10において、車両走行中において電子制御装置80で再起動が発生したか否かすなわち再起動中であるか否かが判定される。ステップS10の判定が肯定された場合は、ステップS20が実行される。ステップS10の判定が否定された場合は、リターンとなる。
【0048】
状態設定部80bの機能に対応するステップS20において、車両10が電子制御装置80の再起動中における車両状態に設定される。具体的には、エンジン12が停止され、システムメインリレー72が開放されて第1回転電機MG1の回転駆動が停止される。また、発進クラッチWSCの係合状態が維持され且つ自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御される。そしてステップS30が実行される。
【0049】
復帰判定部80cの機能に対応するステップS30において、電子制御装置80が復帰状態となったか否かが判定される。ステップS30の判定が肯定された場合は、ステップS40が実行される。ステップS30の判定が否定された場合は、再度ステップS30が実行される。
【0050】
エンジン始動制御部80dの機能に対応するステップS40において、車速Vが所定のエンジン始動可能車速値V_jdg以上であるか否かが判定される。ステップS40の判定が肯定された場合は、ステップS50が実行される。ステップS40の判定が否定された場合は、ステップS80が実行される。
【0051】
エンジン始動制御部80dの機能に対応するステップS50において、クラッチK0が係合状態とされる。そして、エンジン始動制御部80dの機能に対応するステップS60において、エンジン12の始動が行われる。そして、ステップS70において、エンジン走行モードにより車両10の走行が継続される。そしてリターンとなる。
【0052】
エンジン始動制御部80dの機能に対応するステップS80において、ReadyOFF状態とされて駆動走行が停止される。そしてリターンとなる。
【0053】
本実施例によれば、車両走行中における電子制御装置80の再起動中は、機械式オイルポンプMOPの駆動が維持されるように発進クラッチWSCの係合状態が維持される。発進クラッチWSCの係合状態が維持されることで、一対の前輪32から入力される被駆動力により機械式オイルポンプMOPの駆動が維持される。これにより、発進クラッチWSCが解放されて機械式オイルポンプMOPの駆動が維持されない場合に比較して、機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することが抑制され、電子制御装置80の再起動後における駆動走行の開始の遅れを抑制できる。
【0054】
本実施例によれば、車両走行中における電子制御装置80の再起動中は、発進クラッチWSCと一対の前輪32との間に設けられた自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御される。自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御されることで、機械式オイルポンプMOPが駆動される回転速度(第1ロータ軸24の回転速度と同値)が車速Vに対して低くなりすぎることが抑制され、機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することが抑制されやすくなる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
前述の実施例では、車両10は、エンジン12を始動するためにクラッチK0を介さずにエンジン12を直接的にクランキングするスターターモータを備えていなかったが、スターターモータを備えた構成であっても良い。このような態様においてもスターターモータが何らかの不具合で使用できない場合には、本発明が適用されることにより機械式オイルポンプMOPが圧送する油圧が低下することが抑制され、電子制御装置80の再起動後における駆動走行の開始の遅れを抑制できる。
【0057】
前述の実施例では、車両10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)を基本とする四輪駆動方式のハイブリッド車両であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、車両10は、RR(リヤエンジン・リヤドライブ)を基本とする四輪駆動方式のハイブリッド車両でも良く、また、前述の実施例の車両10において第2回転電機MG2、第2ロータ軸48、及び第2インバータ62が備えられていない二輪駆動方式のハイブリッド車両であっても良い。
【0058】
前述の実施例では、車両10には、第1インバータ60及び第2インバータ62と、システムメインリレー72及びDC/DCコンバータ78と、の間の電力線対74上に直流を昇圧したり降圧したりする昇圧コンバータが設けられていなかったが、昇圧コンバータが設けられた態様であっても良い。
【0059】
前述の実施例では、車両走行中における電子制御装置80の再起動中は、自動変速機18の変速比γが所定の変速比γ0になるように制御されたが、この態様に限らない。例えば、車両走行中における電子制御装置80の再起動中は、自動変速機18がニュートラル状態とされ且つ自動変速機18を迂回したギヤ機構が接続される構成であっても良い。
【0060】
前述の実施例では、車速Vが所定のエンジン始動可能車速値V_jdg以上であるか否かが判定されたが、これは、例えば車速Vに対応するAT出力軸28の回転速度、AT入力軸26の回転速度、及び第1ロータ軸24の回転速度のいずれかが所定のエンジン始動可能車速値V_jdgに対応した回転速度値以上であるか否かが判定されることと同義である。
【0061】
前述の実施例では、エンジン12、第1インバータ60、第2インバータ62、及び油圧制御回路44を制御するのは電子制御装置80であったが、電子制御装置80は、必要に応じてエンジン12を制御するエンジン制御用ECU(Electronic Control Unit)、第1インバータ60を制御する第1インバータ制御用ECU、第2インバータ62を制御する第2インバータ制御用ECU、及び油圧制御回路44を制御する動力伝達制御用ECUのそれぞれに分割された構成であっても良い。
【0062】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン
32:一対の前輪(一対の駆動輪)
80:電子制御装置(制御装置)
MG1:第1回転電機(回転電機)
MOP:機械式オイルポンプ
PT:動力伝達経路
WSC:発進クラッチ(油圧式クラッチ)
図1
図2