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特許7604911ポリエチレン樹脂組成物、成形体及び容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリエチレン樹脂組成物、成形体及び容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20241217BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L23/06
C08L23/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021009421
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022016268
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020118448
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】安田 薫
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055871(JP,A)
【文献】特開2009-018868(JP,A)
【文献】特開2005-320526(JP,A)
【文献】特開平06-016880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/06
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、下記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、及び下記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有し、下記の特性(1)~()を満足するポリエチレン樹脂組成物。
ポリエチレン成分(A);
特性(a1):温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が0.7g/10分以上、10.0g/10分以下であり、
特性(a2):密度が0.915g/cm以上、0.945g/cm以下であるポリエチレン。
ポリエチレン成分(B);
特性(b1):温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が5.0g/10分以上、50.0g/10分以下であり、
特性(b2):密度が0.950g/cm以上、0.980g/cm以下であるポリエチレン。
特性(1):MFRが1.0g/10分より大きく、5.0g/10分以下である。
特性(2):HLMFRが30g/10分以上、300g/10分以下である。
特性(3):MFRに対するHLMFRの比であるメルトフローレート比(HLMFR/MFR)が10以上、60以下である。
特性(4):密度が0.940g/cm以上、0.965g/cm以下である。
特性(5):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量(Mn)が8,600以上、重量平均分子量(Mw)が91,000以上である。
特性(6):GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数を用いて下記式で求められる分岐数指標が2.34以上である。
[分岐数指標]=
[分子量5万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X5万
+[分子量10万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X10万
+[分子量20万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X20万
+[分子量30万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X30万
+[分子量40万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X40万
ここで、
[X5万]=[分子量5万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X10万]=[分子量10万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X20万]=[分子量20万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X30万]=[分子量30万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X40万]=[分子量40万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]=[(分子量5万の重量分率)+(分子量10万の重量分率)+(分子量20万の重量分率)+(分子量30万の重量分率)+(分子量40万の重量分率)]
特性(7):引張衝撃強度が130kJ/m 以上である。
特性(8):引張衝撃強度(TIS)(単位:kJ/m )とHLMFR(単位:g/10分)とが下記式(1)で示される関係を満たす。
TIS≧1560×HLMFR -0.55 ・・式(1)
【請求項2】
請求項に記載のポリエチレン樹脂組成物を用いて作成された成形体。
【請求項3】
請求項に記載のポリエチレン樹脂組成物を用いて作成された容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂組成物、並びに、当該ポリエチレン樹脂組成物を含む成形体及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンの中空成形、射出成形、インフレーション成形、押出成形においては、一般に成形加工性、及び物性の良好な材料が求められている。特に化粧品容器、洗剤、シャンプー及びリンス用容器、或いは食用油等の食品用容器等として一般的に使用されている中空ボトルには、成形加工性、物理的特性及び化学的特性に優れたポリエチレン樹脂が広く用いられている。
近年では、生産性向上のための成形サイクル短縮や、低コスト、環境負荷低減などのための容器の薄肉軽量化の動きが顕著であり、材料の成形性、剛性、耐環境応力亀裂性及び衝撃強度をより高度にバランス良くさせることが求められている。
【0003】
中空成形の分野において、特に射出延伸ブロー容器の分野において、機械特性、熱特性及び耐薬品性等を示す材料が種々検討されており、ポリオレフィン、中でもポリエチレン樹脂が広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、密度が0.940~0.968g/cm、MFRが0.3~10g/10分、流動比が15以上、30未満であるエチレン単独重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体又はこれらのブレンド物を含むことを特徴とする、衝撃強度、剛性等の一般特性のほかに、表面光沢、表面平滑性に優れる射出延伸ブロー成形用ポリエチレン系樹脂が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載されたポリエチレン系樹脂は、チーグラー触媒による低圧法、フィリップス法等の中圧法等により得られる密度0.940~0.968g/cmの高密度ポリエチレン、又は密度0.925g/cm以下の高圧法ポリエチレンを一成分として含有するポリエチレン系樹脂であり、衝撃強度等の物性等が不十分である恐れがある。
【0005】
また、特許文献2には、下記(A)から(E)の特性を有するエチレン単独重合体、又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体を射出延伸ブロー成形して得られた、均一な厚さを有し、容器全体が均一に優れた光沢性、及びクリーン性を有する容器が開示されている。
(A)190℃における2.16kg荷重でのメルトインデックス(MI2.16)が0.5~10g/10分
(B)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した分子量分布が3~6
(C)密度が0.935g/cm以上
(D)200℃、0.1rad/sのせん断速度下での粘度(η0.1 )が1,000Pa.sから20,000Pa.s
(E)200℃、100rad/sのせん断速度下での粘度(η100 )が300Pa.sから2,000Pa.s。
しかしながら、特許文献2に記載された重合体は、(ア)担体物質、(イ)有機アルミニウム化合物、(ウ)活性水素を有するボレート化合物、(エ)シクロペンタジエニル又は置換シクロペンタジエニル基とη結合したチタン化合物から調整された担持触媒を用いて、スラリー状態でエチレン単独、又はエチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと共重合させて得られるものであり、衝撃強度等の物性等が不十分である恐れがある。
【0006】
また、特許文献3には、(A)190℃における2.16kg荷重でのメルトインデックスが1~15g/10分、(B)流動比が10~14.5、(C)密度が0.961~0.973g/cmであることを特徴とする、高延伸倍率下での延伸ブロー成形が可能であり、成形されたボトルの表面光沢、及び座屈強度に優れた射出延伸ブロー成形用高密度ポリエチレン樹脂が開示されている。
しかしながら、特許文献3に記載された高密度ポリエチレン樹脂は、特定のチーグラー触媒、クロム触媒及び特定のメタロセン触媒等により調整されたエチレン系重合体であり、衝撃強度等の物性等が不十分である恐れがある。
【0007】
また、特許文献4には、射出延伸ブロー成形(ISBM)品であって、ASTM D-1238に従って190℃/2.16kgで測定した時に0.1から5.0dg/分のMI2を示し、ASTM D792で測定した時に0.940~0.970g/ccの密度を示し、40,000g/モル以上のピーク分子量を示しかつ15,000から250,000Pa・秒の範囲のゼロせん断粘度を示すHDPE樹脂を含有して成る品が開示されている。
しかしながら、当該HDPE樹脂であっても、衝撃強度等の物性等が不十分である恐れがある。
【0008】
そのため、本出願人は、中空成形性、高剛性、耐衝撃性等を有しながら、更なる高速成形ハイサイクル化を達成できる結晶化速度の速いポリエチレン材料等を見出し、先に、出願を行った(特許文献5~11)。特許文献5~7には、特定のポリエチレン60~90質量%に対し、Ti、Zr又はHfを含有するメタロセン系触媒を用いて重合され、HLMFR及び密度がそれぞれ特定の値であり、長鎖分岐構造を有する特定のエチレン系重合体10~40質量%を含有してなり、かつ、特定の特性を満足する容器用ポリエチレン樹脂組成物が開示されている。
特許文献8~10には、特定の3種類のポリエチレン成分を各々特定量含有し、特性(1)~(5)を満足するポリエチレン樹脂組成物が開示されている。
特性(1):MFRが0.1~1g/10分である。
特性(2):HLMFRが10~50g/10分である。
特性(3):HLMFR/MFRが50~140である。
特性(4):密度が0.940~0.965g/cmである。
特性(5):温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測される。
また、特許文献11には、特定のポリエチレン成分(A)を5質量%以上40質量%以下、特定のポリエチレン成分(B)を60質量%以上95質量%以下含有し、下記の特性(1)~(4)を満足するポリエチレン樹脂組成物が開示されている。
特性(1):MFRが0.1g/10分以上、1g/10分以下である。
特性(2):HLMFRが10g/10分以上、50g/10分以下である。
特性(3):MFRに対するHLMFRの比であるメルトフローレート比(HLMFR/MFR)が40以上140以下である。
特性(4):密度が0.950g/cm以上0.970g/cm以下である。
しかしながら、特許文献5~11に記載されたポリエチレン樹脂組成物はいずれも、成形体の耐衝撃性は高いものの、流動性が低く、押出工程時に樹脂温度が高くなりやすいため、成形サイクル全体の短縮化の実現には未だ問題があった。
また、本出願人は、特許文献12において、密度(D)が、0.900~0.975g/cmであり、メルトフローレート(MFR(D)、JIS K7210に準じて、温度190℃、荷重2.16kgにて測定される)が、0.05~1,000g/10分であるエチレン系重合体(D)10~90重量%に対して、各々特定の密度及びHLMFRを有する成分(A)及び成分(B)を多段重合してなるエチレン系重合体(C)90~10重量%を含有する薄肉容器用エチレン系重合体組成物を開示している。特許文献12に開示されたエチレン系重合体は、成形性、耐久性及び衝撃強度に優れるうえに、高分子量ゲルに由来する凹凸が生じにくく、外観に優れた成形品を製造することができるとされている。
しかしながら、製品に求められる要求性能は日々高まっており、特許文献12のエチレン系重合体よりも高い耐衝撃性が求められており、上記従来技術の問題点において更なる性能改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-194534号公報
【文献】特開平11-171923号公報
【文献】特開2000-86722号公報
【文献】特表2017-520477号公報
【文献】特開2013-204015号公報
【文献】特開2014-208749号公報
【文献】特開2014-208750号公報
【文献】特開2017-179256号公報
【文献】特開2017-179294号公報
【文献】特開2018-131571号公報
【文献】特開2017-186515号公報
【文献】特開2016-55871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点等に鑑み、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるポリエチレン樹脂組成物、及びそれを用いた成形体及び容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のポリエチレン成分(A)、及びポリエチレン成分(B)を特定量含有し、特定の特性を満足するポリエチレン樹脂組成物により、射出延伸ブロー成形性、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高いポリエチレン樹脂組成物及びそれよりなる成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、下記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、及び下記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有し、下記の特性(1)~(6)を満足するポリエチレン樹脂組成物である。
ポリエチレン成分(A);
特性(a1):温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が0.7g/10分以上、10.0g/10分以下であり、
特性(a2):密度が0.915g/cm以上、0.945g/cm以下であるポリエチレン。
ポリエチレン成分(B);
特性(b1):温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が5.0g/10分以上、50.0g/10分以下であり、
特性(b2):密度が0.950g/cm以上、0.980g/cm以下であるポリエチレン。
特性(1):MFRが1.0g/10分より大きく、5.0g/10分以下である。
特性(2):HLMFRが30g/10分以上、300g/10分以下である。
特性(3):MFRに対するHLMFRの比であるメルトフローレート比(HLMFR/MFR)が10以上、60以下である。
特性(4):密度が0.940g/cm以上、0.965g/cm以下である。
特性(5):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量(Mn)が8,600以上、重量平均分子量(Mw)が91,000以上である。
特性(6):GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数を用いて下記式で求められる分岐数指標が2.34以上である。
[分岐数指標]=
[分子量5万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X5万
+[分子量10万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X10万
+[分子量20万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X20万
+[分子量30万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X30万
+[分子量40万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X40万
ここで、
[X5万]=[分子量5万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X10万]=[分子量10万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X20万]=[分子量20万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X30万]=[分子量30万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X40万]=[分子量40万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]=[(分子量5万の重量分率)+(分子量10万の重量分率)+(分子量20万の重量分率)+(分子量30万の重量分率)+(分子量40万の重量分率)]
【0013】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、更に下記の特性(7)及び(8)を満足する前記のポリエチレン樹脂組成物が耐衝撃性の点から好ましい。
特性(7):引張衝撃強度が130kJ/m以上である。
特性(8):引張衝撃強度(TIS)(単位:kJ/m)とHLMFR(単位:g/10分)とが下記式(1)で示される関係を満たす。
TIS≧1560×HLMFR-0.55・・式(1)
【0014】
また、本発明の成形体は、前記本発明のポリエチレン樹脂組成物を用いて作成された成形体である。
【0015】
また、本発明の容器は、前記本発明のポリエチレン樹脂組成物を用いて作成された容器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリエチレンの射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるポリエチレン樹脂組成物及びそれを用いた成形体及び容器を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は典型的な伸長粘度のプロット図であり、伸長粘度の変曲点が観測される場合を説明する図である。
図2図2は典型的な伸長粘度のプロット図であり、伸長粘度の変曲点が観測されない場合を説明する図である。
図3図3は、実施例と比較例のポリエチレン樹脂組成物のHLMFRと引張衝撃強度(TIS)の関係を示す図である。
図4図4は、実施例と比較例のポリエチレン樹脂組成物のHLMFRと溶融張力(MT)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
I.ポリエチレン樹脂組成物
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、下記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、及び下記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有し、下記の特性(1)~(6)を満足することを特徴とする。
ポリエチレン成分(A);
特性(a1):温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が0.7g/10分以上、10.0g/10分以下であり、
特性(a2):密度が0.915g/cm以上、0.945g/cm以下であるポリエチレン。
ポリエチレン成分(B);
特性(b1):温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が5.0g/10分以上、50.0g/10分以下であり、
特性(b2):密度が0.950g/cm以上、0.980g/cm以下であるポリエチレン。
特性(1):温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分より大きく、5.0g/10分以下である。
特性(2):温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が30g/10分以上、300g/10分以下である。
特性(3):MFRに対するHLMFRの比であるメルトフローレート比(HLMFR/MFR)が10以上、60以下である。
特性(4):0.940g/cm以上、0.965g/cm以下である。
特性(5):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量(Mn)が8,600以上、重量平均分子量(Mw)が91,000以上である。
特性(6):GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数を用いて下記式で求められる分岐数指標が2.34以上である。
[分岐数指標]=
[分子量5万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X5万
+[分子量10万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X10万
+[分子量20万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X20万
+[分子量30万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X30万
+[分子量40万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X40万
ここで、
[X5万]=[分子量5万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X10万]=[分子量10万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X20万]=[分子量20万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X30万]=[分子量30万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X40万]=[分子量40万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]=[(分子量5万の重量分率)+(分子量10万の重量分率)+(分子量20万の重量分率)+(分子量30万の重量分率)+(分子量40万の重量分率)]
【0019】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、前記特定のポリエチレン成分(A)、及び前記ポリエチレン成分(B)を特定量含有し、前記特性(1)~(6)を満足することにより、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高く、外観に優れる成形体、容器を提供することができるという効果を奏する。
以下、本発明を、項目毎に、詳細に説明する。
なお、本発明において、ポリエチレンとは、エチレン単独重合体及びエチレンと後述のオレフィンとの共重合体の総称をいい、エチレン系重合体とも言い換えられる。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0020】
1.ポリエチレン樹脂組成物の構成
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、前記ポリエチレン成分(A)及び前記ポリエチレン成分(B)を各々特定量含有するものであり、前記特性(1)~(6)を同時に満足する。また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、前記特性(1)~(6)を同時に満足する範囲内であれば、当該エチレン系重合体に加えて更に後述する任意成分を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のポリエチレン樹脂組成物において、前記ポリエチレン成分(A)、ポリエチレン成分(B)の組成割合は、前記特性(1)~(6)を同時に満足し、樹脂組成物の相溶性及び成形体の外観の点から、前記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、前記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有する。中でも、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、前記ポリエチレン成分(A)を20質量%以上、35質量%以下、前記ポリエチレン成分(B)を65質量%以上、80質量%以下含有することが好ましく、前記ポリエチレン成分(A)を25質量%以上、30質量%以下、前記ポリエチレン成分(B)を70質量%以上、75質量%以下含有することがより好ましい。
【0022】
1-1.ポリエチレン成分(A)
特性(a1)
本発明に用いられるポリエチレン成分(A)は、流動性及び長期耐久性の点から、HLMFRが0.7g/10分以上、10g/10分以下であるものを選択する。ポリエチレン成分(A)のHLMFRの下限値は、好ましくは1.0g/10分以上、更に好ましくは1.4g/10分以上であり、当該HLMFRの上限値は、好ましくは5.0g/10分以下、更に好ましくは3.0g/10分以下である。
このHLMFRが前記下限値未満であると、最終の樹脂組成物において、MFRが規定の範囲内を達成できず、流動性が低下し、射出延伸ブロー成形において、成形性が悪くなるおそれや、相溶性が低下するため、成形体の外観を損なうおそれがある。一方、このHLMFRが前記上限値を超えると、最終樹脂組成物において、耐環境応力亀裂性が達成できず、成形体の長期耐久性が低下するおそれがある。
HLMFRは、主にポリエチレン成分(A)の重合時の水素量及び重合温度により調整することができる。
【0023】
特性(a2)
本発明に用いられるポリエチレン成分(A)は、耐衝撃性及びの耐環境応力亀裂性の点から、密度が0.915g/cm以上、0.945g/cm以下であるものを選択する。ポリエチレン成分(A)の密度の下限値は、好ましくは0.919g/cm以上であり、当該密度の上限値は、好ましくは0.930g/cm以下、より好ましくは0.925g/cm以下、更に好ましくは0.920g/cm以下である。
この密度が前記下限値未満であると、最終の樹脂組成物における密度範囲を達成できず、剛性が不足するおそれがある。一方、密度が前記上限値を超えた場合には、最終樹脂組成物において耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性能が低下するおそれがある。
密度は、主にポリエチレン成分(A)の重合時のα-オレフィンの量により調整することができる。
【0024】
特性(a3)
本発明に用いられるポリエチレン成分(A)は、相溶性及び成形体の外観などの点から、更に下記の特性(a3)を満足することが好ましい。
特性(a3):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布が2.0以上10.0以下である。
ポリエチレン成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、更に下限値が2.5以上、3.0以上であることが好ましく、更に上限値が6.0以下、5.0以下であることが好ましい。
本発明に用いられるポリエチレン成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)が下限値以上であると、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の相溶性がより良好になって、本発明のポリエチレン樹脂組成物の耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性などの物性の低下を抑制しやすくなり、成形体の外観が良好になる点から好ましい。また、本発明のポリエチレン樹脂組成物の流動性が良好になることにより、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好になる点から好ましい。一方、ポリエチレン成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)が上限値以下であると、最終の樹脂組成物の長期耐久性及び耐衝撃性を良好にしやすい。
【0025】
本発明で用いられるポリエチレン成分(A)は、前記特定の特性を満たせば、製造方法としては特に限定されないが、好ましくは重合触媒として、特定のメタロセン系触媒を使用して、重合することにより製造することができる。
メタロセン系触媒の中では、特定構造のメタロセン錯体を有する触媒が好ましく、特にシクロペンタジエニル環及び複素環式芳香族基を有するメタロセン錯体、又はシクロペンタジエニル環及びフルオレニル環を有するメタロセン錯体が好ましい。
【0026】
ポリエチレン成分(A)は、Ti、Zr又はHfを含有するメタロセン系触媒により重合されることが好ましい。メタロセン系触媒としては、メタロセン錯体と呼ばれる、シクロペンタジエン骨格を有する配位子が遷移金属に配位してなる錯体と助触媒とを組み合わせたものが例示される。具体的なメタロセン系触媒としては、Ti、Zr、Hfなどを含む遷移金属に、メチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、インデン等のシクロペンタジエン骨格を有する配位子が配位してなるメタロセン錯体と、助触媒として、アルミノキサン等の周期表第1族~第3族元素の有機金属化合物とを、組み合わせたものや、これらの錯体触媒をシリカ等の担体に担持させた担持型のものが挙げられる。
【0027】
本発明で用いられるメタロセン系触媒は、以下の触媒成分(i)及び触媒成分(ii)を含むものであり、必要に応じて触媒成分(iii)と組み合わせてなる触媒である。
触媒成分(i):メタロセン錯体
触媒成分(ii):触媒成分(i)と反応して、カチオン性メタロセン化合物を形成する化合物
触媒成分(iii):微粒子担体
【0028】
(1)触媒成分(i)
触媒成分(i)は、周期表第4族遷移金属のメタロセン化合物が用いられる。具体的には、下記の一般式(I)~(VII)で表される化合物が使用される。
【0029】
(C5-a )(C5-b )MXY 一般式(I)
(C4-c )(C4-d )MXY 一般式(II)
(C4-e )ZMXY 一般式(III)
(C5-f )ZMXY 一般式(IV)
(C5-f )MXYW 一般式(V)
(C5-g )(C5-h )MXY 一般式(VI)
(C3-i )(C3-j )MXY 一般式(VII)
【0030】
ここで、Q、Q、Qは二つの共役五員環配位子を架橋する結合性基を、Qは共役五員環配位子とZ基を架橋する結合性基を、QはRとRを架橋する結合性基を、Mは周期表第3~12族遷移金属を、X、Y及びWはそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の酸素含有炭化水素基、炭素数1~20の窒素含有炭化水素基、炭素数1~20のリン含有炭化水素基又は炭素数1~20の珪素含有炭化水素基を、Zは酸素、イオウを含む配位子、炭素数1~40の珪素含有炭化水素基、炭素数1~40の窒素含有炭化水素基又は炭素数1~40のリン含有炭化水素基を示す。Mは、好ましくはTi、Zr、Hf等の第4族遷移金属である。
【0031】
~Rはそれぞれ独立して、炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、酸素含有炭化水素基、珪素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又はホウ素含有炭化水素基を示す。これらの中で、R~Rの少なくとも1つが複素環式芳香族基であることが好ましい。複素環式芳香族基の中でも、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基が好ましく、更には、フリル基、ベンゾフリル基が好ましい。これらの複素環式芳香族基は、炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、珪素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又はホウ素含有炭化水素基を有していても良いが、その場合、炭素数1~20の炭化水素基、珪素含有炭化水素基が好ましい。また、隣接する2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、又は2個のRが、それぞれ結合して炭素数4~10個の環を形成していてもよい。a、b、c、d、e、f、g、h、i及びjは、それぞれ0≦a≦5、0≦b≦5、0≦c≦4、0≦d≦4、0≦e≦4、0≦f≦5、0≦g≦5、0≦h≦5、0≦i≦3、0≦j≦3を満足する整数である。
【0032】
2個の共役五員環配位子の間を架橋する結合性基Q、Q、Q、共役五員環配位子とZ基とを架橋する結合性基Q、及び、RとRを架橋するQは、具体的には下記のようなものが挙げられる。メチレン基、エチレン基のようなアルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、フェニルメチリデン基、ジフェニルメチリデン基のようなアルキリデン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジプロピルシリレン基、ジフェニルシリレン基、メチルエチルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、メチル-t-ブチルシリレン基、ジシリレン基、テトラメチルジシリレン基のような珪素含有架橋基、ゲルマニウム含有架橋基、アルキルフォスフィン、アミン等である。これらのうち、アルキレン基、アルキリデン基、珪素含有架橋基、及びゲルマニウム含有架橋基が特に好ましく用いられる。
【0033】
上述の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)で表される具体的なZr錯体としては、特開2017-179304号公報の段落0045~0055に記載の化合物を挙げることができ、当該具体例のZrをHf又はTiに置き換えた化合物も同様に使用可能である。また、一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)で示されるメタロセン錯体は、同一の一般式で示される化合物、又は異なる一般式で示される化合物の二種以上の混合物として用いることができる。
【0034】
以上において記載した触媒成分(i)の中で、ポリエチレン成分(A)を製造するための好ましいメタロセン錯体としては、一般式(I)又は一般式(II)で表されるメタロセン錯体が好ましく、なかでも、シクロペンタジエニル環及び複素環式芳香族基を有するメタロセン錯体が好ましく、更には、インデニル環骨格を有するメタロセン錯体が好ましい。高分子量のポリマーを生成可能であり、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合において共重合性に優れるという観点から、一般式(II)で表されるメタロセン錯体が好ましく、一般式(II)で表されインデニル環骨格を有するメタロセン錯体が最も好ましい。高分子量体を製造可能ということは、後述するような種々のポリマーの分子量の調整手法により、様々な分子量のポリマーの設計が行えるという利点がある。
更に、高分子量でかつ長鎖分岐を有するポリエチレンを製造可能という観点から、一般式(II)で表されるメタロセン錯体の中でも、以下の化合物群が好ましい。
【0035】
好ましい態様の一例として、化合物群は、R~Rとして、化合物内に少なくとも一つ、複素環式芳香族基を含有している架橋メタロセン錯体である。好ましい複素環式芳香族基としては、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基よりなる群が挙げられる。これらの置換基は、更に珪素含有基等の置換基を有していてもよい。フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基よりなる群から選択される置換基の中で、フリル基、ベンゾフリル基が更に好ましい。更には、これらの置換基が、置換シクロペンタジエニル基又は置換インデニル基の2位に導入されていることが好ましく、少なくとも1つ、他に縮環構造を有しない置換シクロペンタジエニル基を有している化合物であることが特に好ましい。
【0036】
これらの化合物をメタロセン錯体として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン成分(A)を容易に製造することができる。
【0037】
これらのメタロセン錯体は、後述するような担持触媒として用いることが好ましい。第一の化合物群においては、フリル基やチエニル基に含有されるいわゆるヘテロ原子と担体上の固体酸などの相互作用により、活性点構造に不均一性が生じ、長鎖分岐が生成しやすくなったものと考えている。また、第二の化合物群においても、担持触媒にすることで、活性点まわりの空間が変化するため、長鎖分岐が生成しやすくなったものと考えている。
【0038】
(2)触媒成分(ii)
本発明に係るポリエチレン成分(A)の製造方法は、オレフィン重合用触媒の必須成分として、上記触媒成分(i)以外に、触媒成分(i)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(触媒成分(ii))、必要に応じて微粒子担体(触媒成分(iii))を含むことが好ましい。
【0039】
触媒成分(ii)の一つとして、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。
上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al-O-Al結合を有し、その結合数は通常1~100個、好ましくは1~50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0040】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記の一般式(VIII)で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
AlX 3-t 一般式(VIII)
(一般式(VIII)中、Rは、炭素数1~18、好ましくは1~12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基を示し、Xは、水素原子又はハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
【0041】
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のいずれでも差し支えないが、メチル基であることが特に好ましい。
上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0042】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1~1.2/1、特に、0.5/1~1/1であることが好ましく、反応温度は、通常-70~100℃、好ましくは-20~20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分~24時間、好ましくは10分~5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物等に含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶液又は分散させた溶液としたものを用いても良い。
【0043】
また、触媒成分(ii)の他の具体例として、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。当該ボラン化合物やボレート化合物の具体例としては、特開2017-179304号公報の段落0065~0077に記載の化合物を挙げることができる。
【0044】
更に特に好ましい触媒成分(ii)としては、有機アルミニウムオキシ化合物である。
これらの化合物を触媒成分(ii)として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン成分(A)を容易に製造することができる。
【0045】
(3)触媒成分(iii)
触媒成分(iii)である微粒子担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体又はこれらの混合物が挙げられる。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素質物、又はこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。
【0046】
また、金属酸化物としては、周期表1~14族の元素の単独酸化物又は複合酸化物が挙げられ、例えば、SiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然又は合成の各種単独酸化物又は複合酸化物を例示することができる。
ここで、上記の式は、分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本発明において用いられる複合酸化物の構造及び触媒成分比率は特に限定されるものではない。
また、本発明において用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。
【0047】
金属塩化物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的にはMgCl、CaClなどが特に好適である。
金属炭酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。
炭素質物としては、例えば、カーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
以上の無機物担体は、いずれも本発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
【0048】
これら無機物担体は、通常、200~800℃、好ましくは400~600℃で空気中又は窒素、アルゴン等の不活性ガス中で焼成して、表面水酸基の量を0.8~1.5mmol/gに調節して用いるのが好ましい。
これら無機物担体の性状としては、特に制限はないが、通常、平均粒径は5~200μm、好ましくは10~150μm、平均細孔径は20~1000Å、好ましくは50~500Å、比表面積は150~1000m/g、好ましくは200~700m/g、細孔体積は0.3~2.5cm/g、好ましくは0.5~2.0cm/g、見掛け比重は0.10~0.50g/cmを有する無機物担体を用いるのが好ましい。
【0049】
上記した無機物担体は、もちろんそのまま用いることもできるが、予備処理としてこれらの担体をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl-O-Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物に接触させた後、用いることができる。
【0050】
更に特に好ましい触媒成分(iii)としては、SiO、Al、Al・SiOが挙げられる。
これらの化合物を触媒成分(iii)として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン成分(A)を容易に製造することができる。
【0051】
(4)接触方法等
本発明に係るメタロセン系触媒は、触媒成分(i)と、触媒成分(ii)、及び必要に応じて触媒成分(iii)からなる触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
【0052】
接触方法(1):触媒成分(i)と、触媒成分(ii)とを接触させた後、触媒成分(iii)を接触させる。
接触方法(2):触媒成分(i)と、触媒成分(iii)とを接触させた後、触媒成分(ii)を接触させる。
接触方法(3):触媒成分(ii)と、触媒成分(iii)とを接触させた後、触媒成分(i)を接触させる。
【0053】
これらの接触方法の中で接触方法(1)及び(3)が好ましく、更に接触方法(1)が最も好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6~12)、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素(通常炭素数5~12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
この接触は、通常-100℃~200℃、好ましくは-50℃~100℃、更に好ましくは0℃~50℃の温度にて、5分~50時間、好ましくは30分~24時間、更に好ましくは30分~12時間で行うことが望ましい。
【0054】
また、触媒成分(i)、触媒成分(ii)と触媒成分(iii)の接触に際しては、上記した通り、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族又は脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
【0055】
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素あるいは芳香族炭化水素)を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、あるいは一旦可溶性溶媒の一部又は全部を、乾燥等の手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本発明では、各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0056】
本発明において、触媒成分(i)と、触媒成分(ii)と、触媒成分(iii)の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
【0057】
触媒成分(ii)として、有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、触媒成分(i)中の遷移金属(M)に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウムの原子比(Al/M)は、通常、1~100,000、好ましくは5~1,000、更に好ましくは50~200の範囲が望ましく、また、ボラン化合物やボレート化合物を用いる場合、メタロセン化合物中の遷移金属(M)に対する、ホウ素の原子比(B/M)は、通常、0.01~100、好ましくは0.1~50、更に好ましくは0.2~10の範囲で選択することが望ましい。
更に、触媒成分(ii)として、有機アルミニウムオキシ化合物と、ボラン化合物、ボレート化合物との混合物を用いる場合にあっては、混合物における各化合物について、遷移金属(M)に対して上記と同様な使用割合で選択することが望ましい。
【0058】
触媒成分(iii)の使用量は、触媒成分(i)中の遷移金属0.0001~5mmol当たり、好ましくは0.001~0.5mmol当たり、更に好ましくは0.01~0.1mmol当たり、1gである。
【0059】
触媒成分(i)と、触媒成分(ii)と、触媒成分(iii)とを、前記接触方法(1)~(3)のいずれかで相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下又は減圧下、0~200℃、好ましくは20~150℃で1分~50時間、好ましくは10分~10時間で行うことが望ましい。
【0060】
なお、メタロセン系触媒は、以下の方法によっても得ることができる。
接触方法(4):触媒成分(i)と触媒成分(iii)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物又はこれらの混合物と接触させる。
接触方法(5):有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物又はこれらの混合物と触媒成分(iii)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で触媒成分(i)と接触させる。
上記接触方法(4)、(5)の場合も、成分比、接触条件及び溶媒除去条件は、前記と同様の条件が使用できる。
【0061】
また、本発明に係るポリエチレン成分(A)の製造方法の必須成分である触媒成分(ii)と触媒成分(iii)とを兼ねる成分として、層状珪酸塩を用いることもできる。
層状珪酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物である。
大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0062】
これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
【0063】
一般に、天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合は好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては、次のような化学処理が挙げられる。
ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。
具体的には、(イ)塩酸、硫酸等を用いて行う酸処理、(ロ)NaOH、KOH、NH等を用いて行うアルカリ処理、(ハ)周期表第2族~第14族から選ばれた少なくとも1種の原子を含む陽イオンとハロゲン原子又は無機酸由来の陰イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンからなる塩類を用いた塩類処理、(ニ)アルコール、炭化水素化合物、ホルムアミド、アニリン等の有機物処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
【0064】
前記層状珪酸塩は、全ての工程の前、間、後のいずれの時点においても、粉砕、造粒、分粒、分別等によって、粒子性状を制御することができる。その方法は、合目的的な任意のものであり得る。特に、造粒法について示せば、例えば、噴霧造粒法、転動造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、ブリケッティング法、コンパクティング法、押出造粒法、流動層造粒法、乳化造粒法及び液中造粒法等が挙げられる。特に好ましい造粒法は、上記の内、噴霧造粒法、転動造粒法及び圧縮造粒法である。
【0065】
上記した層状珪酸塩は、もちろんそのまま用いることもできるが、これらの層状珪酸塩をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl-O-Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物と組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明に係るメタロセン系触媒において、触媒成分(i)を、層状珪酸塩に担持するには、触媒成分(i)と層状珪酸塩を相互に接触させる、あるいは触媒成分(i)、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩を相互に接触させてもよい。
各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
接触方法(6):触媒成分(i)と有機アルミニウム化合物を接触させた後、層状珪酸塩担体と接触させる。
接触方法(7):触媒成分(i)と層状珪酸塩担体を接触させた後、有機アルミニウム化合物と接触させる。
接触方法(8):有機アルミニウム化合物と層状珪酸塩担体を接触させた後、触媒成分(i)と接触させる。
【0067】
これらの接触方法の中で接触方法(6)と(8)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6~12)、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素(通常炭素数5~12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
【0068】
触媒成分(i)と、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
触媒成分(i)の担持量は、層状珪酸塩担体1gあたり、0.0001~5mmol、好ましくは0.001~0.5mmol、更に好ましくは0.01~0.1mmolである。
また、有機アルミニウム化合物を用いる場合のAl担持量は、0.01~100mol、好ましくは0.1~50mol、更に好ましくは0.2~10molの範囲であることが望ましい。
【0069】
担持及び溶媒除去の方法は、前記の無機物担体と同様の条件が使用できる。
触媒成分(ii)と触媒成分(iii)とを兼ねる成分として、層状珪酸塩を用いると、重合活性が高く、長鎖分岐を有するエチレン系重合体の生産性が向上する。
こうして得られるオレフィン重合用触媒は、必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
【0070】
メタロセン系触媒の製造例として、例えば、特表2002-535339号公報や特開2004-189869号公報に記載の「触媒」及び「原料の配合比や条件」を参酌することにより、製造することができる。また、重合体のインデックスは、各種重合条件により制御することができ、例えば、特開平2-269705号公報や特開平3-21607号公報記載の方法により制御することができる。
【0071】
ポリエチレン成分(A)は、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等との共重合により得られる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α-オレフィン共重合体中のα-オレフィン含有量は、0.001~40mol%、好ましくは0.001~30mol%、より好ましくは0.001~5mol%、さらに好ましくは0.001~2mol%、よりさらに好ましくは0.02~1.5mol%である。
なお、本発明に用いられる各ポリエチレン成分に使用されるエチレンは、通常の化石原料由来の原油から製造されるエチレンであってもよいし、植物由来のエチレンであってもよい。植物由来のエチレン及びポリエチレンとしては、例えば、特表2010-511634号公報に記載のエチレンやそのポリマーが挙げられる。植物由来のエチレンやそのポリマーは、カーボンニュートラル(化石原料を使わず大気中の二酸化炭素の増加につながらない)の性質を持ち、環境に配慮した製品の提供が可能である。
【0072】
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することで、より効果的に分子量調節を行うことができる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。
なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
水素濃度、モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【0073】
ポリエチレン成分(A)は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができ、好ましくはスラリー重合法が望ましい。ポリエチレン成分(A)の重合条件のうち重合温度としては、0~200℃の範囲から選択することができる。スラリー重合においては、生成ポリマーの融点より低い温度で重合を行う。重合圧力は、大気圧~約10MPaの範囲から選択することができる。実質的に酸素、水等を断った状態で、ヘキサン、ヘプタン、イソブタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下でエチレン及びα-オレフィンのスラリー重合を行うことにより製造することができる。
【0074】
ポリエチレン成分(A)は、本発明で規定の範囲を満たせば、単一の重合器、直列もしくは並列に接続した複数の反応器で順次連続して重合、及び複数のエチレン重合体を別々に重合した後に混合したものでもよい。
【0075】
1-2.ポリエチレン成分(B)
特性(b1)
本発明に用いられるポリエチレン成分(B)は、流動性及び耐衝撃性の点から、MFRが5.0g/10分以上、50.0g/10分以下であるものを選択する。
ポリエチレン成分(B)のMFRの下限値は、好ましくは6.0g/10分以上、更に好ましくは7.5g/10分以上であり、当該MFRの上限値は、好ましくは30.0g/10分以下、より好ましくは20.0g/10分以下である。
このMFRが前記下限値未満であると、分子量が増大し、流動性及び成形性が確保できなくなるおそれがある。また、最終の樹脂組成物において、HLMFRが規定の範囲内を達成できず、流動性が低下することにより、射出延伸ブロー成形において、成形性が悪くなったり、シャークスキンやメルトフラクチャーなどの流動不安定現象が発生しやすくなるため、成形体の外観を損なうおそれがある。
一方、このMFRが前記上限値を超えると、低分子量の成分量が増加する影響により、耐衝撃性が確保できなくなるおそれがある。また、最終樹脂組成物において、耐衝撃性が達成できず、成形体の落下衝撃耐性が低下するおそれがある。
MFRは、主にポリエチレン成分(B)の重合時の水素量及び重合温度により調整することができる。
【0076】
特性(b2)
本発明に用いられるポリエチレン成分(B)は、耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性の点から、密度が0.950g/cm以上、0.980g/cm以下であるものを選択する。ポリエチレン成分(B)の密度の下限値は、好ましくは0.960g/cm以上であり、当該密度の上限値は、好ましくは0.970g/cm以下である。
ポリエチレン成分(B)の密度が前記下限値未満であると、最終の樹脂組成物における密度範囲を達成できず、剛性が不足するおそれがある。一方、密度が前記上限値を超えた場合には、最終樹脂組成物において耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性が低下するおそれがあり、容器の落下衝撃耐性及び長期耐久性が劣るおそれがある。
密度は、主にポリエチレン成分(B)の重合時のα-オレフィンの量により調整することができる。
【0077】
特性(b3)
ポリエチレン成分(B)は、更に、相溶性及び成形体の外観などの点から、下記の特性(b3)を満足することが好ましい。
特性(b3):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布が2.0以上10.0以下である。
ポリエチレン成分(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、更に下限値が3.0以上、5.0以上であることが好ましく、更に上限値が8.0以下、7.5以下であることが好ましい。
本発明に用いられるポリエチレン成分(B)の分子量分布(Mw/Mn)が下限値以上であると、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の相溶性がより良好になって、本発明のポリエチレン樹脂組成物の耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性などの物性の低下を抑制しやすくなり、成形体の外観が良好になる点から好ましい。また、本発明のポリエチレン樹脂組成物の流動性が良好になることにより、射出延伸ブロー成形において成形性が良好になる点から好ましい。一方、ポリエチレン成分(B)の分子量分布(Mw/Mn)が上限値以下であると、最終の樹脂組成物の長期耐久性及び耐衝撃性を良好にしやすい。
【0078】
本発明に用いられるポリエチレン成分(B)は、エチレン単独重合体又はエチレン-α-オレフィン共重合体であり、上記の特定を満たすことができれば、各種の重合触媒を用いて重合することができる。本発明に用いられるポリエチレン成分(B)は、チーグラーナッタ系触媒やメタロセン系触媒を使用して重合することにより製造することができ、好ましくはチーグラーナッタ系触媒由来のエチレン系重合体であり、ポリエチレン成分(A)の重合方法に準じて製造することができる。チーグラーナッタ系触媒としては、従来公知の触媒を適宜選択して用いることができる。
【0079】
2.ポリエチレン樹脂組成物の特性
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、以下の特性(1)~(6)を満足することが重要である。
特性(1)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、流動性や長期耐久性の点から、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分より大きく、5.0g/10分以下であるものを選択する。当該MFRの下限値は、好ましくは1.1g/10分以上、更に好ましくは1.2g/10分以上、特に好ましくは1.3g/10分以上であり、当該MFRの上限値は、好ましくは4.0g/10分以下、更に好ましくは3.0g/10分以下、特に好ましくは2.5g/10分以下である。
このMFRが1.0g/10分以下であると、流動性が低下することにより、射出延伸ブロー容器の成形において容器がパンクするなど成形性が悪化するおそれや、シャークスキンやメルトフラクチャーなどの流動不安定現象が発生しやすくなるため成形体の外観を損なうおそれがある。
一方、このMFRが5.0g/10分を超えると、耐衝撃性や耐環境応力亀裂性が達成できず、成形体の落下衝撃耐性や長期耐久性が低下するおそれがある。
本発明においてMFRは、JIS K6922-2:1997に準拠して測定することができる。
ポリエチレン樹脂組成物のMFRは、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の水素量及び温度、並びに各成分の配合量により調整することができる。
【0080】
特性(2)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、流動性及び長期耐久性の点から、温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が30g/10分以上、300g/10分以下であるものを選択する。当該HLMFRの下限値は、好ましくは35g/10分以上、更に好ましくは40g/10分以上であり、特に好ましくは45g/10分以上であり、当該HLMFRの上限値は、好ましくは200g/10分以下、更に好ましくは150g/10分以下、特に好ましくは130g/10分以下である。
このHLMFRが30g/10分未満であると、流動性が低下することにより、射出延伸ブロー容器の成形において容器がパンクするなど成形性が悪化するおそれがある。
一方、このHLMFRが300g/10分を超えると、耐衝撃性や耐環境応力亀裂性が達成できず、成形体の落下衝撃耐性や長期耐久性が低下するおそれがある。
本発明においてHLMFRは、JIS K6922-2:1997に準拠して測定することができる。
ポリエチレン樹脂組成物のHLMFRは、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の重合時のそれぞれの水素量及び温度、並びに各成分の配合量により調整することができる。
【0081】
特性(3)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性の点から、MFRに対するHLMFRの比であるメルトフローレート比(HLMFR/MFR)が10以上、60以下であるものを選択する。当該メルトフローレート比の下限値は、好ましくは20以上、更に好ましくは30以上である。また、当該メルトフローレート比の上限値は、好ましくは55以下、更に好ましくは45以下の範囲である。
HLMFR/MFRは、分子量分布との相関が強く、HLMFR/MFRが大きな値をとる場合、分子量分布が広くなり、HLMFR/MFRが小さな値をとる場合、分子量分布が狭くなる。HLMFR/MFRが60を超えると各成分の相溶性の悪化や耐衝撃性が低下するおそれがあり、HLMFR/MFRが10未満では溶融張力の低下やシャークスキンなどの流動不安定現象が発生しやすくなるおそれや耐環境応力亀裂性が低下するおそれがある。
HLMFR/MFRの制御方法は、主に分子量分布の制御方法に準じて行うことができる。
【0082】
特性(4)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性の点から、密度が0.940g/cm以上、0.965g/cm以下であるものを選択する。当該密度の下限値は、好ましくは0.950g/cm以上、更に好ましくは0.951g/cm以上であり、当該密度の上限値は、好ましくは0.960g/cm以下、更に好ましくは0.955g/cm以下である。
密度が0.940g/cm未満であると、剛性が不足するおそれがある。一方、密度が0.965g/cmを超えた場合には、耐衝撃性及び耐環境応力亀裂性が低下するおそれがある。
本発明において密度は、JIS K6922-1,2:1997に準拠して測定することができる。
密度は、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の重合時のα-オレフィンの量により調整することができ、また、各成分の配合量により調整することができる。
【0083】
特性(5)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量(Mn)が8,600以上、重量平均分子量(Mw)が91,000以上であるものを選択する。
当該Mnの下限値は、好ましくは10,200以上、更に好ましくは10,500以上である。
また、当該Mwの下限値は、好ましくは92,000以上、更に好ましくは93,000以上である。
Mnが8,600未満であると、あるいはMwが91,000未満であると、衝撃強度が低下するおそれがある。
本発明においてMn及びMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
Mn及びMwは、ポリエチレン樹脂組成物を構成する各エチレン系重合体成分の重合時の温度及び水素濃度を調整することにより調整することができ、重合温度を低くする又は水素濃度を低くすることにより、Mn、Mwを大きくすることができる。
【0084】
本発明において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量及び分子量分布の測定は、下記の条件により測定することができる。
[測定条件]
使用機種:Polymer Char社製HT GPC-IR System
検出器:IR-6
測定温度:145℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)(酸化防止剤としてトリメチルフェノール3.6g/18L添加)
カラム:昭和電工社製Shodex HT-806M×2本
流速:1.0mL/分
注入量:20μL
【0085】
[試料の調製]
試料をバイアル瓶に5~8mg入れ、オートサンプラーにセットする。オートサンプラーで溶媒量8mL(室温)を注入し、150℃で2時間を要して溶解するようにプログラムする。ポンプ流量補正のためのフローマーカーとしてヘプタンを使用する。
【0086】
[検量線の作成]
標準ポリスチレンにより検量線を作成し、ポリエチレンに換算する。使用した標準ポリスチレンは、昭和電工社製Showdex Standard SM-105のサンプルセット及びn-エイコサン、n-テトラコンタンを用いる。
【0087】
[分子量の計算]
前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラムを記録する。このクロマトグラムから、森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)第4章p.51~60に記載の方法で微分分子量分布曲線及び平均分子量値(Mn、Mw及びMz)を算出する。ただし、dn/dcの分子量依存性を補正するため、クロマトグラムにおけるベースラインからの高さHを補正する。クロマトグラムの記録(データ取り込み)及び平均分子量計算は、Microsoft社製OS Windows(登録商標)XPをインストールしたPC上で専用ソフトウエア(GPC One、Polymer Char社製)を用いて行なう。
【0088】
特性(6)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数を用いて下記式で求められる分岐数指標が2.34以上であるものを選択する。当該分岐数指標は、好ましくは2.50以上、更に好ましくは3.00以上であり、その上限値は、好ましくは5.00以下、好ましくは4.95以下、更に好ましくは4.90以下である。
[分岐数指標]=
[分子量5万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X5万
+[分子量10万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X10万
+[分子量20万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X20万
+[分子量30万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X30万
+[分子量40万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X40万
ここで、
[X5万]=[分子量5万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X10万]=[分子量10万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X20万]=[分子量20万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X30万]=[分子量30万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X40万]=[分子量40万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]=[(分子量5万の重量分率)+(分子量10万の重量分率)+(分子量20万の重量分率)+(分子量30万の重量分率)+(分子量40万の重量分率)]
なお、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数は、GPC-IRにより、CH(メチレン)、CH(メチル)の濃度を測定し、分岐数既知の標準サンプルの検量線から求められるものであり、分岐における炭素数は特に限定されない。分岐数既知の標準サンプルとしては、炭素数1,000個当たりのCH(メチル)が2.6、16.5、21.0、33.5、又は45.3個の5点のポリエチレンサンプルを用いることができる。また、前記ポリエチレン成分(A)と前記ポリエチレン成分(B)を所定量含有していることから、分岐における炭素数は、通常所謂長鎖分岐を有さず、4以上10以下であり、短鎖分岐といえる。
前記式で求められる[分岐数指標]は、GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数と規格化した重量分率の積の和といえる。
GPC-IRにより測定される、分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数と規格化した重量分率の積の和である前記[分岐数指標]が2.34以上であると、衝撃強度が高くなる傾向がある。高分子量成分に短鎖分岐を所定数以上有することで、結晶間のタイ分子が存在する確率が高くなり、衝撃強度が高くなると推定される。
前記[分岐数指標]が2.34未満であると、衝撃強度及び耐環境応力亀裂性が低下するおそれがある。一方、前記[分岐数指標]が5.00を超えると、剛性が低下する恐れがある。
上記の要件は、重合触媒、重合条件、および樹脂組成を選択することにより達成することができる。具体的には例えば、前述のように前記ポリエチレン成分(A)及び前記ポリエチレン成分(B)を各々特定量含有することにより、長鎖分岐構造を有さず、短鎖分岐数が前記特定以上のポリエチレン樹脂組成物を達成することができる。
【0089】
本発明のポリエチレンの分子量5万、10万、20万、30万及び40万の分子における炭素数1,000個当たりの分岐数と重量分率は、特性(5)の分子量と同様に、Polymer Char社のIR-6から得られる。
【0090】
特性(7)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、更に23℃における引張衝撃強度(TIS)が130kJ/m以上であることがより好ましく、134kJ/m以上であることがより好ましい。
本発明において、ポリエチレン樹脂組成物の23℃における引張衝撃強度(TIS)(単位:kJ/m)は、JIS K6922-2に準拠して、1.5mmの圧縮成形シートを作成し、ASTM D1822に準拠して、S型ダンベルで打ち抜いた試験片を作成し、23℃、50%RHの条件で測定することができる。
【0091】
特性(8)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、引張衝撃強度(TIS)(単位:kJ/m)とHLMFR(単位:g/10分)とが下記式(1)で示される関係を満たすことが好ましい。
TIS≧1560×HLMFR-0.55・・式(1)
一般に高流動性を示すポリエチレン樹脂組成物は引張衝撃強度が低くなる傾向があるため、高流動性と良好な引張衝撃強度を両立したポリエチレン樹脂組成物であることが望まれる。式(1)は、本発明のポリエチレン樹脂組成物が、従来のポリエチレン系樹脂に比べて、HLMFR見合いの引張衝撃強度が大きいことを示すものである。即ち、本発明のポリエチレン樹脂組成物と従来のものを区別するために、引張衝撃強度(TIS)はHLMFRの増加に対して負の相関がある関数と考えて、当該関数のパラメータを設定し、本発明のポリエチレン樹脂組成物のTISが当該関数で規定されるTISよりもHLMFR見合いで大きいことを示す。具体的には、実施例及び比較例データに基づき、実施例とHLMFR見合いのTISが小さい比較例を区別するTIS及びHLMFRの値を仮定して、当該TISとHLMFRとの間に成立する関係式について、最小二乗法により当該関係式のパラメータを決定したものである。
式(1)を満足するためには、本発明の組成物の特定の構成成分を適宜選択することにより達成することができる。具体的には、本発明のポリエチレン樹脂組成物の高分子量成分を担うメタロセン触媒で重合したポリエチレン成分の短鎖分岐の導入量を増加させることや、低分子量成分を担うチグラーナッタ触媒で重合したポリエチレン成分の分子量を適正化することで向上させることができ、これらの調整により、式(1)を満足させることができる。
【0092】
特性(9)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、190℃で測定される溶融張力(MT)(単位:mN)とHLMFR(単位:g/10分)とが下記式(2)で示される関係を満たすことが好ましい。
MT<876.94×HLMFR-0.844 ・・・式(2)
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、MT(単位:mN)とHLMFR(単位:g/10分)とが下記式(3)で示される関係を満たすことがより好ましい。
MT<543.99×HLMFR-0.849 ・・・式(3)
一般に高流動性を示すポリエチレン樹脂組成物は溶融張力が低くなる傾向があるが、高流動性と良好な溶融張力を両立したポリエチレン樹脂組成物であることが望まれる。溶融張力が高すぎると射出プリフォーム成形時に残留歪みが多くなり、それにより再加熱時にプリフォームの収縮が起こって、延伸時にパンク等の不良が起こりやすくなる恐れがある。式(2)は、本発明のポリエチレン樹脂組成物が、従来のポリエチレン系樹脂に比べて、HLMFR見合いの溶融張力が小さいことを示すものである。即ち、本発明のポリエチレン樹脂組成物と従来のものを区別するために、溶融張力(MT)はHLMFRの増加に対して負の相関がある関数と考えて、当該関数のパラメータを設定し、本発明のポリエチレン樹脂組成物のMTが当該関数で規定されるMTよりもHLMFR見合いで小さいことを示す。具体的には、実施例及び比較例データに基づき、実施例とHLMFR見合いの溶融張力が大きい比較例を区別するMT及びHLMFRの値を仮定して、当該MTとHLMFRとの間に成立する関係式について、最小二乗法により当該関係式のパラメータを決定したものである。
式(2)を満足するためには、本発明の組成物の特定の構成成分を適宜選択することにより達成することができる。具体的には、本発明のポリエチレン樹脂組成物を構成する各ポリエチレン成分の長鎖分岐の導入量を減少させることによりMTを減少させることができ、前記各ポリエチレン成分の分子量分布を狭くすることによりMTを減少させることができ、後述するポリエチレン成分(B)の配合量を増加させることによりMTを減少させることができ、これらの調整により、式(2)を満足させることができる。
【0093】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、成形性の点から、溶融張力(MT)が9mN以上であることが好ましく、射出延伸ブロー容器の成形性の点からは、20mN以下であることが好ましい。
本発明において、ポリエチレン樹脂組成物の溶融張力は、溶融させたポリエチレン樹脂組成物を一定速度で延伸したときの応力を測定することにより決定され、下記条件により測定することができる。
[測定条件]
使用機種:東洋精機製作所社製、キャピログラフ1B
ノズル径:2.095mm
ノズル長さ:8.0mm
流入角度:180°(flat)
押出速度:15mm/分
引き取り速度:6.5m/分
測定温度:190℃
【0094】
特性(10)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、FNCT(時間)が100時間以上であることが好ましく、更に200時間以上であることが好ましい。
本発明において、全周囲ノッチ式クリープ試験は、ISO DIS 16770に準拠して行うことができる。試料は、6mm×6mm×11mmの大きさの角柱の全周囲にカミソリ刃にて1mmのノッチが付けられ、4mm×4mmの大きさの断面を有した試験片を用意し、80℃の純水中で、3.7MPaに相当する引張応力を検体に与え、検体が破断するまでの時間を計測して、FNCTの破断時間とする。
【0095】
特性(11)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、更にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布が11.5以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましい。
GPCにより測定される分子量分布(Mw/Mn)は、樹脂組成物における各種物性及び流動性の改良に関わる。
分子量分布を所定の範囲とするには、分子量分布を制御できる触媒や適当な重合条件を採用することにより達成することができる。また、バイモーダル又はマルチモーダルの重合体の場合は、各成分の分子量を調整することにより制御することができる。
【0096】
特性(12)
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されないことが好ましい。
本発明のポリエチレン樹脂組成物が長鎖分岐構造を有する場合、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)と伸長時間t(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されることが容易となる。
前記伸長粘度の変曲点が観測されないということは、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、長鎖分岐構造を有しないか、或いは、前記伸長粘度の変曲点が観測されるほどに長鎖分岐構造を有しないことを表す。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるようにするため、前記短鎖分岐数を所定以上有する必要があり、長鎖分岐構造は有しないことが好ましい。
長鎖分岐を有さないことで、射出プリフォーム成形時に残留歪みが少なくなり、それにより再加熱時にプリフォームの収縮が起こらず、延伸時にパンク等の不良が起こり難くなり、成形後の容器の肉厚分布は良好になる。
【0097】
本明細書において、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点の有無は、歪硬化度の測定において観察できるものである。
上記歪硬化度の測定方法に関しては、一軸伸長粘度を測定できれば、どのような方法でも原理的に同一の値が得られ、例えば、公知文献:Polymer 42(2001)8663に測定方法及び測定機器の詳細が記載されている。
本発明に係るポリエチレンの測定に当り、好ましい測定方法及び測定機器として、以下を挙げることができる。
【0098】
測定方法:
・装置:Rheometrics社製Ares
・冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
・測定温度:170℃
・歪み速度:0.1/秒
・試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成する。
【0099】
算出方法:
170℃、歪み速度0.1/秒における伸長粘度を、横軸に時間t(秒)、縦軸に伸長粘度η(t)(Pa・秒)を両対数グラフでプロットする。その両対数グラフ上で、歪硬化後、歪量が4.0となるまでの最大伸長粘度をηMax(t1)(t1は最大伸長粘度を示す時の時間)とし、歪硬化前の伸長粘度の近似直線をηLinear(t)としたとき、ηMax(t1)/ηLinear(t1)として算出される値を歪硬化度(λmax)と定義する。なお、歪硬化の有無は、時間の経過と共に伸長粘度が上に凸の曲線から下に凸の曲線へと変わる変曲点を有するか、否かによって、判断される。
図1図2は典型的な伸長粘度のプロット図である。図1は伸長粘度の変曲点が観測される場合であり、図中にηMax(t1)、ηLinear(t1)を示した。図2は伸長粘度の変曲点が観測されない場合である。
【0100】
ポリエチレン成分が、長鎖分岐構造を有しないようにするためには、適当な重合触媒を適用して重合することが好ましく、前述のような重合触媒の中から選択することが好ましい。
【0101】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、前記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、前記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有し、前記特性(1)~(6)を同時に満たすポリエチレン樹脂組成物であるため、射出延伸ブロー成形において成形性に優れ、剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ外観に優れる成形体とすることが可能である。
更に、好ましくは、上記特性(1)~(6)に加え、上記特性(7)~(12)のうち一つ以上を備えたポリエチレン樹脂組成物は、上記効果を更に良く奏するものとなる。
【0102】
本発明のポリエチレン樹脂組成物が奏する効果について、以下に更に説明する。
一般に、ポリエチレンのブロー成形と言えば押出ブロー成形が主流であるが、成形時にバリが出ない事や延伸効果により容器物性が向上することから射出延伸ブロー成形への適用が検討されている。しかし、通常の押出ブロー成形用ポリエチレン材料ではドローダウンを抑制する為に流動性が低く、溶融時の張力も高い傾向にある為、射出プリフォームの表面が荒れ、再加熱時にプリフォームが収縮し、延伸ブロー時に成形不良が起こりやすい。
一方、繊維用ポリエチレン材料では十分な流動性と低い溶融張力の為に成形に問題は無いものの、分子量が低く、洗剤容器等一部用途に対する衝撃強度や耐ストレスクラッキングが不足する傾向にある。その為、射出延伸ブロー成形に適した流動性を有しながら、要求物性の高い用途においても適用できるポリエチレン樹脂組成物が望まれている。
それに対して、本発明では、特定のポリエチレン成分(A)と特定のポリエチレン成分(B)とを特定量で含有し、特定のMFRと、特定のHLMFRと、特定のHLMFR/MFR比と、特定の密度とを満たし、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)が特定以上であり、且つ、前記分岐数指標が特定以上であるポリエチレン樹脂組成物としたことにより、流動性見合いにおける成形体の剛性、耐環境応力亀裂性、耐衝撃性などのバランスを向上させ、射出延伸ブロー成形において成形性に優れながら、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるポリエチレン樹脂組成物を達成した。
【0103】
3.ポリエチレン樹脂組成物の製造方法
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、前記ポリエチレン成分(A)を15質量%以上、40質量%以下、及び前記ポリエチレン成分(B)を60質量%以上、85質量%以下含有し、前記特性(1)~(6)を満足するポリエチレン樹脂組成物を製造することができれば、その製造方法は特に限定されるものではない。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、中でも、前記特性(1)~(6)を満足する樹脂組成物を製造しやすく、且つ、各樹脂成分は相溶性に優れ、成形体の外観に優れる点から、前記ポリエチレン成分(A)及び前記ポリエチレン成分(B)を所定の配合割合で溶融混合することにより、また必要に応じて他の成分を添加して溶融混合することにより製造することが好ましい。
【0104】
本発明におけるポリエチレン樹脂組成物は、前記ポリエチレン成分(A)及び前記ポリエチレン成分(B)以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、下記物質を任意成分として配合することができる。
例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、極性モノマーグラフト変性ポリエチレン、エチレン系ワックス、超高分子量ポリエチレン、エチレン系エラストマー等の各種エチレン系重合体及びその変性体を使用できる。高密度ポリエチレンの添加は、剛性、耐熱性、衝撃強度等を向上するのに好ましい。低密度ポリエチレンの添加は、柔軟性、衝撃強度、易接着性、透明性、低温強度等を向上するのに好ましい。
高圧法ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、透明性、低温強度、成形加工性等を向上するのに好ましい。マレイン酸変性ポリエチレンやエチレン・アクリル酸誘導体共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の極性モノマーグラフト変性ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、着色性、各種材料親和性、ガスバリア性等を向上するのに好ましい。エチレン系ワックスの添加は、着色性、各種材料親和性、成形加工性等を向上するのに好ましい。超高分子量ポリエチレンの添加は、機械的強度、耐摩耗性等を向上するのに好ましい。エチレン系エラストマーの添加は、柔軟性、機械的強度、衝撃強度等を向上するのに好ましい。
前記特定の物性バランスを満足するポリエチレン成分(A)、及びポリエチレン成分(B)を特定量で混合して用いる際に、更に、第三成分として、高分子量成分であるポリエチレン成分(A)と低分子量成分であるポリエチレン成分(B)の相溶化剤となる樹脂を添加してもよい。
また、上記の重合体以外に、各種樹脂を使用できる。具体的には、各種ナイロン樹脂、各種ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、各種ポリエステル、ポリカーボネート樹脂、EVOH、EVA、PMMA、PMA、各種エンジニアリングプラスチック、ポリ乳酸等、セルロース類、天然ゴム類、ポリウレタン、塩ビ、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコン樹脂等の無機系重合体等である。
【0105】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形体とすることができる。
また、上記の方法により得られるポリエチレン樹脂組成物には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上、適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、上記ポリエチレン樹脂組成物に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0106】
また、本発明において、ポリエチレン樹脂組成物の結晶化速度を促進するために、核剤を用いてもよい。
該核剤としては、一般に知られているものを使用することができ、一般的な有機系又は無機系の造核剤を用いることができる。例えば、ジベンジリデンソルビトールもしくはその誘導体、有機リン酸化合物もしくはその金属塩、芳香族スルホン酸塩もしくはその金属塩、有機カルボン酸もしくはその金属塩、ロジン酸部分金属塩、タルク等の無機微粒子、イミド類、アミド類、キナクリドンキノン類、又はこれらの混合物が挙げられる。
中でもジベンジリデンソルビトール誘導体、有機リン酸金属塩、有機カルボン酸金属塩等は、透明性に優れるなど好適である。
ジベンジリデンソルビトール誘導体の具体例としては、1,3:2,4-ビス(o-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-2,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-クロロベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトールが挙げられ、安息香酸金属塩の具体例としては、ヒドロキシ-ジ(t-ブチル安息香酸)アルミニウム等が挙げられる。
【0107】
本発明のポリエチレン樹脂組成物に核剤を配合する場合、核剤の配合量は、該組成物100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、より好ましくは0.01~3質量部、更に好ましくは0.01~1質量部、特に好ましくは0.01~0.5質量部である。核剤が0.01質量部未満では、高速成形性の改良効果が十分でなく、一方、5質量部を超えると、核剤が凝集してブツになり易いといった問題が生じる。
【0108】
4.ポリエチレン樹脂組成物の用途
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ成形性に優れることから、各種成形法により各種成形体を製造することができる。本発明のポリエチレン樹脂組成物は、流動性に優れることから、好ましくは、主に射出延伸中空成形法等により成形され、好適には中空容器などの各種成形品を得ることができる。
【0109】
II.成形体、及び容器
本発明の成形体は、本発明のポリエチレン樹脂組成物を原料として、各種成形法により製造することができる。本発明の成形体は、好ましくは、主に、射出延伸ブロー成形法により成形体を製造することができ、好適には中空容器などの各種中空成形品が挙げられる。
【0110】
[射出延伸ブロー成形法]
射出延伸ブロー成形法は、熱可塑性ポリマーを用いてビンのような容器を製造することに広く使用されている。この方法は、射出成形でプリフォームを作り、このプリフォームを所望最終形状まで拡大させる工程を含む。一般に、一段法(ホットパリソン法)と二段法(コールドパリソン法)に区別される。一段法ではプリフォームの製造とプリフォームを所望最終形状へ拡大する工程を同じ製造装置で行なう。二段法ではこれらの二つの工程を異なる製造装置、場合によっては異なる場所で行なうことができる。即ち、プリフォームを成形環境温度まで冷却し、第二の製造装置の場所まで移送し、そこで再加熱し、所望最終形状まで拡大することができる。一般に、前者の一段法をホットパリソン法、後者の二段法をコールドパリソン法ともいう。
【0111】
プリフォームは開口端と密封端とを有し、射出成形で製造される。本発明のポリエチレン樹脂組成物は、押出機に供給され、可塑化され、ゲートとよばれる開口を介して圧力下に射出金型中に注入される。そして、ポリエチレン樹脂組成物は、180℃以上、より好ましくは185℃以上、最も好ましくは190℃以上の射出温度で射出金型中に注入される。また、ポリエチレン樹脂組成物の射出温度は、280℃以下、好ましくは275℃以下、更に好ましくは270℃以下、好適には210℃未満である。射出温度はポリエチレン樹脂組成物のMFR(又はHLMFR)に応じて選択する。MFR(又はHLMFR)が低い場合には射出温度を高くし、高い場合には射出温度を低くする。プリフォームは射出金型内部で冷却されてから取り出される。
【0112】
ホットパリソン法においては、プリフォームを少なくとも結晶化温度以上、好ましくは融点以上の温度、具体的には、プリフォームを少なくとも125℃以上、好ましくは140℃以上、更に好ましくは141℃以上、好適には145℃以上の温度に維持し、延伸ブロー成形を行なう。これらの工程は単一製造装置で行なうことが好ましい。ホットパリソン法には、その成形方法の工程が、通常、プリフォームの射出成形、温度調整、延伸ブロー成形、成形品取出しを行なう四工程の成形方式と、プリフォームの射出成形、延伸ブロー成形、成形品取出しを行なう三工程の成形方式が知られており、本発明はどちらの成形方式も採用することができる。
【0113】
コールドパリソン法においては、プリフォームを成形環境温度まで冷却し、別の機械へ送ることができる。プリフォームの再加熱は、少なくとも結晶化温度以上、好ましくは融点以上の温度、具体的には、プリフォームを少なくとも125℃以上、好ましくは140℃以上、更に好ましくは141℃以上、好適には145℃以上の温度に加熱する。その後、プリフォームを延伸ブロー成形工程へ移し、プリフォームの密封端がブロー金型の内部に来るような状態で、最終容器形状と同じ形状を有するブロー金型内部に固定する。
【0114】
ホットパリソン法及びコールドパリソン法のいずれにおいても、延伸時に配向結晶の生成による強度の向上を図るために、ポリエチレン樹脂の延伸温度は、通常、樹脂の融点より低い温度、例えば融点より10~20℃低い温度で二軸延伸することが一般的である(特開昭59-140033号公報)。しかしながら、本発明においては、特定のポリエチレン樹脂組成物を用いることにより、結晶化温度又は融点よりも高い温度において延伸ブロー成形してもよい。
ホットパリソン法及びコールドパリソン法のいずれにおいても、延伸温度が低すぎるとポリエチレン樹脂組成物が変形し難く、延伸時に大きな力を必要とし、またブロー成形したとしても膨張が不十分となる傾向がある。延伸温度が高すぎるとブロー成形時にポリエチレン樹脂に延伸がされず配向結晶の生成による強度向上を期待できなくなる傾向がある。
【0115】
プリフォームは延伸ロッドとよばれる中心ロッドによって軸線方向に延伸され、プリフォームの壁をブロー金型の内部壁まで移動させる。プリフォームをブロー金型の形状まで放射状に延伸するために加圧気体を吹き込む。ブロー成形は0.05~4MPa、好ましくは0.1~3MPaの圧力の気体を用いて行なことができる。
プリフォームのブロー成形は二段階で実行することができる。即ち、低い気体圧力でプリフォームを最初にプレブローし、次に、高い気体圧力でプリフォームを最終形状までブロー成形することができる。プレブロー成形工程での気体圧力(一次圧力)は0.05~1MPaの範囲、好ましくは0.1~0.8MPaの範囲である。最終形状へのプリフォームのブロー成形の気体圧力(二次圧力)は0.5~4MPaの範囲、好ましくは0.5~3MPaの範囲であることが好ましい。
延伸ブロー成形に続いて容器を迅速に冷却し、ブロー金型から取り出す。
【0116】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、上記特性を満足するものであるので、射出延伸ブロー容器の成形において、パンク等が発生せずに成形性が良好であり、これを用いた本発明の成形体は、剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れる上に、優れた外観にしやすく、押出工程時に樹脂の発熱が抑制されるため、成形サイクルの短縮化を達成でき、優れた生産効率で製造することができる。
従って、このような特性を必要とする容器などの用途に適し、化粧品容器、洗剤、シャンプー及びリンス用容器、或いは食用油等の食品用容器等の用途に好適に用いることができる。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は上記特性を満足するものであるので、中でも、取っ手付きの前記各種容器本発明のポリエチレン樹脂組成物を用いた容器に好適に用いることができる。
【0117】
特に、本発明のポリエチレン樹脂組成物を用いた成形体である容器は、高速成形化、ハイサイクル化が可能であり、製品特性が優れる上に、経済的に有利な、洗剤、シャンプー及びリンス等の容器として好適である。
【実施例
【0118】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。
【0119】
1.測定方法
実施例で用いた測定方法は以下の通りである。
(1)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):
JIS K6922-2:1997に準拠して測定した。
(2)温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR):
JIS K6922-2:1997に準拠して測定した。
(3)密度:
JIS K6922-1,2:1997に準拠して測定した。
【0120】
(4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量、分子量分布及び分岐数の測定:
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
[測定条件]
使用機種:Polymer Char社製HT GPC-IR System
検出器:IR-6
測定温度:145℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)(酸化防止剤としてトリメチルフェノール3.6g/18L添加)
カラム:昭和電工社製Shodex HT-806M×2本
流速:1.0mL/分
注入量:20μL
【0121】
[試料の調製]
試料をバイアル瓶に5~8mg入れ、オートサンプラーにセットした。オートサンプラーで溶媒量8mL(室温)を注入し、150℃で2時間を要して溶解するようにプログラムした。ポンプ流量補正のためのフローマーカーとしてヘプタンを使用した。
【0122】
[検量線の作成]
標準ポリスチレンにより検量線を作成し、ポリエチレンに換算した。使用した標準ポリスチレンは、Showdex Standard SM-105のサンプルセット及びn-エイコサン、n-テトラコンタンを用いた。
【0123】
[分子量の計算]
前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラムを記録した。このクロマトグラムから、森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)第4章p.51~60に記載の方法で微分分子量分布曲線及び平均分子量値(Mn、Mw及びMz)を算出した。微分分子量分布曲線から分子量が5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率を求めた。ただし、dn/dcの分子量依存性を補正するため、クロマトグラムにおけるベースラインからの高さHを補正した。クロマトグラムの記録(データ取り込み)及び平均分子量計算は、Microsoft社製OS Windows(登録商標)XPをインストールしたPC上で専用ソフトウエア(GPC One、Polymer Char社製)を用いて行った。
【0124】
[分岐数指標の計算]
分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数は、GPC-IRにより、CH(メチレン)、CH(メチル)の濃度を測定し、分岐数既知の標準サンプル(炭素数1,000個当たりのCH(メチル)が2.6、16.5、21.0、33.5、又は45.3個の5点のポリエチレンサンプル)の検量線から求めた。
分子量が5万、10万、20万、30万及び40万での各成分の炭素数1,000個当たりの分岐数と重量分率から、下記式により分岐数指標を求めた。
[分岐数指標]=
[分子量5万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X5万
+[分子量10万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X10万
+[分子量20万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X20万
+[分子量30万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X30万
+[分子量40万の成分の炭素数1,000個当たりの分岐数]×[X40万
ここで、
[X5万]=[分子量5万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X10万]=[分子量10万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X20万]=[分子量20万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X30万]=[分子量30万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[X40万]=[分子量40万の重量分率]/[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]
[分子量5万、10万、20万、30万及び40万の重量分率の和]=[(分子量5万の重量分率)+(分子量10万の重量分率)+(分子量20万の重量分率)+(分子量30万の重量分率)+(分子量40万の重量分率)]
【0125】
(5)伸長粘度の変曲点(長鎖分岐構造)の有無:
試料をプレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mmのシートを作成した試験片を用い、レオメータ(Rheometrics社製Ares)を用い、170℃、歪み速度0.1/秒における伸長粘度の測定を行い、歪硬化の有無(伸長粘度の立ち上がりの有無)により、長鎖分岐構造の有無の確認を行った。
[測定条件]
装置:Rheometrics社製Ares
冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
測定温度:170℃
歪み速度:0.1/秒
試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成した。
[算出方法]
170℃、歪み速度0.1/秒における伸長粘度を、横軸に時間t(単位:秒)、縦軸に伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)を両対数グラフでプロットした。その両対数グラフ上で、歪硬化後、歪量が4.0となるまでの最大伸長粘度をηMax(t1)(t1は最大伸長粘度を示す時の時間)とし、歪硬化前の伸長粘度の近似直線をηLinear(t)としたとき、ηMax(t1)/ηLinear(t1)として算出される値を歪硬化度(λmax)と定義した。なお、歪硬化の有無は、時間の経過と共に伸長粘度が上に凸の曲線から下に凸の曲線へと変わる変曲点を有するか、否かによって、判断した。
【0126】
(6)溶融張力(MT):
溶融張力は、溶融させたポリエチレン樹脂組成物を一定速度で延伸したときの応力を測定することにより決定され、下記条件により測定した。
[測定条件]
使用機種:東洋精機製作所社製、キャピログラフ1B
ノズル径:2.095mm
ノズル長さ:8.0mm
流入角度:180°(flat)
押出速度:15mm/分
引き取り速度:6.5m/分
測定温度:190℃
【0127】
(7)引張衝撃強度(TIS):
JIS K6922-2に準拠して、1.5mmの圧縮成形シートを作成し、ASTM D1822に準拠して、S型ダンベルで打ち抜いた試験片を作成し、23℃、50%RHの条件で測定を行った。
【0128】
(8)耐環境応力亀裂性(FNCT):
全周囲ノッチ式クリープ試験を、ISO DIS 16770に準拠して行った。試料は、6mm×6mm×11mmの大きさの角柱の全周囲にカミソリ刃にて1mmのノッチが付けられ、4mm×4mmの大きさの断面を有した試験片を用意し、80℃の純水中で、3.7MPaに相当する引張応力を検体に与え、検体が破断するまでの時間を計測して、FNCTの破断時間とした。
【0129】
(9)射出延伸ブロー成形性:
実施例1に記載した容器の製造のようにして射出延伸ブロー成形された、内容積500mLの円筒形状容器(ボトル)について、容器として成形できたものを「良好(○)」、延伸ブロー成形時に破損(パンク)したものを「不良(×)」とした。
【0130】
(10)耐衝撃性:
引張衝撃強度(TIS)が130kJ/m以上であり、かつ式(1)に適合するものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0131】
(11)耐環境応力亀裂性:
耐環境応力亀裂性(FNCT)の破断時間が100時間以上であるものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0132】
(12)混ざり(成形体外観の目視確認):
以下の混ざり性評価法によってフィッシュアイの面積率を測定し、これを以って成形体外観の評価とした。
[混ざり性評価法]
測定するサンプルを、厚さ0.35mmのモールドと、圧縮加工用及び冷却用の2つのプレス成形機により、第1の工程で180℃の温度、100kgf/cmの圧力にて圧縮加工し、第2の工程で30℃の温度、50kgf/cmの圧力で冷却して厚さ0.4mmのプレスシートを成形する。このプレスシートをカットし、50×50×0.4mmの試験片とした。
次に、当該試験片を、二軸延伸装置で延伸した。二軸延伸装置は、柴山科学器械製作所社製二軸延伸装置SS-60型を使用し、温度150℃、延伸速度60mm/分にて当該試験片を2倍に延伸した。延伸の手順は、当該試験片の端四方1cm部分を二軸延伸装置の4点のチャック部でチャックし、プレスシートのチャックしていない中央部分が30×30mmの正方形となるようにセットした。その後、この試験片を130~170℃の温度に加熱し、対角し合うチャック間の距離が60mmとなるまで二軸延伸し、チャックをしていない中央部が約2倍に延伸したシートを作成した。
二軸延伸されたシートのほぼ中央に位置する30×30mmの正方形の範囲の表面を、反射式の3D顕微鏡を用いて画像撮影を行なった。3D顕微鏡の倍率は、10倍であり、撮影されるシートの範囲(一視野)は、10×10mmである。測定の信頼性を高めるため、当該測定は、1つのサンプルに対し、上記シート中央に位置する30×30mmの正方形の範囲で、各撮影視野が重ならないように、4回撮影を行なった。撮影された画像をフィッシュアイ部分、及び非フィッシュアイ部分(均一なマトリックス部分)に2値化処理した。2値化処理の条件は、測定者が設定し、その条件を全ての測定に用いた。
2値化処理された画像をスキャナーで読み込んでデジタル化し、画像データとした。
スキャナーの解像度は、600dpi以上であり、好ましくは900dpi以上である。スキャナーは、スキャナーGT-F670(EPSON社製、解像度:4800dpi)を用いた。
画像データの解析は、パーソナルコンピュータとその上で実行されるソフトウェアプログラムにより実現され、画像データは、パーソナルコンピュータで処理することにより、粒子個々の面積、周囲長、長短径比、粒径、円形度などの特徴パラメータの算出を行った。この場合の特徴パラメータの算出は、一般に市販されている画像処理ソフトウェアなどを利用でき、市販の画像解析ソフトウェアとして、三谷商事社製のWinROOF等を用いた。
画像データは、画像の黒色部分及び白色部分の配色のしきい値を定め、ある適当なレベルで2値化され処理される。2値化処理の条件は、測定者が設定し、その条件を全ての測定に用いた。
画像解析は、公知の手段により、各粒子の面積、周囲長、最大長、最大長垂直長(最大長に垂直な方向における長さ)などを算出し、それらから粒子の各種のパラメータを粒子ごとに算出することができ、算出されるパラメータには、粒子の円相当径(粒子の画像の面積に等しい面積の円の直径)、円形度(粒子の画像の面積に等しい面積の円の周囲長と画像の周囲長の比)、アスペクト比(粒子の画像の最大長と最大長垂直長の比)などとした。
なお、円相当径は、円相当径=(粒子の画像の面積値/π)1/2×2、円形度は、円形度=(粒子の画像の面積値を持つ円の周囲長)/(粒子の画像の周囲長)、アスペクト比は、(粒子の画像の最大長)/(粒子の画像の最大長垂直長)により算出される。
本発明においては、フィッシュアイの測定として、画像中に占めるフィッシュアイの面積率を求めた。1サンプルのフィッシュアイの面積率は、1つの試験片上で撮影された4視野で、それぞれ得られた測定値の平均値を算出した。
そして、画像中に占めるフィッシュアイの面積率が0.2%以下の場合を「1」、0.2超~0.5%の場合を「2」、0.5超~3.0%の場合を「3」、3.0超~5.0%の場合を「4」、5%超の場合を「5」として、評価した。
前記「1」又は「2」であった場合を「○」、それ以外を「×」とした。
【0133】
(13)総合評価:
ポリエチレン樹脂組成物としての適性を評価し、射出延伸ブロー成形性、耐衝撃性、耐環境応力亀裂性、及び混ざり(成形体外観)のいずれの項目も良好なものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0134】
2.実施例及び比較例
<メタロセン系触媒の合成>
十分に窒素置換した、誘導撹拌機を装着した円筒状フラスコに、平均粒径11μmのシリカ(平均粒径11μm、表面積313m/g、細孔体積1.6cm/g)を3g充填し、トルエンを75mL添加し、オイルバスにより75℃に加熱した。別のフラスコにメチルアルミノキサンのトルエン溶液(アルベマール社製、3.0mol-Al/L)を8.0mL分取した。ジメチルシリレンビス[1,1’-{2-(2-(5-メチル)フリル)-4-(p-イソプロピルフェニル)-インデニル}]ジルコニウムジクロリド(63.4mg、75μmol)のトルエン溶液(15mL)をメチルアルモキサンのトルエン溶液に室温で添加し、75℃に昇温した後、1時間撹拌した。次いで、75℃に加熱したシリカのトルエンスラリーに、このトルエン溶液を、撹拌しながら添加し1時間保持した。その後、23℃において撹拌しながらn-ヘキサンを175mL添加し、10分後、撹拌を停止し静置した。触媒を十分沈降させた後、上澄みを除去し、n-ヘキサンを200mL添加した。一旦撹拌した後、再度、静置し上澄みを除去した。この操作を3回繰り返して、n-ヘキサンに遊離してくる成分を除去した。更に、40℃加熱した状態で、減圧により溶媒を留去した。減圧度が0.8mmHg以下となってから、更に15分間減圧乾燥を継続しメタロセン系触媒(i)を得た。
<ファウリング防止成分の製造>
100mLのキシレンに、ポリエチレンイミン(分子量10,000)から誘導されたn-オクチル化ポリエチレンイミン(ポリエチレンイミンのモノマー単位当たり0.5個のn-オクチル基が導入されたもの)3gとリン酸エステル化合物であるフィチン酸1gを室温で混合、撹拌し、塩を形成させた。その後、ジオクチルスルホコハク酸エステルマグネシウム塩6gを混合し、ファウリング防止成分を得た。
【0135】
<ポリエチレン成分(A1)の製造>
上記メタロセン系触媒によるエチレン・1-ヘキセン共重合を行なうことにより、ポリエチレン成分(A1)を製造した。即ち、内容積290Lのループ型スラリー反応器に、脱水精製イソブタン115L/h、トリイソブチルアルミニウムを0.13mol/h、ファウリング防止成分Bを6mL/h供給し、反応器内の温度を80℃として、圧力を4.2MPaGに保つように反応器から間欠的に排出しながら、エチレン、1-ヘキセン、水素を供給して、重合中の液中の1-ヘキセンとエチレンのモル比(C/C)が0.010、水素とエチレンのモル比(H/C)が3.4×10-4になるように調節した。次に、ヘキサンで0.3g/Lに希釈した触媒Aのヘキサンスラリーを3L/hで反応器に供給して重合を開始し、反応器内のエチレン濃度が10vol%になるようにエチレンを供給した。生成したポリエチレンはイソブタンとともに間欠的に排出され、フラッシュさせた後、製品サイロに送った。
この時得られたポリエチレン成分(A1)のHLMFRは1.4g/10分であり、密度は0.919g/cm、Mw/Mnは3.6であった。
【0136】
<ポリエチレン成分(A2)の製造>
上述するポリエチレン成分(A1)の製造方法に準じて、MFRが3.0g/10分、密度が0.920g/cm、Mw/Mnが3.7の重合体を製造した。
【0137】
<ポリエチレン成分(A3)の製造>
上述するポリエチレン成分(A1)の製造方法に準じて、MFRが0.6g/10分、密度が0.920g/cm、Mw/Mnが3.1の重合体を製造した。
【0138】
<チーグラーナッタ系触媒の合成>
直径が10mmの磁性ボール約700個を入れた内容積が1Lのポット(粉砕用容器)に窒素雰囲気で市販のマグネシウムエチラート(平均粒径860μm)20g(17.8mmol)、粒状の三塩化アルミニウム1.64g(12.3mmol)及びジフェニルジエトキシシラン2.40g(8.81mmol)を入れた。次いで、振動ボールミルを用い、振幅が6mm及び振動数が30Hzの条件で3時間共粉砕を行なった。共粉砕後、内容物を窒素雰囲気下で磁性ボールと分離した。
以上のようにして得られた共粉砕生成物10.0g及び40mLのヘプタンを200mLの三つ口フラスコに加えた。撹拌しながら室温において10.0g(52.7mmol)の四塩化チタンを滴下し、90℃まで昇温し、90分間撹拌を続けた。次いで、反応系を冷却した後、上澄み液を抜き取り、ヘキサンを加えた。この操作を3回繰り返した。得られた淡黄色の固体を50℃にて減圧下で6時間乾燥を行なって、固体触媒15.6gを得た。
この固体触媒のヘキサンスラリー溶液を誘導撹拌装置付き重合反応器に入れ、温度を40℃に維持し、0.27mmolのトリイソブチルアルミニウムを加えて水素分圧0.074MPa、エチレン分圧0.20MPaにて予備重合を実施し、固体触媒1gあたりポリマー生成量0.46gの予備重合チーグラーナッタ系触媒を得た。
【0139】
<ポリエチレン成分(B1)>
2つの重合液体充填ループ型反応器が直列に連結された二槽連続重合装置に、脱水精製イソブタン、トリイソブチルアルミニウム、上記チーグラーナッタ系触媒の合成で得られた予備重合チーグラーナッタ系触媒、及びエチレンを連続的に供給して95℃でエチレンを重合することにより、成分(B1)の製造を実施した。なお成分(B1)のHLMFRの調節は水素を適量供給することにより実施した。
当該重合体のMFRは7.5g/10分、密度は0.963g/cm、Mw/Mnは7.4であった。
【0140】
<ポリエチレン成分(B2)>
前記ポリエチレン成分(B1)の製造方法に準じて、チーグラーナッタ系触媒により重合されたエチレン系重合体を使用した。当該エチレン系重合体のMFRは20g/10分、密度は0.964g/cm、Mw/Mnは6.0であった。
【0141】
<ポリエチレン成分(B3)>
前記ポリエチレン成分(B1)の製造方法に準じて、チーグラーナッタ系触媒により重合されたエチレン系重合体を使用した。当該エチレン系重合体のMFRは50g/10分、密度は0.966g/cm、Mw/Mnは7.4であった。
【0142】
[実施例1]
<ポリエチレン樹脂組成物の製造>
表1の実施例1に記載の組成割合の組成物に、添加剤として、BASFジャパン社製IRGANOX B225を1,000ppm、及び淡南化学工業社製ステアリン酸カルシウムを500ppm配合し、東芝機械社製TEM26SX(スクリュー径:26mm、L/D=64)を用い、設定温度:200℃、スクリュー回転数:200rpm、吐出量:15kg/hrの条件でペレット化を行った。
当該ポリエチレン樹脂組成物の物性及び評価結果を表1に示した。得られた組成物は、各成分の相溶性が良好で、適切な流動性と溶融張力により、射出延伸ブロー成形性にも優れ、なおかつ破断時間が長く、引張衝撃強度が高く、成形体の外観が良好であった。
【0143】
<容器の製造>
上記のポリエチレン樹脂組成物を用いて、射出成形機により、樹脂温度250℃以下の条件において、プリフォーム成形金型のキャビティー温度60℃、インコア温度60℃の状態で、一端が閉塞した筒状の有底パリソン(プリフォーム)を製造した。プリフォームの重量は30g、全体の高さは約120mm(口部の高さが約20mm、胴部の高さが約100mm)、口部の外径は約23mm、胴部の外径は約25mm、壁厚みは約3.2mmであった。
上記のプリフォームをプリフォーム成形金型から離型させ、一端延伸温度以下にプリフォームの温度を下げた後、延伸ブロー成形を行なった。延伸ブロー成形時のプリフォームの温度は128℃であり、延伸ブロー金型の温度は20℃であった。プリフォームを延伸ロッドにて延伸させるとともに、プリフォームの内部に気体を吹込み、内容積が約500mLの容器を成形した。プリフォームの内部への気体の吹込みは、二段階で行ない、一次ブロー圧力は0.8MPa、二次ブロー圧力は2.5MPaであった。延伸倍率は、高さ方向(軸方向)が約1.8倍、幅方向(半径方向)が約2.6倍であった。延伸ブロー成形後の容器は、口部の外径が約23mm、口部の高さが約20mm、胴部の外径が約65mm、胴部の高さが約180mmであった。
【0144】
[実施例2~8、比較例1~13]
表1及び表2に示す組成物となるように条件設定した以外は、実施例1と同様にポリエチレン樹脂組成物を製造した。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性及び評価結果を表1及び表2に示した。
【0145】
[結果のまとめ]
図3は実施例と比較例のポリエチレン樹脂組成物のHLMFRと引張衝撃強度(TIS)との関係を示す図である。
図4は、実施例と比較例のポリエチレン樹脂組成物のHLMFRと溶融張力(MT)の関係を示す図である。
【0146】
実施例1~8のポリエチレン樹脂組成物は、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、成形体の剛性と耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性のバランスに優れ、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるものであった。
【0147】
一方、特性(6)を満足しない比較例1、3、6、7、8、9、10、12、13のポリエチレン樹脂組成物は、耐衝撃性が劣るものであった。また、比較例1、7のポリエチレン樹脂組成物は、耐環境応力亀裂性についても劣っていた。
特性(5)を満足しない比較例2、4、5、10のポリエチレン樹脂組成物は、耐衝撃性が劣るものであった。
ポリエチレン成分(A)を用いない比較例6、7、8、9、10、11、12のポリエチレン樹脂組成物は、混ざりが劣るものであった。
特性(1)を満足しない比較例8、11、12のポリエチレン樹脂組成物は、射出延伸ブロー容器の成形において容器がパンクした。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば、射出延伸ブロー成形において、成形性が良好であり、且つ樹脂成分の相溶性が高く、成形体の外観に優れるポリエチレン樹脂組成物及びそれを用いた成形体及び容器を提供できる。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、成形時の高流動性に優れ、本発明の成形体は、剛性、耐環境応力亀裂性及び耐衝撃性などにも優れる。
従って、本発明のポリエチレン樹脂組成物及びその成形体は、このような特性を必要とする容器などの用途に適し、特に、外観に優れる化粧品容器、洗剤、シャンプー及びリンス用容器、或いは食用油等の食品用容器等の用途に好適に用いることができる。
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、上記のように、性能が優れているので、上記容器以外に、このような特性を必要とする灯油缶、薬品容器等にも、好適に用いることができるため、産業上大いに有用である。
図1
図2
図3
図4