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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241217BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241217BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241217BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M4/136
H01M4/40
H01M4/134
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021021716
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124127
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 淳史
(72)【発明者】
【氏名】荻原 航
(72)【発明者】
【氏名】藤本 美咲
(72)【発明者】
【氏名】大谷 一生
(72)【発明者】
【氏名】李 珍光
(72)【発明者】
【氏名】小野 正樹
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-18547(JP,A)
【文献】特開2012-256550(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047566(WO,A1)
【文献】特開2013-120700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/00-4/62
H01M10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む正極活物質と、固体電解質と、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物と、を含有する正極活物質層を含む正極と、
リチウムを含む負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、
を有する発電要素を備えた全固体リチウム二次電池と、
前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定し、前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止する制御を行う制御部と、
を含む、全固体リチウム二次電池システム。
【請求項2】
前記酸化物が、金属酸化物である、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池システム。
【請求項3】
前記酸化物が、マンガン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物またはスズ酸化物である、請求項2に記載の全固体リチウム二次電池システム。
【請求項4】
前記正極活物質層における前記酸化物の含有量は、前記酸化物以外の成分の合計100質量%に対して0.01~20質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記正極と前記負極との電位差として定義される前記全固体リチウム二次電池のセル電圧の値に基づいて前記判定を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記セル電圧の降下率または単位時間当たりの降下量が所定のしきい値以下であるか否かを判定し、前記降下率または前記降下量が前記しきい値以下であるときに前記反応電流が発生したと判定する、請求項5に記載の全固体リチウム二次電池システム。
【請求項7】
前記固体電解質は、硫化物固体電解質である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池システム。
【請求項8】
硫黄を含む正極活物質と、固体電解質と、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物と、を含有する正極活物質層を含む正極と、
リチウムを含む負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、
を有する発電要素を備えた全固体リチウム二次電池の制御方法であって、
前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定することと、
前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止することと、
を含む、全固体リチウム二次電池の制御方法。
【請求項9】
硫黄を含む正極活物質と、固体電解質と、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物と、を含有する正極活物質層を含む正極と、
リチウムを含む負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、
を有する発電要素を備えた全固体リチウム二次電池の制御装置であって、
前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定し、前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止する制御を行う制御部を含む、全固体リチウム二次電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウム二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。例えば、硫黄単体(S)は、1670mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有し、低コストで資源が豊富であるという利点を備えている。
【0006】
一般に、二次電池の劣化を防ぐという観点からは、二次電池が完全放電状態からさらに放電されるいわゆる「過放電」の発生を防止することが好ましい。このような過放電に関する技術として、特許文献1には、液系のリチウム硫黄電池における負極集電体としての銅箔からの銅イオンの溶出や、銅イオンよりもイオン化傾向の大きい鉄イオンのセルケースからの溶出を防止する技術が開示されている。具体的に、特許文献1では、リチウム硫黄電池を液系ではなく、硫化物固体電解質などの無機固体電解質を用いた固体電池とすることで、上述した問題に対して対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-225581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らの検討によれば、正極活物質層が固体電解質を含む全固体リチウム二次電池において過放電が進行すると、正極活物質層に含まれる固体電解質の還元分解が生じ、正極活物質と固体電解質とが共存する反応界面が減少して、電池のエネルギー密度が低下することが判明した。ここで、上述した特許文献1に記載の技術は、過放電が進行した場合における無機固体電解質それ自体の還元分解を抑制するためのものではない。したがって、特許文献1に記載の技術をもってしても、上述したような過放電の進行に起因する固体電解質の還元分解やそれによる電池のエネルギー密度の低下を防止することはできない。
【0009】
そこで本発明は、硫黄を含む正極活物質および固体電解質を正極に含む全固体リチウム二次電池において、過放電の進行に起因するエネルギー密度の低下を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、硫黄を含む正極活物質および固体電解質を正極に含む全固体リチウム二次電池において、所定の酸化還元電位を有する酸化物を正極活物質層に含ませておき、電池の放電処理を行う際に前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定し、前記反応電流が発生したと判定されたときに放電処理を停止することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の一形態に係るリチウム二次電池システムは、硫黄を含む正極活物質と、固体電解質と、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物と、を含有する正極活物質層を含む正極と、リチウムを含む負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層とを有する発電要素を備えた全固体リチウム二次電池を含む。そして、当該システムは、前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定し、前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止する制御を行う制御部をさらに含む点に特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硫黄を含む正極活物質および固体電解質を正極に含む全固体リチウム二次電池において、過放電の進行に起因するエネルギー密度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウム二次電池システムの構成を説明するためのブロック図である。
図2図2は、硫黄単体(S)を正極活物質として含有するリチウム二次電池の放電時におけるサイクリックボルタモグラムである。
図3図3は、二次電池システム1における放電処理の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。
図5図5は、図4に示す5-5線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下では、二次電池の一形態である、非双極型(内部並列接続型)の全固体リチウム二次電池を例に挙げて本発明を説明する。上述したように、全固体リチウム二次電池を構成する固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しないという利点がある。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れるという利点もある。
【0015】
[二次電池システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウム二次電池システムの構成を説明するためのブロック図である。
【0016】
この全固体リチウム二次電池システム(以下、「二次電池システム1」とも称する)は、全固体リチウム二次電池(以下、「二次電池2」とも称する)を備える。そして、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)を測定する電圧センサー3、二次電池2における電力の出入りを調整する電圧電流調整部4、二次電池2の充放電電流を測定する電流センサー5、二次電池2の充放電を制御する制御部6を備える。また、電圧電流調整部4は外部負荷7に接続されていて放電時には外部負荷7へ電力を供給する一方、充電時には電圧電流調整部4を介して外部電源(図示せず)から電力の供給を受ける(詳細は後述する)。
【0017】
以下、各部の詳細を説明する。
【0018】
二次電池2は、硫黄を含む正極活物質と、固体電解質と、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物と、を含有する正極活物質層を含む正極(以下、単に「硫黄含有正極」とも称する)と、リチウムを含む負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層とを有する発電要素を備える。なお、全固体リチウム二次電池の詳細については後述するが、硫黄単体(S)を正極活物質として含有するリチウム二次電池の放電時におけるサイクリックボルタモグラムを図2に示す。図2に示すサイクリックボルタモグラムによれば、硫黄含有正極を放電する際に硫黄単体(S)へのリチウムイオンの挿入反応(S+2Li→LiS)が進行して反応電流が流れる電位(硫黄の反応電位)の範囲は約1.5~3.1[V vs.Li+/Li]であることがわかる。
【0019】
ここで、上述した硫黄の反応電位を下回るまで硫黄含有正極の電位が低下して(過放電の発生)、約0.5[V]前後にまで到達すると、正極活物質層に含まれる固体電解質が還元されて分解する反応が生じる。このような還元分解反応が生じた固体電解質においては、充放電時におけるリチウムイオン伝導性が大幅に低下する。その結果、正極活物質および固体電解質(さらには導電助剤)が共存する反応界面が減少し、リチウム二次電池のエネルギー密度が大きく低下してしまう。
【0020】
これに対し、本形態に係る全固体リチウム二次電池システムにおいては、正極を構成する正極活物質層に、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物が含まれている。これにより、硫黄含有正極の電位が固体電解質の還元分解が進行する電位に到達する前に、上述したような過放電の発生を検知することが可能となる。例えば、図2に示す実施形態では、約1.0[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有するマンガン酸化物(MnO;酸化マンガン(II))が、上記酸化物として正極活物質層に含有されている。ここで、このような構成を有する硫黄含有正極を備えた全固体リチウム二次電池の放電時に過放電が発生した場合を考える。過放電の発生により硫黄の反応電位を下回るまで硫黄含有正極の電位が低下し、正極の電位がマンガン酸化物の酸化還元電位に到達すると、酸化物(マンガン酸化物)へのリチウムイオンの挿入反応が進行する。本形態に係るリチウム二次電池システムにおいては、このような酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流の発生を検知したときに、放電処理を停止する制御を実施するのである。これにより、正極活物質層に含まれる固体電解質の還元分解反応の進行を防止することができ、正極活物質および固体電解質(さらには導電助剤)が共存する反応界面の減少を抑制できる。その結果、全固体リチウム二次電池のエネルギー密度の低下を防止することが可能となる。
【0021】
電圧センサー3は、例えば電圧計でよく、二次電池2の正極と負極との電位差として定義される二次電池2のセル電圧(端子間電圧)を測定する。なお、セル電圧Vは正極の平衡電位と負極の平衡電位との電位差として算出される。電圧センサー3の取り付け位置は特に制限されず、二次電池2に接続される回路内において正極と負極との間のセル電圧を測定することができる位置であればよい。
【0022】
電圧電流調整部4は、二次電池2の充電時には、制御部6からの指令に基づいて外部電源(図示せず)からの電力の電圧および電流を調整し、前記電力を二次電池2へ供給する。また、二次電池2の放電時には、電圧電流調整部4は、二次電池2から放電された電気を外部負荷7へ放出する。
【0023】
電流センサー5は、例えば電流計である。電流センサー5は、二次電池2の充電時には電圧電流調整部4から二次電池2へ供給される電力の電流値を測定し、放電時には二次電池2から電圧電流調整部4へ供給される電力の電流値を測定する。電流センサー5の取り付け位置は特に制限されず、電圧電流調整部4から二次電池2に電力を供給する回路内に配置されて、充放電時の電流値を測定することができる位置であればよい。
【0024】
制御部6は、例えば、CPU61や記憶部62などを含んでいる、いわゆるコンピューターである。制御部6は、後述する手順に従って、二次電池2に放電処理を行う際に当該放電処理の条件を制御する。このような制御部6としては、電気自動車においては、例えばECU(Electronic Control Unit)などを用いるようにしてもよい。
【0025】
ここで、記憶部62は、CPU61がワーキングエリアとして使用するRAMのほかに、不揮発性メモリーを搭載している。不揮発性メモリーには、本実施形態における二次電池2の充放電処理の条件の制御を行うためのプログラムを記憶している。
【0026】
また、記憶部62は、二次電池2の放電電流Iの積算値と、二次電池2の充電状態(SOC;State of Charge)との関係を示すマップを記憶している。さらに、記憶部62は、本実施形態に係る制御を実行するSOCの範囲を規定する、SOCの上限のしきい値(SOC)およびSOCの下限のしきい値(SOC)を記憶している。すなわち、本実施形態に係る制御は、二次電池2のSOCがSOC超SOC以下であるときに行われる。SOCの上限のしきい値(SOC)は、ある程度放電処理が進行したときのSOCであればよく、過放電が発生しうるセル電圧を考慮して設定される。SOCは、例えば10%である。また、SOCの下限のしきい値(SOC)は、ほぼ完全放電に達したとみなされうるSOCである。SOCは、例えば0%である。これらのしきい値を設定した場合、本実施形態に係る制御は、SOCが0%超10%以下のときに実行される。そして、記憶部62は、本実施形態に係る制御において上述した酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したことの指標として、単位時間当たりのセル電圧の降下量ΔVの上限のしきい値(ΔV)を記憶している。本実施形態に係る制御においては、単位時間当たりのセル電圧の降下量ΔVがΔV以下となったときに上記反応電流が発生したと判定し、放電処理を停止する制御を行う。
【0027】
[放電処理]
このように構成された二次電池システム1における放電処理の手順を説明する。
【0028】
この放電処理は、二次電池システム1が外部負荷7に接続されて、二次電池2から外部負荷7へ電力が供給可能な状態において行われる。また、本実施形態における放電処理の制御は、二次電池2の電圧が所定電圧となるまで行う定電流(CC)充電方式である。
【0029】
本実施形態における放電処理は、正極活物質層に含まれる酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定しつつ行われる。具体的には、電圧センサー3によって所定時間毎に測定される二次電池2のセル電圧の値に基づいて、当該セル電圧の単位時間当たりの降下量(ΔV)が所定のしきい値(ΔV)以下であるか否かを指標として、前記セル電圧の単位時間当たりの降下量(ΔV)が前記しきい値(ΔV)以下であるときに前記反応電流が発生したと判定される。そして、前記反応電流が発生したと判定されると、本実施形態における放電処理は停止される。なお、特に断りのない限り、この放電処理の制御は制御部6によって行われる。以下、図3を参照してこの放電処理の手順を説明する。図3は、二次電池システム1における放電処理の手順を示すフローチャートである。
【0030】
まず、制御部6は、二次電池2の放電処理を行う制御を開始する(ステップS101)。具体的には、電圧電流調整部4を介して外部負荷7へ電力を供給して、放電処理を開始する(本実施形態では、定電流(CC)放電を開始する)。
【0031】
続いて、制御部6は、電流センサー5から放電電流Iを取得し、電圧センサー3から電池電圧Vを取得する(ステップS102)。そして、本実施形態において、制御部6は、電流センサー5から取得した放電電流Iの積算値に基づいて、二次電池2の充電状態(SOC)の値を算出する(ステップS103)。その後、制御部6は、ステップS103で算出した二次電池2のSOCの値が、予め設定され記憶部に記憶された、本実施形態に係る制御を実行するSOC範囲の上限のしきい値(SOC)以下であるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、SOCの値がSOC以下ではないと判定されれば(S104:NO)、制御部6は、ステップS102からの制御を繰り返す。一方、SOCの値がSOC以下であると判定されれば(S104:YES)、制御部6は、ステップS103で算出した二次電池2のSOCの値が、予め設定され記憶部に記憶された、本実施形態に係る制御を実行するSOC範囲の下限のしきい値(SOC)以下であるか否かを判定する(ステップS105)。ここで、SOCの値がSOC以下であると判定されれば(S105:YES)、制御部6は、二次電池2の放電処理を停止し(ステップS106)、本制御を終了する。一方、SOCの値がSOC以下ではない(つまり、SOCの値がSOC超である)と判定されれば(S105:NO)、制御部6は、ステップS102で取得したセル電圧Vについて、単位時間当たりの降下量ΔVを演算する(ステップS107)。具体的には、ある時点tにおいて取得されたセル電圧Vと、当該時点から一定時間(例えば、10秒)経過後の時点tに取得されたセル電圧Vとから、1秒間当たりのセル電圧の降下量ΔV=(V-V)/(t-t)を演算する。次いで、制御部6は、このようにして演算された単位時間当たりのセル電圧の降下量ΔVが、予め設定され記憶部に記憶された、単位時間当たりのセル電圧の降下量ΔVの上限のしきい値(ΔV)以下であるか否かを判定する(ステップS108)。ここで、ΔVの値がΔV以下ではないと判定されれば(S108:NO)、制御部6は、ステップS102からの制御を繰り返す。一方、ΔVの値がΔV以下であると判定されれば(S108:YES)、制御部6は、二次電池2の放電処理を停止し(ステップS106)、本制御を終了する。
【0032】
上述したような制御を実施することにより、硫黄含有正極の電位が固体電解質の還元分解が進行する電位にまで低下する前に、酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流の発生を指標として、過放電の発生を検知することが可能となる。そして、過放電の発生が検知されたときに放電処理を停止する制御を実施することにより、正極活物質層に含まれる固体電解質の還元分解反応の進行を防止することができ、正極活物質および固体電解質(さらには導電助剤)が共存する反応界面の減少を抑制できる。その結果、全固体リチウム二次電池のエネルギー密度の低下を防止することが可能となる。
【0033】
以上、本発明に係る制御について詳細に説明したが、図面を参照しつつ説明した実施形態はあくまでも一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内において適宜改変して本発明を実施してもよい。例えば、上述した実施形態において、酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かの判定は、単位時間当たりのセル電圧の降下量ΔVの値に基づいて行われている。具体的に、制御部6は、酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かの判定にあたって、ΔVを演算し、これが所定のしきい値ΔV以下であるか否かに基づいて、上記反応電流が発生したか否かを判定している。ただし、上記反応電流が発生したか否かの判定の方法は、このような形態のみに限定されない。例えば、ΔVの降下率を微分係数として連続的に測定可能である場合には、そのように測定されたΔVの降下率が所定値以下であるか否かに基づいて上記反応電流の発生の有無を判定してもよい。
【0034】
また、上述した実施形態において、ΔVの値に基づく制御を実行する必要があるか否かの判定は、二次電池2の充電状態(SOC)の値に基づいて行われている。具体的に、制御部6は、ΔVの値に基づく制御を実行する必要があるか否かの判定にあたって、放電電流Iの積算値に基づいて二次電池2のSOCを算出し、これがSOC超SOC以下の範囲内の値であるか否かに基づいて、ΔVの値に基づく制御を実行する必要があるか否かを判定している。このように、上記判定を二次電池2の充電状態(SOC)の値に基づいて行うことで、過電圧の影響を排除することができ、精密な制御が可能となるという利点がある。ただし、ΔVの値に基づく制御を実行する必要があるか否かの判定の方法は、このような形態のみに限定されない。例えば、二次電池2の正極と負極との電位差として定義されるセル電圧Vの値に基づいて、上記の判定を行う方法が挙げられる。このような方法によれば、電圧センサー3によって検出されるセル電圧Vの値を利用することが可能であるため、簡便な手法によって制御が可能であるという利点がある。
【0035】
なお、本発明の他の形態によれば、上述した全固体リチウム二次電池を制御する、全固体リチウム二次電池の制御方法が提供される。全固体リチウム二次電池を制御する全固体リチウム二次電池の制御方法は、前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定することと、前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止することとを含むものである。
【0036】
また、本発明のさらに他の形態によれば、上述した全固体リチウム二次電池を制御する、全固体リチウム二次電池の制御装置が提供される。全固体リチウム二次電池を制御する全固体リチウム二次電池の制御装置は、前記全固体リチウム二次電池の放電処理を行う際に、前記酸化物へのリチウムイオンの挿入反応に対応する反応電流が発生したか否かを判定し、前記反応電流が発生したと判定されたときに、前記放電処理を停止する制御を行う制御部(上述した制御部6がこれに相当する)を含むものである。
【0037】
以下、上述した実施形態に係る全固体リチウム二次電池の構成要素について説明する。
【0038】
図4は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。図5は、図4に示す5-5線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図4および図5に示す扁平積層型の双極型でない全固体リチウム二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る全固体リチウム二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0039】
図4に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0040】
また、図4に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図4に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0041】
図5に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0042】
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0043】
以下、本形態に係る全固体リチウム二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0044】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0045】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0046】
[負極(負極活物質層)]
本形態に係る二次電池において、負極活物質層13は、リチウムを含む負極活物質を含む。このような負極活物質は、充電時には正極から脱離したリチウムイオンを吸蔵し、放電時にはリチウムイオンを放出する。リチウムを含む負極活物質の種類としては、特に制限されないが、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0047】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0048】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、イオン伝導性に優れるという観点からは、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0049】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0050】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、活物質層に含まれる硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。
【0051】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0052】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0053】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0054】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0055】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0056】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0057】
負極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0058】
[固体電解質層]
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。
【0059】
固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。ただし、固体電解質の全量100質量%に占める硫化物固体電解質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0060】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。
【0061】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウムイオン二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。
【0062】
[正極活物質層]
本形態に係る二次電池において、正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質を含む。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、LiS、TiS、TiS、TiS4、NiS、NiS、CuS、FeS、MoS、MoS等が挙げられる。なかでも、S、LiS、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS4、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、LiS、TiSおよびFeSがより好ましく、高容量であるという観点からは硫黄単体(S)またはLiSが特に好ましい。なお、硫黄単体(S)としては、S構造を有するα硫黄、β硫黄、またはγ硫黄が用いられうる。これらの硫黄単体(S)は、放電時においてはリチウムイオンを吸蔵してリチウムの(多)硫化物の形態で正極活物質層中に存在する。
【0063】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。ただし、正極活物質の全量100質量%に占める硫黄を含む正極活物質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0064】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、35~99質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0065】
また、正極活物質層は、固体電解質を必須に含み、当該固体電解質は硫化物固体電解質を含むことが好ましい。硫化物固体電解質などの固体電解質の具体的な形態および好ましい形態については、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。さらに、正極活物質層は、導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよい。
【0066】
本形態に係る全固体リチウム二次電池において、正極活物質層は、0.5~1.5[V vs.Li+/Li]の酸化還元電位を有する酸化物をも必須に含む。このような酸化物としては、上記の酸化還元電位を有するものであれば特に制限はないが、例えば、金属酸化物が挙げられる。これらの材料は、正極活物質層内において安定に存在することができ、正極活物質による充放電反応に悪影響を及ぼすことなく過放電の発生の検知に寄与しうるため、好ましい。このような金属酸化物としては、例えば、遷移金属または典型元素に分類される金属を含む酸化物が挙げられ、具体的には、マンガン酸化物(例えば、酸化マンガン(II))、コバルト酸化物、鉄酸化物、およびスズ酸化物などが挙げられる。なかでも、マンガン酸化物が好ましく、酸化マンガン(II)(MnO)がより好ましい。
【0067】
正極活物質層における上記所定の酸化物の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、上記所定の酸化物以外の成分の合計100質量%に対して0.01~20質量%の範囲内であることが好ましく、硫黄を含む正極活物質の含有量が低下することによるエネルギー密度の低下を抑制するという観点からは、上記所定の酸化物以外の成分の合計100質量%に対して0.01~2質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0068】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0069】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11”、11’)と集電板(27、25)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0070】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図4および図5に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。
【0071】
以上、全固体リチウム二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0072】
例えば、本形態に係る全固体リチウム二次電池において、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
【0073】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0074】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池(電池モジュール、電池パックなど)を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0075】
[車両]
電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下において、グローブボックス内で用いた器具および装置等は、事前に十分に乾燥処理を行った。
【0077】
《全固体リチウム二次電池の作製例》
<比較例1>
(正極合剤の調製)
まず、正極活物質としての硫黄単体(S)、導電助剤としての多孔質カーボン(関西熱化学株式会社製、活性炭、MSC-30)、および硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)を、50:10:40の質量比となるように秤量し、グローブボックス内で内容積150mLのジルコニア製ボールミルポットに合計量が0.5gとなるように入れた。次いで、上記ポットにジルコニアボールを入れ、ポットの蓋を閉めて密閉し、遊星ボールミル装置を用いて280ppmにて12時間、粉砕混合し、その後に160ppmにて1時間混合して、得られた硫黄複合体を正極合剤とした。
【0078】
(試験用セルの作製)
上記と同様の硫化物固体電解質を100mg秤量し、φ10mmのステンレス製のピンを差し込んだマコール管へ入れ、上部のピンを差し込んだ後、油圧プレス機を用いて100MPaの圧力でプレスすることにより、固体電解質層を作製した。
【0079】
次いで、上記で調製した正極合剤を7mg秤量し、上部のピンを取り外して、上記で作製した固体電解質層上にこの正極合剤を添加した。再び上部のピンを差し込んだ後、油圧プレス機を用いて300MPaの圧力でプレスすることにより、固体電解質層に正極活物質層を圧着した。
【0080】
一方、インジウム箔とリチウム箔とを貼り合わせ、正極活物質層とは反対側の固体電解質層の表面に、インジウム箔側が固体電解質層に向くように配置し、再び上部のピンを差し込んだ後、油圧プレス機を用いて100MPaの圧力でプレスすることにより、固体電解質層にIn-Li箔を圧着した。
【0081】
このようにして得られた発電要素を拘束部材を用いて100MPaの圧力で拘束することにより、本比較例の試験用セルを作製した。
【0082】
<実施例1>
正極合剤の作製において、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して0.01質量%の量の酸化マンガン(II)(MnO)を添加したこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0083】
<実施例2>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して0.05質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0084】
<実施例3>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して0.1質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0085】
<実施例4>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して0.2質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0086】
<実施例5>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して0.5質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0087】
<実施例6>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して1質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0088】
<実施例7>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して2質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0089】
<実施例8>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して5質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0090】
<実施例9>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して10質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0091】
<実施例10>
酸化マンガン(II)の添加量を、硫黄単体(S)、多孔質カーボン、および硫化物固体電解質の合計100質量%に対して15質量%に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0092】
《全固体リチウム二次電池の評価例》
以下の手法により、上記で作製した試験用セルを評価した。なお、試験用セルの評価は、電池充放電装置(北斗電工株式会社製、HJ1020mSD8)を用いて行い、この際、記録レンジは1point/10mV、1point/1secとした。
【0093】
(電池容量の確認)
定電流・定電圧(CCCV)モードで充電処理を行い、定電流(CC)モードで放電処理を行って、電池容量を確認し、エネルギー密度を算出した。この際、電圧範囲は1.1~2.5Vとし、充放電時の電流レートは0.05Cとし、充電時のカットオフ電流は0.01Cとした。このようにして算出されたエネルギー密度を、比較例1の値を100%とした場合の相対値として下記の表1に示す。
【0094】
(過放電試験)
充電レートを0.05Cに設定し、カットオフ電圧を-0.6Vとして、放電処理を行った。この際、1秒毎にセル電圧を記録した。そして、硫黄の反応電位を下回るセル電圧の領域において、10秒間の電圧降下幅が1mV/秒(つまり、10秒間で10mV)以下となったときに、酸化マンガン(II)へのリチウムイオンの挿入反応が進行したと判断して、放電処理を停止した。このような酸化マンガン(II)の反応を検知できたか否かを下記の表1に示す。なお、検知が可能であった場合を「〇」、検知できなかった場合を「×」で示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示す結果から、正極活物質層に酸化物である酸化マンガン(II)を含ませることにより、過放電領域のセル電圧を検知することが可能となり、過放電が進行する前に放電処理を停止することが可能であることがわかる。これに対し、正極活物質層に酸化マンガン(II)を添加していない比較例1では、このような過放電を検知することができなかった。したがって、比較例1の試験用セルにおいてそのまま過放電が進行すれば正極活物質層に含まれる固体電解質の還元分解反応が進行し、全固体リチウム二次電池のエネルギー密度は低下する。なお、正極活物質である硫黄単体の組成比が小さくなると電池のエネルギー密度は低下することから、酸化物(酸化マンガン(II))の添加量は少ないほど好ましく、特に正極合剤に対する添加量が2質量%以下であれば、エネルギー密度の相対値を95%以上に維持することが可能であることもわかる。
【符号の説明】
【0097】
1 全固体リチウム二次電池システム、
2 全固体リチウム二次電池、
3 電圧センサー、
4 電圧電流調整部、
5 電流センサー、
6 制御部、
7 外部負荷、
10a 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム、
61 CPU、
62 記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5