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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】織編物
(51)【国際特許分類】
   D03D 11/00 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021024235
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126262
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】勝部 禎一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敬人
(72)【発明者】
【氏名】松生 良
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-053738(JP,A)
【文献】登録実用新案第3195496(JP,U)
【文献】特開平02-104741(JP,A)
【文献】特開2014-185413(JP,A)
【文献】特開平05-230776(JP,A)
【文献】特許第3994054(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2008/0220703(US,A1)
【文献】国際公開第2010/059128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 11/00
D03D 15/217
D03D 15/283
D03D 15/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル原着糸、カチオン可染ポリエステル繊維糸条および/またはセルロース系繊維糸条ならびに接結糸からなり、ポリエステル原着糸を表面に、カチオン可染ポリエステル繊維糸条および/またはセルロース系繊維糸条を裏面に配した多重組織織編物であって、前記接結糸がポリエステル原着糸であり、耐光堅牢度が6級以上、裏面の吸水性が3秒以下であることを特徴とする多重組織織編物。
【請求項2】
カチオン染料、反応染料、直接染料の少なくとも1種で染色することを特徴とする請求項1に記載の織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は染色された綿の低い耐光堅牢度とポリエステルの低い吸水性という課題を改善するとともに、更にユニフォーム用途に向け、高い耐光堅牢度を付与した織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からポリエステル繊維のみ使用した織編物は吸水性が低いことから、現在、ワーキングユニフォーム用途においては綿などのセルロース系繊維と混用されることが一般的である。しかしながら、綿などのセルロース系繊維は反応染料、直接染料で染色することから、耐光堅牢度が低い傾向にある。ポリエステルと綿を混用した場合、両者の染色方法が異なることと、ポリエステルを染めるために使用する分散染料による汚染で、色差が発生し、表面品位を損ねるなど、織編物としての課題があった。また、裏面にカチオン可染ポリエステルを用いたときも同様の現象が発生するため、ポリエステル繊維を主原料とした異素材混用品については、表面品位(外観)に課題があった。
【0003】
この様な課題を解決するべく、耐光堅牢度向上を目的とした原着ポリエステルを使用するなど先行技術が存在する。
【0004】
例えば、樹脂が付与されてなる布帛であって、少なくとも前記樹脂と接触する部分を構成する繊維が原着ポリエステル繊維である布帛が提案されており(特許文献1)、このような布帛は樹脂への染料移行を抑制することができ、耐熱性、耐摩擦堅牢性に優れているとされる。
【0005】
また、分散染料に可染性のポリエステルに顔料を分散して得られた原着ポリエステル糸A、分散染料に可染性の非原着ポリエステル糸B、およびカチオン染料に可染性の非原着ポリエステル糸Cの3種類の糸条からなり、これら3種類の糸条がそれぞれ芯糸および/または鞘糸としてタスラン加工を施されており、これらの糸条の布帛構成比率が、布帛の全重量に対して、Aが5~30重量%、Bが50~90重量%、Cが5~40重量%(A+B+C=100)であり、かつ布帛全体が追加染色されていることを特徴とするタスラン布帛が提案されており(特許文献2)、このような布帛は反染めにより得られる、複雑で多色感に富み、耐光堅牢度、耐候強度に優れたタスラン布帛を提供することができるとされる。
【0006】
しかしながら、これら先行技術によっても、吸水性、耐光性、表面品位(外観)の三者を同時に実現することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-143278
【文献】特開平6-287869
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は多重構造織編物の異素材混用布帛の課題である表面品位(外観)の改善と併せて、高耐光かつ、吸水性が高いユニフォーム用途に最適な織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の多重組織織編物は次の構成を有する。すなわち、
ポリエステル原着糸、カチオン可染ポリエステル繊維糸条および/またはセルロース系繊維糸条ならびに接結糸からなり、ポリエステル原着糸を表面に、カチオン可染ポリエステル繊維糸条および/またはセルロース系繊維糸条を裏面に配した多重組織織編物であって、前記接結糸がポリエステル原着糸であり、耐光堅牢度が6級以上、裏面の吸水性が3秒以下であることを特徴とする多重組織織編物、である。
【0010】
本発明の多重組織織編物は、カチオン染料、反応染料、直接染料の少なくとも1種で染色することが好ましい。
【0011】
本発明の多重組織織編物は、接結糸がポリエステル原着糸である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ユニフォーム用途において、需要の高い吸水性、耐光性を両立するとともに、異なる素材を使用した際の染着差を抑え、課題である3秒以下の吸水性、6級以上の耐光性と合わせ、優れた表面品位(外観)の三者を同時に解決することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるポリエステル原着糸とはポリエステル繊維を紡糸する際に、顔料や染料などの発色成分を溶融したポリマーに練り込むことにより得られる、着色されたマルチフィラメント糸や紡績糸など公知の手段で得られる一般的な原着糸である。
【0014】
裏面に使用されるカチオン可染ポリエステル繊維糸条は、ポリエステル繊維紡糸時にスルホ基などのアニオン基を導入したカチオン染料で染色可能なポリエステル繊維糸条を指す。カチオン可染ポリエステル繊維糸条の原料ポリマーを得る方法としては、一般的に知られるように通常ポリエステルに5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分を1.0~3.0モル%を共重合することが挙げられる。セルロース系繊維糸条については、キュプラ、レーヨン、綿など全てのセルロース系繊維糸条が好適であるが、綿を用いたものがより、好適である。
【0015】
本発明において、表面の原着糸を使用したポリエステルについては、染料による汚染を避けるため、ポリエステルに対する染着性が高い分散染料で染色しないことが好ましい。
【0016】
本発明において織編物の裏面には表面の原着ポリエステルと異なるセルロース系繊維糸条および/またはカチオン可染ポリエステル繊維糸条を配するが、この裏面に配する繊維糸条を染色しない場合、表面の組織の間隙から裏面の未染色糸がはみ出る等で生地表面にチラツキや毛羽などが目立ってしまい、品位を損ねる可能性があるため、品位を高めるために裏面に配した繊維を各々の繊維種に適した染料で染めることが好ましい。使用した繊維糸条がセルロース系繊維糸条である場合、反応染料や直接染料などで染色することが好ましいが、その他セルロース系繊維糸条を染色するスレン染料や硫化染料で染色することも可能である。カチオン可染ポリエステル繊維糸条の場合はカチオン染料で染色することが好ましい。一般にカチオン可染ポリエステル繊維糸条は分散染料でも染色可能であるが、前記の通り、原着ポリエステル糸を汚染する可能性があり、表面品位(外観)を損ねたり、耐光堅牢度に影響を及ぼす可能性があるため、本発明においては分散染料を使用しないことが好ましい。
【0017】
また、本発明の織編物は、多重組織を有する。多重組織でなければ、表面に染料で染色する繊維を露出させないことが困難となる。多重織組織としては、緯二重織、経二重織、経緯二重織、三~五重織などの多層織、縫取織、ラペット、ブロッシェー織、網目織、メリヤス織、畝織物、帯および織りベルトなどの重ね織特別組織などが例示され、用途を考慮した着用感や仕立て栄えの観点から、緯二重織、経二重織、経緯二重織が好ましく採用される。多重編組織としては、両面編、ダブルトリコット、アトラス編(ダビルバンダイク)、コード編などが例示され、用途を考慮した着用感や仕立て栄えの観点から、ダブルトリコットが好ましく採用される。
【0018】
多重組織の織編物は、表面と裏面を接続する接結糸を含む。この接結糸として、地の経糸もしくは緯糸または地の編糸をそのまま用いて接結する場合と、地の経糸もしくは緯糸または地の編糸とは異なる別の糸条を用いる場合とがあり、いずれも好ましい。裏面に配するカチオン可染ポリエステル繊維糸条やセルロース系繊維糸条を接結糸として使用した場合、耐光堅牢度評価時において、接結糸部分が退色し、表面のごく一部が白っぽく見えるチラツキや耐光堅牢度の悪化の原因となるため、この接結糸は表面に配する原着糸と同様の糸を使用する。なお、生地の設計上も同様に裏面に配したセルロース系繊維糸条やカチオン可染ポリエステル繊維糸条が表面に露出しない設計を用いるのが好ましい。
【実施例
【0019】
次に本発明の織編物を実施例によって詳細に説明する。
(評価方法)
(1)耐光堅牢度
JIS L 0842紫外線カーボンアーク灯光法(第3露光法)、JIS L 0843(キセノンアーク灯法:ISO法)の両者で評価を行った。評価結果の表には悪い結果となった評価結果を級数として表記した。
【0020】
(2)吸水性
JIS L 1907繊維製品の吸水性試験方法 滴下法により評価を行った。
(3)表面品位(外観)
表面品位(外観)については、評価者3名の目視判定で(1)の紫外線照射前後でそれぞれ評価を行い、表面のチラツキの有無を評価し、2名以上チラツキがないと判定したものを○とした。
(実施例1)
2重組織の2/1ツイルに表面の経糸、緯糸としてポリエチレンテレフタレートからなる黒原着仮撚り糸(75デシテックス、72フィラメント)を用い、裏面の経糸、緯糸として綿糸(84番手)を使用した。接結糸として表面に配したのと同一の原着糸を使用して製織した。染色方法としては、裏面に配した綿糸を染色するべく、直接染料にて液流染色機を使用し、常法により染色し、試験布を得た。評価結果を表1に示した。2秒の吸水性、7級の耐光堅牢度と併せ、初期、UV照射後のいずれにおいても優れた表面品位(外観)を有していた。
(実施例2)
実施例1の生地を反応染料により染色し、試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。2秒の吸水性、8級の耐光堅牢度と併せ、初期、UV照射後のいずれにおいても優れた表面品位(外観)を有していた。
(実施例3)
裏面に配した綿糸に代えて、綿糸とカチオン可染ポリエステル繊維糸条の合撚糸を使用し、実施例1と同一条件で製織し、カチオン染料および直接染料を併用して染色し、試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。3秒の吸水性、7級の耐光堅牢度と併せ、初期、UV照射後のいずれにおいても優れた表面品位(外観)を有していた。
(実施例4)
2重編組織のダブルトリコットの表面に実施例1で使用した原着ポリエステル糸を配し、裏面に綿糸を配し、接結糸に原着ポリエステル糸を使用し、編成し、直接染料で染色し、試験布を得た。評価結果は表1に併せて示した。1秒の吸水性、8級の耐光堅牢度と合わせ、初期、UV照射後いずれにおいても優れた表面品位(外観)を有していた。
(比較例1)
表面に配した原着糸をポリエステル無着色糸に代え、染色時に分散染料と反応染料を併用して染色した他は実施例1と同様にして試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度が劣っていた。
(比較例2)
接結糸の原着糸を綿糸に代えた他は実施例1と同一条件にて製織、染色し、試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。評価結果を表1に併せて示した。初期、UV照射後のいずれにおいても表面品位(外観)が劣っていた。
(比較例3)
接結糸の原着糸をカチオン可染ポリエステル繊維糸条に代えた他は実施例3と同一の条件で製織、染色し、試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。UV照射後の表面品位(外観)が劣っていた。
(比較例4)
裏面に配した綿糸をポリエステル無着色糸に代え、接結糸の原着糸をポリエステル無着色糸に代えたものを分散染料を用いて常法の液流染色機を用いた他は実施例1と同様にして染色、試験布を得た。評価結果を表1に併せて示した。吸水性、耐光堅牢度が劣り、初期、UV照射後のいずれにおいても表面品位(外観)が劣っていた。
【0021】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の多重組織織編物は、吸水性、耐光性を両立するとともに、高い表面品位を有するので、ユニフォームに好適に用いることができる。