(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 58/25 20190101AFI20241217BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241217BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20241217BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241217BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60L58/25
B60L50/60
B60L58/12
B60L3/00 S
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2021026021
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 一浩
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-252808(JP,A)
【文献】特開2018-041572(JP,A)
【文献】特開2017-100544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0104680(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源としてのモータと、前記モータに電力を供給する電源と、前記電源を冷却する冷却装置とを備えた電動車両の制御装
置であって、
前
記電源の出力を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記冷却装置が故障した場合に
、前記電源の温度が前記上限温度に到達する時点で、前記電源の充電残量が予め定められた下限値に到達する前記電源の出力の上限値を、前記電源の現在の温度と予め定められた上限温度との温度差と前記電源の充電残量とに基づい
て定めるように構成されている
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源としてのモータを備えた電動車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを駆動力源として備えたフォークリフトの制御装置が記載されている。この制御装置は、モータに電力を供給し、またはモータにより回生された電力を充電するバッテリの温度が第1所定温度以上となった場合には、バッテリの温度が上昇するに連れて、モータの上限出力の制限量をステップ的に大きくするように構成されている。すなわち、バッテリの温度が上昇する程、モータの出力が低下するように構成されている。さらに、バッテリの充電残量が少ない場合には、バッテリを外部電源から充電することによるバッテリの温度上昇を考慮して、第1所定温度を低下させ、またバッテリの上限温度を低下させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置は、モータの出力の制限量を増加させて駆動力の低下を運転者に体感させることにより、バッテリの温度が上限温度近傍まで上昇していることを運転者が認識できるように構成されている。したがって、バッテリの温度が上限温度に達した時点でモータの出力が急激に低下して作業が中断されることを抑制できる。しかしながら、特許文献1に記載された制御装置は、バッテリの充電残量が少ない場合には、バッテリの充電残量が多い場合よりも、モータの出力の制限量を大きくするように構成されている。すなわち、バッテリの温度が比較的低温であり、バッテリから大きな電力を出力することができる場合であっても、モータの出力が大きく制限される。そのため、バッテリの電力を充分に使用することができず、車両の走行性能が低下する可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、モータに電力を供給する電源の電力を可能な範囲で使用することにより、車両の走行性能を向上させることができる電動車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、駆動力源としてのモータと、前記モータに電力を供給する電源と、前記電源を冷却する冷却装置とを備えた電動車両の制御装置であって、前記電源の出力を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記冷却装置が故障した場合に、前記電源の温度が前記上限温度に到達する時点で、前記電源の充電残量が予め定められた下限値に到達する前記電源の出力の上限値を、前記電源の現在の温度と予め定められた上限温度との温度差と前記電源の充電残量とに基づいて定めるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、電源を冷却する冷却装置が故障した場合に、電源の現在の温度と予め定められた上限温度との温度差と電源の充電残量とに基づいて、電源の出力の上限値を定めることにより、早期に蓄電装置の出力を制限することができ、蓄電装置の温度上昇を抑制できる。すなわち、蓄電装置の充電残量が比較的高い状態で、蓄電装置の温度が上限温度に達することを抑制することができる。その結果、モータの出力トルクを僅かに制限するのみで継続してモータからトルクを出力できる。したがって、電動車両の走行性能が過剰に低下することを抑制できるとともに、走行距離を長くすることができる。
【0008】
また、蓄電装置の出力を早期に制限することにより、蓄電装置の温度が上限温度まで昇温することを抑制するための制限量を小さくすることができる。つまり、モータの出力トルクの制限量を小さくすることができる。その結果、蓄電装置の出力が制限された後であっても、電動車両の駆動力が急激に低下するなどの走行性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の実施形態における電動車両の一例を模式的に示す模式図である。
【
図2】この発明の実施形態における制御装置の制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図2に示す制御を実行した場合における蓄電装置の出力の最大値、モータトルク、蓄電装置の温度の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の実施形態における電動車両は、駆動力源としてのモータを備え、そのモータの出力トルク(以下、モータトルクと記す)を駆動輪に伝達して走行するものである。その一例を
図1に示してあり、
図1に示す車両Veは、モータ(MG)1のみを駆動力源として備えた電気自動車である。また、モータ1の出力軸2に、デファレンシャルギヤユニット3が連結され、そのデファレンシャルギヤユニット3および一対のドライブシャフト4を介して、駆動輪としての一対の後輪5が連結されている。なお、モータ1の出力軸2に、モータ1の運転点を変更するための変速機や、モータトルクを増幅して伝達する減速機などが設けられていてもよい。
【0011】
モータ1は、従来知られているハイブリッド車や電気自動車の駆動力源として設けられたモータと同様に、永久磁石式の同期モータや、誘導モータなどの交流モータによって構成することができる。すなわち、モータ1は、その出力軸2の回転数を増加させるようにトルクを出力する電動機としての機能に加えて、出力軸2の回転数を低下させるようにトルクを出力して、出力軸2の動力の一部を電力に変換する発電機としての機能を有したモータ・ジェネレータである。
【0012】
そのモータ1には、二次電池やキャパシタなどの蓄電装置(Batt)6が電気的に接続されている。この蓄電装置6は、この発明の実施形態における「電源」に相当するものであり、モータ1に電力を供給することに加えて、モータ1によって発電された電力を充電することができるように構成されている。この蓄電装置6には、その温度を検出する温度センサ、出力電圧を検出する電圧計、および充電残量を検出するSOCセンサなどの種々のセンサが連結されている。
【0013】
また、蓄電装置6は、電力を出力することや充電することにより、蓄電装置6の内部抵抗などを要因として昇温するため、蓄電装置6の温度が予め定められた上限温度まで昇温することを抑制するために、ファンなどの冷却装置7が設けられている。なお、冷却装置7は、蓄電装置6の近傍に空気を流動させて冷却する空冷式の冷却装置に限らず、蓄電装置6のケース近傍に冷媒を流動させて蓄電装置6を冷却する水冷式の冷却装置であってもよい。
【0014】
上述した蓄電装置6や冷却装置7を制御する電子制御装置(ECU)8が設けられている。このECU8は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであって、マイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU8には、図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)、車速、モータ1の回転数、蓄電装置6の温度、蓄電装置6の出力電圧、蓄電装置6の充電残量(SOC)などを検出するセンサから信号が入力され、その入力された信号と、予め記憶されている演算式やマップなどとに基づいて、蓄電装置6や冷却装置7に指令信号を出力するように構成されている。
【0015】
具体的には、ECU8は、入力されるアクセル開度やブレーキ操作量と車速とに基づいて要求駆動力や要求制動力を求め、その求められた要求駆動力や要求制動力に応じたトルクを指令信号として蓄電装置6に出力する。なお、モータ1は、上述したように同期モータや誘導モータなどの交流モータによって構成され、それに対して、蓄電装置6は直流電流を出力するように構成されているため、蓄電装置6から出力された直流電流を交流電流に変換するなどの図示しないインバータやコンバータを備えており、そのインバータやコンバータのスイッチ素子に入力する信号を制御することにより、蓄電装置6の出力が制御される。
【0016】
また、ECU8には、常時、蓄電装置6の温度を検出するセンサから信号が入力されており、蓄電装置6の温度が予め定められた温度以上に昇温した場合には、蓄電装置6を冷却するために、冷却装置7を駆動させる信号を出力し、また蓄電装置6の温度に応じて冷却装置7を駆動させる制御量を制御するように構成されている。
【0017】
一方、冷却装置7が故障した場合には、蓄電装置6の温度を意図した温度以下に制御することができないため、モータ1を駆動することにより次第に蓄電装置6の温度が昇温する。特に、モータ1の出力(パワー)が大きい程、蓄電装置6の温度の上昇率が高くなる。
【0018】
そのため、この発明の実施形態における制御装置は、冷却装置7が故障した場合に、モータ1の出力を制限するように構成されている。
図2は、その制御例を説明するためのフローチャートであり、まず、冷却装置7が故障したか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1は、例えば、冷却装置7が正常に作動している場合よりも、蓄電装置6の温度の上昇率が高いか否かなどに基づいて判断することができる。なお、冷却装置7を作動させるための図示しない電源と冷却装置7との間の電流値を検出するなどによって冷却装置7が故障したか否かを判断してもよく、冷却装置7の故障を判断する手段は特に限定されない。
【0019】
冷却装置7が故障していないことによりステップS1で否定的に判断された場合は、そのままこのルーチンを一旦終了する。それとは反対に、冷却装置7が故障していることによりステップS1で肯定的に判断された場合は、蓄電装置6の温度が、第1所定温度T1未満であるか否かを判断する(ステップS2)。この第1所定温度T1は、冷却装置7の故障の有無に拘わらず、蓄電装置6の最大出力値を制限するために定められた閾値温度である。したがって、蓄電装置6の温度が第1所定温度T1以上である場合には、従来知られている制御と同様に蓄電装置6の最大出力値を制限する。この制御例は、蓄電装置6が第1所定温度T1未満の場合における蓄電装置6の最大出力値を制限するものであるため、
図2に示すフローチャートでは、ステップS2で否定的に判断された場合は、このルーチンを一旦終了する。
【0020】
それとは反対に、蓄電装置6の温度が、第1所定温度T1未満であることによりステップS2で肯定的に判断された場合は、蓄電装置6の温度の先読み値を算出する(ステップS3)。このステップS3は、現時点での蓄電装置6の最大出力値を出力し続けた場合に、蓄電装置6の充電残量が予め定められた下限値に低下する時点での蓄電装置6の温度を算出する。具体的には、以下の式で求めることができる。
【数1】
【0021】
なお、式(1)におけるTendは、蓄電装置6の充電残量が下限値に到達した際の蓄電装置6の温度(℃)であり、Tbattは、現時点での蓄電装置6の温度(℃)であり、Tairは、冷却装置7を作動させることなく空気などに放熱される吸熱温度(℃)であり、Pは、蓄電装置6の最大出力値(W)であり、Vaveは、蓄電装置6の平均出力電圧(V)であり、Rbattは、蓄電装置6の内部抵抗値(Ω)であり、Kbattは、蓄電装置6を収容するケースの冷却係数(W/K)であり、Mbattは、蓄電装置6の熱容量(J/K)であり、Cbattは、蓄電装置6の全容量(放電容量(Ah))であり、SOCは、蓄電装置6の充電深度(充電残量(%))である。
【0022】
ステップS3に続いて、先読み値が蓄電装置6の上限温度に到達した時点で蓄電装置6の充電残量が枯渇するように蓄電装置6の最大出力値を抑制(補正)して(ステップS4)、このルーチンを一旦終了する。具体的には、上式における蓄電装置6の充電残量が下限値に到達した際の蓄電装置6の温度Tendに、蓄電装置6の上限温度を代入し、その条件を満たす蓄電装置6の最大出力値Pについて算出する。
【0023】
図2に示す制御例を実行した場合の蓄電装置6の出力の最大値、モータトルク、および蓄電装置6の温度の変化の一例を
図3に示してある。
図3に示す例では、t0時点では、冷却装置7が故障していないことにより、蓄電装置6の出力の最大値は、予め定められた値に維持されている。したがって、t0時点では、蓄電装置6の出力の最大値に基づいてモータ1の最大トルクが維持されている。なお、蓄電装置6の温度は、モータ1からトルクを出力することに伴って緩やかに増加している。
【0024】
t1時点で、冷却装置7が故障したことが判断されることにより、蓄電装置6の出力の最大値は、蓄電装置6の温度と蓄電装置6の充電残量とに基づいて設定されている。そのため、t1時点で、蓄電装置6の出力の最大値がステップ的に低下している。それに伴って、モータ1の最大トルクがステップ的に低下している。したがって、最大トルクの低下に伴ってモータ1の指令トルクが制限され、t1時点で低下している。なお、蓄電装置6の温度は、上記のように蓄電装置6の出力が制限されることにより、ほぼ一定に維持されている。
【0025】
そして、t1時点以降では、蓄電装置6の出力の最大値がほぼ一定に維持されていることにより、モータ1の最大トルクが所定トルクに維持されている。その結果、蓄電装置6から空気などへの放熱量と、蓄電装置6の発熱量とがほぼ釣り合った状態を維持することができるため、蓄電装置6の温度がほぼ一定に維持されている。
【0026】
上述したように冷却装置7が故障した後に、蓄電装置6の温度と蓄電装置6の充電残量とに基づいて蓄電装置6の出力の最大値を定めることにより、早期に蓄電装置6の出力を制限することができるため、蓄電装置6の温度上昇を抑制できる。すなわち、蓄電装置6の充電残量が比較的高い状態で、蓄電装置6の温度が上限温度に達することを抑制することができる。その結果、モータトルクを僅かに制限するのみで継続してモータ1からトルクを出力できる。したがって、電動車両Veの走行性能が過剰に低下することを抑制できるとともに、走行距離を長くすることができる。
【0027】
また、蓄電装置6の出力を早期に制限することにより、蓄電装置6の温度が上限温度まで昇温することを抑制するための制限量を小さくすることができる。つまり、モータトルクの制限量を小さくすることができる。その結果、蓄電装置6の出力が制限された後であっても、電動車両Veの駆動力が急激に低下するなどの走行性能の低下を抑制することができる。
【0028】
なお、この発明の実施形態における電動車両は、上述したようにモータのみを駆動力源として備えた電気自動車に限定されず、エンジンとモータとを駆動力源として備えたハイブリッド車両であってもよい。このようなハイブリッド車両の場合には、蓄電装置の出力の制限の範囲であれば、モータの動力を使用して走行することができ、その結果、エンジンを過剰に駆動するなどの燃費の悪化を抑制することができる。また、上述したように一つのモータを動力源として備えた電動車両に限らず、例えば、それぞれの車輪にモータを備えたいわゆるインホイールモータ車両であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 モータ
2 出力軸
3 デファレンシャルギヤユニット
4 ドライブシャフト
5 後輪
6 蓄電装置
7 冷却装置
8 電子制御装置(ECU)
Ve 電動車両