(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両の駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/06 20060101AFI20241217BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20241217BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241217BHJP
【FI】
B60W50/06
B60W40/076
B60W40/107
(21)【出願番号】P 2021029951
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 国憲
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡
(72)【発明者】
【氏名】目次 宏光
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-276669(JP,A)
【文献】特開2011-148342(JP,A)
【文献】特開2018-76849(JP,A)
【文献】特開2007-248160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者に操作されるアクセルペダルと、前記アクセルペダルの操作量と車速とに基づいて要求加速度を決定し、かつ決定された前記要求加速度に基づく指令信号を出力するコントローラとを備えた車両の駆動力制御装置であって、
前記コントローラは、
前記車両の走行する路面勾配を取得し、
前記アクセルペダルの操作量と前記車速と前記路面勾配とに基づいて一義的に決まるベース加速度を算出し、
前記ベース加速度が予め定めた所定値より大きく、かつ前記アクセルペダルの操作速度が所定速度より大きい場合に、前記要求加速度を前記ベース加速度より大きい補正加速度に設定し、
前記補正加速度は、前記ベース加速度と、前記ベース加速度に対する加速度の加算量とに基づいて算出され、
前記加速度の加算量は、前記アクセルペダルの操作量ならびに前記車速および前記アクセルペダルの操作速度から求まる動的加速度と前記ベース加速度との差分と、予め定められている制御ゲインとによって決定されるように構成されている
ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置であって、
前記制御ゲインは、前記差分の前記加算量への反映率が100%の最大ゲインと、前記差分の前記加算量への反映率が0%の最小ゲインとを有し、
前記最大ゲインを適用する加速度の範囲が、車速の増大に応じて低加速度側に設定され、
前記ベース加速度が前記最大ゲインを適用する加速度の範囲に入っている場合に、前記加速度の加算量が、前記差分に、前記制御ゲインの前記最大ゲインを乗算して求められるように構成されている
ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクセルペダルの操作量に応じて駆動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者の要求する加速度を満たすために、アクセル操作に基づく目標加速度を補正するように構成された車両の制御装置が記載されている。具体的には、この特許文献1に記載された制御装置は、アクセルペダルの速踏みが行われたと判定した場合に、速踏みが行われない場合の目標加速度(基準加速度)に「1」より大きいゲインを乗じて目標加速度を増加させる補正を行う。また、アクセルペダルから足を離すなどの操作によりアクセル開度が小さくなると、そのアクセル開度、ならびに、ゲインに応じて、目標加速度は基準加速度に収束し、加速度が「0」になった際に、目標加速度は基準加速度に完全に収束する。なお、ゲインは、アクセルペダルの操作速度に応じて決定され、アクセルペダルの操作速度と増幅ゲインとの関係を予めマップ化してECUに記憶させるように構成されている。
【0003】
なお、特許文献2には、アクセルペダルの操作速度に応じて目標加速度を求め、かつその目標加速度に基づいて目標車速を求めて、自車速が目標車速に追従するように駆動力制御を行うことにより、アクセル操作に応じた車速変化に対する実車速の応答遅れを補償するように構成された制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-148342号公報
【文献】特開2004-276669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載された制御装置では、急加速などアクセルペダルの速踏みが実行された場合に、基準加速度にゲインを乗じるなどの補正を行うことにより、運転者の要求する加速度を実現する。しかしながら、特許文献1に記載された基準加速度は、アクセルペダルの操作量と車速とから一義的に決まるものであって、その基準加速度にゲインを乗じた場合には、速踏みによる実際の要求加速度とゲインを乗じた補正加速度とでは乖離が生じるおそれがあり、ひいては正確に運転者の要求する加速度を把握できない場合がある。また、補正した加速度は、加速度が「0」の状態で、基準加速度に収束するように構成され、言い換えれば加速度「0」の状態で基準加速度に復帰するように構成されている。そのため、その加速度「0」付近の領域では、補正後の目標加速度から基準加速度に切り替わることによってジャーク変化が生じる。加速度「0」付近は、定常走行領域であるから、運転者のアクセルペダルの操作頻度が最も多くなり、このようなジャーク変化は、加速度に段付き(あるいは段差)が生じ、ひいては運転者に違和感や不快感を与えるおそれがある。また、そのように、アクセルペダルの操作頻度が多い定常走行領域において、ジャーク変化が生じると、アクセルペダルの操作性が低下するおそれがある。なお、このような技術的な課題は、特許文献2においても同様に生じる。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、運転者の要求する加速度を実現しつつ、アクセルペダルの操作性が低下することを抑制可能な車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、運転者に操作されるアクセルペダルと、前記アクセルペダルの操作量と車速とに基づいて要求加速度を決定し、かつ決定された前記要求加速度に基づく指令信号を出力するコントローラとを備えた車両の駆動力制御装置であって、前記コントローラは、 前記車両の走行する路面勾配を取得し、 前記アクセルペダルの操作量と前記車速と前記路面勾配とに基づいて一義的に決まるベース加速度を算出し、前記ベース加速度が予め定めた所定値より大きく、かつ前記アクセルペダルの操作速度が所定速度より大きい場合に、前記要求加速度を前記ベース加速度より大きい補正加速度に設定し、前記補正加速度は、前記ベース加速度と、前記ベース加速度に対する加速度の加算量とに基づいて算出され、前記加速度の加算量は、前記アクセルペダルの操作量ならびに前記車速および前記アクセルペダルの操作速度から求まる動的加速度と前記ベース加速度との差分と、予め定められている制御ゲインとによって決定されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、この発明では、前記制御ゲインは、前記差分の前記加算量への反映率が100%の最大ゲインと、前記差分の前記加算量への反映率が0%の最小ゲインとを有し、前記最大ゲインを適用する加速度の範囲が、車速の増大に応じて低加速度側に設定され、前記ベース加速度が前記最大ゲインを適用する加速度の範囲に入っている場合に、前記加速度の加算量が、前記差分に、前記制御ゲインの前記最大ゲインを乗算して求められるように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の車両の駆動力制御装置によれば、アクセルペダルの操作量と車速と路面勾配とに基づいて算出された要求加速度およびアクセルペダルの操作速度が所定値より大きい場合に、加速度を向上させる制御を実行するように構成されている。具体的には、ベース加速度が所定値より大きく、アクセルペダルの操作速度が所定速度より大きい場合に、アクセルペダルの操作量と車速と路面勾配とに基づくベース加速度に対して、加速度の加算量を求め、最終的な加速度である補正加速度を算出するように構成されている。その補正加速度は、前記ベース加速度と、前記ベース加速度に対する加速度の加算量とに基づいて算出され、前記加速度の加算量は、前記アクセルペダルの操作量ならびに前記車速および前記アクセルペダルの操作速度から求まる動的加速度と前記ベース加速度との差分と、所定の制御ゲインとによって決定される。そして、その補正加速度を実現するように駆動力を発生させる。これにより、例えば前掲の特許文献1に記載された構成に比べて、より正確に運転者の要求する加速度を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の車両の制御装置で制御の対象とする車両の構成および制御系統の概要を示す図である。
【
図2】アクセル開度毎の加速度特性を説明するための図である。
【
図3】この発明の実施形態における制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】制御量反映率(制御ゲイン)の決め方を説明するための図である。
【
図5】復帰Gおよび制御開始Gの決め方を説明するための図である。
【
図6】
図3の制御例を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、特にアクセル開度を一定として加速する場合の例を説明するための図である。
【
図7】
図6の制御を実行した場合における制御量反映率の変化を説明するための図である。
【
図8】
図6の制御を実行した場合における加速度特性を説明するための図である。
【
図9】この発明の実施形態における効果を説明するための図である。
【
図10】この発明の実施形態における他の効果を説明するための図である。
【
図11】
図3の制御例を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、特に加速後にアクセル開度を低下させた場合の例を説明するための図である。
【
図12】
図11の制御を実行した場合における制御量反映率の変化を説明するための図である。
【
図13】
図11の制御を実行した場合における加速度特性を説明するための図である。
【
図14】
図3の制御例を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、特に加速後にアクセル開度を低下させて加速度を向上させる制御を終了後に、再度アクセルペダルを踏み増して加速する場合の例を説明するための図である。
【
図15】
図14の制御を実行した場合における制御量反映率の変化を説明するための図である。
【
図16】
図14の制御を実行した場合における加速度特性を説明するための図である。
【
図17】
図3の制御例を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、特にアクセルペダルを戻しつつ加速度を向上させる制御を実行中に、再度アクセルペダルを踏み増しして加速する場合の例を説明するための図である。
【
図18】
図17の制御を実行した場合における制御量反映率の変化を説明するための図である。
【
図19】
図17の制御を実行した場合における加速度特性を説明するための図である。
【
図20】この発明の実施形態における他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【
図21】
図20の制御例を実行した場合のタイムチャートの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0018】
この発明で対象とすることができる車両は、駆動力源としてエンジンやモータを備えた車両であって、また駆動力源としてモータのみを備えた電気自動車、あるいは、駆動力源としてエンジンおよびモータを備えたハイブリッド車両であってもよい。なお、電気自動車は、駆動力源としてモータのみを備えた純電気自動車(BEV)、ならびに、エンジンを発電専用として備えたいわゆるレンジエクステンダーEV車が含まれる。さらに、いわゆるプラグインタイプの車両や燃料電池自動車であってもよい。
【0019】
図1に、この発明の実施形態で制御対象とする車両Veの駆動系統および制御系統の一例を示してある。
図1に示す車両Veは、主要な構成要素として、駆動力源(PWR)1、前輪2、後輪3、アクセルペダル4、ブレーキペダル5、検出部6、および、ECU7を備えている。
【0020】
駆動力源1は、車両Veの駆動力を発生するための駆動トルクを出力する動力源である。駆動力源1は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、出力の調整、ならびに、始動および停止などの作動状態が電気的に制御されるように構成されている。ガソリンエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料の供給量または噴射量、点火の実行および停止、ならびに、点火時期などが電気的に制御される。あるいは、ディーゼルエンジンであれば、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、または、EGR[Exhaust Gas Recirculation]システムにおけるスロットルバルブの開度などが電気的に制御される。
【0021】
また、この発明の実施形態における駆動力源1は、例えば、永久磁石式の同期モータ、もしくは、誘導モータなどのモータであってもよい。その場合のモータは、例えば、電力が供給されることにより駆動されてモータトルクを出力する電動機としての機能と、外部からのトルクを受けて駆動されることにより電気を発生する発電機としての機能とを兼ね備えている。すなわち、モータは、発電機能を有するモータ(いわゆる、モータ・ジェネレータ)であり、電動機としての機能と発電機としての機能との切り替えなどが電気的に制御される。モータには、インバータを介してバッテリ(共に図示せず)が接続されている。したがって、モータを発電機として駆動し、その際に発生する電気をバッテリに蓄えることができる。また、バッテリに蓄えられている電気をモータに供給し、モータを電動機として駆動してモータトルクを出力することもできる。
【0022】
車両Veは、駆動力源1が出力する駆動トルクを、駆動輪に伝達して駆動力を発生する。
図1には、前輪2が駆動輪となる前輪駆動車の構成を示してある。なお、この発明の実施形態における車両Veは、後輪3が駆動輪となる後輪駆動車であってもよい。あるいは、前輪2および後輪3の両方を駆動輪とする四輪(全輪)駆動車であってもよい。また、駆動力源1としてエンジンを搭載する場合は、エンジンの出力側に変速機(図示せず)を設け、駆動力源1が出力する駆動トルクを、変速機を介して、駆動輪へ伝達するように構成してもよい。
【0023】
また、車両Veは、運転者が駆動力を調整して車両Veの加速操作を行うためのアクセルペダル4が設けられている。アクセルペダル4は、従来知られている一般的な構成であって、運転者により踏み込み操作ならびに踏み戻し操作されることにより、そのアクセルペダル4の操作量(踏み込み量、もしくは、アクセル開度またはアクセルペダルポジション)に対応して駆動力源1が出力する駆動トルクが増大し、車両Veの駆動力が増大する。反対に、アクセルペダル4の踏み込みが戻される(アクセルオフに操作される、もしくは、アクセル開度またはアクセルペダルポジションが低下する)ことにより、そのアクセルペダル4の操作量に対応して駆動トルクが減少し、車両Veの駆動力が減少する。それとともに、駆動力源1としてモータを搭載している場合は、モータがいわゆる回生ブレーキとして機能し、すなわち、モータが出力する回生トルクにより、車両Veに制動力が発生する。あるいは、駆動力源1としてエンジンを搭載する場合は、アクセルオフの操作が行われることにより、いわゆるエンジンブレーキが作用し、車両Veの制動力が増大する。例えば、エンジンのフリクショントルクやポンピングロスが駆動トルクに対する抵抗力(制動トルク)となり、車両Veに制動力が発生する。
【0024】
また、車両Veには、運転者が制動力を調整して車両Veの制動操作を行うためのブレーキペダル5が設けられている。ブレーキペダル5が踏み込まれることにより、油圧式のディスクブレーキやドラムブレーキなど制動装置が作動し、車両Veの制動力が発生する。なお、上述のアクセルペダル4は、運転者によるペダルの操作量に応じて加速度および減速度の両方を制御する、いわゆるワンペダルモードで走行することが可能な操作装置であってもよい。その場合には、アクセルペダル4とブレーキペダル5とを併せて連動させて制御するように構成してもよい。
【0025】
検出部6は、車両Veの各部を制御するための各種データを取得するものであり、特に、アクセルペダル4の操作状態に関連する各種データを検出する。検出部6は、そのような各種データを検出するためのセンサや機器を総称している。したがって、この発明の実施形態における検出部6は、少なくとも、アクセルペダル4の操作量(すなわち、アクセルペダルポジション、または、アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ6aを有している。また、検出部6は、ブレーキペダル5の操作量(すなわち、ブレーキペダルストローク、または、ブレーキペダル開度)を検出するブレーキストロークセンサ6b、車速を検出するための車速センサ6c、車両Veの前後方向の加速度を検出する加速度センサ6d、路面の勾配角を検出する勾配角センサ6e、および、モータの出力軸の回転数、あるいは、エンジンの出力軸の回転数を検出する回転数センサ6fなどを有している。そして検出部6は、ECU7と電気的に接続されており、上記のような各種センサや機器等の検出値に応じた電気信号を検出データとしてECU7に出力する。
【0026】
ECU7は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当し、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であって、上記の検出部6で検出あるいは算出された各種データが入力される。また、ECU7は、上記のような入力された各種データ、および、予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。それとともに、その演算結果を制御指令信号として出力し、車両Veを制御するように構成されている。
【0027】
具体的には、例えば上記のアクセルポジションセンサ6aで検出したアクセルペダル4の操作状態に関連するデータを取得し、その取得したデータに基づいて、駆動力源1の目標駆動トルク、ならびに、車両Veの目標加速度(あるいは目標減速度)を算出する。そして、算出した目標駆動トルクに基づいて、駆動力源1の出力を制御する。すなわち、駆動力源1を制御するための制御指令信号を出力する。また、算出あるいは検出した目標加速度や要求加速度に基づいて、アクセルペダル4あるいはブレーキペダル5の操作状態に対応させて車両Veに発生させる駆動力および制動力を制御する。すなわち、駆動力および制動力を制御するための制御指令信号を出力する。なお、
図1では一つのECU7が設けられた例を示しているが、ECU7は、例えば制御する装置や機器毎に、あるいは制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
【0028】
このように構成された車両Veは、一般的に、運転者のアクセルペダル4の操作量(アクセル開度)に応じて、車両Veの目標加速度を決定し、その目標加速度となるように駆動力源1のトルクを制御して駆動力を発生させる。また、この目標加速度は、例えば
図2に示すように車速との関係で予めマップ化するなどして、ECU7に記憶される。一方、急加速時など運転者がアクセルペダル4を所定速度以上で踏み込んだ場合など加速要求が大きい場合には、不可避的な遅れによって、運転者の要求する加速度を発生させることができないことがある。そこで、この発明の実施形態では、比較的大きい加速要求があった場合に、運転者のアクセル操作に応じて、目標加速度の加算量を算出して、その加算量を加えた補正目標加速度を発生させるように駆動力を制御するように構成されている。
【0029】
図3は、その制御の一例を示すフローチャートであって、先ず、加速意図があるか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、運転者の要求加速度Gが予め定めた所定値αより大きいか否か、および、アクセルペダル4の操作速度が予め定めた所定速度βより大きいか否かを判断する。要求加速度Gが所定値αより大きいか否かの判断は、アクセル開度と車速とに基づくマップ(
図2)から求められる。なお、このステップS1における要求加速度Gは、上述のように予め定めたマップ等から算出できるため、言い換えれば静的な加速度となる。この静的な要求加速度が、この発明の実施形態における「ベース加速度Gb」に相当する。したがって、このステップS1で否定的に判断された場合、すなわち要求加速度Gが所定値α以下である場合、または、アクセルペダル4の操作速度が所定速度β以下である場合には、加速要求の意図がないと判断し、これ以降の制御を実行することなく、
図3に示す制御例を一旦終了する。
【0030】
それとは反対に、このステップS1で肯定的に判断された場合、すなわち要求加速度Gが所定値αより大きい場合、および、アクセルペダル4の操作速度が所定速度βより大きい場合には、加速要求の意図がありと判断し、運転者の意図に沿った加速感を実現するための加速度特性Giを算出する(ステップS2)。この加速度特性Giは、上述のステップS1の静的加速度に対して動的加速度である。上述のステップS1の要求加速度Gは、アクセル開度と車速とから一義的に決まるものに対して、加速度特性Giは、アクセル開度、車速に加えてアクセルペダル4の操作速度をパラメータとして算出される。つまり、動的な操作であるアクセルペダル4の操作速度をパラメータとして加えることにより、より正確に運転者の加速意図を把握する。
【0031】
ついで、ステップS2で算出した加速度特性Giに対して上限処理および下限処理を行う(ステップS3)。上述のように、運転者の加速意図を正確に把握するために、加速度特性Giを算出したものの、その加速度特性Giが、車両Veの実現可能な最大加速度Gmaxを超える場合には、上限処理(補正処理)を行う必要がある。具体的には、加速度特性Giが車両Veの最大加速度Gmaxを超える場合には、加速度特性Giを最大加速度Gmaxに補正する。一方、加速度特性Giが最大加速度Gmax以下である場合には、補正することなく、そのままの値を維持する。なお、下限処理は、ステップS1で求めたベース加速度Gbとなる。
【0032】
ついで、ベース加速度Gbと加速度特性Giとの差分Gs(=Gi-Gb)を算出する(ステップS4)。また差分Gsに制御ゲイン(以下、単にゲインとも記す)を乗じて加速度加算量Gsgain(=Gs×gain)を算出する(ステップS5)。このステップS4およびステップS5は、実現したい加速度特性Giとベース加速度Gbとの差分Gsに制御量の反映率であるゲインを乗じて最終的な加算量Gsgainを求めるステップである。つまり、ステップS4は、単に差分を求め、ステップS5は、ベース加速度Gbに加算すべき加速度の大きさを求めている。なお、制御量の反映率であるゲインは、予め定めたマップから求められ、そのゲインの具体的な求め方については後述する。
【0033】
ついで、ステップS5で算出した加速度加算量Gsgainをベース加速度Gbに加えて、補正加速度Ghを算出する(ステップS6)。つまり、この補正加速度Ghが最終的な運転者の要求加速度となる。これを計算式で示すと以下のようになる。
Gh=Gb+Gsgain
【0034】
ついで、ステップS6で算出した補正加速度Ghを車両Veの車重、ギヤ比、タイヤ径、走行抵抗などの諸元から駆動力に換算し、要求駆動力として発生させる(ステップS7)。つまり、最終的に算出された要求加速度を発生させるために、駆動力を決定する。
【0035】
そして、ゲインが「0」になったか否かを判断し(ステップS8)、ゲインが「0」になったと判断された場合には、
図3に示す制御例を終了する。つまり、ゲインが「0」になったら、加速度を向上させる制御を終了して、ベース加速度Gbに復帰する。それとは反対に、ゲインが「0」でないと判断された場合には、ステップS2へ戻り、このステップS8で肯定的に判断されるまでステップS2からステップS8を繰り返し実行する。
【0036】
ここで、制御量の反映率である制御ゲインの求め方について説明する。制御ゲインは0~100%であって、要求される加速度に応じて変化する。
図4に示すように、制御量の反映率0%がベース加速度Gbに復帰するA点(以下、復帰Gとも記す)であって、言い換えれば、運転者の加速意図がなくなる点である。また、制御量反映率100%が加速感を向上させる制御を実行を開始するB点(以下、制御開始Gとも記す)であって、言い換えれば、運転者の加速意図が有りと判断される点である。なお、制御量反映率=0%が、この発明の実施形態における「最小ゲイン」であって、制御量反映率=100%が、この発明の実施形態における「最大ゲイン」に相当する。また、復帰Gが0Gより大きくなるように設定されているのは、0G付近は、加速度が「0」となる定常走行領域であり、アクセルペダル4の使用頻度が最も多い領域であるため、操作性(アクセルペダル4のコントロール性)が良好であることが望まれる。そのため、加速度を向上させる制御を終了して、ベース加速度Gbへ復帰する際の加速度を0Gより大きくすることで、ベース加速度Gbに復帰した際のアクセルペダル4の操作性を向上させるように構成されている。
【0037】
復帰GであるA点および制御開始GであるB点は、
図5に示すように、要求加速度と車速との関係によって決まり、復帰Gのラインは、車速の増大に伴って緩やかに増大している。これは、高車速になるに連れて、運転者が感じる加速度変化の領域が大きくなるためである。一方、制御開始Gのラインは、車速の増大に伴って低下している。これは、運転者は、高車速時の場合には、低車速時の場合に比べて加速度の増大を要求しないためである。そして、復帰G以下の領域が制御量反映率が0%の領域であって、制御開始G以上の領域が制御量反映率100%であり、また復帰Gと制御開始Gとの間の領域が制御量反映率0~100%となっている。
【0038】
つぎに、
図3の制御例を実行した場合における要求加速度などの変化をタイムチャートを参照して説明する。
図6は、そのタイムチャートを示す図であって、アクセル開度、要求駆動力、制御量反映率(ゲイン)、および、G加算実行フラグの変化をそれぞれ示している。なお、この
図6に示すタイムチャートは、アクセル開度が一定で加速している状態の例を示している。
【0039】
具体的には、先ず、アクセル開度が増大して、要求加速度が増大する(t0時点)。上述のステップS1で説明したように、要求加速度が所定値αより大きく、かつ、アクセルペダル4の操作速度が所定速度βより大きいことにより、加速度を向上させる制御が実行される。したがって、G加算実行フラグがONされる。そして、G加算実行フラグがONされることにより、制御量反映率が100%になる。なお、要求加速度において、破線がベース加速度Gbを示し、実線が最終的な加速度である補正加速度Ghを示している。
【0040】
ついで、t0時点からt1時点において、ベース加速度Gbが低下し、そのベース加速度Gbが、制御開始Gである符号Bのラインを下回ると、制御量反映率が低下し始める(t1時点)。つまり、制御量反映率が100%から下降し始め、加速度加算量Gsgainが低下し始める。
【0041】
そして、ベース加速度Gbが更に低下して、復帰Gである符号Aのラインに到達すると、制御量反映率は0%になる。つまり、加速度加算量Gsgainが「0」になる(t2時点)。そして、制御量反映率が「0」になることにより、G加算実行フラグがOFFになる。なお、この
図6から把握できるように、制御量反映率は、ベース加速度Gbに復帰する際に0%になるように構成されている。つまり、ベース加速度Gbに復帰した際に、加速度の加算量が「0」に収束するように構成され、言い換えれば、ベース加速度Gbに復帰した際には、加速度の段差が生じないように構成されている。
【0042】
そして、制御量反映率が「0」になり、ベース加速度Gbに復帰して、更に要求加速度が低下すると、要求加速度が定常走行領域である0G付近になるものの、0G付近での加速度は、既にベース加速度Gbに復帰しており、加速度のジャーク変化がない。つまり、この発明の実施形態では、復帰Gが0Gより大きいことによりアクセルペダル4の操作性が良好となるようになっている。
【0043】
なお、
図7は、
図6のタイムチャートにおける制御量反映率の変化であって、矢印で示すようにt1時点で制御量反映率が100%から下降し始め、t2時点で制御量反映率が0%に達する。また
図8は、
図6のタイムーチャートにおける要求加速度Gの変化を車速との関係で示しており、t0時点でアクセル開度が増大して、要求加速度が増大し、加速度を向上させる制御が開始される。そして、車速の増大に伴って、要求加速度が徐々に低下し、ベース加速度Gbが制御開始Gである符号Bのラインを跨ぎ、要求加速度が復帰Gである符号Aのラインに到達することで加速度を向上させる制御が終了する。この際に、要求加速度は、0Gより大きい点で復帰Gに到達する。
【0044】
つぎに、この発明の実施形態における作用について説明する。上述のように、この発明の実施形態では、要求加速度が大きい場合に、加速度を向上させる制御を実行するように構成されている。具体的には、要求加速度が所定値αより大きく、アクセルペダル4の操作速度が所定速度βより大きい場合に、予め定めたベース加速度Gbに対して、加算する加速度である加算量Gsgainを求め、最終的な加速度である補正加速度Ghを算出するように構成されている。そして、その補正加速度Ghを実現するように駆動力を発生させる。これにより、例えば前掲の特許文献1に記載された構成に比べて、より正確に運転者の要求する加速度を発生させることができる。
【0045】
また、この発明の実施形態によれば、要求加速度が低下した際の0G付近の定常走行領域でのアクセル操作のコントロール性が向上する。
図9は、前掲の特許文献1の制御例(従来例)と、この発明の実施形態とを比較したものであって、従来例では、加速度を向上させる制御が終了して、ベース加速度Gbに復帰する際の加速度が0G付近となっており、その0G付近における加速度の時間変化率(ジャーク)が変化している。そのため、アクセルペダル4の操作性が低下する。この0G付近は、定常走行領域であるため、運転者のアクセルペダル4の操作頻度が最も高い領域である。したがって、0G付近でのジャーク変化を抑制することが望まれる。それに対して、この発明の実施形態では、加速度を向上させる制御が終了して、ベース加速度Gbに復帰する際の要求加速度Gが0Gより大きくなっている。そして、その0Gより大きい加速度領域でジャーク変化が生じ、要求加速度が0G付近に到達した際には、ジャーク変化が生じない。したがって、この発明の実施形態では、定常走行領域でのアクセルペダル4の操作性が良好となる。
【0046】
また、
図10に示すように、この発明の実施形態では、加速度特性Giとベース加速度Gbとの差分Gsに基づいて加算量Gsgainを算出しているため、実現したい加速度、ならびに、駆動力を適宜発生させることができる。例えば
図10に示すように従来例では、加速度が増大した後に、その加速度が急低下しているため、運転者に対して急失速による違和感を与えることになる。それに対して、この発明の実施形態では、加速度が増大した後も、その加速感を維持するように構成されている。そのため、加速後半の落ち込みを抑制でき、その結果、運転者の意図に応じた加速度を発生させることができる。つまり、この発明の実施形態では、運転者の意図に応じて加速度加算量Gsgainを自由に制御できるため、狙った駆動力および加速度を発生させることができる。
【0047】
そのように、この発明の実施形態では、加速度の加算量Gsgainを運転者のアクセル操作に応じて制御することができるため、上述の
図6のアクセル開度が一定で加速している状態の例に限られず、複数の走行シーンに
図3の制御を適用することができる。以下に、その複数の走行シーンに適用した例をタイムーチャートを用いて説明する。
【0048】
図11は、そのタイムチャートの一例を示す図であって、加速後に運転者がアクセルペダル4を踏み戻した場合の要求加速度などの各パラメータの変化を示している。なお、t0時点からt2時点までの各パラメータの変化は、
図6の例とほぼ同様であるため、同様の部分は、簡略化して説明する。
【0049】
先ず、アクセル開度が増大して、要求加速度が増大し、G加算実行フラグがONされることにより、加速度を向上させる制御が実行される(t0時点)。また、その加速度を向上させる制御が実行されることにより制御量反映率が100%になる。
【0050】
ついで、t0時点からt1時点において、ベース加速度Gbが低下し、そのベース加速度Gbが、制御開始Gである符号Bのラインを下回ると、制御量反映率が低下し始める(t1時点)。つまり、制御量反映率が100%から下降し始め、加速度加算量Gsgainが低下し始める。また、このt1時点でアクセル開度が低下し始め、要求加速度Gが低下する変化率も大きくなる。
【0051】
そして、アクセル開度およびベース加速度Gbが更に低下して、復帰Gである符号Aのラインに到達すると、制御量反映率は0%になる。つまり、加速度加算量Gsgainが「0」になる(t2時点)。そして、制御量反映率が「0」になることにより、G加算実行フラグがOFFになる。なお、このt2時点で、要求加速度は、加速度の変化(加速度の段差)が生じないように、ベース加速度Gbに復帰し、かつその復帰Gは0Gより大きくなっている。
【0052】
ついで、制御量反映率が「0」になり、ベース加速度Gbに復帰して、更に要求加速度が低下すると、要求加速度が定常走行領域である0G付近になるものの、0G付近での加速度は、既にベース加速度Gbに復帰しており、加速度のジャーク変化がない(t2時点からt3時点)。つまり、復帰Gが0Gより大きいことによりアクセルペダル4の操作性が良好となるようになっている。
【0053】
そして、更にアクセル開度が低下して「0」付近になると(t3時点)、要求加速度が負の値になる。すなわち車両Veは制動することになる。
【0054】
なお、
図12は、
図11のタイムチャートにおける制御量反映率の変化であって、矢印で示すようにt1時点で制御量反映率が100%から下降し始め、t2時点で制御量反映率が0%に達し、t3時点においても0%のままである。また
図13は、
図11のタイムーチャートにおける要求加速度Gの変化を車速との関係で示しており、t0時点でアクセル開度が増大して、要求加速度が増大し、加速度を向上させる制御が開始される。そして、車速の増大に伴って、要求加速度が徐々に低下し、ベース加速度Gbが制御開始Gである符号Bのラインを跨ぐ。更にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が低下すると、そのアクセル開度の変化に応じて、要求加速度Gが低下し、その低下した要求加速度Gは、復帰Gである符号Aのラインを跨ぎ、負の加速度になる。なお、要求加速度Gが復帰Gに到達した時点で加速度を向上させる制御は終了する。
【0055】
つぎに、
図3の制御例を、アクセルペダル4を戻して加速度を向上させる制御を終了後に、再度アクセルペダル4を踏み増しして加速する場合に適用した場合の各パラメータの変化について、タイムーチャートを参照して説明する。なお、各パラメータの変化について、上述の
図6および
図11と同様の部分は、省略あるいは簡略化して説明する。
図14は、そのタイムチャートを示す図であって、先ず、t0時点からt2時点は、
図11のタイムーチャートの例と同様であって、すなわちアクセル開度の増大に応じて加速度を向上させる制御を実行し、その後、アクセル開度およびベース加速度Gbの低下により要求加速度Gは、ベース加速度Gbに復帰する(t0時点からt2時点)。そして、更にアクセル開度が低下して、要求加速度Gが負の値になる(t3時点)。
【0056】
その状態から、再度アクセルペダル4が踏み込まれると、要求加速度Gが増大する(t3時点からt4時点)。このt3時点からt4時点における要求加速度は、ベース加速度Gbに設定される。なお、その後、更にアクセルペダル4が踏み増し操作されることにより、制御開始する符号Bのラインを超えたら、再度、加速度を向上させる制御が実行されることになる。
【0057】
また、
図15は、
図14のタイムチャートにおける制御量反映率の変化であって、矢印で示すようにt1時点で制御量反映率が100%から下降し始め、t2時点で制御量反映率が0%に達し、t3時点では、負の加速度であるため、またt4時点では、要求加速度Gは増大するものの、制御を開始する符号Bに達していないので、制御量反映率はいずれも0%のままである。また
図16は、
図14のタイムーチャートにおける要求加速度Gの変化を車速との関係で示しており、t0時点でアクセル開度が増大して、要求加速度が増大し、加速度を向上させる制御が開始される。そして、車速の増大に伴って、要求加速度が徐々に低下し、ベース加速度Gbが制御開始Gである符号Bのラインを跨ぐ。更にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が低下すると、そのアクセル開度の変化に応じて、要求加速度Gが低下し、その低下した要求加速度Gは、復帰Gである符号Aのラインを跨ぎ、加速度を向上させる制御を終了する。その後、更にアクセル開度が低下して、要求加速度Gは、負の加速度になるものの、再度、アクセルペダルが踏み増し操作されることにより、要求加速度Gが復帰Gに到達している。
【0058】
つぎに、
図3の制御例を、アクセルペダル4を戻すことにより制御量反映率が低下中に、再度アクセルペダル4を踏み増しして加速する場合に適用した場合の各パラメータの変化について、タイムーチャートを参照して説明する。なお、各パラメータの変化について、上述の
図6、
図11、および、
図14のタイムーチャートと同様の部分は、省略あるいは簡略化して説明する。
図17は、そのタイムチャートを示す図であって、先ず、アクセル開度の増大に応じて加速度を向上させる制御を実行する(t0時点からt1時点)。
【0059】
ついで、ベース加速度Gbが制御開始であるBのラインを下回ることにより制御量反映率が100%から下降して、0~100%の間に制御される(t2時点)。したがって、このt2時点では、加速度加算量Gsgainが低下し、上述のベース加速度Gbとの差分Gsが小さくなる。
【0060】
ついで、この状態から、再度、アクセルペダル4が踏み込まれると、アクセル開度が増大し、それに応じて要求加速度Gも増大する(t2時点からt3時点)。その要求加速度が制御開始であるBのラインを跨ぐと、再度、制御量反映率は100%になる(t3時点)。なお、この
図17の制御を実行中は、G加算実行フラグがt0時点でフラグがONされた以降は、要求加速度Gはベース加速度Gbに復帰していないので、フラグは、ONの状態が維持される。
【0061】
なお、
図18は、
図17のタイムチャートにおける制御量反映率の変化であって、矢印で示すようにt1時点で制御量反映率が100%から下降し始め、t2時点で制御量反映率が0%付近まで低下し、再度アクセルペダル4が踏み増し操作されることにより、t3時点で、再度100%に達している。また
図19は、
図17のタイムーチャートにおける要求加速度Gの変化を車速との関係で示しており、t0時点でアクセル開度が増大して、要求加速度が増大し、加速度を向上させる制御が開始される。そして、車速の増大に伴って、要求加速度が徐々に低下し、t1時点でベース加速度Gbが制御開始Gである符号Bのラインを跨ぐ。更にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が低下すると、そのアクセル開度の変化に応じて、要求加速度Gが低下する(t2時点)。その状態から、再度アクセルペダルが踏み増しされることにより、再度、制御開始である符号Bのラインを跨ぐ(t3時点)。
【0062】
つぎに、この発明の実施形態における他の制御例について説明する。上述の
図3の制御例では、アクセル開度と車速とから求まる要求駆動力、および、アクセルペダル4の操作速度をパラメータとして、加速意図があるか否かを判断し、加速度を向上させる制御を実行するように構成されている。一方、車両Veが走行する路面が、平坦路ではなく、路面勾配が所定値以上の登坂路の場合には、路面勾配を考慮して駆動力を発生させることが好ましい。登坂路で、平坦路と同様の駆動力を発生させた場合には、例えば運転者の加速意図が消滅しているにも拘わらず、加速度を向上させる制御が実行されることがある。そこで、この発明の実施形態では、アクセル開度、車速、アクセルペダル4の操作速度に加えて、路面勾配を検出して、加速度を向上させる制御を実行するように構成されている。
【0063】
図20は、その制御の一例を示すフローチャートである。なお、各ステップの制御内容について、路面勾配を考慮した制御以外の構成は、上述の
図3の制御内容と同様であるため、その説明については省略あるいは簡略化する。
【0064】
先ず、加速意図があるか否かを判定する(ステップS100)。このステップS100は、
図3の制御例のステップS1とほぼ同様であって、運転者の要求加速度Gが予め定めた所定値αより大きいか否か、および、アクセルペダル4の操作速度が予め定めた所定速度βより大きいか否かを判断する。要求加速度Gが所定値αより大きいか否かの判断は、アクセル開度、車速に加えて路面勾配をパラメータとする。なお、このステップS100における要求加速度Gは、上述のベース加速度Gbに相当する静的な加速度である。このステップS100で否定的に判断された場合、すなわち要求加速度Gが所定値α以下である場合、または、アクセルペダル4の操作速度が所定速度β以下である場合には、加速要求の意図がないと判断し、これ以降の制御を実行することなく、
図20に示す制御例を一旦終了する。
【0065】
それとは反対に、このステップS100で肯定的に判断された場合、すなわち要求加速度Gが所定値αより大きい場合、および、アクセルペダル4の操作速度が所定速度βより大きい場合には、加速要求の意図がありと判断し、運転者の意図に沿った加速感を実現するための加速度特性Giを算出する(ステップS200)。このステップS200は、
図3の制御例のステップS2とほぼ同様であって、この加速度特性Giは、上述のステップS100の静的な加速度に対して動的な加速度である。上述のステップS100の要求加速度Gは、アクセル開度と車速と路面勾配とから一義的に決まるものに対して、加速度特性Giは、アクセル開度、車速、路面勾配に加えてアクセルペダル4の操作速度をパラメータとして算出される。つまり、動的な操作であるアクセルペダル4の操作速度をパラメータとして加えることにより、より正確に運転者の加速意図を把握する。
【0066】
ついで、ステップS200で算出した加速度特性Giに対して上限処理および下限処理を行う(ステップS300)。これは、
図3の制御例のステップS3とほぼ同様であって、上述のように、運転者の加速意図を正確に把握するために、加速度特性Giを算出したものの、その加速度特性Giが、車両Veの実現可能な最大加速度Gmaxを超える場合には、上限処理(補正処理)を行う必要がある。具体的には、加速度特性Giが車両Veの最大加速度Gmaxを超える場合には、加速度特性Giを最大加速度Gmaxに補正する。一方、加速度特性Giが最大加速度Gmax以下である場合には、補正することなく、そのままの値を維持する。なお、下限処理は、ステップS1で求めたベース加速度Gbとなる。また、最大加速度Gmaxは、アクセル開度100%における車速と路面勾配とに基づいて求められる。
【0067】
ついで、ベース加速度Gbと加速度特性Giとの差分Gs(=Gi-Gb)を算出する(ステップS400)。また差分Gsにゲインを乗じて加速度加算量Gsgain(=Gs×gain)を算出する(ステップS500)。このステップS400およびステップS500は、
図3の制御例のステップS4およびステップS5と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0068】
ついで、ステップS500で算出した加速度加算量Gsgainをベース加速度Gbに加えて、補正加速度Ghを算出する(ステップS600)。これは、
図3の制御例のステップS6と同様であって、つまり、この補正加速度Ghが最終的な運転者の要求加速度となる。
【0069】
ついで、ステップS600で算出した補正加速度Ghを車両Veの車重、ギヤ比、タイヤ径、走行抵抗などの諸元から駆動力に換算し、要求駆動力として発生させる(ステップS700)。これは、
図3の制御例のステップS7と同様であって、つまり、最終的に算出された要求加速度を発生させるための、駆動力を決定する。
【0070】
そして、ゲインが「0」になったか否か(すなわち制御量反映率が0%になったか否か)を判断し(ステップS800)、ゲインが「0」になったと判断された場合には、
図20に示す制御例を終了する。これは、
図3の制御例のステップS8と同様であって、つまり、ゲインが「0」になったら、加速度を向上させる制御を終了して、ベース加速度Gbに復帰する。それとは反対に、ゲインが「0」でないと判断された場合には、ステップS200へ戻り、このステップS800で肯定的に判断されるまでステップS200からステップS800を繰り返し実行する。
【0071】
このように、
図20の制御例では、路面勾配を考慮して要求加速度を設定するように構成されている。
図21は、路面勾配を考慮せずに加速度を向上させる制御を実行した場合の例(従来例)と、路面勾配を考慮して加速度を向上させる制御を実行した場合の例とを比較するタイムチャートである。
図21の紙面左側に示す従来例では、t10’時点でアクセル開度が増大することにより、G加算実行フラグがONされ、加速度を向上させる制御が開始される。ついで、t11’時点から路面勾配が0%から増大し始め、t12’時点で路面勾配はγ%になる。そして、t12’時点からt13’時点の過渡期において、要求加速度が登坂γ%での0Gのラインを跨ぎ、t13’時点でベース加速度Gbに復帰している。つまり、t12’時点とt13’時点の過渡期において、加速意図が消滅しているのにも拘わらず、減速領域であるt13’時点でベース加速度Gbに復帰している。そのため、運転者の加速意図に合致しない制御となっている。
【0072】
それに対して、
図21の紙面右側に示すこの発明の実施形態では、t10時点でアクセル開度が増大することにより、G加算実行フラグがONされ、加速度を向上させる制御が開始される。ついで、t11時点から路面勾配が0%から増大し始め、t12時点で路面勾配はγ%になる。そして、この路面勾配がγ%になったt12時点で、ベース加速度Gbに復帰するように構成されている。つまり、登坂路において、車両Veの加速度が0Gになった際に加速意図が消滅したと判断している。言い換えれば、所定のアクセルペダル4の操作量において、そのアクセルペダル4の操作量を路面勾配がある場合(所定勾配以上の場合)の加速度「0」となる領域が、路面勾配がない場合(所定勾配未満の場合)の加速度「0」となる領域より大きくなっている。このように、この発明の実施形態では、路面勾配の抵抗分を考慮してベース加速度Gbへの復帰を平坦路の場合から補正することにより、運転者の加速意図に応じた制御が可能となる。つまり、運転者の加速意図に応じた駆動力の制御を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
1 駆動力源
2 前輪
3 後輪
4 アクセルペダル
5 ブレーキペダル
6 検出部
7 ECU(電子制御装置)
Ve 車両