(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/00 20160101AFI20241217BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20241217BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241217BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20241217BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241217BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241217BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20241217BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20241217BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20241217BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20241217BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20241217BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241217BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/387 ZHV
B60K6/48
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60W20/40
B60K17/04 G
B60W10/00 108
B60W10/08
B60W10/00 102
B60W10/02
B60W10/00 122
B60L50/16
B60L15/20 K
(21)【出願番号】P 2021030400
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 圭
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-121696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60K 17/04
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して駆動輪に出力する変速機と、
前記エンジンと前記変速機との間の動力伝達経路に設けられ、運転者によるクラッチペダルの操作に連動して、前記エンジンと前記変速機との間で動力を伝達する締結状態、又は、前記動力を伝達しない解放状態に切り替えられるクラッチと、
前記変速機と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられ、前記変速機や前記クラッチを介さずに前記駆動輪に対して動力を伝達可能に接続されたモータと、を備え、
運転者による
前記クラッチペダル及びシフトレバーの操作に応じて前記変速機における前記変速段が切り替えられるハイブリッド車両の制御装置であって、
走行モードとして、前記クラッチを解放して前記モータの動力で走行するEVモードを有し、前記EVモードにおいてモータ回転速度が前記エンジンのアイドル回転速度に相当する回転速度を下回った場合に前記モータのトルクを低下させ
る制御を実行
し、当該制御の実行中に前記駆動輪の回転を抑制する回転抑制制御を実行する制御部を備
えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記
モータのトルクを低下させる制御の実行中、前記モータ回転速度が前記エンジンのアイドル回転速度に相当する回転速度よりも低い所定回転速度以下である場合に、前記回転抑制制御を実行することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記回転抑制制御において、前記クラッチを締結することにより前記駆動輪の回転を抑制することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、運転者により前記クラッチペダルが操作されると、前記回転抑制制御の実行を停止することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記所定回転速度は、成立している変速段が高速段のときよりも、変速段が低速段のときの方が低い回転速度に設定されることを特徴とする請求項
2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンとモータジェネレータとが自動クラッチを介して接続され、モータジェネレータとマニュアルトランスミッションとがマニュアルクラッチを介して接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、走行モードとして、自動クラッチを解放してモータジェネレータの動力で走行するEVモードと、自動クラッチを係合してエンジン、又はエンジン及びモータジェネレータの動力で走行するHEVモードとを有し、走行モードを切り替えるECUを備えたものが開示されている。
【0003】
このハイブリッド車両のモータトルク制御装置においては、走行モード毎の発進操作が異なることによりドライバが運転操作を混同することを防止する目的で、ECUが、ハイブリッド車両を発進させる場合に、MG回転速度がエンジンのアイドル回転速度以下に相当する低回転領域にあるときには発進が困難となるようにMGトルクを低下させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来のハイブリッド車両のモータトルク制御装置にあっては、発進時に駆動力源から出力される駆動力の挙動がEVモードとHEVモードとで同じになるようにMGトルクを制御しているが、内燃機関を動力源とするコンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両のエンジンストール発生時の挙動を再現するには至っておらず、未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様のエンジンストール発生時の挙動を再現することができるハイブリッド車両のモータトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、エンジンと、前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して駆動輪に出力する変速機と、前記エンジンと前記変速機との間の動力伝達経路に設けられ、運転者によるクラッチペダルの操作に連動して、前記エンジンと前記変速機との間で動力を伝達する締結状態、又は、前記動力を伝達しない解放状態に切り替えられるクラッチと、前記変速機と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられ、前記変速機や前記クラッチを介さずに前記駆動輪に対して動力を伝達可能に接続されたモータと、を備え、運転者による前記クラッチペダル及びシフトレバーの操作に応じて前記変速機における前記変速段が切り替えられるハイブリッド車両の制御装置であって、走行モードとして、前記クラッチを解放して前記モータの動力で走行するEVモードを有し、前記EVモードにおいてモータ回転速度が前記エンジンのアイドル回転速度に相当する回転速度を下回った場合に前記モータのトルクを低下させる制御を実行し、当該制御の実行中に前記駆動輪の回転を抑制する回転抑制制御を実行する制御部を備える構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様のエンジンストール発生時の挙動を再現することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両に搭載されたECUによって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、変形例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して駆動輪に出力する変速機と、エンジンと変速機との間で動力を伝達する締結状態、又は、動力を伝達しない解放状態に切り替えられるクラッチと、駆動輪に対して動力を伝達可能に接続されたモータと、を備え、運転者によるクラッチペダル及びシフトレバーの操作に応じて変速機における変速段が切り替えられるハイブリッド車両の制御装置であって、走行モードとして、クラッチを解放してモータの動力で走行するEVモードを有し、EVモードにおいてモータ回転速度がエンジンのアイドル回転速度に相当する回転速度を下回った場合にモータのトルクを低下させる疑似エンジンストール制御を実行する制御部を備え、制御部は、疑似エンジンストール制御が実行されると、駆動輪の回転を抑制する回転抑制制御を実行することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様のエンジンストール発生時の挙動を再現することができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の一実施例に係る制御装置を搭載したハイブリッド車両について図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施例に係るハイブリッド車両1は、エンジン2と、モータとしてのモータジェネレータ3と、変速機としてのマニュアルトランスミッション4と、ディファレンシャル5と、駆動輪6と、制御部としてのECU(Electric Control Unit)10と、を含んで構成されている。
【0013】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0014】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20が連結されている。ISG20は、ベルト等の動力伝達部材21を介してエンジン2のクランクシャフトに連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフトから入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0015】
モータジェネレータ3は、インバータ30を介してバッテリ31から供給される電力によって駆動する電動機としての機能と、ディファレンシャル5から入力される逆駆動力によって回生発電を行なう発電機としての機能とを有する。
【0016】
モータジェネレータ3は、マニュアルトランスミッション4と左右の駆動輪6との間の動力伝達経路に設けられ、左右の駆動輪6に対して動力を伝達可能に接続されている。
【0017】
インバータ30は、ECU10の制御により、バッテリ31から供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給したり、モータジェネレータ3によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリ31を充電したりする。バッテリ31は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池によって構成されている。
【0018】
マニュアルトランスミッション4は、エンジン2から出力された回転を複数の変速段のいずれかに応じた変速比で変速して左右の駆動輪6に出力する手動変速機によって構成されている。マニュアルトランスミッション4の出力軸は、ディファレンシャル5を介して左右の駆動輪6に接続されている。モータジェネレータ3の出力軸は、マニュアルトランスミッション4の出力軸に接続されている。つまり、モータジェネレータ3とマニュアルトランスミッション4は、それぞれが単独で駆動力を伝達可能に駆動輪6に接続されており、駆動輪6には、マニュアルトランスミッション4で変速されたエンジン2の駆動力とモータジェネレータ3の駆動力が伝達される。
【0019】
マニュアルトランスミッション4で成立可能な変速段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの前進走行用の変速段と、後進段とがある。走行用の変速段の段数は、ハイブリッド車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。
【0020】
マニュアルトランスミッション4における変速段は、運転者によるクラッチペダル71及びシフトレバー40の操作に応じて切り替えられるようになっている。シフトレバー40の操作位置は、シフトポジションセンサ41により検出される。シフトポジションセンサ41は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0021】
マニュアルトランスミッション4には、ニュートラルスイッチ42が設けられている。ニュートラルスイッチ42は、ECU10に接続されている。ニュートラルスイッチ42は、マニュアルトランスミッション4においていずれの変速段も成立していない状態、つまりニュートラル状態であることを検出するもので、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態にあるときにONされるスイッチである。
【0022】
エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路には、クラッチ7が設けられている。クラッチ7としては、例えば乾式単板の摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とマニュアルトランスミッション4とは、クラッチ7を介して接続されている。
【0023】
クラッチ7は、運転者によるクラッチペダル71の操作に連動してクラッチアクチュエータ70が作動することで、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間で動力を伝達する締結状態と、動力を伝達しない解放状態と、回転差のある状態でトルクが伝達される半クラッチ状態と、のいずれかに切り替えられる。つまり、クラッチ7は、マニュアルトランスミッション4で変速段が成立している状態では、エンジン2と駆動輪6との間を接続する締結状態と、接続しない解放状態とに切り替えられる。そして、クラッチバイワイヤ方式のクラッチであって、クラッチアクチュエータ70は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0024】
ECU10は、運転者により操作されるクラッチペダル71の踏み込み量に応じてクラッチアクチュエータ70を制御し、クラッチペダル71とクラッチが機械的に連係して動作する所謂マニュアルクラッチと同等の動作となるように制御する。なお、後述するEVモードでは、ECU10は、運転者により操作されておらずクラッチペダル71の踏み込みを検知していない状態で、クラッチ7を解放することができる。
【0025】
クラッチペダル71の踏み込み量は、クラッチペダルセンサ72によって検出される。クラッチペダルセンサ72は、ECU10に接続されており、クラッチペダル71の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0026】
ハイブリッド車両1は、運転者により操作されるアクセルペダル90を備えている。アクセルペダル90の踏み込み量は、アクセル開度センサ91によって検出される。アクセル開度センサ91は、ECU10に接続されており、アクセルペダル90の踏み込み量をアクセル開度として検出し、当該アクセル開度に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0027】
ハイブリッド車両1は、運転者により操作されるブレーキペダル92を備えている。ブレーキペダル92の踏み込み量は、ブレーキペダルセンサ93によって検出される。ブレーキペダルセンサ93は、ECU10に接続されており、ブレーキペダル92の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0028】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0029】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータユニットは、本実施例におけるECU10として機能する。
【0030】
ECU10には、上述したセンサ類のほか、車速センサ11が接続されている。車速センサ11は、ハイブリッド車両1の車速を検出し、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0031】
ECU10は、ハイブリッド車両1の走行モードを切り替えるようになっている。本実施例における走行モードとしては、EVモードとHEVモードとが設定されている。
【0032】
EVモードは、クラッチ7を解放してモータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる走行モードである。HEVモードは、クラッチ7を締結してエンジン2、又はエンジン2及びモータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる走行モードである。詳細には、本実施例に係るハイブリッド車両1におけるEVモードは、運転者の操作によって選択されているマニュアルトランスミッション4の変速段に応じて出力特性と速度範囲が設定されており、アクセル開度センサ91によって検出される運転者のアクセルペダル90の踏み込み量に対応する出力(駆動力)で走行するモードである。HEVモードは、エンジン2が発生する駆動力によりハイブリッド車両1を走行させる走行モードであり、モータジェネレータ3の動力を補助的に使用してハイブリッド車両1を走行させる走行モードである。
【0033】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転速度に基づいてEVモードとHEVモードとを切り替える。
【0034】
ECU10は、例えば、EVモードで走行時に、アクセル開度で決まるドライバ要求トルクがHEV移行閾値を超えた場合、エンジン2を再始動させてHEVモードに移行する。
【0035】
ECU10は、例えば、HEVモードで走行時に、アクセル開度とエンジン回転速度で決まるドライバ要求トルクがEV移行閾値を下回った場合、エンジン2を停止させてEVモードに移行する。
【0036】
EVモードでは、マニュアルトランスミッション4を介さない駆動力伝達経路であるにもかかわらず有段手動変速機の特性を再現するために、ECU10は、選択されているマニュアルトランスミッション4の変速段に応じて、アクセルペダル90、クラッチペダル71の操作状況から、現在の走行速度に対応した仮想エンジン回転速度、仮想エンジントルクや仮想イナーシャトルク等を算出する。そして、これら算出結果に基づきモータジェネレータ3の出力を調整するようになっている。
【0037】
ECU10は、EVモードにおいて、モータジェネレータ3の回転速度(以下「モータ回転速度」という)が、選択されているマニュアルトランスミッション4の変速段におけるエンジン2のアイドル回転速度に相当する車速時の回転速度(以下、「MG_idle回転速度」という)を下回った場合に疑似エンジンストール制御を実行する。なお、この疑似エンジンストール制御は、クラッチペダル71が運転者により操作されていない(踏み込まれていない)状態の時に実施される。疑似エンジンストール制御は、モータジェネレータ3のトルク(以下「モータトルク」という)を低下させ、あたかもエンジン2がストールしたかの様に疑似的にエンジンストールを再現するようになっている。疑似エンジンストール制御では、モータトルクを0に制御するのが好ましい。なお、上記疑似エンジンストール制御では、変速段に応じた回転速度を閾値にして疑似エンジンストール制御を実施するが、さらに、アクセル開度センサ91によって検出されるアクセルペダル90の踏み込み量に応じて、回転速度の閾値を変更して制御してもよい。つまり、MG_idle回転速度を下回った場合であっても、アクセルペダル90が大きく踏み込まれている場合は、閾値を下げることで疑似エンジンストール制御を即座に実施せずに変速段に応じた出力特性の制御を継続する。このような制御とすることにより、よりエンジン2の駆動力による走行状態に近づけることができる。また、ECU10は、後述するモータ回転速度が所定回転速度Nmthを下回った場合に疑似エンジンストール制御を実行する構成であってもよい。
【0038】
ECU10は、上述した疑似エンジンストール制御が実行されて、さらにモータ回転速度が低下すると、駆動輪6の回転を抑制する回転抑制制御を実行するようになっている。具体的には、ECU10は、疑似エンジンストール制御の実行中、モータ回転速度がMG_idle回転速度よりも低い所定回転速度Nmth以下となった場合に回転抑制制御を実行する。つまり、疑似エンジンストール制御が実行された後、アクセルペダル90やクラッチペダル71の操作によるモータ回転速度の回復がなされず、更にモータ回転速度が低下した場合に、回転抑制制御が実行される。
【0039】
なお、所定回転速度Nmthは、成立している変速段に応じて変更してもよい。エンジン2による車体への制動効果は変速段によって異なるので、制動効果が大きい低速段では高速段に比較してより低回転の所定回転速度Nmthを用いることが出来る。これにより、低速段でも比較的緩やかに回転抑制制御を実施することができるとともに、低速段でのアクセルペダル90の操作による復帰の可能性をコンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両の挙動や状態により近づけることができる。
【0040】
さらに、ECU10は、モータ回転速度がMG_idle回転速度を下回った場合に回転抑制制御を実行する構成であってもよい。また、ECU10は、モータ回転速度が所定回転速度Nmthを下回った場合に疑似エンジンストール制御及び回転抑制制御を実行する構成であってもよい。
【0041】
回転抑制制御は、クラッチ7を締結して、エンジン2とマニュアルトランスミッション4とを動力伝達可能に接続する締結状態とするものである。また、回転抑制制御が行われるのは、マニュアルトランスミッション4においていずれかの変速段が成立しているときである。つまり、ECU10は、この回転抑制制御において、クラッチ7を締結することにより停止中のエンジン2を利用して駆動輪6の回転を抑制するようになっている。詳細には、クラッチ7が締結されると、停止中のエンジン2のフリクショントルクやモータリング(空回し)トルク等が負荷となって駆動輪6の回転が抑制される。これにより、疑似エンジンストール制御が実行された場合のハイブリッド車両1の挙動や状態が、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両のエンジンストール発生時の挙動や状態と同様となる。さらに、HEVモードでのエンジンストール発生時におけるハイブリッド車両1の挙動とも同じになる。つまり、メータ内の表示も含めコンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両のエンジンストール発生時の状態が再現される。なお、メータ内の表示にて、アイドリングストップによってエンジン2が停止している状態とは異なる車両の状態であることを、運転者は認識することができる。このため、通常のアイドリングストップからの再始動の操作でなく、エンジンストール時の操作を運転者は間違うことなく行うことができる。具体的には、クラッチペダル71を踏み込むだけでエンジンを再始動する様に、クラッチペダル71を踏み込めば回転抑制制御及び疑似エンジンストール制御を終了し、クラッチ7を解放するとともに、メータ内の表示を走行時状態とする。
【0042】
なお、回転抑制制御によるクラッチ7の締結が急激に行われると停止していたエンジン2により車体に急制動が掛かる為、クラッチ7の締結は、比較的緩やかに徐々に車速を低下させる様に行ってもよいし、極低速になってから行うことにしてもよい。また、回転抑制制御が実行される際に、EVモードのために解放していたクラッチ7を単純に締結するのでなく、運転者により操作されているクラッチペダル71の操作位置に応じたクラッチ位置にクラッチ7を速やかに制御して、当該クラッチ位置でクラッチ7を締結するようにしてもよい。
【0043】
ECU10は、上述した回転抑制制御の実行中に、運転者によりクラッチペダル71が操作されると、回転抑制制御の実行を停止するようになっている。すなわち、ECU10は、回転抑制制御の実行中に運転者によりクラッチペダル71が踏み込まれると、クラッチ7を解放することにより回転抑制制御を解除するようになっている。これにより、クラッチペダル71の踏込みによって駆動輪6の回転抑制が解除されることから、ハイブリッド車両1の挙動が、HEVモードでのエンジンストール発生時においてクラッチペダル71が踏み込まれた場合と同じになる。
【0044】
上述した回転抑制制御は、ハイブリッド車両1が走行状態から速度が低下してモータ回転速度が異常に低下した場合や、ハイブリッド車両1が走行状態で運転者が変速段の選択ミスをしてモータ回転速度が異常に低下した場合に実行することを想定している。これに対して、発進時では、モータ回転速度だけではエンジンストールが発生する状況を判断できない。この為、所定回転速度Nmthによる回転抑制制御の開始は、ハイブリッド車両1が停車しているとき及び車速が非常に低いときには行わず、車速が比較的高いときに行われる。具体的には、ECU10は、ハイブリッド車両1の停車中、及び、発進してから車速が所定車速Vthを越えた経験が無い場合には、所定回転速度Nmthによる回転抑制制御の開始は行わず、発進時のエンスト判断によって疑似エンジンストール制御を開始し、回転抑制制御を開始する。発進時のエンスト判断は、成立している変速段や、路面の勾配等のハイブリッド車両1の走行抵抗を考慮して、運転者によるクラッチペダル71及びアクセルペダル90の操作状況でECU10が判断する。
【0045】
ハイブリッド車両1の速度が低下してモータ回転速度が低下した場合、成立している変速段に応じて所定回転速度Nmthは設定される。例えば3速段以上の中高速段が成立している場合、所定回転速度Nmthとして第1回転速度Nm1を設定し、低速段が成立している場合には、所定回転速度Nmthとして、第1回転速度Nm1よりも低い第2回転速度Nm2を設定する。上述の所定車速Vthは、車速=0に近い、極低車速である。
【0046】
次に、
図2を参照して、本実施例に係るECU10の処理の流れについて説明する。
図2に示す処理は、ハイブリッド車両1の起動中、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0047】
図2に示すように、ECU10は、ハイブリッド車両1の走行モードがEVモードであるか否かを判定する(ステップS1)。ECU10は、ステップS1において走行モードがEVモードでないと判定した場合には、
図2に示す処理を終了する。
【0048】
ECU10は、ステップS1において走行モードがEVモードであると判定した場合には、疑似エンジンストール制御が実行されているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、ECU10は、モータ回転速度がMG_idle回転速度を下回っているか否かを判定することで、疑似エンジンストール制御が実行されているか否かを判定することができる。
【0049】
ECU10は、ステップS2において疑似エンジンストール制御が実行されていないと判定した場合には、
図2に示す処理を終了する。ECU10は、ステップS2において疑似エンジンストール制御が実行されていると判定した場合には、車速が所定車速Vth以下であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0050】
ECU10は、ステップS3において車速が所定車速Vth以下であると判定した場合には、発進動作中の疑似エンジンストール制御が実行中と判断して、後述するステップS8の処理に移行する。
【0051】
ECU10は、ステップS3において車速が所定車速Vth以下でないと判定した場合には、走行中の疑似エンジンストール制御が実行中と判断して、ステップS4の処理に移行する。
【0052】
ECU10は、ステップS4において、成立している変速段が3速段以上の中高速段であるか確認し、変速段が3速段以上であると判定した場合は、回転抑制制御を開始する所定回転速度Nmthとして、第1回転速度Nm1を設定して(ステップS5)、ステップS7の処理に移行する。
【0053】
ECU10は、ステップS4において変速段が3速段以上の中高速段でないと判定した場合には、後述するステップS7の判定で使用される所定回転速度Nmthとして、第2回転速度Nm2を設定して(ステップS6)、ステップS7の処理に移行する。第2回転速度Nm2は、第1回転速度Nm1よりも低い回転速度である。
【0054】
ステップS7において、ECU10は、モータ回転速度が所定回転速度Nmth以下であるか否かを判定する。ECU10は、ステップS7においてモータ回転速度が所定回転速度Nmth以下でないと判定した場合には、
図2に示す処理を終了する。
【0055】
ECU10は、ステップS7においてモータ回転速度が所定回転速度Nmth以下であると判定した場合には、クラッチアクチュエータ70を作動してクラッチ7を締結する、すなわち回転抑制制御を実行する(ステップS8)。これにより、停止中のエンジン2のフリクショントルクやモータリング(空回し)トルク等が負荷となって駆動輪6の回転が抑制される。
【0056】
次いで、ECU10は、上記回転抑制制御の実行中に、運転者によるクラッチ操作があるか否か、すなわち運転者によりクラッチペダル71が踏み込まれたか否か、を判定する(ステップS9)。ECU10は、ステップS9においてクラッチ操作がないと判定した場合には、
図2に示す処理を終了する。
【0057】
ECU10は、ステップS9においてクラッチ操作があると判定した場合には、締結状態のクラッチ7を解放して(ステップS10)、すなわち回転抑制制御を解除して、
図2に示す処理を終了する。
【0058】
以上のように、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、EVモードにおいて、モータ回転速度がMG_idle回転速度を下回った場合に疑似エンジンストール制御を実行し、当該疑似エンジンストール制御が実行されると、その後のモータ回転速度、アクセルペダル90の踏み込み量、車速の変化やクラッチペダル71の操作の状況により、駆動輪6の回転を抑制する回転抑制制御を実行するよう構成されている。
【0059】
この構成により、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、回転抑制制御により駆動輪6の回転を抑制するので、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様のエンジンストール発生時の挙動や車両の状態を再現することができる。
【0060】
コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両にあっては、例えば、傾斜路でエンジンストールが発生した場合には、運転者がクラッチを解放する操作をしない限り駆動輪とエンジンとが動力伝達可能に接続されたままとなるので、停止中のエンジンのフリクショントルクやモータリング(空回し)トルク等が負荷となって駆動輪の回転が抑制される。これにより、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両は、傾斜路でのエンジンストール発生時に傾斜路をずり下がることが抑制される。
【0061】
これに対し、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、クラッチ7を解放しているEVモード中であっても、例えば傾斜路で疑似エンジンストールが発生した場合、上述した回転抑制制御を実行することで、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様、ハイブリッド車両1がずり下がってしまうことを防止できる。
【0062】
このように、本実施例に係るハイブリッド車両1の制御装置は、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様のエンジンストール発生時の挙動を再現することができるので、運転者に与える違和感を抑制でき、商品性を向上させることができる。
【0063】
さらに、疑似エンジンストール制御が実行された場合のハイブリッド車両1の挙動が、HEVモードでのエンジンストール発生時におけるハイブリッド車両1の挙動と同じになるので、EVモードとHEVモードとでハイブリッド車両の挙動が異なることにより運転者に違和感を与えてしまうことを防止できる。さらに、車両の状態も同じ状態とすることができるので、その後の再始動等の操作も同じにすることができる。
【0064】
また、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、疑似エンジンストール制御の実行中、モータ回転速度がMG_idle回転速度よりも低い所定回転速度Nmth以下である場合に、回転抑制制御を実行するよう構成されている。
【0065】
この構成により、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、疑似エンジンストール制御が実行された場合のハイブリッド車両1の挙動を、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両のエンジンストール発生時の挙動により近づけることができる。
【0066】
また、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、回転抑制制御において、クラッチ7を締結することにより駆動輪6の回転を抑制するので、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様に、停止中のエンジン2のフリクショントルクやモータリング(空回し)トルク等の負荷を駆動輪6の回転の抑制に利用できる。
【0067】
また、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、運転者によりクラッチペダル71が操作されると、回転抑制制御の実行を停止するので、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様に、駆動輪6とエンジン2との間の動力伝達経路を遮断できる。これにより、駆動輪6の回転が抑制された状態でクラッチペダル71が操作された際の挙動を、コンベンショナルなマニュアルトランスミッション搭載車両と同様の挙動にすることができる。
【0068】
また、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置において、所定回転速度Nmthは、停車しているとき及び車速が低いときよりも、車速が高いときの方が低い回転速度に設定されている。
【0069】
この構成により、本実施例に係るハイブリッド車両の制御装置は、例えば、走行中のシフト操作ミスによるモータ回転速度の低下や、車速の低下によるモータ回転速度の低下に対しては、回転抑制制御を実行し難くすることができる。
【0070】
なお、本実施例では、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を
図1に示したハイブリッド車両1に適用した例について説明したが、これに限らず、
図3に示す変形例に係るハイブリッド車両101に適用してもよい。
【0071】
図3に示すように、変形例に係るハイブリッド車両101は、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路上にモータジェネレータ3が設けられた形式の車両である。本変形例において、本実施例と共通の構成については同一の符号を付している。
【0072】
さらに、エンジン2とモータジェネレータ3との間には、図示しないECUにより締結又は解放が制御される自動クラッチ108が設けられている。また、運転者によるクラッチペダルの操作に連動してクラッチアクチュエータによって作動するクラッチ7は、マニュアルクラッチとしてモータジェネレータ3とマニュアルトランスミッション4との間に設けられている。
【0073】
本変形例に係るハイブリッド車両101においても、図示しないECUは、疑似エンジンストール制御が実行されると、クラッチ7及び自動クラッチ108を締結することにより駆動輪6の回転を抑制する回転抑制制御を実行するようになっている。
【0074】
本変形例に係るハイブリッド車両101にあっても、本実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0075】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0076】
1、101 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータジェネレータ(モータ)
4 マニュアルトランスミッション(変速機)
6 駆動輪
7 クラッチ
10 ECU(制御部)
11 車速センサ
40 シフトレバー
41 シフトポジションセンサ
70 クラッチアクチュエータ
71 クラッチペダル
72 クラッチペダルセンサ
90 アクセルペダル
91 アクセル開度センサ