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特許7604956小容量液剤用外装袋、および小容量液剤用外装袋の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】小容量液剤用外装袋、および小容量液剤用外装袋の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20241217BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241217BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/36
B32B9/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021037148
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137599
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】井口 依久乃
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-075368(JP,A)
【文献】特開2004-051174(JP,A)
【文献】特開2001-048246(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060377(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 27/36
B32B 9/00
B65D 81/24
A61J 1/00-1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小容量の液剤バッグを包装するための小容量液剤用外装袋であって、
バリア層と、
熱可塑性を有したシーラント層と、
前記バリア層と前記シーラント層との間に位置するポリエチレンテレフタレート層と、を備え、
前記ポリエチレンテレフタレート層は、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含み、
前記ポリエチレンテレフタレート層の全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上5モル%以下である
小容量液剤用外装袋。
【請求項2】
前記バリア層は、無機酸化物層であり、
前記小容量液剤用外装袋は、透明である
請求項1に記載の小容量液剤用外装袋。
【請求項3】
ポリプロピレン層をさらに備え、
前記ポリプロピレン層と前記ポリエチレンテレフタレート層との間に前記バリア層が位置する
請求項1または2に記載の小容量液剤用外装袋。
【請求項4】
印刷層をさらに備え、
前記ポリプロピレン層と前記バリア層との間に前記印刷層が位置する
請求項3に記載の小容量液剤用外装袋。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレート層は、各層に含まれるポリエチレンテレフタレートの繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含む積層体である
請求項1から4のいずれか一項に記載の小容量液剤用外装袋。
【請求項6】
前記小容量は、100ml以下である
請求項1から5のいずれか一項に記載の小容量液剤用外装袋。
【請求項7】
小容量の液剤バッグを包装するための小容量液剤用外装袋の製造方法であって、
ポリエチレンテレフタレート層にバリア層を積層すること、および、
前記バリア層とシーラント層とが前記ポリエチレンテレフタレート層を挟むように、前記ポリエチレンテレフタレート層に熱可塑性を有したシーラント層を積層すること、を含み、
前記ポリエチレンテレフタレート層は、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含み、
前記ポリエチレンテレフタレート層の全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上5モル%以下である
小容量液剤用外装袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小容量の液剤バッグを包装するための小容量液剤用外装袋、および小容量液剤用外装袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液剤バッグを包装するための外装袋は、酸素や水分の透過を抑えるバリア機能を要求される。アルミニウム層のバリア機能を利用した外装袋は、優れたバリア機能を有する一方で、外装袋を通した液剤の視認性を失ってしまう。輸液製剤などのように液剤の視認性を要求される外装袋は、アルミニウム層に代わるバリア層として、酸化アルミニウム層や酸化珪素層をナイロン層やポリエステル層に積層した透明蒸着フィルムを採用する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-140327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液剤バッグの外装袋は、外装袋に要求されるバリア機能の観点から、250ml以下の小容量の液剤バッグを包装する小容量用の外装袋と、500ml以上の大容量の液剤バッグを包装する大容量用の外装袋とに分類される。小容量用の外装袋であれ、大容量用の外装袋であれ、液剤バッグのなかから水が蒸発することは、液剤の濃度を要求値から乖離させてしまう。一方、外装袋から蒸散する成分量が大容量用の外装袋と小容量用の外装袋との間で同じ程度であっても、液剤バッグにおける液剤の組成変動は、相対的に小容量用の液剤バッグにおいて大きなものとなる。特に、液剤バッグを包装した外装袋の流通過程では、揺れや振動などが液剤に作用し、バリア機能を低下させる折れや捩れなどの変形が、外装袋で繰り返される。こうした実情から、小容量の液剤バッグを包装する外装袋には、バリア機能が低下することの抑制を別して要求される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための小容量液剤用外装袋は、小容量の液剤バッグを包装するための小容量液剤用外装袋であって、バリア層と、熱可塑性を有したシーラント層と、前記バリア層と前記シーラント層との間に位置するポリエチレンテレフタレート層と、を備え、前記ポリエチレンテレフタレート層は、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含む。
【0006】
上記課題を解決するための小容量液剤用外装袋の製造方法は、小容量の液剤バッグを包装するための小容量液剤用外装袋の製造方法であって、ポリエチレンテレフタレート層にバリア層を積層すること、および、前記バリア層とシーラント層とが前記ポリエチレンテレフタレート層を挟むように、前記ポリエチレンテレフタレート層に熱可塑性を有したシーラント層を積層すること、を含み、前記ポリエチレンテレフタレート層は、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含む。
【0007】
上記各構成によれば、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含むため、小容量液剤用外装袋において、折れや捩れなどの変形に起因したバリア機能の低下が抑制可能となる。
【0008】
上記小容量液剤用外装袋において、前記バリア層は、無機酸化物層であり、前記小容量液剤用外装袋は、透明でもよい。この構成によれば、小容量液剤用外装袋を通し、液剤バッグの視認性を高めることが可能ともなる。また、高いバリア機能を有した金属バリア層を採用しない構成であるから、ポリエチレンテレフタレート層におけるバリア機能の低下抑制がさらに有益なものとなる。
【0009】
上記小容量液剤用外装袋は、ポリプロピレン層をさらに備え、前記ポリプロピレン層と前記ポリエチレンテレフタレート層との間に前記バリア層が位置してもよい。
上記構成によれば、ポリプロピレン層がバリア層を保護するため、バリア機能の低下が抑制可能となることの実効性が高まる。また、ポリプロピレン層が最外層に位置する場合、小容量液剤用外装袋におけるピンホールの発生頻度が抑制可能ともなる。
【0010】
上記小容量液剤用外装袋は、印刷層をさらに備え、前記ポリプロピレン層と前記バリア層との間に前記印刷層が位置してもよい。
上記構成によれば、ポリプロピレン層が印刷層を保護するため、折れや捩れなどの変形に起因した印刷層における耐久性の低下が抑制可能ともなる。また、印刷層と液剤バッグとの間に位置するバリア層が、印刷層の成分に対するバリア機能を兼ね備える。
【0011】
上記小容量液剤用外装袋において、前記ポリエチレンテレフタレート層の全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上5モル%以下であってもよい。この構成によれば、イソフタル酸の割合が0.5モル%以上5モル%以下であるから、上述した効果が得られることの実効性を高めることが可能ともなる。
【0012】
上記小容量液剤用外装袋において、前記小容量は、100ml以下でもよい。この構成によれば、単位容量あたりの液剤において外装袋に接する表面積が特に広がる。そのため、バリア機能の低下抑制が一段と格別な効果になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バリア機能の低下を抑制可能にした小容量液剤用外装袋、および小容量液剤用外装袋の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】小容量液剤用外装袋の一実施形態における正面構造を示す構成図。
図2】小容量液剤用外装袋の一実施形態における断面構造を示す断面図。
図3】応力‐ひずみ曲線の一例を示すグラフ。
図4】各試験例の貯蔵弾性曲線を示すグラフ。
図5】各試験例の損失弾性曲線を示すグラフ。
図6】各試験例の損失正接曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
小容量液剤用外装袋、および小容量液剤用外装袋の製造方法の一実施形態を説明する。
[小容量液剤用外装袋10の構成]
図1が示すように、小容量液剤用外装袋10は、小容量の液剤バッグを包装して液剤バッグを密封する。小容量液剤用外装袋10の周縁は、封止部11を備える。図1に示す小容量液剤用外装袋10は、小容量液剤用外装袋10の周縁全体を封止部11とした四方シール型外装袋である。四方シール型の小容量液剤用外装袋10は、矩形状を有した2枚の積層体20のそれぞれの四方に位置する縁が熱融着されることによって製造される。
【0016】
小容量液剤用外装袋10は、三方シール型外装袋でもよい。三方シール型の小容量液剤用外装袋10は、矩形状を有した1枚の積層体20が二つ折りされ、折り曲げられた積層体20の三方の縁が熱融着されることによって製造される。あるいは、小容量液剤用外装袋10は、二方シール型外装袋、側面シール型外装袋、自立性外装袋、ピローシール型外装袋、ひだ付シール型外装袋、平底シール型外装袋、角底シール型外装袋からなる群から選択されるいずれか一種でもよい。小容量液剤用外装袋10は、ワンピースタイプ外装袋でもよいし、ツーピースタイプ外装袋でもよい。
【0017】
小容量液剤用外装袋10が包装する液剤バッグは、輸液製剤、および高薬理活性剤を収容する。輸液製剤は、体内に投与することによって治療効果を高めることを目的とした50ml以上の注射剤、および薬剤投与を目的とした50ml以上の溶解剤または希釈剤である。輸液製剤は、電解質輸液製剤、水分輸液製剤、栄養輸液製剤、血漿増量剤、浸透圧利尿剤を含む。電解質輸液は、等張性輸液、低張性輸液、および高張性輸液を含む。低張性輸液は、開始液、細胞外液補充液、脱水補給液、維持液、および術後回復液を含む。栄養輸液製剤は、糖質輸液、脂肪乳剤、およびアミノ酸液を含む。血漿増量剤は、膠質輸液、および血漿剤を含む。高薬理活性剤は、抗生物質、抗がん剤、ステロイド製剤などの投与濃度に調整された薬液を含む。
【0018】
小容量液剤用外装袋10が包装する液剤バッグの容量は、50ml以上250ml以下である。バリア機能の低下抑制を高められる観点から、小容量液剤用外装袋10が包装する液剤バッグの容量は、50ml以上100ml以下であることが好ましい。
【0019】
[シーラント層21の構成]
図2が示すように、積層体20は、シーラント層21、ポリエチレンテレフタレート層22(以下、PET層22とも示す)、バリア層23を備える。PET層22は、シーラント層21とバリア層23との間に位置する。
【0020】
シーラント層21は、シーラント層21の一部と他部との間で熱融着可能な熱可塑性を有する。小容量液剤用外装袋10の封止部11は、シーラント層21の熱融着によって形成される。シーラント層21は、1つの層から構成されてもよいし、複数の層から構成されてもよい。シーラント層21が複数の層から構成される場合、シーラント層21を構成する各層は、相互に同一の材料から構成されてもよいし、相互に異なる材料から構成されてもよい。
【0021】
シーラント層21の構成材料は、鎖状ポリオレフィンでもよいし、環状ポリオレフィンでもよい。鎖状ポリオレフィンの一例は、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体のエステル化物である。環状ポリオレフィンの一例は、環状オレフィンの開環メタセシス重合体(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)である。
【0022】
小容量液剤用外装袋10の密封性をさらに高めることが要求される場合、シーラント層21の厚さは、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。封止部11の加工性を高めることが要求される場合、シーラント層21の厚さは、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。
【0023】
小容量液剤用外装袋10での液剤の溶出抑制を要求される場合、シーラント層21の構成材料は、エチレン系樹脂であることが好ましく、低密度ポリエチレンであることがより好ましい。
【0024】
小容量液剤用外装袋10に遮光性を要求される場合、シーラント層21は、白色顔料を含む2つの層と、黒色顔料を含む1つの層とを備え、2つの白色層の間に黒色顔料を含む層が位置する3層構造であることが好ましい。白色顔料の一例は、酸化チタン、酸化バリウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛である。黒色顔料の一例は、カーボンブラック、黒鉛、アニリンブラックである。
【0025】
[バリア層23の構成]
バリア層23は、酸素や水蒸気の透過を抑制する。バリア層23は、1つの層から構成されてもよいし、複数の層から構成されてもよい。バリア層23が複数の層から構成される場合、バリア層23を構成する各層は、相互に同一の材料から構成されてもよいし、相互に異なる材料から構成されてもよい。
【0026】
バリア層23は、無機酸化物層、金属層、樹脂フィルムからなる群から選択される少なくとも一種である。無機酸化物層の構成材料は、珪素酸化物、マグネシウム酸化物、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、カルシウム酸化物、カリウム酸化物、錫酸化物、硼素酸化物、イットリウム酸化物などからなる群から選択される少なくとも一種である。金属層の構成材料は、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、錫、クロム、ニッケルからなる群から選択される少なくとも一種である。樹脂フィルムの構成材料の一例は、エチレン・酢酸ビニル共重合体鹸化物である。
【0027】
バリア層23の厚さに均一性を要求される場合、バリア層23の厚さは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。折り曲げによる亀裂発生のさらなる抑制をバリア層23に要求される場合、バリア層23の厚さは、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。
【0028】
小容量液剤用外装袋10に透明性を要求される場合、バリア層23の構成材料は、無機酸化物であることが好ましい。透明性に加え、水蒸気に関わるバリア機能の低下をさらに要求される場合、バリア層23の構成材料は、酸化珪素であることがより好ましい。
【0029】
[PET層22の構成]
PET層22を構成するポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも言う)の繰り返し単位は、ジオール単位とジカルボン酸単位とを含む。PET層22を構成するPETは、ジカルボン酸単位のなかにテレフタル酸とイソフタル酸とを含むPETを含む。
【0030】
小容量液剤用外装袋10を柔らかくしてバリア機能の低下抑制をさらに要求される場合、PET層22における全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上であることが好ましい。小容量液剤用外装袋10における形状の安定性を要求される場合、全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、5モル%以下であることが好ましい。
【0031】
小容量液剤用外装袋10に環境負荷の抑制を要求される場合、PET層22を構成するPETは、再生されたPETであるリサイクルPETを含めてもよい。リサイクルの対象となるPET製品は、使用済みペットボトルを含む。PET層22を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、および、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0032】
メカニカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄し表面の汚れや異物を取り除いた後、高温下に樹脂を曝して樹脂内部に留まっている汚染物質を除去する。ケミカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄し表面の汚れや異物を取り除いた後、解重合により樹脂を中間原料まで戻し、当該中間原料を精製して再重合することによりPETを生成する。
【0033】
小容量液剤用外装袋10に製造コストや環境負荷の抑制をさらに要求される場合、PET層22を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPETであることが好ましい。メカニカルリサイクルは、ケミカルリサイクルと比較して、化学反応のための大掛かりな設備を要しないため、リサイクルPETの製造に要するコストや環境負荷が小さい。
【0034】
PET層22の構成材料は、リサイクルPETに加えて、石油などの原料から新規に合成されたPETであるバージンPETを含んでもよいし、リサイクルPET以外のポリエステルを含んでもよい。PET層22を構成するリサイクルPETの質量割合は、PET層22の総質量に対する60%以上100%以下であることが好ましい。
【0035】
バージンPETのジオール単位はエチレングリコールであり、バージンPETのジカルボン酸単位はテレフタル酸である。これに対して、ペットボトルを構成するPETの原料であるジカルボン酸は、ボトルの成形に際して樹脂の加工性を向上させるために、テレフタル酸に加えてイソフタル酸を含む。
【0036】
イソフタル酸は、テレフタル酸のみからなるPETと比べてPETの主鎖を短くし、PETの結晶化を抑えてPETの加工性を高める。ペットボトルを構成するPETのジオール単位は、エチレングリコールに加えて、ジエチレングリコールを含んでもよいし、エチレングリコールのみでもよい。
【0037】
PET層22を構成するPETの平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1000以上100万以下であることが好ましい。なお、PET層22の構成材料は、PET以外の樹脂や、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば可塑剤、着色防止剤、耐電防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、消臭剤、抗酸化剤などである。
【0038】
PET層22は、1つの層から構成されていてもよいし、複数の層から構成される積層体であってもよい。PET層22が積層体である場合、積層体の少なくとも1つの層は、ジカルボン酸単位のなかにテレフタル酸とイソフタル酸とを含むPETを含む。
【0039】
PET層22の構成材料は、リサイクルPETおよびバージンPET以外のポリエステルを含んでもよい。リサイクルPETおよびバージンPET以外のポリエステルは、例えば、鎖状脂肪族カルボン酸や環状脂肪族カルボン酸をカルボン酸単位とする。
【0040】
小容量液剤用外装袋10に耐久性や耐衝撃性を要求される場合、PET層22の厚さは、3μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。小容量液剤用外装袋10に加工性を要求される場合、PET層22の厚さは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0041】
PET層22の形成方法は、押出成形などの公知のフィルム形成方法を用いることができる。押出成形における冷却も、冷却ロールや空気冷却、水冷却などの公知の方法を用いることができる。PET層22は、延伸されたフィルムでもよいし、無延伸のフィルムでもよい。PET層22の延伸は、一軸延伸、もしくは、二軸延伸など公知の方法を用いることができる。
【0042】
[表面保護および表示]
小容量液剤用外装袋10は、バリア層23に対する小容量液剤用外装袋10の外側に、ピンホールの発生を抑制する保護層をさらに備えてもよい。保護層の構成材料は、二軸延伸ポリプロピレンである。二軸延伸のポリプロピレン層は、シーラント層21を用いる封止工程での耐熱性を満たす。また、二軸延伸のポリプロピレン層は、積層体20の剛性、および耐突刺し性を高める観点においても好適である。
【0043】
小容量液剤用外装袋10は、バリア層23と保護層との間に、印刷層を備えてもよい。印刷層は、印刷によって形成された文字、図形、記号、柄などを表示する。なお、小容量液剤用外装袋10は、PET層22とシーラント層21との間に、印刷層を備えてもよい。小容量液剤用外装袋10は、印刷層とバリア層23との間に、あるいは印刷層とPET層22との間に、印刷層の下地となるアンカーコート層をさらに備えてもよい。アンカーコート層の構成材料は、イソシアネート系化合物、ポリエチレンイミン、有機チタネート系化合物などのアンカーコート剤である。
【0044】
[小容量液剤用外装袋10の製造方法]
小容量液剤用外装袋10の製造方法は、積層体20を形成すること、および積層体20から小容量液剤用外装袋10を製袋することを含む。積層体20を形成することは、PET層22にバリア層23を積層すること、およびPET層22にシーラント層21を積層することを含む。小容量液剤用外装袋10を製袋することは、シーラント層21同士を熱融着することを含む。
【0045】
PET層22にバリア層23を積層する方法は、PET層22に対する蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの公知の成膜方法、あるいは金属箔や樹脂フィルムとPET層22とのラミネーション方法である。
【0046】
PET層22にシーラント層21を積層する方法は、ドライラミネーション法でもよいし、エクストルージョンラミネーション法でもよいし、エクストルージョンラミネーション法を利用したサンドイッチラミネーション法でもよい。ドライラミネーション方法に用いられる接着剤は、公知のラミネート用接着剤を用いることができる。ラミネート用接着剤は、例えばポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0047】
なお、小容量液剤用外装袋10が、バリア層23の外側に、保護層、印刷層、およびアンカーコート層を備える場合、PET層22にシーラント層21を積層する前に、バリア層23に各層を積層してもよいし、PET層22にシーラント層21を積層した後に、バリア層23に各層を積層してもよい。
【0048】
小容量液剤用外装袋10が、バリア層23の内側に、印刷層、およびアンカーコート層を備える場合、PET層22にバリア層23を積層する前に、PET層22に各層を積層してもよいし、PET層22にバリア層23を積層した後に、PET層22に各層を積層してもよい。
【0049】
小容量液剤用外装袋10を製袋する方法は、シーラント層21同士を熱融着して、封止部11を形成することである。封止部11を形成するヒートシール型式の一例は、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、ピローシール型、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型である。封止部11を形成する方法の一例は、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シールである。
【0050】
封止部11を形成する一例は、矩形状を有した2枚の積層体20を用いる。2枚の積層体20の四方に位置するシーラント層21同士が互いに接するように、2枚の積層体20は重ねられる。四辺に位置するシーラント層21同士が熱融着されて、四方シール型の小容量液剤用外装袋10が製袋される。
【0051】
封止部11を形成する他の例は、矩形状を有した1枚の積層体20を用いる。1枚の積層体20のシーラント層21同士が接するように、1枚の積層体20は二つ折りされる。次に、折り曲げられた積層体20の三方のシーラント層21同士が熱融着されて、三方シール型の小容量液剤用外装袋10が製袋される。
【0052】
封止部11を形成する他の例は、矩形状を有した1枚の積層体20を用いる。1枚の積層体20のシーラント層21が内側となるように、積層体20は筒状に曲げられる。筒面の接続部位に位置するシーラント層21同士が熱融着されて、封止部11の一例である背貼り部が形成される。また、筒面の上下開口部に位置するシーラント層21同士が熱融着されて、封止部11の残部が製造される。
【0053】
[PET層22の応力特性]
バリア機能の低下抑制をさらに要求される場合、PET層22は、PET層22の応力‐ひずみ曲線において、下記条件1~3を満たすことが好ましい。応力‐ひずみ曲線は、JIS K7161‐1:2014に準拠した引張試験に基づいて測定される。
【0054】
(条件1)流れ方向の降伏応力が109MPa以上117MPa以下である。
(条件2)降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲において、応力‐ひずみ曲線の傾きが75以上111以下の範囲に含まれる。
(条件3)流れ方向の破断強度が、153MPa以上183MPa以下である。
【0055】
図3は、PET層22のみから形成された試験片に対する引張試験によって得られた応力‐ひずみ曲線の一例を示す。図3が示す応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される降伏点Aでの応力が降伏応力である。なお、応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される破断点Bは試験片が破断する点であり、当該B点における応力が破断強度である。
【0056】
図3の原点から降伏点Aまでの範囲、すなわち、ひずみに対して応力が比例する範囲は、PET層22が弾性変形する範囲である。弾性変形する範囲において、応力‐ひずみ曲前の傾きが大きいほどPET層22が硬い傾向を有し、応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほどPET層22が軟らかい傾向を有する。PET層22に対して降伏応力を超える圧力が印加されると、PET層22は塑性変形する。
【0057】
降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが大きいほど、PET層22は硬く、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が小さい傾向を有する。一方で、降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほど、PET層22は軟らかく、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が大きい傾向を有する。PET層22は、応力‐ひずみ曲線において、ひずみが0.4を超えた点において破断点Bを有することが多く、ひずみが0.4以下での傾きによって、PET層22の剛性における傾向を把握することが可能である。
【0058】
PET層22は、破断点Bでの破断強度が高いほど硬さが増す傾向を有し、破断強度が小さいほど粘り強さが増す傾向を有する。破断強度が高すぎるとPET層22が破断するときの応力の値は大きくなる一方で、PET層22が耐えることが可能なひずみが小さくなる傾向を有する。これに対して、破断強度が小さすぎるとPET層22が耐えることが可能なひずみが大きくなる一方で、PET層22が破断するときの応力の値が小さくなる傾向を有する。
【0059】
応力‐ひずみ曲線において、当該曲線によって囲まれる面積は、PET層22の衝撃エネルギーを吸収する能力を示している。応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が小さいほど、PET層22は、脆性が高い、すなわち粘り強くない傾向を有する。これに対して、応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が大きいほど、PET層22は、脆性が低い、すなわち粘り強い傾向を有する。
【0060】
液剤バッグを包装した小容量液剤用外装袋10の流通過程では、揺れや振動などが液剤に作用し、バリア機能を低下させる折れや捩れなどの変形が、小容量液剤用外装袋10で繰り返される。PET層22よりも硬いバリア層23は、小容量液剤用外装袋10を変形させる外力を受けてバリア機能を低下させやすい。条件1~条件3を満たすPET層22は、柔らかく、かつ、粘り強いため、バリア層23に作用し得る外力をPET層22の内部で消費し、小容量液剤用外装袋10におけるバリア機能の低下をさらに抑制する。
【0061】
PET層22における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、PET層22を押出成形する際の温度、押し出されたPET層22の前駆体を冷却する温度、当該前駆体を冷却する速度、および、PET層22を延伸する倍率などによって調整することが可能である。また、PET層22における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、PET層22が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比によって調節することが可能である。
【0062】
例えば、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を高めることを要求される場合、PET層22を押し出し成形時の温度を高くする、あるいは、押し出されたPET層22の前駆体を冷却する温度を低くすることで調整可能となる。また、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低めることを要求される場合、前駆体の冷却速度を高くする、PET層22を延伸する倍率を大きくする、PET層22が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比を大きくすることで調整可能となる。
【0063】
[PET層22の粘弾性特性]
バリア機能の低下抑制をさらに要求される場合、PET層22は、貯蔵弾性率G1と温度との関係を示す貯蔵弾性曲線において、下記条件4を満たすことが好ましい。また、PET層22は、損失弾性率G2と温度との関係を示す損失弾性曲線において、下記条件5を満たすことが好ましい。また、PET層22は、損失正接tanδと温度との関係を示すPET層22の損失正接曲線において、下記条件6を満たすことが好ましい。
【0064】
(条件4)ガラス状態からゴム状態への転移温度T1が80℃以上88℃以下であり、かつ、当該転移温度における貯蔵弾性率G1が3.8GPa以上4.1GPa以下である。
(条件5)ピーク位置の温度T2が95℃以上102℃以下であり、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2が0.30GPa以上0.37GPa以下である。
(条件6)ピーク位置の温度T3での損失正接tanδが、0.160以上0.190以下である。
【0065】
PET層22の貯蔵弾性率G1は、外力によるPET層22に生じたエネルギーのうち、PET層22の内部に保存される成分を示す。PET層22の損失弾性率G2は、外力によるPET層22に生じたエネルギーのうち、外部に熱として拡散される成分を示す。貯蔵弾性率G1の大きさは、弾性の度合いを示し、損失弾性率G2の大きさは、粘性の度合いを示す。損失正接tanδは、貯蔵弾性率G1に対する損失弾性率G2の比(=G2/G1)であり、PET層22における弾性と粘性とのバランスを示す。
【0066】
弾性がPET層22で弱いほど、外力の印加とその解除とに対する形状変化の応答性がPET層22で低下する。すなわち、PET層22に追従するバリア層23の動きも小さくなり、小容量液剤用外装袋10でのバリア機能の低下が抑制される。なお、小容量液剤用外装袋10が使用される環境温度は、ガラス状態からゴム状態への転移温度T1よりも低く、PET層22は、流動性の低いガラス状態で用いられる。PET層22がガラス状態であるときの貯蔵弾性率G1の変化は小さいため、転移温度T1での貯蔵弾性率G1を評価することにより、PET層22の弾性を使用時に適切に反映できる。
【0067】
粘性がPET層22で強いほど、外力の印加に対する変形の進行が緩やかになり、また、外力が解除されても変形が元に戻りにくくなる。すなわち、PET層22に対する外力の印加と解除とが短時間に繰り返された場合でも、バリア層23の動きが抑えられ、小容量液剤用外装袋10でのバリア機能の低下が抑制される。損失弾性曲線におけるピーク位置の温度T2は、PET層22の粘性を顕著に示す温度である。損失弾性曲線におけるピーク位置の温度T2が低いほど、粘性に起因した柔軟性が発現しやすい。ただし、粘性がPET層22で過大であると、小容量液剤用外装袋10の加工性が低下し、小容量液剤用外装袋10の強度そのものも低下する。
【0068】
条件4における貯蔵弾性率G1の上限値を満たすPET層22は、弾性の寄与が過大となることを抑えて、小容量液剤用外装袋10におけるバリア機能の低下をさらに抑制する。条件4における貯蔵弾性率G1の下限値を満たすPET層22は、外装袋としての適性が低下することを抑える。
【0069】
条件5における損失弾性率G2の下限値を満たすPET層22は、粘性に起因した柔軟性を良好に発揮し、小容量液剤用外装袋10におけるバリア機能の低下をさらに抑制する。条件5における損失弾性率G2の上限値を満たすPET層22は、外装袋としての適性が低下することを抑える。
【0070】
条件6における損失正接tanδの下限値を満たすPET層22は、PET層22での振動の吸収性が高まるように、弾性体の性質に対する粘性体の性質を高め、これにより小容量液剤用外装袋10におけるバリア機能の低下をさらに抑制する。条件6における損失正接tanδの上限値を満たすPET層22は、外装袋としての適性が低下することを抑える。
【0071】
ガラス状態からゴム状態への転移温度T1、損失弾性曲線のピーク位置での温度T2、貯蔵弾性率G1、損失弾性曲線でのピーク位置の損失弾性率G2、および損失正接曲線でのピーク位置の損失正接tanδは、PET層22の全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合などによって調整することが可能である。
【0072】
例えば、PET層22の粘性を強くすることを要求される場合、PET層22の全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合を高くすることで調整可能となる。貯蔵弾性率G1を小さくすること、また損失正接tanδを上げることを要求される場合、PET層22の製造時における冷却温度を低くすることで調整可能となる。損失正接tanδを上げること、また損失弾性率G2を上げることを要求される場合、PET層22の製造時における冷却速度を高め、適度に結晶成長させつつ、非晶部分を残すことで調整可能となる。ガラス状態からゴム状態への転移温度T1を下げること、また貯蔵弾性率G1を小さくすることを要求される場合、PET層22の製造時における延伸倍率を小さくし、分子配向を抑制することで調整可能となる。
【0073】
[試験例]
[試験例1]
共押出しにより三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した試験例1のPET層22を形成した。この際に、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETとバージンPETとから、互いに同一の組成を有した三層の樹脂層を形成した。
【0074】
試験例1のPET層22において、リサイクルPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する80%に設定し、バージンPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する20%に設定した。また、NMRの測定結果に基づいてリサイクルPETにおける全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合を特定し、PET層22における全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合を0.5モル%以上5モル%以下に設定した。
【0075】
試験例1のPET層22に、真空蒸着法を用いて酸化アルミニウムからなる第1バリア層を積層した。第1バリア層の厚さは10nmである。さらに、第1バリア層上に、ダイレクトグラビアコート法を用いて、第2バリア層を形成し、第1バリア層と第2バリア層との積層体として、バリア層23を積層した。これにより、試験例1の積層体20を得た。
【0076】
この際、テトラエトキシシランに塩酸を加えて30分間攪拌し加水分解させた加水分解溶液を作成した。また、ポリビニルアルコールを水およびイソプロピルアルコールの混合溶媒に溶解させたPVA溶液を作成した。そして、加水分解溶液とPVA溶液とを60:40の割合で混合し、これにより、第2バリア層を形成するための混合溶液を調整した。混合溶液を、第1バリア層上にバーコーターを用いて塗布し、形成された塗布膜を乾燥機を用いて120℃で1分間乾燥させることにより、第2バリア層を形成した。第2バリア層の厚さは、300nmである。
【0077】
[試験例2]
2つの第1PETフィルムの間に第2PETフィルムを挟むように、3つのPETフィルムを積層し、12μmの厚さを有した積層体として、試験例2のPET層22を形成した。PET層22の構成以外を試験例1と同じくして、試験例2の積層体20を得た。
【0078】
なお、試験例2の第1PETフィルムは、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETからなる。試験例2の第2PETフィルムは、メカニカルリサイクルによって再生された80質量%のリサイクルPETに、ケミカルリサイクルによって再生された20質量%のリサイクルPETが混合されたフィルムである。試験例2のPET層22が含有するリサイクルPETの質量割合は、PET層22の総質量の100%である。
【0079】
[試験例3]
2つの第1PETフィルムの間に第2PETフィルムを挟むように、3つのPETフィルムを積層し、12μmの厚さを有した積層体として、試験例3のPET層22を形成した。PET層22の構成以外を試験例1と同じくして、試験例2の積層体20を得た。
【0080】
なお、試験例3の第1PETフィルムは、バージンPETからなる。試験例3の第2PETフィルムは、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETからなる。試験例3のPET層22が含有するリサイクルPETの質量割合は、PET層22の総質量の70%である。
【0081】
[試験例4]
PET層22として、バージンPETからなる単層のPETフィルムを用いた。試験例4のPET層22は、リサイクルPETを含まないPET層であり、繰り返し単位中のジカルボン酸単位がテレフタル酸のみであるポリエチレンテレフタレートからなる。試験例4のPET層22の厚さは12μmである。PET層22の構成以外を試験例1と同じくして、試験例4の積層体20を得た。
【0082】
[評価方法]
[評価1:降伏応力]
試験例1~4のPET層22から、それぞれ3つの試験片を切り出した。この際に、JIS Z 1702‐1994に準拠したダンベルカッター((株)ダンベル、SDK‐600)を用いて、流れ方向に沿って延びる形状を有するように各試験片を切り出した。すなわち、各試験片の引っ張り方向がPET層22の流れ方向に一致するように、PET層22から試験片を切り出した。そして、各試験片に、伸び測定用の2本の標線を付した。
【0083】
小型卓上試験機(EZ‐LX、(株)島津製作所製)を用いて、試験片に対してJIS
K7161‐1:2014に準拠した方法を用いて引張試験を行った。この際に、各試験片を小型卓上試験機に固定し、標線を伸び計で挟んだ。また、試験速度を300mm/分に設定した。各試験例について1つの試験片における引張試験の結果に基づいて、応力‐ひずみ曲線を作成した。応力‐ひずみ曲線から降伏応力、破断強度、および、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲での傾きを得た。
【0084】
[評価2:動的弾性率]
試験例1~4のPET層22から、それぞれ帯状の試験片を作製した。試験片の長さは20mmであり、試験片の幅は10mmである。なお、PET層22の形成時の流れ方向(MD方向)を試験片の長さ方向とした。熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製:DMA7100)を用いて、各試験片における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とを測定し、損失正接tanδを算出した。測定条件は、下記である。
周波数:10Hz
張力条件:歪振幅 10μm
:最小張力/圧縮力 50mN
:張力/圧縮力ゲイン 1.2
:力振幅初期値 50mN
加熱条件:昇温速度 2℃/min
:加熱温度 30℃~180℃
【0085】
[評価3:バリア機能]
試験例1~4の積層体20から、それぞれ2つの試験片を作製し、ゲルボフレックス試験の前後におけるガスバリア機能を評価した。以下に記載の条件によって、ゲルボフレックス試験、酸素透過度の測定、および、水蒸気透過度の測定を行った。
【0086】
[ゲルボフレックス試験]
フレキシリビリティ評価装置(テスター産業(株)製、ゲルボフレックステスター)を用いて各試験片のゲルボフレックス試験を行った。この際に、フレキシリビリティ評価装置の固定ヘッドに対して、円筒状を呈するように各試験片を取り付けた。詳しくは、各試験片の両端を固定ヘッドによって保持して、初期把持間隔を175mmに設定した。そして、ストロークを87.5mmに設定し、ひねりを440°に設定して、各試験片をひねることとひねりを解除することとの往復運動を40回/分の速度で10回行った。
【0087】
[酸素透過度]
各試験片について、ゲルボフレックス試験の前後において酸素透過度測定装置(Mocon社製、OX‐TRAN 2/20)を用いて酸素透過度を測定した。この際に、JIS K 7126‐2:2006、および、ASTM D3985‐81に準拠する方法を用いた。また、温度を30℃に設定し、相対湿度を70%に設定した。酸素透過度の測定値における単位を[cm(STP)/m・day・MPa]に設定した。
【0088】
[水蒸気透過度]
各試験片について、ゲルボフレックス試験の前後において水蒸気透過度測定装置(Mocon社製、PERMATRAN‐W 3/31)を用いて水蒸気透過度を測定した。この際に、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。測定方法は、JIS K 7129‐2:2019、および、ASTM F1249‐90に準拠する方法を用いた。水蒸気透過度の測定値における単位を[g(STP)/m・day]に設定した。
【0089】
[評価結果1:降伏応力]
試験例1~試験例3の流れ方向での降伏応力は、それぞれ116.0MPa、115.0MPa、110.2MPaであり、いずれも条件1に示した109MPa以上117MPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の降伏応力は、124.8MPaであることが認められた。
【0090】
試験例1~試験例3の降伏後の傾きは、それぞれ77.3、110.5、84.2であり、いずれも条件2に示した75以上111以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の降伏後の傾きにおける平均値は、172.4であることが認められた。
【0091】
試験例1~試験例3の流れ方向での破断強度は、それぞれ170.9、176.4、159.6であり、いずれも条件3に示した153MPa以上183MPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の降伏後の傾きにおける平均値は、202.7MPaであることが認められた。
【0092】
[評価結果2:動的弾性率]
試験例1~試験例3の貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、および損失正接tanδの測定結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
なお、貯蔵弾性率G1の測定値は、図4が示す貯蔵弾性曲線の転移温度T1、および当該転移温度T1での貯蔵弾性率G1から得た。損失弾性率G2の測定値は、図5が示す損失弾性曲線のピーク位置での温度T2、および当該温度T2での損失弾性率G2から得た。損失正接tanδの測定値は、図6が示す損失正接曲線のピーク位置での温度T3、および当該温度T3での損失正接tanδから得た。
【0094】
この際、貯蔵弾性曲線の変曲点よりも低温側での近似直線と、変曲点よりも高温側での近似直線との交点における温度を、転移温度T1とした。低温側での近似直線、および高温側での近似直線は、それぞれ低温側での測定点の集合を直線に近似すること、および高温側での測定点の集合を直線に近似することによって得た。低温側での測定点の集合は、変曲点、および変曲点よりも約10℃だけ低い点から約5℃だけ低い点までの間の複数の測定点である。高温側での測定点の集合は、変曲点、および変曲点よりも約5℃だけ高い点から約10℃だけ高い点までの間の複数の測定点である。
【0095】
試験例1~試験例3の転移温度T1は、それぞれ87.6℃、87.8℃、80.3℃であり、いずれも条件4に示した80℃以上88℃以下の範囲内であることが認められた。なお、試験例4の転移温度T1は、87.0℃であることが認められた。
【0096】
試験例1~試験例3の貯蔵弾性率G1は、それぞれ3.8GPa、4.1GPa、3.9GPaであり、いずれも条件4に示した3.8GPa以上4.1GPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の貯蔵弾性率G1は、4.7GPaであることが認められた。すなわち、試験例1~のPET層22における弾性は、試験例4のPET層22よりも弱いことが認められた。また、試験例1~のPET層22における弾性は、リサイクルPETの質量割合を高めるほど弱いことも認められた。
【0097】
試験例1~試験例3の損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2は、それぞれ101.3℃、99.8℃、95.4℃であり、いずれも条件5に示す95℃以上102℃以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2は、104.7℃であることが認められた。すなわち、試験例1~試験例3のPET層22における低温での柔軟性は、試験例4のPET層22よりも高いことが認められた。また、試験例1~のPET層22における低温での柔軟性は、リサイクルPETの質量割合を高めるほど高いことも認められた。
【0098】
試験例1~試験例3の損失弾性率G2は、それぞれ0.34GPa、0.37GPa、0.37GPaであり、いずれも条件5に示した0.3GPa以上0.37GPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の損失弾性率G2は、0.39GPaであることが認められた。
【0099】
試験例1~試験例3の損失正接曲線におけるピーク位置での温度T3は、それぞれ114.8℃、113.8℃、108.8℃であり、いずれも108℃以上115℃以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失正接曲線におけるピーク位置での温度T3は、119.0℃であることが認められた。
【0100】
試験例1~試験例3の損失正接曲線におけるピーク位置での損失正接tanδは、それぞれ0.162、0.170、0.185であり、いずれも条件6に示した0.160以上0.190以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失正接曲線におけるピーク位置での損失正接tanδは、0.157であることが認められた。すなわち、試験例1~のPET層22において、弾性に対する粘性の度合いは、試験例4よりも大きく、外力の応答における粘性の寄与は、これもまた試験例4よりも大きいことが認められた。
【0101】
[評価結果3:バリア機能]
試験例1、4の積層体20における酸素透過度、および水蒸気透過度の測定結果を表3に示す。なお、試験例2、の積層体20における酸素透過度、および水蒸気透過度には、試験例4と比べて、試験例1と同様の傾向が存することが認められた。
【0102】
【表2】
表2が示すように、試験例1の積層体20における酸素透過度は、ゲルボフレックス試験前には0.7(cm/m・day・MPa)である一方、ゲルボフレックス試験後には93.1(cm/m・day・MPa)まで高まることが認められた。
【0103】
これに対して、試験例4の積層体20における酸素透過度は、ゲルボフレックス試験前には0.6(cm/m・day・MPa)であり、ゲルボフレックス試験後には152.7(cm/m・day・MPa)まで高まることが認められた。
【0104】
これにより、試験例1の積層体20における酸素透過度の低下は、試験例4の積層体20と比べて十分に小さく、試験例1の積層体20によれば、試験例4の積層体20よりも酸素透過度の低下を抑制できることが認められた。
【0105】
試験例1の積層体20における水蒸気透過度は、ゲルボフレックス試験前には0.07(g/m・day)である一方、ゲルボフレックス試験後には0.97(g/m・day)まで高まることが認められた。
【0106】
これに対して、試験例4の積層体20における水蒸気透過度は、ゲルボフレックス試験前には0.19(g/m・day)であり、ゲルボフレックス試験後には1.80(g/m・day)まで高まることが認められた。
【0107】
これにより、試験例1の積層体20における水蒸気透過度の低下は、試験例4の積層体20に比べて十分に小さく、試験例1の積層体20によれば、試験例4の積層体20よりも水蒸気透過度の低下を抑制できることが認められた。
【0108】
すなわち、降伏応力、降伏後のひずみ曲線の傾き、破断強度、貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、損失正接tanδの各パラメータが、それぞれ上記条件1~6を満たす構成であれば、積層体20の柔軟性が好適に得られ、結果として、小容量液剤用外装袋におけるバリア性の低下が抑えることが認められた。
【0109】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含むため、小容量液剤用外装袋10において、折れや捩れなどの変形に起因したバリア機能の低下が抑制可能となる。
【0110】
(2)バリア層23が無機酸化物層であり、小容量液剤用外装袋10が透明である場合、小容量液剤用外装袋10を通し、液剤バッグの視認性を高めることが可能ともなる。そして、高いバリア機能を有した金属バリア層を採用しない構成であるから、PET層22におけるバリア機能の低下抑制がさらに有益なものとなる。
【0111】
(3)保護層としてポリプロピレン層をさらに備え、ポリプロピレン層とPET層22との間にバリア層23が位置する場合、ポリプロピレン層がバリア層23を保護するため、バリア機能の低下が抑制可能となることの実効性が高まる。また、ポリプロピレン層が最外層に位置する場合、小容量液剤用外装袋10におけるピンホールの発生頻度が抑制可能ともなる。
【0112】
(4)ポリプロピレン層とバリア層23との間に印刷層をさらに備える場合、ポリプロピレン層が印刷層を保護するため、折れや捩れなどの変形に起因した印刷層における耐久性の低下が抑制可能ともなる。また、印刷層と液剤バッグとの間に位置するバリア層が、印刷層の成分に対するバリア機能を兼ね備える。
【符号の説明】
【0113】
10…小容量液剤用外装袋
11…封止部
20…積層体
21…シーラント層
22…ポリエチレンテレフタレート層
23…バリア層
図1
図2
図3
図4
図5
図6