IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7604977絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法
<>
  • 特許-絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法 図1
  • 特許-絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/06 20060101AFI20241217BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20241217BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01F5/06 Q
H01F27/28 147
H01F27/32 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021049718
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148149
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐古 渚
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131562(JP,A)
【文献】特開2005-228984(JP,A)
【文献】特開2011-071089(JP,A)
【文献】特開2019-096606(JP,A)
【文献】特開2019-096607(JP,A)
【文献】特開昭57-182352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/06
H01F 27/28
H01F 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち抜き加工品である平板導電板と、前記平板導電板の少なくとも一部を被覆する絶縁皮膜とを有する絶縁皮膜付き平板導電板であって、
前記絶縁皮膜は、電着膜であり、
前記絶縁皮膜は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含み、
前記ポリアミドイミド樹脂と前記フッ素系樹脂の合計含有量に対する前記フッ素系樹脂の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にあり、
25℃での比誘電率が2.2以上2.8以下の範囲内にあり、
平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内にあり、
前記絶縁皮膜の硬度が、鉛筆硬度で2B以上4H以下の範囲内にあることを特徴とする絶縁皮膜付き平板導電板。
【請求項2】
前記平板導電板の主成分元素が銅またはアルミニウムである請求項1に記載の絶縁皮膜付き平板導電板。
【請求項3】
前記平板導電板は、平面視で中央に開口部を有し、前記開口部から外周部に繋がる解放部を1つ有する環状体である請求項1または2に記載の絶縁皮膜付き平板導電板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の絶縁皮膜付き平板導電板を製造する絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法であって、
打ち抜き加工品である平板導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子とを含み、前記ポリアミドイミド樹脂粒子と前記フッ素系樹脂粒子の合計含有量に対する前記フッ素系樹脂粒子の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着液を電着させて、電着層付き平板導体を得る電着工程と、
前記電着層付き平板導体を、260℃以上350℃以下の温度で加熱して電着層を平板導体に焼き付ける焼き付け工程と、を含むことを特徴とする絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
打ち抜き加工で得られた平板導電板は、例えば、コイルやインダクターなどのモーター部品として利用されている。これらのモーター部品で利用される平板導電板は、通常、絶縁皮膜で被覆されている。
【0003】
絶縁皮膜としては、電着膜が用いられている(特許文献1)。電着膜とは、電着法によって成膜された膜である。電着法とは、電荷を有する絶縁樹脂粒子が分散されている電着液に平板導電板と電極とを浸漬し、この平板導電板と電極との間に直流電圧を印加することによって、平板導電板表面に絶縁樹脂粒子を付着させて、絶縁皮膜を形成する方法である。平板導電板用の電着膜の材料としては、耐熱性に優れるポリイミド系の樹脂が広く利用されている。特許文献1には、絶縁皮膜として、ポリイミドの主鎖中にシロキサン結合を含有し、かつ、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドの電着膜を用いた絶縁皮膜付き平板導電板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-228984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コイルやインダクターの小型化や高出力化のため、絶縁皮膜付き平板導電板の間隔を狭くして、単位長さ当たりの平板導電板の枚数を多くすることが検討されている。絶縁皮膜付き平板導電板の間隔を狭くするためには、絶縁皮膜の比誘電率を低くして、平板導電板間の部分放電開始電圧を上げることが必要となる。また、絶縁皮膜の比誘電率を低くし、かつ組付け工程に耐えられるよう硬度を高くすることによって、所定の部分放電開始電圧を維持しつつ、絶縁皮膜の膜厚をより薄くすることが可能になり、コイル容積の低減が期待できる。しかしながら、従来の絶縁皮膜付き平板導電板で用いられているポリイミド系の樹脂では比誘電率が3を超える絶縁皮膜しか得られなかった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、比誘電率が低く、硬度が高い絶縁皮膜で被覆されている絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、打ち抜き加工である平板導電板の表面に、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子とを含む電着液を用いて電着法によって成膜した電着膜は比誘電率が低く、特にフッ素系樹脂の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着膜は、比誘電率が2.8以下と低く、かつ平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内にあっても高い硬度を示すことを見出した。
【0008】
したがって、本発明の絶縁皮膜付き平板導電板は、打ち抜き加工品である平板導電板と、前記平板導電板の少なくとも一部を被覆する絶縁皮膜とを有する絶縁皮膜付き平板導電板であって、前記絶縁皮膜は、電着膜であり、前記絶縁皮膜は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含み、前記ポリアミドイミド樹脂と前記フッ素系樹脂の合計含有量に対する前記フッ素系樹脂の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にあり、25℃での比誘電率が2.2以上2.8以下の範囲内にあり、平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内にあり、前記絶縁皮膜の硬度が、鉛筆硬度で2B以上4H以下の範囲内にあることを特徴とする。
【0009】
本発明の絶縁皮膜付き平板導電板によれば、絶縁皮膜は、電着膜であって、フッ素系樹脂の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内とされているので、25℃での比誘電率が2.2以上2.8以下の範囲内と低く、更に、平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内にあっても高い硬度を示す。
【0010】
また、絶縁皮膜の鉛筆硬度が2B以上4H以下の範囲内にあるので、平均膜厚が100μm以下と薄くしてもコイルやインダクターなどのモーター部品として利用することができる。
【0011】
また、本発明の絶縁皮膜付き平板導電板においては、前記平板導電板の主成分元素が銅又はアルミニウムである構成とされていてもよい。
この場合、平板導電板は主成分が銅又はアルミニウムであるので、平板導電板と絶縁皮膜との密着性が高くなる。このため、絶縁皮膜の硬度がより高くなる。
【0012】
また、本発明の絶縁皮膜付き平板導電板においては、前記平板導電板が、平面視で中央に開口部を有し、前記開口部から外周部に繋がる解放部を1つ有する環状体である構成とされていてもよい。
この場合、平板導電板が、平面視で中央に開口部を有し、前記開口部から外周部に繋がる解放部を1つ有する環状体であるので、コイルやインダクターなどのモーター部品として有利に利用することができる。
【0013】
本発明の絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法は、本発明の絶縁皮膜付き平板導電板を製造する絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法であって、打ち抜き加工品である平板導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子とを含み、前記ポリアミドイミド樹脂粒子と前記フッ素系樹脂粒子の合計含有量に対する前記フッ素系樹脂粒子の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着液を電着させて、電着層付き平板導体を得る電着工程と、前記電着層付き平板導体を、260℃以上350℃以下の温度で加熱して電着層を平板導体に焼き付ける焼き付け工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法によれば、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の合計含有量に対するフッ素系樹脂粒子の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着液を用いて、電着法により絶縁皮膜を成膜するので、比誘電率が低く、硬度が高い絶縁皮膜で被覆されている絶縁皮膜付き平板導電板を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
比誘電率が低く、硬度が高い絶縁皮膜で被覆されている絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜付き平板導電板の平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁皮膜付き平板導電板及びその製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜付き平板導電板の平面図である。図2は、図1のII-II線断面図である。
図1に示すように、絶縁皮膜付き平板導電板1は、平板導電板10と、平板導電板10を被覆する絶縁皮膜20とを有する。
【0019】
平板導電板10は、金属板を打ち抜き加工して形成された打ち抜き加工品である。平面視で中央に開口部11を有し、開口部11から外周部に繋がる解放部12を1つ有する環状体である。平板導電板10は、解放部12を挟む形で延長された延長部13a、13bを有する。延長部13a、13bはコイルやインダクターに組み込んだ際に端子として用いることができる。このため、延長部13a、13bの先端は、絶縁皮膜20で被覆されていなくてもよい。
【0020】
平板導電板10は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金であってもよい。銅合金は、例えば、銅を50質量%以上含む合金である。アルミニウム合金は、例えば、アルミニウムを50質量%以上含む合金である。銅及びアルミニウムは、絶縁皮膜20に含まれているポリアミドイミド樹脂との密着性が高い。このため、平板導電板10の主成分元素が銅またはアルミニウムであると、平板導電板10と絶縁皮膜20との密着性が高くなる。
【0021】
絶縁皮膜20は、電着膜とされている。電着膜とは、電着法によって成膜された膜である。電着法とは、電荷を有する絶縁樹脂粒子が分散されている電着液に平板導電板と電極とを浸漬し、この平板導電板と電極との間に直流電圧を印加することによって、平板導電板表面に絶縁樹脂粒子を付着させて、絶縁皮膜を形成する方法である。
【0022】
絶縁皮膜20は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含む。ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミド樹脂とポリイミド樹脂の両方の特性を併せて持ち、耐熱性に優れ、硬度が高い樹脂である。フッ素系樹脂は、電気絶縁性が高く、比誘電率が低い樹脂である。フッ素系樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)を挙げることができる。絶縁皮膜20のフッ素系樹脂の含有量は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂の合計含有量に対するフッ素系樹脂の含有量として72質量%以上95質量%以下の範囲内とされている。絶縁皮膜20のフッ素系樹脂の含有量が少なくなりすぎると、絶縁皮膜20の比誘電率が高くなるおそれがある。一方、絶縁皮膜20のフッ素系樹脂の含有量が多くなりすぎると、平板導電板10との密着性が低下して、絶縁皮膜20の形状を維持しにくくなる。絶縁皮膜20の比誘電率の観点から、絶縁皮膜20のフッ素系樹脂の含有量は75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。一方、絶縁皮膜の形状の安定性の観点から、絶縁皮膜20のフッ素系樹脂の含有量は93質量%以下であることが好ましい。
【0023】
絶縁皮膜20は、比誘電率が2.2以上2.8以下の範囲内とされている。絶縁皮膜20の比誘電率が高くなりすぎると、絶縁皮膜20の絶縁性が低下して、コイルやインダクターに組み込んだ際に部分放電が起こりやすくなるおそれがある。絶縁皮膜20の比誘電率は2.7以下であることが好ましく、2.6以下であることが特に好ましい。一方、絶縁皮膜20の比誘電率を2.2以下とするためには、フッ素系樹脂を、95質量%を超える量で含有させることが必要となり、絶縁皮膜20の形状の安定性が低下するおそれがある。
【0024】
絶縁皮膜20は、平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内とされている。絶縁皮膜20の平均膜厚がこの範囲内にあると、絶縁皮膜20の硬度を高いレベルで維持しつつ、比誘電率を低くすることができる。コイルやインダクターに組み込んだ際の単位長さ当たりの枚数を多くする観点から、絶縁皮膜20の平均膜厚は90μm以下であることが好ましく、70μm以下であることが特に好ましい。一方、絶縁皮膜20の硬度の観点から、絶縁皮膜20の平均膜厚は10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。また、絶縁皮膜20の硬度は、鉛筆硬度で2B以上4H以下の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
次に、本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1の製造方法について説明する。
本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1の製造方法は、電着工程と、焼き付け工程とを含む。
【0026】
電着工程は、打ち抜き加工品である平板導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子とを含む電着液を電着させて、電着層付き平板導体を得る工程である。電着液のポリアミドイミド樹脂粒子の含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下の範囲内であり、好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下の範囲内である。電着液のフッ素系樹脂粒子の含有量は、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の合計含有量に対するフッ素系樹脂粒子の含有量として72質量%以上95質量%以下の範囲内とされている。ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の合計含有量に対するフッ素系樹脂の含有量は75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の合計含有量に対するフッ素系樹脂の含有量は、90質量%以下であることが好ましい。
【0027】
ポリアミドイミド樹脂粒子のメジアン径は、150nm以上300nm以下の範囲内にあることが好ましい。また、フッ素系樹脂粒子のメジアン径は、150nm以上300nm以下の範囲内にあることが好ましい。フッ素系樹脂粒子のメジアン径が300nmを超えると、絶縁皮膜の硬度が低下する傾向がある。なお、ポリアミドイミド樹脂粒子のメジアン径及びフッ素系樹脂粒子のメジアン径は、動的光散乱粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LB-550)を用いて測定した体積基準平均粒径である。
【0028】
電着液は、ポリアミドイミド樹脂粒子の分散液と、フッ素系樹脂粒子の分散液とを混合することによって調製することができる。
ポリアミドイミド樹脂粒子の分散液は、例えば、ポリアミドイミド樹脂と、ポリアミドイミド樹脂を溶解可能な有機溶媒とを混合して調製したポリアミドイミド樹脂ワニスに、疎水性塩基とポリアミドイミド樹脂の貧溶媒である水を加えることによって得ることができる。有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)などの極性溶剤を用いることができる。これらの極性溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、疎水性塩基は、有機溶媒に対して親和性を有することが好ましい。疎水性塩基の例としては、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジベンジルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミントリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン、アニリン等を挙げることができる。これらの疎水性塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。有機溶媒と水との合計量に対する有機溶媒の含有量は、例えば、70質量%以上87質量%以下の範囲内である。疎水性塩基の含有量は、例えば、電着液に対して0.02質量%以上0.1質量%以下の範囲内である。フッ素系樹脂粒子の分散液としては、市販のフッ素系樹脂粒子の分散液を用いることができる。上記ポリアミド樹脂は負の電荷を帯びたアニオン性の樹脂であり、分散性の観点から、フッ素系樹脂もアニオン性の電荷を帯びた樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
平板導体の表面に、電着液を電着させて電着膜を得る方法としては、例えば、電着液に平板導体と電極とを浸漬した状態で、平板導体と電極との間に直流電圧を印加する方法を用いることができる。印加する直流電圧は、1V以上600V以下の範囲内にあることが好ましい。これによって、電着液中のポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子とが平板導体の表面に電着して電着膜が生成する。
【0030】
焼き付け工程では、電着層付き平板導体を加熱して、電着層を平板導体に焼き付ける。焼き付け温度は、260℃以上350℃以下の範囲内とされている。加熱雰囲気は、特に制限はなく、大気雰囲気であってもよいし、不活性雰囲気であってもよい。
【0031】
以上のようにして、本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1を製造することができる。得られた絶縁皮膜付き平板導電板1は、コイルやインダクターなどのモーター部品として利用することができる。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1によれば、絶縁皮膜20は、フッ素系樹脂の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着膜とされているので、25℃での比誘電率が2.2以上2.8以下の範囲内と低く、更に、平均膜厚が5μm以上100μm以下の範囲内にあっても高い硬度を示す。
【0033】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1において、平板導電板10の主成分元素が銅又はアルミニウムである場合、銅及びアルミニウムは絶縁皮膜20に含まれているポリアミドイミド樹脂との密着性が高いので、平板導電板10と絶縁皮膜20との密着性が高くなる。このため、絶縁皮膜20の硬度がより高くなる。
【0034】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板1においては、平板導電板10が、平面視で中央に開口部11を有し、開口部11から外周部に繋がる解放部12を1つ有する環状体である場合は、コイルやインダクターなどのモーター部品として有利に利用することができる。
【0035】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き平板導電板の製造方法によれば、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の合計含有量に対するフッ素系樹脂粒子の含有量が72質量%以上95質量%以下の範囲内にある電着液を用いて、電着法により絶縁皮膜を成膜するので、比誘電率が低く、硬度が高い絶縁皮膜で被覆されている絶縁皮膜付き平板導電板1を製造することが可能となる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0037】
[本発明例1]
(1)ポリアミドイミド樹脂粒子分散液の調製
撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2Lの四つ口フラスコ内に、747gのN-メチル-2-ピロリドン(極性溶剤)と、298g(1.19モル)のジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI、イソシアネート成分)と、227g(1.18モル)のトリメリット酸無水物(TMA、酸成分)とを投入して130℃まで昇温させた。次いで、130℃の温度で約4時間反応させることにより、数平均分子量が17000のポリマー(ポリアミドイミド樹脂)を得た。その後、上記合成したポリアミドイミド樹脂を、N-メチル-2-ピロリドン(極性溶剤)で、ポリアミドイミド樹脂(不揮発分)の濃度が20質量%となるように溶解して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(ポリアミドイミド樹脂:N-メチル-2-ピロリドン=20質量%:80質量%)を得た。
【0038】
上記得られたポリアミドイミド樹脂ワニス62.5gを、N-メチル-2-ピロリドン140g(極性溶剤)で更に希釈し、トリ-n-プロピルアミン(塩基性化合物、塩基)0.5gを加えた後、この液を回転速度10000rpmの高速で撹拌しつつ、室温下(25℃)で水を47g添加した。これにより、メジアン径160nmのポリアミドイミド樹脂粒子の分散液(ポリアミドイミド樹脂粒子:N-メチル-2-ピロリドン:水:トリ-n-プロピルアミン=5質量%:76質量%:18.8質量%:0.2質量%)250gを得た。
【0039】
(2)フッ素系樹脂粒子分散液の調製
フッ素系樹脂粒子(PTFE粒子):水の比が60質量%:40質量%であるポリフロンPTFE-D(ダイキン工業株式会社製)を水で希釈し、メジアン径200nmのフッ素系樹脂粒子の分散液を得た(フッ素系樹脂粒子:水=30質量%:70質量%)。
【0040】
(3)電着液の調製
ポリアミドイミド樹脂粒子分散液60gとフッ素系樹脂粒子分散液10gを混合し電着液を得た(ポリアミドイミド樹脂粒子:フッ素系樹脂粒子:N-メチル-2-ピロリドン:水:トリ-n-プロピルアミン=4.3質量%:4.3質量%:65質量%:26.2質量%:0.2質量%)。なお、上記ポリアミドイミド樹脂粒子及びフッ素系樹脂粒子が固形分であり、上記N-メチル-2-ピロリドン(極性溶剤)、水及びトリ-n-プロピルアミン(塩基)が分散媒である。
【0041】
(4)絶縁皮膜付き平板導電板
上記調製した電着液を用いて絶縁皮膜付き平板導電板を作製した。
平板導電板としては、銅板を打ち抜き加工して作製した、中央に開口部を有し、外周部から開口部に繋がる解放部を1つ有する環状銅板を用いた。
【0042】
先ず、上記(3)で調製した電着液を電着槽内に貯留し、この電着槽内の電着液の温度を20℃とした。次いで、上記の環状銅板(平板導電板)を陽極とし、上記電着槽内の電着液に挿入された円筒型の銅板を陰極とし、環状銅板と円筒型の銅板との間に直流電圧100Vを印加した状態で、環状銅板及び円筒型の銅板を電着槽内の電着液中に10秒間保持した。これにより環状銅板の表面に電着膜が形成された。次に、電着膜が形成された環状銅板を300℃のマッフル炉中に3分間静置し乾燥処理して、表面に厚さ5μmの絶縁皮膜が形成された銅線を得た。この絶縁皮膜付きの銅線を実施例1とした。
【0043】
[本発明例2~39及び比較例1~7]
下記の表1に示すように、平板導電板の材料、フッ素系樹脂粒子の種類とメジアン径、ポリアミドイミド樹脂粒子とフッ素系樹脂粒子の割合(質量比)をそれぞれ変えたこと以外は、本発明例1と同様にして電着液を調製した。そして、得られた電着液を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁皮膜付き平板導電板を作製した。
【0044】
[評価]
本発明例1~39及び比較例1~7について、下記の項目について評価した。その結果を、下記の表1に示す。なお、比較例7では、絶縁皮膜を形成することができなかった。
【0045】
[平均膜厚]
絶縁皮膜付き平板導電板の厚さ(T)を、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。得られた平板導電板の厚さ(T)から、予め測定した平角導電板の厚さ(T)を減じ、得られた値を2で除した。得られた値[(T-T)/2]を、平均膜厚とした。
【0046】
[比誘電率]
LCRメーター(日置電機株式会社製)を用いて、絶縁皮膜の静電容量を測定した。得られた静電容量と、上記で測定した絶縁皮膜の平均膜厚から誘電率を算出した。比誘電率は、算出した誘電率を真空の誘電率ε(8.85×10-12F/m)で除することにより求めた。
【0047】
[硬さ]
JIS-K5600-5-4:1996(塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法))に準じて測定した。市販の鉛筆硬度試験器を用いて、45°の角度で固定した鉛筆に、750gの荷重をかけて塗膜表面を0.5~1mm/秒の速度で7mm以上動かし、傷の有無を確認した。鉛筆の硬度を変えながら場所を変えて同じ操作を行い、傷が確認できない最も高い硬度を塗膜の引っかき硬度とした。
【0048】
[絶縁破壊電圧]
絶縁破壊試験器(株式会社YAMAGISHI製)を用いて、JIS-C-3216-5:2011(巻線試験方法-第5部:電気的特性)に準じて絶縁破壊電圧を測定した。
【0049】
[部分放電開始電圧]
株式会社フジクラ・ダイヤケーブル製B010を用いて、作製した2枚の電極を重ねて測定した。評価方法は回路に関するEN規格であるEN50178に準じて行った。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から、本発明例1~39で得られた絶縁皮膜付き平板導電板は、いずれも硬さ(鉛筆硬度)が2B以上と高く、かつ比誘電率が2.8以下と低く、部分放電開始電圧が200V以上となった。これは、放電による膜厚の減少が起こりにくいことを意味しており、長期にわたって絶縁性が維持できることになる。これに対して、フッ素系樹脂の含有量が70質量%と本発明の範囲よりも少ない比較例1、4~6で得られた絶縁皮膜付き平板導電板は、比誘電率が2.9と高くなった。一方、フッ素系樹脂の含有量が97質量%と本発明の範囲よりも多い比較例7では、絶縁皮膜を得ることができなかった。また、平均膜厚が2μmと本発明の範囲よりも薄い比較例2で得られた絶縁皮膜付き平板導電板は、部分放電開始電圧が150Vと低くなった。一方、平均膜厚が150μmと本発明の範囲よりも厚い比較例3で得られた絶縁皮膜付き平板導電板は、硬さが3Bと低くなった。
【符号の説明】
【0052】
1 絶縁皮膜付き平板導電板
10 平板導電板
11 開口部
12 解放部
20 絶縁皮膜
図1
図2