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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20241217BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B62D25/08 F
B62D25/08 H
B62D25/08 J
B62D25/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021055397
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152574
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】亀井 丈広
(72)【発明者】
【氏名】任田 功
(72)【発明者】
【氏名】大江 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】橋口 拓允
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋
(72)【発明者】
【氏名】平松 大弥
(72)【発明者】
【氏名】福島 正信
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴生
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-028911(JP,A)
【文献】特開2011-131735(JP,A)
【文献】特開2010-264906(JP,A)
【文献】特開2009-040155(JP,A)
【文献】特開2005-247202(JP,A)
【文献】特開平05-008762(JP,A)
【文献】特開平04-092779(JP,A)
【文献】特開平04-252779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/00 - 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーの少なくとも一方に固定されるとともに少なくとも車幅方向中央部まで延びるインパネメンバとを備え、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、
前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、
前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられ
前記膨出部の上壁部は、前記インパネメンバの下端部よりも下に位置付けられている車体構造。
【請求項2】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、
前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、
前記補強部材は、車幅方向に延びており、
前記補強部材の車幅方向左端部が前記膨出部の車幅方向左側壁部の内面に固定され、
前記補強部材の車幅方向右端部が前記膨出部の車幅方向右側壁部の内面に固定され、
前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられている車体構造。
【請求項3】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、
前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、
前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられ、
前記補強部材には、前記膨出部の内面への固定部が設けられており、
前記固定部には、車両前方へ向けて開放する切欠部が形成され、
前記固定部は、前記切欠部に差し込まれた締結部材によって前記膨出部に締結固定されている車体構造。
【請求項4】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、
前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、
前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられ、
前記補強部材には、車両後方への荷重を受けたときに屈曲変形を誘発する変形誘発部が設けられ、
前記変形誘発部は、前記補強部材を貫通する貫通孔及び前記補強部材をビード状に変形させた変形部の少なくとも一方で構成されている車体構造。
【請求項5】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、
前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、
前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられ、
前記補強部材には、車両後方への荷重を受けたときに破断を誘発する破断誘発部が設けられ、
前記破断誘発部は、前記補強部材を貫通する貫通孔で構成されている車体構造。
【請求項6】
請求項に記載の車体構造において、
前記膨出部の後端壁部は、前記インパネメンバの車両前端部よりも車両後方に位置付けられている車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に関し、特にダッシュパネルを備えた構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部には、エンジンが格納されるエンジンルームが設けられており、このエンジンルームと車室とは上下方向及び車幅方向に延びるダッシュパネルによって仕切られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のダッシュパネルの車幅方向中央部には、車室内側(車両後方)へ向かって膨出した膨出部が形成されている。この膨出部の車両後側には、空調ユニットが配設されており、膨出部と空調ユニットとの間には、クラッシュスペースが設けられている。クラッシュスペースには、前方衝突時に前後方向の荷重を吸収する荷重吸収部材が配設されている。荷重吸収部材は、変形用部材と、上下方向に延びる基板を有しており、この基板の上端部がカウルパネルに接合される一方、下端部は膨出部の最後端近傍に接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-74909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前方衝突時には、エンジンルームに格納されているパワートレインに対して後向きの荷重が加わることになるが、衝撃荷重を有効に吸収するためには、パワートレインの後退ストローク量を十分に確保したいという要求がある。
【0006】
しかしながら、車両のレイアウトやデザイン、運動性能上の要求から、車両のボンネットの全長を短くしたい場合がある。ボンネットの全長が短くなるということは、エンジンルームの前後方向の寸法が短くなるということであり、このことは前方衝突時におけるパワートレインの後退ストローク量を確保する上でマイナスの要因となる。
【0007】
この点、特許文献1では膨出部と空調ユニットとの間にクラッシュスペースを設けている。しかしながら、膨出部の後端壁部はカウルパネルの前端部近傍に位置しており、荷重吸収部材の後端部を構成している基板はカウルパネルの後端部よりも前に位置している。つまり、膨出部の後方への膨出量が少なく、荷重吸収部材の後端部の位置が全体的に前寄りになっているので、特にボンネットの全長が短くしたい場合には、パワートレインの後退ストローク量が十分でなくなる場合が考えられる。
【0008】
また、例えばフロントエンジンリヤドライブ車の場合は、フロントウインドウの下端部からボンネットの前端までの寸法が長くなるので、前部車体剛性を確保する点では不利になる。特に、前方衝突時におけるパワートレインの後退ストローク量を確保しようとして膨出部の後方への膨出量を大きくすると、ダッシュパネルの剛性が低下してしまい、走行時の外力によってダッシュパネルにおける膨出部よりも右側部分と左側部分とが開くように変形し易くなり、ひいては車両の操縦安定性及び運動性能の低下を引き起こす場合がある。
【0009】
上述した課題は、エンジンを車室前方に搭載した車両に限られるものではなく、例えば走行用モータ等を車室前方に搭載した車両においても同様である。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、通常走行時における前部車体剛性を確保して車両の操縦安定性及び運動性能を向上させながら、前方衝突時にパワートレインの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示の側面では、車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上方に設けられ、車幅方向に延びるカウルパネルとを備えた車両の車体構造を前提とすることができる。車体構造は、前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーの少なくとも一方に固定されるとともに少なくとも車幅方向中央部まで延びるインパネメンバとを備えている。前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が設けられ、前記ダッシュパネルは、前記膨出部の車両後端部に位置する後端壁部から車両前方へ離れて設けられ、該膨出部の内面に固定される補強部材を備え、前記膨出部の後端壁部は、前記カウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられ、前記膨出部の上壁部は、前記インパネメンバの下端部よりも下に位置付けられている。
【0012】
この構成によれば、ダッシュパネルの膨出部の後端壁部がカウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられているので、膨出部の車両後方への膨出量が大きくなり、前方衝突時におけるパワートレインの後退量を多く確保することが可能になる。
【0013】
このように膨出部の膨出量が大きくなると、ダッシュパネルの剛性低下が懸念されるが、本構成では、ダッシュパネルを補強するための補強部材が膨出部の内面に固定されていて、しかも、膨出部の後端壁部から車両前方に離れているので、ダッシュパネルの補強効果が高まる。よって、パワートレインの後退量を多く確保すべく、膨出部の膨出量が大きくなってもダッシュパネルの剛性が高まり、車両の操縦安定性及び運動性能が向上する。
【0014】
また、仮に、車両前後方向視でインパネメンバと膨出部の上壁部とが重複する位置関係にあると、膨出部の車両後方への膨出量を多く確保することができず、その結果、パワートレインの後退ストローク量が減少するおそれがある。これに対し、本構成では、膨出部の上壁部がインパネメンバの下端部よりも下に位置付けられているので、膨出部をインパネメンバの位置とは関係なく、後方への膨出量が大きなものにすることができる。これにより、パワートレインの後退ストローク量を多く確保できる。
【0015】
また、前記膨出部の後端壁部は、前記インパネメンバの車両前端部よりも車両後方に位置付けられている。
【0016】
すなわち、インパネメンバは高剛性な部材であることから、その高さによってはパワートレインの後退を阻害するおそれがある。本構成では、膨出部の後端壁部がインパネメンバの車両前端部よりも車両後方に位置しているので、膨出部の後方への膨出量を大きくしてパワートレインの後退ストローク量を多く確保できる。
【0017】
また、前記補強部材は、車幅方向に延びており、前記補強部材の車幅方向左端部が前記膨出部の車幅方向左側壁部の内面に固定され、前記補強部材の車幅方向右端部が前記膨出部の車幅方向右側壁部の内面に固定されている。
【0018】
この構成によれば、補強部材によって膨出部の左側壁部と右側壁部とが連結されるので、ダッシュパネルの剛性をより一層高めることができる。
【0019】
また、前記補強部材には、前記膨出部の内面への固定部が設けられており、前記固定部には、車両前方へ向けて開放する切欠部が形成され、前記固定部は、前記切欠部に差し込まれた締結部材によって前記膨出部に締結固定されている。
【0020】
この構成によれば、補強部材が切欠部に差し込まれたボルトやリベット、ネジのような締結部材によって膨出部に強固に固定されるので、通常走行時におけるダッシュパネルの剛性を十分に確保できる。一方、前方衝突時にパワートレインが後退すると、当該パワートレインが補強部材に当接し、補強部材が車両後方へ押される。このパワートレインの後退力は極めて大きいので、補強部材が膨出部に対して車両後方へ相対変位しようとする。このとき、締結部材は前方へ向けて開放する切欠部内に位置しているので、この開放部分を通って相対移動可能であり、これにより、締結部材による締結力を解くことなく、補強部材を膨出部に対して後退させることができる。よって、パワートレインの後退ストローク量を多く確保できる。
【0021】
また、前記補強部材には、車両後方への荷重を受けたときに屈曲変形を誘発する変形誘発部が設けられている。
【0022】
この構成によれば、前方衝突時にパワートレインが後退して補強部材に当接した時、補強部材が車両後方への荷重を受けると、変形誘発部が補強部材の屈曲変形を誘発するので、補強部材がパワートレインの後退を阻害し難くなり、よって、パワートレインの後退ストローク量を多く確保できる。
【0023】
また、前記変形誘発部は、前記補強部材を貫通する貫通孔及び前記補強部材をビード状に変形させた変形部の少なくとも一方で構成されている。
【0024】
この構成によれば、補強部材を確実に変形させることができる。
【0025】
また、前記補強部材には、車両後方への荷重を受けたときに破断を誘発する破断誘発部が設けられている。
【0026】
この構成によれば、前方衝突時にパワートレインが後退して補強部材に当接した時、補強部材が車両後方への荷重を受けると、破断誘発部が補強部材の破断を誘発するので、補強部材がパワートレインの後退を阻害し難くなり、よって、パワートレインの後退ストローク量を多く確保できる。
【0027】
また、前記破断誘発部は、前記補強部材を貫通する貫通孔で構成されているので、破断を確実に誘発することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、ダッシュパネルの膨出部の後端壁部から車両前方へ離れて設けられる補強部材が該膨出部の内面に固定されているので、通常走行時における前部車体剛性を確保して車両の操縦安定性及び運動性能を向上させることができ、しかも、膨出部の後端壁部がカウルパネルの車幅方向中央部における後端部よりも車両後方に位置付けられているので、前方衝突時にパワートレインの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る車体構造を上方から見た斜視図である。
図2】上記車体構造の平面図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
図4】上記車体構造の正面図である。
図5】上記車体構造のダッシュパネルとフロアパネルの斜視図である。
図6】インパネメンバが運転席側にのみ設けられている例を示す図1相当図である。
図7】補強部材の正面図である。
図8】補強部材の固定構造を別の例を示す図7相当図である。
図9】補強部材の固定構造を別の例を示す図3相当図である。
図10】補強部材に変形誘発部を設けた例を示す図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る車体構造1の斜視図であり、図2は、車体構造1の平面図である。車体構造1は、例えば乗用自動車等の自動車に適用可能な車体構造である。自動車は、車体の前部に搭載されたエンジンや走行用モータ等で後輪を駆動するフロントエンジンリヤドライブ車(以下、FR車という)であってもよいし、車体の前部に搭載されたエンジンや走行用モータ等で前輪を駆動するフロントエンジンフロントドライブ車(以下、FF車という)であってもよい。自動車は、FR車とFF車以外にも、車体の前部に搭載されたエンジンで4輪を駆動する4輪駆動車であってもよい。尚、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両右側を単に「右」といい、車両左側を単に「左」というものとする。車両の左右方向が車幅方向である。
【0032】
車体構造1は、フロアパネル2と、ダッシュパネル3と、右側サイドシル4と、左側サイドシル5(図2にのみ示す)とを備えている。フロアパネル2は、車室の底板部を構成する部材であり、例えば鋼板等で構成されていて、前後方向に延びている。フロアパネル2の上方空間が車室Rである。車室Rの上部にはルーフ(図示せず)が設けられている。また、車室Rの右側部及び左側部には、乗降用のドア(図示せず)が設けられている。右側サイドシル4及び左側サイドシル5は、本発明の車体構造1を構成する部材としなくてもよく、必要に応じて設ければよい。
【0033】
図2に仮想線で示すように、車室Rの右側(車幅方向一方側)に運転席Drが設けられ、車室Rの左側(車幅方向他方側)に助手席Psが設けられている。尚、これとは反対に、運転席Drが左側、助手席Psが右側に設けられていてもよく、この場合には、本実施形態を左右反転させて適用することができる。また、運転席Dr及び助手席Psの後方には後席が設けられていてもよいし、後席は無くてもよい。車室Rには、荷物等を積載する荷室が含まれていてもよい。
【0034】
右側サイドシル4は、フロアパネル2の右縁部に沿って前後方向に延びている。左側サイドシル5は、フロアパネル2の左縁部に沿って前後方向に延びている。車室Rは、右側サイドシル4と左側サイドシル5との間に位置している。フロアパネル2の左右方向中央部には、フロアトンネル部2aが上方へ膨出するように形成されている。フロアトンネル部2aは、フロアパネル2の前縁部から後縁部まで連続して前後方向に延びている。
【0035】
車室Rの前方には、パワートレインPT(図2図4に仮想線で概略形状を示す)を格納する動力室Sが設けられている。動力室Sは、例えばパワートレイン格納室、エンジンルーム、モータルーム等と呼ぶこともできる。車室Rと動力室Sとを前後方向に仕切っている部材がダッシュパネル3である。ダッシュパネル3は、左右方向に延びるとともに上下方向にも延びている。図3に示すように、ダッシュパネル3の下側部分は、下端部へ近づくほど後に位置するように傾斜ないし湾曲しており、ダッシュパネル3の下端部がフロアパネル2の前端部に接続されている。したがって、フロアパネル2は、ダッシュパネル3の下端部から後方へ延びるように設けられる。
【0036】
パワートレインPTは、内燃機関、いわゆるロータリーエンジンやレシプロエンジンであってもよいし、走行用モータであってもよいし、上記エンジンと走行用モータの両方を備えたものであってもよい。走行用モータを備えている場合、発電用のエンジン(パワートレインPTの一部)が動力室Sに格納されていてもよい。パワートレインPTがエンジンの場合、クランクシャフトが前後方向に延びる姿勢で動力室Sに格納されていてもよいし、クランクシャフトが左右方向に延びる姿勢で動力室Sに格納されていてもよい。エンジンは、複数のシリンダがクランクシャフトの軸方向に直列に並んだ直列多気筒エンジンであってもよいし、クランクシャフトの軸方向に沿って見たとき、複数のシリンダがV字をなすように配列されたV型多気筒エンジンであってもよい。また、エンジンは、複数のシリンダがクランクシャフトを挟んで水平方向に対向するように配列された水平対向エンジンであってもよい。
【0037】
パワートレインPTには、トランスミッション(図示せず)が含まれていてもよい。トランスミッションは、車両に搭載された制御装置によってギヤ比を自動的に変更するオートマチックトランスミッションやCVT式トランスミッションであってもよいし、車室Rに設けられた操作レバー(図示せず)によって乗員がギヤ比を変更するマニュアルトランスミッションであってもよい。
【0038】
動力室Sの上部には、ボンネットフード(図示せず)が設けられている。また、図1及び図2に示すように、動力室Sの右側部には、右側フロントサイドフレーム6が設けられ、動力室Sの左側部には、左側フロントサイドフレーム7が設けられている。右側フロントサイドフレーム6及び左側フロントサイドフレーム7は、共に前後方向に延びており、右側フロントサイドフレーム6及び左側フロントサイドフレーム7の前端部には、左右方向に延びるバンパーレインフォースメントBが取り付けられている。右側フロントサイドフレーム6、左側フロントサイドフレーム7及びバンパーレインフォースメントBは、車体構造1を構成する部材とすることができるが、車体構造1に含まれない部材とすることもできる。
【0039】
右側フロントサイドフレーム6の後端部は、ダッシュパネル3の左右方向中央部よりも右寄りの部分に接続されている。図4に示すように、この右側フロントサイドフレーム6の後端部は、ダッシュパネル3に沿って右側へ延びる水平部6aと、ダッシュパネル3に沿って下方へ延びる下側部6bと、後述する膨出部の内面に沿って後方へ延びる後側部6cとの3つに分岐している。また、左側フロントサイドフレーム7の後端部は、ダッシュパネル3の左右方向中央部よりも左寄りの部分に接続されている。この左側フロントサイドフレーム7の後端部は、ダッシュパネル3に沿って右側へ延びる水平部7aと、ダッシュパネル3に沿って下方へ延びる下側部7bと、後述する膨出部の内面に沿って後方へ延びる後側部7cとの3つに分岐している。
【0040】
図3に示すように、ダッシュパネル3の上方には、車体構造1の一部を構成するカウルパネル8が設けられている。カウルパネル8は、板材で構成されていて、左右方向に延びている。カウルパネル8は、左右方向に延びるとともに前後方向にも延びる底板部8aと、底板部8aの前端部から上方へ延びる前板部8bと、底板部8aの後端部から上方へ延びる後板部8cとを備えている。底板部8aの前部にダッシュパネル3の上端部が接続されている。
【0041】
図2に示すように、カウルパネル8の底板部8aの後端部は、左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように、平面視で大きく湾曲している。この底板部8aの後端部から後板部8cが上方へ延びているので、後板部8cも平面視で左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように大きく湾曲している。尚、図示しないが、フロントウインドガラスの下端部がカウルパネル8の後板部8cの直上方に位置するようになっている。よって、カウルパネル8の大部分は車室外に配置されることになる。
【0042】
図4に示すように、車体構造1は、ダッシュパネル3の右端部において上下方向に延びるように配設される右側ヒンジピラー9と、ダッシュパネル3の左端部において上下方向に延びるように配設される左側ヒンジピラー10とをさらに備えている。すなわち、図1に示すように、右側ヒンジピラー9の下端部は、右側サイドシル4の前端部近傍に接続されており、右側ヒンジピラー9は右側サイドシル4の前端部近傍からダッシュパネル3の右端部に沿ってカウルパネル8と略同じ高さ近傍まで延びている。右側ヒンジピラー9は、自動車の右側部に配設される右ドアを開閉可能に支持するヒンジが固定されるようになっている。右側ヒンジピラー9の上端部には、右側フロントピラー11の下端部が接続されている。また、左側ヒンジピラー10の下端部は、左側サイドシル5の前端部近傍に接続されており、左側ヒンジピラー10は左側サイドシル5の前端部近傍からダッシュパネル3の左端部に沿ってカウルパネル8と略同じ高さ近傍まで延びている。左側ヒンジピラー10は、自動車の左側部に配設される左ドアを開閉可能に支持するヒンジが固定されるようになっている。図4に示すように、左側ヒンジピラー10の上端部には、左側フロントピラー12の下端部が接続されている。
【0043】
(インパネメンバ)
図1図2に示すように、車体構造1は、インパネメンバ20を備えている。インパネメンバ20は、右側ヒンジピラー9の上端部から左側ヒンジピラー10の上端部まで左右方向に延び、内部が中空の筒状部材で構成されている。インパネメンバ20は、図示しないが車室Rの前端部に設けられているインストルメントパネルの内部に収容された状態になっている。
【0044】
インパネメンバ20の右端部には、右側ブラケット21が固定されており、この右側ブラケット21が右側ヒンジピラー9の上端部の車室内側に固定されている。また、インパネメンバ20の左端部には、左側ブラケット22が固定されており、この左側ブラケット22が左側ヒンジピラー10の上端部の車室内側に固定されている。尚、右側ブラケット21及び左側ブラケット22は省略してもよい。
【0045】
図2に仮想線で示すように、インパネメンバ20の運転席Dr側には、ステアリングコラムSTが支持されている。ステアリングコラムSTは、ステアリングシャフト(図示せず)を回転可能に軸支するための部材である。
【0046】
図6に示す別の例のように、インパネメンバ20は、車幅方向中央部まで延びる部材であってもよい。この例では、インパネメンバ20の右端部(一端部)が右側ヒンジピラー9の上端部の車室内側に固定されているが、インパネメンバ20の左端部(他端部)は左側ヒンジピラー10に達しておらず、車室Rの車幅方向中央部に位置している。また、図示しないが、運転席Drが左側に設けられる場合には、インパネメンバ20の左端部(一端部)が左側ヒンジピラー10の上端部の車室内側に固定され、インパネメンバ20の右端部(他端部)が車室Rの車幅方向中央部に位置する形態であってもよい。つまり、インパネメンバ20は、左右のヒンジピラー9、10の少なくとも一方のヒンジピラーに固定されるとともに少なくとも車幅方向中央部まで延びる部材であればよい。インパネメンバ20の長さは、任意に設定することができ、図6に示す長さよりも長くてもよいし、短くてもよい。
【0047】
(ダッシュパネルの膨出部)
図5に示すように、ダッシュパネル3は、該ダッシュパネル3の左右方向中央部から後方へ向かって膨出する膨出部30を備えている。膨出部30は、上壁部31、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34で構成されている。膨出部30は、複数の板材が組み合わされて構成されており、具体的には、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34が1枚の板材で一体成形されているが、上壁部31は、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34と別体の板材で構成されている。上壁部31は、成形後に後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34の上部に接合することによって一体化できる。膨出部30は、1枚の板材で全てが構成されていてもよいが、後述するように後方への膨出量を大きくしているので、複数枚の板材を組み合わせて構成することが成形上、望ましい場合がある。
【0048】
膨出部30の上壁部31は、前後方向及び左右方向に延びており、この実施形態では略水平であるが、例えば後端部に近づくほど下に位置するように傾斜ないし湾曲していてもよい。後端壁部32は、上壁部31の後端部から下方へ延びるとともに左右方向に延びている。後端壁部32は、この実施形態では略鉛直であるが、例えば下へ行くほど後に位置するように傾斜ないし湾曲していてもよい。右側壁部33は、上壁部31の右端部から下方へ延びるとともに前後方向に延びている。左側壁部34は、上壁部31の左端部から下方へ延びるとともに前後方向に延びている。右側壁部33と左側壁部34との左右方向の間隔は、後へ行くほど狭くなるように設定することができる。
【0049】
膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の下部の間は下方に開放されている。また、膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の前部の間は前方に開放されている。前方衝突の際に後退したパワートレインPTは、前方への開放部分から膨出部30内に入るようになっている。また、膨出部30が下方に開放されているので、パワートレインPTの上下方向の寸法が膨出部30の上下方向の寸法よりも長くても、パワートレインPTの上側部分が膨出部30内へ入り、パワートレインPTの下側部分が膨出部30から下方へ突出した状態となる。これにより、膨出部30がパワートレインPTの後退を阻害することはない。
【0050】
図3に示すように、膨出部30の上壁部31は、ダッシュパネル3の上端部近傍に位置しており、従って膨出部30は、ダッシュパネル3の上端部から上下方向中間部までの部分を後方へ膨出させることによって形成されている。このように、膨出部30の上壁部31を上に位置付けることで、前方衝突の際にパワートレインPTが後退した時、パワートレインPTの後側上部を膨出部30内へ入れることができ、パワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できる。
【0051】
尚、本明細書における「前方衝突」とは、自動車が前進走行中に障害物等に衝突した場合の他、停車中の自動車に障害物が前方から衝突した場合も含まれる。また、本明細書の「前方衝突」とは、パワートレインPTが後退する程の大きな衝撃荷重が前方から加わる衝突であり、いわゆる軽衝突とは区別することができる。
【0052】
図3に示すように、膨出部30の上壁部31は、インパネメンバ20の下端部よりも下に位置付けられていて、膨出部30の上壁部31の直上方にインパネメンバ20が配置されている。膨出部30の上壁部31と、インパネメンバ20の下端部とは、上下方向に所定の隙間をあけて対向するように配置されていてもよいし、インパネメンバ20の下端部が膨出部30の上壁部31に固定されていてもよい。後者の場合、インパネメンバ20における左右のヒンジピラー9、10から離れた部分が膨出部30に固定されることになる。
【0053】
図6に示す別の例の場合、インパネメンバ20における右側ヒンジピラー9から離れた部分が膨出部30に固定されることになる。また、運転席Drが左側に設けられる場合には、インパネメンバ20における左側ヒンジピラー10から離れた部分が膨出部30に固定されることになる。
【0054】
ダッシュパネル3は車室Rと動力室Sとを仕切るためのものであることから高強度な部材で構成されている。この高強度なダッシュパネル3に膨出部30を形成しているので、膨出部30の強度も高まっており、膨出部30は、少なくとも従来一般的に用いられている上下方向に長いインパネメンバステーよりも変形し難い部分となる。インパネメンバ20が膨出部30に固定されているので、従来のインパネメンバステーは不要になって車両の軽量化が可能になるとともに、従来のインパネメンバステーによる固定構造に比べてインパネメンバ20の車体への取付剛性が向上し、走行中に各種外力を受けた際のインパネメンバ20の変形量が減少する。
【0055】
インパネメンバ20を膨出部30に固定する構造としては、例えばボルトやナット、ビス、ネジ、リベット等の締結部材を利用した締結構造を用いることができる。この場合、インパネメンバ20を膨出部30の上壁部31に直接固定してもよいし、インパネメンバ20と上壁部31との間にブラケットを介在させて固定してもよい。ブラケットを介在させる場合、インパネメンバ20と上壁部31との距離は短いので、従来のインパネメンバステーのような長い部材を用いなくて済む。また、ブラケットをインパネメンバ20と膨出部30との一方に予め溶接しておき、このブラケットを他方に締結固定するようにしてもよい。
【0056】
また、インパネメンバ20を膨出部30の後端壁部32に固定してもよいし、右側壁部33に固定してもよいし、左側壁部34に固定してもよい。インパネメンバ20を膨出部30の1箇所に固定してもよいし、複数箇所に固定してもよい。
【0057】
また、図1に示すように、膨出部30の車両後端部に位置する後端壁部32は、カウルパネル8の左右方向中央部における後端部よりも後方に位置付けられている。すなわち、カウルパネル8の後端部は後板部8cで構成されているが、後板部8cは、上述したように、左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように平面視で大きく湾曲している。平面視では、膨出部30の後端壁部32が後板部8cの左右方向中央部よりも後方に位置している。膨出部30の後端壁部32の位置が後板部8cの左右方向中央部よりも後方に位置しているということは、車体構造1の全体として、膨出部30の後端壁部32が大きく後退した位置にあるということである。膨出部30の膨出量が大きくなればなるほど、即ち、膨出部30の前後方向の寸法が長くなればなるほど、後端壁部32は後方に位置することになり、本実施形態のようにカウルパネル8の後板部8cの左右方向中央部を比較の基準とし、その後板部8cの左右方向中央部よりも後端壁部32を後方に位置付けることで、膨出部30の膨出量を大きくすることができる。膨出部30の膨出量を大きくすることで、上述した前方衝突時にパワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できる。
【0058】
尚、この実施形態では、カウルパネル8の後板部8cの右端部及び左端部を比較対象としたときには、後端壁部32が後板部8cの右端部及び左端部よりも前方に位置することになるが、これに限らず、後端壁部32が後板部8cの右端部及び左端部よりも後方に位置付けられていてもよい。
【0059】
図3に示すように、膨出部30の後端壁部32は、上下方向に延びるとともに左右方向にも延びており、インパネメンバ20の前端部よりも後方に位置付けられている。これにより、膨出部30がインパネメンバ20の下方に達するまで大きく膨出した形態になる。ここで、インパネメンバ20の前端部は、該インパネメンバ20の前面部と定義することができ、円筒状のインパネメンバ20の場合、該インパネメンバ20の外周面のうちで最も前に位置する部分、前に向いている部分である。この実施形態では、膨出部30の後端壁部32は、インパネメンバ20の後端部よりも前方に位置付けられているが、これに限らず、膨出部30の後端壁部32がインパネメンバ20の後端部よりも後方に位置付けられていてもよい。インパネメンバ20の後端部は、該インパネメンバ20の後面部と定義することができ、円筒状のインパネメンバ20の場合、該インパネメンバ20の外周面のうちで最も後に位置する部分、後に向いている部分である。
【0060】
図5に示すように、膨出部30の下部は、フロアトンネル部2aの上部に接続されている。すなわち、膨出部30の後端壁部32の下部は、フロアトンネル部2aの上壁部に接続されて一体化されている。また、膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の下部は、フロアトンネル部2aの右側壁部及び左側壁部の上部に接続されて一体化されている。
【0061】
上述したように、膨出部30をダッシュパネル3の上端部から上下方向の中間部までの広い範囲に形成するとともに、後方への膨出量を大きくし、さらに、前方衝突時にパワートレインPTの上側部分が膨出部30に入るように、膨出部30の幅を広げている。このように大きな膨出部30をダッシュパネル3に設けると、ダッシュパネル3の剛性が低下してしまい、走行時の外力によってダッシュパネル3における膨出部30よりも右側部分と左側部分とが開くように変形し易くなり、ひいては車両の操縦安定性及び運動性能の低下を引き起こす場合がある。特に、FR車の場合は、フロントウインドウの下端部からボンネットの前端までの寸法が長くなるので、前部車体剛性を確保する点では不利になる。このダッシュパネル3の剛性低下を補うべく、図3等に示すように、本実施形態では補強部材40を設けている。
【0062】
(補強部材の構成)
本実施形態のダッシュパネル3は上記補強部材40を備えており、この補強部材40も車体構造1の一部を構成する部材である。補強部材40は、膨出部30の後端壁部32から前方へ離れて設けられ、該膨出部30の内面に固定されている。補強部材40は、パワートレインPTの後側上部の真後に位置付けられている。つまり、前方衝突時にパワートレインPTが後退すると、パワートレインPTの後側上部が補強部材40に確実に当接するように、補強部材40の高さ及び左右方向の位置が設定されている。
【0063】
図7に示すように、補強部材40単体を正面(前方)から見ると、全体として左右方向及び上下方向に延びる板状をなしている。補強部材40は、左右方向及び上下方向に延びる板状の本体部41と、上側固定部42と、右側固定部43と、左側固定部44と、下側固定部45とを備えている。
【0064】
上側固定部42は、本体部41の上端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、左右方向に延びる板状をなしている。この上側固定部42は、例えばカウルパネル8の底板部8aまたは膨出部30の上壁部31に固定することができる。また、右側固定部43は、本体部41の右端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、上下方向に延びる板状をなしている。この右側固定部43は、膨出部30の右側壁部33の内面に固定することができる。また、左側固定部44は、本体部41の左端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、上下方向に延びる板状をなしている。この左側固定部44は、膨出部30の左側壁部34の内面に固定することができる。さらに、下側固定部45は、本体部41の下端部に設けられており、後方へ向けて突出するとともに、左右方向に延びる板状をなしている。この下側固定部45は、フロアトンネル部2aの上壁部に固定することができる。
【0065】
右側固定部43及び左側固定部44を膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34に固定することで、右側壁部33と左側壁部34とが補強部材40によって連結された状態になる。これにより、ダッシュパネル3の剛性が向上する。さらに、上側固定部42をカウルパネル8の底板部8aまたは膨出部30の上壁部31に固定することで、膨出部30の剛性が高まり、その結果、ダッシュパネル3の剛性がより一層向上する。加えて、下側固定部45をフロアトンネル部2aの上壁部に固定することで、補強部材40とフロアトンネル部2aとを接続することができ、ダッシュパネル3の剛性がさらに向上する。尚、補強部材40の上側固定部42及び下側固定部45のいずれか一方または両方を省略してもよい。
【0066】
上側固定部42、右側固定部43、左側固定部44及び下側固定部45の固定方法としては、例えばスポット溶接等の溶接による固定方法を適用することができる。溶接による固定方法の場合、通常走行時に加わる外力によっては各固定部42~45が離脱しないようにしながら、前方衝突時にパワートレインPTが後退して補強部材40の本体部41に当接した時、その後方へ向けての荷重によって各固定部42~45が離脱するように設定されている。各固定部42~45の固定力は、例えば走行試験、衝突試験、シミュレーション等の結果によって予め設定することができる。その設定した固定力となるように、溶接条件や、溶接面積、溶接箇所の数を調整すればよい。
【0067】
また、図8及び図9に示す別の例のように、右側固定部43及び左側固定部44を締結部材50によって膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34に締結してもよい。この例では、図8に示すように、右側固定部43及び左側固定部44にそれぞれ前方へ向けて開放する右側切欠部43a及び左側切欠部44aが形成されている。図9に示すように、右側切欠部43aには、締結部材50が差し込まれており、この締結部材50を右側壁部33に固定されているナット(図示せず)等に螺合させることで、右側固定部43を右側壁部33に固定できる。また、右側壁部33に図示しないスタッドボルト(締結部材)を設けておき、このスタッドボルトを右側切欠部43aに差し込んだ状態にした後、該スタッドボルトにナットを螺合させることで、右側固定部43を右側壁部33に固定できる。左側固定部44も同様である。尚、上側固定部42及び下側固定部45についても同様に切欠部を形成し、締結部材によって締結固定してもよい。右側切欠部43a及び左側切欠部44aの一方を省略してもよい。
【0068】
図8及び図9に示す別の例では、通常走行時に加わる外力によっては右側固定部43及び左側固定部44が離脱しないようにしながら、前方衝突時にパワートレインPTが後退して補強部材40の本体部41に当接した時、その後方へ向けての荷重によって右側固定部43及び左側固定部44の一方または両方が離脱するように、締結部材50の締結力を設定する。この締結力も、上述した試験やシミュレーションによって予め設定することができる。その設定した固定力となるように、締め付けトルクや、締結箇所の数、締結部材50の軸径等を調整すればよい。
【0069】
この別の例では、前方衝突時にパワートレインPTが後退して、当該パワートレインPTによって補強部材40が後方へ押されると、パワートレインPTの後退力は極めて大きいので、補強部材40が膨出部30に対して後方へ相対変位しようとする。このとき、締結部材50は前方へ向けて開放する切欠部43a、44a内に位置しているので、この開放部分を通って相対移動可能であり、これにより、締結部材50による締結力を解くことなく、補強部材40を膨出部30に対して後退させることができる。よって、パワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できる。
【0070】
上述した例は、パワートレインPTの後退によって補強部材40を離脱させることで、パワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できるようにしているが、本実施形態は、これに限られるものではなく、図10に示すように、補強部材40に変形誘発部46を設けてもよい。変形誘発部46は、補強部材40が後方への荷重を受けたときに該補強部材40の屈曲変形を誘発する部分である。屈曲変形を開始する荷重は、変形誘発部46の構造及び変形誘発部46を設ける範囲等によって設定することができ、この実施形態では、通常走行時に加わる外力によっては補強部材40が殆ど変形しないようにしながら、前方衝突時にパワートレインPTが後退して補強部材40の本体部41に当接した時、その後方へ向けての荷重によって屈曲変形するように設定されている。補強部材40が屈曲変形することで、パワートレインPTの後退ストローク量を十分に確保することができる。
【0071】
変形誘発部46は、補強部材40の本体部41をビード状に変形させた変形部で構成されている。ビード状とは、本体部41の一部を厚み方向へ膨出させ、その変形部が所定方向に長く延びた形状のことである。このような変形部を設けることで、本体部41の変形を誘発する部分となり得る。例えば上下方向に延びるビード状の変形部を変形誘発部46とすることや、左右方向や斜め方向に延びるビード状の変形部を変形誘発部46とすることができる。変形誘発部46は、複数設けてもよい。
【0072】
また、補強部材40の本体部41を貫通する貫通孔47を設け、この貫通孔47を変形誘発部とすることもできる。貫通孔47が形成された部分は相対的に弱くなり、本体部41の変形を誘発する部分となり得る。貫通孔47は、上下方向に長い形状であってもよいし、円形であってもよい。貫通孔47は、複数設けてもよい。貫通孔47とビード状の変形部とを本体部41に形成してもよい。変形誘発部は、薄肉部で構成されていてもよい。
【0073】
補強部材40には、後方への荷重を受けたときに破断を誘発する破断誘発部が設けられていてもよい。破断誘発部は、図10に示す貫通孔47や図示しない薄肉部等で構成することができる。本体部41を変形させる場合、及び破断させる場合では、右側固定部43及び左側固定部44を膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34から離脱させる必要はなく、補強部材40を強固に固定しておくことができる。
【0074】
(補強部材の別形態)
上述した形態では、補強部材40が上下方向及び左右方向に延びる板状であるが、これに限らず、図示しないが、補強部材は左右方向に延びる板状、棒状、軸状等の形状としてもよく、膨出部30の右側壁部33と左側壁部34とを連結可能な部材であればよい。
【0075】
また、補強部材40は複数設けることもできる。補強部材40を複数設ける場合には、上下方向に並ぶように設けてもよいし、前後方向に並ぶように設けてもよい。
【0076】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、ダッシュパネル3の膨出部30の後端壁部32から前方へ離れて設けられる補強部材40が該膨出部40の内面に固定されているので、通常走行時における前部車体剛性を確保して車両の操縦安定性及び運動性能を向上させることができ、しかも、膨出部40の後端壁部32がカウルパネル8の後端部における左右方向中央部よりも後方に位置付けられているので、前方衝突時にパワートレインPTの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させることができる。
【0077】
また、ダッシュパネル3の膨出部30にインパネメンバ20を固定するようにしたので、車両の軽量化を図りながら、ステアリングコラムSTの支持剛性を高めることができる。
【0078】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明に係る車体構造は、車室と動力室とを仕切るダッシュパネルを備えた車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 車体構造
2 フロアパネル
3 ダッシュパネル
8 カウルパネル
9、10 ヒンジピラー
20 インパネメンバ
30 膨出部
31 上壁部
32 後端壁部
40 補強部材
43 右側固定部
43a 右側切欠部
44 左側固定部
44a 左側切欠部
46 変形誘発部
47 破断誘発部(貫通孔)
50 締結部材
PT パワートレイン
R 車室
S 動力室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10