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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】表面処理プラスチックフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241217BHJP
   G03G 7/00 20060101ALI20241217BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241217BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20241217BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20241217BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
G03G7/00 J
B32B27/36
C08K7/18
C08L67/00
C08J7/04 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021062807
(22)【出願日】2021-04-01
(65)【公開番号】P2022158117
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】粂井 良太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 栄二
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悠介
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-19893(JP,A)
【文献】特開平6-279605(JP,A)
【文献】特開2003-291509(JP,A)
【文献】特開平7-18105(JP,A)
【文献】特開平8-328233(JP,A)
【文献】特開2019-150954(JP,A)
【文献】特開平5-329969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/36
C08K 7/18
C08L 67/00
C08J 7/04
G03G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材プラスチックフィルムの少なくとも片面に表面被覆層が形成された表面処理プラスチックフィルムであって、
前記表面被覆層は、少なくともバインダー組成物(A)及び無機粒子(B)を含む表面被覆層形成組成物が硬化された層であり、
前記表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中の無機粒子(B)の含有量が20質量%以上、40質量%以下であり、
表面被覆層同士を擦り合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.65以下であり、
前記表面被覆層の表面粗さ(Ra)が1.6μmを超え、4.0μm以下であり、最大突起高さ(Rz)が20μmを超え、40μm以下である表面処理プラスチックフィルム。
【請求項2】
表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分中に添加剤としてワックス成分を0質量%以上、10.0質量%以下含有する請求項1に記載の表面処理プラスチックフィルム。
【請求項3】
バインダー組成物(A)が少なくともポリエステル樹脂を含み、バインダー組成物(A)の全固形分100重量%中のポリエステル樹脂の含有量が25質量%以上、100質量%以下である請求項1または2のいずれかに記載の表面処理プラスチックフィルム。
【請求項4】
無機粒子(B)が、少なくとも平均粒子径0.1μm以上、5.0μm未満の粒子(B1)と平均粒子径5.0μm以上、20.0μm以下の粒子(B2)を含み、
B1:B2=60:40~10:90(質量比)である請求項1~3のいずれかに記載の表面処理プラスチックフィルム。
【請求項5】
基材プラスチックフィルムがポリエステルフィルムである請求項1~4のいずれかに記載の表面処理プラスチックフィルム。
【請求項6】
基材プラスチックフィルムが、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムである請求項1~5のいずれかに記載の表面処理プラスチックフィルム。
【請求項7】
基材プラスチックフィルムが、ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムであり、前記ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムを構成する全ポリエステル樹脂に対して、フィルム屑、ペットボトルの再生原料からなるポリエステル樹脂を25質量%以上90質量%以下含有する請求項1~6のいずれかに記載の表面処理プラスチックフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理プラスチックフィルムに関する。特に、本発明は、各種ラベルやカード、配送伝票、プリンター用記録紙等として有用なプラスチックフィルムに関し、捺印適性と筆記性が飛躍的に改善され、粉落ち現象もないプラスチックフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、天然紙に比べて耐水性、吸湿寸法安定性、平面平滑性、印刷物の光沢性や鮮明性に加えて、機械的強度等にも優れていることから、天然紙に代わる合成紙として、例えば包装用紙、ラベル、地図、ポスター、名刺などの各種カード、配送伝票、各種プリンター用記録紙等の分野でも広く利用される様になっている。
【0003】
近年では、その簡便さ、印刷物の画像品質の向上から電子写真方式によって印刷、印字されるケースが多くなっている。電子写真方式では、トナーと呼ばれる、樹脂に顔料や各種添加剤を分散させた微粒子をフィルムに転写、定着させる事で印字が行われるが、この場合ではフィルムへのトナーの定着性が重要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上にトナー易接着層を有する表面処理プラスチックフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-345051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す表面処理プラスチックフィルムでは、表面粗さが低くなる傾向がある。また、近年、印刷、印字が高速化され、枚葉状態または連通紙状態にて折り重ねられ印字面同士が接触する場合において、摩擦などの衝撃によってトナーが対面に転写する、いわゆるトナー転写の問題が生じている。例えば、特許文献1のような表面処理プラスチックフィルムを用いて、折り重ね、印字面同士が接触すると、トナー転写が生じるおそれがあった。
さらに紙からの代替において、近年はプラスチックフィルム上に捺印性が要求される。特許文献1のような表面処理プラスチックフィルムに捺印をすると、時間が経過すると文字が滲み、指や物が擦れた際に文字が潰れてしまう恐れもあった。
その上、プラスチックフィルムは、用途に応じて、他のプラスチックフィルムと識別できる特性が求められている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、トナー定着性が良く、トナー転写が発生せず、捺印用途も適用でき、かつ手触りにより別種のプラスチックカードと識別が可能である表面処理プラスチックフィルムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
[1]基材プラスチックフィルムの少なくとも片面に表面被覆層が形成された表面処理プラスチックフィルムであって、
前記表面被覆層は、少なくともバインダー組成物(A)及び無機粒子(B)を含む表面被覆層形成組成物が硬化された層であり、
前記表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中の無機粒子(B)の含有量が20質量%以上、40質量%以下であり、
表面被覆層同士を擦り合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.65以下であり、
前記表面被覆層の表面粗さ(Ra)が1.6μmを超え、4.0μm以下であり、最大突起高さ(Rz)が20μmを超え、40μm以下である表面処理プラスチックフィルム。
[2]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分中に添加剤としてワックス成分を0質量%以上、10.0質量%以下含有する。
[3]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、バインダー組成物(A)が少なくともポリエステル樹脂を含み、バインダー組成物(A)の全固形分100重量%中のポリエステル樹脂の含有量が25質量%以上、100質量%以下である。
[4]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、 無機粒子(B)が、少なくとも平均粒子径0.1μm以上、5.0μm未満の粒子(B1)と平均粒子径5.0μm以上、20.0μm以下の粒子(B2)を含み、
B1:B2=60:40~10:90(質量比)である。
[5]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、 基材プラスチックフィルムがポリエステルフィルムである。
[6]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、基材プラスチックフィルムが、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムである。
[7]一態様において、表面処理プラスチックフィルムは、基材プラスチックフィルムが、ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムであり、前記ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムを構成する全ポリエステル樹脂に対して、フィルム屑、ペットボトルの再生原料からなるポリエステル樹脂を25質量%以上90質量%以下含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理プラスチックフィルムは、従来のフィルムと比較して、トナー定着性が良く、トナー転写が発生せず、捺印用途も適用できる。更に、手触りにより、別種のプラスチックカードと識別が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
(基材プラスチックフィルム)
本発明において基材フィルムを構成するプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、等からなる様々の高分子フィルムを使用できるが、これらの中でも特に好ましいのは、ポリエステルフィルムが耐熱性、強度、腰などの点で好ましい。これら基材フィルムの厚みにも特に制限はないが、合成紙などとしての一般的な強度特性を確保する意味から、好ましくは1~500μm、より好ましくは10~300μmである。
【0011】
基材フィルム素材として好適に使用されるポリエステルにおいて、主成分となるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそ のエステル形成性誘導体から合成されるポリマーである。このようなポリエステル系樹脂の代表例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリト リメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートが挙げられ、機械的特 性および耐熱性、コストなどの観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0012】
また、これらのポリエステル樹脂には、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、他の成分が共重合されていてもよい。具体的には、共重合成分としては、ジカルボン酸成分 では、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4-ジフェニルジカルボン酸、アジ ピン酸、セバシン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。また、ジオール 成分としてはジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコー ル、シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。また、ポリエチレングリコール、ポリプ ロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールも挙げられる。共重合量として は、構成する繰り返し単位あたり10モル%以内が好ましく、5モル%以内がより好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル系樹脂の製造方法としては、まず、前述のジカルボン酸またはそ のエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを主たる出発原料として、常法に従い、エステル化またはエステル交換反応を行った後、さらに高温・減圧 下で重縮合反応を行うことによって製造する方法などが挙げられる。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂ペレットの極限粘度としては、0.50~0.9dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.55~0.85dl/gの範囲である。このような極限粘度を有することで、製膜性や再生利用性などが良好となり、フィルム製造を安定的に操業し易く好ましい。
【0015】
本発明におけるポリエステル系樹脂には、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル系樹脂が含まれていてもよい。ペットボトルに使用されているポリエステルにはボトル成型性や外観を良好にするため、結晶性の制御が行われており、その結果、ポリエステル樹脂中の全エステル構成単位に対して0.5モル%以上10.0モル%以下のイソフタル酸成分とエチレングリコールやジエチレングリコールに代表される任意のジオール成分に由来するエステル構成単位を含有しているものが使用されることがある。また、液相重合の後、さらに固相重合を行い、極限粘度を上げたポリエステルが用いられていることがある。ペットボトルからリサイクルされたポリエステル系樹脂ペレットは、通常はペットボトルを洗浄、粉砕し、加熱溶融して再ペレット化したものであるが、さらに固相重合して極限粘度を高めたものを使用しても構わない。
ペットボトルからリサイクルされたポリエステル系樹脂の極限粘度は、0.60~0.75dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が0.60dl/g以上であると、得られたフィルムが破断し難くなり、フィルム製造を安定的に操業しやすく好ましい。一方、極限粘度が0.75dl/g以下であると、溶融流体の濾圧上昇が大きくなり過ぎることなく、フィルム製造を安定的に操業し易く好ましい。一般的にポリエチレンテレフタレート樹脂を固相重合すると樹脂中に含まれるオリゴマー量、中でも含有量が最も多いPET環状3量体は、液相重合したものに比べて少ないものになる。ペットボトルからなるリサイクルされたポリエステル系樹脂に含まれる環状3量体オリゴマーの上限は好ましくは0.7質量%であり、より好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは0.4質量%である。
【0016】
一態様において、基材プラスチックフィルムは、ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有するポリエステルフィルムであり、ポリエステルフィルムまたは、空洞を含有する白色ポリエステルフィルムを構成する全ポリエステル樹脂に対して、フィルム屑、ペットボトルの再生原料からなるポリエステル樹脂を25質量%以上90質量%以下含有できる。
例えば、空洞を含有するポリエステルフィルムは、白色ポリエステルフィルムであってもよい。
一態様において、空洞含有ポリエステルフィルムに対するペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂、フィルム屑からなるポリエステル樹脂の含有量は、ポリエステルフィルムを構成する全ポリエステル樹脂に対して、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。25質量%以上であると、空洞含有ポリエステル系フィルムに含まれるオリゴマーが少なくなり、オリゴマーの析出を抑制することができるので好ましい。さらにリサイクル樹脂の活用の面においては、含有率が多いことは、環境負荷低減への貢献の点で好ましい。ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の含有量は好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。
【0017】
上記の様な基材フィルムの少なくとも片面に、前述の如き表面被覆を施すことによって得られる本発明の表面処理フィルムは、合成紙としての適性を高めるために基材フィルムとして白色ポリエステルフィルムを用いても良い。その際には光線透過率が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下のものがよく、30%以下であると、裏が透けて見えることがなく、プリント後の外観を阻害するおそれがなく好ましい。
【0018】
更に基材ポリエステルフィルムを選択使用するに当たっては、フィルム素材としてポリエステルと共に、該ポリエステルに対して非相溶の熱可塑性樹脂を1種以上配合した素材を使用し、フィルム化後に少なくとも1軸延伸処理を施し、好ましくは縦・横方向に2軸延伸することによって、フィルム内部に多数の微細空洞を形成せしめ、見掛け比重を0.8~1.3にしたものは、基材フィルムとしてきわめて好適なものとなる。もちろん、白色ポリエステルフィルムであり、且つ、空洞含有ポリエステルフィルムであることが特に好ましい。
【0019】
即ちその際に使用されるポリエステルに非相溶の熱可塑性樹脂は、ポリエステルフィルム内に微細な空洞を形成して柔軟性、軽量性、描画性を高めるため、空洞発現剤として配合されるものであり、ポリエステルに非相溶性のものでさえあれば特に制限なく使用することができ、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン系樹脂、などが挙げられるが、これらの中でも特に好ましいのはポリスチレン系樹脂、あるいはポリメチルペンテンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂である。ポリエステルに配合されるこれら非相溶樹脂の量は、基材フィルム内に形成される目標空洞量によって異なってくるが、フィルム素材中に占める比率で3~40質量%の範囲が一般的であり、特に5~15質量%が好ましい。3質量%以上であれば、空洞の形成効果が顕著になり、空洞形成によって基材フィルムに与えられる柔軟性や軽量性あるいは描画性が向上し好ましい。一方、40質量%以下であると、フィルムの延伸性を損なうおそれがなく、耐熱性や強度、腰の強さが保持されて好ましい。なお、上記空洞発現剤は単独で使用し得るほか、2種類以上を併用してもかまわない。
【0020】
上記のような空洞含有フィルムは、見掛け比重が0.8~1.3、より好ましくは1.0~1.25、さらに好ましくは1.05~1.25の範囲のものが好ましく、見掛け比重が0.8以上であれば、フィルムの強度が保たれ、フィルムの表面に割れやシワが生じるおそれがなく好ましい。一方、見かけ比重が1.3以下であると、クッション性が保たれ、鉛筆等による描画性も良好であり好ましい。
【0021】
本発明において、基材フィルムとして好ましく使用される上記微細空洞含有ポリエステルフィルムは、単層フィルムであってもよく、用途によっては2層以上の複合フィルムであってももちろん差し支えない。
【0022】
基材フィルム中には、隠蔽性等を向上させるため必要に応じて無機質もしくは有機質の粒子を添加してもよく、添加可能な粒子としては、シリカ、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化チタンや、ベンゾグアナミン粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル粒子等の有機粒子が例示される。本発明に係わるプラスチックフィルムの製法は、特に限定されないが、最も一般的には2軸延伸法によって得られる配向フィルムが好ましく用い得る。即ち、溶融押し出し法によって得られた未延伸プラスチックシートを縦方向に2~10倍に延伸した後、さらに直角方向に2~10倍に延伸し、次いで熱処理をすることにより配向、結晶化を完了する方法である。
【0023】
基材フィルムの表面には、表面被覆層との密着性を高めるためにコロナ処理層や易接着層を設けても良い。易接着層を形成する方法としてはコーティング法が一般的であり、具体的にはグラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレーコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式などを採用することができる。塗布する時期としては、フィルムの延伸前に塗布する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法など、いずれの方法を採用してもよいが、コート層の密着性を高めるうえで最も好ましいのは、一軸方向に延伸された基材フィルムの少なくとも片面に前記塗布法によって塗布液を塗布した後、更に先の一軸延伸方法と直角の方向に延伸するインラインコート法である。
【0024】
易接着層に使用する樹脂は、特に限定されるわけではないが、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系組成物のいずれか1つもしくは2つ、ないしは3つの組成が含有されていることが好ましい。必要に応じて易接着層用の塗布組成物には架橋剤が含有されていてもよい。
【0025】
(表面被覆層)
本発明は、基材プラスチックフィルムの少なくとも片面に、表面被覆層が形成された表面処理プラスチックフィルムであって、前記表面被覆層は、少なくともバインダー組成物(A)と無機粒子(B)を含む表面被覆層形成組成物が硬化された層であり、表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中の無機粒子(B)の含有量が20質量%以上、40質量%以下であり、表面被覆層同士を擦り合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.65以下であり、表面被覆層の表面粗さ(Ra)が1.6μmを超え、4.0μm以下であり、最大突起高さ(Rz)が20μmを超え、40μm以下である表面処理プラスチックフィルムである。
【0026】
(バインダー組成物(A))
本発明において用いられるバインダー組成物(A)の例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、スチレン樹脂が挙げられる。またこれらの樹脂と他の樹脂との混合物も用いることができる。例えば他の樹脂としてはポリビニルアルコールなどが挙げられ、粒子の分散性や樹脂への密着性向上に効果が得られる。バインダー組成物組成物として表面被覆層の粒子の分散性や樹脂への密着性を考慮するとポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
バインダー組成物(A)として表面被覆層の表面硬度を高くするという観点から好ましくは、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン化合物が挙げられ、ウレタン樹脂及びメラミン化合物が特に好ましく、メラミン化合物が最も好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂は、直鎖上のものであってもよいが、より好ましくは、ジカルボン酸と、分岐構造を有するジオールとを構成成分とするポリエステル樹脂であることが好ましい。ここで言うジカルボン酸は、その主成分がテレフタル酸、イソフタル酸又は2,6-ナフタレンジカルボン酸である他アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が、挙げられる。また、分岐したグリコールとは枝分かれしたアルキル基を有するジオールであって、例えば、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、及び2,2-ジ-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。
【0029】
ポリエステル樹脂は、上記のより好ましい態様である分岐したグリコール成分は全グリコール成分の中に、好ましくは10モル%以上の割合で、さらに好ましくは20モル%以上の割合で含有されるものと言える。10モル%以下であると、結晶性が高くなり、塗布層の接着性が低下することがある。全グリコール成分の中のグリコール成分上限は、好ましくは80モル%以下であり、より好ましくは70質量%である。80モル%以上であると、副生成物であるオリゴマー濃度が増加し、塗布層の透明性に影響することがある。上記化合物以外のグリコール成分としてはエチレングリコールが最も好ましい。少量であれば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールまたは1,4-シクロヘキサンジメタノールなどを用いても良い。
【0030】
上記ポリエステル樹脂の構成成分としてのジカルボン酸としては、テレフタル酸又はイソフタル酸であるのが最も好ましい。上記ジカルボン酸の他に、共重合ポリエステル系樹脂に水分散性を付与させるため、5-スルホイソフタル酸等を1~10モル%の値囲で共重合させるのが好ましく、例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等を挙げることができる。ナフタレン骨格を有するジカルボン酸を含有するポリエステル樹脂を使用してもよいが、インキへの密着性の低下を抑制するために、その量的割合は全カルボン酸成分中で5モル%以下であることが好ましく、使用しなくともよい。
【0031】
アクリル樹脂の例としては、主鎖及び/又は側鎖に水酸基、メチロール基、エチロール基、ブチロール基、アルコキシメチル基、アルコキシエチル基、アルコキシブチル基、エポキシ基、イミノ基等を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
ウレタン樹脂の例としては、各種ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリ尿素樹脂およびそれらのプレポリマー等が例示できる。このようなウレタン樹脂の具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネートなどのジイソシアネート成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエチレングリコールなどのジオール成分との反応物、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、アミノ化合物、アミノスルホン酸塩、ポリヒドロキシカルボン酸、重亜硫酸などとの反応物などを挙げることができる。また、反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0033】
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0034】
バインダー組成物(A)の含有量としては、表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%に対し、40質量%以上75質量%以下が好ましい。より好ましくは45質量%以上70質量%以下である。40質量%以上であると、無機粒子が脱落するおそれがなく、静摩擦係数を低下させることができ好ましい。45質量%以上であると、より静摩擦係数を低下させることができトナーの転写を防ぐことができ好ましい。75質量%以下であると、無機粒子成分を被覆しすぎず、捺印の滲みや擦れが良化するため好ましい。70質量%以下であると、粒子成分の被覆をさらに抑制し、捺印の滲みや擦れが良化するため、さらに好ましい。
【0035】
バインダー組成物(A)としてのポリエステル樹脂の含有量は、全く使用されていなくても構わないが、バインダー組成物(A)の全固形分中の25質量%以上、100質量%以下である方が好ましい。さらに好ましくは50質量%以上、100質量%以下である。ポリエステル樹脂の含有量が25%以上であると印刷後のトナー定着性が良化する傾向にある。50質量%以上であれば、トナー定着性はより向上し、印刷後も長い間再印字することなく使用することができる。
【0036】
(無機粒子(B))
本発明において表面被覆層に用いられる無機粒子(B)としては、シリカ、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化チタンが例示されるが、これらには限定はされない。これらの中で特に好ましいのはシリカ、炭酸カルシウムである。これら無機粒子は平均粒子径が0.1μm以上、5.0μm未満の粒子(B1)と平均粒子径5.0μm以上、20.0μm以下の粒子(B2)を組み合わせることが好ましい。更に好ましくは、無機粒子B1は平均粒子径が1.0μm以上、4.0μm未満の粒子であり、無機粒子B2は平均粒子径が7.5μm以上18.0μm以下であり、例えば、無機粒子B2の平均粒子径が9.0μm以上、18.0μm以下である。
無機粒子B1の平均粒子径が0.1μm以上であれば、後述する無機粒子の比率が20質量%の時でも、樹脂中に埋もれすぎず、表面粗さを所望の範囲に調整することが可能である。また、5.0μm未満であれば、捺印滲みを抑制する、小さな凹凸を形成する粒径として適切な大きさであり、好ましい。無機粒子B2の平均粒子径が5.0μm以上であれば、表面最大突起を所望の範囲に調整することが可能であり、捺印擦れやトナー転写評価が向上することから好ましい。無機粒子B2の平均粒子径が7.5μm以上であれば、さらに表面最大突起高さが増加し、上記効果が向上するうえに、表面被覆層の表面の手触りをざらついた状態にすることができ、さらに好ましい。また20μm以下であれば、表面被覆層からの脱落を防ぐことができ、かつ、印刷トナーの定着時、熱伝達が樹脂表面までしっかりできることから、好ましい。
【0037】
無機粒子B1とB2の質量比としては、B1:B2=60:40~10:90が好ましい。B1の比率が10以上であると、小さい凹凸が捺印インクをバインドし、捺印滲みの発生を抑制することができる。60以下であると、トナーを削る粒子が多くなりすぎず、トナー転写を良好なレベルで保つことができる。
B2の比率が40以上であれば、粒径の大きい粒子が対面のトナーとの接地面となり、トナーと粒子との接触面積が低下するため、トナー転写を良好なレベルで保つことができる。また、最大突起高さが高くなることで、後述する捺印擦り評価をした際に、インク面との接触を抑制でき、擦れが発生しなくなるため好ましい。90以下であると粒子の脱落によるフィルム表面および装置内の汚染を抑制することができ、好ましい。
一態様において、無機粒子B1とB2の質量比は、B1:B2=55:45~15:85であり、例えば、無機粒子B2の含有量がB1の含有量よりも多く、かつ、無機粒子B1とB2の質量比B1:B2=15:85以上であってもよい。
【0038】
無機粒子(B)は有機化合物や分子内に有機部を有するケイ素化合物により表面処理が施されていてもよい。特に非水溶性媒体を用いる場合は有機物による表面処理が施されている無機粒子(B)を用いることが好適である。
【0039】
無機粒子(B)は有機粒子と併用することもできる。有機粒子としてはベンゾグアナミン粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル粒子等が挙げられる。
【0040】
表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中の無機粒子(B)の含有量は20質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは21質量%以上、38質量%以下である。さらに好ましくは22質量%以上、36質量%以下である。20質量%以上であると、捺印インキを吸収する無機粒子の量が十分であり、捺印滲みや捺印擦れの評価が向上するため好ましい。
21質量%以上、22質量%以上とすると、より捺印性能が向上するため、好ましい。40質量%以下の場合、トナー層を削る、無機粒子の量が抑えられるため、トナー転写が発生しにくくなり好ましい。含有量を40質量%から、38質量%以下、36質量%以下であると、トナー転写の発生をより効果的に抑制でき好ましい。
【0041】
無機粒子(B)は、バインダー組成物(A)、必要に応じて添加される機能性組成物(C)、水系媒体を調整した塗剤中に直接投入しても良い。例えば、粗大な無機粒子を無くし、所望の分散粒子径を得るために無機粒子投入後には分散工程を経ることが好ましい。また、短時間で所望の分散粒子径を得るために無機粒子のマスターバッチを作成しておく事がより好ましい。無機粒子の分散には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、ディゾルバー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー等が挙げられる。分散後の粒子の平均粒子径としては、50%体積平均径(Dv50)が0.05以上であることが好ましい。Dv50が0.05μm以上であれば、Ra、Sが小さくなりすぎず、好ましい。
【0042】
表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物には、バインダー組成物(A)の他に、機能性組成物(C)を併用することができる。機能性組成物(C)の効果に関しては特に限定されないが、例えば、表面被覆層から粒子が脱落することを防ぐ効果や、印刷時のフィルムの重送を防ぐ効果、加工時の液安定性を向上する効果などが挙げられる。
【0043】
例えば、表面被覆層から粒子が脱落することを防ぐためには、粒子に局所的に負荷がかからなくするため、滑り性を付与することが挙げられる。このような機能を持つ組成物としてはワックスが挙げられる。本発明の表面被覆層中にはワックス成分を0~10.0質量%含有することが好ましい。ワックス成分を含有することで上記効果が得られることに追加し、静摩擦係数を低下させ、トナー転写の抑制にも効果がある。またワックス成分が10.0質量%以下であれば、粒子を被覆しすぎず、捺印の滲みや擦れに大きな影響を及ぼすことなく保つことができる。例えば、ワックス成分を0.5質量%以上10.0質量%以下で含有することができる。
ワックスとしては、各種エステルワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、加熱により軟化点を示すシリコーン類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等のような脂肪酸アミド類や、カルナウバ、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等のような植物系ワックス、ミツロウのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のような鉱物系・石油系ワックス、及びそれらの変性物などが挙げられる。
【0044】
例えば、印刷時のフィルムの重送を防ぐためには、フィルム同士の静電的密着をなくすため、表面被覆層に帯電防止性能を設けることが挙げられる。帯電防止性能を設ける方法としては、機能性組成物(C)として、一般的な塗布型の帯電防止剤を使用することが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、低分子型界面活性剤タイプの帯電防止剤、高分子型タイプの帯電防止剤等が挙げられる。低分子型界面活性剤タイプの帯電防止剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1~3級アミノ基等のカチオン性基を有するカチオン性帯電防止剤、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基等のアニオン性基を有するアニオン性帯電防止剤、アミノ酸帯電防止剤、アミノ硫酸エステル帯電防止剤等の両性帯電防止剤、アミノアルコール帯電防止剤、グリセリン帯電防止剤、ポリエチレングリコール帯電防止剤等のノニオン性帯電防止剤等が挙げられる。高分子型タイプの帯電防止剤としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルポリオレフィン、エチレンオキシド・エピクロルヒドリン系共重合体などの非イオン性の高分子型帯電防止剤、ポリスチレンスルホン酸などのアニオン性の高分子型帯電防止剤、四級アンモニウム塩基含有アクリレート重合体、四級アンモニウム塩基含有スチレン重合体、四級アンモニウム塩基含有ポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体などのカチオン性の高分子型帯電防止剤などが挙げられる。
【0045】
例えば加工時の液安定性を向上するためには、液中に分散している粒子の沈殿を防ぐ必要があり、機能性組成物(C)として粒子の分散剤を使用することが挙げられる。加工中の液安定性を向上することで、表面被覆層が安定に所望している表面形状、性能が得られるため、粒子の分散剤を使用することが好ましい。
【0046】
粒子の分散剤としては特に限定されないが、アクリル酸系の無機粒子分散剤が好ましい。アクリル酸系の無機粒子分散剤であれば、より液の安定性が向上し、所望している表面形状、性能が得られる。
【0047】
分散剤の含有量は、表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中、0.1質量%以上、1.5質量%以下が好ましい。より好ましくは0.3質量%以上、1.2質量%以下である。0.1質量%以上含まれていると液の安定性が向上し、好ましい。0.3質量%以上であれば、より液の安定性が向上することから、より好ましい。また1.5質量%以下であれば、印刷時のトナー定着の悪化がなく好ましい。1.2質量%以下であれば、上記性能に加え、捺印性能の悪化もなく好ましい。
【0048】
表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物に機能性組成物(C)は含有されていなくても構わないが、含有させる場合には、バインダー組成物(A)や無機粒子(B)の機能を妨げない程度に抑えることが好ましい。具体的な含有量としては、表面被覆層を形成する表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中、機能性組成物(C)の含有量は20質量%以下にすることが好ましい。この範囲内であれば、バインダー組成物(A)や無機粒子(B)の機能を妨げることがないので好ましい。
【0049】
バインダー組成物(A)および機能性組成物(C)は、水溶性、非水溶性または水系分散体のいずれの状態でもその効果を失わない限り用いることができるが、後述する無機粒子の分散性などを考慮すると塗剤全体を水系にする事が好ましいため水溶性または水系分散体の状態で用いることが好ましい。水系で使用する場合、溶媒としては水以外にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類および樹脂の反応性、溶解性を阻害しない範囲の有機溶剤を用いることができる。
【0050】
なお、機能性組成物(C)は、塗布液中に直接投入して含有させることもできるし、前記の無機粒子(B)のマスターバッチ中に混在させ、塗布液中に含有させることもできる。
【0051】
調整したバインダー組成物(A)、無機粒子(B)、機能性組成物(C)を含む塗剤は前述のコーティング方法により基材フィルム上に塗工する事ができ、特に限定されるものではない。
【0052】
塗布後の乾燥・硬化温度は、100℃以上200℃未満が好ましい。100℃以上では、乾燥・硬化が不十分となることを防止でき、またバインダー組成物(A)の硬化不足によるブロッキングを防止することができるため、100℃以上が好ましい。また、200℃未満では基材フィルムが熱により収縮や変形を起こしにくく、平面性を保ったまま乾燥することができるため200℃未満が好ましい。乾燥・硬化時間は1秒以上180秒未満が好ましい。1秒以上では、乾燥が不十分となることを防止でき、またバインダー組成物(A)の硬化不足によるブロッキングを防止することができるため、1秒以上が好ましい。生産性の面から180秒未満ではコストを抑えることができるため、180秒未満が好ましい。
【0053】
乾燥・硬化後の表面被覆層の厚さは、5~35μmが好ましい。5μm以上では捺印後のインキを吸収する容積を確保することができるため5μm以上が好ましい。35μm以下では、表面被覆層の強度を保つことができ粉落ちを防止できるため、35μm以下が好ましい。
【0054】
本発明の表面処理プラスチックフィルムは、表面被覆層同士を擦り合わせた際の静摩擦係数(μs)が、0.65以下であり、0.60以下がさらに好ましい。この範囲内であれば作業時や運搬時に動き出す際の摩擦が低減され、トナー転写の発生を抑制し、好ましい。摩擦係数の性質上、一般的には動摩擦係数は静摩擦係数よりも低くなる。この性質から静摩擦係数が上記範囲を下回ることで、動摩擦係数も上記範囲を下回り、作業時や運搬時の動いている間のトナー転写はほとんど発生しない。
静摩擦係数(μs)は、0.1以上であることが好ましく、例えば、0.2以上である。この範囲内であれば、トナー転写の発生を抑制でき、かつフィルムロールとして加工する際に巻きズレなどの不具合が発生しにくくなるため好ましい。
【0055】
表面被覆層の表面粗さ(Ra)は1.6μmを超え、4.0μm以下である。さらに好ましくは2.0μm以上、3.6μm以下である。1.6μmを超えることで、無機粒子(B)比率が本発明の範囲内、例えば、20質量%や25質量%と比較的少ない含有量でも、表面上の小さな凹凸が形成され、捺印滲みが良好な状態を保つことができる。2.0μm以上であれば、捺印滲みが非常に良好な状態となり、さらに好ましい。4.0μm以下であれば、捺印インキの転写性が悪化することなく好ましい。3.6μm以下であれば、捺印インキの転写性がより改善され、識読性が向上するため、さらに好ましい。
また、本発明は、このような表面粗さを有することで、手触りにより別種のプラスチックカードとの識別性に寄与できる。
【0056】
表面被覆層の最大突起高さ(Rz)は20μmを超え、40μm以下である。一態様において、表面被覆層の最大突起高さ(Rz)は21μm以上38μm以下、例えば、23μm以上37μm以下である。上記範囲内であれば捺印カスレが向上し、トナー転写の発生を抑制でき、トナー定着も向上する。また、本発明は、このような最大突起高さを有することで、手触りにより別種のプラスチックカードとの識別性に寄与できる。
【0057】
本発明の表面粗さ(Ra)、最大突起高さ(Rz)とは、いずれもJIS B0601に準拠して測定された値を意味する。μsはバインダー組成物と無機粒子の比率、バインダー組成物の比率、ワックスの添加比率などにより制御することができる。Ra、Rzはいずれも用いる無機粒子の種類、平均粒子径、含有量、バインダー組成物の種類などにより制御することができる。
【0058】
このように、本願発明は、表面被覆層形成組成物の全固形分100質量%中の無機粒子(B)の含有量が20質量%以上、40質量%以下であり、表面被覆層同士を擦り合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.65以下であり、前記表面被覆層の表面粗さ(Ra)が1.6μmを超え、4.0μm以下であり、最大突起高さ(Rz)が20μmを超え、40μm以下であることで、上述した優れたトナー定着性、トナー転写の抑制、捺印用途での滲み防止などの効果を奏することができる。
さらに、本願発明は、このような特徴を有することで、手触りにより別種のプラスチックカードと識別も可能となる。例えば、高齢者など視覚の衰えを有する使用者であっても、手触りにより、本発明の表面処理プラスチックフィルムを適切に識別でき得る。
一方で、本願発明は、上述の通り、作業時や運搬時に動き出す際の摩擦についても低減できるため、トナー転写の発生を抑制できる。
このように、本願発明は、トナー定着性と、手触りによる識別性と、摩擦の低減によるトナー転写の抑制とを、バランスよく備えることができる。
【0059】
本発明の表面処理プラスチックフィルムは、例えば、保険証、資格証明書、免許証、学生証、診察券、名刺等のカード類、業務用等のラベル用途、配送伝票、プリンター用記録紙等に適用できる。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず、本発明において用いた評価方法、測定方法について説明する。
【0061】
(1)静摩擦係数、動摩擦係数(μs、μd)
JIS K7125:1999「プラスチックフィルムおよびシート摩擦係数試験方法」に準拠し、テンシロン(エー・アンド・デイ社製、RTG-1210)を用い、同一のフィルム試験片2枚を用意し、各々の表面被覆層同士を擦り合せるようにして荷重4.4kgにて測定を行った。
【0062】
(2)表面粗さ(Ra)、最大突起高さ(Rz)
Ra、Rzの測定は、ISO4287:1997に準じた計算式を用い、それぞれ算術平均粗さ、最大突起高さを測定した。測定にはレーザー顕微鏡VK-X100(キーエンス社製)を用いて250μm×250μm四方内での算術平均粗さ、または最大高さを1点とし、ランダムで4点測定し、その平均値を表面粗さ、または最大突起高さの値とした(単位:μm)。
【0063】
(3)分散粒子径
分散粒子径としては体積50%平均径(Dv50)をレーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-7500nano(株式会社島津製作所製)により測定を行った。マスターバッチを吸光度が約0.2になるようにイオン交換水で希釈し、高濃度測定ユニットを用いて測定を行った。また屈折率は使用する無機粒子の中で最も質量%が多い種類の屈折率を装置内臓のデータベースより引用し、粒子径の計算を行った。
【0064】
(4)膜厚
基材フィルムの厚み測定は株式会社小野測器社製の接触式膜厚計により、10箇所測定し、その算術平均値を膜厚とした。また表面被覆層の厚みは、塗工・乾燥後の表面処理プラスチックフィルムを接触式膜厚計により10箇所測定し算術平均値を求め、予め測定した基材フィルムの厚みとの差分値を用いた。
【0065】
(5)トナー転写性(トナー転写A法)
電子写真方式のプリンター(富士ゼロックス社製:495JContinuous Feed)を使用し、表面被覆層に印字を行った後、トナー転写A法にて評価を実施した。
トナー転写A法は、印字を行ったプラスチックフィルム2枚を9cm×5cmにカットし、印字面同士を重ね合わせ両端を指でつまみ、上下に5往復重ね合わせたまま撓ませ、トナーの対面への転写具合を目視により判定した。
またトナー転写B法は、下記に判定基準を示す。
◎:全く転写していない
○:点状に僅かに転写している
△:転写しているが、転写された文字は識読不可
×:転写しており、転写された文字の識読が可能
【0066】
(6)トナー転写性(トナー転写B法)
電子写真方式のプリンター(富士ゼロックス社製:495JContinuous Feed)を使用し、表面被覆層に印字を行った後、トナー転写B法にて評価を実施した。
トナー転写B法は、JIS K7125:1999「プラスチックフィルムおよびシート摩擦係数試験方法」に準拠した、摩擦係数試験方法を用いた、トナー転写評価方法となっている。テンシロン(エー・アンド・デイ社製、RTG-1210)を用い、同一のフィルム試験片2枚を用意し、片方のフィルム試験片にのみ、上記プリンターにて印字を行い、印字されたフィルム試験片が上側となるように、印字済表面被覆層と非印字表面被覆層を重ね合わせ、荷重4.4kgにて測定を行った。トナーの非印字表面被覆層面への転写具合を目視により判定した。目視評価をするために、測定前に、上側のフィルムが静止している位置に印をつけ、その位置を滑り出し位置と表現している。
下記に判定基準を示す。
◎:全く転写していない
○:滑り出し位置のみ転写しており、点状に僅かに転写している。それ以外の位置からは転写は発生していない。
△:滑り出し位置のみ転写しており、線状に僅かに転写している。それ以外の位置からは転写は発生していない。
×:滑り出し位置、それ以外の部分にも線状に僅かに転写が発生している。
【0067】
(7)捺印滲み
表面被覆層上に、シャチハタXstanper ネーム9(顔料系インキ:XLR-9N)を用いて、捺印し、5分間静置し、文字の滲み具合を観察し、下記の基準で判断した。
○:滲みが全く発生しない
△:滲みは発生するが、文字が識読できる
×:文字の識読が困難である
【0068】
(8)捺印擦れ
表面被覆層上に、シャチハタXstanper ネーム9(顔料系インキ:XLR-9N)を用いて、捺印し、30秒間静置した。次いで、キムワイプにて捺印部を軽く擦り、文字の擦れ具合を観察し、下記の基準で判断した。
○:擦れが全く発生しない
△:擦れは発生するが、文字が識読できる
×:文字の識読が困難である
【0069】
(9)粉落ち性
粉落ち性の評価は、粉落ち性学振式摩擦試験器(山口科学産業社製)で荷重ヘッド部とフィルムの接触部に黒台紙(GAボード-FS、Y目、株式会社竹尾製)を用い、ヘッド部の荷重を200gf/25mm2(5mm×5mm)[0.0785MPa]とし、フィルムを3往復させて荷重ヘッド部と擦った後の黒台紙の白化度の状態を目視により判定した。
〇:黒台紙は全く白化していなかった
△:黒台紙に若干の白化がみられる
×:黒台紙に多く白化がみられる
【0070】
(10)手触り
目を閉じ、表面被覆層を人差し指にてこすり、手触りを下記官能評価により行った。評価基準としてはクリスパー(登録商標)K2323:東洋紡社製、空洞含有白色ポリエステルフィルム、両面易接着処理、見かけ密度1.1g/cm、Ra=0.3μm、Rz=7μm(両表面のRa,Rz,Sは実質的に同一)を用いた。
〇:ざらついた感触があり、クリスパー(登録商標)K2323との違いが判る。
△:若干ざらついた感触があり、クリスパー(登録商標)K2323との違いが判る。
×:クリスパー(登録商標)K2323との区別がつかない。
【0071】
(11)トナー定着性
電子写真方式の複写機(富士ゼロックス社製:C3376、厚紙2:170~256g/m設定)を用いてフィルムの表面被覆層面上にトナーを転写、定着させた。粘着テープ(ニチバン社製:セロテープ(登録商標)、25mm巾)の粘着層をトナー定着面に強く密着させた後、フィルム面に対し90°の角度でゆっくり剥離させて、フィルム上のトナーの残りを以下の基準に従い、目視により判定した。
○:フィルムの表面被覆層面上のトナー残りが90面積%以上、
△:フィルムの表面被覆層面上のトナー残りが70面積%以上90面積%未満
×:フィルムの表面被覆層面上のトナー残りが70面積%未満
【0072】
(使用原料)
バインダー組成物(A)
A-1:ポリエステル樹脂(バイロナール(登録商標)MD1200、東洋紡社製、固形分34質量%)
A-2:メラミン樹脂(アミディア(登録商標)M-3、DIC社製、固形分80質量%)
A-3:ウレタン樹脂(エラストロン(登録商標)H-3DF、第一工業製薬社製、固形分27質量%)
【0073】
無機粒子(B)
・無機粒子B1
B-1:炭酸カルシウム(カルライト(登録商標)KT、白石カルシウム社製、平均粒子径2.3μm、固形分100質量%)
B-2:炭酸カルシウム(カルライト(登録商標)SA、白石カルシウム社製、平均粒子径3.3μm、固形分100質量%)
B-3:炭酸カルシウム(ソフトン2200、白石カルシウム社製、平均粒子径1.5μm、固形分100質量%)
B-4:炭酸カルシウム(Brilliant(登録商標)-15、白石カルシウム社製、平均粒子径0.15μm、固形分100質量%)
・無機粒子B2
B-5:シリカ(サイリシア470、富士シリシア化学社製、平均粒子径14.0μm、固形分100質量%)
B-6:シリカ(サイリシア450、富士シリシア化学社製、平均粒子径8.0μm、固形分100質量%)
B-7:シリカ(サイリシア440、富士シリシア化学社製、平均粒子径6.2μm、固形分100質量%)
【0074】
機能性組成物(C)
C-1:液状ワックス(ハイテックE-9015、東邦化学工業社製、固形分40質量%)
C-2:粒子状ワックス(ケミパール(登録商標)W310、三井化学社製、固形分40質量%)
C-3:帯電防止剤(ELポリマーWS-52R、新中村化学工業社製、固形分10質量%)
C-4:分散剤(ポイズ521、花王社製、固形分40質量%)
【0075】
(基材フィルム)
・クリスパー(登録商標)K2323:東洋紡社製、空洞含有白色ポリエステルフィルム、両面易接着処理、見かけ密度1.1g/cm、Ra=0.3μm、Rz=7μm、S=2μm(両表面のRa,Rz,Sは実質的に同一)
【0076】
(実施例1)
(塗布層形成組成物1の調整)
下記の組成の塗布層形成組成物1を調整した。
(塗布層形成組成物1)
水 28.8質量部
ポリエステル樹脂A-1 46.6質量部
炭酸カルシウムB-1 2.2質量部
炭酸カルシウムB-5 4.1質量部
液状ワックスC-1 3.1質量部
帯電防止剤C-3 14.8質量部
分散剤C-4 0.5質量部
【0077】
(基材フィルムへの塗工および乾燥)
基材フィルムとして厚さ50μmのポリエステル系合成紙クリスパーK2323を用い、K2323の易接着面に塗布層形成組成物1を乾燥後の塗布層厚みが10μmになるように塗布し、180℃で60秒乾燥し、実施例1に記載の表面処理プラスチックフィルムを得た。
【0078】
(実施例2~24、比較例1~3)
実施例2~24および比較例1~3は表1、表2、表3に示す表面被覆層形成組成物を変えた以外は実施例1と同様に塗工、乾燥・硬化を行い、表面処理プラスチックフィルムを得た。
表1、表2、表3において表面被覆層形成組成物のバインダー組成物A、無機粒子B、機能性組成物Cの組成比率を、全体の固形分比率を100とした時の各々の固形分の質量部にて表示している。実際の表面被覆層形成組成物は液全体の固形分比率が25%となるように水を加えて調合している。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表4,表5、表6に各実施例、比較例の評価結果を示す。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
(評価結果)
実施例1~23はバインダー組成物(A)および無機粒子(B)を用い、無機粒子(B)の含有率が20質量%以上、40質量%以下、静摩擦係数が0.65以下、Raが1.6を超え、4.0μm以下、Rzが20μmを超え、40μm以下の範囲を満足しており、トナー転写性、捺印性、粉落ち性、手触り、トナー定着性に優れていた。
一方、比較例1は無機粒子(B)を含有しておらず、RaやRzが上記範囲外であるため、捺印性において文字が識読できないほど滲みや擦れが発生した。また手触りを確認したところ、K2323との識別は不可であった。比較例2は無機粒子の含有率が40質量%以上であり、静摩擦係数が0.65以上であるため、トナー転写A法においては文字が識読できるレベルであり、トナー転写B法では特に転写量が多くなっていた。更に粉落ち性においても粒子の粉落ちが確認された。比較例3はRzが20.0μm未満であるため、捺印性の捺印擦れが特に悪化し、文字が識読できなかった。また手触りについてもK2323との識別は不可であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の表面プラスチックフィルムは、トナー定着性が良く、捺印も可能、かつトナー転写が発生しないため、各種ラベルやカード、配送伝票、プリンター用記録紙等のトナーを印字する用途に好適に用いることができる。