(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ホウ素含有炭素材料、樹脂組成物、及び導電膜
(51)【国際特許分類】
C01B 32/20 20170101AFI20241217BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20241217BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20241217BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241217BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241217BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C01B32/20
C01B32/182
C01B32/158
C08L101/00
C08K3/38
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2021075215
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2020078024
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 天志
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】宮房 有花
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/018496(WO,A1)
【文献】特開2002-220218(JP,A)
【文献】特開2017-084771(JP,A)
【文献】特許第4393712(JP,B2)
【文献】特開平10-255799(JP,A)
【文献】特開2012-121792(JP,A)
【文献】特開2006-240932(JP,A)
【文献】特開2000-281323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08L 1/00ー101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされているホウ素含有炭素材料であって、酸素雰囲気における熱分解温度が
800℃以上
900℃未満であり、炭素材料中のホウ素元素の含有量が0.005~15mol%であるホウ素含有炭素材料。
【請求項2】
炭素材料の表面のホウ素元素の含有量が0.01~10mol%である請求項1記載のホウ素含有炭素材料。
【請求項3】
黒鉛系炭素材料、グラフェン系炭素材料、及びカーボンナノチューブ系炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項1又は2記載のホウ素含有炭素材料。
【請求項4】
炭素材料の表面のホウ素元素の含有量が0.01~1mol%である請求項1~3いずれか記載のホウ素含有炭素材料。
【請求項5】
請求項1~
4いずれか記載の炭素材料と樹脂成分とを含有する樹脂組成物。
【請求項6】
さらに導電助剤を含む請求項
5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
導電助剤の細孔容積が0.1~5cm
3/gである請求項
6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項
5~
7いずれかに記載の樹脂組成物から形成されてなる導電膜。
【請求項9】
ホウ素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされており、酸素雰囲気における熱分解温度が800℃以上900℃未満であり、炭素材料中のホウ素元素の含有量が0.005~15mol%であるホウ素含有炭素材料の製造方法であって、薄片化黒鉛又は球状化黒鉛と、ホウ素を含む化合物とを混合して混合物を得る工程、及び、前記混合物を1800℃~3000℃で熱処理する工程を含む、ホウ素含有炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有炭素材料、樹脂組成物、及び導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの発達は目覚ましいものがあり、各種電子機器で使用される導電性材料についても製品の小型・軽量化、低コスト化、様々な使用環境下での高寿命化が求められるようになってきている。例えば、電子機器の基盤配線や電子機器を接続する配線を製造する場合、導電性が良好な導電性組成物が必要となるが、銀や銅等の金属フィラーを用いる導電性組成物が一般的であり、コストや耐久性等の点で大きな課題が今なお解決できていない。一方、金属を用いない導電性のカーボン材料を用いた導電性組成物も様々な検討がなされているが、導電性が不十分なため、帯電防止用途等の半導電性用途での使用に限られてきた。
【0003】
導電性のカーボン材料としては、グラファイトやカーボンナノチューブ等の高導電性カーボンも検討されてきた。これら高導電性カーボンの体積抵抗率は、10-2Ω・cm程度の導電性を有しており、従来に比べ導電性の課題を改善できることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、材料自身の体積抵抗率が金属フィラーに比べると桁違いに高く、導電性カーボン単独で導電用途に十分な特性を発現できているとは言い難い。
【0004】
一方で、グラファイト等の炭素材料はその熱安定性により高い温度での使用に適しており、宇宙航空や半導体製造用途等の材料として適している。しかしながら、炭素材料は高温の酸素雰囲気下において酸化しやすく、それによる酸化分解等の影響が懸念されている。この酸化による影響を抑制するため、これまでに炭素と炭化珪素を組み合わせ、耐酸化性を向上した複合体の開発が報告されている(特許文献2)。しかしながら、このような方法では混合した材料によって炭素の導電性が阻害されてしまうため、導電性と耐酸化性を両立することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-105208号公報
【文献】特開2000-351672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題点に鑑み、耐酸化性及び導電性に優れるホウ素含有炭素材料を実現することにより、優れた耐酸化性と導電性を有する材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、ホウ素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされているホウ素含有炭素材料であって、酸素雰囲気における熱分解温度が700℃以上1000℃未満であり、炭素材料中のホウ素元素の含有量が0.005~15mol%であるホウ素含有炭素材料に関する。
【0008】
又、本発明は、炭素材料の表面のホウ素元素の含有量が0.01~10mol%である上記ホウ素含有炭素材料に関する。
【0009】
又、本発明は、黒鉛系炭素材料、グラフェン系炭素材料、及びカーボンナノチューブ系炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む上記ホウ素含有炭素材料に関する。
【0010】
又、本発明は、炭素材料の表面のホウ素元素の含有量が0.01~1mol%である上記ホウ素含有炭素材料に関する。
【0011】
又、本発明は、酸素雰囲気における熱分解温度が800℃以上900℃未満である上記ホウ素含有炭素材料に関する。
【0012】
又、本発明は、上記炭素材料と樹脂成分とを含有する樹脂組成物に関する。
【0013】
又、本発明は、さらに導電助剤を含む上記樹脂組成物に関する。
【0014】
又、本発明は、導電助剤の細孔容積が0.1~5cm3/gである上記樹脂組成物に関する。
【0015】
又、本発明は、上記樹脂組成物から形成されてなる導電膜に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性及び耐酸化性に優れるホウ素含有炭素材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、TG-DTAにおけるTG曲線及びDTA曲線と、熱分解温度の例を示す図である。
【0018】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「ホウ素含有炭素材料」を、単に炭素材料ということがある。
【0019】
<ホウ素含有炭素材料>
ホウ素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされているホウ素含有炭素材料とは、炭素原子が六角網状に共有結合した網平面を形成した炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、少なくともホウ素元素が炭素元素の一部を置換するようにドープされており、場合によって窒素元素や鱗元素等のヘテロ元素や、卑金属元素等が含まれる炭素材料である。
【0020】
ホウ素含有炭素材料中のホウ素元素の含有量(炭素材料全体におけるホウ素の含有量)は、0.005~15mol%であり、好ましくは0.01~10mol%であり、さらに好ましくは0.08~5mol%である。ホウ素の含有量が0.005mol%未満だと、ホウ素のドープ効果が得られずに導電性は改善せず、ホウ素の含有量が15mol%以上だと、過剰なホウ素により電子の移動を阻害してしまい、導電性の低下が起こってしまうため、0.005~15mol%の範囲にあると、良好な導電性を発現できる。
また、ホウ素含有炭素材料がホウ素を含有することにより、溶媒やバインダー樹脂に対する濡れ性が高まり、分散液の分散性が向上する。また、ホウ素含有量が多いと炭素材料の硬さが増加する傾向が見られ、衝撃等の外力に対する耐久性が向上するため、分散安定性や膜強度が改善する。一方で、ホウ素含有量が多いと分散が難しくなる傾向にあるため、炭素材料の強度及び分散性の観点から、ホウ素含有量は好ましくは2mol%以下であり、より好ましくは1mol%以下である。
ホウ素含有炭素材料中のホウ素の含有量は、ICP発光分光分析、ICP質量分析等の方法により求めることができる。一例として、JIS-R7223に準拠した測定方法が挙げられる。また、ホウ素含有炭素材料中のホウ素の形態は特に限定されない。例えば、炭素骨格内の炭素元素の位置にホウ素元素が置換されている置換型ホウ素元素(BC3型)、炭化ホウ素型及びホウ素クラスター型ホウ素元素(B4C型、Bc型)、完全又は部分的に酸化された状態の酸化ホウ素型ホウ素元素(BC2O型、BCO2型、B2O3型)等が挙げられる。
【0021】
ホウ素含有炭素材料は、炭素材料の表面のホウ素元素の含有量が0.01~10mol%atm%が好ましく、0.01~1mol%がより好ましく、0.05~0.6mol%がさらに好ましい。ホウ素元素の割合が0.01~10mol%にあることで導電性と耐酸化性に優れた炭素材料を得ることができる。炭素材料の表面のホウ素元素の含有量は、X線光電子分光法(XPS)等の方法によって測定できる。
【0022】
また、ホウ素含有炭素材料は、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、ホウ素含有炭素材料の表面の置換型ホウ素元素(BC3型)の割合が0.01~6mol%が好ましく、0.01~1mol%がより好ましく、0.01~0.4mol%がさらに好ましい。置換型ホウ素元素(BC3型)はキャリア密度を向上させる効果があるため、導電性に優れた炭素材料を得ることができる。炭素材料の表面の置換型ホウ素元素の割合は、XPSによって測定した炭素材料表面の全元素のスペクトル面積に対する全ホウ素元素のスペクトル面積の割合Bとし、XPSのB1sスペクトルより求めた、炭素材料表面の全ホウ素元素のスペクトル面積に対する置換型ホウ素元素のピーク面積の割合をBRとしたとき、B×BRで表される。
【0023】
XPS測定で得られるホウ素のB1sスペクトルは、ホウ素元素のB1s電子の結合エネルギー範囲(185~197eV付近)に現れ、大別すると4つの成分からなることが知られている。各成分の結合エネルギーの値(ピークトップ)は、ホウ素クラスターが186~187eV、炭化ホウ素が187~188eV、六角網面を基本骨格とした炭素元素と置換するようにドープされているホウ素(BC3)が188~189.3eV、各種酸化ホウ素であるBC2Oが189.5~190.5eV、BCO2が191.5~192eV、B2O3が192.5~193eVに現れる。これらのピークが重なっている場合には、各成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することにより、フィッティングを行ってピークを分離することにより割合を求めることができる。従って、B1sのピーク分離を行い、ホウ素ドープ炭素材料の表面のホウ素の状態を分析することができる。
【0024】
ホウ素含有炭素材料の導電性は下記式で表される。
σ=μ×n×e (式1)
μ:移動度、n:キャリア密度、e:電気素量(定数)
上記(式1)より導電性を向上させるためには移動度及び/又はキャリア密度の向上が必要となる。炭素材料へホウ素をドープすることにより、キャリア密度が向上する。一方、炭素材料へのホウ素ドープは炭素の結晶構造や電子状態等に大きく影響を与えるため、ドープされた量やドープされた場所等のドープ状態によっては、炭素の結晶構造の乱れを誘発し、炭素の耐酸化性や移動度を低下させる要因となってしまうこともある。そのため、ホウ素元素のドープと高い耐酸化性を保つことにより、キャリア密度を増加させながら移動度の低下を抑えることができ、高い導電性を発現できたものと考えられる。
【0025】
ホウ素含有炭素材料は特に限定されないが、黒鉛系炭素材料、カーボンナノチューブ系炭素材料、グラフェン系炭素材料、カーボンブラック系炭素材料等が挙げられる。ホウ素含有炭素材料の耐酸化性の観点から、黒鉛系炭素材料及びカーボンナノチューブ系炭素材料、グラフェン系炭素材料が好ましい。
【0026】
ホウ素含有炭素材料の酸素を含む雰囲気下における熱分解温度は、700℃以上1000℃未満であり、800℃以上900℃未満が好ましい。1000℃以上であると置換ホウ素以外の不純物の寄与が大きくなるために導電性が低下し、700℃未満であると炭素材料の結晶性が低いために導電性や耐久性が低下してしまう。また、熱分解温度が800℃以上900℃未満であると、炭素材料の硬さが増加する傾向が見られ、衝撃等の外力に対する耐久性が向上するため、分散安定性や膜強度が改善する。
【0027】
尚、本発明の熱分解温度は、TG-DTA(ThermoGravimetry-Differential Thermal Analysis)測定により、求めることができる。具体的には、空気フローの条件下において、TG-DTA測定を行うことにより、TG曲線とDTA曲線が得られる。得られたDTA曲線における、最も大きな発熱ピークの立ち上がり(
図1中のA)と、最も大きな発熱ピークトップ(
図1中のB)を読み取り、それぞれに対応するTG曲線の点(
図1中のA’、B’)における傾きから外挿した交点(
図1中のC)を熱分解温度として求めた。
【0028】
本発明におけるホウ素含有炭素材料の平均粒子径の大きさは0.01~1000μmが好ましく、0.1~200μmがさらに好ましい。
平均粒子径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
粒子の厚みは50nmより大きい方が好ましい。更に好ましくは100nmより大きい方が好ましい。更に好ましくは250nm以上である。本発明におけるホウ素含有炭素材料は高結晶性で、粒子が大きい方が電子伝導性には有利となるため好ましい。ホウ素含有炭素材料の粒子の厚みは、例えば電子顕微鏡等において、無作為に抽出した粒子の厚みの平均値から算出できる。
【0029】
<製造方法>
本発明のホウ素含有炭素材料の製造方法としては特に限定されないが、炭素系原料と、ホウ素を含む化合物とを混合する工程と、前記混合物を1000℃以上の高温で熱処理する工程を含む方法が好ましい。
本発明のホウ素含有炭素材料の製造方法として好ましくは、あらかじめ炭化された炭素源に対してホウ素をドープする方法である。ここでいう「炭化」とは、「結晶化」又は「黒鉛化」と同様の事象を表す。
例えば、炭化されていない炭素源とホウ素源を用いて、炭化しながらホウ素をドープしてホウ素含有炭素材料を得る方法や、事前に仮焼成処理を行った炭素源を用いる方法では、結晶化又は黒鉛化が不十分な場合がある。このため、炭化しながらホウ素をドープする方法よりも、あらかじめ炭化された炭素源に対してホウ素をドープするような、炭化の後にホウ素ドープ反応を行う方法を用いる方が、炭素粒子の表面と内部のホウ素の分布状態が好ましい炭素材料を製造することができるため好ましい。すなわち、優れた耐酸化性、導電性、分散性、耐久性の両立を可能とする本発明のホウ素含有炭素材料を得るためには、炭素源の選択、及び、ホウ素ドープ反応が起こる際の炭素源とホウ素源の混合状態等も重要である。
【0030】
ホウ素含有炭素材料を製造するための炭素系原料とホウ素を含む化合物の原料組成比は、特に限定されるものではないが、炭素系原料100質量部に対してホウ素を含む化合物の割合が好ましくは0.01~300質量部であり、さらに好ましくは0.1~100質量部である。
【0031】
前記混合物の作製方法としては、炭素系原料と、ホウ素を含む化合物を少なくとも含んでいればよく、混合法としては乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0032】
乾式混合装置としては、例えば、2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
【0033】
又、乾式混合装置を使用する際、2種以上の原料を粉体のまま直接混合してもよいが、より均一な混合物を作成するために、前もって1種以上の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、混合する方法を用いてもよい。更に処理効率を上げるために、加温してもよい。
【0034】
湿式混合装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類、エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類、レッドデビル社製ペイントコンディショナー、ボールミル、シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等のサンドミル類、アトライター、若しくはコボールミル等のメディア型分散機、 ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等の湿式ジェットミル類、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機類、又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい場合がある。
【0035】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
又、原料が均一に溶解した系でない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な分散剤を一緒に添加し、分散、混合してもよい。
【0037】
分散剤としては、本発明において使用する分散剤は、各原料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。凝集を緩和させる効果があれば特に限定されることはなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、樹脂型分散剤、界面活性剤、顔料誘導体等の分散剤を用いることができる。
【0038】
樹脂型分散剤としては、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ホルマリン縮合物、シリコン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの樹脂型分散剤は2種類以上を併用してもよい。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等が好ましい。
【0039】
前記混合物を熱処理する方法においては、原料となる炭素系原料やホウ素を含む化合物の種類や量によって異なるが、加熱温度は1000~3200℃が好ましく、1800~3000℃がより好ましい。
【0040】
加熱時間は特に限定されないが、通常は30分から10時間であることが好ましい。
【0041】
熱処理工程における雰囲気に関しては、原料の酸化を防ぐため、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気が好ましい。
【0042】
また、熱処理工程に関しては、一定の雰囲気及び温度下において1段階で処理を行う方
法だけでなく、雰囲気や温度下を都度変更し多段階で行ってもよい。
【0043】
<炭素系原料>
本発明におけるホウ素含有炭素材料を製造するための、炭素系原料としては無機炭素系原料が好ましい。具体的な無機炭素系原料としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維、木炭等が挙げられる。上記炭素系原料の中でも、種類やメーカーによって、炭素六角網面の大きさや積層構造は様々で、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性等の様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0044】
市販の炭素系原料としては、例えば、市販の黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、CGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50、PAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150等、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50等、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、RA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1等、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。
市販のカーボンブラックとしては、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等、
三菱化学社製のファーネスブラック#2350、#2600、#3050B、#3030B、#3230B、及び#3400B等、デンカ社製のデンカブラックHS-100、FX-35等が挙げられる。
市販のカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製VGCF-H、VGCF-X等、
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ、NTP社製NTP3003、NTP3021、NTP3121、NTP8012、NTP8022、NTP9012、NTP9112等、OCSiAl社製TUBALL等が挙げられる。
市販のグラフェン系炭素としては、XGSciences社製グラフェンナノプレートレットxGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
中でも導電性やコストの観点から市販の炭素系原料としては黒鉛が好ましい。
【0045】
本発明におけるホウ素含有炭素材料を製造するための炭素系原料としては、無機炭素系原料だけでなく、熱処理後炭素粒子となる有機材料である有機炭素系原料も使用することができる。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、
フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、コークス、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体等が挙げられる。中でも黒鉛の原料としても使われるコークスやピッチの使用が好ましい。
【0046】
<ホウ素を含む化合物>
次に、ホウ素含有炭素材料の製造に用いられるホウ素を含む化合物について説明する。ホウ素を含む化合物は、特に限定されるものではないが、炭化ホウ素、酸化ホウ素、窒化ホウ素、金属ホウ化物、ホウ素オキソ酸、ボラン、ホウ素含有有機化合物等が挙げられる。
具体的には、炭化ホウ素では、B4C(B12C3)、B12C2(B6C)等、酸化ホウ素では、BC2O、BCO2、B2O2、B2O3 、B4O3、B4O5等、窒化ホウ素では、BN等、金属ホウ化物では、AlB2、CoB、FeB、MgB2、NiB、TiB2等、ホウ素オキソ酸では、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等、ボランでは、モノボラン、ジボラン、デカボラン等、ホウ素含有有機化合物では、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル等のホウ酸エステル類、トリエチルボラン、トリフェニルボラン等の置換ボラン類、フェニルボロン酸、フェニルボロン酸エステル等のボロン酸類等が挙げられる。
【0047】
<樹脂組成物>
本発明のホウ素含有炭素材料は、ホウ素含有炭素材料と樹脂成分とを含む樹脂組成物の形態で使用することができる。
樹脂成分としては、バインダー樹脂や樹脂型分散剤等が挙げられる。
バインダー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂等からなる群から選ばれる1種類以上を含むことができる。
ただし、これらの樹脂に限定されるわけではない。バインダー樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。バインダー樹脂としては、価格や密着性の観点から、フッ化物でない樹脂が好ましい。
【0048】
バインダー樹脂は、バインダー樹脂が基材に適用された後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂を用いることもできる。バインダー樹脂は、水系又は非水系溶剤に溶解する溶解性樹脂や分散型樹脂微粒子を用いることもできる。分散型樹脂微粒子は、樹脂微粒子が水系又は非水系の分散媒中で溶解せずに、微粒子の状態で存在するもので、その分散体は、一般的にエマルションとも呼ばれる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0049】
分散型樹脂微粒子の粒子構造は、いわゆるコアシェル粒子のような多層構造であってもよい。例えば、コア部、又はシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の観点から、10~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることが好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されると粒子の安定性が損なわれる場合があるため、1μmを超える粗大粒子は、多くとも5%以下であることが好ましい。
なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径を表し、動的光散乱法により以下のようにして測定できる。まず、樹脂微粒子の固形分に応じて、分散媒と同じ分散液で200~1000倍に希釈しておく。次に、該希釈分散液約5mlを測定装置(日機装社製ナノトラック)のセルに注入し、サンプルに応じた分散媒及び樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークによって測定することができる。
【0050】
分散型樹脂微粒子としては、架橋型樹脂微粒子を含むことが好ましい。架橋型樹脂微粒子とは、内部架橋構造(三次元架橋構造)を有する樹脂微粒子を示し、粒子内部で架橋していることが重要である。
また、樹脂組成物のスラリー安定性や塗工性等の観点から、水溶性樹脂と水性樹脂微粒子とを併用することが好ましい。
【0051】
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂とは、25℃の水99g中に樹脂1gを入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で完全に溶解可能な樹脂である。水溶性樹脂には、炭素材料の分散性を高める効果があるため、少ない樹脂量で安定な組成物が得られる。
水溶性樹脂は、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、アニオン性とカチオン性の性質を併せ持つ両性樹脂、またそれ以外のノニオン性樹脂に大別され、更にその樹脂が複数の単量体から構成されてもよい。また、水溶性樹脂は1種単独で用いてもよいし、2 種以上併用してもよい。
【0052】
アニオン性樹脂としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基及びそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有する樹脂が挙げられる。例示すると、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-スルホエチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の重合性単量体の単独重合物、又は他の重合性単量体との共重合物、カルボキシメチルセルロース、及びそれらのアルカリ中和物等が挙げられる。
【0053】
カチオン性樹脂としては、例えば、環状を含むアミノ基及びアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格や4級アンモニウム塩を含有する樹脂が挙げられる。例示すると、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等の重合性単量体の単独重合物、又は他の重合性単量体との共重合物及びそれらの酸中和物が挙げられる。
【0054】
両性樹脂としては、例えば、前記アニオン性骨格と前記カチオン性骨格を共に含有する樹脂が挙げられる。例示すると、スチレン-マレイン酸-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物等が挙げられる。
ノニオン性樹脂は、前記アニオン性、カチオン性及び両性樹脂以外の樹脂である。例示すると、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0055】
水溶性樹脂の分子量は特に限定されないが、好ましくは質量平均分子量が5,000~2,500,000である。質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリエチレンオキサイド換算分子量を示す。
【0056】
(水性樹脂微粒子)
水性樹脂微粒子は、樹脂が水中で溶解せずに微粒子の状態で存在する分散型樹脂微粒子で、水分散樹脂微粒子とも呼ばれる。その水分散体は一般的に水性エマルションとも呼ばれる。
水性樹脂微粒子としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ポリオレフィン系エマルション、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)、ジエン系エマルション(スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等)等が挙げられる。なお、(メタ)アクリルは、メタクリル又はアクリルを意味する。
水性樹脂微粒子を含む樹脂組成物は、塗膜形成された場合、粒子間及び基材との密着性に優れ、強度の高い塗膜を提供できる。更に、密着性に優れることから必要な水性樹脂微粒子は少量で済むため、結果、樹脂組成物の導電性が向上する。上述のような効果を得るため、水性樹脂微粒子としては、粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れる(メタ)アクリル系エマルションやウレタン系エマルションが好ましい。
【0057】
(メタ)アクリル系エマルションとは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を10質量部以上含有する乳化重合物であり、好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上含有されているとよい。アクリロイル基を有する単量体は反応性に優れるため、樹脂微粒子を比較的容易に作製することができる。したがって、水性樹脂微粒子として、(メタ)アクリル系エマルションは特に好ましい。
【0058】
<溶剤(分散媒)>
炭素材料と、バインダーとを均一に混合する場合、溶剤を適宜用いることができる。そのような溶剤としては、樹脂を溶解できるものや、樹脂微粒子エマルションを安定に分散できるものであれば特に限定されず、水や有機溶剤を挙げることができる。
【0059】
有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等の内から樹脂組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。
また、溶剤は水と有機溶剤、又は有機溶剤を2種以上用いてもよい。
【0060】
水溶性樹脂や水性樹脂微粒子を用いる場合、溶解性や分散性の観点から、溶剤として水を使用することが好ましく、必要に応じて、水と相溶する液状媒体を添加してもよい。水と相溶する液状媒体としては、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、ラジカル補足剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤を添加してもよい。
【0061】
また、本発明の樹脂組成物はホウ素含有炭素材料と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂と溶融混錬し形成してもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、ポリメチルメタアクリル、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール、ユリア、メラミン、不飽和ポリエステル、エポキシ、シリコン、ポリウレタン等が挙げられる。
これらは単独あるいはその組み合わせによって用いてもよい。複数で用いる場合、例えばポリエチレンテレフタレートとポリオレフィン樹脂の組み合わせにより海島構造を形成してもよい。海島構造を形成することで導電性を発現するのに必要な炭素材料の添加量を抑制できるため好ましい。
【0062】
<導電助剤>
本発明の樹脂組成物は、必要に応じてさらに、導電助剤(ただし、本発明のホウ素含有炭素材料を除く)を含有してもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等)、カーボンナノホーン、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボンのような炭素助剤、及び金属ナノ粒子(銀、銅等)のような金属助剤が挙げられる。上記導電助剤は、ホウ素を含むものが好ましく、ホウ素はドープしたものであってもよい。
導電助剤がホウ素を含む場合、導電助剤中のホウ素の含有量は、好ましくは0.01~2mol%であり、より好ましくは、0.1~1.1mol%である。導電助剤中のホウ素の含有量が、0.01~2mol%であると、溶媒やバインダー樹脂に対する濡れ性が向上し、導電助剤の硬さが増加する。これにより、樹脂組成物の分散性及び衝撃等の外力に対する耐久性が向上し、分散安定性や膜強度が改善する。
【0063】
比表面積及び粒子径の観点から、導電助剤として好ましくはカーボンブラックである。尚、炭素助剤として使用できるもの、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等)、カーボンナノホーン、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボンは上述で説明したものを使用することができる。
【0064】
導電助剤の細孔容積は、好ましくは0.1~5cm3/gであり、より好ましくは0.2~3cm3/gであり、さらに好ましくは0.5~1.8cm3/gである。細孔容積が0.1~5cm3/gの範囲にあると、樹脂組成物にした際の分散性や耐久性に優れるため好ましい。なお、本発明における細孔容積とは、試料単位質量当たりの全細孔容積を意味し、後述の方法により測定することができる。
【0065】
導電助剤は、少なくともメソ孔又はマクロ孔を有することが好ましい。細孔は径の大きさにより呼称が異なり、IUPACでは細孔径が2nm未満のミクロ孔、2~50nmのメソ孔、及び細孔径が50nmを超えるマクロ孔の3つのクラスに分類される。また、ピーク細孔径は、後述の方法で求めることができる。
【0066】
細孔径及び細孔容積は、窒素吸着法等によって求めることができる。窒素吸着法とは、吸着剤に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを解析し、比表面積や細孔容積、細孔径を算出する。
より詳細には、比表面積は、BET法により求められる。細孔容積及び細孔径は、細孔分布解析法として広く用いられているBJH法により求められる。BJH法により、2~200nmの細孔分布をプロットし、メソ孔又はマクロ孔の存在を確認することができる。
ピーク細孔径の算出方法としては、例えば、細孔径に対して対数微分細孔容積をプロットし、2~200nmの範囲に得られるピークから求めることができる。その他の測定法としては、水銀圧入法やバブルポイント法等も使用できる。
【0067】
樹脂組成物の総固形分に占めるホウ素含有炭素材料の割合は、好ましくは60~95質量%であり、より好ましくは75~90質量%である。炭素材料が60質量%以上であると、導電膜中の炭素材料間の接触が増え、良好な導電性が得られる。一方、炭素材料が95質量%以下であると、導電膜の密着性等の耐久性が低下しないため好ましい。
【0068】
樹脂組成物がさらに導電助剤を含む場合、樹脂組成物の総固形分に占める本発明のホウ素含有炭素材料の割合は、好ましくは40~80質量%であり、より好ましくは45~70質量%であり、さらに好ましくは50~60質量%である。
一方、樹脂組成物の総固形分に占める導電助剤の割合は、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、さらに好ましくは10~20質量%である。
【0069】
樹脂組成物の粘度は、樹脂組成物の塗工方法によって適宜調整できるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。上記粘度は、例えば、B型粘度計を用いて測定することができる。
導電助剤としてホウ素含有炭素助剤を含む分散体の粘度は、上述したように炭素助剤の表面状態が変化しているため、ホウ素を含まない炭素助剤として分散体を作製した場合に比べ、粘度が低下する傾向があり、分散体の取り扱いが容易になる効果が見られる。
【0070】
(分散機・混合機)
樹脂組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられる分散機、混合機を使用できる。
このような分散機、混合機としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;又は、その他ロールミル、ニーダー、超音波分散機が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
<導電膜>
本発明の導電膜は、樹脂組成物から形成されてなる膜であり、基材上に樹脂組成物を塗工し、必要に応じて乾燥することで形成することができる。
【0073】
(基材)
導電膜成形に使用する基材の形状は特に限定されず、用途にあったものを適宜選択することができる。基材は、好ましくはシート状であり、より好ましくは絶縁性の樹脂フィルムである。
基材の材質は特に限定されず、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、ポリ塩ビニル、ポリアミド、ナイロン、OPP(延伸ポリプロピレン)、CPP(未延伸ポリプロピレン)が挙げられる。
【0074】
また、形状としては、一般的には平板状のフィルムが用いられるが、表面を粗面化したものや、プライマー処理したもの、穴あき状のもの、及びメッシュ状の基材も使用できる。
【0075】
基材上に樹脂組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。このような塗工方法としては、例えば、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、静電塗装法が挙げられる。乾燥方法としては、例えば、放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱、遠赤外線加熱が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよく、導電膜を軟化させてプレスしやすくするため、圧延処理は加熱しながら行ってもよい。
導電膜の厚みは、一般的には0.1μm以上、1mm以下であり、好ましくは1μm以上、200μm以下である。
【0077】
(導電膜の体積抵抗率)
本発明の導電膜の体積抵抗率は、好ましくは5×10-3Ω・cm未満であり、より好ましくは3×10-3Ω・cm未満であり、さらに好ましくは2×10-3Ω・cm未満である。体積抵抗率が5×10-3Ω・cm未満であることで、非常に導電性の高い組成物として、電池の電極、集電体や電池、電子機器の配線等に利用することができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0079】
<ホウ素含有炭素材料の製造>
[実施例1]
薄片化黒鉛UP-20(日本黒鉛工業社製)、ホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比79/21(薄片化黒鉛/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)で混合複合化を行い、混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、2050℃で1時間熱処理を行い、炭素材料(1)を得た。
【0080】
[実施例2]
球状化黒鉛CGB-50(日本黒鉛工業社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)とエタノールを、質量比79/21/300(球状化黒鉛/ホウ酸/エタノール)となるようにそれぞれ秤量し、ディスパーで混合して大気下80℃のオーブンで乾燥させた後、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)で混合複合化を行い、混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、2050℃で1時間熱処理を行い、炭素材料(2)を得た。
【0081】
[実施例3~8]
表1に示す炭素、ホウ素を含む化合物を用いて、実施例1と同様の方法で炭素材料(3)~(8)を得た。
【0082】
[比較例1]
球状化黒鉛CGB-50(日本黒鉛社製)を、グラファイト製るつぼに充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、2050℃で1時間熱処理を行い、炭素材料(9)を得た。
【0083】
[比較例2]
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)NTP3003(NTP社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比99/1(MWCNT/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、1800℃で1時間熱処理を行い、炭素材料(10)を得た。
【0084】
[比較例3]
グラフェンナノプレートレット(GNP)xGnP-C-750(XG Sciences社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比99/1(GNP/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、2050℃で1時間熱処理を行い、炭素材料(11)を得た。
【0085】
<ホウ素含有炭素材料の評価>
作製したホウ素含有炭素材料について、下記の方法で物性を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
(炭素材料中のホウ素元素の含有量)
ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTROARCOS FHS12)を用いて、炭素材料中のホウ素元素の含有量を測定した。得られた値は、炭素材料の全体に含有するホウ素元素の量を示す。
【0087】
(炭素材料表面のホウ素元素の含有量及び置換型ホウ素元素の含有量)
X線光電子分光装置ThermoFisher scientific社製K-Alphaを用いて評価した。ホウ素B1sスペクトルピークから得られた全スペクトル面積から表面全ホウ素元素の割合(mol%)を算出した。また、前記ホウ素の全スペクトル面積に対する188~189.3eVのピーク面積の割合から表面置換型ホウ素元素の割合(mol%)を算出した。
【0088】
(熱分解温度)
熱分解温度は示差熱天秤Rigaku社製Thermo plus EV02 TG8121を用いて評価した。圧縮空気を200mL/min流し、40℃から1000℃まで10℃/minで温度を上昇した際の熱分解温度を値として使用した。熱分解温度の算出は、
図1を例に示すが、測定により得られたDTA曲線における、最も大きな発熱ピークの立ち上がり(
図1中のA)と、最も大きな発熱ピークトップ(
図1中のB)を読み取り、それぞれに対応するTG曲線の点(
図1中のA’、B’)における傾きから外挿した交点(
図1中のC)から求めた。
【0089】
(体積抵抗率)
体積抵抗率は三菱ケミカルアナリテック社製粉体抵抗測定システムMCP-PD51型を用いて評価した。低抵抗用粉体プロープを用いて四探針方式にて測定を行い、各サンプルに20kNの荷重を加えた際の体積抵抗率を値として使用した。
【0090】
【0091】
表1より、炭素材料中のホウ素含有量と熱分解温度を本発明の範囲内に制御することにより、非常に良好な導電性を発現できることが明らかとなった。
【0092】
<バインダー樹脂の製造>
[製造例1]ポリウレタン樹脂溶液
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、及び窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-2011」、Mn=2,011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。
次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ-n-ブチルアミン0.63部、2-プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し(ウレタンプレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基に対してアミノ基の合計当量は0.98である)、50℃で3時間反応させた後、続いて70℃2時間反応させた。次いで、トルエン126部、2-プロパノール54部で希釈し、重量平均分子量61,000、酸価10mgKOH/gであるポリウレタン樹脂の溶液を得た。
得られたポリウレタン樹脂の溶液を、トルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(質量比:1/1/1)で希釈して、固形分20質量%のポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0093】
[製造例2]ポリアミド樹脂溶液
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、及び温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸化合物としてプリポール1009(水添ダイマー酸、クローダジャパン株式会社製)を156.2部、5-ヒドロキシイソフタル酸を5.5部、ポリアミン化合物としてプリアミン1074(クローダジャパン株式会社製)を146.4部、イオン交換水を100部仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になった後、その温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、重量平均分子量24,000、酸価13.2mgKOH/g、水酸基価5.5mgKOH/g、ガラス転移温度-32℃のポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂を、トルエン/2-プロパノール(質量比:2/1)で希釈して、固形分20質量%のポリアミド樹脂溶液を得た。
【0094】
[製造例3]ポリエステル樹脂溶液
バイロン200(東洋紡社製、ポリエステル樹脂)をトルエン/メチルエチルケトン(質量比:1/1)で希釈して、固形分20質量%ポリエステル樹脂溶液を得た。
【0095】
なお、樹脂の評価は以下の通りに行った。
(重量平均分子量(Mw))
重量平均分子量の測定は、東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HPC-8020」を用いた。GPCは溶剤(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/min、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量の決定はポリスチレン換算で行った。
【0096】
(酸価(AV))
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、次式により酸価を求めた。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0097】
(水酸基価(OHV))
水酸基価は、水酸基含有樹脂1g中に含まれる水酸基の量を、水酸基をアセチル化させたときに水酸基と結合した酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)で表したものである。水酸基価は、JISK0070に準じて測定し、本発明においては、下記式に示す通り、酸価を考慮して求めた。
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、次式により水酸基価を求めた。
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b-a)×F×28.05}/S]+D
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0098】
(ガラス転移温度(Tg))
樹脂のガラス転移温度は、溶剤を乾燥除去した樹脂を用い、メトラー・トレド(株)製「DSC-1」を使用し、-80~150℃まで2℃/分で昇温して測定した。
【0099】
<ホウ素を含む導電助剤の製造>
[製造例4]CB(2)
EC-600JD(ケッチェンブラック、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)92部とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)8部とに、溶媒であるトルエン800部とエタノール100部とを加え、自転公転ミキサーで混合し、大気下80℃のオーブンで乾燥させて混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、1700℃で1時間熱処理を行い、CB(2)を得た。細孔容積の値を表2に示す。
CB(2)のホウ素含有量は0.73mol%であった。ホウ素含有量は、ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTROARCOS FHS12)を用いて、炭素材料中を測定した値である。また、熱分解温度は700℃未満であった。
【0100】
[製造例5]CB(3)
EC-600JDをEC-300J(ケッチェンブラック、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)に変更した以外は、製造例4と同様にしてCB(3)を得た。CB(3)のホウ素含有量は0.71mol%であった。また、熱分解温度は700℃未満であった。
【0101】
[製造例6]CB(4)
EC-600JDの添加量を80部、ホウ酸を20部にし、熱処理温度を2000℃に変更した以外は、製造例4と同様にしてCB(4)を得た。CB(4)のホウ素含有量は2.24mol%であった。また、熱分解温度は700℃未満であった。
【0102】
[製造例7]CNT(2)
EC-600JDを多層CNT K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical社製)に変更した以外は、製造例4と同様にしてCNT(2)を得た。CNT(2)のホウ素含有量は0.69mol%であった。また、熱分解温度は700℃未満であった。
【0103】
<樹脂組成物、導電膜の製造>
[実施例A1]
炭素材料(7)87部、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂溶液65部(樹脂固形分13部)、溶媒としてトルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(質量比:1/1/1)170部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、樹脂組成物(1)を得た。次に、この樹脂組成物(1)を、厚み100μmのPETフィルム基材上にドクターブレードを用いて塗布した後、オーブンの中で乾燥させた。その後、線圧300kg/cmの条件でロールプレスを行い、導電膜(1)を得た。
【0104】
[実施例A2~A4、比較例A1~A3]
表2に示す配合組成に変更した以外は実施例A1と同様の方法により、樹脂組成物(2)~(7)、導電膜(2)~(7)を得た。
【0105】
[実施例A5]
炭素材料(7)56部、導電助剤としてCB(1)14部、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂溶液150部(樹脂固形分30部)、溶媒としてトルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(質量比:1/1/1)を組成物中の固形分が30質量%となるようにミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、樹脂組成物(8)を得た。次に、この樹脂組成物(8)を、厚み100μmのPETフィルム基材上にドクターブレードを用いて塗布した後、オーブンの中で乾燥させて、導電膜(8)を得た。
【0106】
[実施例A6~A17、A19、A20、比較例A4~A6]
表2に示す配合組成に変更した以外は実施例A5と同様の方法により、樹脂組成物(9)~(20)、(22)~(26)、導電膜(9)~(20)、(22)~(26)を得た。
【0107】
[実施例A18]
炭素材料(1)56部、導電助剤としてCB(5)(アセチレンブラック HS-100、デンカ社製)19部、バインダー樹脂として水溶性樹脂CMC(ダイセルミライズ社製、カルボキシメチルセルロース#1240)を2質量%溶解した水溶液250部(樹脂固形分5部)、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行った。
次に、バインダー樹脂として水性樹脂微粒子(ポリアクリルエマルション W-168、トーヨーケム社製、固形分50質量%)を40部(樹脂固形分20部)追加してミキサーで混合し、樹脂組成物(21)を得た。
次に、この樹脂組成物(21)を、厚み100μmのPETフィルム基材上にドクターブレードを用いて塗布した後、オーブンの中で乾燥させて、導電膜(21)を得た。
【0108】
<樹脂組成物、導電膜の評価>
得られた樹脂組成物及び導電膜について以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0109】
[分散安定性評価]
分散安定性は、樹脂組成物を25℃にて7日間静置して保存した後の、液性状の変化から評価した。液性状の変化は、ヘラで撹拌した際の撹拌しやすさから判断した。
判定基準
○:液性状の変化がない(良好)
△:粘度上昇しているが、ゲル化はしていない(可)
×:ゲル化している(不良)
【0110】
[塗工性評価]
得られた導電膜を、ビデオマイクロスコープVHX-900(キーエンス社製)にて500倍で観察し、塗工ムラ及びピンホールについて、下記の基準で判定した。塗工ムラは、膜表面の濃淡により判断した。ピンホールは、膜中の塗布されていない欠陥の有無により判断した。
《塗工ムラ》
○:膜表面の濃淡が確認されない(良好)
△:膜表面の濃淡が2~3箇所あるが極めて微小領域である(可)
×:膜表面の濃淡が多数確認される、又は濃淡の縞の長さが5mm以上のものが1個以上確認される(不良)
《ピンホ-ル》
○:ピンホールが確認されない(良好)
△:ピンホールが2~3個あるが極めて微小である(可)
×:ピンホールが多数確認される、又は直径1mm以上のピンホールが1個以上確認される(不良)
【0111】
[膜の体積抵抗率]
導電膜の体積抵抗率は、JIS-K7194に準拠して、ロレスターGP(日東精工アナリテック社製)を用いて4端子法で測定した。
【0112】
[膜の耐久性]
導電膜の耐久性は、JIS K5600-5-4:1999に準拠して、硬度がHBの鉛筆を用いて引っかき硬度(鉛筆法)により評価した。
〇:塑性変形及び凝集破壊が起こらない(良好)
△:塑性変形又は凝集破壊が部分的に起こっている(可)
×:塑性変形及び凝集破壊が起こっている (不良)
【0113】
【0114】
表2の結果によれば、本発明のホウ素含有炭素材料を用いた樹脂組成物は、優れた分散安定性及び塗工性を有しており、該樹脂組成物から形成された導電膜は、高い導電性と耐久性とを両立した。
また、実施例A1~A4を比較することにより、炭素材料のホウ素含有量の違いが、樹脂組成物や導電膜の特性に大きな影響を及ぼすことが判明した。一方、導電助剤に着目すると、実施例A6、A13~A16の比較から、樹脂組成物中の導電助剤の組成比により、樹脂組成物の分散安定性、塗工性や導電膜の特性が異なることが判明した。また、実施例A7、A10、A11、A17の比較から、樹脂組成物中の導電助剤の細孔容積の違いによっても、樹脂組成物の分散安定性、塗工性や導電膜の特性が異なることが判明した。また、実施例A10、A12を比較することにより、導電助剤のホウ素含有量によっても、樹脂組成物の塗工性や導電膜の特性に影響を及ぼすことが判明した。
従って、これらの結果は、ホウ素含有炭素材料に起因する導電性以外の要因が関与していることを示唆する。現段階では詳細は不明だが、本発明の樹脂組成物は、ホウ素含有炭素材料自体が導電性に優れるだけでなく、分散性及び分散安定性が良好であり、さらには塗工性も良好なため、膜中で炭素材料が効率的に導電ネットワークを形成することにより、優れた導電性を発現していると推察される。また、炭素材料の均一なネットワークにより、導電膜の耐久性改善にも繋がったものと推察される。
また、本発明のホウ素含有炭素材料は、溶媒やバインダー樹脂に対する濡れ性が向上するだけでなく、炭素材料の硬さが硬くなる傾向にあり、分散性や塗工性まで影響を及ぼしていると考えられる。これにより、該ホウ素含有炭素材料を含む樹脂組成物は、分散性や塗工性が向上し、優れた導電性を発揮したと考察している。
【符号の説明】
【0115】
A :DTA曲線における最も大きな発熱ピークの立ち上がる点
A’ :DTA曲線における最も大きな発熱ピークの立ち上がりに対応するTG曲線の点
B :DTA曲線における最も大きな発熱ピークトップ
B’ :DTA曲線における最も大きな発熱ピークトップに対応するTG曲線の点
C :A’、B’における傾きから外挿した交点(熱分解温度)