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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】射出成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021082307
(22)【出願日】2021-05-14
(65)【公開番号】P2022175682
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】足立 智也
(72)【発明者】
【氏名】久津見 洋
(72)【発明者】
【氏名】小島 祥宜
(72)【発明者】
【氏名】森内 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】立花 幸子
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-110125(JP,A)
【文献】特開2000-052396(JP,A)
【文献】特開平10-244563(JP,A)
【文献】特開平11-010693(JP,A)
【文献】特開2021-049649(JP,A)
【文献】特許第7424191(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ、スクリュ、および、前記シリンダの前端に設けられ前記スクリュの前進に伴って溶融樹脂を吐出するノズルを備える射出装置と、
成形品キャビティ、および、前記成形品キャビティと前記ノズルに当接する部位との間の樹脂流路を備える金型と、
前記樹脂流路における流路圧力データを取得する流路圧力計測装置と、
前記スクリュが前記シリンダ内の溶融樹脂から受けるスクリュ圧力データを取得するスクリュ圧力計測装置と、
前記流路圧力データの特徴量および前記スクリュ圧力データの特徴量に基づいて、前記樹脂流路のうちのゲートの摩耗状態を表す値を出力する出力部と、
を備える、射出成形装置。
【請求項2】
前記流路圧力データの特徴量と、前記スクリュ圧力データの特徴量と、前記ゲートの摩耗状態を表す値とを含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する記憶部をさらに備え、
前記出力部は、前記学習済みモデルを用いて、前記流路圧力データの特徴量、前記スクリュ圧力データの特徴量を入力することにより、前記ゲートの摩耗状態を表す値を出力する、請求項1に記載の射出成形装置。
【請求項3】
前記訓練データセットに含まれる前記ゲートの摩耗状態を表す値は、前記ゲートの実摩耗量であり、
前記出力部は、前記ゲートの摩耗状態を表す値として前記ゲートの摩耗量を出力する、請求項2に記載の射出成形装置。
【請求項4】
式(1)により、前記流路圧力データの特徴量および前記スクリュ圧力データの特徴量を用いて、ゲート摩耗指標値を定義し、
前記ゲート摩耗指標値と、前記ゲートの実摩耗量とを含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する記憶部をさらに備え、
前記出力部は、
前記流路圧力データの特徴量および前記スクリュ圧力データの特徴量を用いて前記ゲート摩耗指標値を算出し、
前記学習済みモデルを用いて、算出された前記ゲート摩耗指標値を入力することにより、前記ゲートの摩耗量を出力する、請求項1に記載の射出成形装置。
y=b-a×x ・・・ (1)
y:ゲート摩耗指標値
x:スクリュ圧力データの特徴量
a:定数
b:流路圧力データの特徴量
【請求項5】
式(1)の定数aは、前記ゲートが摩耗していない状態において、yが一定値となるように決定される、請求項4に記載の射出成形装置。
【請求項6】
前記出力部は、式(1)を用いて、前記ゲートの摩耗状態を表す値としてゲート摩耗指標値を算出する、請求項1に記載の射出成形装置。
y=b-a×x ・・・ (1)
y:ゲート摩耗指標値
x:スクリュ圧力データの特徴量
a:定数
b:流路圧力データの特徴量
【請求項7】
式(1)の定数aは、前記ゲートが摩耗していない状態において、yが一定値となるように決定される、請求項6に記載の射出成形装置。
【請求項8】
前記ゲート摩耗指標値と前記ゲートの実摩耗量との関係性情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記出力部は、式(1)により出力された前記ゲート摩耗指標値と、前記記憶部に記憶される前記関係性情報とを用いて、前記ゲートの摩耗量を出力する、請求項6または7に記載の射出成形装置。
【請求項9】
前記金型における前記樹脂流路を流通する溶融樹脂の粘度を推定する粘度推定部をさらに備え、
前記出力部は、前記粘度推定部により推定された粘度を加味して、前記ゲートの摩耗状態を表す値を出力する、請求項1~8のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【請求項10】
前記射出装置を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記粘度推定部は、前記射出工程の開始時から前記射出工程における前記流路圧力データの圧力ピーク時までの時間を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項11】
前記射出装置を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記粘度推定部は、前記射出工程の開始時または前記保圧工程の開始時から前記保圧工程における前記成形品キャビティの充填完了時までの時間を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項12】
前記充填完了時は、前記保圧工程における前記流路圧力データの圧力の立ち上がり時である、請求項11に記載の射出成形装置。
【請求項13】
前記充填完了時は、前記保圧工程における前記流路圧力データの圧力変化が所定値より大きくなった時である、請求項12に記載の射出成形装置。
【請求項14】
前記粘度推定部は、前記スクリュ圧力データを、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項15】
前記射出装置を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記粘度推定部は、前記射出工程の開始時から前記射出工程における前記スクリュ圧力データの圧力ピーク時までの時間を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項14に記載の射出成形装置。
【請求項16】
前記ノズルを溶融樹脂が流通する際に前記ノズルが溶融樹脂から受けるノズル圧力データを取得するノズル圧力計測装置と、
前記射出装置を制御する制御装置と、
をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記制御装置は、さらに、連続した複数回の前記成形サイクルの前に、前記ノズルを前記金型から離間させた状態で前記ノズルから前記シリンダ内の溶融樹脂を吐出させるパージ工程を実行し、
前記粘度推定部は、前記パージ工程における前記ノズル圧力データと前記パージ工程における前記スクリュの移動速度データとの関係を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項17】
前記ノズルを溶融樹脂が流通する際に前記ノズルが溶融樹脂から受けるノズル圧力データを取得するノズル圧力計測装置と、
前記射出装置を制御する制御装置と、
をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記粘度推定部は、前記射出工程における前記ノズル圧力データと前記射出工程における前記スクリュの移動速度データとの関係を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項18】
前記射出装置を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前方位置に位置する前記スクリュを回転させることで前記シリンダの前端側に溶融樹脂を移動させ、溶融樹脂の前方への移動の反作用により前記スクリュを所定位置まで後退させることで、前記シリンダの前側に所定量の溶融樹脂を貯留させる計量工程と、
前記計量工程に続いて、前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記粘度推定部は、前記計量工程に要する時間を、前記粘度を表す成分の1つとして、前記粘度を推定する、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項19】
前記射出装置を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スクリュの速度制御により前記ノズルから前記金型に溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程に続いて、前記スクリュにかかる圧力制御により前記成形品キャビティ内の溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程と、
を含む成形サイクルを実行し、
前記出力部は、前記射出工程のうち前記保圧工程寄りの後期時間帯における前記流路圧力データの特徴量、および、前記射出工程のうち前記保圧工程寄りの後期時間帯における前記スクリュ圧力データの特徴量に基づいて、前記ゲートの摩耗状態を表す値を出力する、請求項1~8のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【請求項20】
前記出力部は、前記ゲートの摩耗状態を表す値に基づいて前記ゲートの部分のメンテナンスが必要な状態に達したと判定した場合に、前記ゲートの部分に関するメンテナンスアラートを教示する、請求項1~19のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、射出成形装置において、射出装置や金型にセンサを設置し、当該センサの検出データを用いて機械学習により成形品の品質を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-49929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形に用いられる金型は、成形品を成形する部位としての成形品キャビティと、成形品キャビティと射出装置のノズルに当接する部位との間の樹脂流路とを備える。樹脂流路には、スプール(スプルーとも称する)、ランナ、ゲートが含まれる。
【0005】
成形品を成形するための成形サイクルを複数回連続して実行すると、樹脂流路が摩耗する。特に、樹脂流路のうちゲートは、流路断面積が小さくなっているため、他の部位よりも摩耗しやすい。ゲートが摩耗することにより、成形品キャビティの圧力が上昇し、成形品の寸法精度に影響を及ぼすおそれがある。そこで、ゲートの摩耗量が大きくなると、金型におけるゲートの部分を交換する。
【0006】
成形サイクルの実行回数(ショット回数)が多いほど、ゲートの摩耗量が大きくなる。しかし、ゲートの摩耗量は、ゲートを流通する溶融樹脂の状態によって変化する。溶融樹脂の状態は、樹脂の種類や樹脂の水分量などによって変化する。そのため、ゲートの部分の交換のタイミングは、成形サイクルの実行回数のみで判断することができず、熟練者の知識や経験により判断することが必要であった。そこで、ゲートの部分の交換のタイミングを判断するために、熟練者の知識や経験によらず、ゲートの摩耗状態を把握することが求められている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、熟練者の知識や経験によらず、ゲートの摩耗状態を把握することができる射出成形装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
シリンダ、スクリュ、および、前記シリンダの前端に設けられ前記スクリュの前進に伴って溶融樹脂を吐出するノズルを備える射出装置と、
成形品キャビティ、および、前記成形品キャビティと前記ノズルに当接する部位との間の樹脂流路を備える金型と、
前記樹脂流路における流路圧力データを取得する流路圧力計測装置と、
前記スクリュが前記シリンダ内の溶融樹脂から受けるスクリュ圧力データを取得するスクリュ圧力計測装置と、
前記流路圧力データの特徴量および前記スクリュ圧力データの特徴量に基づいて、前記樹脂流路のうちのゲートの摩耗状態を表す値を出力する出力部と、
を備える、射出成形装置にある。
【発明の効果】
【0009】
流路圧力データは、金型の樹脂流路における圧力データであるため、ゲートの摩耗の影響を受けると共に、流通する溶融樹脂の状態の影響も受ける。一方、スクリュ圧力データは、金型の樹脂流路から遠いため、ゲートの摩耗の影響は小さいのに対して、シリンダ内における溶融樹脂の状態の影響は受ける。ここで、シリンダ内の溶融樹脂の状態と金型内の溶融樹脂の状態は、同様である。
【0010】
そして、出力部は、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いている。流路圧力データの特徴量は、ゲートの摩耗および溶融樹脂の状態の影響を受けた値であり、スクリュ圧力データの特徴量は、溶融樹脂の状態の影響を受けた値である。そして、流路圧力データの特徴量から、溶融樹脂の状態の影響分を取り除くことができれば、ゲートの摩耗の影響分を抽出することができる。
【0011】
そこで、出力部は、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて処理を行うことにより、ゲートの摩耗の影響分を抽出することができ、ゲートの摩耗状態を表す値を出力することができる。作業者は、ゲートの摩耗状態を表す値に基づいて、ゲートの摩耗状態を把握することができるため、熟練者の知識や経験によらず、ゲートの部分の交換のタイミングを適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】射出成形装置の機械構成を示す図である。
図2図1における金型の拡大断面図である。
図3】金型の空間部分(成形品キャビティおよび樹脂流路)のみを示す図であって、スプールの軸方向から見た図(図2の右から見た図)である。
図4】射出成形方法を示すフローチャートである。
図5】射出工程および保圧工程におけるスクリュ圧力データの時間変化を示すグラフである。実線がゲート摩耗無しの場合を示し、破線がゲート摩耗有りの場合を示す。
図6】射出工程および保圧工程における流路圧力データの時間変化を示すグラフである。実線がゲート摩耗無しの場合を示し、破線がゲート摩耗有りの場合を示す。
図7】第一実施形態の射出成形装置を示す機能ブロック図である。
図8】第一実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図9】第二実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図10】成形サイクルの回数(ショット回数)とゲート摩耗指標値との関係を示すグラフである。
図11】第三実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の出力部の処理を示すフローチャートである。
図12】第四実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の出力部の処理を示すフローチャートである。
図13】第五実施形態の射出成形装置を示す機能ブロック図である。
図14】第五実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図15】第六実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図16】第七実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図17】第八実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の処理を示す機能ブロック図である。
図18】第九実施形態の射出成形装置を構成するゲート摩耗算出用コンピュータ装置の出力部の処理を示すフローチャートである。
図19】射出工程および保圧工程におけるスクリュ圧力データの時間変化を示すグラフである。太線が樹脂粘度の高い場合を示し、細線が樹脂粘度の低い場合を示す。
図20図19における時刻t1~t2a,t1~t2b間を拡大したグラフであって、太線が樹脂粘度の高い場合を示し、細線が樹脂粘度の低い場合を示す。
図21】射出工程および保圧工程における流路圧力データの時間変化を示すグラフである。太線が樹脂粘度の高い場合を示し、細線が樹脂粘度の低い場合を示す。
図22図21における時刻t1~t2a,t1~t2b間を拡大したグラフであって、太線が樹脂粘度の高い場合を示し、細線が樹脂粘度の低い場合を示す。
図23】パージ工程におけるノズル圧力データの時間変化を示すグラフであって、樹脂粘度が低い場合を示す。
図24】パージ工程におけるノズル圧力データの時間変化を示すグラフであって、樹脂粘度が高い場合を示す。
図25】計量工程におけるスクリュ位置の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.射出成形装置1の構成)
射出成形装置1について図1を参照して説明する。射出成形装置1は、金型30を用いて、樹脂の成形品を成形するための装置である。射出成形装置1は、ベッド10、射出装置20、金型30、型締装置40、制御装置50、ゲート摩耗算出用コンピュータ装置60を主として備える。ベッド10は、設置面に設置される部材である。
【0014】
射出装置20は、ベッド10の上に配置される。射出装置20は、成形材料である樹脂を溶融し、溶融樹脂に圧力を加えて金型30の成形品キャビティCに供給する装置である。射出装置20は、ホッパ21、シリンダ22、スクリュ23、ノズル24、ヒータ25、駆動装置26、スクリュ圧力計測装置27、ノズル圧力計測装置28を備える。
【0015】
ホッパ21は、成形材料の素材である樹脂製のペレット(粒状の成形材料)の投入口である。シリンダ22は、ホッパ21に投入されたペレットを加熱溶融してできた溶融樹脂を貯留する。また、シリンダ22は、ベッド10に対してシリンダ22の軸方向に移動可能に設けられる。スクリュ23は、シリンダ22の内部に配置され、回転可能かつ軸方向への移動可能に設けられる。ノズル24は、シリンダ22の前端に設けられた吐出口であり、スクリュ23の前進に伴ってシリンダ22の内部の溶融樹脂を吐出する。
【0016】
ヒータ25は、例えば、シリンダ22の外周面に設けられ、または、シリンダ22の内部に埋設され、シリンダ22内の樹脂を加熱する。つまり、ヒータ25は、ペレットを溶融すると共に、溶融樹脂を溶融状態に保持する。駆動装置26は、シリンダ22の軸方向への移動(前進および後退)、スクリュ23の回転および軸方向移動(前進および後退)等を行う。
【0017】
スクリュ圧力計測装置27は、例えばスクリュ23の基端付近に設けられ、スクリュ23がシリンダ22内の溶融樹脂から受ける圧力データ(以下、「スクリュ圧力データ」と称する)を取得する。
【0018】
ノズル圧力計測装置28は、ノズル24に設けられ、溶融樹脂がノズル24を流通する際に、ノズル24が溶融樹脂から受ける圧力データ(以下、「ノズル圧力データ」と称する)を取得する。また、射出装置20は、スクリュ圧力計測装置27およびノズル圧力計測装置28の他に、シリンダ22の位置、スクリュ23の位置、スクリュ23の移動速度、ヒータ25の温度、駆動装置26の状態などを取得するセンサを備える。
【0019】
金型30は、固定側である第一型31と、可動側である第二型32とを備える。金型30は、第一型31と第二型32とを型締めすることで、第一型31と第二型32との間に成形品キャビティCを形成する。第一型31および第二型32は、成形品キャビティCと射出装置20のノズル24に当接する部位との間の樹脂流路Pを備える。樹脂流路Pは、射出装置20のノズル24から供給された溶融材料を成形品キャビティCまで導く流路(スプール、ランナ、ゲート)である。
【0020】
さらに、金型30は、樹脂流路Pにおける圧力データ(以下、「流路圧力データ」と称する)を取得する流路圧力計測装置33を備える。流路圧力データは、樹脂流路Pの内壁面が樹脂流路Pを流通する溶融樹脂から受ける圧力データである。
【0021】
型締装置40は、ベッド10上において射出装置20に対向配置される。型締装置40は、装着された金型30の開閉動作を行うと共に、金型30を締め付けた状態において、成形品キャビティCに射出された溶融材料の圧力により金型30が開かないようにする。
【0022】
型締装置40は、固定盤41、可動盤42、ダイバー43、駆動装置44、型締装置用計測装置45を備える。固定盤41には、第一型31が固定される。可動盤42には、第二型32が固定される。可動盤42は、固定盤41に対して接近および離間可能である。ダイバー43は、可動盤42の移動を支持する。駆動装置44は、例えば、シリンダ装置によって構成されており、可動盤42を移動させる。型締装置用計測装置45は、型締力、金型温度、駆動装置44の状態などを取得する。
【0023】
制御装置50は、射出装置20の駆動装置26および型締装置40の駆動装置44を制御する。ゲート摩耗算出用コンピュータ装置60は、金型30の樹脂流路PにおけるゲートP3(図2に示す)の摩耗状態を表す値の算出処理を行う。ゲート摩耗算出用コンピュータ装置60は、演算装置および記憶装置などにより構成されており、コンピュータプログラムを実行することにより処理される。ゲート摩耗算出用コンピュータ装置60は、例えば、制御装置50による制御データ、スクリュ圧力計測装置27、ノズル圧力計測装置28、流路圧力計測装置33などにより取得される圧力データなどを用いて、ゲートの摩耗状態を表す値を算出する。
【0024】
(2.金型30の詳細構成)
金型30の詳細な構成について、図2および図3を参照して説明する。金型30は、成形品を成形するための成形品キャビティCを有する。成形品キャビティCは、第一型31と第二型32とにより形成される。本形態においては、成形品キャビティCは、例えば、円環状に形成されているが、C字形状、U字形状など任意の形状とすることができる。成形品キャビティCは、1箇所のみ形成されるようにしても良いし、複数箇所形成されるようにしても良い。図2および図3においては、説明を容易にするために、1つの成形品キャビティCを図示する。
【0025】
また、金型30は、ノズル24(図1に示す)と当接する部位と成形品キャビティCとの間の接続する樹脂流路Pを有する。樹脂流路Pは、スプールP1(スプルーとも称する)と、ランナP2と、ゲートP3とを備える。スプールP1は、ノズル24から溶融材料が導入される通路である。スプールP1は、例えば、ノズル24との当接部位から直線状に形成されている。
【0026】
ランナP2は、スプールP1から角度を有して形成される流路である。つまり、スプールP1に導入された溶融樹脂が、ランナP2に流入される。例えば、図3に示すように、本形態においては、複数のランナP2が、スプールP1から1つの成形品キャビティCに向かって径方向に分岐して形成されている。なお、複数の成形品キャビティCが形成される場合にも、複数のランナP2が、スプールP1から複数の成形品キャビティCのそれぞれに向かって分岐して形成される。
【0027】
ゲートP3は、ランナP2の先端に位置しており、ランナP2から成形品キャビティCに溶融樹脂を導く流路である。ゲートP3の流路断面積は、ランナP2の流路断面積よりも小さく形成されている。本形態においては、複数のランナP2のそれぞれと1つの成形品キャビティCとを接続する複数のゲートP3が形成されている。従って、複数のゲートP3のうち1つが詰まった場合であっても、他のゲートP3から成形品キャビティCに溶融樹脂が流通する。
【0028】
金型30には、図2に示すように、流路圧力計測装置33が設けられている。流路圧力計測装置33は、樹脂流路PにおけるスプールP1の途中、スプールP1の端部、ランナP2の途中、ランナP2の先端などのいずれかに設けられる。つまり、流路圧力計測装置33は、樹脂流路PのうちゲートP3とは異なる位置における圧力データを取得する。なお、流路圧力計測装置33は、金型30に1箇所設けるようにしても良いし、複数箇所に設けるようにしても良い。
【0029】
(3.射出成形方法)
射出成形装置1による成形品の射出成形方法について図4を参照して説明する。射出成形方法は、射出成形装置1の制御装置50により実行される。
【0030】
まず、制御装置50は、連続した複数回の成形サイクルの前に、ノズル24を金型30から離間させた状態でノズル24からシリンダ22内の溶融樹脂を吐出させるパージ工程S1を実行する。パージ工程S1は、例えば、熱劣化した樹脂の排出や、異なる樹脂材料への入替の目的で行われる。パージ工程S1では、スクリュ23を前進させることにより、シリンダ22内の溶融樹脂がノズル24から吐出される。
【0031】
続いて、制御装置50は、スクリュ23を回転させながら、スクリュ23を所定位置まで後退させることにより、シリンダ22の前側に所定量の溶融樹脂を貯留させる計量工程S2を実行する。計量工程にS2おいては、前方位置に位置するスクリュ23を回転させることでシリンダ22の前端側に溶融樹脂を移動させ、溶融樹脂の前方への移動の反作用によりスクリュ23を所定位置まで後退させる。このようにして、シリンダ22内において、スクリュ23の先端とノズル24との間に、所定量の溶融樹脂が貯留される。
【0032】
続いて、制御装置50は、シリンダ22を前進させることにより、ノズル24を金型30に当接させるノズルタッチ工程S3を実行する。なお、このとき、金型30は、型締めされているものとする。ただし、ノズルタッチ工程S3の後に、型締めを行うようにしても良い。
【0033】
続いて、制御装置50は、以下の成形サイクルS4~S11を実行する。制御装置50は、スクリュ23の速度制御によりスクリュ23を前進させて、ノズル24から金型30に溶融樹脂を射出する射出工程S4を実行する。射出工程S4において、溶融樹脂がノズル24から樹脂流路Pに流入し、樹脂流路Pから成形品キャビティCへ流入する。射出工程S4にて、成形品キャビティCの大部分(例えば、90~95%)に溶融樹脂が供給される。
【0034】
制御装置50は、射出工程S4に続いて、スクリュ23にかかる圧力制御により、成形品キャビティCの溶融樹脂に保圧力を付与する保圧工程S5を実行する。保圧工程S5では、スクリュ23に所定の圧力を付与するように制御することで、スクリュ23をさらに前進させて、ノズル24から樹脂流路Pを介して成形品キャビティCに溶融樹脂を供給する。保圧工程S5において、成形品キャビティCが溶融樹脂により完全充填される。
【0035】
続いて、制御装置50は、スクリュ23への圧力の付与を停止すると共に金型30の加熱を停止して、金型30を冷却することにより金型30内の溶融樹脂を冷却する冷却工程S6を実行する。冷却工程S6にて、金型30内の溶融樹脂が固化する。制御装置50は、冷却工程S6に続いて、型締装置40を制御して、第一型31から第二型32を離間させて、成形品を取り出す離型・成形品取出工程S7を実行する。続いて、制御装置50は、型締装置40を制御して、第一型31に第二型32を合わせ、型締めを行う型締め工程S8を実行する。
【0036】
また、保圧工程S5を終了した後には、制御装置50は、シリンダ22を後退させることにより、ノズル24を金型30から離間させるノズル離間工程S9を実行する。制御装置50は、ノズル離間工程S9に続いて、前方位置に位置するスクリュ23を回転させることでシリンダ22の前端側に溶融樹脂を移動させ、溶融樹脂の前方への移動の反作用によりスクリュ23を所定位置まで後退させることで、シリンダ22の前側に所定量の溶融樹脂を貯留させる計量工程S10を実行する。
【0037】
型締め工程S8および計量工程S10が完了した後に、制御装置50は、シリンダ22を前進させることにより、ノズル24を金型30に当接させるノズルタッチ工程S11を実行する。ただし、ノズルタッチ工程S11の後に、型締め工程S8を実行しても良い。そして、ノズルタッチ工程S11の後には、上述した射出工程S4から再び繰り返される。
【0038】
(4.スクリュ圧力データおよび流路圧力データの挙動)
射出工程S4および保圧工程S5におけるスクリュ圧力データの挙動(時間変化)および流路圧力データの挙動(時間変化)について、図5および図6を参照して説明する。まず、ゲートP3の摩耗が無い状態について、図5の実線および図6の実線を参照して説明する。
【0039】
図5の実線にて示すように、時刻t1において、射出工程S4が開始されることにより、スクリュ23が前進し、スクリュ圧力データが上昇する。その後、本形態においては、スクリュ23の前進速度を、最初低速とした後に、高速に切り替えている。
【0040】
図5の実線および図6の実線にて示すように、スクリュ23の前進速度を高速に切り替えると、溶融樹脂が金型30の樹脂流路Pに流入することで、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは、急上昇する。そして、樹脂流路PのゲートP3から成形品キャビティCに流入することで、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは僅かに低下して、その後徐々に上昇するように変化する。従って、射出工程S4において、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは、圧力ピーク時t2において最大値となる。
【0041】
射出工程S4を終了する時刻をt4とし、射出工程S4において、圧力ピーク時t2と射出工程終了時t4との間の時刻をt3とする。時刻t3は、例えば、圧力ピーク時t2と射出工程終了時t4との中間時刻とするが、中間時刻からずれた時刻としても良い。
【0042】
射出工程S4から保圧工程S5に切り替わることにより、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは、保圧工程S5における圧力制御による所望の保圧力近傍まで低下する。通常、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは、所望の保圧力より僅かに低い圧力まで低下した直後に、所望の保圧力近傍に向かって上昇する。
【0043】
そして、保圧工程S5が継続されて、成形品キャビティCに溶融樹脂が完全充填された時、すなわち充填完了時t5において、スクリュ圧力データおよび流路圧力データは上昇する。スクリュ圧力データは、圧力制御されているため、その直後において所望の保圧力となる。一方、流路圧力データは、充填完了時t5の後には、徐々に上昇していく。
【0044】
次に、ゲートP3の摩耗量が大きくなった場合について、図5の破線および図6の破線を参照して説明する。射出工程S4において、スクリュ圧力データおよび流路圧力データが、ゲートP3の摩耗が無い場合に比べて、概ね小さくなる。ここで、流路圧力データにおける上昇率は、スクリュ圧力における上昇率に比べて、小さい。上昇率とは、ゲートP3の摩耗が無い場合を基準として、摩耗した場合の上昇圧力の割合である。従って、ゲートP3の摩耗の影響は、スクリュ圧力データおよび流路圧力データの両者に受ける。
【0045】
流路圧力データは、金型30の樹脂流路Pにおける圧力データであるため、ゲートP3の摩耗の影響を受けると共に、流通する溶融樹脂の状態の影響も受ける。一方、スクリュ圧力データは、金型30の樹脂流路Pから遠いため、ゲートP3の摩耗の影響は小さいのに対して、シリンダ22内における溶融樹脂の状態の影響は受ける。そして、シリンダ22内の溶融樹脂の状態と金型30内の溶融樹脂の状態は、同様である。
【0046】
流路圧力データは、ゲートの摩耗および溶融樹脂の状態の影響を受けた値となり、スクリュ圧力データは、溶融樹脂の状態の影響を受けた値となる。そして、流路圧力データから、溶融樹脂の状態の影響分を取り除くことができれば、ゲートの摩耗の影響分を抽出することができる。
【0047】
(5.各実施形態の概要)
ゲートP3の摩耗を表す値の算出に関して、各実施形態の概要について説明する。
(A1)第一実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データに基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A2)第二実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて関係性情報(関係式など)よりゲート摩耗指標値を算出し、ゲート摩耗指標値に基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A3)第三実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて関係性情報(関係式など)よりゲート摩耗指標値を算出する。
(A4)第四実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて第一関係性情報(関係式など)よりゲート摩耗指標値を算出し、第二関係性情報(関係式など)とゲート摩耗指標値とを用いてゲート摩耗量を算出する。
(A5)第五実施形態:流路圧力データ、スクリュ圧力データおよび推定樹脂粘度に基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A6)第六実施形態:推定樹脂粘度別に、流路圧力データおよびスクリュ圧力データに基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A7)第七実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて関係性情報よりゲート摩耗指標値を算出し、ゲート摩耗指標値および推定樹脂粘度に基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A8)第八実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて関係性情報よりゲート摩耗指標値を算出し、推定樹脂粘度別にゲート摩耗指標値に基づいて機械学習によりゲート摩耗量を算出する。
(A9)第九実施形態:流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて第一関係性情報よりゲート摩耗指標値を算出し、ゲート摩耗指標値と推定樹脂粘度と第二関係性情報とを用いてゲート摩耗量を算出する。
(B1)樹脂粘度推定方法の第一具体例:流路圧力データを用い、射出工程S4における圧力ピーク時までの時間を用いる。
(B2)樹脂粘度推定方法の第二具体例:流路圧力データを用い、保圧工程S5における成形品キャビティの充填完了時までの時間を用いる。
(B3)樹脂粘度推定方法の第三具体例:スクリュ圧力データを用い、射出工程S4における圧力ピーク時までの時間を用いる。
(B4)樹脂粘度推定方法の第四具体例:スクリュ圧力データを用い、保圧工程S5における成形品キャビティの充填完了時までの時間を用いる。
(B5)樹脂粘度推定方法の第五具体例:パージ工程S1におけるノズル圧力データおよびスクリュ移動速度データを用いる。
(B6)樹脂粘度推定方法の第六具体例:射出工程S4におけるノズル圧力データおよびスクリュ移動速度データを用いる。
(B7)樹脂粘度推定方法の第七具体例:計量工程S2,S10に要する時間を用いる。
(B8)樹脂粘度推定方法の第八具体例:上記第一具体例~第七具体例の中で複数を複合的に用いる。
【0048】
(6.第一実施形態の射出成形装置1)
第一実施形態の射出成形装置1について図7および図8を参照して説明する。射出成形装置1は、図7に示すように、射出装置20、金型30、型締装置40、制御装置50およびコンピュータ装置60を備える。図7においては、射出成形装置1の一部の機能部分のみを図示する。また、以下においては、コンピュータ装置60について説明する。
【0049】
コンピュータ装置60は、出力部61と記憶部62とを備える。出力部61は、上述したコンピュータ装置60を構成する演算装置により構成されており、コンピュータプログラムの実行により機能する。記憶部62は、上述したコンピュータ装置60を構成する記憶装置により構成されている。
【0050】
出力部61は、樹脂流路PのうちゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。ゲートP3は、上述したように、ランナP2と成形品キャビティCとの間に位置し、流路断面積がランナP2よりも小さい。従って、ゲートP3には、溶融樹脂が流通する際に高い圧力がかかり、ゲートP3が摩耗する。特に、上述した成形サイクルを複数回連続して実行している際において、ゲートP3の摩耗が進行していく。そこで、出力部61は、成形サイクルを実行する度に、ゲートP3の摩耗状態を把握するための情報としてゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。
【0051】
また、出力部61は、流路圧力計測装置33により取得された流路圧力データ、および、スクリュ圧力計測装置27により取得されたスクリュ圧力データに基づいて、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。さらに、出力部61は、流路圧力データおよびスクリュ圧力データそのものではなく、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量に基づいて、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。従って、出力部61は、取得した流路圧力データから特徴量を抽出すると共に、取得したスクリュ圧力データから特徴量を抽出する。
【0052】
本形態において、出力部61は、射出工程S4(時刻t1~t4)における流路圧力データの特徴量、および、射出工程S4におけるスクリュ圧力データの特徴量を用いて、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。特に、出力部61は、射出工程S4のうち圧力が圧力ピークに達した以降、すなわち、時刻t2~t4における流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いる。
【0053】
より具体的には、本形態においては、出力部61は、射出工程S4のうち保圧工程S5寄りの後期時間帯(t3~t4)における流路圧力データの特徴量、および、射出工程S4のうち保圧工程S5寄りの後期時間帯(t3~t4)におけるスクリュ圧力データの特徴量を用いる。
【0054】
特徴量は、例えば、後期時間帯(t3~t4)における流路圧力データの時間積分値、および、後期時間帯(t3~t4)におけるスクリュ圧力データの時間積分値などとする。なお、特徴量は、後期時間帯(t3~t4)における流路圧力データの最大値、最小値、中央値、平均値、第一四分位数、第三四分位数、分散、標準偏差、尖度、歪度などを用いるようにしても良い。また、出力部61は、複数の特徴量を用いるようにしても良い。
【0055】
また、本形態においては、出力部61は、機械学習を適用して、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。従って、出力部61は、予め生成された学習済みモデルを用いて、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。特に、出力部61は、機械学習を適用する場合には、複数の特徴量を適用することが容易にできる。
【0056】
記憶部62は、出力部61によりゲートP3の摩耗状態を表す値を出力するために用いられる情報を記憶する。本形態においては、記憶部62は、訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する。出力部61は、記憶部62に記憶された学習済みモデルを用いる。
【0057】
機械学習を適用する場合のコンピュータ装置60の機能について図8を参照して説明する。学習フェーズとして、まずは、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、流路圧力データと、スクリュ圧力データと、ゲートP3の実摩耗量とを含む。本形態においては、流路圧力データから算出された所定の特徴量、および、スクリュ圧力データから算出された所定の特徴量を訓練データセットとする。また、ゲートP3の実摩耗量は、例えば、ゲートP3の開口(成形品キャビティCとの境界部分)における開口径方向の摩耗量とする。
【0058】
学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63が、訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、1つの学習済みモデルを生成する。学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態においては、学習済みモデルは、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0059】
続いて、推定フェーズとして、出力部61が、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データを取得する。そして、出力部61は、流路圧力データの特徴量を算出し、かつ、スクリュ圧力データの特徴量を算出する。続いて、出力部61は、記憶部62に記憶されている学習済みモデルを用いて、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。
【0060】
また、出力部61は、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量に基づいて、ゲートP3の部分のメンテナンスが必要な状態に達したか否かを判定する。そして、出力部61は、メンテナンスが必要な状態に達してと判定した場合には、ゲートP3の部分に関するメンテナンスアラートを教示する。教示方法としては、表示装置(図示せず)に、ゲートP3の部分の交換時期である旨のメンテナンスアラートを表示するようにしても良いし、警告音を発しても良い。また、管理装置(図示せず)や作業者の固定端末や携帯端末などに、メンテナンスアラートである旨を通知しても良い。
【0061】
(7.第一実施形態の効果)
上述したように、流路圧力データは、金型30の樹脂流路Pにおける圧力データであるため、ゲートP3の摩耗の影響を受けると共に、流通する溶融樹脂の状態の影響も受ける。一方、スクリュ圧力データは、金型30の樹脂流路Pから遠いため、ゲートP3の摩耗の影響は小さいのに対して、シリンダ22内における溶融樹脂の状態の影響は受ける。ここで、シリンダ22内の溶融樹脂の状態と金型30内の溶融樹脂の状態は、同様である。
【0062】
そして、出力部61は、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いている。流路圧力データの特徴量は、ゲートP3の摩耗および溶融樹脂の状態の影響を受けた値であり、スクリュ圧力データの特徴量は、溶融樹脂の状態の影響を受けた値である。そして、流路圧力データの特徴量から、溶融樹脂の状態の影響分を取り除くことができれば、ゲートP3の摩耗の影響分を抽出することができる。
【0063】
そこで、出力部61は、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて処理を行うことにより、ゲートP3の摩耗の影響分を抽出することができ、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力することができる。作業者は、ゲートP3の摩耗状態を表す値に基づいて、ゲートP3の摩耗状態を把握することができるため、熟練者の知識や経験によらず、ゲートP3の部分の交換のタイミングを適切に判断することができる。
【0064】
特に、コンピュータ装置60の機械学習処理部63は、機械学習において、ゲートP3の実摩耗量を訓練データセットに含ませており、目的変数をゲートP3の摩耗量として学習している。従って、出力部61は、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の摩耗量を出力している。作業者は、ゲートP3の摩耗量の推定値を確認できるため、より容易にゲートP3の部分の交換のタイミングを判断することができる。
【0065】
また、出力部61は、流路圧力データおよびスクリュ圧力データのうち射出工程S4におけるデータを用いている。特に射出工程S4において、ゲートP3の摩耗の有無によって圧力に変化が生じる。従って、出力部61は、射出工程S4の圧力データを用いることで、高精度にゲートP3の摩耗状態を表す値を出力することができる。
【0066】
さらに、出力部61は、射出工程S4のうち保圧工程S5寄りの後期時間帯(t3~t4)における流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いている。射出工程S4における後期時間帯(t3~t4)は、比較的圧力データが安定している。従って、出力部61は、高精度にゲートP3の摩耗状態を表す値を出力することができる。また、出力部61は、機械学習によりゲートP3の摩耗状態を表す値を出力している。特に、複数の特徴量を用いる場合には、機械学習による判定が有用である。
【0067】
(8.第二実施形態の射出成形装置1)
第二実施形態の射出成形装置1について図9および図10を参照して説明する。以下において、機械学習を適用するコンピュータ装置60の機能について説明する。
【0068】
学習フェーズとして、まずは、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを準備する、続いて、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、ゲート摩耗指標値yおよびゲートP3の実摩耗量を含む。訓練データセットの1つであるゲートP3の実摩耗量は、例えば、ゲートP3の開口(成形品キャビティCとの境界部分)における開口径方向の摩耗量とする。
【0069】
訓練データセットの1つとしてのゲート摩耗指標値yは、コンピュータ装置60のゲート摩耗指標値算出部64により、流路圧力データおよびスクリュ圧力データを用いて算出される。ゲート摩耗指標値yは、関係性情報としての式(1)により、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて定義される。つまり、式(1)は、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量、および、ゲート摩耗指標値yの関係性を定義する関係性情報に相当する。ここで、式(1)の定数aは、ゲートP3が摩耗していない状態において、ゲート摩耗指標値yが一定値となるように決定される。
【0070】
y=b-a×x ・・・ (1)
y:ゲート摩耗指標値
x:スクリュ圧力データの特徴量
a:定数
b:流路圧力データの特徴量
【0071】
成形サイクルの回数(ショット回数)と式(1)にて定義したゲート摩耗指標値yとにおけるグラフにプロットすると、図10の各点に示すようになった。図10のグラフ中において、プロット点を、初期、中期、終期に分けて直線近似を行った場合の近似直線を図示する。近似直線によれば、成形サイクルの回数が増加するほど、ゲート摩耗指標値yが小さくなっていることが分かる。そして、ゲートP3の摩耗量は、成形サイクルの回数が増加するほど、大きくなる。つまり、ゲート摩耗指標値yは、ゲートP3の摩耗量が大きくなれば、小さくなるように変化する値であることが分かる。
【0072】
続いて、学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63が、訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、1つの学習済みモデルを生成する。学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態においては、学習済みモデルは、ゲート摩耗指標値yを説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0073】
続いて、推定フェーズとして、出力部61のゲート摩耗指標値算出部61aが、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データを取得する。そして、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量を算出し、かつ、スクリュ圧力データの特徴量を算出する。続いて、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて、上述した式(1)より、ゲート摩耗指標値yを算出する。
【0074】
そして、出力部61の摩耗量算出部61bは、記憶部62に記憶されている学習済みモデルを用いて、算出されたゲート摩耗指標値yを入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。
【0075】
本形態においては、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いてゲート摩耗指標値yを算出し、機械学習により、当該ゲート摩耗指標値yとゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量との関係を定義した学習済みモデルを生成している。そして、機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、ゲートP3の摩耗量を算出している。
【0076】
ゲートP3の摩耗量に関連性の高い指標であるゲート摩耗指標値yを説明変数として機械学習を行うことにより、生成される学習済みモデルが、目的変数であるゲートP3の摩耗量との関係を適合させやすくなる。その結果、出力部61の摩耗量算出部61bによって、当該学習済みモデルを用いて出力されるゲートP3の摩耗量を、高精度にすることができる。
【0077】
(9.第三実施形態の射出成形装置1)
第三実施形態の射出成形装置1について図11を参照して説明する。以下に、コンピュータ装置60の出力部61の処理について説明する。本形態において、出力部61は、機械学習を適用しない。
【0078】
図11に示すように、出力部61は、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを入力する検出データ入力工程S21を実行する。続いて、出力部61は、検出データの特徴量を算出する特徴量算出工程S22を実行する。検出データの特徴量は、上述したように、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量である。
【0079】
続いて、出力部61は、算出した流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて、上述した式(1)より、ゲート摩耗指標値yを算出する指標値算出工程S23を実行する。式(1)は、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量、および、ゲート摩耗指標値yの関係性を定義する関係性情報である。
【0080】
本形態においては、出力部61は、ゲート摩耗指標値yを出力することができる。ゲート摩耗指標値yは、上述したように、ゲートP3の摩耗量が大きくなれば、小さくなるように変化する値である。従って、作業者は、ゲート摩耗指標値yに基づいて、ゲートP3の摩耗状態を把握することができるため、熟練者の知識や経験によらず、ゲートP3の部分の交換のタイミングを適切に判断することができる。
【0081】
(10.第四実施形態の射出成形装置1)
第四実施形態の射出成形装置1について図12を参照して説明する。以下に、コンピュータ装置60の出力部61の処理について説明する。本形態において、出力部61は、機械学習を適用しない。
【0082】
図12に示すように、出力部61は、第三実施形態と同様に、検出データ入力工程S21、特徴量算出工程S22、および、指標値算出工程S23を実行する。ここで、指標値算出工程S23における処理は、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量、および、ゲート摩耗指標値yの関係性を定義する第一関係性情報である式(1)を用いる。
【0083】
続いて、出力部61は、記憶部62に記憶された第二関係性情報を用いて、ゲート摩耗指標値yを入力することにより、ゲートP3の摩耗量を算出する摩耗量算出工程S24を実行する。
【0084】
ここで、第二関係性情報は、例えば、式(2)により定義され、ゲート摩耗指標値yとゲートP3の摩耗量zとの関係を表す。
z=F(y) ・・・ (2)
z:ゲートP3の摩耗量
F(y):ゲート摩耗指標値yの関数
【0085】
関数F(y)は、例えば、負の傾きを有する一次関数、ゲート摩耗指標値yの逆数の項を有する関数などにより表される。関数F(y)は、ゲートP3の実摩耗量を考慮して設定される。従って、出力部61は、ゲートP3の摩耗量zを出力することができる。従って、作業者は、ゲートP3の摩耗量zに基づいて、ゲートP3の摩耗状態を把握することができるため、熟練者の知識や経験によらず、ゲートP3の部分の交換のタイミングを適切に判断することができる。
【0086】
(11.第五実施形態の射出成形装置1)
第五実施形態の射出成形装置1について図13を参照して説明する。図13に示すように、射出成形装置1のコンピュータ装置60は、出力部61、記憶部62、および、粘度推定部65を備える。出力部61および粘度推定部65は、上述したコンピュータ装置60を構成する演算装置により構成され、コンピュータプログラムの実行により機能する。
【0087】
粘度推定部65は、金型30における樹脂流路Pを流通する溶融樹脂の粘度を推定する。粘度推定部65は、流路圧力データ、スクリュ圧力データ、ノズル圧力データ、制御装置50における制御データなどに基づいて、溶融樹脂の粘度を推定する。粘度推定部65における複数の具体例については、以下に説明する。
【0088】
出力部61は、流路圧力データおよびスクリュ圧力データに、粘度推定部65により推定された粘度(以下、「推定樹脂粘度」と称する)を加味して、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。
【0089】
また、出力部61は、機械学習を適用して、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。従って、出力部61は、予め生成された学習済みモデルを用いて、ゲートP3の摩耗状態を表す値を出力する。記憶部62は、出力部61によりゲートP3の摩耗状態を表す値を出力するための学習済みモデルを記憶する。
【0090】
機械学習を適用する場合のコンピュータ装置60の機能について図14を参照して説明する。学習フェーズとして、まずは、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、流路圧力データの特徴量と、スクリュ圧力データの特徴量と、粘度推定部65により推定された推定樹脂粘度と、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の実摩耗量とを含む。
【0091】
学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63は、訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、1つの学習済みモデルを生成する。学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態において、学習済みモデルは、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量および推定樹脂粘度を説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0092】
続いて、推定フェーズとして、出力部61が、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データ、および、粘度推定部65にて推定された推定樹脂粘度を取得する。そして、出力部61は、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を算出する。続いて、出力部61は、記憶部62に記憶されている学習済みモデルを用いて、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量および推定樹脂粘度を入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。
【0093】
樹脂粘度が異なれば、流路圧力データおよびスクリュ圧力データは異なる値を示す。そこで、出力部61が、流路圧力データおよびスクリュ圧力データに、推定樹脂粘度を加味して、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力している。従って、出力部61は、より高精度にゲートP3の摩耗量を出力することができる。
【0094】
(12.第六実施形態の射出成形装置1)
第六実施形態の射出成形装置1について図15を参照して説明する。以下において、機械学習を適用するコンピュータ装置60の機能について説明する。
【0095】
学習フェーズとして、まずは、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを準備する、続いて、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、粘度推定部65により推定された樹脂粘度で分類された、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量、および、ゲートP3の実摩耗量を含む。
【0096】
続いて、学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63が、推定樹脂粘度別に訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、推定樹脂粘度別の複数の学習済みモデルを生成する。推定樹脂粘度別の複数の学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態においては、それぞれの学習済みモデルは、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0097】
続いて、推定フェーズとして、出力部61は、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データを取得する。そして、出力部61は、流路圧力データの特徴量を算出し、かつ、スクリュ圧力データの特徴量を算出する。また、出力部61は、粘度推定部65にて推定された推定樹脂粘度を取得する。
【0098】
続いて、出力部61は、記憶部62に記憶された複数の学習済みモデルの中から、推定樹脂粘度に対応する1つの学習済みモデルを選択する。続いて、出力部61は、選択された学習済みモデルを用いて、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。つまり、出力部61は、推定樹脂粘度で分類して、分類された推定樹脂粘度に応じてゲートP3の摩耗量の算出処理を行う。この場合も、上述した第五実施形態と同様の効果を発揮する。
【0099】
(13.第七実施形態の射出成形装置1)
第七実施形態の射出成形装置1について図16を参照して説明する。以下において、機械学習を適用するコンピュータ装置60の機能について説明する。
【0100】
学習フェーズとして、まずは、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを準備する。続いて、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、ゲート摩耗指標値y、粘度推定部65により推定された推定樹脂粘度、および、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の実摩耗量とを含む。ゲート摩耗指標値yは、上述した式(1)により定義される。
【0101】
続いて、学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63が、訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、1つの学習済みモデルを生成する。学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態において、学習済みモデルは、ゲート摩耗指標値yおよび推定樹脂粘度を説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0102】
続いて、推定フェーズとして、出力部61のゲート摩耗指標値算出部61aが、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データを取得する。そして、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量を算出し、かつ、スクリュ圧力データの特徴量を算出する。続いて、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて、上述した式(1)より、ゲート摩耗指標値yを算出する。
【0103】
そして、出力部61の摩耗量算出部61bは、ゲート摩耗指標値算出部61aにより算出されたゲート摩耗指標値y、および、粘度推定部65にて推定された推定樹脂粘度を取得する。続いて、出力部61の摩耗量算出部61bは、記憶部62に記憶されている学習済みモデルを用いて、ゲート摩耗指標値yおよび推定樹脂粘度を入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。
【0104】
本形態によれば、ゲートP3の摩耗量に関連性の高い指標であるゲート摩耗指標値yに加えて、推定樹脂粘度を用いて、機械学習を適用している。従って、出力部61の摩耗量算出部61bによって、当該機械学習により生成された学習済みモデルを用いて出力されるゲートP3の摩耗量を、高精度にすることができる。
【0105】
(14.第八実施形態の射出成形装置1)
第八実施形態の射出成形装置1について図17を参照して説明する。以下において、機械学習を適用するコンピュータ装置60の機能について説明する。
【0106】
学習フェーズとして、まずは、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを準備する、続いて、訓練データセットを準備する。訓練データセットは、粘度推定部65により推定された樹脂粘度で分類された、ゲート摩耗指標値y、および、ゲートP3の実摩耗量を含む。ゲート摩耗指標値yは、上述した式(1)により定義される。
【0107】
続いて、学習フェーズとして、コンピュータ装置60における機械学習処理部63が、推定樹脂粘度別に訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、推定樹脂粘度別の複数の学習済みモデルを生成する。推定樹脂粘度別の複数の学習済みモデルは、記憶部62に記憶される。本形態においては、それぞれの学習済みモデルは、ゲート摩耗指標値yを説明変数とし、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてゲートP3の摩耗量を目的変数とする。
【0108】
続いて、推定フェーズとして、出力部61のゲート摩耗指標値算出部61aが、検出データとしての流路圧力データおよびスクリュ圧力データを取得する。そして、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量を算出し、かつ、スクリュ圧力データの特徴量を算出する。続いて、ゲート摩耗指標値算出部61aは、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて、上述した式(1)より、ゲート摩耗指標値yを算出する。
【0109】
そして、出力部61の摩耗量算出部61bは、ゲート摩耗指標値算出部61aにより算出されたゲート摩耗指標値y、および、粘度推定部65にて推定された推定樹脂粘度を取得する。
【0110】
続いて、出力部61の摩耗量算出部61bは、記憶部62に記憶された複数の学習済みモデルの中から、推定樹脂粘度に対応する1つの学習済みモデルを選択する。続いて、出力部61の摩耗量算出部61bは、選択された学習済みモデルを用いて、ゲート摩耗指標値yを入力することにより、ゲートP3の摩耗状態を表す値としてのゲートP3の摩耗量を出力する。つまり、出力部61の摩耗量算出部61bは、推定樹脂粘度で分類して、分類された推定樹脂粘度に応じてゲートP3の摩耗量の算出処理を行う。この場合も、上述した第七実施形態と同様の効果を発揮する。
【0111】
(15.第九実施形態の射出成形装置1)
第九実施形態の射出成形装置1について図18を参照して説明する。以下に、コンピュータ装置60の出力部61の処理について説明する。本形態において、出力部61は、機械学習を適用しない。
【0112】
図18に示すように、出力部61は、検出データである流路圧力データおよびスクリュ圧力データを入力する検出データ入力工程S31を実行する。続いて、出力部61は、粘度推定部65により推定された樹脂粘度vを入力する推定樹脂粘度入力工程S32を実行する。続いて、出力部61は、検出データの特徴量を算出する特徴量算出工程S33を実行する。検出データの特徴量は、上述したように、流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量である。
【0113】
続いて、出力部61は、算出した流路圧力データの特徴量およびスクリュ圧力データの特徴量を用いて、第一関係性情報である上述した式(1)より、ゲート摩耗指標値yを算出する指標値算出工程S34を実行する。第一関係性情報である式(1)は、流路圧力データの特徴量、スクリュ圧力データの特徴量、および、ゲート摩耗指標値yの関係性を定義する。
【0114】
続いて、出力部61は、記憶部62に記憶された第二関係性情報を用いて、ゲート摩耗指標値yおよび推定樹脂粘度vを入力することにより、ゲートP3の摩耗量を算出する摩耗量算出工程S35を実行する。
【0115】
第二関係性情報は、例えば、式(3)により定義され、ゲート摩耗指標値yと、推定樹脂粘度vと、ゲートP3の摩耗量zとの関係を表す。
z=F(y,v) ・・・ (3)
z:ゲートP3の摩耗量
F(y,v):ゲート摩耗指標値yおよび推定樹脂粘度vの関数
【0116】
従って、出力部61は、ゲートP3の摩耗量zを出力することができる。従って、作業者は、ゲートP3の摩耗量zに基づいて、ゲートP3の摩耗状態を把握することができるため、熟練者の知識や経験によらず、ゲートP3の部分の交換のタイミングを適切に判断することができる。
【0117】
(16.スクリュ圧力データおよび流路圧力データの挙動)
射出工程S4および保圧工程S5におけるスクリュ圧力データの挙動(時間変化)および流路圧力データの挙動(時間変化)について、図19図22を参照して説明する。図19図22において、太線が、樹脂流路Pにおける樹脂粘度が高い場合を示し、細線が、樹脂流路Pにおける樹脂粘度が低い場合を示す。
【0118】
図19および図20に示すように、スクリュ圧力データは、射出工程S4における圧力ピーク時t2a,t2b~射出工程終了時t4の間の値が異なる。つまり、当該時間帯(t2a~t4,t2b~t4)において、樹脂粘度が低いと、スクリュ圧力データは低い値を示し、樹脂粘度が高いと、スクリュ圧力データは高い値を示す。
【0119】
また、図20に示すように、スクリュ圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4における圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)が、樹脂粘度によって異なる。つまり、樹脂粘度が低い場合の当該時間(t1~t2b)は、樹脂粘度が高い場合の当該時間(t1~t2a)より短くなっている。
【0120】
また、図19に示すように、スクリュ圧力データにおいて、保圧工程S5の開始時t4から保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t4~t5a,t4~t5b)は、樹脂粘度によって異なる。つまり、樹脂粘度が低い場合の当該時間(t4~t5b)は、樹脂粘度が高い場合の当該時間(t4~t5a)よりも短くなっている。充填完了時t5a,t5bは、僅かではあるが、保圧工程S5におけるスクリュ圧力データの圧力の立ち上り時である。つまり、充填完了時t5a,t5bは、保圧工程S5におけるスクリュ圧力データの圧力変化が所定値より大きくなった時である。
【0121】
ここで、射出工程S4は、開始からの所定時間を経過した場合に終了するため、射出工程S4の終了時t4は、樹脂粘度に関わりなく一定である。従って、上記時間(t4~t5a,t4~t5b)を、射出工程S4の開始時t1から保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b)に置換した場合も同様である。
【0122】
図21および図22に示すように、流路圧力データは、スクリュ圧力データと同様の挙動を示す。流路圧力データは、射出工程S4における圧力ピーク時t2a,t2b~射出工程終了時t4の間の値が異なる。つまり、当該時間帯(t2a~t4,t2b~t4)において、樹脂粘度が低いと、スクリュ圧力データは低い値を示し、樹脂粘度が高いと、スクリュ圧力データは高い値を示す。
【0123】
また、図22に示すように、流路圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4における圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)が、樹脂粘度によって異なる。つまり、樹脂粘度が低い場合の当該時間(t1~t2b)は、樹脂粘度が高い場合の当該時間(t1~t2a)より短くなっている。
【0124】
また、図21に示すように、流路圧力データにおいて、保圧工程S5の開始時t4から保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t4~t5a,t4~t5b)は、樹脂粘度によって異なる。つまり、樹脂粘度が低い場合の当該時間(t4~t5b)は、樹脂粘度が高い場合の当該時間(t4~t5a)よりも短くなっている。充填完了時t5a,t5bは、保圧工程S5における流路圧力データの圧力の立ち上り時である。つまり、充填完了時t5a,t5bは、保圧工程S5における流路圧力データの圧力変化が所定値より大きくなった時である。流路圧力データの当該圧力変化は、スクリュ圧力データに比べて大きく変化している。
【0125】
ここで、上記時間(t4~t5a,t4~t5b)を、射出工程S4の開始時t1から保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b)に置換した場合も同様である。
【0126】
(17.樹脂粘度推定の第一具体例)
第五実施形態~第九実施形態において、粘度推定部65が、樹脂流路Pにおける溶融樹脂の粘度を推定した。粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第一具体例について、図21図22を参照して説明する。
【0127】
図21および図22に示すように、樹脂流路Pの樹脂粘度によって、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4における流路圧力データの圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)が異なる。そこで、粘度推定部65は、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4における流路圧力データの圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0128】
(18.樹脂粘度推定の第二具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第二具体例について、図21図22を参照して説明する。図21および図22に示すように、樹脂流路Pの樹脂粘度によって、流路圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1または保圧工程S5の開始時t4から、保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b、または、t4~t5a,t4~t5b)が異なる。
【0129】
そこで、粘度推定部65は、流路圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1または保圧工程S5の開始時t4から、保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b、または、t4~t5a,t4~t5b)を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0130】
(19.樹脂粘度推定の第三具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第三具体例について、図19図20を参照して説明する。図19および図20に示すように、樹脂流路Pの樹脂粘度によって、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4におけるスクリュ圧力データの圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)が異なる。そこで、粘度推定部65は、射出工程S4の開始時t1から射出工程S4におけるスクリュ圧力データの圧力ピーク時t2a,t2bまでの時間(t1~t2a,t1~t2b)を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0131】
(20.樹脂粘度推定の第四具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第四具体例について、図19図20を参照して説明する。図19および図20に示すように、樹脂流路Pの樹脂粘度によって、スクリュ圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1または保圧工程S5の開始時t4から、保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b、または、t4~t5a,t4~t5b)が異なる。
【0132】
そこで、粘度推定部65は、スクリュ圧力データにおいて、射出工程S4の開始時t1または保圧工程S5の開始時t4から、保圧工程S5における成形品キャビティCの充填完了時t5a,t5bまでの時間(t1~t5a,t1~t5b、または、t4~t5a,t4~t5b)を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0133】
(21.樹脂粘度推定の第五具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第五具体例について、図23図24を参照して説明する。粘度推定部65は、ノズル圧力計測装置28により取得されたノズル圧力データと、制御装置50における制御データとを用いて、樹脂粘度を推定する。
【0134】
パージ工程S1におけるノズル圧力データの挙動(時間変化)は、図23および図24に示すようになる。ここで、図23および図24においては、スクリュ23の移動速度は同一とする。スクリュ23の移動速度が同一の場合において、図23に示す樹脂粘度が低い場合には、図24に示す樹脂粘度が高い場合に比べて、パージ工程S1におけるノズル圧力データの平均値が小さい。従って、パージ工程S1におけるノズル圧力データは、樹脂粘度に依存する。
【0135】
スクリュ23の移動速度が大きいと、ノズル圧力データは大きくなる。そこで、粘度推定部65は、パージ工程S1におけるノズル圧力データとスクリュ23の移動速度データとの関係を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0136】
(22.樹脂粘度推定の第六具体例)
第五具体例においては、粘度推定部65は、パージ工程S1におけるノズル圧力データおよびスクリュ23の移動速度データを用いて、樹脂粘度を推定した。ここで、ノズル圧力データは、射出工程S4においても同様に変化する。そこで、第六具体例においては、粘度推定部65は、射出工程S4におけるノズル圧力データとスクリュ23の移動速度データとの関係を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0137】
(23.樹脂粘度推定の第七具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第七具体例について、図25を参照して説明する。粘度推定部65は、制御装置50における制御データを用いて、樹脂粘度を推定する。
【0138】
計量工程S2,S10に要する時間は、樹脂粘度の影響を受ける。図25に示すように、計量工程S2,S10の開始時から、計量工程S2,S10の終了時t6a,t6bまでの時間は、樹脂粘度が低い場合には、樹脂粘度が高い場合に比べて、長くなる。理由は、スクリュ23が溶融樹脂から受ける圧力が、樹脂粘度が低いほど小さくなるためである。そこで、粘度推定部65は、計量工程S2,S10に要する時間を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定する。
【0139】
(24.樹脂粘度推定の第八具体例)
粘度推定部65による樹脂粘度の推定方法の第八具体例について説明する。上記の第一具体例~第七具体例においては、粘度推定部65は、それぞれの要素を、樹脂粘度を表す成分として、樹脂粘度を推定することとした。
【0140】
その他に、粘度推定部65は、第一具体例~第七具体例にて説明した要素を、樹脂粘度を表す成分の1つとして、樹脂粘度を推定する。つまり、粘度推定部65は、複数の要素のそれぞれを樹脂粘度を表す成分の1つとして、複数の要素を用いて樹脂粘度を推定する。粘度推定部65は、複数の要素を用いるため、機械学習を適用すると良い。もちろん、粘度推定部65は、複数の要素を蓄積したデータベースを用いることにより、粘度を推定することもできる。
【符号の説明】
【0141】
1 射出成形装置
20 射出装置
22 シリンダ
23 スクリュ
24 ノズル
27 スクリュ圧力計測装置
28 ノズル圧力計測装置
30 金型
33 流路圧力計測装置
61 出力部
C 成形品キャビティ
P 樹脂流路
P1 スプール
P2 ランナ
P3 ゲート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25