(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】追跡装置、追跡方法、追跡プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/04 20060101AFI20241217BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241217BHJP
G01S 17/66 20060101ALI20241217BHJP
G01S 17/86 20200101ALI20241217BHJP
G01S 13/72 20060101ALI20241217BHJP
G01S 13/86 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60W40/04
B60W60/00
G01S17/66
G01S17/86
G01S13/72
G01S13/86
(21)【出願番号】P 2021082666
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】新井 健太郎
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-096521(JP,A)
【文献】国際公開第2021/075349(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/075331(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111667512(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112099378(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110861651(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/04
B60W 60/00
G01S 17/66
G01S 17/86
G01S 13/72
G01S 13/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ(12)を有し、外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して前記移動体を追跡する追跡装置であって、
前記プロセッサは、
観測時刻に観測された前記移動体の前記観測値を取得することと、
前記観測時刻における前記移動体の前記状態値を予測することにより、予測状態値を取得することと、
前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、前記観測時刻における前記状態値の真値を推定することとを、実行するように構成され、
前記真値を推定することは、
前記移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、前記外界センサ系からの各前記頂点毎の視認度に応じて設定することと、
各前記頂点での観測誤差を、前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値に基づき取得することと、
前記観測誤差の共分散を、各前記頂点毎の前記重み係数に基づき取得することとを、含む追跡装置。
【請求項2】
前記重み係数を設定することは、
前記視認度が高い前記頂点ほど、前記重み係数を小さく設定することを、含む請求項1に記載の追跡装置。
【請求項3】
前記重み係数を設定することは、
前記外界センサ系との間に遮蔽物標が存在する前記頂点に対して、前記重み係数を最大値に設定することを、含む請求項1又は2に記載の追跡装置。
【請求項4】
前記重み係数を設定することは、
前記外界センサ系のセンシングエリア外に存在する前記頂点に対して、前記重み係数を最大値に設定することを、含む請求項1~3のいずれか一項に記載の追跡装置。
【請求項5】
前記予測状態値を取得することは、
前記観測時刻よりも前の過去時刻に推定された前記真値に基づき、前記観測時刻における前記予測状態値を取得することを、含む請求項1~4のいずれか一項に記載の追跡装置。
【請求項6】
前記真値を推定することは、
拡張カルマンフィルタを用いた前記非線形フィルタリングにより、前記予測状態値を更新した前記真値を取得することを、含む請求項1~5のいずれか一項に記載の追跡装置。
【請求項7】
外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して前記移動体を追跡するために、プロセッサ(12)により推定される追跡方法であって、
観測時刻に観測された前記移動体の前記観測値を取得することと、
前記観測時刻における前記移動体の前記状態値を予測することにより、予測状態値を取得することと、
前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、前記観測時刻における前記状態値の真値を推定することとを、含み、
前記真値を推定することは、
前記移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、前記外界センサ系からの各前記頂点毎の視認度に応じて設定することと、
各前記頂点での観測誤差を、前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値に基づき取得することと、
前記観測誤差の共分散を、各前記頂点毎の前記重み係数に基づき取得することとを、含む追跡方法。
【請求項8】
記憶媒体(10)に記憶され、外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して前記移動体を追跡するために、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む追跡プログラムであって、
前記命令は、
観測時刻に観測された前記移動体の前記観測値を取得させることと、
前記観測時刻における前記移動体の前記状態値を予測させることにより、予測状態値を取得させることと、
前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、前記観測時刻における前記状態値の真値を推定させることとを、含み、
前記真値を推定させることは、
前記移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、前記外界センサ系からの各前記頂点毎の視認度に応じて設定させることと、
各前記頂点での観測誤差を、前記観測時刻における前記観測値及び前記予測状態値に基づき取得させることと、
前記観測誤差の共分散を、各前記頂点毎の前記重み係数に基づき取得させることとを、含む追跡プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体を追跡する追跡技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
外界センサ系による観測値に基づき移動体の状態値を時系列に推定して移動体を追跡する追跡技術は、広く知られている。追跡技術の一種として非特許文献1には、カルマンフィルタを用いたフィルタリングにより、移動体の状態値推定を時系列に繰り返す手法が、提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】3D Multi-Object Tracking: A Baseline and New Evaluation Metrics(URL:https://arxiv.org/pdf/1907.03961.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1の提案手法は、外界センサ系から移動体の全体が十分に観測されることを、前提としている。そのため、移動体のうち一部の観測が外界センサ系からは困難となる場合、推定される状態値が真値からずれてしまい、追跡精度の低下するおそれがあった。
【0005】
本開示の課題は、移動体に対する追跡精度を高める追跡装置を、提供することにある。本開示の別の課題は、移動体に対する追跡精度を高める追跡方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、移動体に対する追跡精度を高める追跡プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、
プロセッサ(12)を有し、外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して移動体を追跡する追跡装置であって、
プロセッサは、
観測時刻に観測された移動体の観測値を取得することと、
観測時刻における移動体の状態値を予測することにより、予測状態値を取得することと、
観測時刻における観測値及び予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、観測時刻における状態値の真値を推定することとを、実行するように構成され、
真値を推定することは、
移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、外界センサ系からの各頂点毎の視認度に応じて設定することと、
各頂点での観測誤差を、観測時刻における観測値及び予測状態値に基づき取得することと、
観測誤差の共分散を、各頂点毎の重み係数に基づき取得することとを、含む。
【0008】
本開示の第二態様は、
外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して移動体を追跡するために、プロセッサ(12)により推定される追跡方法であって、
観測時刻に観測された移動体の観測値を取得することと、
観測時刻における移動体の状態値を予測することにより、予測状態値を取得することと、
観測時刻における観測値及び予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、観測時刻における状態値の真値を推定することとを、含み、
真値を推定することは、
移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、外界センサ系からの各頂点毎の視認度に応じて設定することと、
各頂点での観測誤差を、観測時刻における観測値及び予測状態値に基づき取得することと、
観測誤差の共分散を、各頂点毎の重み係数に基づき取得することとを、含む。
【0009】
本開示の第三態様は、
記憶媒体(10)に記憶され、外界センサ系(2)による観測値に基づき移動体(3)の状態値を時系列に推定して移動体を追跡するために、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む追跡プログラムであって、
命令は、
観測時刻に観測された移動体の観測値を取得させることと、
観測時刻における移動体の状態値を予測させることにより、予測状態値を取得させることと、
観測時刻における観測値及び予測状態値を変数とした非線形フィルタリングにより、観測時刻における状態値の真値を推定させることとを、含み、
真値を推定させることは、
移動体をモデリングした矩形モデルにおける複数頂点毎の重み係数を、外界センサ系からの各頂点毎の視認度に応じて設定させることと、
各頂点での観測誤差を、観測時刻における観測値及び予測状態値に基づき取得させることと、
観測誤差の共分散を、各頂点毎の重み係数に基づき取得させることとを、含む。
【0010】
これら第一~第三態様によると、観測時刻における観測値及び予測状態値を変数とする非線形フィルタリングにより、観測時刻における状態値の真値が推定される。このとき、移動体をモデリングした矩形モデルにおける各頂点での観測誤差が、観測時刻における観測値及び予測状態値に基づき取得されると共に、それら各頂点毎の重み係数に基づき当該観測誤差の共分散が取得される。そこで、各頂点毎に外界センサ系からの視認度に応じて重み係数を設定する第一~第三態様によれば、状態値の真値推定に当該視認度が反映され得る。故に、状態値の真値を精確に推定して、移動体に対する追跡精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態による追跡装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態による観測値及び矩形モデルを説明するための模式図である。
【
図3】一実施形態による追跡装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態による追跡方法を示すフローチャートである。
【
図5】一実施形態による予測状態値及び矩形モデルを説明するための模式図である。
【
図6】一実施形態による推定処理を示すフローチャートである。
【
図7】一実施形態による重み設定例を示す模式図である。
【
図8】一実施形態による重み設定サブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように一実施形態による追跡装置1は、外界センサ系2による観測値に基づき移動体3の状態値を時系列に推定することで、移動体3を追跡する。そのために追跡装置1は、外界センサ系2と共に、車両4に搭載される。
【0014】
車両4には、手動運転モードとの間での切り替えにより一時的に、又は当該切り替えが実質実行されずに定常的に、自動運転モードが与えられる。自動運転モードは、条件付運転自動化、高度運転自動化、又は完全運転自動化といった、作動時のシステムが全ての運転タスクを実行する自律走行制御により、実現されてもよい。自動運転モードは、運転支援、又は部分運転自動化といった、乗員が一部若しくは全ての運転タスクを実行する高度運転支援制御により、実現されてもよい。自動運転モードは、それら自律走行制御と高度運転支援制御とのいずれか一方、組み合わせ、又は切り替えにより実現されてもよい。
【0015】
外界センサ系2は、車両4の外界に設定されるセンシングエリアAS内を観測することで、当該センシングエリアASでの観測値を出力する。外界センサ系2は、例えLiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、カメラ、又はそれらセンシングデバイスのうち少なくとも二種類のフュージョンにより、構成される。
【0016】
外界センサ系2は、所定の追跡周期で観測を繰り返すように、制御される。センシングエリアAS内に移動体3が存在する場合に外界センサ系2からは、当該移動体3に対する観測時刻kでの観測値z
kが、そうした追跡周期毎に出力される。ここで観測値z
kは、
図2に模式的に示す物理量を用いた数1により、定義される。数1においてx,yは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、それぞれ横方向中心位置及び縦方向中心位置である。数1においてθは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、横方向に対する方位角である。数1においてl,wは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、それぞれ前後方向長さ及び左右方向幅である。
【数1】
【0017】
図1に示す追跡装置1は、例えばLAN(Local Area Network)、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち、少なくとも一種類を介して外界センサ系2と接続される。追跡装置1は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成される。追跡装置1を構成する専用コンピュータは、車両4の自動運転モードを含む運転制御を担う、運転制御ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。追跡装置1を構成する専用コンピュータは、車両4の自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。追跡装置1を構成する専用コンピュータは、車両4の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。追跡装置1を構成する専用コンピュータは、例えば車両4との間で通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構築する、少なくとも一つの外部コンピュータであってもよい。
【0018】
追跡装置1を構成する専用コンピュータは、メモリ10及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ有している。メモリ10は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも一種類をコアとして含む。
【0019】
プロセッサ12は、メモリ10に記憶された追跡プログラムに含まれる複数の命令を、実行する。これにより追跡装置1は、移動体3を追跡するための機能ブロックを、複数構築する。このように追跡装置1では、移動体3を追跡するためにメモリ10に記憶された追跡プログラムが複数命令をプロセッサ12に実行させることで、複数機能ブロックが構築される。
図3に示すように、追跡装置1により構築される複数の機能ブロックには、予測ブロック100、観測ブロック110、及び推定ブロック120が含まれる。
【0020】
これら予測ブロック100、観測ブロック110、及び推定ブロック120の共同により、追跡装置1が移動体3を追跡する追跡方法のフローを、
図4に従って以下に説明する。本フローは、追跡周期毎に実行される。尚、本フローにおいて「S」とは、追跡プログラムに含まれた複数命令により実行される、複数ステップをそれぞれ意味する。
【0021】
追跡方法のS100において予測ブロック100は、観測時刻kにおける移動体3の状態値を予測することで、
図3に示す予測状態値Z
k|k-1及びその誤差共分散P
k|k-1を取得する。ここで予測状態値Z
k|k-1は、
図5に模式的に示す物理量を用いた数2により、定義される。数2においてX,Yは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、それぞれ横方向中心位置及び縦方向中心位置である。数2においてΘは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、横方向に対する方位角である。数2においてL,Wは、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、それぞれ前後方向長さ及び左右方向幅である。数2においてVx,Vy(
図5での表示は省略)は、観測空間に定義される直交座標系での移動体3の、それぞれ横方向速度及び縦方向中心速度である。
【数2】
【0022】
S100における予測ブロック100は、観測時刻kよりも前の過去時刻k-1において推定ブロック120により真値として推定された状態値となる推定状態値Z
k-1|k-1、及びその誤差共分散P
k-1|k-1に対して、時刻変換後の時間更新演算を実行することで、予測状態値Z
k|k-1を予測的に取得する。このとき予測状態値Z
k|k-1及び誤差共分散P
k|k-1は、過去時刻k-1での推定状態値Z
k-1|k-1及び誤差共分散P
k-1|k-1をそれぞれ用いて、数3~5により取得される。ここで数4におけるQは、システムノイズ(プロセスノイズ)の共分散行列である。
【数3】
【数4】
【数5】
【0023】
図4に示す追跡方法のS110において観測ブロック110は、観測時刻kにおける移動体3の
図3に示す観測値z
kを、外界センサ系2から取得する。S110による観測値z
kの取得は、外界センサ系2から観測値z
kが出力されるのに伴って実行されてもよいし、当該出力の観測値z
kがメモリ10に一旦バッファリングされてから実行されてもよい。また、こうしたS110による観測値z
kの取得は、S100による予測状態値Z
k|k-1の取得に対して、並列的(即ち、同時的)に実行されてもよいし、時間を前後して実行されてもよい。
【0024】
図4に示す追跡方法のS120において推定ブロック120は、観測時刻kにおける移動体3の状態値を推定することで、
図3に示す当該状態値の真値としての推定状態値Z
k|k及びその誤差共分散P
k|kを取得する。このとき推定状態値Z
k|k及び誤差共分散P
k|kは、観測時刻kでの観測値z
k及び予測状態値Z
k|k-1を変数として観測更新演算をする非線形フィルタリングによって、取得される。
【0025】
具体的にS120における推定ブロック120は、
図6に示す推定処理を、実行する。推定処理のS200において推定ブロック120は、
図2,5,7に示すように移動体3を矩形に模式化してモデリングした矩形モデルMにおける複数頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
br毎に、それぞれ重み係数s
fl,s
bl,s
fr,s
brを設定する。
【0026】
このときS200における推定ブロック120は、外界センサ系2からの各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
br毎の視認度ω
fl,ω
bl,ω
fr,ω
brに応じて、それぞれの重み係数s
fl,s
bl,s
fr,s
brを設定するように、
図8に示す重み設定サブルーチンを実行する。本サブルーチンは、頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brの数に対応した回数分、繰り返し実行される。そこで、頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brのうち、本サブルーチンにおいて各回の実行対象となる頂点を、対象頂点mという。尚、本サブルーチンの説明では、
図7に基づく一部の例示説明を除き、各種変数に下付き文字で示されるサフィックスとして、移動体3の左前方、左後方、右前方、右後方をそれぞれ示すfl,bl,fr,brの表記が、例えば対象頂点mの如く省略されている。
【0027】
図8に示す重み設定サブルーチンのS300において推定ブロック120は、外界センサ系2の観測原点Oと対象頂点mとの間に、
図7に示すような遮蔽物標STが存在するか否かを判定する。ここで遮蔽物標STは、右後方頂点m
brに関する
図7の例示の如く、観測原点Oと対象頂点m(同図ではm
br)との間を結ぶ線分上に、移動体3とは別個に存在する物体であってもよい。遮蔽物標STは、右前方頂点m
frに関する
図7の例示の如く、観測原点Oと対象頂点m(同図ではm
fr)との間を結ぶ線分上に存在する、矩形モデルMの一辺に対応した移動体3の構成部分であってもよい。尚、観測原点Oは、外界センサ系2を構成する単一センサデバイスに設定されるセンシング原点であってもよいし、外界センサ系2を構成する複数センサデバイスのフュージョンによって観測空間に想定される空間原点であってもよい。
【0028】
図8に示すように、S300において遮蔽物標STが存在するとの判定を下した場合には、重み設定サブルーチンがS310へ移行することで、推定ブロック120が視認度ωを最低値に設定する。ここで
図7の例示の場合には、遮蔽物標STに隠れた右後方頂点m
br及び右前方頂点m
frの視認度ω
br,ω
frが、最低値としての「0」に設定される。
【0029】
図8に示すように、S300において遮蔽物標STが存在しないとの判定を下した場合には、重み設定サブルーチンがS320へ移行することで、対象頂点mが外界センサ系2のセンシングエリアAS外に存在するか否かを、推定ブロック120が判定する。その結果、対象頂点mはセンシングエリアAS外に存在するとの判定が下された場合には、重み設定サブルーチンがS310へ移行することで、推定ブロック120が視認度ωを最低値に設定する。尚、センシングエリアASは、外界センサ系2を構成する単一センサデバイスに設定される視野角であってもよいし、外界センサ系2を構成する複数センサデバイスの視野角同士での重複エリアであってもよい。
【0030】
S320において対象頂点mはセンシングエリアAS外に存在しないとの判定を下した場合には、重み設定サブルーチンがS330へ移行することで、推定ブロック120が視認判定角φを取得する。ここで
図7に示すように視認判定角φは、対象頂点mにおいて対象頂点mに接続されている二辺と、観測原点O及び対象頂点m間を結ぶ線分との、なす角のうち最小角度に定義される。ここで、左後方頂点m
blに関する
図7の例示では最小角度φ
bl、また左前方頂点m
flに関する
図7の例示では最小角度φ
flが、それぞれ視認判定角φに対応する。
【0031】
図8に示すように、S330に続く重み設定サブルーチンのS340において推定ブロック120は、視認判定角φが90度超過であるか否かを、判定する。その結果、視認判定角φが90度超過である場合には、重み設定サブルーチンがS350へ移行することで、推定ブロック120が視認度ωを最高値に設定する。一方、視認判定角φが90度以下である場合には、重み設定サブルーチンがS360へ移行することで、最低値以上且つ最高値以下となる視認度ωを、推定ブロック120が数6により設定する。ここで、左後方頂点m
blに関する
図7の例示では90度超過の視認判定角φ
blにより視認度ω
blが最高値としての「1」に設定される一方、左前方頂点m
flに関する
図7の例示では90度以下の視認判定角φ
flにより視認度ω
flが数6での演算値(sinφ
fl)に設定される。
【数6】
【0032】
図8に示すように、S310,S350,S360に続く重み設定サブルーチンのS370において推定ブロック120は、視認度ωが最小値としての「0」であるか否かを、判定する。その結果、視認度ωが0である場合には、重み設定サブルーチンがS380へ移行することで、推定ブロック120が重み係数sを最大値s
maxに設定する。一方、視認度ωが0でない場合には、重み設定サブルーチンがS390へ移行することで、視認度ωの逆数(1/ω)と、最大値s
maxとうち小さい側の値に、推定ブロック120が重み係数sを設定する。特に、重み係数sが視認度ωの逆数に設定される場合、視認度ωが高い頂点mほど、重み係数sが小さく設定されることになる。
【0033】
ここで、遮蔽物標STに隠れた右後方頂点m
br及び右前方頂点m
frに関する
図7の例示では、重み係数sが最大値s
maxに設定される。一方、左後方頂点m
bl及び左前方頂点m
flに関する
図7の例示では、視認度ωとしての最高値又は数6での演算値に対する逆数(1又は1/sinφ
fl)と、最大値s
maxとのうち小側の値に、設定されている。尚、重み係数sの最大値s
maxは、後述する観測誤差e
newの共分散S
newが非線形フィルタリングによって無限大となることを回避可能なガード値に、「1」よりは大きく定義される。
【0034】
このようなS200による重み設定サブルーチンが全頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brに対して完了することで、
図6に示ように推定処理がS210へ移行する。S210において推定ブロック120は、各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brでの観測誤差e
newを、観測時刻kにおける観測値z
k及び予測状態値Z
k|k-1に基づき取得する。
【0035】
このときS210における推定ブロック120は、数7の非線形関数h
new及び数8~11の行列変換関数により観測値z
kの物理量x,y,θ,l,wを、矩形モデルMの各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brに対して展開した、展開観測値z
newへと変換する。ここで数8~11においてx
fl,x
bl,x
fr,x
brは、
図2に示すように観測値z
kの横方向位置xを各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brへ展開した、展開観測値z
newを構成する位置座標となる。数8~11においてy
fl,y
bl,y
fr,y
brは、
図2に示すように観測値z
kの縦方向位置yを各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brへ展開した、展開観測値z
newを構成する位置座標となる。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0036】
S210における推定ブロック120は、数12の非線形関数h
new及び数13~16の行列変換関数により予測状態値Z
k|k-1の物理量X,Y,Θ,L,Wを、矩形モデルMの各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brに対して展開した、展開状態値Z
newへと変換する。ここで数13~16においてX
fl,X
bl,X
fr,X
brは、
図5に示すように予測状態値Z
k|k-1の横方向位置Xを各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brへ展開した、展開状態値Z
newを構成する位置座標となる。数13~16においてY
fl,Y
bl,Y
fr,Y
brは、
図5に示すように予測状態値Z
k|k-1の縦方向位置Yを各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
brへ展開した、展開状態値Z
newを構成する位置座標となる。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【0037】
S210における推定ブロック120では、このようにして変換された展開観測値z
new及び展開状態値Z
newを用いる数17により、
図6の如く観測誤差e
newが取得されることとなる。
【数17】
【0038】
S210に続く推定処理のS220において推定ブロック120は、観測誤差e
newの共分散S
newを、各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
br毎の重み係数s
fl,s
bl,s
fr,s
brに基づき取得する。このとき推定ブロック120は、重み係数s
fl,s
bl,s
fr,s
brを用いた数18により、各頂点m
fl,m
bl,m
fr,m
br毎に重み付けされた、観測誤差e
newの8×8共分散行列R
newを取得する。ここで数18のR’は、横方向位置及び縦方向位置に対する共分散行列であって、予設定により調整可能な調整パラメータである。さらに推定ブロック120は、数12の非線形関数に対する偏微分行列(ヤコビアン)H
newを、数19により取得する。こうして推定ブロック120では、観測誤差e
newの共分散行列R
new及び偏微分行列H
newと共に、予測状態値Z
k|k-1の誤差共分散P
k|k-1を用いた数20により、観測誤差e
newの共分散S
newが取得される。
【数18】
【数19】
【数20】
【0039】
S220に続く推定処理のS230において推定ブロック120は、拡張カルマンフィルタを用いた非線形フィルタリングにより、予測状態値Z
k|k-1を更新した真値としての推定状態値Z
k|kを、その誤差共分散P
k|kと共に取得する。このとき推定ブロック120は、観測誤差e
newの共分散S
new及び偏微分行列H
newと共に、予測状態値Z
k|k-1の誤差共分散P
k|k-1を用いた数21により、拡張カルマンフィルタのカルマンゲインK
newを取得する。これにより推定ブロック120では、カルマンゲインK
new及び観測誤差e
newと共に、予測状態値Z
k|k-1を用いた数22により、推定状態値Z
k|kが取得される。さらに推定ブロック120では、カルマンゲインK
new及び偏微分行列H
newと共に、予測状態値Z
k|k-1の誤差共分散P
k|k-1を用いた数23により、推定状態値Z
k|kの誤差共分散P
k|kが取得される。ここで数23のIは、単位行列である。
【数21】
【数22】
【数23】
【0040】
図4に示すように、今回の追跡周期での追跡方法により取得された最新の観測時刻kにおける推定状態値Z
k|kは、運転制御ECUへ出力されることで、車両4の自動運転モードを含む運転制御に活用される。また、今回の追跡周期での追跡方法により取得された観測時刻kにおける推定状態値Z
k|kは、次回の追跡周期での追跡方法では過去時刻k-1における推定状態値Z
k-1|k-1として、予測ブロック100によるS100での予測に使用される。
【0041】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。尚、作用効果の説明では、各種変数に下付き文字で示されるサフィックスとして、移動体3の左前方、左後方、右前方、右後方をそれぞれ示すfl,bl,fr,frの表記が、省略されている。
【0042】
本実施形態によると、観測時刻kにおける観測値zk及び予測状態値Zk|k-1を変数とする非線形フィルタリングにより、観測時刻kにおける状態値の真値が推定される。このとき、移動体3をモデリングした矩形モデルMにおける各頂点mでの観測誤差enewが、観測時刻kにおける観測値zk及び予測状態値Zk|k-1に基づき取得されると共に、それら各頂点m毎の重み係数sに基づき当該観測誤差enewの共分散Snewが取得される。そこで、各頂点毎に外界センサ系2からの視認度ωに応じて重み係数sを設定する本実施形態によれば、状態値の真値推定に当該視認度ωが反映され得る。故に、状態値の真値である推定状態値Zk|kを精確に推定して、移動体3に対する追跡精度を高めることが可能となる。
【0043】
本実施形態によると、視認度ωが高い頂点mほど、重み係数sが小さく設定される。これによれば、外界センサ系2から高い視認度ωの頂点mに関しては、共分散Snewの行列成分が小さくなることで、状態値の真値推定に対する寄与度が高くなる。故に、外界センサ系2からの視認度ωを反映させた精確な真値としての推定状態値Zk|kを推定して、移動体3に対する追跡精度を高めることが可能となる。
【0044】
本実施形態によると、外界センサ系2との間に遮蔽物標STが存在する頂点mに対して、重み係数sが最大値smaxに設定される。これによれば、遮蔽物標STに隠れるために外界センサ系2からの視認度ωが実質零と想定される頂点mに関しては、共分散Snewの行列成分が大きくなることで、状態値の真値推定に対する寄与度が低くなる。故に、外界センサ系2からの視認度ωを反映させた精確な真値としての推定状態値Zk|kを推定して、移動体3に対する追跡精度を高めることが可能となる。
【0045】
本実施形態によると、外界センサ系2のセンシングエリアAS外に存在する頂点mに対して、重み係数sが最大値smaxに設定される。これによれば、センシングエリアAS外のために外界センサ系2からの視認度ωが実質零と想定される頂点mに関しては、共分散Snewの行列成分が大きくなることで、状態値の真値推定に対する寄与度が低くなる。故に、外界センサ系2からの視認度ωを反映させた精確な真値としての推定状態値Zk|kを推定して、移動体3に対する追跡精度を高めることが可能となる。
【0046】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0047】
変形例において追跡装置1を構成する専用コンピュータは、デジタル回路、及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして含んでいてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0048】
変形例による追跡装置、追跡方法、及び追跡プログラムは、車両以外へ適用されてもよい。この場合、特に車両以外へ適用される追跡装置は、外界センサ系2と同一の適用対象に搭載又は設置されていてもよいし、外界センサ系2と異なる適用対象に搭載又は設置されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
2:外界センサ系、3:移動体、10:メモリ、12:プロセッサ