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特許7605027液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、並びに重合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、並びに重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241217BHJP
   C08F 222/22 20060101ALI20241217BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
C08F222/22
C08F8/32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021092614
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184644
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 陽一
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0138548(KR,A)
【文献】国際公開第2019/193854(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/186190(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/202853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08F 222/22
C08F 8/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位、及び下記式(5)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を有する重合体(P)を含有し、
前記重合体(P)は、環状カーボネート構造を有する構造単位を含む、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)~式(5)中、X及びXのうち一方は、下記式(6)で表される1価の基であり、他方は-ORである。Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。「*1」は、重合体の主鎖を構成する原子に結合する結合手であることを表す。)
【化2】
(式(6)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【請求項2】
前記Rは、塩基性基、加熱により塩基性基を発生する基、酸性基、加熱により酸性基を発生する基、架橋性基、加熱により架橋性基を発生する基、光配向性基、垂直配向性基、光開始剤基、電子輸送性基、及び正孔輸送性基よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(P)は、-COOR(ただし、Rは1価の熱脱離性基である)を有する構造単位を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(P)は、下記式(8-1)で表される化合物、下記式(8-2)で表される化合物、N-置換芳香族マレイミド化合物、オレフィン系炭化水素、及び加熱によりイソシアネート基を発生する(メタ)アクリル化合物よりなる群から選択される単量体に由来する構造単位を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(8-1)中、R18は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。Arは2価の芳香環基である。R19は、水素原子又は1価の有機基である。式(8-2)中、Rは1価の置換基である。tは0~3の整数である。rは0又は1である。)
【請求項5】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項7】
請求項に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項8】
下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位、及び下記式(5)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種と、環状カーボネート構造を有する構造単位とを有する重合体。
【化4】
(式(1)~式(5)中、X及びXのうち一方は、下記式(6)で表される1価の基であり、他方は-ORである。Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。「*1」は、重合体の主鎖を構成する原子に結合する結合手であることを表す。)
【化5】
(式(6)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、並びに重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶配向膜の重合体成分としては、耐熱性が高い等の理由からポリイミドが一般に使用されている。その一方で、ポリイミドは溶剤に対する溶解性が低く、そのため、比較的大きな疎水性基(メソゲン構造等)を重合体側鎖に導入した場合に溶解性が十分でなく、塗布性が低下することが考えられる。そこで、ポリイミドの代替として、アクリル系ポリマーやスチレン-マレイミド系ポリマーを液晶配向膜の材料として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/074547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶素子は液晶テレビからスマートフォンやタブレッドPC等といった小型表示装置まで幅広い範囲の用途に適用されている。こうした多用途化に伴い、液晶素子は従来よりも長時間駆動されるようになり、より過酷な温度条件で使用されることが想定される。さらに、液晶素子の高精細化に伴い、より高い塗布均一性が求められるとともに、塗布不良等により薄膜となった場合でも、良好な液晶配向性を安定して示すことができる液晶配向膜が求められている。
【0005】
液晶配向膜は、通常、重合体成分を溶剤に溶解又は分散した液晶配向剤を基板上に塗布し、高温(例えば200~250℃)で加熱することにより基板上に形成される。一方、重合体成分の耐熱性が十分でない場合、膜形成時の加熱処理によって重合体成分が熱分解し、熱分解によって生じた成分が不純物となることによって電気特性が低下したりする等、信頼性が低下することが懸念される。近年の更なる高品質化の観点からすると、液晶配向剤には、膜形成時の加熱による分解物が少なく、また液晶素子を長時間駆動した場合にも性能を維持できる、すなわち耐熱性に対する信頼性が高いとともに、塗布不良等により膜厚が薄くなった場合にも良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を形成できることが求められる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性に対する信頼性が高く、かつ塗布不良等により液晶配向膜の膜厚が薄くなった場合にも液晶配向性が良好な液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、液晶配向剤の重合体成分に対し、膜形成時の加熱より耐熱性の高い閉環構造に転化するとともに、閉環構造への転化率が高く、かつ逆反応が起きにくい構造を導入することに着目した。具体的には、本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位、及び下記式(5)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を有する重合体(P)を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)~式(5)中、X及びXのうち一方は、下記式(6)で表される1価の基であり、他方は-ORである。Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。「*1」は、重合体の主鎖を構成する原子に結合する結合手であることを表す。)
【化2】
(式(6)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0009】
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] 上記式(1)で表される構造単位、上記式(2)で表される構造単位、上記式(3)で表される構造単位、上記式(4)で表される構造単位、及び上記式(5)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を有する重合体。
【0010】
[5] 下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、下記式(13)で表される化合物及び下記式(14)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を有する重合体(x)と、下記式(15)で表される化合物(y)とを反応させる工程と、前記重合体(x)と前記化合物(y)との反応生成物と、エステル化剤とを反応させる工程と、を含む、重合体の製造方法。
【化3】
(式(11)中、nは0又は1である。式(13)及び式(14)中、Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。)
【化4】
(式(15)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。)
【発明の効果】
【0011】
上記重合体(P)を含有する液晶配向剤によれば、耐熱性に対する信頼性が高く、かつ塗布不良等により液晶配向膜の膜厚が薄くなった場合にも良好な液晶配向性を安定して示す液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。重合体の「主鎖」とは、重合体の原子鎖のうち最も長い「幹」の部分をいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0013】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、下記の重合体(P)を含有する。
重合体(P):下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位、及び下記式(5)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種の構造単位(以下、「構造単位U1」ともいう)を有する重合体
【化5】
(式(1)~式(5)中、X及びXのうち一方は、下記式(6)で表される1価の基であり、他方は-ORである。Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。「*1」は、重合体の主鎖を構成する原子に結合する結合手であることを表す。)
【化6】
(式(6)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0014】
<重合体(P)>
(構造単位U1)
上記式(1)~式(5)において、X及びXのうち一方は、上記式(6)で表される1価の基である。上記式(6)において、Rで表される炭素数1以上の1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基が更に好ましい。Rで表される基は、中でも、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0015】
で表されるアルカンジイル基は、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。液晶素子を長時間駆動した場合にも性能を維持でき(すなわち、長期耐熱性が高く)、かつAC残像特性が良好な液晶素子を得る観点から、Rは中でも、上記式(6)中の窒素原子に対してメチレン基(-CH-)で結合する基であることが好ましい。具体的には、Rは、炭素数1~5の直鎖状アルカンジイル基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状アルカンジイル基であることがより好ましく、メチレン基又はエチレン基であることが更に好ましい。
【0016】
で表される1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の炭化水素基、1価の炭化水素基における任意のメチレン基が、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR10-、-NR10-CO-、-NR10-COO-及び-N=N-よりなる群から選択される1種以上で置き換えられた炭素数1~20の1価の基(以下、「1価の基R」ともいう)、炭化水素基又は1価の基Rが有する任意の水素原子がフッ素原子、水酸基、シアノ基、カルボキシ基等で置換された炭素数1~20の1価の基、複素環を有する1価の基等が挙げられる。R10は、水素原子又は1価の有機基である。R10で表される1価の有機基としては、炭素数1~6のアルキル基、フェニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0017】
で表される1価の有機基は特に、塩基性基、加熱により塩基性基を発生する基、酸性基、加熱により酸性基を発生する基、架橋性基、加熱により架橋性基を発生する基、光配向性基、垂直配向性基、光開始剤基、電子輸送性基、及び正孔輸送性基よりなる群から選択される少なくとも1種の機能性基を含む基であることが好ましい。
【0018】
・塩基性基及び加熱により塩基性基を発生する基
で表される1価の有機基が、塩基性基及び加熱により塩基性基を発生する基を有する場合、当該塩基性基としては窒素含有基を挙げることができる。窒素含有基の具体例としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び窒素含有複素環基等が挙げられる。Rで表される1価の有機基が、塩基性基及び加熱により塩基性基を発生する基を有する場合の具体例としては、下記式(r1-1)~式(r1-4)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化7】
(式(r1-1)~式(r1-4)中、PGは1価の熱脱離性基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0019】
上記式(r1-2)で表される基は、加熱により基PGが脱離することにより塩基性基を発生する。液晶配向剤を基板に塗布し加熱して液晶配向膜を形成する過程において基PGを脱離させ、これによりプロセスの簡略化を図る観点から、基PGは、120~300℃の温度において分解し、水素原子に置き換わる基であることが好ましい。具体的には、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0020】
・酸性基及び加熱により酸性基を発生する基
で表される1価の有機基が、酸性基及び加熱により酸性基を発生する基を有する場合、当該酸性基としては、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基及びアミド酸基等が挙げられる。これらのうち、Rが有する酸性基は、カルボン酸基又はアミド酸基であることが好ましい。Rで表される1価の有機基が、酸性基及び加熱により酸性基を発生する基を有する場合の好ましい具体例としては、下記式(r2-1)~式(r2-4)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化8】
(式(r2-1)~式(r2-4)中、R11は水素原子又はアルキル基である。PGは、1価の熱脱離性基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0021】
上記式(r2-2)及び式(r2-4)のそれぞれで表される基は、加熱により基PGが脱離することにより酸性基を発生する。基PGは、上記式(r2-2)中の酸素原子又は上記式(r2-4)中の窒素原子に対し3級炭素原子で結合する基等を挙げることができる。具体的には、例えばtert-ブチル基、1-シクロペンチルエチル基、1-シクロヘキシルエチル基、1-ノルボルニルエチル基、1-フェニルエチル基等が挙げられる。
【0022】
・架橋性基及び加熱により架橋性基を発生する基
で表される1価の有機基が、架橋性基及び加熱により架橋性基を発生する基を有する場合、当該架橋性基としては、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基、ビニルフェニル基、β-ヒドロキシアミド基、フリル基、エポキシ基、環状カーボネート基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、トリアルコキシシリル基、マレイミド基等が挙げられる。Rで表される1価の有機基が、架橋性基及び加熱により架橋性基を発生する基を有する場合の具体例としては、下記式(r3-1)~式(r3-9)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化9】
(式(r3-1)~式(r3-9)中、R12は水素原子又はアルキル基である。R13は水素原子又はメチル基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0023】
・光配向性基
光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応又は光分解反応等の光反応によって膜に異方性を付与可能な官能基をいう。
【0024】
光配向性基の具体例としては、例えば、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造、スチルベン又はその誘導体を基本骨格とするスチルベン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基等が挙げられる。これらのうち、光配向性基は、アゾベンゼン含有基、桂皮酸構造含有基、カルコン含有基、スチルベン含有基、シクロブタン含有構造、及びフェニルベンゾエート含有基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、光に対する感度が高い点及び重合体中に導入しやすい点で、桂皮酸構造含有基又はアゾベンゼン含有基であることが特に好ましい。
【0025】
光配向性基の具体例としては、例えば下記式(r4-1)~式(r4-4)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【化10】
(式(r4-1)~式(r4-4)中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。Xは、-O-又は-NH-である。「*」は結合手であることを表す。)
【0026】
・垂直配向性基
垂直配向性基は、光照射によらずに液晶分子を垂直配向させる性質を示す基であり、液晶にプレチルト角を付与する基である。垂直配向性基の具体例としては、例えば炭素数3~30のアルキル基、炭素数3~30のフッ素含有アルキル基、炭素数3~30のアルコキシ基、下記式(9)で表される基、及びステロイド骨格を有する炭素数17~51の基等が挙げられる。
【化11】
(式(9)中、A~Aは、それぞれ独立に、フェニレン基又はシクロへキシレン基であり、環部分に置換基を有していてもよい。R21は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~20のアルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~20のアルコキシ基、又はフッ素原子であり、R22及びR23は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-COO-、-OCO-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。k、m及びnは、1≦k+m+n≦4を満たす0以上の整数である。R21が水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はフッ素原子の場合、k+m+n≧2を満たす。「*」は結合手であることを表す。)
【0027】
上記式(9)で表される基の具体例としては、例えば下記式(r5-1)~式(r5-7)のそれぞれで表される基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。A~Aが環部分に有していてもよい置換基としては、例えばフッ素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。
【化12】
(式(r5-1)~式(r5-7)中、Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数1~20のフルオロアルキル基である。「*」は結合手を示す。)
【0028】
・光開始剤基
光開始剤基は、光により重合開始能を生じる部位又は光増感作用を持つ部位であり、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等の放射線の照射により重合性成分の重合を開始可能な化合物(光開始剤)に由来する構造を有する基である。光開始剤基は、光照射によってラジカルを発生可能なラジカル重合開始剤に由来する構造を有する基であることが好ましい。具体的には、例えばアルキルフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ケタール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、及びアントラキノン系化合物等のラジカル発生基含有化合物に由来する構造を有する基が挙げられる。
【0029】
光開始剤基の具体例としては、例えば下記式(r6-1)~式(r6-11)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【化13】
(式(r6-1)~式(r6-11)中、Rは、水素原子又はアルキル基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0030】
・電子輸送性基及び正孔輸送性基
電子輸送性基としては、例えば、イミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、オキサジアゾール環、トリアジン環、トリアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環等の環構造を有する基が挙げられる。
正孔輸送性基としては、例えば、芳香族アミン構造(トリフェニルアミン構造、ジフェニルアミン構造等)、カルバゾール環、チオフェン環等を有する基が挙げられる。
【0031】
及びXのうち他方は-ORである。Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。塗布不良等により液晶配向膜が薄膜となった場合にも液晶配向性が安定しており、AC残像の発生を十分に低減できる点において、Rは、炭素数1以上の1価の有機基であることが好ましい。1価の有機基としては、Rで表される1価の有機基として例示した基と同様の基が挙げられる。Rが炭素数1以上の1価の有機基であると、ポストベーク時の逆反応による上記式(6)の脱離を抑制でき、液晶配向膜が薄膜となった場合にもAC残像の発生を抑制できる点で好適である。また、重合体(P)と共に他の重合体を液晶配向剤に含有させた場合に相分離性を担保することが可能となる点において好適である。これらの中でも、側鎖の構造安定性の観点から、Rは、炭素数1~10の1価の炭化水素基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。
【0032】
なお、上記式(1)~式(5)のうち上記式(1)は、2つの基「-CO-X」及び基「-CO-X」が特定の異性体構造を取り、同じ側に2つの基が存在している。これに対し、上記式(2)~式(5)は、2つの基「-CO-X」及び基「-CO-X」の異性体構造を特定するものではない。
【0033】
重合体(P)は、耐熱性の観点、及び上記式(6)で表される基の側鎖への導入しやすさの観点から、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位を有する重合体であることが好ましい。重合体(P)を構成する、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する単量体の種類は特に限定されず、例えば、無水マレイン酸化合物、(メタ)アクリル化合物、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物、オレフィン系炭化水素、シクロオレフィン系炭化水素等が挙げられる。上記式(1)~式(5)中の「*1」は、好ましくは、重合体の主鎖を構成する炭素原子に結合する結合手である。
【0034】
重合体(P)における構造単位U1の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましい。また、重合体(P)における構造単位U1の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましい。構造単位U1の含有量が上記範囲であると、膜形成時の加熱を比較的長時間行った場合にも電圧保持率を高く保持でき、塗布不良等により液晶配向膜の膜厚が薄くなった場合にも残像が生じにくく、かつ長期耐熱性の改善効果を十分に得ることができる点で好適である。
【0035】
(その他の構造単位)
重合体(P)は、構造単位U1のみからなる重合体であってもよいが、構造単位U1と共に、構造単位U1とは異なるその他の構造単位を有していてもよい。その他の構造単位としては、上記式(6)で表される構造単位を有しない構造単位を用いることができる。具体的には、環状カーボネート構造を有する構造単位U2;-COOR(ただし、Rは1価の熱脱離性基である)を有する構造単位U3;下記式(8-1)で表される化合物、下記式(8-2)で表される化合物、N-置換芳香族マレイミド化合物、オレフィン系炭化水素、及び加熱によりイソシアネート基を発生する化合物よりなる群から選択される単量体に由来する構造単位U4等が挙げられる。
【0036】
・構造単位U2
重合体(P)が構造単位U2を有する場合、加熱により(好ましくは、液晶配向剤を基板に塗布し加熱して液晶配向膜を形成する過程において)エポキシ基を生じさせることができる。この生成したエポキシ基が架橋性基として機能することにより、得られる液晶素子につき、長期耐熱性の改善効果をより高くできる点で好適である。
【0037】
構造単位U2は、重合性炭素-炭素不飽和結合と環状カーボネート基とを有する単量体に由来する構造単位であることが好ましい。具体的には、下記式(10-1)~式(10-3)のそれぞれで表される構造単位が挙げられる。
【化14】
(式(10-1)~式(10-3)中、R21、R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R24は、水素原子又はメチル基である。Zは、酸素原子又は-NH-である。Xは、単結合又は2価の連結基である。n1は0又は1である。n2は0~2の整数である。)
【0038】
重合体(P)における構造単位U2の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体(P)における構造単位U2の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、60モル%以下であることが好ましく、55モル%以下であることがより好ましい。構造単位U2の含有量が上記範囲であると、膜形成時の加熱処理の際に重合体の熱分解を十分に抑制できる点、塗布不良等により液晶配向膜の膜厚が薄くなった場合にも残像が生じにくい点、及び長期耐熱性の改善効果を十分に得ることができる点で好適である。重合体(P)は、構造単位U2を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0039】
・構造単位U3
重合体(P)が構造単位U3を有する場合、加熱により(好ましくは、液晶配向剤を基板に塗布し加熱して液晶配向膜を形成する過程において)カルボキシル基を生じさせることができる。この生成したカルボキシル基が架橋性基として機能することにより、得られる液晶素子につき、長期耐熱性の改善効果をより高くできる点で好適である。
【0040】
基「-COOR」の具体例としては、下記式(X-1)で表される構造、カルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造等が挙げられる。
【化15】
(式(X-1)中、R31、R32及びR33は、次の(i)又は(ii)である。(i)R31、R32及びR33は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基である。(ii)R31及びR32は、互いに合わせられR31及びR32が結合する炭素原子とともに構成される炭素数4~20の脂環式炭化水素構造又は環状エーテル構造を表す。R33は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基又は炭素数6~20のアリール基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0041】
上記式(X-1)で表される構造の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、1-シクロペンチルエトキシカルボニル基、1-シクロヘキシルエトキシカルボニル基、1-ノルボルニルエトキシカルボニル基、1-フェニルエトキシカルボニル基、1-(1-ナフチル)エトキシカルボニル基、1-ベンジルエトキシカルボニル基、1-フェネチルエトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0042】
カルボン酸のアセタールエステル構造の具体例としては、例えば、1-メトキシエトキシカルボニル基、1-エトキシエトキシカルボニル基、1-プロポキシエトキシカルボニル基、1-ブトキシエトキシカルボニル基、1-シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、2-テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基、1-フェノキシエトキシカルボニル基、2-テトラヒドロフラニルオキシカルボニル基、2-テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0043】
カルボン酸のケタールエステル構造の具体例としては、1-メチル-1-メトキシエトキシカルボニル基、1-メチル-1-エトキシエトキシカルボニル基、1-メチル-1-プロポキシエトキシカルボニル基、1-メチル-1-ブトキシエトキシカルボニル基、1-メチル-1-シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、2-(2-メチルテトラヒドロフラニル)オキシカルボニル基、2-(2-メチルテトラヒドロピラニル)オキシカルボニル基、1-メトキシシクロペンチルオキシカルボニル基、1-メトキシシクロヘキシルオキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0044】
構造単位U3は、重合性炭素-炭素不飽和結合と基「-COOR」とを有する単量体に由来する構造単位であることが好ましい。具体的には、下記式(7-1)~式(7-3)のそれぞれで表される構造単位が挙げられる。
【化16】
(式(7-1)~式(7-3)中、R41、R42及びR43は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R44は、水素原子又はメチル基である。Zは、酸素原子又は-NH-である。Xは、単結合又は2価の連結基である。Rは、1価の熱脱離性基である。m1は0又は1である。)
【0045】
重合体(P)における構造単位U3の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体(P)における構造単位U3の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、65モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましい。構造単位U3の含有量が上記範囲であると、膜形成時の加熱時に重合体が熱分解することを十分に抑制できる点、塗布不良等により液晶配向膜の膜厚が薄くなった場合にも残像が生じにくい点、及び長期耐熱性の改善効果を十分に得ることができる点で好適である。重合体(P)は、構造単位U3を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0046】
・構造単位U4
重合体(P)は、下記式(8-1)で表される化合物、下記式(8-2)で表される化合物、N-置換芳香族マレイミド化合物、オレフィン系炭化水素、及び加熱によりイソシアネート基を発生する(メタ)アクリル化合物よりなる群から選択される単量体に由来する構造単位U4(ただし、構造単位U1、構造単位U2及び構造単位U3を除く)を含んでいてもよい。重合体(P)が構造単位U4を含むことにより、側鎖の熱的安定性を更に確保でき、得られる液晶素子における長期耐熱性の改善効果をより高くできる点で好適である。
【化17】
(式(8-1)中、R18は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。Arは2価の芳香環基である。R19は、水素原子又は1価の有機基である。式(8-2)中、Rは1価の置換基である。tは0~3の整数である。rは0又は1である。)
【0047】
上記式(8-1)で表される化合物について、Arで表される芳香環基は、置換又は無置換の芳香環から2個の水素原子を取り除いてなる基である。当該芳香環としては、芳香族炭化水素環、芳香族窒素含有複素環が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香族窒素含有複素環としては、例えばピリジン環、ピペラジン感等が挙げられる。
19で表される1価の有機基としては、例えば、炭素数1~20の1価の炭化水素基、メソゲン構造を有する炭素数6~30の1価の有機基等が挙げられる。
18は、水素原子、炭素数1~5又はフェニル基が好ましい。
【0048】
上記式(8-1)で表される化合物の具体例としては、例えば、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、t-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、4-ビニルピリジン、下記式(8-1-1)及び式(8-1-2)
【化18】
(式(8-1-1)及び式(8-1-2)中、R20は水素原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルコキシ基である。)
のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【0049】
オレフィン系炭化水素としては、例えばエチレン、プロペン、ブテン、ペンテン等が挙げられる。上記式(8-2)で表される化合物としては、ノルボルネン、メチルノルボルネン等が挙げられる。
【0050】
N-置換芳香族マレイミド化合物は、マレイミドにおいて、窒素原子に結合する水素原子が、芳香環を有する1価の有機基で置換された化合物である。当該芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環が挙げられ、これらの環は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシ基等が挙げられる。
【0051】
N-置換芳香族マレイミド化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-エチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-(4-カルボキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。
【0052】
加熱によりイソシアネート基を発生する(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクロイルオキシエチルイソシアネートとマロン酸ジエチルとの反応生成物、(メタ)アクロイルオキシエチルイソシアネートと3,5-ジメチルピラゾールとの反応生成物、(メタ)アクロイルオキシエチルイソシアネートとメチルエチルケトオキシムとの反応生成物等が挙げられる。
【0053】
重合体(P)における構造単位U4の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体(P)における構造単位U4の含有量は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましい。構造単位U4の含有量が上記範囲であると、電気特性等を良好に維持したまま長期耐熱性をより優れたものとすることができる点で好適である。重合体(P)は、構造単位U4を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0054】
重合体(P)は、その他の構造単位として上記の他、構造単位U2~U4とは異なる構造単位を更に含んでいてもよい。その他の構造単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、共役ジエン化合物等が挙げられる。これらの構造単位の含有割合は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して、30モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましい。
【0055】
(重合体(P)の合成)
重合体(P)は、無水マレイン酸構造を有する構造単位を含む重合体と、反応性化合物として上記式(5)で表される部分構造を有する1級又は2級アミンとを反応させることにより得ることができる。より具体的には、以下の工程Aを含む方法により製造することができる。
工程A:下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、下記式(13)で表される化合物及び下記式(14)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「酸無水物基含有化合物」ともいう)に由来する構造単位U5を有する重合体(x)と、下記式(15)で表される化合物(y)とを反応させる工程
【化19】
(式(11)中、nは0又は1である。式(13)及び式(14)中、Aは、メチレン基、エチレン基、硫黄原子又は酸素原子である。mは1又は2である。)
【化20】
(式(15)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。Rはアルカンジイル基である。Rは炭素数1以上の1価の有機基である。)
【0056】
・酸無水物基含有化合物
重合体(x)の合成に際し、酸無水物基含有化合物を含む単量体を重合することにより、無水マレイン酸構造を有する重合体を得ることができる。酸無水物基含有化合物の好ましい具体例としては、下記式(16-1)~式(16-9)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化21】
【0057】
重合体(x)の合成に際し使用する酸無水物基含有化合物は、立体構造が規定され、ポストベークによりイミド環を形成しやすく、これにより長期耐熱性及び側鎖の構造安定性により優れた重合体(P)を得ることができる点で、中でも、上記式(16-1)、式(16-3)~式(16-8)のそれぞれで表される化合物が特に好ましい。なお、重合体(x)の合成に際し、酸無水物基含有化合物としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
・化合物(y)
化合物(y)は、上記機能性基を有する1級又は2級アミンであることが好ましい。化合物(y)の具体例としては、例えば下記式(17-1)~式(17-28)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、重合体(P)の製造に際し、化合物(y)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【0059】
重合体(x)の合成方法は特に限定されず、有機化学の定法に従い行うことができる。重合体(x)をラジカル重合法により製造する場合、重合反応は、好ましくは重合開始剤の存在下、有機溶媒中で行われる。使用する重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物等が挙げられる。
【0060】
上記重合反応において、反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1~60質量%になるような量にすることが好ましい。重合体を溶解してなる反応溶液は、例えば、反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等の公知の単離方法を用いて単離することができる。
【0061】
なお、重合体(x)は、ラジカル重合のほか、使用する単量体の種類に応じて、例えば開環メタセシス重合(ROMP)、メタロセン触媒を用いた重合等といった公知の重合方法により製造することもできる。
【0062】
重合体(x)と化合物(y)との反応は、好ましくは有機溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で行われる。触媒としては、N,N-ジメチルアミノピリジン等のピリジン誘導体;トリエチルアミン等の三級アミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。触媒を使用する場合、その使用割合は、重合体(x)が有する構造単位U5の全量に対して、0.01~0.5モル当量とすることが好ましい。
【0063】
化合物(y)の使用割合は、重合体(x)が有する構造単位U5の全量100モル部に対して、10モル部以上とすることが好ましく、30モル部以上とすることがより好ましく、50モル部以上とすることが更に好ましい。また、化合物(y)の使用割合は、重合体(x)が有する構造単位U5の全量100モル部に対して、200モル部以下とすることが好ましく、150モル部以下とすることがより好ましい。なお、化合物(y)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
上記反応に際し、使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物等が挙げられる。上記反応の反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は1~24時間とすることが好ましい。こうして重合体(P)が溶解されてなる溶液が得られる。この反応溶液については、公知の単離方法を用いて、反応溶液中に含まれる重合体(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0065】
・工程B
重合体(P)は、工程Aにより製造された重合体であってもよいし、工程Aに加え更に、下記の工程Bを含む方法により製造された重合体であってもよい。工程Bを含む方法により製造された重合体を液晶配向剤に含有させることにより、側鎖の構造安定性を更に高めることができ、長期耐熱性により優れた液晶素子を得ることができる点で好適である。
工程B:重合体(x)と化合物(y)との反応生成物と、エステル化剤とを反応させる工程
【0066】
エステル化剤は、重合体(x)と化合物(y)との反応により側鎖に生成したカルボキシル基をエステル化することが可能な化合物であれば特に限定されない。エステル化を効率的に行うことができる点で、エステル化剤は、中でも、ジアゾメタン、トリメチルシリルジアゾメタン、三フッ化ホウ素とアルコールとの混合物、下記式(16)で表される化合物、下記式(17)で表される化合物、又は下記式(18)で表される化合物を好ましく使用できる。
【化26】
(式(16)中、Rは水素原子又はメチル基である。R及びRは、それぞれ独立して1価の有機基である。式(17)中、R10~R12は、それぞれ独立して1価の有機基である。R13は、水素原子又は1価の有機基である。式(18)中、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して1価の有機基である。R17は、水素原子又は1価の有機基である。)
【0067】
上記式(16)中のR及びR、式(17)中のR10~R12、及び式(18)中のR13~R16で表される1価の有機基としては、1価の鎖状炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、1価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基が有する任意の水素原子が水酸基若しくはカルボキシル基で置換された基、1価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基が有する任意のメチレン基がカルボニル基、アミド基、ウレア結合若しくはウレタン結合で置き換えられた基等が挙げられる。
【0068】
上記式(16)~式(18)のそれぞれで表される化合物の具体例としては、下記式(20-1)~式(20-5)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化27】
【0069】
重合体(x)と化合物(y)との反応生成物と、エステル化剤との反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、上記反応生成物及びエステル化剤を溶解又は分散可能な溶剤であることが好ましい。この時の反応温度は、好ましくは0~80℃であり、より好ましくは10~60℃である。反応時間は、例えば30分~12時間である。
【0070】
重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000であり、より好ましくは2,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。なお、液晶配向剤の調製に使用する重合体(P)は、1種のみでもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0071】
液晶配向剤中における重合体(P)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。また、重合体(P)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。重合体(P)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、上記の如き重合体(P)を含有するが、必要に応じて、重合体(P)以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0073】
(重合体(Q))
本開示の液晶配向剤は、電気特性や信頼性を更に良化する観点から、重合体(P)とは異なる重合体(Q)を更に含有していることが好ましい。
【0074】
重合体(Q)としては、例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミド、ポリオルガノシロキサン、不飽和結合を有する単量体の重合体等が挙げられる。電気特性の改善や液晶との親和性、機械的強度、重合体(P)との親和性の観点から、重合体(Q)は中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0075】
液晶配向剤に含まれる重合体(Q)の量は、重合体(Q)の配合による効果と、重合体(P)の配合による効果とをバランス良く発現させる観点から、液晶配向剤の調製に使用する重合体(Q)100質量部に対して、重合体(P)が100質量部以上となる量とすることが好ましく、100~2000質量部となる量とすることがより好ましく、200~1500質量部となる量とすることが更に好ましい。
【0076】
・ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミド
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、従来公知の方法に従って合成することができる。例えば、ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸エステルは、例えば、上記で得られたポリアミック酸とエステル化剤(例えばメタノールやエタノール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等)とを反応させる方法等により得ることができる。ポリイミドは、例えば、上記で得られたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、そのイミド化率が20~95%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0077】
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されず、種々のテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。それらの具体例としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、等を挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
重合に使用するジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;p-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂環式ジアミン;ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、2,5-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、下記式(2-1)~式(2-4)
【化28】
【0079】
のそれぞれで表される化合物等の側鎖型の芳香族ジアミン;p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、ビス(4-アミノフェニル)アミン、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4-(4-アミノフェノキシカルボニル)-1-(4-アミノフェニル)ピペリジン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン等の非側鎖型の芳香族ジアミン;1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等のジアミノオルガノシロキサン、等を挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。なお、ジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
重合に使用するジアミンとしては、上記のほか、例えば光配向性基含有ジアミンや開始剤基含有ジアミン、下記式(19-1)~式(19-10)のそれぞれで表される窒素含有ジアミン等を用いることもできる。
【化29】
【0081】
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。なお、液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、1種のみでもよく、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0082】
(架橋剤)
本開示の液晶配向剤は、更に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、重合体(P)又はその他の重合体が有する官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、重合体不飽和結合基等)と反応可能な官能基を有する化合物を挙げることができる。架橋性基が有する官能基として具体的には、環状エーテル基、カルボキシル基、環状カーボネート基、アルコール性水酸基、β-ヒドロキシアミド基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基、トリアルコキシシリル基、重合性不飽和結合基、マレイミド基等が挙げられる。架橋剤が有する架橋性基の数は、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましく、3~6個が更に好ましい。
【0083】
架橋剤を配合する場合、液晶配向剤中における架橋剤の含有割合は、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、架橋剤の含有割合は、過剰量の添加に起因する性能低下を抑制する観点から、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。なお、架橋剤としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
(溶剤)
液晶配向剤は、通常、重合体(P)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは、適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0085】
使用する有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ジアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0086】
その他の成分としては、上記のほか、例えば分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有する分子量1000以下の低分子化合物(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等)、官能性シラン化合物、多官能(メタ)アクリレート、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲において、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0087】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶剤以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%以上であると塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得やすい点で好適である。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶配向剤の粘性を適度に確保でき、塗布性を良好にすることができる。
【0088】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を備える。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型等といった種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0089】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0090】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~150℃であり、より好ましくは40~120℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。
【0091】
その後、溶剤を更に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、カラーフィルタ上に液晶配向膜を形成する際に高温による退色等の劣化を抑制する観点、及び環境負荷の低減の観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、180℃以下が更に好ましい。また、膜中に残存した溶剤成分の影響によって液晶配向性や信頼性が低下することを抑制する観点から、ポストベーク温度は、80℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。ポストベーク時間は、好ましくは5~150分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜、又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0092】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0093】
光配向処理における光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0094】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400~20,000J/mであり、より好ましくは1,000~5,000J/mである。塗膜に対する光照射は、反応性を高めるために塗膜を加温しながら行ってもよい。また、光照射処理が施された有機膜を、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に接触させる工程を更に含んでいてもよい。
【0095】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、〔1〕液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、〔2〕液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルに対しては、更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷する処理を行うことにより、液晶充填時の流動配向を除去することが好ましい。
【0096】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。
【0097】
使用する液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。ネマチック液晶としては、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等を用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶などを添加して使用してもよい。
【0098】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSAモードの液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、0.01~3質量部、好ましくは0.1~1質量部である。
【0099】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。これにより液晶素子が得られる。
【0100】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子は、位相差フィルム等の光学フィルムに適用することもできる。
【実施例
【0101】
以下、実施例により具体的に説明するが、本開示の内容は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は以下の方法により測定した。
<重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。また、分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0103】
下記の例で使用した化合物を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示す場合がある。
【0104】
(反応性化合物)
【化30】
【化31】
【0105】
(酸無水物基含有単量体)
【化32】
【0106】
(構造単位U2を与える単量体)
【化33】
【0107】
(構造単位U3を与える単量体)
【化34】
【0108】
(その他の単量体)
【化35】
【0109】
(テトラカルボン酸二無水物)
【化36】
【0110】
(ジアミン)
【化37】
【化38】
【0111】
(添加剤)
【化39】
【化40】
【0112】
<モノマーの合成>
[合成例1-1:化合物(E-3)の合成]
下記スキームに従って化合物(E-3)を合成した。
【化41】
【0113】
撹拌子を入れた500ml三つ口フラスコに、tert-ブチル4-(2-ヒドロキシエチル)ベンジルカルバメート15.0g、1-(4-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン12.0g、炭酸カリウム9.1g、N,N-ジメチルホルムアミド300mLを加え、室温で30分撹拌した。原料の溶解を確認した後、80℃で12時間反応させた。反応後、蒸留水1500mlに反応液を注ぎ、析出した固体をろ取した。その後、固体を真空乾燥、再結晶することで、中間体を16.7g得た。
ここにトリフルオロ酢酸100mlを加え、1時間撹拌した後、THF/酢酸エチル混合溶液に溶解させ、炭酸水素ナトリウムで2回、水で3回分液した。有機層を溶媒留去後、乾燥することで化合物(E-3)を10.5g得た。
【0114】
[合成例1-2:化合物(E-14)の合成]
下記スキームに従って化合物(E-14)を合成した。
【化42】
【0115】
合成例1-1において、tert-ブチル4-(2-ヒドロキシエチル)ベンジルカルバメートと1-(4-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンの代わりに、それぞれ、(4-フルオロベンジル)カルバミン酸tert-ブチルエステルと4-(4-ペンチルシクロヘキシル)フェノールを用いた以外は合成例1-1と同様の方法により、化合物(E-14)を9.7g得た。なお、(4-フルオロベンジル)カルバミン酸tert-ブチルエステルは、Tetrahedron,2001,57,2965-2972に記載の方法に従って合成した。
【0116】
[合成例1-3:化合物(E-15)の合成]
下記スキームに従って化合物(E-15)を合成した。
【化43】
【0117】
(E)-3-(4-(4’-ペンチル-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4-イル)フェニル)アクリル酸31.4gに塩化チオニル200mlとDMFを触媒量加え、60℃で2時間反応させた。反応後、塩化チオニルを減圧留去した。得られた固体を脱水THF200mlに溶解させ、溶液Aとした。他方、脱水THF100mlに、tert-ブチル (2-ヒドロキシエチル)カーバメート13.2g(82.0mmol)とトリエチルアミン5.00gを溶解させ、0℃に氷冷した。ここに溶液Aを滴下し、室温で一晩反応させた。反応後、反応液を1規定塩酸で2回、水で3回分液し、有機層を減圧留去することでBoc保護中間体を得た。ここにトリフルオロ酢酸100mlを加え、1時間撹拌した後、THF/酢酸エチル混合溶液に溶解させ、炭酸水素ナトリウムで2回、水で3回分液した。有機層を溶媒留去後、乾燥することで化合物(E-15)を得た。
【0118】
[合成例1-4、1-5:化合物(E-16)、(E-17)の合成]
化合物(E-16)、(E-17)の中間体を下記文献に記載の方法に従ってそれぞれ合成した。合成例1-3において、(E)-3-(4-(4’-ペンチル-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4-イル)フェニル)アクリル酸の代わりに各中間体を用いた以外は合成例1-3と同様の方法により、化合物(E-16)及び(E~17)を得た。
化合物(E-16)中間体:Molecular Crystals and Liquid Crystals, 2017, 650,32-45
化合物(E-17)中間体:Angewandte Chemie International Edition, 2009, 48, 3494-3498
【0119】
[合成例1-6:化合物(E-18)の合成]
【化44】
【0120】
ホスホノ酢酸トリエチル30.2gの脱水THF溶液200mlを、水素化ナトリウム4.8gに滴下し、0℃で2時間撹拌した。そこに、4-アセチルフェニル4-(4-シアノブトキシ)ベンゾエート33.7gのTHF溶液100mlを滴下し、室温で1時間撹拌し、その後、還流しながら2時間反応させた。反応終了後、酢酸エチル300mlを加え、飽和NHCl溶液で2回、水で3回分液した。有機層をロータリーエバポレーターにて溶媒留去したのち、水300ml、水酸化ナトリウム10gと共に還流下で3時間撹拌した。撹拌後、塩酸でpH=4にし、析出した固体をろ取し、水で洗浄後、乾燥させることで、中間体を30.9g得た。
合成例1-3において、(E)-3-(4-(4’-ペンチル-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4-イル)フェニル)アクリル酸β-メチルシンナメートの代わりに上記中間体を用いた以外は合成例1-3と同様の方法により、化合物(E-18)を得た。
【0121】
[合成例1-7:化合物(E-20)の合成]
下記スキームに従って化合物(E-20)を合成した。
【化45】
【0122】
撹拌子を入れた500ml三つ口フラスコに、4-(4-ペンチルシクロヘキシル)フェノール10.0g、1-フルオロ-4-ニトロベンゼン9.8g、炭酸カリウム6.2g、N,N-ジメチルホルムアミド200mlを加え、室温で30分撹拌した。原料の溶解を確認した後、80℃で12時間反応させた。反応後、蒸留水1500mlに反応液を注ぎ、析出した固体をろ取した。その後、固体を真空乾燥、再結晶することで、中間体を15.2g得た。
次いで、撹拌子を入れた500ml三つ口フラスコに、中間体12.0g、5%パラジウムカーボン2.09g、テトラヒドロフラン60ml、エタノール60mlを加えた後、80℃まで加熱した。そこに、ヒドラジン1水和物9.81gを滴下した後、加熱還流を6時間行った。室温まで冷却した後、ろ過した溶液を水600mlで再沈殿した。得られた固体をろ過、水洗浄した後、真空乾燥することで、化合物(E-20)を10.1g得た。
【0123】
<重合体の合成>
[合成例2-1]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(A-1)20モル部、化合物(B-1)30モル部、化合物(B-2)10モル部、化合物(C-1)30モル部、及び化合物(D-1)10モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を重合モノマー100モル部に対して2モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mlを加え、70℃で6時間重合した。なお、重合反応は、重合モノマーの総モル数を50mmolとして行った。n-ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(P-1)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは83,500、分子量分布Mw/Mnは4.26であった。
【0124】
[合成例2-2~2-5、2-10、2-11]
重合モノマーを表1に示す種類及びモル比とした以外は合成例2-1と同様に重合を行い、重合体(P-1)と同等の重量平均分子量及び分子量分布の重合体(P-2)~(P-5)、(P-10)及び(P-11)の各重合体を得た。なお、重合モノマーの総モル数は、上記合成例2-1と同様に50mmolとした。表1中の数値は、重合体の合成に使用した全モノマーに対する各モノマーの仕込み量[モル%]を表す。
【0125】
[合成例2-6]
窒素下、100ml二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(A-4)50モル部、化合物(C-3)20モル部、及び化合物(D-2)20モル部、溶剤としてジクロロメタン50ml、重合触媒として第二世代グラブス触媒0.005モル部を加え、室温で8時間重合した。なお、重合反応は、重合モノマーの総モル数を20mmolとして行った。重合停止剤としてブチルビニルエーテル100モル部加え、室温で30分撹拌した後、n-ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(P-6)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは100,300、分子量分布Mw/Mnは2.35であった。
【0126】
[合成例2-7]
重合モノマーを表1に示す種類及びモル比とした以外は合成例2-6と同様に重合を行い、重合体(P-6)と同等の重量平均分子量及び分子量分布の重合体(P-7)を得た。なお、重合モノマーの総モル数は、上記合成例2-6と同様に20mmolとした。
【0127】
[合成例2-8]
窒素下、100ml二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(A-6)70モル部、及び化合物(B-4)30モル部、溶剤としてトルエン50ml、重合触媒としてビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド0.2マイクロモル部、メチルアルミノキサン0.003モル部を加え、室温で1時間重合した。なお、重合反応は、重合モノマーの総モル数を50mmolとして行った。酸性メタノール溶液に再沈殿した後、沈殿物をNMPに溶解し、再度、酸性メタノール溶液に再沈殿した。室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(P-8)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは111,200、分子量分布Mw/Mnは3.12であった。
【0128】
[合成例2-9]
重合モノマーを表1に示す種類及びモル比とした以外は合成例2-8と同様に重合を行い、重合体(P-8)と同等の重量平均分子量及び分子量分布の重合体(P-9)を得た。なお、重合モノマーの総モル数は、上記合成例2-8と同様に50mmolとした。
【0129】
【表1】
【0130】
[合成例3-1]
上記合成例2-1により得られた重合体(P-1)に、化合物(E-1)をモノマーの仕込み量の合計量に対して10モル部、及び化合物(E-14)をモノマー仕込み量の合計量に対して10モル部加えた。次いで、エステル化剤としてジメチルホルムアミドジメチルアセタール(DMF-DMA)を30モル部加え、60℃で3時間加熱した。その後、得られた溶液を水で再沈殿することにより、目的とする重合体(P-12)を得た。
【0131】
[合成例3-2~合成例3-15]
反応性化合物を反応させる重合体(ベース樹脂)及び反応性化合物を表2に示す種類及びモル比とした以外は合成例3-1と同様に重合を行い、重合体(P-12)と同等の重量平均分子量及び分子量分布の各重合体(P-13)~重合体(P-26)を得た。
【0132】
[合成例3-16、3-17]
反応性化合物を反応させる重合体(ベース樹脂)及び反応性化合物を表2に示す種類及びモル比とした点、及びエステル化剤によるエステル化反応を行わなかった点以外は合成例3-1と同様に重合を行い、重合体(P-12)と同等の重量平均分子量及び分子量分布の各重合体(P-27)、重合体(P-28)を得た。
【0133】
【表2】
【0134】
[合成例4-1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部、並びにジアミンとして化合物(DA-1)30モル部、化合物(DA-8)50モル部、及び化合物(DA-9)20モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)170gに溶解し、40℃で24時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加し、ピリジン及び無水酢酸を、ポリアミック酸が有するテトラカルボン酸二無水物由来のカルボキシル基に対して1.80モル当量ずつ添加して、80℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換し、更に濃縮することにより、イミド化率70%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は43.7mPa・sであった。
次いで、得られた重合体溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることによりポリイミド(PI-1)を得た。
【0135】
[合成例4-2、4-3、4-5~4-7]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表3に記載のとおり変更した点以外は合成例4-1と同様に重合を行い、ポリイミドである重合体(PI-2)、(PI-3)、(PI-5)~(PI-7)をそれぞれ得た。なお、表3中、テトラカルボン酸二無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0136】
[合成例4-4]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部、並びにジアミンとして化合物(DA-1)30モル部、化合物(DA-3)50モル部、及び化合物(DA-9)20モル部をNMP170gに溶解し、60℃で8時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。この溶液粘度は707mPa・sであった。
【0137】
合成例4-8、4-9]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表3に記載のとおり変更した点以外は合成例4-4と同様に重合を行い、ポリアミック酸である重合体(PI-8)、(PI-9)をそれぞれ得た。
【0138】
【表3】
【0139】
[実施例1:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例4-1で得た重合体(PI-1)100質量部に、合成例3-1で得た重合体(P-12)10質量部、並びに溶剤としてNMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0140】
(2)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1)で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化46】
【0141】
(3)PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スリット状にパターニングされたITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で30分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/mの照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。その後、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることによりPSA型液晶表示素子を製造した。
【0142】
(4)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置には(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が98%以上の場合に「良好(○)」、95%以上98%未満の場合に「可(△)」、95%未満の場合に「不良(×)」とした。その結果、この例では、電気特性は「良好(○)」の評価であった。
【0143】
(5)長時間ベーク後のVHRによる電気特性の評価
上記(3)においてポストベーク時間を30分から1.5時間に変更した点以外は上記(3)と同様にしてPSA型液晶表示素子を作製した。この作製したPSA型液晶表示素子につき、上記(4)と同様の条件により電圧保持率を測定した。このとき、電圧保持率が95%以上の場合に「良好(○)」、90%以上95%未満の場合に「可(△)」、90%未満の場合に「不良(×)」とした。なお、長時間ベーク後のVHRが高いほど、ポストベークによる不純物が生じにくいといえる。その結果、この例では、長時間ベーク後の電気特性は「良好(○)」の評価であった。
【0144】
(6)長期耐熱性の評価
基板の外側両面に偏光板を貼り合わせなかった点以外は上記(3)と同様の操作を行い、PSA型液晶セルを製造した。このPSA型液晶セルにつき、上記(4)と同様の操作を行い、電圧保持率を測定した。また、得られた液晶セルを100℃の恒温槽に21日間(約500時間)保管した後、電圧保持率を再度測定した。100℃の恒温槽での保管による電圧保持率の低下値(液晶セル製造後の電圧保持率(%)-恒温槽保管後の電圧保持率(%))が10%未満の場合に「優良(◎)」、10%以上20%未満の場合に「良好(○)」、20%以上40%未満の場合に「可(△)」、40%以上の場合に「不良(×)」とした。その結果、この例では「良好(○)」の評価であった。
【0145】
(7)AC残像特性の評価(薄膜評価)
上記(3)において塗膜の平均膜厚を100nmから30nmに変更した点、及び基板の外側両面に偏光板を貼り合わせなかった点以外は上記(3)と同様にしてPSA型液晶セルを作製した。この作成した液晶セルにつき、「T.J.Scheffer et.al.,J.Appl.Phys.vol48,p1783(1977)」、及び「F.Nakano,et.al.,JPN.J.Appl.Phys.vol.19,p2013(1980)」に記載の方法に準拠し、He-Neレーザー光を用いる回転結晶法で測定した。測定は、液晶セルに電圧印加する前のプレチルト角(初期プレチルト角θini)、及びAC9V、室温で30時間駆動した後のプレチルト角(駆動後プレチルト角θac)について行った。また、下記式(y)によりプレチルト角変化率β[%]を算出した。プレチルト角変化率βが3%未満であった場合を「良好(○)」、3%以上5%未満であった場合を「可(△)」5%以上であった場合を「不良(×)」と評価した。
プレチルト角変化率β[%]=(θac-θini)/θini×100 …(y)
【0146】
[実施例2~7、9、10、15及び比較例1~3]
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-2)~(AL-7)、(AL-9)、(AL-10)、(AL-15)~(AL-18)を調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。評価結果を表4に示した。
【0147】
[実施例8:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
合成例4-8で得た重合体(PI-8)100質量部に、合成例3-8で得た重合体(P-19)10質量部、化合物(Add-5)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-8)を調製した。
【0148】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-8)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、200℃40分間本焼成し、膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて、313nmの輝線を含む偏光紫外線200J/mを、基板法線に対し40°傾いた方向から室温で照射した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を形成した基板を一対(2枚)作成した。
液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの1枚における、液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板に照射した紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように一対の基板を圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙に液晶組成物(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、液晶セルを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜形成時に照射した紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせ、光垂直型液晶表示素子を製造した。
【0149】
(3)評価
上記(2)の光垂直型液晶表示素子につき、実施例1と同様にして、電圧保持率(VHR)による電気特性の評価を行った。また、実施例1と同様にして、長時間ベーク後のVHRによる電気特性の評価、長期耐熱性の評価及びAC残像特性の評価(薄膜評価)を行った。評価結果を表4に示した。
【0150】
[実施例11~13]
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例8と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-11)~(AL-13)を調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例8と同様にして光垂直型液晶表示素子及び光垂直型液晶セルを製造し、各種評価を行った。評価結果を表4に示した。
【0151】
[実施例14:光配向FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-14)の調製
合成例4-8で得た重合体(PI-8)100質量部に、合成例3-14で得た重合体(P-25)10質量部、化合物(Add-9)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-14)を調製した。
【0152】
(2)光FFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-14)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/mの範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を、以下の評価に用いた。
【0153】
(3)評価
上記(2)の光FFS型液晶表示素子につき、実施例1と同様にして、電圧保持率(VHR)による電気特性の評価、長時間ベーク後のVHRによる電気特性の評価及び長期耐熱性の評価を行った。また、AC残像特性の評価(薄膜評価)を以下の手順により行った。評価結果を表4に示した。
【0154】
・光FFS型液晶セルのAC残像特性評価(薄膜評価)
上記(2)において塗膜の平均膜厚を100nmから30nmに変更した点、及び基板の外側両面に偏光板を貼り合わせなかった点以外は上記(2)と同様にして光FFS型液晶セルを作製した。この作製した光FFS型液晶セルを交流電圧10Vの印加により30時間駆動した後、光源と光量検出器の間に偏光子と検光子を配置した装置を使用して、下記数式(b)で表される黒輝度変化率(%)を測定した。
黒輝度変化率(%)=〔(β(30hr)-β(0))/β(0)〕×100 …(b)
(数式(b)中、β(0)は、クロスニコル下で偏光子と検光子の間に駆動ストレス前の液晶表示素子を挟み最小となる光透過量である。β(30hr)は、クロスニコル下で偏光子と検光子の間に30時間駆動後の液晶表示素子を挟み最小となる光透過量である。)
AC残像特性は、交流電圧にて30時間駆動する前における黒レベルと、交流電圧にて30時間駆動した後の黒レベルの変化率で表され、変化率が小さいほどAC残像特性に優れるといえる。黒輝度変化率が10%未満のものを「良好(○)」とし、10%以上30%未満のものを「可(△)」とし、30%以上のものを「不良(×)」とした。その結果、この液晶表示素子の黒輝度変化率は5%であり、AC残像特性は「良好(○)」と判断された。
【0155】
【表4】
【0156】
以上の実施例の結果から分かるように、重合体(P)を含有する実施例1~16の液晶配向剤は、長時間ベーク後の電圧保持率及び長期耐熱性の評価が良好又は優良の評価であった。また、実施例1~16の液晶配向剤は、AC残像特性の評価が良好又は可の評価であった。特に、エステル化処理を行った重合体(P)を含む実施例1~15は、AC残像特性が良好であり、優れていた。
【0157】
これに対し、重合体(P)を含有しない比較例1、2のうち比較例1の液晶配向剤は、長時間ベーク後の電圧保持率及び長期耐熱性の評価が可(△)であった。また、比較例2の液晶配向剤は、長期耐熱性及びAC残像特性の評価が不良(×)であり、実施例1~16よりも性能に劣る結果であった。なお、比較例2では、マレイミド化合物の開環体である化合物(D-3)、(D-4)を用いて合成した重合体(P-11)を液晶配向剤の重合体成分として用いた。この重合体(P-11)では、化合物(D-3)、(D-4)の炭素-炭素二重結合に結合している2個の基がトランス構造をとるため、ポストベーク時に閉環しにくく、これにより長時間ベーク後の電圧保持率、長期耐熱性及びAC残像の評価が実施例1~16よりも劣ったものと推測される。