(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20241217BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20241217BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20241217BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20241217BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20241217BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20241217BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20241217BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241217BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241217BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20241217BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241217BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241217BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/68
F16H61/682
F16H63/50
B60K6/387 ZHV
B60K6/442
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W20/00
B60L50/16
B60L15/20 K
F16H61/04
(21)【出願番号】P 2021106757
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】杉平 成広
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓介
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】上野 良雄
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142494(JP,A)
【文献】特開2003-161366(JP,A)
【文献】特開2021-076192(JP,A)
【文献】特開2015-124800(JP,A)
【文献】特開2003-159963(JP,A)
【文献】特開2020-112173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00
B60W 10/02
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/18
B60W 10/26
B60W 10/28
B60W 10/30-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドグクラッチを係合させて所定の変速段を設定する変速機が、トルクの伝達および遮断を選択的に行う入力クラッチを介して駆動力源に連結され、前記ドグクラッチは、前記入力クラッチを介してトルクが伝達される駆動側ドグ歯と、前記駆動側ドグ歯に噛み合ってトルクを伝達する従動側ドグ歯とを有するとともに、前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを回転軸線方向に相対的に移動させて駆動側ドグ歯と従動側ドグ歯とを係合させるように構成されている、車両用変速機の制御装置において、
前記従動側ドグ歯のトルクを変化させる別軸駆動機構と、
前記別軸駆動機構によるトルクを制御するコントローラとを更に備え、
前記コントローラは、
前記入力クラッチを解放した状態で前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを軸線方向に相対的に移動させて係合させる場合に、
前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを係合させる制御の開始後、前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とが当接して係合しないことの検出を行い、
前記係合したことが検出されない場合に、前記別軸駆動機構によって前記従動側ドグ歯のトルクを変化させる
ことを特徴とする車両用変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された変速機での変速を制御する装置に関し、特に駆動力源から変速機へのトルクの伝達を選択的に遮断できるとともに、ドグクラッチを係合もしくは解放させることにより変速段を設定するように構成された変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドグクラッチを備えた変速機の制御装置が特許文献1に記載されている。ドグクラッチは、円周方向に並べて設けたドグ歯同士を噛み合わせてトルクを伝達するように構成された係合機構であり、ドグ歯を回転軸線方向に移動させて係合あるいは解放させるように構成されている。したがって、互いに噛み合わせるようにドグ歯同士を接近させた場合、ドグ歯同士の位相が同じになっていれば、ドグ歯の頂面(先端部)同士が突き当たってしまってドグ歯を噛み合わせることができない。特許文献1に記載されている装置では、このようなドグクラッチの係合の際の不都合を解消するために、ドグクラッチの入力側に設けられているモータもしくは駆動力源としてのモータによって、ドグ歯同士の位相に相違を生じさせるように構成されている。例えば、ドグ歯の頂面同士が突き当たってドグクラッチが係合しない場合には、入力側に設けられているモータのトルクを変化させて、ドグ歯同士の位相をずらしている。
【0003】
また、ドグクラッチにおけるトルクの伝達は互いに噛み合っているドグ歯の歯面で行うから、ドグ歯が噛み合っていれば、それぞれの歯面には大きい面圧が掛かる。そのため、ドグ歯同士をその軸線方向に移動させてドグクラッチを解放する場合、歯面の面圧が高いと、歯面での摩擦力が大きいことにより、ドグクラッチを解放させることができないことがある。特許文献2に記載された装置では、ドグ歯同士が強く噛み合ってしまっていてドグ歯同士の噛み合いを外せない場合には、ドグ歯同士の接触圧(面圧)を下げて、ドグ歯同士の噛み合いを外すようにしている。具体的には、特許文献2に記載された装置は、モータをオフにするとともに、ドグクラッチを解放するにあたって、ドグクラッチの解放が検出されない場合には、ドグクラッチの入力側に設けられているモータによるトルクをドグクラッチに作用させて歯面の摩擦力を低下させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-104671号公報
【文献】特開平11-91389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された装置は、ドグクラッチを係合させる際にドグ歯同士の頂面が当接してドグクラッチを係合させることができない場合、ドグクラッチの入力側に設けられているモータによって、ドグ歯同士の位相を異ならせている。また、特許文献2に記載された装置は、ドグ歯同士の接触圧もしくは摩擦力が大きいことにより、ドグクラッチを解放させることができない場合、ドグクラッチの入力側に設けられているモータによって、ドグ歯同士の間の摩擦力を低下させている。このように、従来では、ドグクラッチを係合させ、あるいは解放させる際のドグ歯同士の位相の変更あるいは摩擦力を低減させるなどのために、ドグクラッチの入力側に設けられているモータのトルクを利用している。一方、変速機を搭載した車両には、変速機の構造に応じて、変速機の入力側にトルクを選択的に遮断できるクラッチを設け、そのクラッチを解放して入力トルクを遮断した状態で変速を実行するように構成された車両も存在する。この種の車両では、ドグクラッチを係合させて変速比を変化させる場合(変速する場合)に、変速のために係合させようとするドグクラッチで、ドグ歯の頂面同士が突き当たってドグクラッチを係合させることができない事態やドグ歯同士の間の摩擦力が大きいなどのことによりドグクラッチを解放させることができない事態が生じても、クラッチを解放して変速機にトルクを伝達しないから、そのドグクラッチでのドグ歯の位相や摩擦力を変化させることができず、結局は、上記の係合あるいは解放の不能状態を容易に解消することができない可能性があった。
【0006】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、変速機に内蔵されているドグクラッチのいわゆる頂面の当接などによる係合不能状態を、変速機の入力側に設けられているクラッチが解放させている場合であっても容易に解消してドグクラッチを係合させることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、ドグクラッチを係合させて所定の変速段を設定する変速機が、トルクの伝達および遮断を選択的に行う入力クラッチを介して駆動力源に連結され、前記ドグクラッチは、前記入力クラッチを介してトルクが伝達される駆動側ドグ歯と、前記駆動側ドグ歯に噛み合ってトルクを伝達する従動側ドグ歯とを有するとともに、前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを回転中心軸線方向に相対的に移動させて駆動側ドグ歯と従動側ドグ歯とを係合させるように構成されている、車両用変速機の制御装置において、前記従動側ドグ歯のトルクを変化させる別軸駆動機構と、前記別軸駆動機構によるトルクを制御するコントローラとを更に備え、前記コントローラは、前記入力クラッチを解放した状態で前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを軸線方向に相対的に移動させて係合させる場合に、前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とを係合させる制御の開始後、前記駆動側ドグ歯と前記従動側ドグ歯とが当接して係合しないことの検出を行い、前記係合したことが検出されない場合に、前記別軸駆動機構によって前記従動側ドグ歯のトルクを変化させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、入力クラッチを解放して変速機に駆動力源からのトルクを入力できない状態でドグクラッチを係合させる制御を行った場合、駆動側ドグ歯と従動側ドグ歯とが当接して係合しない状態が生じると、別軸駆動機構によって、従動側ドグ歯のトルクが変化させられる。その場合、従動側ドグ歯に駆動側ドグ歯が当接していることにより、従動側ドグ歯と共に駆動側ドグ歯が回転しようとする。これに対して、駆動側ドグ歯は、入力クラッチが解放していることにより駆動力源から切り離されて駆動力源のトルクが作用しないとしても、慣性トルクや摩擦によるトルクが駆動側ドグ歯に作用するので、従動側ドグ歯のトルクが変化することにより、従動側ドグ歯と駆動側ドグ歯との間に相対回転が生じ、その結果、従動側ドグ歯と駆動側ドグ歯との位相にずれが生じる。すなわち、従動側ドグ歯と駆動側ドグ歯との頂面の当接が解消されるので、従動側ドグ歯と駆動側ドグ歯とが噛み合い、入力クラッチが解放している場合であっても、いわゆるドグ歯の頂面の当接を解消してドグクラッチを容易に係合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明で対象とすることのできる車両の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図2】そのドグクラッチの一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態で実行する制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】別軸のトルクによって頂面停止を解消する制御を行った場合の変化を説明するための概略的なタイムチャートである。
【
図5】入力側のトルクによって頂面停止を解消する制御を行った場合の変化を説明するための概略的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに本発明を実施した場合の具体例を説明する。なお、以下に説明する具体例は、本発明の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0011】
先ず、本発明で対象とすることのできる車両を
図1に模式的に示してある。ここに示す車両は、内燃機関とモータ(もしくはモータ・ジェネレータ)とを駆動力源としたハイブリッド車両(電動車両)であり、内燃機関(Eng。以下、エンジンと記す)1が車両の前側に、車両の後方に向けて搭載されており、その出力側に発電機能を有する第1モータ(MG1)2が連結されている。さらに、その第1モータ2の出力側に入力クラッチ3を介して変速機(T/M)4が連結されている。
【0012】
入力クラッチ3は、エンジン1および第1モータ2からなるいわゆる主駆動力源と変速機4との間のトルク伝達を選択的に遮断するクラッチであって、一例として摩擦クラッチによって構成されている。変速機4は、入力軸5と出力軸6との回転数の比率(変速比)を適宜に設定する伝動機構であって、複数の歯車列(図示せず)によって構成されるトルクの伝達経路を複数のドグクラッチの係合・解放の状態に応じて切り替えて、所定の変速比を設定するように構成されている。この変速機4は従来知られている構成の車両用変速機であってよい。
【0013】
ドグクラッチは、ドグ歯を噛み合わせることによりトルクを伝達する係合機構であり、駆動側の部材と従動側の部材とを回転中心軸線の方向で対向させて配置し、それらの対向面にドグ歯を設けた構成のドグクラッチや、同一の回転中心軸線上に隣接して配置されている駆動側の部材と従動側の部材との外周部にスプライン歯を形成し、それらのスプライン歯に係合するスプライン歯(すなわちドグ歯)を内周面に形成したスリーブを回転中心軸線方向に移動可能に設け、そのスリーブによって駆動側の部材と従動側の部材とを回転方向で一体化するように連結する構成のクラッチであってもよい。
図2に前者のドグクラッチ7の一例を模式的に示してあり、同一の回転中心軸線上に駆動側部材8と従動側部材9とが対向して配置され、それぞれの対向面側にドグ歯(駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11)が設けられている。その駆動側部材8は例えば前述した入力軸5からトルクが伝達されるように構成され、また従動側部材9は前述した出力軸6にトルクを伝達するように構成されている。さらに、駆動側部材8と従動側部材9とのいずれか一方(例えば従動側部材9)は、回転中心軸線の方向に前後動して他方に接近・離隔するように構成されており、当該一方の部材(例えば従動側部材9)にシフトフォーク12が係合している。
【0014】
変速機4の出力軸6は終減速機であるデファレンシャルギヤ13に連結され、このデファレンシャルギヤ13から左右の後輪14に駆動力を伝達するように構成されている。
【0015】
他方、本発明の実施形態における別軸駆動機構に相当する第2モータ(MG2)15が設けられている。この第2モータ15は、前述した第1モータ2と同様に発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ)であって、デファレンシャルギヤ16を介して左右の前輪17に駆動力を出力するように構成されている。そして、各モータ2,15は蓄電装置(BATT)18に接続されており、その蓄電装置18の電力でモータとして動作してトルクを出力し、あるいは外力によって駆動されて発電し、その電力を蓄電装置18に充電するように構成されている。
【0016】
上述したエンジン1や各モータ2,15、入力クラッチ3や変速機4(特にそのドグクラッチ7)を制御する電子制御装置(ECU)19が設けられている。電子制御装置19は、マイクロコンピュータを主体にして構成され、図示しない各種のセンサから入力される信号(データ)や予め記憶しているデータなどを使用して演算を行い、その演算の結果を制御指令信号として出力するように構成されている。センサから入力されるデータの例を挙げると、ドグクラッチ7の係合・解放に相当するストローク信号もしくはそのストローク量に応じたドグ歯位置信号、入力軸5の回転数、出力軸6の回転数、蓄電装置18の充電残量(SOC)、蓄電装置18の温度、車速、要求駆動力に相当するアクセル開度などである。また、出力する制御指令信号は、ドグクラッチ7の係合や解放、入力クラッチ3の係合や解放、各モータ2,15の起動・停止やトルク(正トルクならびに負トルク)、変速指示などである。
【0017】
上述した変速機4で設定する変速比は、主として、車速およびアクセル開度ならびに予め記憶している変速マップに基づいて判断され、その変速比を達成するように変速制御が実行される。その変速は、複数設けられているドグクラッチのいずれかを解放し、かつ他のいずれかのドグクラッチを係合して実行され、したがってその変速の過程では、エンジン1もしくは第1モータ2からのトルクを遮断するべく、入力クラッチ3を解放しておく。いずれかのドグクラッチを係合させる場合、ここで説明している例では従動側部材9(従動側ドグ歯11)を駆動側部材8(駆動側ドグ歯10)に向けてストロークさせるが、各ドグ歯10,11の回転方向での位置(すなわち位相)が一致もしくはほぼ一致していると、各ドグ歯10,11の先端面(頂面)同士が突き当たって、従動側部材9がそれ以上はストロークしない。すなわち、いわゆる頂面停止と称される状態になって、ドグクラッチ7が係合しない状態が生じる。この状態では、入力クラッチ3が解放していて、駆動側部材8には入力側からのトルクが掛かってないので、駆動側部材8は従動側部材9と共に回転し、このままでは係合が進展しない。本発明の実施形態における制御装置は、このようないわゆる頂面停止の状態を解消してドグクラッチを係合させるために、
図3に示す制御を実行するように構成されている。
【0018】
図3はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、前述した電子制御装置19によって実行され、したがって電子制御装置19が本発明の実施形態におけるコントローラに相当している。
図3に示すルーチンは、変速比を切り替える変速の判断が成立し、それに伴って入力クラッチ3を解放している状態で実行される。具体的には、変速指示を行うことの判断が成立しているか否か(ONか否か)、すなわち変速の判断が成立しているか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1で否定的に判断された場合には、特には制御を行うことなく
図3のルーチンを一旦終了する。これとは反対に肯定的に判断された場合には、変速を実行する指示(すなわちギヤの掛け替えの指示)が行われる(ステップS2)。これは、現在の変速段を設定しているドグクラッチを解放し、かつ変速後の変速段を設定するためのドグクラッチを係合させる制御の指示である。
【0019】
ドグクラッチの係合は、前述したように、一方のドグ歯を他方のドグ歯に向けてストロークさせて両者を噛み合わせることにより行う。その場合、ドグ歯同士の位相が一致もしくはほぼ一致していると、前述したいわゆる頂面同士の当接によって係合しなくなる。ステップS3では、そのように頂面同士が当接して係合しない状態すなわち頂面停止が生じているか否かが判断される。この判断は、ドグクラッチのストローク量を検出しているセンサからの信号に基づいて行うことができる。具体的には、検出値がドグクラッチの係合に必要なストローク量に対して不足しているか否か、もしくは頂面停止のストローク量になっているか否かを判断すればよい。
【0020】
ステップS3で否定的に判断された場合、すなわちドグクラッチが係合した場合には、特に制御を行うことなく
図3のルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS3で肯定的に判断された場合には、走行中か否かが判断される(ステップS4)。この判断は、検出されている車速に基づいて行うことができ、あるいは選択されているシフトレンジと車速とに基づいて判断することができる。
【0021】
車両が走行していることによりステップS4で肯定的に判断された場合には、別軸を使用可能か否かが判断される(ステップS5)。ここで、別軸の使用とは、ドグクラッチの上述した頂面停止状態を解消するためのトルクとして、
図1に示す別軸駆動機構としての第2モータ15のトルクを使用することである。第2モータ15は、蓄電装置18から電力が供給されてモータとして機能してトルクを出力し、これとは反対に前輪17から入力されるトルクによって回転させられて発電機として機能し、その発電した電力を蓄電装置18に充電する。したがって、充電残量(SOC)や温度などによって蓄電装置18からの放電電力が制限されていたり、あるいは充電電力が制限されているなどの場合には、第2モータ15によって正もしくは負のトルクを出力できないことがある。ステップS5ではこのような第2モータ15の制限がないことを判断する。
【0022】
ステップS5で肯定的に判断された場合には、別軸から差回転をつけるためのトルクを出力させる(ステップS6)。この制御は、第2モータ15のトルク(正トルクもしくは負トルク)を変化させる制御である。
図1に示す構成の車両は、後輪14と前輪17とを独立して駆動することができ、変速機4で変速を実行する場合、入力クラッチ3を解放するので後輪14の駆動力が低下する。これに対して、第2モータ15によって前輪17の駆動力を増大させることにより、車両の全体としての駆動力は変速の前後に亘って確保される。したがって、第2モータ15の出力トルクを増減すれば、車両に加減速が生じて後輪14に掛かるトルクが変化するので、変速機4の出力軸6のトルクならびにドグクラッチの従動側部材のトルクが変化し、その回転数が変化する。ドグクラッチに頂面停止が生じていると、例えば
図2に示す駆動側部材8と従動側部材9とが、互いに当接している頂面での摩擦力によって一体となって回転している。その状態で従動側部材9のトルクの変化によってその回転数が変化すると、その回転加速度ならびに慣性モーメントに応じたトルクが従動側部材9と駆動側部材8との間に生じる。このようにして生じるトルクが駆動側部材8と従動側部材9との間の摩擦力より大きいと、これに駆動側部材8と従動側部材9との間に滑りが生じてそれらの位相が変化する。このような駆動側部材8と従動側部材9との位相がずれることが差回転であり、ステップS6ではこのような差回転を生じさせるトルクを出力させる。
【0023】
ついで、予め定めた時間が経過したか否か(タイムアウトしたか否か)が判断される(ステップS7)。ここで、予め定めた時間とは、上記の差回転が生じるのに通常要する時間以上で、かつ変速に許容できる時間以下の長さとして設計上定めた時間である。したがって、ステップS6で別軸からトルクを出力した直後や、タイムアウトしていない場合には、ステップS7で否定的に判断される。その場合は、上記のステップS3に戻って頂面停止しているか否かが判断される。
【0024】
別軸からトルクを出力した直後であったり、別軸のトルクが未だ充分に増大していないなどのことにより頂面停止が解消されていない場合には、ステップS3で肯定的に判断される。その場合は、ステップS4ないしステップS7の制御を繰り返す。その場合、未だ所定時間が経過していなければ、再度、ステップS3に戻って頂面停止状態になっているか否かが判断される。別軸からトルクを出力した後、そのトルクが充分大きくなったり、差回転の量が頂面停止から外れる量になったりすると、頂面停止が解消されてドグクラッチが係合するので、ステップS3で否定的に判断される。その場合は、
図3に示すルーチンを一旦終了する。すなわち、変速が完了する。
【0025】
一方、頂面停止が解消されることなく所定時間が経過すると(タイムアウトすると)、ステップS7で肯定的に判断される。この場合、別軸のトルクを出力しても頂面停止を解消させることができない、すなわちドグクラッチを係合させることができないことになるので、別の係合制御を実行する。この場合の係合制御は、入力側からのトルクを利用する制御であり、したがって先ず、ドグクラッチをニュートラルに戻す(ステップS8)。入力側からのトルクによって車両の駆動力が変化しないように変速機4でのトルク伝達を遮断するためである。ついで、入力クラッチ3を再係合させる(ステップS9)。係合させるべきドグクラッチの駆動側部材8を回転させるためである。
【0026】
入力クラッチ3を再係合させた後、差回転が所定値以上になったか否かが判断される(ステップS10)。この判断は、入力軸5の回転数および出力軸6の回転数に基づいて行うことができる。ステップS10で肯定的に判断されるまで、すなわち駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11との相対的な位相にずれが生じるまで、入力クラッチ3を係合させる。その後、入力クラッチ3を解放する(ステップS11)。
【0027】
このようにして頂面停止していたドグクラッチにおける駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11との相対的な位相にずれを生じさせ、その後、ステップS2に戻って変速を再度実行する。上記のステップS8ないしステップS11の制御を行った後では、駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11との相対的な位相にずれが生じてそれらの頂面同士が回転軸線方向で対向する状態が解消されているので、再度、変速(ギヤの掛け替え)を行うことによりドグクラッチが係合する。すなわちステップS3で肯定的に判断される。
【0028】
なお、車両が停止していてステップS4で否定的に判断された場合には、直ちにステップS8に進んで、入力側のトルクを利用した係合制御を実行する。また同様に、第2モータ15を充分に制御できない状態が生じていてステップS5で否定的に判断された場合は、直ちにステップS8に進んで、入力側のトルクを利用した係合制御を実行する。
【0029】
上記のステップS7までの制御を行ってドグクラッチを係合させた場合すなわち別軸のトルクを利用して頂面停止を解消してドグクラッチを係合させた場合のドグ歯の位置(ストローク)や回転数ならびに別軸のトルクの変化の一例を示すと、
図4のとおりである。ここに示す例は、アップシフトの例であり、Lo(低速ギヤ段)からHi(高速ギヤ段)への変速が開始されると(t1時点)、ギヤの掛け替えが開始されるので、入力軸5の回転数が所定の低下勾配で、Hi側の同期回転数に向けて低下する。これと併せてドグ歯が係合位置に向けてストロークし始める。各ドグ歯の頂面同士が当接すると(t2時点)、入力クラッチ3が解放していて入力軸5やこれに連結されている駆動側部材8が、従動側部材9に引きずられて回転するので、入力軸回転数はHi同期回転数になる。
【0030】
ドグ歯が係合位置までストロークしないことにより頂面停止の判定が成立し(t3時点)、それに伴って別軸のトルク(上記の例では第2モータ15のトルク)が、前述した差回転を生じさせるトルクにまで変化させられる。
図4に示す例では、トルクが低下させられる。したがって出力軸6の回転数である各同期回転数(Hi同期回転数およびLo同期回転数)が、別軸のトルクの低下に伴って低下する。これに対して、入力軸5やこれに連結されている駆動側部材8はその慣性モーメントによって従前の回転数を維持しようとするので、その回転数は従前のHi同期回転数程度に維持される。
【0031】
このようにして、係合させるべきドグクラッチにおいては、駆動側と従動側とのドグ歯に相対回転(差回転)が生じるので、頂面を突き合わせていた駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11の相対的な位相がずれて、これらのドグ歯10,11の噛み合いが生じる。すなわちドグクラッチが係合する(t4時点)。そして、入力軸回転数は、別軸のトルクの低下に伴って低下したHi同期回転数になる(t5時点)。
【0032】
また、車両が停止しているために、あるいは別軸のトルクによっては係合させることができないために、別軸トルクに替えて、入力側のトルクを変化させて頂面停止を解消する制御(前述したステップS8ないしステップS11の制御)を行った場合のドグ歯の位置(ストローク)や回転数ならびに入力クラッチ3の係合・解放の変化の一例を示すと、
図5のとおりである。
図5に示す例はアップシフトの例であり、Loギヤ段からHiギヤ段への変速が開始され(t11時点)、その制御に伴って頂面停止が生じ(t12時点)、その結果、頂面停止の判定が成立する(t13時点)。その判定の成立に伴ってドグクラッチがニュートラル(N)に戻され(t14時点)、その後、入力クラッチ3が再係合させられる(t15時点)。
【0033】
入力クラッチ3が摩擦クラッチであることにより、その伝達トルク容量が次第に増大して所定値まで増大すると、それに伴って入力軸回転数が、変速開始前のLo同期回転数に向けて増大する。入力軸回転数がLo同期回転数にまで増大したことにより(t16時点)、入力クラッチ3の解放が実行され、その伝達トルク容量が次第に低下する。入力クラッチ3がほぼ完全に解放することに伴って入力軸回転数がHi同期回転数に向けて次第に低下する。それまでの間、ドグクラッチはニュートラルに維持されており、入力クラッチ3がほぼ完全に解放して入力軸回転数が充分に低下した状態で、ギヤの掛け替えを伴う変速制御が再度実行される(t17時点)。前述したように、この場合は各ドグ歯の頂面の相対的な位相がずれているので、ドグクラッチが係合し(t18時点)、変速が完了する。
【0034】
なお、上述した
図4や
図5に示す制御例は、ドグクラッチにおける従動側部材の回転数や駆動側部材の回転数を、別軸駆動機構や入力側のモータなどによって変化させ、それに伴う位相の変化によって頂面停止状態を解消する例であるが、摩擦などによる回転数の変化によって互いに噛み合うべきドグ歯の相対的な位相を変化させることとしてもよい。例えば、前述した入力クラッチ3を解放した状態でドグクラッチ(もしくは変速機4)をニュートラル状態にする。こうすれば、入力軸5およびこれに連結されている駆動側部材8は、モータなどの駆動力源および駆動輪に対して遮断され、いわゆるフリー状態になる。その場合、軸受や潤滑油などによる不可避的な摩擦力が作用するので、フリー状態の入力軸5や駆動側部材8の回転数がその摩擦力などによって低下する。このような回転数の変化によって、駆動側ドグ歯10と従動側ドグ歯11との相対的な位相にずれを生じさせていわゆる頂面停止状態を解消することとしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
2 モータ
3 入力クラッチ
4 変速機
5 入力軸
6 出力軸
7 ドグクラッチ
8 駆動側部材
9 従動側部材
10 駆動側ドグ歯
11 従動側ドグ歯
12 シフトフォーク
14 後輪
15 モータ
17 前輪
19 電子制御装置