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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/79 20180101AFI20241217BHJP
   F24F 11/62 20180101ALI20241217BHJP
【FI】
F24F11/79
F24F11/62
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021121450
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017294
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】朱 艶
(72)【発明者】
【氏名】田村 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】細野 賢人
(72)【発明者】
【氏名】野崎 涼
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-27603(JP,A)
【文献】特開2005-38269(JP,A)
【文献】特表2015-522797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人と共に移動し、位置情報を送信するタグと、
施設内の所定の位置に配置されるとともに、前記タグの位置情報の送受信を行うアンカーと、
天井に設けられたダクトから突出して設けられているとともに、一部がレール上でスライド駆動する状態で保持され、さらに向きを変更可能である吹き出し部を有し、送風を行う空調部と、
前記空調部の送風の制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アンカーから受信した前記タグの位置情報から、前記タグの動線ベクトルを算出し、算出された前記動線ベクトルから、前記タグの次の動線ベクトルを予測して到達予測位置を算出する予測位置演算手段と、
前記予測位置演算手段により算出された前記到達予測位置に向けて、前記空調部から送風する送風角度を算出する角度演算手段と、を有し、
前記角度演算手段は、
前記レール上でスライド駆動した前記吹き出し部の位置情報を修正してから、送風する送風角度を算出する、
空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、特開2019―105436号公報がある。この公報に記載された空調システムでは、空調領域を仮想的に分割し、分割領域に人が進入したことを条件として、当該領域に風が向かうように空調制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】、特開2019―105436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の人追従型の空調制御システムは、空調機の吹き出し部を人の方向へ向けて送風を行うものであるが、人が移動している場合にリアルタイムに追従できない場合がある。
【0005】
また、空調機の吹き出し部を人に向けて送風を行った場合であっても、冷暖気が到達するまでに数秒を要することがあり、追従対象となった人に向けて精度よく送風を行うことが困難となることがある。
【0006】
さらに、追従に用いるセンサーの種類により、機械等を人と誤検知することがある。
【0007】
センサーの性能や数の制限によって、人の追従を行える空間が制限されて空調範囲が狭くなることや、事前に設定した範囲のみを空調する結果となる場合がある。
【0008】
また、生産ラインは多種多様であり、空調システムを夫々の生産ラインに適応させるためには、夫々にカスタマイズが必要でありコストが増大する。この場合、ライン変更時には再度のカスタマイズが必要となる。ここで動線予測を行う際には、施設のレイアウト情報である道路幅や棚の位置等に依存することから、生産ライン上の作業者の動線予測が困難であるという問題もある。
【0009】
なお例えば、空調以外の分野において、人の動線追従・予測システムが存在する。このようなシステムでは、店舗や公共施設などの施設内外の人密度や施設人気度などの予測を目的とし、人の動線予測を行う。しかしながら、このシステムでは人の特定が不可能であり、このシステムを生産システムで適用した場合には、生産ラインのライン内とライン外の作業者の特定が不可能であるという問題がある。
【0010】
本発明は、人の動きに対応して適切に空調制御を行う空調システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる空調システムは、位置情報を送信するタグと、施設内の所定の位置に配置されるとともに、前記タグの位置情報の送受信を行うアンカーと、送風を行う空調部と、前記空調部からの送風の制御を行う制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記アンカーから受信した前記タグの位置情報から、前記タグの動線ベクトルを算出し、算出された前記動線ベクトルから、前記タグの次の動線ベクトルを予測して到達予測位置を算出する予測位置演算手段と、前記予測位置演算手段により算出された前記到達予測位置に向けて、前記空調部から送風する送風角度を算出する角度演算手段と、を有する。
これにより、人の動きを予測して、空調制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
これにより、人の動きに対応して適切に空調制御を行う空調システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】空調システムの構成物品の一例を示す図である。
図2】制御手段の構成の一例を示す図である。
図3】動線ベクトルによる人の位置予測を模式的に示した図である。
図4】動線予測の条件と動線予測実測結果の一例を示した図である。
図5】空調システムの動作フローを示した図である。
図6】工場の環境下においてダクトに連結された空調部を用いた一例を示す図である。
図7】工場の環境下においてダクトに連結され長く延びる空調部を用いた一例を示す図である。
図8】所定の方向にのみ送風の方向が変更可能である場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、空調システム1は、作業者が保有するタグ11と、天井等に固定して設けられたアンカー12と、作業者に向けて送風を行う空調部13と、空調部13の制御を行う制御手段14と、を備える。
【0015】
始めに、空調システム1が用いられる環境について説明する。空調システム1は、人が所定の領域内で移動する施設において用いられるものであって、特に、人が作業を行う工場の環境内で用いられる。典型的には、環境内には、人が移動するための通路と、設備や搬送車両等の物品が配されているために人が入れない領域が設けられている。
【0016】
タグ11は、人が所持するタグである。例えば、タグ11は、帽子や上着襟元などに設けられており、人と共に移動する。以下では、タグ11の移動を、タグ11を有する人の移動として扱う場合がある。
【0017】
より具体的には、空調システム1では複数のタグ11が利用され、1つのタグ11に対して1人の人が対応している。例えば、環境内に配される各人は、ユニークなIDが記録されているタグ11を1つ保有している。
【0018】
タグ11は、位置情報と、を有する信号をアンカー12に送信する機能を有する。すなわちタグ11は、環境内において、人物の特定及び位置を特定する情報をアンカー12に送信することができる。
【0019】
複数のアンカー12は、環境内に互いに所定の距離で離間した状態で配置される送受信機であり、夫々が建屋柱や梁などに固定される。なお、アンカー12は、設備の陰となる箇所の近くにも設置可能である。これにより、設備の陰となる場所に人が移動した場合であっても、タグ11との共働により測位が可能である。
【0020】
タグ11と、アンカー12は、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線通信)測位システムを用いて、タグ11を保有する人の位置の測位をリアルタイムで行う。ここで、空調システム1を利用する工場等の環境内において必要な測位の条件の一例として、測位精度が数十cm、検知範囲(カバーエリア)は数十mであることが挙げられる。UWB測位システムでは、この測位精度及び検知範囲を両立することができることから、工場等の環境下で空調システム1を用いる際の測位システムに適している。
【0021】
なお、タグ11とアンカー12を用いた測位システムは、UWB測位システムを用いることに限られない。例えば、Wi-Fi(Wireless Fidelity)やビーコンを用いる方法を採用することも可能である。環境ごとの測位精度と検知範囲の要求に応じて、カメラやRFID(Radio Frequency Identifier)、GPS(Global Positioning System)、基地局位置情報などを用いた測位を利用することができるが、以下ではUWBのみを用いるものとして説明する。
【0022】
空調部13は、建屋の天井等に固定された送風機である。例えば空調部13には、冷風や温風を吹き出す吹き出し部13aと、吹き出し部13aの向きを変更する変更制御部13bと、を有する。
【0023】
なお変更制御部13bは、吹き出し部13a自身の向きを制御するものであっても良く、吹き出し部13aに設けられた気流操作用の羽を制御するものであっても良い。すなわち、変更制御部13bの制御により、吹き出し部13aから吹き出す気流を変更するための方法は、任意に変更可能である。
【0024】
図2に示すように、制御手段14は、タグ11を保有する人の位置の予測を行う予測位置演算手段21と、空調部13が設けられた位置とタグ11の位置の関係から、空調部13からの送風のために、空調部13の向ける角度の演算を行う角度演算手段22と、を備える。言い換えると、角度演算手段22は、空調部13から、タグ11を有する人の数秒後の予測位置までの角度の演算を行う。
【0025】
例えば、角度演算手段22では、空調部13の吹き出し部13aが直下に送風を行う場合の角度を基準角度(0°)とし、吹き出し部13aの三次元座標と、タグ11の数秒後の予測位置の三次元座標に基づいて、相対的な角度を算出することができる。
【0026】
典型的には、制御手段14は、主記憶装置、補助記憶装置、CPU(Central Processing Unit)等により構成されたコンピュータであるが、これに限られない。
【0027】
予測位置演算手段21は、アンカー12から送信された人の位置情報を受信し、タグ11を有する人が移動する移動先を予測する。
【0028】
ここで、予測位置演算手段21が予想する人の位置とは、空調部13において吹き出し部13aの角度を調整し、調整した角度で冷風や温風の送風を開始した際に、その冷風や温風が、タグ11を保有する人の位置に到達する時刻における位置である。
【0029】
一例として、空調部13の送風口から吐出された気流が、タグ11を保有する人までに到達するまでに約3秒かかるような配置である場合、予測位置演算手段21では、タグ11を有する人の約3秒の移動後の到達予測位置を算出することができる。なおこの場合、タグ11を有する人が空調部13に近づくように移動していれば到達予測時間を短くし、逆に、タグ11を有する人が空調部13から遠ざかるように移動していれば到達予測時間長くすることも可能である。
【0030】
また、予測位置演算手段21には、AI(Artificial Intelligence)を用いることができる。
【0031】
例えば図3に示すように、予測位置演算手段21では、タグ11の過去の動線ベクトルから、次の動きのベクトルを予想し、タグ11の予測位置を算出することができる。
【0032】
図4は、動線予測実測結果の一例であり、人が連続移動する条件で、許容誤算半径500mm以内、予測時間を3秒とした場合に、予測的中率が77%となったことを示している。
【0033】
角度演算手段22は、予測位置演算手段21による人の位置の予測結果と、空調部13の配置に基づいて、空調部13の吹き出し部13aから、タグ11を有する人の予測位置までの角度を算出する。
【0034】
なお演算の前提条件として、予測位置演算手段21及び角度演算手段22では、タグ11を保持している人はXY平面上、すなわちZ方向の高さが0の位置で移動するものとして演算を行うことができる。また同様に、予測位置演算手段21及び角度演算手段22では、空調部13の吹き出し部13aはXY方向には移動せず、所定のZ方向の高さに配されているものとして演算を行うことができる。この演算の前提条件は任意に変更可能である。
【0035】
次に、図5を参照して、空調システム1の動作について説明する。
【0036】
最初に、タグ11を有する人が環境内の移動を行う(S1)。またタグ11は、位置情報を含んでいるUWB信号を、アンカー12に向けて送信する。
【0037】
アンカー12は、タグ11から送信されたUWB信号を受信する(S2)。これにより、アンカー12では人の位置座標(X,Y)を検知する。またアンカー12は、人の位置座標(X,Y)の情報を、制御手段14に出力する。
【0038】
制御手段14の予測位置演算手段21では、位置座標(X,Y)にいる人が、数秒後の移動先の予測位置(XAI,YAI)を算出する(S3)。例えば予測位置演算手段21は、人の3秒後の予測位置を、過去から現在の位置へ動線ベクトルを利用し、AIを利用して予測を行う。なお、予測位置演算手段21による人の移動先の位置予測方法は、これに限られない。
【0039】
制御手段14の角度演算手段22は、予測位置演算手段21で算出した人の予測位置(XAI,YAI)に基づき、吹き出し部13aから、タグ11を有する人の予測位置までの角度を算出する(S4)。制御手段14は、算出した吹き出し部13aの角度の情報を、空調部13に送信する。
【0040】
空調部13は、角度演算手段22で算出された角度の情報を受信し、吹き出し部13aの向きを変更する(S5)。具体的には、変更制御部13bは、角度演算手段22で算出された角度の情報に基づいて、吹き出し部13aの向きを制御する。
【0041】
その後、空調部13は、送風を開始する(S6)。すなわち、空調部13では、角度調整された吹き出し部13aの向きで送風を行うことにより、予測位置演算手段21で算出した人の予測位置(XAI,YAI)を狙って送風を行うことができる。
【0042】
したがって、空調システム1では、環境内で移動する人に向けて空調部13から送風を行う際に、人の移動先を予想しつつ、人の移動に追従して送風を行うことができる。
【0043】
また、人が携帯可能なタグ11の情報に基づいて空調制御することができるので、不要な空調制御を行う必要がなくなる。そのため、環境負荷の増大を抑制することができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0045】
例えば図6に示すように、空調部13は、工場内の環境において、天井に設けられたダクト31と、ダクト31から突出して設けられているとともに、向きを変更可能である吹き出し部13aと、吹き出し部13aの向き及び位置を制御する変更制御部13bと、を設けることとしてもよい。この構造によれば、ダクトに連結された1つの空調部13により、環境内における広範囲の空調を行うことができる。
【0046】
また図7に示すように、空調部13は、工場内の環境において、天井に設けられたダクト31と、ダクト31から長く突出して設けられているとともに、一部がレール上でスライド駆動する状態で保持され、さらに向きを変更可能である吹き出し部13aと、吹き出し部13aの向き及び位置を制御する変更制御部13bと、を設けることとしてもよい。
【0047】
例えば、この図7に示す空調部13は、吹き出し部13aがレール上をスライド動作することができ、所定の範囲で位置変更が可能である。ここで、変更制御部13bは、レール上での移動により変化する吹き出し部13aの位置制御を行うことができる。なお、この構造によれば、ダクトに連結された1つの空調部13により、より広範囲の空調を行うことができる。
【0048】
なおこのように、空調部13の吹き出し部13aの位置が大きく変更可能であるものを利用する場合には、角度演算手段22による演算を行う際に、吹き出し部13aの位置情報を修正してから、演算を行うことが望ましい。
【0049】
さらに図8に示すように、空調部13として、環境内における所定のXY平面において、X方向にのみ空調範囲を変更する首振り空調送気機構を用いることができる。例えば、X方向に連続する棚が、Y方向に隙間を開けて配されていることにより、X方向に延びる通路が設けられている環境下において、この通路にのみ送風されるように、空調部13からの送風の変更方向をX方向に限定しつつ、広範囲に送風を実行することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 空調システム
11 タグ
12 アンカー
13 空調部
13a 吹き出し部
13b 変更制御部
14 制御手段
21 予測位置演算手段
22 角度演算手段
31 ダクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8