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特許7605065液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241217BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241217BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20241217BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241217BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08L101/00
C08K5/13
C08L79/08
C08G73/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021133363
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2022067054
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020175541
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
(72)【発明者】
【氏名】植阪 裕介
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/162462(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08L 101/00
C08K 5/13
C08L 79/08
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体成分と、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である化合物[A]と、を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a1及びa2は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b1及びb2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a1+b1≦5及び1≦a2+b2≦5を満たす。Zは、下記(i)、(ii)又は(iii)を満たす(c+d)価の有機基である。
(i)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換され、かつ当該飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基、又は、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がカルボキシル基で置換された炭素数2~8の(c+d)価の基。
(ii)炭素数11以上の(c+d)価の飽和炭化水素基、又は、炭素数7以上の(c+d)価の芳香族炭化水素基。ただし、Z が炭素数7以上の(c+d)価の芳香族炭化水素基である場合、Z は「-R 20 -R 22 -R 21 -」で表される。R 20 は、単結合又は(c+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。R 21 は、単結合又は(d+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。R 22 は、下記式(r-2-1)で表される基又は下記式(r-2-2)で表される基である。ただし、R 20 、R 21 及びR 22 の炭素数の合計は7以上である。
【化4】
(式(r-2-1)中、R 23 は、アルカンジイル基である。R 24 は、単結合又はアルカンジイル基である。R 25 は、1価の芳香環基である。式(r-2-2)中、R は置換基である。tは0~4の整数である。「*」は結合手であることを示す。)
(iii)-S-又は-SO -。
c及びdは、それぞれ独立して、1~3の整数である。ただし、上記(iii)の場合、c+d=2である。上記(ii)においてR 20 が単結合の場合、cは1である。R 21 が単結合の場合、dは1である。、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化2】
(式(2)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。ただし、式(2)中のY及びYのうち少なくとも1個は、下記式(Y-1)~式(Y-6)のうちいずれかで表される1価の基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a3及びa4は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b3及びb4は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a3+b3≦5及び1≦a4+b4≦5を満たす。Zは、(e+f)価の有機基である。e及びfは、それぞれ独立して、1~3の整数である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化3】
(式(Y-1)~式(Y-6)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、重合性不飽和結合を有する単量体に由来する部分構造を有する重合体、及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体成分は、下記式(3)で表される部分構造を有する重合体を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
*-L-R-R-R-R …(3)
(式(3)中、Lは、単結合、-O-、-CO-、-COO-*、-OCO-*、-NR25-、-NR25-CO-*、-CO-NR25-*、炭素数1~6のアルカンジイル基、炭素数2~6のアルカンジイル基が有する水素原子が水酸基で置換された2価の基、-O-R26-*、又は-R26-O-*(ただし、R25は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。R26は、炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*」は、Rとの結合手であることを示す。)である。R及びRは、それぞれ独立に、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。Rは、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R27-B-R28-(ただし、R27及びR28は、それぞれ独立して、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基である。Bは、単結合、-O-、-COO-*、-OCO-*、-OCH-*、-CHO-*、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*」は、R28との結合手であることを示す。)である。Rは、水素原子、フッ素原子、シアノ基、CHCOO-*(「*」は、Rとの結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、炭素数1~18のアルキル基若しくはフルオロアルキル基が有する水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R、R及びRの全部が単結合であるか、又はR、R及びRが有する置換若しくは無置換のフェニレン基及びシクロアルキレン基の合計が1個である場合、Rは、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項4】
前記重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であって、かつ「*-NR1112」、「*-NR13-*」、「*-NR14-CO-NR15-*」、「*-NR16-CO-*」、及び「*-COOR17」(ただし、R11は、水素原子又は1価の有機基である。R12は保護基である。R13~R17は、それぞれ独立して、水素原子又は保護基である。「*」及び「*」は、炭素-炭素結合を構成する炭素原子との結合手であることを示す。)よりなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するジアミンに由来する構造単位を有する重合体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、
前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、
を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。
【0003】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は従来よりも高まっている。そこで従来、液晶配向膜の性能を改善し、液晶素子の各種特性を優れたものとするべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ポリイミド又はポリイミド前駆体と共に、メチロール基が芳香環に結合した構造を有する化合物を液晶配向剤に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/074269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビやカーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン、インフォメーションディスプレイ、位相差フィルム、調光フィルムなど、屋内及び屋外を問わず多種多様な用途において使用されている。また、使用用途の拡大に伴い、液晶素子は従来よりも過酷な環境下で使用されることが想定される。例えば、液晶素子は、長時間の連続駆動によってバックライトが長時間照射されたり、高温高湿環境下で使用されたりすることがある。また、過酷な環境下で液晶素子を使用することによって液晶配向膜が基板から剥がれやすくなる。一方、液晶配向膜の基板からの剥がれが生じた場合には、液晶素子の表示品位が低下してしまうことが懸念される。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、基板に対する膜の密着性を改善することができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1] 重合体成分と、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である化合物[A]と、を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a1及びa2は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b1及びb2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a1+b1≦5及び1≦a2+b2≦5を満たす。Zは、下記(i)、(ii)又は(iii)を満たす(c+d)価の有機基である。
(i)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換され、かつ当該飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基、又は、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がカルボキシル基で置換された炭素数2~8の(c+d)価の基。
(ii)炭素数11以上の(c+d)価の飽和炭化水素基、又は、炭素数7以上の(c+d)価の芳香族炭化水素基。
(iii)-S-、-SO-又は-CO-。
c及びdは、それぞれ独立して、1~3の整数である。ただし、上記(iii)の場合、c+d=2である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化2】
(式(2)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。ただし、式(2)中のY及びYのうち少なくとも1個は、下記式(Y-1)~式(Y-6)のうちいずれかで表される1価の基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a3及びa4は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b3及びb4は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a3+b3≦5及び1≦a4+b4≦5を満たす。Zは、(e+f)価の有機基である。e及びfは、それぞれ独立して、1~3の整数である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化3】
(式(Y-1)~式(Y-6)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0008】
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] 上記[1]の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む、液晶素子の製造方法。
【0009】
[5] 下記式(1)で表される化合物。
【化4】
(式(1)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a1及びa2は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b1及びb2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a1+b1≦5及び1≦a2+b2≦5を満たす。Zは、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がカルボキシル基で置換された炭素数2~8の(c+d)価の基であるか、又は、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換され、かつ当該飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基である。c及びdは、それぞれ独立して、1~3の整数である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【0010】
[6] 下記式(2)で表される化合物。
【化5】
(式(2)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。ただし、式(2)中のY及びYのうち少なくとも1個は、下記式(Y-3)~式(Y-5)のうちいずれかで表される1価の基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a3及びa4は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b3及びb4は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a3+b3≦5及び1≦a4+b4≦5を満たす。Zは、(e+f)価の有機基である。e及びfは、それぞれ独立して、1~3の整数である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化6】
(式(Y-3)~式(Y-5)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、重合体成分と共に化合物[A]を含有することにより、基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、重合体成分と、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である化合物[A]と、を含有する。以下に、液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0013】
なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0014】
<重合体成分>
液晶配向剤に含有される重合体成分は、化合物[A]により架橋されればよく、その主骨格は特に限定されない。重合体成分としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリマレイミド、スチレン-マレイミド系共重合体、又はポリ(メタ)アクリレートを主骨格とし、かつ化合物[A]と反応(架橋反応)する官能基を有する重合体が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。ポリエナミンとは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素-炭素二重結合を有する重合体であり、例えば、ポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。
【0015】
重合体成分としては、これらのうち、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持特性を良好にできる点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、重合性不飽和結合を有する単量体に由来する部分構造を有する重合体、及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、液晶配向性及び電圧保持特性を高くでき、しかもモノマーの選択の自由度が高い点で、本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(以下、「重合体(PA)」ともいう)を含むことが特に好ましい。
【0016】
化合物[A]を用いることによる膜の密着性の改善効果を高くできる点で、本開示の液晶配向剤は、液晶配向剤に含まれる重合体(PA)のうち少なくとも一部が、「*-NR1112」、「*-NR13-*」、「*-NR14-CO-NR15-*」、「*-NR16-CO-*」、及び「*-COOR17」(ただし、R11は、水素原子又は1価の有機基である。R12は保護基である。R13~R17は、それぞれ独立して、水素原子又は保護基である。「*」及び「*」は、炭素-炭素結合を構成する炭素原子との結合手であることを示す。)よりなる群から選択される少なくとも1種の基(以下、「特定基A」ともいう)を有するジアミンに由来する構造単位を含むことが好ましい。こうした特定基Aを有する構造単位を含む重合体を用いることで、化合物[A]による重合体成分との反応を促進させることができ、液晶配向膜と基板との密着性をより高くできる点で好ましい。
【0017】
ここで、特定基Aにおいて、R11で表される1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基が好ましい。
特定基Aが有する保護基は、熱により脱離する1価の有機基(熱脱離性基)であることが好ましい。アミノ基の保護基の具体例としては、例えば、カルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらの中で、好ましくはカルバメート系保護基であり、その具体例としては、例えば、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。熱による脱離性が高い点、及び製膜時の加熱によって脱離した基に由来する化合物を気体として膜外に排出できる点で、これらの中でもtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
カルボキシル基の保護基(R17)としては、tert-ブチル基、カルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造等が挙げられる。
【0018】
なお、特定基Aは、重合体の主鎖及び側鎖のうちいずれに導入されていてもよい。基「*-NR13-*」は、重合体の主鎖の一部を構成していることが好ましい。ここで、重合体の「主鎖」とは、重合体の原子鎖のうち最も長い「幹」の部分をいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0019】
特定基Aの具体例としては、例えば、下記に示す基等が挙げられる。
【化7】
(式中、「*」は、炭素-炭素結合を構成する炭素原子との結合手であることを示す。)
【0020】
重合体(PA)のうち特定基Aを有する単量体に由来する構造単位を含む重合体において、特定基Aを有する単量体に由来する構造単位の含有量は、当該重合体が有する全単量体単位に対し、2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、特定基Aを有する単量体に由来する構造単位の含有量は、当該重合体が有する全単量体単位に対し、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。重合体(PA)が有する特定基Aとしては、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0021】
本開示の液晶配向剤に含まれる重合体成分は、液晶配向膜が液晶層に隣接して配置された場合に、液晶層中の液晶分子にプレチルト角を付与可能な基(以下、「配向性基」ともいう)を有していることが好ましい。ここでいう配向性基は、液晶配向剤により形成された有機膜に対して光照射によらずに液晶配向能を付与可能な基をいう。配向性基の具体例としては、例えば、炭素数4~20のアルキル基、炭素数4~20のアルコキシ基、炭素数4~20のフルオロアルキル基、炭素数4~20のフルオロアルコキシ基、2個以上の環(好ましくは、シクロヘキサン環、ベンゼン環及びナフタレン環よりなる群から選ばれる少なくとも一種の環)が直接又は2価の連結基(例えば、酸素原子、-CO-又は-COO-)を介して結合してなるメソゲン構造を有する基、ステロイド骨格を有する基等が挙げられる。
【0022】
重合体成分は、配向性基を有する重合体として、下記式(3)で表される部分構造を有する重合体を含むことが好ましい。
*-L-R-R-R-R …(3)
(式(3)中、Lは、単結合、-O-、-CO-、-COO-*、-OCO-*、-NR25-、-NR25-CO-*、-CO-NR25-*、炭素数1~6のアルカンジイル基、炭素数2~6のアルカンジイル基が有する水素原子が水酸基で置換された2価の基、-O-R26-*、又は-R26-O-*(ただし、R25は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。R26は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*」は、Rとの結合手であることを示す。)である。R及びRは、それぞれ独立に、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。Rは、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R27-B-R28-(ただし、R27及びR28は、それぞれ独立して、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基である。Bは単結合、-O-、-COO-*、-OCO-*、-OCH-*、-CHO-*、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*」は、R28との結合手であることを示す。)である。Rは、水素原子、フッ素原子、シアノ基、CHCOO-*(「*」は、Rとの結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、炭素数1~18のアルキル基若しくはフルオロアルキル基が有する水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R、R及びRの全部が単結合であるか、又はR、R及びRが有する置換又は無置換のフェニレン基及びシクロアルキレン基の合計が1個である場合、Rは、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0023】
上記式(3)において、Lで表されるアルカンジイル基は、直鎖状であることが好ましい。R25で表される炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
について、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は炭素数1~18のアルキル基若しくはフルオロアルキル基が有する水素原子がシアノ基で置換された1価の基は、直鎖状であることが好ましい。これらの基は、好ましくは炭素数2~18であり、より好ましくは炭素数3~18であり、更に好ましくは炭素数4~18である。Rのステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基としては、例えばコレスタニル基、コレステリル基、ラノスタニル基等が挙げられる。
【0024】
配向性基は、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、R、R及びRが、置換又は無置換のフェニレン基及び置換又は無置換のシクロアルキレン基のうち少なくともいずれかを、R、R及びRの合計数で2個以上有していることが好ましく、2~4個有していることがより好ましい。
配向性基の具体例としては、例えば下記式(3-1)~式(3-10)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化8】
(式(3-1)~式(3-10)中、R20は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のフルオロアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数1~20のフルオロアルコキシ基である。X21は、-O-、-COO-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0025】
本開示の液晶配向剤は、配向性基を有する重合体として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有していることが好ましい。当該重合体において、配向性基を有する構造単位の含有量は、重合体が有する単量体単位の全量に対して、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましい。また、配向性基を有する構造単位の含有量は、重合体が有する単量体単位の全量に対して、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。なお、重合体成分中に含まれる配向性基は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0026】
次に、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体の好ましい例について説明する。
【0027】
(ポリアミック酸)
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0028】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、良好な電圧保持特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用量は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0030】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、公知のジアミン化合物を用いることができる。当該ジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。加熱による化合物[A]との反応性が高く、架橋をより促進させることができる点で、ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物は、特定基Aを有するジアミンを含むことが好ましい。
【0031】
特定基Aを有するジアミンの具体例としては、例えば、下記式(d-1-1)~式(d-1-28)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
(式中、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)
【0032】
重合体(PA)として、特定基Aを有する単量体に由来する構造単位を含む重合体を合成する場合、特定基Aを有するジアミンの使用量は、当該重合体の合成に使用するジアミンの全量に対して、4モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましい。また、特定基Aを有するジアミンの使用量は、当該重合体の合成に使用するジアミンの全量に対して、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、60モル%以下が更に好ましい。重合体(PA)の合成に際し、特定基Aを有するジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
垂直配向型及びPSA型の液晶素子の液晶配向膜を形成する場合、重合体(PA)の合成に際し、特定基Aを有するジアミンと共に、配向性基を有するジアミンを用いることが好ましい。配向性基を有するジアミンは、上記式(3)で表される部分構造を有するジアミンが好ましい。配向性基を有するジアミンの具体例としては、例えば、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化13】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)であり、Rは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0~2の整数であり、cは1~20の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物等を挙げることができる。
【0034】
重合体(PA)として配向性基を有する重合体を合成する場合、配向性基を有するジアミンの使用量は、当該重合体の合成に使用するジアミンの全量に対して、2モル%以上が好ましく、6モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、配向性基を有するジアミンの使用量は、当該重合体の合成に使用するジアミンの全量に対して、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下が更に好ましい。重合体(PA)の合成に際し、配向性基を有するジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、上記のほか、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノスチルベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン等を;ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0036】
ポリアミック酸の合成に際し、その他のジアミンの使用量は、合成に使用するジアミンの全量に対して、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。重合体の合成に際し、その他のジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0038】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0039】
(ポリアミック酸エステル)
ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、などによって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0040】
(ポリイミド)
ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0041】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。このようにして得られる、ポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化により得ることもできる。
【0042】
液晶配向剤を用いて形成した有機膜に対し光配向法を用いて液晶配向能を付与する場合、重合体成分の少なくとも一部を、光配向性基を有する重合体とすることが好ましい。光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応又は光分解反応等の光反応によって膜に異方性を付与可能な官能基をいう。
【0043】
光配向性基の具体例としては、例えば、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造、スチルベン又はその誘導体を基本骨格とするスチルベン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基等が挙げられる。これらのうち、光配向性基は、アゾベンゼン含有基、桂皮酸構造含有基、カルコン含有基、スチルベン含有基、シクロブタン含有構造、及びフェニルベンゾエート含有基よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、光に対する感度が高い点、及び重合体中に導入しやすい点で、桂皮酸構造含有基又はシクロブタン含有構造であることが好ましい。
【0044】
光配向性基を有する重合体は、例えば、(1)光配向性基を有するモノマーを用いた重合により得る方法、(2)エポキシ基を側鎖に有する重合体を合成し、当該合成により得られたエポキシ基含有重合体と、光配向性基を有するカルボン酸とを反応させる方法、等により得ることができる。重合体における光配向性基の含有割合は、塗膜に対し所望の液晶配向能を付与するように光配向性基の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、桂皮酸構造含有基の場合、光配向性基を有する重合体の全構造単位に対して、光配向性基の含有割合を5モル%以上とすることが好ましく、10~60モル%とすることがより好ましい。光配向性基がシクロブタン含有構造である場合、光配向性基を有する重合体の全構成単位に対して、光配向性基の含有割合を50モル%以上とすることが好ましく、80モル%以上とすることがより好ましい。なお、光配向性基を有する重合体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
液晶配向剤に含有させる重合体成分は、1種単独でもよいが、複数種であってもよい。例えば、第1の重合体と、第1の重合体よりも極性が高い第2の重合体とを液晶配向剤に含有させる。この場合、極性が高い第2の重合体が下層に偏在し、第1の重合体が上層に偏在して相分離を生じさせることが可能な点で好ましい。液晶配向剤の重合体成分の好ましい態様としては、以下の(I)~(III)が挙げられる。
(I)第1の重合体及び第2の重合体が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる重合体である態様。
(II)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる一種の重合体であり、他方がポリオルガノシロキサンである態様。
(III)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体であり、他方が、重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体(以下、「重合体(Pm)」ともいう。)である態様。
【0046】
(ポリオルガノシロキサン)
液晶配向剤に含有させるポリオルガノシロキサンは、例えば、加水分解性のシラン化合物を加水分解・縮合することにより得ることができる。加水分解性のシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-シクロヘキシルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等の窒素・硫黄含有アルコキシシラン化合物;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有アルコキシシラン化合物;トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などを挙げることができる。加水分解性シラン化合物は、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」及び「メタクリロキシ」を含む意味である。
【0047】
上記の加水分解・縮合反応は、上記の如きシラン化合物の1種又は2種以上と水とを、好ましくは適当な触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行う。反応に際し、水の使用割合は、シラン化合物(合計量)1モルに対して、好ましくは1~30モルである。使用する触媒としては、例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物などを挙げることができる。触媒の使用量は、触媒の種類、温度などの反応条件などにより異なり、適宜に設定されるべきであるが、例えばシラン化合物の合計量に対して、好ましくは0.01~3倍モルである。使用する有機溶媒としては、例えば炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコールなどが挙げられ、これらのうち、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の使用割合は、反応に使用するシラン化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10~10,000質量部である。
【0048】
上記の加水分解・縮合反応は、例えば油浴などにより加熱して実施することが好ましい。その際、加熱温度は130℃以下とすることが好ましく、加熱時間は0.5~12時間とすることが好ましい。反応終了後において、反応液から分取した有機溶媒層を、必要に応じて乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするポリオルガノシロキサンが得られる。なお、ポリオルガノシロキサンの合成方法は上記の加水分解・縮合反応に限らず、例えば加水分解性シラン化合物をシュウ酸及びアルコールの存在下で反応させる方法などにより行ってもよい。
【0049】
ポリオルガノシロキサンを、配向性基や光配向性基等の機能性基を有する重合体とする場合、その合成方法は特に限定されない。例えば、原料の少なくとも一部にエポキシ基含有シラン化合物を用いて、エポキシ基を側鎖に有するポリオルガノシロキサン(以下、「エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン」ともいう)を合成し、次いで、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンと、機能性基を有するカルボン酸とを反応させる方法などが挙げられる。この方法は簡便であって、しかも機能性基の導入率を高くできる点で好ましい。その他、機能性基を有する加水分解性のシラン化合物をモノマーに含む反応によって、機能性基を側鎖に有するポリオルガノシロキサンを合成してもよい。ポリオルガノシロキサンにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100~50,000の範囲にあることが好ましく、200~10,000の範囲にあることがより好ましい。
【0050】
(重合体(Pm))
重合体(Pm)の合成に用いる、重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルフェニル基、マレイミド基等を有する化合物が挙げられる。また、重合体(Pm)としては、機能性基を導入しやすい点、及び液晶配向性が良好な点で、ポリ(メタ)アクリレート、マレイミド系重合体及びスチレン-マレイミド系共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。
【0051】
重合性不飽和結合を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸:(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等)、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル等の不飽和カルボン酸エステル:無水マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸無水物:などの(メタ)アクリル系化合物;
スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4-(グリシジルオキシメチル)スチレン等の芳香族ビニル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物;
N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、4-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸、N-(4-グリシジルオキシフェニル)マレイミド、N-グリシジルマレイミド、3-マレイミド安息香酸、3-マレイミドプロピオン酸、3-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸、4-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸メチル等のマレイミド化合物、等が挙げられる。また、重合体(Pm)を、機能性基を有する重合体とする場合には、重合性不飽和結合を有するモノマーとして機能性基を有する化合物を用いることもできる。なお、重合性不飽和結合を有するモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
重合体(Pm)は、例えば、重合性不飽和結合を有するモノマーを重合開始剤の存在下で重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。上記重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物などが挙げられ、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが好ましい。反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は、1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1~60質量%になるような量にすることが好ましい。重合体(Pm)につき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、250~500,000であることが好ましく、500~100,000であることがより好ましい。
【0053】
上記(II)及び(III)の態様において、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの合計の含有量は、液晶配向性及び電圧保持特性が十分に高い液晶素子を得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量に対して、20質量%以上とすることが好ましく、30%質量以上とすることがより好ましく、50~98質量%とすることが更に好ましい。液晶配向剤を用いて形成された有機膜に光配向法によって液晶配向能を付与する場合、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート及びスチレン-マレイミド系共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を、光配向性基を有する重合体とすることにより、より良好な液晶配向性を有する配向膜が得られる点で好ましい。
【0054】
液晶配向剤中の重合体成分の含有割合は、膜強度を十分に高くする観点から、液晶配向剤中に含有される固形分の合計質量(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量)に対して、50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが更に好ましい。
【0055】
<化合物[A]>
化合物[A]は、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【化14】
(式(1)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a1及びa2は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b1及びb2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a1+b1≦5及び1≦a2+b2≦5を満たす。Zは、下記(i)、(ii)又は(iii)を満たす(c+d)価の有機基である。
(i)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換され、かつ当該飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基、又は、飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がカルボキシル基で置換された炭素数2~8の(c+d)価の基。
(ii)炭素数11以上の(c+d)価の飽和炭化水素基、又は、炭素数7以上の(c+d)価の芳香族炭化水素基。
(iii)-S-、-SO-又は-CO-。
c及びdは、それぞれ独立して、1~3の整数である。ただし、上記(iii)の場合、c+d=2である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化15】
(式(2)中、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。ただし、式(2)中のY及びYのうち少なくとも1個は、下記式(Y-1)~式(Y-6)のうちいずれかで表される1価の基である。X及びXは、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。a3及びa4は、それぞれ独立して、1~3の整数である。b3及びb4は、それぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、1≦a3+b3≦5及び1≦a4+b4≦5を満たす。Zは、(e+f)価の有機基である。e及びfは、それぞれ独立して、1~3の整数である。Y、Y、X及びXにつき、同一の記号が式中に複数個存在する場合、同一の記号の基は互いに同一又は異なる。)
【化16】
(式(Y-1)~式(Y-6)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0056】
(上記式(1)で表される化合物)
上記式(1)において、Y及びYで表される1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の炭化水素基、当該炭化水素基が有するメチレン基のうち少なくとも1個が-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR-、-CONR-等で置き換えられてなる1価の基(Rは水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基)、1価の複素環基等が挙げられる。Y、Yが1価の炭化水素基である場合、当該1価の炭化水素基は、炭素数1~7のアルキル基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基が好ましく、炭素数1~7のアルキル基がより好ましい。
【0057】
及びYで表される1価の有機基は、膜形成時の加熱によって脱離する基であることが好ましい。Y及びYが熱により脱離する基である場合、その好ましい具体例としては、炭素数1~7のアルキル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基等のエーテル系保護基;メトキシメチル基、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基等のアセタール系保護基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル系保護基;アリル基、メタリル基等のアリル系保護基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリルエーテル系保護基が挙げられる。熱による脱離しやすさと保存安定性との両立を図る観点から、これらのうち、エーテル系保護基、アセタール系保護基又はアセチル基が好ましく、炭素数1~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル又はアセチル基がより好ましい。
【0058】
及びYは、液晶配向膜と基板との密着性及び液晶配向剤の保存安定性を高くする観点から、上記のうち、水素原子、エーテル系保護基、アセタール系保護基又はアセチル基が好ましく、水素原子、炭素数1~7のアルキル基、アセチル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基又は1-エトキシエチル基がより好ましい。
【0059】
及びXは、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基が好ましい。
a1及びa2はそれぞれ、液晶配向膜と基板との密着性の改善効果を十分に得る観点から、2又は3が好ましい。a1+b1及びa2+b2はそれぞれ、2以上が好ましく、2~4がより好ましい。
c及びdは、基板に対する密着性の改善効果を十分に得る観点と、保存安定性とのバランスの観点から、c+dが2~6であることが好ましく、2~4がより好ましい。
【0060】
が(i)を満たす場合、Zは、以下の(Z1)、(Z2)又は(Z3)である。
(Z1)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基。
(Z2)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換され、かつ当該飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-に置き換えられてなる炭素数1~8の(c+d)価の基。
(Z3)飽和鎖状炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がカルボキシル基で置換された炭素数2~8の(c+d)価の基。
【0061】
上記基(Z1)において、飽和鎖状炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。飽和鎖状炭化水素基が直鎖状である場合、液晶配向膜の形成後に一対の基板をシール剤を介して貼り合わせる際に、シール剤の幅(シール幅)を狭くした場合にも配向膜と基板との密着性(以下、「狭幅密着性」ともいう)を高くできる点で好ましい。なお、飽和鎖状炭化水素基が直鎖状である場合、c+dは2であることが好ましい。
【0062】
基(Z1)において、飽和鎖状炭化水素基における酸素原子の位置は特に限定されない。酸素原子は、飽和鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に存在していてもよく、飽和鎖状炭化水素基の端部(すなわち、式(1)中のベンゼン環に結合する部分)に存在していてもよく、炭素-炭素結合間及び端部の両方に存在していてもよい。これらのうち、基(Z1)は、式(1)においてZを介して連結される少なくとも1個のベンゼン環に対して酸素原子で結合する基であることが好ましく、Zを介して連結されるベンゼン環の全部に対して酸素原子で結合する基であることがより好ましい。
基(Z1)が有する酸素原子の数は、狭幅密着性をより高くできる点で、2個以上が好ましく、2~6個がより好ましい。
【0063】
上記基(Z2)は、上記基(Z1)中の炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された基である。基(Z2)において、飽和鎖状炭化水素基は、基(Z1)と同様の理由から直鎖状であることが好ましい。基(Z2)における酸素原子の位置の具体例及び好ましい例の説明については、上記基(Z1)の説明が援用される。
【0064】
上記基(Z3)において、飽和鎖状炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また、飽和鎖状炭化水素基におけるカルボキシル基の位置及び数も特に限定されない。狭幅密着性がより高い液晶配向膜を得ることができる点で、カルボキシル基は、式(1)中の2個以上のベンゼン環を連結する飽和鎖状炭化水素部分に対し、アルカンジイル基を介して結合していることが好ましい。この場合、カルボキシル基の動きの自由度が増大し、自己架橋性を高くできる点で好適である。
基(Z3)が有するカルボキシル基の数は、狭幅密着性と保存安定性との両立を図る観点から、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0065】
が(i)を満たす場合、上記式(1)で表される化合物の好ましい具体例としては、下記式(1-z-1)で表される化合物及び下記式(1-z-2)で表される化合物が挙げられる。
【化17】
(式(1-z-1)中、Rは、炭素数1~8のアルカンジイル基、炭素数1~8のフルオロアルカンジイル基、又はアルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数2~8の2価の基である。Y、Y、X、X、a1、a2、b1及びb2は、上記式(1)と同義である。)
【化18】
(式(1-z-2)中、Rは、単結合又は(c+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。Rは、単結合又は(d+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。R10は、(g+2)価の飽和鎖状炭化水素基である。R11は、アルカンジイル基である。ただし、R、R、R10及びR11の炭素数の合計は2~8である。gは、1~3の整数である。Y、Y、X、X、a1、a2、b1、b2、c及びdは、上記式(1)と同義である。)
【0066】
上記式(1-z-1)において、Rは、好ましくは、「*-O-(CH-O-*」、「*-O-(CF-O-*」又は「*-O-(R-O)-*」で表される基(ただし、Rは炭素数2~4のアルカンジイル基である。hは1~8の整数である。iは1~4の整数である。)である。
上記式(1-z-2)において、c及びdはそれぞれ、基板に対する密着性と保存安定性とをバランス良く発現させる観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
gは、1又は2が好ましい。
【0067】
上記式(1)中のZが(i)を満たす化合物を液晶配向剤に含有させることにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。特に、タッチパネル式の液晶素子において可動面積をできるだけ広く確保したり、表示パネルの小型化を図ること等を目的として、液晶素子の狭額縁化を図るべくシール幅を狭くした場合にも、配向膜と基板との密着性(すなわち、狭幅密着性)に優れた液晶配向膜を形成できる点で好適である。すなわち、上記式(1)中のZが(i)を満たす化合物によれば、基板との密着性に優れるとともに、液晶素子の狭額縁化に適した液晶配向膜を得ることができる。また、架橋剤として当該化合物を用いることにより、架橋剤を含む液晶配向剤とした場合にも、高い電圧保持率を示す液晶素子を得ることができる。Zは、基(Z1)~基(Z3)のうち、重合体成分との相溶性が高く、塗布性及び液晶配向性を良好にできる点で、好ましくは基(Z1)又は基(Z3)である。
【0068】
が(ii)を満たす場合、Zは、以下の(Z4)又は(Z5)である。
(Z4)炭素数11以上の(c+d)価の飽和炭化水素基。
(Z5)炭素数7以上の(c+d)価の芳香族炭化水素基。
【0069】
が基(Z4)である場合、Z(すなわち、飽和炭化水素基)は脂環式構造を有していることが好ましい。この場合、上記式(1)で表される化合物の好ましい具体例として、下記式(1-z-3)で表される化合物が挙げられる。
【化19】
(式(1-z-3)中、R12は、(c+1)価の飽和鎖状炭化水素基又は脂環式基である。R13は、(d+1)価の飽和鎖状炭化水素基又は脂環式基である。R14及びR15は、それぞれ独立して、単結合又はアルカンジイル基である。R16は、アルカンジイル基又は脂環式構造を有する2価の基である。ただし、R12、R13、R14、R15及びR16の炭素数の合計は11以上である。R12、R13及びR16のうち少なくともいずれかは脂環式構造を有する。Y、Y、X、X、a1、a2、b1、b2、c及びdは、上記式(1)と同義である。)
【0070】
上記式(1-z-3)において、R12及びR13で表される脂環式基は、脂環式炭化水素環の環部分から(c+1)個又は(d+1)個の水素原子を取り除いた基である。当該脂環式炭化水素環は、高温高湿耐性が高い液晶配向膜を形成できる点で、環員数4以上が好ましく、環員数5以上がより好ましく、環員数5~12が更に好ましい。化合物の入手容易性、基板に対する密着性、及び高温高湿耐性をバランス良く発現させる観点から、基(Z4)が有する脂環式構造は、シクロペンタン環、シクロヘキサン環又はシクロヘプタン環が特に好ましい。
12及びR13は、高温高湿耐性の改善効果が高い点で、少なくとも一方が脂環式基であることが好ましく、両者共に脂環式基であることがより好ましい。
【0071】
14及びR15で表されるアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。R14及びR15は、単結合又は炭素数1~5のアルカンジイル基が好ましく、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基がより好ましい。
【0072】
16で表されるアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。R16がアルカンジイル基である場合、炭素数1~10が好ましく、炭素数1~5がより好ましい。R12及びR13のうち少なくとも一方が脂環式基である場合、R16は、アルカンジイル基であることが好ましい。R16が脂環式構造を有する2価の基である場合、R16としては、例えば下記式(r-1)で表される基が挙げられる。
【化20】
(式(r-1)中、R17は、アルカンジイル基である。R18は、単結合又はアルカンジイル基である。R19は、1価の脂環式基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0073】
式(r-1)において、R17は、炭素数1~3が好ましい。R18は、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基が好ましい。R19は、置換又は無置換のシクロへキシレン基が好ましい。当該置換基としては、メチル基、エチル基、フッ素原子等が挙げられる。
高温高湿耐性をより高くできる点で、c及びdはそれぞれ、2又は3が好ましく、2がより好ましい。
12、R13、R14、R15及びR16の炭素数の合計は、塗布性を良好にする観点及び配向ムラを抑制する観点から、40以下が好ましく、30以下がより好ましい。
【0074】
が基(Z5)である場合、Z(すなわち、芳香族炭化水素基)が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環等が挙げられる。Zが基(Z5)である場合、上記式(1)で表される化合物の好ましい具体例としては、下記式(1-z-4)で表される化合物が挙げられる。
【化21】
(式(1-z-4)中、R20は、単結合又は(c+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。R21は、単結合又は(d+1)価の飽和鎖状炭化水素基である。R22は、芳香環構造を有する2価の基である。ただし、R20、R21及びR22の炭素数の合計は7以上である。Y、Y、X、X、a1、a2、b1、b2、c及びdは、上記式(1)と同義である。R20が単結合の場合、cは1である。R21が単結合の場合、dは1である。)
【0075】
上記式(1-z-4)において、R22は、下記式(r-2-1)で表される基又は下記式(r-2-2)で表される基が好ましい。
【化22】
(式(r-2-1)中、R23は、アルカンジイル基である。R24は、単結合又はアルカンジイル基である。R25は、1価の芳香環基である。式(r-2-2)中、Rは置換基である。tは0~4の整数である。「*」は結合手であることを示す。)
【0076】
式(r-2-1)において、R23は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。R23の炭素数は1~3が好ましい。R24は、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基が好ましい。R25は、置換又は無置換のフェニル基又はナフチル基が好ましい。当該置換基としては、メチル基、エチル基、フッ素原子等が挙げられる。
【0077】
式(r-2-2)において、Rで表される置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、アセチル基等が挙げられる。tは0~2が好ましい。
【0078】
c及びdはそれぞれ、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
20、R21及びR22の炭素数の合計は、塗布性を良好にする観点及び配向ムラを抑制する観点から、40以下が好ましく、30以下がより好ましい。
【0079】
上記式(1)中のZが(ii)を満たす化合物を液晶配向剤に含有させることにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。また、Zの上記構造は疎水性が高く、こうした化合物[A]を液晶配向剤に含有させることにより、高温高湿環境下に曝した場合にも性能低下が生じにくく、高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を形成することができる点で好適である。すなわち、上記式(1)中のZが(ii)を満たす化合物によれば、基板との密着性に加え、高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を得ることができる。また、架橋剤として当該化合物を用いることにより、架橋剤を含む液晶配向剤とした場合にも、高い電圧保持率を示す液晶素子を得ることができる点で好適である。
【0080】
が(iii)を満たす場合、Zは、-S-、-SO-又は-CO-である。この場合、上記式(1)で表される化合物は、下記式(1-z-5)で表すことができる。
【化23】
(式(1-z-5)中、Zは、-S-、-SO-又は-CO-である。Y、Y、X、X、a1、a2、b1及びb2は、上記式(1)と同義である。)
【0081】
式(1-z-5)中のZは、膜形成時の温度を高温(例えば200℃以上)にした場合にも基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成できる点で、-S-又は-SO-が好ましく、-SO-がより好ましい。
【0082】
上記式(1)中のZが(iii)を満たす化合物を液晶配向剤に含有させることにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。また、上記式(1)中のZに電子求引性基を示す構造を導入した化合物[A]を液晶配向剤に含有させることにより、膜形成時の温度(ポストベーク温度)を高温にした場合にも液晶配向膜の基板からの剥がれが生じにくく、基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成することができる点で好適である。製造工程においてポストベーク温度を高くして膜形成工程の短縮化を図ることが考えられるが、上記式(1)中のZが(iii)を満たす化合物によれば、ポストベーク温度を高くしても膜の剥がれが生じにくく、プロセス適合範囲が広く、かつ製造歩留まりの低下を抑制できる点で好適である。また、架橋剤として当該化合物を用いることにより、架橋剤を含む液晶配向剤とした場合にも、高い電圧保持率を示す液晶素子を得ることができる点で好適である。
【0083】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、Zが(i)を満たす場合の化合物として、下記式(1-1-1)~式(1-1-13)のそれぞれで表される化合物等を;Zが(ii)を満たす場合の化合物として、下記式(1-2-1)~式(1-2-12)のそれぞれで表される化合物等を;Zが(iii)を満たす場合の化合物として、下記式(1-3-1)~式(1-3-9)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。なお、上記式(1)で表される化合物としては、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【0084】
(上記式(2)で表される化合物)
上記式(2)において、Y及びYで表される1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の炭化水素基、当該炭化水素基が有するメチレン基のうち少なくとも1個が-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR-、-CONR-等で置き換えられてなる1価の基(Rは水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基)、1価の複素環基等が挙げられる。Y、Yが1価の炭化水素基である場合、当該1価の炭化水素基は、炭素数1~7のアルキル基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基が好ましく、炭素数4~7のアルキル基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基がより好ましく、炭素数4~7のアルキル基が更に好ましい。
【0085】
及びYで表される1価の有機基は、膜形成時の加熱によって脱離する基であることが好ましい。Y及びYが熱により脱離する基である場合、好ましい具体例としては、炭素数1~7のアルキル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基等のエーテル系保護基;メトキシメチル基、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基等のアセタール系保護基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル系保護基;アリル基、メタリル基等のアリル系保護基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリルエーテル系保護基が挙げられる。また、Y及びYで表される1価の有機基として(メタ)アクリロイル基を上記式(2)で表される化合物に導入してもよい。熱による脱離しやすさの観点から、これらのうち、エーテル系保護基、アセタール系保護基又はアセチル基が好ましく、炭素数1~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル又はアセチル基がより好ましい。
【0086】
上記式(2)で表される化合物において、上記式(2)中のY及びYのうち少なくとも1個は、上記式(Y-1)~式(Y-6)のいずれかで表される基である。こうした化合物を液晶配向剤に含有させることにより、基板に対する液晶配向膜の密着性を高くしつつ、液晶素子の製造工程等において基板から液晶配向膜を剥離して基板を再利用(リワーク)する際に、液晶配向膜を基板から剥離しやすくできる(リワーク性を高くできる)点で好適である。また、架橋剤として上記式(2)で表される化合物を用いることにより、架橋剤を含む液晶配向剤とした場合にも、高い電圧保持率を示す液晶素子を得ることができる点で好適である。液晶配向膜の基板に対する密着性とリワーク性との両立を図る観点から、Y及びYは、上記式(Y-1)~式(Y-6)のうち、上記式(Y-2)~式(Y-6)のいずれかにより表される基が好ましく、更に液晶配向性及び電圧保持率が良好な液晶素子を得ることができる点で、上記式(Y-2)及び(Y-4)~(Y-6)のいずれかにより表される基がより好ましく、炭素数4~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル又はアセチル基が特に好ましい。
【0087】
上記式(2)中のY及びYのうち、上記式(Y-1)~式(Y-6)のいずれかにより表される基の合計の数は、基板に対する密着性が良好な液晶配向膜を得る観点から、2個以上が好ましく、基板に対する密着性とリワーク性とをバランス良く示す液晶配向膜を得る観点から、上記式(2)中のY及びYの全部が、上記式(Y-1)~式(Y-6)のいずれかで表される基であることが特に好ましい。なお、上記式(2)で表される化合物は、上記式(Y-1)~式(Y-6)で表される基を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0088】
及びXは、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基が好ましい。
としては、炭素数1~12の(e+f)価の鎖状炭化水素基、炭素数3~12の(e+f)価の脂環式炭化水素基、炭素数6~12の(e+f)価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、Zは、炭素数1~12の(e+f)価の直鎖状又は分岐状の鎖状炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の(e+f)価の直鎖状又は分岐状の飽和鎖状炭化水素基がより好ましい。
a3及びa4はそれぞれ、液晶配向膜と基板との密着性の改善効果を十分に得る観点から、2又は3が好ましい。a3+b3及びa4+b4はそれぞれ、2以上が好ましく、2~4がより好ましい。
e及びfは、基板に対する密着性の改善効果を十分に得る観点と、保存安定性とのバランスの観点から、e+fが2~6であることが好ましく、2~4がより好ましい。
【0089】
架橋剤として上記式(2)で表される化合物を液晶配向剤に含有させることにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。また、上記式(2)中のY、Yに、上記式(Y-1)~式(Y-6)で表される特定基を導入することにより、リワーク性に優れた液晶配向膜を形成できる点で好適である。
【0090】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、下記式(2-1-1)~式(2-1-10)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。なお、上記式(2)で表される化合物としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化29】
【化30】
【0091】
液晶配向剤における化合物[A]の含有量は、基板との密着性の改善効果を十分に高くできる点で、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上とすることが好ましく、1質量部以上とすることがより好ましく、2質量部以上とすることが更に好ましい。また、化合物[A]の含有量は、過剰量の添加による性能低下を抑制する観点及び保存安定性を良好にする観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、40質量部以下とすることが好ましく、30質量部以下とすることがより好ましく、20質量部以下とすることが更に好ましい。なお、化合物[A]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0092】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体成分及び化合物[A]以外のその他の化合物を更に含有していてもよい。その具体例としては、エポキシ化合物(例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等)、官能性シラン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。なお、その他の化合物の含有量は、本開示の効果を損なわない範囲内において各化合物に応じて適宜選択することができる。架橋剤として化合物[A]とは異なる化合物を併用する場合、当該異なる化合物の含有量は、液晶配向剤に含まれる化合物[A]の合計量に対して、5質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましい。
【0093】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、化合物[A]及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは、溶剤に溶解された液状の組成物として調製される。溶剤は有機溶媒が好ましく、例えば、非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。
使用する有機溶媒の具体例としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ダイアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、3-メトキシ-1-ブタノール等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0094】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得ることができる傾向がある。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また、液晶配向剤の粘性を適度に高くでき、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0095】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えば、TN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0096】
<工程1:塗膜の形成>
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等の樹脂からなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0097】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~250℃であり、より好ましくは80~200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0098】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜は、PSA型の液晶素子にも好適に用いることができる。
【0099】
光配向処理において、光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0100】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等が挙げられる。基板面に対する放射線の照射量は、好ましくは400~50,000J/mであり、より好ましくは1,000~20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0101】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、2枚の基板間に液晶配向膜に隣接して液晶が配置されるように液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0102】
PSA型の液晶素子を製造する場合、以下の3つの工程を含む方法により液晶素子を製造することができる。
・本開示の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程。
・液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程。
・導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する工程。
【0103】
具体的には、まず、導電膜を有する一対の基板間に、液晶と共に光重合性モノマーを注入又は滴下する点以外は上記工程1~工程3と同様にして液晶セルを構築する。なお、光重合性モノマーとしては、従来公知の化合物を用いることができる。好ましくは、多官能性(メタ)アクリルモノマーである。
その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。照射する光としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。これらのうち、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000~200,000J/mであり、より好ましくは1,000~100,000J/mである。
【0104】
各モードの液晶セルにつき、続いて、必要に応じて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0105】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。
【実施例
【0106】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
以下の例において、重合体の溶液粘度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びイミド化率は以下の方法により測定した。
<重合体の溶液粘度>
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
<重量平均分子量及び数平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
<ポリイミドのイミド化率>
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β/(β×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、βは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、βはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0108】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。
・モノマー及び側鎖カルボン酸
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【0109】
・化合物[A]
【化36】
【化37】
【化38】
【0110】
<重合体の合成>
1.ポリイミドの合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物70モル部、及びピロメリット酸二無水物30モル部、並びに、ジアミンとしてコレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン30モル部、化合物(D-4)40モル部、及び3,5-ジアミノ安息香酸30モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加し、ピリジン及び無水酢酸を、ポリアミック酸のカルボキシル基に対して3.00モル当量ずつ添加して、80℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ-ブチロラクトンで溶媒置換し、さらに濃縮することにより、イミド化率63%のポリイミド(これを「重合体(P-1)」とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は37mPa・sであった。
【0111】
[合成例2、9~16]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例1と同様に重合を行い、ポリイミドである重合体(P-2)、(P-9)~(P-16)をそれぞれ含有する溶液を得た。
【0112】
2.ポリアミック酸の合成
[合成例3]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物70モル部、及び1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物30モル部、並びに、ジアミンとしてコレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン30モル部、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド40モル部、及び3,5-ジアミノ安息香酸30モル部をNMPに溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸(これを「重合体(P-3)」とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は42mPa・sであった。
【0113】
[合成例4~8、17]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例3と同様に重合を行い、ポリアミック酸である重合体(P-4)~(P-8)、(P-17)をそれぞれ含有する溶液を得た。なお、表1中、酸無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0114】
【表1】
【0115】
3.ポリオルガノシロキサンの合成
[合成例18]
1000ml三口フラスコに、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン90.0g、メチルイソブチルケトン500g、及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンである重合体(ESSQ-1)の50質量%溶液を得た。
500ml三口フラスコに、化合物(C-1)6.28g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して20モル%)、化合物(C-3)3.44g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して10モル%)、テトラブチルアンモニウムブロミド2.00g、重合体(ESSQ-1)含有溶液80g、及びメチルイソブチルケトン239gを加え、90℃で18時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返した後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調整し、重合体(PS-1)のNMP溶液を得た。
【0116】
[合成例19]
反応に使用する側鎖カルボン酸の種類及び量を表2に記載のとおり変更した点以外は合成例18と同様にして、ポリオルガノシロキサンである重合体(PS-2)を10質量%含有するNMP溶液を得た。なお、表2中、側鎖カルボン酸の数値は、重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対する割合(側鎖変性率、モル%)を表す。
【0117】
【表2】
【0118】
4.スチレン-マレイミド系重合体の合成
[合成例20]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-1)10モル部、化合物(M-4)10モル部、メタクリル酸35モル部、及びメタクリル酸グリシジル45モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mlを加え、70℃で5時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(PM-1)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2であった。
【0119】
[合成例21、22]
反応に使用する重合モノマーの種類及び量を表3に記載のとおり変更した点以外は合成例20と同様にして、スチレン-マレイミド系共重合体である重合体(PM-2)、(PM-3)をそれぞれ得た。なお、表3中、モノマーの数値は、合成に使用したモノマーの全量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。
【0120】
【表3】
【0121】
5.液晶配向剤の調製及び評価(1)
[実施例1:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例1で得た重合体(P-1)100質量部を含む溶液に、化合物(Ad-1)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0122】
(2)リワーク性の評価
厚さ1mmのガラス基板の一方の面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に、液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、ホットプレートで100℃、90秒間、プレベークを行い、膜厚約0.10μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返し、塗膜付きの基板を2枚作成した。次に、得られた2枚の基板を窒素雰囲気下25℃の暗室に保管した。保管開始から12時間後及び48時間後に、それぞれ1枚の基板を取り出し、40℃に調温されたNMPの入ったビーカーに2分間浸漬した後、超純水で数回洗浄し、エアブローにて表面の水滴を取り去った。この基板につき、光学顕微鏡によって観察して塗膜の残滓の有無を調べることにより、液晶配向膜の基板からの剥離容易性(リワーク性)を評価した。評価は、保管開始から48時間後に取り出した基板であっても、NMP浸漬後に塗膜の残滓が観察されなかった場合をリワーク性「良好(○)」、48時間後の基板には塗膜の残滓が観察されたが12時間後の基板には観察されなかった場合をリワーク性「可(△)」、12時間後の基板において塗膜の残滓が観察された場合をリワーク性「不良(×)」とした。その結果、この実施例ではリワーク性「良好(○)」であった。
【0123】
(3)膜の密着性評価
液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を幅が1mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、基板に対する膜の密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「良好(○)」、150N/cm以上175N/cm未満であった場合を「可(△)」、150N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力192N/cmであり、密着性「良好(○)」の評価であった。
【0124】
(4)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化39】
【0125】
(5)PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スリット状にパターニングされたITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.06μmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/mの照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。その後、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより、PSA型液晶表示素子を製造した。
【0126】
(6)液晶配向性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を光学顕微鏡により観察し、異常ドメインがない場合を「A」、一部に異常ドメインがある場合を「B」、全体的に異常ドメインがある場合を「C」として液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」であった。
【0127】
(7)電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置には(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が98%以上の場合に「S」、95%以上98%未満の場合に「A」、80%以上95%未満の場合に「B」、50%以上80%未満の場合に「C」、50%未満の場合に「D」とした。その結果、この実施例では、電圧保持率は「A」の評価であった。
【0128】
[実施例2、3、5]
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてリワーク性及び膜の密着性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。それらの結果を表4に示す。なお、表4中、「-」は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0129】
[比較例1]
化合物(Ad-1)を配合しなかった点以外は実施例1と同じ種類の重合体、溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-1)を調製した。また、調製した液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてリワーク性及び膜の密着性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0130】
[実施例4:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びにリワーク性及び膜の密着性の評価
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-4)を調製した。また、液晶配向剤(AL-4)を用いて実施例1と同様にして、リワーク性及び膜の密着性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0131】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-4)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/mを、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより光垂直型液晶表示素子を製造した。
【0132】
(3)液晶配向性の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」であった。
(4)電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、電圧保持率は「A」の評価であった。
【0133】
[参考例1A、2A]
添加剤として、化合物[A]に代えて化合物(Ad-12)又は化合物(Ad-14)を用い、配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-2)、(AR-3)をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてリワーク性及び膜の密着性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。それらの結果を表4に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
表4に示すように、化合物(Ad-1)、(Ad-2)又は(Ad-3)を含む実施例1~5は、架橋剤を配合しなかった比較例1と比べて、膜の密着性及びリワーク性が良好であった。また、実施例1~5は、液晶配向性及び電圧保持率についても「A」の評価であり、良好であった。
【0136】
なお、化合物[A]に代えて他の架橋剤(Ad-12)、(Ad-14)を用いた参考例1A、2Aは、膜の密着性は良好であったものの、リワーク性が不良であった。また、参考例1A、2Aは、電圧保持率についても実施例1~5よりも劣っていた。
【0137】
6.液晶配向剤の調製及び評価(2)
[実施例6:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-6)の調製
合成例1で得た重合体(P-1)100質量部を含む溶液に、化合物(Ad-4)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-6)を調製した。
【0138】
(2)膜の密着性評価
上記で調製した液晶配向剤(AL-6)を用いて、実施例1の「(3)膜の密着性評価」と同様に評価を行った。その結果、この実施例では密着力189N/cmであり、「良好(○)」の評価であった。
【0139】
(3)高温ベーク後の膜の密着性評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-6)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した300℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学製S-WB42)を幅が1mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤が接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、膜の基板に対する密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「特に良好(◎)」、160N/cm以上175N/cm未満であった場合を「良好(○)」、150N/cm以上160N/cm未満であった場合を「可(△)」、150N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力190N/cmであり、密着性「特に良好(◎)」の評価であった。
【0140】
(4)PSA型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(AL-6)を用いた以外は実施例1と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であり、電圧保持率は「S」の評価であった。
【0141】
[実施例7、8、10、11及び比較例2、3]
配合組成を表5に示すとおり変更した点以外は実施例6と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例6と同様にして膜の密着性評価を行うとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。それらの結果を表5に示す。なお、表5中、「-」は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0142】
[実施例9:光垂直型液晶表示素子]
配合組成を表5に示すとおり変更した点以外は実施例6と同じ溶剤組成及び固形分濃度により液晶配向剤(AL-9)を調製した。また、液晶配向剤(AL-9)を用いて、実施例6と同様にして膜の密着性評価を行った。さらに、液晶配向剤(AL-9)を用いて実施例4と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性及び電圧保持率は「A」の評価であった。
【0143】
【表5】
【0144】
表5に示すように、化合物(Ad-4)を含む実施例6~11は、架橋剤を配合しなかった比較例2と比べて、膜の密着性及び高温ベーク後の膜の密着性が良好であった。また、実施例6~11は、液晶配向性及び電圧保持率についても「S」又は「A」の評価であり、良好であった。
【0145】
これに対し、化合物(Ad-4)に代えて他の架橋剤(Ad-12)を用いた比較例3は、ポストベーク温度を230℃とした場合の膜の密着性は良好であったものの、ポストベーク温度を300℃と高温にした場合の膜の密着性については不良の評価であった。また、比較例3は、電圧保持率についても実施例6~11よりも劣っていた。
【0146】
7.液晶配向剤の調製及び評価(3)
[実施例12:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-12)の調製
合成例1で得た重合体(P-1)100質量部を含む溶液に、化合物(Ad-5)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-12)を調製した。
【0147】
(2)膜の密着性評価
上記で調製した液晶配向剤(AL-12)を用いて、実施例1の「(3)膜の密着性評価」と同様にして膜の密着性を評価した。その結果、この実施例では密着力191N/cmであり、「良好(○)」の評価であった。
(3)PSA型液晶表示素子の製造及び評価
液晶配向剤(AL-12)を用いた以外は実施例1と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であり、電圧保持率は「S」の評価であった。
【0148】
(4)高温高湿耐性の評価
230℃のポストベーク温度により製造したPSA型液晶表示素子を、60℃、湿度90%に設定されたオーブンで300時間保管した後、上記と同様にして電圧保持率を測定した。この値をVHR2とし、60℃、湿度90%の高温高湿条件下で保管する前に測定した電圧保持率をVHR1として、VHR2からVHR1を差し引くことにより電圧保持率の減少量ΔVHRを求め、ΔVHRにより高温高湿耐性を評価した。ΔVHRが5%未満であった場合を「特に良好(◎)」、5%以上10%未満であった場合を「良好(○)」、10%以上20%未満であった場合を「可(△)」、20%以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、「特に良好(◎)」であった。
【0149】
[実施例13、14、16、17]
配合組成を表6に示すとおり変更した点以外は実施例12と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例12と同様にして膜の密着性の評価を行うとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価を行った。それらの結果を表6に示す。なお、表6中、「-」は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0150】
[比較例4]
重合体(P-1)を重合体(P-15)に変更した点、及び化合物(Ad-5)を配合しなかった点以外は実施例12と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-6)を調製した。また、調製した液晶配向剤を用いて、実施例12と同様にして膜の密着性の評価を行うとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0151】
[実施例15:光垂直型液晶表示素子]
配合組成を表6に示すとおり変更した点以外は実施例12と同じ溶剤組成及び固形分濃度により液晶配向剤(AL-15)を調製した。また、液晶配向剤(AL-15)を用いて、実施例12と同様にして膜の密着性の評価を行った。さらに、液晶配向剤(AL-15)を用いて実施例4と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造し、液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であり、電圧保持率は「S」の評価であった。また、高温高湿耐性の評価は「◎」であった。
【0152】
[実施例18:FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、及び膜の密着性の評価
配合組成を表6に示すとおり変更した点以外は実施例12と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-18)を調製した。また、液晶配向剤(AL-18)を用いて実施例12と同様にして膜の密着性の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0153】
(2)FFS型液晶表示素子の製造
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-18)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、ナイロン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度2.5cm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この一連の操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC-6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、FFS型液晶表示素子を製造した。
【0154】
(3)液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価
上記(2)で製造したFFS型液晶表示素子につき、実施例12と同様にして液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であり、電圧保持率は「S」の評価であった。また、高温高湿耐性の評価は「◎」であった。
【0155】
[参考例1B、2B]
添加剤として、化合物[A]に代えて化合物(Ad-12)又は化合物(Ad-13)を用い、配合組成を表6に示すとおり変更した点以外は実施例12と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-7)、(AR-8)をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例12と同様にして膜の密着性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性、電圧保持率及び高温高湿耐性の評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0156】
【表6】
【0157】
表6に示すように、化合物(Ad-5)又は(Ad-7)を含む実施例12~16は、架橋剤を配合しなかった比較例4と比べて、膜の密着性及び高温高湿耐性が良好であった。また、実施例12~16は、液晶配向性及び電圧保持率についても「S」又は「A」の評価であり、良好であった。
【0158】
なお、化合物(Ad-5)、(Ad-7)に代えて他の架橋剤(Ad-12)又は(Ad-13)を用いた参考例1B、2Bは、膜の密着性は良好であったものの、液晶素子の高温高湿耐性が不良であった。また、参考例1B、2Bは、電圧保持率についても実施例12~16よりも劣っていた。
【0159】
8.液晶配向剤の調製及び評価(4)
[実施例19:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-19)の調製
合成例1で得た重合体(P-1)100質量部を含む溶液に、化合物(Ad-6)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-19)を調製した。
【0160】
(2)膜の密着性評価(シール幅1mm)
上記で調製した液晶配向剤(AL-19)を用いて、実施例1の「(3)膜の密着性評価」と同様にして評価を行った。その結果、この実施例では密着力189N/cmであり、「良好(○)」の評価であった。
【0161】
(3)膜の密着性評価(シール幅0.5mm)
実施例1の「(3)膜の密着性評価」において、上記で調製した液晶配向剤(AL-19)を用いた点、及びシール幅を1mmから0.5mmに変更した点以外は実施例1の(3)と同様にして膜の密着性の評価を行った。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「特に良好(◎)」、160N/cm以上175N/cm未満であった場合を「良好(○)」、150N/cm以上160N/cm未満であった場合を「可(△)」、150N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力185N/cmであり、「特に良好(◎)」の評価であった。
【0162】
(4)PSA型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(AL-19)を用いた以外は実施例1と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であり、電圧保持率は「S」の評価であった。
【0163】
[実施例20、21、23~25、27及び比較例5~8]
配合組成を表7に示すとおり変更した点以外は実施例17と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例19と同様にして膜の密着性評価を行うとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。それらの結果を表7に示す。なお、表7中、「-」は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0164】
[実施例22:光垂直型液晶表示素子]
配合組成を表7に示すとおり変更した点以外は実施例19と同じ溶剤組成及び固形分濃度により液晶配向剤(AL-22)を調製した。また、液晶配向剤(AL-22)を用いて実施例19と同様にして、膜の密着性評価を行った。さらに、液晶配向剤(AL-22)を用いて実施例5と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。液晶表示素子の液晶配向性は「良好」、電圧保持率は「良好」の評価であった。
【0165】
[実施例26:FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製及び膜の密着性評価
配合組成を表7に示すとおり変更した点以外は実施例19と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-26)を調製した。また、液晶配向剤(AL-26)を用いて実施例19と同様にして膜の密着性の評価を行った。その結果、この実施例では、シール幅を1mmとした場合の膜の密着性評価は「良好(○)」であり、シール幅を0.5mmとした場合の膜の密着性評価は「特に良好(◎)」であった。
【0166】
(2)液晶配向性の評価
液晶配向剤(AL-26)を用いて実施例18と同様にしてFFS型液晶表示素子を製造し、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」であった。
(3)電圧保持率(VHR)の評価
液晶配向剤(AL-26)を用いて実施例18と同様にしてFFS型液晶表示素子を製造し、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、電圧保持率は「S」の評価であった。
【0167】
【表7】
【0168】
表7に示すように、化合物(Ad-6)、(Ad-8)~(Ad-10)を含む実施例19~27は、架橋剤を配合しなかった比較例5に比べて、シール幅を0.5mmと狭くした場合にも膜の密着性が良好であった。また、実施例19~27は、液晶配向性及び電圧保持率についても「S」又は「A」の評価であり、良好であった。
これに対し、化合物(Ad-6)、(Ad-8)~(Ad-10)に代えて他の架橋剤(Ad-12)、(A-13)又は(Ad-14)を用いた比較例6~8は、シール幅を狭くした場合に膜の密着性が十分でなく、不良の評価であった。また、比較例6~8は、電圧保持率についても実施例19~27よりも劣っていた。