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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20241217BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
E04B1/24 A
E04H9/02 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021135401
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030334
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】横山 重和
(72)【発明者】
【氏名】東田 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】片岡 奈々美
(72)【発明者】
【氏名】西崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 是友
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-002136(JP,A)
【文献】特開平10-169095(JP,A)
【文献】特開2020-070585(JP,A)
【文献】実用新案登録第2527118(JP,Y2)
【文献】特許第6382363(JP,B2)
【文献】米国特許第04918899(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の剛性を有し、荷重を支持する基準支持部材と、
前記基準支持部材よりも高い剛性を有し、荷重を支持する特定支持部材と、
前記基準支持部材の軸方向の一端と前記特定支持部材の軸方向の一端とがそれぞれ剛接合される第1被接合部材と、
前記基準支持部材の軸方向の他端と前記特定支持部材の軸方向の他端とがそれぞれ剛接合される第2被接合部材と、を備え、
前記特定支持部材は、
一対の第1フランジと両第1フランジ同士を連結する第1ウェブとを有する第1のH形鋼と、
一対の第2フランジと両第2フランジ同士を連結する第2ウェブとを有する第2のH形鋼と、を含み、
前記一対の第1フランジの一方と前記一対の第2フランジの一方とは、外面同士が互いに接触した状態で溶接部により互いに溶接され、
前記溶接部は、前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の中心点を含む所定領域において前記一対の第1フランジの一方と前記一対の第2フランジの一方とが非接合となるように、前記所定領域の両側にのみ形成されている、建物構造。
【請求項2】
前記溶接部は、
前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の一端部を含んで形成された第1溶接部と、
前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の他端部を含んで形成された第2溶接部と、を有する、請求項1に記載の建物構造。
【請求項3】
前記溶接部は、前記所定領域の両側の領域の全体に亘って連続して形成されている、請求項1又は2に記載の建物構造。
【請求項4】
前記溶接部は、前記所定領域の両側において、軸方向に対称となるように形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の建物構造。
【請求項5】
前記溶接部の軸方向における長さは、前記基準支持部材の剛性に対する前記特定支持部材の剛性の割合を示す剛性割合と、前記基準支持部材の耐力に対する前記特定支持部材の耐力の割合を示す耐力割合とが略等しくなるように設定されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の建物構造。
【請求項6】
前記第1ウェブには、前記第1ウェブをその厚み方向に貫通する貫通孔が少なくとも前記所定領域の両側に形成され、
前記溶接部は、軸方向と直交する方向から見たときに前記貫通孔の少なくとも半分以上を覆う範囲に形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物に適用されるラーメン構造の建物構造は、柱などの荷重支持部材の軸方向の一端及び他端が被接合部材に剛接合されることにより、地震力などの荷重に抵抗するように設計されている。この種の建物構造に適用可能な荷重支持部材が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示される荷重支持部材は、2つのH形鋼の互いの内側フランジが接触した状態で溶接された構造を有している。このような構造の荷重支持部材は、単一のH形鋼から構成される支持部材と比較して、地震力などの荷重に対して高い剛性及び耐力を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6382363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建物構造においては、剛性の異なる複数種の荷重支持部材が用いられる場合がある。例えば、特許文献1に開示されるような互いに溶接された2つのH形鋼から構成される特定支持部材と、当該特定支持部材よりも低い所定の剛性を有する基準支持部材とを用いて、建物構造の荷重支持部材を構成する場合がある。このような構成の建物構造では、剛性の異なる基準支持部材と特定支持部材とが協働して、地震力などの荷重に抵抗することになる。この場合、各支持部材に分配される荷重は各支持部材の剛性の大きさに応じて異なり、剛性の高い特定支持部材に分配されて当該特定支持部材が負担する荷重は基準支持部材よりも大きくなる。
【0006】
荷重が各支持部材に分配されたときに、特定支持部材が負担する荷重が基準支持部材に対して過剰に大きくなる場合がある。特定支持部材が負担する荷重が降伏耐力を超えた場合には、特定支持部材が基準支持部材よりも早くに塑性変形に至ることになる。このため、特定支持部材及び基準支持部材の各耐力を有効に利用して、建物構造に加わった荷重に抵抗することができなくなるので、効率よく建物構造の耐震性の向上を図ることができなくなる虞がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、剛性の異なる複数種の荷重支持部材を備えた建物構造において、耐震性の向上を図ることが可能な建物構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、荷重が建物構造に加わったときに荷重支持部材の軸方向両端部に大きな曲げモーメントが作用する点に着目し、特定支持部材を構成する2つのH形鋼の溶接位置を調整することにより、特定支持部材の必要部分の耐力を確保しながら特定支持部材の剛性を下げることが可能となることを見出して、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0009】
本発明の一の局面に係る建物構造は、所定の剛性を有し、荷重を支持する基準支持部材と、前記基準支持部材よりも高い剛性を有し、荷重を支持する特定支持部材と、前記基準支持部材の軸方向の一端と前記特定支持部材の軸方向の一端とがそれぞれ剛接合される第1被接合部材と、前記基準支持部材の軸方向の他端と前記特定支持部材の軸方向の他端とがそれぞれ剛接合される第2被接合部材と、を備える。前記特定支持部材は、一対の第1フランジと両第1フランジ同士を連結する第1ウェブとを有する第1のH形鋼と、一対の第2フランジと両第2フランジ同士を連結する第2ウェブとを有する第2のH形鋼と、を含む。この際、前記一対の第1フランジの一方と前記一対の第2フランジの一方とは、外面同士が互いに接触した状態で溶接部により互いに溶接され、前記溶接部は、前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の中心点を含む所定領域において前記一対の第1フランジの一方と前記一対の第2フランジの一方とが非接合となるように、前記所定領域の両側にのみ形成されてる。
【0010】
この建物構造によれば、建物構造に地震力などの荷重が加わった場合、剛性の異なる基準支持部材と特定支持部材とが協働して、荷重に抵抗することになる。この際、建物構造に加わった荷重が基準支持部材及び特定支持部材の各々に分配されるときには、剛性の高い特定支持部材に分配されて当該特定支持部材が負担する荷重が基準支持部材よりも大きくなる。
【0011】
ここで、建物構造に荷重が加わった場合、特定支持部材を構成する第1及び第2のH形鋼においては、第1被接合部材及び第2被接合部材にそれぞれ剛接合される軸方向の一端及び他端に最も大きな曲げモーメントが作用し、軸方向の中心点に近づくに従い曲げモーメントが小さくなる。この点に着目して特定支持部材では、第1のH形鋼における第1フランジと第2のH形鋼における第2フランジとは、軸方向の中心点を含む所定領域において非接合となるように、当該所定領域の両側にのみ溶接部が形成されて互いに溶接されている。大きな曲げモーメントが作用する、軸方向の中心点を含む所定領域の両側となる軸方向の一端側及び他端側の両領域に溶接部が形成されることにより、特定支持部材が荷重に抵抗するために必要な耐力を確保することができる。
【0012】
しかも、特定支持部材では、作用する曲げモーメントの小さい軸方向の中心点を含む所定領域は、溶接部が形成されていない非溶接領域となる。これにより、特定支持部材における所定領域の両側での溶接部の形成に応じた剛性及び耐力の上昇率について、耐力よりも剛性の上昇率が過剰に大きくなることを抑制することができる。すなわち、特定支持部材においては、非溶接領域に応じて耐力よりも剛性の減少率が大きくなる。このため、特定支持部材における非溶接領域の両側の耐力を確保しながら、特定支持部材の剛性を下げることが可能となる。この結果、基準支持部材及び特定支持部材の各々の剛性の大きさに応じて、建物構造に加わった荷重が各支持部材に分配されたときに、特定支持部材が負担する荷重が基準支持部材に対して過剰に大きくなることを抑制することができる。このため、各支持部材の耐力の大きさに応じて荷重が分配されることになり、特定支持部材が基準支持部材よりも早くに塑性変形に至ることを抑制できるとともに、特定支持部材及び基準支持部材の各耐力を有効に利用して荷重に抵抗することができるので、建物構造の耐震性の向上を図ることができる。
【0013】
上記の建物構造において、前記溶接部は、前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の一端部を含んで形成された第1溶接部と、前記第1のH形鋼及び前記第2のH形鋼の軸方向の他端部を含んで形成された第2溶接部と、を有している。
【0014】
この態様では、特定支持部材を構成する第1及び第2のH形鋼において、最も大きな曲げモーメントが作用する軸方向の一端部を含んで第1溶接部が形成されるとともに、軸方向の他端部を含んで第2溶接部が形成されているので、特定支持部材が荷重に抵抗するために必要な耐力を、より確実に確保することができる。
【0015】
上記の建物構造において、前記溶接部は、前記所定領域の両側の領域の全体に亘って連続して形成されている。
【0016】
この態様では、特定支持部材を構成する第1及び第2のH形鋼において、大きな曲げモーメントが作用する、軸方向の中心点を含む所定領域の両側となる軸方向の一端側及び他端側の各領域の全体に亘って連続して溶接部が形成されているので、特定支持部材が荷重に抵抗するために必要な耐力を、より確実に確保することができる。
【0017】
上記の建物構造では、前記溶接部は、前記所定領域の両側において、軸方向に対称となるように形成されている。
【0018】
この態様では、特定支持部材は、軸方向の一端及び他端のそれぞれにおいて均等に荷重を支持することができる。
【0019】
上記の建物構造において、前記溶接部の軸方向における長さは、前記基準支持部材の剛性に対する前記特定支持部材の剛性の割合を示す剛性割合と、前記基準支持部材の耐力に対する前記特定支持部材の耐力の割合を示す耐力割合とが略等しくなるように設定されている。
【0020】
この態様では、基準支持部材及び特定支持部材の剛性割合と耐力割合とが略等しくなるように、溶接部の長さが設定される。これにより、特定支持部材における基準支持部材に対する剛性及び耐力の上昇率について、耐力よりも剛性の上昇率が過剰に大きくなることを、より確実に抑制することができる。このため、基準支持部材及び特定支持部材の各々の剛性の大きさに応じて、建物構造に加わった荷重が各支持部材に分配されたときに、特定支持部材が負担する荷重が基準支持部材に対して過剰に大きくなることを、より確実に抑制することができる。
【0021】
上記の建物構造において、前記第1ウェブには、前記第1ウェブをその厚み方向に貫通する貫通孔が少なくとも前記所定領域の両側に形成され、前記溶接部は、軸方向と直交する方向から見たときに前記貫通孔の少なくとも半分以上を覆う範囲に形成されている。
【0022】
この態様では、特定支持部材を構成する第1のH形鋼における第1ウェブに貫通孔が形成されている。作業者は、特定支持部材に対して壁パネルを配置する作業などを行う際に、貫通孔を利用することができる。また、建物構造に荷重が加わった場合には、貫通孔の周辺で塑性変形が生じやすくなる虞がある。そこで、溶接部は、軸方向と直交する方向から見たときに貫通孔の少なくとも半分以上を覆う範囲に形成されている。これにより、貫通孔の周辺で塑性変形が生じるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、剛性の異なる複数種の荷重支持部材を備えた建物構造において、耐震性の向上を図ることが可能な建物構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る建物構造を示す斜視図である。
図2】建物構造を水平方向から見た平面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】建物構造に水平荷重が加わったときの支持部材の荷重変位曲線を示すグラフである。
図6】建物構造に備えられる特定支持部材の構成を示す平面図である。
図7】特定支持部材における溶接部の第1変形例を示す平面図である。
図8】特定支持部材における溶接部の第2変形例を示す平面図である。
図9】特定支持部材における溶接部の第3変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る建物構造について、図面に基づいて説明する。
【0026】
図1及び図2に示されるように、建物構造1は、第1被接合部材2Aと、第2被接合部材2Bと、基準支持部材3と、特定支持部材4とを備えている。建物構造1では、基準支持部材3及び特定支持部材4は、荷重を支持するための柱や梁などに適用される。以下では、基準支持部材3及び特定支持部材4が、建物構造1の柱に適用された場合について説明する。この場合、第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bは、建物構造1の梁に適用される。
【0027】
第1被接合部材2Aは、水平方向に延びる梁である。第2被接合部材2Bは、第1被接合部材2Aの鉛直下方において水平方向に延びる梁である。なお、第2被接合部材2Bは、建物基礎であってもよい。第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bは、基準支持部材3及び特定支持部材4を支持する。第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bは、例えば、H形鋼から構成されている。この場合、第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bは、それぞれ、一対の接合フランジ211と、両接合フランジ211同士を連結する接合ウェブ212とを有している。第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bは、一対の接合フランジ211が鉛直方向に並んだ状態で水平方向に延びるように配設される。
【0028】
基準支持部材3及び特定支持部材4は、軸方向が鉛直方向と平行になるように、第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bに剛接合される柱に適用され、荷重を支持する柱材である。基準支持部材3及び特定支持部材4は、水平方向に所定の間隔をあけて第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bに支持される。建物構造1においては、基準支持部材3及び特定支持部材4に対して壁パネル等が配置される。基準支持部材3における軸方向に直交する横断面の面積は、予め定められた基準断面積に設定されている。一方、特定支持部材4における軸方向に直交する横断面の面積は、前記基準断面積よりも大きい特定断面積に設定されている。
【0029】
基準支持部材3は、単一のH形鋼である基準H形鋼31から構成されている。基準H形鋼31は、軸方向に沿って延びる鋼材であり、一対のフランジ311と、両フランジ311同士を連結するウェブ312とを有している。基準H形鋼31のウェブ312には、当該ウェブ312をその厚み方向に貫通する貫通孔312Aが複数形成されている。複数の貫通孔312Aは、人(作業者)の手の挿通を許容する形状を有しており、ウェブ312において軸方向に所定の間隔をあけて形成されている。作業者は、基準支持部材3に対して壁パネルを配置する作業などを行う際に、貫通孔312Aを利用することができる。
【0030】
基準支持部材3を構成する基準H形鋼31は、軸方向の一端3A(上端)が第1被接合部材2Aに剛接合されるとともに、軸方向の他端3B(下端)が第2被接合部材2Bに剛接合される。本実施形態では、基準H形鋼31は、一端3Aが一端側ベースプレート32を介して第1被接合部材2Aの接合フランジ211に剛接合され、他端3Bが他端側ベースプレート33を介して第2被接合部材2Bの接合フランジ211に剛接合される。
【0031】
具体的には、基準H形鋼31の一端3Aは、一端側ベースプレート32に接触した状態で溶接(隅肉溶接)される。これにより、基準H形鋼31の一端3Aと一端側ベースプレート32との境界部分には、溶接部32Aが形成される。そして、一端側ベースプレート32は、ボルト34によって第1被接合部材2Aの接合フランジ211に固定される。これにより、基準H形鋼31の一端3Aが第1被接合部材2Aに剛接合される。一方、基準H形鋼31の他端3Bは、他端側ベースプレート33に接触した状態で溶接(隅肉溶接)される。これにより、基準H形鋼31の他端3Bと他端側ベースプレート33との境界部分には、溶接部33Aが形成される。そして、他端側ベースプレート33は、ボルト34によって第2被接合部材2Bの接合フランジ211に固定される。これにより、基準H形鋼31の他端3Bが第2被接合部材2Bに剛接合される。
【0032】
特定支持部材4は、基準H形鋼31と同様の形状を有する第1のH形鋼41と第2のH形鋼42とを備えている。第1のH形鋼41は、軸方向に沿って延びる鋼材であり、一対の第1フランジ411A,411Bと、両第1フランジ411A,411B同士を連結する第1ウェブ412とを有している。第2のH形鋼42は、軸方向に沿って延びる鋼材であり、一対の第2フランジ421A,421Bと、両第2フランジ421A,421B同士を連結する第2ウェブ422とを有している。
【0033】
第1のH形鋼41と第2のH形鋼42とは、第1ウェブ412と第2ウェブ422とが同一鉛直面上に並び、且つ、一対の第1フランジ411A,411Bの一方の第1内フランジ411Aと一対の第2フランジ421A,421Bの一方の第2内フランジ421Aとが互いに隣接した状態で配置される。この状態では、一対の第1フランジ411A,411Bの他方の第1外フランジ411Bと、一対の第2フランジ421A,421Bの他方の第2外フランジ421Bとが、特定支持部材4における外側面を構成する。そして、第1のH形鋼41と第2のH形鋼42とにおいては、互いに隣接した第1内フランジ411Aと第2内フランジ421Aとが、外面同士が互いに接触した状態で第1溶接部5A及び第2溶接部5Bにより互いに溶接(隅肉溶接)される。第1内フランジ411Aと第2内フランジ421Aとの間の溶接個所の詳細については後述する。
【0034】
第1のH形鋼41の第1ウェブ412には、当該第1ウェブ412をその厚み方向に貫通する第1貫通孔412Aが複数形成されている。複数の第1貫通孔412Aは、人(作業者)の手の挿通を許容する形状を有しており、第1ウェブ412において軸方向に所定の間隔をあけて形成されている。同様に、第2のH形鋼42の第2ウェブ422には、当該第2ウェブ422をその厚み方向に貫通する第2貫通孔422Aが複数形成されている。複数の第2貫通孔422Aは、人(作業者)の手の挿通を許容する形状を有しており、第2ウェブ422において軸方向に所定の間隔をあけて形成されている。作業者は、特定支持部材4に対して壁パネルを配置する作業などを行う際に、第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aを利用することができる。
【0035】
なお、第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aは、建物構造1に地震力などの水平荷重Pが加わった場合に、特定支持部材4に伝達される震動エネルギーを吸収し、建物構造1の揺れを減衰させる機能も有している。
【0036】
特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42は、軸方向の一端4A(上端)が第1被接合部材2Aに剛接合されるとともに、軸方向の他端4B(下端)が第2被接合部材2Bに剛接合される。本実施形態では、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42は、一端4Aが第1ベースプレート61を介して第1被接合部材2Aの接合フランジ211に剛接合され、他端4Bが第2ベースプレート62を介して第2被接合部材2Bの接合フランジ211に剛接合される。
【0037】
具体的には、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aは、第1ベースプレート61に接触した状態で溶接(隅肉溶接)される。これにより、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aと第1ベースプレート61との境界部分には、一端側溶接部61Eが形成される。そして、第1ベースプレート61は、ボルト63によって第1被接合部材2Aの接合フランジ211に固定される。これにより、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aが第1被接合部材2Aに剛接合される。一方、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bは、第2ベースプレート62に接触した状態で溶接(隅肉溶接)される。これにより、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bと第2ベースプレート62との境界部分には、他端側溶接部62Eが形成される。そして、第2ベースプレート62は、ボルト63によって第2被接合部材2Bの接合フランジ211に固定される。これにより、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bが第2被接合部材2Bに剛接合される。
【0038】
図3に示されるように、第1ベースプレート61は、第1中央受け部61Aと、一対の第1外受け部61Bと、第1中央受け部61Aと一対の第1外受け部61Bとを連結する第1連結部61Cとを有する。第1中央受け部61Aは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aのうち、第1内フランジ411A及び第2内フランジ421Aの一端を受ける。一対の第1外受け部61Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aのうち、第1外フランジ411B及び第2外フランジ421Bの各一端をそれぞれ受ける。第1連結部61Cは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aのうち、第1ウェブ412及び第2ウェブ422の一端を受ける。第1中央受け部61A及び一対の第1外受け部61Bには、第1ベースプレート61を第1被接合部材2Aの接合フランジ211に固定するボルト63を通すためのボルト孔61Dが形成されている。
【0039】
図4に示されるように、第2ベースプレート62は、第2中央受け部62Aと、一対の第2外受け部62Bと、第2中央受け部62Aと一対の第2外受け部62Bとを連結する第2連結部62Cとを有する。第2中央受け部62Aは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bのうち、第1内フランジ411A及び第2内フランジ421Aの他端を受ける。一対の第2外受け部62Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bのうち、第1外フランジ411B及び第2外フランジ421Bの各他端をそれぞれ受ける。第2連結部62Cは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bのうち、第1ウェブ412及び第2ウェブ422の他端を受ける。第2中央受け部62A及び一対の第2外受け部62Bには、第2ベースプレート62を第2被接合部材2Bの接合フランジ211に固定するボルト63を通すためのボルト孔62Dが形成されている。
【0040】
なお、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41と第2のH形鋼42とにおいては、第1内フランジ411A、第1外フランジ411B、第2内フランジ421A、及び第2外フランジ421Bの各々における幅方向(第1ウェブ412及び第2ウェブ422と直交する方向)の寸法(幅寸法)の設定は、特に限定されない。第1の例では、第1内フランジ411A、第1外フランジ411B、第2内フランジ421A、及び第2外フランジ421Bの各々の幅寸法は、全て同じに設定される。第2の例では、第1内フランジ411A、第1外フランジ411B、及び第2外フランジ421Bの各々の幅寸法が同一の第1幅寸法に設定され、且つ、第2内フランジ421Aの幅寸法が前記第1幅寸法よりも小さい第2幅寸法に設定される。第3の例では、第1外フランジ411B及び第2外フランジ421Bの幅寸法が互いに同一の第3幅寸法に設定され、且つ、第1内フランジ411A及び第2内フランジ421Aの幅寸法が互いに同一であって前記第3幅寸法よりも小さい第4幅寸法に設定される。
【0041】
既述の通り、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41と第2のH形鋼42とにおいては、互いに隣接した第1内フランジ411Aと第2内フランジ421Aとが、外面同士が互いに接触した状態で溶接部5A,5Bにより互いに溶接される。具体的には、図2に示されるように、第1内フランジ411Aと第2内フランジ421Aとは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の中心点4Cを含む所定領域である非溶接領域4C1において非接合となるように、非溶接領域4C1の両側にのみ溶接部5A,5Bが形成されている。つまり、第1内フランジ411Aと第2内フランジ421Aとにおける、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の中心点4Cを含む非溶接領域4C1の一端4A側の第1溶接領域4A1に第1溶接部5Aが形成されるとともに、非溶接領域4C1の他端4B側の第2溶接領域4B1に第2溶接部5Bが形成される。
【0042】
次に、基準支持部材3及び特定支持部材4の剛性及び耐力について、図5に示す荷重変位曲線のグラフを参照して説明する。図5のグラフでは、特定支持部材4の荷重変位曲線E1と、基準支持部材3の荷重変位曲線E2と、従来型支持部材の荷重変位曲線E3とが示されている。なお、従来型支持部材とは、2つのH形鋼において互いに隣接する一対の内フランジ同士が軸方向の全長に亘って溶接された従来型の支持部材である。従来型支持部材は、溶接個所が特定支持部材4と異なること以外は特定支持部材4と同様に構成されており、横断面の面積が基準支持部材3よりも大きい。
【0043】
本実施形態では、基準支持部材3及び特定支持部材4の軸方向一端及び他端が第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bに対する剛接合によって固定された状態において、各支持部材の剛性として初期剛性を用いるとともに、各支持部材の耐力として降伏耐力又は最大耐力を用いる。初期剛性は、単位水平変位を生じさせるのに必要な水平荷重で表される水平剛性である。降伏耐力は、支持部材の変形が弾性変形から塑性変形に変わる降伏点を示す水平荷重で表される。最大耐力は、荷重変位曲線における水平荷重の最大値で表される。
【0044】
以下では、荷重変位曲線E1で示される特定支持部材4の初期剛性A1、降伏耐力B1及び最大耐力C1について、初期剛性A1を「剛性A1」と称し、降伏耐力B1及び最大耐力C1については「耐力B1,C1」と称する。同様に、荷重変位曲線E2で示される基準支持部材3の初期剛性A2、降伏耐力B2及び最大耐力C2について、初期剛性A2を「剛性A2」と称し、降伏耐力B2及び最大耐力C2については「耐力B2,C2」と称する。また、荷重変位曲線E3で示される従来型支持部材の初期剛性A3、降伏耐力B3及び最大耐力C3について、初期剛性A3を「剛性A3」と称し、降伏耐力B3及び最大耐力C3については「耐力B3,C3」と称する。
【0045】
基準支持部材3に対する特定支持部材4の断面積の増大に応じて、特定支持部材4の剛性A1及び耐力B1,C1が、基準支持部材3の剛性A2及び耐力B2,C2よりも上昇して大きくなる。また、基準支持部材3に対する従来型支持部材の断面積の増大に応じて、従来型支持部材の剛性A3及び耐力B3,C3が、基準支持部材3の剛性A2及び耐力B2,C2よりも上昇して大きくなる。
【0046】
特定支持部材4と従来型支持部材とを比較すると、特定支持部材4の剛性A1は従来型支持部材の剛性A3よりも小さく、特定支持部材4の耐力B1,C1は従来型支持部材の耐力B3,C3と略同じである。つまり、基準支持部材3に対する断面積の増大に応じた剛性及び耐力の上昇率に着目した場合、基準支持部材3の耐力B2,C2に対する特定支持部材4の耐力B1,C1の上昇率は、従来型支持部材の耐力B3,C3の上昇率と同程度である。一方、基準支持部材3の剛性A2に対する特定支持部材4の剛性A1の上昇率は、従来型支持部材の剛性A3の上昇率よりも小さい。
【0047】
図2に示されるように、建物構造1に地震力などの水平荷重Pが加わった場合、横断面の面積の違いに応じて剛性の異なる基準支持部材3と特定支持部材4とが協働して、水平荷重Pに抵抗することになる。建物構造1に加わった水平荷重Pは、基準支持部材3及び特定支持部材4の各々の剛性の大きさに応じて各支持部材3,4に分配される。建物構造1に加わった水平荷重Pが基準支持部材3及び特定支持部材4の各々に分配されるときには、剛性の高い特定支持部材4に分配されて当該特定支持部材4が負担する水平荷重P1は、基準支持部材3が負担する水平荷重P2よりも大きくなる。
【0048】
ここで、建物構造1に水平荷重Pが加わった場合、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42においては、第1及び第2被接合部材2A,2Bに剛接合される軸方向の一端4A及び他端4Bに最も大きな曲げモーメントMが作用し、軸方向の中心点4Cに近づくに従い曲げモーメントMが小さくなる。この点に着目して特定支持部材4では、第1のH形鋼41の第1内フランジ411Aと第2のH形鋼42の第2内フランジ421Aとは、軸方向の中心点4Cを含む非溶接領域4C1において非接合となるように、当該非溶接領域4C1に対して軸方向一端4A側の第1溶接領域4A1に第1溶接部5Aが形成されるとともに、軸方向他端4B側の第2溶接領域4B1に第2溶接部5Bが形成されている。大きな曲げモーメントMが作用する第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1内に第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成されることにより、特定支持部材4が負担する水平荷重P1に抵抗するために必要な耐力B1,C1を確保することができる。
【0049】
しかも、特定支持部材4では、作用する曲げモーメントMの小さい軸方向の中心点4Cを含む非溶接領域4C1は、溶接部が形成されていない領域となる。これにより、特定支持部材4における非溶接領域4C1の両側での溶接部5A,5Bの形成に応じた剛性A1及び耐力B1,C1の上昇率について、耐力B1,C1よりも剛性A1の上昇率が過剰に大きくなることを抑制することができる。すなわち、特定支持部材4においては、非溶接領域4C1に応じて耐力B1,C1よりも剛性A1の減少率が大きくなる。このため、特定支持部材4における非溶接領域4C1の両側の耐力B1,C1を確保しながら、特定支持部材4の剛性A1を下げることが可能となる。この結果、基準支持部材3及び特定支持部材4の各々の剛性の大きさに応じて、建物構造1に加わった水平荷重Pが各支持部材3,4に分配されたときに、特定支持部材4が負担する水平荷重P1が、基準支持部材3が負担する水平荷重P2に対して過剰に大きくなることを抑制することができる。このため、特定支持部材4の耐力B1,C1と基準支持部材3の耐力B2,C2との大きさに応じて水平荷重Pが分配されることになり、特定支持部材4が基準支持部材3よりも早くに塑性変形に至ることを抑制できるとともに、特定支持部材4の耐力B1,C1と基準支持部材3の耐力B2,C2とを有効に利用して水平荷重Pに抵抗することができるので、建物構造1の耐震性の向上を図ることができる。
【0050】
また、特定支持部材4の負担する水平荷重P1が基準支持部材3の負担する水平荷重P2に対して過剰に大きくなることを抑制できるので、第1被接合部材2A及び第2被接合部材2Bにおいては、特定支持部材4を支持する領域部分の負担が基準支持部材3を支持する領域部分に対して過剰に大きくなることを抑制できる。
【0051】
既述の通り、建物構造1に水平荷重Pが加わった場合、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4A及び他端4Bに最も大きな曲げモーメントMが作用する。このため、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42においては、特定支持部材4が負担する水平荷重P1が特定支持部材4の降伏耐力B1を超える場合に、一端4A及び他端4Bから中心点4C側に向かって徐々に塑性化が進行する。このような塑性化の進行を抑制するために、塑性化が想定される範囲には、第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成されていることが望ましい。
【0052】
そこで、図6に示されるように、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、非溶接領域4C1に対して一端4A側の第1溶接領域4A1の軸方向における領域長さL21は、第1溶接領域4A1内に第1塑性化想定領域4D1が含まれるように設定される。第1塑性化想定領域4D1は、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の一端4Aの周辺において塑性化が想定される領域である。同様に、非溶接領域4C1に対して他端4B側の第2溶接領域4B1の軸方向における領域長さL22は、第2溶接領域4B1内に第2塑性化想定領域4D2が含まれるように設定される。第2塑性化想定領域4D2は、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の他端4Bの周辺において塑性化が想定される領域である。
【0053】
第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、第1塑性化想定領域4D1の軸方向における領域長さL31と、第2塑性化想定領域4D2の軸方向における領域長さL32とは、一端4Aから他端4Bまでの軸方向における特定支持部材4の全長L1、又は、特定支持部材4の軸方向と直交する幅方向の幅寸法W1に基づいて算出することができる。第1塑性化想定領域4D1の領域長さL31及び第2塑性化想定領域4D2の領域長さL32は、例えば、特定支持部材4の全長L1の10分の1の長さ以上、又は、特定支持部材4の幅寸法W1の2倍の長さ以上に設定される。
【0054】
第1溶接領域4A1の領域長さL21は、第1溶接領域4A1内に第1塑性化想定領域4D1が含まれるように設定されていれば、特に限定されない。第1溶接領域4A1の領域長さL21は、例えば、特定支持部材4の全長L1の4分の1の長さに設定される。同様に、第2溶接領域4B1の領域長さL22は、第2溶接領域4B1内に第2塑性化想定領域4D2が含まれるように設定されていれば、特に限定されない。第2溶接領域4B1の領域長さL22は、例えば、特定支持部材4の全長L1の4分の1の長さに設定される。この場合、第1溶接領域4A1と第2溶接領域4B1との間の非溶接領域4C1の軸方向における領域長さL23は、特定支持部材4の全長L1の2分の1の長さに設定される。
【0055】
本実施形態では、図6に示されるように、第1溶接領域4A1内において第1溶接部5Aは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の一端4Aを含んで形成されている。つまり、第1溶接領域4A1内において第1溶接部5Aは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の一端4Aから中心点4Cに向かって連続した直線状に延びている。同様に、第2溶接領域4B1内において第2溶接部5Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の他端4Bを含んで形成されている。つまり、第2溶接領域4B1内において第2溶接部5Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の他端4Bから中心点4Cに向かって連続した直線状に延びている。このように、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、最も大きな曲げモーメントMが作用する軸方向の一端4A及び他端4Bを含んで第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成されることにより、特定支持部材4が負担する水平荷重P1に抵抗するために必要な耐力B1,C1を、より確実に確保することができる。
【0056】
また、第1溶接領域4A1内において第1溶接部5Aは、第1溶接領域4A1の軸方向の全体に亘って連続して形成されている。この場合、第1溶接部5Aの軸方向における溶接長さL21Aは、第1溶接領域4A1の領域長さL21と同じ値となる。同様に、第2溶接領域4B1内において第2溶接部5Bは、第2溶接領域4B1の軸方向の全体に亘って連続して形成されている。この場合、第2溶接部5Bの軸方向における溶接長さL22Aは、第2溶接領域4B1の領域長さL22と同じ値となる。このように、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、大きな曲げモーメントMが作用する軸方向の一端4A側及び他端4B側の各溶接領域4A1,4B1の全体に亘って連続して第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成されることにより、特定支持部材4が負担する水平荷重P1に抵抗するために必要な耐力B1,C1を、より確実に確保することができる。
【0057】
また、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、第1溶接領域4A1に形成される第1溶接部5Aと、第2溶接領域4B1に形成される第2溶接部5Bとは、軸方向に対称となるように形成されている。これにより、特定支持部材4は、軸方向の一端4A及び他端4Bのそれぞれにおいて均等に水平荷重Pを支持することができる。
【0058】
また、既述の通り、第1のH形鋼41の第1ウェブ412には第1貫通孔412Aが形成され、第2のH形鋼42の第2ウェブ422には第2貫通孔422Aが形成されている。第1貫通孔412Aは、第1ウェブ412における、少なくとも、非溶接領域4C1の両側の第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1に形成される。つまり、第1貫通孔412Aは、第1ウェブ412における、非溶接領域4C1、第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1にそれぞれ形成されてもよいし、第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1にのみ形成されてもよい。同様に、第2貫通孔422Aは、第2ウェブ422における、少なくとも、非溶接領域4C1の両側の第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1に形成される。
【0059】
建物構造1に水平荷重Pが加わった場合、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42においては、第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aの周辺で塑性変形が生じやすくなる虞がある。そこで、第1溶接領域4A1内において第1溶接部5Aは、軸方向と直交する方向から見たときに、第1溶接領域4A1内に配置される第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aの少なくとも半分以上(望ましくは全体)を覆う範囲に形成されている。同様に、第2溶接領域4B1内において第2溶接部5Bは、軸方向と直交する方向から見たときに、第2溶接領域4B1内に配置される第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aの少なくとも半分以上(望ましくは全体)を覆う範囲に形成されている。これにより、第1貫通孔412A及び第2貫通孔422Aの周辺で塑性変形が生じるのを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態では、第1溶接部5Aの溶接長さL21A及び第2溶接部5Bの溶接長さL22Aは、剛性割合ARと耐力割合BRとが略等しくなるように設定されている。具体的には、第1溶接部5Aの溶接長さL21A及び第2溶接部5Bの溶接長さL22Aは、剛性割合ARと耐力割合BRとが例えば下記式(1)を満たすように設定されている。
1≦(剛性割合AR/耐力割合BR)≦1.5・・・(1)
【0061】
剛性割合ARは、基準支持部材3の剛性A2に対する特定支持部材4の剛性A1の割合(A1/A2)を示す。耐力割合BRは、基準支持部材3の耐力B2,C2に対する特定支持部材4の耐力B1,C1の割合(B1,C1/B2,C2)を示す。
【0062】
なお、基準支持部材3の剛性A2に対する従来型支持部材の剛性A3の割合を従来剛性割合とし、基準支持部材3の耐力B2,C2に対する従来型支持部材の耐力B3,C3の割合を従来耐力割合とした場合、(従来剛性割合/従来耐力割合)は、「1.5」を超えて上記式(1)を満たさない。
【0063】
上記のように、剛性割合ARと耐力割合BRとが略等しく、上記式(1)を満たすように、第1溶接部5Aの溶接長さL21A及び第2溶接部5Bの溶接長さL22Aが設定される。これにより、特定支持部材4における基準支持部材3に対する剛性A1及び耐力B1,C1の上昇率について、耐力B1,C1よりも剛性A1の上昇率が過剰に大きくなることを、より確実に抑制することができる。このため、基準支持部材3及び特定支持部材4の各々の剛性の大きさに応じて、建物構造1に加わった水平荷重Pが各支持部材3,4に分配されたときに、特定支持部材4が負担する水平荷重P1が、基準支持部材3が負担する水平荷重P2に対して過剰に大きくなることを、より確実に抑制することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態に係る建物構造1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採用することができる。
【0065】
上記の実施形態では、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、軸方向の一端4A側及び他端4B側の各溶接領域4A1,4B1の全体に亘って連続して第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成される態様について説明したが、本発明はこれに限定されない。図7に示されるように、第1溶接部5A及び第2溶接部5Bは、軸方向において第1溶接領域4A1及び第2溶接領域4B1の全体に亘って形成されていなくてもよい。この場合、第1溶接部5Aの溶接長さL21Aは、第1溶接領域4A1の領域長さL21よりも短く、且つ、第2溶接部5Bの溶接長さL22Aは、第2溶接領域4B1の領域長さL22よりも短い。
【0066】
また、上記の実施形態では、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、軸方向の一端4A及び他端4Bを含んで第1溶接部5A及び第2溶接部5Bが形成される態様について説明したが、本発明はこれに限定されない。図8に示されるように、第1溶接部5A及び第2溶接部5Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の一端4A及び他端4Bを含んで形成されていなくてもよい。この場合、第1溶接領域4A1内において第1溶接部5Aは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の一端4Aに対して離れた位置から中心点4Cに向かって延びる。同様に、第2溶接領域4B1内において第2溶接部5Bは、第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42の軸方向の他端4Bに対して離れた位置から中心点4Cに向かって延びる。
【0067】
また、上記の実施形態では、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、第1溶接部5Aが第1溶接領域4A1内で連続した直線状に延びるとともに、第2溶接部5Bが第2溶接領域4B1内で連続した直線状に延びる態様について説明したが、本発明はこれに限定されない。図9に示されるように、第1溶接部5Aは、第1溶接領域4A1内において軸方向に間隔をあけて形成される複数の溶接部分5A1を有していてもよい。同様に、第2溶接部5Bは、第2溶接領域4B1内において軸方向に間隔をあけて形成される複数の溶接部分5B1を有していてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、特定支持部材4を構成する第1のH形鋼41及び第2のH形鋼42において、第1ウェブ412に第1貫通孔412Aが形成されるとともに、第2ウェブ422に第2貫通孔422Aが形成される態様について説明したが、本発明はこれに限定されない。第2ウェブ422に貫通孔が形成されていなくてもよい。また、第1ウェブ412及び第2ウェブ422の各々に貫通孔が形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 建物構造
2A 第1被接合部材
2B 第2被接合部材
3 基準支持部材
4 特定支持部材
41 第1のH形鋼
411A,411B 第1フランジ
412 第1ウェブ
412A 第1貫通孔
42 第2のH形鋼
421A,421B 第2フランジ
422 第2ウェブ
422A 第2貫通孔
4A1 第1溶接領域
4B1 第2溶接領域
4C 中心点
4C1 非溶接領域(所定領域)
5A 第1溶接部
5B 第2溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9