(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】マップ管理方法及びマップ管理システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G08G1/00 J
(21)【出願番号】P 2021155937
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-138241(JP,A)
【文献】特開2013-108820(JP,A)
【文献】国際公開第2021/002190(WO,A1)
【文献】特開2020-026184(JP,A)
【文献】特開平09-244710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップを管理するマップ管理方法であって、
車両の走行中に得られ
、前記パラメータマップの更新に必要な
情報であって、前記車両の位置情報と前記パラメータを算出するために必要な情報を含むマップ更新用情報を取得する処理と、
同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいて
前記パラメータを算出して前記パラメータマップを更新するマップ更新処理と
を含み、
前記最新のマップ更新用情報の寄与度は、前記マップ更新処理により算出される前記パラメータに対して前記最新のマップ更新用情報が寄与する度合いであり、
前記マップ更新処理は、前回からの路面の変化度が閾値を超える特定位置に関する前記最新のマップ更新用情報の
前記寄与度を、前記特定位置以外の通常位置に関する前記最新のマップ更新用情報の
前記寄与度よりも高くする処理を含む
マップ管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマップ管理方法であって、
前記マップ更新処理は、前記特定位置以外の前記通常位置に関して、前記最新のマップ更新用情報を含む第1走行回数のマップ更新用情報に基づいて前記パラメータマップを更新する第1マップ更新処理を含み、
前記第1走行回数は、第1上限値を超えない整数であり、
前記第1上限値は、2以上である
マップ管理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のマップ管理方法であって、
前記マップ更新処理は、前記特定位置に関して、前記最新のマップ更新用情報を含む第2走行回数のマップ更新用情報に基づいて前記パラメータマップを更新する第2マップ更新処理を含み、
前記第2走行回数は、第2上限値を超えない整数であり、
前記第2上限値は、前記第1上限値よりも小さい
マップ管理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のマップ管理方法であって、
前記第2上限値は2以上である
マップ管理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマップ管理方法であって、
前記マップ更新処理は、更に、前回からの前記路面の前記変化度を取得する路面変化取得処理を含む
マップ管理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のマップ管理方法であって、
前記路面変化取得処理は、
前記最新のマップ更新用情報から最新のパラメータを検出パラメータとして取得する処理と、
前記パラメータマップから前記検出パラメータと同じ位置の前記パラメータを参照パラメータとして取得する処理と、
前記検出パラメータと前記参照パラメータとの間の差分に基づいて前記変化度を算出する処理と
を含む
マップ管理方法。
【請求項7】
請求項6に記載のマップ管理方法であって、
前記検出パラメータと前記参照パラメータは、同じフィルタリング処理を通して算出される
マップ管理方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のマップ管理方法であって、
前記パラメータマップは、前記パラメータと前記位置と車速との対応関係を表し、
前記参照パラメータを取得する処理は、前記車両の車速に応じた前記参照パラメータを前記パラメータマップから取得する処理を含む
マップ管理方法。
【請求項9】
1又は複数のプロセッサと、
車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップを格納する1又は複数の記憶装置と
を備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
車両の走行中に得られ
、前記パラメータマップの更新に必要な
情報であって、前記車両の位置情報と前記パラメータを算出するために必要な情報を含むマップ更新用情報を取得する処理と、
同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいて
前記パラメータを算出して前記パラメータマップを更新するマップ更新処理と
を実行するように構成され、
前記最新のマップ更新用情報の寄与度は、前記マップ更新処理により算出される前記パラメータに対して前記最新のマップ更新用情報が寄与する度合いであり、
前記マップ更新処理は、前回からの路面の変化度が閾値を超える特定位置に関する前記最新のマップ更新用情報の
前記寄与度を、前記特定位置以外の通常位置に関する前記最新のマップ更新用情報の
前記寄与度よりも高くする処理を含む
マップ管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップを管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、路面変位(路面凹凸)と位置との対応関係を表す路面変位マップを開示している。そのような路面変位マップを利用することにより、制振制御が行われる。具体的には、路面変位マップから、車両前方の所定位置における路面変位が予め認識される。予め認識された路面変位に応じてアクティブサスペンションの制御量が予め算出される。そして、車輪が当該所定位置を通過するタイミングでアクティブサスペンションを制御することにより、車両の振動が効果的に抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2018/0154723号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップについて考える。そのようなパラメータマップは、例えば特許文献1に開示されているような制振制御等の車両制御に利用される。
【0005】
本願発明者は、次の点に着目した。それは、道路工事、経時変化、等の要因により、路面(路面状態、路面凹凸)が変化する可能性があることである。路面が変化した場合、その路面変化をパラメータマップに効率的に反映することが望ましい。路面変化がパラメータマップに反映されていない場合、そのパラメータマップを利用した車両制御の精度が低下するおそれがあるからである。
【0006】
本開示の1つの目的は、車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップに関し、路面変化に対して適切に対応することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点は、車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップを管理するマップ管理方法に関連する。
マップ管理方法は、
車両の走行中に得られる情報であって、パラメータマップの更新に必要なマップ更新用情報を取得する処理と、
同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいてパラメータマップを更新するマップ更新処理と
を含む。
マップ更新処理は、前回からの路面の変化度が閾値を超える特定位置に関する最新のマップ更新用情報の寄与度を、特定位置以外の通常位置に関する最新のマップ更新用情報の寄与度よりも高くする処理を含む。
【0008】
第2の観点は、マップ管理システムに関連する。
マップ管理システムは、
1又は複数のプロセッサと、
車輪の上下運動に関連するパラメータと位置との対応関係を表すパラメータマップを格納する1又は複数の記憶装置と
を備える。
1又は複数のプロセッサは、
車両の走行中に得られる情報であって、パラメータマップの更新に必要なマップ更新用情報を取得する処理と、
同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいてパラメータマップを更新するマップ更新処理と
を実行するように構成される。
マップ更新処理は、前回からの路面の変化度が閾値を超える特定位置に関する最新のマップ更新用情報の寄与度を、特定位置以外の通常位置に関する最新のマップ更新用情報の寄与度よりも高くする処理を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいてパラメータマップが更新される。路面変化度の大きい特定位置に関しては、最新のマップ更新用情報の寄与度が増加し、過去のマップ更新用情報の寄与度が低下する。従って、路面変化度の大きい特定位置のマップデータが素早くリフレッシュされる。言い換えれば、路面変化がパラメータマップに効率的に反映される。その結果、パラメータマップを利用した車両制御の精度の低下が抑制される。このように、路面変化に対して適切に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る車両の構成例を示す概略図である。
【
図2】実施の形態に係るサスペンションの構成例を示す概念図である。
【
図3】実施の形態に係るばね下変位算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態に係る車両制御システムの構成例を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態に係る運転環境情報の例を示すブロック図である。
【
図6】実施の形態に係るマップ管理システムの構成例を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態に係るばね下変位マップを説明するための概念図である。
【
図8】実施の形態に係るばね下変位マップの一例を示す概念図である。
【
図9】センサによる上下運動パラメータのサンプリング結果と車速との関係を説明するための概念図である。
【
図10】実施の形態に係るばね下変位マップの他の例を示す概念図である。
【
図11】実施の形態に係るばね下変位マップの更に他の例を示す概念図である。
【
図12】実施の形態に係るばね下変位マップを利用したプレビュー制御を説明するための概念図である。
【
図13】実施の形態に係るばね下変位マップを利用したプレビュー制御を示すフローチャートである。
【
図14】実施の形態に係るマップ管理システムによるマップ管理方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図15】実施の形態に係るマップ更新処理(ステップS200)の一例を示すフローチャートである。
【
図16】実施の形態に係る路面変化取得処理(ステップS210)の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0012】
1.サスペンション及び上下運動パラメータ
図1は、本実施の形態に係る車両1の構成例を示す概略図である。車両1は、車輪2とサスペンション3を備えている。車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRを含んでいる。それら左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRのそれぞれに対してサスペンション3FL、3FR、3RL、及び3RRが設けられている。以下の説明では、特に区別の必要が無い場合、各車輪を車輪2と呼び、各サスペンションをサスペンション3と呼ぶ。
【0013】
図2は、サスペンション3の構成例を示す概念図である。サスペンション3は、車両1のばね下構造体4とばね上構造体5との間を連結するように設けられている。ばね下構造体4は、車輪2を含んでいる。サスペンション3は、スプリング3S、ダンパ(ショックアブソーバ)3D、及びアクチュエータ3Aを含んでいる。スプリング3S、ダンパ3D、及びアクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に並列に設けられている。スプリング3Sのばね定数はKである。ダンパ3Dの減衰係数はCである。ダンパ3Dの減衰力は可変であってもよい。アクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを作用させる。
【0014】
ここで、用語の定義を行う。「路面変位Zr」は、路面RSの上下方向の変位である。「ばね下変位Zu」は、ばね下構造体4の上下方向の変位である。「ばね上変位Zs」は、ばね上構造体5の上下方向の変位である。「ばね下速度Zu'」は、ばね下構造体4の上下方向の速度である。「ばね上速度Zs'」は、ばね上構造体5の上下方向の速度である。「ばね下加速度Zu''」は、ばね下構造体4の上下方向の加速度である。「ばね上加速度Zs''」は、ばね上構造体5の上下方向の加速度である。尚、各パラメータの符号は、上向きの場合に正であり、下向きの場合に負である。
【0015】
車輪2は、路面RS上を移動する。以下の説明において、車輪2の上下運動(vertical motion)に関連するパラメータを、「上下運動パラメータ」と呼ぶ。上下運動パラメータとしては、上記の路面変位Zr、ばね下変位Zu、ばね下速度Zu'、ばね下加速度Zu''、ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、ばね上加速度Zs''、等が例示される。上下運動パラメータは、路面変位Zrに関連する「路面変位関連パラメータ」であると言うこともできる。
【0016】
一例として、以下の説明においては、上下運動パラメータがばね下変位Zuである場合について考える。一般化する場合は、以下の説明における「ばね下変位」を「上下運動パラメータ」で読み替えるものとする。
【0017】
図3は、ばね下変位算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0018】
ステップS11において、ばね上構造体5に設置されたばね上加速度センサ22によってばね上加速度Zs''が検出される。ステップS12において、ばね上加速度Zs''を2階積分することによりばね上変位Zsが算出される。
【0019】
ステップS13において、ばね上構造体5とばね下構造体4との間の相対変位であるストロークST(=Zs-Zu)が取得される。例えば、ストロークSTは、サスペンション3に設置されたストロークセンサにより検出される。他の例として、ストロークSTは、単輪2自由度モデルに基づいて構成されたオブザーバによって、ばね上加速度Zs''に基づいて推定されてもよい。
【0020】
ステップS14において、センサドリフト等の影響を抑えるために、ばね上変位Zsの時系列データに対してフィルタリング処理が行われる。同様に、ステップS15において、ストロークSTの時系列データに対してフィルタリング処理が行われる。例えば、フィルタは、特定周波数帯の信号成分を通過させるバンドパスフィルタである。特定周波数帯は、車両1のばね上共振周波数を含むように設定されてもよい。例えば、特定周波数帯は、0.3~10Hzである。
【0021】
ステップS16において、ばね上変位ZsとストロークSTとの差分がばね下変位Zuとして算出される。
【0022】
ステップS14及びS15の代わりに、ステップS16において算出されるばね下変位Zuの時系列データに対してフィルタリング処理が行われてもよい。
【0023】
更に他の例として、ばね下加速度センサによってばね下加速度Zu''が検出され、ばね下加速度Zu''からばね下変位Zuが算出されてもよい。
【0024】
2.車両制御システム
2-1.構成例
図4は、本実施の形態に係る車両制御システム10の構成例を示すブロック図である。車両制御システム10は、車両1に搭載され、車両1を制御する。車両制御システム10は、車両状態センサ20、認識センサ30、位置センサ40、通信装置50、走行装置60、及び制御装置70を含んでいる。
【0025】
車両状態センサ20は、車両1の状態を検出する。車両状態センサ20は、車両1の車速Vを検出する車速センサ(車輪速センサ)21、ばね上加速度Zs''を検出するばね上加速度センサ22、等を含んでいる。車両状態センサ20は、ストロークSTを検出するストロークセンサ23を含んでいてもよい。車両状態センサ20は、ばね下加速度センサを含んでいてもよい。その他、車両状態センサ20は、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等を含んでいる。
【0026】
認識センサ30は、車両1の周囲の状況を認識(検出)する。認識センサとしては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。
【0027】
位置センサ40は、車両1の位置及び方位を検出する。例えば、位置センサ40は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を含んでいる。
【0028】
通信装置50は、車両1の外部と通信を行う。
【0029】
走行装置60は、操舵装置61、駆動装置62、制動装置63、及びサスペンション3(
図2参照)を含んでいる。操舵装置61は、車輪2を転舵する。例えば、操舵装置61は、パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動装置62は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置62としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置63は、制動力を発生させる。
【0030】
制御装置70は、車両1を制御するコンピュータである。制御装置70は、1又は複数のプロセッサ71(以下、単にプロセッサ71と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置72(以下、単に記憶装置72と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ71は、各種処理を実行する。例えば、プロセッサ71は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置72は、プロセッサ71による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置72としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。制御装置70は、1又は複数のECU(Electronic Control Unit)を含んでいてもよい。
【0031】
車両制御プログラム80は、車両1を制御するためのコンピュータプログラムであり、プロセッサ71によって実行される。車両制御プログラム80は、記憶装置72に格納される。あるいは、車両制御プログラム80は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサ71が車両制御プログラム80を実行することにより、制御装置70の機能が実現される。
【0032】
2-2.運転環境情報
図5は、車両1の運転環境を示す運転環境情報90の一例を示すブロック図である。運転環境情報90は、記憶装置72に格納される。運転環境情報90は、地図情報91、車両状態情報92、周辺状況情報93、及び位置情報94を含んでいる。
【0033】
地図情報91は、一般的なナビゲーション地図を含む。地図情報91は、レーン配置、道路形状、等を示していてもよい。地図情報91は、白線、信号機、標識、ランドマーク、等の位置情報を含んでいてもよい。地図情報91は、地図データベースから得られる。尚、地図データベースは、車両1に搭載されていてもよいし、外部の管理サーバに格納されていてもよい。後者の場合、制御装置70は、管理サーバと通信を行い、必要な地図情報91を取得する。
【0034】
地図情報91は、更に、「ばね下変位マップ200」を含んでいる。ばね下変位マップ200の詳細については後述される。
【0035】
車両状態情報92は、車両1の状態を示す情報である。制御装置70は、車両状態センサ20から車両状態情報92を取得する。例えば、車両状態情報92は、車速V、ばね上加速度Zs''、ストロークST、横加速度、ヨーレート、舵角、等を含む。車速Vは、位置センサ40によって検出される車両位置から算出されてもよい。制御装置70は、
図3で示された手法によりばね下変位Zuを算出してもよい。その場合、車両状態情報92は、制御装置70によって算出されたばね下変位Zuも含む。
【0036】
周辺状況情報93は、車両1の周囲の状況を示す情報である。制御装置70は、認識センサ30を用いて車両1の周囲の状況を認識し、周辺状況情報93を取得する。例えば、周辺状況情報93は、カメラによって撮像される画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報93は、LIDARによって得られる点群情報を含む。
【0037】
周辺状況情報93は、更に、車両1の周囲の物体に関する「物体情報」を含んでいる。物体としては、歩行者、自転車、他車両(先行車両、駐車車両、等)、道路構成(白線、縁石、ガードレール、壁、中央分離帯、路側構造物、等)、標識、ポール、障害物、等が例示される。物体情報は、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、物体を識別し、その物体の相対位置を算出することができる。また、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、物体を識別し、その物体の相対位置と相対速度を取得することもできる。
【0038】
位置情報94は、車両1の位置及び方位を示す情報である。制御装置70は、位置センサ40による検出結果から位置情報94を取得する。また、制御装置70は、物体情報と地図情報91を利用した周知の自己位置推定処理(Localization)により、高精度な位置情報94を取得してもよい。
【0039】
2-3.車両制御
制御装置70は、車両1の走行を制御する車両走行制御を実行する。車両走行制御は、操舵制御、駆動制御、及び制動制御を含む。制御装置70は、走行装置60(操舵装置61、駆動装置62、及び制動装置63)を制御することによって車両走行制御を実行する。制御装置70は、運転環境情報90に基づいて、車両1の運転を支援する運転支援制御を行ってもよい。運転支援制御としては、車線維持制御、衝突回避制御、自動運転制御、等が例示される。
【0040】
更に、制御装置70は、サスペンション3を制御する。典型的には、制御装置70は、サスペンション3を制御して車両1の振動を抑制する制振制御を行う。例えば、制御装置70は、アクチュエータ3Aを制御して、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを発生させる(
図2参照)。他の例として、制御装置70は、ダンパ3Dの減衰力を可変制御してもよい。制振制御は、後述される「プレビュー制御」を含んでいる。
【0041】
3.マップ管理システム
3-1.構成例
図6は、本実施の形態に係るマップ管理システム100の構成例を示すブロック図である。マップ管理システム100は、各種の地図情報を管理するコンピュータである。地図情報の管理は、地図情報の生成、更新、提供、配信、等を含む。典型的には、マップ管理システム100は、クラウド上の管理サーバである。マップ管理システム100は、複数のサーバが分散処理を行う分散システムであってもよい。
【0042】
マップ管理システム100は、通信装置110を含んでいる。通信装置110は、通信ネットワークNETに接続されている。例えば、通信装置110は、通信ネットワークNETを介して多数の車両1と通信を行う。
【0043】
マップ管理システム100は、更に、1又は複数のプロセッサ120(以下、単にプロセッサ120と呼ぶ)及び1又は複数の記憶装置130(以下、単に記憶装置130と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ120は、各種情報処理を実行する。例えば、プロセッサ120は、CPUを含んでいる。記憶装置130は、各種の地図情報を格納する。また、記憶装置130は、プロセッサ120による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置130としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD、等が例示される。
【0044】
マップ管理プログラム140は、マップ管理のためのコンピュータプログラムであり、プロセッサ120によって実行される。マップ管理プログラム140は、記憶装置130に格納される。あるいは、マップ管理プログラム140は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサ120がマップ管理プログラム140を実行することにより、マップ管理システム100の機能が実現される。
【0045】
プロセッサ120は、通信装置110を介して車両1の車両制御システム10と通信を行う。プロセッサ120は、車両制御システム10から各種情報を収集し、収集した情報に基づいて地図情報を生成、更新する。また、プロセッサ120は、車両制御システム10に地図情報を配信する。また、プロセッサ120は、車両制御システム10からのリクエストに応答して地図情報を提供する。
【0046】
3-2.ばね下変位マップ
マップ管理システム100が管理する地図情報の一つが、「ばね下変位マップ(上下運動パラメータマップ)200」である。ばね下変位マップ200は、ばね下変位Zu(上下運動パラメータ)に関する地図である。ばね下変位マップ200は、記憶装置130に格納されている。
【0047】
図7は、ばね下変位マップ200を説明するための概念図である。例えば、水平面における絶対座標系は緯度方向と経度方向により定義され、位置は緯度LATと経度LONにより定義される。ばね下変位マップ200は、少なくとも位置(LAT,LON)とばね下変位Zuとの対応関係を表す。言い換えれば、ばね下変位マップ200は、ばね下変位Zuを少なくとも位置(LAT,LON)の関数として表す。
【0048】
道路領域は、水平面上でメッシュ状に区分されてもよい。つまり、道路領域は、水平面上で複数の単位エリアMに区分されてもよい。単位エリアMは、例えば矩形状を有する。例えば、単位エリアMは、1辺の長さが10cmの正方形である。ばね下変位マップ200は、単位エリアMの位置とばね下変位Zuとの対応関係を表す。単位エリアMの位置は、その単位エリアMの代表位置(例:中心位置)で定義されてもよいし、その単位エリアMの範囲(緯度範囲、経度範囲)で定義されてもよい。単位エリアMのばね下変位Zuは、例えば、その単位エリアM内で取得されたばね下変位Zuの平均値である。単位エリアMを小さくするほど、ばね下変位マップ200の解像度は増加する。
【0049】
プロセッサ120は、通信装置110を介して、多数の車両1から情報を収集する。そして、プロセッサ120は、多数の車両1から収集した情報に基づいて、ばね下変位マップ200の生成及び更新を行う。
【0050】
以下、ばね下変位マップ200の様々な具体例について説明する。
【0051】
3-2-1.第1の例(第1ばね下変位マップ)
ばね下変位マップ200における位置は、車輪2が通過した位置である。各車輪2の位置は、上記の位置情報94に基づいて算出される。具体的には、車両1における車両位置の基準点と各車輪2との間の相対位置関係は既知情報である。その相対位置関係と位置情報94で示される車両位置に基づいて、各車輪2の位置を算出することができる。
【0052】
ばね下変位Zuは、
図3で示されたような手法により算出される。すなわち、車両1に搭載された車両状態センサ20を用いることによって、ばね上変位ZsやストロークSTが得られる。これらばね上変位ZsやストロークSTを、便宜上、「センサベース情報」と呼ぶ。ばね下変位Zuは、このセンサベース情報に基づいて算出される。ここで、上述の通り、センサドリフト等の影響を抑えるために、センサベース情報あるいはばね下変位Zuの時系列データに対してフィルタリング処理が行われる。
【0053】
例えば、車両1の走行中、車両制御システム10の制御装置70が、リアルタイムにばね下変位Zuを算出する。但し、リアルタイムにばね下変位Zuを算出する場合、処理時間の制約上、ゼロ位相フィルタを利用することはできない。制御装置70がリアルタイムに利用可能なフィルタ(オンラインフィルタ)を、以下、「第1フィルタ」と呼ぶ。制御装置70は、センサベース情報あるいはばね下変位Zuの時系列データに第1フィルタを適用する「第1フィルタリング処理」を行う。この第1フィルタリング処理を通して算出されるばね下変位Zuを、以下、「第1ばね下変位Zu1」と呼ぶ。第1ばね下変位Zu1の時系列データに関しては、第1フィルタを用いた第1フィルタリング処理により“位相ずれ”が発生する。具体的には、ハイパスフィルタにより“位相進み”が生じ、ローパスフィルタにより“位相遅れ”が生じる。
【0054】
車両制御システム10の制御装置70は、同じタイミングの車輪2の位置と第1ばね下変位Zu1とを関連付ける。そして、制御装置70は、車輪2の位置の時系列データと第1ばね下変位Zu1の時系列データのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、車両制御システム10から受信した情報に基づいて、位置と第1ばね下変位Zu1との対応関係を表すばね下変位マップ200を生成する。位置と第1ばね下変位Zu1との対応関係を表すばね下変位マップ200を、以下、「第1ばね下変位マップ210」と呼ぶ。第1ばね下変位マップ210は、第1フィルタを用いた第1フィルタリング処理を通して生成されるばね下変位マップ200であると言うことができる。
【0055】
車両制御システム10の代わりに、マップ管理システム100が第1フィルタリング処理を行ってもよい。この場合、車両制御システム10の制御装置70は、同じタイミングの車輪2の位置とセンサベース情報あるいはばね下変位Zu(フィルタリング処理前)とを関連付ける。そして、制御装置70は、車輪2の位置の時系列データとセンサベース情報あるいはばね下変位Zu(フィルタリング処理前)の時系列データのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、センサベース情報あるいはばね下変位Zuの時系列データに第1フィルタを適用する第1フィルタリング処理を行う。このような第1フィルタリング処理を経て、第1ばね下変位Zu1が算出される。プロセッサ120は、車輪2の位置と第1ばね下変位Zu1に基づいて、第1ばね下変位マップ210を生成する。
【0056】
3-2-2.第2の例(第2ばね下変位マップ)
マップ管理システム100においてフィルタリング処理を行う場合、処理時間の制約はないため、ゼロ位相フィルタを利用することができる。ゼロ位相フィルタを利用することにより、“位相ずれ”を防止することができる。センサベース情報あるいはばね下変位Zuの時系列データにゼロ位相フィルタを適用するフィルタリング処理を、以下、「第2フィルタリング処理」と呼ぶ。第2フィルタリング処理を通して算出されるばね下変位Zuを、以下、「第2ばね下変位Zu2」と呼ぶ。位置と第2ばね下変位Zu2との対応関係を表すばね下変位マップ200を、以下、「第2ばね下変位マップ220」と呼ぶ。第2ばね下変位マップ220は、ゼロ位相フィルタを用いた第2フィルタリング処理を通して生成されるばね下変位マップ200であると言うことができる。
【0057】
車両制御システム10の制御装置70は、同じタイミングの車輪2の位置とセンサベース情報あるいはばね下変位Zu(フィルタリング処理前)とを関連付ける。そして、制御装置70は、車輪2の位置の時系列データとセンサベース情報あるいはばね下変位Zu(フィルタリング処理前)の時系列データのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、センサベース情報あるいはばね下変位Zuの時系列データに第2フィルタを適用する第2フィルタリング処理を行う。このような第2フィルタリング処理を経て、第2ばね下変位Zu2が算出される。プロセッサ120は、車輪2の位置と第2ばね下変位Zu2に基づいて、第2ばね下変位マップ220を生成する。
【0058】
図8は、ばね下変位マップ200の一例を示す概念図である。
図8に示される例では、ばね下変位マップ200は、第1ばね下変位マップ210と第2ばね下変位マップ220の両方を含んでいる。この場合、用途に応じて第1ばね下変位マップ210と第2ばね下変位マップ220が使い分けられる。
【0059】
他の例として、ばね下変位マップ200は、第1ばね下変位マップ210と第2ばね下変位マップ220の一方だけを含んでいてもよい。
【0060】
3-2-3.第3の例(車速を考慮したばね下変位マップ)
図9は、センサによる上下運動パラメータのサンプリング結果と車速Vとの関係を説明するための概念図である。横軸は、車輪2が通過した経路上の位置を表している。縦軸は、上下運動パラメータの一例として路面変位Zrを表している。車輪2が全く同じ経路を通過したとしても、センサによるサンプリング結果は車速Vに応じて変わる。具体的には、低速走行時には、路面RSの細かい凹凸が検出(抽出)される。つまり、低速走行時には、波長が短く空間周波数の高いデータが検出される。一方、高速走行時には、路面RSの細かい凹凸は検出(抽出)されない。つまり、高速走行時には、波長が長く空間周波数の低いデータが検出され、波長が短く空間周波数の高いデータは検出されにくい。このように、車速Vと検出可能な空間周波数とは反比例する。
【0061】
そこで、第3の例では、車速Vも考慮してばね下変位マップ200が生成される。具体的には、車両制御システム10の制御装置70は、車輪2の位置とその位置を通過した際の車速Vを関連付け、位置と車速Vのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、位置と車速Vに基づいてばね下変位マップ200を生成する。すなわち、ばね下変位マップ200は、位置と車速Vとばね下変位Zuとの対応関係を表す。
【0062】
図10は、第3の例に係るばね下変位マップ200の一例を示している。
図10に示される例では、ばね下変位マップ200は、位置とばね下変位Zuとの対応関係を車速範囲毎に表している。言い換えれば、車速範囲毎に異なるばね下変位マップ200が用意されている。例えば、ばね下変位マップ200-1は、車速Vが第1車速範囲に属する場合に用いられるばね下変位マップ200である。ばね下変位マップ200-2は、車速Vが第1車速範囲とは異なる第2車速範囲に属する場合に用いられるばね下変位マップ200である。
【0063】
図11は、第3の例に係るばね下変位マップ200の他の例を示している。
図11に示される例では、位置は単位エリアM(
図7参照)の位置である。ばね下変位マップ200は、単位エリアMの位置毎に、車速V(あるいは車速範囲)とばね下変位Zuとの対応関係を表している。
【0064】
3-2-4.第4の例
上述の第1あるいは第2の例と第3の例との組み合わせも可能である。つまり、第1ばね下変位マップ210は、位置と車速Vと第1ばね下変位Zu1との対応関係を表していてもよい。同様に、第2ばね下変位マップ220は、位置と車速Vと第2ばね下変位Zu2との対応関係を表していてもよい。
【0065】
3-3.変形例
車両1の車両制御システム10が、ばね下変位マップ200のデータベースを保持し、自身のばね下変位マップ200の管理を行ってもよい。つまり、マップ管理システム100は車両制御システム10に含まれていてもよい。この場合のばね下変位マップ200は、例えば、上述の第1ばね下変位マップ210である。
【0066】
4.ばね下変位マップを利用したプレビュー制御
車両制御システム10の制御装置70は、通信装置50を介してマップ管理システム100と通信を行う。制御装置70は、車両1の現在位置を含むエリアのばね下変位マップ200をマップ管理システム100から取得する。ばね下変位マップ200は、記憶装置72に格納される。そして、制御装置70は、ばね下変位マップ200に基づいて、制振制御の一種である「プレビュー制御」を実行する。
【0067】
図12は、プレビュー制御を説明するための概念図である。
図13は、プレビュー制御を示すフローチャートである。
図12及び
図13を参照して、プレビュー制御について説明する。
【0068】
ステップS31において、制御装置70は、各車輪2の現在位置P0を取得する。車両1における車両位置の基準点と各車輪2との間の相対位置関係は既知情報である。その相対位置関係と位置情報94で示される車両位置に基づいて、各車輪2の位置を算出することができる。
【0069】
ステップS32において、制御装置70は、プレビュー時間tp後の車輪2の予測通過位置Pfを算出する。プレビュー時間tpは、例えば、サスペンション3のアクチュエータ3Aを作動させるまでに必要な計算処理や通信処理に要する時間以上に設定される。プレビュー時間tpは、固定であってもよいし、状況に応じて可変であってもよい。プレビュー距離Lpは、プレビュー時間tpと車速Vの積により与えられる。予測通過位置Pfは、現在位置P0からプレビュー距離Lpだけ前方の位置である。変形例として、制御装置70は、車速Vと車輪2の舵角に基づいて予想走行ルートを算出し、予想走行ルートに基づいて予測通過位置Pfを算出してもよい。
【0070】
ステップS33において、制御装置70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuをばね下変位マップ200から読み出す。好適には、制御装置70は、“位相ずれ”の無い第2ばね下変位マップ220(セクション3-2-2参照)を参照マップとして用い、予測通過位置Pfにおける第2ばね下変位Zu2を第2ばね下変位マップ220から読み出す。
【0071】
ステップS34において、制御装置70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zu(第2ばね下変位Zu2)に基づいて、サスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_tを算出する。目標制御力Fc_tは、例えば、次のように算出される。
【0072】
ばね上構造体5(
図2参照)に関する運動方程式は、次の式(1)により表される。
【0073】
【0074】
式(1)において、mはばね上構造体5の質量であり、Cはダンパ3Dの減衰係数であり、Kはスプリング3Sのばね定数であり、Fcはアクチュエータ3Aが発生させる上下方向の制御力Fcである。仮に、制御力Fcによってばね上構造体5の振動が完全に打ち消される場合(Zs''=0,Zs'=0,Zs=0)、その制御力Fcは次の式(2)により表される。
【0075】
【0076】
少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(3)により表される。
【0077】
【0078】
式(3)において、ゲインαは、0より大きく且つ1以下であり、ゲインβも、0より大きく且つ1以下である。式(3)中の微分項を省略した場合、少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(4)により表される。
【0079】
【0080】
制御装置70は、上記式(3)あるいは式(4)に従って、目標制御力Fc_tを算出する。すなわち、制御装置70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zu(第2ばね下変位Zu2)を式(3)あるいは式(4)に代入して、目標制御力Fc_tを算出する。
【0081】
ステップS35において、制御装置70は、車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングで目標制御力Fc_tを発生させるようにアクチュエータ3Aを制御する。車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミングはプレビュー時間tpから分かる。
【0082】
以上に説明されたばね下変位マップ200を利用したプレビュー制御により、車両1(ばね上構造体5)の振動を効果的に抑制することが可能となる。特に、第2ばね下変位マップ220から得られる位相ずれの無い第2ばね下変位Zu2を用いることによって、予測通過位置Pfにおいて制振に必要な目標制御力Fc_tを精度良く発生させることができる。すなわち、プレビュー制御の精度が向上する。
【0083】
5.路面変化への対応
道路工事、経時変化、等の要因により、路面(路面状態、路面凹凸)が変化する可能性がある。路面が変化した場合、その路面変化をばね下変位マップ200に効率的に反映することが望ましい。路面変化がばね下変位マップ200に反映されていない場合、そのばね下変位マップ200を利用した車両制御の精度が低下するおそれがあるからである。例えば、著しい路面変化があったにもかかわらず古いばね下変位マップ200に基づいてプレビュー制御が行われる場合、期待通りの制振効果が得られないおそれがある。最悪の場合、ボディー振動が逆に増加してしまう。
【0084】
そこで、本開示は、路面変化に対して適切に対応することができる技術を更に提案する。以下では、特に、マップ管理システム100によるマップ管理方法について説明する。尚、マップ管理システム100は、車両1の外部に設けられていてもよいし(
図6参照)、車両1に搭載された車両制御システム10に含まれていてもよい。
【0085】
5-1.マップ管理方法の概要
図14は、マップ管理システム100によるマップ管理方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【0086】
ステップS100において、マップ管理システム100は、車両1(車両制御システム10)から「マップ更新用情報」を取得する。マップ更新用情報は、車両1の走行中に得られる情報であって、車両1の位置(車輪位置)の時系列データを含む。また、マップ更新用情報は、ばね下変位Zuを算出するために必要なセンサベース情報(例:ばね上変位Zs、ストロークST)の時系列データを含む。あるいは、マップ更新用情報は、車両制御システム10によって算出されたばね下変位Zuの時系列データを含んでいてもよい。更に、マップ更新用情報は、車両1の車速Vを含んでいてもよい。
【0087】
ステップS200において、マップ管理システム100は、マップ更新用情報に基づいてばね下変位マップ200を更新する「マップ更新処理」を実行する。尚、ばね下変位マップ200は、上記のセクション3-2で説明された様々な具体例のうちいずれであってもよい。
【0088】
本実施の形態によれば、マップ管理システム100は、過去に得られたマップ更新用情報を保持しており、過去のマップ更新用情報も考慮してマップ更新処理を行う。つまり、マップ管理システム100は、同一の位置に関して、最新の(今回の)マップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいてばね下変位マップ200を更新する。例えば、ある位置(単位エリアM)のばね下変位Zuは、最新のマップ更新用情報を含むN回のマップ更新用情報から算出されるばね下変位Zuの平均値である。ここで、Nは1以上の整数である。
【0089】
また、本実施の形態によれば、マップ更新処理における各々のマップ更新用情報の「寄与度」は、一定ではなく、位置毎に可変的に設定される。ここで、寄与度とは、マップ更新処理により算出されるばね下変位Zuに対して各々のマップ更新用情報が寄与する度合いを意味する。言い換えれば、寄与度は、マップ更新処理により算出されるばね下変位Zuに対する各々のマップ更新用情報の影響力を意味する。ある位置に関して、最新のマップ更新用情報の寄与度が増加すれば、過去のマップ更新用情報の寄与度は相対的に減少する。逆に、最新のマップ更新用情報の寄与度が減少すれば、過去のマップ更新用情報の寄与度は相対的に増加する。
【0090】
より詳細には、マップ管理システム100は、路面変化を考慮して、マップ更新処理における各マップ更新用情報の寄与度を位置毎に設定する。前回のマップ更新時からの路面変化の度合い(大きさ)を、以下、「路面変化度ΔRS」と呼ぶ。路面変化度ΔRSは、位置毎に定義され得る。路面変化度ΔRSを取得する方法の具体例は後述される。路面変化度ΔRSが閾値THを超える位置を、以下、「特定位置PS」と呼ぶ。一方、路面変化度ΔRSが閾値TH以下である位置、すなわち、特定位置PS以外の位置を、以下、「通常位置PN」と呼ぶ。マップ管理システム100は、特定位置PSに関する最新のマップ更新用情報の寄与度を、通常位置PNに関する最新のマップ更新用情報の寄与度よりも高く設定する。言い換えれば、マップ管理システム100は、特定位置PSに関する過去のマップ更新用情報の寄与度を、通常位置PNに関する過去のマップ更新用情報の寄与度よりも低くする。
【0091】
このように、路面変化度ΔRSの大きい特定位置PSに関しては、最新のマップ更新用情報の寄与度が増加し、過去のマップ更新用情報の寄与度が低下する。従って、路面変化度ΔRSの大きい特定位置PSのマップデータ(ばね下変位Zu)が素早くリフレッシュされる。言い換えれば、路面変化がばね下変位マップ200に効率的に反映される。その結果、ばね下変位マップ200を利用したプレビュー制御等の車両制御の精度の低下が抑制される。すなわち、本実施の形態によれば、路面変化に対して適切に対応することが可能となる。
【0092】
5-2.マップ更新処理(ステップS200)の具体例
図15は、マップ更新処理(ステップS200)の一例を示すフローチャートである。
【0093】
5-2-1.ステップS210(路面変化取得処理)
ステップS210において、マップ管理システム100は、前回からの路面変化の度合い(大きさ)を表す路面変化度ΔRSを取得する「路面変化取得処理」を行う。
【0094】
図16は、路面変化取得処理(ステップS210)の一例を示すフローチャートである。
【0095】
ステップS211において、マップ管理システム100は、最新の(今回の)マップ更新用情報から車輪位置のばね下変位Zuを取得する。最新のマップ更新用情報から得られるばね下変位Zuを、便宜上、「検出ばね下変位Zu_d」あるいは「検出パラメータ」と呼ぶ。
【0096】
ステップS212において、マップ管理システム100は、既存のばね下変位マップ200(すなわち更新前のばね下変位マップ200)から、検出ばね下変位Zu_dと同じ位置のばね下変位Zuを取得する。既存のばね下変位マップ200から得られるばね下変位Zuを、便宜上、「参照ばね下変位Zu_ref」あるいは「参照パラメータ」と呼ぶ。
【0097】
ステップS213において、マップ管理システム100は、同じ位置の検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refとの間の差分に基づいて、当該位置の路面変化度ΔRSを算出する。検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refとの間の差分が大きくなるにつれて、路面変化度ΔRSは増加する。例えば、路面変化度ΔRSは、検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refとの間の差分の絶対値である。他の例として、路面変化度ΔRSは、検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refとの間の差分の二乗であってもよい。
【0098】
路面変化度ΔRSの精度を向上させるためには、検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refとの間の“位相ずれ”を抑えることが好ましい。そのためには、検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refが、同じフィルタリング処理を通して算出されていることが好ましい。
【0099】
一例として、ばね下変位マップ200が、ゼロ位相フィルタを用いた第2フィルタリング処理を通して生成される第2ばね下変位マップ220である場合を考える(セクション3-2-2参照)。第2ばね下変位マップ220から読み出される参照ばね下変位Zu_refは、第2フィルタリング処理により算出された第2ばね下変位Zu2である。よって、検出ばね下変位Zu_dも、第2フィルタリング処理により算出される第2ばね下変位Zu2であることが好ましい。
【0100】
他の例として、ばね下変位マップ200が、第1フィルタリング処理を通して生成される第1ばね下変位マップ210である場合を考える(セクション3-2-1参照)。第1ばね下変位マップ210から読み出される参照ばね下変位Zu_refは、第1フィルタリング処理により算出された第1ばね下変位Zu1である。よって、検出ばね下変位Zu_dも、第1フィルタリング処理により算出される第1ばね下変位Zu1であることが好ましい。
【0101】
路面変化度ΔRSの精度を向上させるために、車速Vが考慮されてもよい。ここでは、ばね下変位マップ200が位置と車速Vとばね下変位Zuとの対応関係を表す場合を考える(セクション3-2-3,
図10,
図11参照)。上述のステップS212において、マップ管理システム100は、最新の(今回の)マップ更新用情報から車速Vの情報を取得する。更に、マップ管理システム100は、車速Vに応じた参照ばね下変位Zu_refを既存のばね下変位マップ200から取得する。これにより、検出ばね下変位Zu_dと参照ばね下変位Zu_refの有効周波数帯が一致するため、路面変化度ΔRSの精度が向上する。
【0102】
路面変化取得処理(ステップS210)の変形例として、周辺状況情報93に基づいて路面変化度ΔRSが算出されてもよい。例えば、周辺状況情報93は、LIDARによって得られる点群情報を含む。その点群情報に基づいて、各位置の路面変位Zrの前回からの変化度が算出されてもよい。他の例として、周辺状況情報93は、カメラによって撮像される画像情報を含む。その画像情報を解析することによって、著しい路面変化が検出されてもよい。
【0103】
路面変化取得処理(ステップS210)の他の変形例として、路面変化度ΔRSの情報は、道路管理センター、他車両、等から提供されてもよい。
【0104】
5-2-2.ステップS220
ステップS220において、マップ管理システム100は、各位置毎に路面変化度ΔRSを閾値THと比較する。ある位置の路面変化度ΔRSが閾値TH以下である場合(ステップS220;Yes)、当該位置は通常位置PNであり、処理はステップS230に進む。一方、ある位置の路面変化度ΔRSが閾値THを超えている場合(ステップS220;No)、当該位置は特定位置PSであり、処理はステップS240に進む。
【0105】
5-2-3.ステップS230(第1マップ更新処理)
ステップS230において、マップ管理システム100は、通常位置PNに対して「第1マップ更新処理」を行う。具体的には、通常位置PNに関して、マップ管理システム100は、第1走行回数N1のマップ更新用情報に基づいてばね下変位マップ200を更新する。第1走行回数N1のマップ更新用情報は、少なくとも最新のマップ更新用情報を含む。
【0106】
その通常位置PNのマップ更新用情報が初めて得られた場合、第1走行回数N1は“1”である。過去に同じ通常位置PNのマップ更新用情報が得られていた場合、第1走行回数N1は2以上である。但し、第1走行回数N1には第1上限値MAX1が設けられる。つまり、第1走行回数N1は、第1上限値MAX1を超えない整数である。第1上限値MAX1は、2以上である。例えば、第1上限値MAX1は“10”である。
【0107】
第1上限値MAX1が設けられるため、最新のマップ更新用情報の寄与度はある程度確保される。これにより、路面の経時変化が適切にばね下変位マップ200に反映されることになる。
【0108】
5-2-4.ステップS240(第2マップ更新処理)
ステップS240において、マップ管理システム100は、特定位置PSに対して「第2マップ更新処理」を行う。具体的には、特定位置PSに関して、マップ管理システム100は、第2走行回数N2のマップ更新用情報に基づいてばね下変位マップ200を更新する。第2走行回数N2のマップ更新用情報は、少なくとも最新のマップ更新用情報を含む。
【0109】
第2走行回数N2には第2上限値MAX2が設けられる。つまり、第2走行回数N2は、第2上限値MAX2を超えない整数である。第2上限値MAX2は、上述の第1上限値MAX1よりも小さい。
【0110】
例えば、第2上限値MAX2は“1”に設定される。この場合、マップ管理システム100は、最新のマップ更新用情報だけに基づいて、特定位置PSに関するばね下変位マップ200を更新する。これにより、特定位置PSのマップデータが最も早くリフレッシュされる。
【0111】
但し、路面変化度ΔRSの誤判定が発生する可能性もある。路面変化度ΔRSの誤判定が発生し、且つ、第2上限値MAX2が“1”である場合、誤ったばね下変位Zuでばね下変位マップ200が上書きされてしまう。つまり、ばね下変位マップ200が誤って完全にリフレッシュされてしまう。
【0112】
そこで、他の例として、第2上限値MAX2は敢えて2以上に設定されてもよい。この場合、上述の第1上限値MAX1は3以上である。例えば、第1上限値MAX1は“10”であり、第2上限値MAX2は“5”である。第2上限値MAX2が2以上である場合、最新のマップ更新用情報だけでなく、過去のマップ更新用情報の影響もある程度残る。よって、仮に路面変化度ΔRSの誤判定が発生したとしても、ばね下変位マップ200が完全にリフレッシュされることが防止される。言い換えれば、リフレッシュ速度と誤判定耐性を両立させることが可能となる。
【0113】
第2マップ更新処理(ステップS240)の変形例として、最新のマップ更新用情報は、1回分のマップ更新用情報ではなく、複数回のマップ更新用情報とみなされてもよい。この場合、第2上限値MAX2は第1上限値MAX1と同じであってもよい。
【0114】
いずれの例であっても、特定位置PSに対する第2マップ更新処理は、通常位置PNに対する第1マップ更新処理と比較して、最新のマップ更新用情報の寄与度を増加させ、過去のマップ更新用情報の寄与度を低下させている。従って、特定位置PSのマップデータが素早くリフレッシュされる。言い換えれば、路面変化がばね下変位マップ200に効率的に反映される。
【0115】
5-2-5.ステップS250
ステップS250において、マップ管理システム100は、ばね下変位マップ200中の特定位置PSのばね下変位Zuに対して「路面変化フラグ」をONする。
【0116】
5-3.車両制御
ばね下変位マップ200を利用して車両制御を行う際、車両制御システム10は、ばね下変位マップ200から対象位置のばね下変位Zuを取得する。例えば、上述のプレビュー制御の場合、対象位置は、プレビュー時間tp後の車輪2の予測通過位置Pfである(
図12、
図13参照)。
【0117】
対象位置が上記の特定位置PSである場合、路面変化フラグがONになっている。この場合、車両制御システム10は、ばね下変位マップ200を利用した車両制御を通常よりも弱くしてもよい。例えば、車両制御システム10は、プレビュー制御におけるゲインα、β(式(3)、(4)参照)を通常よりも下げる。また、路面変化の影響を受けやすい高周波成分を除去するために、ばね下変位Zuにローパスフィルタを掛けてもよい。車両制御システム10は、フィードバック制御に基づく周知の制振制御のゲインを通常より大きく設定してもよい。
【0118】
5-4.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、同一位置に関して、最新のマップ更新用情報と過去のマップ更新用情報に基づいてばね下変位マップ200が更新される。路面変化度ΔRSの大きい特定位置PSに関しては、最新のマップ更新用情報の寄与度が増加し、過去のマップ更新用情報の寄与度が低下する。従って、路面変化度ΔRSの大きい特定位置PSのマップデータ(ばね下変位Zu)が素早くリフレッシュされる。言い換えれば、路面変化がばね下変位マップ200に効率的に反映される。その結果、ばね下変位マップ200を利用したプレビュー制御等の車両制御の精度の低下が抑制される。すなわち、本実施の形態によれば、路面変化に対して適切に対応することが可能となる。
【0119】
車両制御の精度低下が抑制されることは、不必要な車両制御が行われないことを意味する。不必要な車両制御が行われないため、エネルギー消費が抑制される。また、部品耐久性が向上する。更に、アクチュエータ3Aやプロセッサ71といった部品の発熱も抑制される。
【符号の説明】
【0120】
1 車両
2 車輪
3 サスペンション
3A アクチュエータ
10 車両制御システム
20 車両状態センサ
30 認識センサ
40 位置センサ
50 通信装置
60 走行装置
70 制御装置
80 車両制御プログラム
90 運転環境情報
93 周辺状況情報
94 位置情報
100 マップ管理システム
110 通信装置
120 プロセッサ
130 記憶装置
140 マップ管理プログラム
200 ばね下変位マップ
210 第1ばね下変位マップ
220 第2ばね下変位マップ
Zu ばね下変位
Zu_d 検出ばね下変位
Zu_ref 参照ばね下変位
ΔRS 路面変化度