(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 43/00 20060101AFI20241217BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20241217BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20241217BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20241217BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20241217BHJP
F02D 23/02 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F02D43/00 301J
F02D41/04
F02D41/34
F02D13/02 B
F02D13/02 H
F02D13/02 J
F02D23/00 K
F02D23/02 K
F02D43/00 301Z
(21)【出願番号】P 2021158795
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 理人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 元浩
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝宏
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/080362(WO,A1)
【文献】特開2016-133044(JP,A)
【文献】特開2000-248950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0037306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、過給機とを含み、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブおよび吸気バルブを同時に開弁させることができる内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の温度が低いときに前記温度が高いときに比べて小さくなるように大気圧に基づいて閾値を設定し、前記内燃機関の吸気圧が前記閾値以上であり、かつ前記排気バルブおよび前記吸気バルブの開弁期間がオーバーラップしているときに、前記ポート噴射弁からの燃料噴射を前記排気バルブの閉弁後に開始させる内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポート噴射弁および過給機を含む内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポート噴射弁および過給機を含むエンジンの制御装置として、燃焼ガスの掃気効率や吸気の体積効率を改善させるために、排気行程から吸気行程への移行に際して、吸気バルブの開弁状態と排気バルブの開弁状態とを重複させるバルブオーバーラップ期間を設定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この制御装置は、エンジンの温度が予め定められた閾値温度(例えば、60℃)未満であり、かつ吸気圧が予め定められた閾値吸気圧(例えば、130kPa)以上であるときに、燃料噴射の開始から終了までの全期間が吸気行程期間前半に収まるようにする。これにより、吸気ポートから流入した混合気が直接的に排気ポートへと通り抜ける吹き抜け現象の発生を抑制して、エミッションの悪化を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記エンジンでは、エンジンの温度が閾値温度未満であっても、吸気圧が一定の閾値吸気圧未満であるときには、排気行程でポート噴射弁から燃料が噴射されることがあり、吹き抜け現象の発生を良好に抑制し得なくなってエミッションが悪化してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブおよび吸気バルブを同時に開弁させることができる内燃機関において、吹き抜け現象によるエミッションの悪化を良好に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内燃機関の制御装置は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、過給機とを含み、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブおよび吸気バルブを同時に開弁させることができる内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の温度が低いときに前記温度が高いときに比べて小さくなるように大気圧に基づいて閾値を設定し、前記内燃機関の吸気圧が前記閾値以上であり、かつ前記排気バルブおよび前記吸気バルブの開弁期間がオーバーラップしているときに、前記ポート噴射弁からの燃料噴射を前記排気バルブの閉弁後に開始させるものである。
【0007】
本開示の内燃機関の制御装置は、内燃機関の温度が低いときに当該内燃機関の温度が高いときに比べて小さくなるように大気圧に基づいて閾値を設定する。そして、内燃機関の吸気圧が当該閾値以上であり、かつ排気バルブおよび吸気バルブの開弁期間がオーバーラップしているときに、ポート噴射弁からの燃料噴射を排気バルブの閉弁後に開始させる。このように、吸気圧と比較される閾値を大気圧に基づいて設定することで、過給機の作動中に排気バルブおよび吸気バルブが同時に開弁されるときや、大気圧の低い高地等においてエンジンの負荷が比較的低い段階から過給機が作動させられたときに、排気バルブの閉弁後にポート噴射弁から燃料を噴射させて、排気バルブおよび吸気バルブの開弁期間がオーバーラップしているときの混合気の吹き抜けを良好に抑制することが可能となる。更に、当該閾値を内燃機関の温度が低いときに当該温度が高いときに比べて小さくなるように設定することで、燃料噴射量が増量補正されることがある低温時の吹き抜け現象の発生を抑制しつつ、ポート噴射弁からの燃料噴射を許容して内燃機関の出力低下を抑制することができる。この結果、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブおよび吸気バルブを同時に開弁させることができる内燃機関において、吹き抜け現象によるエミッションの悪化を極めて良好に抑制することが可能となる。
【0008】
また、前記閾値は、前記大気圧にオフセット値を加算して設定されてもよく、前記オフセット値は、前記内燃機関の温度が所定温度以上であるときにゼロに設定されると共に、前記内燃機関の温度が前記所定温度未満であるときに前記内燃機関の温度が低いほど小さくなる負の値に設定されてもよい。これにより、低温時における吹き抜け現象の発生を極めて良好に抑制することが可能となる。
【0009】
更に、前記内燃機関は、前記ポート噴射弁に加えて、燃焼室内に前記燃料を直接噴射する筒内噴射弁を含むものであってもよく、前記過給機を作動させる過給域では、前記ポート噴射弁および前記筒内噴射弁の双方から前記燃料を噴射させてもよい。これにより、筒内噴射弁に燃料を加圧して供給する燃料ポンプの負担を低減してコストアップを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の内燃機関の制御装置により制御される内燃機関を例示する概略構成図である。
【
図2】本開示の内燃機関の制御装置を示すブロック図である。
【
図3】本開示の内燃機関の制御装置による内燃機関の制御手順を説明するための説明図である。
【
図4】本開示の内燃機関の制御装置による内燃機関の制御手順を示すフローチャートである。
【
図5】オフセット値設定マップを例示する説明図である。
【
図6】
図4のルーチンが実行されるときの排気バルブ、吸気バルブおよびポート噴射弁の作動状態を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
図1は、本開示の制御装置としてのエンジン電子制御装置(以下、「エンジンECU」という。)100により制御される内燃機関であるエンジン10を例示する概略構成図である。同図に示すエンジン10は、エンジンブロック11に形成された複数の燃焼室12における炭化水素系燃料と空気との混合気の燃焼に伴うピストン13の往復運動をクランクシャフト(出力軸)14の回転運動へと変換する例えば直列型のガソリンエンジンであり、車両に搭載される。
図1に示すように、エンジン10は、エンジンブロック11、複数の燃焼室12、ピストン13およびクランクシャフト14に加えて、エアクリーナ15と、吸気管16と、電子制御式のスロットルバルブ17と、サージタンク18と、それぞれ対応する吸気ポートを開閉する複数の吸気バルブ19iと、それぞれ対応する排気ポートを開閉する排気バルブ19eと、吸気バルブ19iおよび排気バルブ19eの開弁時期やリフト量等を変化させる可変動弁機構(可変バルブタイミング機構)190と、それぞれ複数のポート噴射弁20pおよび筒内噴射弁20dと、複数の点火プラグ21と、排気通路を形成する排気管22とを含む。
【0013】
また、エンジン10は、排ガス浄化装置として、それぞれ排気管22に組み込まれた上流側浄化装置23および下流側浄化装置24を含む。上流側浄化装置23は、エンジン10の各燃焼室12からの排ガス中のCO(一酸化炭素)やHC、NOxといった有害成分を浄化するNOx吸蔵型の排ガス浄化触媒(三元触媒)230を含むものである。また、下流側浄化装置24は、排ガス中の粒子状物質(微粒子)を捕集するパティキュレートフィルタ(GPF)240を含み、上流側浄化装置23の下流側に配置される。本実施形態において、パティキュレートフィルタ240は、NOx吸蔵型の排ガス浄化触媒(三元触媒)を担時した多孔質フィルタである。すなわち、下流側浄化装置24は、三元触媒の浄化機能と粒子状物質の捕集機能とを有する四元触媒として構成されている。
【0014】
更に、エンジン10は、エンジンブロック11等を冷却するための冷媒循環通路25と、電動ポンプ26と、ラジエータ27とを含む。電動ポンプ26は、冷媒循環通路25で冷却水(LLC)を循環させる。ラジエータ27は、走行風や図示しない電動ファンからの空気との熱交換によりエンジンブロック11等から熱を奪った冷却水を冷却する。また、冷媒循環通路25には、水温センサ25tが設置されている。水温センサ25tは、エンジンブロック11から熱を奪った(流出した)冷却水の水温Twを検出する。
【0015】
加えて、エンジン10は、排ガスのエネルギを利用して吸入空気を圧縮する過給機30と、当該過給機30により圧縮された空気を冷却する液冷式のインタークーラ39とを含む。過給機30は、
図1に示すように、タービンホイール31と、コンプレッサホイール32と、タービンホイール31およびコンプレッサホイール32を一体に連結するタービンシャフト33と、ウェイストゲートバルブ34と、ブローオフバルブ35とを含むターボチャージャである。タービンホイール31は、上流側浄化装置23の上流側に位置するように排気管22に形成されたタービンハウジング220内に回転自在に配置される。また、コンプレッサホイール32は、エアクリーナ15とスロットルバルブ17との間に位置するように吸気管16に形成されたコンプレッサハウジング160内に回転自在に配置される。
【0016】
タービンシャフト33は、タービンハウジング220およびコンプレッサハウジング160の間で両者に固定されるベアリングハウジング300内に回転自在に配置される。ベアリングハウジング300は、図示しないベアリングを保持しており、当該ベアリングを介してタービンシャフト33を回転自在に支持する。また、ベアリングハウジング300内には、タービンシャフト33やベアリング等を潤滑・冷却する潤滑油を流通させるための油路と、ベアリングハウジング300内を冷却するための冷媒通路とが形成されている(何れも図示省略)。ベアリングハウジング300内の油路には、エンジン10により駆動される図示しない機械式オイルポンプからの作動油を調圧する油圧制御装置(図示省略)から潤滑油としての作動油が供給される。また、ベアリングハウジング300内の冷媒通路には、インタークーラ39に冷却水を循環させる図示しない冷却系統からの冷却水が供給される。
【0017】
過給機30のウェイストゲートバルブ34は、流量制御弁であり、
図1に示すように、タービンハウジング220(タービンホイール31)を迂回するように排気管22に接続されたバイパス管225に設置されている。かかるウェイストゲートバルブ34の開度を調節することで、バイパス管165を流通する排ガスの量とタービンホイール31およびコンプレッサホイール32を回転させる排ガスの量との比を変化させることができる。すなわち、過給機30では、ウェイストゲートバルブ34の開度の調節によりエンジン10の吸気圧Pinを調節することが可能である。また、ウェイストゲートバルブ34を全開にすることで、過給機30(コンプレッサホイール32)による吸入空気の圧縮を実質的に停止させることができる。
【0018】
過給機30のブローオフバルブ35は、
図1に示すように、コンプレッサハウジング160(コンプレッサホイール32)を迂回するように吸気管16に接続されたバイパス管165に設置されている。かかるブローオフバルブ35を開弁させることで、吸気管16のコンプレッサホイール32とスロットルバルブ17との間における圧力(余剰圧力)を解放することができる。これにより、スロットルバルブ17の応答性の悪化やサージングの発生を抑制することが可能となる。なお、ブローオフバルブ35は、コンプレッサホイール32の下流側における圧力が上流側における圧力よりも所定値以上高くなると開弁する逆止弁であってもよい。
【0019】
エンジン10を制御するエンジンECU100は、図示しないCPU,ROM,RAM、入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータや、各種駆動回路、各種ロジックIC等を含む。また、エンジンECU100は、
図2に示すように、クランク角センサ14aやエアフローメータ16a、圧力センサ16p、過給圧センサ16c、温度センサ16t、スロットル開度センサ17o、吸気圧センサ18p、温度センサ18t、上流側空燃比センサ22f、下流側空燃比センサ22r、排ガス温度センサ22t、水温センサ25t、外気温センサ28、大気圧センサ29等の検出値を図示しない入力ポートを介して取得する。
【0020】
クランク角センサ14aは、クランクシャフト14の回転位置(クランクポジション)を検出する。エアフローメータ16aは、吸気管16のコンプレッサホイール32の上流側で吸入空気量Qaを検出する。圧力センサ16pは、吸気管16のコンプレッサホイール32の上流側における空気の圧力Ppを検出する。温度センサ16tは、吸気管16のコンプレッサホイール32の上流側で空気の温度Tpを検出する。過給圧センサ16cは、吸気管16のコンプレッサハウジング160とインタークーラ39との間でコンプレッサホイール32により圧縮された空気の圧力である過給圧Pcを検出する。スロットル開度センサ17oは、スロットルバルブ17の開度THを検出する。吸気圧センサ18pは、各燃焼室12に吸入されることになるサージタンク18内の空気の圧力である吸気圧Pinを検出し、温度センサ18tは、各燃焼室12に吸入されることになるサージタンク18内の空気の温度である吸気温度Tinを検出する。上流側空燃比センサ22fは、上流側浄化装置23の上流側で当該上流側浄化装置23に流入する排ガスの空燃比である上流側空燃比AFfを検出し、下流側空燃比センサ22rは、上流側浄化装置23の下流側で下流側浄化装置24に流入する排ガスの空燃比である下流側空燃比AFrを検出する。排ガス温度センサ22tは、排気管22の上流側浄化装置23と下流側浄化装置24との間の部分を流通する排ガスの温度Tegを検出する。
【0021】
エンジンECU100は、クランク角センサ14aからのクランクポジションに基づいてエンジン10(クランクシャフト14)の回転数Neを算出すると共に、エアフローメータ16aからの吸入空気量Qaとエンジン10の回転数Neとに基づいて負荷率KLを算出する。負荷率KLは、エンジン10の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクル中に実際に吸入される空気の容積の割合である。また、エンジンECU100は、アクセル開度Accおよび回転数Neに基づいて、負荷率KLの要求値である要求負荷率KL*を算出すると共に、要求負荷率KL*に基づいてスロットルバルブ17の目標開度TH*を設定する。そして、エンジンECU100は、回転数Neや、要求負荷率KL*、目標開度TH*等に基づいて、スロットルバルブ17や、可変動弁機構190、それぞれ複数のポート噴射弁20pおよび筒内噴射弁20d、複数の点火プラグ21等を制御する。更に、エンジンECU100は、負荷率KLや要求負荷率KL*等に基づいて、過給機30のウェイストゲートバルブ34およびブローオフバルブ35、電動ポンプ26、過給機30の冷却系統に含まれる図示しない電動ポンプ等を制御する。
【0022】
また、エンジンECU100は、
図3に示すように、負荷率KLが比較的小さい所定値以下であるときに、筒内噴射弁20dのみから各燃焼室12内に燃料を直接噴射させ、負荷率KLが当該所定値を上回っているときに、筒内噴射弁20dから各燃焼室12内に燃料を噴射させると共にポート噴射弁20pから吸気ポートに燃料を噴射させる。本実施形態において、エンジンECU100は、筒内噴射弁20dおよびポート噴射弁20pの双方から燃料を噴射させる際に、筒内噴射弁20dの燃料噴射量(筒内噴射量)がポート噴射弁20pの燃料噴射量よりも多く(例えば、筒内噴射量:ポート噴射量=8:2)なるように、筒内噴射弁20dおよびポート噴射弁20pを制御する。従って、
図3に示すように、過給機30を作動させる過給域では、筒内噴射弁20dおよびポート噴射弁20pの双方から燃料が噴射される。このように、負荷率KLが所定値を上回っているときに、筒内噴射弁20dおよびポート噴射弁20pの双方から燃料を噴き分けることで、筒内噴射弁20dに燃料を加圧して供給する図示しない燃料ポンプの負担を低減することができるので、当該燃料ポンプの系統削減等によりコストアップを抑制することが可能となる。
【0023】
更に、エンジンECU100は、回転数Neおよび負荷率KLが
図3に示すスカベンジング領域(図中、網掛け部参照)に含まれるときに、排気行程から吸気行程への移行に際して、排気バルブ19eと吸気バルブ19iとを同時に開弁させて両者の開弁期間をオーバーラップさせるように可変動弁機構190を制御する。これにより、エンジン10の吸気側と排気側との間に生じる差圧を利用したスカベンジングにより燃焼室12に残留する残留ガスを排気管22へと掃気し、吸入空気の充填効率を向上させたり、エンジン10の回転数Neが低いときに過給機30におけるターボラグの発生を抑えたりすることが可能となる。
【0024】
ここで、本実施形態のエンジン10では、
図3に示すように、回転数Neが比較的低い状態で過給機30が作動させられるときに、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブ19eと吸気バルブ19iとが同時に開弁されると共に、筒内噴射弁20dのみならずポート噴射弁20pからも燃料が噴射される。このため、何ら対策を施さなければ、回転数Neが比較的低い状態で過給機30が作動させられるときに、吸気ポートから混合気が直接的に排気管22へと流入する吹き抜け現象が発生し、エンジン10のエミッションが悪化してしまうおそれがある。また、エンジン10を搭載した車両が大気圧の低い高地を走行する際には、エンジン10の実吸入空気量の減少により出力トルクが低下する。このため、平地走行時に比べてエンジン10への要求負荷率KL*が比較的低い段階から過給機30が作動させられ、その際に、排気バルブ19eと吸気バルブ19iとが同時に開弁された状態でポート噴射弁20pから燃料が噴射されると、上記吹き抜け現象が発生してしまうおそれがある。これを踏まえて、エンジンECU100は、スカベンジング領域における吹き抜け現象の発生を抑制するために、エンジン10の運転中に
図4に示すルーチンを所定時間おきに繰り返し実行する。
【0025】
図4のルーチンの開始に際して、エンジンECU100は、吸気圧センサ18pにより検出された吸気圧Pinや、大気圧センサ29により検出された大気圧Pa、水温センサ25tにより検出された冷却水の水温Twを取得する(ステップS100)。なお、吸気圧Pinは、吸気圧センサ18pにより検出されるものには限られず、例えば、エンジン10の回転数Ne、負荷率KL、吸気温度Tin等に基づいて推定されたものであってもよい。
【0026】
次いで、エンジンECU100は、オフセット値αを設定する(ステップS110)。本実施形態では、
図5に示すように、エンジン10の温度を示す水温Twとオフセット値αとの関係を規定するオフセット値設定マップが予め用意されており、ステップS110において、エンジンECU100は、当該オフセット値設定マップからステップS100にて取得した水温Twに対応した値を導出してオフセット値αに設定する。オフセット値設定マップは、
図5に示すように、水温Twが所定温度(本実施形態では、例えば、80℃)以上であるときにオフセット値αをゼロに設定すると共に、水温Twが当該所定温度未満であるときに水温Twの低下に応じて比例して小さくなる負の値に設定するように作成されている。
【0027】
エンジンECU100は、ステップS110の処理の後、ステップS100にて取得した大気圧Paにオフセット値αを加算して閾値Prefを設定し(ステップS120)、ステップS100にて取得した吸気圧Pinが閾値Pref以上であるか否かを判定する(ステップS130)。エンジンECU100は、吸気圧Pinが閾値Pref未満であると判定した場合(ステップS130:NO)、以降の処理を実行することなく、
図4のルーチンを一旦終了させる。
【0028】
これに対して、吸気圧Pinが閾値Pref以上であると判定した場合(ステップS130:YES)、エンジンECU100は、クランクシャフト14の回転位置(クランク角)等に基づいて排気バルブ19eと吸気バルブ19iとのバルブオーバーラップ量(オーバーラップ角)θを算出し(ステップS140)、算出したバルブオーバーラップ量θがゼロ(°)以上であるか否かを判定する(ステップS150)。そして、エンジンECU100は、バルブオーバーラップ量θがゼロ以上であると判定した場合(ステップS150:YES)、各排気バルブ19eの閉弁後に対応するポート噴射弁20pからの燃料噴射が開始されるように各ポート噴射弁20pの噴射時期の進角ガード値(進角限界)を設定し(ステップS160)、
図4のルーチンを一旦終了させる。一方、バルブオーバーラップ量θがゼロ未満であると判定した場合(ステップS150:NO)、エンジンECU100は、ステップS160の処理を実行することなく、
図4のルーチンを一旦終了させる。
【0029】
以上説明したように、エンジン10を制御するエンジンECU100は、エンジン10の温度を示す水温Twが低いときに当該水温Twが高いときに比べて小さくなるように大気圧センサ29により検出された大気圧Paに基づいて閾値Prefを設定する(ステップS110-S120)。更に、エンジン10の吸気圧Pinが当該閾値Pref以上であり(ステップS130:YES)、かつ排気バルブ19eおよび吸気バルブ19iの開弁期間がオーバーラップしているときに(ステップS150:YES)、上記進角ガード値の設定により(ステップS160)、
図6に示すように、ポート噴射弁20pからの燃料噴射を排気バルブ19eの閉弁後に開始させる。
【0030】
このように、吸気圧Pinと比較される閾値Prefを大気圧Paに基づいて設定することで(ステップS110-S120)、回転数Neが比較的低い状態で過給機30が作動させられるときに、筒内噴射弁20dに加えてポート噴射弁20pから燃料が噴射され、かつ排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブ19eと吸気バルブ19iとが同時に開弁されても、吹き抜け現象が発生するのを良好に抑制することが可能となる。また、大気圧Paの低い高地等においてエンジン10の負荷(要求負荷率KL*)が比較的低い段階から過給機30が作動させられたときにも、排気バルブ19eの閉弁後にポート噴射弁20pから燃料を噴射させることができる。これにより、排気バルブ19eおよび吸気バルブ19iの開弁期間がオーバーラップしているときの混合気の吹き抜けを良好に抑制することが可能となる。更に、閾値Prefをエンジン10の温度が低いときに当該温度が高いときに比べて小さくなるように設定することで(ステップS110-S120、
図5)、暖機等のために燃料噴射量が増量補正されることがある低温時の吹き抜け現象の発生を抑制しつつ、ポート噴射弁20pからの燃料噴射を許容してエンジン10の出力低下を抑制することができる。この結果、排気行程から吸気行程への移行に際して排気バルブ19eおよび吸気バルブ19iを同時に開弁させることができるエンジン10において、吹き抜け現象によるエミッションの悪化を極めて良好に抑制することが可能となる。
【0031】
また、エンジンECU100は、大気圧Paにオフセット値を加算して閾値Prefを設定すると共に、エンジン10の温度が所定温度以上であるときにオフセット値αをゼロに設定し、水温Tw(エンジン10の温度)が当該所定温度未満であるときに閾値Prefを水温Twが低いほど小さくなる負の値に設定する(ステップS110-S120)。これにより、低温時における吹き抜け現象の発生を極めて良好に抑制することが可能となる。
【0032】
更に、エンジンECU100は、過給機30を作動させる過給域において、筒内噴射弁20dおよびポート噴射弁20pの双方から燃料を噴射させる(
図5参照)。これにより、筒内噴射弁20dに燃料を加圧して供給する燃料ポンプの負担を低減してコストアップを抑制することが可能となる。ただし、本開示の発明が、過給域において筒内噴射弁20dのみから燃料が噴射されるエンジンに適用され得ることはいうまでもない。
【0033】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示の発明は、内燃機関の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 エンジン(内燃機関)、11 エンジンブロック、12 燃焼室、13 ピストン、14 クランクシャフト、14a クランク角センサ、15 エアクリーナ、16 吸気管、16a エアフローメータ、16c 過給圧センサ、16p 圧力センサ、16t 温度センサ、160 コンプレッサハウジング、165 バイパス管、17 スロットルバルブ、17o スロットル開度センサ、18 サージタンク、18p 吸気圧センサ、18t 温度センサ、19e 排気バルブ、19i 吸気バルブ、190 可変動弁機構、20d 筒内噴射弁、20p ポート噴射弁、21 点火プラグ、22 排気管、220 タービンハウジング、225 バイパス管、240 パティキュレートフィルタ、22f 上流側空燃比センサ、22r 下流側空燃比センサ、22t 排ガス温度センサ、23 上流側浄化装置、24 下流側浄化装置、25 冷媒循環通路、25t 水温センサ、26 電動ポンプ、27 ラジエータ、28 外気温センサ、29 大気圧センサ、30 過給機、31 タービンホイール、32 コンプレッサホイール、33 タービンシャフト、34 ウェイストゲートバルブ、35 ブローオフバルブ、39 インタークーラ、300 ベアリングハウジング、100 ECU(エンジン電子制御装置)。