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特許7605083サイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20241217BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20241217BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/2338
B60N2/427
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021169794
(22)【出願日】2021-10-15
(65)【公開番号】P2023059670
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠登
(72)【発明者】
【氏名】河村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】荒井 佑太
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第8469395(US,B2)
【文献】国際公開第2021/149576(WO,A1)
【文献】特開平9-136595(JP,A)
【文献】特開2015-209087(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180539(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3点式のシートベルトを用いて乗員が拘束されるシート本体と、
車両の側面衝突が検知又は予知された場合にガスを発生させるインフレータと、
前記シート本体のシートバックにおける車両幅方向外側の側部から肩口を経て上端部に沿って折り畳み状態で収納され、前記インフレータからガスを供給される胴部チャンバが前記側部から乗員の胴部と車体側部との間に膨張展開し、前記胴部チャンバを介してガスを供給される頭部チャンバが前記上端部から乗員の頭部と前記シートベルトのショルダベルトとの間に膨張展開するサイドエアバッグと、
前記側部において前記シートバックの表皮とサイドフレームとを連結し、前記胴部チャンバの膨張圧を前記表皮に伝えて前記表皮を開裂させる下方力布と、
前記上端部において前記シートバックの表皮とアッパフレームとを連結し、前記頭部チャンバの膨張圧を前記表皮に伝えて前記表皮を開裂させる上方力布と、
を備えたサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート。
【請求項2】
前記上方力布は、前記表皮に設けられたティアシームに一端部が共縫いされ、前記アッパフレームに他端部が固定されている請求項1に記載のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート。
【請求項3】
前記上方力布は、前記シートバックの前記上端部に収納された前記頭部チャンバを囲むようにループ状をなしている請求項2に記載のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート。
【請求項4】
前記上方力布は、前記下方力布に比べて伸び難く構成されている請求項1~請求項3の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両用シートの安全装置では、車両用シートの背もたれが、少なくとも1つの横方向領域と、ヘッドレストが延び出す上部領域とを有している。この背もたれには、少なくとも1つのインフレータとサイドエアバッグを備えたサイドエアバッグ装置が搭載されている。サイドエアバッグは、胸部セクションと頭部セクションとを有しており、胸部セクションにガスジェネレータ(インフレータ)が収容されている。インフレータが作動すると、胸部セクションは、背凭れの側部領域から膨張展開し、頭部セクションは、ヘッドレストの横で背もたれの上部領域から膨張展開する。頭部セクションと胸部セクションとは、別々の袋体により構成されており、管状の充填セクション等を介して接続されている。これにより、頭部セクションが胸部セクションに対して車両幅方向内側(すなわち乗員の頭部側)にずれて膨張展開するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8469395号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、頭部セクションがシートベルトのショルダベルトと乗員の頭部との間に膨張展開するので、頭部セクションによって頭部を早期に拘束することができる。しかしながら、インフレータが胴部チャンバに収容されている構造上、胴部チャンバが膨張した後に頭部チャンバが遅れて膨張する。頭部チャンバの初期の膨張圧(内圧)は、胴部チャンバの初期の膨張圧に比して低くなるため、頭部チャンバの膨張領域でのシートバック表皮の開裂に遅れが生じる。その結果、頭部チャンバの膨張展開が遅れる可能性が考えられる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ショルダベルトと乗員頭部との間への頭部チャンバの膨張展開に遅れが生じることを抑制できるサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートは、3点式のシートベルトを用いて乗員が拘束されるシート本体と、車両の側面衝突が検知又は予知された場合にガスを発生させるインフレータと、前記シート本体のシートバックにおける車両幅方向外側の側部から肩口を経て上端部に沿って折り畳み状態で収納され、前記インフレータからガスを供給される胴部チャンバが前記側部から乗員の胴部と車体側部との間に膨張展開し、前記胴部チャンバを介してガスを供給される頭部チャンバが前記上端部から乗員の頭部と前記シートベルトのショルダベルトとの間に膨張展開するサイドエアバッグと、前記側部において前記シートバックの表皮とサイドフレームとを連結し、前記胴部チャンバの膨張圧を前記表皮に伝えて前記表皮を開裂させる下方力布と、前記上端部において前記シートバックの表皮とアッパフレームとを連結し、前記頭部チャンバの膨張圧を前記表皮に伝えて前記表皮を開裂させる上方力布と、を備えている。
【0007】
第1の態様では、3点式のシートベルトを用いて乗員がシート本体に拘束される。車両の側面衝突が検知又は予知された場合、インフレータからガスが発生し、サイドエアバッグに供給される。サイドエアバッグは、シート本体のシートバックにおける車両幅方向外側の側部から肩口を経て上端部に沿って折り畳み状態で収納されている。サイドエアバッグの胴部チャンバは、インフレータからガスを供給され、シートバックの側部から乗員の胴部と車体側部との間に膨張展開する。サイドエアバッグの頭部チャンバは、胴部チャンバを介してガスを供給され、シートバックの上端部から乗員の頭部とシートベルトのショルダベルトとの間に膨張展開する。
【0008】
この態様では、シートバックの側部においてシートバックの表皮とサイドフレームとが下方力布により連結されると共に、シートバックの上端部においてシートバックの表皮とアッパフレームとが上方力布により連結されている。下方力布は、胴部チャンバの膨張圧をシートバックの表皮に伝えて該表皮を開裂させる。上方力布は、頭部チャンバの膨張圧をシートバックの表皮に伝えて該表皮を開裂させる。この上方力布が追加されることにより、ショルダベルトと乗員頭部との間への頭部チャンバの膨張展開に遅れが生じることを抑制できる。
【0009】
第2の態様のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートは、第1の態様において、前記上方力布は、前記表皮に設けられたティアシームに一端部が共縫いされ、前記アッパフレームに他端部が固定されている。
【0010】
第2の態様では、上方力布の一端部は、シートバックの表皮に設けられたティアシームに共縫いされ、上方力布の他端部は、シートバックのアッパフレームに固定されている。これにより、頭部チャンバの膨張圧を簡単な構成で上記のティアシームに集中させることができ、ティアシームを早期に開裂させることができる。
【0011】
第3の態様のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートは、第2の態様において、前記上方力布は、前記シートバックの前記上端部に収納された前記頭部チャンバを囲むようにループ状をなしている。
【0012】
第3の態様では、シートバックの上端部に収納された頭部チャンバが、ループ状をなす上方力布によって囲まれている。これにより、頭部チャンバの膨張展開がループ状の上方力布によって案内されるため、頭部チャンバの展開挙動の安定に寄与する。
【0013】
第4の態様のサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様において、前記上方力布は、前記下方力布に比べて伸び難く構成されている。
【0014】
第4の態様では、上方力布が下方力布に比べて伸び難く構成されているので、上方力布を介して頭部チャンバの膨張圧をシートバックの表皮に良好に伝達することができ、シートバック表皮の開裂を早めることができる。その結果、頭部チャンバの膨張展開を早期化することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係るサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートでは、ショルダベルトと乗員頭部との間への頭部チャンバの膨張展開に遅れが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る車両用シートにおけるサイドエアバッグの膨張展開完了状態を示す正面図である。
図2】実施形態に係る車両用シートにおけるサイドエアバッグの膨張展開完了状態を示す側面図である。
図3】サイドエアバッグの平面展開図である。
図4図3のF4-F4線に沿った切断面を拡大して示す拡大断面図である。
図5】実施形態に係る車両用シートを示す正面図であり、シートバックの内部を透視した状態を示す図である。
図6】実施形態に係る車両用シートを示す正面図である。
図7図5のF7-F7線に沿った切断面を示す拡大断面図である。
図8】サイドエアバッグの膨張展開途中の状態を示す図7に対応した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、図1図8を参照して本発明の実施形態に係るサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート10(以下、単に「車両用シート10」と称する)について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方を示しており、矢印UPは車両上方を示しており、矢印LH(OUT)は車両左方(車両幅方向の外方)を示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。また、各図においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。
【0018】
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、3点式のシートベルト(ウエビング)32を用いて乗員が拘束されるシート本体12と、サイドエアバッグ装置40とを備えている。この車両用シート10は、一例として、右ハンドル車の運転席又は左ハンドル車の助手席とされており、車室内の右側に配置されている。この車両用シート10の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向は、車両の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向と一致している。この車両用シート10が車室内の左側に配置される場合、本実施形態とは左右対称の構成となる。
【0019】
シート本体12は、当該シート本体12に着座した乗員Pの臀部及び大腿部を支持するシートクッション14と、シートクッション14の後端部に連結されて乗員Pの背部を支持するシートバック16と、シートバック16の上端部に連結されて乗員Pの頭部Hを支持するヘッドレスト18と、を有している。
【0020】
なお、図1及び図2では、実際の乗員の代わりに衝突試験用のダミーPがシート本体12に着座している。このダミーPは、例えば、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy;WorldSID)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーPは、側面衝突試験法で規定される着座方法でシート本体12に着座している。このシート本体12の車両に対する前後位置、及びシートクッション14に対するシートバック16の傾斜角度は、上記の着座方法に対応した基準設定位置に調整されている。この状態では、シートバック16の前後左右上下の方向と車両の前後左右上下の方向とが一致している。
【0021】
シートバック16は、骨格部材であるシートバックフレーム20(図5図7及び図8参照)と、シートバックフレーム20に被せられたシートバックパッド22(図7及び図8参照)と、シートバックパッド22を覆ったシートバック表皮24(図1図2図5図8参照)と、を備えている。シートバックフレーム20は、例えば金属又は樹脂によって構成されており、図5に示されるように左右一対のサイドフレーム20Aと、左右のサイドフレーム20Aの上端部をシートバック16の左右方向に繋いだアッパフレーム20Bとを有している。シートバックパッド22は、例えばウレタンフォーム等の発泡体によって構成されている。シートバック表皮24は、例えば布材(織り物)、ニット材料(編み物)、合成皮革、皮革等からなる複数の表皮片が互いに縫製されて構成されている。シートバック表皮24は、本発明における「表皮」に相当する。
【0022】
上記のシート本体12に乗員Pを拘束するシートベルト32は、車両用シートベルト装置30の主要部を構成している。図1に示されるように、シートベルト32の長手方向一端部は、シート本体12に対する車両幅方向外側(ここでは右側)で車体フロア等に固定されたアンカプレート34に固定されている。シートベルト32の図示しない他端部は、車両のBピラーの下部等に配設された図示しないリトラクタの巻取軸に固定されている。シートベルト32の図示しない中間部は、Bピラーの上部等に配設された図示しないショルダアンカに挿通されて折り返されている。
【0023】
シートベルト32におけるショルダアンカからアンカプレート34までの間の部分には、タングプレート36が摺動可能に取り付けられている。このタングプレート36は、シート本体12に対する車両幅方向内側(ここでは左側)でシート本体12の下端部等に取り付けられたバックル装置38に連結される。これにより、乗員Pがシートベルト32を装着した状態となる。このシートベルト装着状態では、シートベルト32のうちショルダアンカとタングプレート36との間の部位であるショルダベルト32Aによって乗員Pの胸部及び腹部が拘束される。また、このシートベルト装着状態では、シートベルト32のうちタングプレート36とアンカプレート34との間の部位であるラップベルト32Bによって乗員Pの腰部が拘束される。
【0024】
シートバック16の車両幅方向外側の側部16Rには、サイドエアバッグ装置40の構成要素であるインフレータ44(図2参照)が配設されている。シートバック16の車両幅方向外側の側部16Rから肩口16Sを経て上端部16Uに亘る部分には、サイドエアバッグ装置40の構成要素であるサイドエアバッグ42が配設されている。図3及び図4に示されるように、サイドエアバッグ42は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材が切り出されて形成された2枚の基布BC1、BC2が互いに重ね合わされて外周縁部を縫製部S1において縫製されることにより袋状に形成されている。なお、サイドエアバッグ42の製造方法は上記に限らず適宜変更可能である。例えば1枚の基布が二つ折りにされてその外周縁部が縫製されることによりサイドエアバッグ42が製造される構成にしてもよい。また例えば、自動織機による袋織り工法(所謂OPW工法)によってサイドエアバッグ42が製造される構成にしてもよい。
【0025】
このサイドエアバッグ42は、単一の袋体として構成されており、長尺な袋状をなしている。サイドエアバッグ42の長手方向一端側は、乗員Pの頭部Hを拘束する頭部チャンバ42Aとされており、サイドエアバッグ42の長手方向他端側は、乗員Pの胴部B(ここでは胸部から腰部まで)を拘束する胴部チャンバ42Bとされている。頭部チャンバ42Aと胴部チャンバ42Bとの間には、ダクト状の括れ部(ダクト部)42Cが形成されている。このサイドエアバッグ42は、括れ部42Cにおいて括れている。
【0026】
サイドエアバッグ42の一方の長辺縁部からは、インフレータ接続部42Dが延出されている。インフレータ接続部42Dには、インフレータ44が接続されている。インフレータ44は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、円柱状に形成されている。図2に示されるように、インフレータ44は、軸線方向がシートバック16の高さ方向に沿う姿勢すなわち前下がりに傾斜した姿勢でシートバック16の車両幅方向外側の側部内に配置されており、シートバックフレーム20の車両幅方向外側のサイドフレーム20Aに固定されている。
【0027】
インフレータ44の下端部には、ガスの噴出部が設けられており、当該噴出部にサイドエアバッグ42のインフレータ接続部42Dが接続されている。このインフレータ44には、図2に示されるように、車両に搭載された側突ECU46が電気的に接続されている。この側突ECU46には、側面衝突を検知する側突センサ48が電気的に接続されている。側突ECU46は、側突センサ48からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した際にインフレータ44を起動させる構成になっている。
【0028】
インフレータ44が起動すると、インフレータ44の噴出部から胴部チャンバ42B内にガスが噴出する。胴部チャンバ42B内に供給されたガスは、括れ部42Cを通って頭部チャンバ42Aにも供給され、サイドエアバッグ42が膨張展開する。なお、側突ECU46に側面衝突を予知(予測)する衝突予知センサ(プリクラッシュセンサ)が電気的に接続されている場合には、衝突予知センサからの信号に基づいて側突ECU46が側面衝突を予知した際にインフレータ44が起動される構成にしてもよい。
【0029】
図5に示されるように、サイドエアバッグ42は、通常時にはシートバック16における車両幅方向外側の側部16Rから肩口16Sを経て上端部16Uに沿って折り畳み状態で収納されている。この折り畳み状態のサイドエアバッグ42では、胴部チャンバ42Bがシートバック16の側部16Rに配置され、括れ部42Cがシートバック16の肩口16Sに配置され、頭部チャンバ42Aがシートバック16の上端部16Uに配置される。この頭部チャンバ42Aは、シートバック16の上端部16Uにおいて、車両幅方向外側のヘッドレストサポート19の近傍にまで亘って収納されている。また、括れ部42Cは、シートバック16の肩口16Sに沿って曲がった状態に収納されている。
【0030】
図6に示されるように、シートバック表皮24には、シートバック16の車両幅方向外側の側部16Rから肩口16Sを経て上端部16Uに沿ってティアシームTSが設定されている。このティアシームTSは、下部ティアシームTS1と上部ティアシームTS2とによって構成されている。下部ティアシームTS1は、シートバック16の側部16Rにおいてシートバック16の高さ方向に延在している。上部ティアシームTSは、シートバック16の上端部16Uにおいてシートバック16の略左右方向に延在している。下部ティアシームTS1と上部ティアシームTS2との境界は、シートバック16の肩口16Sに設定されている。
【0031】
図7に示されるように、上部ティアシームTS2においては、シートバック表皮24の一部を構成する2枚の表皮片24A、24Bが互いに縫製されている。表皮片24Aは、シートバック16の上端部16Uの上面を構成しており、表皮片24Bは、シートバック16の側部16Rの前面の上部を構成している。断面での図示は省略するが、下部ティアシームTS1においては、シートバック表皮24の一部を構成する複数枚の表皮片が互いに縫製されている。
【0032】
下部ティアシームTS1は、胴部チャンバ42Bの膨張圧を受けて開裂し、上部ティアシームTS2は、頭部チャンバ42Aの膨張圧を受けて開裂する。上部ティアシームTS2を縫製する糸は、下部ティアシームTS1を縫製する糸に比して弱い糸(例えば番手が大きい糸、又は弱い材質の糸)とされている。これにより、上部ティアシームTS2は、下部ティアシームTS1に比して開裂し易く構成されている。なお、上記のように上部ティアシームTS2と下部ティアシームTS1とで糸の強さ(太さ等)を変える構成に限らず、上部ティアシームTS2と下部ティアシームTS1とで縫製ピッチ(縫い目のピッチ)を変える構成にしてもよい。上部ティアシームTS2の縫製ピッチを下部ティアシームTS1の縫製ピッチよりも大きく設定すれば、上部ティアシームTS2を下部ティアシームTS1に比して開裂し易くすることができる。
【0033】
図5に示されるように、シートバック16の側部16Rには、2つの下方力布50、52がシートバック16の高さ方向に並んで配設されている。シートバック16の上端部16Lには、上方力布54が配設されている。下方力布50、52及び上方力布54は、シートバック表皮24の材料よりも伸び難い布材によって構成されている。
【0034】
下方力布50、52は、シートバックフレーム20の車両幅方向外側のサイドフレーム20Aと下部ティアシームTS1とを連結している。これらの下方力布50、52は、シートバック16の側部16Rに収納された胴部チャンバ42Bを囲むように、シートバック16の高さ方向から見てループ状をなしている。これらの下方力布50、52は、胴部チャンバ42Bの膨張圧をシートバック表皮24の下部ティアシームTS1に伝えて下部ティアシームTS1を開裂させる。これらの下方力布50、52は、従来周知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0035】
図7に示されるように、上方力布54は、シートバックフレーム20のアッパフレーム20Bと上部ティアシームTS2とを連結している。この上方力布54は、シートバック16の上端部16Uに収納された頭部チャンバ42Aを囲むように、シートバック16の左右方向から見てループ状をなしている。具体的には、上方力布54は、収納状態の頭部チャンバ42Aに対してシートバック16の前方側に位置する前側上方力布54Aと、収納状態の頭部チャンバ42Aに対してシートバック16の上方側及び後方側に位置する後側上方力布54Bとによって構成されている。前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各一端部は、上部ティアシームTS2に共縫いされている。
【0036】
前側上方力布54Aは、頭部チャンバ42Aの前方側でシートバックパッド22に形成されたスリット56に挿通されており、他端部がアッパフレーム20Bの前面に重ね合わされている。後側上方力布54Bは、頭部チャンバ42Aの後方側でシートバックパッド22に形成されたスリット58に挿通されており、他端部がアッパフレーム20Bの後面に重ね合わされている。前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各他端部は、一例としてボルト60、62を用いてアッパフレーム20Bに締結固定されている。なお、前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各他端部のアッパフレーム20Bへの固定方法は上記に限らず適宜変更可能である。例えば前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各他端部に板状の部材が取り付けられ、それらの板状部材がボルト等を用いてアッパフレーム20Bに固定される構成にしてもよい。
【0037】
図8に示されるように、上記の上方力布54は、頭部チャンバ42Aの膨張圧をシートバック表皮24の上部ティアシームTS2に伝えて上部ティアシームTS2を開裂させる。本実施形態では、上方力布54(すなわち前側上方力布54A及び後側上方力布54B)を構成する布材は、下方力布50、52を構成する布材に比べて伸び難く構成されている。
【0038】
上記構成の車両用シート10では、インフレータ44が起動し、サイドエアバッグ42が膨張し始めると、シートバック表皮24の下部ティアシームTS1及び上部ティアシームTS2が胴部チャンバ42B及び頭部チャンバ42Aの膨張圧を受けて開裂する。これにより、サイドエアバッグ42が乗員Pと図示しない車体側部との間に膨張展開する。この場合、胴部チャンバ42Bは、インフレータ44からのガスがインフレータ接続部42Dを通して供給され、頭部チャンバ42Aは、インフレータ44からのガスが胴部チャンバ42B及び括れ部42Cを介して供給される。このため、頭部チャンバ42Aは、胴部チャンバ42Bに遅れて膨張展開する。頭部チャンバ42Aの膨張圧は、胴部チャンバ42Bの膨張圧に比して低くなる。また、ティアシームTSは、下部ティアシームTS1の下側→下部ティアシームTS1の上側→上部ティアシームTS2の順で開裂する。
【0039】
図1及び図2に示されるように、胴部チャンバ42Bは、シートバック16の側部16Rから乗員Pの胴部Bと図示しない車体側部との間に膨張展開する。この胴部チャンバ42Bは、乗員Pの胸部、腹部及び腰部に対して車両幅方向外側から接触又は近接して対向する。頭部チャンバ42Aは、シートバック16の上端部16Uから乗員Pの頭部Hとシートベルト32のショルダベルト32Aとの間に膨張展開する。この頭部チャンバ42Aは、ヘッドレスト18に対して車両幅方向外側かつ車両前方側に隣接して配置され、乗員Pの頭部Hに対して車両幅方向外側から接触又は近接して対向する。なお、図示は省略するが、インフレータ44からのガスを胴部チャンバ42B内及び頭部チャンバ42A内に分配するダクト(インナチューブ)がサイドエアバッグ42の内部に配設される構成にしてもよい。
【0040】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
上記構成の車両用シート10では、3点式のシートベルト32を用いて乗員Pがシート本体12に拘束される。車両の側面衝突が検知又は予知された場合、インフレータ44からガスが発生し、サイドエアバッグ42に供給される。サイドエアバッグ42は、シート本体12のシートバック16における車両幅方向外側の側部16Rから肩口16Sを経て上端部16Uに沿って折り畳み状態で収納されている。サイドエアバッグ42の胴部チャンバ42Bは、インフレータ44からガスを供給され、シートバック16の側部16Rから乗員Pの胴部Bと車体側部との間に膨張展開する。サイドエアバッグ42の頭部チャンバ42Aは、胴部チャンバ42Bを介してガスを供給され、シートバック16の上端部16Uから乗員Pの頭部Hとシートベルト32のショルダベルト32Aとの間に膨張展開する。このサイドエアバッグ42は、単一の袋体により構成されているので、頭部チャンバ42Aと胴部チャンバ42Bとが別々の袋体により構成される場合と比較して、構成を簡素化することができる。
【0042】
しかも、本実施形態では、シートバック16の側部16Rにおいてシートバック表皮24とサイドフレーム20Aとが下方力布50、52により連結されると共に、シートバック16の上端部16Uにおいてシートバック表皮24とアッパフレーム20Bとが上方力布54により連結されている。下方力布50、52は、胴部チャンバ42Bの膨張圧をシートバック表皮24の下部ティアシームTS1に伝えて下部ティアシームTS1を開裂させる。上方力布54は、頭部チャンバ42Aの膨張圧をシートバック表皮24の上部ティアシームTS2に伝えて上部ティアシームTS2を開裂させる。この上方力布54が追加されることにより、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの膨張展開に遅れが生じることを抑制できる。その結果、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの展開挙動を安定させることができる。さらに、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの膨張展開が上方力布54によって案内される。これにより、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの展開挙動を一層安定させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、上方力布54を構成する前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各一端部は、上部ティアシームTS2に共縫いされ、前側上方力布54A及び後側上方力布54Bの各他端部は、アッパフレーム20Bに固定されている。これにより、頭部チャンバ42Aの膨張圧を簡単な構成で上部ティアシームTS2に集中させることができ、上部ティアシームTS2を早期に開裂させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、シートバック16の上端部16Uに収納された頭部チャンバ42Aが、シートバック16の左右方向から見てループ状をなす上方力布54によって囲まれている。これにより、頭部チャンバ42Aの膨張展開がループ状の上方力布54によって案内されるため、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの展開挙動をより一層安定させることができる。
【0045】
また、本実施形態では、上方力布54が下方力布50、52に比べて伸び難く構成されている。これにより、上方力布54を介して頭部チャンバ42Aの膨張圧をシートバック表皮24の上部ティアシームTS2に良好に伝達することができ、上部ティアシームTS2の開裂を早めることができる。その結果、頭部チャンバ42Aの膨張展開を早期化することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、上部ティアシームTS2は、下部ティアシームTS1に比して開裂し易く構成されている。これにより、胴部チャンバ42Bの膨張圧に比して頭部チャンバ42Aの膨張圧が低くなる構成であっても、頭部チャンバ42Aの膨張圧により上部ティアシームTS2を早期に開裂させることができる。その結果、ショルダベルト32Aと乗員Pの頭部Hとの間への頭部チャンバ42Aの膨張展開に遅れが生じることを一層効果的に抑制できる。
【0047】
また、本実施形態では、上部ティアシームTS2は、下部ティアシームTS1に比して弱い糸で縫製されている。これにより、簡単な構成で上部ティアシームTS2を下部ティアシームTS1に比して開裂し易くすることができる。この効果は、上部ティアシームTS2の縫製ピッチが下部ティアシームTS1の縫製ピッチに比して大きく設定される場合でも得ることができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、上部ティアシームTS2が下部ティアシームTS1に比して開裂し易く構成されたが、これに限らず、上部ティアシームTS2と下部ティアシームTS1との開裂のし易さが同等に設定される構成にしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、上方力布54が下方力布50、52に比べて伸び難く構成されたが、これに限らず、上方力布54と下方力布50、52との伸び難さが同等に設定される構成にしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、上方力布54が前側上方力布54Aと後側上方力布54Bとを備えた構成にしたが、これに限るものではない。例えば、上方力布54が前側上方力布54Aのみを備えた構成にしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、前側上方力布54Aと後側上方力布54Bの各他端部がアッパフレーム20Bに固定された構成にしたが、これに限るものではない。例えば、後側上方力布54Bの他端部がシートバック16の背面側でシートバック表皮24に固定(縫製)される構成にしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、サイドエアバッグ42の胴部チャンバ42Bが乗員Pの胸部から腰部までを拘束可能な大きさに形成された構成にしたが、これに限らず、胴部チャンバ42Bの大きさは適宜変更可能である。
【0053】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
10 サイドエアバッグ装置を搭載した車両用シート
12 シート本体
16 シートバック
16R 側部
16S 肩口
16U 上端部
24 シートバック表皮(表皮)
32 3点式のシートベルト
32A ショルダベルト
42 サイドエアバッグ
42A 頭部チャンバ
42B 胴部チャンバ
44 インフレータ
50、52 下方力布
54 上方力布
P 乗員
H 頭部
B 胴部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8