(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電極及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241217BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241217BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20241217BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241217BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20241217BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021182952
(22)【出願日】2021-11-10
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】坂本 竜斗
(72)【発明者】
【氏名】辻 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】直木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】石井 康夫
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-073947(JP,A)
【文献】特開2013-012393(JP,A)
【文献】特開2015-106525(JP,A)
【文献】特開2020-149830(JP,A)
【文献】特開2017-073205(JP,A)
【文献】特開2013-125707(JP,A)
【文献】特開2018-063809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と電極層とを有する全固体電池用の電極であって、
前記集電体と前記電極層との接触面は、接着剤層により接着され、
前記接着剤層は、前記接触面において、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成され、
前記電極層の電気伝導度A(mS)に対する前記接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00以下であり、
隣り合う前記接着剤線間の距離C(mm)が0.2mmより大きく7mm以下であり、 隣り合う前記接着剤線間の距離Cに対する前記接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2.00以下であ
り、
前記接着剤層は、接着剤からなり、
前記接着剤は、タック性を有する樹脂、及び、融点が140℃以下の樹脂であるホットメルト剤の内の少なくともいずれか一方であることを特徴とする電極。
【請求項2】
第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、第1集電体と当該第1電極層とが接着剤層によって接着し、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第1積層体を準備する工程、
前記第1電極層の前記第1集電体と接触させる面、又は、前記第1集電体の前記第1電極層と接触させる面、及び、前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面に、ストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第1電極層と前記第1集電体とを接着し、且つ、前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第1電極層及び前記第1集電体を含む第1電極、及び、前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記請求項1に記載の電極であることを特徴とする、全固体電池の製造方法。
【請求項3】
第1集電体の両面に第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1集電体の両面に前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第2積層体を準備する工程、
前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面にストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記請求項1に記載の電極であることを特徴とする、全固体電池の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤は、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、エチレン-酢酸ビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
【0003】
特許文献1には、集電体と、集電体に隣接して積層された電池ユニットとを接着するための接着手段を有する全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池の抵抗の低減が求められる。特許文献1は、接着手段としてホットメルト剤を用いて、電池ユニットの隅にホットメルト剤をL字型に配置している。電池ユニットにおけるホットメルト剤の配置面積が小さく、全固体電池の抵抗が高くなる。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、全固体電池の抵抗を低減することができる電極及び全固体電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電極は、集電体と電極層とを有する全固体電池用の電極であって、
前記集電体と前記電極層との接触面は、接着剤層により接着され、
前記接着剤層は、前記接触面において、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成され、
前記電極層の電気伝導度A(mS)に対する前記接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00以下であり、
隣り合う前記接着剤線間の距離C(mm)が0.2mmより大きく7mm以下であり、
隣り合う前記接着剤線間の距離Cに対する前記接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2.00以下であることを特徴とする。
【0008】
本開示の全固体電池の製造方法は、第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、第1集電体と当該第1電極層とが接着剤層によって接着し、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第1積層体を準備する工程、
前記第1電極層の前記第1集電体と接触させる面、又は、前記第1集電体の前記第1電極層と接触させる面、及び、前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面に、ストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第1電極層と前記第1集電体とを接着し、且つ、前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第1電極層及び前記第1集電体を含む第1電極、及び、前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記電極であることを特徴とする。
【0009】
本開示の全固体電池の製造方法は、第1集電体の両面に第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1集電体の両面に前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第2積層体を準備する工程、
前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面にストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記電極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、全固体電池の抵抗を低減することができる電極及び全固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本開示の電極の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.電極
本開示の電極は、集電体と電極層とを有する全固体電池用の電極であって、
前記集電体と前記電極層との接触面は、接着剤層により接着され、
前記接着剤層は、前記接触面において、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成され、
前記電極層の電気伝導度A(mS)に対する前記接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00以下であり、
隣り合う前記接着剤線間の距離C(mm)が0.2mmより大きく7mm以下であり、
隣り合う前記接着剤線間の距離Cに対する前記接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2.00以下であることを特徴とする。
【0013】
図1は、本開示の電極の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように本開示の電極は、集電体11と電極層12とを有し、集電体11と電極層12との接触面は、ストライプ状に配置された複数の接着剤線13で構成される接着剤層により接着されている。Bは、接着剤線13の塗布幅、Cは、隣り合う接着剤線13間の距離である。
【0014】
[電極]
本開示の電極は、集電体と電極層とを有する。
集電体と電極層との接触面は、接着剤層により接着されている。すなわち、集電体と電極層との間には、接着剤層が配置され、集電体と電極層は、接着剤層により接着されていればよい。集電体と電極層との接触面とは、集電体の電極層と接触する面、及び、電極層の集電体と接触する面であってもよい。集電体の電極層と接触する面は、接着剤層により電極層の集電体と接触する面と接着されていればよい。電極層の集電体と接触する面は、接着剤層により集電体の電極層と接触する面と接着されていればよい。
【0015】
[接着剤層]
接着剤層は、集電体と電極層との接触面において、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される。すなわち、集電体と電極層との接触面の一部が、接着剤層によって接着されていればよく、接触面の全面が接着されていなくてもよい。
ストライプ状とは、縞模様を意味する。縞模様は、平行の模様であればよく、縦縞であってもよく、横縞であってもよい。
接着剤線の本数は、3本以上であってもよく、上限は特に限定されない。
接着剤線の長さは、例えば、1~10mmであってもよい。
本開示の電極において、電極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00以下であればよい。
隣り合う接着剤線間の距離C(mm)が0.2mmより大きく7mm以下であればよい。また、複数の接着剤線間のピッチは、0.2mmより大きく7mm以下であればよい。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2.00以下であればよい。
【0016】
接着剤層に用いられる接着剤は、固体で、接着機能を有するものであれば特に限定されない。接着剤の種類は、例えば、タック性を有する樹脂、及び、ホットメルト剤等が挙げられる。タック性を有する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、及び、ウレタン系樹脂等が挙げられる。ホットメルト剤としては、融点が140℃以下の樹脂であれば特に限定されず、例えば、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0017】
[電極層]
電極層は、電極活物質を含み、必要に応じて固体電解質、導電材、結着材等を含む。
電極層は、正極層又は負極層である。電極活物質の種類が互いに異なる2つの電極層を用意することにより、一方を正極層、もう一方を負極層として用いてもよい。
電極活物質としては、全固体電池の活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能であり、後述する正極活物質及び負極活物質として例示するものと同様のものを採用することができる。
固体電解質としては、後述する固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
導電材及び結着剤としては、後述する正極層において例示するものと同様のものを例示することができる。
電極層の厚みについては特に限定されるものではないが、例えば、10~100μmであってもよく、10~20μmであってもよい。
電極層の電気伝導度A(mS)は、例えば、0.008~0.03mSであってもよい。
【0018】
[集電体]
集電体としては、後述する正極集電体及び負極集電体として例示するものと同様のものを採用することができる。
【0019】
[全固体電池]
本開示の電極は、全固体電池用の電極である。
本開示の全固体電池は、正極、固体電解質層、負極を備えていてもよい。正極及び負極の少なくともいずれか一方が本開示の電極であればよい。電極活物質の種類が互いに異なる2つの電極を用意することにより一方を正極、もう一方を負極として用いてもよい。
【0020】
[正極]
正極は、正極層、及び正極集電体を含む。
【0021】
[正極層]
正極層は、正極活物質を含み、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0022】
正極活物質の種類について特に制限はなく、全固体電池の活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能である。正極活物質は、例えば、金属リチウム(Li)、リチウム合金、LiCoO2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMnO2、異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、LiCoN、Li2SiO3、及びLi4SiO4、遷移金属酸化物、TiS2、Si、SiO2、Si合金及びリチウム貯蔵性金属間化合物等を挙げることができる。異種元素置換Li-Mnスピネルは、例えばLiMn1.5Ni0.5O4、LiMn1.5Al0.5O4、LiMn1.5Mg0.5O4、LiMn1.5Co0.5O4、LiMn1.5Fe0.5O4、及びLiMn1.5Zn0.5O4等である。チタン酸リチウムは、例えばLi4Ti5O12等である。リン酸金属リチウムは、例えばLiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、及びLiNiPO4等である。遷移金属酸化物は、例えばV2O5、及びMoO3等である。リチウム貯蔵性金属間化合物は、例えばMg2Sn、Mg2Ge、Mg2Sb、及びCu3Sb等である。
リチウム合金としては、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-Ge、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-In、Li-Sb、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、及びLi-At等が挙げられる。Si合金としては、Li等の金属との合金等が挙げられ、その他、Sn、Ge、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属との合金であってもよい。
正極活物質の形状は特に限定されるものではないが、粒子状であってもよい。正極活物質が粒子状である場合、正極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti5O12、及び、Li3PO4等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。コート層は、例えば、正極活物質の表面の70%以上を被覆していてもよく、90%以上を被覆していてもよい。
【0023】
固体電解質としては、固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%の範囲内であってもよい。
【0024】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
正極層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0025】
結着剤(バインダー)としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。正極層におけるバインダーの含有量は特に限定されるものではない。
【0026】
正極層の厚みについては特に限定されるものではないが、例えば、10~100μmであってもよく、10~20μmであってもよい。
【0027】
正極層は、従来公知の方法で形成することができる。
例えば、正極活物質、及び、必要に応じ他の成分を溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極層用スラリーを作製し、当該正極層用スラリーを支持体の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極層が得られる。
溶媒は、例えば酢酸ブチル、酪酸ブチル、メシチレン、テトラリン、ヘプタン、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
支持体の一面上に正極層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
支持体としては、自己支持性を有するものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えばCu及びAlなどの金属箔等を用いることができる。
【0028】
また、正極層の形成方法の別の方法として、正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を形成してもよい。正極合剤の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上2000MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、例えば、平板プレス、及びロールプレス等を用いて圧力を付加する方法等が挙げられる。
【0029】
[正極集電体]
正極集電体としては、全固体電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。正極集電体としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等が挙げられる。
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、及びメッシュ状等、種々の形態とすることができる。正極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0030】
[負極]
負極は、負極層、及び、負極集電体を含む。
【0031】
[負極層]
負極層は、少なくとも負極活物質を含有し、必要に応じ、固体電解質、導電材、及び、結着剤等を含有する。
負極活物質としては、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン、リチウム単体、リチウム合金、Si単体、Si合金、及びLi4Ti5O12等が挙げられる。リチウム合金及びSi合金としては、正極活物質において例示したものと同様のものを用いることができる。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。負極活物質が粒子状である場合、負極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
負極層に用いられる導電材、及び、結着剤は、正極層において例示したものと同様のものを用いることができる。負極層に用いられる固体電解質は、固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
負極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~100μmであってもよく、10~20μmであってもよい。
負極層における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、20質量%~90質量%であってもよい。
【0032】
[負極集電体]
負極集電体の材料は、Liと合金化しない材料であってもよく、例えばSUS及び、銅及び、ニッケル等を挙げることができる。負極集電体の形態としては、例えば、箔状及び、板状等を挙げることができる。負極集電体の平面視形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円状、楕円状、矩形状及び、任意の多角形状等を挙げることができる。また、負極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0033】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。
固体電解質層に含有させる固体電解質としては、全固体電池に使用可能な公知の固体電解質を適宜用いることができ、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、及び、窒化物系固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、硫黄(S)を含有してもよい。酸化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有してもよい。水素化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、水素(H)を含有してもよい。ハロゲン化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、ハロゲン(X)を含有してもよい。窒化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、窒素(N)を含有してもよい。
【0034】
硫化物系固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、原料組成物に対する固相反応処理により得られる結晶質材料であってもよい。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
【0035】
硫化物ガラスは、原料組成物(例えばLi2SおよびP2S5の混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。
【0036】
ガラスセラミックスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
熱処理温度は、硫化物ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上である。一方、熱処理温度の上限は特に限定されない。
硫化物ガラスの結晶化温度(Tc)は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
熱処理時間は、ガラスセラミックスの所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0037】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li元素、Y元素(Yは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo、W、Sの少なくとも一種である)、および、O元素を含有する固体電解質が挙げられる。酸化物系固体電解質の具体例としては、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(0≦x≦2)、Li5La3Nb2O12等のガーネット型固体電解質;(Li,La)TiO3、(Li,La)NbO3、(Li,Sr)(Ta,Zr)O3等のペロブスカイト型固体電解質;Li(Al,Ti)(PO4)3、Li(Al,Ga)(PO4)3のナシコン型固体電解質;Li3PO4、LIPON(Li3PO4のOの一部をNで置換した化合物)等のLi-P-O系固体電解質;Li3BO3、Li3BO3のOの一部をCで置換した化合物等のLi-B-O系固体電解質が挙げられる。
【0038】
水素化物系固体電解質は、例えば、Liと、水素を含有する錯アニオンと、を有する。錯アニオンとしては、例えば、(BH4)-、(NH2)-、(AlH4)-、および(AlH6)3-等が挙げられる。
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、Li6-3zYzX6(XはClおよびBrの少なくとも一種であり、zは0<z<2を満たす)等が挙げられる。
窒化物系固体電解質としては、例えばLi3N等が挙げられる。
【0039】
固体電解質の形状は、取扱い性が良いという観点から粒子状であってもよい。
固体電解質の粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、固体電解質の粒子の平均粒径は、例えば25μm以下であり、10μm以下であってもよい。
【0040】
本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0041】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
固体電解質層中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、70質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、100質量%であってもよい。
【0042】
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、結着剤を含有させることもできる。そのような結着剤としては、正極層に用いられる結着剤として例示した材料等を例示することができる。ただし、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させる結着剤は5質量%以下としてもよい。
【0043】
固体電解質層の厚みは特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
固体電解質層を形成する方法としては、固体電解質を含む固体電解質層用スラリーを支持体上に塗布して乾燥する方法、及び、固体電解質を含む固体電解質材料の粉末を加圧成形する方法等が挙げられる。支持体は、正極層において例示したものと同様のものを挙げることができる。固体電解質材料の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上2000MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、正極層の形成において例示した加圧方法が挙げられる。
【0044】
全固体電池は、必要に応じ、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層および負極集電体をこの順に備えた積層体を収容する外装体及び拘束部材等を備える。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
拘束部材は、積層体に、積層方向の拘束圧力を与えることができればよく、全固体電池の拘束部材として使用可能な公知の拘束部材を用いることができる。例えば、積層体の両表面を挟む板状部と、2つの板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結され、ねじ構造等により拘束圧力を調整する調整部を有する拘束部材が挙げられる。調整部によって、積層体に所望の拘束圧力を与えることができる。
拘束圧力は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1MPa以上であってもよく、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。拘束圧力を大きくすることで、各層の接触を良好にしやすいという利点があるためである。一方、拘束圧力は、例えば、100MPa以下であってもよく、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。拘束圧力が大きすぎると、拘束部材に高い剛性が求められ、拘束部材が大型化する可能性があるためである。
【0045】
全固体電池は、上記積層体を1つのみ有するものであってもよいし、積層体を複数個積層してなるものであってもよい。
全固体電池としては、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であってもよい。二次電池は繰り返し充放電が可能である。二次電池は、例えば車載用電池として有用である。また、全固体電池は、全固体リチウム二次電池、全固体リチウムイオン二次電池であってもよい。
全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられてもよい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0046】
2.全固体電池の製造方法
2-1.第1の製造方法
本開示の全固体電池の第1の製造方法は、第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、第1集電体と当該第1電極層とが接着剤層によって接着し、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第1積層体を準備する工程、
前記第1電極層の前記第1集電体と接触させる面、又は、前記第1集電体の前記第1電極層と接触させる面、及び、前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面に、ストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第1電極層と前記第1集電体とを接着し、且つ、前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第1電極層及び前記第1集電体を含む第1電極、及び、前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記電極であることを特徴とする。
【0047】
第1の製造方法で得られる全固体電池は、第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、第1集電体と当該第1電極層とが接着剤層によって接着し、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している。
第1の製造方法で得られる全固体電池においては、第1電極層及び第1集電体を含む第1電極、及び、第2電極層及び第2集電体を含む第2電極の両方ともが、本開示の電極である。第1電極と第2電極は、一方が正極であり、もう一方が負極である。第1電極層は、第1電極が正極の場合は正極層であり、第1電極が負極の場合は、負極層である。第2電極層は、第2電極が正極の場合は正極層であり、第2電極が負極の場合は、負極層である。第1集電体は、第1電極が正極の場合は正極集電体であり、第1電極が負極の場合は、負極集電体である。第2集電体は、第2電極が正極の場合は正極集電体であり、第2電極が負極の場合は、負極集電体である。
【0048】
第1の製造方法は、(1)第1積層体準備工程、(2)接着剤層形成工程、及び(3)集電体接着工程を有する。(1)第1積層体準備工程と、(2)接着剤層形成工程の工程順は特に限定されない。
(1)第1積層体準備工程
第1積層体準備工程は、前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第1積層体を準備する工程である。
第1積層体は、例えば以下の方法で準備してもよい。まず支持体上に第1電極層用スラリーを塗布して乾燥させ第1電極層を形成する。別の支持体上に第2電極層用スラリーを塗布して乾燥させ第2電極層を形成する。固体電解質層を準備する。固体電解質層の片面に第1電極層を配置し、第1電極層から支持体を除去する。固体電解質層のもう一方の面に第2電極層を配置し、第2電極層から支持体を除去する。これにより第1積層体を得る。
(2)接着剤層形成工程
接着剤層形成工程は、前記第1電極層の前記第1集電体と接触させる面、又は、前記第1集電体の前記第1電極層と接触させる面、並びに、前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面に、ストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程である。
接着剤層に用いる接着剤は、上記1.電極で述べたものと同様の材料を挙げることができる。
(3)集電体接着工程
集電体接着工程は、前記接着剤層によって前記第1電極層と前記第1集電体とを接着し、且つ、前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する工程である。
接着方法は、特に限定されず、第1電極層と第1集電体と第2電極層と第2集電体を含む積層体にプレス圧を付与する方法、ヒートプレスする方法等が挙げられる。ヒートプレスする際の加熱温度は、例えば140℃以上であってもよい。プレス圧は、例えば1MPa以上であってもよい。
【0049】
2-2.第2の製造方法
本開示の全固体電池の第2の製造方法は、第1集電体の両面に第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している全固体電池の製造方法であって、
前記第1集電体の両面に前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第2積層体を準備する工程、
前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面にストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程、及び、
前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する集電体接着工程を有し、
前記第2電極層及び前記第2集電体を含む第2電極が、前記電極であることを特徴とする。
【0050】
第2の製造方法で得られる全固体電池は、第1集電体の両面に第1電極層、固体電解質層、第2電極層がこの順に配置され、当該第2電極層と第2集電体とが接着剤層によって接着している。
第2の製造方法で得られる全固体電池においては、第2電極層及び第2集電体を含む第2電極が、本開示の電極である。第1電極と第2電極は、一方が正極であり、もう一方が負極である。第1電極層は、第1電極が正極の場合は正極層であり、第1電極が負極の場合は、負極層である。第2電極層は、第2電極が正極の場合は正極層であり、第2電極が負極の場合は、負極層である。第1集電体は、第1電極が正極の場合は正極集電体であり、第1電極が負極の場合は、負極集電体である。第2集電体は、第2電極が正極の場合は正極集電体であり、第2電極が負極の場合は、負極集電体である。
【0051】
第2の製造方法は、(A)第2積層体準備工程、(B)接着剤層形成工程、及び(C)集電体接着工程を有する。(A)第2積層体準備工程と、(B)接着剤層形成工程の工程順は特に限定されない。
(A)第2積層体準備工程
第2積層体準備工程は、前記第1集電体の両面に前記第1電極層、前記固体電解質層、前記第2電極層がこの順に配置された第2積層体を準備する工程である。
第2積層体は、例えば以下の方法で準備してもよい。まず第1集電体の両面に第1電極層用スラリーを塗布して乾燥させ第1電極層を形成する。2つの第1電極層上にそれぞれ固体電解質層を配置する。2つの支持体上に第2電極層用スラリーをそれぞれ塗布して乾燥させ第2電極層を形成する。2つの固体電解質層の第1電極層とは反対側の面にそれぞれ第2電極層を配置し、第2電極層から支持体を除去する。これにより第2積層体を得る。
(B)接着剤層形成工程
接着剤層形成工程は、前記第2電極層の前記第2集電体と接触させる面、又は、前記第2集電体の前記第2電極層と接触させる面にストライプ状に接着剤を塗布することにより、ストライプ状に配置された複数の接着剤線で構成される接着剤層を形成する工程である。
接着剤層に用いる接着剤は、上記1.電極で述べたものと同様の材料を挙げることができる。
(C)集電体接着工程
集電体接着工程は、前記接着剤層によって前記第2電極層と前記第2集電体とを接着する工程である。
接着方法は、第1の製造方法において例示した方法と同様の方法が挙げられる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
[正極層の作製]
転動流動式コーティング装置(パウレック社製)を用いて、大気雰囲気下において正極活物質粒子(Li1.15Ni1/3Co1/3Mn1/3O2を主相とする粒子)にニオブ酸リチウムをコーティングし、大気雰囲気下で焼成を行うことで、ニオブ酸リチウムの被覆層を有する正極活物質粒子を得た。
ポリプロピレン製容器に、PVdF、上記正極活物質粒子、硫化物系固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)、及び、VGCF(昭和電工社製)を加え、得られた正極層用スラリーを超音波分散装置(エスエムテー社製UH-50)で30秒間攪拌した。
次に、容器を振とう機(柴田科学社製TTM-1)で3分間振とうさせ、正極層用スラリーをさらに超音波分散装置で30秒間攪拌した。容器を振とう機で3分間振とうさせた後、アプリケーターを使用してブレード法にて正極層用スラリーをアルミニウム箔上に塗工した。その後、正極層用スラリーを自然乾燥させ、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることにより、アルミニウム箔(基材)上に正極合剤を得た。アルミニウム箔(基材)と正極合剤の積層体を4t/cmで緻密化してアルミニウム箔(基材)上に正極層を得た。なお、正極合剤を4t/cmで緻密化した際に得られる正極層の厚さが15μmになるように正極層用スラリーの塗布量を調整した。
[負極の作製]
ポリプロピレン製容器に、PVdF、負極活物質粒子(Li4Ti5O12(LTO)粒子)、及び、上記と同様の硫化物系固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)を加え、得られた負極層用スラリーを超音波分散装置で30分間攪拌した。アプリケーターを使用してブレード法にて負極層用スラリーを銅箔上に塗工した。その後、負極層用スラリーを自然乾燥させ、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることにより、銅箔(負極集電体)上に負極層を有する負極を得た。その後銅箔(負極集電体)の裏面も同様に負極層用スラリーを塗工し乾燥させ銅箔(負極集電体)の裏面にも負極層を形成した。
[固体電解質層の作製]
ポリプロピレン製容器に、ヘプタン、BR、及び、硫化物系固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)を加え、得られた固体電解質層用スラリーを超音波分散装置で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう機(柴田科学社製TTM-1)で30分間振とうさせ、固体電解質層用スラリーをさらに超音波分散装置で30秒間攪拌した。容器を振とう機で3分間振とうさせた後、アプリケーターを使用してブレード法にて固体電解質層用スラリーをアルミニウム箔上に塗工した。その後、固体電解質層用スラリーを自然乾燥させ、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることにより、基材としてのアルミニウム箔上に固体電解質層を形成した。
[カーボンコートアルミニウム箔(正極集電体)の作製]
導電材のファーネスブラックと結着剤のPVdFを25:75vol%になるように秤量した。その後NMPを入れカーボンコート組成物を作製した。次にアルミニウム箔の片面に膜厚2μmになるようにカーボンコート組成物を塗工し、カーボンコート組成物を100℃で1時間乾燥しカーボンコートアルミニウム箔とした。カーボンコートアルミニウム箔をアルミニウム箔サイズ69.0mm×73.0mm(カーボンコートサイズ69.0mm×71.0mm)になるように裁断した。
(B)接着剤層形成工程
その後接着剤としてホットメルト剤(ハイボンZH234-1、日立化成製)を接着剤線の塗布幅Bが0.8mm、接着剤線間ピッチ(隣り合う接着剤線間の距離C)が0.4mmになるようにストライプ状にカーボンコートアルミニウム箔の片面に塗布して接着剤層を形成した。
(A)第2積層体準備工程
[第2積層体の作製]
各負極層と、各固体電解質層とが直接接触するように、負極の両面に固体電解質層を張合わせ、1.6t/cmでプレスし、その後、基材であるアルミニウム箔を各固体電解質層から剥がした。続いて、正極層と固体電解質層とが直接接触するように、各固体電解質層に正極層を張合わせ、1.6t/cmでプレスした。その後各正極層から基材であるアルミニウム箔をはがし、得られた第2積層体を5t/cmでプレスした。その後正極層サイズが70.0mm×70.0mmになるように、レーザートリミングし、負極サイズが72.0mm×72.0mmになるように裁断した。
そして、第2積層体に端子を溶接した。
(C)集電体接着工程
各正極層と、各カーボンコートアルミニウム箔(正極集電体)とが接着剤層を介して接着するように、第2積層体の両面にカーボンコートアルミニウム箔(正極集電体)を負極端部から2.0mmの領域に位置合わせして配置し、これらに1MPaの圧力を印加しつつ140℃に加熱することにより、各正極層と、各カーボンコートアルミニウム箔(正極集電体)とを接着した。これにより得られた電極体をラミネート外装体に真空封入して全固体電池を得た。
その後、全固体電池を5MPaで拘束し、80℃で80時間保持した。
【0053】
[電気伝導度評価方法]
正極合剤の電気伝導度(mS/cm)の測定方法は以下の通りである。
[正極層の作製]の工程で得たアルミニウム箔(基材)と正極合剤の積層体を2枚用意し、正極合剤同士が接触するように積層体を2枚貼り合わせ、接合体を得て、接合体を4t/cmでプレスし、その後直径11.28mmの大きさに打ち抜き、得られたサンプルの2枚のアルミニウム箔間の抵抗を測定し、サンプル厚み/サンプル断面積/サンプル抵抗から正極合剤の電気伝導度(mS/cm)を求めた。正極合剤の電気伝導度(mS/cm)は、8mS/cmであった。その結果を表1に示す。
また、正極層の電気伝導度A(mS)は以下の式から求めた。正極層の電気伝導度A(mS)は0.012mSであった。その結果を表1に示す。
正極層の電気伝導度A(mS)=正極合剤の電気伝導度(mS/cm)*正極層厚み(cm)
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が66.67であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2.00であった。
【0054】
(比較例1)
(B)接着剤層形成工程において、カーボンコートアルミニウム箔の片面に、当該カーボンコートアルミニウム箔の4つの頂点近傍の辺に沿ってL字型に接着剤を塗布したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。
【0055】
(実施例2~5、比較例2~3)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線間距離Cを比較例2では0.2mm、実施例2では0.8mm、実施例3では3mm、実施例4では5mm、実施例5では7mm、比較例3では9mmに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。
実施例2~5、比較例2~3の正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が66.67であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)については、比較例2が4.00、実施例2が1.00、実施例3が0.27、実施例4が0.16、実施例5が0.11、比較例3が0.09であった。
【0056】
(比較例4)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを1.2mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が100.00であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.40であった。
【0057】
(比較例5)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを1.6mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極合剤の電気伝導度を12mS/cm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.018mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極合剤の電気伝導度(mS/cm)は正極合剤中のVGCF含有量を調節することにより変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が88.89であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.53であった。
【0058】
(実施例6)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを1.2mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極合剤の電気伝導度を12mS/cm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.018mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極合剤の電気伝導度(mS/cm)は正極合剤中のVGCF含有量を調節することにより変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が66.67であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.40であった。
【0059】
(実施例7)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを1.6mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極合剤の電気伝導度を20mS/cm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.030mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極合剤の電気伝導度(mS/cm)は正極合剤中のVGCF含有量を調節することにより変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が53.33であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.53であった。
【0060】
(実施例8)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを1.2mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極層の厚さを20μm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.016mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極層の厚さは正極層用スラリーの基材への塗布量を調整することで変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.40であった。
【0061】
(比較例6)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極層の厚さを10μm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.008mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極層の厚さは正極層用スラリーの基材への塗布量を調整することで変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が100.00であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.27であった。
【0062】
(実施例9)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線の塗布幅Bを0.6mm、接着剤線間距離Cを3mm、に変更し、正極層の厚さを10μm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.008mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極層の厚さは正極層用スラリーの基材への塗布量を調整することで変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.20であった。
【0063】
(実施例10)
(B)接着剤層形成工程において、接着剤線間距離Cを3mmに変更し、正極層の厚さを10μm、正極合剤の電気伝導度を12mS/cm、正極層の電気伝導度A(mS)を0.012mSに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で全固体電池を得た。正極層の厚さは正極層用スラリーの基材への塗布量を調整することで変更した。正極合剤の電気伝導度(mS/cm)は正極合剤中のVGCF含有量を調節することにより変更した。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が66.67であった。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が0.27であった。
【0064】
[抵抗評価方法]
各全固体電池について、上限電圧2.95V、1Cレートで、定電流定電圧(CCCV)充電(カット電流0.01C)を行い、その後下限電圧1.50V、1Cレートで、CCCV放電(カット電流0.01C)を行った。
各全固体電池の電圧を2.36Vに設定し、2Cレートで10s、定電流(CC)充電し、電圧の変化量から各全固体電池の抵抗を算出した。その結果を表1~2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
[評価結果]
表1~2に示すように、実施例1~10の全固体電池の抵抗は、比較例1~6の全固体電池の抵抗よりも低いことがわかる。
従来技術の比較例1では、接着剤が集電体と電極層との接触面の全面に塗布されていないため、シール圧以外の集電体と電極層を貼り合わせる力が十分にないため全固体電池の抵抗が高くなった。
一方、実施例1~10では接着剤により集電体と電極層を貼り合わせることが十分にでき、全固体電池の抵抗が低くなった。
正極層の電気伝導度A(mS)に対する接着剤線の塗布幅B(mm)の比(B/A)が75.00を超えた場合は正極層の電気伝導度A(mS)が足りず、反応有効部が少なくなり、比較例4~6の全固体電池の抵抗が高くなったと考える。
隣り合う接着剤線間の距離C(mm)が7mmより大きい場合は、接着剤により集電体と電極層を貼り合わせる力が十分ではなく、比較例3の全固体電池の抵抗が高くなったと考える。
隣り合う接着剤線間の距離Cに対する接着剤線の塗布幅Bの比(B/C)が2より大きくなったときは集電体と電極層の接触面積が十分ではなく、比較例2の全固体電池の抵抗が高くなったと考える。
【符号の説明】
【0068】
11 集電体
12 電極層
13 接着剤線
B 接着剤線の塗布幅
C 隣り合う接着剤線間の距離