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特許7605100車載通信装置、通信管理サーバ、プログラム、通信管理システム及び通信管理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車載通信装置、通信管理サーバ、プログラム、通信管理システム及び通信管理方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 48/16 20090101AFI20241217BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20241217BHJP
   G06F 1/3209 20190101ALI20241217BHJP
   G06F 1/3287 20190101ALI20241217BHJP
   H04W 52/02 20090101ALI20241217BHJP
【FI】
H04W48/16 132
H04W88/06
G06F1/3209
G06F1/3287
H04W52/02
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021214979
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098302
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佑起
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-129019(JP,A)
【文献】特開2015-159475(JP,A)
【文献】特開2007-243844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
G06F 1/3209
G06F 1/3287
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュール(15)を含む通信部(14)と、
車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバ(20)からの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部(72)と、
を備えた車載通信装置(10)。
【請求項2】
前記起動回線の通信状態の安定度は、前記複数の通信回線の他の通信回線の通信状態の安定度よりも高い、請求項1に記載の車載通信装置。
【請求項3】
前記通信状態の安定度は、通信状態を表すパラメータに基づいて判断され、
前記通信状態を表すパラメータは、電波強度、輻輳状態、スループット、及びレイテンシのいずれか1つである、請求項2に記載の車載通信装置。
【請求項4】
前記電源制御部は、前記起動回線を前記通信管理サーバに事前に通知しておく、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車載通信装置。
【請求項5】
前記電源制御部は、前記起動回線を介して前記通信管理サーバから受信した起動要求に応じて、前記複数の通信モジュールの各々に前記電源から電力を供給して全部の通信モジュールをデータ通信可能な起動状態とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車載通信装置。
【請求項6】
前記電源制御部は、前記起動回線を介して前記通信管理サーバから受信した起動回線の変更を求める回線変更要求に応じて、前記起動回線を変更し、変更後の起動回線に対応する通信モジュールを待機状態とし、残りの通信モジュールを停止状態とする、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車載通信装置。
【請求項7】
前記電源制御部は、前記複数の通信回線のうちで通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として提示する情報であって外部から取得された情報に基づいて、前記起動回線を決定する、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の車載通信装置。
【請求項8】
前記起動回線候補の情報は、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベース(30、32)から前記通信管理サーバを介して又は直接に取得される、請求項7に記載の車載通信装置。
【請求項9】
前記通信部による前記複数の通信回線の通信状態を検出する検出部(70)をさらに備え、
前記電源制御部は、前記検出部で検出された通信状態に基づいて前記起動回線を決定する、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の車載通信装置。
【請求項10】
前記電源制御部は、起動回線候補の情報を外部から取得できない場合に、前記検出部で検出された通信状態に基づいて前記起動回線を決定する、請求項9に記載の車載通信装置。
【請求項11】
前記検出部は、前記通信状態と共に自車両の位置情報を取得し、取得した通信状態情報及び位置情報を、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベースに前記通信管理サーバを介して又は直接に格納する、請求項9に記載の車載通信装置。
【請求項12】
前記電源制御部は、前記通信管理サーバから受信した回線変更要求に応じて、前記複数の通信モジュールの各々に電力を供給して各通信モジュールを起動状態にし、
前記検出部は、前記複数の通信回線の通信状態を再度検出して、検出した通信状態情報を前記外部データベースに格納する、請求項11に記載の車載通信装置。
【請求項13】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備えた車載通信装置を管理する通信管理サーバ(20)であって、
前記複数の通信回線のうちで前記通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として前記車載通信装置に通知する通知部(76)と、
前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する遠隔起動部(78)と、
を備えた通信管理サーバ。
【請求項14】
前記通信状態の安定度は、通信状態を表すパラメータに基づいて判断され、
前記通信状態を表すパラメータは、電波強度、輻輳状態、スループット、及びレイテンシのいずれか1つである、請求項13に記載の通信管理サーバ。
【請求項15】
前記通知部は、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベースを参照して、車両の位置情報及び駐車時刻に応じて前記起動回線候補を選定する、請求項13又は請求項14に記載の通信管理サーバ。
【請求項16】
前記遠隔起動部は、前記車載通信装置から通知された前記起動回線を記憶部に記憶しておいて、起動時に前記記憶部から前記起動回線の情報を記憶部から取得する、請求項13から請求項15までのいずれか1項に記載の通信管理サーバ。
【請求項17】
前記起動回線の通信状態を監視する監視部(80)をさらに備え、
前記遠隔起動部は、前記監視部の監視結果から所定時間経過後に前記起動回線の通信状態が低下する場合に、前記起動回線を介して前記起動回線の変更を求める回線変更要求を送信する、請求項13から請求項16までのいずれか1項に記載の通信管理サーバ。
【請求項18】
前記監視部は、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベースの駐車エリアにおける所定時間経過後の前記複数の通信回線の通信状態を表す情報に基づいて、前記起動回線の通信状態の低下を予測する、請求項17に記載の通信管理サーバ。
【請求項19】
前記遠隔起動部は、前記起動回線の通信状態を表すパラメータが予め定めた閾値以下に低下する場合に、前記回線変更要求を送信する、請求項17又は請求項18に記載の通信管理サーバ。
【請求項20】
前記車載通信装置から通信状態情報及び位置情報を収集して、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベースに格納する情報収集部(74)をさらに備える、請求項13から請求項19までのいずれか1項に記載の通信管理サーバ。
【請求項21】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部を備えた車載装置で実行されるプログラムであって、
コンピュータを、
車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部として機能させるためのプログラム。
【請求項22】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備えた車載通信装置を管理する通信管理サーバで実行されるプログラムであって、
コンピュータを、
前記複数の通信回線のうちで前記通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として前記車載通信装置に通知する通知部と、
前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する遠隔起動部と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項23】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備えた車載通信装置と、
前記車載通信装置とネットワークを介して通信可能な通信管理サーバであって、前記複数の通信回線のうちで前記通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として前記車載通信装置に通知する通知部と、前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する遠隔起動部と、を備えた通信管理サーバと、
を備えた通信管理システム。
【請求項24】
前記通信管理サーバ及び前記車載通信装置の少なくとも一方と通信可能に接続され、エリア毎及び時間帯毎に前記複数の通信回線の通信状態を表す情報を格納した外部データベースをさらに備える、請求項23に記載の通信管理システム。
【請求項25】
互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部を備えた車載通信装置に対し、前記車載通信装置とネットワークを介して通信可能な通信管理サーバから、前記複数の通信回線のうちで通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を前記車載通信装置に通知し、
前記車載通信装置は、車両の停止時に、通知された前記安定度が他の通信回線より高い通信回線に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とし、
前記通信管理サーバは、前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する、
通信管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載通信装置、通信管理サーバ、プログラム、通信管理システム及び通信管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器では、一部の機能を停止させて電力の消費を抑制する省電力モードを備えるものが知られている。また、遠隔操作により省電力モードから復帰させる技術も知られている。例えば、特許文献1には、通信インターフェイスを複数持つ情報処理装置において、どの通信インターフェイスを介して起動パケットを受信したとしても省電力状態から復帰できるようにするために、各通信インターフェイスの識別情報を記憶しておき、何れの通信インターフェイスから受信した起動パケットであっても、起動パケットに含まれる識別情報が記憶した識別情報と合致するものであれば省電力状態から復帰させる技術が回示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/048658号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術を車載通信装置に適用した場合、以下のような課題が生じる。まず、セルラー通信回線を用いる場合、回線状態は、エリアや時間帯により変動するため、駐車場所によっては遠隔起動できない場合がある。また、複数の通信モジュールに電力を供給したまま省電力モードに移行したのでは、消費電力が高くなり、車両のバッテリ上がりが懸念される。
【0005】
本開示の目的は、遠隔起動可能な状態を維持しつつ、全部の通信モジュールを待機状態とする場合に比べて消費電力を抑えることができる、車載通信装置、通信管理サーバ、通信管理システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車載通信装置は、互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備える。
【0007】
本開示の通信管理サーバは、互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備えた車載通信装置を管理する通信管理サーバであって、前記複数の通信回線のうちで前記通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として前記車載通信装置に通知する通知部と、前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する遠隔起動部と、を備える。
【0008】
本開示の通信管理システムは、互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部と、車両の停止時に、前記複数の通信回線各々の通信状態に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とする電源制御部と、を備えた車載通信装置と、前記車載通信装置とネットワークを介して通信可能な通信管理サーバであって、前記複数の通信回線のうちで前記通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を起動回線候補として前記車載通信装置に通知する通知部と、前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する遠隔起動部と、を備えた通信管理サーバと、を備える。
【0009】
本開示の通信管理方法では、互いに異なる複数の通信回線に対応する複数の通信モジュールを含む通信部を備えた車載通信装置に対し、前記車載通信装置とネットワークを介して通信可能な通信管理サーバから、前記複数の通信回線のうちで通信状態の安定度が他の通信回線より高い通信回線を前記車載通信装置に通知し、前記車載通信装置は、車両の停止時に、通知された前記安定度が他の通信回線より高い通信回線に基づいて通信管理サーバからの遠隔起動に使用する起動回線を少なくとも1つ決定し、前記起動回線に対応する一部の通信モジュールへの電源からの電力の供給を維持したままで前記一部の通信モジュールを前記通信管理サーバからの要求信号のみを受信可能な待機状態とすると共に、残りの通信モジュールへの前記電源からの電力の供給を遮断して前記残りの通信モジュールを停止状態とし、前記通信管理サーバは、前記起動回線を介して起動要求を送信することにより前記車載通信装置を起動する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1の実施形態に係る通信管理システムの構成の一例を示す模式図である。
図2】車載通信装置の電気的構成の一例を示すブロック図である。
図3】通信管理サーバの電気的構成の一例を示すブロック図である。
図4】通信モジュールの状態遷移図である。
図5】本開示の第1の実施形態に係る通信管理システムの各部の機能的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図6】本開示の通信管理システムの処理手順の概要の一例を示すシーケンス図である。
図7】本開示の通信管理システムの処理手順の概要の他の一例を示すシーケンス図である。
図8】車両から収集された個別データを管理するテーブルの一例を示す図表である。
図9】データベースから取得される統計的データの一例を示す模式図である。
図10】車載通信装置によって実行される「待機状態移行処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図11】車載通信装置によって実行されるトリガを受信した場合の対応処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図12】「起動処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図13】「回線変更処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図14】「回線変更処理」の手順の他の一例を示すフローチャートである。
図15】通信管理サーバによって実行されるトリガを受信した場合の対応処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図16】「待機状態移行支援処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図17】起動回線登録テーブルの一例を示す図表である。
図18】「遠隔起動処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図19】通信管理サーバによって実行される「通信状態監視処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図20】通信状態が変動する様子を示すグラフである。
図21】本開示の第2の実施形態に係る通信管理システムの構成の一例を示す模式図である。
図22】本開示の第2の実施形態に係る通信管理システムの各部の機能的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図23】本開示の第2の実施形態に係る「待機状態移行処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図24】本開示の第3の実施形態に係る通信管理システムの構成の一例を示す模式図である。
図25】本開示の第3の実施形態に係る通信管理システムの各部の機能的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図26】本開示の第3の実施形態に係る「待機状態移行処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図27】本開示の第3の実施形態に係る「遠隔起動処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
まず、本開示の第1の実施形態に係る通信管理システムについて説明する。
【0013】
<通信管理システム>
図1に示すように、本開示の通信管理システムは、車両に搭載された車載通信装置10と、管理センタに設置された通信管理サーバ20と、通信管理サーバ20に接続されたデータベース(以下、「DB」と略称する。)30と、利用者Dが使用する端末装置40と、を備えている。車両は、自律的に走行する自動運転車両であってもよく、利用者Dの運転により走行する一般車両であってもよい。
【0014】
車載通信装置10及び端末装置40は、無線基地局52を介してインターネット等の公衆網であるネットワーク50に接続されている。車載通信装置10は、ネットワーク50に接続された通信管理サーバ20と無線により通信を行う。また、通信管理サーバ20とDB30とは、LAN等で接続されており、有線又は無線により通信を行う。
【0015】
本開示の通信管理システムは、省電力モードに移行した車載通信装置10を、通信管理サーバ20から遠隔起動するシステムである。通信管理サーバ20は、複数の車載通信装置10を管理するサーバであり、車載通信装置10が省電力モードに移行した後も、各車載通信装置10を管理し、各車載通信装置10を遠隔起動可能な状態に維持する。
【0016】
なお、車載通信装置10、通信管理サーバ20、DB30及び端末装置40を1つずつ図示しているが、各装置の個数は図示した例に限定されない。DB30構築の観点からは、複数の車両、即ち、複数の車載通信装置10が存在することが前提となる。また、通信管理サーバ20、DB30及び端末装置40もそれぞれ複数個配置されていてもよい。
【0017】
また、通信管理サーバ20及びDB30の設置場所も一例に過ぎず、例えばクラウド上に配置されていてもよい。さらに、端末装置40は省略してもよい。本実施の形態では、端末装置40には遠隔起動用のアプリケーションプログラムが格納されており、通信管理サーバ20は端末装置40からの起動指示に基づいて車載通信装置10に起動要求を行うが、通信管理サーバ20が起動要求を行うか否かを自ら決定してもよい。
【0018】
(各装置の電気的構成)
ここで、車載通信装置10の電気的構成の一例について説明する。
図2に示すように、車載通信装置10は、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)等であり、コンピュータである情報処理部12、通信部14、各種センサ16、及び記憶部18を備えている。情報処理部12は、CPU(Central Processing Unit)12A、ROM(Read Only Memory)12B、RAM(Random Access Memory)12C、不揮発性のメモリ12D、及び入出力部(I/O)12Eを備えており、これら各部はバス12Fにより相互に接続されている。通信部14、各種センサ16、及び記憶部18の各部は、I/O120Eに接続されている。
【0019】
CPU12Aは、記憶部18からプログラムを読み出し、RAM12Cを作業領域としてプログラムを実行する。CPU12Aは、記憶部18に記憶されているプログラムにしたがって、I/O12Eに接続されている各部の制御及び各種の演算処理を行う。
【0020】
各種センサ16としては、自車両の現在位置を取得するGPS(Global Positioning System)装置の外に、車両の前方、側方など車両の周囲を撮影する車載カメラ、車両の周囲の障害物を検知するミリ波レーダやLIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)、車両周囲の音声を収集するマイクロフォン等を含んでいてもよい。本開示では、主にGPS装置を使用するため、以下ではGPS装置16と称する。
【0021】
通信部14は、外部(例えば、通信管理サーバ20)と通信するための通信インタフェースである。外部との通信には、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格、LTE(Long Term Evolution)や4G、5G等の広域無線通信規格が用いられる。また、通信部14は、各々が独立に制御可能な複数の通信モジュール15~15を備えている。複数の通信モジュール15~15は、利用可能な複数の通信事業者(キャリア)の各々に対応して設けられ、使用する通信回線がそれぞれ異なっている。複数の通信モジュール15~15の各々を区別する必要がない場合は、通信モジュール15と総称する。
【0022】
記憶部18は、HDD(Hard Disk Drive)等の外部記憶装置である。記憶部18には、各種プログラムや各種データが格納されている。本実施の形態では、記憶部18には、後述する「待機状態移行処理」や「起動処理」や「回線変更処理」を実行するための各種プログラム60、各種データ62が格納されている。
【0023】
なお、一般車両に搭載される場合、車載通信装置10は、いわゆるHMI(Human Machine Interface)である各種ユーザインタフェースを備えていてもよい。また、自動運転車両に搭載される場合、車載通信装置10は、車両の各機構を制御して自動運転や遠隔操縦を実現するための車両制御部をさらに備えていてもよい。
【0024】
次に、通信管理サーバ20の電気的構成の一例について説明する。
図3に示すように、通信管理サーバ20は、情報処理部22、通信部24、及び記憶部26を備えている。サーバコンピュータである情報処理部22は、CPU22A、ROM22B、RAM22C、不揮発性のメモリ22D、及び入出力部(I/O)22Eを備えており、これら各部はバス22Fにより相互に接続されている。通信部24及び記憶部26の各部は、I/O22Eに接続されている。
【0025】
情報処理部22及び通信部24は、車載通信装置10と同様の構成であるため説明を省略する。記憶部26は、HDD等の外部記憶装置である。記憶部26には、後述する「待機状態移行支援処理」や「遠隔起動処理」や「通信状態監視処理」を実行するための各種プログラム64や、起動回線登録テーブル等の各種データ66が格納されている。
【0026】
なお、端末装置40の電気的構成の説明は省略する。端末装置40は、ユーザインタフェースとしての操作表示部を備える以外は、通信管理サーバ20と同様の構成である。
【0027】
(システムの機能構成)
次に、図4図7を参照して、システムの機能構成について説明する。
【0028】
まず、通信モジュール15の状態遷移について説明する。
各通信モジュール15は、図4に示すように、遠隔起動待機状態(以下、「待機状態」という。)、起動状態、及び停止状態という3つの状態を有する。通信モジュール15は、情報処理部12により制御され、待機指示信号が入力されると、起動状態から待機状態に移行し、起動指示信号が入力されると、待機状態から起動状態に移行する。また、通信モジュール15は、電源がオフにされると停止状態となり、電源がオンにされると起動状態になる。
【0029】
遠隔起動待機状態とは、通信管理サーバ20からの起動要求を受信して起動状態になるのを待機する状態である。待機状態では、通信モジュール15の電源はオンの状態であるが、省電力モードであるためデータ通信は行うことができない。起動状態とは、データ通信が可能な状態で、電源もオンの状態である。停止状態とは、電源がオフの状態であり、データ通信を行うことができない。
【0030】
次に、図5を参照してシステムの機能構成について説明する。
車載通信装置10は、通信状態検出部70及び電源制御部72を備えている。車載通信装置10側で後述する各種プログラムが実行されることにより通信状態検出部70及び電源制御部72が実現される。
【0031】
通信状態検出部70は、通信部14が使用する複数の通信回線の通信状態を検出する。具体的には、通信状態検出部70は、通信部14で計測された電波強度など通信状態を表すパラメータの1つを通信部14から取得する。なお、通信状態を表すパラメータについては後述する。また、通信状態検出部70は、GPS装置16から車両の現在の位置情報を取得する。電源制御部72は、通信部14の複数の通信モジュール15の状態の切り替えを制御すると共に、複数の通信モジュール15への電力の供給を制御する。
【0032】
電源制御部72は、省電力モードでは、遠隔起動に使用する通信回線(以下、「起動回線」という。)に対応する一部の通信モジュール15を待機状態にし、残りの通信モジュール15を停止状態にする。複数の起動回線を遠隔起動に使用してもよく、その場合は、複数の起動回線に対応する複数の通信モジュール15を待機状態にする。電源制御部72は、起動回線を通信管理サーバ20に通知する。
【0033】
通信管理サーバ20は、情報収集部74、起動回線候補通知部76、遠隔起動部78、及び通信状態監視部80を備えている。通信管理サーバ20側で後述する各種プログラムが実行されることにより情報収集部74、起動回線候補通知部76、遠隔起動部78、及び通信状態監視部80の各々が実現される。
【0034】
情報収集部74は、複数の車載通信装置10の各々から各駐車地点での通信状態に関する情報(以下、「通信状態情報」という。)を収集してDB30に格納する。起動回線候補通知部76は、DB30の情報を参照して起動回線の候補を選定する。起動回線候補は、複数選定されてもよい。起動回線候補通知部76は、選定した起動回線候補を車載通信装置10に通知する。
【0035】
通信状態情報には、通信状態を表すパラメータの値が含まれる。通信状態を表すパラメータとしては、電波強度、輻輳状態、スループット、レイテンシ等がある。本実施の形態では、列挙したパラメータのうちの何れか1つを指標として通信回線の安定度を判断する。輻輳状態は混雑度合いを表し、スループットは単位時間あたりに伝送できるデータ量を表し、レイテンシは遅延時間を表す。例えば、輻輳状態やレイテンシを指標とする場合、通信回線の安定度は、通信速度の速さを表すことになる。
【0036】
図8に示すように、車載通信装置10から収集された個別データ、即ち、駐車した位置や時刻、利用可能な全部の通信回線の通信状態(例えば、通信回線A、B、C各々の電波強度)は、例えばテーブルの形式でDB30に蓄積されてゆく。多くのデータがDB30に蓄積されることで、蓄積されたデータは統計的データとして利用できるようになる。例えば、図9に示すように、DB30から、特定のエリアについての通信状態を表すパラメータの時間帯毎の代表値(例えば、平均値、最大値、最小値など)を得ることができる。
【0037】
図9に示す例は、東京都千代田区についての電波強度の24時間の変化予測を示す。通信回線Aは、午前中は電波強度が低く通信状態が不安定であるが、午後には電波強度が高くなり通信状態が安定する。このように、各通信回線の通信状態は、例えば基地局の混雑状況等の影響を受けて変動するが、その変動傾向は統計的データから予測することができる。また、一時的な通信障害が発生した場合にも、通信障害が発生したエリアからのデータが蓄積されることで、復旧までの通信状態の変動傾向をリアルタイムに把握することができる。
【0038】
遠隔起動部78は、端末装置40からの起動指示に応じて、通知された起動回線を介して車載通信装置10の各通信モジュールを遠隔起動する。複数の起動回線がある場合は、そのうちの少なくとも1つの起動回線を介して各通信モジュールを遠隔起動する。通信状態監視部80は、DB30の情報を参照して、車載通信装置10から通知された起動回線の通信状態を監視している。遠隔起動部78は、通知された起動回線の通信状態が悪化しそうな場合に、車載通信装置10に起動回線の変更を要求する。
【0039】
次に、シーケンス図を参照して処理の流れの概要を時系列に説明する。
図6に示すように、本開示の通信管理システムの処理は、車両の駐車により車載通信装置10が移動を停止すると開始する(S1)。まず、車載通信装置10では、通信状態検出部70が、通信部14から複数の通信回線の通信状態を検出し、GPS装置16から車両の現在の位置情報を取得する(S2)。取得した通信状態情報と位置情報とを通信管理サーバ20に送信する(S3)。
【0040】
通信管理サーバ20では、情報収集部74が、通信状態情報と位置情報とを時刻と関連付けてDB30に保存する(S4)。起動回線候補通知部76は、位置情報から駐車したエリアを特定し、DB30を参照して、特定したエリアと時間帯とから通信状態の良好な、即ち、他の通信回線よりも安定度の高い通信回線の情報を取得して車載通信装置10に送信する(S5)。起動回線候補が車載通信装置10に通知される。
【0041】
車載通信装置10では、電源制御部72は、通知された起動回線候補、即ち、他の通信回線よりも安定度の高い通信回線を起動回線に決定し、起動回線に対応する通信モジュールを、電源はオンのままで待機状態にする(S6)。電源制御部72は、どの通信回線で遠隔起動待ちにするかを通信管理サーバ20に通知する(S7)。通信管理サーバ20は、どの通信回線で遠隔起動待ちかを端末装置40にも通知しておく(S8)。電源制御部72は、残りの通信モジュールを、電源をオフにして停止状態にする(S9)。そして、車載通信装置10は、省電力モードに移行し、通信管理サーバ20から遠隔起動されるのを待つ。
【0042】
端末装置40から通信管理サーバ20に起動指示が送信される(S10)。通信管理サーバ20では、遠隔起動部78が、端末装置40から起動指示を受信すると、起動回線を介して車載通信装置10に起動要求を送信する(S11)。車載通信装置10では、電源制御部72は、全部の通信モジュールを起動状態にし(S12)、通信管理サーバ20に遠隔起動完了通知を送信する(S13)。通信管理サーバ20は、端末装置40にも遠隔起動完了を通知する(S14)。
【0043】
また、通信管理サーバ20は、起動回線の通信状態が悪化すると、車載通信装置10に起動回線の変更を要求する。その場合の処理の流れを、図7を参照して説明する。
【0044】
図7に示すように、通信管理サーバ20では、通信状態監視部80が、DB30の情報を参照して、起動回線が通知されている車載通信装置10の各々について、起動回線の通信状況が悪化していないか否かを定期的に確認している(S20)。そして、遠隔起動部78は、起動回線の通信状況が今後悪化しそうな場合は、起動回線を介して車載通信装置10に起動回線の変更を要求する回線変更要求を送信する(S21)。なお、ここでは、次に説明するように、全部の通信モジュールを遠隔起動する。
【0045】
車載通信装置10では、電源制御部72は、回線変更要求に応じて、全部の通信モジュールを起動状態にし(S22)、通信管理サーバ20に準備完了通知を送信する(S23)。即ち、管理センタ側の判断で、車載通信装置10は一度遠隔起動される。通信管理サーバ20では、起動回線候補通知部76が、DB30を参照して、安定度の高い通信回線の情報を取得して車載通信装置10に送信する(S24)。新たな起動回線候補が車載通信装置10に通知される。
【0046】
車載通信装置10では、電源制御部72は、通知された起動回線候補、即ち、安定度の高い通信回線を起動回線に決定し、起動回線に対応する通信モジュールを電源はオンのままで待機状態にする(S25)。電源制御部72は、残りの通信モジュールを、電源をオフにして停止状態にする(S26)。電源制御部72は、どの通信回線で遠隔起動待ちにするかを通信管理サーバ20に通知する(S27)。通信管理サーバ20は、どの通信回線で遠隔起動待ちかを端末装置40にも通知しておく(S28)。そして、車載通信装置10は、再び省電力モードに移行し、通信管理サーバ20から遠隔起動されるのを待つ。
【0047】
<車載通信装置側の処理>
次に、車載通信装置側で実行される各種プログラムについて説明する。
【0048】
(待機状態移行処理)
まず、図10を参照して「待機状態移行処理」を実行するプログラムについて説明する。このプログラムは、車載通信装置10のCPU12Aにより実行され、車載通信装置10が移動を停止すると開始される。
【0049】
まず、ステップS100で、CPU12Aは、全部の通信回線の通信状態を取得する。
次に、ステップS102で、CPU12Aは、通信管理サーバ20と通信可能な回線があるか否かを判断する。通信可能な回線がある場合は、ステップS104に進み、通信可能な回線が無い場合は、ステップS122に進む。次に、ステップS104で、CPU12Aは、GPS装置16から自車両の位置情報の取得を試みる。
【0050】
通信可能な回線が無い場合は、ステップS122で、駐車場所の変更を指示して、ステップS100に戻る。全部のキャリアで圏外になる等、繋がる通信回線が1つも無い場合は、通信管理サーバ20との通信が行えない。このため、一般車両ではドライバに対し警告を行い、自動運転車両では車両制御部に駐車場所の変更を指示する。
【0051】
次に、ステップS106で、CPU12Aは、GPS装置16から位置情報を取得できたか否かを判断する。位置情報を取得できた場合は、ステップS108に進み、位置情報を取得できなかった場合は、ステップS124に進む。次に、ステップS108で、CPU12Aは、通信部14を制御して、通信状態情報と位置情報とを通信管理サーバ20に送信させる。
【0052】
次に、ステップS110で、CPU12Aは、返信を受信するまで、通信管理サーバ20から返信を受信したか否かを繰り返し判断する。駐車したエリアでのデータがDB30に存在しない等により、通信管理サーバ20が起動回線候補を選定できない場合がある。この場合は、通信管理サーバ20から起動回線候補を選定できない旨が通知される。
【0053】
次に、ステップS112で、CPU12Aは、通信管理サーバ20から起動回線候補を取得できたか否かを判断する。起動回線候補を取得できた場合は、ステップS114に進み、通信管理サーバ20から起動回線候補を取得できなかった場合は、ステップS124に進む。
【0054】
起動回線候補を取得できた場合は、ステップS114で、CPU12Aは、候補の通信回線を起動回線に決定する。一方、位置情報を取得できなかった場合及び起動回線候補を取得できなかった場合は、ステップS124で、CPU12Aは、ステップS100で取得された全部の通信回線の通信状態を参照して、通信状態が最良の通信回線を起動回線に決定する。
【0055】
次に、ステップS116で、CPU12Aは、起動回線に対応する通信モジュールを待機状態にし、続くステップS118で、起動回線を通信管理サーバ20に通知し、続くステップS120で、残りの通信モジュールを停止状態にして、ルーチンを終了する。
【0056】
(起動処理と回線変更処理)
次に、「起動処理」を実行するプログラムと「回線変更処理」を実行するプログラムとについて説明する。これらのプログラムは、トリガ信号の受信により開始される。車載通信装置10のCPU12Aは、図11に示すように、何かトリガ信号を受信すると、ステップS200で、遠隔起動要求を受信したかを判断する。遠隔起動要求を受信した場合は、ステップS202に進み、ステップS202で「起動処理」を実行する。一方、遠隔起動要求を受信していない場合、受信したのは回線変更要求であるため、ステップS204に進み、ステップS204で「起動回線変更処理」を実行する。
【0057】
図12を参照して「起動処理」の手順を説明する。
まず、ステップS210で、CPU12Aは、起動要求に応じて、全部の通信モジュールを起動状態にする。続くステップS212で、CPU12Aは、通信部14を制御して、通信管理サーバ20に遠隔起動完了通知を送信させて、ルーチンを終了する。
【0058】
図13を参照して「回線変更処理」の手順を説明する。
まず、ステップS220で、CPU12Aは、回線変更要求に応じて、全部の通信モジュールを起動状態にする。次に、ステップS222で、CPU12Aは、全部の通信回線の通信状態を取得する。次に、ステップS224で、CPU12Aは、通信部14を制御して、通信状態情報及び準備完了通知を通信管理サーバ20に送信させる。
【0059】
次に、ステップS226で、CPU12Aは、通信管理サーバ20から新たな起動回線候補を取得する。次に、ステップS228で、CPU12Aは、新たな起動回線候補の通信回線を新たな起動回線に決定し、新たな起動回線に対応する通信モジュールを待機状態にし、続くステップS230で、残りの通信モジュールを停止状態にする。次に、ステップS232で、CPU12Aは、新たな起動回線を通信管理サーバ20に通知して、ルーチンを終了する。
【0060】
なお、図13に示す例では、車載通信装置10は、回線変更時にも全部の通信回線の通信状態を取得して、通信状態情報を通信管理サーバ20に送信するが、これはDB30を充実させるためである。通信管理サーバ20から予め変更先の通信回線を指定して回線変更を要求してもよい。この場合の回線変更処理の手順を図14に示す。
【0061】
図14に示す例では、まず、ステップS240で、CPU12Aは、変更先の通信回線を取得する。次に、ステップS242で、CPU12Aは、待機状態の通信モジュールを停止状態にする。次に、ステップS244で、CPU12Aは、変更先の通信回線に対応する通信モジュールを待機状態にする。次に、ステップS246で、CPU12Aは、新たな起動回線を通信管理サーバ20に通知して、ルーチンを終了する。
【0062】
<通信管理サーバ側の処理>
次に、通信管理サーバ20側で実行される各種プログラムについて説明する。
まず、「待機状態移行支援処理」を実行するプログラムと「遠隔起動処理」を実行するプログラムとについて説明する。これらのプログラムは、トリガ信号の受信により開始される。通信管理サーバ20のCPU22Aは、図15に示すように、何かトリガ信号を受信すると、ステップS300で、通信状態情報(及び位置情報)を受信したかを判断し、通信状態情報を受信した場合は、ステップS302で「待機状態移行支援処理」を実行する。一方、通信状態情報を受信していない場合、受信したのは端末装置40からの起動指示であるため、ステップS304で、CPU22Aは「遠隔起動処理」を実行する。
【0063】
(待機状態移行支援処理)
図16を参照して「待機状態移行支援処理」の手順を説明する。
まず、ステップS310で、CPU22Aは、通信状態情報及び位置情報を受信すると、通信状態情報と位置情報とを時刻と関連付けてDB30に保存する。次に、ステップS312で、CPU22Aは、DB30を参照して、位置情報に応じたエリアと時間帯とから起動回線候補を選定する。次に、ステップS314で、CPU22Aは、通信部24を制御して、選定した起動回線候補を車載通信装置10に通知する。次に、ステップS316で、CPU22Aは、車載通信装置10から起動回線通知を受信したか否かを判断し、起動回線通知を受信した場合には、ステップS318で、受信した起動回線を車両に関連付けて登録して、ルーチンを終了する。
【0064】
各車両には1台の車載通信装置10が搭載されている。したがって、車載通信装置10は、車両の識別情報により識別することができる。通信管理サーバ20の記憶部26には、例えば、起動回線登録テーブルが記憶されている。起動回線登録テーブルは、図17に示すように、車両の識別情報(例えば、車両ID)、駐車位置、及び待機回線の関係がテーブルの形式で記憶するものである。起動回線通知を受信した場合には、新たな関係がこの起動回線登録テーブルに追加される。逆に、車載通信装置10が遠隔起動された場合には、起動回線を管理する必要が無くなるため、該当する関係がテーブルから削除される。
【0065】
(遠隔起動処理)
図18を参照して「遠隔起動処理」の手順を説明する。
まず、ステップS320で、CPU22Aは、端末装置40からの起動指示に応じて、通信部24を制御して、起動回線を介して車載通信装置10に起動要求を送信させる。次に、ステップS322で、CPU22Aは、車載通信装置10から起動完了通知を受信したか否かを判断し、起動完了通知を受信した場合には、ステップS324で、通信部24を制御して端末装置40に起動完了通知を送信させて、ルーチンを終了する。
【0066】
(通信状態監視処理)
次に、図19を参照して「通信状態監視処理」を実行するプログラムについて説明する。このプログラムは、通信管理サーバ20のCPU22Aにより定期的に実行される。
【0067】
まず、ステップS400で、CPU22Aは、起動回線登録テーブルから対象車両の1つを選択する。上記の通り、車載通信装置10は、車両と1対1で対応している。次に、ステップS402で、CPU22Aは、車両の駐車エリアの所定時間(例えば、1時間)経過後の起動回線の通信状態を予測する。次に、ステップS404で、CPU22Aは、起動回線で通信管理サーバ20と通信可能か否かを判断する。起動回線で通信できない場合は、ステップS406に進む。一方、起動回線で通信可能な場合は、起動回線を変更する必要がないのでステップS418に進む。
【0068】
ここで、図20を参照して起動回線で通信可能か否かを判断する手法について説明する。図示した例では、通信回線はA、B、Cの3種類であり、通信状態を表す指標は電波強度である。各通信回線の電波強度は時間と共に変動し、電波強度が閾値以下では通信を行うことができない。例えば、起動回線が通信回線Bの車両があるとする。現時点から所定時間経過後を見ると、通信回線Bの電波強度は閾値以下になり、通信回線Bでは通信管理サーバ20と通信を行うことができない。
【0069】
次に、ステップS406で、CPU22Aは、通信部24を制御して、車載通信装置10に回線変更要求を送信させる。次に、ステップS408で、CPU22Aは、準備完了通知を受信したか否かを判断し、準備完了通知を受信した場合には、ステップS410で、DB30を参照して新たな起動回線候補、即ち、変更先の通信回線を選定し、続くステップS412で、新たな起動回線候補を車載通信装置10に通知する。
【0070】
次に、ステップS414で、CPU22Aは、車載通信装置10から起動回線通知を受信したか否かを判断し、起動回線通知を受信した場合には、ステップS416で、受信した起動回線を車両に関連付けて登録する。例えば、図17に示す起動回線登録テーブルの起動回線の欄を更新する。次に、ステップS418で、CPU22Aは、次の車両があるかを判断し、次の車両がある場合はステップS400に戻り、次の車両が無い場合はルーチンを終了する。こうして、起動回線を管理している車両について1台ずつ起動回線の通信状態を確認する。
【0071】
以上の通り、第1の実施形態によれば、車載通信装置は、通信状態が良好な通信回線に対応する一部の通信モジュールを待機状態にして省電力モードに移行するので、遠隔起動可能な状態を維持することができる。また、他の通信モジュールを停止状態にするので、全部の通信モジュールを待機状態とする場合に比べて消費電力を抑えることができる。
【0072】
また、第1の実施形態によれば、駐車中の各車両から通信状態情報がデータベースに蓄積されるので、エリア毎かつ時間帯毎の各通信回線の通信状態に関する統計的データを得ることができる。さらに、通信管理サーバは、データベースの情報を活用して、現在又は所定時間経過後において特定のエリア及び特定の時間における通信状態が良好な通信回線を選定することができる。
【0073】
また、第1の実施形態によれば、車載通信装置から通信管理サーバに起動回線が通知されるので、通信管理サーバは起動回線を介して車載通信装置を確実に遠隔起動することができる。さらに、通信管理サーバが、車載通信装置から通知された起動回線の通信状態を定期的に確認し、起動回線の通信状態が悪化した場合に、車載通信装置に起動回線の変更を要求するので、各通信回線の通信状態の変動にも拘わらず、遠隔起動可能な状態を維持することができる。
【0074】
[第2実施形態]
第2の実施形態に係る通信管理システムは、図21に示すように、DB30をネットワーク50上に配置し、車載通信装置10から直接アクセスできるようにした以外は、第1の実施の形態と同様であるため、同じ構成部分については同じ符号を付して説明を省略し、相違点のみ説明する。なお、この場合のDB30は、データベースサーバやファイルサーバとしてもよく、NAS(Network Attached Storage)としてもよい。
【0075】
次に、図22を参照してシステムの機能構成について説明する。
車載通信装置10は、通信状態検出部70及び電源制御部72を備えている。通信管理サーバ20は、遠隔起動部78及び通信状態監視部80を備えている。遠隔起動部78及び通信状態監視部80の機能は、第1の実施形態と同様である。
【0076】
通信状態検出部70は、複数の通信回線の通信状態と車両の現在の位置情報を取得する。また、通信状態検出部70は、位置情報及び通信状態情報をDB30に格納する。電源制御部72は、DB30の情報を参照して起動回線候補の取得を試み、起動回線を決定する。電源制御部72は、省電力モードでは、起動回線に対応する一部の通信モジュール15を待機状態にし、残りの通信モジュール15を停止状態にする。そして、電源制御部72は、起動回線を通信管理サーバ20に通知する。
【0077】
次に、図23を参照して車載通信装置10側で実行される「待機状態移行処理」の手順を説明する。図23に示す手順は、図10のステップS108及びステップS110を、ステップS508及びステップS510に置き換えた以外は、同じ手順であるため、ステップS508及びステップS510だけを説明する。ステップS508で、CPU12Aは、通信部14を制御して、通信状態情報と位置情報とをDB30に送信させる。次に、ステップS510で、CPU12Aは、DB30に直接アクセスして、位置情報に応じたエリアと時間帯とから起動回線候補を取得する。
【0078】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる外に、車載通信装置からデータベースに直接アクセスして、起動回線候補を取得することができる。したがって、車載通信装置は、通信管理サーバの応答を待たずに省電力モードに移行することができる。
【0079】
[第3実施形態]
第3の実施形態に係る通信管理システムは、図24に示すように、DB30とは別に、車両側に専用DB32を配置した以外は、第1の実施の形態と同様であるため、同じ構成部分については同じ符号を付して説明を省略し、相違点のみ説明する。
【0080】
次に、図25を参照してシステムの機能構成について説明する。
車載通信装置10は、専用DB32を備えている。専用DB32は、情報処理部22の外部に配置されていてもよく、例えば、外部記憶装置である記憶部18に格納されていてもよい。専用DB32には、駐車時に自車両で取得した通信状態情報及び位置情報が、時間帯と関連付けて記憶されている。車載通信装置10の電源制御部72は、一時的に通信管理サーバ20との通信が行えなくなった場合は、専用DB32の情報を参照して起動回線候補を選定する。
【0081】
電源制御部72は、省電力モードでは、起動回線候補の通信回線に対応する一部の通信モジュール15を待機状態にし、残りの通信モジュール15を停止状態にする。通信管理サーバ20の遠隔起動部78は、車載通信装置10との通信が復旧すると、全部の通信回線を介して車載通信装置10の各通信モジュールを遠隔起動する。
【0082】
次に、図26を参照して車載通信装置10側で実行される「待機状態移行処理」の手順を説明する。まず、ステップS600で、CPU12Aは、全部の通信回線の通信状態を取得する。次に、ステップS602で、CPU12Aは、通信可能な回線があるか否かを判断する。通信可能な回線がある場合は、ステップS604に進み、通信可能な回線が無い場合は、ステップS616で、駐車場所の変更を指示して、ステップS600に戻る。次に、ステップS604で、CPU12Aは、GPS装置16から自車両の位置情報を取得する。
【0083】
次に、ステップS606で、CPU12Aは、通信状態情報及び位置情報を専用DB32に格納する。次に、ステップS608で、CPU12Aは、専用DB32を参照して、位置情報に応じたエリアと時間帯とから起動回線候補を選定する。次に、ステップS610で、CPU12Aは、起動回線候補の通信回線を起動回線に決定する。次に、ステップS612で、CPU12Aは、起動回線に対応する通信モジュールを待機状態にし、続くステップS614で、残りの通信モジュールを停止状態にして、ルーチンを終了する。
【0084】
次に、図27を参照して通信管理サーバ20側で実行される「遠隔起動処理」の手順を説明する。まず、ステップS700で、CPU22Aは、端末装置40からの起動指示に応じて、通信部24を制御して、全部の通信回線で車載通信装置10に起動要求を送信させる。次に、ステップS702で、CPU22Aは、車載通信装置10から起動完了通知を受信したか否かを判断し、起動完了通知を受信した場合には、ステップS704で、通信部24を制御して、端末装置40に起動完了通知を送信させて、ルーチンを終了する。
【0085】
第3の実施形態によれば、通信可能なときには第1の実施形態と同様の効果を得ることができる外に、外部と通信が行えない状況であっても、自車両に設けた専用のデータベースを参照して起動回線候補を選定することで、起動回線を決定して省電力モードに移行することができる。また、通信管理サーバ側では、どの通信回線が起動回線かは不明であるが、全部の通信回線で車載通信装置に起動要求を送信することで、車載通信装置を起動することができる。
【0086】
[変形例]
以上、車載通信装置、通信管理サーバ、プログラム、通信管理システム及び通信管理方法の例示的な実施の形態について説明したが、本発明は、実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の主旨を逸脱しない範囲で実施の形態に多様な変更又は改良を加えることができ、当該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
例えば、上記各実施形態は、適宜組み合わせて実行することも可能である。
【0088】
また、上記各実施形態では、複数の起動回線がある場合について説明したが、複数の起動回線がある場合、複数の起動回線に優先順位をつけてもよい。例えば、通信管理サーバは、データベースにある通信状態履歴から最も安定した通信状態の通信回線を選んで、車載通信装置に起動要求を送信するようにしてもよい。或いは、通信管理サーバは、通信速度が速い通信回線を選んで、車載通信装置に起動要求を送信するようにしてもよい。
【0089】
また、上記各実施形態では、起動回線候補、即ち、安定度の高い通信回線の情報を、通信管理サーバを介して又はDB30から直接取得する例について説明したが、これらの情報は、車車間通信(V2V)やメッシュ通信網を通じて他社から取得することも可能である。
【0090】
また、例えば、上記実施の形態で説明したプログラムの処理の流れも一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。また、上記実施の形態では、プログラムを実行することにより、実施形態に係る処理がコンピュータを利用してソフトウェア構成により実現される場合について説明したが、これに限らない。例えば、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成との組み合わせによって処理を実現してもよい。
【0091】
また、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行したプログラムを、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。
【0092】
また、上記各プログラムを、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0093】
また、上記各実施形態では、プログラムが記憶部に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、USB(Universal Serial Bus)メモリ、半導体メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、上記各プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10 車載通信装置、14 通信部、15 通信モジュール、16 GPS装置、20 通信管理サーバ、30 データベース(DB)、32 専用DB、40 端末装置、50 ネットワーク、52 無線基地局、70 通信状態検出部、72 電源制御部、74 情報収集部、76 起動回線候補通知部、78 遠隔起動部、80 通信状態監視部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27