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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20241217BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20241217BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20241217BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C03C27/12 N
B32B7/023
B32B17/06
B60J1/00 H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021518352
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017650
(87)【国際公開番号】W WO2020226075
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019087853
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】西澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
(72)【発明者】
【氏名】木村 里紗
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186630(WO,A1)
【文献】特開2017-198807(JP,A)
【文献】特開2006-113230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 1/00 - 43/00
B60J 1/00 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内に搭載された投影装置と、前記投影装置から照射される光束が車外側へ透過する合わせガラスと、を有する車両であって、
前記合わせガラスは、
車内側ガラス板と、
車外側ガラス板と、
前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、
前記車外側ガラス板と前記車内側ガラス板との間に前記中間膜と接して配置され、前記光束が照射される散乱層と、を有し、
前記合わせガラスの可視光線透過率Tv(%)と、前記散乱層に入射した前記光束に含まれる各光線の前記散乱層への入射角θ(deg)との関係が下記式(1)を満足する車両(ただし、可視光線透過率Tvが20(%)以上の場合を除く)。
【数1】
【請求項2】
前記合わせガラスの可視光線透過率Tv(%)と、前記散乱層に入射した前記光束に含まれる各光線の前記散乱層への入射角θ(deg)との関係が下記式(2)を満足する請求項1に記載の車両。
【数2】
【請求項3】
前記合わせガラスの可視光線透過率Tv(%)と、前記散乱層に入射した前記光束に含まれる各光線の前記散乱層への入射角θ(deg)との関係が下記式(3)を満足する請求項1又は2に記載の車両。
【数3】
【請求項4】
前記散乱層は、透明スクリーンフィルム、調光フィルム、散乱コート、蛍光フィルム、蛍光コートの何れか1つ以上を含む請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記散乱層の厚みは、3μm以上800μm以下である請求項1乃至4の何れか一項に記載の車両。
【請求項6】
前記合わせガラスは、可視光線透過率低下手段を有する請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記可視光線透過率低下手段は、前記散乱層より車内側に配置されている請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記合わせガラスは、前記車外側ガラス板の車外側の面の重心の法線が、地面に対して空を向く方向に1deg以上傾いている請求項1乃至7の何れか一項に記載の車両。
【請求項9】
前記合わせガラスは、前記車外側ガラス板の車外側の面の重心の法線が、地面に対して空を向く方向に1deg以上45deg以下傾いている請求項8に記載の車両。
【請求項10】
前記合わせガラスは、単曲曲げ形状であり、水平方向の曲率、又は垂直方向の曲率が半径500mm以上100000mm以下である請求項1乃至9の何れか一項に記載の車両。
【請求項11】
前記合わせガラスは、複曲曲げ形状であり、水平方向の曲率が半径500mm以上100000mm以下であり、垂直方向の曲率が半径500mm以上100000mm以下である請求項1乃至9の何れか一項に記載の車両。
【請求項12】
前記合わせガラスは、複曲曲げ形状であり、水平方向の曲率が半径500mm以上50000mm以下であり、垂直方向の曲率が半径500mm以上50000mm以下である請求項11に記載の車両。
【請求項13】
前記散乱層の外周縁は、前記合わせガラスの外周縁から5mm以上、前記合わせガラスの内面側に位置している請求項1乃至12の何れか一項に記載の車両。
【請求項14】
前記車内側ガラス板の車内側の面及び/又は前記車外側ガラス板の車外側の面に、反射防止用コートを有する請求項1乃至13の何れか一項に記載の車両。
【請求項15】
前記合わせガラスは、可視光線反射率Rvが15%以下である請求項1乃至14の何れか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の窓ガラスとして、透明スクリーンフィルム等の散乱層を封入した合わせガラスが用いられる場合がある。
【0003】
透明スクリーンフィルムには、投影装置から投影された光束を投影装置と同じ側にいる観察者に映像として視認可能に表示する反射型透明スクリーンフィルムと、投影装置から投影された光束を投影装置と反対側にいる観察者に映像として視認可能に表示する透過型透明スクリーンフィルムとがある。
【0004】
透過型透明スクリーンフィルムとしては、例えば、第1の透明基材と第2の透明基材との間に、透明樹脂及び光散乱材料を含む散乱層を有する透過型透明スクリーンフィルムが挙げられる。この透過型透明スクリーンフィルムでは、投影装置から投影され、第1の透明基材側の表面から入射した光束が、散乱層において散乱することによって結像し、投影装置と反対側にいる観察者に映像として視認可能に表示される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5752834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両用の窓ガラスとして透明スクリーンフィルム等の散乱層を封入した合わせガラスを用い、車内に搭載された投影装置から合わせガラスに投影された光束を車外から映像として視認する場合に、視認性を向上する手段については十分に検討がなされていなかった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、車内に搭載された投影装置から照射される光束が車外側へ透過する合わせガラスを有する車両において、車外からの映像視認性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本車両は、車内に搭載された投影装置と、前記投影装置から照射される光束が車外側へ透過する合わせガラスと、を有する車両であって、前記合わせガラスは、車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記車外側ガラス板と前記車内側ガラス板との間に前記中間膜と接して配置され、前記光束が照射される散乱層と、を有し、前記合わせガラスの可視光線透過率Tv(%)と、前記散乱層に入射した前記光束に含まれる各光線の前記散乱層への入射角θ(deg)との関係が明細書に定義された式(1)を満足する(ただし、可視光線透過率Tvが20(%)以上の場合を除く)。
【発明の効果】
【0009】
開示の一実施態様によれば、車内に搭載された投影装置から照射される光束が車外側へ透過する合わせガラスを有する車両において、車外からの映像視認性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る自動車を例示する正面図である。
図2】第1実施形態に係る自動車を例示する上面図である。
図3】第1実施形態に係る自動車を例示する部分側面図である。
図4】第1実施形態に係る合わせガラスを例示する平面図である。
図5】第1実施形態に係る合わせガラスを例示する断面図である。
図6】散乱層の第1の例を示す断面図である。
図7】散乱層の第2の例を示す断面図である。
図8】合わせガラスの可視光線透過率と散乱層への入射光の入射角と車外からの映像視認性との関係を示す図である。
図9】第1実施形態の変形例に係る合わせガラスを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、図では本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0012】
又、以下の説明において、平面視とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの主表面の法線方向から視ることを指し、平面形状とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの主表面の法線方向から視た形状を指すものとする。
【0013】
なお、以下では、自動車を例にして説明するが、本発明に係る車両は自動車には限定されず、投影装置と投影装置が映像を投影する窓ガラスとを含む投影システムが搭載された移動体であればよい。このような移動体としては、例えば、電車、船舶、航空機等が挙げられる。
【0014】
〈第1実施形態〉
[自動車]
図1は、第1実施形態に係る自動車を例示する正面図である。図2は、第1実施形態に係る自動車を例示する上面図である。図3は、第1実施形態に係る自動車を例示する部分側面図であり、右ハンドル車の助手席側の後部座席近傍を示している。
【0015】
図1図3に示すように、自動車10は、車体11の開口部110に設けられた、フロントガラス12と、フロントサイドガラス13R及び13Lと、リアサイドガラス14R及び14Lと、リアガラス15とを有している。自動車10は、これら以外の窓ガラス、例えば、ルーフガラス、フロントベンチガラス、リアクォーターガラス等を有してもよい。
【0016】
又、自動車10は、車内に投影装置16を有している。投影装置16は、自動車10の車内において、搭乗者の乗車を妨げない任意の位置に搭載可能であるが、例えば、車体11のルーフの車内側に取り付けられる。投影装置16は、自動車10の搭乗者の操作により、自動車10の有する何れかの窓ガラスに、自動車10の外部から視認可能な所定の映像を投影できる。
【0017】
このように、自動車10には、投影装置16と、投影装置16が自動車10の外部から視認可能な所定の映像を投影する窓ガラスとを含む投影システムが搭載されている。
【0018】
投影装置16は、特に限定されないが、例えば、液晶プロジェクターやDLP(Digital Light Processing)プロジェクター等が挙げられる。所定の映像は、特に限定されないが、例えば、車外への広告や、車外への情報(右折や左折の意志表示、行き先表示等)を示す文字やキャラクター等である。
【0019】
本実施形態では、投影装置16がリアサイドガラス14Lに所定の映像Pを投影する例を示すが、これには限定されない。例えば、投影装置16は、リアサイドガラス14Rやリアガラス15に映像を投影してもよいし、フロントガラス12やフロントサイドガラス13R及び13Lの運転者の視界を妨げない任意の領域に投影してもよい。
【0020】
又、投影装置16を可動式とし、必要に応じて必要な場所、例えばリアサイドガラス14Rやリアサイドガラス14Lに映像を選択的に投影してもよい。又、自動車10は、複数の投影装置16を搭載してもよい。
【0021】
なお、自動車10は、上記以外にも周知の様々な装置や機器、例えば、エンジンやモータ等の動力源、トランスミッション、サスペンション、ECU(Electronic Control Unit)等を有するが、ここでは、本発明の実施形態の説明に必要な構成要素を抜き出して示している。
【0022】
[窓ガラス]
本実施形態において、車外向けの映像を表示する窓ガラスは合わせガラスである。図4は、第1実施形態に係る合わせガラスを例示する平面図である。図5は、第1実施形態に係る合わせガラスを例示する断面図であり、図4のA-A線に沿う断面を示している。図4及び図5では、説明の便宜上、合わせガラス140を、実際の湾曲した形状を省略すると共に、外形形状を簡略化して矩形状に図示している。
【0023】
本実施形態では、一例として、合わせガラス140をリアサイドガラス14Lに適用する。この場合、車内に搭載された投影装置16からリアサイドガラス14Lである合わせガラス140に照射される光束が車外側へ透過し、車外から映像として視認可能となる。
【0024】
図4及び図5に示すように、合わせガラス140は、ガラス板141と、ガラス板142と、中間膜143と、散乱層150とを有する。
【0025】
ガラス板141は、合わせガラス140をリアサイドガラス14Lとして自動車10に取り付けたときに車内側となる車内側ガラス板である。又、ガラス板142は、合わせガラス140をリアサイドガラス14Lとして自動車10に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板である。ガラス板141及び142は、所定の曲率を有してもよい。
【0026】
ガラス板141とガラス板142は互いに対向する一対のガラス板であり、中間膜143及び散乱層150は一対のガラス板の間に位置している。ガラス板141とガラス板142とは、中間膜143及び散乱層150を挟持した状態で固着されている。なお、ガラス板141の車内側の面及びガラス板142の車外側の面は、合わせガラス140の主表面である。
【0027】
中間膜143は、ガラス板141とガラス板142を接合する。中間膜143は、複数の中間膜を有してもよい。中間膜143は、例えば、ガラス板141と接合する中間膜と、ガラス板142と接合する中間膜と、これらの中間膜の間に位置して散乱層150の外周を包囲する額縁状の中間膜とを有してもよい。ガラス板141、ガラス板142、及び中間膜143の詳細については後述する。
【0028】
散乱層150は、投影装置16から照射される光束を車外から映像として視認可能とするために設けられた層であり、中間膜143に接して配置される。散乱層150は、中間膜143と、ガラス板141及び/又はガラス板142とに接して配置されてもよい。散乱層150の厚みは、例えば、3μm以上800μm以下である。散乱層150の厚みがこの範囲であれば、十分な散乱が得られる。散乱層150の厚みは、10μm以上800μm以下であることがより好ましく、更に好ましくは25μm以上800μm以下である。
【0029】
散乱層150の外周縁は、合わせガラス140の外周縁の少なくとも一部と一致してもよい。すなわち、図4に示す距離Lが散乱層150の一部において0mmであってよく、全周において0mmであってもよい。図4に示す距離Lが0mmであると、その部分において散乱層150の外周縁が視認されず外観上好ましい。
【0030】
散乱層150の外周縁は、合わせガラス140の外周縁より、合わせガラス140の内面側に位置してもよい。例えば、合わせガラス140の外周縁から5mm以上、合わせガラス140の内面側に位置していることが好ましい。すなわち、図4に示す距離Lが散乱層150の少なくとも一部において5mm以上であることが好ましい。これにより、散乱層150が十分に保護され、散乱層150の耐久性が向上する。なお、散乱層150の耐久性は距離Lが0mmより大きければ向上する。
【0031】
一方、合わせガラス140の周縁の全周が車両の枠体に支持されるとき、車内側から見て、散乱層150の外周縁が視認されないことが好ましい。例えば、図4に示す距離Lが散乱層150の全周において50mm以下であることが好ましい。合わせガラス140が摺動可能な窓に用いられる場合、合わせガラス140の周縁のうち、摺動によって視認可能/視認不可能が変化する部分は、図4に示す距離Lが10mm以下であることが好ましい。摺動可能な窓を支持する車両の枠体の幅が10mm程度であるためである。
【0032】
散乱層150は、投影装置16から光束が照射される照射面150aと、照射面150aの反対面であり、投影装置16からの光束を車外に向けて表示する映像表示面150bとを有する。なお、本明細書において、光束とは、光線の集まり(光線束)を意味する。図5では、投影装置16から照射される光束に含まれる代表的な光線Rを示している。また、光線Rは光束のうち最も光強度が強い光軸であってもよい。
【0033】
投影装置16から散乱層150の照射面150aに照射された光束は、散乱層150において散乱することで結像し、照射面150aに対して投影装置16と反対側に位置する映像表示面150bに、観察者500が視認可能な映像として表示される。なお、観察者500は他の車両の搭乗者や歩行者等である。
【0034】
又、合わせガラス140の投影装置16側の光景の光は、散乱層150において一部が散乱し、残りは透過する。これにより、投影装置16から照射面150aに光束が照射されていない場合、観察者500は合わせガラス140を介して投影装置16側の光景を透視できる。
【0035】
散乱層150は、例えば、透明スクリーンフィルム、調光フィルム、散乱コート、蛍光フィルム、又は蛍光コートである。散乱層150は、これらのうち2つ以上を含んでもよい。調光フィルムとしては、例えば、SPD(Suspended Particle Device)、PDLC(高分子分散型液晶)、GHLC(ゲストホスト型液晶)、エレクトロクロミック、フォトクロミック、サーモクロミック等が挙げられる。なお、散乱層150が散乱コートや蛍光コートである場合は、散乱層150はガラス板141の中間膜143側の面、ガラス板142の中間膜143側の面の一方又は両方に設けられる。
【0036】
散乱層150は、等方散乱性に優れていることが好ましい。この観点からは、散乱層150として等方散乱性に優れた透明スクリーンフィルム又はPDLCを用いることが好ましい。図6及び図7を参照して説明する以下の透明スクリーンフィルムは、PDLCよりも等方散乱性に優れているため、散乱層150として特に好ましい。なお、等方散乱性とは、入射光を全ての方向に対して均一に散乱する性質である。
【0037】
以下、図6及び図7を参照しながら、散乱層150の一例として透明スクリーンフィルムについて説明する。
【0038】
図6は、散乱層の第1の例を示す断面図である。図6に示すように、散乱層150は、透明スクリーンフィルムであり、透明樹脂フィルム151と、透明樹脂フィルム151上に設けられた透明層152と、透明層152上に設けられた透明基板153とを有する。透明層152の内部には、透明層152の主面に対して略平行に、一次元方向に延びるストライプ状の複数の光散乱部154が形成されている。なお、散乱層150は、透明樹脂フィルム151が車内側、透明基板153側が車外側となるように配置される。
【0039】
光散乱部154の延伸方向に垂直な断面は、三角形、台形、釣鐘等の形状であることが好ましい。このようにストライプ状に、一次元方向に延びる光散乱部154が複数形成されている構造をルーバー構造と記載する場合がある。従って、本実施形態においては、光散乱部154は、透明層152の内部に線状に複数形成されており、各々の光散乱部154は所定の間隔で配置されている。
【0040】
光散乱部154の間隔は、隣り合った光散乱部154の間に形成される透明層152の形が、透明層152の厚み方向に対して縦長となるような間隔で配置されることが好ましい。すなわち、隣り合った光散乱部154のピッチが、透明層152の厚みよりも小さいことが好ましい。
【0041】
透明層152は、例えば、可視光線透過率が50~100%である樹脂により形成できる。このような樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等の光硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。散乱層150が合わせガラス140の中間膜143に封入された際に、窓としての機能が損なわれないよう透明感を維持するため、透明層152を構成する樹脂のイエローインデックスは10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0042】
透明層152の厚みは10μm以上200μm以下が好ましい。光散乱部154が図6に示すようなルーバー構造の場合、透明層152の厚みが10μm以上であれば、ピッチも10μm以上となり、ルーバー構造の効果を十分に発揮できる。又、透明層152の厚みが200μm以下であれば、厚み制御がしやすく、ロールツーロールでの作製が容易となる。
【0043】
又、透明層152の厚みが10μm以上200μm以下であると、ガラス板141の車内側の面に対して45°の角度より光を入射させた場合における後方散乱光の強度を前方散乱光の強度よりも低く制御しやすくなる。その結果、散乱層150が合わせガラス140の中間膜143に封入され、投影装置16から合わせガラス140に照射された光束を車外から映像として視認する際の視認性を向上できる。
【0044】
光散乱部154は、透明樹脂に光散乱材料を含んだもの、又は、透明樹脂に光散乱材料及び光吸収材料を含んだものにより形成できる。光散乱部154に用いられる透明樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の光硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。光散乱部154に用いられる透明樹脂は、透明層152に用いられる透明樹脂と同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
光散乱部154に含まれる光散乱材料としては、酸化チタン(屈折率:2.5~2.7)、酸化ジルコニウム(屈折率:2.4)、酸化アルミニウム(屈折率:1.76)等の高屈折率材料の微粒子;、ポーラスシリカ(屈折率:1.25以下)、中空シリカ(屈折率:1.25以下)等の低屈折率材料の微粒子;、上記透明樹脂に相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;、結晶化した1μm以下の樹脂材料等が挙げられる。このような光散乱材料を用いると、散乱層150が合わせガラス140の中間膜143に封入された際の前方ヘイズ及び後方ヘイズを好適な値、例えば、前方ヘイズを4以上40以下、後方ヘイズを0以上60以下としやすい。
【0046】
光散乱部154に含まれる光吸収材料としては、カーボンブラックやチタンブラック等を使用できる。光散乱部154に含まれる光吸収材料の濃度は、0.01vol%以上10vol%以下が好ましく、0.1vol%以上3vol%以下がより好ましい。
【0047】
又、光散乱部154の最大の高さにおける光学濃度(OD値)は、0.05~2の範囲が好ましく、0.1~1の範囲がより好ましい。また、特に、外光がある場合の視認性は、光散乱部154における吸収が、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。
【0048】
なお、光散乱部154が光吸収材料を含むことにより、散乱層150が合わせガラス140の中間膜143に封入された際に合わせガラス140内を不要な迷光として伝搬する光の一部を吸収できる。そのため、合わせガラス140において白濁して見える現象を抑制し、投影した映像のコントラストを向上できる。特に、外光によって100ルクス以上の環境が、観察者の視線の中に存在する場合に、コントラスト向上の効果を得られやすい。
【0049】
透明基板153は、ガラス又は透明樹脂であってよく、透明樹脂が好ましい。透明基板153を構成するガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが好ましい。これらのガラスは、耐久性を向上させるため、化学強化、ハードコーティング等が行われたものでもよい。透明基板153を構成する透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の光硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。透明基板153を構成する透明樹脂は、透明層152を構成する透明樹脂と同一であることが好ましい。
【0050】
透明基板153の厚みは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上5mm以下がより好ましく、0.05以上1mm以下が更に好ましく、0.05mm以上0.3mm以下が特に好ましく、0.1mm以上0.2mm以下が最も好ましい。透明基板153の厚みが0.05mm未満であると、封入時の取り扱いが難しく、また、10mm超であると、曲げ剛性が上がり合わせガラスに封入が困難になる。
【0051】
図7は、散乱層の第2の例を示す断面図である。図7に示す散乱層150Aのように、透明層152の内部に光散乱微粒子155を分散させた構造としてもよい。なお、散乱層150Aは、合わせガラス140を自動車10に取り付けたときに、透明樹脂フィルム151が車内側、透明基板153側が車外側となるように配置される。
【0052】
光散乱微粒子155は、上述した酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の高屈折率材料の微粒子や、ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子であってもよい。この場合、微粒子のサイズは、その分布の中心値が散乱する光の波長と同程度かやや小さいと、入射光が前方に散乱される確率が大きくなり、入射光を屈折させずに散乱させる機能が強くなるため、背景像の歪みを抑制できる点で好ましい。又、急激に光量を変化させないため、散乱層150Aの透明性を向上させる効果がある。
【0053】
光散乱微粒子155の粒径の平均値は、25nm以上1000nm以下が好ましく、50nm以上1000nm以下がより好ましく、100nm以上800nm以下が更に好ましい。光散乱微粒子155の平均粒径が上記の範囲であると、後方散乱光の強度を前方散乱光の強度より低く調整できる。
【0054】
なお、散乱層150Aは、光散乱微粒子155を含まない光散乱材料により構成されてもよい。散乱層150Aが、光散乱微粒子155を含まない光散乱材料で構成される場合、2種の互いに異なる屈折率の材料を、散乱層150Aの断面において凹凸状の界面を似って接するような構成とすることで、後方散乱光の強度を前方散乱光の強度より低く調整できる。
【0055】
なお、散乱層150Aを備えた合わせガラス140に外光が入射すると、外光が散乱層150A内を伝搬して散乱され、合わせガラス140から放出され、投影される映像や背景のコントラストを低下させる場合がある。
【0056】
そこで、図7に示す構造の場合、散乱層150Aに光吸収材料を含有させるとよい。散乱層150Aに光吸収材料を含有させることにより、外光が不要な部位から放出されて映像や背景のコントラストを低下させる現象を抑制し、良好な視認性を維持できる。
【0057】
光吸収材料としては、カーボンブラックやチタンブラック等を使用できる。散乱層150Aに含まれる光吸収材料の濃度は、0.01vol%以上5vol%以下が好ましく、0.1vol%以上3vol%以下がより好ましい。光吸収材料の光の吸収量は、散乱層150Aに垂直に入射した光に対して、0.5%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が更に好ましい。
【0058】
又、光吸収材料の光の吸収量を90%以下とすることで、投影された映像の光量を適切に利用できるため好ましく、75%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。
【0059】
なお、図6及び図7に示す散乱層については、例えば、特許第6350656号に詳細に述べられており、その内容は本明細書に参考として援用できる。
【0060】
ここで、ガラス板141、ガラス板142、及び中間膜143について詳述する。
【0061】
〔ガラス板〕
ガラス板141及び142は、無機ガラスであっても有機ガラスであってもよい。無機ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。合わせガラス140の外側に位置するガラス板142は、耐傷付き性の観点から無機ガラスが好ましく、成形性の点からソーダライムガラスが好ましい。ガラス板141及びガラス板142がソーダライムガラスである場合、クリアガラス、鉄成分を所定量以上含むグリーンガラス及びUVカットグリーンガラスが好適に使用できる。
【0062】
無機ガラスは、未強化ガラス、強化ガラスの何れでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0063】
強化ガラスは、例えば風冷強化ガラス等の物理強化ガラス、化学強化ガラスの何れでもよい。物理強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形において均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷させる等、徐冷以外の操作により、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力層を生じさせることで、ガラス表面を強化できる。
【0064】
化学強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形の後、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化できる。又、紫外線又は赤外線を吸収するガラスを用いてもよく、更に、透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラス板を用いてもよい。
【0065】
一方、有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート、例えばポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の透明樹脂が挙げられる。
【0066】
ガラス板141及び142の形状は、特に矩形状に限定されず、種々の形状及び曲率に加工された形状でもよい。ガラス板141及び142の曲げ成形には、重力成形、プレス成形、ローラー成形等が用いられる。ガラス板141及び142の成形法についても特に限定されないが、例えば、無機ガラスの場合はフロート法等により成形されたガラス板が好ましい。
【0067】
ガラス板142の板厚は、最薄部が、1.1mm以上3mm以下が好ましい。ガラス板142の板厚が1.1mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラス140の質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板142の板厚は、最薄部が、1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.2mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.0mm以下が更に好ましい。
【0068】
ガラス板141の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下が好ましい。ガラス板141の板厚が0.3mm以上であるとハンドリング性がよく、2.3mm以下であると質量が大きくなり過ぎない。
【0069】
又、ガラス板141及び142は、平板形状でも湾曲形状でもよい。ガラス板141及び142が湾曲形状であって、かつガラス板141の板厚が適切でない場合、ガラス板141及び142として特に曲がりが深いガラスを2枚成形すると、2枚の形状にミスマッチが生じ、圧着後の残留応力等のガラス品質に大きく影響する。
【0070】
しかし、ガラス板141の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、残留応力等のガラス品質を維持できる。ガラス板141の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質の維持に特に有効である。ガラス板141の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。この範囲であれば、上記の効果が更に顕著となる。
【0071】
合わせガラス140が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、ガラス板141及び/又は142は一定の板厚ではなく、必要に応じて場所毎に板厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス140がフロントガラスである場合、ガラス板141及び142の何れか一方、又は両方は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて板厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、中間膜143の膜厚が一定であれば、ガラス板141とガラス板142の合計の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化させてもよい。
【0072】
ガラス板141及び/又は142の外側に撥水、紫外線、赤外線カットの機能を有する被膜や、低反射特性、低放射特性を有する被膜を設けてもよい。又、ガラス板141及び/又は142の中間膜143と接する側に、紫外線や赤外線カット、低放射特性、可視光吸収、着色等の被膜を設けてもよい。
【0073】
ガラス板141及び142が湾曲形状の無機ガラスである場合、ガラス板141及び142は、フロート法による成形の後、中間膜143による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃の範囲で制御するとよい。
【0074】
〔中間膜〕
中間膜143としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0075】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0076】
但し、中間膜143にフィルム等を封入する場合、封入する物の種類によっては特定の可塑剤により劣化することがあり、その場合には、その可塑剤を実質的に含有していない樹脂を用いることが好ましい。つまり、中間膜143が可塑剤を含まないことが好ましい場合がある。可塑剤を含有していない樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等が挙げられる。
【0077】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」とも言う)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」とも言う)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
但し、中間膜143を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。又、中間膜143は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、発光剤等の機能性粒子、色素(顔料や染料)を含んでもよい。又、中間膜143は、シェードバンドと呼ばれる着色部を有してもよい。
【0079】
中間膜143の膜厚は、最薄部で0.5mm以上が好ましい。中間膜143の膜厚が0.5mm以上であると合わせガラスとして必要な耐衝撃性が十分となる。又、中間膜143の膜厚は、最厚部で3mm以下が好ましい。中間膜143の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜143の膜厚の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
【0080】
合わせガラス140が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、中間膜143は一定の膜厚ではなく、必要に応じて場所毎に膜厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス140がフロントガラスである場合、中間膜143は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて膜厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、ガラス板141及び142の板厚が一定であれば、中間膜143の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化する。
【0081】
なお、中間膜143は、複数層の中間膜から形成してもよい。例えば、中間膜143を3層の中間膜から構成し、真ん中の層のショア硬度を可塑剤の調整等により両外側の層のショア硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両外側の層のショア硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0082】
又、中間膜143を複数層の中間膜から形成する場合、全ての層を同一の材料で形成することが望ましいが、一部の層を異なる材料で形成してもよい。但し、ガラス板141及び142との接着性、或いは合わせガラス140の中に入れ込む機能材料等の観点から、中間膜143の膜厚の50%以上は上記の材料を使うことが望ましい。
【0083】
中間膜143を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、合わせガラスのデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜143が完成する。
【0084】
〔合わせガラス〕
合わせガラス140の総厚は、2.8mm以上10mm以下が好ましい。合わせガラス140の総厚が2.8mm以上であれば、十分な剛性を確保できる。又、合わせガラス140の総厚が10mm以下であれば、十分な透過率が得られると共にヘイズを低減できる。
【0085】
合わせガラス140は、自動車10に取り付けられた状態で、水平方向の曲率、及び/又は垂直方向の曲率は、半径500mm以上100000mm以下が好ましい。水平方向の曲率、及び/又は垂直方向の曲率は、半径500mm以上50000mm以下がより好ましい。
【0086】
すなわち、合わせガラス140は、水平方向、又は垂直方向にのみ湾曲した単曲曲げ形状でもよいし、水平方向、及び垂直方向に湾曲した複曲曲げ形状でもよい。つまり、合わせガラスが単曲曲げ形状である場合、自動車10に取り付けられた状態で、水平方向の曲率又は垂直方向の曲率は、半径500mm以上100000mm以下が好ましく、半径500mm以上50000mm以下がより好ましい。
【0087】
合わせガラス140が複曲曲げ形状である場合、水平方向の曲率と、垂直方向の曲率が同じ半径でもよいし、異なる半径でもよい。つまり、合わせガラスが複曲曲げ形状である場合、自動車10に取り付けられた状態で、水平方向の曲率及び垂直方向の曲率は、半径500mm以上100000mm以下が好ましく、半径500mm以上50000mm以下がより好ましい。
【0088】
合わせガラス140の水平方向及び垂直方向の曲率が半径500mm以上であれば、投影装置16から合わせガラス140に照射される光束の焦点を散乱層150に合わせ易い。合わせガラス140の水平方向及び垂直方向の曲率は、好ましくは半径1000mm以上であり、より好ましくは半径2000mm以上である。
【0089】
又、合わせガラス140の水平方向及び垂直方向の曲率が半径100000mm以下の凸状で車外側に向けて凸状となる場合、車外側から入射する太陽光が合わせガラス140において反射して発散するため、特定方向における反射光の光量を低減できる。また、この場合、合わせガラス140は、車内側に向けて凹状になるため、投影装置16から入射する光を集めやすくなる。合わせガラス140の水平方向及び垂直方向の曲率は、好ましくは半径50000mm以下、更に好ましくは40000mm以下である。
【0090】
合わせガラス140の少なくとも1辺において、ガラス板141とガラス板142の板ずれは、1.5mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。ここで、ガラス板141とガラス板142の板ずれとは、すなわち、平面視におけるガラス板141の端部とガラス板142の端部のずれ量である。
【0091】
合わせガラス140の少なくとも1辺において、ガラス板141とガラス板142の板ずれが1.5mm以下であると、外観を損なわない点で好適であり、1.0mm以下であると、より好適である。
【0092】
ガラス板141とガラス板142との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜143及び散乱層150の他に、電熱線、赤外線反射、発光、発電、調光、タッチパネル、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有してもよい。
【0093】
又、ガラス板141の車内側の面及び/又はガラス板142の車外側の面に、防曇、撥水、遮熱、低反射等の機能を有する膜を有してもよい。又、ガラス板141の車内側の面及び/又はガラス板142の車外側の面に、遮熱、発熱等の機能を有する膜を有してもよい。
【0094】
又、ガラス板141の車内側の面及び/又はガラス板142の車外側の面に、反射防止用コートを有してもよい。これにより、映像と背景とのコントラスト(映像の輝度/背景の輝度)を一層向上できる。
【0095】
合わせガラス140をフロントガラスに適用する場合は、フロントガラスの平面視において、合わせガラス140の周縁領域に例えば帯状に遮蔽層を設けてもよい。遮蔽層は、例えば、不透明な(例えば、黒色の)着色セラミック層である。フロントガラスに不透明な遮蔽層が存在することで、フロントガラスの周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂や、カメラ等のデバイスを係止するブラケットをフロントガラスに貼り付ける接着部材等の紫外線による劣化を抑制できる。
【0096】
遮蔽層は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、焼成することで形成できるが、これには限定されない。遮蔽層は、例えば、黒色又は濃色顔料を含有する有機インクをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させて形成してもよい。
【0097】
遮蔽層は、遮光性を持つ着色中間膜や着色フィルム、着色中間膜と着色セラミック層の組み合わせであってもよい。着色フィルムは赤外線反射フィルム等と一体化されていてもよい。
【0098】
遮蔽層は、例えば、ガラス板141の車内側の面に設けられる。但し、遮蔽層は、必要に応じ、ガラス板142の車内側の面に設けてもよいし、ガラス板141の車内側の面及びガラス板142の車内側の面の両方に設けてもよい。
【0099】
合わせガラス140を製造するには、ガラス板141とガラス板142との間に、中間膜143、散乱層150を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの範囲で制御した真空中で温度約70~110℃の範囲で制御して接着する。加熱条件、温度条件、及び積層方法は、散乱層150の性質に配慮して、例えば、積層中に劣化しないように適宜選択される。
【0100】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの範囲で制御した条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラス140を得られる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス140中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0101】
[車外からの映像視認性]
次に、投影装置から合わせガラスに照射された光束を車外から映像として視認できる範囲について説明する。
【0102】
図8は、合わせガラスの可視光線透過率と散乱層への入射光の入射角と車外からの映像視認性との関係を示す図である。
【0103】
図8における入射角θは、散乱層150の照射面150aへ入射する光線の、照射面150aの法線となす角度である。入射角θは、投影装置16からの光束に含まれる光線毎に異なる値となる。入射角θは、例えば、投影装置16の光源とガラス上での像反射位置を結ぶ直線と、ガラスの法線とのなす角度を測定して得られる。なお、ガラスの法線とは、ガラス表面の所定の位置(点)におけるガラスの厚さ方向としてもよい。
【0104】
図8における可視光線透過率Tvは、散乱層150の照射面150aに入射角θ=0degで入射する光線の、合わせガラス140に入射する前の光量に対する合わせガラス140を透過した全光量の割合である。なお、可視光線透過率Tvは、JIS R 3106:1998に準拠した方法で測定できる。
【0105】
図8の関係は、発明者らが実験を繰り返して導き出したものである。これについて、以下に説明する。
【0106】
投影装置16から合わせガラス140に照射される光束を車外から映像として視認可能とし、更に視認性を向上するためには、映像の輝度を上げるか背景の輝度を下げるか或いはそれらの両方を行い、コントラストCを上げるとよい。ここで、コントラストCは、映像の輝度/背景の輝度であり、以降の説明においても同様である。
【0107】
しかし、背景の輝度を下げるには合わせガラス140の可視光線透過率Tvを下げる必要があり、映像の輝度を上げるには合わせガラス140の可視光線透過率Tvを上げる必要があるため、両立できない。
【0108】
ところで、車内に投影装置16を配置して合わせガラス140に光束を照射する場合、投影装置16の設置位置が限られているため、合わせガラス140に垂直に光束が入射するような投影装置16の配置は困難である。よって、投影装置16からの光束は、合わせガラス140に入射角θ(θ≠0)で斜めに入射する。そのため、可視光線透過率Tvが同じでも入射角θが大きいほど映像の輝度が低くなる。これは、入射角θが大きいほど合わせガラス140への入射光が合わせガラス140内を通る光路長が長くなり、合わせガラス140を透過する光量が減るためである。これに対して、背景の輝度は合わせガラス140の可視光線透過率Tvが同じであれば変わらない。
【0109】
そこで、発明者らは、背景の輝度は合わせガラス140の可視光線透過率Tvのみに依存するが、映像の輝度は合わせガラス140の可視光線透過率Tvと入射角θに依存する点に着目した。そして、発明者らは、投影装置16から合わせガラス140に照射される光束を車外から映像として視認可能とし、更に視認性を向上するためには、可視光線透過率Tvと入射角θとが所定の関係を満足する必要があると考え、実験を繰り返した。
【0110】
具体的には、発明者らは、可視光線透過率Tv及び入射角θを様々な値に変えながら、車内に搭載された所定の明るさ(ルーメン)の投影装置16から合わせガラス140に光束を照射し、合わせガラス140の車外側の所定の距離の位置において、照射された光束に対応する映像がどの程度視認できるかを試験した。
【0111】
その結果、発明者らは、図8において実線、破線、及び一点鎖線で示す3段階の範囲において、所定の視認性が得られることを導き出した。
【0112】
図8における実線は、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像として視認できる限界を示している。図8において、実線よりも実線矢印側が、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像として視認できる範囲であり、この範囲は下記の式(1)で示される。
【0113】
【数1】
図8における破線は、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像としてよく見えるようになる境界を示している。図8において、破線よりも破線矢印側が、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像としてよく見える範囲であり、この範囲は下記の式(2)で示される。
【0114】
【数2】
図8における一点鎖線は、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像としてはっきり見えるようになる境界を示している。図8において、一点鎖線よりも一点鎖線矢印側が、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束が車外から映像としてはっきり見える範囲であり、この範囲は下記の式(3)で示される。
【0115】
【数3】
このように、合わせガラス140の可視光線透過率Tv(%)と、散乱層150の照射面150aに入射した光束に含まれる各光線の散乱層150の照射面150aへの入射角θ(deg)との関係が式(1)を満足することで、良好なコントラストCが得られる。その結果、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束を車外から映像として視認可能となる。又、式(2)を満足することでコントラストCがより高くなるため車外からの映像の視認性が向上し、式(3)を満足することでコントラストCが更に高くなるため車外からの映像の視認性が更に向上する。これらは、従来は知られていない、発明者らが初めて見出した事実である。
【0116】
なお、上記の効果を発揮するためには、可視光線透過率Tvと全ての入射角θが各式を満足する必要がある。すなわち、上記の効果を発揮するためには、可視光線透過率Tvと最大の入射角θが各式を満足すればよい。
【0117】
合わせガラス140において、車外側に位置するガラス板142の車外側の面の重心の法線が、地面に対して空を向く方向に(+)1deg以上傾いている場合に、本発明の効果が顕著である。
【0118】
ここでいう「ガラス板142の車外側の面の重心の法線」とは、ガラス板142の車外側の面の重心を通る、ガラス板の厚み方向とも言える。また、該法線の方向は、ガラス板142の車外側の面の重心を通る上記厚み方向において、車内側から車外側に延びるベクトル方向に相当する。更に「地面に対して空を向く方向」とは、地面(水平面)を基準としたときに、上記ベクトルの仰角が正の値となる方向に相当する。一方、地面(水平面)を基準としたときの、上記ベクトルの仰角が負の値となる方向は、上記ベクトルが地面に到達する方向に相当する。
【0119】
すなわち、このような(地面に対して空を向く方向に+1deg以上傾いている)場合、合わせガラス140に空の映り込みが増えるため、車外から映像を視認しにくい。このような場合でも、式(1)を満足することで、車内に搭載された投影装置16から合わせガラス140に照射される光束を車外から映像として視認可能となる。又、式(2)を満足することで車外からの映像の視認性が向上し、式(3)を満足することで車外からの映像の視認性が更に向上する。
【0120】
以下、合わせガラス140において、車外側に位置するガラス板142の車外側の面の重心の法線が、地面に対して空を向く方向への傾きを、角度φと定義する。合わせガラス140の角度φは(+)45deg以下である場合に、車外からの映像の視認性が良好である。すなわち、このような場合、合わせガラス140への太陽光等の外光の入射角度が小さくなるため、空の映り込みが減り、可視光線反射率が小さくなる。したがって、車外からの映像の視認性が向上する。
【0121】
車外からの映像の視認性が更に向上するために、合わせガラス140の角度φは、30deg以下が好ましく、15deg以下がより好ましく、5deg以下が特に好ましい。
【0122】
なお、本明細書において、可視光線反射率Rvは、散乱層150の照射面150aに入射角θ=2degで入射する光線の、合わせガラス140に入射する前の光量に対する合わせガラス140で反射した全光量の割合である。なお、可視光線反射率Rvは、JIS R 3106:1998に準拠した方法で測定できる。ここで、合わせガラス140の可視光線反射率Rvは、15%以下であればよく、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましく、1%以下が最も好ましい。
【0123】
〈第1実施形態の変形例〉
第1実施形態の変形例では、合わせガラスが可視光線透過率低下手段を備える例を示す。なお、第1実施形態の変形例において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0124】
室内の快適性や空調負荷低減、高級感を与える色調の選択、優れた意匠性、車内のプライバシー保護等の目的で、合わせガラスの可視光線透過率Tvを低くしたい場合がある。この場合、合わせガラスが可視光線透過率低下手段を有すればよい。
【0125】
リアサイドガラス、リアガラス、ルーフガラス等は、法規上、可視光線透過率の規定がないため、任意の可視光線透過率に設定可能である。そこで、合わせガラス140をリアサイドガラス14Lに適用する場合、合わせガラス140の可視光線透過率Tvを低くしてもよい。合わせガラス140の可視光線透過率Tvは、例えば、0.1%以上35%以下、より好ましくは10%以上35%以下に設定できる。
【0126】
合わせガラス140の可視光線透過率Tvを低下させるには、例えば、ガラス板141及び142の一方又は両方に可視光線透過率を低下させた所謂プライバシーガラス(濃グレー色ガラスともいう)を用いればよい。この場合は、ガラス板141及び142の一方又は両方が可視光線透過率低下手段を兼ねる。
【0127】
可視光線透過率Tvの低下は、例えば、ガラス板141及び142の一方又は両方において、Feに換算した全鉄の含有量を調整することで実現できる。プライバシーガラスについては、例えば、国際公開第2015/088026号に詳細に述べられており、その内容は本明細書に参考として援用できる。
【0128】
なお、ガラス板141及び142の何れか一方をプライバシーガラスとする場合は、車内側のガラス板141をプライバシーガラスとするとよい。可視光線透過率低下手段が、散乱層150より車内側に配置されている方が背景の輝度が下がりコントラストCが高くなるため、車外からの映像の視認性が向上する。
【0129】
合わせガラス140の可視光線透過率Tvを低下させるため、プライバシーガラスを用いる代わりに、中間膜143に散乱層150に加えて可視光線透過率低下手段を封入してもよい。
【0130】
図9は、第1実施形態の変形例に係る合わせガラスを例示する断面図である。図9では、説明の便宜上、合わせガラス240を、実際の湾曲した形状を省略して図示している。
【0131】
第1実施形態に係る合わせガラス140に代えて、合わせガラス240をリアサイドガラス14Lに適用してもよい。この場合、車内に搭載された投影装置16からリアサイドガラス14Lである合わせガラス240に照射される光束が車外側へ透過し、車外から映像として視認可能となる。
【0132】
図9に示すように、合わせガラス240は、中間膜143に散乱層150に加えて可視光線透過率低下手段160が封入された点が、合わせガラス140(図4及び図5参照)と相違する。可視光線透過率低下手段160としては、例えば、スモークフィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0133】
可視光線透過率低下手段160は、散乱層150よりも車内側に配置されても車外側に配置されてもよいが、散乱層150より車内側に配置されている方が背景の輝度が下がりコントラストCが高くなるため、車外からの映像の視認性が向上する点で好ましい。
【0134】
或いは、中間膜143は、中間膜143自体の可視光線透過率を低下させる濃グレー色等としてもよい。この場合は、中間膜143が可視光線透過率低下手段を兼ねる。或いは、散乱層150の可視光線透過率を低下させて、散乱層150が可視光線透過率低下手段を兼ねてもよい。
【0135】
このように、自動車10の窓ガラスにおいて可視光線透過率Tvを低下させたい場合がある。図8からわかるように、可視光線透過率Tvが低い場合には入射角θによっては車外からの映像視認性が悪くなるため、式(1)、式(2)、式(3)を満たす技術的意義が大きい。
【0136】
〈実施例〉
以下、実施例について説明するが、本発明は、これらの例に何ら限定されない。
【0137】
[例1]
合わせガラスとした際に外板(車外側ガラス板)となる第1のガラス板と、内板(車内側ガラス板)となる第2のガラス板を準備した(AGC社製 通称FL)。第1及び第2のガラス板の寸法は、何れも、300mm×300mm×板厚2mmとした。
【0138】
次に、中間膜(積水化学工業社製 PVB、厚み0.76mm)を準備した。そして、第1のガラス板と第2のガラス板との間に中間膜と散乱層としての透明スクリーンフィルムとを挟んで積層体を作製し、積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの範囲に制御した真空中で温度約70~110℃の範囲に制御して接着した。そして、圧力0.6~1.3MPa、温度約100~150℃の範囲に制御した条件で加圧及び加熱し、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスAを作製した。
【0139】
そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスAに、投影装置から最大の入射角θが50[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスAの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定は、1.5以上の視力を有する試験実施者が行った。判定基準は下記の通りである。
【0140】
視力1.0に相当するランドルト環(所定隙間=0.29mm)が視認できなかった場合を×(不合格)とした。又、視力1.0に相当するランドルト環(所定隙間=0.29mm)が視認でき視力1.2に相当するランドルト環(所定隙間=0.24mm)が視認できなかった場合を☆(合格:可)とした。
【0141】
又、視力1.2に相当するランドルト環(所定隙間=0.24mm)が視認でき視力1.5に相当するランドルト環(所定隙間=0.19mm)が視認できなかった場合を☆☆(合格:良)とした。又、視力1.5に相当するランドルト環(所定隙間=0.19mm)が視認できた場合を☆☆☆(合格:優)とした。
【0142】
なお、評価用合わせガラスAの可視光線透過率Tvは1%、コントラストCは0.21であった。
【0143】
[例2]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスBを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスBに、投影装置から最大の入射角θが70[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスBの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0144】
なお、評価用合わせガラスBの可視光線透過率Tvは5%、コントラストCは0.20であった。
【0145】
[例3]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスCを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスCに、投影装置から最大の入射角θが50[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスCの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0146】
なお、評価用合わせガラスCの可視光線透過率Tvは5%、コントラストCは0.28であった。
【0147】
[例4]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスDを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスDに、投影装置から最大の入射角θが60[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスDの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0148】
なお、評価用合わせガラスDの可視光線透過率Tvは10%、コントラストCは0.27であった。
【0149】
[例5]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスEを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスEに、投影装置から最大の入射角θが50[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスEの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0150】
なお、評価用合わせガラスEの可視光線透過率Tvは15%、コントラストCは0.33であった。
【0151】
[例6]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスFを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスFに、投影装置から最大の入射角θが40[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスFの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0152】
なお、評価用合わせガラスFの可視光線透過率Tvは10%、コントラストCは0.36であった。
【0153】
[例7]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスGを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスGに、投影装置から最大の入射角θが30[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスGの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0154】
なお、評価用合わせガラスGの可視光線透過率Tvは30%、コントラストCは0.42であった。
【0155】
[例8]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、図5に示す断面構造の評価用合わせガラスHを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスHに、投影装置から最大の入射角θが50[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスHの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。
【0156】
なお、評価用合わせガラスHの可視光線透過率Tvは60%、コントラストCは0.42であった。
【0157】
[例9]~[例13]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、それぞれ図5に示す断面構造の評価用合わせガラスI~Mを作製した。そして、第2のガラス板側から評価用合わせガラスI~Mに、投影装置から最大の入射角θが30[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスI~Mの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。なお、[例9]~[例13]では、評価用合わせガラスI~Mの可視光線反射率Rvも併せて測定した。
【0158】
[例14]~[例18]
透明スクリーンフィルムの特性を変更した以外は例1と同様にして、それぞれ図5に示す断面構造の評価用合わせガラスN~Rを作製した。そして、評価用合わせガラスN~Rを、角度φが0~60degになるように車体に取り付けた。第2のガラス板側から評価用合わせガラスN~Rに、投影装置から最大の入射角θが30[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスN~Rの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。なお、[例14]~[例18]では、評価用合わせガラスN~Rの可視光線反射率Rvも併せて測定した。
【0159】
[例19]~[例24]
透明スクリーンフィルムの特性と合わせガラスの垂直方向の曲率を300mm~60000mmの範囲で変更した以外は例1と同様にして、それぞれ図5に示す断面構造の評価用合わせガラスS~Xを作製した。第2のガラス板側から評価用合わせガラスS~Xに、投影装置から最大の入射角θが30[deg]となるように所定隙間のランドルト環を投影し、第1のガラス板側の評価用合わせガラスS~Xの1m先からランドルト環の隙間が視認できるか否かを判定した。判定基準は、例1と同様である。なお、評価用合わせガラスS~Xの可視光線透過率Tvは、いずれも20%であり、可視光線反射率Rvはいずれも3%であった。
【0160】
[試験結果]
例1~例8について、可視光線透過率Tv、入射角θ、コントラストC、及び視認性評価結果を表1にまとめた。又、例1~例8について、可視光線透過率Tvと入射角θが前述の式(1)~式(3)を満足するか否かを求め、表1にまとめた。表1において、各々の式を満足する場合を〇、満足しない場合を-とした。
【0161】
【表1】
表1に示すように、車内から投影した映像の車外における視認性は、可視光線透過率Tvと入射角θによって変化し、式(1)を満足すれば視認でき、式(2)を満足すれば視認性が向上し、式(3)を満足すれば視認性が更に向上することが確認できた。又、コントラストCが所定値以上であれば視認でき、コントラストCが高くなるほど視認性が向上することが確認できた。
【0162】
例9~例12について、可視光線透過率Tv、可視光線反射率Rv、入射角θ、コントラストC、及び視認性評価結果を表2にまとめた。又、例9~例12について、可視光線透過率Tvと入射角θが前述の式(1)~式(3)を満足するか否かを求め、表2にまとめた。表2において、各々の式を満足する場合を〇、満足しない場合を-とした。
【0163】
【表2】
表2に示すように、可視光線反射率Rvが所定値以下であれば視認でき、可視光線反射率Rvが小さくなるほど視認性が向上することが確認できた。
【0164】
例13~例16について、可視光線透過率Tv、可視光線反射率Rv、入射角θ、コントラストC、及び視認性評価結果を表3にまとめた。又、例13~例16について、可視光線透過率Tvと入射角θが前述の式(1)~式(3)を満足するか否かを求め、表2にまとめた。表2において、各々の式を満足する場合を〇、満足しない場合を-とした。
【0165】
【表3】
表3に示すように、合わせガラスの角度φが所定値以下であれば視認でき、角度φが小さくなるほど視認性が向上することが確認できた。
【0166】
例17~例22について、可視光線透過率Tv、可視光線反射率Rv、入射角θ、合わせガラスの垂直方向の曲率、及び視認性評価結果を表4にまとめた。又、例17~例22について、可視光線透過率Tvと入射角θが前述の式(1)~式(3)を満足するか否かを求め、表4にまとめた。表4において、各々の式を満足する場合を〇、満足しない場合を-とした。
【0167】
【表4】
表4に示すように、車内から投影した映像の車外における視認性は、合わせガラスの垂直方向の曲率半径によって変化し、該曲率半径が所定値以上、所定値以下であれば視認できることが確認できた。
【0168】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0169】
本国際出願は2019年5月7日に出願した日本国特許出願2019-087853号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2019-087853号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0170】
10 自動車
11 車体
12 フロントガラス
13R、13L フロントサイドガラス
14R、14L リアサイドガラス
15 リアガラス
16 投影装置
110 開口部
140、240 合わせガラス
141、142 ガラス板
143 中間膜
150、150A 散乱層
150a 照射面
150b 映像表示面
151 透明樹脂フィルム
152 透明層
153 透明基板
154 光散乱部
155 光散乱微粒子
160 可視光線透過率低下手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9