(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂基材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
(21)【出願番号】P 2021518829
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010526
(87)【国際公開番号】W WO2021187459
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020047770
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石竹 賢次
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 公貴
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169276(JP,A)
【文献】特開2010-163552(JP,A)
【文献】特開2020-026455(JP,A)
【文献】特開2012-167270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
15/08-15/14
C08J 5/04-5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した複数の強化繊維に、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂基材であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が75000以上150000以下であり、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の灰分量が0.001重量%以上0.30重量%以下
、カルボキシル基含有量が5μmol/g以上25μmol/g以下であり、さらに繊維体積含有率が20~65体積%である繊維強化熱可塑性樹脂基材。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の灰分量が0.001重量%以上0.25重量%以下である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
【請求項3】
ASTM D790に準拠した成形片の90°曲げ試験で測定した90°曲げ強度が130~200MPaである請求項1
または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続した複数の強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂基材は、軽量効果に優れるだけでなく、熱硬化性樹脂を用いた繊維強化熱可塑性樹脂基材よりも靭性、溶着加工性およびリサイクル性に優れるため、航空機や自動車などの輸送機器や、スポーツ・電気・電子部品などの各種用途へ幅広く展開されている。近年、従来CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)中間基材の付加価値であった機械強度、軽量化以外に高耐熱、低吸水、高靭性および成形加工性などの高付加価値も要求されるようになり、航空機、自動車用途を中心に高機能CFRTP中間基材の技術開発が強く求められている。
【0003】
ポリフェニレンルフィド(以下ではPPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性を有する結晶性の熱可塑性樹脂であり、複合材料のマトリックス樹脂としても注目されている。しかしながら、従来のPPS樹脂は本質的には靭性が低く脆い材料であり、炭素繊維のように加熱によってほとんど膨脹しない繊維の場合には、成形時の残留応力が大きく僅かな繊維の配列の乱れによって成形品が湾曲したり、クラックが発生し、曲げ強度や層間剪断強度などのコンポジット物性が不十分になることが多い。
【0004】
特許文献1には、未架橋のPPS樹脂を含浸し、300~360℃で特定の時間加熱し、熱架橋化処理することで、機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、大気下で酸化架橋されたPPS樹脂を用いることで、機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材を製造する方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、大気下で酸化架橋されたPPS樹脂と高分子量のPPS樹脂の樹脂組成物を用いることで、機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材を製造する方法が開示されている。
【0007】
またさらに、特許文献4には、高分子量のPPS樹脂の樹脂組成物を用いることで、機械特性の優れた短炭素繊維強化PPS基材を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第1477262号公報
【文献】特開平2-180934号公報
【文献】特開平3-292335号公報
【文献】特開平9-25346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1において提案されている方法では、機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材が得られるとされているが、さらに機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材が望まれている。また、製造時に高温に加熱するため、PPS樹脂中にゲル化物が発生しやすく、プロセスの安定性が低下するとういう課題がある。また、PPS樹脂の分子量、カルボキシル基含有量、および、灰分量については、具体的な開示はなされていない。
【0010】
特許文献2において提案されている方法では、PPS樹脂中にゲル化物が発生しやすく、製造時のプロセスの安定性や成形品の機械特性が低下するとういう課題がある。また、PPS樹脂の分子量、カルボキシル基含有量、および、灰分量については、具体的な開示はなされていない。
【0011】
特許文献3において提案されている方法では、製造工程が煩雑になるとともに、PPS樹脂中にゲル化物が発生しやすく、製造時のプロセスの安定性や成形品の機械特性が低下するとういう課題がある。
【0012】
特許文献4において提案されている方法では、機械特性の優れた短炭素繊維強化PPS基材が得られるとされているが、さらに機械特性の優れた炭素繊維強化PPS基材が望まれている。また、PPS樹脂の分子量、カルボキシル基含有量、および、灰分量については、具体的な開示はなされていない。
【0013】
このように、従来の技術では繊維強化PPS基材の機械特性は十分ではなかった。本発明は、機械特性の優れた繊維強化熱可塑性樹脂基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)連続した複数の強化繊維に、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂基材であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が75000以上150000以下であり、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の灰分量が0.001重量%以上0.30重量%以下である繊維強化熱可塑性樹脂基材。
(2)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の灰分量が0.001重量%以上0.25重量%以下である、上記(1)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
(3)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂のカルボキシル基含有量が5μmol/g以上25μmol/g以下である(1)または(2)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
(4)繊維体積含有率が20~65体積%である(1)から(3)のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
(5)ASTM D790に準拠した成形片の90°曲げ試験で測定した90°曲げ強度が130~200MPaである(1)から(4)のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械特性の優れた繊維強化熱可塑性樹脂基材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
<強化繊維>
強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。強化繊維に炭素繊維を用いることで、軽量でありながら、高い機械特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られる。
【0018】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0019】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0020】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0021】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0022】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材において、強化繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維の総フィラメント数が1,000本以上であることにより、生産性が向上しやすくなる。また、強化繊維の総フィラメント数が2,00,000本以下であることにより、分散性や取り扱い性が向上しやすくなる。
【0024】
本発明において、1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成される。
【0025】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、連続した複数の強化繊維に含浸させた熱可塑性樹脂が後述するポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする。
【0026】
本発明における連続した強化繊維とは、当該強化繊維が途切れのないものをいう。強化繊維の形態および配列としては、例えば、一方向に引き揃えられたもの、織物(クロス)、編み物、組み紐、トウ等が挙げられる。中でも特定方向の機械特性を効率よく高められることから、強化繊維が一方向に配列してなることが好ましい。
【0027】
<ポリフェニレンスルフィド樹脂>
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0028】
【0029】
耐熱性の観点からは、PPS樹脂が上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0030】
【0031】
かかる構造を一部有するPPS樹脂は、融点が低くなるため、成形性の点で有利となる。
【0032】
本発明で用いられるPPS樹脂の重量平均分子量は75000以上150000以下であることが重要である。PPS樹脂の重量平均分子量の下限としては、75000であり、好ましくは76000、より好ましくは77000である。PPS樹脂の重量平均分子量の上限としては、150000であり、好ましくは130000、より好ましくは100000である。PPS樹脂の重量平均分子量が上記好ましい範囲にあるとき、より優れた機械物性を有した繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られる傾向にある。重量平均分子量が75000未満である場合は、PPS樹脂自体の機械物性が低下する傾向があり、さらにPPS樹脂と強化繊維との密着性が低下する傾向もあるため、繊維強化熱可塑性樹脂基材の機械物性が低下する傾向にある。一方、PPS樹脂の重量平均分子量が150000より大きい場合には、溶融粘度が著しく大きくなるため、強化繊維との含浸性が低下し、良好にPPS樹脂が含浸した繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られない傾向がある。
【0033】
なお、本発明における重量平均分子量は、後述のとおり、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0034】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材において、PPS樹脂の灰分量は0.001重量%以上0.30重量%以下であることが重要である。灰分量の上限は、0.30重量%であり、好ましくは0.25重量%、より好ましくは0.20重量%以下、さらに好ましくは0.10重量%である。PPS樹脂の灰分量が上記好ましい範囲にあるとき、より優れた機械物性を有した繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られる傾向にある。PPS樹脂の灰分量が0.001重量%未満である場合は、PPS樹脂自体の靱性および強化繊維との密着性が低下する傾向がある。一方、PPS樹脂の灰分量が0.30重量%より大きい場合には、得られる繊維強化熱可塑性樹脂基材の機械特性が低下するため好ましくない。灰分量を上記範囲とするための手段としては、例えば、後述のPPS樹脂を製造する方法の後処理工程で、酸処理、熱水処理を行う方法が挙げられる。なお、PPS樹脂の灰分量は、後述の方法により測定される。
【0035】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材において、強化繊維との密着性向上の観点から、PPS樹脂のカルボキシル基含有量が5μmol/g以上25μmol/g以下であることが好ましい。カルボキシル基含有量の下限値は、好ましくは5μmol/g、より好ましくは8μmol/g、さらに好ましくは10μmol/gである。カルボキシル基含有量の上限値は、好ましくは25μmol/g、より好ましくは20μmol/gである。PPS樹脂のカルボキシル基含有量が5μmol/g以上である場合、強化繊維との相互作用や接着性がより向上する傾向にある。一方、PPS樹脂のカルボキシル基含有量が25μmol/g以下である場合、加工工程における揮発性分量をより低減することができる。なお、PPS樹脂のカルボキシル基含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)を用いて算出した値である。
【0036】
PPS樹脂中に、カルボキシル基を導入する方法としては、例えば、カルボキシル基を含むポリハロゲン化芳香族化合物を共重合する方法や、カルボキシル基及び/またはカルボン酸無水物基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。
【0037】
本発明で用いられるPPS樹脂の降温結晶化温度は190℃以上215℃以下であることが好ましい。PPS樹脂の降温結晶化温度の下限としては、好ましくは190℃であり、より好ましくは200℃である。PPS樹脂の降温結晶化温度の上限としては、好ましくは215℃であり、より好ましくは210℃である。PPS樹脂の降温結晶化温度が上記範囲にあるとき、より優れた機械物性や熱溶着性を有した繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られる傾向にある。なお、本発明における降温結晶化温度とは特に断りがない限り、後述のとおり、示差走査熱量計(TA Instruments製Q200)を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した値である。降温結晶化温度を上記範囲とするための手段としては、例えば、後述のPPS樹脂を製造する方法の後処理工程で、酸処理、熱水処理を行う方法が挙げられる。
【0038】
以下に、本発明に用いるPPS樹脂を製造する方法の一例について説明するが、上記構造のPPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0039】
まず、PPS樹脂を製造する方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0040】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられる。中でも、p-ジクロロベンゼンが好ましい。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,6-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである、また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能である。かかる共重合体としては、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とする共重合体が好ましい。
【0041】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モルであることが好ましく、0.95から1.5モルであることがより好ましく、1.005から1.2モルであることがさらに好ましい。
【0042】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0043】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0044】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0045】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0046】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0047】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0048】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0049】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましい。かかる場合のアルカリ金属水酸化物の使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モルであることが好ましく、1.00から1.15モルであることがより好ましく、1.005から1.100モルであることがさらに好ましい。
【0050】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0051】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モルであることが好ましく、2.25から6.0モルであることがより好ましく、2.5から5.5モルであることがさらに好ましい。
【0052】
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。すなわち、本発明において、分子量調節剤として、モノハロゲン化合物を用いてもよい。
【0053】
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましい。有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0054】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0055】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は高価ではあるが反応系への溶解性が高く助剤効果が大きい点で好ましい。また、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性がやや低い場合があるが、安価である点で好ましい。重合系への適度な溶解性、助剤効果、価格のバランスの点から、酢酸ナトリウムが最も好ましい。
【0056】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であることが好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.1~0.6モルの範囲がより好ましく、0.2~0.5モルの範囲がさらに好ましい。
【0057】
また水を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であることが好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.6~10モルの範囲であることがより好ましく、1~5モルの範囲であることがさらに好ましい。
【0058】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能である。例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0059】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0060】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0061】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モルであることが好ましく、0.03~0.1モルであることがより好ましく、0.04~0.09モルであることがさらに好ましい。使用量が0.02モル以上であると十分な安定化効果が得られやすい。また、使用量が0.2モル以下であると、経済的に有利であったり、ポリマー収率が向上する傾向となる。
【0062】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0063】
次に、本発明に用いるPPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0064】
[前工程]
PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0065】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0066】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0067】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0068】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~240℃、好ましくは100~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0069】
かかる混合物を通常200℃~290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0070】
一般に、最終的には250~290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0071】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270~290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25~10時間の範囲が選ばれる。
【0072】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0073】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の(a)、(b)式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
【0074】
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕・・・(a)
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕・・・(b)
[回収工程]
PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
【0075】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0076】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
【0077】
[後処理工程]
PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0078】
酸処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0079】
酸処理の方法は、例えば、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法が挙げられる。必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0080】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0081】
熱水処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限はなく、例えば、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行うことができる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0082】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解を回避するため、不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0083】
有機溶媒による洗浄を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムが特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0084】
有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法が挙げられる。必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、例えば、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0085】
アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施す場合は次のとおりである。アルカリ金属、アルカリ土類金属処理をする方法としては、例えば、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS樹脂中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS樹脂1gに対して0.001~0.07mmolが好ましく、0.01~0.05mmolがより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃が好ましい。浴比(乾燥PPS樹脂重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0086】
その他、PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0087】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160~260℃が好ましく、170~250℃がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましく、2~25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理できる点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることがより好ましい。
【0088】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理できる点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることがより好ましい。
【0089】
但し、PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であることが好ましい。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数のPPS樹脂を混合して使用してもよい。
【0090】
<繊維強化熱可塑性樹脂基材を製造する方法>
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、連続した強化繊維にPPS樹脂を含浸させることにより得ることができる。
【0091】
連続した強化繊維にPPS樹脂を含浸させる方法としては、例えば、フィルム状のPPS樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束にPPS樹脂を含浸させるフィルム法、繊維状のPPS樹脂と強化繊維束とを混紡した後、繊維状のPPS樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させるコミングル法、粉末状のPPS樹脂を強化繊維束における繊維の隙間に分散させた後、粉末状のPPS樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束にPPS樹脂を含浸させる粉末法、溶融したPPS樹脂中に強化繊維束を浸し、加圧することで強化繊維束にPPS樹脂を含浸させる引き抜き法などが挙げられる。中でも、様々な厚み、繊維体積含有率など多品種の繊維強化熱可塑性樹脂基材を作製できることから、引き抜き法が好ましい。
【0092】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材の厚さは、0.1~10mmであることが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化熱可塑性樹脂基材を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。厚さは0.2mm以上がより好ましい。一方、厚さが1.5mm以下であれば、強化繊維にPPS樹脂をより含浸させやすい。厚さは1mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下が特に好ましい。
【0093】
また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、繊維強化熱可塑性樹脂基材全体100体積%中、強化繊維を20体積%以上65体積%以下含有することが好ましい。すなわち、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、繊維体積含有率が20~65体積%であることが好ましい。繊維体積含有率が20体積%以上であることにより、繊維強化熱可塑性樹脂基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。繊維体積含有率は30体積%以上がより好ましく、40体積%以上がさらに好ましい。一方、繊維体積含有率が65体積%以下であることにより、強化繊維に熱可塑性をより含浸させやすい。繊維体積含有率は60体積%以下がより好ましく、55体積%以下がさらに好ましい。繊維体積含有率は、強化繊維とPPS樹脂の投入量を調整することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0094】
繊維強化熱可塑性樹脂基材における強化繊維の体積含有率(Vf)は、繊維強化熱可塑性樹脂基材の質量W0を測定したのち、該繊維強化熱可塑性樹脂基材を空気中500℃で30分間加熱して熱可塑樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量W1を測定し、下記式(c)により算出することができる。
【0095】
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρr}×100
・・・(c)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:PPS樹脂の密度(g/cm3)。
【0096】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は機械特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂基材である。その目安として、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、ASTM D790に準拠した成形片の90°曲げ試験で130~200MPaであることが好ましく、140~180MPaであることがより好ましい。ASTM D790に準拠した成形片の90°曲げ試験が130MPa以上である場合、繊維強化熱可塑性樹脂基材の耐衝撃性や層間剪断強度が向上する傾向がある。
【0097】
また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。例えば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸のセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどが挙げられる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0098】
熱および/または圧力を付与する方法としては、例えば、任意の構成で積層した繊維強化熱可塑性樹脂を型内もしくはプレス板上に設置した後、型もしくはプレス板を閉じて加圧するプレス成形法、任意の構成で積層した成形材料をオートクレーブ内に投入して加圧・加熱するオートクレーブ成形法、任意の構成で積層した成形材料をフィルムなどで包み込み、内部を減圧にして大気圧で加圧しながらオーブン中で加熱するバッギング成形法、任意の構成で積層した繊維強化熱可塑性樹脂に張力をかけながらテープを巻き付け、オーブン内で加熱するラッピングテープ法、任意の構成で積層した繊維強化PPS樹脂を型内に設置し、同じく型内に設置した中子内に気体や液体などを注入して加圧する内圧成形法等が挙げられる。とりわけ、得られる成形品内のボイドが少なく、外観品位にも優れる成形品が得られることから、金型を用いてプレスする成形方法が好ましく用いられる。
【0099】
プレス成形方法としては、例えば、繊維強化熱可塑性樹脂基材を型内に予め配置しておき、型締めとともに加圧、加熱を行い、次いで型締めを行ったまま、金型の冷却により繊維強化熱可塑性樹脂基材を冷却し成形品を得るホットプレス法や、予め繊維強化熱可塑性樹脂基材を熱可塑性樹脂の溶融温度以上に、遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、熱可塑性樹脂を溶融・軟化させた状態で、前記成形型の下面となる型の上に配置し、次いで型を閉じて型締めを行い、その後加圧冷却する方法であるスタンピング成形などを採用することができる。プレス成形方法については特に制限はないが、成形サイクルを早めて生産性を高める観点からは、スタンピング成形であることが望ましい。
【0100】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂基材および成形品は、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形や、加熱による矯正処置、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法や接着剤を用いた一体化を行うことができ、複合体を得ることができる。
【0101】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂基材と、熱可塑性樹脂を含む成形品とが少なくとも一部で接合された複合成形品が好ましい。
【0102】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂基材と一体化される熱可塑性樹脂を含む成形品(成形用基材および成形品)には特に制限はなく、例えば、樹脂材料および成形品、金属材料および成形品、無機材料および成形品などが挙げられる。なかでも、樹脂材料および成形品が、本発明における繊維強化熱可塑性樹脂との接着強度の点で好ましい。
【0103】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂基材と一体化される成形材料および成形品のマトリックス樹脂は、繊維強化熱可塑性樹脂基材およびその成形品と同種の樹脂であってもよいし、異種の樹脂であってもよい。接着強度をより高めるためには、同種の樹脂であることが好ましい。異種の樹脂である場合は、界面に樹脂層を設けるとより好適である。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0105】
実施例および比較例において、PPS樹脂、強化繊維として以下のものを用いた。
[PPS樹脂]
以下の参考例1~6にてPPS-1~PPS-6を合成した。
【0106】
[参考例1(PPS-1の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0107】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、1,2,4‐トリクロロベンゼン22.5g、NMP9.00kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で150分反応を行った後、1.26kgの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0108】
内容物を取り出し、40.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70.0kgで洗浄、濾別した。70.0kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS-1は、重量平均分子量79000、灰分量が0.01重量%、カルボキシル基含有量が10μmol/gであった。
【0109】
[参考例2(PPS-2の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0110】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、NMP9.00kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で150分反応を行った後、1.26kgの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0111】
内容物を取り出し、40.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70.0kgで洗浄、濾別した。70.0kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS-2は、重量平均分子量75500、灰分量が0.10重量%で、カルボキシル基含有量が18μmol/gであった。
【0112】
[参考例3(PPS-3の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0113】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、NMP9.00kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で200分反応を行った後、1.26kgの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0114】
内容物を取り出し、30.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70.0kgで洗浄、濾別した。70.0kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS-3は、重量平均分子量78000、灰分量が0.01重量%で、カルボキシル基含有量が10μmol/gであった。
【0115】
[参考例4(PPS-4の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0116】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、NMP90.0kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1.26kgの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0117】
内容物を取り出し、30.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70.0kgで洗浄、濾別した。70.0kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS-4は、重量平均分子量72000、灰分量が0.01重量%で、カルボキシル基含有量が30μmol/gであった。
【0118】
[参考例5(PPS-5の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0119】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、NMP90.0kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で200分反応を行った後、1.26kgの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0120】
内容物を取り出し、30.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別し得られた未乾燥PPS粒子を得た。得られた未乾燥PPS樹脂20kgおよび酢酸カルシウム一水和物110gを200kgのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、濾過することで固液分離した。得られた固形分に20kgのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、濾過して固形分を回収した。こうして得られた固形分を窒素気流下、120℃で乾燥した。
得られたPPS-5は、重量平均分子量65800、灰分量が0.30重量%、カルボキシル基含有量が0μmol/gであった。
【0121】
[参考例6(PPS-6の合成)]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg、96%水酸化ナトリウム2.96kg、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg、酢酸ナトリウム2.58kg、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0122】
次にp-ジクロロベンゼン10.2kg、NMP90.0kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で200分反応を行った後、1.26kの水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0123】
内容物を取り出し、40.0kgのNMPで2回洗浄、濾別した。これを、56.0kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別し得られた未乾燥PPS粒子を得た。得られた未乾燥PPS樹脂20kgおよび酢酸カルシウム一水和物110gを200kgのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、濾過することで固液分離した。得られた固形分に20kgのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、濾過して固形分を回収した。こうして得られた固形分を窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたPPS-6は、重量平均分子量80000、灰分量が0.30重量%、カルボキシル基含有量が0μmol/gであった。
【0124】
[強化繊維]
CF-1:炭素繊維束(東レ株式会社製、品名T700S-12K)
[PPS樹脂の重量平均分子量]
PPS樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
【0125】
装置:SSC-7110(センシュー科学)
カラム名:Shodex UT806M×2 溶離液:1-クロロナフタレン 検出器:示唆屈折率検出器
カラム温度:210℃ プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
【0126】
[PPS樹脂のカルボキシル基含有量]
PPS樹脂のカルボキシル基含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(以下、FT-IRと略す)を用いて算出した。
【0127】
まず、標準物質として安息香酸をFT-IRにて測定し、ベンゼン環のC-H結合の吸収である3066cm-1のピークの吸収強度(b1)とカルボキシル基の吸収である1704cm-1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基含有量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、PPS樹脂を320℃にて1分間溶融プレスした後、急冷して得られた非晶フィルムのFT-IR測定を行った。3066cm-1の吸収強度(b2)と1704cm-1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基含有量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS樹脂1gに対するカルボキシル基含有量を以下の式(d)から算出した。
PPS樹脂のカルボキシル基含有量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000・・・(d)
[灰分量]
予め550℃で空焼きしたルツボにサンプル5gを精秤し、550℃の電気炉に24時間入れて灰化させた。ルツボに残った灰分の重量を精秤し、灰化前のサンプル重量との比率を灰分量(重量%)として算出した。
【0128】
[繊維体積含有率(Vf)の測定]
繊維強化熱可塑性樹脂基材の繊維体積含有率は、繊維強化熱可塑性樹脂基材の質量W0を測定したのち、該繊維強化熱可塑性樹脂基材から1-クロロナフタレンによりPPS樹脂を溶出し、乾燥後の残った強化繊維の質量W1を測定し、下記式(c)により繊維強化熱可塑性樹脂基材の体積含有率(Vf)を算出した。
【0129】
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρr}×100
・・・(c)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:PPS樹脂の密度(g/cm3)
[成形片の力学特性(90°曲げ試験)]
各実施例および比較例より得られた繊維強化熱可塑性樹脂基材(幅50mm×厚み0.08mm、一方向基材)を厚み2.0mm×幅100mm×長さ250mmになるよう0°方向に積層・プレス成形して繊維強化樹脂成形品を得た。この成形品から曲げ試験測定用に幅15mm×長さ125mm×厚み2.0mmの長方形状に切削加工して成形片を得た。当該成形片について、ASTM D790に準拠して曲げ試験(各n=5)を実施した。尚、この90°曲げ強度の数値が大きいほど力学特性に優れたコンポジット材料といえる。
【0130】
〔実施例1~3、比較例1~3〕
引抜成形法は炭素繊維(T700S-12K)のストランド(16本)を、PPSの水性スラリー中を引張ることによって行った。水性スラリーの配合は、エアミリングによって粉砕して粉末化したPPS樹脂11.0kgをイオン交換水16.0kgおよび11.3gの界面活性剤(エトキシル化オクチルフェノール)とした。繊維を水性スラリーからのPPS樹脂で被覆し、次いで、370℃に加熱されたダイを通して引張り、PPS樹脂を溶融または軟化させた。そして、炭素繊維をPPS樹脂で完全に含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂基材を得た。
【0131】
得られた繊維強化熱可塑性樹脂基材の厚さは0.08mm、幅は50mmであり、強化繊維方向は一方向に配列し、体積含有率は60%であった。得られた繊維強化熱可塑性樹脂基材を前記評価に供した。評価結果を表1に示した。
【0132】
【0133】
実施例1~3と比較例1~3の結果を比較して説明する。
【0134】
表1に示すように、実施例1~3の繊維強化熱可塑性樹脂基材は、90°曲げ強度が非常に優れている。
【0135】
一方、表1に示すように、重量平均分子量が本発明の範囲外のPPS(PPS-4)を用いた比較例1の繊維強化熱可塑性樹脂基材の場合、90°曲げ強度が低く、130MPa未満であった。また、重量平均分子量、および、灰分量が本発明の範囲外のPPS(PPS-5)を用いた比較例2の繊維強化熱可塑性樹脂基材の場合、90°曲げ強度が特に低く、63MPaであった。灰分量が本発明の範囲外のPPS(PPS-6)を用いた比較例3の繊維強化熱可塑性樹脂基材の場合、比較例2に比較して向上するが、90°曲げ強度は78MPaであり、130MPa未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材およびその成形品は、その優れた特性を活かし、航空機部品、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材およびその成形品は、とりわけ、含浸性、耐熱老化性、表面外観が要求される航空機エンジン周辺部品、航空機用部品外装部品、自動車ボディー部品車両骨格、自動車エンジン周辺部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、自動車内装部品、自動車外装部品、吸排気系部品、エンジン冷却水系部品や、自動車電装部品、電気・電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂基材およびその成形品は、ファンブレードなどの航空機エンジン周辺部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、各種シート、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの自動車ボディー部品、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、ターボチャージャ、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、電気・電子部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、抵抗器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、スイッチ、ナイフスイッチ、他極ロッド、モーターケース、テレビハウジング、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、ICやLED対応ハウジング、コンデンサー座板、ヒューズホルダー、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどの電気部品、コネクタ、SMT対応のコネクタ、カードコネクタ、ジャック、コイル、コイルボビン、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレー、リレーケース、リフレクタ、小型スイッチ、電源部品、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、SiパワーモジュールやSiCパワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などの電子部品などに好ましく用いられる。