(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241217BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
(21)【出願番号】P 2021521917
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021483
(87)【国際公開番号】W WO2020241886
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019103309
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 宏樹
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-182662(JP,A)
【文献】特開平09-147869(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106099056(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108630937(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物と、金属元素(Pbを除く)とを含み、
前記金属元素は、周期表第10族金属元素および第11族金属元素からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ポリマー化合物は、
1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で10ppm以上400ppm以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物と、金属元素(Pbを除く)とを含み、
前記ポリマー化合物は、
1
H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有し、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で10ppm以上400ppm以下である
、鉛蓄電池。
【請求項4】
前記金属元素は、周期表第3族~第14族の金属元素から選択される少なくとも一種を含む、請求項
3に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH
2-基および/または-CH<基とを含み、
前記
1H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値の、前記ピークの積分値と前記-CH
2-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記ポリマー化合物は、オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、請求項1
~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、金属元素(Pbを除く)と、オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物と、を含
み、
前記金属元素は、周期表第10族金属元素および第11族金属元素からなる群より選択される少なくとも一種を含む、鉛蓄電池。
【請求項8】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で10ppm以上400ppm以下である、請求項7に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、金属元素(Pbを除く)と、オキシC
2-4
アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物と、を含み、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で10ppm以上400ppm以下である、鉛蓄電池。
【請求項10】
前記金属元素は、周期表第3族~第14族の金属元素から選択される少なくとも一種を含む、請求項9に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記ポリマー化合物は、前記オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC
2-4アルキレングリコール、オキシC
2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC
2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項
6~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む、請求項
6~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記ポリマー化合物は、少なくとも数平均分子量が1000以上の化合物を含む、請求項
12に記載の鉛蓄電池。
【請求項14】
前記金属元素は、Cu、Ag、およびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~
13のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項15】
前記負極電極材料中の前記金属元素の含有量は、質量基準で10ppm以上500ppm以下である、請求項1~
14のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。様々な機能を付与する観点から、鉛蓄電池の構成部材に添加剤が添加されることがある。
【0003】
特許文献1には、有機高分子を含む活性化剤を電槽内への裂開機構を有する小型密閉容器に封入し、小型密閉容器を電槽または蓋部に装着したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
【0004】
特許文献2には、サイズ組成物で被覆された複数の繊維と、バインダ組成物と、1種以上の添加剤とを含み、該添加剤が、ゴム添加剤、ゴム誘導体、アルデヒド、金属塩、エチレン-プロピレンオキサイドブロックコポリマー、硫酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、リグニン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、セルロース、および木粉などのうち1種以上を含み、該添加剤が、鉛蓄電池における水分損失を減じるように機能し得る繊維貼付マットが提案されている。
【0005】
特許文献3には、正負極格子がPb-Ca-Sn系合金からなり、正負極接続部材がSb5000質量ppm以下(実質的に0の場合も含む)である鉛合金からなる鉛蓄電池において、電解液中にアルミニウムイオンを0.02~0.2mol/L添加し、かつ正極活物質、負極活物質ないしは電解液中にSbまたはその化合物を、Sb元素の量が負極活物質質量比で100~1000質量ppmとなるように添加したことを特徴とする鉛蓄電池が記載されている。
【0006】
特許文献4には、電解液にアルミニウムを添加した鉛蓄電池において、鉛蓄電池の正極活物質層または/および負極活物質層にアルミニウムを添加したことを特徴とする鉛蓄電池が記載されている。
【0007】
特許文献5には、炭素部分と空隙とがそれぞれ連続構造をなす共連続多孔構造部分を有する多孔質炭素材料と、鉛または鉛化合物とが複合化されてなる鉛蓄電池用電極が記載されている。特許文献5には、鉛蓄電池用電極が、多孔質炭素材料と、鉛または鉛化合物の他に、導電助剤、バインダー、金属、金属化合物などを含むことができることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-149980号公報
【文献】特表2017-525092号公報
【文献】特開2012-89296号公報
【文献】特開2018-198151号公報
【文献】特開2017-162754号公報(請求項1、段落[0030])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
負極電極材料中に有機系添加剤が含まれると、鉛の表面に有機系添加剤が付着する。鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛の表面も有機系添加剤で覆われた状態となり易い。その結果、硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物と、金属元素(Pbを除く)とを含み、
前記ポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池に関する。
【0011】
本発明の他の側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、金属元素(Pbを除く)と、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物と、を含む、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0012】
鉛蓄電池の負極電極材料にポリマー化合物が含まれる場合でも、充電受入性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、鉛蓄電池の負極電極材料に有機系添加剤が含まれると、活物質である鉛の表面に有機系添加剤が付着する。鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性が低下する。
【0015】
また、一般に、鉛の表面が有機系添加剤で覆われると、水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、過充電時の水素ガス発生が抑制され、電解液の減少(以下、単に減液と称する場合がある。)が抑制される傾向にある。そのため、充電受入性の低下抑制と、減液抑制とは、トレードオフの関係にあり、両立させることは従来困難であった。さらに、有機系添加剤が鉛の細孔内で偏在した状態となると、十分な水素ガス発生の低減効果を確保するには、負極電極材料中の有機系添加剤の含有量を多くする必要がある。しかし、有機系添加剤の含有量を多くすると、充電受入性が大きく低下する。
【0016】
鉛蓄電池では、一般に、電解液に硫酸水溶液が用いられるため、有機系添加剤(オイル、高分子、または有機防縮剤など)を負極電極材料中に含有させると、電解液への溶出と鉛への吸着とのバランスを取ることが難しくなる。例えば、鉛への吸着性が低い有機系添加剤を用いると、電解液中に溶出し易くなり、水素イオンの還元反応を抑制することが難しくなる。一方、鉛への吸着性が高い有機系添加剤を用いると、鉛表面に薄く付着させることが難しくなり、有機系添加剤が鉛の細孔内に偏在した状態となり易い。
【0017】
鉛の細孔内で有機系添加剤が偏在した状態になると、偏在した有機系添加剤の立体障害により、イオン(鉛イオンおよび硫酸イオンなど)の移動が阻害される。そのため、充放電反応が阻害され易くなる。水素イオンの還元反応の抑制効果を十分に確保する観点から、有機系添加剤の含有量を多くすると、細孔内におけるイオンの移動もさらに阻害され、充放電反応がさらに阻害されることになる。これらの点からも充電受入性が低下し易い。
【0018】
それに対し、本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備え、負極電極材料は、ポリマー化合物と、金属元素(Pbを除く)とを含む。ポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
なお、1H-NMRスペクトルの3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。ここで、1H-NMRスペクトルは、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される。
【0019】
また、本発明の他の側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備え、負極電極材料は、金属元素(Pbを除く)と、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物と、を含む。
【0020】
このように、本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料が、Pbを除く金属元素(以下、単に第1金属元素と称することがある。)と上記のようなポリマー化合物とを含む。負極電極材料中にポリマー化合物だけでなく、第1金属元素が含まれることで、負極電極材料がポリマー化合物を含むことによる充電受入性の低下を抑制できる。負極電極材料がポリマー化合物を含まない場合には、第1金属元素を負極電極材料に添加しても、充電受入性は何ら影響されない。また、負極電極材料は、多量の鉛を含むため、本来、高い導電性を備えている。しかし、負極電極材料がポリマー化合物を含む場合には、充電受入性が低下することから、鉛の高い導電性は発揮されずに、負極電極材料における導電性が低下すると考えられる。このような状態の負極電極材料に第1金属元素が含まれると、充電受入性の低下が抑制される。これらのことから、充電受入性の低下が抑制されるのは、ポリマー化合物と第1金属元素とが負極電極材料中に含まれることで、ポリマー化合物と鉛との間では得られない相互作用が生じ、導電性のポリマーと金属との複合体のようなものが生成していると考えられる。そして、このような相互作用により、負極電極材料がポリマー化合物を含む場合でも硫酸鉛の導電性の低下が抑制され、還元されやすくなるとともに、充電時の硫酸鉛の溶解性の低下が抑制され、その結果、充電受入性の低下が抑制されると考えられる。
【0021】
一般に、鉛蓄電池では、過充電時の反応は、鉛と電解液との界面における水素イオンの還元反応に大きく影響される。また、負極電極材料が第1金属元素を含む場合、過充電時に第1金属元素が関与する副反応も起こり易くなり、過充電電気量が増加し、水素ガスが発生し易くなる。本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料が第1金属元素を含むにも拘わらず、過充電電気量を低減でき、これにより減液を低減できる。過充電電気量が低減されるのは、ポリマー化合物により負極活物質である鉛の表面が覆われた状態となることで、水素過電圧が上昇し、過充電時にプロトンから水素が発生する副反応が阻害されるためと考えられる。
【0022】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有することで線状構造を取り易くなるため、負極電極材料中に留まり難く、電解液中に拡散し易いと考えられる。そのため、上記のポリマー化合物を用いても、過充電電気量の低減効果はほとんど得られないと予想される。ところが、このような予想に反し、本発明者らは、実際には、負極電極材料中にごく僅かなポリマー化合物が含まれる場合でも、過充電電気量の低減効果が得られることを見出した。ごく僅かな量のポリマー化合物でも、過充電電気量の低減効果が得られることから、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、鉛の近傍に存在させることができ、これにより、オキシC2-4アルキレンユニットの鉛に対する高い吸着作用が発揮されるものと考えられる。また、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となり、鉛表面の広範囲な領域で水素イオンの還元反応が抑制されると考えられる。このことは、ポリマー化合物が線状構造を取り易いこととも矛盾しない。また、水素ガス発生が抑制されることで減液を低減できるため、鉛蓄電池の長寿命化に有利である。
【0023】
オキシC2-4アルキレンユニットを有するポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、上述のように、薄く広がった状態のポリマー化合物で鉛表面が覆われることになる。そのため、他の有機系添加剤を用いる場合に比べて、負極電極材料中の含有量が少量でも、過充電電気量の優れた低減効果を確保することができる。ポリマー化合物は、鉛表面を薄く覆うため、放電時に生成する硫酸鉛の充電時における溶出が阻害され難くなる。また、鉛の細孔内におけるポリマー化合物の偏在が抑制されるため、イオンが移動し易くなる。これらの点からも充電受入性の低下が抑制されることになる。よって、水素ガス発生を抑制しながら(さらには減液を低減しながら)、充電受入性の低下を抑制することができる。
【0024】
上記のようなポリマー化合物の効果を得るには、ポリマー化合物を鉛や硫酸鉛の近傍に存在させることが必要になる。そのため、負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素にポリマー化合物が含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料がポリマー化合物を含有していることが重要である。そして、このような構成により、金属元素と相互作用して、充電受入性の低下を抑制することができる。さらには、負極板における水素過電圧を上昇させることができ、その結果、過充電電気量を低減することができる。
【0025】
なお、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることができればよく、負極電極材料に含まれるポリマー化合物の由来は特に制限されない。ポリマー化合物は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、および/またはセパレータなど)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液など)に含有させてもよい。
【0026】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでもよい。1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、鉛に吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に抑制することができる。また、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0027】
1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、鉛に対してより吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるとともに、過充電電気量をより効果的に抑制することができる。
【0028】
本明細書中、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し単位を有するか、および/または数平均分子量(Mn)が500以上であるものをいうものとする。
【0029】
なお、オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R1-(R1はC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
【0030】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である。このようなポリマー化合物を用いる場合、充電受入性の低下をさらに抑制することができる。また、過充電電気量を低減する効果が高いため、水素ガス発生をより効果的に抑制できるとともに、高い減液抑制効果が得られる。
【0031】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH3)-CH2-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に薄く広がり易く、これらのバランスに優れていると考えられる。よって、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるとともに、過充電電気量をより効果的に低減できる。
【0032】
このようにポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面を薄く覆うことができるため、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が比較的少量(例えば、400ppm以下)であっても、第1金属元素との相互作用により充電受入性の低下を抑制することができる。また、過充電電気量をより効果的に低減することができる。鉛細孔内におけるポリマー化合物の立体障害を低減できることからも、充電受入性の低下を抑制できる。過充電電気量の低減効果をさらに高める観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、10ppm以上が好ましい。
【0033】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。この場合、ポリマー化合物が負極電極材料中に留まり易いことに加え、鉛に対する吸着性が高まるため、ポリマー化合物を継続的に第1金属元素と相互作用させることができる。よって、充電受入性の低下を持続的に抑制することができる。また、過充電電気量を低減する効果がさらに高まる。水素ガスの発生が抑制されることで、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の劣化も抑制することができ、長寿命化に有利である。
【0034】
第1金属元素は、例えば、周期表第3族~第14族の金属元素から選択される少なくとも一種を含む。第1金属元素は、周期表第10族金属元素および第11族金属元素からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。中でも、第1金属元素は、Cu、Ag、およびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの場合、より効果的に充電受入性の低下を抑制することができるとともに、より高い過充電電気量の低減効果を確保し易くなる。
【0035】
負極電極材料中の第1金属元素の含有量は、質量基準で、例えば、10ppm以上500ppm以下である。この場合、充電受入性の低下および減液を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0036】
なお、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量および第1金属元素の濃度は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池の負極板について求めるものとする。
【0037】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもでもよい。
【0038】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量(Ah)に記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量(Ah)として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0039】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0040】
本明細書中、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0041】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0043】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0044】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0045】
負極電極材料は、上記のポリマー化合物を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、防縮剤、炭素質材料、および/または他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0046】
(第1金属元素)
第1金属元素としては、例えば、Pb以外の金属元素であれば特に制限されず、典型金属元素および遷移金属元素のいずれであってもよい。負極電極材料は、一種の第1金属元素を含んでもよく、二種以上の第1金属元素を含んでもよい。
【0047】
第1金属元素としては、例えば、周期表の第1族~第15族の金属元素から選択される少なくとも一種が挙げられる。第1金属元素としては、例えば、周期表第1族金属元素(Li、Kなど)、第2族金属元素(Mg、Ca、Srなど)、第3族金属元素(Sc、Y、ランタノイド、アクチノイド)、第4族金属元素(Ti、Zrなど)、第5族金属元素(V、Nbなど)、第6族金属元素(Cr、Mo、Wなど)、第7族金属元素(Mnなど)、第8族金属元素(Fe、Ruなど)、第9族金属元素(Co、Rh、Irなど)、第10族金属元素(Ni、Pd、Pt)、第11族金属元素(Cu、Ag、Au)、第12族金属元素(Znなど)、第13族金属元素(Al、Ga、Inなど)、第14族金属元素(Ge、Sn、Pb)などが挙げられる。
【0048】
第1金属元素は、Naおよび/またはBaを除く金属元素であってもよい。また、第1金属元素は、周期表第1族金属元素および第2族金属元素を除く金属元素であってもよい。
【0049】
中でも、第1金属元素は、周期表第3族~第14族の金属元素から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、第10族金属元素および第11族金属元素からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。第1金属元素は、Cu、Ag、およびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。これらの第1金属元素を用いると、充電受入性の低下および過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0050】
第1金属元素は、負極電極材料中に金属または合金などの形態で含まれていてもよく、化合物の形態で含まれていてもよく、その双方であってもよい。ポリマー化合物との相互作用により高い導電性を確保し易い観点からは、第1金属元素は、少なくとも金属結合を形成した状態で負極電極材料中に含まれていること(つまり、金属または合金の形態で含まれていること)が好ましい。
【0051】
負極電極材料中に含まれる第1金属元素を含む金属成分(金属、合金、および化合物)の平均粒子径は、例えば、1μm以下であり、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。金属成分の平均粒子径は、例えば、10nm以上である。
【0052】
負極電極材料中の第1金属元素の含有量は、質量基準で、例えば、10ppm以上であり、20ppm以上であってもよい。充電受入性の低下抑制効果がさらに高まる観点からは、第1金属元素の含有量は、50ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であってもよい。第1金属元素の含有量は、例えば、500ppm以下である。過充電電気量の低減効果がさらに高まる観点からは、第1金属元素の含有量は、200ppm以下であることが好ましく、180ppm以下であることがより好ましく、150ppm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
負極電極材料中の第1金属元素の含有量は、質量基準で、10ppm以上(または20ppm以上)500ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)200ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)180ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)150ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)500ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)200ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)180ppm以下、あるいは50ppm以上(または100ppm以上)150ppm以下であってもよい。
【0054】
第1金属元素がCuを含む場合、負極電極材料中のCuの含有量は、質量基準で、30ppm以上であってもよく、40ppm以上または50ppm以上であってもよく、60ppm以上であってもよい。Cuの含有量がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Cuの含有量は、300ppm以下であってもよく、200ppm以下または150ppm以下であってもよく、120ppm以下または100ppm以下であってもよい。Cuの含有量がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0055】
負極電極材料中のCuの含有量は、質量基準で、30ppm以上(または40ppm以上)300ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)200ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)150ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)120ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)100ppm以下、50ppm以上(または60ppm以上)300ppm以下、50ppm以上(または60ppm以上)200ppm以下、50ppm以上(または60ppm以上)150ppm以下、50ppm以上(または60ppm以上)120ppm以下、あるいは50ppm以上(または60ppm以上)100ppm以下であってもよい。
【0056】
第1金属元素がAgを含む場合、負極電極材料中のAgの含有量は、質量基準で、30ppm以上であってもよく、40ppm以上または50ppm以上であってもよく、80ppm以上または90ppm以上であってもよい。Agの含有量がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Agの含有量は、350ppm以下であってもよく、300ppm以下または200ppm以下であってもよく、190ppm以下または180ppm以下であってもよい。Agの含有量がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0057】
負極電極材料中のAgの含有量は、質量基準で、30ppm以上(または40ppm以上)350ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)300ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)200ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)190ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)180ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)350ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)300ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)200ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)190ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)180ppm以下、90ppm以上350ppm以下(または300ppm以下)、90ppm以上200ppm以下(または190ppm以下)、あるいは90ppm以上180ppm以下であってもよい。
【0058】
第1金属元素がNiを含む場合、負極電極材料中のNiの含有量は、質量基準で、10ppm以上であってもよく、15ppm以上または20ppm以上であってもよい。Niの含有量がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Niの含有量は、150ppm以下であってもよく、100ppm以下または70ppm以下であってもよく、60ppm以下または50ppm以下であってもよく、40ppm以下または30ppm以下であってもよい。Niの含有量がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0059】
負極電極材料中のNiの含有量は、質量基準で、10ppm以上(または15ppm以上)150ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)100ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)70ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)60ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)50ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)40ppm以下、10ppm以上(または15ppm以上)30ppm以下、20ppm以上150ppm以下(または100ppm以下)、20ppm以上、70ppm以下(または60ppm以下)、20ppm以上50ppm以下(または40ppm以下)、あるいは20ppm以上30ppm以下であってもよい。
【0060】
第1金属元素は、負極電極材料を調製する際に他の構成成分とともに、第1金属元素を含む金属成分を混合することにより負極電極材料中に含有させてもよい。また、金属成分を含む溶液または分散液などを用い、塗布や浸漬などを利用して、化成前または化成後の負極板の負極電極材料に金属成分を担持させてもよい。金属成分を含む溶液(例えば、電解液)中で負極板に電圧を印加することにより、負極電極材料中に第1金属元素を含む金属成分を析出させてもよい。
【0061】
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0062】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0063】
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
【0064】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体、ポリC2-4アルキレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリC2-4アルキレングリコールエステルなどが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0065】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。ポリオールのアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0066】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR2基を有する(式中、R2は有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR2基であってもよい。
【0067】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R3基を有する(式中、R3は有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R3基であってもよい。
【0068】
有機基R2およびR3のそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0069】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0070】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0071】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0072】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0073】
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ジエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0074】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0075】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0076】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0077】
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および/またはオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも高い減液抑制効果を確保することができる。
【0078】
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0079】
過充電電気量の低減効果および充電受入性の低下抑制効果をさらに高める観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH2-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH2-に由来する。
【0080】
このようなポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステルなどが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0081】
オキシプロピレンの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
【0082】
鉛に対する吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。過充電電気量の低減効果がさらに高まるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果がさらに高まる観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH2-基や-CH<基を有する場合、1H-NMRスペクトルにおいて、-CH2-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0083】
ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、例えば、20000以下であり、15000以下または10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、5000以下が好ましく、4000以下または3000以下であってもよい。
【0084】
上記の化合物のMnは、500以上(または600以上)20000以下、500以上(または600以上)15000以下、500以上(または600以上)10000以下、500以上(または600以上)5000以下、500以上(または600以上)4000以下、500以上(または600以上)3000以下、1000以上20000以下(または15000以下)、1000以上10000以下(または5000以下)、あるいは1000以上4000以下(または3000以下)であってもよい。
【0085】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。このような化合物のMnは、1000以上20000以下であってもよく、1000以上15000以下であってもよく、1000以上10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、1000以上5000以下が好ましく、1000以上4000以下であってもよく、1000以上3000以下であってもよい。このようなMnを有する化合物を用いる場合、過充電電気量をより容易に低減させることができる。また、過充電電気量を低減することで、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の劣化を抑制することができるため、長寿命化に有利である。上記のようなMnを有する化合物は、電解液中に含まれる場合でも負極電極材料中に移動し易いため、負極電極材料中に化合物を補充することができ、このような観点からも負極電極材料中に化合物を保持させ易い。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
【0086】
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、例えば10ppm以上であり、20ppm以上または30ppm以上が好ましく、40ppm以上がより好ましい。ポリマー化合物の含有量がこのような範囲である場合、水素発生電圧をより高め易く、過充電電気量をより容易に低減することができる。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、例えば、500ppm以下であり、400ppm以下であってもよい。ポリマー化合物の含有量がこのような範囲である場合、鉛の表面がポリマー化合物で過度に覆われることが抑制されるため、充電受入性の低下をより効果的に抑制できる。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、ポリマー化合物の含有量(質量基準)は、320ppm以下または300ppm以下が好ましく、200ppm以下または150ppm以下であってもよく、130ppm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0087】
ポリマー化合物の含有量(質量基準)は、10ppm以上(または20ppm以上)500ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)400ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)320ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)300ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)200ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)150ppm以下、10ppm以上(または20ppm以上)130ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)500ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)400ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)320ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)300ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)200ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)150ppm以下、30ppm以上(または40ppm以上)130ppm以下であってもよい。
【0088】
また、負極電極材料に含まれるポリマー化合物に対する第1金属元素の質量比(=第1金属元素/ポリマー化合物)は、例えば、0.12以上であり、0.15以上または0.25以上であってもよく、0.75以上または1.25以上であってもよい。質量比がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。質量比は、例えば、2.5以下であり、2.0以下または1.5以下であってもよい。質量比がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0089】
ポリマー化合物に対する第1金属元素の質量比は、0.12以上(または0.15以上)2.5以下、0.12以上(または0.15以上)2.0以下、0.12以上(または0.15以上)1.5以下、0.25以上(または0.75以上)2.5以下、0.25以上(または0.75以上)2.0以下、0.25以上(または0.75以上)1.5以下、1.25以上2.5以下(または2.0以下)、あるいは1.25以上1.5以下であってもよい。
【0090】
第1金属元素がCuを含む場合、ポリマー化合物に対するCuの質量比(=Cu/ポリマー化合物)は、例えば、0.1以上であり、0.2以上または0.3以上であってもよく、0.4以上または0.5以上であってもよく、0.7以上であってもよい。質量比がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Cuの質量比は、2.3以下が好ましく、1.6以下または1.5以下がより好ましく、1.25以下がさらに好ましい。質量比がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0091】
ポリマー化合物に対するCuの質量比は、0.1以上2.3以下(または1.6以下)、0.2以上2.3以下(または1.6以下)、0.3以上2.3以下(または1.6以下)、0.4以上2.3以下(または1.6以下)、0.5以上2.3以下(または1.6以下)、0.7以上2.3以下(または1.6以下)、0.1以上1.5以下(または1.25以下)、0.2以上1.5以下(または1.25以下)、0.3以上1.5以下(または1.25以下)、0.4以上1.5以下(または1.25以下)、0.5以上1.5以下(または1.25以下)、あるいは0.7以上1.5以下(または1.25以下)であってもよい。
【0092】
第1金属元素がAgを含む場合、ポリマー化合物に対するAgの質量比は、例えば、0.2以上であり、0.25以上または0.5以上であってもよい。Agの質量比がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Agの質量比は、例えば、2.5以下であり、2.3以下であってもよく、2以下または1.5以下であってもよい。Agの質量比がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0093】
ポリマー化合物に対するAgの質量比は、0.2以上2.5以下(または2.3以下)、0.25以上2.5以下(または2.3以下)、0.5以上2.5以下(または2.3以下)、0.2以上2以下(または1.5以下)、0.25以上2以下(または1.5以下)、0.5以上2以下(または1.5以下)であってもよい。
【0094】
第1金属元素がNiを含む場合、ポリマー化合物に対するNiの質量比は、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。Niの質量比がこのような範囲である場合、充電受入性の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。Niの質量比は、1以下であってもよく、0.7以下または0.5以下であってもよい。Niの質量比がこのような範囲である場合、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。
【0095】
ポリマー化合物に対するNiの質量比は、0.05以上(または0.1以上)1以下、0.05以上(または0.1以上)0.7以下、0.05以上(または0.1以上)0.5以下であってもよい。
【0096】
(防縮剤)
負極電極材料は、防縮剤を含むことができる。防縮剤としては、有機防縮剤が好ましい。有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。有機防縮剤は、通常、リグニン類と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン類以外の有機防縮剤であるとも言える。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。負極電極材料は、防縮剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。例えば、負極電極材料は、合成有機防縮剤またはリグニン類を含んでもよく、合成有機防縮剤とリグニン類とを含んでもよい。
【0097】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いることが好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)および/またはその縮合物など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0098】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0099】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0100】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。減液を抑制する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基および/またはアミノ基を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることが好ましい。
【0101】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0102】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0103】
有機防縮剤の硫黄元素含有量は、特に制限されないが、減液を抑制する効果がさらに高まる観点からは、9000μmol/g以下が好ましく、8000μmol/g以下または7000μmol/g以下がより好ましい。有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、400μmol/g以上である。
【0104】
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0105】
有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。有機防縮剤のMwは、例えば、3000以上である。
【0106】
なお、本明細書中、有機防縮剤のMwは、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0107】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。
【0108】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下、0.05質量%以上1.0質量%以下、0.01質量%以上0.5質量%以下、または0.05質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0109】
(炭素質材料)
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0110】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0111】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0112】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0113】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0114】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に添付部材が含まれる場合には剥離により負極板から添付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aとも称する。)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0115】
(1)ポリマー化合物の分析
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
粉砕した100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび/または熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
【0116】
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件で1H-NMRスペクトルを測定する。この1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0117】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0118】
1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V1)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH2-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V2)を求める。そして、V1およびV2から、V1がV1およびV2の合計に占める割合(=V1/(V1+V2)×100(%))を求める。
【0119】
なお、定性分析で、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、1H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0120】
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したmr(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から負極電極材料質中のポリマー化合物の質量基準の含有量Cn(ppm)を求める。
【0121】
Cn=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m×1000000
(式中、Maはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Naは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、Mrはそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、Nr=2、Mr=168である。また、m=100である。
【0122】
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Maは58であり、Naは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Maは44であり、Naは4である。共重合体の場合には、Naは、各モノマー単位のNa値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値であり、Maは各モノマー単位の種類に応じて決定される。
【0123】
なお、定量分析では、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0124】
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。
【0125】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=200,0000、20,0000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0126】
(2)第1金属元素の分析
(2-1)第1金属元素の定性および定量分析
所定量の試料Aを15質量%濃度の硝酸水溶液に溶解させる。得られる溶液20mLを採取した後、イオン交換水を加えて100mLに調整する。高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法により、溶液中の金属の種類を同定し、金属の発光強度を測定する。この発光光度の測定値と、予め作成した検量線とから、溶液中に含まれる金属の質量を求め、負極電極材料に含有される金属の割合を求める。定性分析および定量分析を行う。ICP発光分光測定装置としては、(株)島津製作所製 ICPS-8000が用いられる。
【0127】
(2-2)第1金属元素を含む金属成分の平均粒子径
電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて撮影される試料Aの画像において、任意の100個の金属成分の粒子を選択する。各粒子の外縁で囲まれる領域と同じ面積を有する円の直径を求め、各粒子の粒子径とする。各粒子の粒子径を平均化することにより、平均粒子径を決定する。
【0128】
(3)有機防縮剤の分析
(3-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で取り除き、得られた濾液を透析により脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、濾液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料が得られる。
【0129】
このようにして得た有機防縮剤の粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトルや、粉末試料を蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、重水等の所定の溶媒で溶解し、得られた溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0130】
(3-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(3-1)と同様に、有機防縮剤を含むNaOH水溶液の濾液を得た後、濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。
【0131】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0132】
(3-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(3-1)と同様に、有機防縮剤の粉末試料を得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で粉末試料を燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C1)を求める。次に、C1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0133】
(3-4)有機防縮剤のMw
有機防縮剤のMwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定する。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0134】
(4)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
未粉砕の試料Aを粉砕し、粉砕された試料10gに対し、20%質量濃度硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0135】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、混合試料の質量(Mm)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0136】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0137】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0138】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0139】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0140】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0141】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0142】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0143】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0144】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および/または微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
【0145】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0146】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0147】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0148】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0149】
なお、本明細書中、極板における上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。
【0150】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。負極電極材料の場合と同様に、電解液中に含まれるポリマー化合物の由来も特に制限されない。
【0151】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、例えば、5000ppm以下であり、3000ppm以下であってもよく、2500ppm以下または1500ppm以下であってもよく、1000ppm以下または500ppm以下であってもよい。電解液に含まれるポリマー化合物の量がこのような範囲である場合、過充電電気量をさらに低減できるとともに、充電受入性の低下をさらに抑制することができる。電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上であってもよく、5ppm以上であってもよい。
【0152】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上(または5ppm以上)5000ppm以下、1ppm以上(または5ppm以上)3000ppm以下、1ppm以上(または5ppm以上)2500ppm以下、1ppm以上(または5ppm以上)1500ppm以下、1ppm以上(または5ppm以上)1000ppm以下、あるいは1ppm以上(または5ppm以上)500ppm以下であってもよい。
【0153】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、満充電状態の鉛蓄電池について求めるものとする。
【0154】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した所定量(m1(g))の電解液にクロロホルムを加えて混合し、静置して二層に分離させた後、クロロホルム層のみを取り出す。この作業を数回繰り返した後、クロロホルムを減圧下で留去し、クロロホルム可溶分を得る。クロロホルム可溶分の適量をTCE0.0212±0.0001gと共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から電解液中のポリマー化合物の含有量Ceを求める。
Ce=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m1×1000000
(式中、MaおよびNaは、それぞれ前記に同じ。)
【0155】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
【0156】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0157】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0158】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0159】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0160】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0161】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0162】
(1)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物と、金属元素(Pbを除く)とを含み、
前記ポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【0163】
(2)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含み、前記1H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値の、前記ピークの積分値と前記-CH2-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、50%以上、80%以上、85%以上、または90%以上であってもよい。
【0164】
(3)上記(1)または(2)において、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
【0165】
(4)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、金属元素(Pbを除く)と、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物とを含む、鉛蓄電池。
【0166】
(5)上記(3)または(4)において、前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0167】
(6)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、第1金属元素(Pbを除く)と、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である、鉛蓄電池。
【0168】
(7)上記(5)または(6)において、前記エーテル化物は、前記ヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基がエーテル化された-OR2基(式中、R2は有機基である。)を有し、前記有機基R2は、炭化水素基であってもよい。
【0169】
(8)上記(5)または(6)において、前記エステル化物は、上記ヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基がエステル化された-O-C(=O)-R3基(式中、R3は有機基である。)を有し、前記有機基R3は、炭化水素基であってもよい。
【0170】
(9)上記(7)または(8)において、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0171】
(10)上記(9)において、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0172】
(11)上記(9)または(10)において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。
【0173】
(12)上記(9)~(11)のいずれか1つにおいて、前記脂肪族炭化水素基は、アルキル基またはアルケニル基であってもよい。
【0174】
(13)上記(12)において、前記アルキル基の炭素数は、1以上であり、前記アルケニル基の炭素数は、2以上であってもよい。
【0175】
(14)上記(12)または(13)において、前記アルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリルおよびベヘニルからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0176】
(15)上記(12)または(13)において、前記アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0177】
(16)上記(12)、(13)または(15)において、前記アルケニル基は、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、およびオレイルからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0178】
(17)上記(3)~(16)のいずれか1つにおいて、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
【0179】
(18)上記(17)において、前記ポリマー化合物(1分子)中の前記オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上、10mol%以上、または20mol%以上であってもよい。
【0180】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。
【0181】
(20)上記(19)において、前記化合物のMnは、20000以下、15000以下、10000以下、5000以下、4000以下、または3000以下であってもよい。
【0182】
(21)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含んでもよい。
【0183】
(22)上記(21)において、前記化合物のMnは、1000以上20000以下、1000以上15000以下、1000以上10000以下、1000以上5000以下、1000以上4000以下、または1000以上3000以下であってもよい。
【0184】
(23)上記(1)~(22)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、10ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、または40ppm以上であってもよい。
【0185】
(24)上記(1)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、500ppm以下、400ppm以下、320ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、150ppm以下、または130ppm以下であってもよい。
【0186】
(25)上記(1)~(24)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素は、周期表第3族~第14族の金属元素から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0187】
(26)上記(1)~(25)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素は、周期表第10族金属元素および第11族金属元素からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0188】
(27)上記(1)~(26)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素は、Cu、Ag、およびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0189】
(28)上記(1)~(27)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1金属元素の含有量は、質量基準で、10ppm以上、20ppm以上、50ppm以上、または100ppm以上であってもよい。
【0190】
(29)上記(1)~(28)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1金属元素の含有量は、質量基準で、500ppm以下、200ppm以下、180ppm以下、または150ppm以下であってもよい。
【0191】
(30)上記(1)~(29)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる前記ポリマー化合物に対する前記第1金属元素の質量比(=第1金属元素/ポリマー化合物)は、0.12以上、0.15以上、0.25以上、0.75以上、1.25以上であってもよい。
【0192】
(31)上記(1)~(30)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる前記ポリマー化合物に対する前記第1金属元素の質量比(=第1金属元素/ポリマー化合物)は、2.5以下、2.0以下、または1.5以下であってもよい。
【0193】
(32)上記(1)~(31)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がCuを含み、前記負極電極材料中のCuの含有量は、質量基準で、30ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、または60ppm以上であってもよい。
【0194】
(33)上記(1)~(32)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がCuを含み、前記負極電極材料中のCuの含有量は、質量基準で、300ppm以下、200ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、または100ppm以下であってもよい。
【0195】
(34)上記(1)~(33)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がCuを含み、前記ポリマー化合物に対するCuの質量比(=Cu/ポリマー化合物)は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、または0.7以上であってもよい。
【0196】
(35)上記(1)~(34)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がCuを含み、前記ポリマー化合物に対するCuの質量比(=Cu/ポリマー化合物)は、2.3以下、1.6以下、1.5以下、または1.25以下であってもよい。
【0197】
(36)上記(1)~(35)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がAgを含み、前記負極電極材料中のAgの含有量は、質量基準で、30ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、80ppm以上、または90ppm以上であってもよい。
【0198】
(37)上記(1)~(36)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がAgを含み、前記負極電極材料中のAgの含有量は、質量基準で、350ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、190ppm以下、または180ppm以下であってもよい。
【0199】
(38)上記(1)~(37)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がAgを含み、前記ポリマー化合物に対するAgの質量比(=Ag/ポリマー化合物)は、0.2以上、0.25以上、または0.5以上であってもよい。
【0200】
(39)上記(1)~(38)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がAgを含み、前記ポリマー化合物に対するAgの質量比(=Ag/ポリマー化合物)は、2.5以下、2.3以下、2以下または1.5以下であってもよい
【0201】
(40)上記(1)~(39)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がNiを含み、前記負極電極材料中のNiの含有量は、質量基準で、10ppm以上、15ppm以上、または20ppm以上であってもよい。
【0202】
(41)上記(1)~(40)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がNiを含み、前記負極電極材料中のNiの含有量は、質量基準で、150ppm以下、100ppm以下、70ppm以下、60ppm以下、50ppm以下、40ppm以下、または30ppm以下であってもよい。
【0203】
(42)上記(1)~(41)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がNiを含み、前記ポリマー化合物に対するNiの質量比(=Ni/ポリマー化合物)は、0.05以上、または0.1以上であってもよい。
【0204】
(43)上記(1)~(42)のいずれか1つにおいて、前記第1金属元素がNiを含み、前記ポリマー化合物に対するNiの質量比(=Ni/ポリマー化合物)は、1以下、0.7以下、または0.5以下であってもよい。
【0205】
(44)上記(1)~(43)のいずれか1つについて、前記負極電極材料は、前記第1金属元素を含む金属成分を含み、前記金属成分の平均粒子径は、1μm以下、500nm以下、または300nm以下であってもよい。
【0206】
(45)上記(1)~(44)のいずれか1つについて、前記負極電極材料は、前記第1金属元素を含む金属成分を含み、前記金属成分の平均粒子径は、10nm以上であってもよい。
【0207】
(46)上記(1)~(45)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに炭素質材料を含んでもよい。
【0208】
(47)上記(46)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0209】
(48)上記(46)または(47)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3質量%以下であってもよい。
【0210】
(49)上記(1)~(48)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに有機防縮剤を含んでもよい。
【0211】
(50)上記(49)において、前記有機防縮剤は、合成有機防縮剤およびリグニン類からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0212】
(51)上記(49)または(50)において、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上、または0.05質量%以上であってもよい。
【0213】
(52)上記(49)~(51)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、1.0質量%以下または0.5質量%以下であってもよい。
【0214】
(53)上記(1)~(52)のいずれか1つにおいて、前記電解液は、前記ポリマー化合物を含んでもよい。
【0215】
(54)上記(53)において、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で、5000ppm以下、3000ppm以下、2500ppm以下、1500ppm以下、1000ppm以下、または500ppm以下であってもよい。
【0216】
(55)上記(53)または(54)において、前記電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上、または5ppm以上であってもよい。
【0217】
(56)上記(1)~(55)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでもよい。
【0218】
(57)上記(56)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上または0.10質量%以上であってもよい。
【0219】
(58)上記(56)または(57)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下または2質量%以下であってもよい。
【0220】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0221】
《鉛蓄電池E1~E15およびR1~R9》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、ポリマー化合物(ポリプロピレングリコール、Mn=2000)と、有機防縮剤とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表1に示す値となるとともに、硫酸バリウムの含有量が0.6質量%、カーボンブラックの含有量が0.3質量%、有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。有機防縮剤としては、スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw=9600)が用いられる。
【0222】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0223】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V、定格5時間率容量は35Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。電解液としては、第1金属元素源として、表1に示す金属の硫酸塩を含む硫酸水溶液が用いられる。化成後の電解液の比重は1.28(20℃換算)である。化成により第1金属元素が負極電極材料中に電析される。既述の手順で求められる負極電極材料中の第1金属元素の含有量が表1の値となるように、電解液中の硫酸塩の濃度および化成条件(印加電流、通電時間など)が調節される。
【0224】
鉛蓄電池E1~E15では、既述の手順で求められる電解液中のポリマー化合物の濃度は500ppm以下である。
【0225】
既述の手順で測定されるポリマー化合物の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH2-に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークが観察される。また、1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、98.1%である。
【0226】
既述の手順で求められる負極電極材料中に含まれる第1金属元素を含む金属成分の平均粒子径は、10nm~300nmの範囲内である。
【0227】
(2)評価
(a)充電受入性
満充電後の試験電池を用いて、10秒目電気量を測定する。具体的には、試験電池を、7Aで30分放電し、1分間放置する。その後、試験電池を2.4V/セルで定電圧充電し、このときの10秒間の積算電気量(10秒目電気量)を測定する。いずれの作業も、25℃±2℃の水槽中で行う。鉛蓄電池R1の10秒目電気量を100としたときの比率(%)で各鉛蓄電池の充電受入性を評価する。
【0228】
(b)過充電電気量
上記鉛蓄電池を用いて、以下の条件で実施する。
JIS D5301に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を75℃±3℃で実施する(高温軽負荷試験)。高温軽負荷試験において充放電を1220サイクル繰り返すことで高温軽負荷試験を行う。1220サイクルまでの各サイクルにおける過充電電気量(充電電気量-放電電気量)を合計し、平均化することにより1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を求める。鉛蓄電池R1の1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を100としたときの比率(%)で過充電電気量を評価する。
【0229】
鉛蓄電池E1~E15およびR1~R9の結果を表1に示す。表中の「-」は、第1金属元素の含有量が検出限界以下であることを示す。
【0230】
【表1】
表1に示されるように、負極電極材料がポリマー化合物を含む場合、ポリマー化合物を含まない場合に比べて、充電受入性が低下する(例えば、R1とR5との比較(7%低下))。また、第1金属元素だけでは充電受入性の低下を抑制する効果は見られない(R1とR2~R4との比較)。しかし、負極電極材料がポリマー化合物を含む場合に、第1金属元素を負極電極材料に含有させると、充電受入性の低下が抑制される(E1~E15)。このように、ポリマー化合物と第1金属元素との組み合わせにより、充電受入性の低下抑制効果において、相乗効果が得られる。よって、ポリマー化合物と第1金属元素とが相互作用していると推測される。
【0231】
また、E1~E15では、負極電極材料が第1金属元素を含むにも拘わらず、過充電電気量が大きく低減されている(E1~E15とR2~R4との比較)。これは、ポリマー化合物の存在により、水素過電圧が上昇したことによるものと考えられる。
なお、上記の鉛蓄電池は、合成有機防縮剤を用いる例であるが、リグニン類を用いる場合にも上記と同様のまたは類似の効果が得られる。
【0232】
《鉛蓄電池E16~E18》
ポリマー化合物として表2に示すものを用いる。また、既述の手順で求められる負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表2に示す値となるように負極ペーストの構成成分を混合する。これら以外は、鉛蓄電池E9と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。なお、ポリマー化合物について、1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、97.6%~99.7%である。
【0233】
《鉛蓄電池E19~E21》
ポリマー化合物として表2に示すものを用いる。また、既述の手順で求められる負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表2に示す値となるように負極ペーストの構成成分を混合する。これら以外は、鉛蓄電池E11と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。なお、ポリマー化合物について、1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、97.6%~99.7%である。
【0234】
鉛蓄電池E16~E21の結果を表2に示す。表2には、鉛蓄電池R1、E9、およびE11の結果も合わせて示す。表中の「-」は、第1金属元素の含有量が検出限界以下であることを示す。
【0235】
【0236】
表2に示されるように、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物やエステル化物を用いる場合にも、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0238】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓