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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/04 20060101AFI20241217BHJP
   C08G 64/06 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08G64/04
C08G64/06
C08J5/18 CEZ
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021526010
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021591
(87)【国際公開番号】W WO2020250732
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019108054
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏仁
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160291(JP,A)
【文献】特開2018-045138(JP,A)
【文献】特開2018-025780(JP,A)
【文献】特開昭63-089529(JP,A)
【文献】特開2017-031245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構成単位(A)と一般式(3B)で表される構成単位(B)との共重合体であり、前記共重合体の末端に、式(T1)で表される末端構造、及び式(T2)で表される末端構造から選択される末端構造を有し、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である、ポリカーボネート樹脂。
【化25】
[式(T1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン基又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、又はエステル結合を表すか、又は単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。]
【化26】
[式(T2)中、
は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
は炭素数1~6のアルキレン基を表し、
は水素原子又はメチル基を表し、
は水素原子又はハロゲンを表し、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。]
【請求項2】
粘度平均分子量(Mv)が、16,000~80,000である、請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
粘度平均分子量(Mv)が、26,000~80,000である、請求項1又2に記載の樹脂。
【請求項4】
ガラス転移温度(Tg)が、150℃以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂。
【請求項5】
前記共重合体は、末端に、式(T2)で表される末端構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
一般式(1)で表される構成単位(A)、及び一般式(2)で表される構成単位(B)を含み、末端に、式(T1)で表される末端構造、及び式(T2)で表される末端構造から選択される末端構造を有し、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である、ポリカーボネート樹脂。
【化27】
[式(2)中、
、R、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~7のアルケニル基、炭素数1~7のアルコキシ基、及び炭素数7~17のアラルキル基から選択され、前記アルキル基、前記アリール基、前記アルケニル基、前記アルコキシ基、前記アラルキル基はそれぞれ置換基を有していてもよく、
Xは、下記式(4)で表される二価の基であり、
【化28】
(式(4)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、及び炭素数6~12のアリール基から選択される。)]
【化29】
[式(T1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン基又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびR はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、又はエステル結合を表すか、又は単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。]
【化30】
[式(T2)中、
は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
は炭素数1~6のアルキレン基を表し、
は水素原子又はメチル基を表し、
は水素原子又はハロゲンを表し、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。]
【請求項7】
、R、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、及び炭素数6~12のアリール基から選択される、請求項6に記載の樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂を含む、フィルム。
【請求項9】
非ハロゲン系有機溶媒と、前記非ハロゲン系溶媒に溶解した、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂とを含む、樹脂溶液。
【請求項10】
前記樹脂溶液中の前記ポリカーボネート樹脂の濃度が、20質量%以上である、請求項7に記載の樹脂溶液。
【請求項11】
前記非ハロゲン系有機溶媒が、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1つである、請求項9又は10に記載の樹脂溶液。
【請求項12】
請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂溶液を湿式成形して得られるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂ならびにこれを用いた樹脂溶液およびフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、その優れた機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性、難燃性、透明性等により、電気電子及びOA機器、光メディア、自動車部品、建築部材等に広く使用されている(例えば、特許文献1~5)。
ポリカーボネートフィルムの製造は押出成形と湿式成形とに大別される。このうち、ガラス転移温度の高いポリカーボネート樹脂をフィルム成形する方法としては、湿式成形が利用されている。効率よく湿式成形を行うには、比較的低沸点の有機溶媒を用いて、樹脂を高濃度(例えば20質量%以上)で溶解させる必要がある。樹脂の溶解性に優れる低沸点溶媒として、従来はハロゲン系溶媒が用いられていたが、近年では、環境への配慮からハロゲンを含有しない非ハロゲン系溶媒を用いることが要請されている。
湿式成形に用いられる低沸点な非ハロゲン系溶媒として、ケトン系溶媒やエステル系溶媒が知られている。しかし、従来より用いられるガラス転移温度の高いポリカーボネート樹脂はこれらの溶媒への溶解性が悪い場合があり、湿式成形の成形効率に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-89540号公報
【文献】特開平2-99521号公報
【文献】特開平2-128336号公報
【文献】特開2017-031245号公報
【文献】特開2011-246583号公報
【発明の概要】
【0004】
このような状況下において、新規なポリカーボネート樹脂の提供が望まれている。
【0005】
本発明は、例えば次の通りである。
[1] 一般式(1)で表される構成単位(A)、及び一般式(2)で表される構成単位(B)を含み、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
[式(2)中、
、R、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~7のアルケニル基、炭素数1~7のアルコキシ基、及び炭素数7~17のアラルキル基から選択され、前記アルキル基、前記アリール基、前記アルケニル基、前記アルコキシ基、前記アラルキル基はそれぞれ置換基を有していてもよく、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、炭素数6~12のシクロアルキレン基、又は一般式(3)若しくは一般式(4)のいずれかで示される二価の基を表し、前記シクロアルキレン基は1~12個の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよく、
【化2】
(式(3)中、
及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~17のアラルキル基、及び炭素数2~15のアルケニル基から選択され、
およびR10における前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルケニル基はそれぞれ置換基を有していてもよく、
及びR10は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成してもよく、前記炭素環、前記複素環はそれぞれ置換基を有していてもよく
及びR10の両方が共にメチル基になることはなく、
nは0~20の整数を表す。)
【化3】
(式(4)中、
11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~17のアラルキル基、及び炭素数2~15のアルケニル基から選択され、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルケニル基はそれぞれ置換基を有していてもよく、
11及びR12は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環、又は炭素数1~20の複素環を形成してもよく、前記炭素環、前記複素環はそれぞれ置換基を有していてもよい。)]
[1a] Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、1~12個の炭素数1~3のアルキル基で置換されているシクロヘキセン基、1~12個の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい炭素数7~12のシクロアルキレン基、又は前記一般式(3)若しくは前記一般式(4)のいずれかで示される二価の基を表す、[1]に記載の樹脂。
[2] 粘度平均分子量(Mv)が、16,000~80,000である、[1]に記載の樹脂。
[2a] 粘度平均分子量(Mv)が、20,000~80,000である、[1]に記載の樹脂。
[3] 粘度平均分子量(Mv)が、26,000~80,000である、[1]又[2]に記載の樹脂。
[4] ガラス転移温度(Tg)が、150℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂。
[5] 構成単位(B)が、下記一般式(3A)で表される、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂。
【化4】
(式(3A)中、
は、炭素数1~20のアルキル基を表し、
10は、炭素数6~12のアリール基を表す。)
【0006】
[6] 構成単位(B)が、下記一般式(3B)で表される、[5]に記載の樹脂。
【化5】
[7] 構成単位(B)が、下記一般式(5A)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂。
【化6】
(式(5A)中、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
[7a] 構成単位(B)が、下記一般式(5)で表される、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂。
【化7】
(式(5)中、
mは、1~7の整数を表し、
13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
[7b] 式(5)中、
(i)mは、1であり、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22の少なくとも一つは炭素数1~3のアルキル基である;または
(ii)mは、2~7の整数を表し、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す、[7a]に記載の樹脂。
[8] R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基である、[7]に記載の樹脂。
[9] Xは、炭素数7~12のシクロアルキレン基を表し、前記シクロアルキレン基は1~12個の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂。
[10] Xは、前記式(4)で表される二価の基であり、
11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、及び炭素数6~12のアリール基から選択される、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂。
[11] R、R、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、及び炭素数6~12のアリール基から選択される、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂。
【0007】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を含む、フィルム。
[12a] [1]~[11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を含む、樹脂組成物。
[13] 非ハロゲン系有機溶媒と、前記非ハロゲン系溶媒に溶解した、[1]~[11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂とを含む、樹脂溶液。
[14] 前記樹脂溶液中の前記ポリカーボネート樹脂の濃度が、20質量%以上である、[13]に記載の樹脂溶液。
[15] 前記非ハロゲン系有機溶媒が、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1つである、[13]又は[14]に記載の樹脂溶液。
[15a] 前記非ハロゲン系有機溶媒が、メチルエチルケトン及び酢酸エチルの少なくとも1つである、[13]又は[14]に記載の樹脂溶液。
[16] [13]~[15]のいずれかに記載の樹脂溶液を湿式成形して得られるフィルム。
[16a] [13]~[15]のいずれかに記載の樹脂溶液を用いて湿式成形することを含む、フィルムの製造方法。
【0008】
[17] ポリカーボネート樹脂は式(T1)で表される末端構造(特に、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)から誘導される末端構造)、式(T2)で表される末端構造(特に、式(T3)で表される末端構造)、および式(T4)で表される末端構造から選択される末端構造Tを含む、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂。
【化8】
(式(T1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。)
【化9】
(式(T2)および式(T3)中、
は水素又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
は炭素数1~6のアルキレン基を表し、
は水素原子又はメチル基を表し、
は水素原子又はハロゲンを表し、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。)
【化10】
[18] 前記末端構造Tは、ジヒドロキシ化合物から誘導される構成単位(例えば、一般式(1)で表される構成単位(A)及び一般式(2)で表される構成単位(B)の合計)100モルに対して、0.95モル以上(好ましくは1.5モル以上)および10モル以下(好ましくは5モル以下)で含まれる、[17]に記載の樹脂。
【0009】
本発明の一形態によれば、低沸点な非ハロゲン系溶媒への溶解性に優れ、かつ、ガラス転移温度の高い、ポリカーボネート樹脂が提供される。
実施形態のポリカーボネート樹脂は、低沸点な非ハロゲン系溶媒への溶解性に優れるため、効率よく安価に良好な成形品を製造することが可能となるため生産性が向上するとともに環境面にも優れる。
好ましい実施形態において、ケトン系溶媒および/またはエステル系溶媒への溶解性に優れ、ガラス転移温度の高い(例えば150℃以上)、ポリカーボネート樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本明細書において記載する用語等の意義を説明し、本発明を詳細に説明する。
「アルキル」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アリール」とは、指定された数の炭素原子を有する芳香族性の炭化水素環式基を指す。
「アルケニル」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の炭化水素基を意味する。例えば、モノエン、ジエン、トリエン及びテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アルコキシ」とは、指定された数の炭素原子を有するアルキルの末端に酸素原子(O)が結合した基である。
「アラルキル」とは、アルキルの水素原子の1つがアリールで置換された基である。
「アルキレン」とは、指定された数の炭素原子を有する2価の直鎖状、環状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素基である。
「アルケニレン」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する2価の直鎖または分岐の炭化水素基を意味する。
「シクロアルキレン」とは、指定された数の炭素原子を有する2価の環状のアルキルである。
「ハロゲン」はフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、またはヨウ素原子(I)である。
【0011】
1.ポリカーボネート樹脂
本発明の一形態は、一般式(1)で表される構成単位(A)、及び一般式(2)で表される構成単位(B)を含む、ポリカーボネート樹脂を提供する。該ポリカーボネート樹脂において、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である。一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、該構成単位(A)および該構成単位(B)を含む共重合体である。共重合体の構造はランダム、ブロックおよび交互共重合体のいずれでもよい。
【化11】
本形態のポリカーボネート樹脂(以下単に「ポリカーボネート樹脂」ともいう)は高いガラス転移温度(Tg)と低沸点な非ハロゲン系溶媒への優れた溶解性とを両立し得る。このような高Tgと良好な溶媒溶解性が達成される理由は定かではないが、本発明者らは、良好な溶媒溶解性を示す構造単位(A)と高Tgを示す構成単位(B)とを特定比率で共重合化することにより、両性質を同時に満たすポリカーボネート樹脂が得られるためと推定している。
【0012】
上記式(2)において、R、R、R、R、R、R、R、及びR(以下「R~R」と略すこともある)は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~7(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基、炭素数2~7(好ましくは炭素数2~5、より好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基、炭素数1~7(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基、及び炭素数7~17(好ましくは炭素数数7~12、より好ましくは炭素数7~10)のアラルキル基から選択される。
~Rにおける前記アルキル基、前記アリール基、前記アルケニル基、前記アルコキシ基、前記アラルキル基はそれぞれ置換基を有していてもよい。有してもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基から選択される少なくとも一種である。
中でも、R~Rは、原料モノマーの市場流通性や価格、得られるフィルムの強度(例えば鉛筆強度)の点から、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基がより好ましい。
【0013】
上記式(2)において、Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のシクロアルキレン基、又は下記一般式(3)若しくは下記一般式(4)のいずれかで示される二価の基を表す。
【0014】
Xとしての前記シクロアルキレン基は1~12個(好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらに好ましくは1~3個)の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
好ましい態様では、Xとしての前記シクロアルキレン基は少なくとも1個(好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらに好ましくは1~3個)の炭素数1~3のアルキル基で置換されている。かかる場合には溶媒溶解性を保持しつつ、ガラス転移温度を高めることができる。特定の態様では、Xとしての前記シクロアルキレン基は、少なくとも1個(好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらに好ましくは1~3個)の炭素数1~3のアルキル基で置換されているシクロヘキセンである。
他の好ましい態様では、Xとしての前記シクロアルキレン基は、1~12個(好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらに好ましくは1~3個)の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい、炭素数7~12のシクロアルキレン基である。かかる場合には溶媒溶解性を保持しつつ、ガラス転移温度を高めることができる。
他の好ましい態様では、Xは、炭素数7~12のシクロアルキレン基を表し、前記シクロアルキレン基は1~12個の炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。かかる場合には溶媒溶解性を保持しつつ、ガラス転移温度を高めることができる。
【0015】
【化12】
上記式(3)において、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数1~7(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基、炭素数7~17(好ましくは炭素数7~12、より好ましくは炭素数7~10)のアラルキル基、及び炭素数2~15(好ましくは炭素数2~5、より好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基から選択される。
およびR10における前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルケニル基はそれぞれ置換基を有していてもよい。有してもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基から選択される少なくとも一種である。
【0016】
上記式(3)において、R及びR10は互いに結合して、炭素数3~20(好ましくは炭素数3~12、より好ましくは炭素数3~8)の炭素環又は炭素数1~20(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~8)の複素環を形成してもよい。該炭素環または該複素環は、それぞれ置換基を有していてもよい。有してもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~3)のアルキル基から選択される少なくとも一種である。
なお、上記式(3)において、R及びR10の両方が共にメチル基になることはない。
【0017】
中でも、原料モノマーの市場流通性や価格、得られるフィルムの強度(例えば鉛筆強度)の点で、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基、炭素数7~17(好ましくは炭素数7~12、より好ましくは炭素数7~10)のアラルキル基、及び炭素数2~15(好ましくは炭素数2~5、より好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基が好ましく、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基がより好ましい。
【0018】
上記式(3)において、nは0~20の整数を表す。nは原料モノマーの市場流通性や価格、得られるフィルムの強度(例えば鉛筆強度)の点で、好ましくは1~12の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。
【0019】
【化13】
上記式(4)において、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~9、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数1~7(好ましくは炭素数1~5、より好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基、炭素数7~17(好ましくは炭素数7~12、より好ましくは炭素数7~10)のアラルキル基、及び炭素数2~15(好ましくは炭素数2~5、より好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基から選択される。
11およびR12における、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルケニル基はそれぞれ置換基を有していてもよい。有してもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基から選択される少なくとも一種である。
上記式(4)において、R11及びR12は互いに結合して、炭素数3~20(好ましくは炭素数3~12、より好ましくは炭素数3~8)の炭素環、又は炭素数1~20(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6)の複素環を形成してもよい。該炭素環または該複素環は、それぞれ置換基を有していてもよい。有してもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8)のアリール基から選択される少なくとも一種である。
【0020】
中でも、原料モノマーの市場流通性の点で、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0021】
上記一般式(2)で表される構成単位(B)は、Xとして、耐熱性向上及び非ハロゲン系有機溶媒への溶媒溶解性向上の点で、シクロアルカンやアリールなどの環構造を含むことが好ましい。
以下、好ましい構成単位(B)の例を挙げる。
【0022】
一実施形態において、上記一般式(2)で表される構成単位(B)は、下記一般式(3A)で表される。
【化14】
【0023】
上記式(3A)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基を表す。このうち、Rは、好ましくは炭素数1~9のアルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、原料モノマーの市場流通性や価格の点から、メチル基、エチル基、又はプロピル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
上記式(3A)において、R10は、炭素数6~12のアリール基を表す。このうち、R10は、炭素数6~8のアリール基が好ましく、原料モノマーの市場流通性や価格の点から、フェニル基が特に好ましい。
【0024】
好ましい形態において、構成単位(B)は、下記一般式(3B)で表される。
【化15】
【0025】
上記式(3A)または(3B)のように、R10が芳香環を含む構造であることにより、分子鎖の回転ポテンシャルエネルギーが高くなり、ガラス転移温度が向上し得る。
【0026】
一実施形態において、上記一般式(2)で表される構成単位(B)は、下記一般式(5)で表される。ポリカーボネート樹脂が式(5)の構造を有することにより、非ハロゲン系有機溶媒への溶媒溶解性が向上する点で好ましい。
【化16】
【0027】
上記式(5)中、mは、1~7の整数を表す。
【0028】
一実施形態において、式(5)中、mは、1である。
すなわち、好ましい形態において、構成単位(B)は、下記一般式(5A)で表される。
【化17】
【0029】
上記式(5)および式(5A)中、R13、R14、R15、R16、R17、及びR18(以下「R13~R18」と略すこともある)は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R13~R18は、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、メチル、エチル又はプロピルである。
【0030】
一実施形態において、上記式(5)において、mは、2~7であり、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0031】
一実施形態において、上記式(5)および式(5A)において、R13~R18のうち少なくとも一つ(好ましくは1~6つ、より好ましくは1~3つ)が炭素数1~3のアルキル基(例えば、メチル、エチル)である。かかる場合には溶媒溶解性を保持しつつ、ガラス転移温度を高めることができる。
【0032】
一実施形態において、上記式(5)および式(5A)において、R13~R18はいずれも水素原子である。一実施形態において、上記式(5)において、mは2~7の整数を表し、R13~R18はいずれも水素原子である。
【0033】
一実施形態において、上記一般式(2)で表される構成単位(B)は、下記一般式(4)で表され、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、及び炭素数6~12のアリール基から選択される。かかる構造を有することにより、高いガラス転移温度を有し、低複屈折のフィルムを製造し得るポリカーボネート樹脂が得られる点で好ましい。
【0034】
上記一般式(2)で表される構成単位(B)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本形態のポリカーボネート樹脂は、一般式(1)で表される構成単位(A)と一般式(2)で表される構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である。このようなモル比とすることで、高いガラス転移温度を達成しつつ、溶媒(例えば非ハロゲン系溶媒)への溶解性を向上させることができる。構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)は、ガラス転移温度及び溶媒への溶解性の点から、好ましくは45/55~80/20であり、より好ましくは50/50~80/20である。
【0036】
ポリカーボネート樹脂は、溶媒溶解性および高いガラス転移温度を損なわない範囲で、上記構成単位(A)および上記構成単位(B)以外のその他構成単位(C)を含んでいてもよい。
ポリカーボネート樹脂における構成単位(A)および構成単位(B)の合計の割合は、該ポリカーボネート樹脂(全質量100質量%)に対して、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
構成単位(C)としては、例えば、本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムに由来する構成単位が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂は、本発明の特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、離型剤、紫外線吸収剤、可塑剤、相溶化剤等の少なくとも1種の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、原料としてジヒドロキシ化合物とカーボネート結合剤とを用い、従来公知の方法により製造することができる。例えば、ジヒドロキシ化合物とホスゲン等とを直接反応させる方法(界面重合法、ホスゲン法)、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換反応させる方法(エステル交換法、溶融法)が挙げられる。
【0038】
ジヒドロキシ化合物としては、上記一般式(1)で表される構成単位(A)、及び上記一般式(2)で表される構成単位(B)に対応するジヒドロキシ化合物を用いればよい。具体的には、下記一般式(1)’で表される化合物(すなわち、4,4’-(4-メチルペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール;本明細書において「MIBK」ともいう)、及び一般式(2)’で表される化合物である。必要に応じて、その他構成単位(C)に対応するジヒドロキシ化合物を併用する。
【化18】
上記式(2)’において、R~RおよびXは、上記式(2)と同義である。
【0039】
界面重合法で製造する場合、通常は酸結合剤および溶媒の存在下において、ジヒドロキシ化合物とホスゲンを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム等が用いられる。縮重合反応を促進するために、トリエチルアミン等の第三級アミン触媒、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩等を用いてもよい。
【0040】
上記製造方法においては、反応系に、さらに、フェノール、p-t-ブチルフェノール(PTBP)、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール、アルコキシ置換フェノール、ベンゾトリアゾール置換フェノール等の一官能基化合物を分子量調節剤(末端停止剤)として加えることが好ましい。なお、分子量調節剤(末端停止剤)の添加のタイミングは特に制限されず、ジヒドロキシ化合物の反応時に添加してもよいし、ジヒドロキシ化合物の反応後に添加してもよい。
【0041】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.95モル以上、好ましくは1.5モル以上であり、また、通常10モル以下、好ましくは5モル以下である。
【0042】
分子量調節剤を添加することにより、ポリカーボネート樹脂(共重合体)の末端に分子量調節剤由来の末端構造が導入される。一実施形態において、上記分子量調節剤由来の末端構造は、ジヒドロキシ化合物から誘導される構成単位(例えば、一般式(1)で表される構成単位(A)及び一般式(2)で表される構成単位(B)の合計)100モルに対して、通常0.95モル以上、好ましくは1.5モル以上であり、また、通常10モル以下、好ましくは5モル以下の量で含まれる。
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂(共重合体)の末端構造は、フェノール、p-t-ブチルフェノール(PTBP)、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール、アルコキシ置換フェノール、ベンゾトリアゾール置換フェノールから選択される化合物から誘導される。
分子量調節剤を添加することにより、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)を所望の範囲に調節することが可能となることに加え、分子量調節剤の構造に由来した特異な物性をポリカーボネート樹脂に付与できる点で好ましい。
【0043】
アルコキシ置換フェノールとしては、例えば、下記式(T1)’で表される化合物が挙げられる。
【化19】
上記式(T1)’の化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の主鎖の末端に、下記式(T1)で表される末端構造が導入される。
【化20】
式(T1)’および式(T1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。
上記式(T1)’で表される化合物は、例えば、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)、m-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシベンジルアルコール(すなわち、サリチルアルコール)、p-ヒドロキシベンジルアルコール、m-ヒドロキシベンジルアルコール、バニリルアルコール、ホモバニリルアルコール、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-プロパノール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール、p-クマリルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、反応性の観点からp-ヒドロキシフェネチルアルコール、p-ヒドロキシベンジルアルコールが好ましく、さらにはp-ヒドロキシフェネチルアルコールが好ましい。
これらのアルコキシ置換フェノールは、得られるポリカーボネート樹脂の主鎖の末端に水酸基を導入でき、ポリカーボネート樹脂に反応性を付与できる点で優れる。
【0044】
あるいは、分子量調節剤は、下記式(T2)’で表される化合物であってもよい。
【化21】
上記式(T2)’の化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の主鎖の末端に、下記式(T2)で表される末端構造が導入される。
【化22】
式(T2)’および式(T2)中、Rは水素又は炭素数1~6のアルキル基、Rは炭素数1~6のアルキレン基、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又はハロゲンを表し、*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。
【0045】
中でも、上記式(T2)’で表される化合物としては、下記式(T3)’で表される化合物が好ましい。式(T3)’の化合物を配合することにより、ポリカーボネート樹脂の主鎖の末端に、下記式(T3)で表される末端構造が導入される。
【化23】
式(T3)’および式(T3)中、Rは水素又は炭素数1~6のアルキル基を表し、*はポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置を表す。 これらのベンゾトリアゾール置換フェノールは、得られるポリカーボネート樹脂にメタクリル基に由来する反応性と、ベンゾトリアゾール基に由来する紫外線吸収性能を付与できる点で優れる。
【0046】
中でも、合成時の反応性および入手容易性、価格の点で、分子量調節剤として、p-t-ブチルフェノール(PTBP)、上記式(T1)’で表される化合物(特に、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)、および上記式(T2)’で表される化合物(特に、式(T3)’で表される化合物)からなる群から選択される化合物を用いることが好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、上記式(T1)で表される末端構造(特に、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)から誘導される末端構造)、上記式(T2)で表される末端構造(特に、上記式(T3)で表される末端構造)、および下記式(T4)で表される末端構造から選択される末端構造を含む。
【化24】
【0048】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は上記式(T4)で表される末端構造を含む。
【0049】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、上記式(T1)で表される末端構造(特に、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)から誘導される末端構造)を含む。
【0050】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、上記式(T2)で表される末端構造(特に、式(T3)で表される末端構造)を含む。
【0051】
また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の酸化防止剤、フロログルシン、イサチンビスフェノール、トリスフェノールエタン等の分岐化剤を少量添加してもよい。
【0052】
エステル交換法又は溶融法で製造する場合、通常、エステル交換触媒の存在下において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応させる。
炭酸ジエステルの具体例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(4-フェニルフェニル)カーボネート等の芳香族炭酸ジエステルが挙げられる。炭酸ジエステルと共に、ジカルボン酸、ジカルボン酸エステル等を使用する場合には、ポリエステルカーボネートを得ることができる。
エステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の少なくとも一種が使用できる。補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。エステル交換触媒は一種類を使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0053】
(ポリカーボネート樹脂の物性)
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、樹脂溶液の扱いやすさの点で、16,000~80,000が好ましく、20,000~80,000がより好ましく、得られるフィルムの強度(例えば鉛筆強度)の点で、26,000~80,000がより好ましく、26,000~60,000がより一層好ましく、26,000~50,000がさらに好ましく、26,000~40,000が特に好ましい。
【0054】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は以下に記載の方法により測定することができる。
(粘度平均分子量(Mv)測定条件)
測定機器:ウベローデ毛管粘度計
溶媒:ジクロロメタン
樹脂溶液濃度:0.5グラム/デシリットル
測定温度:25℃
上記条件で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式により算出される。
【数1】
【0055】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、150℃以上が好ましい。150℃以上であれば耐熱性に優れる。耐熱性および成形時の容易性の点から、155℃以上がより好ましく、157℃以上がさらに好ましい。一例をあげると、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは150~200℃であり、より好ましくは155~200℃であり、さらに好ましくは157~200℃である。
【0056】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は以下に記載の方法により測定することができる。
(ガラス転移温度(Tg)測定条件)
測定機器:示差走査熱量測定機(DSC)
加温速度:10℃/分
ガスフロー環境:窒素20ml/分
試料前処理:300℃加熱融解
【0057】
ポリカーボネート樹脂は、溶媒溶解性に優れる。好ましくは、湿式成形を行う際の効率向上の観点から、ポリカーボネート樹脂の溶解濃度が該溶媒の溶液(100質量%)中に溶解し得るポリカーボネート樹脂の濃度(質量%)が、20質量%以上であることが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂は、非ハロゲン系有機溶媒(好ましくは、後述するケトン系溶媒およびエステル系溶媒の少なくとも一つ)に、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上溶解することが望ましい。
【0058】
2.ポリカーボネート樹脂組成物
ポリカーボネート樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、離型剤、紫外線吸収剤、可塑剤、相溶化剤等の添加剤を添加して、ポリカーボネート樹脂組成物としてもよい。
ポリカーボネート樹脂は例えば、本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0059】
ポリカーボネート樹脂と各種の添加剤との配合方法は、通常用いられるポリマーブレンド方法であれば特に限定されず、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法、あるいは上記各成分を例えば塩化メチレンなどの共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法などがある。
【0060】
ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂組成物は、フィルム、シート、ディスク、レンズ、プリズム等、種々の成形体の原料として用いることができる。
【0061】
3.成形体
一つの実施形態によれば、上記ポリカーボネート樹脂、又はそれを含む樹脂組成物を成形して得られる成形体が提供される。
例えば、実施形態のポリカーボネート樹脂、又はそれを含む樹脂組成物は、フィルムとしても好適に利用できる。一実施形態は、ポリカーボネート樹脂を含む、フィルムである。
【0062】
実施形態のポリカーボネート樹脂、又はそれを含む樹脂組成物は、種々の方法により成形することができる。例えば、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法、積層成形法、カレンダー成形法などの乾式成形;溶液流延法、キャスト法などの湿式成形など任意の方法により成形される。
中でも、実施形態のポリカーボネート樹脂は、溶媒溶解性に優れているので、湿式成形により、成形するのに適する。特に、湿式成形による光学フィルム等のフィルムの原料として適している。
【0063】
湿式成形によるフィルム成形は、薄膜を得やすいことや無配向のフィルムが得られる利点に加え、高温溶融時の着色やゲルの発生がなく高品質のフィルムが得られる利点を有する。そのため特に高いガラス転移温度の材料のフィルムの製造に用いられている。湿式成形においては、樹脂が溶媒に対して良溶解性、溶液安定性を有することが求められる。
従来、ガラス転移温度の高いポリカーボネートは溶媒への溶解性が低いものが多く、非ハロゲン系有機溶媒(特に、低沸点の非ハロゲン系有機溶媒)に低濃度でしか溶解しないものがほとんどである。そのため、湿式成形の成形効率が低く、生産性の面で問題があった。しかし、本発明のポリカーボネート樹脂は、低沸点の非ハロゲン系有機溶媒に対しても高い溶解性を示し、溶液の安定性が高いという利点を有する。これにより、高い成形効率で湿式成形を行うことが可能である。
【0064】
湿式成形には、ポリカーボネート樹脂の溶液を用いる。溶液の調製に用いる溶媒は、本発明のポリカーボネート樹脂を溶解し、適度の揮発性を有するものであればいずれも使用可能である。中でも、湿式成形の際の安全衛生の観点から、非ハロゲン系有機溶媒を用いることが好ましい。本発明の一実施形態は、非ハロゲン系有機溶媒と、前記非ハロゲン系溶媒に溶解した、ポリカーボネート樹脂とを含む、樹脂溶液である。本発明の一実施形態は、該樹脂溶液を湿式成形して得られるフィルムである。本発明のさらなる一実施形態は、該樹脂溶液を湿式成形することを含む、フィルムの製造方法である。
【0065】
樹脂溶液中の樹脂濃度は通常1~30重量%である。好ましくは、湿式成形の効率向上の観点から、樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂の濃度は、20質量%以上であることが好ましい。樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂の濃度は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは、20~50質量%である。
【0066】
非ハロゲン系有機溶媒としては、特に制限されないが、湿式成形の効率向上の観点から、比較的低沸点(例えば、100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下の沸点)を有するものが好ましい。具体的には、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。
一実施形態において、前記樹脂溶液を構成する非ハロゲン系有機溶媒が、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1つである。一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、ケトン系溶媒またはエステル系溶媒の一方への溶解濃度が20質量%以上である。好ましい実施形態において、一実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、ケトン系溶媒またはエステル系溶媒の両方への溶解濃度が20質量%以上である。
【0067】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。中でも、低沸点かつポリカーボネート樹脂の溶媒溶解性の点から、メチルエチルケトンが好ましい。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、乳酸エチル等が挙げられる。中でも、低沸点であるかつポリカーボネート樹脂の溶媒溶解性の点から、酢酸エチルが好ましい。
一実施形態において、非ハロゲン系有機溶媒が、メチルエチルケトン及び酢酸エチルの少なくとも1つである。
【0068】
本発明の成形品は、上述した各種の好ましい形態、構成を含むポリカーボネート樹脂を含有する成形品である。成形品の形状、模様、色彩、寸法等に制限はなく、その用途に応じて任意に設定すればよい。
本発明の成形品は、例えば、電気電子及びOA機器、光メディア、自動車部品、建築部材等に利用することができる。具体的には、電気電子機器(例えば、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、テレビジョン受像機、液晶表示装置やプラズマ表示装置等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、スマートフォン、タブレット、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等)などにおいて好ましく利用することができる。特に、湿式成形により製造されたフィルムは、耐熱性、透明性も良好であり、フィルムの両面にガスバリヤー膜、耐溶剤膜を付けて積層フィルムとしたり、透明導電膜や偏光板と共に液晶基板用フィルム(プラセル基板)または位相差フィルム等の液晶ディスプレー用フィルムとして好適に用いられ、具体的には、タブレット、スマートフォン、ハンディーターミナル、種々の表示素子等に有利に使用することができる。なお、プラセル基板は未延伸で用いるが位相差フィルムとして用いるためには、最適な複屈折特性を有するよう少なくとも一軸方向に延伸配向して位相差フィルムにする。フィルムの延伸方法としても公知の方法が使用可能であり、縦一軸、横一軸、多段延伸同時二軸延伸等を用いてもよい。
【実施例
【0069】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0070】
実施例及び比較例において、ポリカーボネート樹脂の各物性の測定は、以下の方法により行った。
【0071】
<粘度平均分子量(Mv)>
(粘度平均分子量(Mv)測定条件)
測定機器:ウベローデ毛管粘度計
溶媒:ジクロロメタン
樹脂溶液濃度:0.5グラム/デシリットル
測定温度:25℃
上記条件で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式により算出した。
【数2】
【0072】
<ガラス転移温度(Tg)>
以下の条件で測定した。
(ガラス転移温度(Tg)測定条件)
測定機器:示差走査熱量測定機(DSC)(島津製作所製DSC-50)
加温速度:10℃/分
ガスフロー環境:窒素20ml/分
試料前処理:300℃加熱融解
【0073】
<溶媒溶解性>
ポリカーボネート樹脂を、溶媒としてのメチルエチルケトン(MEK)または酢酸エチル(AcOEt)と混合し、それぞれの溶媒に対するポリカーボネート樹脂の溶解濃度(溶液中に溶解しているポリカーボネート樹脂の濃度、質量%)が20質量%以上である場合を良好、20質量%未満である場合を不良と判断した。さらに、2つの溶媒(MEK、AcOEt)に対する溶解性に応じて以下の基準で評価した。
A:いずれの溶媒にも20質量%以上の溶解濃度で溶解した
B:どちらか一方の溶媒にのみ20質量%以上の溶解濃度で溶解した
C:いずれの溶媒にも20質量%以上の溶解濃度で溶解しなかった
【0074】
<ポリカーボネート樹脂の合成>
[実施例1]
9質量%の水酸化ナトリウム水溶液500ml、純水400mlに本州化学工業株式会社製ビスフェノールMIBK(MIBK)50.4g(0.187モル)、本州化学工業株式会社製ビスフェノールAP(BPAP)54.1g(0.187モル)およびハイドロサルファイト0.5gを加えて溶解した。これにジクロロメタン350mlを加え撹拌しながら、溶液温度を15~25℃の範囲に保ちつつ、ホスゲン51.0gを40分かけて吹き込んだ。
ホスゲンの吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100ml、ジクロロメタン200ml、ジクロロメタン100mlに溶解した本州化学工業(株)製p-ターシャリーブチルフェノール(PTBP)1.12g(0.00746モル)を加え、激しく撹拌して乳化させた後、重合触媒として0.5mlのトリエチルアミン(TEA)を加え約40分間重合させた。
重合液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液のpHが中性になるまで純水で水洗を繰り返した。このようにして生成されたポリカーボネート樹脂溶液から、有機溶媒を蒸発留去することにより、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0075】
[実施例2]
BPAPを本州化学工業株式会社製ビスフェノールZ(BPZ)50.0g(0.187モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPZ由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(5A)においてR13~R22が水素原子である単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0076】
[実施例3]
BPAPを本州化学工業株式会社製ビスクレゾールフルオレン(BCFL)70.7g(0.187モル)に変更し、ホスゲンの吹き込み前に反応時の重合触媒として富士フィルム和光純薬株式会社ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド0.056gを添加した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBCFL由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(2)において、Xが一般式(4)で表され、R~R、R11、およびR12が水素原子である単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0077】
[実施例4]
BPAPを本州化学工業株式会社製ビスフェノール3MZ(BP3MZ)52.7g(0.187モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBP3MZ由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(5A)においてR15がメチル基であり、R13、R14、R16~R22が水素原子である単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0078】
[実施例5]
PTBPを1.87g(0.0126モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0079】
[実施例6]
PTBPを0.56g(0.00373モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0080】
[実施例7]
MIBKを60.5g(0.224モル)、BPAPを本州化学工業株式会社製ビスフェノールZ(BPZ)40.0g(0.149モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPZ由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(5A)においてR13~R22が水素原子である単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0081】
[実施例8]
MIBKを80.6g(0.299モル)、BPAPを本州化学工業株式会社製ビスフェノールシクロドデカン(BPCD)26.3g(0.075モル)に変更し、ホスゲンの吹き込み前に反応時の重合触媒として富士フィルム和光純薬株式会社製ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド0.020gを添加した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPCD由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(5)において、mが6であり、R13~R22が水素原子である単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0082】
[実施例9]
反応時における9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液を540ml、純水を170ml、ホスゲン51.7gとし、PTBPを大塚化学製p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP) 1.71g(0.0124モル)に変更してホスゲン吹込み前に添加した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PHEP由来の構造である。
【0083】
[実施例10]
反応時における9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液を540ml、純水を170ml、ホスゲンを51.7gとし、PTBPを大塚化学製RUVA-93 4.01g(0.0124モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、RUVA-93由来の構造である。
【0084】
[比較例1]
BPAPを日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA(BPA)46.2g(0.187モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPA由来の構成単位とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0085】
[比較例2]
MIBKを40.3g(0.149モル)、BPAPを65.0g(0.224モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、MIBK由来の構成単位(すなわち構成単位(A))とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0086】
[比較例3]
MIBKを本州化学工業株式会社製ビスフェノールB(BPB)45.3g(0.187モル)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、BPB由来の構成単位とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0087】
[比較例4]
MIBKを本州化学工業株式会社製ビスフェノールC(BPC)45.3g(0.187モル)に変更し、ホスゲンの吹き込み前に反応時の重合触媒として富士フィルム和光純薬株式会社製ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド0.056gを添加した以外は実施例1と同様にして、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、BPC由来の構成単位とBPAP由来の構成単位(構成単位(B)、一般式(3B)の単位)とから構成されるランダム共重合体であり、両末端は、PTBP由来の構造である。
【0088】
上記の実施例で使用した原料モノマーの略語および構造を以下に示す。
【表A】
また、上記の実施例で使用した分子量調節剤(末端停止剤)の構造と略語、ならびに、共重合体に導入される末端構造を以下に示す。
【表B】
【0089】
上記実施例および比較例で合成したポリカーボネート樹脂の組成、粘度平均分子量(Mv)、ガラス転移温度(Tg)、および溶媒溶解性を下記表にまとめた。
【0090】
【表1】
【0091】
上記表1に示されるとおり、一般式(2)で表される構成単位(A)と一般式(2)で表される構成単位(B)とを含み、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比(A/B)が、45/55~95/5である、実施例1~8のポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が高く(150℃以上)、溶媒溶解性に優れることが確認される。
【0092】
特に、構成単位(B)(M2)として、式(3B)の構造(BPAP)を含む場合(実施例1、5、6)には、高いガラス転移温度と溶媒溶解性に優れていた。
構成単位(B)(M2)として、アルキル基で置換されたシクロヘキサン(BP3MZ)を含む場合(実施例4)は、非置換のシクロヘキサン(BPZ)を含む場合(実施例2、7)と比較して、溶媒溶解性に優れ、かつ、ガラス転移温度を顕著に高めることができることが確認される。
構成単位(B)(M2)として、炭素数12のシクロアルキレン(BPCD)を含む場合(実施例8)は、炭素数6のシクロヘキサン(BPZ)を含む場合(実施例2、7)と比較して、溶媒溶解性に優れ、かつ、高いガラス転移温度を有していた。シクロアルキレンの炭素数を増加させることで溶媒溶解性とガラス転移温度が向上することが示唆される。
構成単位(B)(M2)として、フルオレン構造を有する場合(実施例3)には特に高いガラス転移温度を有するポリカーボネート樹脂が得られた。
【0093】
一方、構成単位(B)を含まない場合には、ガラス転移温度が低いか(比較例1)、または、溶媒溶解性に劣っていた(比較例2)。
構成単位(A)を含まない場合にも溶媒溶解性が不十分であった(比較例3,4)。
【0094】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2019-108054号(2019年6月10日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のポリカーボネート樹脂は、高いガラス転移温度および優れた溶媒溶解性を有し、湿式成形に好適に用いられる。湿式成形により得られるフィルムは、電気電子及びOA機器などの電気電子材料、光メディアなどの光学材料、自動車部品、建築部材等の広範な用途に使用可能である。