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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリエステルエラストマー樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241217BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20241217BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20241217BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/32
C08K5/5313
H01B3/42 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021552941
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006843
(87)【国際公開番号】W WO2021172348
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2020030296
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉城 勇気
(72)【発明者】
【氏名】中尾 順一
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199239(WO,A1)
【文献】特開2001-098161(JP,A)
【文献】特開平08-259787(JP,A)
【文献】特開2002-030204(JP,A)
【文献】特開昭50-109946(JP,A)
【文献】特開昭50-107044(JP,A)
【文献】特開2000-119490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G63/00- 64/42
H01B 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルエラストマー(A)及びリン系難燃剤(B)を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、
前記ポリエステルエラストマー(A)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントとで構成され、表面硬度がショアD55以下であり、
前記リン系難燃剤(B)は、平均粒子径D50が20μm以下、且つ15質量%以上のリン濃度を有し、
前記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、前記リン系難燃剤(B)5~50質量部、さらに酸末端封鎖剤(C)として、エポキシ化合物(C-1)0~5質量部または、カルボジイミド化合物(C-2)0~1.5質量部を含有する、酸価が10eq/ton以下であるポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステルエラストマー(A)のハードセグメントが、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルであり、ソフトセグメントが脂肪族ポリカーボネートジオールであって、ポリエステルエラストマー(A)の融点が150~230℃である請求項1に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系難燃剤(B)が、ホスフィン酸金属塩、(ポリ)リン酸塩、またはその両方である請求項1または2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、さらにアマイド系滑剤(D)0.1~3質量部を含有している、請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
ケーブル被覆用である請求項1~4のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性を維持したまま、薄肉形状でも優れた押出成形性と表面平滑性を有し、かつハロゲン非含有で優れた難燃性と耐熱老化性・耐加水分解性を有するポリエステルエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家電部品において、金属・ゴム部品から熱可塑性樹脂への代替が推し進められてきている。また、自動車・家電の高性能化に伴い、部品間距離が接近してきており、樹脂部品が従来以上の超高温にさらされる機会が増加してきている。これらの開発動向から、耐熱性と難燃性を併せ持つ樹脂組成物の開発が強く望まれている。
【0003】
これらの要望に対し、ポリエーテル・エステルタイプやポリエステル・エステルタイプ、ポリカーボネート・エステルタイプといった熱可塑性ポリエステルエラストマーは優れた耐熱老化性や機械特性を有することが知られている。
【0004】
熱可塑性ポリエステルエラストマーをはじめとする熱可塑性樹脂の難燃性改良には、ハロゲン系難燃剤の配合が最もポピュラーな手法として知られている。しかしながら、このようにハロゲン化合物を用いた熱可塑性ポリエステルエラストマーは燃焼時に有毒ガスを発生するため、近年の環境保護の観点からハロゲン化合物は使用用途が制限されている。従って、ハロゲン系難燃剤を使用しないで熱可塑性ポリエステルエラストマーの難燃性を向上させることが理想的と考えられる。
【0005】
これらの要求に応えるために、樹脂の燃焼温度において吸熱反応により分解および脱水反応を起こして樹脂の燃焼を抑制し得る、特定の金属水和物を無機難燃剤として配合する方法が、最近提案されている。しかしながら、この方法で用いられる金属水和物は、難燃性付与効果が極めて微弱であるために、難燃効果を出すためにはこれを多量に配合することが必要となる。その結果、得られる難燃性樹脂組成物の成形加工性が低下し、得られる成形物の機械的強度が低下する等の問題が生じる。
【0006】
そこで近年、前記の要求に応えるために、エチレンジアミンホスフェートとメラミン及び/またはシアヌル酸誘導体の塩、例えばリン酸メラミン等とを組み合わせた火災予防用材料(特許文献1)や、リン酸アルキルジアミンの如きリン酸塩を難燃剤として配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物(特許文献2)等、特定のリン化合物を用いる手法が提案されている。
【0007】
また、燃焼時に表面膨張層(Intumescent)を形成させ、分解生成物の拡散や伝熱を抑制することによって難燃性を発揮させる、イントメッセント系難燃剤も開示されている(特許文献3)。しかしながら、これらのリン系難燃剤をもってしても、ハロゲン系難燃剤と比較して難燃性付与効果に乏しく多量添加が必要となり、ポリエステルエラストマーにおいて、高い難燃性とその他特性(機械特性、耐熱老化性・耐加水分解性)の両立という観点では未だ充分とは言えないのが実情である。
【0008】
更には、押出成形を余儀なくされるチューブ・電線被覆用途においては、難燃剤の多量添加による成形品外観の悪化という問題も散見されてしまうこととなり、製品品質との両立という観点においても課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭50-107044号公報
【文献】特開昭50-109946号公報
【文献】特開昭59-47285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的とするところは機械特性を維持したまま、薄肉形状でも優れた押出成形性と表面平滑性を有し、かつハロゲン非含有で優れた難燃性と耐熱老化性・耐加水分解性を有する難燃性ポリエステルエラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するためにハロゲン化合物を使用しない難燃性ポリエステルエラストマー組成物について鋭意検討した結果、遂に本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1] ポリエステルエラストマー(A)及びリン系難燃剤(B)を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、
前記ポリエステルエラストマー(A)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントとで構成され、表面硬度がショアD55以下であり、
前記リン系難燃剤(B)は、平均粒子径D50が20μm以下、且つ15質量%以上のリン濃度を有し、
前記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、前記リン系難燃剤(B)5~50質量部、さらに酸末端封鎖剤(C)として、エポキシ化合物(C-1)0~5質量部または、カルボジイミド化合物(C-2)0~1.5質量部を含有する、酸価が10eq/ton以下であるポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【0013】
[2] 前記ポリエステルエラストマー(A)のハードセグメントが、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルであり、ソフトセグメントが脂肪族ポリカーボネートジオールであって、ポリエステルエラストマー(A)の融点が150~230℃である[1]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【0014】
[3] 前記リン系難燃剤(B)が、ホスフィン酸金属塩、(ポリ)リン酸塩、またはその両方である[1]または[2]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【0015】
[4] 前記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、さらにアマイド系滑剤(D)0.1~3質量部を含有している、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【0016】
[5] ケーブル被覆用である[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の難燃性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、機械特性を維持したまま、薄肉形状でも優れた押出成形性と表面平滑性を有し、かつハロゲン非含有で優れた難燃性と耐熱老化性・耐加水分解性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ポリエステルエラストマー(A)]
本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)は、ハードセグメントとソフトセグメントからなる。ハードセグメントは、ポリエステルからなる。ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸(異性体の中では2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい)であることが望ましい。ハードセグメントのポリエステルを構成する全ジカルボン酸中、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。その他のジカルボン酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%以下が好ましく、より好ましくは20モル%以下である。
【0019】
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族ジオールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性を付与する上でエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれかであることが好ましい。
【0020】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)あるいはブチレンナフタレート単位(2,6-ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0021】
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルを事前に製造し、その後ソフトセグメント成分と共重合させる場合、該芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000~40000を有しているものが望ましい。
【0022】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらの中では、弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0023】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらの中では、弾性特性から、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペートが好ましい。
【0024】
脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性や低温特性の点より炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明におけるポリエステルエラストマーのソフトセグメントを構成する、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6-ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が-60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。また、例えば、1,9-ノナンジオールと2-メチル-1,8-オクタンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは融点が30℃程度、ガラス転移温度が-70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。
【0026】
ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントとしては、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の耐熱老化性の観点から、脂肪族ポリカーボネートジオールが好ましい。
【0027】
本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)において、そのショアD硬度は55D以下であることが絶対条件であり、そのためハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、一般に、ハードセグメント:ソフトセグメント=10:90~75:25であることが好ましく、より好ましくは15:85~70:30、さらに好ましくは20:80~65:35、特に好ましくは40:60~65:35、最も好ましくは45:55~60:40の範囲である。
【0028】
一般的に、熱可塑性ポリエステルエラストマーにおいては、ハードセグメント比率が大きくなるほど難燃性が良好になるが、その一方で、ハードセグメント比率が大きいということは高い材料硬度を有することと同義であり、材料硬度が高すぎると難燃剤添加による機械特性や耐久性の低下が著しくなる。そのため、ポリエステルエラストマーにおける、ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は先述の範囲が好ましく、ショアD硬度は55D以下であることが絶対条件となる。ショアD硬度は53D以下であることが好ましく、51D以下であることがより好ましい。ショアD硬度の下限は、特に制限はないが、30D以上であることが好ましい。
【0029】
本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)の還元粘度は、1.0~2.5dl/gであることが好ましく、1.0~2.0dl/gであることがより好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、また、あらかじめハードセグメントのポリエステルを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε-カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε-カプロラクトンモノマーを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
【0031】
[リン系難燃剤(B)]
一般的に、リン系難燃剤には有機リン系化合物と無機リン系化合物が存在する。本発明に用いられるリン系難燃剤(B)は、有機リン化合物と無機リン化合物に大別される。有機リン化合物の例としては、ホスフェート類、ホスホネート類、ホスフィネート類、ホスファイト類があり、具体的にはトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス・イソプロピルフェニルホスフェート、ジエチル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、ビス(1,3-フェニレンジフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。中でも、難燃性の観点からホスフィン酸金属塩が好ましく、ホスフィン酸アルミニウム塩が特に好ましい。無機リン化合物の例としては、赤リン系化合物や(ポリ)リン酸アンモニウム、(ポリ)リン酸メラミン、(ポリ)リン酸ピペラジン等の無機リン酸塩化合物がある。業界によっては、有機リン化合物に制約が設けられていることもあり、そういった場合は無機リン化合物の適用が必要となるが、無機リン化合物では(ポリ)リン酸塩化合物が好ましい。(ポリ)リン酸塩化合物の種類には、単量体であるオルトリン酸塩、オルトリン酸塩が脱水反応により多量体となった縮合リン酸塩が挙げられ、縮合リン酸塩としてピロリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩等がある。つまり、(ポリ)リン酸塩化合物とは、オルトリン酸塩化合物、ピロリン酸塩化合物、メタリン酸塩化合物、及びポリリン酸塩化合物から選ばれる1種または2種以上を表す。いずれの(ポリ)リン酸塩化合物の使用でも問題ないが、高い難燃性を発現するという観点では、より低分子量のものほど好ましく、リン系難燃剤のブリードアウトや水中浸漬時の溶出を抑制するという観点ではより高分子量のものほど好ましい。よって、(ポリ)リン酸塩化合物の中では、ピロリン酸塩化合物が好ましい。(ポリ)リン酸塩化合物は、単一の(ポリ)リン酸塩化合物であっても、2種以上の(ポリ)リン酸塩化合物を含む複合難燃剤であっても良い。(ポリ)リン酸塩化合物の特性(難燃性や熱安定性)はそのカウンターイオンの化学構造に由来し、それぞれのカウンターイオンに固有の特長を有する。その例として、(ポリ)リン酸アンモニウムは難燃性に優れるものの加工安定性に乏しく、対照的に(ポリ)リン酸メラミンは加工安定性に優れるものの難燃性に乏しい等が挙げられる。2種以上の(ポリ)リン酸塩化合物を含む複合難燃剤を用いることにより、難燃性や加工安定性といった複数特性のバランスに優れた組成物とすることができる。特に、リン系難燃剤(B)として、(ポリ)リン酸メラミンと(ポリ)リン酸ピペラジンからなる複合難燃剤を用いることは、より難燃性と加工安定性(つまりは機械特性)のバランスに優れた組成物とすることができるため、好ましい態様である。リン系難燃剤(B)として、ピロリン酸メラミンとピロリン酸ピペラジンからなる複合難燃剤を用いることは、さらに好ましい態様である。
【0032】
リン系難燃剤(B)としては、平均粒子径D50が20μm以下、且つ15質量%以上のリン濃度を有するリン系難燃剤を用いることができる。平均粒子径D50に関しては、粒子径が大きいものを使用すると押出成形品の表面平滑性が悪化する傾向がある。リン濃度に関しては、リン濃度の低い難燃剤は難燃性付与効果に乏しい傾向があるため、多量添加が必要となり、難燃性とその他特性の両立が困難となる。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布計により測定解析でき、リン濃度は、ICP発光分光分析法によって測定(算出)できる。平均粒子径D50は、16μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましい。平均粒子径D50の下限は、特に制限はないが、0.1μm以上であることが好ましい。リン濃度は、18質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。リン濃度の上限は、特に制限はないが、30質量%以下であることが好ましい。
【0033】
リン系難燃剤(B)の含有量としては、ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して5~50質量部であり、8~40質量部が好ましく、10~35質量部がより好ましく、15~30質量部が特に好ましい。リン系難燃剤(B)の含有量が、5質量部未満では難燃性が不十分であり、含有量が50質量部を超えると機械的特性が低下する等の問題が生じる。
【0034】
また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物には、必要に応じてリン系難燃剤以外の非ハロゲン系難燃剤を含有してもよい。リン系難燃剤以外の非ハロゲン系難燃剤の種類としては、窒素系難燃剤、シリコン系難燃剤、金属水酸化物、金属ホウ酸化物等が挙げられる。
【0035】
[酸末端封鎖剤(C)]
本発明に用いられる酸末端封鎖剤(C)とは、前記ポリエステルエラストマー(A)の末端カルボキシル基と反応しうる官能基を有する化合物である。ポリエステルエラストマー(A)の末端カルボキシル基と反応しうる官能基としては、エポキシ基、水酸基、カルボジイミド基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらのうち、溶融滞留時の溶融粘度変化やポリエステルエラストマーの末端カルボキシル基との反応性から、酸末端封鎖剤(C)の官能基は、エポキシ基またはカルボジイミド基が好ましい。よって、酸末端封鎖剤(C)は、エポキシ化合物(C-1)及び/またはカルボジイミド化合物(C-2)であることが好ましい。なお、酸末端封鎖剤(C)は、後記するように、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の酸価が10eq/ton以下を満たすのであれば、必ずしも配合する必要はなく、配合量(含有量)は0でも良い。
【0036】
エポキシ化合物(C-1)としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ジシクロペンタジエンジオキサイド、エポキシシクロヘキセンカルボン酸エチレングリコールジエステル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’-4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、1,2:8,9-ジエポキシリモネン等の脂環族エポキシ化合物、ビスフェノールF型ジエポキシ化合物、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物及びその水添化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート等の芳香族又は複素環式エポキシ化合物、シリコーンオイルの末端にエポキシ基を有する化合物やアルコキシシランとエポキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0037】
エポキシ化合物(C-1)としては、反応制御と押出成形性付与の観点より、ジエポキシ化合物であることが好ましい。モノエポキシ化合物には鎖延長の作用がなく押出成形性の付与効果は乏しい。また、揮発温度も低いものが多く、成形時のガス等が問題となることがある。また、3官能以上のエポキシ化合物では、溶融粘度の付与効果こそ大きいものの、反応制御および流動性保持が困難な場合がある。
【0038】
エポキシ化合物(C-1)としては、ビスフェノールF型ジエポキシ化合物が好ましい。ビスフェノールF型エポキシ化合物は、他のエポキシ化合物と比較して、エポキシ当量と低揮発性のバランスに優れているため、ポリエステルエラストマーの末端カルボキシル基との反応性を保持しながら、分解ガスおよびそれに付随する外観不良等の問題が生じ難い。更に常温常圧環境下で液体であるものに関しては、鎖延長の作用を生じながら、可塑効果も同時に発現するため、流動性を保持しながら屈曲疲労性を発現しやすいとの利点があり、これらの化合物を用いることが好ましい。このようなエポキシ化合物としては、DIC株式会社製のエピクロン830、三菱ケミカル株式会社製のjER4004P、jER4005P、jER4010Pなどが使用可能である。
【0039】
エポキシ化合物(C-1)の含有量は、ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(C-1)0~5質量部である。エポキシ化合物(C-1)をポリエステルエラストマー(A)に添加する場合、含有量はポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、より好ましくは、0.1~3質量部である。本成分は、耐加水分解性の向上や鎖延長による屈曲疲労性の向上を目的に添加されるものであるが、0.1質量部未満では、それらの向上効果が不十分であり、一方で、5質量部を超えると、難燃性の低下や異物効果による機械特性の低下等が生じる場合がある。
【0040】
本発明で用いるカルボジイミド化合物(C-2)とは、分子内に少なくともひとつの(-N=C=N-)で表されるカルボジイミド基を有する化合物であり、ポリエステルエラストマーの末端基と反応できるものである。
【0041】
カルボジイミド化合物(C-2)の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-o-トルイルカルボジイミド、ジ-p-トルイルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-o-トルイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン-ビス-シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド、N,N’-ベンジルカルボジイミド、N-オクタデシル-N’-フェニルカルボジイミド、N-ベンジル-N’-フェニルカルボジイミド、N-オクタデシル-N’-トルイルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-トルイルカルボジイミド、N-フェニル-N’-トルイルカルボジイミド、N-ベンジル-N’-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-エチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-エチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2-エチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2-イソブチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トルイルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。なかでもN,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドが好ましく、より好ましくは、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トルイルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどであり、特に好ましくは、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)である。
【0042】
カルボジイミド化合物(C-2)の含有量は、ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物(C-2)0~1.5質量部である。カルボジイミド化合物(C-2)をポリエステルエラストマー(A)に添加する場合、含有量はポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して0.1~1.5質量部が好ましく、0.3~1.2質量部がより好ましく、0.5~1.0質量部がさらに好ましい。0.1質量部未満では、耐加水分解性が不十分であったり、難燃剤を多く含む場合によっては、引張伸度が低くなる等の問題が生じることがある。1.5質量部を超えると、カルボジイミド自身からイソシアネート成分等の分解ガスが多く発生してしまい、押出成形品の外観を損なう傾向がある。
【0043】
酸末端封鎖剤(C)として、エポキシ化合物(C-1)とカルボジイミド化合物(C-2)のどちらか一方を用いれば良い。また、酸末端封鎖剤(C)として、エポキシ化合物(C-1)とカルボジイミド化合物(C-2)を併用することも可能であり、その場合、それぞれの含有量の上限は、エポキシ化合物(C-1)とカルボジイミド化合物(C-2)の含有割合に応じて、按分した含有量とする。例えば、エポキシ化合物(C-1)とカルボジイミド化合物(C-2)を50:50の質量比で用いる場合、エポキシ化合物(C-1)の上限は2.5質量部、カルボジイミド化合物(C-2)の上限は0.75質量部とすれば良い。
【0044】
[アマイド系滑剤(D)]
本発明に用いられる成分の一つであるアマイド系滑剤(D)は、その化学構造中にアミド基を有する脂肪族化合物であり、押出成形時の目やに発生量を抑制する役割として添加される。具体例としては、オレイルオレイン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミドなどの脂肪族モノアミド化合物、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンオレイン酸ステアリン酸ジアミド、エチレンオレイン酸ステアリン酸ジアミド、メチレンオレイン酸パルミチン酸ジアミド、エチレンオレイン酸パルミチン酸ジアミド、メチレンステアリン酸パルミチン酸ジアミド、エチレンステアリン酸パルミチン酸ジアミドなどの脂肪族ビスアミド化合物、脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの反応によって得られる脂肪酸アミド系ワックスなどが挙げられる。このような脂肪酸アミド系ワックスは、脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの脱水反応によって得られる。脂肪族モノカルボン酸としては、飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸及び、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸及び、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1、3-ジアミノプロパン、1、4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。これらのアマイド系滑剤(D)としては、押出成形時のみで溶融状態であることが理想であることから、ポリエステルエラストマー(A)の融点+0~30℃に軟化温度を有することが好ましい。軟化温度が加工温度よりも高い場合は、押出成形時の目やに防止効果が充分に発揮されず、軟化温度が低すぎる場合は、成形品におけるブリードアウトが顕著となる傾向がある。
【0045】
アマイド系滑剤(D)は任意成分であるが、含有する場合、アマイド系滑剤(D)の含有量は、ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して0.1~3質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましく、0.3~1質量部がさらに好ましい。
【0046】
[その他の添加剤]
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物には、必要に応じて、芳香族アミン系、ヒンダードフェノール系、リン系、硫黄系などの汎用の酸化防止剤を配合してもよい。
【0047】
さらに本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物に耐候性を必要とする場合は、紫外線吸収剤および/またはヒンダードアミン系化合物を添加することが好ましい。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアゾール系、ニッケル系、サリチル系光安定剤が使用可能である。具体的には、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、p-t-ブチルフェニルサリシレート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’、5’-ビス(α,α-ジメチルベンジルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンアゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾチリアゾール、2,5-ビス-〔5’-t-ブチルベンゾキサゾリル-(2)〕-チオフェン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル燐酸モノエチルエステル)ニッケル塩、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチルオキサリックアシッド-ビス-アニリド85~90%と2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチル-4’-t-ブチルオキサリックアシッド-ビス-アニリド10~15%の混合物、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-エトキシ-2’-エチルオキサザリックアシッドビスアニリド、2-〔2’-ヒドロオキシ-5’-メチル-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロフタルイミド-メチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-i-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシルオキシベンゾフェノン、サリチル酸フェニルなどの光安定剤を挙げることができる。含有量は、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の質量基準で、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物には、その他各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、ポリエステルエラストマー以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、及び老化防止剤を本発明の特徴を損なわない範囲で添加することができる。また、その他の添加剤として、着色顔料、無機、有機系の充填剤、カップリング剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤等の安定剤、難燃剤等を添加することもできる。本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ポリエステルエラストマー(A)、リン系難燃剤(B)、酸末端封鎖剤(C)、アマイド系滑剤(D)の合計(酸末端封鎖剤(C)及びアマイド系滑剤(D)は任意成分である)で、80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0049】
[ポリエステルエラストマー樹脂組成物]
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物の酸価は、10eq/ton以下である。ポリエステルエラストマー樹脂組成物の酸価の下限は特に限定されないが、0eq/tonであることが好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物の酸価が10eq/ton以下であることにより、ポリエステルの加水分解を促進するカルボキシル末端が少なく、より優れた耐加水分解性を発現でき、好ましい。
【0050】
本発明により得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物は、優れた難燃性と機械特性を有し、さらにポリエステルエラストマー本来の可撓性、成形加工性、耐熱性、耐薬品性、耐屈曲疲労性、耐磨耗性、電気特性、その他特性を保持する事が可能なため、電気製品の各種部品、ホース、チューブ、ケーブル被覆材など広い範囲に応用することができる。特に、ケーブル被覆用への展開が有用である。また、これら以外にも本発明により得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物は、射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形等によって種々の成形品に賦形することができる。
【実施例
【0051】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
【0052】
[融点]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドして試料を完全に溶融させた後、液体窒素で急冷して、その後-150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られたサーモグラム曲線から、吸熱ピーク温度を融点とした。
【0053】
[還元粘度]
樹脂0.05gを25mLの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比))に溶かし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0054】
[酸価]
ポリエステルエラストマー(A)の酸価(eq/ton)は、十分に乾燥させた試料(ポリエステルエラストマー)200mgを熱ベンジルアルコール10mLに溶解させ、得られた溶液を冷却した後、クロロホルム10mLとフェノールレッドとを加え、1/25規定の酒精カリ溶液(KOHのメタノール溶液)で滴定する溶解滴定法により、酸価(eq/ton)を求めた。ポリエステルエラストマー樹脂組成物の酸価も、本測定法と同様に行った。
【0055】
[ショアD硬度]
JIS K6253:2012に準拠し、タイプDデュロメータを用いて硬度の測定を行った。なお、加圧板を試験片に接触させてから15秒後の数値を読み取った。
【0056】
実施例で用いた各成分は次の通りである。
[ポリエステルエラストマー(A)]
(ポリエステルエラストマー A-1)
脂肪族ポリカーボネートジオール(宇部興産社製カーボネートジオールUH-CARB200、分子量2000、1,6-ヘキサンジオールタイプ)100質量部とジフェニルカーボネート8.6質量部とをそれぞれ仕込み、温度205℃、130Paで反応させた。2時間後、内容物を冷却し、脂肪族ポリカーボネートジオール(数平均分子量10000)を得た。この脂肪族ポリカーボネートジオール(PCD)43質量部と、数平均分子量30000を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)57質量部とを、230℃~245℃、130Pa下で1時間攪拌し、樹脂が透明になったことを確認し、内容物を取り出し、冷却し、ポリエステルエラストマーを製造した。このポリエステルエラストマー(A-1)の融点は207℃、還元粘度は1.21dl/g、酸価は44eq/tonであった。
【0057】
(ポリエステルエラストマー A-2)
脂肪族ポリカーボネートジオール(宇部興産社製カーボネートジオールUH-CARB200、分子量2000、1,6-ヘキサンジオールタイプ)100質量部とジフェニルカーボネート8.6質量部とをそれぞれ仕込み、温度205℃、130Paで反応させた。1時間後、内容物を冷却し、脂肪族ポリカーボネートジオール(数平均分子量5000)を得た。この脂肪族ポリカーボネートジオール(PCD)43質量部と、数平均分子量30000を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)57質量部とを、230℃~245℃、130Pa下で1時間攪拌し、樹脂が透明になったことを確認し、内容物を取り出した。取出したペレットを170~180℃にて加熱し、固相重縮合を行うことで、ポリエステルエラストマーを製造した。このポリエステルエラストマー(A-2)の融点は208℃、還元粘度は1.21dl/g、酸価は7eq/tonであった。
【0058】
(ポリエステルエラストマー A-3)
テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(PTMG;数平均分子量1000)を構成成分とし、ハードセグメント(ポリブチレンテレフタレート)/ソフトセグメント(PTMG)=64/36(質量%)のポリエステルエラストマーを製造した。このポリエステルエラストマー(A-3)の融点は203℃、還元粘度は1.75dl/g、酸価は50eq/tonであった。
【0059】
(ポリエステルエラストマー A-4)
脂肪族ポリカーボネートジオール(宇部興産社製カーボネートジオールUH-CARB200、分子量2000、1,6-ヘキサンジオールタイプ)100質量部とジフェニルカーボネート8.6質量部とをそれぞれ仕込み、温度205℃、130Paで反応させた。2時間後、内容物を冷却し、脂肪族ポリカーボネートジオール(数平均分子量10000)を得た。この脂肪族ポリカーボネートジオール(PCD)30質量部と、数平均分子量30000を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)70質量部とを、230℃~245℃、130Pa下で1時間攪拌し、樹脂が透明になったことを確認し、内容物を取り出し、冷却し、ポリエステルエラストマーを製造した。このポリエステルエラストマー(A-4)の融点は212℃、還元粘度は1.20dl/g、酸価は41eq/tonであった。
各ポリエステルエラストマーの物性値を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[リン系難燃剤(B)]
(B-1)アデカスタブFP-2200S(ピロリン酸メラミン/ピロリン酸ピペラジンの複合難燃剤、D50:10μm、リン濃度:19質量%、株式会社ADEKA製
(B-2)EXOLIT OP930(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、D50:4μm、リン濃度:23質量%、クラリアント株式会社製)
(B-3)EXOLIT OP1230(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、D50:30μm、リン濃度:23質量%、クラリアント株式会社製)
(B-4)BUDIT 3141(ポリリン酸メラミン、D50:8μm、リン濃度:10質量%、Budenheim Chemical Factory社製)
平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布計により測定した値であり、リン濃度は、ICP発光分光分析法によって測定(算出)した値である。
【0062】
[酸末端封鎖剤(C)]
(C-1)カルボジライトHMV-15CA(脂環族ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製)
(C-2)エピクロン830(ビスフェノールF型ジエポキシ化合物、DIC株式会社製)
【0063】
[アマイド系滑剤(D)]
(D-1)ライトアマイドWH-215(軟化温度215℃、共栄社化学株式会社製)
【0064】
実施例1~7、比較例1~7
上記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、リン系難燃剤(B)、酸末端封鎖剤(C)およびアマイド系滑剤(D)をそれぞれ表2に記載の比率で、二軸スクリュー式押出機にて、混練・ペレット化した。このポリエステルエラストマー樹脂組成物のペレットを用いて、下記の評価を行った。結果を表2に示した。
【0065】
[引張破断強度および引張破断伸度]
組成物の引張破断時の強度および伸度を、JIS K6251:2010に準拠して測定した。試験片は、100℃で8時間減圧乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(山城精機社製、model-SAV)を用いて、シリンダー温度(Tm+20℃)、金型温度30℃で、100mm×100mm×2mmの平板に射出成形した後、該平板よりダンベル状3号形の試験片を打ち抜いて製作した。
【0066】
[耐熱・耐水処理:耐熱・耐水伸度半減期]
上述ダンベル状3号形の試験片を、140℃、170℃の空気環境下、および100℃の沸水環境下にて、所定時間放置した後取り出し、上記同様JIS K6251:2010に準拠して引張破断伸度を測定した。以下の式にて引張破断伸度保持率を算出し、その値が50%となる時間(引張伸度半減期)を耐熱性・耐水性の指標とした。初期引張破断伸度は、耐熱・耐水処理前の引張破断伸度である。
引張破断伸度保持率(%)=各処理後の引張破断伸度/初期引張破断伸度×100
【0067】
[押出成形品外観]
二軸押出機で溶融混練したペレットを再度、単軸押出機によりTダイから押出し、0.2mm厚のシート成形品を作製した。そのシート外観から、押出成形品外観を下記の基準で評価した。
○:ザラツキや発泡の発生がなく、シート外観および表面平滑性が良好である。
◎:○と同様にシート外観および表面平滑性が良好で、且つダイ付着物が顕著に少ない。
×:難燃剤によるシート凹凸や発泡が発生して、シート外観が芳しくない。
【0068】
[限界酸素指数LOI]
JIS K7201-2に準拠して、限界酸素指数を測定した。限界酸素指数とは、酸素指数の測定基準である燃焼時間180秒以下かつ燃焼距離50mm以下を満足する最大の酸素濃度のことである。
【0069】
【表2】
【0070】
表2の結果から明らかなように、実施例1~7に示した、ポリエステルエラストマーに、リン系難燃剤、酸末端封鎖剤、アマイド系滑剤を配合した本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、優れた機械的特性、耐熱老化性、耐水性を有しながら、かつ限界酸素指数も26%以上と高い難燃性を示している。また、押出成形品外観においても、全ての実施例で良好となる結果であり、特に実施例2とその他の実施例での比較からは、アマイド系滑剤(D)成分の添加により、更なる押出成形性の改良効果が見て取れる。実施例1~5と実施例6~7の比較からは、ソフトセグメントがPTMGである実施例6~7と比較して、ソフトセグメントがポリカーボネートジオールからなる実施例1~5では、より高い難燃性および耐熱・耐水性が発現する傾向が見て取れる。一方、本発明の条件を満たさない比較例1~7の組成物は、本発明の組成物と比較して、引張破断伸度、押出成形品外観、難燃性、耐熱性、耐水性のいずれかが劣っている。
【0071】
表面硬度の高いポリエステルエラストマーを使用している比較例1では、耐熱・耐水処理による機械特性の低下が著しくなり、その結果、耐熱性および耐水性が劣っている。リン系難燃剤が未配合である比較例2では、当然のことながら、限界酸素指数LOIが26%未満となり、難燃性が劣っている。比較例2と対照的に、リン系難燃剤の添加量が過多である比較例3では、限界酸素指数LOIこそ高い値を示しているものの、引張破断伸度(機械特性)および押出成形品外観が劣っている。なお、初期の時点で引張破断伸度が不十分であることから、伸度半減期による耐熱性・耐水性評価は不適切と考え、測定は実施していない。粒子径D50が大きいリン系難燃剤を使用している比較例4では、機械特性、難燃性、耐熱性、耐水性に優れるものの、押出成形品において凹凸が顕著であり、押出成形性に劣っている。酸末端封鎖剤であるカルボジイミド化合物の添加量が過多である比較例5もまた、機械特性、難燃性、耐熱性、耐水性に優れるものの、押出成形品において発泡挙動が見られ、押出成形性に劣る結果となっている。比較例5と対照的に、酸末端封鎖剤の添加量が少なく、高い末端酸価となっている比較例6は、耐水性が劣っている。リン濃度が低いリン系難燃剤を使用している比較例7では、難燃性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
このように、本発明の難燃性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、機械特性を維持したまま、薄肉形状でも優れた押出成形性と表面平滑性を有し、かつハロゲン非含有で優れた難燃性と耐熱老化性・耐加水分解性を有する難燃性ポリエステルエラストマー組成物を提供できる。このため電気製品の各種部品、ホース、チューブ、ケーブル被覆材など広い範囲に応用することができる。また、これら以外にも本発明により得られた樹脂組成物は射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形等によって種々の成形品に賦形することができる。