(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】悪液質の治療剤又は予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/485 20060101AFI20241217BHJP
A61K 31/4525 20060101ALI20241217BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61K31/485
A61K31/4525
A61P7/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021553555
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039870
(87)【国際公開番号】W WO2021079978
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019193743
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 優
(72)【発明者】
【氏名】内田 将史
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526695(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105475(WO,A1)
【文献】TAKAHASHI, N. et al.,RQ-00432933, a Novel Orally Active Small Molecule Ghrelin Receptor Agonist for Potential Use in Canc,Gastroenterology,2014年,Vol.146, No.5, Suppl.1,S-361,Sa2041
【文献】VILLARS, F. O. et al.,Oral Treatment with the Ghrelin Receptor Agonist HM01 Attenuates Cachexia in Mice Bearing Colon-26 (,International Journal of Molecular Sciences,2017年,Vol.18, No.5,986 (pp.1-18),特にAbstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1μgから100mgの範囲の含量の下記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、
10μgから10000mgの範囲の含量のアナモレリン又はその薬理学的に許容される塩であるグレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなる、悪液質の治療剤又は予防剤。
【化1】
[式中、点線と実線の二重線は、二重結合又は単結合を示し、R
1は、
シクロプロピルメチルを示し、R
2は、
メチルを示し、Bは、
トランス型の-CH=CH-を示す。]
【請求項2】
0.1μgから100mgの範囲の含量の下記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、
10μgから10000mgの範囲の含量のアナモレリン又はその薬理学的に許容される塩であるグレリン受容体アゴニストと、を有効成分として含有する、悪液質の治療剤又は予防剤。
【化2】
[式中、点線と実線の二重線は、二重結合又は単結合を示し、R
1は、
シクロプロピルメチルを示し、R
2は、
メチルを示し、Bは、
トランス型の-CH=CH-を示す。]
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物は、以下の構造式で示される(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンである、請求項1又は2記載の治療剤又は予防剤。
【化3】
【請求項4】
前記悪液質は、癌悪液質である、請求項1~
3のいずれか一項記載の治療剤又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪液質の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪液質とは、基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群のことであり、脂肪量の減少の有無に関わらず筋肉量の減少を特徴とするものであると定義されている。悪液質が発症する基礎疾患としては、悪性腫瘍、結核、糖尿病、血液疾患、内分泌疾患、感染症、後天性免疫不全症候群等の慢性疾患が挙げられ、著しい体重減少、貧血、浮腫、食欲不振、全身衰弱、倦怠感等を主症状とする全身性の症候群であることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
中でも悪性腫瘍を基礎疾患とする悪液質は、癌悪液質と呼ばれ、悪性腫瘍死因の約20%を占めると言われている。
【0004】
癌悪液質では、症状の進行に伴って患者の体力が著しく減弱するため、抗腫瘍剤による治療を継続できなくなるばかりでなく、抗腫瘍剤に対する反応性の低下も生ずる。逆に悪液質の症状を改善するために栄養補給を行うと、かえって悪性腫瘍の増悪を加速させることになるため、癌悪液質の発症は、悪性腫瘍の治療に重大な支障をきたしている。仮に、患者に体力があり、抗腫瘍剤の投与が可能であったとしても、骨髄毒性等の抗腫瘍剤による副作用が生じ、悪液質は改善しないことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
これまでに、悪液質の標準的な有効治療法は存在しない。悪液質改善作用を有する物質として、グレリン受容体アゴニスト(特許文献1)、アンドロゲン受容体モジュレーター(特許文献2)等が知られている。
【0006】
グレリン(ghrelin)は成長ホルモン分泌促進因子受容体(Growth Hormone Secretagogue Receptor; GHSR)の内因性リガンド(GHSRアゴニスト)として発見されたペプチドホルモンである。グレリンはグレリン受容体を介してヒト及び動物において主として胃で生産され成長ホルモン分泌を亢進させる(非特許文献3)。その他、グレリンには、摂食亢進作用(摂食障害改善作用)、胃酸分泌・胃蠕動亢進作用、骨格筋量増加作用等、様々な作用があることが報告されている(非特許文献3)。グレリン受容体アゴニストであるアナモレリンは、臨床第3相試験で除脂肪体重の有意な増加を示し、悪液質治療薬として期待されている(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、癌悪液質の患者においては、血中においてグレリン濃度の増加が認められるため、グレリン反応性の低下、すなわち、グレリン抵抗性が生じている(非特許文献4)。漢方薬である六君子湯は、グレリン抵抗性を部分的に改善し、癌悪液質の治療可能性が示されている(非特許文献5)。
【0008】
一方、モルヒナン骨格を有する化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩については、オピオイドκ受容体作動性を有すること並びに鎮痛薬及び利尿薬としての用途が開示されている(特許文献4)。また、悪液質治療薬(特許文献5)としての用途も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第05/097261号
【文献】国際公開第02/066475号
【文献】国際公開第16/036598号
【文献】国際公開第93/015081号
【文献】国際公開第12/105475号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Kernら、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition、1988年、第12巻、p.286-298
【文献】Nelsonら、Journal of Clinical Oncology、1994年、第12巻、p.213-225
【文献】Kojima、Kangawa、Physiological Reviews、2005年、第85巻、p.495-522
【文献】Nakazatoら、Nature、2001年、第409巻、p.194-198
【文献】Terawakiら、PLos One、2017年、第12巻、p.e0173113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、悪液質の治療に使用されるグレリン受容体アゴニストなどの食欲刺激剤は、代謝異常に対する改善効果が認められず、患者におけるグレリン抵抗性のために治療効果が限定的であり、ステロイド系抗炎症薬は、副作用が強いために長期的な使用が困難である。
【0012】
また、モルヒナン骨格を有する化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩については、グレリン受容体アゴニストとの併用による投与量の低減、悪液質治療効果の増強及び副作用の低減についての報告は一切なく、グレリン抵抗性状態における悪液質治療効果について効果は示唆すらされておらず、悪液質の治療においては、新たなメカニズムに基づく医薬の創出が期待されているのが現状である。
【0013】
そこで本発明は、悪液質の治療において、副作用が少なく、顕著な薬効を示す悪液質の治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、モルヒナン骨格を有する特定の化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストとを組み合わせて使用することで、悪液質に対する優れた治療効果又は予防効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなる、悪液質の治療剤又は予防剤を提供する。
【0016】
【化1】
[式中、点線と実線の二重線は、二重結合又は単結合を示し、R
1は、炭素数4から7のシクロアルキルアルキルを示し、R
2は、炭素数1から5の直鎖又は分岐アルキルを示し、Bは、-CH=CH-を示す。]
【0017】
また本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の一態様として、上記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を有効成分として含有する、悪液質の治療剤又は予防剤を提供する。
【0018】
上記一般式(I)で表される化合物は、R1が、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル又はシクロヘキシルメチルであり、且つR2が、メチル、エチル又はプロピルであることが好ましく、R1が、シクロプロピルメチルであり、R2が、メチルであり、且つBが、トランス型の-CH=CH-であることがより好ましい。
【0019】
上記一般式(I)で表される化合物は、以下において例示する(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンであることがさらに好ましく、グレリン受容体アゴニストは、アナモレリン又はその薬理学的に許容される塩であることがより好ましい。
【0020】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、癌悪液質の治療剤又は予防剤であることが好ましく、グレリン抵抗性状態における癌悪液質の治療剤又は予防剤としても好適に使用できる。
【0021】
本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなり、且つ医薬として許容される1種以上の担体を含有する、悪液質を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなる、悪液質を治療又は予防するための医薬組み合わせ又はキットを提供する。
【0023】
本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、の組み合わせの使用を提供する。また、本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、悪液質を治療又は予防するための、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、の組み合わせを提供する。
【0024】
本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)使用される、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分として含有する悪液質の治療剤又は予防剤を提供すると共に、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)使用される悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の使用を提供する。
【0025】
また本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)使用される、グレリン受容体アゴニストを有効成分として含有する悪液質の治療剤又は予防剤を提供すると共に、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)使用される悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、グレリン受容体アゴニストの使用を提供する。
【0026】
また本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)悪液質の治療又は予防に使用するための、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩を提供すると共に、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)悪液質の治療又は予防に使用するための、グレリン受容体アゴニストを提供する。
【0027】
さらに本発明は、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態として、悪液質を治療又は予防する方法であって、悪液質の治療又は予防が必要な患者に一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとを組み合わせて(併用して)投与することを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の悪液質の治療剤又は予防剤は、モルヒナン骨格を有する化合物及び/又はグレリン受容体アゴニストのそれぞれの投与量を低減でき、副作用の懸念を軽減できると共に、悪液質を伴う患者における著しい体重減少、貧血、浮腫、食欲不振、全身衰弱、倦怠感等を主症状とする全身性の症候群を改善することができる。さらに、本発明の悪液質の治療剤又は予防剤によれば、グレリン抵抗性状態における悪液質症状についても改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】マウス担癌モデル(グレリン抵抗性が生じている非小細胞肺癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による累積摂餌量増加作用を示す図である。
【
図2】マウス担癌モデル(グレリン抵抗性が生じている非小細胞肺癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による体重増加作用を示す図である。
【
図3】マウス担癌モデル(非小細胞肺癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による累積摂餌量増加作用を示す図である。
【
図4】マウス担癌モデル(非小細胞肺癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による体重増加作用を示す図である。
【
図5】マウス担癌モデル(皮膚癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による累積摂餌量増加作用を示す図である。
【
図6】マウス担癌モデル(皮膚癌モデル)における化合物1及びアナモレリンの併用投与による体重増加作用を示す図である。
【0030】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2019-193743号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記一般式(II)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストとを組み合わせてなる悪液質の治療剤又は予防剤であることを特徴としている。
【0032】
【化2】
[式中、
点線と実線の二重線は、二重結合又は単結合を示し、
R
1は、炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリール、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、フラン-2-イルアルキル(アルキル部の炭素数は1から5)又はチオフェン-2-イルアルキル(アルキル部の炭素数は1から5)を示し、
R
14は、水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキル又はNR
9R
10(ここで、R
9は、水素又は炭素数1から5のアルキルを示し、R
10は、水素、炭素数1から5のアルキル又は-(C=O)R
11(ここで、R
11は、水素、フェニル又は炭素数1から5のアルキルを示す)を示す)を示し、
R
3は、水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ又は炭素数1から5のアルコキシを示し、
Aは、-XC(=Y)-、-XC(=Y)Z-、-X-又は-XSO
2-(ここで、X、Y及びZは、それぞれ独立してNR
4(ここで、R
4は、水素、炭素数1から5の直鎖若しくは分岐アルキル又は炭素数6から12のアリールを示し、式中、R
4が二つ以上存在する場合は、互いに同一又は異なっていてもよい)、S又はOを示す)を示し、
Bは、原子価結合、炭素数1から14の直鎖若しくは分岐アルキレン(ただし、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル及びフェノキシからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレンがカルボニルで置き換わっていてもよい)、二重結合及び/若しくは三重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖若しくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル及びフェノキシからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレンがカルボニルで置き換わっていてもよい)又はチオエーテル結合、エーテル結合及び/若しくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖若しくは分岐の飽和若しくは不飽和炭化水素(ただし、ヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレンがカルボニルで置き換わっていてもよい)、二重結合及び/若しくは三重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖若しくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル及びフェノキシからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレンがカルボニルで置き換わっていてもよい)又はチオエーテル結合、エーテル結合及び/若しくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖若しくは分岐の飽和若しくは不飽和炭化水素(ただし、ヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレンがカルボニルで置き換わっていてもよい)を示し、
R
5は、水素又は下記の基本骨格
【化3】
のいずれかを持つ有機基(ただし、これらの式中、Qは、N、O又はSを示し、TはCH
2、NH、S又はOを示し、lは、0から5の整数を示し、m及びnは、それぞれ独立して0から5の整数を示し、mとnの合計は5以下であり、各有機基は、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ及びメチレンジオキシからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を示し、
R
6は、水素を、
R
7は、水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ又は炭素数1から5のアルカノイルオキシをそれぞれ示すか、
R
6とR
7は、一緒になって-O-、-CH
2-又は-S-を示し、
R
8は、水素、炭素数1から5のアルキル又は炭素数1から5のアルカノイルを示し、
R
12及びR
13は、共に水素を示すか、いずれか一方が水素で他方がヒドロキシを示すか、一緒になってオキソを示し、
一般式(II)は、(+)体、(-)体、(±)体を包含する。]
【0033】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤において、一般式(II)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の中でも、既に示した一般式(I)で表されるモルヒナン骨格を有する化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩であることが好ましい。
【0034】
一般式(I)中の点線と実線の二重線は、二重結合又は単結合を示し、単結合であることが好ましい。
【0035】
一般式(I)において、R1は、炭素数4から7のシクロアルキルアルキルを示す。中でも、R1としては、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチルが好ましく、特にシクロプロピルメチルが好ましい。
【0036】
R2は、炭素数1から5の直鎖又は分岐アルキルを示す。中でも、R2としては、メチル、エチル、プロピルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0037】
Bは、-CH=CH-を示す。Bとしては、トランス型の-CH=CH-が好ましい。
【0038】
一般式(I)で表される化合物としては、点線と実線の二重線が、単結合であり、R
1が、シクロプロピルメチルであり、R
2が、メチルであり、Bが、トランス型の-CH=CH-であり、(-)体である化合物、すなわち、(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンが特に好ましい。
【化4】
【0039】
一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩は、国際公開第93/015081号に記載の方法に従って製造することができる。
【0040】
一般式(II)で表される化合物のうち、R12及びR13が共に水素を示す化合物は、国際公開第93/015081号に記載の方法に従って製造することができる。また、R12及びR13が一緒になってオキソを示す化合物は、例えば、HorikiriとKawamuraの論文(Heterocycles、2004年、第63巻、p.865-870)及びSagaraらの論文(Bioorg.Med.Chem.Lett.、1995年、第5巻、p.1505-1508)に記載の方法に従って製造できる化合物を原料として、Horikiriらの論文(Chem.Pharm.Bull.、2004年、第52巻、6号、p.664-669)及び国際公開第93/015081号に記載の方法に従って製造することができる。さらに、R12がヒドロキシでR13が水素を示す化合物は、上記のHorikiriらの論文に記載の方法に従って製造することができる。
【0041】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤において、グレリン受容体アゴニストは、公知のペプチド系化合物や非ペプチド系化合物を用いることができる。例えば、ペプチド系化合物としては、内因性リガンドであるグレリンの他に、プラルモレリン等が挙げられ、非ペプチド系化合物としては、アナモレリン、マシモレリン、イブタモレンメタンスルホン酸塩、ウリモレリン、カプロモレリン、SM-130686等が挙げられる。そのものが塩である場合はその解塩体、そのものが塩を形成できる場合はその薬理学的に許容される塩も挙げられる。非ペプチド系化合物であればアナモレリン又はその薬理学的に許容される塩が好ましい。
【0042】
グレリン受容体アゴニストのうち、アナモレリンとしては、2-アミノ-N-[(1R)-2-[(3R)-3-ベンジル-3-(N,N',N'-トリメチルヒドラジノカルボニル)ピペリジン-1-イル-]-1-(1H-インドール-3-イルメチル)―2-オキソエチル]-2-メチルプロピオンアミドを用いることができ、米国特許第6576659号に記載の方法に従って製造することができる。
【0043】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤において、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の好ましい態様とグレリン受容体アゴニストの好ましい態様は任意に組み合わせることができる。例えば、(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン又はその薬理学的に許容される酸付加塩とアナモレリン又はその薬理学的に許容される塩との組み合わせが挙げられる。
【0044】
本明細書で使用する次の用語は、特に断りがない限り、下記の定義のとおりである。
【0045】
本発明における「薬理学的に許容される酸付加塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩等の有機カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機スルホン酸塩等が挙げられる。中でも、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩等が好ましく用いられる。
【0046】
本発明のおける「薬理学的に許容される塩」としては、上記酸付加塩に加え、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、メチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジニウム塩、トリエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩等の有機塩基塩が挙げられる。
【0047】
本発明における「グレリン受容体」は、GHSR、GHDP又はGHS-R等でも示され、ヒトでは遺伝子(Ensembl ID:ENSG00000121853)がコードするタンパク質(UniProtID:Q92847)のことを意味する。
【0048】
本発明における「グレリン受容体アゴニスト」は、上記グレリン受容体に作用し、グレリンと同様の機能を示す、ペプチド系化合物や非ペプチド系化合物等を意味する。
【0049】
本発明における「悪液質」は、悪性腫瘍、結核、糖尿病、血液疾患、内分泌疾患、感染症、後天性免疫不全症候群等の慢性疾患において、著しい体重減少、貧血、浮腫、食欲不振、全身衰弱、倦怠感等を主症状とする全身性の症候群を包含する。例えば、癌悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質、後天性免疫不全症候群による悪液質が挙げられる。上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、悪液質の中でも、悪性腫瘍による癌悪液質に好ましく用いられる。
【0050】
本発明における「悪性腫瘍」(癌、悪性新生物とも呼ばれる)は、上皮組織由来の「癌(癌腫とも呼ぶ)」、非上皮性組織由来の「肉腫」及び造血器由来のものを包含する。例えば、悪性黒色腫、悪性骨腫瘍、胃癌、肝細胞癌、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、子宮頸癌、子宮体癌、食道癌、膵癌、前立腺癌、大腸癌、乳癌、肺癌、膀胱癌、卵巣癌が挙げられる。
【0051】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、悪液質の改善作用、すなわち悪性腫瘍、結核、糖尿病、血液疾患、内分泌疾患、感染症、後天性免疫不全症候群等の慢性疾患において発現する著しい体重減少、貧血、浮腫、食欲不振、全身衰弱、倦怠感等を主症状とする全身性の症候群を改善する作用を有する。
【0052】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)における悪液質の治療剤又は予防剤として用いられる。
【0053】
一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとを組み合わせてなる悪液質の治療剤又は予防剤は、両者の混合物すなわち配合剤をそのまま又は医薬として許容される担体をさらに配合して、経口的又は非経口的に投与することができるが、両者を配合剤としてではなく、それぞれ単独で、すなわち単剤として準備しておき、これらをそのまま又は製剤分野において通常用いられる医薬として許容される添加剤等をさらにそれぞれに配合して、同時に投与することもできる。さらには、それぞれの単剤を適当な間隔をおいて相前後して投与することも可能である。これらの場合、それぞれの単剤の剤形及び投与経路は同一である必要はなく、それぞれ異なっても構わない。なお、上記の「適当な間隔」は、臨床上又は動物実験により確認することができる。
【0054】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、からなる組み合わせを含有し、且つ場合により医薬として許容される1種以上の担体を含有することができ、特に、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、からなる組み合わせからなることができる。
【0055】
本発明の別の一態様として、上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を有効成分として含有する。上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を有効成分として含有し、且つ場合により医薬として許容される1種以上の担体を含有することができ、特に、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、からなることができる。
【0056】
本発明の一実施形態として、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなり、且つ医薬として許容される1種以上の担体を含有する、悪液質を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。本実施形態の医薬組成物は、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を有効成分として含有し、且つ医薬として許容される1種以上の担体をさらに含有することが好ましい。
【0057】
本発明の別の一実施形態として、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせてなる、悪液質を治療又は予防するための医薬組み合わせを提供する。本実施形態の医薬組み合わせは、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、を組み合わせて含有することが好ましい。例えば、本実施形態の医薬組み合わせは、上記の有効成分を一緒に含有する単一製剤(すなわち、配合剤)の形態で提供されてもよく、上記の有効成分が別々に製剤化された複数の単剤の形態で提供されてもよい。本実施形態の医薬組み合わせが複数の単剤の形態である場合、本実施形態の医薬組み合わせは、上記の有効成分をそれぞれ含む複数の医薬品製剤と、場合により該医薬品製剤を投与するための指示書とを含むキットの形態で提供されてもよい。
【0058】
本発明の別の一実施形態として、悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、の組み合わせの使用を提供する。また、本発明の別の一実施形態として、悪液質を治療又は予防するための、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストと、の組み合わせを提供する。
【0059】
一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストを単剤又は配合剤として経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、口腔内崩壊剤、散剤、顆粒剤等、非経口的な投与としては静脈内急速注入、静脈内持続注入、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、テープ剤、パッチ剤等を選択できる。
【0060】
一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と、グレリン受容体アゴニストの、上記剤形の単剤又は配合剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができる。この場合、必要に応じて、製剤分野において通常用いられ、且つ医薬として許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0061】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤中の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の含量は、特に限定されないが、一服用あたり通常0.1μgから100mgとなるように調製され得る。また、投与量は、患者の症状、年齢、性別、体重や、投与方法等に応じて適宜選択することができるが、通常、成人一日当り、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の量として、0.1μgから20mg、好ましくは1μgから10mg、さらに好ましくは1μgから40μgであり、それぞれ一回又は数回に分けて投与することができる。また、キットとする場合は、それぞれ単独の医薬品製剤を同時或いは間隔を空けて投与してもよい。
【0062】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤中のアナモレリン又はその薬理学的に許容される塩の含量は、特に限定されないが、一服用あたり通常10μgから10000mgとなるように調製され得る。また、投与量は、患者の症状、年齢、性別、体重や、投与方法等に応じて適宜選択することができるが、通常、成人一日当り、アナモレリン又はその薬理学的に許容される塩の量として、10μgから2000mg、好ましくは100μgから1000mg、さらに好ましくは100μgから400mg程度であり、それぞれ一回又は数回に分けて投与することができる。また、キットとする場合は、それぞれ単独の医薬品製剤を同時或いは間隔を空けて投与してもよい。
【0063】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤において、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとの配合比は、投与対象、投与対象の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。
【0064】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、好ましくは癌悪液質(例えば、悪性黒色腫、悪性骨腫瘍、胃癌、肝細胞癌、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、子宮頸癌、子宮体癌、食道癌、膵癌、前立腺癌、大腸癌、乳癌、肺癌、膀胱癌、卵巣癌による)の治療剤又は予防剤に用いることができる。
【0065】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、グレリン抵抗性状態における癌悪液質の治療剤又は予防剤としても好適に用いることができる。
【0066】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤をキットとする場合、上記の方法で製剤化された一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩を含む医薬品製剤とグレリン受容体アゴニストを含む医薬品製剤をそれぞれ別個にパッケージして、投与時にそれぞれのパッケージから各々の医薬品製剤を取り出して使用するように設計することができる。また、それぞれの医薬品製剤を、1回毎の併用投与に適した形態でパッケージしておくこともできる。
【0067】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、疾患の治療、予防、症状の減少又は抑制に対して用いられるさらに他の一種類又はそれ以上の薬剤と組み合わせて投与することができる。組み合わせる薬剤は、低分子化合物であってもよく、また高分子の蛋白、ポリペプチド、抗体又はワクチン等であってもよい。この際、組み合わせる薬剤と同時又は時間差をおいて投与することもできる。なお、組み合わせる方法は、それぞれの薬剤を併用すればよく、配合剤とすることも可能である。組み合わせる薬剤の投与量は、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することができる。また、上記の悪液質の治療剤又は予防剤と、組み合わせる薬剤との配合比は、投与対象、投与対象の年齢、体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。
【0068】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤は、化学療法剤、免疫療法剤、利尿剤等の薬剤と組み合わせて用いることができる。
【0069】
化学療法剤としては、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、ニムスチン、ラニムスチン、テモゾロマイド等のアルキル化剤、メトトレキサート、フルオロウラシル、テガフール、カルモフール、ドキシフルリジン、カペシタビン、シタラビン、アンシタビン、エノシタビン、シタラビンオクホスファート、ゲムシタビン、メルカプトプリン、フルダラビン等の核酸代謝拮抗薬、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン等の抗腫瘍性抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル等の微小管阻害剤、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン等の白金製剤、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド等のトポイソメラーゼ阻害薬、トラスツズマブ、リツキシマブ、イマニチブ等の分子標的治療薬等が挙げられる。
【0070】
免疫療法剤としては、ムラミルジペプチド誘導体、レンチナン、シゾフィラン、ウベニメクス、ピシバニール、クレスチン、インターフェロン、インターロイキン、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン等が挙げられる。
【0071】
利尿剤としては、サリチル酸ナトリウムテオブロミン、サリチル酸カルシウムテオブロミン等のキサンチン誘導体製剤、エチアジド、シクロペンチアジド、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ペンフルチジド、ポリチアジド、メチクロチアジド等のチアジド系製剤、スピロノラクトン、トリアムテレン等の抗アルドステロン製剤、アセタゾラミド等の炭酸脱水素酵素阻害剤、クロルタリドン、メフルシド、インダパミド等のクロルベンゼンスルホンアミド系製剤、アゾセミド、イソソルビド、エタクリン酸、ピレタニド、ブメタニド、フロセミド等が挙げられる。
【0072】
上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態としては、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)使用される、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分として含有する悪液質の治療剤又は予防剤、並びに、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)使用される、グレリン受容体アゴニストを有効成分として含有する悪液質の治療剤又は予防剤、を例示できる。
【0073】
また、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態としては、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)使用される悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の使用、並びに、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)使用される悪液質を治療又は予防するための医薬(例えば、悪液質の治療剤又は予防剤)の製造における、グレリン受容体アゴニストの使用、を例示できる。
【0074】
また、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態としては、上記のグレリン受容体アゴニストと組み合わせて(併用して)悪液質の治療又は予防に使用するための、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩、並びに、上記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩と組み合わせて(併用して)悪液質の治療又は予防に使用するための、グレリン受容体アゴニスト、を例示できる。
【0075】
さらに、上記の悪液質の治療剤又は予防剤の実施形態としては、悪液質を治療又は予防する方法であって、悪液質の治療又は予防が必要な患者に一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとを組み合わせて(併用して)投与することを含む方法を例示できる。本実施形態において、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとは、有効量(例えば、上記で例示した悪液質の治療剤又は予防剤中の含量)で患者に投与することができる。また、本実施形態において、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとは、同時に、又は適当な間隔をおいて相前後して(例えば、連続的に又は一定間隔で逐次的に)投与することができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を示して本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)マウス担癌モデル(グレリン抵抗性が生じている非小細胞肺癌モデル)における(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩(以下、化合物1)とアナモレリン塩酸塩との併用効果:
ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞であるA549細胞をヌードマウスに移植した担癌モデル動物を用いて、化合物1とアナモレリン塩酸塩(MedChemExpress社)とを組み合わせた際の摂餌量及び体重に対する薬効を検討した。
【0078】
A549細胞の継代は、10%FBS含有RPMI1640培地を用いて行った。薬効評価には、7週齢の雌性BALB/C slc/nu/nuマウス(日本エスエルシー)を購入し、1週間の馴化の後に使用した。担癌モデル動物の作製は、以下のようにして行った。すなわち、A549細胞をマウスの右側腹部へ1匹あたり2.5×107個ずつ皮下投与して移植した。細胞移植から41日目において、各群腫瘍体積の平均が均等になるよう群分けを行った。
【0079】
摂餌量及び体重に対する各種化合物の効果の検討は、以下のようにして行った。すなわち、細胞移植43日目から70日目まで、28日間、毎日、各種化合物を経口投与し、同時に、摂餌量及び体重を測定した。各種化合物の用量は、化合物1が0.25mg/kg(9例)、アナモレリン塩酸塩が30mg/kg(9例)とした。また、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与には、あらかじめ蒸留水に溶解した化合物1とアナモレリン塩酸塩を混合する事で調製した、0.25mg/kgの化合物1と30mg/kgのアナモレリン塩酸塩を用いた(9例)。対照として、蒸留水を同様に投与した(9例)。なお、摂餌量は、測定日の餌を含む単飼ケージのフタ重量から前日の餌を含んだ単飼ケージのフタの重量を差し引くことで算出した。
【0080】
その結果を
図1及び
図2に示す。
図1の縦軸は、各種化合物投与期間中(投与開始から最終投与日の翌日まで)の累積摂餌量を示す。
図2の縦軸は、各種化合物投与開始後29日目(最終投与日の翌日)(28日間投与後)の体重を示す。
図1及び
図2の横軸の「蒸留水」は、蒸留水投与群を示し、「化合物1」は、化合物1投与群を示し、「アナモレリン」は、アナモレリン塩酸塩投与群を示し、「併用投与」は、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群を示す。
図1及び
図2の*印は、溶媒投与群との比較(Dunnet多重検定)で統計学的に有意であることを示す(*:P<0.05)。
【0081】
各種化合物投与期間中の累積摂餌量において、化合物1投与群又はアナモレリン塩酸塩投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な摂餌量増加作用は認められなかったが、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な摂餌量増加作用を示した。また、各種化合物を28日間投与した後の体重において、化合物1投与群又はアナモレリン塩酸塩投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な体重増加が認められなかったが、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、蒸留水投与と比較して統計学的に有意な体重増加作用を示した。
【0082】
また、上記の結果において、アナモレリン塩酸塩は単独で摂餌量及び体重に対して有効性を示さないが、化合物1とアナモレリン塩酸塩との併用投与により効果が発現したことから、本担癌モデル動物では、グレリン抵抗性が生じていることが示唆され、化合物1とアナモレリン塩酸塩を併用することではグレリン抵抗性状態における癌悪液質を改善することが示された。
【0083】
(実施例2)マウス担癌モデル(非小細胞肺癌モデル)における化合物1とアナモレリン塩酸塩との併用効果:
ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞であるA549細胞をヌードマウスに移植した担癌モデル動物を用いて、化合物1とアナモレリン塩酸塩とを組み合わせた際の摂餌量及び体重に対する薬効を検討した。
【0084】
A549細胞の継代は、10%FBS含有RPMI1640培地を用いて行った。薬効評価には、7週齢の雌性BALB/C slc/nu/nuマウス(日本エスエルシー)を購入し、1週間の馴化の後に使用した。担癌モデル動物の作製は、以下のようにして行った。すなわち、A549細胞をマウスの右側腹部へ1匹あたり2.5×107個ずつ皮下投与して移植した。細胞移植から22日目において、各群腫瘍体積の平均が均等になるよう群分けを行った。
【0085】
摂餌量及び体重に対する各種化合物の効果の検討は、以下のようにして行った。すなわち、細胞移植23日目から50日目まで、28日間、毎日、各種化合物を経口投与し、同時に、摂餌量及び体重を測定した。各種化合物の用量は、化合物1が0.25mg/kg(13例)、アナモレリン塩酸塩が30mg/kg(13例)とした。また、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与には、あらかじめ蒸留水に溶解した化合物1とアナモレリン塩酸塩を混合する事で調製した、0.25mg/kgの化合物1と30mg/kgのアナモレリン塩酸塩を用いた(13例)。対照として、蒸留水を同様に投与した(13例)。なお、摂餌量は、測定日の餌を含む単飼ケージのフタ重量から前日の餌を含んだ単飼ケージのフタの重量を差し引くことで算出した。
【0086】
その結果を
図3及び
図4に示す。
図3の縦軸は、各種化合物投与期間中(投与開始から最終投与日の翌日まで)の累積摂餌量を示す。
図4の縦軸は、各種化合物投与開始後29日目(最終投与日の翌日)(28日間投与後)の体重を示す。
図3及び
図4の横軸の「蒸留水」は、蒸留水投与群を示し、「化合物1」は、化合物1投与群を示し、「アナモレリン」は、アナモレリン塩酸塩投与群を示し、「併用投与」は、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群を示す。
図3及び
図4の*印は、溶媒投与群との比較(Dunnet多重検定)で統計学的に有意であることを示す(*:P<0.05)。
【0087】
各種化合物投与期間中の累積摂餌量において、化合物1投与群及び化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な摂餌量増加作用を示し、アナモレリン塩酸塩投与群では、蒸留水投与群と比較して摂餌量の増加傾向が認められた。摂餌量増加作用は、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群において最も著しかった。また、各種化合物を28日間投与した後の体重において、化合物1投与群、アナモレリン塩酸塩投与群又は化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群のいずれも、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な体重増加作用を示し、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群における体重増加が最も著しかった。
【0088】
(実施例3)マウス担癌モデル(皮膚癌モデル)における化合物1とアナモレリン塩酸塩との併用効果:
マウス悪性黒色腫細胞であるB16/F10細胞をマウスに移植した担癌モデル動物を用いて、化合物1とアナモレリン塩酸塩とを組み合わせた際の摂餌量及び体重に対する薬効を検討した。
【0089】
B16/F10細胞の継代は、10%FBS及びpenicilin-streptomycin含有DMEM培地を用いて行った。薬効評価には、導入時6週齢の雌性C57BL/6Jマウス(日本チャールスリバー)を用い、1週間の馴化の後に使用した。担癌モデル動物の作製は、以下のようにして行った。すなわち、B16/F10細胞をマウスの右側腹部へ1匹あたり5×106個ずつ皮下投与して移植した。細胞移植から5日目において、各群腫瘍体積の平均が均等になるよう群分けを行った。
【0090】
摂餌量及び体重に対する各種化合物の効果の検討は、以下のようにして行った。すなわち、細胞移植5日目から15日目まで、11日間、毎日、各種化合物を経口投与し、同時に、摂餌量及び体重を測定した。各種化合物の用量は、化合物1が0.05mg/kg(8例)、アナモレリン塩酸塩が30mg/kg(8例)とした。また、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与には、あらかじめ蒸留水に溶解した化合物1とアナモレリン塩酸塩を混合する事で調製した、0.05mg/kgの化合物1と30mg/kgのアナモレリン塩酸塩を用いた(8例)。対照として、蒸留水を同様に投与した(8例)。なお、摂餌量は、測定日の餌を含むケージのフタ重量から前日の餌を含んだケージのフタの重量を差し引くことで算出した。なお、各群8匹の個体は4匹ずつ2ケージに分けて飼育し、2ケージ分の合計摂餌量を8で除する事により、1匹当たり摂餌量を算出した。
【0091】
その結果を
図5及び
図6に示す。
図5の縦軸は、各種化合物投与期間中(投与開始から最終投与日の翌日まで)の累積摂餌量を示す。
図6の縦軸は、各種化合物投与開始後12日目(最終投与日の翌日)(11日間投与後)の体重を示す。
図5及び
図6の横軸の「蒸留水」は、蒸留水投与群を示し、「化合物1」は、化合物1投与群を示し、「アナモレリン」は、アナモレリン塩酸塩投与群を示し、「併用投与」は、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群を示す。
図5の*印は、溶媒投与群との比較(Dunnet多重検定)で統計学的に有意であることを示す(*:P<0.05)。
【0092】
各種化合物投与期間中の累積摂餌量において、化合物1及びアナモレリン塩酸塩投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な摂餌量増加作用は認められなかったが、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、蒸留水投与群と比較して統計学的に有意な摂餌量増加作用を示した。また、各種化合物を11日間投与した後の体重において、化合物1投与群、アナモレリン塩酸塩投与群又は化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、いずれも蒸留水投与と比較して体重の増加傾向を示さなかったが、化合物1とアナモレリン塩酸塩の併用投与群では、体重増加傾向を示した。
【0093】
また、上記の結果において、化合物1とアナモレリン塩酸塩との併用投与による摂餌量及び体重の増加作用は、非小細胞肺癌モデルのみならず、皮膚癌モデルにおいても認められることが示され、化合物1とアナモレリン塩酸塩を併用することでは、様々な癌種を要因とする癌悪液質を改善することが示された。
【0094】
以上の結果から、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとを組み合わせて使用することにより、それぞれ単独では摂餌量及び体重増加作用を示さない投与用量において、悪液質に対して著しい症状抑制効果を示すことが明らかとなった。また、一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩とグレリン受容体アゴニストとを組み合わせて使用することにより、両方又はいずれか一方の投与量を減少させ、副作用の懸念を軽減することが可能であることが示された。さらに、本併用効果は、悪性腫瘍全般に適用される効果であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の悪液質の治療剤又は予防剤は、悪液質に対する高い治療効果等を有するため、医薬分野に有用である。
【0096】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。