(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241217BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20241217BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20241217BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/02 102Z
H04R7/04
H04R17/00
(21)【出願番号】P 2021558575
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2020030733
(87)【国際公開番号】W WO2022034663
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】星 証人
【審査官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/144964(WO,A1)
【文献】特開2013-020467(JP,A)
【文献】特開2005-078403(JP,A)
【文献】特開2006-040005(JP,A)
【文献】特開2014-116939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0145836(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0141408(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 1/02
H04R 7/04
H04R 17/00
H04M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルディスプレイと、
所定の周波数以上の音域に対応する第1の音声信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記タッチパネルディスプレイに設けられ、前記所定の周波数未満の音域に対応する第2の音声信号、及び予め定められる振動パターンに基づくハプティクスフィードバック用の制御信号のうちの少なくともいずれかに応答して変形し、前記タッチパネルディスプレイを加振するピエゾアクチュエータと
、
前記第2の音声信号と前記制御信号とを混合した合成信号を前記ピエゾアクチュエータに入力する場合、前記第2の音声信号に基づく前記タッチパネルディスプレイの振動よりも、前記制御信号に基づく前記タッチパネルディスプレイの振動が優先されるように、前記第2の音声信号を変調する信号制御部と
を備え
、
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の再生時間よりも、前記制御信号の再生時間を長くする
電子機器。
【請求項2】
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の振幅が前記制御信号の振幅よりも小さくなるように、前記第2の音声信号の出力レベルを抑圧する
請求項
1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号に含まれる周波数成分のうち低周波数側を減衰させるように、前記第2の音声信号の帯域を制限する
請求項
1に記載の電子機器。
【請求項4】
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の振幅が前記制御信号の振幅よりも小さくなるように、前記第2の音声信号の出力レベルを抑圧するとともに、前記第2の音声信号のうち低周波数側を減衰させるように、前記第2の音声信号の帯域を制限する
請求項
1に記載の電子機器。
【請求項5】
前記ピエゾアクチュエータは、
前記タッチパネルディスプレイが備えるディスプレイの表示面に対向する裏面に設けられる
請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記ピエゾアクチュエータは、
前記ディスプレイの振動が最も大きくなる位置に設けられる
請求項
5に記載の電子機器。
【請求項7】
前記ピエゾアクチュエータは、
前記ディスプレイの裏面の中央付近に設けられる
請求項
5に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯型の電子機器は、本体の薄型化が進む一方で、ディスプレイの面積を大型化して表示領域を拡大する傾向にあり、高密度実装が求められている。例えば、特許文献1には、振動板を用いて音声出力を行う技術が提案されている。
【0003】
また、スマートフォンなどの電子機器には、電子機器を面方向に振動させる振動デバイスを搭載するものがある。振動デバイスによる振動は、着信等のイベント通知や、ユーザのタッチ操作等に応じて実行されるフィードバック等に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電子機器は、高密度実装が求められる結果、電子機器に搭載されるスピーカに対して十分なスペースを確保することが難しい。このため、ある特定の音域、特に低音域における音量に乏しいという課題がある。
【0006】
このような課題に対し、例えば、特許文献1に記載の振動板を用いた音声出力により、ある特定の音域について所望の音量での出力を試みることも考えられる。しかし、特許文献1に記載の技術は振動板の振動が局所的であるので、振動デバイスとしては十分な振動強度を確保できないという課題がある。
【0007】
そこで、本開示では、高密度実装の要請に応えつつ、特定の音域において所望の音量を実現するとともに、所望の振動強度を確保できる電子機器を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本開示に係る一形態の電子機器は、タッチパネルディスプレイと、スピーカと、ピエゾアクチュエータと、信号制御部とを備える。スピーカは、所定の周波数以上の音域に対応する第1の音声信号に基づく音を出力する。ピエゾアクチュエータは、タッチパネルディスプレイに設けられ、所定の周波数未満の音域に対応する第2の音声信号、及び予め定められる振動パターンに基づく制御信号に応答して変形し、タッチパネルディスプレイを加振する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る電子機器の外観を示す平面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る電子機器が備えるディスプレイとピエゾアクチュエータとの位置関係を示す平面図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る情報処理の一例を示す図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る出力音声の周波数特性の一例を示す拡大図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る出力音声の周波数特性の一例を示す拡大図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る信号制御の一例を示す図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る信号制御の一例を示す図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る電子機器の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】本開示の実施形態に係る電子機器による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】比較例に係る電子機器による再生音の周波数特性の一例を示す図である。
【
図11】本開示の実施形態に係る電子機器による再生音の周波数特性の一例を示す図である。
【
図12】本開示の実施形態に係る電子機器による再生音の周波数特性を説明するための図である。
【
図13】本開示の実施形態に係る電子機器のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。本開示の実施形態は、スマートフォンやタブレット、ノート型のパーソナルコンピュータなどのように、スピーカを備え、オーディオ再生機能を有し、薄型化や小型化などに伴って高密度実装が求められる全ての電子機器に適用できる。
【0011】
なお、以下の実施形態において、同一の部位には同一の数字又は符号を付することにより重複する説明を省略する場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の数字又は符号の後に異なる数字又は符号を付して区別する場合もある。
【0012】
また、以下に示す項目順序に従って本開示を説明する。
1.本開示の実施形態に係る電子機器の概要
2.本開示の実施形態に係る電子機器の情報処理の一例
3.本開示の実施形態に係る電子機器の構成例
4.本開示の実施形態に係る電子機器の処理手順例
5.その他
5-1.再生信号の周波数特性の一例
5-2.ハードウェア構成例
6.むすび
【0013】
<<1.本開示の実施形態に係る電子機器の概要>>
以下、本開示の実施形態に係る電子機器の概要について説明する。
図1は、本開示の実施形態に係る電子機器の外観を示す平面図である。
図2は、本開示の実施形態に係る電子機器が備えるディスプレイとピエゾアクチュエータとの位置関係を示す平面図である。
【0014】
図1に示すように、本開示の実施形態に係る電子機器1(一例として、スマートフォン)は、略矩形状の筐体1Hを有する。また、
図1及び
図2に示すように、電子機器1は、タッチパネルディスプレイ2と、スピーカ3(3a,3b)と、ピエゾアクチュエータ4とを有する。
【0015】
電子機器1は、筐体1Hの正面(フロントフェイス)にタッチパネルディスプレイ2を有する。タッチパネルディスプレイ2は、タッチパネル2a及びディスプレイ2bを有する。
【0016】
タッチパネル2aは、タッチパネル2aに対する指、ペン、又はスタイラスペン等の接触を検出する。ディスプレイ2bは、文字、画像、記号、及び図形等を表示する。ディスプレイ2bは、表面SF1と、表面SF1に対向する裏面SF2とを有する。ディスプレイ2bの表面SF1は、ディスプレイ2bの表示面側に相当し、例えば、筐体1Hの外側に向けて露出する。ディスプレイ2bの裏面SF2は、筐体1Hの外部に露出することなく、筐体1Hの内部に収容される。ディスプレイ2bは、加振により振動する振動体として機能する。
【0017】
スピーカ3は、例えば筐体1Hに設けられるステレオスピーカであり、各種音源の音声信号に基づく音を出力する。各種音源の音声信号から抽出される中音域及び高音域に対応する第1の音声信号に基づく音を出力する。中音域及び高音域の音としては、例えば、800Hz(ヘルツ)以上の音域の音が例示される。
【0018】
ピエゾアクチュエータ4は、振動体であるディスプレイ2bに設けられ、低音域に対応する第2の音声信号、及び予め定められた振動パターンに基づくハプティクスフィードバック用の制御信号に応答して変形し、ディスプレイ2bを加振する。例えば、ピエゾアクチュエータ4は、筐体1Hの表裏方向に変形するように配置される。ピエゾアクチュエータ4は、低音域の音を出力する音響装置、及び振動によりユーザの操作に対して触覚的な刺激(打感等)をフィードバックする振動装置(ハプティクス(Haptics)装置)として、振動体であるディスプレイ2bを機能させる。低音域の音としては、例えば、800Hz(ヘルツ)未満の音域の音が例示される。
【0019】
図2に示すように、ピエゾアクチュエータ4は、貼付等により、ディスプレイ2bの振動が最も大きくなる位置(例えば、ディスプレイ2bの中央付近)に設けられる。これにより、ピエゾアクチュエータ4の変形により生み出される振動が効率的にディスプレイ2bに伝搬される。
【0020】
<<2.本開示の実施形態に係る電子機器の情報処理の一例>>
以下、本開示の実施形態に係る電子機器の情報処理の一例について説明する。
図3は、本開示の実施形態に係る情報処理の一例を示す図である。
図4及び
図5は、本開示の実施形態に係る出力音声の周波数特性の一例を示す拡大図である。
図6及び
図7は、本開示の実施形態に係る信号制御の一例を示す図である。
【0021】
高密度実装が求められる電子機器においては、スピーカのサイズも小型化せざるを得ず、ある特定の音域(特に低音域)について所望の音量を得ることが難しい。一方で、電子機器のディスプレイの表示領域が拡大傾向にある。そこで、本開示の実施形態に係る電子機器1は、所定の周波数以上の中・高音域の音の出力をスピーカ3に割り当て、所定の周波数未満の低音域の音の出力を音響装置として機能するディスプレイ2bに割り当てる。これにより、高密度実装が求められる電子機器において所定の音量を得ることが困難であった特定の音域、すなわち低音域について所望の音量を得ることができる。
【0022】
図3に示すように、電子機器1は、メディア音声、効果音信号、及び着信・通知音等の各種音源に基づく音声信号から、所定の周波数以上の中音域及び高音域(以下、「中・高音域」と記載する)に対応する第1の音声信号を抽出する(P3-1)。所定の周波数以上の中・高音域として、例えば、800Hz(ヘルツ)以上の音域を例示できる。
【0023】
メディア音声は、音楽や動画等のマルチメディアコンテンツの音声である。効果音は、電子機器1のユーザの操作に連動して再生されるシステム音である。着信・通知音は、電子機器1において発生した着信やメール受信等のイベント、アプリケーションのプッシュ通知等をユーザに通知するための音である。
【0024】
本開示の実施形態に係る電子機器1は、第1の音声信号を抽出する場合、スピーカ3が可聴音として再現可能な音域(800Hz未満の音域)の一部を削る。これにより、スピーカ3に出力を割り当てる音域を、できるだけスピーカ3の性能を活かすことが高音域側に調整する。なお、スピーカ3により再生可能な音域から削られた音域の一部は、後述するディスプレイ2bからの出力で補完される。
【0025】
図3及び
図4に示す曲線F
1は、第1の音声信号(スピーカ3から出力される中・高音域の音)の周波数特性を例示するものである。
図4に示すように、第1の音声信号に含まれる周波数成分は、最大の振幅「Y
1」を有するピーク周波数を含め、その大部分が周波数「X
11」~周波数「X
12」の範囲に含まれる。メディア音声、効果音信号、及び着信・通知音等の各種音源に基づく音声信号のうち、例えば、800Hz以上の音声信号がスピーカ3から出力される。
【0026】
抽出された第1の音声信号は、変換部31による所定の変換、及び増幅部32による所定の増幅を経て、スピーカ3に入力される。スピーカ3は、中・高音域に対応する第1の音声信号に基づく音等を出力する。
【0027】
また、電子機器1は、メディア音声、効果音信号、及び着信・通知音等の各種音源に基づく音声信号から、所定の周波数未満の低音域に対応する第2の音声信号を抽出する(P3-2)。所定の周波数未満の低音域として、ある下限となる周波数から800Hz未満の音域を例示できる。
【0028】
電子機器1は、低音域の下限(
図5に示す周波数「X
21」)として、可聴音のうち、ユーザがディスプレイ2bに頭部を近づけない限り、音として聞き取ることができない周波数を採用する。低音域の下限を規定する周波数は、例えば、100~200Hzの範囲から採用できる。なお、この周波数帯の振動は、触覚による認識が可能である。
【0029】
図3及び
図5に示す曲線F
2は、第2の音声信号(低音域の音)の周波数特性を例示するものである。より具体的には、第2の音声信号が増幅部34から出力される際の出力信号の特性を示すものである。第2の音声信号に基づいて出力される低音域の音は、ディスプレイ2bの振動によって再現される。
【0030】
図5に示すように、第2の音声信号に含まれる周波数成分は、最大の振幅「Y
2」を有するピーク周波数を含め、その大部分が周波数「X
21」~周波数「X
22」の範囲に含まれる。なお、この周波数「X
21」~周波数「X
22」の範囲は、前述した中・高音域の周波数「X
11」~周波数「X
12」の範囲と一部重複するように設定される。これにより、再生音の周波数成分の欠落を防止できる。
【0031】
抽出された第2の音声信号は、変換部33による所定の変換、及び増幅部34による所定の増幅を経て、ピエゾアクチュエータ4に入力される。ピエゾアクチュエータ4は、低音域に対応する第2の音声信号に応答して変形し、ディスプレイ2bを加振する。ディスプレイ2bは、ピエゾアクチュエータ4の変形に応じて振動し、低音域の音に対応する第2の音声信号に基づく音を出力する。
【0032】
また、本開示の実施形態に係る電子機器1は、ディスプレイ2bの表示領域が拡大傾向にある点に着目し、ディスプレイ2bを振動装置(ハプティクス装置)として応用する。これにより、振動デバイスとして従来利用されているバイブレータ等が不要となり、高密度実装の要請に応えることができる。また、電子機器1は、ディスプレイ2bの表示領域の拡大に伴って、従来のディスプレイを振動デバイスとして機能させるよりも振動時の振幅を大きくでき、所望の振動強度の確保も可能となる。
【0033】
図3に示すように、電子機器1は、着信・通知振動命令に従って予め定められる振動パターンに基づくトーンを発生させる(P3-3)。具体的には、電子機器1は、第1トーンデータを参照してディスプレイ2bの振動パターンを決定し、決定した振動パターンに基づくハプティクスフィードバック用の制御信号をピエゾアクチュエータ4に入力する。ピエゾアクチュエータ4は、入力されるハプティクスフィードバック用の制御信号に応答して変形し、ディスプレイ2bを加振する。ディスプレイ2bは、振動パターンに応じて振動し、振動パターンに対応するトーンを再現する。
【0034】
また、電子機器1は、タッチフィードバック命令に従って予め定められる振動パターンに基づくトーンを発生させる(P3-4)。これにより、ユーザの操作に対して触覚的な刺激(打感等)をフィードバックするための振動がディスプレイ2bから発生される。具体的な処理の内容は、着信・通知振動命令に基づいたトーン発生の場合と同様である。
【0035】
図3及び
図5に示す曲線F
3は、第2の音声信号とピエゾアクチュエータ4を駆動させるハプティクスフィードバック用の制御信号とを混合した合成信号の周波数特性を例示するものである。より具体的には、第2の音声信号と、ハプティクスフィードバック用の制御信号とを混合した合成信号が増幅部34から出力される際の出力信号の特性を示すものである。曲線F
3に示すように、合成信号の周波数特性は、第2の音声信号の周波数特性とは異なる特徴を有する。
【0036】
具体的には、合成信号は、第2の音声信号の周波数成分が余り含まれない低周波数帯に最大の振幅「Y
3」を有するピーク周波数を有している。電子機器1において、合成信号のピーク周波数が、第2の音声信号の周波数成分が含まれる周波数帯の下限(
図5に示す周波数「X
21」)よりも小さい周波数となるように事前調整される。合成信号のピーク周波数の調整を行うための周波数帯(周波数「X
31」~周波数「X
21」の範囲)として、例えば、100~200Hzの範囲が採用される。100~200Hzの振動は、音としての聞き取りが困難である一方で、触覚による認識は可能である。つまり、合成信号のピーク周波数が、音としての聞き取りは困難であるが、触覚による認識は容易な周波数帯にくるように調整される。電子機器1において、例えば、第2の音声信号(低音域の音)の周波数成分が含まれる周波数帯の下限として150Hzが採用される場合、100以上150Hz未満の範囲で、合成信号のピーク周波数の調整が行われる。
【0037】
また、合成信号に基づいてディスプレイ2bにより再現される振動は、第2の音声信号に基づいてディスプレイ2bにより再現される振動よりも、周波数「X31」~周波数「X32」の範囲の振幅が小さい。つまり、合成信号に基づいてディスプレイ2bにより再現されるときの低音域の音は、第2の音声信号に基づいてディスプレイ2bにより再現されるときの低音域の音よりも小さくなる。
【0038】
また、電子機器1は、前述の合成信号をピエゾアクチュエータ4に入力する場合、第2の音声信号に基づくディスプレイ2bの振動よりも、ハプティクスフィードバック用の制御信号に基づくディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調する信号制御を行う(P3-5)。
【0039】
第2の音声信号を変調する信号制御は、以下に説明するように、第2の音声信号の出力レベルの抑圧、又は第2の音声信号の帯域制限のうちの少なくともいずれか一方により実行される。
【0040】
第2の音声信号の出力レベルの抑圧を行う場合、電子機器1は、第2の音声信号の振幅がハプティクスフィードバック用の制御信号の振幅よりも小さくなるように、第2の音声信号の出力レベルを抑圧する。具体的には、
図6の矢印A
1に示すように、電子機器1は、第2の音声信号に対応する曲線F
2の最大の振幅「Y
2」が、ハプティクスフィードバック用の制御信号に対応する曲線F
3の最大の振幅「Y
3」よりも小さくなるように、第2の音声信号の出力レベルを抑圧する。
【0041】
また、第2の音声信号の帯域制限を行う場合、電子機器1は、第2の音声信号に含まれる周波数成分のうち低周波数側を減衰させるように、第2の音声信号の帯域を制限する。具体的には、
図7の矢印A
2で示すように、電子機器1は、第2の音声信号の周波数帯の下限の周波数「X
21」を高周波数側にシフトすることより、第2の音声信号の周波数帯を周波数「X
23」~周波数「X
24」の範囲に制限する。また、電子機器1は、
図6に示す第2の音声信号の出力レベルの抑圧、又は
図7に示す第2の音声信号の帯域制限の双方を実行してもよい。
【0042】
上述してきたように、本開示の実施形態に係る電子機器1は、低音域の音の出力を音響装置として機能するディスプレイ2bに割り当てる。これにより、高密度実装が求められる電子機器において所定の音量を得ることが困難であった特定の音域、すなわち低音域の音量を大きくでき、所望の音量を得ることができる。
【0043】
また、本開示の実施形態に係る電子機器1は、表示領域が拡大傾向にあるディスプレイ2bを振動装置(ハプティクス装置)として応用する。これにより、バイブレータなどの既存の振動装置が不要となり、高密度実装の要望に応えつつ、所望の振動強度を確保できる。
【0044】
このようにして、本開示の実施形態に係る電子機器1は、高密度実装の要請に応えつつ、特定の音域において所望の音量を実現するとともに、所望の振動強度を確保できる。
【0045】
また、本開示の実施形態に係る電子機器1は、第2の音声信号とハプティクスフィードバック用の制御信号とを混合した合成信号をピエゾアクチュエータ4に入力する場合、第2の音声信号に基づくディスプレイ2bの振動よりも、ハプティクスフィードバック用の制御信号に基づくディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調する。これにより、振動による触覚的なユーザへのフィードバック等の出力が低音域の音の出力に埋もれてしまうことを防止でき、ディスプレイ2bの振動をユーザに明確に知覚させ、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせるという目的を達成できる。
【0046】
<<3.本開示の実施形態に係る電子機器の構成例>>
以下、本開示の実施形態に係る電子機器の構成例を説明する。
図8は、本開示の実施形態に係る電子機器の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0047】
図8に示すように、電子機器1は、タッチパネルディスプレイ2と、スピーカ3と、ピエゾアクチュエータ4と、記憶部10と、制御部20と、変換部31と、増幅部32と、変換部33と、増幅部34とを有する。電子機器1は、これらの各部により、以下に説明する電子機器1の機能や作用を実現または実行する。
【0048】
タッチパネルディスプレイ2は、タッチパネル2aと、ディスプレイ2bとを有し、ユーザによる操作を受け付ける操作デバイス、及び各種情報等と表示する表示デバイスとして機能する。
【0049】
タッチパネル2aは、指、ペン、又はスタイラスペン等がタッチパネル2aに接触した位置を検出できる。タッチパネル2aは、タッチパネル2aに対する接触を検出すると、接触の検出位置を制御部20に通知する。タッチパネル2aの検出方式は、静電容量方式、抵抗膜方式、表面弾性波方式(又は超音波方式)、赤外線方式、電磁誘導方式、及び荷重検出方式等の任意の方式でよい。
【0050】
ディスプレイ2bは、有機又は無機のELパネル(Electro-Luminescence panel)等を備え、文字、画像、記号、図形、及び各種情報等を表示する。なお、ディスプレイ2bは、振動可能であれば、ELパネル以外の表示デバイスで実装されてもよい。ディスプレイ2bの裏面SF
2(
図2等参照)には、貼付等により、ピエゾアクチュエータ4が設けられる。ディスプレイ2bは、ピエゾアクチュエータ4により加振されることにより振動する振動体として機能する。
【0051】
スピーカ3は、第1スピーカ3aと第2スピーカ3bとを備え、各種音源の音声信号から抽出される中音域及び高音域の第1の音声信号に基づく音を出力する。
【0052】
ピエゾアクチュエータ4は、低音域に対応する第2の音声信号及び予め定められるハプティクスフィードバック用の制御信号に応じて変形し、ディスプレイ2bを加振する。ピエゾアクチュエータ4は、圧電素子を備える。ピエゾアクチュエータ4が備える圧電素子は、経時的な所定の信号(交番信号等)により平面方向に連続的に変形(伸び縮み)する。圧電素子の連続的な変形がディスプレイ2bに伝搬されることにより、ディスプレイ2bを振動させる。ピエゾアクチュエータ4は、低音域の音を出力する音響装置(ウーハー)として、振動体であるディスプレイ2bを機能させる。また、ピエゾアクチュエータ4は、振動によりユーザの操作に対して触覚的な刺激(打感等)をフィードバックする振動装置(ハプティクス装置)として振動体であるディスプレイ2bを機能させる。
【0053】
ピエゾアクチュエータ4は、貼付等により、ディスプレイ2bの裏面SF
2(
図2等参照)に設けられる。ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bの振動が最も大きくなる位置、例えば、ディスプレイ2bの裏面SF
2の中央付近に設けられる。ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bを音響装置(ウーハー)として機能させる場合、スピーカ3との位置関係をさらに加味して設置してもよい。
【0054】
記憶部10は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置によって実現される。記憶部10は、制御部20の記憶手段として機能する。
【0055】
記憶部10は、
図8に示すように、第1トーンデータ格納部11と、第2トーンデータ格納部12と、信号制御用データ格納部13とを有する。
【0056】
第1トーンデータ格納部11は、着信・通知振動命令に基づく振動を再現するためにプリセットされる振動パターンのデータを記憶する。第1トーンデータ格納部11に記憶される振動パターンのデータは、後述する第1発生部23において、振動パターンに対応するハプティクスフィードバック用の制御信号を生成する処理に用いられる。着信・通知振動命令に基づく振動を再現するための振動パターンは、周波数が100~200Hzの間にピーク周波数を有するように事前調整される。第1トーンデータ格納部11に記憶される振動パターンは、後述する第2トーンデータ格納部12とは異なる振動パターンを有する。
【0057】
第2トーンデータ格納部12は、タッチフィードバック命令に基づく振動を再現するためにプリセットされる振動パターンのデータを記憶する。第2トーンデータ格納部12に記憶される振動パターンのデータは、後述する第2発生部24において、振動パターンに対応するハプティクスフィードバック用の制御信号を生成する処理に用いられる。タッチフィードバック命令に基づく振動を再現するための振動パターンは、周波数が100~200Hzの間にピーク周波数を有するように事前調整される。第2トーンデータ格納部12に記憶される振動パターンは、前述した第1トーンデータ格納部11とは異なる振動パターンを有する。
【0058】
信号制御用データ格納部13は、ピエゾアクチュエータ4に入力される第2の音声信号を変調する信号制御用のデータを記憶する。信号制御用データ格納部13に記憶される信号制御用のデータは、例えば、第2音声信号の出力レベルを抑圧するための出力レベル抑圧用の閾値、又は第2音声信号の周波数帯域を制限するための帯域制限用の閾値である。信号制御用データ格納部13に記憶される信号制御用のデータは、後述する信号制御部25による信号制御処理に用いられる。
【0059】
混合部M1及び混合部M2は、それぞれ、別の入力系統として設けられる。混合部M1は、メディア音声、効果音信号、及び着信・通知音等の各種音源に基づく音声信号を適宜混合し、第1信号処理部21に送出する。また、混合部M2は、メディア音声、効果音信号、及び着信・通知音等の各種音源に基づく音声信号を適宜混合し、第2信号処理部22に送出する。混合部M3は、第2信号処理部22から入力される第2音声信号及び第1発生部23又は第2発生部24から入力されるハプティクスフィードバック用の制御信号を適宜混合し、変換部33に送出する。
【0060】
制御部20は、
図8に示すように、第1信号処理部21と、第2信号処理部22と、第1発生部23と、第2発生部24と、信号制御部25とを有する。制御部20は、これらの各部により、以下に説明する電子機器1の機能や作用を実現または実行する。
【0061】
なお、制御部20を構成する各ブロック(第1信号処理部21~信号制御部25)はそれぞれ電子機器1の機能を示す機能ブロックである。これら機能ブロックはソフトウェアブロックであってもよいし、ハードウェアブロックであってもよい。例えば、上述の機能ブロックが、それぞれ、ソフトウェア(マイクロプログラムを含む。)で実現される1つのソフトウェアモジュールであってもよいし、半導体チップ(ダイ)上の1つの回路ブロックであってもよい。勿論、各機能ブロックがそれぞれ1つのプロセッサ又は1つの集積回路であってもよい。機能ブロックの構成方法は任意である。なお、電子機器1は、上述の機能ブロックとは異なる機能単位で構成されていてもよい。
【0062】
第1信号処理部21は、混合部M1から入力される入力音声信号から、所定の周波数以上の中・高音域に対応する第1の音声信号を抽出する。例えば、第1信号処理部21は、ハイパスフィルタなどを用いたフィルタリング処理等により、入力音声信号から低周波数成分をカットする。これにより、第1信号処理部21は、入力音声信号から中・高音域に対応する第1の音声信号を抽出する。第1信号処理部21は、抽出した第1の音声信号を変換部31に送出する。中・高音域としては、例えば、800Hz(ヘルツ)以上の音域が例示される。
【0063】
従来、スピーカから出力される音声信号のうち、スピーカでは十分に再現できずに熱損失として消失してしまう低音域の音声信号のカットは行われている。一方、本開示の実施形態に係る電子機器1では、スピーカ3に入力する音声信号のうち、熱損失となる部分のみならず、再生可能な音域の一部をカットし、低音域の出力を割り当てたディスプレイ2bにより補完する。これにより、中・高音域の再生に優れたスピーカ3の性能を十分に活かすことができ、電子機器1により再生される音量及び音質の向上を図ることができる。
【0064】
第2信号処理部22は、混合部M2から入力される入力音声信号から、低音域に対応する第2の音声信号を抽出する。例えば、第2信号処理部22は、ローパスフィルタなどを用いたフィルタリング処理等により、入力音声信号から高周波数成分をカットする。これにより、第2信号処理部22は、入力音声信号から低音域に対応する第2の音声信号を抽出する。第2信号処理部22は、抽出した第2の音声信号を変換部33に送出する。低音域としては、例えば、200Hz以上800Hz未満の音域が例示される。なお、低音域の下限は、100~200Hzの間で任意に決定できる。
【0065】
また、第2信号処理部22は、信号制御部25から第2の音声信号の変調命令を取得した場合、この変調命令に基づいて、第2の音声信号を変調した後、変調後の音声信号を、変換部33に送出する。第2信号処理部22は、変調命令として、第2の音声信号の出力レベルの抑圧度合いを取得した場合、この度合いに基づいて、例えば、第2の音声信号の振幅がPCM音声信号の振幅よりも小さくなるように第2の音声信号の出力レベルを抑圧する。また、第2信号処理部22は、変調命令として、第2の音声信号の帯域制限の制限度合いを取得した場合、この度合いに基づいて、例えば、第2の音声信号に含まれる周波数成分のうち低周波数側を減衰させるように、第2の音声信号の帯域を制限する。第2信号処理部22は、例えば、バントパスフィルタなどを用いたフィルタリング処理等により、第2の音声信号の周波数成分が含まれる帯域の一部を制限する。
【0066】
第1発生部23は、第1トーンデータ格納部11に記憶される振動パターンのデータに基づいて、着信・通知振動命令に基づくトーンをディスプレイ2bに発生させるためのPCM(Pulse Code Modulation)音声信号(ハプティクスフィードバック用の制御信号の一例)を生成する。第1発生部23は、生成したPCM音声信号を混合部M3に送出する。また、第1発生部23は、生成したPCM音声信号を混合部M3に送出する際、信号制御部25にもPCM音声信号を送出する。
【0067】
第2発生部24は、第2トーンデータ格納部12に記憶される振動パターンのデータに基づいて、タッチフィードバック命令に基づくトーンをディスプレイ2bに発生させるためのPCM音声信号(ハプティクスフィードバック用の制御信号の一例)を生成する。第2発生部24は、生成したPCM音声信号を混合部M3に送出する。
【0068】
信号制御部25は、第2の音声信号とPCM音声信号とを混合してピエゾアクチュエータ4に入力する場合、第2の音声信号に応じたディスプレイ2bの振動よりも、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調する。
【0069】
具体的には、信号制御部25は、第1発生部23又は第2発生部24からPCM音声信号を取得すると、信号制御用データ格納部13に記憶されている信号制御用の閾値を参照し、第2の音声信号の出力レベルの抑圧度合いを決定する。例えば、第2の音声信号の抑圧度合いとしては、少なくとも、第2の音声信号の振幅がPCM音声信号の振幅よりも小さくすることが望ましい。信号制御部25は、決定した第2の音声信号の抑圧度合いを示す変調命令を第2信号処理部22に送出する。
【0070】
また、信号制御部25は、第2の音声信号に応じたディスプレイ2bの振動よりもPCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号の周波数帯域を制限してもよい。例えば、信号制御部25は、第2の音声信号に含まれる周波数成分の少なくとも一部を減衰させるように、第2の音声信号の周波数帯域の制限度合いを決定する。信号制御部25は、決定した帯域制限の制限度合いを示す変調命令を第2信号処理部22に送出する。なお、信号制御部25は、第2の音声信号の出力レベルの抑圧と、帯域制限とを合わせて実行してもよい。
【0071】
なお、信号制御部25は、第2の音声信号の出力レベルの抑圧、又は第2の音声信号の帯域制限以外の方法より、第2の音声信号よりもPCM音声信号(ハプティクスフィードバック用の制御信号の一例)が優先されるように制御してもよい。具体的には、電子機器1は、第2の音声信号の再生時間よりも、ハプティクスフィードバック用の制御信号の再生時間を長くする。これにより、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせるという目的を達成できる。
【0072】
なお、電子機器1により再生可能な音域及び音量は、ディスプレイ2bの面積及び剛性等により変化する。一般に、ディスプレイ2bの面積が大きく、剛性が低いほど、設置されるピエゾアクチュエータ4の変形による振幅が大きくなり、電子機器1により再生可能な低音域が広がり、音量も大きくなる。このため、電子機器1は、ディスプレイ2bの面積及び剛性等に応じて、ディスプレイ2bにより再現する低音域の範囲や振動の範囲を任意に変更してもよい。
【0073】
変換部31は、第1信号処理部21から取得する第1の音声信号を変換し、増幅部32に送出する。増幅部32は、変換部31から取得する第1の音声信号を増幅し、スピーカ3に送出する。変換部31は、DAC(Digital Analogue Converter)等により実現でき、増幅部32は、アンプ等により実現できる。
【0074】
変換部33は、混合部M3から取得する信号を変換し、増幅部34に送出する。増幅部34は、変換部33から取得した信号を増幅し、ピエゾアクチュエータ4に送出する。増幅部34からピエゾアクチュエータ4に送出される信号は、第2の音声信号、PCM音声信号、又は第2の音声信号とPCM音声信号とが混合された合成信号の場合が想定される。変換部33は、DAC(Digital Analogue Converter)等により実現でき、増幅部34は、アンプ等により実現できる。
【0075】
<<4.本開示の実施形態に係る電子機器の処理手順例>>
以下、本開示の実施形態に係る電子機器1の処理手順について説明する。
図9は、本開示の実施形態に係る電子機器による処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9に示す処理手順は、電子機器1の稼働中、繰り返し実行される。
【0076】
図9に示すように、信号制御部25は、第1発生部23又は第2発生部24から、PCM音声信号を取得する(ステップS101)。
【0077】
信号制御部25は、信号制御用データ格納部13に記憶されている信号制御用のデータを参照し、第2の音声信号の出力レベルの抑圧度合いを決定する(ステップS102)。
【0078】
信号制御部25は、決定した抑圧度合いを示す変調命令を第2信号処理部22に送出し(ステップS103)、上記ステップS101の処理手順に戻る。
【0079】
図9に示す処理手順によれば、第2の音声信号とPCM音声信号とを混合してピエゾアクチュエータ4に入力する場合、信号制御部25は、第2の音声信号に応じたディスプレイ2bの振動よりも、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調できる。これにより、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動をユーザに明確に知覚させることができ、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせるという目的を達成できる。
【0080】
<<5.その他>>
<5-1.本開示の再生信号の周波数特性の一例>
以下、本開示の実施形態に係る電子機器1による再生音と、比較例に係る従来の電子機器による再生音との比較結果について説明する。
図10は、比較例に係る電子機器による再生音の周波数特性の一例を示す図である。
図11は、本開示の実施形態に係る電子機器による再生音の周波数特性の一例を示す図である。
図12は、本開示の実施形態に係る電子機器による再生音の周波数特性を説明するための図である。
【0081】
図10に示すように、比較例に係る電子機器により再生音は、800Hz(ヘルツ)未満の低音域の出力が弱い(音量が小さい)。一方、
図11に示すように、本開示の実施形態に係る電子機器1による再生音は、比較例に係る電子機器によりも、800Hz(ヘルツ)未満の低音域の出力が強い(音量が大きい)。すなわち、
図12に示すように、本開示の実施形態に係る電子機器1による再生音は、比較例に係る電子機器によりも、800Hz(ヘルツ)未満の各周波数成分の音量を12.5~25dB(デシベル)程度、大きくすることができる。
【0082】
本開示の電子機器1が有するピエゾアクチュエータ4は、中・高音域の音を出力する音響装置としてディスプレイ2bを機能させることもできる。しかしならが、中・高音域の音は、該当音の出力が割り当てられたスピーカ3により十分な音量が得られる。そこで、ピエゾアクチュエータ4は、低音域の音を出力する音響装置としてのみディスプレイ2bを機能させる。このようにして、本開示の実施形態に係る電子機器1は、高密度実装が求められる従来の電子機器において所定の音量を得ることが困難であった所定の音域、例えば800Hz(ヘルツ)未満の低音域の音量を底上げでき、迫力ある音声再生を実現できる。
【0083】
また、
図8及び
図9等を用いて上述したように、電子機器1は、低音域に対応する第2の音声信号と、予め定められる振動パターンに基づくPCM音声信号(ハプティクスフィードバック用の制御信号の一例)とを混合してピエゾアクチュエータ4に入力する場合、第2の音声信号に応じたディスプレイ2bの振動よりも、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調する信号制御を実行する。これにより、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動をユーザに明確に知覚させることが可能となる。
【0084】
<5-2.ハードウェア構成例>
以下、
図13を用いて、本開示の実施形態に係る電子機器1のハードウェア構成例について説明する。
図13は、本開示の実施形態に係る電子機器のハードウェア構成例を示すブロック図である。本開示の実施形態に係る電子機器1による情報処理は、電子機器1による情報処理を実現するための機能を提供するソフトウェアと、以下に説明するハードウェアとの協働により実現され得る。
【0085】
電子機器1は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)203、及びRAM(Random Access Memory)205を備える。また、電子機器1は、入力装置207、出力装置209、振動装置211、ストレージ装置213、及び通信装置215を備える。
【0086】
CPU201は、演算処理装置及び制御装置として機能し、各種プログラムに従って電子機器1における動作全般を制御する。なお、CPU201は、電子機器1に搭載される制御装置の一例であり、MPU(Micro Processing Unit)などの他のプロセッサであってもよい。
【0087】
ROM203は、CPU201が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM205は、CPU201の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する。これらはCPUバスなどから構成されるホストバスにより相互に接続されている。CPU201、ROM203及びRAM205は、例えば、
図8等を用いて説明した制御部20が有する各部(第1信号処理部21~信号制御部25)の機能を実現し得る。
【0088】
入力装置207は、ボタン、カメラ、マイクロフォン、センサ、スイッチ及びレバーなどユーザが情報を入力するための入力手段と、ユーザによる入力に基づいて入力信号を生成し、CPU201に出力する入力制御回路などから構成されている。例えば、
図8に示すタッチパネル2aは、入力装置207の一部を構成する。
【0089】
出力装置209は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Display)、又は有機ELディスプレイ等のディスプレイ装置、スピーカ、ヘッドホン等のオーディオ出力装置により実現できる。例えば、
図8に示すディスプレイ2bは、出力装置209の一部を構成する。
【0090】
振動装置211は、CPU201からのハプティクスフィードバック用の制御信号に従って振動を生成する装置である。例えば、
図8に示すピエゾアクチュエータ4は、振動装置211の一部を構成する。
【0091】
ストレージ装置213は、データ格納用の装置である。ストレージ装置213は、記憶媒体、記憶媒体にデータを記録する記録装置、記憶媒体からデータを読み出す読出し装置及び記憶媒体に記録されたデータを削除する削除装置などを含んでもよい。また、ストレージ装置213は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid Storage Drive)、あるいは同等の機能を有するメモリ等で構成される。このストレージ装置213は、ストレージを駆動し、CPU201が実行するプログラムや各種データを格納する。例えば、
図8に示す記憶部10の機能は、ストレージ装置213により実現される。
【0092】
通信装置215は、例えば、ネットワークに接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。かかる通信インタフェースは、例えば、Bluetooth(登録商標)またはZigBee(登録商標)等の近距離無線通信インタフェースや、無線LAN(Local Area Network)、Wi-Fi、または携帯通信網等の通信インタフェースである。携帯通信網には、LTE(Long Term Evolution)や4G、5Gなどが含まれる。また、通信装置215は、有線による通信を行う有線通信装置であってもよい。
【0093】
<<6.むすび>>
本開示の実施形態に係る電子機器1は、ディスプレイ2b(振動体の一例)と、スピーカ3と、ピエゾアクチュエータ4と、信号制御部25とを備える。スピーカ3は、中音域及び高音域に対応する第1の音声信号に基づく音を出力する。ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bに設けられ、低音域に対応する第2の音声信号、又は予め定められる振動パターンに基づくPCM音声信号(ハプティクスフィードバック用の制御信号の一例)に応答して変形し、ディスプレイ2bを加振する。
【0094】
このように、電子機器1は、上述した構成を備えることにより、低音域の音の出力を音響装置として機能するディスプレイ2bに割り当てることができる。これにより、高密度実装が求められる電子機器において所定の音量を得ることが困難であった所定の音域、すなわち低音域の音量を大きくでき、所望の音量を得ることができる。また、電子機器1は、表示領域が拡大傾向にあるディスプレイ2bを振動装置(ハプティクス装置)として機能させる。これにより、バイブレータなどの既存の振動装置が不要となり、高密度実装の要望に応えつつ、所望の振動強度を確保できる。
【0095】
また、電子機器1は、第2の音声信号とPCM音声信号とを混合してピエゾアクチュエータ4に入力する場合、第2の音声信号に応じたディスプレイ2bの振動よりも、PCM音声信号に応じたディスプレイ2bの振動が優先されるように、第2の音声信号を変調する信号制御部25をさらに備える。これにより、ディスプレイ2bと音響装置及び振動装置(ハプティクス装置)として機能させる場合に、低音域の音の出力に、振動による触覚的なユーザへのフィードバック等の出力が埋もれてしまうことを防止でき、ディスプレイ2bの振動をユーザに明確に知覚させることができる結果、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせることが可能となる。
【0096】
また、信号制御部25は、第2の音声信号の振幅がPCM音声信号の振幅よりも小さくなるように、第2の音声信号の出力レベルを抑圧する。これにより、低音域の音に対応する振動と、ユーザへのフィードバック等に対応する振動との差分を大きくでき、触覚的なユーザへのフィードバック等をユーザに明確に知覚させることができる結果、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせることが可能となる。
【0097】
また、信号制御部25は、第2の音声信号に含まれる周波数成分の少なくとも一部を減衰させるように、第2の音声信号の周波数帯域を制限する。これにより、低音域の音に対応する振動と、ユーザへのフィードバック等に対応する振動との差分を大きくでき、触覚的なユーザへのフィードバック等をユーザに明確に知覚させることができる結果、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせることが可能となる。
【0098】
また、信号制御部25は、第2の音声信号の振幅がPCM音声信号の振幅よりも小さくなるように、第2の音声信号の出力レベルを抑圧するとともに、第2の音声信号のうち低周波数側を減衰させるように、第2の音声信号の帯域を制限する。これにより、低音域の音に対応する振動と、ユーザへのフィードバック等に対応する振動との差分をより大きくでき、触覚的なユーザへのフィードバック等をユーザにより明確に知覚させることができる。
【0099】
また、信号制御部25は、第2の音声信号の再生時間よりも、PCM音声信号の再生時間を長くする。これにより、ハプティクスフィードバックの振動効果をユーザに強く感じさせることが可能となる。
【0100】
また、電子機器1において、ディスプレイ2bを振動体として機能させ、ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bの表面SF1対向する裏面SF2に設けられる。これにより、ディスプレイ2bの表示装置として機能を阻害することなく、振動装置として機能させることができる。
【0101】
また、ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bの振動が最も大きくなる位置に設けられる。これにより、ディスプレイ2bの振動効率を高めることができる。
【0102】
また、ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bの裏面SF2の中央付近に設けられる。これにより、ピエゾアクチュエータ4による振動をディスプレイ2bに効率的に伝搬できる。
【0103】
また、ピエゾアクチュエータ4は、タッチパネル2aに設けてもよい。例えば、タッチパネル2aがディスプレイ2bに重畳されている場合、ディスプレイ2bではなく、タッチパネル2aにピエゾアクチュエータ4を設けてもよい。これにより、ディスプレイ2bにピエゾアクチュエータ4を設けるよりも、ユーザフィードバックをユーザに感じさせやすくできる。
【0104】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の技術的範囲は、上述の実施形態そのままに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、異なる実施形態及び変形例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0105】
例えば、上記の実施形態において、ピエゾアクチュエータ4は、ディスプレイ2bを音響装置として機能させるとともに、振動装置(ハプティクス装置)として応用可能である限り、複数に分割されていてもよい。
【0106】
例えば、上記の実施形態において、電子機器1は、ディスプレイ2bではなく、タッチパネル2aにピエゾアクチュエータ4を設けてもよい。タッチパネル2aがディスプレイ2bに重畳される場合、触覚的なユーザへのフィードバック等をユーザに知覚させやすくする上で、ディスプレイ2bよりもタッチパネル2aにピエゾアクチュエータ4を設ける方が有益である。なお、タッチパネル2aにピエゾアクチュエータ4を設ける場合、タッチパネル2aの振動が最も大きくなる位置に、ピエゾアクチュエータ4を設けることが望ましい。
【0107】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示の技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者にとって明らかな他の効果を奏しうる。
【0108】
なお、本開示の技術は、本開示の技術的範囲に属するものとして、以下のような構成もとることができる。
(1)
タッチパネルディスプレイと、
所定の周波数以上の音域に対応する第1の音声信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記タッチパネルディスプレイに設けられ、前記所定の周波数未満の音域に対応する第2の音声信号、及び予め定められる振動パターンに基づくハプティクスフィードバック用の制御信号に応答して変形し、前記タッチパネルディスプレイを加振するピエゾアクチュエータと
を備える電子機器。
(2)
前記第2の音声信号と前記制御信号とを混合した合成信号を前記ピエゾアクチュエータに入力する場合、前記第2の音声信号に基づく前記タッチパネルディスプレイの振動よりも、前記制御信号に基づく前記タッチパネルディスプレイの振動が優先されるように、前記第2の音声信号を変調する信号制御部
をさらに備える前記(1)に記載の電子機器。
(3)
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の振幅が前記制御信号の振幅よりも小さくなるように、前記第2の音声信号の出力レベルを抑圧する
前記(2)に記載の電子機器。
(4)
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号に含まれる周波数成分のうち低周波数側を減衰させるように、前記第2の音声信号の帯域を制限する
前記(2)に記載の電子機器。
(5)
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の振幅が前記制御信号の振幅よりも小さくなるように、前記第2の音声信号の出力レベルを抑圧するとともに、前記第2の音声信号のうち低周波数側を減衰させるように、前記第2の音声信号の帯域を制限する
前記(2)に記載の電子機器。
(6)
前記信号制御部は、
前記第2の音声信号の再生時間よりも、前記制御信号の再生時間を長くする
前記(2)に記載の電子機器。
(7)
前記ピエゾアクチュエータは、
前記タッチパネルディスプレイが備えるディスプレイの表示面に対向する裏面に設けられる
前記(1)に記載の電子機器。
(8)
前記ピエゾアクチュエータは、
前記ディスプレイの振動が最も大きくなる位置に設けられる
前記(7)に記載の電子機器。
(9)
前記ピエゾアクチュエータは、
前記ディスプレイの裏面の中央付近に設けられる
前記(7)に記載の電子機器。
【符号の説明】
【0109】
1 電子機器
2 タッチパネルディスプレイ
2a タッチパネル
2b ディスプレイ
3 スピーカ
4 ピエゾアクチュエータ
10 記憶部
11 第1トーンデータ格納部
12 第2トーンデータ格納部
13 信号制御用データ格納部
20 制御部
21 第1信号処理部
22 第2信号処理部
23 第1発生部
24 第2発生部
25 信号制御部