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特許7605131情報処理装置、生体データ計測システム、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、生体データ計測システム、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/369 20210101AFI20241217BHJP
   A61B 5/0531 20210101ALI20241217BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20241217BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20241217BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61B5/369
A61B5/0531
A61B5/02 310H
A61B5/11 200
A61B5/00 N
A61B5/026 120
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021563864
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044589
(87)【国際公開番号】W WO2021117536
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019222099
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白根 友廣
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-208467(JP,A)
【文献】特開2017-063981(JP,A)
【文献】特開2012-005717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号の変動値と予め用意されている閾値とを比較して、生体センサによって前記計測対象者から検出される検出生体信号に前記計測対象者の体動に起因する体動ノイズが付加されることを予測する体動ノイズ予測部と、
前記参照信号の変動値が前記閾値以下である場合、通常状態をとり、前記参照信号の変動値が前記閾値より大きい場合、前記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を前記通常状態とは異なるように変更する制御状態をとって、前記検出生体信号の信号処理を制御する制御部
を具備し、
前記制御部は、前記通常状態から前記制御状態に変更してから所定時間経過後に、変更していた前記オフセット制御閾値又は前記ゲインを前記通常状態に戻す
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記体動ノイズ予測部は、前記参照信号の変動値と前記閾値との比較結果から体動ノイズレベルを判定し、
前記制御部は、前記体動ノイズレベルに基づいて、前記オフセット制御閾値及び前記ゲインのうち少なくとも一方を変更する
情報処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記制御部は、前記制御状態では、前記オフセット制御閾値の範囲を前記通常状態よりも狭める
情報処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記制御部は、前記制御状態では、前記ゲインを前記通常状態よりも下げる
情報処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記閾値は、第1閾値と前記第1閾値より大きい第2閾値を含み、
前記制御部は、前記参照信号の変動値が前記第1閾値以上であって前記第2閾値より小さい場合、前記オフセット制御閾値の範囲を通常状態から狭め、前記参照信号の変動値が第2の閾値以上の場合、前記ゲインをさげる
情報処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記参照信号の変動値は、前記参照信号の時間領域における2点差分を用いて計算する
情報処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記参照信号センサは、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、圧力センサのうち少なくとも1つを含む
情報処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の情報処理装置であって、
前記圧力センサは、前記計測対象者の異なる複数の身体部位に接触して前記検出生体信号を取得する複数の検出部毎に設けられ、
前記体動ノイズ予測部は、前記圧力センサ毎に検出される前記参照信号に基づいて、前記身体部位毎に前記検出生体信号に前記体動ノイズが付加されることを予測し、
前記制御部は、前記予測結果に基づいて、前記身体部位毎に、前記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を変更して、前記検出生体信号を信号処理する
情報処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記生体センサは、脳波センサ、脈波センサ、血流センサ、発汗センサのうち少なくとも1つを含む
情報処理装置。
【請求項10】
計測対象者の体動情報である参照信号を検出する参照信号センサと、
前記計測対象者の検出生体信号を検出する生体センサと、
前記参照信号の変動値と予め用意されている閾値とを比較して、前記検出生体信号に前記計測対象者の体動に起因する体動ノイズが付加されることを予測する体動ノイズ予測部と、
前記参照信号の変動値が前記閾値以下である場合、通常状態をとり、前記参照信号の変動値が前記閾値より大きい場合、前記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を前記通常状態とは異なるように変更する制御状態をとって、前記検出生体信号の信号処理を制御する制御部
を具備し、
前記制御部は、前記通常状態から前記制御状態に変更してから所定時間経過後に、変更していた前記オフセット制御閾値又は前記ゲインを前記通常状態に戻す
生体データ計測システム。
【請求項11】
情報処理装置に実行させる情報処理方法であって、
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号の変動値と予め用意されている閾値とを比較して、生体センサによって前記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測し、
前記参照信号の変動値が前記閾値以下である場合、通常状態をとり、前記参照信号の変動値が前記閾値より大きい場合、前記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を前記通常状態とは異なるように変更する制御状態をとって、前記検出生体信号の信号処理を制御し、
前記通常状態から前記制御状態に変更してから所定時間経過後に、変更していた前記オフセット制御閾値又は前記ゲインを前記通常状態に戻す
情報処理方法。
【請求項12】
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号の変動値と予め用意されている閾値とを比較して、生体センサによって前記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測するステップと、
前記参照信号の変動値が前記閾値以下である場合、通常状態をとり、前記参照信号の変動値が前記閾値より大きい場合、前記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を前記通常状態とは異なるように変更する制御状態をとって、前記検出生体信号の信号処理を制御するステップと、
前記通常状態から前記制御状態に変更してから所定時間経過後に、変更していた前記オフセット制御閾値又は前記ゲインを前記通常状態に戻すステップ
を含む処理を情報処理装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、生体センサによる生体データ取得に用いる情報処理装置、生体データ計測システム、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体センサを用いた生体データの計測では、計測対象者に装着された生体電極で検出されたアナログの検出生体信号がアナログデジタルコンバータによりデジタル化される。計測時、検出生体信号に計測対象者の体動に起因する体動ノイズが付加されることがある。このような体動ノイズが付加された検出生体信号がアナログデジタルコンバータの入力有効範囲を超えた状態でアナログデジタルコンバータに入力され、体動発生中、生体データを取得することができない場合がある。
【0003】
特許文献1には、生体データとして脈拍数を検出する生体状態検出装置が開示されている。当該生体状態検出装置では、体動の発生を検出後、脈波信号がA/D入力範囲を超えているかどうかを判定し、超えている場合は光量調整、光量調整分のオフセット調整を行い、その後オフセット追従により脈波信号をA/D入力範囲に収める制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-208467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の生体状態検出装置では、脈波信号をA/D入力範囲に収める制御は、脈波信号がA/D入力範囲を超えてしまった後に行われるため、脈波信号がA/D入力範囲を超えてしまう事象を回避することができない。したがって、取得する生体データの正確性を高めることが難しい。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、取得する生体データの正確性を高めることができる情報処理装置、生体データ計測システム、情報処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本技術に係る情報処理装置は、体動ノイズ予測部と、制御部を具備する。
上記体動ノイズ予測部は、参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測する。
上記制御部は、上記体動ノイズ予測部での予測結果に基づいて上記検出生体信号の信号処理を制御する。
【0008】
上記目的を達成するため、本技術に係る生体データ計測システムは、参照信号センサと、生体センサと、体動ノイズ予測部と、制御部を具備する。
上記参照信号センサは、計測対象者の体動情報である参照信号を検出する。
上記生体センサは、上記計測対象者の検出生体信号を検出する。
上記体動ノイズ予測部は、上記参照信号に基づいて、上記検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測する。
上記制御部は、上記体動ノイズ予測部での予測結果に基づいて上記検出生体信号の信号処理を制御する。
【0009】
上記目的を達成するため、本技術に係る情報処理方法は、参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測し、
予測した結果に基づいて、上記検出生体信号の信号処理を制御する
【0010】
上記目的を達成するため、本技術に係るプログラムは、参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測するステップと、予測した結果に基づいて、上記検出生体信号の信号処理を制御するステップとを含む処理を情報処理装置に実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本技術の実施形態に係る生体データ計測システムの概略模式図である。
図2】上記生体データ計測システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】通常状態でのオフセット制御を説明するためのイメージ図である。
図4】上記生体データ計測システムにおけるオフセット・ゲイン制御状態での動作の概略を説明する図である。
図5】オフセット制御閾値の変更を説明するイメージ図である。
図6】ゲインの変更を説明するイメージ図である。
図7】上記生体データ計測システムにおけるオフセット・ゲイン制御状態から通常状態に復旧する際の動作の概略を説明する図である。
図8】上記生体データ計測システムにおける生体センサとシステム部マイコンと端末とのやり取りを示すシーケンス図である。
図9】生体センサでの情報処理方法を説明する図である。
図10】システム部マイコンでの情報処理方法を説明する図である。
図11】参照信号センサでの体動の検出から時間的に遅れて当該体動に起因する体動ノイズが検出生体信号に現れることを説明する図である。
図12図11(C)及び(D)の部分拡大図であり、体動ノイズが時間的に遅れて検出生体信号に現れることを説明する図である。
図13】オフセット制御閾値変更によるアナログデジタルコンバータの入力有効範囲を超える回数の変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
生体センサを用いた生体データの計測時、検出生体信号に計測対象者の体動に起因する体動ノイズが付加され、検出生体信号が急変動することがある。このような体動ノイズが付加された検出生体信号が、アナログフロントエンド回路(以下、AFE回路という。)で信号処理され、アナログデジタルコンバータ(以下、ADCということがある。)に入力される際、ADCの入力有効範囲(以下、ダイナミックレンジ(DR)ということがある。)を超えてしまい、体動発生中、生体データを取得することができない場合がある。AFE回路では、検出生体信号の増幅処理、オフセット制御といった信号処理が行われる。
【0013】
本発明者は、計測対象者の体動情報を検出する参照信号センサの検出結果から読み取れる計測対象者の体動が発生した時間から遅れて、当該体動に起因する体動ノイズが、生体センサで検出される検出生体信号に現れることを見出し、本技術の完成に至った。
すなわち、本技術では、参照信号センサの検出結果に基づいて、生体センサで検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されて急変動することが事前に予測される。そして、この予測結果に基づいてAFE回路が制御された上で、体動ノイズが付加されると予測される検出生体信号はAFE回路にて信号処理される。より詳細には、検出生体信号に体動ノイズが付加されることが予測される場合、オフセット制御を発動するか否かを判定する際に用いるオフセット制御閾値、及び、検出生体信号のゲイン(以下、増幅倍率ということがある。)のうち少なくとも一方を変更したうえで、検出生体信号が信号処理される。これにより、検出生体信号は、変更されたオフセット制御閾値を用いてオフセット制御される、或いは、変更されたゲインで検出生体信号が増幅処理される。これにより、信号処理された検出生体信号がダイナミックレンジを超えることが抑制される。これにより、体動発生中においても、取得する生体データの正確性を高めることが可能となる。
以下、詳細について説明する。
【0014】
図1は本技術の実施形態に係る生体データ計測システムの模式図である。
生体データ計測システム1では、生体センサを用いて計測対象者の生体データが取得される。本実施形態では生体センサとして脳波を検出する脳波センサを例にあげ、生体データとして脳波信号を計測する。
本明細書において、生体センサにより計測対象者から検出される信号処理前の生体信号を検出生体信号という。また、当該検出生体信号をAFE回路で信号処理した後、ADCによりデジタル変換した生体信号を出力用生体信号という。尚、出力用生体信号をA/D値、生体データということもある。
【0015】
[生体データ計測システムの概要構成]
図1に示すように、生体データ計測システム1は、頭部固定用支持体14と、生体センサモジュール7と、システム部マイクロコンピュータ(以下、システム部マイコン)2と、参照信号センサ9と、端末12と、を備える。頭部固定用支持体14と、生体センサモジュール7と、システム部マイコン2と、参照信号センサ9は計測器本体10を構成する。
【0016】
頭部固定用支持体14は、生体センサモジュール7と、システム部マイコン2と、参照信号センサ9を支持し、計測対象者13の頭部に装着可能に構成される。後述する生体センサ4の生体電極5は頭部固定用支持体14に固定されており、計測対象者13が装着することにより、頭部の所定の位置に生体電極5が位置するように構成される。
【0017】
生体センサモジュール7は、本実施形態においては脳波センサモジュールである。
生体センサモジュール7は、複数の生体センサ(脳波センサ)4A、4B・・・4Nを有する。各生体センサ4A、4B・・・4Nは、基本構成は同じであり、これらを特に区別する必要がない場合は生体センサ4と称する。生体センサの数は1以上である。
【0018】
生体センサ4は、生体電極5と、基準電極6と、センサ制御部41と、検出生体信号取得部42と、ADC47と、AFE回路48と、を有する。生体センサモジュール7は、複数の生体電極5A、5B・・・5Nを有しており、各生体電極5A、5B・・・5Nに対応して生体センサ4A、4B・・・4Nが設けられている。各生体電極5A、5B・・・5Nを特に区別する必要がない場合は生体電極5と称する。
【0019】
基準電極6は、例えば、計測対象者13の耳に装着可能に構成される。生体センサモジュール7において基準電極6は1つ設けられ、複数の生体センサ4で1つの基準電極6を共有する。
検出部としての生体電極5は、計測対象者13の生体信号を取得する検出用電極である。生体電極5は、計測対象者13の身体部位に接触可能に構成される生体接触部である。頭部固定用支持体14を装着したときに、各生体電極5は、計測対象者13の頭部の異なる複数の身体部位に接触し、各身体部位の生体信号を取得する。各生体電極5と基準電極6との電位差から検出生体信号(検出脳波信号)が検出される。
各生体電極5と基準電極6との電位差であるアナログの検出生体信号はAFE回路48により信号処理された後、ADC47に入力されデジタル化されて出力用生体信号となる。出力用生体信号はシステム部マイコン2へ送信される。
生体センサ4では、システム部マイコン2から受信した指示に基づいてAFE回路48が制御される。この制御されたAFE回路48により信号処理された検出生体信号は、ADC47に入力されデジタル化される。生体センサ4の詳細については後述する。
【0020】
参照信号センサ9は、計測対象者13の体動を検出する。本実施形態では、参照信号センサとして3軸加速度センサを用いる例をあげる。参照信号センサ9としての3軸加速度センサは、頭部固定用支持体14を介して計測対象者13の頭部に装着されて、頭部の移動時の加速度を検出する。参照信号センサ9で検出される計測対象者13の体動情報を参照信号という。
【0021】
情報処理装置としてのシステム部マイコン2は、参照信号センサ9で検出された参照信号に基づいて、生体センサ4で検出される検出生体信号に計測対象者13の体動に起因する体動ノイズが現れることを予測する。そして、システム部マイコン2は、その予測結果に基づいて、各生体センサ4のAFE回路48を制御するための指示を各生体センサ4へ送信する。また、システム部マイコン2は、取得した参照信号と、各生体センサ4から送信された出力用生体信号を端末12に送信する。システム部マイコン2の詳細については後述する。
【0022】
端末12は、システム部マイコン2から送信された出力用生体信号を生体データとしてユーザに提示する。また、端末12は、システム部マイコン2から送信された参照信号のデータを、計測対象者13の体動情報としてユーザに提示する。システム部マイコン2と端末12とは、有線又は無線で接続されている。
【0023】
[各構成の詳細]
図2は、生体データ計測システムの機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、生体データ計測システム1は、システム部マイコン2と、データ入出力インターフェース(以下、データ入出力I/Fとする)3と、生体センサモジュール7と、参照信号センサ9と、データ入出力インターフェース(以下、データ入出力I/Fとする)11と、端末12とを有する。
データ入出力I/F3は、各種データをシステム部マイコン2と生体センサモジュール7との間で入出力するためのI/Fである。
データ入出力I/F11は、各種データをシステム部マイコン2と端末12との間で入出力するためのI/Fである。システム部マイコン2と端末12との通信は有線であってもよいし無線であってもよい。
【0024】
(システム部マイコンの構成)
情報処理装置としてのシステム部マイコン2は、メモリ8と、制御部としてのシステム制御部20と、参照信号取得部21と、体動ノイズ予測部22と、を有する。
【0025】
メモリ8に格納されているプログラムは、参照信号センサ9により検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサ4によって計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測するステップと、予測結果に基づいて、検出生体信号の信号処理を制御するステップとを含む処理をシステム部マイコン2に実行させるものである。
【0026】
参照信号取得部21は、参照信号センサ9で検出された参照信号を取得する。
体動ノイズ予測部22は、取得された参照信号に基づいて、計測対象者13の体動に起因する体動ノイズが、生体センサ4で検出される検出生体信号に、参照信号センサ9で体動が検出された時から時間的に遅れて付加されることを予測する。本実施形態では、体動ノイズ予測部22は、参照信号に基づいて、予測結果として体動ノイズレベルを判定する。
システム制御部20は、体動ノイズ予測部22での予測結果、すなわち判定された体動ノイズレベルに基づいて、生体センサ4のAFE回路48の制御に係る指示を生体センサ4へ送信する。当該指示内容は、体動ノイズレベルと紐づいて設定されている。
【0027】
上述の体動ノイズ予測部22での体動ノイズレベルの判定は、取得された参照信号値を用いた演算により参照信号変動値を求め、当該参照信号変動値と、予め用意されている体動ノイズレベルに紐づいた閾値とを比較して行う。本実施形態において、参照信号変動は加速度信号変動である。
【0028】
参照信号変動値は、次式を用いて求めることができる。すなわち、時間領域において、各参照信号それぞれにおいて、現時点の値とその前の時点の値との差分をとり、各参照信号それぞれの差分の二乗和平方根により、参照信号変動を求める。
【0029】
【数1】
【0030】
上記式において、Nは参照信号の種類の数を表す。本実施形態では、参照信号センサとして3軸加速度センサを用いる例を挙げているので、X軸加速度、Y軸加速度、Z軸加速度の3種類の参照信号が取得されるためN=3となる。
上記式において、r1はX軸加速度、r2はY軸加速度、r3はZ軸加速度を示す。また、上記式で算出される参照信号変動値を参照信号変動値1ということがある。
【0031】
また、上記式においては、平方根をとって参照信号変動を求める例をあげたが、次式のように平方根をとらずに、各参照信号それぞれの差分の二乗和により、参照信号変動値を求めてもよい。次式で算出される参照信号変動値を参照信号変動値2ということがある。
【0032】
【数2】
【0033】
システム部マイコン2は、「通常状態」と、制御状態としての「オフセット・ゲイン制御状態」の2状態管理を行う。デフォルト状態では、「通常状態」をとる。
オフセット・ゲイン制御状態とは、参照信号から計測対象者13の体動が検出され、検出生体信号に体動ノイズが付加されると予測される状態である。オフセット・ゲイン制御状態では、システム部マイコン2は、生体センサ4に対して、AFE回路48の制御において、検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値を変更する、又は、ゲインを変更するよう指示する。
通常状態とは、計測対象者13が安静にしており、参照信号センサ9にて計測対象者13による大きな体動が検出されず、検出生体信号に大きな体動ノイズが付加されないと予測される状態である。通常状態では、各生体センサ4のAFE回路48の制御においてオフセット制御閾値を変更する指示及びゲインを変更する指示は行われない。
各状態における生体データ計測システム1での動作については後述する。
【0034】
体動ノイズレベルの判定は、詳細には例えば次のように行うことができる。
上記式で算出した参照信号変動値が第1閾値よりも大きく第2閾値以下である場合、体動ノイズレベルAとする。参照信号変動値が第2閾値よりも大きい場合、体動ノイズレベルBとする。第2閾値は第1閾値よりも大きい値である。また、参照信号変動値が第1閾値以下である場合、体動ノイズレベルCとする。
本実施形態では、上記の各参照信号それぞれの差分の二乗和平方根の式を用いて算出した参照信号変動値(参照信号変動値1)と比較する第1閾値を0.07Gとし、第2閾値を1Gとして説明するが、数値はこれに限定されない。
【0035】
体動ノイズレベルA及び体動ノイズレベルBは、オフセット・ゲイン制御状態に対応する。体動ノイズレベルCは、通常状態に対応する。
システム部マイコン2は、算出した参照信号変動値が0.07Gより大きく1G以下である場合、体動ノイズレベルAと判定し、生体センサ4に対して、オフセット制御閾値を通常状態とは異なる値に設定する指示を送信する。より具体的には、システム部マイコン2は、オフセット制御閾値をダイナミックレンジの中心に寄せてオフセット制御閾値の範囲を狭める指示を送信する。
システム部マイコン2は、算出した参照信号変動値が1Gより大きい場合、体動ノイズレベルBと判定し、生体センサ4に対して、ゲインを通常状態とは異なる値に設定する指示を送信する。より具体的には、システム部マイコン2は、ゲインをさげる指示を送信する。
システム部マイコン2は、算出した参照信号変動値が0.07G以下である場合、体動ノイズレベルCと判定する。システム部マイコン2は、現時点で通常状態をとっている場合は、生体センサ4に対して、オフセット制御閾値及びゲインを変更する指示は行わない。
【0036】
また、システム部マイコン2は、通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行すると同時に、500msecのタイマを開始する。そして、500msecタイマ満了後、生体センサ4に対して、変更していたオフセット制御閾値又はゲインを通常状態に戻す復旧指示(以下、オフセット・ゲイン復旧指示ということがある。)を送信する。このように、本実施形態では、タイマを設定することにより、オフセット・ゲイン制御状態をとる期間を調整している。詳細については後述する。
【0037】
また、システム部マイコン2は、生体センサモジュール7の各生体センサ4から出力された出力用生体信号を受信し、データ入出力I/F11を介して端末12へ出力する。システム部マイコン2は、取得した参照信号のデータをデータ入出力I/F11を介して端末12へ出力する。
【0038】
本技術においては、体動ノイズの発生予測に用いる参照信号の変動値の計算は、時間領域における2点差分を用いるのみで複雑ではなく、計算による体動ノイズ発生予測のリアルタイム性が担保される。
【0039】
(生体センサの構成)
生体センサ4は、生体電極5と基準電極6との電位差である検出生体信号を信号処理しデジタル変換して出力用生体信号を出力する。生体センサ4では、システム部マイコン2から送信される指示に基づいてAFE回路48が制御される。生体センサ4では、検出生体信号は、制御されたAFE回路48により信号処理された後、デジタル化されて出力用生体信号として出力される。
【0040】
生体センサ4は、システム部マイコン2と同様に、「通常状態」と「オフセット・ゲイン制御状態」の2状態管理を行う。デフォルト状態では、「通常状態」をとる。
【0041】
図2に示すように、生体センサ4は、生体電極5と、基準電極6と、センサ部のマイコンであるセンサ制御部41と、検出生体信号取得部42と、オフセットデジタルアナログコンバータ(以下、オフセットDACという。)43と、オフセット制御部44と、アンプゲインレジスタ45と、プログラマブルゲインアンプ46と、ADC47と、を備える。
オフセットDAC43と、オフセット制御部44と、アンプゲインレジスタ45と、プログラマブルゲインアンプ46は、AFE回路48を構成する。
【0042】
検出生体信号取得部42は、生体電極5と基準電極6との電位差(検出生体信号)を取得する。
ADC47は、AFE回路48にてオフセット制御及びゲイン調整されたアナログの波形データである検出生体信号をデジタル変換する。本実施形態においては、例えば低bitの14bitADCを用いることができ、これにより、生体センサ4の小型化、低消費電力化が可能となる。14bitというように低bitADCで信号分解能を高めるとダイナミックレンジが縮小されてしまうが、オフセット制御によりダイナミックレンジにオフセットをかけられるため、オフセット制御可能範囲まで検出生体信号の取得可能範囲を広げることができる。
【0043】
センサ制御部41は、システム部マイコン2から送信された指示に基づいて、AFE回路48を制御する。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からオフセット制御閾値の範囲を通常状態と異ならせる、より具体的にはオフセット制御閾値を狭める指示を受信すると、オフセット・ゲイン制御状態をとる。センサ制御部41は、オフセット制御閾値の範囲を狭めるように閾値を更新する。センサ制御部41は、通常状態、オフセット・ゲイン制御状態の2状態において、検出生体信号を信号処理しデジタル変換したA/D値がオフセット制御閾値を超えた場合は、オフセットDAC43を使用してオフセット量を調整する。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からゲインを通常状態と異ならせる、より具体的にはゲインを下げる指示を受信すると、オフセット・ゲイン制御状態をとる。センサ制御部41は、AFE回路48のアンプゲインレジスタ45に、プログラマブルゲインアンプ46の増幅倍率をさげるように設定させる。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からオフセット・ゲイン復旧指示を受信すると、通常状態に移行し、変更していたオフセット制御閾値又はゲインを通常状態に戻すようAFE回路48を制御する。
AFE回路48で信号処理されたアナログの検出生体信号はADC47にてデジタル変換されて出力用生体信号となる。センサ制御部41は、出力用生体信号をデータ入出力I/F3を介してシステム部マイコン2へ送信する。
【0044】
オフセットDAC43は、オフセット制御時におけるオフセット量を調整する。
オフセット制御部44は、オフセット量をプログラマブルに調整可能とするものである。オフセット制御部44は、オフセットDAC43で設定されたオフセット量に基づいて検出生体信号をオフセットする。
【0045】
アンプゲインレジスタ45は、センサ制御部41からの指示に従って、プログラマブルゲインアンプ46のゲイン(増幅倍率)を設定する。
プログラマブルゲインアンプ46は、オフセット制御された検出生体信号を、アンプゲインレジスタ45により設定されたゲインに切り替えてゲイン調整し増幅する。これにより、ダイナミックレンジ幅を可変とすることができる。
【0046】
このように、生体センサ4では、システム部マイコン2にて予測された体動ノイズに基づくオフセット制御閾値又はゲインの変更指示に基づいて、検出生体信号の信号処理が制御される。
【0047】
[システム部マイコン及び生体センサの動作説明]
(オフセット制御)
オフセット制御について説明する。図3は、通常状態でのオフセット制御を説明するためのイメージ図である。図3において、折れ線グラフ30はサンプルの検出生体信号を信号処理しデジタル変換したA/D値の経時変化例を示す。横方向は時間軸を示し、縦軸はA/D値を示す。2本の一点鎖線31、31は、ADC47におけるダイナミックレンジを示す。1本の線長が長い破線33はダイナミックレンジの中心を示す。2本の線長が短い破線32、32はオフセット制御閾値の範囲を示す。
【0048】
センサ制御部41は、A/D値を逐次サンプリングし、A/D値とオフセット制御閾値を比較している。比較の結果、A/D値がオフセット制御閾値を超えた場合は、図3に示すように、超えた時のA/D値が破線33で示すダイナミックレンジの中心となるようにダイナミックレンジをオフセットする。このときのオフセット量を用いて検出生体信号のオフセット制御が行われる。図3に示す例では、プロットされた点15の時点で、A/D値がオフセット制御閾値を超えているので、点15がダイナミックレンジの中心となるようにダイナミックレンジをオフセットする。
【0049】
このように、オフセット制御閾値の範囲はダイナミックレンジよりも狭い範囲に設定される。オフセット制御閾値を超えた場合、検出生体信号にオフセットをかけてオフセット制御することによって、A/D値がADC47のダイナミックレンジを超えるという事象を回避することができ、取得する生体データの正確性を高めることが可能となる。
ここで、計測対象者13の大きな体動が生じていない場合、急激な生体信号の変化がないため、オフセット制御閾値を超えた時点でダイナミックレンジは超えていない。
【0050】
通常状態のAFE回路48での信号処理において、上記のオフセット制御に加え、検出生体信号は所定のゲインで増幅処理される。
【0051】
(オフセット・ゲイン制御状態での動作)
生体センサ4は、システム部マイコン2から、オフセット制御閾値変更指示又はゲイン変更指示を受信すると、通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行する。
【0052】
図4は、オフセット・ゲイン制御状態での生体データ計測システム1の動作の概略を説明する模式図である。
図4に示すように、参照信号センサ9で検出された参照信号38がシステム部マイコン2に入力される。図4に示す例では、参照信号38の破線の矩形34で囲まれた部分に計測対象者13の体動による急激な変化が表れている。
システム部マイコン2は、入力された参照信号38に基づいて、計測対象者13の体動に起因する体動ノイズが各生体センサ4で検出される検出生体信号に付加されることを予測する。本実施形態では、上記式を用いて、体動ノイズ予測結果として体動ノイズレベルを判定する。システム部マイコン2は、判定した体動ノイズレベルに紐づけされた信号処理に係る指示をセンサ制御部41へ送信する。
具体的には、システム部マイコン2は、体動ノイズレベルAでは、オフセット制御閾値を通常状態よりも狭める指示を生体センサ4のセンサ制御部41へ送信する。
システム部マイコン2は、体動ノイズレベルBでは、ゲインを下げる指示をセンサ制御部41へ送信する。
システム部マイコン2は、体動ノイズレベルCでは、オフセット制御閾値及びゲインを変更する指示はしない。
【0053】
生体センサ4は、センサ制御部41がシステム部マイコン2からオフセット制御閾値又はゲインの変更の指示を受信すると、通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行する。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からの指示に従ってAFE回路48を制御する。
より具体的には、センサ制御部41は、オフセット制御閾値を狭める変更指示に基づいて、オフセット制御閾値を変更し、変更したオフセット制御閾値を用いてオフセット制御を行うようにAFE回路48を制御する。この場合、AFE回路48において、検出生体信号は通常状態で設定されるゲインにて増幅処理される。
センサ制御部41は、ゲインを下げる変更指示に基づいてゲインを変更し、変更したゲインにて信号処理を行うようにAFE回路48を制御する。この場合、AFE回路48において、検出生体信号は、通常状態で設定されるオフセット制御閾値に基づいてオフセット制御される。
【0054】
図4に示すように、生体センサ4で検出された検出生体信号40は、設定されたオフセット制御閾値及びゲインに基づいてAFE回路48で信号処理される。これにより、図4に示すように、破線の矩形35で囲んだ部分には体動ノイズが表れているが、AFE回路48で信号処理された処理後の検出生体信号39はADC47のダイナミックレンジ37内におさめることができる。ADC47に入力された検出生体信号39はADC47にてデジタル変換されて、センサ制御部41へ出力される。
【0055】
(オフセット制御閾値の変更)
オフセット制御閾値の変更について説明する。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からオフセット制御閾値の変更指示を受信すると、オフセット制御閾値の範囲を狭めるように閾値を更新する。
図5(A)及び(B)は体動が生じた際のオフセット制御について説明するイメージ図である。図5(A)は、オフセット制御閾値を変更しない場合の図であり、図5(B)は本技術に係る予測した体動ノイズに基づいてオフセット制御閾値を変更した場合の図である。
図5において、折れ線グラフ30はサンプルのA/D値の経時変化を示す。2本の一点鎖線31、31は、ADC47のダイナミックレンジを示す。2本の破線32、32はオフセット制御閾値の範囲を示す。
【0056】
上記で図3を用いて説明したように、オフセット制御は通常状態でも行われる。通常状態では、急激なA/D値の変化がないため、A/D値がオフセット制御閾値の範囲を超えた時点ではダイナミックレンジは超えておらず、オフセット制御閾値を超えた時を基準にしてオフセット制御を行っても、A/D値がダイナミックレンジから超えることが回避される。このように、体動のない通常状態においては、オフセット制御によりA/D値のダイナミックレンジ超えが回避される。
【0057】
一方、体動が生じて体動ノイズが付加してA/D値に急激な変化が現れる場合、図5(A)に示す折れ線グラフ30の点17のように、オフセット制御閾値の範囲を超えた時点でダイナミックレンジを超えてしまう場合がある。この場合、オフセット制御閾値を超えた時を基準にしてオフセット制御を行っても、既にダイナミックレンジを超えてしまっている箇所があるため、その箇所の生体データを取得することできない。
【0058】
これに対し、本実施形態では、参照信号から体動ノイズが検出生体信号に付加することを事前に予測することができるので、体動ノイズが付加されることが予測された場合、オフセット制御閾値の範囲を変更する指示がなされる。
具体的には、図5(B)に示すように、オフセット制御閾値をダイナミックレンジの中心に寄せるように、オフセット制御閾値の範囲を通常状態よりも狭めるよう指示がなされる。
【0059】
図5(A)に示すように、オフセット制御閾値の変更がない場合、破線33で示すダイナミックレンジの中心から+DR(-DR)までを100%としたときに、ダイナミックレンジの中心からみて例えば85%の位置に+オフセット制御閾値(-オフセット制御閾値)が位置するように、オフセット制御閾値が設定される。
これに対し、図5(B)に示すように、オフセット制御閾値の変更がある場合、ダイナミックレンジの中心から+DR(-DR)までを100%としたときに、ダイナミックレンジの中心からみて例えば20%の位置に+オフセット制御閾値(-オフセット制御閾値)が位置するように、オフセット制御閾値が設定される。
このように、本実施形態では、オフセット制御閾値を、通常状態では85%に設定し、オフセット・ゲイン制御状態では20%に設定している。
【0060】
図5(B)に示すように、オフセット制御閾値の範囲が狭まるように変更されることにより、点17より前の点16の時点でオフセット制御閾値を超えるため、点16のサンプルの検出生体信号がダイナミックレンジの中心となるようにオフセット制御が行われる。図5(B)に示すように、点16はダイナミックレンジを超えていない。これにより、次の点17のサンプルのA/D値がダイナミックレンジを超えるリスクが低減される。
このように、検出生体信号に体動ノイズが現れる前に、オフセット制御閾値をダイナミックレンジの中心に寄せるように変更することにより、オフセット制御の発動率が高まる。これにより、体動ノイズが付加して検出生体信号に急激な変化が現れる場合であっても、信号処理後の検出生体信号がダイナミックレンジ外となる可能性を低くすることができる。したがって、取得する生体データの正確性を高めることが可能となる。
【0061】
オフセット制御閾値を変更した時点から500msec経過後の時点までがオフセット・ゲイン制御状態となる。500msec経過後、オフセット・ゲイン制御状態から通常状態に移行すると、オフセット・ゲイン制御状態のときよりもオフセット制御閾値の範囲が広がるように設定される。
【0062】
(ゲイン変更)
ゲイン変更について説明する。
センサ制御部41は、システム部マイコン2からゲイン変更指示を受信すると、通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行し、ゲイン(プログラマブルゲイン)を下げるようにAFE回路48を制御する。
図6(A)は通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行してゲインを下げる例を示すイメージ図である。
図6(B)はオフセット・ゲイン制御状態から通常状態に移行してゲインを元に戻す、すなわちゲインを上げる例を示すイメージ図である。
図6(C)は、本実施形態における生体センサ4での動作を説明するイメージ図である。図6(C)では、体動ノイズの付加が予測されてゲイン変更が行われて通常状態からオフセット・ゲイン制御状態に移行した後、オフセット・ゲイン制御状態に移行してから500msec経過した後に通常状態に移行する例を示す。折れ線グラフ30はサンプルのA/D値の経時変化を示す。
【0063】
図6(A)及び(C)に示すように、ゲイン(増幅倍率)を下げると、増幅の少ない検出生体信号がADC47に入力される。このため、ADC47のダイナミックレンジに対して、ゆとりをもって検出生体信号が入力されることになり、ダイナミックレンジが拡大することになる。これにより、体動ノイズが付加して検出生体信号に急激な変化が現れる場合であっても、検出生体信号がADC47のダイナミックレンジ外となることを回避することができる。図6(C)に示す例では、点18及び19のサンプルにおいて体動ノイズが含まれている。本実施形態では、参照信号に基づいて検出生体信号に体動ノイズが付加されることを事前に予測することができるので、点18の前の点53の時点、すなわち体動ノイズが検出生体信号に現れる前の時点でゲインを変更することができる。これにより、点18及び19の時点で検出生体信号がADC47のダイナミックレンジ外となることを回避することができる。
【0064】
図6(C)に示すように、ゲイン変更した時点50から500msec経過後の時点51までがオフセット・ゲイン制御状態となる。図6(B)及び(C)に示すように、500msec経過後、オフセット・ゲイン制御状態から通常状態に移行すると、オフセット・ゲイン制御状態のときよりもゲインを上げるように設定される。これにより、検出生体信号の増幅倍率が高くなり、オフセット・ゲイン制御状態のときよりもダイナミックレンジが縮小される。
【0065】
このように、ゲインを下げることで、検出生体信号がダイナミックレンジ外となることを回避することができる。
【0066】
(オフセット制御閾値の変更とゲインの変更)
本実施形態では、体動が大きい場合にゲイン変更を行い、体動が小さい場合にオフセット制御閾値変更を行う例をあげている。
これは、プログラマブルゲインを下げるゲイン変更では生体信号分解能が粗くなるためであり、本実施形態では、オフセット制御閾値変更では対応しきれない体動ノイズであることが予測される場合においてのみゲイン変更を行うように構成している。
例えばADC47に14bitのADCを用いる場合、図6(A)に示すようにゲインが下げられ、ダイナミックレンジが拡大すると、この範囲を14bitのADCで表現することになり、1LSBあたりの信号分解能が粗くなる。一方、図6(B)に示すようにゲインが上げられ、ダイナミックレンジが縮小すると、この範囲を14bitのADCで表現することになり、1LSBあたりの信号分解能が細かくなる。このため、本実施形態では、オフセット制御閾値変更では対応しきれない体動ノイズであることが予測される場合においてのみゲイン変更を行うように構成している。
【0067】
以上のように、本実施形態では、参照信号センサ9で検出された参照信号を基に、生体センサ4で検出された検出生体信号に体動ノイズが付加されることを事前に予測することができる。したがって、体動ノイズが現れる検出生体信号を、体動ノイズレベルに基づいて事前に設定されたオフセット制御閾値、増幅倍率で信号処理してからADC47に入力させることができる。これにより、信号処理後の検出生体信号がADC47のダイナミックレンジ外となることが回避され易くなる。したがって、取得する生体データの正確性を高めることが可能となる。
【0068】
(タイマ及びオフセット・ゲイン制御状態から通常状態への移行)
上記のように、参照信号から読み取れる計測対象者の体動が発生した時間から遅れて当該体動に起因する体動ノイズが、生体センサで検出される検出生体信号に現れる。本実施形態では、この遅れは、多く見積もって400msecである。生体データ計測システム1では、体動ノイズ予測部22により体動ノイズレベルに紐づいた閾値超えを検出した後、多少の時間的余裕を持たせ500msecの期間は検出生体信号に急変動が発生すると予測し、タイマを500msecに設定している。システム部マイコン2は、オフセット・ゲイン制御状態移行から500msec経過後に、通常状態に復旧する指示を生体センサ4に送信する。通常状態に復旧する指示は、オフセット制御閾値を通常状態のオフセット制御閾値に戻すオフセット制御閾値復旧指示、或いは、ゲインを通常状態のゲインに戻すゲイン復旧指示である。以下、図7を用いて説明する。
【0069】
図7は、オフセット・ゲイン制御状態から通常状態に移行する際の生体データ計測システム1の動作の概略を説明する模式図である。
図7に示すように、参照信号センサ9で検出された参照信号38がシステム部マイコン2に入力される。システム部マイコン2は、オフセット・ゲイン制御状態に移行すると同時に、500msecのタイマを開始する。システム部マイコン2は、タイマにより500msec経過を検知すると、センサ制御部41に対して、オフセット制御閾値復旧指示、或いは、ゲイン復旧指示を送信する。
センサ制御部41は、オフセット制御閾値復旧指示又はゲイン復旧指示を受信した後、通常状態に移行する。センサ制御部41は、システム部マイコン2からの指示に従ってAFE回路48を制御する。より具体的には、センサ制御部41は、オフセット制御閾値を元の値に戻す、又は、ゲインを元の値に戻すように、AFE回路48を制御する。
生体センサ4で検出された検出生体信号40は、設定されたオフセット制御閾値及びゲインに基づいてAFE回路48で信号処理され、ADC47にてデジタル変換されて、センサ制御部41へ出力される。
【0070】
このように、オフセット・ゲイン制御状態に移行してから所定時間経過後に通常状態に戻す復旧指示を行うことにより、消費電力の増大を抑制し、生体信号分解能の劣化を回避することができる。
すなわち、タイマを設けることにより、オフセット・ゲイン制御状態の期間を調整することができ、主に体動ノイズが検出生体信号に付加される状況下でオフセット制御閾値の変更及びゲインの変更が行われるように調整することができる。これにより、オフセット制御閾値を狭める変更によってオフセット制御が頻繁に行われて消費電力は増大するが、タイマを設けることにより、消費電力が増大する期間を制限することができ、体動ノイズがないと予測される期間での消費電力の増大を抑制することができる。また、ゲインを下げる変更によって生体信号分解能劣化が生じるが、タイマを設けることにより、生体信号分解能が劣化する期間を制限することができ、体動ノイズがないと予測される期間での生体信号分解能の劣化を回避することができる。
【0071】
システム部マイコン2は、生体センサ4に対し、オフセット制御閾値復旧の指示、或いは、ゲイン復旧指示を送信した後、通常状態に移行し、体動ノイズ予測部22による参照信号変動の観測を再開する。
オフセット・ゲイン制御状態の期間も参照信号変動の観測は継続しており、仮にオフセット・ゲイン制御状態の期間に閾値を超える参照信号変動が観測された場合は、そこから新たに500msecのタイマを開始し直す。"
【0072】
生体センサ4は、オフセット制御閾値復旧指示、或いは、ゲイン復旧指示を受信した後、通常状態に移行し、オフセット制御閾値を元の値に戻し、或いは、プログラマブルゲインを元の値に戻し、引き続き検出生体信号の取得、信号処理及びデジタル変換処理を行う。
【0073】
[情報処理方法]
(生体データ計測システムにおける処理の流れ)
図8は、生体データ計測システム1における生体センサ4とシステム部マイコン2と端末12とのやり取りを示すシーケンス図である。
図8において、白抜きの矢印を境に左側は通常状態でのシーケンス図を示し、右側はオフセット・ゲイン制御状態でのシーケンス図を示す。白抜きの矢印は異なる状態への移行を示す。
図面左側の通常状態のシーケンス図において、上側は体動ノイズレベル判定において参照信号変動値が第1閾値以下である場合の動作を示し、下側は参照信号変動値が第1閾値又は第2閾値より大きい場合の動作を示す。図面右側のオフセット・ゲイン制御状態のシーケンス図において、上側は、オフセット・ゲイン制御状態に移行してから500msec経過するまでの間に行われる動作を示し、下側は、オフセット・ゲイン制御状態に移行してから500msec経過後に行われる動作を示す。
【0074】
図8の通常状態でのシーケンス図の上側の図に示すように、生体センサ4は検出生体信号を取得する(S1)。生体センサ4は、取得した検出生体信号を信号処理しデジタル変換して出力用生体信号(生体データ)とし、システム部マイコン2に送信する。
システム部マイコン2は参照信号を取得し(S2)、当該参照信号を用いて参照信号変動値と体動ノイズレベルに紐づいた閾値とを比較し、体動ノイズレベルを判定する(S3)。ここでは、参照信号変動値(diff)が第1閾値(TH1)以下であるので、体動ノイズレベルC、すなわち通常状態と判定する。通常状態では、システム部マイコン2は、出力用生体信号を生体センサ4から受信すると、生体センサ4に対して受信確認の応答(ACK)をする。
システム部マイコン2は、端末12に対して、出力用生体信号及び参照信号を送信する。
このように、システム部マイコン2によって参照信号の変動が判定され、参照信号変動値が第1閾値以下の場合、オフセット制御閾値変更及びゲイン変更の指示は行われない。
【0075】
図8の通常状態でのシーケンス図の下側の図に示すように、生体センサ4は検出生体信号を取得する(S4)。生体センサ4は、取得した検出生体信号を信号処理しデジタル変換して出力用生体信号(生体データ)とし、システム部マイコン2に送信する。
システム部マイコン2は参照信号を取得し(S5)、当該参照信号を用いて参照信号変動値と体動ノイズレベルに紐づいた閾値とを比較し、体動ノイズレベルを判定する(S6)。ここでは、参照信号変動値(diff)が第1閾値(TH1)又は第2閾値(TH2)より大きいので、体動ノイズレベルA又はB、すなわちオフセット・ゲイン制御状態と判定する。オフセット・ゲイン制御状態では、システム部マイコン2は、出力用生体信号を受信すると、生体センサ4に対して、オフセット制御閾値を変更する、又は、ゲインを変更する指示を送信する。
生体センサ4は、この指示に基づいて、オフセット・ゲイン制御状態に移行し、オフセット制御閾値を変更、又は、ゲインを変更する(S7)。
システム部マイコン2は、端末12に対して、出力用生体信号及び参照信号を送信する。オフセット・ゲイン制御状態に移行すると、図8の右側のシーケンス図に沿って処理が行われる。
このように、システム部マイコン2によって参照信号の変動が判定され、参照信号変動値が第1閾値又は第2閾値よりも大きい場合、オフセット制御閾値変更又はゲイン変更の指示が行われる。
【0076】
図8のオフセット・ゲイン制御状態でのシーケンス図の上側の図に示すように、生体センサ4及びシステム部マイコン2は、オフセット・ゲイン制御状態に移行し、オフセット制御閾値を変更、又は、ゲインを変更する(S8)。生体センサ4は検出生体信号を取得する(S9)。生体センサ4は、取得した検出生体信号を信号処理しデジタル変換して出力用生体信号とし、システム部マイコン2に送信する。
システム部マイコン2は、参照信号を取得する(S10)。システム部マイコン2は、出力用生体信号を受信すると、生体センサ4に対して受信確認の応答(ACK)をする。システム部マイコン2は、端末12に対して、出力用生体信号及び参照信号を送信する。これらの一連の処理は、オフセット・ゲイン制御状態に移行してから500msec経過するまで行われる。
【0077】
図8のオフセット・ゲイン制御状態でのシーケンス図の下側の図に示すように、オフセット・ゲイン制御状態移行から500msec経過すると、生体センサ4は検出生体信号を取得する(S11)。生体センサ4は、取得した検出生体信号を信号処理しデジタル変換して出力用生体信号とし、システム部マイコン2に送信する。
システム部マイコン2は参照信号を取得する(S12)。システム部マイコン2は、生体センサ4に対して、オフセット制御閾値の復旧指示、又は、ゲインの復旧指示を送信する。
生体センサ4は、復旧指示を受信し、オフセット制御閾値を元の値に戻す、或いは、プログラマブルゲインを元の値に戻す(S13)。これにより、生体センサ4及びシステム部マイコン2において、オフセット・ゲイン制御状態が解除され(S14)、通常状態に移行する。
このように、500msec満了時にオフセット制御閾値の復旧指示、又は、ゲインの復旧指示が行われる。オフセット・ゲイン制御状態が解除され、通常状態に移行する。
【0078】
(生体センサでの情報処理方法)
図9は、生体センサ4での情報処理方法を説明する制御フロー図である。
図9に示すように、初期化が行われた後(S20)、検出生体信号取得部42により検出生体信号が取得される(S21)。検出生体信号は、例えばサンプリング周波数256Hzでサンプリングされる。サンプルカウンタにより検出生体信号が何回読みだされたかがカウントされる(S22)。
取得された検出生体信号は、AFE回路48で信号処理された後、ADC47にてデジタル変換される。センサ制御部41により、デジタル変換されたA/D値とオフセット制御閾値が比較され、A/D値がオフセット制御閾値を超えているか否かが判定される(S23)。超えていると判定されると(YES)、オフセット制御が行われ(S24)、S25に進む。超えていないと判定されると(NO)、S25に進む。
【0079】
S25では、センサ制御部41により、生体センサ4がオフセット・ゲイン制御状態中か否かが判定される。
S25でオフセット・ゲイン制御状態中であると判定されると(YES)、オフセット制御閾値復旧指示、又は、ゲイン復旧指示を受信しているか否かが判定される(S26)。S26で受信していると判定されると(YES)、センサ制御部41により、オフセット制御閾値又はゲインを通常状態に戻すようにAFE回路48が制御され(S27)、通常状態に移行する(S28)。
【0080】
S25でオフセット・ゲイン制御状態中でないと判定されると(NO)、オフセット制御閾値変更指示、又は、ゲイン変更指示を受信しているか否かが判定される(S33)。受信していないと判定されると(NO)、S29に進む。受信していると判定されると(YES)、センサ制御部41により、オフセット制御閾値を変更する、又は、ゲインを変更するようにAFE回路48が制御され(S34)、オフセット・ゲイン制御状態に移行し(S35)、S29に進む。
【0081】
S29では、サンプルカウンタ値が所定の数値を超えているか否かが判定される(S29)。所定の数値を超えていないと判定されると(NO)、S21に戻って一連の処理が繰り返される。超えていると判定されると(YES)、サンプルカウンタ値が0に設定される(S30)。次に、センサ制御部41により、システム部マイコン2に対して出力用生体信号(生体データ)が送信される(S31)。次に、センサ制御部41により、オフセット制御閾値又はゲインの変更指示、或いは、オフセット制御閾値又はゲインの復旧指示、或いは、ACKが受信され(S32)、S21に戻って処理が繰り返される。
【0082】
(システム部マイコンでの情報処理方法)
図10は、システム部マイコン2での情報処理方法を説明する制御フロー図である。
図10に示すように、初期化が行われた後(S40)、参照信号取得部21により参照信号が取得される(S41)。
次に、体動ノイズ予測部22により、参照信号を基に、上記の参照信号それぞれの差分の二乗和平方根の式を用いて参照信号変動値(参照信号変動値)が算出される(S42)。
次に、システム制御部20により、システム部マイコン2がオフセット・ゲイン制御状態であるか否かが判定される(S43)。
S43でオフセット・ゲイン制御状態であると判定されると(YES)、500msタイマが満了したか否かが判定される(S44)。システム制御部20により、500msタイマが満了していると判定されると(YES)、オフセット制御閾値又はゲインの復旧指示が確定され(S45)、S46に進む。S44で500msタイマが満了していないと判定されると(NO)、S46に進む。
S43でオフセット・ゲイン制御状態でないと判定されると(NO)、体動ノイズ予測部22により、算出された参照信号変動値が第1閾値(TH1)よりも大きいか否かが判定される(S51)。S51で大きいと判定されると(YES)、オフセット制御閾値又はゲインの変更指示が確定される(S52)。S51で参照信号変動値が第1閾値以下であると判定されると(NO)、S46に進む。
【0083】
S46では、システム制御部20により、出力用生体信号が受信されているか否かが判定される。受信されていないと判定されるとS41に戻って処理が繰り返される。受信されていると判定されると、出力用生体信号が取得される(S47)。
次に、オフセット制御閾値又はゲインの復旧指示が確定されているか否かが判定される(S48)。S48で確定されていると判定されると、オフセット制御閾値又はゲインの復旧指示が生体センサ4に送信され(S49)、通常状態に移行し(S50)、S58に進む。
S48で確定されていないと判定されると、オフセット制御閾値又はゲインの変更指示が確定されているか否かが判定される(S53)。S53で確定されていないと判定されると(NO)、ACKが生体センサ4に送信され(S57)、S58に進む。S53で確定されていると判定されると(YES)、オフセット制御閾値又はゲインの変更指示が生体センサ4に送信される(S54)。次に、500msタイマが開始され(S55)、システム部マイコン2はオフセット・ゲイン制御状態に移行し、S58に進む。
S58では、システム制御部20により端末12へ出力用生体信号(生体データ)及び参照信号(参照信号データ)が送信される。次に、S41に戻って処理が繰り返される。
【0084】
[本実施形態の追加説明]
以下、本実施形態の説明を補足する。
(参照信号センサでの体動の検出から時間的に遅れて体動ノイズが検出生体信号に現れることの説明)
図11及び図12を用いて、参照信号センサでの体動の検出から時間的に遅れて体動ノイズが検出生体信号に現れることについて説明する。図11(A)~(D)において横軸は時間軸を示し、図11(A)~(D)は同じ時間軸を有し対応している。
図11(A)は生体センサ4から検出された生体信号(脳波信号)の一例であり、サンプル周期256Hzでサンプリングしたグラフである。
図11(B)は参照信号センサ(3軸加速度センサ)9から検出された参照信号(加速度)を用いて、上記の参照信号それぞれの差分の二乗和平方根の式により算出した参照信号変動値(加速度変動値)のグラフである。
図11(C)は、図11(A)を基に、生体信号値変動(脳波値変動)が5.1mV以上の急激な変動の箇所を抽出したものである。図11(C)に示す例では、急変動を示す4つのピークが抽出されている。
図11(D)は、図11(B)を基に、参照信号変動値(加速度変動値)が0.07G以上の急激な変動の箇所を抽出したものである。図11(D)に示す例では、急変動を示す4つのピークが抽出されている。
【0085】
図11(C)及び(D)に示すように、時間的に、急激な加速度変動の出現と急激な脳波値変動の出現とに相関関係があることが読み取れ、加速度変動の出現から僅かに遅れて脳波変動が出現することが読み取れる。
図12(A)及び(B)は、それぞれ、図11(C)及び(D)を部分的に拡大したものである。図12(A)及び(B)に示すように、急激な加速度変動が出現してから、最大400msec遅れて脳波が急変動することが読み取れる。
このように、参照信号センサの検出結果から読み取れる計測対象者の体動が発生した時間から遅れて当該体動に起因する体動ノイズが検出生体信号に現れることが読み取れる。
【0086】
(オフセット制御閾値変更の具体例)
図13は、オフセット制御閾値変更によるダイナミックレンジを超える回数の変化例を示す図である。上記したように、オフセット制御は、オフセット制御閾値を超えることにより発動される。図13(A)~(D)それぞれにおいて、図上、左側に位置する縦方向に延在する直線はダイナミックレンジ37を示し、破線32はオフセット制御閾値を示し、直線の実線33はダイナミックレンジ37の中心を示す。
【0087】
図13(A)は、脳波信号例と、オフセット制御閾値が85%に設定されて信号処理された場合のダイナミックレンジを超えたサンプルの回数、信号可用率、オフセット制御回数を示す。信号可用率とは、ダイナミックレンジ37を超えたサンプルの±1秒分のサンプルは正確性に欠けるサンプルとして扱い、全サンプル数から正確性に欠けるサンプルを減算したサンプル数を全サンプル数で除算した割合を示す。信号可用率が高いほどダイナミックレンジ37を超える回数が少ないことを示す。
図13(B)~(D)は、それぞれ、脳波信号例と、オフセット制御閾値が50%、20%、20%に設定されて信号処理された場合のダイナミックレンジ37を超えたサンプルの回数、信号可用率、オフセット制御回数を示す。
図13(A)~(C)では、脳波を256Hzでサンプリングした結果を示し、図13(D)は512Hzでサンプリングした結果を示す。
【0088】
図13(A)~(D)に示すように、オフセット制御閾値が実線33で示すダイナミックレンジの中心に近づくほど、すなわち、オフセット制御閾値を示す破線32、32の範囲が狭まるほど、ダイナミックレンジ超え回数が減少し、信号可用率が高くなっていくことが読み取れる。すなわち、取得した生体データの正確性を高めることができる。
また、図13(C)及び(D)に示すように、サンプリング周波数を2倍に増やすことで、ダイナミックレンジ超え回数が減少し、信号可用率が高くなっていることが読み取れる。これは、体動による脳波信号の急変動を細かくサンプリングすることで急変動幅を小さく刻むことができ、その都度オフセット制御をかけることができるためであり、ダイナミックレンジ超えをより抑制することができる。
このように、体動ノイズが付加することを事前に予測してオフセット制御閾値をダイナミックレンジの中心に近づけてオフセット制御閾値の範囲を狭めるように設定することにより、ダイナミックレンジ超えの発生を抑制することができる。
尚、上述の実施形態においては、サンプリング周波数を256Hzとし、オフセット制御閾値を通常状態では85%、オフセット・ゲイン制御状態では20%とする例をあげたが、これに限定されない。
【0089】
ここで、オフセット制御回数は、設定するオフセット制御閾値がダイナミックレンジの中心に近づくほど増大する。オフセット制御回数が増えることにより消費電力が増大する。
これに対し、本実施形態では、上記したように、タイマを用いて所定の時間経過後にオフセット・ゲイン制御状態を通常状態に復旧するように構成している。これにより、検出生体信号に体動ノイズが付加される状況下でのみオフセット制御閾値の変更が行なわれ、体動がない期間においてはオフセット制御閾値の変更が行われない。したがって、体動がない期間においてのオフセット制御回数が抑制され、消費電力の増加が抑制される。
【0090】
(他の構成例)
本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0091】
例えば、上述の実施形態では、生体センサとして脳波信号を検出する脳波センサを例にあげたが、これに限定されない。例えば、生体センサとしての脈波センサ、血流センサ、発汗センサに、本技術を適用することができる。これらの生体センサにおいても、上述の実施形態と同様に、参照信号センサで観測される計測対象者の体動が発生した時から遅れて、生体センサで検出される信号に当該体動による体動ノイズが現れる。従って、参照信号センサの検出結果に基づいて、検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測することができ、事前に検出生体信号の信号処理に係るオフセット制御閾値やゲインを制御することができる。これにより、体動ノイズが含まれる検出生体信号が、ADCのダイナミックレンジ外となることが抑制され、取得する生体データの正確性を高めることが可能となる。
【0092】
脈波センサは、LED(Light-Emitting Diode)などの光源から検出対象である生体に対して光を照射し、フォトダイオード等の受光素子により検出対象の生体から反射される光の強度を示す信号を得ることによって、検出対象の生体の脈波を検出する。検出対象の生体の血管内を流れる血液中のヘモグロビンは、光を吸収する特性を有するので、フォトダイオードにより反射する光を観測することによって、検出対象の脈波が検出される。
【0093】
血流センサは、血流量を計測する光学式のセンサである。血流センサは、光(例えばレーザ光や赤外光)を計測対象者の身体部位に照射し、その反射光から血流量を計測する。例えば、光を額に照射し、その反射光から大脳の血流量を計測することができる。血流センサは、発光素子(例えばレーザーダイオード)と受光素子(例えばフォトダイオード)とを有する。血流センサは複数の受光素子を有しても良い。血流センサは複数の発光素子を有しても良い。
【0094】
発汗センサは、皮膚の汗腺(例えば、エクリン腺)から分泌される汗を検知するセンサである。発汗によって、皮膚は、電気が通りやすい状態となる。したがって、皮膚の電気活動状態(Electro Dermal Activity :EDA)を取得することにより、発汗を検知することができる。発汗センサでは、皮膚に微弱な電流を流して電気抵抗値を計測し、当該電気抵抗値の逆数として皮膚コンダクタンス(Skin Conductance Activity :SCA)を算出し得る。SCAが発汗データとなる。尚、発汗センサは、SCAを算出するものに限られず、皮膚電位を算出するものであってもよい。
【0095】
また、例えば、上述の実施形態の生体データ計測システムでは、脳波を検出する1種類の生体センサを用いて生体データを取得する例をあげたが、種類の異なる生体センサを複数用いてもよい。この場合、種類の異なる生体センサ毎に、体動ノイズレベル判定に用いる閾値は適宜設定される。
【0096】
また、例えば、上述の実施形態においては、参照信号センサとして3軸加速度センサを用いる例をあげたが、3軸ジャイロセンサ、又は、生体電極5に付属して設けられる圧力センサ(以下、生体接触部圧力センサと称する。)を用いてもよい。
3軸ジャイロセンサは、角速度(回転速度)を検出する。3軸ジャイロセンサを用いる場合においても、参照信号変動値の算出に上記の各式を用いることができる。この場合、式において、N=3、r1はX軸角速度、r2はY軸角速度、r3はZ軸角速度を示す。
生体接触部圧力センサは、計測対象者の皮膚にかかる応力を検出する。生体接触部圧力センサとしては、例えば、ピエゾセンサ等の力センサ、ひずみゲージ等の歪みセンサ、圧電フィルムの変形を検出するセンサ等を用いることができる。生体接触部圧力センサを用いる場合においても、参照信号変動値の算出に上記の各式を用いることができる。この場合、式において、Nは生体接触部圧力センサの数を示す。
【0097】
また、複数の種類の異なる参照信号センサを用いて体動情報を得るように構成してもよい。例えば、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、生体接触部圧力センサから選んだ2つ又は3つ全てを、参照信号センサとして用いてもよい。複数の種類の異なる参照信号センサを用いる場合、種類の異なるセンサ毎に参照信号変動を求めて、その結果に基づいて、体動ノイズレベル等の体動情報を得ることができる。
【0098】
また、複数の種類の異なる生体センサ毎に、種類の異なる参照信号センサを用いてもよい。例えば、1つの生体データ計測システムにおいて、生体センサとして脈波センサと脳波センサを用い、脳波センサに対しては参照信号センサとして3軸加速度センサを用い、脈波センサに対しては生体接触部圧力センサを用いてもよい。
【0099】
参照信号センサとして生体接触部圧力センサを用いる場合、当該生体接触部圧力センサを、計測対象者の異なる複数の身体部位に接触して各身体部位の検出生体信号を取得する複数の検出部(上記実施形態においては生体電極に相当する。)それぞれに設けることができる。これにより、体動ノイズの発生予測を生体センサ単位で判別することができ、生体センサ単位でオフセット制御閾値又はゲインの変更指示を行うことができる。
尚、複数の検出部は、同一種類の生体センサに対応していてもよいし、種類の異なる複数の生体センサに対応していてもよい。例えば、1つの生体データ計測システムにおいて、生体センサとして脈波センサと脳波センサを用い、脈波センサに対応する検出部は手首に接触するように設け、脳波センサに対応する検出部は頭部に接触するように設け、各検出部に参照信号センサとしての生体接触部圧力センサを設けることができる。
【0100】
また、例えば、上述の実施形態においては、オフセット・ゲイン制御状態では、体動ノイズレベルに応じて、オフセット制御閾値変更及びゲイン変更の一方を実行する例をあげたが、オフセット制御閾値変更とゲイン変更の双方を行ってもよい。
また、例えば、オフセット・ゲイン制御状態において、体動ノイズレベルに応じて、オフセット制御閾値変更のみ、ゲイン変更のみ、オフセット制御閾値及びゲインの双方を変更、の3段階にわけて信号制御するようにしてもよい。
また、例えば、制御状態では、ゲインを下げる変更を行うように構成してもよい。この場合、タイマを設けることにより制御状態の期間を調整することができるので、信号分解能が粗くなる期間を短く調整することが可能である。
また、例えば、制御状態では、オフセット制御閾値を狭める変更を行うように構成してもよい。この場合、タイマを設けることにより制御状態の期間を調整することができるので、オフセット制御回数の増加に伴う消費電力の増加の期間を短く調整することが可能である。
【0101】
また、上述の実施形態においては、システム制御部20と体動ノイズ予測部22を有するシステム部マイコン2が頭部固定用支持体14に搭載する例をあげたが、これに限定されない。例えば、システム制御部20と体動ノイズ予測部22をクラウドサーバ等の頭部固定用支持体14とは別体の情報処理装置に設けても良い。また、例えば、生体センサ4のセンサ制御部41及びAFE回路48をクラウドサーバ等の頭部固定用支持体14とは別体の情報処理装置やシステム部マイコンに設けても良い。また、センサ制御部41、AFE回路48、システム制御部20及び体動ノイズ予測部22を、クラウドサーバ等の頭部固定用支持体14とは別体の情報処理装置に設けても良い。
【0102】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に上記計測対象者の体動に起因する体動ノイズが付加されることを予測する体動ノイズ予測部と、
上記体動ノイズ予測部での予測結果に基づいて上記検出生体信号の信号処理を制御する制御部
を具備する情報処理装置。
(2)
上記(1)に記載の情報処理装置であって、
上記制御部は、上記予測結果に基づいて、上記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を変更して、上記検出生体信号を信号処理する
情報処理装置。
(3)
上記(1)又は(2)に記載の情報処理装置であって、
上記体動ノイズ予測部は、上記参照信号の変動値と予め用意されている閾値とを比較して、上記検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測する
情報処理装置。
(4)
上記(3)に記載の情報処理装置であって、
上記体動ノイズ予測部は、上記参照信号の変動値と予め用意されている閾値との比較結果から体動ノイズレベルを判定し、
上記制御部は、上記体動レベルに基づいて、上記オフセット制御閾値及び上記ゲインのうち少なくとも一方を変更する
情報処理装置。
(5)
上記(3)又は(4)に記載の情報処理装置であって、
上記制御部は、上記参照信号の変動値が上記閾値以下である場合、通常状態をとり、上記参照信号の変動値が上記閾値より大きい場合、上記オフセット制御閾値及び上記ゲインのうち少なくとも一方を上記通常状態とは異なるように変更する制御状態をとる
情報処理装置。
(6)
上記(5)に記載の情報処理装置であって、
上記制御部は、上記通常状態から上記制御状態に変更してから所定時間経過後に、変更していた上記オフセット制御閾値又は上記ゲインを上記通常状態に戻す
情報処理装置。
(7)
上記(5)又は(6)に記載の情報処理装置であって、
上記制御部は、上記制御状態では、上記オフセット制御閾値の範囲を上記通常状態よりも狭める
情報処理装置。
(8)
上記(5)から(7)のうちいずれか一つに記載の情報処理装置であって、
上記制御部は、上記制御状態では、上記ゲインを上記通常状態よりも下げる
情報処理装置。
(9)
上記(3)から(8)のうちいずれか一つに記載の情報処理装置であって、
上記閾値は、第1閾値と上記第1閾値より大きい第2閾値を含み、
上記制御部は、上記参照信号の変動値が上記第1閾値以上であって上記第2閾値より小さい場合、上記オフセット制御閾値の範囲を通常状態から狭め、上記参照信号の変動値が第2の閾値以上の場合、上記ゲインをさげる
情報処理装置。
(10)
上記(3)から(9)のうちいずれか一つに記載の情報処理装置であって、
上記参照信号の変動値は、上記参照信号の時間領域における2点差分を用いて計算する
情報処理装置。
(11)
上記(1)から(10)のうちいずれか一つに記載の情報処理装置であって、
上記参照信号センサは、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、圧力センサのうち少なくとも1つを含む
情報処理装置。
(12)
上記(11)に記載の情報処理装置であって、
上記圧力センサは、上記計測対象者の異なる複数の身体部位に接触して上記検出生体信号を取得する複数の検出部毎に設けられ、
上記体動ノイズ予測部は、上記圧力センサ毎に検出される上記参照信号に基づいて、上記身体部位毎に上記検出生体信号に上記体動ノイズが付加されることを予測し、
上記制御部は、上記予測結果に基づいて、上記身体部位毎に、上記検出生体信号のオフセットを制御する際に用いるオフセット制御閾値及びゲインの少なくとも一方を変更して、上記検出生体信号を信号処理する
情報処理装置。
(13)
上記(1)から(12)のうちいずれか一つに記載の情報処理装置であって、
上記生体センサは、脳波センサ、脈波センサ、血流センサ、発汗センサのうち少なくとも1つを含む
情報処理装置。
(14)
計測対象者の体動情報である参照信号を検出する参照信号センサと、
上記計測対象者の検出生体信号を検出する生体センサと、
上記参照信号に基づいて、上記検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測する体動ノイズ予測部と、
上記体動ノイズ予測部での予測結果に基づいて上記検出生体信号の信号処理を制御する制御部
を具備する生体データ計測システム。
(15)
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測し、
予測した結果に基づいて、上記検出生体信号の信号処理を制御する
情報処理方法。
(16)
参照信号センサにより検出される計測対象者の体動情報である参照信号に基づいて、生体センサによって上記計測対象者から検出される検出生体信号に体動ノイズが付加されることを予測するステップと、
予測した結果に基づいて、上記検出生体信号の信号処理を制御するステップと
を含む処理を情報処理装置に実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0103】
1…生体データ計測システム
2…システム部マイコン(情報処理装置)
3…3軸加速度センサ(参照信号センサ)
4…センサ(生体センサ)
5…生体電極(検出部)
7…脳波センサ(生体センサ)
20…システム制御部(制御部)
22…体動ノイズ予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13