(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】酸化セルロース及びセルロースナノファイバーの製造方法、酸化セルロース及びセルロースナノファイバー、並びに食品
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20241217BHJP
C08B 15/02 20060101ALI20241217BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20241217BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241217BHJP
【FI】
C08B15/04
C08B15/02
A23L29/262
A23L5/00 K
(21)【出願番号】P 2021571177
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000571
(87)【国際公開番号】W WO2021145291
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2020005005
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】築城 利彦
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-058770(JP,A)
【文献】特開昭60-146828(JP,A)
【文献】特表2018-533660(JP,A)
【文献】特開2011-068799(JP,A)
【文献】特開2011-195660(JP,A)
【文献】特表2016-531975(JP,A)
【文献】特開2018-100383(JP,A)
【文献】特開2009-298968(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230354(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/132663(WO,A1)
【文献】Journal of Biobased Materials and Bioenergy,2009年,3(4),P.408-417
【文献】木材学会誌,2012年,58(1),P.11-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/
A23L 29/
A23L 5/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未利用バイオマスと次亜塩素酸又はその塩とを反応させて、酸化セルロースを製造する工程を有する、酸化セルロースの製造方法であって、
前記未利用バイオマスが、セルロース及びタンパク質を含
み、
前記酸化セルロースを製造する工程において、N-オキシル化合物を使用せずに反応を行い、
前記酸化セルロース中の窒素濃度が、0.10質量%以上であり、
前記未利用バイオマス中の窒素濃度に対する前記酸化セルロース中の窒素濃度の変化率(酸化セルロース中の窒素濃度/未利用バイオマス中の窒素濃度)が、15%以下である、
製造方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度が、7質量%以上43質量%以下である、
請求項1に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記次亜塩素酸又はその塩が、次亜塩素酸ナトリウムである、
請求項1又は2に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記未利用バイオマスが、食品製造副産物である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項5】
前記酸化セルロース中の窒素濃度が、3.0質量%以下である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法における酸化セルロースを製造する工程の後、前記酸化セルロースを解繊処理し、セルロースナノファイバーを得る工程を有する、セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が、100nm以上800nm以下の範囲であり、前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が、1nm以上10nm以下の範囲である、
請求項
6に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む酸化セルロース
(ただし、N-オキシル化合物によるセルロース系原料の酸化物を含む酸化セルロースを除く)であって
、
前記セルロース系原料が、未利用バイオマスを含み、
前記未利用バイオマスが、セルロースを含む、酸化セルロース。
【請求項9】
請求項
8に記載の酸化セルロース及び溶媒を含む、酸化セルロース組成物。
【請求項10】
請求項
8に記載の酸化セルロースより作製された、セルロースナノファイバー。
【請求項11】
請求項
10に記載のセルロースナノファイバー及び溶媒を含む、セルロースナノファイバー組成物。
【請求項12】
食品に添加して用いられる、請求項
9に記載の酸化セルロース組成物。
【請求項13】
食品に添加して用いられる、請求項
11に記載のセルロースナノファイバー組成物。
【請求項14】
請求項
8に記載の酸化セルロース及び/又は請求項
10に記載のセルロースナノファイバーを含む、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セルロース及びセルロースナノファイバーの製造方法、酸化セルロース及びセルロースナノファイバー、並びに食品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を、機械的に解繊処理することでセルロースナノファイバーを製造することが知られている。また、各種セルロース系原料を酸化処理することで、セルロースナノファイバーを製造する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、セルロース系原料を、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(以下、TEMPOという)及び臭化物の存在下に、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、TEMPO等の触媒を使用しない方法として、各種セルロース系原料を次亜塩素酸ナトリウムで酸化して得られる、カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.20~0.50mmol/gであり、平均繊維径が3~100nmであり、N-オキシル化合物を含まないセルロースナノファイバーが開示されている。
【0004】
セルロースナノファイバーが各種用途に広く使用されるためには、安価に製造される必要がある。しかしながら、セルロース分を多く含む木材系パルプは、セルロース系原料として一般的に使用されているが、価格が高く、セルロースナノファイバーの原料としては経済面で好ましくない。
【0005】
未利用バイオマスの一種の食品製造副産物である大豆系副産物には、豆乳や豆腐を製造する際の副産物である「おから」がある。おからは、食品としての供給量が需要を大きく上回り、また、品質の劣化も早いことから、その多くが産業廃棄物として処分されている。その処理費用は、豆乳や豆腐メーカーの大きな負担となっている。また、大豆から搾油する際の副産物である「大豆皮」も大量に発生しており、その処理も問題になっている。「おから」や「大豆皮」には多量のセルロース分が含まれていて、かつ安価である。そこで、セルロースナノファイバーの原料として、大豆系副産物を含む未利用バイオマスの利用が検討されている。
例えば、特許文献3には、未利用バイオマスを原料とするセルロースナノファイバーの製造方法として、未利用バイオマスを機械的に解繊する方法が開示されている。特許文献4には、植物バイオマスを、硝酸を含む酸成分と接触させてから、亜硝酸塩、硝酸塩等の酸化剤と反応させて加熱する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-155897号公報
【文献】特開2017-193814号公報
【文献】特開2003-155349号公報
【文献】特表2018-533660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法における各種セルロース系原料としては、パルプ及び木材等の植物性材料、動物性材料、藻類、微生物を起源とするもの等幅広く例示されているが、具体的に使用されているものは木材系パルプである。特許文献1及び特許文献2には、大豆系副産物等の未利用バイオマスに由来する原料から、次亜塩素酸又はその塩を利用してセルロースナノファイバーを製造することが具体的に記載されていない。
【0008】
特許文献1におけるTEMPO等のN-オキシル化合物を触媒として製造された酸化セルロース中には、十分に洗浄した後であっても、窒素分として数ppm程度のN-オキシル化合物が残留する。
N-オキシル化合物は環境や人体に対する毒性が懸念されているため、酸化セルロースを用いてセルロースナノファイバー水分散液を調製した場合、該分散液中にもN-オキシル化合物が混在することになり、ナノセルロースを高機能性材料として利用する場合、その用途によっては、分散液中に存在するN-オキシル化合物が好ましくない影響を与えることがある。
また、N-オキシルは非常に高価な材料であるため、N-オキシルを使用する方法は、経済的な製造方法とは言えない。
【0009】
特許文献3及び特許文献4では、セルロース系原料として大豆系副産物が使用されているが、特許文献3は機械解繊のみで製造する方法で、特許文献4は強酸である硝酸を用いる方法であり、いずれも次亜塩素酸又はその塩で大豆系副産物を酸化することは記載されていない。
大豆系副産物にはタンパク質も含まれているため、特許文献3の方法による機械解繊のみで得られたセルロースナノファイバーにはタンパク質が混在する。タンパク質は経時変質するため除去する必要があるが、セルロースナノファイバーとタンパク質を分離することは困難であるという問題がある。
特許文献4の方法では、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を含む排水が発生し、この排水が環境に悪影響を与えるため微生物処理等を行う必要があり、その処理には多額の費用が掛かるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑み、簡便かつ効率的な方法で、未利用バイオマスを原料に用いた、酸化セルロース及びセルロースナノファイバー並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、原料に未利用バイオマスを用いて、酸化剤として次亜塩素酸又はその塩を用いることにより、未利用バイオマスを酸化させて酸化セルロースが製造できることを見出し、さらに、得られた酸化セルロースを解繊することで、セルロースナノファイバーを未利用バイオマスより簡便かつ効率的に製造できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
未利用バイオマスと次亜塩素酸又はその塩とを反応させて、酸化セルロースを製造する工程を有する、
酸化セルロースの製造方法。
[2]
前記次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度が、7質量%以上43質量%以下である、
[1]に記載の酸化セルロースの製造方法。
[3]
前記次亜塩素酸又はその塩が、次亜塩素酸ナトリウムである、
[1]又は[2]に記載の酸化セルロースの製造方法。
[4]
前記酸化セルロースを製造する工程において、N-オキシル化合物を使用せずに反応を行う、
[1]~[3]のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
[5]
前記未利用バイオマスが、食品製造副産物である、
[1]~[4]のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
[6]
前記酸化セルロース中の窒素濃度が、3.0質量%以下である、
[1]~[5]のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法における酸化セルロースを製造する工程の後、前記酸化セルロースを解繊処理し、セルロースナノファイバーを得る工程を有する、
セルロースナノファイバーの製造方法。
[8]
前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が、100nm以上800nm以下の範囲であり、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が、1nm以上10nm以下の範囲である、
[7]に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
[9]
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む酸化セルロースであって、
前記セルロース系原料が、未利用バイオマスを含む、酸化セルロース。
[10]
[9]に記載の酸化セルロース及び溶媒を含む、酸化セルロース組成物。
[11]
[9]に記載の酸化セルロースより作製された、セルロースナノファイバー。
[12]
[11]に記載のセルロースナノファイバー及び溶媒を含む、セルロースナノファイバー組成物。
[13]
食品に添加して用いられる、[10]に記載の酸化セルロース組成物。
[14]
食品に添加して用いられる、[12]に記載のセルロースナノファイバー組成物。
[15]
[9]に記載の酸化セルロース及び/又は[11]に記載のセルロースナノファイバーを含む、食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、これまで有効利用されていない未使用バイオマスから、工業的に利用価値の高い酸化セルロース及びセルロースナノファイバーを製造することができる。また、本発明によれば、タンパク質の含有量が少ないセルロースナノファイバーを安価に製造することができ、経済的に有利なセルロースナノファイバーの製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を限定するものではない。
【0015】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0016】
1.未利用バイオマス
本発明における未利用バイオマスの「バイオマス」とは、一般的に再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものを指す。未利用バイオマスとしては、例えば、食品製造副産物、収穫残さ、及び食品非食部分等が好適に挙げられる。本明細書において、食品製造副産物、収穫残さ、及び食品非食部分等の未利用バイオマス原料を、可食セルロース原料ともいう。
【0017】
食品製造副産物としては、例えば、おから、醤油粕、酒粕、ビール粕、茶抽出粕、野菜又は果物の絞り粕、コーヒー粕、バカス(サトウキビの絞り粕)、採種油粕、大豆油粕等が挙げられる。これらの中でも、セルロース分を多く含み、安定的な供給が可能な観点から、大豆系副産物が好ましく、おからがより好ましい。
収穫残とは、作物が収穫された後の畑に残存する茎、葉、つる等を指す。収穫残さとしては、例えば、稲、小麦、又は大麦のわら、米ぬか、籾殻、そば殻等が挙げられる。本明細書において収穫残さには、大きさや形が悪い、病害虫に侵害されている等により商品化出来ない作物も含まれる。
食品非食部分としては、例えば、野菜又は果物の皮及び葉等が挙げられる。
【0018】
本発明の未利用バイオマスが可食セルロース原料である場合、当該未利用バイオマスから作られるセルロースナノファイバーは、食品向けに適し、具体的には飲料、調味料、健康食品等の増粘剤、分散剤等向けに有用である。
【0019】
未利用バイオマス中の窒素濃度は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。利用バイオマス中の窒素濃度が20質量%以下であることにより、次亜塩素酸又はその塩との反応により酸化セルロース又はセルロースナノファイバー中の窒素濃度を低下させることができ、解繊効率を向上できる。
尚、本発明において、未利用バイオマス中の窒素濃度とは、有機元素分析装置を用いて測定した値を意味する。より具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0020】
2.酸化セルロースの製造方法
本発明は、未利用バイオマスと次亜塩素酸又はその塩とを反応させて酸化セルロースを製造する工程を含む酸化セルロースの製造方法に関する。
【0021】
酸化セルロースを製造する工程では、次亜塩素酸又はその塩を用いて未利用バイオマスを酸化する。
酸化セルロースは、一般的には未利用バイオマスの液中、好ましくは水中で反応させることにより得ることができる。反応時の液中の未利用バイオマスの濃度は特に限定されないが、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、よりさらに好ましくは5質量%以下である。上記濃度の下限値は、通常0質量%超過であればよく、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。
また、次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、特に限定されないが、好ましくは7~43質量%、である。上記有効塩素濃度の下限値は、8質量%以上であってもよく、9質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。上記有効塩素濃度の上限値は、40質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよい。有効塩素濃度が7質量%以上であることにより、反応が円滑に進む。有効塩素濃度が43質量%以下であることにより、次亜塩素酸又はその塩が安定に存在する。次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、より好ましくは14~43質量%である。
【0022】
次亜塩素酸又はその塩における有効塩素濃度はよく知られた概念であり、以下のように定義される。
次亜塩素酸は水溶液としてのみ存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。
例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶液中にしか存在しないため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量を測定する。
次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素とは、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持っていて、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。
有効塩素濃度の測定は、試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム、酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し測定することができる。有効塩素濃度は、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
本発明のおける次亜塩素酸又はその塩としては、例えば、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム及び次亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの観点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
以下、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを例にして、酸化セルロースの製造方法を説明する。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度の調整としては、有効塩素濃度が低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、有効塩素濃度が約43質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶をそのまま、又は水で希釈して調整する方法がある。
有効塩素濃度を好ましい範囲である7~43質量%の範囲に調整する方法は前記の方法が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を用いて、酸化剤として有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少ない、すなわち有効塩素濃度の低下が少なく、調整が簡便であるため好ましい。
【0025】
酸化剤である次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用量は、酸化反応を促進する範囲で選択することができる。
未利用バイオマスと次亜塩素酸ナトリウム水溶液の混合方法は特に限定はないが、操作の容易さの面から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に未利用バイオマス(水溶液)を加えて混合させることが好ましい。
【0026】
酸化反応における反応温度は、好ましくは15~100℃、より好ましくは20~90℃である。酸化反応を効率的に進めるために、反応系のpHを好ましくは5以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは7以上に維持することが好ましい。pHの上限は特に限定されないが、14以下であることが好ましい。反応系のpHは、好ましくは7~14に維持することが好ましい。pHを調整するために、適宜水酸化ナトリウム等のアルカリ剤、塩酸等の酸を添加することができる。
酸化反応の時間は、酸化の進行の程度にしたがって設定することができるが、例えば、15分~50時間程度反応させることが好ましい。
【0027】
酸化反応では、未利用バイオマスに含まれるセルロースが、カルボキシル基が生成するよう酸化されて酸化セルロースが生成する。酸化セルロースのカルボキシル基量は特に限定されないが、次工程で酸化セルロースを解繊してナノ化させてセルロースナノファイバーを製造するに際し、酸化セルロース1g当たりのカルボキシル基量は、好ましくは0.2~3.0mmol/g、より好ましくは0.5~3.0mmol/gである。また、酸化反応は2段階に以上に分けて実施してもよい。
【0028】
なお、未利用バイオマスにはタンパク質分が含まれているが、例えば、混在するタンパク質分を取り除くために、前記酸化反応が終了した後にろ過及び水洗を行ってもよい。ろ過及び水洗の方法は、公知の方法が適用できる。
また、洗浄の終点は、水洗水と水洗排水の導電率値等を比較することで、終点到達の目安とすることができる。
【0029】
未利用バイオマスの1種であるおからの中のセルロースは、それ以外の成分(タンパク質等)に覆われているため、N-オキシル化合物は、反応時にタンパク質等に妨害されて酸化反応が進まないと考えられる。これに対して、次亜塩素酸又はその塩が未利用バイオマスを酸化する場合は、タンパク質等が、次亜塩素酸ナトリウムにより除去され、セルロースの酸化が進むと考えらえる。
セルロースを含む原料について、木材系のパルプの場合、その製造工程でセルロース以外の成分を除去するため、セルロースの双晶が形成されているのに対して、未利用バイオマスの1種であるおからにはセルロースの双晶が形成されていない。セルロースの双晶には酸化剤が侵入し難いため、酸化速度は遅くなる。
以上の理由で、おからの中のセルロースの酸化は速やかに進むと考えられ、本発明の製造方法では、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)等のN-オキシル化合物を使用せずに反応を行うことが好ましい。
【0030】
3.セルロースナノファイバーの製造方法
前記2で得られた酸化セルロースは、解繊してナノ化することにより、セルロースナノファイバーを製造することができる。
したがって、本発明の態様の一つは、未利用バイオマスと次亜塩素酸又はその塩とを反応させて、酸化セルロースを製造する工程、前記酸化セルロースを製造する工程の後、前記酸化セルロースを解繊処理し、セルロースナノファイバーを得る工程を有する、セルロースナノファイバーの製造方法である。
ここで、セルロースナノファイバーとは、セルロースナノクリスタル等のセルロースをナノ化したものを含む。セルロースナノファイバー、及びセルロースナノクリスタル等のセルロースをナノ化したものを総称して、ナノセルロースともいう。
前記酸化セルロースを解繊する方法では、溶媒中でスターラー等の弱い撹拌や、機械的解繊を行うことで、解繊時間の短縮が可能になる。ただし、機械的解繊が強すぎると、セルロースナノファイバーが折れたり、切れたりする場合がある。
【0031】
前記機械的解繊の方法は、特に限定されず、例えば、酸化セルロースを溶媒で洗浄した後、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸又は多軸混錬機等の公知の混合及び/又は撹拌装置が挙げられる。
これらを単独又は2種類以上組合せて用い溶媒中で処理することで、酸化セルロースをナノ化して、ナノセルロースを製造することができる。
【0032】
解繊処理に使用する溶媒としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
溶媒としては、例えば、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、炭酸エステル類、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキサイド等が挙げられる。
これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。
エーテル類としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン及びメチルエチルケトン等が挙げられる。
炭酸エステル類としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート及びエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0034】
溶媒として有機溶剤を選択することにより、前記工程で得られた酸化セルロース及びそれを解繊して得られたナノセルロースの単離が容易となる。また、有機溶剤中に分散したナノセルロースが得られるため、有機溶剤に溶解する樹脂やその樹脂原料モノマー等との混合が容易となる。
【0035】
4.酸化セルロース及びセルロースナノファイバー
本発明の製造方法により酸化セルロース及びセルロースナノファイバーを得ることができる。
すなわち、本発明の一つは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む酸化セルロースであって、当該セルロース系原料が未利用バイオマスを含む、酸化セルロースである。
また、本発明の一つは、上記酸化セルロースより製造されたセルロースナノファイバーである。
具体的には、本発明のセルロースナノファイバーは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む酸化セルロースを解繊したセルロースナノファイバーであって、前記セルロース系原料が未利用バイオマスを含む、セルロースナノファイバーである。
【0036】
本発明に係る酸化セルロース及びセルロースナノファイバー中の窒素濃度は、いずれの場合も3.0質量%以下であることが好ましい。窒素濃度が3.0質量%以下であることにより、解繊効率を向上できると共に、セルロースナノファイバーの形状を均一にすることができる。そのため、本発明におけるセルロースナノファイバーは各種用途に広く使用することができる。
上記窒素濃度は、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。上記窒素濃度の下限値は0質量%であることが理想であるが、0質量%超過であってもよく、0.10質量%以上であってもよい。
尚、本発明における酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの窒素濃度とは、有機元素分析装置を用いて測定した値を意味する。より具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0037】
前記したとおり、未利用バイオマス中の窒素濃度は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
未利用バイオマス中の窒素濃度に対する酸化セルロース又はセルロースナノファイバー中の窒素濃度の変化率(酸化セルロース又はセルロースナノファイバー中の窒素濃度/未利用バイオマス中の窒素濃度)は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは15%以下であることが好ましい。上記変化率が50%以下であることにより、解繊効率を向上できる。上記変化率の下限値は、0%であることが理想であるが、0%超過であってもよく、0.10%以上であってもよい。
【0038】
本発明に係るセルロースナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは100~800nm、より好ましくは100~600nmである。本発明に係るセルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1~10nm、より好ましくは1~5nmである。
なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、セルロースナノファイバーの濃度が概ね1~10ppmとなるようにセルロースナノファイバーと水とを混合し、十分に希釈したセルロースナノファイバー水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてセルロースナノファイバーの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。
このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。より詳細な測定方法は、後述の実施例に記載の方法に従う。
【0039】
5.酸化セルロース及びセルロースナノファイバーの使用例
本発明の酸化セルロース及びセルロースナノファイバーの形態は特に制限されないが、固形物であってもよく、溶媒を含む組成物の形態であってもよい。
したがって、本発明の一つは、本発明の酸化セルロース及び溶媒を含む、酸化セルロース組成物である。
また、本発明の一つは、本発明のセルロースナノファイバー及び溶媒を含む、セルロースナノファイバー組成物である。
本発明における酸化セルロース又はセルロースナノファイバー組成物は、酸化セルロース又はセルロースナノファイバー及び溶媒を少なくとも含んでいればよい。これら組成物は、溶液であってもよく、分散液であってもよく、懸濁液であってもよい。
上記溶媒としては、一般に溶媒として用いられているものであれば特に制限されず、酸化セルロース及びセルロースナノファイバーを使用する目的に応じて適宜選択すればよい。
溶媒の具体例としては、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、炭酸エステル類、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキサイド等が挙げられる。
アルコール類、エーテル類、ケトン類、及び炭酸エステル類の具体例としては、前記と同様の化合物を挙げることができる。
これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
前述のとおり、本発明のセルロースナノファイバーを食品に含ませることができる。また、本発明の酸化セルロースを食品に含ませてもよい。
したがって、本発明の一つは、本発明の酸化セルロース又は本発明のセルロースナノファイバーを含む、食品である。また、上述した酸化セルロース組成物又はセルロースナノファイバー組成物は、食品に添加して用いることができる。
食品の用途においては、これら組成物に含む溶媒は、水及び/又はエタノール等のアルコール類が好適である。
本発明の酸化セルロース組成物又はセルロースナノファイバー組成物における酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの含有量は、特に制限されないが、組成物全量に対して、通常0.1質量%以上50質量%以下であればよく、0.1質量%以上30質量%以下であってもよく、0.1質量%以上20質量%以下であってもよく、0.1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。なお、各種物性は以下の方法により測定した。
【0042】
(カルボキシル基量の測定方法)
酸化セルロースの0.5質量%スラリーに純水を加えて60mLに調整し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5に調整した後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いて算出した。
カルボキシル基量(mmol/g酸化セルロース)=a(mL)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0043】
(酸化セルロース中の窒素分の測定方法)
酸化セルロース中の残留タンパク質は、ジェイ・サイエンス・ラボ製有機元素分析装置JM11を用いて、酸化セルロース中の窒素濃度として測定した。なお、原料であるおから粉中の窒素濃度は3.66質量%であった。
【0044】
(セルロースナノファイバーの平均繊維長と平均繊維径の測定方法)
得られた分散液を純水で1000~10000倍希釈し、それをマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム製走査型ブローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードで、セルロースナノファイバーの形状観察を行った。
平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本について、繊維長=「周囲長」÷2として数平均繊維長を求めた。
平均繊維径については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本について、形状像の断面高さ=繊維径として数平均繊維径を求めた。
【0045】
<実施例1>
ビーカー中で、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を純水で溶解して、有効塩素濃度が21質量%である次亜塩素酸ナトリウム水溶液を260g調整した後、塩酸を添加してpHを11にした。この液をスターラーで撹拌しながら、おから粉(1.5g)を加え、30℃で30分間撹拌し反応させた。反応中は、水酸化ナトリウムを滴下してpHを11に調整した。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基量を測定した。カルボキシル基量は1.24mmol/gで、ろ過上物(酸化セルロース)の量は0.30gであった。
【0046】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は以下の方法により測定した。
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度の測定)
次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を純水に加えた水溶液0.582gを精密に量り、純水50mlを加え、ヨウ化カリウム2g及び酢酸10mlを加え、直ちに密栓して暗所に15分間放置した。15分間の放置後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果(指示薬 デンプン試液)、滴定量は34.55mlであった。別に空試験を行い補正し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mlが3.545mgClに相当するので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は21質量%である。
【0047】
上記ろ過上物(酸化セルロース)に純水を加えて、1質量%水分散液を20g作製し、ヒールッシャー製「UP-400S」超音波ホモジナイザーにてCYCLE0.5、AMPLITUDE50の条件で40分間解繊して、セルロースナノファイバーを含む分散液を得た。
得られた分散液について、ニコン株式会社製光学顕微鏡LV100NDで透過位相差観察した結果、μmレベルの固形物は見られなかった。
【0048】
得られた分散液を純水で1000倍希釈し、それをマイカ基材上で自然乾燥させ、上記(セルロースナノファイバーの平均繊維長と平均繊維径の測定方法)にしたがい形状観察を行った結果、平均繊維径3nm、平均繊維長300nmのセルロースナノファイバーが確認された。
【0049】
<実施例2>
実施例1の酸化反応で得られたろ過上物にエチレンカーボネートを加えて加熱して、65℃の1質量%分散液を1L調整し、増幸産業社製摩砕機「スーパーマスコロイダー」にて5パスさせ予備解繊させた。
上記の中の0.75Lを、スギノマシン社製超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて、60~70℃、200MPaの条件で50パス解繊して、セルロースナノファイバーを含む分散液を得た。
得られた分散液を実施例1と同様に透過位相差観察した結果、μmレベルの固形物は見られなかった。走査型ブローブ顕微鏡で観察した結果、平均繊維径3nm、平均繊維長400nmのセルロースナノファイバーが観察された。
【0050】
<実施例3>
次亜塩素酸ナトリウムとの接触時間を10分とした以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0051】
<実施例4>
次亜塩素酸ナトリウムとの接触時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0052】
<実施例5>
次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度を7質量%、接触時間を300分とした以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0053】
<比較例1>
実施例1の原料であるおから粉に1質量%になるように純水を加えて、実施例1と同様に超音波ホモジナイザーで解繊した。
光学顕微鏡での観察で数10μmの塊が確認され、超音波処理のみでは解繊できないことがわかった。
【0054】
<比較例2>
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)0.024g及び臭化ナトリウム0.15gを純水150gに溶解させた。そこへ、おから粉1.5gを加え、次いで、水酸化ナトリウム液を加えてpHを10に調整した。この液を撹拌しながら、2M次亜塩素酸ナトリウム液3.75mlを少しずつ加え、25℃で2時間撹拌し反応させた。反応中は水酸化ナトリウム液を滴下してpHを10に維持した。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基量を測定した。カルボキシル基量は0.51mmol/gで、ろ過上物量は0.90gであった。
得られた酸化セルロース中の窒素濃度は3.2質量%であり、原料と比較して窒素分はあまり低下していないことがわかった。
前記ろ過上物に純水を加えて、1質量%水分散液を20g作製し、ヒールッシャー製「UP-400S」超音波ホモジナイザーにてCYCLE0.5、AMPLITUDE50の条件で40分間解繊して、セルロースナノファイバーを含む分散液を得た。
得られた分散液について、ニコン株式会社製光学顕微鏡LV100NDで透過位相差観察した結果、数10μmレベルの塊が確認され、解繊が不十分であることがわかった。タンパク質を残存したまま解繊すると、解繊効率が低下すると共に、セルロースナノファイバーの形状も不均一になったと考えられる。
【0055】
<比較例3>(木材系パルプを原料とするセルロースナノファイバーの製造)
おからの替わりに綿状にした針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を使用した以外は、実施例1と同じ条件で行った。カルボキシル基量は0.44mmol/gで、ろ過上物量は1.33gであった。本結果及び実施例1の結果より、おからを原料とした場合の方が酸化速度は高い(30分間あたり、おから:1.24mmol/g、パルプ:0.44mmol/g)と分かった。タンパク質が酸化の妨害となり酸化速度は低いと考えられたが、逆の結果となった。
【0056】
【0057】
本出願は、2020年1月16日に出願された日本出願2020-005005に基づく優先権を主張し、当該日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製造方法は、未利用バイオマスを利用してセルロースナノファイバーを得るものであり、得られるセルロースナノファイバーは工業的に利用価値が高い。本発明は、特に食品の分野において産業上の利用可能性を有する。