(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】視点検知システム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20241217BHJP
G06T 7/70 20170101ALI20241217BHJP
G06V 20/59 20220101ALI20241217BHJP
【FI】
G06T7/00 660A
G06T7/70 Z
G06V20/59
(21)【出願番号】P 2021574075
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2021002844
(87)【国際公開番号】W WO2021153615
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020013787
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱田 一成
【審査官】鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-164483(JP,A)
【文献】特開2016-028669(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193708(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105094300(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G06T 7/70
G06V 20/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の撮像画像に基づいて前記被写体の視点位置を検知する視点検知システムであって、
前記撮像画像において前記被写体の一方の目の虹彩に外光が接近していることを検出する外光検出手段と、
前記外光検出手段が前記外光の接近を検出すると、前記撮像画像における前記被写体の他方の目の虹彩の位置に基づいて前記視点位置を算出する視点位置算出手段と
を備えることを特徴と
し、
ここで、前記視点位置とは、前記被写体の左右の虹彩間の中間点を指し、前記中間点は、前記撮像画像における前記被写体の他方の目の虹彩の位置に基づいて算出される仮想的又は仮定的な中間点を含む、視点検知システム。
【請求項2】
前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩の領域と
白目の領域とのコントラストが閾値未満の場合に、前記外光の接近を検出することを特徴とする請求項1に記載の視点検知システム。
【請求項3】
前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩の領域と白飛びしている領域との距離が閾値未満の場合に、前記外光の接近を検出することを特徴とする請求項1に記載の視点検知システム。
【請求項4】
前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩
の領域の明度が閾値を超えている場合に、前記外光の接近を検出することを特徴とする請求項1に記載の視点検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体の撮像画像に基づいて被写体の視点位置を検知する視点検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントウインドシールドやコンバイナ等の反射透光部材を透過する実景(車両前方の風景)に重ねて、その反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ装置には、車両の利用者(被写体)に赤外光を照射して利用者を撮像し、その撮像画像に基づいて利用者の左右の黒目(虹彩)の中心を視点として検出し、左右の視点の中間点等を視点位置として検知する視点検知システムを含むものがある。
【0003】
例えば特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置は、表示手段から発せられる可視光をコンバイナ部材にて利用者に向けて反射して表示像を結像してなるもので、利用者に向けて赤外線を照射する赤外線照射手段と、表示手段から発せられる可視光をコンバイナ部材に向けて反射し、利用者及びコンバイナ部材にて反射される赤外線を透過するミラー部材と、ミラー部材を透過する赤外線を感受して利用者をそれぞれ異なる方向から撮像する複数の撮像手段と、撮像手段によって撮像された画像に基づいて利用者の目の位置を算出する画像処理手段とを備える。これにより、利用者の目の位置を精度良く算出することが可能で、その目の位置から利用者の視点位置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、視点検知システムに太陽光や街灯の光等の強い外光が入射すると、撮像画像に外光のノイズが加わり、視点位置の検知に困難を来すという問題がある。特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置では、外光の赤外成分がミラー部材を透過して撮像手段に入射し、撮像画像における左右一方の目の虹彩に強い外光が接近すると、その一方の目(外光に近い側の目)の視点を正確に検出することができなくなって検出結果が不規則に変動し、左右の視点の中間点等として検知される視点位置もまた不規則に変動して不安定となる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、外光が入射しても被写体の視点位置を安定的に検知することができる視点検知システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、被写体の撮像画像に基づいて前記被写体の視点位置を検知する視点検知システムであって、前記撮像画像において前記被写体の一方の目の虹彩に外光が接近していることを検出する外光検出手段と、前記外光検出手段が前記外光の接近を検出すると、前記撮像画像における前記被写体の他方の目の虹彩の位置に基づいて前記視点位置を算出する視点位置算出手段とを備えることを特徴とし、
ここで、前記視点位置とは、前記被写体の左右の虹彩間の中間点を指し、前記中間点は、前記撮像画像における前記被写体の他方の目の虹彩の位置に基づいて算出される仮想的又は仮定的な中間点を含む視点検知システムを提供する。
【0008】
前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩の領域と白目の領域とのコントラストが閾値未満の場合に、前記外光の接近を検出してもよい。
【0009】
また、前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩の領域と白飛びしている領域(撮像画像の明度が上限を超えて諧調が失われている領域)との距離が閾値未満の場合に、前記外光の接近を検出してもよい。
【0010】
あるいは、前記外光検出手段は、前記撮像画像における前記一方の目の虹彩の領域の明度が閾値を超えている場合に、前記外光の接近を検出してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る視点検知システムによれば、外光が入射しても被写体の視点位置を安定的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】発明を実施するための形態に係る視点検知システムが適用されたヘッドアップディスプレイ装置を示す説明図である。
【
図2】車両の運転者の撮像画像を示す説明図である。
【
図3】
図1のヘッドアップディスプレイ装置に外光が侵入する様子を示す説明図である。
【
図4】車両の運転者の右目の虹彩に外光が接近している例を示す説明図である。
【
図5】
図4の右目の部分を拡大して示す説明図である。
【
図6】車両の運転者の右目の虹彩に外光が接近している他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態に係る視点検知システムが適用されたヘッドアップディスプレイ装置(HUD)1は、車両のフロントウインドシールド2の下方に設けられ、フロントウインドシールド2の一部に可視光である表示光L
1を投影する。表示光L
1は、フロントウインドシールド2に反射されて虚像Vを生成し、車両の運転者Dにフロントウインドシールド2を透過する実景に重ねて虚像Vを視認させる。
【0015】
また、HUD1は、運転者Dに赤外光L2を投影して運転者Dを撮像し、その撮像画像に基づいて運転者Dの左右の目Eの視点の中間点を視点位置として検知する。
【0016】
詳細には、HUD1は、黒色のABS樹脂等により成形されて外光の侵入が防止された筐体3に覆われて外部と区画され、筐体3には図示を略すポリカーボネート等の透明な樹脂で覆われた透光部4が形成されている。筐体3の内部には、表示ユニット5と、折返鏡6と、凹面鏡7と、赤外光照射ユニット8と、カメラ9と、制御部10とが保持・収容されている(本実施の形態に係る視点検知システムは、凹面鏡7、赤外光照射ユニット8、カメラ9及び制御部10により構成されている。)。
【0017】
表示ユニット5は、チップ型の発光ダイオードからなる光源及び液晶パネルが設けられ、液晶パネルが光源の出射光を2次元的に変調することにより、可視光である映像光(表示光L1)を投影表示する。折返鏡6は、平面部分を有するように成形されたポリカーボネート等の樹脂にアルミニウム等の金属を蒸着してなり、光を単純に反射する。凹面鏡7は、凹面部分を有するように成形された板ガラスやポリカーボネート等の樹脂にアルミニウム等の金属を蒸着してなり、可視光を拡大して反射するとともに、赤外光を透過させる特性を有する。
【0018】
赤外光照射ユニット8は、凹面鏡7の裏側(凹面鏡7に対して透光部4及び折返鏡6の反対側)に設けられ、発光ダイオードからなる光源が発する赤外光(近赤外線)を凹面鏡7に向けて照射する。カメラ9は、赤外照射ユニット8から照射される波長帯の赤外光に感度を有する撮像素子及び赤外光を透過してその撮像素子に結像させ得るレンズを備え、近赤外線画像を撮影する。
【0019】
制御部10は、マイクロプロセッサ、メモリ及びそれらを動作させるための各種電子部品、基板、ケースからなり、車両情報や運転者Dの入力情報に基づいてHUD1の映像を適切に表示するように表示ユニット5を制御する。
【0020】
また、制御部10は、
図2に示すように、カメラ9による撮像画像Pのコントラストに基づいて、運転者Dの顔の輪郭、目尻、目頭、鼻の輪郭といった特徴点や、左右の目Eの虹彩Iを検出し、左右の虹彩Iの中心Cをそれぞれ左右の視点とした上で、左右の視点の中間点Qの座標を視点位置として検知する。
【0021】
さらに、制御部10は、撮像画像Pにおいて運転者Dの一方の目Eの虹彩Iに外光が接近していることを検出すると、撮像画像Pにおける運転者Dの他方の目Eの虹彩Iの位置(ここでは、虹彩Iの中心Cの位置)に基づいて視点位置を算出する。
【0022】
例えば、
図3に示すように、太陽光である強い外光L
3の赤外成分がフロントウインドシールド2、透光部4、凹面鏡7を透過してカメラ9に入射すると、
図4に示すように、撮像画像Pには、運転者Dの右目Eの虹彩Iに接近して太陽が映り込み、その領域(太陽が映り込んだ領域)S
1がカメラ9の撮像素子のオーバーフローにより白飛びするとともに、領域S
1の周辺で太陽の周りの明るく映る領域S
2が運転者Dの右目Eの虹彩Iに接近することがある。外光L
3の接近を検出すると、制御部10は、左目Eの視点から推測して算出した仮想的・仮定的な中間点Q’の座標を視点位置として検知する。推測は、どのような方法によってもよく、例えば、運転者Dの左右いずれの目Eの虹彩Iにも外光が接近していない状態で撮像された画像により、左右の虹彩Iの中心C間の距離が既知であれば、その距離と、(
図4において外光L
3が接近していない)左目Eの虹彩Iの中心C(視点)の座標とから、中間点Q’(視点位置)の座標を推測することもできる。
【0023】
外光L
3の虹彩Iへの接近については、
図5に示すように、撮像画像Pにおける一方の目Eの虹彩Iの白目との境界付近の領域S
3(領域S
3の少なくとも一部)と、領域S
3に隣接する虹彩Iを外れた白目の領域S
4とのコントラストが所定の閾値未満の場合に、外光L
3(
図4における領域S
1及び領域S
2)が虹彩Iに接近したと検出することができる。例えば、撮像画像Pにおける領域S
3の一部である領域S
5の明度が高く、その輝度の階調値がX
5、領域S
4の輝度の階調値がX
4、所定の閾値を表す階調値がX
0の場合、制御部10は、X
4-X
5<X
0であれば外光L
3が虹彩Iに接近したと判断する。
【0024】
HUD1において、表示ユニット5からの表示光L1は、折返鏡6で反射され、次いで、凹面鏡7で拡大して反射され、透光部4を通過してフロントウインドシールド2に投影される。フロントウインドシールド2に投影された表示光L1は、運転者Dの側に拡大して反射され、虚像Vを生成してフロントウインドシールド2を透過する実景に重ねて運転者Dに表示する。
【0025】
一方、赤外光照射ユニット8からの赤外光L2は、凹面鏡7を透過し、透光部4を通過してフロントウインドシールド2に投影され、フロントウインドシールド2で運転者Dの側に反射されて運転者Dを照射する。そして、運転者Dに反射されると赤外光L2の一部は凹面鏡7を透過してカメラ9に入射し、赤外光L2により運転者Dが撮像されて、その撮像画像Pが制御部10に入力される。
【0026】
制御部10は、撮像画像Pが入力されると、撮像画像Pにおける運転者Dの左右の目Eの虹彩Iの中心Cを視点として検出し、二つの視点の中間点Qを視点位置として検知した後、視点位置に関する情報をHUD1の外部に出力する。
【0027】
しかし、制御部10は、左右いずれかの虹彩Iの中心Cを検出することができなかった場合、又は、左右のいずれかの目Eについて領域S3と領域S4とのコントラストが所定の閾値未満であった場合には、検出することができなかった又はコントラストが閾値未満であった一方の目Eについて視点の検出を中止し、他方の目Eの虹彩Iの中心Cの位置に基づいて中間点Q’の位置(視点位置)を推測して算出し、視点位置に関する情報をHUD1の外部に出力する。
【0028】
本実施の形態に係るHUD1では、制御部10が、撮像画像Pにおいて運転者Dの一方の目Eの虹彩Iに外光が接近していることを検出可能であり、外光の接近を検出すると、撮像画像Pにおける運転者Dの他方の目Eの虹彩Iの位置に基づいて視点位置を算出するので、外光の接近により一方の目Eの視点の検出結果が不規則に変動することに伴う視点位置の不規則な変動や不安定な検知が防止され、視点位置を安定的に検出することが可能となる。
【0029】
以上、本発明を実施するための形態について例示したが、本発明の実施形態は上述したものに限られず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更等してもよい。
【0030】
例えば、上記実施の形態では、車両のフロントウインドシールド2に表示光L1を投影したが、フロントウインドシールドに代えてコンバイナを用いてもよい。
【0031】
また、制御部10は、
図6に示すように、撮像画像Pにおける一方の目Eの虹彩Iの領域S
3と白飛びしている領域S
1との距離L
1(又は、領域S
3と領域S
2との距離L
2)が所定の閾値未満の場合(領域S
3と領域S
1(又は領域S
2)とが重なっている場合も含む。)に、外光L
3が虹彩Iに接近したと検出してもよい。このとき、領域S
3と領域S
1(又は領域S
2)とのコントラストは不問で、閾値は、カメラ9の画角及びカメラ9から運転者D(虹彩I)までの光学的距離に基づいて、カメラ9の振動や運転者Dの動き等も加味して決定すればよく、決定した閾値や距離L
1(又は距離L
2)は、長さの単位ではなく、画素数等により規定してもよい。
【0032】
あるいは、制御部10は、撮像画像Pにおける一方の目Eの虹彩Iの瞳孔Rを外れた領域の明度が閾値を超えている場合に、外光L
3が虹彩Iに接近したと検出してもよい。
図5において、領域S
3の一部であり瞳孔Rを外れた領域S
5は、領域S
2に重なり合って明度が高く(虹彩Iの中心付近では、光(特に赤外光)は瞳孔Rを通過し網膜で反射されて明るく映りやすいので、ここでは虹彩Iの中心付近にある瞳孔Rを外れた領域S
5の明度を考える。)、この明度が所定の閾値を超えていれば、制御部10は、外光L
3が虹彩Iに接近したと判定することができる。このとき、閾値は、目Eの白目の領域の明度、目Eの周辺の皮膚の平均明度、又は、外光L
3が接近していない反対側の目Eの黒目(虹彩I)の明度等に合わせることができる。この構成により、黒目の周囲で明度が低く、コントラストが低い場合でも、黒目の領域を識別可能な視点検知システムでは、コントラストの閾値によっては外光の接近を判定しにくいが、黒目の領域に白目や皮膚の明度を超える明るい領域があれば、コントラストにかかわらず強い外光が重なっていることを判定することができる。
【符号の説明】
【0033】
8 赤外光照射ユニット
9 カメラ
10 制御部(外光検出手段、視点位置算出手段)
D 運転者(被写体)
E 目
I 虹彩
L3 外光
P 撮像画像
Q 中間点
Q’ (仮想的・仮定的な)中間点
R 瞳孔
S1 領域(白飛びしている領域)
S3 領域(虹彩の領域)
S4 領域(虹彩を外れた領域)
S5 領域(虹彩の瞳孔を外れた領域)