(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20241217BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241217BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L53/02
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2021574581
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000338
(87)【国際公開番号】W WO2021153183
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2020013855
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020172653
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真由
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199930(JP,A)
【文献】特開2006-083323(JP,A)
【文献】特開平08-176353(JP,A)
【文献】国際公開第2007/009871(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/051261(WO,A2)
【文献】国際公開第2011/155571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) アリール基含有オルガノポリシロキサン
【請求項2】
前記成分(C)がアラルキル基含有オルガノポリシロキサンである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が下記式(1)で表される繰り返し単位を含むアラルキル基含有オルガノポリシロキサンである、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化1】
式(1)中のR
1は炭素数1~18の炭化水素基を表す。R
2は炭素数7~12のアラルキル基を表す。
【請求項4】
前記R
1がメチル基である、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、加熱により軟化して流動性を有し、冷却するとゴム弾性を有するものである。熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有すると共に、独特のゴム弾性を有し、また、リサイクルが可能である。このため、熱可塑性エラストマーは自動車内装材の表皮等の自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等の用途に幅広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、射出成形用熱可塑性エラストマー組成物として、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及びそれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、プロピレン系ブロック共重合体とを含む、いわゆるスチレン系エラストマーが開示されている。特許文献1には、このスチレン系エラストマーが自動車内装材に使用できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、熱可塑性エラストマー組成物として、スチレン系もしくはオレフィン系ゴムに、粘度(JIS Z8803,25℃)が10万センチストークス(cSt)以上であるシリコーンオイルを用いることで、機械強度を維持しながら低温衝撃性及び表面の耐傷付き性を向上できることが記載されている。
【0005】
【文献】特開2006-83323号公報
【文献】特開平08-176353号公報
【0006】
近年、自動車内装空間において、高級感や、快適さが求められている。そのため、アームレストやコンソールパッド等の用途に代表される自動車内装材の表皮に対して良好な外観や触感が要求されている。
【0007】
更に、様々なデザインの自動車内装空間が増加し、デザイン性の観点から、材料にも加飾性が求められている。一般的に、熱可塑性樹脂の加飾性は、樹脂の透明性に依存し、透明性が高いものほど加飾性に優れる。
【0008】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載されている熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形品は透明性が不十分であった。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、触感と透明性に優れた成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなる成形体を提供することにある。
【0010】
本発明者は、プロピレン系重合体と、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物とを含む熱可塑性エラストマー組成物に、特定のオルガノポリシロキサンを配合することにより、触感と透明性に優れた成形体を提供できることを見出した。
【0011】
本発明は、以下の[1]~[5]を要旨とする。
【0012】
[1] 下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) アリール基含有オルガノポリシロキサン
【0013】
[2] 前記成分(C)がアラルキル基含有オルガノポリシロキサンである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[3] 前記成分(C)が下記式(1)で表される繰り返し単位を含むアラルキル基含有オルガノポリシロキサンである、[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
【0016】
式(1)中のR1は炭素数1~18の炭化水素基を表す。R2は炭素数7~12のアラルキル基を表す。
【0017】
[4] 前記R1がメチル基である、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体。
【0019】
本発明はまた、以下の<1>~<7>を要旨とする。
【0020】
<1> 下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) 分子中に下記式(1)で表される繰り返し単位を有するアラルキル基含有オルガノポリシロキサン
【0021】
【0022】
式(1)中のR1は炭素数1~18の炭化水素基を表す。R2は炭素数7~12のアラルキル基を表す。
【0023】
<2> 前記成分(C)が、分子中に前記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを有するアラルキル基含有オルガノポリシロキサンである、<1>に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0024】
【0025】
式(2)中のR3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1~18の有機基を表す。
【0026】
<3> 前記R1がメチル基である、<1>又は<2>に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0027】
<4> 前記R3及びR4がそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基である、<3>に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0028】
<5> 前記R3及びR4がメチル基である、<4>に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0029】
<6> 前記成分(B)の前記芳香族ビニル化合物単位がスチレン単位であり、前記共役ジエン化合物単位がブタジエン単位である、<1>~<5>のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0030】
<7> <1>~<6>のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、触感と透明性に優れた成形体を得ることができる熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0033】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするものであり、更に下記成分(D)を含んでいてもよい。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物(以下「(水添)ブロック共重合体」と称す場合がある。)
成分(C) アリール基含有オルガノポリシロキサン
成分(D) 炭化水素系ゴム用軟化剤
【0034】
<メカニズム>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、触感と透明性に優れた成形体を得ることができるという効果を奏する。
【0035】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、以下のように推察される。
【0036】
一般的に、成分(A)のプロピレン系重合体と成分(B)の(水添)ブロック共重合体を配合した熱可塑性エラストマー組成物は、ミクロな観点からみると、その構造は、成分(A)の海の中に成分(B)の島が複数存在する、いわゆる海島構造を形成している。
このような成分(A)と成分(B)の海島構造に、更に成分(C)が存在することにより、成分(B)が成分(A)の海の中に微分散しやすくなる傾向がある。これにより、分散径が可視光の光波長よりも小さい成分(B)の分散体が増加するため、本発明のエラストマー組成物の透明性が向上すると推測される。
【0037】
また、成分(C)に含まれるアリール基が、成分(B)に含まれる芳香族ビニル化合物単位の芳香族基と相互作用することにより、成分(C)は成分(B)の周辺に偏在しやすくなる。このため、成分(C)は成分(A)と成分(B)との界面に多く存在しやすくなる。結果として、成分(A)と成分(B)の界面の光の散乱が抑制され、透明性が向上すると推測される。
【0038】
<成分(A)>
本発明で用いる成分(A)のプロピレン系重合体(以下「プロピレン系重合体(A)」と称す場合がある。)としては、プロピレン系重合体(A)を構成する単量体単位中にプロピレン単位を50質量%以上含有するものであればよい。耐熱性、剛性、結晶性、耐薬品性等の観点から、プロピレン系重合体(A)中のプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率の上限については特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0039】
成分(A)中のプロピレン単位、以下に記載する他の共重合成分の各構成単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0040】
プロピレン系重合体(A)の種類は特に限定されず、具体的にはプロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体(例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体)を挙げることができる。プロピレン系重合体(A)は、これらのいずれであっても使用することができる。
【0041】
プロピレン系重合体(A)のメルトフローレート(JIS K7210、230℃、21.2N荷重)は、特に定めることはないが、通常0.05~200g/10分であり、0.05~100g/10分であることが好ましく、0.1~80g/10分であることがより好ましい。メルトフローレートを上記範囲とすることで、成形性に優れ、得られる成形体の外観が良好となり、また機械的特性、特に引張破壊強さを所望の範囲に制御することができる。
【0042】
プロピレン系重合体(A)を製造するに際して使用される触媒については特に限定されないが、例えば、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、以下に限定されないが、例えば、チーグラー触媒やメタロセン触媒が挙げられる。これらの触媒の中でも、メタロセン触媒が好ましい。
【0043】
チーグラー触媒としては、以下に限定されないが、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、前記ハロゲン化チタン化合物と、ハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の遷移金属成分と、アルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒;更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒;が挙げられる。
【0044】
メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒と、必要により、有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、公知の触媒はいずれも使用できる。メタロセン化合物は、好ましくはプロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、より好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物である。
【0045】
プロピレン系重合体(A)の製造方法としては、例えば、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法、重合モノマーを溶媒とするバルク重合法が挙げられる。例えば、スラリー法の場合には、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常-80~150℃であり、好ましくは40~120℃である。重合圧力は、1~60気圧が好ましい。得られるプロピレン系重合体(A)の分子量の調節は、水素又は他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0046】
プロピレン系重合体(A)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、サンアロマー社製のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社製のノバテック(登録商標)PP、ウェイマックス(WAYMAX(登録商標))が挙げられる。
【0047】
プロピレン系重合体(A)は1種のみを用いてもよく、共重合組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
【0048】
<成分(B)>
本発明で用いる成分(B)は、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)の少なくとも2個と、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)の少なくとも1個とを有する(水添)ブロック共重合体である。
【0049】
ここで、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、50モル%以上含むことをいう。
【0050】
ブロックPを構成する芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレンが挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく用いられる。より好ましくはスチレンである。
【0051】
ブロックPは、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の芳香族ビニル化合物単位から構成されていてもよい。ブロックPには、ビニル芳香族化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0052】
ブロックQを構成する共役ジエン化合物とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。共役ジエン化合物としては、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンが挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。より好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0053】
ブロックQは、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位から構成されていてもよい。ブロックQには、共役ジエン化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0054】
ブロックPの少なくとも2個と、ブロックQの少なくとも1個を有するブロック重合体は、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよい。
【0055】
該ブロック重合体としては、下記式(I)又は(II)で表されるブロック共重合体が好ましい。
P-(Q-P)m (I)
(P-Q)n (II)
式中PはブロックPを表す。QはブロックQを表す。mは1~5の整数を表す。nは1~5の整数を表す。
ブロックP、ブロックQがそれぞれ複数存在する場合に、それらの化合物単位はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0056】
成分(B)は、組成物のゴム弾性の観点から、式(I)で表されるブロック共重合体であることが好ましく、mが3以下である式(I)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(I)で表されるブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(I)で表されるブロック共重合体が特に好ましい。
【0057】
成分(B)は、ブロックPと、ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であってもよい。この場合、式(I)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが好ましく、mが3以下である式(I)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることがより好ましく、mが2以下である式(I)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが更に好ましく、mが1である式(I)で表されるブロック共重合体の水素添加物が特に好ましい。
【0058】
成分(B)のブロック共重合体中のブロックPの含有割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。
成分(B)のブロック共重合体中のブロックPの含有割合は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
上記範囲でブロックPの割合が高くなるほど、機械的強度に優れ、低くなるほど、柔軟性に優れ、ブリードアウトしにくい傾向にある。上記範囲とすることでブリードアウトを抑制しながら機械的強度と柔軟性を両立しやすくなる。
【0059】
成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの割合は、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、ブリードアウトのしにくさの点から多い方が好ましく、機械的強度の点から少ない方が好ましい。
成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの含有割合は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
上記範囲でブロックQの割合が高くなるほど、柔軟性に優れ、ブリードアウトしにくい傾向にあり、低くなるほど、機械的強度に優れる傾向にある。上記範囲とすることでブリードアウトを抑制しながら機械的強度と柔軟性を両立しやすくなる。
【0060】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、800,000以下であることが好ましく、650,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましい。
成分(B)の(水添)ブロック共重合体のMwは、上記範囲において、耐熱性、機械的強度の点では大きい方が好ましく、成形外観及び流動性、成形性の点では小さい方が好ましい。成分(B)の(水添)ブロック共重合体のMwを上記範囲とすることで、耐熱性、機械的強度、成形外観、流動性及び成形性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0061】
ここで、Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する場合がある。)により、以下の条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
(測定条件)
機器:日本ミリポア社製「150C ALC/GPC」
カラム:昭和電工社製「AD80M/S」3本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
波長:3.42μm
溶媒:o-ジクロロベンゼン
温度:140℃
流速:1cm3/分
注入量:200マイクロリットル
濃度:2mg/cm3
酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%添加
【0062】
成分(B)としては、好ましくは、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン/ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
【0063】
成分(B)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、具体的には、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、クラレ社製「セプトン(登録商標)」、旭化成社製「タフテック(登録商標)」、「S.O.E(登録商標)」、TSRC社製「TAIPOL(登録商標)」が挙げられる。
【0064】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
<成分(C)>
本発明で用いる成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンのアリール基は、ヘテロアリール基を含む広義のアリール基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、チエニル基が挙げられる。また、アリール基含有オルガノポリシロキサンは、アリール基を有するものであればよく、該アリール基は、アルキレン基等の連結基を介してアリール基含有オルガノポリシロキサンに含まれていてもよい。このようなアリール基を含む基としては、アラキル基が挙げられる。即ち、アリール基含有オルガノポリシロキサンはアラルキル基含有オルガノポリシロキサンであってもよい。
【0066】
このようなアリール基含有オルガノポリシロキサンを、成分(A)及び成分(B)と共に用いることで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の透明性を維持しつつ、触感を向上させることができる。
【0067】
該アリール基含有オルガノポリシロキサンとしては、分子中に下記式(1A)で表される繰り返し単位を有するアリール基含有オルガノポリシロキサンがより好ましい。
【0068】
【0069】
上記式(1A)中、R11とR12は、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。ただしR11とR12の少なくとも一方は、アリール基又はアリール基を含む基であり、R11とR12の両方がアリール基又はアリール基を含む基であってもよい。
R11の好ましい基としては、後掲の式(1)におけるR1とR2が挙げられる。同様にR12の好ましい基としては、後掲の式(1)におけるR1とR2が挙げられる。
【0070】
これらのうち、透明性の維持と触感の向上効果により一層優れることから、アリール基含有オルガノポリシロキサンとしては、アラルキル基含有オルガノポリシロキサンが好ましく、該アラルキル基含有オルガノポリシロキサンとしては、分子中に下記式(1)で表される繰り返し単位を有するアラルキル基含有オルガノポリシロキサンがより好ましい。
【0071】
【0072】
式(1)中のR1は炭素数1~18の炭化水素基を表す。R2は炭素数7~12のアラルキル基を表す。
【0073】
式(1)において、R1は、炭素数1~18の炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。R1は、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0074】
R2は、炭素数7~12のアラルキル基であり、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基等のフェニルアルキル基が挙げられる。透明性の維持と触感の向上の観点からは、R2は2-フェニルプロピル基であることが好ましい。
【0075】
成分(C)のアラルキル基含有オルガノポリシロキサンは、分子中に、前記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを有するアラルキル基含有オルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0076】
【0077】
式(2)中のR3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1~18の有機基を表す。
【0078】
式(2)において、R3,R4の炭素数1~18の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、エポキシ基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。工業的な入手容易性の観点からR3,R4はそれぞれ独立にアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0079】
成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンのアリール基の含有率は、ケイ素原子に結合する全有機基中、1~60モル%であることが好ましく、5~55モル%であることがより好ましく、5~50モル%であることが更に好ましい。アリール基の含有率が上記範囲であると、透明性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得やすくなる。
【0080】
同様に、成分(C)のアラルキル基含有オルガノポリシロキサンのアラルキル基の含有率は、ケイ素原子に結合する全有機基中、1~60モル%であることが好ましく、5~55モル%であることがより好ましく、5~50モル%であることが更に好ましい。アラルキル基の含有率が上記範囲であると、透明性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得やすくなる。
【0081】
本発明で用いる成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンの動粘度(25℃)は好ましくは1cSt以上、より好ましくは5cSt以上、更に好ましくは10cSt以上である。アリール基含有オルガノポリシロキサンの動粘度(25℃)の上限については特に制限されないが、好ましくは150万cSt以下、より好ましくは100万cSt以下、更に好ましくは50万cSt以下である。上記範囲で動粘度が高いほど耐摩耗性向上の効果が高くなる。一方、上記範囲で動粘度が低いほど透明性が良好となる傾向があり、また、べたつき改良効果が高く、良触感となる。上記範囲とすることで、所望の耐摩耗性と透明性及びべたつき改良効果を得ることができる。
【0082】
成分(C)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、具体的には、信越化学工業社製「KF-410」、「X22-1877」、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製「Wacker(登録商標)TN」、ダウ・東レ株式会社製「XIAMETER(登録商標)OFX-0203、0230」「DOWSIL(登録商標)SH 510、550、710」が挙げられる。
【0083】
成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
<成分(D)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(D)として炭化水素系ゴム用軟化剤を含んでいてもよい。炭化水素系ゴム用軟化剤を含むことは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、流動性の向上に有効である。
【0085】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては成分(B)に対する親和性が高いことから、鉱物油系軟化剤や合成樹脂系軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
【0086】
鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素由来の炭素原子であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素由来の炭素原子であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素由来の炭素原子であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。
【0087】
成分(D)として用いる炭化水素系ゴム用軟化剤は、上述の各種軟化剤の何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルが好ましい。
【0088】
合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。
【0089】
炭化水素系ゴム用軟化剤のJIS K2283に準拠した方法によって測定された40℃における動粘度は、20cSt以上であることが好ましく、50cSt以上であることがより好ましい。該動粘度は、800cSt以下であることが好ましく、600cSt以下であることがより好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の動粘度は上記範囲のうちで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性の向上という点では低い方が好ましく、フォギング等の起こり難さの点では高い方が好ましい。動粘度を上記範囲とすることで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性の向上を図った上でフォギング等の発生を抑制できる。
【0090】
<配合割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)及び成分(B)の含有割合は、これらの合計100質量%に対して、成分(A)が1~99質量%、成分(B)が99~1質量%であることが好ましい。より好ましくは、成分(A)が5~95質量%、成分(B)が95~5質量%であり、更に好ましくは、成分(A)が10~90質量%、成分(B)が90~10質量%であり、特に好ましくは、成分(A)が25~80質量%、成分(B)が75~20質量%である。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部あたり、好ましくは0.01~20質量部であり、より好ましくは0.05~20質量部、更に好ましくは0.1~15質量部、特に好ましくは0.1~12質量部であり、より一層好ましくは0.5~12質量部である。
【0092】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(D)を含む場合、成分(D)の含有量は、成分(B)100質量部あたり、好ましくは0~100質量部であり、より好ましくは0~90質量部、更に好ましくは0~85質量部、特に好ましくは0~80質量部である。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(A)のプロピレン系重合体を上記範囲で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(A)による耐熱性、機械的特性の向上効果を十分に得ることができる。
【0094】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(B)の(水添)ブロック共重合体を上記範囲で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(B)による耐熱性、耐油性を十分に得ることができる。
【0095】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンを上記範囲で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、透明性を維持しつつ、触感の向上効果を十分に得ることができる。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(D)の炭化水素系ゴム用軟化剤を上記範囲で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(D)による柔軟性、流動性の向上効果を十分に得ることができる。
【0097】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、成分(A)~(D)以外の他の成分(本明細書において、単に「その他の成分」と称することがある。)を含有していてもよい。その他の成分としては、成分(A)、(B)以外の樹脂やエラストマー(本明細書においてはこれらをまとめて単に「その他の樹脂」と称することがある。)や各種添加剤が挙げられる。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得るその他の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(ただし、前記成分(A)に該当するものを除く。)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂(ただし、前記成分(B)に該当するものを除く。)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂;エチレン・プロピレン・共重合ゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)、エチレン・ブテン共重合ゴム(EBM)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合ゴム等のオレフィン系エラストマー;ポリアミド・ポリオール共重合体等のポリアミド系エラストマー;ポリ塩化ビニル系エラストマー及びポリブタジエン系エラストマー;これらの水添物や、酸無水物等により変性して極性官能基を導入させたもの;更に他の単量体をグラフト、ランダム及び/又はブロック共重合させたもの;等が挙げられる。上記で挙げたその他の樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得る添加剤としては、酸化防止剤、結晶核剤、滑剤等の成形加工助剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、耐加水分解改良剤、顔料、染料等の着色剤、帯電防止剤、導電剤、補強剤、充填材、可塑剤(ただし、前記成分(D)に該当するものを除く。)、離型剤、発泡剤等が挙げられる。
【0100】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、滑剤として成分(C)以外のポリシロキサンを併用することは有効である。ポリシロキサンは、熱可塑性エラストマー組成物に耐摩耗性を付与し、エラストマー特有のべたつきを防ぐ成分である。ポリシロキサンの分子構造におけるシロキサン主鎖に結合する置換基の種類については特に限定するものではないが、その中でもジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーン)が好適に用いられる。ポリシロキサンの動粘度(25℃)は好ましくは1cSt以上、より好ましくは5cSt以上、更に好ましくは10cSt以上であり、上限については特に制限されない。ポリシロキサンの動粘度が高いほど耐摩耗性の向上効果が高く、低いほどべたつき改良効果が高い。
【0101】
ここで、動粘度は、ASTM D445-46T(又はJIS Z8803)に従ってウッベローデ粘度計を用いて測定した25℃における動粘度である。
【0102】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がポリシロキサン等の滑剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり、好ましくは0.1~15質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部である。この含有量が0.1質量部以上であると、耐摩耗性や耐べたつき性の改良効果の観点で好ましく、15質量部以下であると、機械的強度、金型汚染等の観点で好ましい。
【0103】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、酸化防止剤(熱安定剤)として、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を配合することができる。
【0104】
ヒドロキシルアミン系酸化防止剤としては、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミンが好ましく、式RaRbNOH(式中、Ra及びRbは各々独立してアルキルを表す。)で示される化合物が挙げられる。式中、好ましいRa又はRbは、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ヘプタデシル基である。特に好ましいジアルキルヒドロキシルアミンは、N,N-ジオクタデシルヒドロキシルアミン、N,N-ジヘキサデシルヒドロキシルアミン、又はこれらの混合物である。その市販品として、BASF社製「イルガノックス(登録商標)1010」が挙げられる。
【0105】
ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤としては、ジアルキルジチオカルバミン酸の金属塩が好ましく、中でもジアルキルジチオカルバミン酸ニッケルが好ましく、特にジブチルジチオカルバミン酸ニッケルが、耐熱老化性の改良効果が大きいことから好ましい。
【0106】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては公知のものが使用でき、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンのような分子量が500以上のものが好ましい。
【0107】
イオウ系酸化防止剤とは、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオンエステル系等のイオウを含む化合物である。但し、上記のジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤に相当するものは含まない。これらの中でも、特にチオジプロピオンエステル系化合物が好ましい。
【0108】
リン系酸化防止剤としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸誘導体、フェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイト、ジアルキルビスフェノールAジホスファイト等のリンを含む化合物が挙げられる。
【0109】
酸化防止剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり、好ましくは0.01~5質量部である。この含有量が0.01質量部以上であると、耐熱劣化性の改良効果の観点で好ましく、5質量部以下であると、ブリード等の問題を起こしにくい点、組成物の機械的強度の観点等から好ましい。
【0111】
ヒンダードアミン系光安定剤は、ヒンダードピペリジン構造を含む化合物であり、公知のものが使用できる。
ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としてはBASF社製「チヌビン(登録商標)」シリーズが挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がヒンダードアミン系光安定剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり、好ましくは0.005~2質量部であり、より好ましくは0.01~0.5質量部である。この含有量が上記範囲であると、耐候性が十分であり、成形体表面へのブリードも起こりにくく好ましい。
【0113】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の上記の酸化防止剤等の添加剤の合計の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり、2質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0114】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、常法に従って、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と、必要に応じて添加される成分(D)やその他の成分とをドライブレンドした後、溶融混練することにより製造することができる。
その際に用いられる混合装置としては、特に限定されないが、例えば、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、単軸押出機、二軸押出機等の混練装置が挙げられる。このうち、押出機を用いた溶融混合法により製造することが、生産性、良混練性の点から好ましい。
混練時の溶融温度は、適宜設定することができるが、通常130~300℃の範囲であり、150~250℃の範囲であることが好ましい。
【0115】
<用途>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途には特に制限はないが、特に、自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等の成形材料として有用である。
【0116】
[成形体]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形することにより、種々の成形体として用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、通常の射出成形法、押出成形法等の各種成形方法を用いることができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる本発明の成形体の具体例としては、射出成形体、押出成形体が挙げられる。
【0117】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は、通常160~250℃であり、好ましくは170~220℃である。
射出圧力は、通常5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は通常10~80℃であり、好ましくは20~60℃である。
【0118】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してなる射出成形体は、プロピレン樹脂のようなオレフィン系硬質樹脂に熱融着して、複合成形体として用いることもできる。
【0119】
本発明の成形体は、自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等として有用であるが、特にその透明性に優れる外観や触感から、アームレストやコンソールパッド等の用途に代表される自動車内装材の表皮として有用である。
【実施例】
【0120】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0121】
以下の実施例及び比較例において、熱可塑性エラストマー組成物の調製に用いた原料及び得られた熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は次の通りである。
【0122】
[使用原料]
<成分(A)>
A-1:日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP BC06C」
プロピレン・エチレンブロック共重合体
プロピレン単位含有率:91質量%
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):60g/10分
【0123】
<成分(B)>
B-1:TSRC社製「TAIPOL(登録商標)6159」
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物
重量平均分子量:400,000
スチレン単位含有率:30質量%
B-2:旭化成社製「SOE-SS(登録商標)S1605」
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物
重量平均分子量:200,000
スチレン単位含有率:60質量%
【0124】
<成分(C)>
C-1:信越化学工業社製「KF-410」
前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位とを有するアラルキル基含有オルガノポリシロキサン
式(1)中のR1:メチル基
式(1)中のR2:2-フェニルプロピル基
式(2)中のR3,R4:メチル基
アラルキル基含有率:39モル%
動粘度(25℃):900cSt
【0125】
<成分(D)>
D-1:出光興産社製「ダイアナ プロセスオイルPW90」
パラフィン系オイル
動粘度(40℃):90cSt
【0126】
<成分(X)>
X-1:東レ・ダウコーニング社製「BY27-001」
ジメチルポリシロキサンマスターバッチ
ジメチルポリシロキサン含有率:50質量%
X-2:信越化学工業社製「KF96-1000cs」
ジメチルポリシロキサン
動粘度(25℃):1000cSt
【0127】
<その他の添加剤>
E-1:BASF社製「イルガノックス(登録商標)1010」
ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0128】
[熱可塑性エラストマー組成物の評価]
<触感>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×2mm)について、人の手指3本で撫でるように触った際の触感を調べ、下記基準で評価した。
射出成形体の触感は、ブリード物が表面に発生しておらず、手に付着しないものが好ましく、より好ましくはさらさらした触感である。
A:さらさらしており、手に付着物を感じない
B:少しさらさらしており、手に付着物を感じない
C:べたべたしている、又は、さらさらしているが手に付着物を感じる
【0129】
<透明性:全光線透過率>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×2mm)について、日本電色工業株式会社製のNDH-2000型HAZE計を使用して、厚さ方向の全光線透過率(単位:%)を測定した。
【0130】
[実施例1~4、比較例1~8]
表-1に示す配合で原料を混合し、得られた混合物を二軸混練機により溶融混練(シリンダー温度180℃~200℃)し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物を、型締力180tで、電動の射出成形機(住友重機械工業株式会社製)で、シリンダー温度200℃、金型温度40℃にて、縦350mm×横100mm×厚さ2mmのシート状の金型中に射出速度40mm/秒で射出充填した。充填完了後30秒間冷却してから射出成形体を取り出した。得られた射出成形体について触感及び透明性の評価を行い、結果を表-1に示した。
【0131】
【0132】
[評価結果]
表-1から次のことが言える。
【0133】
比較例1、3及び6は、ポリシロキサンを含んでおらず、触感が劣っている。
比較例2は、ジメチルポリシロキサンを含んでおり、触感は優れるが、比較例1と比較して透明性が悪化した。
【0134】
実施例1は、成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の水添ブロック共重合体、及び成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンを含むことで、触感が優れ、且つジメチルポリシロキサンを含む比較例2と比較して、透明性にも優れている。実施例1の透明性は、ポリシロキサンを含まない比較例1とほぼ同等である。
【0135】
比較例4、5及び8は、ジメチルポリシロキサンを含んでおり、触感は優れるが、比較例3と比較して透明性が悪化した。
【0136】
実施例2は、成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の水添ブロック共重合体、及び成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンを含むことで、触感が優れ、且つジメチルポリシロキサンを含む比較例4及び5と比較して、透明性にも優れている。実施例2の透明性は、ポリシロキサンを含まない比較例3とほぼ同等である。
【0137】
比較例7は、ジメチルポリシロキサンを含んでおり、触感は優れるが、比較例6と比較して透明性が悪化した。
【0138】
実施例3は、成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の水添ブロック共重合体、及び成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンを含むことで、触感が優れ、且つジメチルポリシロキサンを含む比較例7と比較して、透明性にも優れている。実施例3の透明性は、ポリシロキサンを含まない比較例6よりもむしろ向上している。
【0139】
実施例4は、成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の水添ブロック共重合体、及び成分(C)のアリール基含有オルガノポリシロキサンを含むことで、触感が優れ、且つジメチルポリシロキサンのみを含む比較例4、5及び8と比較して、透明性にも優れている。
【0140】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2020年1月30日付で出願された日本特許出願2020-013855と、2020年10月13日付で出願された日本特許出願2020-172653に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物より得られた成形体は、透明性と触感に優れるため、自動車内装材等の自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等に好適に用いられる。